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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】治療
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20241108BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20241108BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241108BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K39/395 N
A61P15/00
A61P11/00
A61P17/00
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/16
A61K39/395 U
C07K16/28
C07K14/725
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532418
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2022083952
(87)【国際公開番号】W WO2023099622
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】63/285,044
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/374,222
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510019129
【氏名又は名称】イムノコア リミテッド
【住所又は居所原語表記】92 Park Drive Milton Park,Abingdon Oxfordshire OX14 4RY,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダール モハメド
(72)【発明者】
【氏名】マーシャル シャノン
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥッラー シャード
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA53
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC412
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
(57)【要約】
PRAME陽性癌を有する患者を治療するためのTCR-抗CD3融合分子を投与する方法を提示する。方法は、TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含み、(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量を投与することを含み、第2の用量は第1の用量よりも高く、第3の用量は第2の用量よりも高く、用量を6日~8日に1回投与する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TCR-抗CD3融合分子であって、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCRβ鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
該TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者におけるPRAME陽性癌を治療する方法であって、
(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、
(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、前記第2の用量が前記第1の用量よりも高く、前記第3の用量が前記第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法に使用される、TCR-抗CD3融合分子。
【請求項2】
配列番号14に対応するα鎖アミノ酸配列と、配列番号16に対応するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列とを含む、請求項1に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項3】
前記第1の用量が5μg~10μgの範囲であり、前記第2の用量が15μg~30μgの範囲であり、前記第3の用量が60μg~100μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項4】
前記第1の用量が6μgであり、前記第2の用量が20μgであり、前記第3の用量が80μgである、請求項3に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項5】
前記第1の用量が10μg~20μgの範囲であり、前記第2の用量が30μg~50μgの範囲であり、前記第3の用量が100μg~200μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項6】
前記第1の用量が15μgであり、前記第2の用量が40μgであり、前記第3の用量が160μgである、請求項5に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項7】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が50μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が150μg~300μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項8】
前記第1の用量が20μgであり、前記第2の用量が60μgであり、前記第3の用量が240μgである、請求項7に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項9】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項10】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が少なくとも150μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項11】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が150μg~400μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項12】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が150μg~330μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項13】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が150μg~170μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項14】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が160μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項15】
前記第1の用量が20μgであり、前記第2の用量が60μgであり、前記第3の用量が160μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項16】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が190μg~210μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項17】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が200μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項18】
前記第1の用量が20μgであり、前記第2の用量が60μgであり、前記第3の用量が200μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項19】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が230μg~250μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項20】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が240μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項21】
前記第1の用量が20μgであり、前記第2の用量が60μgであり、前記第3の用量が240μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項22】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が250μg~270μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項23】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が260μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項24】
前記第1の用量が20μgであり、前記第2の用量が60μgであり、前記第3の用量が260μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項25】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が290μg~310μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項26】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が300μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項27】
前記第1の用量が20μgであり、前記第2の用量が60μgであり、前記第3の用量が300μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項28】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が310μg~330μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項29】
前記第1の用量が10μg~30μgの範囲であり、前記第2の用量が40μg~70μgの範囲であり、前記第3の用量が320μgの範囲である、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項30】
前記第1の用量が20μgであり、前記第2の用量が60μgであり、前記第3の用量が320μgである、請求項1又は2に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項31】
治療を中止するまで更なる第3の用量を6日~8日に1回投与する、請求項1~30のいずれか一項に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項32】
前記第1の用量、前記第2の用量及び/又は前記第3の用量の前にステロイドを投与する、請求項1~31のいずれか一項に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項33】
1つ以上の抗癌療法剤と組み合わせて投与される、請求項1~32のいずれか一項に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項34】
前記抗癌療法剤がチェックポイント阻害剤である、請求項33に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項35】
前記チェックポイント阻害剤がアテゾリズマブ又はペムブロリズマブである、請求項34に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項36】
他のTCR-抗CD3融合分子と組み合わせて投与され、該他のTCR-抗CD3融合分子が、gp100ペプチド-MHC複合体に結合するTCRを含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項37】
前記他のTCR-抗CD3融合分子がテベンタフスプである、請求項36に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項38】
前記PRAME陽性癌が黒色腫、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、食道癌、膀胱癌、頭頸部癌、子宮癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病及びホジキンリンパ腫からなる群より選択される、請求項1~37のいずれか一項に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項39】
前記黒色腫がブドウ膜黒色腫若しくは皮膚黒色腫であり、前記肺癌が非小細胞肺癌(NSCLC)若しくは小細胞肺癌(SCLC)であり、又は前記乳癌がトリプルネガティブ乳癌(TNBC)である、請求項38に記載の使用のためのTCR-抗CD3融合分子。
【請求項40】
TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者におけるPRAME陽性癌を治療する方法であって、前記TCR-抗CD3融合分子が、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
該方法が、
(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、
(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、
前記第2の用量が前記第1の用量よりも高く、前記第3の用量が前記第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌、特にPRAME陽性癌の治療に関する。特に、本発明は、抗CD3 scFvに融合した、HLA-A02制限ペプチドSLLQHLIGL(配列番号1)と結合するT細胞受容体(TCR)を含むT細胞リダイレクト二重特異性療法剤(TCR-抗CD3融合分子)の投与レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
PRAME、すなわち黒色腫優先発現抗原(Preferentially Expressed Antigen In Melanoma)は、黒色腫において過剰発現される抗原として最初に同定された(非特許文献1)。PRAMEはCT130、MAPE、OIP-4としても知られ、Uniprotアクセッション番号はP78395である。このタンパク質は、レチノイン酸受容体シグナル伝達の抑制因子として機能する(非特許文献2)。PRAMEは、癌精巣抗原として知られる生殖細胞系にコードされた抗原のファミリーに属する。癌精巣抗原は、通例、正常成体組織における発現が限られているか又は発現がないため、免疫療法介入の魅力的な標的である。PRAMEは、白血病及びリンパ腫だけでなく、多数の固形腫瘍においても発現される(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。本発明のPRAME標的化療法は、黒色腫、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、食道癌、膀胱癌、頭頸部癌、子宮癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病及びホジキンリンパ腫を含むが、これらに限定されない癌の治療に特に適している可能性がある。
【0003】
ペプチドSLLQHLIGL(配列番号1)は、全長PRAMEタンパク質のアミノ酸425~433に対応し、HLA-A02と複合して細胞表面に提示される(非特許文献11)。このペプチド-HLA複合体は、TCRベースの免疫療法介入の有用な標的をもたらす。
【0004】
国際公開第2018/234319号には、SLLQHLIGL-HLA-A02複合体に結合するTCRが記載されている。このTCRは、複合体に対する結合親和性及び/又は結合半減期が改善するように、天然PRAME TCRのα可変ドメイン及び/又はβ可変ドメインに対して突然変異されており、療法剤と会合(共有的又は別の方式で)することができる。こうした療法剤の1つは、抗CD3抗体、又は一本鎖可変断片(scFv)等の該抗CD3抗体の機能的断片若しくは変異体である。抗CD3抗体又は断片は、TCRのα鎖又はβ鎖のC末端又はN末端に共有連結してもよい。得られる分子は、TCR二重特異性である。
【0005】
TCR二重特異性タンパク質は、細胞内又は細胞外の疾患関連抗原に由来し、HLA分子と複合して細胞表面に提示されるペプチドを標的とするようにポリクローナルT細胞をリダイレクトする。このアプローチは、gp100及びCD3に由来するHLA-A02制限ペプチドを標的とするTCR二重特異性タンパク質(テベンタフスプ(tebentafusp))を用いて種々の抗原との関連で臨床的に試験されている。この分子の投与は、ブドウ膜黒色腫においてOSベネフィットをもたらした(非特許文献12)。しかしながら、PRAMEを標的とする、こうしたTCR二重特異性タンパク質は、臨床的に試験されていない。
【0006】
IMC-F106Cは、抗CD3 scFvに融合した、SLLQHLIGLペプチド-HLA-A02複合体に結合する可溶性親和性増強TCRを含むT細胞リダイレクト二重特異性療法剤である。IMC-F106Cの標的化末端(可溶性TCR)は、癌細胞の表面上のHLA-A02によって提示されるPRAME抗原のペプチド断片に結合する。HLA分子は多型性であり、米国及び欧州諸国の白人のおよそ47%がHLA-A02遺伝子型を発現し、HLA-A02:01対立遺伝子は、HLA-A02陽性者の95%超で検出される。IMC-F106Cのエフェクター末端(抗CD3 scFv)は、あらゆるT細胞上のCD3に結合し、エフェクターサイトカインを産生し、及び/又は標的を提示する細胞を殺すようにT細胞をリダイレクトすることができる。加えて、IMC-F106C媒介腫瘍溶解は、内因性抗腫瘍免疫応答をプライミングし得る。IMC-F106C等のImmTAC(商標)(癌に対する免疫動員モノクローナルTCR;Immune Mobilizing Monoclonal TCRs Against Cancer)分子は、非常に強力な分子であり、僅か10個~50個の標的ペプチド:HLA複合体を提示する腫瘍細胞株に対してT細胞活性のリダイレクトが観察されている。IMC-F106Cは、HLA-A02:01陽性/PRAME陽性細胞株の存在下でT細胞活性を選択的にリダイレクトし、1pM~10pMと低い濃度でT細胞活性化及びPRAME陽性癌細胞の死滅をもたらすことが示されている。上記のように、HLA-A02制限ペプチドSLLQHLIGL(配列番号1)は、生殖細胞系の癌抗原PRAMEに由来する。IMC-F106Cは、配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列と配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列とを有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ikeda et al Immunity. 1997 Feb;6(2):199-208
【非特許文献2】Epping et al., Cell. 2005 Sep 23;122(6):835-47
【非特許文献3】Doolan et al Breast Cancer Res Treat. 2008 May;109(2):359-65
【非特許文献4】Epping et al Cancer Res. 2006 Nov 15;66(22):10639-42
【非特許文献5】Ercolak et al Breast Cancer Res Treat. 2008 May;109(2):359-65
【非特許文献6】Matsushita et al Leuk Lymphoma. 2003 Mar;44(3):439-44
【非特許文献7】Mitsuhashi et al Int. J Hematol. 2014;100(1):88-95
【非特許文献8】Proto-Sequeire et al Leuk Res. 2006 Nov;30(11):1333-9
【非特許文献9】Szczepanski et al Oral Oncol. 2013 Feb;49(2):144-51
【非特許文献10】Van Baren et al Br J Haematol. 1998 Sep;102(5):1376-9
【非特許文献11】Kessler et al., J Exp Med. 2001 Jan 1;193(1):73-88
【非特許文献12】Nathan P, et al. Overall Survival Benefit with Tebentafusp in Metastatic Uveal Melanoma. N Engl J Med 2021; 385:1196-1206
【発明の概要】
【0008】
第1の態様において、本発明は、TCR-抗CD3融合分子であって、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCRβ鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
該TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者におけるPRAME陽性癌を治療する方法であって、
(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、
(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法に使用される、TCR-抗CD3融合分子を提供する。
【0009】
TCR二重特異性試薬の投与には、サイトカイン放出症候群(CRS)、腫瘍局所炎症、血球減少及びオフターゲットT細胞活性化を含む幾つかのリスク因子が関連する可能性がある。場合によっては、臨床有効用量未満の用量で用量制限毒性が生じることがある。さらに、より高い用量では、正常組織のオフターゲット認識が生じる恐れがある。本発明者らは、驚くべきことに、IMC-F106Cを管理可能な安全性プロファイルで投与することを可能にし、臨床活性を示す患者内用量漸増レジメンを見出した。
【0010】
本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、リンカーを介してTCRのβ鎖のN末端に共有連結された抗CD3 scFvを含む。このタイプの分子は、ImmTAC(商標)(癌に対する免疫動員モノクローナルTCR)として知られている。ImmTAC(商標)分子は、強力なT細胞応答を活性化し、標的癌細胞を特異的に殺すように操作されている。本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子(すなわち、PRAMEを標的とするImmTAC)は、国際公開第2018/234319号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0011】
「TCR-抗CD3融合分子」、「ImmTAC」及び「T細胞リダイレクト二重特異性療法剤」という用語は、本明細書において区別なく使用される。
【0012】
本明細書に使用される「TCR β鎖-抗CD3」という用語は、リンカー及び抗CD3 scFvと一緒になったImmTACのTCR β鎖部分を指す。「β鎖」という用語は、分子のこの部分を表す別の方法として、ImmTACに関連して使用されることもある。
【0013】
本明細書に言及される配列は、以下の通りである:
配列番号1 HLA-A02制限ペプチド:SLLQHLIGL
配列番号2 IMC-F106Cとして指定されたImmTACのTCR α鎖可変ドメインのアミノ酸配列。CDR(CDR1、CDR2及びCDR3)は下線で示し、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5に指定し、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)はイタリック体で示し、それぞれ配列番号27、配列番号6、配列番号7及び配列番号28に指定する。天然α鎖に対する突然変異は太字で示す。
【配列1】
【0014】
配列番号8 IMC-F106Cとして指定されたImmTACのTCR β鎖可変ドメインのアミノ酸配列。CDR(CDR1、CDR2及びCDR3)は下線で示し、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11に指定し、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)はイタリック体で示し、それぞれ配列番号29、配列番号12、配列番号13及び配列番号30に指定する。天然β鎖に対する突然変異は太字で示す。
【配列2】
【0015】
配列番号14 IMC-F106Cとして指定されたImmTACのTCR α鎖のアミノ酸配列。CDR(CDR1、CDR2及びCDR3)は下線で示し、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5に指定し、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)はイタリック体で示し、それぞれ配列番号27、配列番号6、配列番号7及び配列番号28に指定する。定常領域は太字で示し、配列番号15に指定する。定常領域内では、非天然システイン残基を二重下線で示す(定常領域の48位)。
【配列3】
【0016】
配列番号16 IMC-F106Cとして指定されたImmTACのTCR β鎖-抗CD3のアミノ酸配列。抗CD3 scFv(アミノ酸1~253)は、太字及び下線で示し、配列番号17に指定する。リンカー(GGGGS)は、scFvの直後に現れ、薄字で示し、配列番号18に指定する。CDR(CDR1、CDR2及びCDR3)は下線で示し、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11に指定し、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)はイタリック体で示し、それぞれ配列番号29、配列番号12、配列番号13及び配列番号30に指定する。定常領域は太字で示し(下線なし)、配列番号19に指定する。定常領域内では、非天然システイン残基を二重下線で示す(定常領域の57位)。定常領域の75位及び89位の更なる非天然アミノ酸も二重下線で示す。
【配列4】
【0017】
【0018】
IMC-F106Cとして指定されたImmTACのCDR配列:
【0019】
【0020】
IMC-F106Cとして指定されたImmTACのフレームワーク領域配列:
【0021】
【0022】
【0023】
本明細書に言及される更なるリンカー配列:
GGGSG(配列番号20)、GGSGG(配列番号21)、GSGGG(配列番号22)、GSGGGP(配列番号23)、GGEPS(配列番号24)、GGEGGGP(配列番号25)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号26)
【0024】
本明細書に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含む。
【0025】
言い換えると、分子は、配列番号14の配列と比較してTCR α鎖アミノ酸配列に幾らかの変異を有していてもよく(TCR α鎖アミノ酸配列が配列番号14に少なくとも90%の同一性を有する限り)、及び/又は配列番号16の配列と比較してTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列に幾らかの変異を有していてもよいが(TCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列が配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する限り)、TCR α鎖のCDRは、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有していなければならず、TCR β鎖のCDRは、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有していなければならない。このため、TCR α鎖可変ドメインがそれぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含むことの要件、並びにTCR β鎖可変ドメインがそれぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含むことの要件は、本明細書に記載される本発明の全ての態様及び実施の形態に当てはまる。したがって、TCR α鎖可変ドメインは、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列に対して100%の同一性を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインは、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列に対して100%の同一性を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含む。
【0026】
本発明の範囲内には、配列番号14に対応するTCR α鎖アミノ酸配列と配列番号16に対応するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列とを有する、IMC-F106Cとして指定されたTCR-抗CD3融合分子の表現型的にサイレントな変異体がある。本明細書に使用される場合、用語「表現型的にサイレントな変異体」は、配列番号14及び配列番号16の配列と比較して、置換、挿入及び欠失を含む1つ以上の更なるアミノ酸変化を取り込むTCR-抗CD3融合分子を指すと理解され、TCR-抗CD3融合分子は、IMC-F106Cとして指定されたTCR-抗CD3融合分子と類似の表現型又は同じ表現型を有する。この適用の目的のため、TCR-抗CD3融合分子表現型は、抗原結合親和性(K及び/又は結合半減期)及び抗原特異性を含む。表現型的にサイレントな変異体は、同一条件下で(例えば25℃及び/又は同じSPRチップ上で)測定された際、IMC-F106Cとして指定されたTCR-抗CD3融合分子の測定K及び/又は結合半減期の50%以内、又はより好ましくは20%以内のSLLQHLIGL(配列番号1)HLA-A02複合体に対するK及び/又は結合半減期を有し得る。適切な条件は、国際公開第2018/234319号(引用することにより本明細書の一部をなす)の実施例3に更に提供される。抗原特異性を以下で更に定義する。当業者に知られるように、SLLQHLIGL(配列番号1)HLA-A02複合体との相互作用の親和性を改変することなく、上に詳述されるものと比較して、その可変ドメイン中に変化を取り込むTCRを産生可能であり得る。特に、こうしたサイレント突然変異は、抗原結合に直接は関与しないことが知られる配列の部分内に取り込まれ得る。こうした些細な変異体は、本発明の範囲内に含まれる。
【0027】
表現型的にサイレントな変異体は、1つ以上の保存的置換及び/又は1つ以上の許容的置換を含有し得る。許容的置換及び保存的置換は、同一条件下で(例えば25℃及び/又は同じSPRチップ上で)測定された際、IMC-F106Cとして指定されたTCR-抗CD3融合分子の測定K及び/又は結合半減期の50%以内、又はより好ましくは20%以内、更により好ましくは10%以内のSLLQHLIGL(配列番号1)HLA-A02複合体に対するK及び/又は結合半減期の変化をもたらす可能性があるが、但し、Kの変化は、200μm未満(すなわち200μmより弱い)親和性をもたらさない。許容的置換とは、以下に提供されるような保存的の定義内には属さないが、にもかかわらず表現型的にサイレントな置換を意味する。
【0028】
本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、類似のアミノ酸配列を有し、及び/又は同じ機能を保持する(すなわち、上に定義されるように表現型的にサイレントな)1つ以上の保存的置換を含んでいてもよい。当業者は、多様なアミノ酸が類似の特性を有し、したがってそれらの間の置換が「保存的」であることを知っている。タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの1つ以上のこうしたアミノ酸は、しばしば、そのタンパク質、ポリペプチド又はペプチドの望ましい活性を排除することなく、1つ以上の他のこうしたアミノ酸によって置換され得る。
【0029】
したがって、アミノ酸グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンは、しばしば、互いに置換され得る(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)。これらのあり得る置換のうち、グリシン及びアラニンを互いに置換するために用い(これらは比較的短い側鎖を有するため)、バリン、ロイシン及びイソロイシンを互いに置換するために用いる(これらは疎水性である、より大きな脂肪族側鎖を有するため)ことが好ましい。しばしば互いに置換され得る他のアミノ酸には、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸)、リジン、アルギニン及びヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸)、アスパラギン酸及びグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸)、アスパラギン及びグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸)、並びにシステイン及びメチオニン(イオウ含有側鎖を有するアミノ酸)が含まれる。本発明の範囲内のアミノ酸置換は、天然存在又は非天然存在アミノ酸を用いて行われ得ることが認識されるべきである。例えば、本明細書において、アラニン上のメチル基はエチル基で置換され得て、及び/又は重要でない変化をペプチド主鎖に加え得ることが企図される。天然又は合成アミノ酸を用いるかどうかにかかわらず、L-アミノ酸のみが存在することが好ましい。
【0030】
この性質の置換は、しばしば、「保存的」又は「半保存的」アミノ酸置換と称される。したがって、本発明は、上述の通りであるが、TCR α鎖アミノ酸配列が、配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性)を有し、TCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列が、配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性)を有するように、配列中に1つ以上の保存的置換及び/又は1つ以上の許容的置換を有するアミノ酸配列を含むTCR-抗CD3融合分子の使用に拡張されるが、但し、TCR α鎖可変ドメインは、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインは、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含む。
【0031】
当該技術分野に知られるような「同一性」は、配列を比較することによって決定されるような、2つ以上のポリペプチド配列又は2つ以上のポリヌクレオチド配列の間の関係である。当該技術分野において、同一性はまた、場合によって、こうした配列のストリング間のマッチによって決定されるような、ポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列間の配列関連性の度合いも意味する。2つのポリペプチド配列又は2つのポリヌクレオチド配列間の同一性を測定する幾つかの方法が存在するが、同一性を決定するために一般的に使用される方法は、コンピュータプログラムにおいて体系化されている。2つの配列間の同一性を決定するために好ましいコンピュータプログラムには、限定されるわけではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereux, et al., Nucleic Acids Research, 12, 387 (1984))、BLASTP、BLASTN、及びFASTA(Atschul et al., J. Molec. Biol. 215, 403 (1990))が含まれる。
【0032】
アミノ酸配列を比較するために、CLUSTALプログラム等のプログラムを用いてもよい。このプログラムはアミノ酸配列を比較し、適切なようにいずれかの配列中にスペースを挿入することによって、最適整列を見出す。最適整列のため、アミノ酸同一性又は類似性(同一性に加えてアミノ酸タイプの保存)を計算することが可能である。BLASTxのようなプログラムは、類似配列の最長ストレッチを整列し、適合に値を割り当てる。したがって、各々異なるスコアを有する、類似性の幾つかの領域が見出された比較を得ることが可能である。両方のタイプの同一性分析は本発明において企図される。
【0033】
最適比較目的のため、配列を整列し(例えば、配列と最適に整列させるために、第1の配列中にギャップを導入してもよい)、対応する位置でアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較することによって、2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列の同一性パーセントが決定される。「最適整列」は、最高の同一性パーセントを生じる2つの配列の整列である。同一性パーセントは、比較している配列中の同一のアミノ酸残基又はヌクレオチドの数によって決定される(すなわち、%同一性=同一位置の数/位置の総数×100)。
【0034】
2つの配列間の同一性パーセントの決定は、当業者に知られる数学的アルゴリズムを用いて達成され得る。2つの配列を比較するための数学的アルゴリズムの例は、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877におけるように修飾された、Karlin and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268のアルゴリズムである。Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410のNBLASTプログラム及びXBLASTプログラムは、こうしたアルゴリズムを取り込んでいる。BLASTヌクレオチド検索は、核酸分子に対して相同なヌクレオチド配列を得るためにNBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実行することができる。BLASTタンパク質検索は、本発明に使用されるタンパク質分子に対して相同なアミノ酸配列を得るためにXBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行することができる。比較目的のため、ギャップ化整列を得るには、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されるようにギャップ化BLASTを利用してもよい。あるいは、分子間の離れた関係を検出する反復検索を実行するため、PSI-Blastを用いてもよい(同文献)。BLAST、ギャップ化BLAST、及びPSI-Blastプログラムを利用する際、それぞれのプログラム(例えばXBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータが使用され得る。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照されたい。配列比較のために利用される数学的アルゴリズムの別の例は、Myers and Miller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。CGC配列整列ソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)は、こうしたアルゴリズムを取り込んでいる。当該技術分野に知られる配列分析のための他のアルゴリズムには、Torellis and Robotti (1994) Comput. Appl. Biosci., 10 :3-5に記載されるようなADVANCE及びADAM、並びにPearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-8に記載されるFASTAが含まれる。FASTA内で、ktupは、検索の感度及び速度を設定する制御オプションである。
【0035】
保存的及び許容的置換、挿入並びに欠失を含む突然変異は、限定されるわけではないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づくもの、制限酵素に基づくクローニング、又はライゲーション非依存性クローニング(LIC)法を含む任意の適切な方法を用いて提供される配列内に導入され得る。これらの方法は、多くの標準的な分子生物学テキスト中に詳述される。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び制限酵素に基づくクローニングに関する更なる詳細に関しては、Sambrook & Russell, (2001) Molecular Cloning - A Laboratory Manual (3rdEd.) CSHL Pressを参照されたい。ライゲーション非依存性クローニング(LIC)に関する更なる情報は、Rashtchian, (1995) Curr Opin Biotechnol 6(1): 30-6に見出され得る。本発明によって提供されるTCR配列は、固相合成又は当該技術分野に知られる任意の他の適切な方法から得られ得る。
【0036】
本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、SLLQHLIGL(配列番号1)HLA-A02複合体に結合する特性を有する。本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、他の無関連エピトープと比較して、このエピトープを強く認識することが見出されており、したがって、これらのエピトープを呈する細胞及び組織に療法剤又は検出可能標識を送達するための標的化ベクターとして特に適している。本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子の文脈における特異性は、抗原陰性であるHLA-A02標的細胞を認識する能力は最小限である一方、抗原陽性であるHLA-A02標的細胞を認識し得ることに関する。
【0037】
特異性は、in vitroで、例えば国際公開第2018/234319号(引用することにより本明細書の一部をなす)の実施例6に記載されるもの等の細胞アッセイにおいて測定され得る。認識は、本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子及び標的細胞の存在下で、T細胞活性化のレベルを測定することによって決定され得る。抗原陰性標的細胞の最小限の認識は、同じ条件下で、かつ療法的に適切な濃度で測定された際、抗原陽性標的細胞の存在下で生じるレベルの20%未満、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満のT細胞活性化レベルと定義される。本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子に関しては、療法的に適切な濃度は、10nM未満、例えば1nM未満又は100pM未満と定義され得る。抗原陽性細胞は、癌細胞に匹敵する抗原提示レベルを得るために適切なペプチド濃度を用いたペプチドパルス処理によって得られ得て(例えば、Bossi et al., (2013) Oncoimmunol. 1;2 (11) :e26840に記載されているように10-9Mのペプチド)、又はこれらは上記ペプチドを天然に提示し得る。抗原陽性細胞及び抗原陰性細胞の両方がヒト細胞であるのが好ましい。抗原陽性細胞は、ヒト癌細胞であるのが好ましい。抗原陰性細胞は、好ましくは健康なヒト組織に由来するものを含む。
【0038】
特異性は、更に又は別に、TCR-抗CD3融合分子が、SLLQHLIGL(配列番号1)HLA-A02複合体に結合し、かつ別のペプチド-HLA複合体のパネルに結合しない能力に関し得る。これは例えば、国際公開第2018/234319号(引用することにより本明細書の一部をなす)の実施例3のBiacore法によって決定され得る。上記パネルは、少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10の別のペプチド-HLA-A02複合体を含有し得る。別のペプチドは、配列番号1と低レベルの配列同一性を共有し得て、天然に提示され得る。別のペプチドは、健康なヒト組織において発現されるタンパク質に由来し得る。SLLQHLIGL-HLA-A02複合体に対する結合は、他の天然に提示されたペプチドHLA複合体よりも、少なくとも2倍より強く、より好ましくは少なくとも10倍、又は少なくとも50倍若しくは少なくとも100倍より強く、更により好ましくは少なくとも400倍より強くてもよい。
【0039】
TCR特異性を決定するための別の又は更なるアプローチは、連続突然変異誘発、例えばアラニンスキャニングを用いて、TCRのペプチド認識モチーフを同定することであり得る。結合モチーフの部分を形成する残基は、置換を許容し得ないものである。非許容性置換は、TCRの結合親和性が、非突然変異ペプチドに関する結合親和性と比較して、少なくとも50%、又は好ましくは少なくとも80%減少するペプチド位置と定義され得る。こうしたアプローチは、Cameron et al., (2013), Sci Transl Med. 2013 Aug 7; 5 (197): 197ra103及び国際公開第2014096803号に更に記載される。この場合のTCR特異性は、別のモチーフ含有ペプチド、特にヒトプロテオーム中の別のモチーフ含有ペプチドを同定することと、TCRに対する結合に関してこれらのペプチドを試験することとによって決定され得る。1つ以上の別のペプチドに対するTCRの結合は、特異性の欠如を示し得る。この場合、細胞アッセイを通じたTCR特異性の更なる試験が必要であり得る。
【0040】
本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子の好ましい実施の形態は、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含む限りにおいて、配列番号14に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、配列番号16に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列とを含む。したがって、本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子は、CDR以外の領域において異なっていてもよい。
【0041】
例えば、本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子は、配列番号27に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖フレームワーク1領域(FR1)アミノ酸配列、及び/又は配列番号6に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖フレームワーク2領域(FR2)アミノ酸配列、及び/又は配列番号7に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖フレームワーク3領域(FR3)アミノ酸配列、及び/又は配列番号28に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖フレームワーク4領域(FR4)アミノ酸配列を含み得る。例えば、α鎖FR1及び/又はFR2及び/又はFR3及び/又はFR4領域は、それぞれ1つ以上、例えば1つ、2つ若しくは3つの保存的置換及び/又は最大3つの許容的置換を含有し得る。
【0042】
本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子は、別に又は更に、配列番号29に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖フレームワーク1領域(FR1)アミノ酸配列、及び/又は配列番号12に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖フレームワーク2領域(FR2)アミノ酸配列、及び/又は配列番号13に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖フレームワーク3領域(FR3)アミノ酸配列、及び/又は配列番号30に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖フレームワーク4領域(FR4)アミノ酸配列を含み得る。例えば、β鎖FR1及び/又はFR2及び/又はFR3及び/又はFR4領域は、それぞれ1つ以上、例えば1つ、2つ若しくは3つの保存的置換及び/又は最大3つの許容的置換を含有し得る。
【0043】
本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子は、別に又は更に、配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖可変ドメインアミノ酸配列、及び/又は配列番号8に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。例えば、TCR-抗CD3融合分子は、配列番号2のアミノ酸配列を有するTCR α鎖可変ドメインと、配列番号8のアミノ酸配列を有するTCR β鎖可変ドメインとを含み得る。あるいは、TCR-抗CD3融合分子は、配列番号2のアミノ酸配列と比較して1つ以上の突然変異、例えば1つ、2つ若しくは3つの保存的置換及び/又は最大3つの許容的置換を有するTCR α鎖可変ドメイン、及び/又は配列番号8のアミノ酸配列と比較して1つ以上の突然変異、例えば1つ、2つ若しくは3つの保存的置換及び/又は最大3つの許容的置換を有するTCR β鎖可変ドメインを含み得る。
【0044】
本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子は、別に又は更に、配列番号15に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖定常領域アミノ酸配列、及び/又は配列番号19に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖定常領域アミノ酸配列を含み得る。例えば、TCR α鎖定常領域は、配列番号15のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ又は3つの保存的置換及び/又は最大3つの許容的置換を有し得る。例えば、TCR β鎖定常領域は、配列番号19のアミノ酸配列と比較して1つ、2つ又は3つの保存的置換及び/又は最大3つの許容的置換を有し得る。
【0045】
別に又は更に、本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子中の抗CD3 scFvは、配列番号17に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0046】
本発明に使用されるTCR抗CD3融合分子において、TCR β鎖は、リンカーを介して抗CD3抗体配列に連結される。リンカーのアミノ酸配列は、GGGGS(配列番号18)、GGGSG(配列番号20)、GGSGG(配列番号21)、GSGGG(配列番号22)、GSGGGP(配列番号23)、GGEPS(配列番号24)、GGEGGGP(配列番号25)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号26)からなる群より選択され得る。典型的には、リンカー配列はGGGGS(配列番号18)である。あるいは、リンカーは、配列番号18及び配列番号20~配列番号26のリンカー配列のいずれかと比較して1つ以上の突然変異、例えば1つ、2つ又は3つの保存的置換及び/又は最大3つの許容的置換を有し得る。
【0047】
したがって、得られるTCR-抗CD3融合分子が、配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(例えば少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性)を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性(例えば少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性)を有するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列とを含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含む限りにおいて、これらの実施の形態のいずれかを組み合わせ得ることが分かる。
【0048】
本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、配列番号14に対応するアミノ酸配列を有するTCR α鎖と、配列番号16に対応するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列とを含み得る。これらは、それぞれIMC-F106CのTCR α鎖アミノ酸配列及びTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列である。
【0049】
配列番号15のアミノ酸配列を有するα鎖定常領域は、本明細書に示されるように定常領域のアミノ酸T48がC48で置換される、対応する天然/天然存在α鎖に対する修飾を含む。配列番号19のアミノ酸配列を有するβ鎖定常領域も、本明細書に示されるようにS57がC57で置換される、天然/天然存在β鎖に対する修飾を含む。天然α及びβ鎖定常鎖配列に対するこれらのシステイン置換は、再フォールディングされた可溶性TCR、すなわち細胞外のα鎖及びβ鎖の再フォールディングにより形成されたTCRを安定化する、非天然鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にする(国際公開第03/020763号)。この非天然ジスルフィド結合は、正確にフォールディングされたTCRをファージ上に提示することを容易にする(Li et al., Nat Biotechnol 2005 Mar;23(3):349-54)。加えて、安定したジスルフィド連結可溶性TCRの使用は、結合親和性及び結合半減期のより簡便な評価を可能にする。また、配列番号19のアミノ酸配列を有するβ鎖定常領域は、本明細書に示されるように、75位(A75)及び89位(D89)に更なる非天然アミノ酸を含む。
【0050】
本願において言及される配列は全て、国際公開第2018/234319号(引用することにより本明細書の一部をなす)にも言及されている。表1は、本明細書に言及されるImmTAC分子の部分及び配列番号が国際公開第2018/234319号の配列番号にどのように対応するかを示す。
【0051】
【0052】
IMC-F106Cとして指定され、本願に記載されるImmTACは、国際公開第2018/234319号においてImmTAC2として指定されている。
【0053】
本発明のこの態様において、TCR-抗CD3融合分子は、
(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、
(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
のように投与され、第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する。
【0054】
本発明の投与レジメンは、用量漸増レジメンであり、TCR-抗CD3融合分子の漸増用量を順次投与する。用量は、このように第1の用量、次いで第2の用量、次いで第3の用量と指定の順序で投与される。「第1の用量」とは、指定の範囲内の第1のレベルのTCR-抗CD3融合分子の用量を意味する。「第2の用量」とは、第1のレベルよりも高い、指定の範囲内の第2のレベルのTCR-抗CD3融合分子の用量を意味する。「第3の用量」とは、第2のレベルよりも高い、指定の範囲内の第3のレベルのTCR-抗CD3融合分子の用量を意味する。本発明の投与レジメンによると、1回より多くの第1の用量、1回より多くの第2の用量及び/又は1回より多くの第3の用量を投与し得るため、患者が3回より多くのTCR-抗CD3融合分子の用量を受けることがあることが理解されよう。
【0055】
本発明において、それぞれの用量は、患者の体重に関係なく、又は体重1kg当たりの療法剤の重量、体表面積又は除脂肪筋肉量等のような患者に適切な投与量を算出するために日常的に用いられる他の方法の1つによって算出される場合、同じ量の療法剤を投与するかどうかに関係なく、指定の重量の療法剤として表される。指定の重量の療法剤は、典型的には1週間間隔で、例えば治療レジメンの1日目、8日目、15日目、22日目等に投与されるが、投与間隔は、より長くても又は短くてもよい。このため、用量(各用量、すなわち少なくとも1回の第1の用量、少なくとも1回の第2の用量及び少なくとも1回の第3の用量)は、6日~8日に1回投与される。用量(すなわち少なくとも1回の第1の用量、少なくとも1回の第2の用量及び少なくとも1回の第3の用量)は、7日に1回投与するのが好ましい。それぞれの用量に異なる間隔が空けられていてもよい。あるいは、同じ間隔が空けられていてもよい。
【0056】
第1の用量は、5μg~40μgの範囲である。第1の用量は6μg~40μg、5μg~10μg、10μg~20μg又は10μg~30μgの範囲であってもよい。第1の用量は、10μg~30μgの範囲であるのが好ましい。用量は5μg、6μg、7μg、8μg、9μg、10μg、11μg、12μg、13μg、14μg、15μg、16μg、17μg、18μg、19μg、20μg、21μg、22μg、23μg、24μg、25μg、26μg、27μg、28μg、29μg、30μg、31μg、32μg、33μg、34μg、35μg、36μg、37μg、38μg、39μg又は40μgであり得る。好ましい第1の用量としては、6μg、15μg又は20μgが挙げられ、毎週投与することができる。第1の用量は、20μgであるのが好ましい。第1の用量は、1回投与することができる。あるいは、1回より多くの第1の用量、例えば2回~5回の第1の用量、例えば2回の第1の用量を投与してもよい。これは、例えば患者が第1の用量の投与後に有害事象(AE)を経験する場合に必要とされることがある。この場合、第2の用量に漸増させる前に1回以上の更なる第1の用量を投与することが好ましい場合がある。2回以上の第1の用量が投与される場合、それらは同じであることが好ましい。しかしながら、それらは異なっていてもよい。
【0057】
第2の用量は、15μg~80μgの範囲である。第2の用量は20μg~80μg、15μg~30μg、30μg~50μg、40μg~70μg又は50μg~70μgの範囲であってもよい。第2の用量は、40μg~70μgの範囲であるのが好ましい。第2の用量は15μg、20μg、25μg、30μg、35μg、40μg、45μg、50μg、55μg、60μg、65μg、70μg、75μg又は80μgであり得る。好ましい第2の用量としては、20μg、40μg、60μg又は80μgが挙げられ、毎週投与することができる。第2の用量は、60μgであるのが好ましい。第2の用量は、1回投与することができる。あるいは、1回より多くの第2の用量、例えば2回~5回の第2の用量、例えば2回の第2の用量を投与してもよい。この場合も、これは例えば患者が第2の用量の投与後に有害事象を経験する場合に必要とされることがある。この場合、第2の用量に漸増させる前に1回以上の更なる第1の用量を投与することが好ましい場合がある。2回以上の第2の用量が投与される場合、それらは同じであることが好ましい。しかしながら、それらは異なっていてもよい。
【0058】
好ましくは、第1の用量は10μg~30μgの範囲であり、第2の用量は40μg~70μgの範囲である。
【0059】
第3の用量は、60μg~400μgの範囲である。第3の用量は80μg~400μg、70μg~250μg、60μg~100μg、100μg~200μg、150μg~300μg、70μg~90μg、140μg~180μg又は220μg~260μgの範囲であってもよい。例えば、第3の用量は80μg~240μg、150μg~400μg、150μg~330μg、160μg~320μg、200μg~320μg、240μg~320μg、150μg~170μg、190μg~210μg、230μg~250μg、250μg~270μg、290μg~310μg又は310μg~330μgの範囲であり得る。第3の用量は、少なくとも150μgとすることができる。第3の用量は60μg、65μg、70μg、75μg、80μg、85μg、90μg、95μg、100μg、110μg、120μg、130μg、140μg、150μg、160μg、170μg、180μg、190μg、200μg、210μg、220μg、230μg、240μg、250μg、260μg、270μg、280μg、290μg、300μg、310μg、320μg、330μg、340μg、350μg、360μg、370μg、380μg、390μg又は400μgであってもよい。或る好ましい第3の用量は80μgである。別の好ましい第3の用量は160μgである。更なる好ましい第3の用量としては、200μg、240μg、260μg、300μg及び320μgが挙げられる。第3の用量は、1回以上投与することができる。典型的には、治療を中止するまで、第3の用量を複数回、例えば6日~8日に1回、好ましくは7日に1回投与する。治療は、1ヶ月以上又は1年以上継続することができる。この継続される第3の用量は、「維持用量」と称され、それに相当し得る。
【0060】
治療は、例えば許容し得ない毒性のために、又は患者が許容し得ないレベルの疾患進行を示したために中止されることがある。あるいは、例えば、TCR-抗CD3融合分子による治療がもはや必要ないと考えられるレベルまで患者の症状の重症度が低下し、及び/又は腫瘍が縮小したために治療が中止されることがある。治療を中止するかどうか、またいつ中止するかの判断は、臨床医が決定することができる。同じ用量を続いて用いることができる。あるいは、用量を漸増させてもよい。例えば、用量は5μg、10μg、15μg、20μg、30μg、40μg又は50μg高くすることができる。
【0061】
本明細書に記載されるような第1の用量、第2の用量及び第3の用量の範囲の任意の組合せが企図される。例えば、第1の用量は6μg~40μgの範囲であってもよく、第2の用量は20μg~80μgの範囲であってもよく、第3の用量は80μg~400μgの範囲であってもよい。
【0062】
任意の組合せにおいて、第1の用量は5μg~10μg、10μg~20μg又は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は15μg~30μg、30μg~50μg又は50μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は60μg~100μg、100μg~200μg、150μg~300μg、150μg~400μg、150μg~330μg、160μg~320μg、150μg~170μg、190μg~210μg、230μg~250μg、250μg~270μg、290μg~310μg又は310μg~330μgの範囲であってもよいが、但し、第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高い。
【0063】
第1の用量は6μgであってもよく、第2の用量は20μgであってもよく、第3の用量は80μg~120μgの範囲であってもよい。第1の用量は6μgであってもよく、第2の用量は20μgであってもよく、第3の用量は80μg、100μg又は120μgであってもよい。言い換えると、第1の用量は6μgであってもよく、第2の用量は20μgであってもよく、第3の用量は80μgであってもよい。第1の用量は6μgであってもよく、第2の用量は20μgであってもよく、第3の用量は100μgであってもよい。第1の用量は6μgであってもよく、第2の用量は20μgであってもよく、第3の用量は120μgであってもよい。
【0064】
第1の用量は15μgであってもよく、第2の用量は40μgであってもよく、第3の用量は140μg~180μgの範囲であってもよい。第1の用量は15μgであってもよく、第2の用量は40μgであってもよく、第3の用量は140μg、160μg又は180μgであってもよい。言い換えると、第1の用量は15μgであってもよく、第2の用量は40μgであってもよく、第3の用量は140μgであってもよい。第1の用量は15μgであってもよく、第2の用量は40μgであってもよく、第3の用量は160μgであってもよい。第1の用量は15μgであってもよく、第2の用量は40μgであってもよく、第3の用量は180μgであってもよい。
【0065】
第1の用量は20μgとすることができ、第2の用量は60μgとすることができ、第3の用量は少なくとも150μgとすることができる。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は150μg~400μg、例えば150μg~330μg、150μg~170μg、160μg~320μg、190μg~210μg、220μg~320μg、240μg~320μg、230μg~250μg、250μg~270μg、220μg~260μg、290μg~310μg又は310μg~330μgの範囲であってもよい。
【0066】
第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は160μg、200μg、220μg、240μg、260μg、300μg又は320μgであってもよい。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は160μgであってもよい。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は200μgであってもよい。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は220μgであってもよい。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は240μgであってもよい。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は260μgであってもよい。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は300μgであってもよい。第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は60μgであってもよく、第3の用量は320μgであってもよい。
【0067】
第1の用量は10μg~30μgの範囲とすることができ、第2の用量は40μg~70μgの範囲とすることができ、第3の用量は少なくとも150μgとすることができる。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は150μg~400μgの範囲であってもよい。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は150μg~330μgの範囲であってもよい。
【0068】
第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は150μg~170μgの範囲であってもよい。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は160μgであってもよい。
【0069】
第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は190μg~210μgの範囲であってもよい。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は200μgであってもよい。
【0070】
第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は230μg~250μgの範囲であってもよい。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は240μgであってもよい。
【0071】
第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は250μg~270μgの範囲であってもよい。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は260μgであってもよい。
【0072】
第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は290μg~310μgの範囲であってもよい。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は300μgであってもよい。
【0073】
第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は310μg~330μgの範囲であってもよい。第1の用量は10μg~30μgの範囲であってもよく、第2の用量は40μg~70μgの範囲であってもよく、第3の用量は320μgであってもよい。
【0074】
第2の態様において、本発明は、TCR-抗CD3融合分子であって、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者におけるPRAME陽性癌を治療する方法であって、
(a)少なくとも1回の第1の用量、
(b)少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、
第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法に使用される、TCR-抗CD3融合分子を提供する。
【0075】
本発明のこの態様は、60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量を用量漸増後に投与する用量漸増投与レジメンに関する。
【0076】
用量(各用量、すなわち少なくとも1回の第1の用量、少なくとも1回の第2の用量及び少なくとも1回の第3の用量)は、6日~8日に1回投与される。用量(すなわち少なくとも1回の第1の用量、少なくとも1回の第2の用量及び少なくとも1回の第3の用量)は、7日に1回投与するのが好ましい。それぞれの用量に異なる間隔が空けられていてもよい。あるいは、同じ間隔が空けられていてもよい。
【0077】
第1の用量及び第2の用量は、臨床医が決定してもよく、又は本発明の第1の態様に関連して本明細書に定義される通りであってもよい。
【0078】
本発明の第2の態様に適した第3の用量は、本発明の第1の態様に関連して上に記載される。第3の用量は、60μg~400μgの範囲である。第3の用量は80μg~400μg、70μg~250μg、60μg~100μg、100μg~200μg、150μg~300μg、70μg~90μg、140μg~180μg又は220μg~260μgの範囲であってもよい。例えば、第3の用量は80μg~240μg、150μg~400μg、150μg~330μg、160μg~320μg、200μg~320μg、240μg~320μg、150μg~170μg、190μg~210μg、230μg~250μg、250μg~270μg、290μg~310μg又は310μg~330μgの範囲であってもよい。第3の用量は、少なくとも150μgとすることができる。第3の用量は60μg、65μg、70μg、75μg、80μg、85μg、90μg、95μg、100μg、110μg、120μg、130μg、140μg、150μg、160μg、170μg、180μg、190μg、200μg、210μg、220μg、230μg、240μg、250μg、260μg、270μg、280μg、290μg、300μg、310μg、320μg、330μg、340μg、350μg、360μg、370μg、380μg、390μg又は400μgであってもよい。或る好ましい第3の用量は80μgである。別の好ましい第3の用量は160μgである。更に好ましい第3の用量としては、200μg、240μg、260μg、300μg及び320μgが挙げられる。1回以上の第3の用量を投与してもよい。典型的には、治療を中止するまで、第3の用量が複数回、例えば6日~8日に1回、好ましくは7日に1回投与される。治療は、1ヶ月以上又は1年以上継続することができる。この継続される第3の用量は、「維持用量」と称され、それに相当し得る。
【0079】
治療は、例えば許容し得ない毒性のために、又は患者が許容し得ないレベルの疾患進行を示したために中止されることがある。あるいは、例えば、TCR-抗CD3融合分子による治療がもはや必要ないと考えられるレベルまで患者の症状の重症度が低下し、及び/又は腫瘍が縮小したために治療が中止されることがある。治療を中止するかどうか、またいつ中止するかの判断は、臨床医が決定することができる。同じ用量を続いて用いることができる。あるいは、用量を漸増させてもよい。例えば、用量は5μg、10μg、15μg、20μg、30μg、40μg又は50μg高くすることができる。
【0080】
本発明において、TCR-抗CD3融合分子は、静脈内(iv)投与され、典型的には静脈内注入によって投与される。
【0081】
本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、前投薬レジメンの後に投与することができる。当業者には理解されるように、前投薬は、治療の実施に先立つ薬剤の投与であり、治療の潜在的な副作用を打ち消すことを意図したものである。例えば、TCR-抗CD3融合分子は、ステロイド(コルチコステロイド)及び/又は非ステロイドベースの前投薬レジメンの後に投与することができる。ステロイドは第1の用量、第2の用量及び/又は第3の用量の投与の前に投与してもよく、典型的には第3の用量の投与の前に投与される。ステロイドは例えば、第1の用量、第2の用量及び/又は第3の用量の投与の15分前、20分前、25分前又は30分前に投与することができる。ステロイドは、第3の用量が140μg以上の場合(例えば、第3の用量が150μg、160μg、170μg、180μg、190μg、200μg、210μg、220μg、230μg、240μg、250μg、260μg、270μg、280μg、290μg、300μg、310μg、320μg、330μg、340μg、350μg、360μg、370μg、380μg、390μg又は400μgである場合)、及び/又は第3の用量を初めて投与する前にのみ投与することができる。
【0082】
ステロイドはデキサメタゾンであり得る。デキサメタゾンは静脈内投与することができ、4mg~6mgの範囲の用量で与えられ得る。より高い用量、例えば8mg、12mg又は20mgを用いてもよい。代替的なステロイドとしては、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン及びヒドロコルチゾンが挙げられる。
【0083】
本発明の投与レジメンと組み合わせて用いられる他の前投薬としては、
パラセタモール(典型的には1g又は相当量を経口投与する)、
イブプロフェン(典型的には600mg~800mg又は相当量を経口投与する)、
ジフェンヒドラミン(典型的には50mgを経口投与する)、
セチリジン(典型的には10mgを経口投与する)又はロラタジン(典型的には10mgを経口投与する)等の非鎮静型抗ヒスタミン剤、
オンダンセトロン等の制吐薬(典型的には8mgを経口投与又は静脈内投与する)、
静脈内輸液(典型的には0.5L~1Lの範囲で投与する)、
が挙げられる。これは、特に患者が脱水、経口摂取不良及び/又は嘔気/嘔吐を経験している場合に低血圧のリスクを軽減するためである。
【0084】
任意のこうした前投薬は、単独で又は組み合わせて用いることができる。前投薬(複数の場合もある)は、第1の用量、第2の用量及び/又は第3の用量の投与の前、典型的には第3の用量の投与の前に実施することができる。前投薬(複数の場合もある)は、例えば第1の用量、第2の用量及び/又は第3の用量の投与の15分前、20分前、25分前又は30分前に実施することができる。患者がこれらの前投薬のいずれかに関連する有害事象を発現する場合、用量を減少させて与えてもよい。例えば、25mgのジフェンヒドラミンの用量を投与することができる。
【0085】
本発明に使用されるTCR-抗CD3融合分子は、単剤療法として投与することができる。あるいは、TCR-抗CD3融合分子は、1つ以上の抗癌療法剤、好ましくは免疫調節療法剤又は化学療法剤と組み合わせて投与することができる。こうした抗癌療法剤又は化学療法剤としては、
チェックポイント阻害剤、例えばPD-1又はPD-L1を標的とする薬剤、例えばアテゾリズマブ(TECENTRIQ(商標))(例えば、1200mgを3週間に1回(Q3W))、ペムブロリズマブ(例えば、400mgを6週間に1回(Q6W))、ニボルマブ、アベルマブ及びデュルバルマブ、並びにCTLA-4を標的とする薬剤、例えばイピリムマブ及びトレメリムマブ、
ダカルバジン及びテモゾロミド等の化学療法剤、
インターロイキン-2(IL-2)及びインターフェロン(IFN)等の免疫療法剤、
ベムラフェニブ及びダブラフェニブ等のBRAF阻害剤、
トラメチニブ等のMEK阻害剤、
ガルニセルチブ等のTGF-β阻害剤、
メレスチニブ等のMETキナーゼ阻害剤、
ベバシズマブ(Avastin(商標))等の血管新生阻害剤、
ゲムシタビン(例えば1000mg/mで3週間オン/1週間オフ)、並びに、
テベンタフスプ等の他のTCR-抗CD3融合分子、
が挙げられる。
【0086】
抗癌療法剤又は化学療法剤は、標準的なガイドライン若しくは推奨、又は製造業者の処方情報に従って投与することができる。
【0087】
TCR-抗CD3融合分子は、チェックポイント阻害剤と組み合わせて投与することができる。チェックポイント阻害剤は、腫瘍微小環境内の免疫抑制を低減し、IMC-F106Cの初期活性を増強し、及び/又はT細胞疲弊を防ぐことで、出現した抗腫瘍免疫応答の有効性を持続させることができる。また、TCR-抗CD3融合分子は、腫瘍へのポリクローナルT細胞の動員を促進することで、チェックポイント阻害剤に対する重要な耐性機構を克服することができる。
【0088】
本発明に従って使用されるTCR-抗CD3融合分子は、別のTCR-抗CD3融合分子、すなわち異なるペプチド-MHC複合体に結合するTCRを含むTCR-抗CD3分子と組み合わせて投与することができる。他の融合分子は、gp100ペプチド-MHC複合体に結合するTCRを含んでいてもよい。例えば、本発明に従って使用されるTCR-抗CD3融合分子は、テベンタフスプと組み合わせて投与することができる。テベンタフスプは、その現在の処方情報に従うと、静脈内注入によって週1回投与することができる。
【0089】
好ましい併用療法では、本明細書に記載されるTCR-抗CD3融合分子と組み合わせてアテゾリズマブを使用する。アテゾリズマブは、典型的には、現在の処方情報に従うと、例えば840mgを2週間に1回、1200mgを3週間に1回、又は1680mgを4週間に1回、静脈内注入により投与する。
【0090】
別の好ましい併用療法では、本明細書に記載されるTCR-抗CD3融合分子と組み合わせてペムブロリズマブを使用する。ペムブロリズマブは、典型的には、現在の処方情報に従うと、例えば200mgを3週間に1回、又は400mgを6週間に1回、静脈内注入により投与する。
【0091】
TCR-抗CD3融合分子は、他の療法剤と組み合わせて順次投与することができる。TCR-抗CD3融合分子を第1の用量及び後続の用量では単独で投与して、その後更なる療法剤を追加してもよく、又は逆の場合も同様である。TCR-抗CD3融合分子と別の抗癌療法剤とを組み合わせて投与する本発明の実施の形態においては、TCR-抗CD3融合分子を1週目及び2週目に単独で投与し、3週目及び後続の週に他の抗癌療法剤を追加することができる。例えば、アテゾリズマブは、典型的には患者が第3の用量のTCR-抗CD3融合分子に達した時点で投与される。典型的には、アテゾリズマブは、TCR-抗CD3融合分子の投与前に投与される。典型的には静脈内注入によるTCR-抗CD3融合分子の投与は、例えばアテゾリズマブの注入の30分後に開始することができる。
【0092】
併用療法は、CRS等の免疫関連毒性のリスクの増大をもたらす恐れがある。したがって、TCR-抗CD3融合分子の用量は、併用投与に先立って初めに単剤として与えることができる。1つ以上の更なる抗癌療法剤の投与は、3週目から実施することができる。
【0093】
TCR-抗CD3融合分子は、患者への投与のために、1つ以上の薬学的に許容可能な担体又は賦形剤と一緒に医薬組成物(例えば無菌医薬組成物)の一部として提供され得る。該組成物は、単位投薬型で提供され得て、一般的に、密封容器中で提供され、キットの一部として提供され得る。こうしたキットには、通常(必ずしもではないが)、使用のための説明書が含まれる。キットには、複数の上記単位投薬型が含まれ得る。
【0094】
医薬組成物は、静脈内投与に適切な任意の型であり得る。こうした組成物は、医薬業に知られる任意の方法によって、例えば活性成分を無菌条件下で担体(複数の場合もある)又は賦形剤(複数の場合もある)と混合することによって調製され得る。
【0095】
本発明は、PRAME陽性癌の治療に関する。「PRAME陽性癌」とは、癌細胞の少なくとも一部がPRAMEを発現している癌を意味する。言い換えると、PRAME陽性癌は、PRAME発現に関連する癌である。癌は、PRAMEの発現に関連することが知られている場合もある。例えば、PRAME発現の保有率が癌において上昇することが知られている場合があるため、PRAME発現は評価することができないか、又は遡及的に評価することがある。あるいは、PRAME発現は、例えば組織学的方法、又はPCR、RNA発現分析、及び/又はPRAMEの発現レベルを測定するように設計されたキット若しくは配列パネルを含む他の定量的若しくは定性的な測定を含む、当該技術分野で既知の任意の方法を用いて評価することができる。しかしながら、本発明は、組織学的方法によってPRAME発現が検出され得る癌の治療に限定されることを意図したものではない。特に、本発明は、例えば組織学的方法によってPRAME発現が検出され得る個々の患者の治療に限定されることを意図したものではない。むしろ、本発明は、PRAME陽性とみなされる癌及び腫瘍型の治療に有用である。
【0096】
PRAME発現は、免疫組織化学(IHC)のような組織学的方法によって検出される場合、Hスコアを用いて定量化することができる。腫瘍内の個々の細胞又はそれらの細胞内コンパートメントにおけるPRAMEの発現は、始めに検出され、陽性又は陰性のいずれかに分類される。陽性細胞は、IHCシグナル強度に基づいて高、中又は低に更に分類することができる。Hスコアは、IHC画像から目的のバイオマーカーの強度及び割合の両方を取得し、0~300の値を含み、それにより特定のマーカー又は遺伝子の存在量を定量化するダイナミックレンジを提供する。
【0097】
様々な癌及び腫瘍型がPRAME陽性とみなされている。PRAME陽性癌としては、黒色腫、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、食道癌、膀胱癌、頭頸部癌、子宮癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病及びホジキンリンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、PRAME陽性癌は黒色腫であり得る。黒色腫は、ブドウ膜黒色腫又は皮膚黒色腫であり得る。肺癌は、非小細胞肺癌(NSCLC)又は小細胞肺癌(SCLC)であり得る。乳癌は、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)であり得る。膀胱癌は尿路上皮癌であり得る。食道癌は食道胃接合部(GEJ)腺癌であり得る。卵巣癌は、高異型度漿液性卵巣癌等の上皮性卵巣癌であり得る。癌は標準治療レジメンから再発した、難治性の又は不耐性である可能性がある。
【0098】
本発明の第1の態様は、TCR-抗CD3融合分子であって、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCRβ鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者における癌を治療する方法であって、
(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、
(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法に使用される、TCR-抗CD3融合分子に拡張される。
【0099】
本発明の第2の態様は、TCR-抗CD3融合分子であって、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCRβ鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者における癌を治療する方法であって、
(a)少なくとも1回の第1の用量、
(b)少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法に使用される、TCR-抗CD3融合分子に拡張される。
【0100】
これらの態様のいずれにおいても、癌は黒色腫、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、食道癌、膀胱癌、頭頸部癌、子宮癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病及びホジキンリンパ腫からなる群より選択され得る。例えば、癌は黒色腫であり得る。黒色腫は、ブドウ膜黒色腫又は皮膚黒色腫であり得る。肺癌は、非小細胞肺癌(NSCLC)又は小細胞肺癌(SCLC)であり得る。乳癌はトリプルネガティブ乳癌(TNBC)であり得る。膀胱癌は尿路上皮癌であり得る。食道癌は食道胃接合部(GEJ)腺癌であり得る。卵巣癌は、高異型度漿液性卵巣癌等の上皮性卵巣癌であり得る。
【0101】
本発明の第1の態様は、本明細書において定義されるTCR-抗CD3融合分子の静脈内投与によるPRAME陽性癌の治療のための薬剤の製造におけるTCR抗CD3融合分子の使用にも拡張され、ここで、PRAME陽性癌の治療は、
(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、
(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
の投与を含み、第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する。
【0102】
本発明の第2の態様は、本明細書において定義されるTCR-抗CD3融合分子の静脈内投与によるPRAME陽性癌の治療のための薬剤の製造におけるTCR抗CD3融合分子の使用にも拡張され、ここで、PRAME陽性癌の治療は、
(a)少なくとも1回の第1の用量、
(b)少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
の投与を含み、第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する。
【0103】
本発明の第1の態様はまた、TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者におけるPRAME陽性癌を治療する方法であって、TCR-抗CD3融合分子が、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
該方法が、
(a)5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、
(b)15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、
第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法にも拡張される。
【0104】
本発明の第2の態様はまた、TCR-抗CD3融合分子を患者に静脈内投与することを含む、患者におけるPRAME陽性癌を治療する方法であって、TCR-抗CD3融合分子が、
配列番号14のTCR α鎖アミノ酸配列、又は配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR α鎖アミノ酸配列と、
配列番号16のTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列、又は配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%若しくは100%の同一性を有するTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列と、
を含み、TCR α鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号3、配列番号4及び配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、TCR β鎖可変ドメインが、それぞれ配列番号9、配列番号10及び配列番号11のアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2及びCDR3を含み、
該方法が、
(a)少なくとも1回の第1の用量、
(b)少なくとも1回の第2の用量、次いで、
(c)60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量、
を投与することを含み、
第2の用量が第1の用量よりも高く、第3の用量が第2の用量よりも高く、
用量を6日~8日に1回投与する、方法にも拡張される。
【0105】
PRAME陽性癌を治療する方法は、療法的有効量のTCR抗CD3融合分子を投与することを含む。
【0106】
TCR抗CD3融合分子は、医薬組成物に配合することができる。これらの組成物は、TCR抗CD3融合分子に加えて、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、又は当業者に既知の他の材料を含むことができる。該組成物は、単位投薬型で提供され得て、一般的に、密封容器中で提供され、キットの一部として提供され得る。こうしたキットには、通常(必ずしもではないが)、使用のための説明書が含まれ、複数の上記単位投薬型が含まれ得る。医薬組成物は、静脈内投与に適切な任意の型であり得る。こうした組成物は、医薬業に知られる任意の方法によって、例えば活性成分を無菌条件下で担体(複数の場合もある)又は賦形剤(複数の場合もある)と混合することによって調製され得る。
【0107】
TCR抗CD3融合分子の投与は、好ましくは「療法的有効量」であり、これは患者に対する利益を示すのに十分な量である。本発明の第1の態様に関連して、療法的有効量は、5μg~40μgの範囲の少なくとも1回の第1の用量、15μg~80μgの範囲の少なくとも1回の第2の用量、及び60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量を含む。本発明の第2の態様に関連して、療法的有効量は、疾患の状態及び治療される患者の状態を考慮して臨床医により決定される少なくとも1回の第1の用量及び/又は少なくとも1回の第2の用量を含む。本発明の第2の態様に関連して、療法的有効量は、60μg~400μgの範囲の少なくとも1回の第3の用量を含む。
【0108】
患者へのTCR抗CD3融合分子の投与は、患者の転帰の改善、例えば無増悪生存期間又は全生存期間の延長をもたらし得る。患者へのTCR抗CD3融合分子の投与は、RECIST v1.1基準によって決定される全体的な腫瘍サイズの減少をもたらし得る(Eisenhauer EA, Therasse P, Bogaerts J, Schwartz LH, Sargent D, Ford R, et al. New response evaluation criteria in solid tumours: revised RECIST guideline (version 1.1). Eur J Cancer. 2009;45(2):228-247)。
【0109】
患者へのTCR抗CD3融合分子の投与後を含む臨床試験の過程で、患者は部分奏効(PR)、完全奏効(CR)を有するか、又は病勢安定(SD)若しくは病勢進行(PD)を有すると特定されることがある。
【0110】
本発明の各態様の好ましい特徴は、変更すべきところは変更して、他の態様各々に関しても当てはまる。明確にするために、別個の実施形態の文脈で説明された本発明の或る特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されてもよいことが理解されよう。逆に、簡略にするために、単一の実施形態の文脈で説明された本発明の様々な特徴が、別個に又は任意の適切なサブコンビネーションで提供されてもよい。PRAME陽性癌を治療するための使用及び方法についてのTCR-抗CD3融合分子に関する実施形態の全ての組合せが、本発明によって具体的に包含され、各々及び全ての組合せが個別に明示的に開示されているかのように本明細書に開示される。本明細書に言及される先行技術文書は、法律によって許容される最高の度合いまで、引用することにより本明細書の一部をなす。本願におけるいずれの文書の引用又は特定も、こうした文書が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1】実施例に記載する用量漸増コホートを示す図である。最初のパネルは、37人の患者の用量漸増コホートを示し、2番目のパネルは、その後の時点で記録された55人の患者の用量漸増コホートを示す。各ボックスは個別のコホートを表す。用量は「X/Y/Zmcg」として表され、Xは第1の用量(マイクログラム単位)、Yは第2の用量(マイクログラム単位)、Zは第3の用量(マイクログラム単位)である。第1の用量を1日目、第2の用量を8日目、第3の用量を15日目に投与した。
図2】各コホートに登録された患者の数及びその癌型を示す図である。最初のパネルには合計36人の患者が登録された。2番目のパネルには合計の55人の患者が登録された。
図3】37人の患者が登録された用量漸増コホートにおけるIMC-F106Cの投与に関連した有害事象(AE)の概要を示す図である。
図4】絶対リンパ球数(ALC)及び体温に関する37人の登録患者でのIMC-F106Cの薬力学的活性を示す図である。
図5】サイトカイン(A)IL-6及びIFNgの産生に関する37人の登録患者でのIMC-F106Cの薬力学的活性を示す図である。
図6】IMC-F106Cの投与後の経時的な標的病変サイズの変化率を示す図である。この図は、患者が属するコホート(コホート規定用量、CDD、すなわち、その第3の用量による)を示す。
図7】IMC-F106Cの投与後の個々の患者についての標的病変サイズの変化率を示す図である。この図は、患者が属するコホート(CDDによる)及びその癌型を示す。皮膚黒色腫=CM、転移性ブドウ膜黒色腫=mUM、漿液性卵巣癌=sOC、子宮内膜癌=EC。
図8】コホート(CDDによる)に対するIMC-F106Cの投与後の個々の標的病変サイズの変化率を示す図である。
図9】55人の登録患者でのIMC-F106Cの投与に関連した有害事象(AE)の概要を示す図である。AEは、0.3mcg~10mcgの範囲の第3の用量を受けたことに関連するもの及び20mcg~320mcgの範囲の第3の用量を受けたことに関連するものの2つの別個のカテゴリーで挙げる。印を付けた事象は、CRSの症候又は症状として報告された事象を含む。†印は、15日目に意図された漸増標的用量により示された安全性を示す。37人のうち1人の患者が2mcgの単一用量を受け、20mcg以上の標的用量に達しなかった。
図10】末梢血中のIFNγ誘導に関するIMC-F106Cの薬力学的活性及び末梢血中のリンパ球数測定を示す図である。
図11】種々の腫瘍型についてのRECIST奏効に関するベースラインからの最良変化率(%)を示す図である。†印を付けた未確認PR(uPR)の卵巣癌患者は、分析時点でも治療が継続され、依然として確認の対象であった。‡印で示した腫瘍におけるPRAME発現は、免疫組織化学(IHC)Hスコアによって評価した。図中、「Endo」は子宮内膜癌に対応し、「NSCLC」は非小細胞肺癌に対応し、「TNBC」はトリプルネガティブ乳癌に対応する。2人の患者(印で示したNSCLC 1人、漿液性卵巣癌1人)は、病勢進行(PD)のために治療を中断した。
図12】示した種々の腫瘍についてのベースライン測定に対する経時的な(週単位の)標的病変サイズの変化率を示すスパイダープロットである。各線は個々の患者についての経時的な変化を表す。NSCLCは非小細胞肺癌に対応する。
図13】IMC-F106C臨床試験からの20人の評価可能患者における循環腫瘍DNAの最良の対数減少を示す図である。ctDNAは、2022年8月31日付で出願された、引用することにより本明細書の一部をなす、「被験体におけるctDNAの減少レベルを示す癌を治療するための組成物及び方法(Compositions and Methods for Treating Cancer that Demonstrates Decreasing Levels of ctDNA in a Subject)」と題するPCT出願に記載されているように、腫瘍型に応じて2つの規定パネル:ブドウ膜黒色腫についてはGNAQ、GNA11、SF3B1、PLCB4、CYSLTR2及びEIF1AXを含むカスタムパネル、又は多様な癌において頻繁に突然変異している73個の遺伝子を含むG360(商標)パネル(Guardant Health, Inc.)の1つを用いて評価した。腫瘍型は以下のように識別される:B、トリプルネガティブ乳癌;C、皮膚黒色腫;ctDNA、循環腫瘍DNA;E、子宮内膜癌;LA、非小細胞肺腺癌;LS、非小細胞肺平上皮癌;O、卵巣癌;U、ブドウ膜黒色腫;CPI、チェックポイント阻害剤;tebe、テベンタフスプ。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0112】
本発明を以下の非限定的な実施例において更に説明する。
【0113】
実施例1:IMC-F106C-101臨床試験設計
本実施例は、PRAME陽性の進行癌を有するHLA-A02:01陽性参加者におけるIMC-F106Cの第1/2相多施設非盲検ヒト初回投与用量漸増研究(「IMC-F106C-101」)の異なる時点での中間結果の概要である。本研究は、単剤療法として、またチェックポイント阻害剤(例えばアテゾリズマブ、ペムブロリズマブ)と組み合わせるか又は化学療法剤(例えばゲムシタビン、ナブパクリタキセル又はPLD)と組み合わせたIMC-F106Cの安全性、忍容性、薬物動態(PK)、免疫原性、薬力学及び抗腫瘍活性を評価するために設計された。
【0114】
IMC-F106Cは、分化抗原群3(抗CD3 scFv;エフェクタードメイン)を特異的に認識する抗体一本鎖可変断片に融合した可溶性親和性増強T細胞受容体(TCR;標的化ドメイン)を含む二重特異性タンパク質療法剤である、癌に対する免疫動員モノクローナルT細胞受容体(ImmTAC(商標))である。IMC-F106Cは、国際公開第2018/234319号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。国際公開第2018/234319号においては、IMC-F106CはImmTAC2として指定されている。
【0115】
IMC-F106C TCRは、ヒト白血球抗原-A対立遺伝子02:01(HLA-A02:01)によって提示された黒色腫優先発現抗原(PRAME)のペプチド断片からなる複合体を認識する。可溶性TCRが連結すると、エフェクタードメインは、あらゆるT細胞上のCD3に結合し、T細胞を刺激して、エフェクターサイトカインを放出し、結合した標的細胞を溶解することができる。加えて、IMC-F106Cにより媒介される腫瘍細胞の死滅は、内因性抗腫瘍免疫応答をプライミングし得る。
【0116】
PRAMEは黒色腫、卵巣癌、子宮癌、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌、トリプルネガティブ乳癌及び尿路上皮癌を含む様々な固形悪性腫瘍及び血液悪性腫瘍においてよく高度に発現される癌精巣抗原である。
【0117】
下記のデータは、複数の用量コホートにわたる、IMC-F106C-101の単剤療法アームの用量漸増相において治療された36人の患者からの第1の時点、及び55人の患者からの異なる時点を含む、IMC-F106C-101における連続コホートによる異なる時点で得られた。
【0118】
IMC F106Cを21日サイクルで毎週(Q1W)のIV注入により投与した。各サイクルは1日目の第1の用量、8日目の第2の用量及び15日目の第3の用量を含むものであった。IV注入の時間は、典型的には、サイクル1及びサイクル2は1時間±10分、サイクル3の1日目からは30分(±10分)であった。
【0119】
安全性評価には、身体検査、バイタルサイン、体重、米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)パフォーマンスステータス、血液学、化学、凝固、尿検査、甲状腺機能、サイトカイン検査、妊娠検査、心臓検査及び有害事象(AE)収集が含まれていた。有害事象(AE)は、他に指定がない限り、米国国立癌研究所有害事象共通用語規準(NCI CTCAE)v5.0に従って段階評価した。
【0120】
腫瘍応答は、固形癌効果判定基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors;RECIST)v1.1に従って局所的に決定した。
【0121】
図1に用量漸増コホートを示す。最初のパネルは、37人の患者の用量漸増コホートを示し、2番目のパネルは、その後の時点で評価される55人の患者の用量漸増コホートを示し。各ボックスは個別のコホートを表す。用量は「X/Y/Zmcg」として表され、Xは第1の用量(マイクログラム単位)であり、Yは第2の用量(マイクログラム単位)であり、Zは第3の用量(マイクログラム単位)である。第1の用量を1日目、第2の用量を8日目、第3の用量を15日目に投与した。図1の2番目のパネルは、図1の最初のパネルに示された15/40/160mcgレジメンが、忍容性が良好であり、薬力学的活性及び臨床活性を示したため、30/80/320mcgの投与量への更なる漸増を行ったことを示す。図2は、各コホートに登録された患者の数及びその癌型を示す。
【0122】
実施例2:IMC-F106C-101の安全性データ及び薬力学的活性
図3は、37人の患者の投与後のIMC-F106Cの投与に関連した有害事象(AE)の概要を示す。図9は、55人の患者の投与後のAEの概要を示す。IMC-F106Cは、全てのコホートにおいて忍容性が良好であった。最も頻繁なAEは、発熱、サイトカイン放出症候群(CRS)、悪寒及び嘔気等のサイトカイン媒介事象であった。治療下で発現したAE又はグレード5の事象による治療中止又は死亡は見られなかった。コホート5の1人の患者が、C1D1の1mcg用量でのアスパラギン酸トランスアミナーゼのグレード2への増加であった用量制限毒性(DLT)を経験した。55人の患者の分析から、CRS事象が管理可能であり、その大部分が最初の3つの用量において発生することが示された。55人の患者におけるCRS事象のうち、71%がグレード1であり、29%がグレード2であり、グレード3以上のCRS事象は見られなかった。AEは経時的に軽減した。加えて、典型的にはチェックポイント阻害剤による治療後に見られる他の免疫関連AEは観察されなかった。また、AEは反復投与により頻度が減少した。
【0123】
図4は、絶対リンパ球数(ALC)及び体温に関するIMC-F106Cの薬力学的活性を示す。この図は、最初の37人の登録患者において全ての用量レベルにわたって徐々にALCの低下が観察されたことを示す。40mcg以上の第3の用量が投与されているコホートは、サイクル1中に80%超の平均ALC低下を有していた。また、体温上昇が全ての用量レベルにわたって観察された。6/20/80mcgコホートの患者には、ステロイドベースの前投薬を行った。
【0124】
図5は、サイトカインIL-6及びIFNgの産生に関するIMC-F106Cの薬力学的活性を示す。この図は、少なくとも3mcgの第3の用量が投与されている最初の37人の登録患者の全てがIL-6産生の5倍超の増加を示したことを示す。同様に、IFNg産生は、少なくとも3mcgが投与されている患者において誘導された。6/20/80mcgコホートの患者には、ステロイドベースの前投薬を行った。
【0125】
図10は、20mcg以上のIMC-F106Cの強力な一貫した薬力学的活性を示す。特に、20mcg以上の用量の投与は、T細胞活性化の特異的マーカーであるIFNγの一貫した強固な誘導をもたらした。20mcg以上の用量の投与によっても、対応する末梢血のリンパ球数の減少が生じ、IMC-F106Cによる治療の早くも28日後には、腫瘍部位へのT細胞浸潤の増加が観察された。これらの観察結果から、これらの用量でのIMC-F106Cの投与によりT細胞が腫瘍にリダイレクトされることが示される。
【0126】
実施例3:IMC-F106C-101の臨床的有効性及び持続性
コホート1~コホート8(最初の37人の登録患者)にわたる中間臨床的有効性データ(コホート8においては1人の患者のみが評価され、この患者は、第3の用量であるC1D15以降に進行しなかった)を下記表2に示す。
【0127】
【0128】
表2は、このように低用量のIMC-F106Cであっても、2人の患者が治療の部分奏効を有していたことを示す。部分奏効又は病勢安定(RECIST)を有する患者は、20mcg以上の第3の用量が投与されている患者において観察された。病勢進行を有する患者は、殆どが20mcg未満の第3の用量が投与されているコホートであった。
【0129】
図6は、コホート1~コホート8におけるIMC-F106Cの投与後の経時的な標的病変サイズの変化率を示す(コホート8においては1人の患者のみが評価され、この患者は、第3の用量であるC1D15以降に進行しなかった)。この図は、このように低いIMC-F106Cの投与量であっても、一部の患者において長時間(すなわち27週間以上)にわたり病勢安定が達成されたことを示し、腫瘍縮小とより高い用量との間に相関関係があることを示す。また、病勢安定を有する患者の大半が、標的病変の最長径の減少を示した。
【0130】
図7は、IMC-F106Cの投与後の標的病変サイズの変化率を示す。この図は、患者が属するコホート及びその癌型を示す。破線は、腫瘍縮小を有した患者と有しなかった患者とを分けている。腫瘍縮小は、患者の42%で観察され、より高用量のIMC-F106Cと相関していた。腫瘍縮小を有した患者の大半が黒色腫患者(登録された最大の腫瘍型)であった。しかしながら、1/3の卵巣癌患者でも縮小が観察された。
【0131】
図8は、コホートに対するIMC-F106Cの投与後の個々の標的病変サイズの変化率を示す。
【0132】
図7及び図8は、20mcg以上の第3の用量が投与されている患者に、腫瘍縮小がより多く見られたことを示す。これはスクリーニング時の高い腫瘍量にもかかわらずである。これらの患者の殆どが標的病変の大半の縮小を経験している。ほぼ全ての患者が高いPRAME Hスコアを有し、Hスコアの中央値は、腫瘍縮小/腫瘍成長の両群で200超であった。55人の登録患者の有効性集団コホートにおいては、Hスコア中央値は、300中188であった。興味深いことに、腫瘍縮小を経験した患者において、ベースライン時の腫瘍量中央値は104mmであり、ベースライン時の腫瘍病変がより大きい一部の患者もIMC-F106Cから臨床的利点を得ていることを示す。ベースライン時の腫瘍量(標的病変の最長径の合計による)とIMC-F106Cの投与後の腫瘍サイズの変化との間に相関はなかった。
【0133】
図11は、複数の腫瘍における55人の登録患者の連続コホートにわたる患者のRECIST奏効を示す。ブドウ膜黒色腫においては、部分奏効(PR)が評価可能患者の50%(3/6 PR)で観察された。皮膚黒色腫患者においては、全員が事前に抗PD1及びイピリムマブ治療を受けており、PRは評価可能患者の33%(2/6)で観察された。プラチナ製剤抵抗性漿液性卵巣癌においては、PRは評価可能患者の50%(2/4)で観察された。事前の免疫療法で進行した患者においても奏効が認められたことは注目に値していた。
【0134】
図12は、IMC-F106Cが様々な腫瘍型において臨床活性をもたらしたことを示す。特に、部分奏効(PR)を示す患者は、経時的な病変サイズの安定又は減少によって示されるように有望な持続性を有する。PRを有しない多数の患者は、長期にわたる病勢安定を有する。
【0135】
図13は、循環腫瘍DNAの減少が種々の腫瘍型にわたって観察されたことを示す。ctDNAの減少は、IMC-F106C-101において臨床的利点を有する新たな初期マーカーである。20人の評価可能患者のうち、ほぼ全てがctDNAの減少を有し、大半が50%の減少を有し、25%がctDNAのクリアランスを示した。ctDNAについて評価した4人のPR患者は、完全なクリアランスを示す3人を含めて、50%以上のctDNAの減少を有していた。ctDNAの減少及びクリアランスは、概して1ヶ月~2ヶ月の治療で観察された。
【0136】
結果の概要
上記の結果は、PRAMEを標的とする可溶性二重特異性TCRの治療可能性を初めて実証するものである。IMC-F106Cは、IMC-F106C-101臨床試験の結果によって示されるように、薬力学的活性及び臨床活性を示す。
【0137】
本明細書に記載される結果は、IMC-F106Cがヒトにおいて忍容性が良好であったことを示す。特に、1日目に6mcgの第1の用量、8日目に15mcgの第2の用量、15日目に80mcgの第3の用量(6/15/80mcgコホート)は、忍容性が良好であり、例えば15/40/160mcg及び20/60/240mcg又はそれ以上のより高い投与量への更なる漸増を支持するものであった。IMC-F106Cを15/40/160mcg及び30/80/320mcgのより高い投与量で投与した場合も、忍容性が良好であり、臨床活性が両方のコホートで観察された。
【0138】
IMC-F106C(PRAME×CD3 ImmTACとも称される)の投与は、T細胞を活性化した。IMC-F10Cは忍容性が良好であり、CRSは殆どがグレード1であり、グレード3以上のものはなく、主に最初の3つの用量の間に発生した。IMC-F106Cに伴う治療関連の有害事象は、管理可能であり、中止又は死亡を引き起こした事象は見られなかった。IMC-F106Cの第3の用量又は20mcg以上のコホート指定用量(CDD)では、一貫した強力な薬力学的バイオマーカー活性が観察された。場合によっては、第3の用量又は20mcg以上のCDDでも臨床活性が観察された。
【0139】
IMC-F106Cによる治療は、事前の抗PD1及び抗CTLA4後に進行した皮膚黒色腫患者、厳重な前治療を受けたプラチナ製剤抵抗性卵巣癌患者、及びブドウ膜黒色腫患者を含む複数の腫瘍型において持続的な(最大9ヶ月以上の)RECIST PRをもたらした。病勢安定(SD)からPRへの転換を含めて、病勢制御における利益も観察された。ほぼ全ての評価可能患者が、複数の腫瘍型にわたってctDNAの減少も示し、早期の減少は、臨床的利点と関連するようであった。完全なctDNAクリアランスが、有効な治療を受けている黒色腫患者においてよく見られるようであった。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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【国際調査報告】