(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】CO2排出が非常に少ない乃至ゼロであるガラス溶融プロセス
(51)【国際特許分類】
C03B 5/16 20060101AFI20241108BHJP
C03B 3/02 20060101ALI20241108BHJP
C03B 5/237 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C03B5/16
C03B3/02
C03B5/237
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532353
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2022083949
(87)【国際公開番号】W WO2023099619
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ビウル, フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】シモーンズ, ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ブルジョワ, ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ハビビ, ザカリア
(72)【発明者】
【氏名】ファシロー, ファブリス
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AB01
4G014AF01
(57)【要約】
本発明は、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスであって、(i)電気加熱手段を有する少なくとも1つの溶融タンクと、酸素燃焼加熱手段を有する精製タンクと、溶融タンクと精製タンクとを分離するネックと、前記溶融タンクに配置された入口手段と、精製タンクの下流に配置された出口手段とを含む炉を提供するステップ、(ii)原料及びカレットを含むガラス化可能な材料を、前記溶融タンク内に入口手段を用いて装入するステップであって、カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の少なくとも10重量%であり、及び原料は、25重量%未満の炭酸塩化合物を含む、ステップ、(iii)電気加熱手段での加熱により、前記溶融タンク内でガラス化可能な材料を溶融するステップ、(iv)ガス及び/又は水素を供給された酸素燃焼加熱手段での加熱により、精製タンク内で溶融物を精製するステップ、(v)溶融物を、精製タンクから出口手段を通して作業ゾーンに流すステップ、(vi)少なくとも35%のCO
2濃度を有する排ガスからCO
2を捕捉するステップを含み、電気投入率は、50%~85%の範囲であり、及びCO
2を捕捉するステップは、圧縮及び/又は脱水ステップを含む、プロセスに関する。このプロセスは、非常に低いCO
2フィンガープリントを示し、且つ経済的に実行可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスであって、
- (i)電気加熱手段を含む少なくとも1つの溶融タンクと、(ii)酸素燃焼加熱手段を備える精製タンクと、(iii)前記少なくとも1つの溶融タンクと前記精製タンクとを分離する少なくとも1つのネックと、(iv)前記少なくとも1つの溶融タンクに配置された入口手段と、(v)前記精製タンクの下流に配置された出口手段とを含む炉を提供するステップ、
- 原料及びカレットを含む前記ガラス化可能な材料を、前記少なくとも1つの溶融タンク内に前記入口手段を用いて装入するステップであって、前記カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の少なくとも10重量%であり、及び前記原料は、25重量%未満の炭酸塩化合物を含む、ステップ、
- 前記電気加熱手段での加熱により、前記少なくとも1つの溶融タンク内で前記ガラス化可能な材料を溶融するステップ、
- ガス及び/又は水素を供給された前記酸素燃焼加熱手段での加熱により、前記精製タンク内で溶融物を精製するステップ、
- 前記溶融物を、前記精製タンクから前記出口手段を通して作業ゾーンに流すステップ、
- 少なくとも35%のCO
2濃度を有する排ガスからCO
2を捕捉するステップ
を含むプロセスにおいて、
- その電気投入率は、50%~85%の範囲であること、
- 前記排ガスからCO
2を捕捉するステップは、圧縮及び/又は脱水ステップを含むこと
を特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記カレットの量は、前記ガラス化可能な材料の全量の少なくとも30重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項3】
前記酸素燃焼加熱手段は、少なくとも50%の水素、好ましくは少なくとも80%の水素を供給されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項4】
前記排ガスは、少なくとも40%のCO
2濃度を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項5】
前記排ガスは、少なくとも50%のCO
2濃度を有することを特徴とする、請求項4に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項6】
前記排ガスからCO
2を捕捉するステップは、本質的に圧縮及び/又は脱水ステップからなることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項7】
前記プロセスは、前記排ガスから酸性成分を除去するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項8】
前記排ガスから酸性成分を除去するステップは、前記CO
2を捕捉するステップ前又はそれと同時であることを特徴とする、請求項7に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項9】
前記プロセスは、前記カレットを前記少なくとも1つの溶融タンク内に装入する前に、少なくとも部分的に前記炉から熱を回収することによるカレット予熱ステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項10】
前記カレット予熱ステップにおけるカレットの最高温度は、450℃であることを特徴とする、請求項9に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項11】
前記プロセスは、補助溶融タンク内で前記カレットの少なくとも一部を予備溶融し、且つ前記予備溶融されたカレットを前記少なくとも1つの溶融タンクに流すステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項12】
前記原料は、10重量%未満の炭酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセス。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセスを実施するための炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロート又は圧延設備などの板ガラス成形設備に溶融ガラスを連続的に供給することを目的とするガラス溶融プロセスに関する。特に、本発明は、特にCO2、特にその排出及び捕捉の点で多くの利点を提供するガラス溶融プロセスに関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、限定されないが、大きい生産能力、すなわち最大で1000トン/日以上を伴う板ガラスの溶融プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
地球温暖化及びCO2排出削減の要求は、ガラス製造業者に対する圧力を増大させ、エネルギー価格及びCO2税は、直ちにガラス部門における競争力に対する深刻な脅威となり得る。
【0004】
ガラス産業は、炭素排出量を削減するための緊急対策に関連して、持続可能で資源効率の高い、低炭素社会に適合したガラス製品を製造するため、長年にわたって製造プロセスの脱炭素化に多くの投資を行ってきた。
【0005】
移行を可能にするために、ガラス部門は、その野心的な目標に近づくための解決策/技術をすでに多く特定しており、例えばエネルギー源としての電力の使用、H2又はバイオガスなどの代替的且つより環境に優しいエネルギー源の使用、代替原料の使用、原料としてのカレットの使用増加、熱回収、CO2捕捉利用貯蔵(又はCCUS)などである。
【0006】
それにもかかわらず、全てのこれらの技術は、実用化に対する深刻な欠点若しくは問題を伴うか又は経済的観点から実行不可能である。したがって、排出されるCO2の量を劇的に減少させることができ、しかもガラス製造業者にとって経済的に受け入れ可能なガラス溶融プロセスが依然として緊急に必要とされている。
【0007】
エネルギー源としての電気の使用に関して、ガラス原料を溶融するために電気エネルギーを使用する炉は、CO2排出量の減少を示すだけでなく、全エネルギー消費量の減少も示すことが知られている。このような構成では、溶融炉は、浸漬され、一般にタンクの底部に配置された電極を含み、この電極によって電流/電力が通過し、溶融ガラスの浴は、そのバルクから加熱される。しかしながら、加熱電力が全て電気によって供給されるガラス溶融炉は、重大な温度及びガラス対流/流動問題のため、高品質のガラスが要求される場合に板ガラス技術で利用されない。
【0008】
したがって、従来の板ガラス用ガラス溶融炉は、一般に、燃焼加熱手段、すなわちバーナーと、電気加熱手段、すなわち浸漬電極とを組み合わせたいわゆる「ハイブリッド」構成において電気による「ブースト」のみが行われる。このような既知の「電気ブースト燃焼炉」では、電気投入率は、全エネルギー投入量の最大で10~15%に制限され、電気溶融のエネルギー消費面での利点を十分に享受することが阻害される。
【0009】
最近、参照により本明細書に組み込まれる欧州特許出願公開第21200998.9号明細書に記載された新規炉の設計により、「ハイブリッド」炉で例えば約50%を超える有意に高い電気投入率を達成することが可能となった。
【0010】
水素H2又はバイオガスなどの代替的且つ環境に優しいエネルギー源の使用に関して、環境/エネルギー消費/CO2排出量の点で利点があることは明らかであっても、深刻な制約のため、ガラス産業での広範な使用が阻害されている(バイオガスの利用可能性の欠如、ガラス原料を溶融するための唯一のエネルギー源である限り、経済的に実行不可能な解決策となる水素H2の高価さ)。
【0011】
熱回収に関して、排ガスからの廃熱回収は、1000℃超の温度で炉に入る燃焼空気又はそれぞれ400℃及び500℃超の温度でガス及び酸素(「Hotox」)を予熱するためにガラス産業ですでに広範に適用されている。排ガスの廃熱を利用して、ガラス化可能な材料、特にカレットを予熱することもできる。それにもかかわらず、この場合、原料から排出される排ガスの温度が低すぎるため、原料/カレットの予熱を電気溶融と組み合わせることができないことが知られている。
【0012】
CO2捕捉の使用に関して、一般的に、工業プロセス/プラントにおけるCO2捕捉プロセスは、2つのステップからなる:(i)分離材料との選択的反応による排出ガス混合物からのCO2の分離(CO2の「吸収」)、(ii)逆反応による使用材料の再生(CO2の「脱離」)。分離材料は、ステップ(i)及び(ii)を順次繰り返すことにより、CO2捕捉に再利用することができる。溶媒、膜又は多孔性吸着剤の形態のアミンは、技術が成熟しており、可逆反応によるアミン及びCO2の効果的な分離が可能であるため、これまで工業的にCO2捕捉プロセスで最も広く使用されている材料である。それにもかかわらず、このようなアミンプロセス(例えば、水性MEAを使用するもの)は、特にガラス産業の特殊な状況では、少なくとも以下の主な理由のため、貧弱な選択肢のままである:
- 既知のガラス製造プロセスにおける燃焼ガス/排ガスは、CO2濃度が低く(一般的に30体積%未満、多くの場合10~20体積%程度)、他の多くの成分(主にN2、H2O、O2、NOx、SOxなど)の存在により純度が低く、それによりCO2捕捉プロセスの効率に大きく影響する。
- アミン-CO2捕捉プロセスは、アミン吸着剤を再生するために多くのエネルギーを必要とし(脱着プロセス)、それにより全エネルギー消費量に影響を与える(且つ使用されるエネルギー源に応じてCO2排出量に影響を与え得、明らかにこれに関連して逆効果である)。
【0013】
さらに、既知のガラス製造プロセスは、非常に高い体積又は流量の排ガスを発生させる。これは、使用される方法を問わず、排ガスからCO2を捕捉しようとする場合の投資コスト及び運転コストにも直接影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、従来の溶融炉と比較して全エネルギー消費量の減少及びCO2排出量の減少を示す、板ガラスを製造するためのガラス溶融プロセスを提供することにより、従来技術に関して上述した欠点を克服し、技術的問題を解決することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、経済的に実行可能である、従来の溶融炉と比較して全エネルギー消費量の減少及びCO2排出量の減少を示す、板ガラスを製造するためのガラス溶融プロセスを提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、単純且つ費用対効果の高いCO2捕捉を可能にしながら、従来の溶融炉と比較して全エネルギー消費量の減少及びCO2排出量の減少を示す、板ガラスを製造するためのガラス溶融プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスであって、
- (i)電気加熱手段を含む少なくとも1つの溶融タンクと、(ii)酸素燃焼加熱手段を備える精製タンクと、(iii)少なくとも1つの溶融タンクと精製タンクとを分離する少なくとも1つのネックと、(iv)少なくとも1つの溶融タンクに配置された入口手段と、(v)精製タンクの下流に配置された出口手段とを含む炉を提供するステップ、
- 原料及びカレットを含むガラス化可能な材料を、少なくとも1つの溶融タンク内に入口手段を用いて装入するステップであって、カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の少なくとも10重量%であり、及び原料は、25重量%未満の炭酸塩化合物を含む、ステップ、
- 電気加熱手段での加熱により、少なくとも1つの溶融タンク内でガラス化可能な材料を溶融するステップ、
- ガス及び/又は水素を供給された酸素燃焼加熱手段での加熱により、精製タンク内で溶融物を精製するステップ、
- 溶融物を、精製タンクから出口手段を通して作業ゾーンに流すステップ、
- 少なくとも35%のCO2濃度を有する排ガスからCO2を捕捉するステップ
を含み、電気投入率は、50%~85%の範囲であり、及び排ガスからCO2を捕捉するステップは、圧縮及び/又は脱水ステップを含む、プロセスに関する。
【0018】
したがって、本発明は、新規且つ独創的なアプローチに基づく。特に、本発明者らは、板ガラスを製造するためのガラス溶融プロセスにおいて、
- 特定の分割設計(電気加熱溶融ゾーン及び燃焼加熱精製ゾーンの分離)を有する炉の使用、
- 支燃性物質としての酸素の使用、
- 可燃性物質としてのガス及び/又は水素の使用、
- ガラス化可能な材料中での最小量のカレットの使用、
- ガラス化可能な材料中での最小量の脱炭酸原料の使用、及び
- 特定の電気投入率の使用
を組み合わせることにより、
- 全エネルギー消費量の有意な減少、及び
- CO2全発生量の有意な減少、及び
- 排ガス体積の有意な減少並びに前記排ガス中のCO2濃度及びその純度の有意な増加
を同時に得ることが可能であり、それにより単純、効率的且つ費用対効果の高いCO2捕捉プロセスの使用が可能になることを見出した。
【0019】
本発明の全ての特徴を実施することにより、本発明のプロセスは、非常に低いCO2フィンガープリントを示し、且つ経済的に実行可能である。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲では、本明細書で使用される用語「1つの(a)」、「1つの(an)」又は「その」は、「少なくとも1つ」を意味し、反対のことが明示的に示されない限り、「1つのみ」に限定されるべきではないことが当業者によく理解される。範囲が示される場合、末端も含まれる。さらに、数値範囲に含まれる全ての整数値及びサブドメイン値は、明示的に記載されたものとして明示的に含まれる。最後に、「上流」及び「下流」という用語は、ガラスの流れ方向を意味し、その一般的な意味、すなわちガラス化可能な材料/ガラス溶融物の平均移動方向に沿って入口手段から出口手段までの意味で理解される。「上流部」という表現は、長さの最初の上流3分の1を意味すると理解され、前記長さは、炉の水平長手軸に沿って位置する。「下流部」という表現は、前記長さの最後の下流側3分の1を意味すると理解される。
【0021】
本発明の他の特徴及び利点は、簡単な例示的且つ非限定的な例によって与えられる好ましい実施形態及び図の以下の説明を読むことでより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のプロセスの実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によれば、且つ
図1に示されるように、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスは、(i)電気加熱手段を含む少なくとも1つの溶融タンクと、(ii)酸素燃焼加熱手段を備える精製タンクと、(iii)少なくとも1つの溶融タンクと精製タンクとを分離する少なくとも1つのネックと、(iv)少なくとも1つの溶融タンクに配置された入口手段と、(v)精製タンクの下流に配置された(溶融ガラスが作業ゾーンに流れるための)出口手段とを含む炉を提供するステップを含む。
【0024】
本発明によれば、且つガラス技術分野で一般的に採用されているように、「溶融タンク」とは、ガラス化可能な材料(原料及び/又はカレット)が装入され、加熱によって溶融するゾーンを画定するタンクを意味し、炉がプロセス中である場合、溶融物と、溶融物上に浮遊し、徐々に溶融される未溶融ガラス化可能な材料の「ブランケット」とを含む。
【0025】
本発明によれば、且つガラス技術分野で一般的に採用されているように、「精製タンク」とは、溶融物上に浮遊する未溶融のガラス化可能な材料の「ブランケット」がもはや存在しないゾーンを画定するタンクを意味し、ガラス溶融物は、(主に気泡の主要部分を除去することによって)ガラスを精製するために、溶融タンク温度よりも高い温度(一般に1400℃超又は1450℃超の温度)で加熱される。この精製タンクは、当技術分野で一般に「浄化タンク」とも呼ばれる。
【0026】
本発明によれば、溶融タンクと精製タンクとを分離する「ネック」とは、溶融タンクの幅(又はガラスの移動方向に対して垂直な方向)が狭くなっていることを意味する。本発明によるネックの開口部は、完全にガラス溶融物/ブランケットフリー表面下にあり得るか(その場合、当技術分野で一般に「スロート」とも称される)、又は部分的にガラス溶融物/ブランケットフリー表面下にあり得る(その場合、ガラスの上方にフリー開口を残す)。好ましくは、ネックの開口部は、部分的にガラス溶融物フリー表面下にあり、それにより精製タンクから溶融タンクに向かう表面ガラスの逆流の存在が可能となる。これは、第一に、原料のブランケットを安定させ、未溶融粒子が直接精製タンクに向かって流れるのを避けることができ、第二に、ガラス、耐火物及び大気の接触部で発生する潜在的欠陥が直接精製タンクに流れるのを避けることができるために有利である。これらの点により、ガラスの品質を有利に向上させることができる。さらに、広い開口部が可能となるため、ガラス速度が低下し、耐火物の腐食及び摩耗が減少する。この点により、炉の寿命が有利に向上する。
【0027】
溶融タンクと精製タンクとが分割されたこの炉の設計は、エネルギー消費/CO2排出量に多くの利点をもたらし、炉の機械的安定性/寿命のために好ましい。特に有利には、本発明では、この特定の分割設計を有する炉により、溶融タンクからの排ガスと、精製タンクからの排ガスとを必要に応じて独立に処理することができる。
【0028】
欧州特許出願公開第21200998.9号明細書に記載された分割ガラス炉の発明及びその全ての実施形態は、本発明の実施形態として参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
特定の実施形態によれば、本発明の炉は、
0.1*W2≦W3i≦0.6*W2、
W1i≧1.4*W3i
によって定義され、
W1iは、少なくとも1つの溶融タンクの幅であり、
W2は、精製タンクの幅であり、
W3iは、少なくとも1つのネックの幅である。
【0030】
この最後の特定の設計は、2つの相反する要件間の良好な妥協点を見出すのに有利である。一方から、(1)溶融上部構造/クラウンと精製上部構造/クラウンとの間の開口部を減少させ、(2)溶融タンク内の全ガラス溶融物の対流強度に対する障害を発生させるために、溶融ゾーンと精製ゾーンとの間のネックは、理想的には、可能な限り狭いべきであり、他方から、ネック内部のガラス速度を制限し、ネック耐火壁の摩耗/腐食を制限するために、ネックは、理想的には、可能な限り広いべきである。
【0031】
本発明によれば、炉は、1つの溶融タンク及び1つのネック若しくは2つの溶融タンク及び2つのネック又はさらに3つの溶融タンク及び3つのネックを含み得る。これらの特定の設計の実施形態は、参照により本明細書に組み込まれる欧州特許出願公開第21200998.9号明細書に広範に記載されている。
【0032】
例えば、「2つの溶融タンク」構成では、炉は、
(i)第1の溶融タンク、
(ii)第2の溶融タンク、
(iii)精製タンク、
(iv)第1の溶融タンクと精製タンクとを分離するネックNi、
(v)第2の溶融タンクと精製タンクとを分離するネックNii、
(vi)第1の溶融タンクに配置された少なくとも1つの入口手段、
(vii)第2の溶融タンクに配置された少なくとも1つの入口手段、
(viii)精製タンクに配置された少なくとも1つの出口手段
を含み得る。
【0033】
この具体的な実施形態によれば、炉は、有利には、
0.1*W2≦W3i≦0.6*W2、
0.1*W2≦W3ii≦0.6*W2、
W1i≧1.4*W3i、
W1ii≧1.4*W3ii
によって定義され得、
W1iは、第1の溶融タンクの幅であり、
W1iiは、第2の溶融タンクの幅であり、
W2は、精製タンクの幅であり、
W3iは、ネックNiの幅であり、
W3iiは、ネックNiiの幅である。
【0034】
好ましくは、溶融タンクの全表面積は、25~400m2である。同様に好ましくは、本発明によれば、精製タンクの表面積は、25~400m2である。
【0035】
本発明によれば、且つ
図1に示されるように、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスは、原料及びカレットを含むガラス化可能な材料を、少なくとも1つの溶融タンク内に入口手段を用いて装入するステップを含む。
【0036】
本発明によれば、ガラス化可能な材料は、原料及びカレットを含むため、好ましくは、両方は、少なくとも1つの溶融タンク内に一緒に、すなわち同じ入口手段を通して装入される。代わりに、両方は、少なくとも1つの溶融タンク内に異なる入口手段(例えば、原料のための1つの入口手段及びカレットのための1つの入口手段又は原料のための2つの入口手段及びカレットのための2つの入口手段)を通して独立して装入される。
【0037】
本発明によれば、カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の少なくとも10重量%である。好ましくは、カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の少なくとも20重量%である。より好ましくは、カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の少なくとも30重量%、さらに非常に好ましくは少なくとも40重量%である。これは、(炭酸塩原料の脱炭酸から生じる排出の低減のため)本発明のプロセスのCO2発生/排出を低減できるために有利である。好ましくは、カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の最大で90重量%又は最大で80重量%である。より好ましくは、カレットの量は、ガラス化可能な材料の全量の最大で70重量%又はさらに最大で60重量%である。
【0038】
本発明によれば、且つ
図1に示されるように、原料は、25重量%未満の炭酸塩化合物を含む。「炭酸塩化合物」とは、例えば、アルカリ炭酸塩及びアルカリ土類炭酸塩を意味する。好ましくは、原料は、20重量%未満の炭酸塩化合物を含み、より好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満を含む。原料は、有利には、いかなる炭酸塩化合物も含まないことが可能である。炭酸塩化合物のこれらの低減量は、炭酸ナトリウムNa
2CO
3、石灰石CaCO
3及びドロマイトCaMg(CO
3)
2がナトリウム及びカルシウムの供給源として一般的に本質的に使用される従来のガラス溶融プロセスと比較して、原料の脱炭酸から生じるCO
2排出の一部を低減することを可能にするために有利である。実施形態によれば、アルカリ源及びアルカリ土類源は、有利には、少なくとも部分的に、酸化物又は水酸化物、例えばCaO、CaO・MgO(ドロマイト)、Ca(OH)
2、Mg(OH)
2、NaOH、KOHの形態で存在する。
【0039】
好ましくは且つ当技術分野で知られているように、入口手段は、少なくとも1つの溶融タンクの上流(前記タンクの幅又はその長さの横方向)に配置されるか、又は少なくとも1つの溶融タンクの頂部に配置される(「トップバッチチャージャー」)。
【0040】
本発明の有利な実施形態では、炉は、横方向に拡大され、且つネックの位置に基づいて溶融タンクの両側に、横方向の側面に又はトップバッチチャージャーとして配置される少なくとも2つの入口手段を備えた少なくとも1つの溶融タンクを含む。本発明によれば、且つ
図1に示されるように、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスは、電気加熱手段での加熱により、少なくとも1つの溶融タンク内でガラス化可能な材料を溶融するステップを含む。
【0041】
本発明による電気加熱手段は、好ましくは、少なくとも1つの溶融タンクの底部に配置され、好ましくは浸漬された電極から構成される。電極は、変圧器への接続及び電流バランスを容易にするために、有利には3又は2の倍数の格子状(市松模様)に配置される。例えば、電極表面の最大電流密度1.5A/cm2を遵守することにより、各電極の最大電力を200kWに制限するために電極の数を設計する。例えば、浸漬電極の高さは、ガラス溶融物の高さの0.3~0.8倍でもある。
【0042】
本発明によれば、電気投入率は、50%~85%の範囲である。本発明による「電気投入率」とは、溶融/精製のためのプロセス/炉の全エネルギー投入量における電気の部分、すなわち電気/(燃料+電気)を意味し、全エネルギー投入量は、標準/通常生産モードにおけるプロセス/炉のもの、すなわちその標準プル範囲(立上げ、保守、高温修理、カレット製造などの期間を除く)におけるものである。
【0043】
本発明によれば、且つ
図1に示されるように、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスは、ガス及び/又は水素を供給された酸素燃焼加熱手段での加熱により、精製タンク内で溶融物を精製するステップを含む。本明細書では、「ガス」という用語は、天然ガス、合成ガス及びバイオガスを含むが、これらに限定されない。実用性、経済性及び入手性の点から現在最も広く使用されているのは、天然ガラスである。
【0044】
本発明による「酸素燃焼手段」とは、支燃性物質として気体酸素(O2)を供給される燃焼手段を意味する。一般に、ガラス溶融炉に供給されるO2ガス支燃性物質は、少なくとも90%純度又は少なくとも95%純度である。気体酸素を支燃性物質として使用する利点は、空気を使用する場合と比較して、燃焼中に発生するいわゆる腐食性の「NOx」汚染物質が大幅に減少することである。それらが排ガス中に存在するとしても(O2純度及び寄生空気の量に依存する)、その量は、極めて少量である。
【0045】
本発明による酸素燃焼加熱手段は、タンクの実質的に全幅にわたって火炎を広げるために、有利には前記タンクの側壁に沿ってその両側に配置されたバーナーから構成され得る。バーナーは、エネルギー供給を精製タンクの一部(すなわち長さの約50%)に分散させるために、互いに間隔を空けて配置することができる。それらは、タンクの両側に列をなして配置されることも一般的である。
【0046】
本発明によれば、酸素燃焼加熱手段は、ガス及び/又は水素を供給される。一実施形態では、酸素燃焼加熱手段は、少なくとも50%の水素、好ましくは少なくとも80%の水素を供給される。より好ましくは、酸素燃焼加熱手段は、100%の水素を供給される。これにより、プロセスの全CO2排出を劇的に減少させることができるために有利である。代替として、酸素燃焼加熱手段は、50%超、好ましくは少なくとも80%、さらに少なくとも100%のガスを供給される。これは、排ガス中でより高いCO2濃度に達することができ、CO2捕捉ステップを容易にし、向上させるだけでなく、ガラスの化学的性質及び炉耐火性物質への影響を抑えることができるために有利である。本発明の具体的且つ有利な実施形態では、酸素燃焼加熱手段は、50%のガス及び50%の水素を供給される。
【0047】
本発明によれば、且つ
図1に示されるように、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスは、溶融物を、精製タンクから出口手段を通して作業ゾーンに流すステップを含む。
【0048】
本発明によれば、出口手段は、溶融ガラスが作業ゾーンに到達するように精製タンクの下流に配置される。一実施形態によれば、出口手段は、一般に、「作業端」と呼ばれる作業ゾーンに向かって溶融物を導くために、通常、ネックから構成される。代わりに、出口手段は、溶融物を、例えば前床を含む作業ゾーンに導くためにスロートから構成される。本発明による作業ゾーンは、例えば、ガラス溶融物が出口を通して成形ゾーンに出る前に、制御冷却による熱調整が行われる調整ゾーンを含み得る。このような成形ゾーンは、例えば、フロート設備及び/又は圧延設備を含み得る。
【0049】
本発明によれば、且つ
図1に示されるように、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスは、排ガスからCO
2を捕捉するステップを含む。
【0050】
本発明によれば、前記排ガス(すなわちCO2捕捉ステップを経た排ガス)は、少なくとも35%のCO2濃度を有する。本発明によるCO2濃度は、乾燥排ガス、すなわち水(H2O)を除く全ての成分を含む排ガスについて定義された濃度である。好ましくは、本発明における排ガスは、少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%のCO2濃度を有する。排ガスのCO2濃度が高いほど、この排ガスに適用されるCO2捕捉が容易且つ効果的であるため、これは、有利である。
【0051】
本発明によれば、且つ
図1に示されるように、排ガスからCO
2を捕捉するステップは、圧縮及び/又は脱水ステップを含む。脱水ステップは、排ガスの水の圧縮及び/又は乾燥ステップに対応する。圧縮ステップは、一般的に、コンプレッサーを使用することによってCO
2の圧力を上昇させることに対応する。脱水ステップは、圧縮ステップ前であり得、及び/又は脱水ステップは、圧縮ステップに付随するものであり得る。
【0052】
特に、本発明による排ガスからCO2を捕捉するステップは、CO2圧縮精製ユニット(又はCPU)を使用して公知の方法で実施され得る。
【0053】
図1に示されるように、本発明による排ガスは、CO
2捕捉のために、少なくとも1つの溶融タンク若しくは精製タンク又はその両方から回収され得る。特に、本発明による酸素燃焼加熱手段に水素のみが供給される場合、排ガスは、有利には、少なくとも1つの溶融タンクからのみ回収される(精製タンクから発生する排ガスは、CO
2を含まない)。
【0054】
本発明によるCO2を捕捉するステップ後、CO2生成物は、例えば、温度5℃~40℃で約35バールの圧力を有し、気体の形態であり、パイプラインを通した輸送に適切であるか又は約100バールの圧力を有し、液体の形態であり、パイプラインを通した輸送に適切であるが、トラック又は鉄道輸送にも適切である。トラックによる輸送には、-35℃で15bargが適切であることも知られている。
【0055】
この単純且つ効果的なCO2捕捉プロセスは、運転/エネルギーコスト及び環境問題の一因となる任意の吸着剤/化学試薬の使用を回避することができ、費用対効果の高いCO2捕捉の達成を可能にし、本発明のプロセス全体が経済的に実行可能となるため、非常に有利である。
【0056】
好ましい実施形態によれば、排ガスからCO2を捕捉するステップは、圧縮及び/又は脱水ステップを本質的に含む。
【0057】
有利な実施形態によれば、本発明のプロセスは、排ガスから酸性成分を除去するステップをさらに含む。酸性成分を除去するこのステップは、CO2を捕捉するステップ前又はそれと同時に(例えば、圧縮及び/若しくは脱水ステップ前又はそれと同時に/共に)実施される。
【0058】
酸性成分を除去するステップは、排ガスを脱硫する(又はいわゆる「SOx」化合物を除去する)ステップを含み得る。支燃性物質として酸素を使用するため、ごく少量でも存在し得るいわゆる「NOx」化合物を除去するステップも含まれ得る。これにより、輸送、貯蔵及び/又は利用前に腐食性化合物(SOx、NOx)を除去することができるため、有利である。
【0059】
本発明によるCO2捕捉ステップ後、公知の方法において、(例えば、液体状の)CO2生成物は、パイプラインを通して最終目的地まで輸送され、その後、(例えば、海底深部又は塩水帯水層のような地層に)貯蔵/貯留され得るか、又は(例えば、石油増進回収、食品/飲料用途又は防火用途のために)利用され得る。有利には、CO2捕捉ステップ後に得られるCO2生成物は、輸送を制限するために現地で使用され得る。これは、現地市場で吸収されることができるように、捕捉されたCO2の量が高すぎない場合に考慮することができる。
【0060】
本発明の有利な実施形態によれば、プロセスは、少なくとも1つの溶融タンク内にカレットを装入する前に、少なくとも部分的に炉から熱を回収することによるカレット予熱ステップをさらに含む。本実施形態によれば、炉からの熱回収は、(i)溶融タンク、又は(ii)精製タンク、又は(iii)炉全体(これにより溶融タンク及び精製タンクからの排ガスを含む)から出る排ガスから実施され得る。
【0061】
本実施形態によれば、有利には、CO2捕捉ステップは、カレット予熱ステップで使用される排ガスから実施され得る。
【0062】
本実施形態によれば、原料は、同じ入口手段を通して、予熱されたカレットと共に少なくとも1つの溶融タンク内に装入される(したがって、これは、装入前に両方の種類のガラス化可能な材料が混合されることを意味する)。代わりに、原料は、予熱カレットとは無関係に、異なる入口手段を通して少なくとも1つの溶融タンク内に装入される。
【0063】
好ましくは、本実施形態によれば、カレット予熱ステップにおけるカレットの最高温度は、450℃である。これにより目詰まりの問題を回避することができる。
【0064】
本発明によれば、カレット予熱ステップは、例えば、米国特許第5526580号明細書又は独国特許第3716687号明細書に記載されているものの1つの種類の少なくとも1つのカレット予熱器内で実施することができる。
【0065】
有利には、少なくとも1つのカレット予熱器は、少なくとも1つの溶融タンクの上流部で前記タンクの幅又はその長さの横方向のいずれかに配置され得る。有利には、カレット予熱ステップは、例えば、少なくとも1つの溶融タンクの上流部においてその幅方向又は長さの横方向で両側に配置された少なくとも2つのカレット予熱器で実施され得る。例えば、カレット予熱ステップは、少なくとも1つの溶融タンクの上流部においてその幅方向又は長さの横方向で(例えば、両側に2つずつ)分散して配置された4つのカレット予熱器で実施され得る。例えばまた、カレット予熱ステップは、少なくとも1つの溶融タンクの上流部においてその幅若しくはその長さの横方向で(例えば、両側に3つずつ)配置された6つのカレット予熱器又は同様に少なくとも1つの溶融タンクの上流部においてその幅若しくはその長さの横方向で(例えば、各側に4つずつ)配置された8つのカレット予熱器で実施され得る。
【0066】
本発明の別の有利な実施形態によれば、このプロセスは、カレットの少なくとも一部を補助溶融タンクで予備溶融し、予備溶融されたカレットを少なくとも1つの溶融タンク(以下では「主溶融タンク」と呼ばれる)に流すステップをさらに含む。本実施形態によれば、予備溶融されるカレットの一部は、補助溶融タンク内に装入され、カレットの残りの部分があれば、少なくとも1つの溶融タンク内に装入される。本実施形態は、本発明のプロセスにおいて、より低品質のカレット又は汚染されたカレットを使用することが可能となるため、良質のカレットの入手不足を防止する利点を有する。実際に、本実施形態では、カレットの少なくとも一部は、補助溶融タンクで予め「消化」される。例えば、カレット中に存在する金属化合物を、(コークス又は無煙炭のような)還元剤を使用することによってこの補助溶融タンクで除去して、補助溶融タンクの底部でデカントすることによってガラス溶融物から分離される溶融金属を製造することができる一方、得られた「精製された」ガラス溶融物は、上部から主溶融タンクに向かって流れ得る。
【0067】
本実施形態によれば、補助溶融タンクは、好ましくは、少なくとも1つの主溶融タンクの上流部に接続され、より好ましくは少なくとも1つの主溶融タンクの可能な限り上流部に接続される。
【0068】
また、本発明の本実施形態によれば、カレットの一部のみが補助溶融タンクで予備溶融される。例えば、「汚染された」又は十分に清浄でないと考えられるカレットの部分は、補助溶融タンクで予備溶融され、カレットの残りの「清浄な」部分は、少なくとも1つの主溶融タンク内に装入される。代わりに、カレットの全量が補助溶融タンクで予備溶融される。
【0069】
本発明の本実施形態によれば、好ましくは、プロセスは、補助溶融タンク内に装入する前に、少なくとも部分的に炉から熱を回収することによってカレットの少なくとも一部を予熱するステップを含む。
【0070】
本実施形態に適した補助溶融タンクの一例は、欧州特許出願公開第2137115A1号明細書に記載されている。
【0071】
本発明の非常に好ましい実施形態によれば、ガラス化可能な材料を溶融して板ガラスを製造するプロセスは、
- (i)電気加熱手段を含む少なくとも1つの主溶融タンク、(ii)補助溶融タンク、(iii)酸素燃焼加熱手段を備える精製タンク、(iv)少なくとも1つの主溶融タンクと精製タンクとを分離する少なくとも1つのネック、(v)少なくとも1つの主溶融タンクに配置された入口手段、(vi)精製タンクの下流に配置された出口手段を含む炉を提供するステップ、
- ガラス化可能な材料を、入口手段を用いて少なくとも1つの主溶融タンク内に、且つ/又は補助溶融タンク内に装入するステップであって、前記ガラス化可能な材料は、(i)炭酸塩化合物の重量が25%未満である原料、及び(ii)ガラス化可能な材料の全量の少なくとも10重量%の量のカレットを含む、ステップ、
- 前記カレットを少なくとも1つの主溶融タンク及び/又は補助溶融タンク内に装入する前に、少なくとも部分的に炉から熱を回収することによるカレット予熱ステップ、
- 補助溶融タンクでカレットの少なくとも一部を予備溶融し、且つ予備溶融されたカレットを少なくとも1つの主溶融タンクに流すステップ、
- 電気加熱手段での加熱により、少なくとも1つの溶融タンク内でガラス化可能な材料を溶融するステップであって、プロセスにおける電気投入率は、50%~85%である、ステップ、
- ガス及び/又は水素を供給された酸素燃焼加熱手段での加熱により、精製タンク内で溶融物を精製するステップ、
- 溶融物を、精製タンクから出口手段を通して作業ゾーンに流すステップ、
- 35%より高いCO2濃度を有する排ガスからCO2を捕捉するステップであって、圧縮及び/又は脱水ステップを含むステップ
を含む。
【0072】
本発明のプロセスの各ステップに関連する先に説明した特定の実施形態は、全てこの最後の非常に好ましい実施形態に適用される。
【0073】
当業者は、本発明が決して上述の好ましい実施形態に限定されないことを理解する。むしろ、添付の特許請求の範囲内で多くの修正形態及び変形形態が可能である。さらに、本発明は、本明細書に記載され、特許請求の範囲に記載される特徴及び好ましい特徴の全ての可能な組み合わせに関することに留意されたい。
【0074】
以下の実施例は、例示を目的として提供されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0075】
同一ガラスプル量(750トン/日)及び同一カレット量(重量で40%)を考慮し、以下の炉設計を考慮して以下のプロセス例を計算した:
- 実施例1(比較):空気/天然ガス(NG)が供給されるバーナーを備える、溶融ゾーン及び精製ゾーンを含む1つのタンクを有する従来の燃焼式ガラス溶融炉(完全燃焼エネルギー)。
- 実施例2(比較):O2/天然ガス(NG)が供給されるバーナーを備える、溶融ゾーン及び精製ゾーンを含む1つのタンクを有する従来の燃焼式ガラス溶融炉(完全燃焼エネルギー)。
- 実施例3(比較):O2/H2が供給されるバーナーを備える、溶融ゾーン及び精製ゾーンを含む1つのタンクを有する従来の燃焼式ガラス溶融炉(完全燃焼エネルギー)。
- 実施例4(比較):空気/天然ガス(NG)が供給されるバーナーと電気ブースティングのための電極とを備える、溶融ゾーン及び精製ゾーンを含む1つのタンクを有する従来の燃焼式ガラス溶融炉(完全燃焼エネルギー)。電気ブースティングの電力は、5MWに設定された。
- 実施例5(比較):O2/天然ガス(NG)が供給されるバーナーと電気ブースティングのための電極とを備える、溶融ゾーン及び精製ゾーンを含む1つのタンクを有する従来の燃焼式ガラス溶融炉(完全燃焼エネルギー)。電気ブースティングの電力は、5MWに設定された。
- 実施例6(比較):O2/H2が供給されるバーナーと電気ブースティングのための電極とを備える、溶融ゾーン及び精製ゾーンを含む1つのタンクを有する従来の燃焼式ガラス溶融炉(完全燃焼エネルギー)。電気ブースティングの電力は、5MWに設定された。
- 実施例7(本発明):電極を含む溶融タンク、O2/天然ガス(NG)が供給されるバーナーを備える精製タンク及び溶融タンクと精製タンクとを分離するネック部を備える分割炉。溶融タンクの電力は、16MWに設定された。
- 実施例8(本発明):電極を含む溶融タンク、O2/H2が供給されるバーナーを備える精製タンク及び溶融タンクと精製タンクとを分離するネック部を備える分割炉。溶融タンクの電力は、16MWに設定された。
- 実施例9(本発明):電極を含む溶融タンク、O2/天然ガス(NG):H2 50:50が供給されるバーナーを備える精製タンク及び溶融タンクと精製タンクとを分離するネック部を備える分割炉。溶融タンクの電力は、16MWに設定された。
- 実施例10(本発明):電極を含む溶融タンク、O2/天然ガス(NG)が供給されるバーナーを備える精製タンク及び溶融タンクと精製タンクとを分離するネック部を備える分割炉。溶融タンクの電力は、21MWに設定された。
- 実施例11(本発明):電極を含む溶融タンク、O2/H2が供給されるバーナーを備える精製タンク及び溶融タンクと精製タンクとを分離するネック部を備える分割炉。溶融タンクの電力は、21MWに設定された。
- 実施例12(本発明):電極を含む溶融タンク、O2/天然ガス(NG):H2 50:50が供給されるバーナーを備える精製タンク及び溶融タンクと精製タンクとを分離するネック部を備える分割炉。溶融タンクの電力は、21MWに設定された。
【0076】
比較実施例1~6では、使用原料は、以下の炭酸塩化合物:Na2CO3、ドロマイト及び石灰石を含み、原料中37.3重量%の炭酸塩化合物に対応する。
【0077】
本発明に従う実施例7~12では、ドロマイト及び石灰石を脱炭酸化合物、すなわちドライム及び「生石灰」に置き換えたため、これらの実施例の原料は、19.3重量%の炭酸塩化合物(本質的にNa2CO3)を含む。
【0078】
表1aは、「エネルギー」に関する情報を示す。表1bは、「排ガス」及び「CO
2捕捉ステップ」に関する情報を示す。
【0079】
「エネルギー」に関して、表1aは、可燃性物質、燃料、計算に使用された電力及び全力並びに電気投入率(電力/全エネルギー)を示す。
【0080】
「排ガス」に関して、表1bは、
- CO
2捕捉ステップを受けるために抽出される排ガス:炉全体からの排ガス(溶融タンク及び精製タンクから抽出された「全」排ガス)又は溶融タンクのみからの排ガス(分割炉で燃料として100%のH
2を使用する場合、精製タンクからの排ガスにはCO
2が含まれない)、
- CO
2捕捉ステップを受ける排ガス(湿式)の流量、
- CO
2濃度(H
2Oを除いた乾燥排ガスに対して定義される)、
- H
2O濃度
を示す。
【0081】
「CO2捕捉」に関して、表1bは、アミン吸着-脱着ステップ及び/又は脱水/圧縮ステップが必要とされるプロセスを示す(「x」印)。
【0082】
表1bは、1年間に発生するCO2の全量(トン)も示す(定義されたガラスプルを考慮する)。
【0083】
表1a及び表1bは、本発明のプロセス(実施例7~12)が、本発明の特別な設計がなく、原料に脱炭酸化合物を使用しない従来の炉(実施例1~6)と比較して多くの利点を示すことを非常によく示している:
- 全エネルギー消費量がはるかに低い(30MW以下)、
- 年間CO2発生量がより少ない、
- CO2捕捉によって処理される排ガスの体積(又は流量)がより少ない。これにより、運転コスト及び/又は投資が抑えられる、
- 処理された排ガス中のCO2濃度がより高い(特に25%以上、最大で47%)。これにより、高価でエネルギーを消費する吸着-脱着ステップ(例えば、アミンを使用するもの)を回避し、本質的に単純な脱水/圧縮ステップを使用することができる、
- CO2捕捉によって処理される排ガス中のH2O濃度がより低い。これにより、脱水ステップの運転コストも抑えられる。
【0084】
本発明による実施例(実施例7~12)の1年間に発生するCO2の量に関して、低い値(約40000トン/年未満)に達しており、これにより捕捉されたCO2をより容易に現地で安定化することができ、それにより大幅な追加コスト(例えば、トラックによる輸送自体又はパイプライン設備への投資)につながる(使用又は遠方への隔離のための)輸送を制限することができる。
【0085】
反対に、比較例1~6は、排ガス中のCO2濃度が非常に低いこと(それによりアミン回収が必要となる)、及び/又は全エネルギー消費量が高いこと(特に40MWに近いか若しくはそれ超)、及び/又はCO2捕捉により処理される排ガスの体積が高いこと、及び/又はCO2捕捉により処理される排ガス中のH2O濃度が高いこと(特に50%超)、及び/又は1年間に発生するCO2量が多いこと(特に100000トンに近いか若しくはそれ超)を示している。
【国際調査報告】