(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】アノードを含むバッテリセル及びそれを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20241108BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241108BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/1393
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532470
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2022083662
(87)【国際公開番号】W WO2023099470
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517240724
【氏名又は名称】フィト エヌフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】サラード、セバスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ルフェヴェレ、ヤスペル
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA03
5H050FA16
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、三次元多孔質アノードを含むバッテリセル、及び当該アノードを伴うバッテリセルを製造する方法に関する。炭素系活性材料を含む構築材料が使用され、炭素系活性材料は、バッテリ電極反応に関与するように構成されている。更に、相互接続された構築材料のフィラメントは、複数の積み重ね層において、所定の配置で堆積され、連続する層のフィラメントは、互いに接続されて、フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造が得られる。
【選択図】
図4a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードを含むバッテリセルであって、前記アノードが、互いの上部に積み重ねられた複数の層において、所定の構造配置で位置決めされた材料の相互接続されたフィラメントを含み、前記フィラメントが、連続する前記層のフィラメントが互いに接続されて、前記フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造を形成するように位置決めされ、構築された前記材料が、バッテリ電極反応に関与するように構成された炭素系活性材料を含む、バッテリセル。
【請求項2】
細孔のメッシュが、各層に形成されている、請求項1に記載のバッテリセル。
【請求項3】
前記相互接続されたフィラメントが、格子構造を形成し、前記細孔が、前記格子構造内で相互接続されている、請求項2に記載のバッテリセル。
【請求項4】
前記構築された材料が、前記構築された材料の総重量に対して、少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、更により好ましくは少なくとも85重量%の炭素系アノード活性材料を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項5】
前記炭素系活性材料が、グラファイト、軟質炭素、硬質炭素、又は前述の材料のうちの1つ以上を含む複合材料のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項6】
前記多孔質アノード構造が、0.1~5ミリメートルの範囲内、好ましくは0.2~1ミリメートルの範囲内、より好ましくは0.4~0.7ミリメートルの範囲内の厚さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項7】
前記アノードが、少なとも2つの積み重ね層、より好ましくは少なくとも3つの積み重ね層、更により好ましくは少なくとも4つの積み重ね層を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項8】
前記アノードが、少なくとも8ミリアンペア時間/cm
2、より好ましくは少なくとも10ミリアンペア時間/cm
2、更により好ましくは少なくとも12ミリアンペア時間/cm
2の単位表面積当たりの容量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項9】
前記アノードが、前記構築された材料の組成から計算された理論的な比容量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアノード材料1グラム当たりの比容量を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項10】
前記フィラメントが、50~750ミクロン、より好ましくは75~500ミクロンの直径を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項11】
各層の前記フィラメントが、離間されており、各層の対向する隣接するフィラメント間の間隙距離が、前記フィラメントの厚さよりも小さい、請求項1~10のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項12】
前記フィラメントが、前記構造内細孔が前記多孔質アノード構造の第1の端部付近でより広い開口部を有し、前記多孔質アノード構造の第2の端部付近でより狭い開口部を有する形状を有し、前記第2の端部が、前記第1の端部の反対側にあるように位置決めされており、前記より広い開口部が、前記積み重ね層の1つ以上の上側層に形成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項13】
前記積み重ね層中の前記細孔が、長方形の形状を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のバッテリセル。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のバッテリセルを製造するための方法であって、前記バッテリセルには、三次元多孔質アノードが設けられ、前記アノードが、互いの上部に積み重ねられた複数の層において、所定の構造配置で構築された材料の相互接続されたフィラメントを堆積させることによって生成され、前記フィラメントが、連続する前記層のフィラメントが互いに接続されて、前記フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造を形成するように位置決めされ、前記構築された材料が、バッテリ電極反応に関与するように構成された炭素系活性材料を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノードを含むバッテリセルに関する。本発明は、アノードを含むバッテリセルの製造方法にも関する。本発明は、バッテリセルで使用するためのアノードにも関する。本発明は、バッテリセル用のアノードを製造する方法にも関する。更に、本発明は、そのようなアノードを含むバッテリ及びバッテリセルに関する。追加的に、本発明は、付加製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリなどのエネルギー貯蔵デバイスは、家電業界、輸送システム、エネルギーグリッドの中心である。典型的には、Li系バッテリは、他のバッテリシステムと比較して、相対的に高い容量、高い電圧、及び低い質量密度を有する。これは、リチウムイオンバッテリを、電気自動車バッテリ、スマートフォン、他の充電式システムなど、広範な異なる製品にとって理想的なものにする。しかしながら、バッテリセルの構造及びその構築に使用される材料は、商業用リチウムイオンバッテリを、水性電解質を有する同等のバッテリよりも高価なものにする傾向がある。
【0003】
現在、充電式Liバッテリは、固体電解質相間(SEI)層におけるLi+のインターカレーションを可能にする炭素系材料又は他の合金を、アノードとして使用する。グラファイトは、高濃度のLi+が、充電/放電中に、炭素材料(C:Li=6:1)にインターカレーション/デインターカレーション又は吸着/脱着することができるため、アノード材料としてしばしば使用される。
【0004】
グラファイトは、その優れた安定性のために、アノード材料として使用され得る。しかしながら、リチウムのインターカレーション及びデインターカレーション中にグラフェン平面がa軸方向に沿って容易に移動すると、容積変化をもたし、これは、アノードの3D印刷において使用することを非常に困難な材料にする。これまで、この問題を回避するために、チタン酸リチウム(LTO)が、主にアノード材料の付加製造に使用されてきた。
【0005】
再生可能エネルギー源をより広く採用し、効率的に使用するためには、まだ多くの課題を克服する必要がある。具体的には、蓄電容量を増加させること、充電/放電レート又は電力を低下させることなく充電容量を増加させること、放電レートを増加させること、及び寿命を延ばすことは、引き続き克服すべき主な課題である。特に、電気自動車の走行距離を延長する場合、充電容量及び放電電力を増加させることは、依然として解決すべき問題である。更なる課題は、バッテリの動作中の熱損失を伴い、これ以上上昇させるべきではない。バッテリ性能のこれらの態様の改善は、バッテリ化学を変更することによって少なくとも部分的に成し遂げることができるが、これは、スケーリングの障壁及び安全性のリスクを生み出す。
【0006】
エネルギー貯蔵デバイスに使用される従来の電極は、通常、ブロック形状を有し、電極材料を1つ以上のバインダと混合し、その混合物を電極に押し付けて作製される。しかしながら、電極を作製するこの方法は、不適切な細孔構造をもたらし、その結果、電極内のイオン輸送が制限される。イオン及び電子輸送に関連する遅い動態は、バッテリの最大電力密度/放電レートを著しく制限する。追加的に、特にリチウムイオンバッテリの場合、電極の30~50%というかなりの部分がバッテリ動作中に未利用のまま残っていると推定される(US2020/112030A1)。活性バッテリ材料内の特徴的なイオン及び電子拡散長を低減することは、電力密度及び放電レートの増加に成功することが証明されている。しかしながら、これはまた、エネルギー密度の大幅な低下をもたらした(US2020/112030A1)。
【0007】
厚い電極設計では、セルレベルでの不活性成分比率を減らすことにより活性材料の負荷を大幅に増加させることができ、その結果、バッテリのエネルギー密度が向上し、コストも減少する。アノードの厚さが大きくなりすぎると、厚さの影響が弱まる可能性がある。アノードの厚さが特定の閾値を超える場合、結果として生じる容量は停滞する可能性がある。厚さを更に増加することは、容量に限定された効果しか有し得ない。いくつかの場合では、閾値を超える当該厚さの増加は、容量の低減をもたらし得る。アノードの厚さが大きすぎると、厚い電極の電荷転送動態が低下する可能性がある。電解質の浸透が妨げられ得、イオン転送距離が大幅に増加し得る。
【0008】
例えば、厚い電極設計アプローチなどのより大きい厚さであっても、容量が増加したアノードを有するバッテリセルに対する強い要望がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
改善されたアノードを有するバッテリセルを提供することが、本発明の目的である。
【0010】
追加的に又は代替的に、本発明の目的は、上述の欠点のうちの少なくとも1つを回避するアノードを伴うバッテリセルを製造する方法を提供することである。
【0011】
追加的に又は代替的に、本発明の目的は、適切な面積容量を有するより厚いアノードを伴うバッテリセルを提供することである。
【0012】
追加的に又は代替的に、本発明の目的は、アノードを伴うバッテリセルを提供することであり、アノードは、その後の充電-放電サイクル中に所望のレベルに維持され得る高い比容量を有する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アノードを含むバッテリセルであって、アノードが、互いの上部に積み重ねられた複数の層において所定の構造配置で位置決めされた材料の相互接続されたフィラメントを含み、フィラメントが、連続する層が互いに接続されて、フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造を形成するように位置決めされ、構築材料(構築された材料)が、バッテリ電極反応に関与するように構成された炭素系活性材料を含む、バッテリセルを提供する。
【0014】
バッテリセルのアノードは、ドクターブレードなどの既存の技術で得ることができるものよりも大きな厚さで作製することができる。同じ量の材料に対してより高い面積容量を成し遂げることができ、すなわち、面積容量は、先行技術の材料と比較して少なくとも50%で増加させることができる。追加的に、充電速度も実質的に増加させることができる。面積容量は、アノード材料の表面積単位当たりの容量として理解することができる。面積容量は、好ましくは、アノードを組み込んだバッテリの充電及び放電を含む5回のサイクル工程の後、少なくとも10mAh/cm2、好ましくは少なくとも12mAh/cm2である。
【0015】
材料の単位重量当たりのより高い面積容量は、材料の同じ比容量に対して成し遂げられ得る。アノード材料1g当たりの比容量(mAh/g)は、アノード材料の組成から算出される理論上の比容量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%である。
【0016】
本発明はまた、このようなアノードを伴うバッテリセルの製造方法であって、バッテリセルのアノードが、互いの上部に積み重ねた複数の層において構築材料の相互接続されたフィラメントを所定の構造配置で堆積させることによって生成され、フィラメントが、連続する層が互いに接続されて、フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造を形成するように位置決めされ、構築材料が、バッテリ電極反応に関与するように構成された炭素系の活性材料を含む、製造方法を提供する。
【0017】
本発明の方法は、改善された電極設計を有する、大幅に改善されたバッテリセルを提供する。厚い電極設計アプローチは、活性材料の負荷を増加させて得ることができる。表面積の単位当たりのより高い成し遂げられ得る電極負荷に起因して、より高い面積容量を成し遂げることができる。単位表面積当たりの活性材料の量を増加させることができる。有利には、バッテリセルのアノードは、適切な面積容量を提供しながら、より厚く作製され得る。追加的に、充電レートを改善することができる。したがって、面積容量が改善された厚い電極設計アプローチが使用され得る。所定の配置で複数の積み重ね層にフィラメントの3D印刷を実施することにより得られる、メッシュ/格子状のアノード構造の空間設計の結果として、電解質が活性材料に簡単にアクセスできるようになるように(例えば、リチウムイオンバッテリについて)フィラメント間に様々なチャネル又は細孔を形成することができる。アノードのより大きな部分は、従来使用されているよりも大きい厚さを有するアノードであってもアクセスすることができる。結果として、リチウムイオンは、炭素系活性材料により容易にアクセスすることができる。アノードの下側及び/又は底部部分でさえも、依然としてアクセス可能であり得る。不活性成分比を低減することができ、それによって増加したバッテリエネルギー密度をもたらす。更に、バッテリのコストを低減することができる。いくつかの例では、細孔の設計(例えば、サイズ、形状、パターンなど)は、アノードの厚さに基づいて選択することができる。これにより、所望の性能を成し遂げるためのアノードの予測可能な設計が可能になる。
【0018】
更に、高い充電/放電可逆性が得ることができ、すなわち、放電された後、アノードは、ほぼその初期容量に再充電され得る。この可逆性は、時間的に、すなわち、多くの充電-放電工程の後に維持される。
【0019】
更に、炭素アノード活性材料のアクセシビリティは、充電(リチウム化)及び放電(脱リチウム化)の過程で、拡散現象によって損なわれる又は遅くなることが少なくなり、従来の材料よりも大幅に改善されている。
【0020】
本開示によるバッテリセル電極アーキテクチャは、厚い電極設計に使用することができる。有利には、電解質透過性及びイオン転送速度を大幅に増加させることができる。
【0021】
任意選択的に、相互接続されたフィラメントは、格子構造を形成する。格子構造は、細孔を有する所定の多孔性構造であり得る。様々な形状及び寸法が可能である。有利には、格子構造は、大きな比表面積を有し得る。
【0022】
典型的には、炭素系活性材料を有するアノードは、相対的に低い動作電圧で使用されるように構成されている。任意選択的に、バッテリセルのアノードは、対向電極としてLi金属を有する1V未満の動作電圧で使用されるように構成されている。
【0023】
使用される炭素系構築材料は、ロボキャスティング、すなわち、粘性ペーストが所望の断面を有するノズルに供給され、ノズルを通って移動し、ノズルから排出されて、フィラメント、又はファイバ、又はストラット、又はビーズなどの形状の粘性ペーストとして印刷面上に堆積される技術に使用するのに特に好適であり得る。ロボキャストはまた、3D印刷、3DFD、3Dファイバ堆積、フィラメント堆積、マイクロ押出など、又はこれらのうちの2つ以上の組み合わせと参照され得る。具体的には、上記のペースト組成物は、三次元構造を製造するためのシステムで使用するのに好適であり、システムは、ノズル出口を有するノズルと、当該ノズル出口と流体連通するペーストリザーバと、を含む、押出ユニットであって、三次元構造を形成するために、ノズル出口を通して、ペースト組成物のフィラメントを所定の相互接続配置で複数の積み重ね層に堆積するように構成されている、押出ユニットと、押出ユニットによるフィラメントの排出中に、ノズル出口を通して当該構築材料を排出するためのノズルの材料リザーバ内の構築材料に適用される圧力値を監視するためにノズルに少なくとも1つのセンサを含む測定ユニットと、圧力値の不規則的な上昇及び/又は下降が発生したときに押出を調整するように構成された処理ユニットと、を含む。印刷プロセスの過程で調整して圧力値の不規則的な上昇又は下降を補正し得る堆積パラメータの例には、これらに限定されないが、例えば、構築材料リザーバ内又はノズル内、又は構築材料がノズルから出る前の構築材料供給ラインの任意の位置で構築材料に及ぼされる圧力を調整する、すなわち増加又は減少させること、例えば、構築材料を加熱又は冷却することによって、構築材料に含有される溶剤の量を調整することによって、構築材料がノズルから出る前のリザーバ、ノズル内、又は構築材料供給ラインの任意の位置で離型剤を供給することによって構築材料の粘度を調整すること、構築材料の流量を調整すること、構築材料に振動を与えること、ノズルの開口部を調整すること、などが含まれる。
【0024】
任意選択的に、細孔のメッシュが、各層に形成される。
【0025】
炭素系活性材料及び特定のメッシュ状構造は、いくつかの重要な利点を提供する。特定の堆積配置によって得られる細孔を有するこのような構造により、アノードをなお更に厚く設計することが可能となり、その結果、活性材料へのアクセスが容易になり、バッテリのエネルギー容量を大幅に増加させることができる。
【0026】
3D印刷されたアノードは、フィラメント間に形成された細孔の規則的なパターンを有する多孔質構造を形成するように位置決めされた一連のフィラメントを印刷することによって構築され得る。多孔質構造は、メッシュ/格子構造を形成するフィラメントの相互接続された配置を有し得る。
【0027】
任意選択的に、細孔のメッシュは、規則的なパターンを有し、細孔は、多孔質アノード構造において相互接続される。
【0028】
3D印刷された炭素系アノードは、高い面積容量を提供することができる。例えば、グラファイトアノードは、規則的なパターンの細孔を有する格子構造で印刷され得る。表面積当たりの多量の活性材料を効率的な方法で得ることができ、その結果、単位表面積当たりの高容量をもたらすことができる。
【0029】
任意選択的に、構築材料は、構築材料の総重量に対して、少なくとも60重量%の炭素系アノード活性材料、より好ましくは少なくとも80重量%、更により好ましくは少なくとも85重量%を含む。
【0030】
有利には、バッテリのアノード中の活性材料の量を効果的に増加させることができる。
【0031】
いくつかの例では、バインダは、構築材料で使用される。いくつかの例では、構築材料中のバインダの重量パーセンテージは、構築材料の総重量に対して10重量%未満である。
【0032】
様々なバインダ及び添加剤が、構築材料に添加され得る。例えば、1つ以上の導電性添加剤が添加され得る。いくつかの例では、構築材料中の炭素の重量割合は、構築材料の総重量に対して、85重量%を超える、好ましくは90重量%を超える、より好ましくは92重量%を超える範囲である。
【0033】
構築材料中に存在するバインダの量は、広範囲で変化し得るが、構築材料中のバインダの量は、構築材料の総重量を基準として、好ましくは乾燥重量パーセントで少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも0.025重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%又は0.25重量%、最も好ましくは少なくとも0.50重量%又は少なくとも0.75重量%、又は少なくとも1.0重量%である。更に、少なくとも1つのバインダ成分は、通常、ペースト組成物中に、構築材料の総重量を基準として、乾燥物質の重量パーセントで最大7.5重量%、好ましくは最大6.0重量%、より好ましくは最大5.0重量%、最も好ましくは最大3.0重量%、特に最大2.5重量%の量で含有されることが理解される。
【0034】
構築材料が少なくとも1つのバインダを含有する場合、当該少なくとも1つのバインダ成分は、無機化合物若しくは有機化合物、又は1つ以上の無機化合物と1つ以上の有機化合物の混合物であり得る。バインダは、より親水性又はより疎水性の性質であり得る。好ましくは、当該少なくとも1つのバインダは有機化合物であり、より好ましくは、圧力の影響下でペースト組成物のレオロジ又は流動特性を変更することができる有機化合物である。少なくとも1つのバインダ成分は、可塑剤、ハイドロコロイド、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、エチルセルロス及び/又はカルボキシメチルセルロースなどの誘導体、カルボキシエチルセルロース、及び/又はそれらの組み合わせ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリマーアルコール特にポリビニルアルコール、例えばポリエチレングリコールなどのポリアルコール、ポリビニルピロリドン、ポロキサマー、すなわち自己組織化及び熱ゲル化が可能で、概してSyperonic(Croda)、Pluronic(BASF)、Kolliphor(BASF)という名前で入手可能な、両側にポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド)の親水性鎖が2つあるポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド)の中央疎水性鎖、及び前述のバインダ材料の2つ以上の組み合わせのうちの1つ以上から選択することができる。同等の性質を示す他の材料も同様に使用することができることは、当業者には明らかでなければならない。
【0035】
いくつかの例では、PEDOT:PSSなどの導電性バインダが使用される。
【0036】
任意選択的に、炭素系活性材料は、グラファイト、軟質炭素、硬質炭素、又はそれらの複合材料のうちの少なくとも1つを含む。
【0037】
電極活性材料は、実際の電極反応に関与する材料を指す。電極活性材料として、炭素系材料が使用され得る。炭素系材料は、その利用可能性、低コスト、及び性能のために、アノードに好ましい。加えて、炭素材料は、バッテリを再充電しながら、リチウムを樹枝状結晶の形成から保護する。炭素系材料は、様々な形態で利用可能である。好ましくは、経済的で環境に優しく、かつ大きな比表面積を有する炭素材料を使用することができる。電極活性材料として使用される炭素材料としては、活性炭素、熱処理によってグラファイトに変換できない硬質炭素、熱処理によって容易にグラファイトに変換できる軟質炭素、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノスプリング、カーボンナノロッド、グラファイト、グラファイトフレーク、グラフェン、カーボンエアロゲル、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、Super-P(登録商標)などが挙げられる。好ましい炭素材料としては、層状構造に金属イオンを可逆的に組み込む能力を有する活性炭素、軟質炭素、グラファイト、グラファイトフレーク、グラフェン、カーボンエアロゲル、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及びSuper-P(登録商標)などが挙げられる。これらの材料は、高い導電性を有する。
【0038】
例えば、Si-C活性材料などの他の炭素系材料又は組成物もまた、使用され得る。いくつかの例では、炭素系活性材料を使用することによって成し遂げられる容量の大部分は、炭素に由来し得る。
【0039】
任意選択的に、炭素系活性材料は、炭素系活性材料の重量に対して、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、更により好ましくは少なくとも80重量%の炭素質量含有量を有する。
【0040】
任意選択的に、炭素系活性材料は、非炭素材料と炭素材料との化合物であり、炭素材料は、炭素系活性材料の重量に対して少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、更により好ましくは少なくとも80重量%の質量百分率で存在する。
【0041】
任意選択的に、バッテリセルの多孔質アノード構造は、0.1~5ミリメートルの範囲内、好ましくは0.2~1ミリメートルの範囲内、更により好ましくは0.4~0.7ミリメートルの範囲内の厚さを有する。
【0042】
3D印刷された炭素系アノードは、有利な特性を有する厚い設計の電極を可能にし得る。炭素系アノードは、高い面積容量を有し得る。アノードは、その厚さ方向に開放細孔を有し、フィラメント間に一連のチャネルを形成する。バッテリの容量を効果的に増加させることができる。
【0043】
有利には、バッテリセルのアノードは、低い動作電圧で動作させることができる。炭素系アノードは、対向電極としてLi金属を用いて1V未満の動作電圧を有し得る。いくつかの実施例では、フィラメントは、少なくとも85重量%の炭素材料を含有する。
【0044】
任意選択的に、バッテリセルのアノードは、少なとも2つの積み重ね層、より好ましくは少なくとも3つの積み重ね層、更により好ましくは少なくとも4つの積み重ね層を有する。
【0045】
任意選択的に、バッテリセルのアノードは、少なくとも8ミリアンペア時間/cm2、より好ましくは少なくとも10ミリアンペア時間/cm2、更により好ましくは少なくとも12ミリアンペア時間/cm2の単位表面積当たりの容量を有する。
【0046】
任意選択的に、バッテリセルのアノードは、構築材料の組成から計算された理論的な比容量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアノード材料1グラム当たりの比容量を有する。
【0047】
バッテリセルのアノードの材料の大部分は、活性になり得る。従来の厚電極では、そのような増加した容量を得ることができない。
【0048】
活性材料の量は、バッテリ内にエネルギーの貯蔵をもたらす。したがって、大量の活性材料を有することが望ましい。このようにして、バッテリの容量及び/又は重量を効果的に低減させることができる。層内の隣接するフィラメント間の間隙距離を減少させることは、負荷の増加をもたらし得る。更に、フィラメントの層は、異なる方法で積み重ねられ得る。
【0049】
任意選択的に、フィラメントは、50~750ミクロン、より好ましくは75~500ミクロンの直径を有する。
【0050】
任意選択的に、各層のフィラメントは離間され、各層の対向する隣接するフィラメント間の間隙距離は、フィラメントの厚さよりも小さい。
【0051】
有利には、面積容量を大幅に増加させることができる。
【0052】
任意選択的に、フィラメントは、構造内細孔が多孔質アノード構造の第1の端部付近でより広い開口部を有し、多孔質アノード構造の第2の端部付近でより狭い開口部を有する形状を有し、第2の端部が第1の端部の反対側にあるように位置決めされており、より広い開口部が、積み重ね層の1つ以上の上側層に形成されている。
【0053】
多孔質アノードの厚さ方向では、細孔のサイズが変化し得る。上側層は、印刷中に下側層の上部に位置決めされ得る。例えば、アノードの上部(自由端)は、底部よりもより開放し得る。その結果、アノードの底部部分は導電性のためのより大きい接触面積を有し、上側/上部部分(底部/下側の反対側の自由端を参照)の細孔がより開き得、液体の拡散に有利になる。これは、本開示による3D印刷方法によってアノードを製造することによって成し遂げられ得る。
【0054】
本開示によるバッテリセルのアノードを印刷する方法は、達成可能な面積容量に対して有意な有益な効果を有する。様々な多孔質アノード構造は、3D印刷され得る。
【0055】
積み重ね層の細孔は、様々な形状を有し得る。細孔の形状は、複数の層におけるフィラメントの特定の配置によって決定され得る。例えば、細孔は、多角形状を有し得る。
【0056】
任意選択的に、積み重ね層内の細孔は、長方形の形状を有する。
【0057】
有利には、フィラメントは、複雑な格子構造の場合でも、製造時間を効果的に低減するために、直線に沿って堆積され得る。フィラメントは、直線経路に沿って堆積され得、矩形形状の細孔をもたらす。速い堆積プロセスを得ることができるので、この方法は、そのようなアノードの大量生産のために採用することができる。追加的に又は代替的に、付加製造プロセスの結果としての材料廃棄物が低減され得る。追加的に又は代替的に、良い品質のアノード格子構造のための正確な製作を得ることができる。
【0058】
他の形状も可能である。例えば、細孔は、三角形、六角形などの形状を有し得る。追加的に又は代替的に、細孔が湾曲した側面を有することが可能である。追加的に又は代替的に、細孔は、葉状のデザイン、例えば、四分葉の形状を有することが可能である。
【0059】
一態様によれば、本発明は、本開示による三次元多孔質アノード構造を含むバッテリセル/システムを提供する。
【0060】
一態様によれば、本発明は、本開示による方法を実施するように構成されたコントローラを含む付加製造システムに関する。
【0061】
一態様によれば、本発明は、三次元構造を有し、複数の連続した積み重ね層に所定の三次元配置で位置決めされたアノード材料の複数の相互接続されたフィラメントを含む炭素系アノードを伴うバッテリセルを提供し、アノード材料は、少なくとも24mg/cm2(例えば、少なくとも8mAh/cm2に相当)の量のアノード活性材料、バインダ、及び溶媒を含み、アノード活性材料は炭素系微粒子材料を含み、連続する層のフィラメントは、少なくとも連続する層のフィラメント間の接触点で互いに接続されて、フィラメント間に相互接続された細孔を有する多孔質構造が得られ、連続する層のフィラメントは互いに角度をなしている。
【0062】
任意選択的に、バッテリセルの炭素系アノードは、アノードを組み込んだバッテリの充電及び放電を含む5つのサイクル工程の後に、少なくとも10mAh/cm2、好ましくは少なくとも12mAh/cm2の表面積単位当たりの容量を有する。
【0063】
任意選択的に、バッテリセルの炭素系アノードは、アノード材料の組成から計算された理論的な比容量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアノード材料1グラム当たりの比容量(mAh/g)を有する。
【0064】
任意選択的に、バッテリセルの炭素系アノードは、アノードをサイクルさせるときに、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは99.5%の充電/放電可逆性を有する。
【0065】
任意選択的に、バッテリセルの炭素系アノードは、フィラメント間のマクロ細孔と、フィラメント内のメソ細孔及び/又はミクロ細孔とを有し、それらの少なくとも一部はマクロ細孔へのアクセスを可能にする。
【0066】
一態様によれば、本発明は、三次元多孔質構造を製造することによって三次元炭素系バッテリアノードを製造するための方法を提供し、方法は、複数の連続した積み重ね層に所定の配置で押出ノズルから出る構築材料の相互接続されたフィラメントを堆積することを含み、構築材料は、炭素系微粒子材料を含む粘性材料組成物を含み、連続する層のフィラメントは、少なくとも連続する層のフィラメント間の接触点で互いに接続されて、フィラメント間に相互接続された細孔を有する多孔質構造が得られ、連続する層のフィラメントは、互いに角度をなしており、構築材料は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%の炭素系アノード活性材料を含む。
【0067】
任意選択的に、構築材料は、0.5~25重量%の少なくとも1つのバインダ材料、好ましくは1~15重量%、より好ましくは1~10重量%を更に含む。バインダの量は、できるだけ高い比容量を成し遂げるために十分に高くなければならない。
【0068】
任意選択的に、溶媒は、水、アルコールなどのうちの1つ以上を含む。
【0069】
典型的には、溶媒は、水、好ましくは脱イオン水である。代替的に、溶媒は、水、有機溶媒、イオン性液体、又は本明細書の2つ以上の混合物であるか又はそれらの2つ以上の混合物のうちの1つであり得る。好適な溶媒としては、水、アルカノール、ケトン、又はこれらの2つ以上の混合物、より好ましくは、水、脱イオン水、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチルアセテート、又はこれらの2種類以上の混合物の群から選択される1つ以上の溶媒が挙げられる。本発明で使用することが考えられ得る他の溶媒としては、1,2-プロパンジオール、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、1-メチル-2-ピロリジノン、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルアセテート、アセトニトリル、ブトキシエチルアセテート、ジメチルアジペート、ジメチルカーボネート、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、n-ペンタン、キシレンなどが挙げられる。
【0070】
任意選択的に、構築材料は、充電/放電中の容積変化を低減する目的で、少なくとも1つの熱可塑性材料を含む。
【0071】
任意選択的に、構築材料は、無機粒子材料の粘性ペースト又は粘性懸濁液である。
【0072】
重量パーセンテージは、乾燥物質含有量、例えば、乾燥/調整工程後に除去された水分(例えば、水などの溶媒)に基づき得ることが理解されるであろう。溶媒は、例えば、押出印刷又はロボキャスティングなどの一部の付加製造技術により好適である組成を有するような量で、構築材料に添加され得る。
【0073】
アノードを生成するために、様々な付加製造技術が使用され得ることが理解されるであろう。付加製造は、コンピュータ支援設計モデルからの層ごとのプロセスに基づき得る。例えば、構築材料がノズルから押出される押出プロセスが使用され得る。ノズルと構築材料が堆積される表面との間の相対的な動きの結果として、格子アノード構造を印刷することができる。
【0074】
方法を考慮して説明した態様、特徴、及びオプションのいずれもが、アノード、付加製造システム、及び説明したバッテリに同様に適用されることが理解されるであろう。また、上記の態様、特徴、及びオプションのうちのいずれか1つ以上を組み合わせることができることも明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0075】
本発明は、図面に表される例示的な実施形態に基づいて更に説明される。例示的な実施形態は、非限定的な例示として与えられる。図面は、非限定的な例として与えられる本発明の実施形態の概略表現に過ぎないことに留意されたい。図面において:
【0076】
【
図1a】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図1b】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図2】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図3】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図4a】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図4b】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図4c】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図7a】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図7b】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図7c】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図11a】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図11b】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図11c】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。
【
図15】バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0077】
図1a及び1bは、バッテリセルのアノード多孔質構造10の例示的な実施形態の概略図を示す。
図1aは、断面側面図を示し、
図1bは、上面図を示す。アノードは、複数の積み重ね層11に所定の配置で位置決めされた、相互接続された炭素系活性構築材料のフィラメント2を含み、連続する層のフィラメントは互いに接続されて、フィラメント2の間に形成された構造内細孔3を伴う多孔質アノード構造10が得られる。フィラメント形状の構築材料が多孔質アノード構造の複数の層に積み重ねられる方法は、当該アノードによって達成可能な面積容量に大きな影響を与える。
【0078】
フィラメントは、例えば、押出付加製造プロセス又はディスペンサー印刷プロセスを採用することによって印刷され得る。例示的な押出プロセスでは、三次元アノード多孔質構造10を製造するための印刷経路をたどり得る。フィラメントは、当該印刷経路に沿ったノズルによって堆積され得る。連続した層のフィラメントは、互いに対して角度を付けられている。押出プロセスにおいて、ノズルは、印刷経路に沿ってフィラメントを堆積させる印刷面に沿って移動/走査され得る。ノズル1の代わりに印刷面が移動されることも想定されることが理解される(運動学的反転)。組み合わせも可能である。代替の例では、ノズル1及び印刷面の両方は、堆積プロセスの少なくとも一部分の間に移動することができる。
【0079】
多孔質構造の相互接続されたフィラメントの配置を得るために、多種多様な印刷経路配置が可能であることが理解されよう。堆積パターンを変更することにより、アノード多孔質構造体10の特性を変更することができ、所望の面積容量を得ることができる。この例では、印刷される多孔質アノード構造は、均質なフィラメント間距離(間空)を有しているが、例えばアノードの側面などで、不均質なフィラメント間距離を採用することも可能である。
【0080】
いくつかの例では、アノード多孔質構造10のフィラメント間の間隔は、フィラメントの厚さよりも小さい。間隔が大きすぎると、総空孔空間が増加する(すなわち、単位表面積当たりの活性材料が少ない)ため、負荷に有害な影響を及ぼす可能性がある。いくつかの例では、フィラメント間の間隔は、30~200マイクロメートルの範囲内、より好ましくは50~180マイクロメートルの範囲内である。例えば、間隔は、約150マイクロメートルであり得、フィラメントは、約200マイクロメートルの厚さを有し得る。
【0081】
細孔は、様々な形状を有し得る。例えば、細孔は、長方形状又は正方形状であり得る。しかしながら、様々な他の形状も可能である(この図には示されていない)。
【0082】
フィラメント2は、相互接続された細孔3を有するアノード多孔質構造10を形成するために、複数の積み重ね層11内に所定の相互接続配置で堆積されている。多孔性は、面積容量に影響を与える。細孔のサイズ及び形状は、堆積されたフィラメント及びそれらの印刷経路に依存し得る。例えば、フィラメントのサイズ、フィラメントの向き、フィラメント間の距離、アノード多孔質構造10の厚さ、又は互いの上部に積み重ねられた層の数などは、アノードが使用されるバッテリ(例えば、リチウムイオンバッテリ)の1つ以上の性能特性に大きな影響を与え得る。例えば、0/90、0/60/120及び0/45/90/135のフィラメントの向きを有する多孔質構造は、異なる細孔をもたらし得、したがって、異なる面積容量をもたらし得る。例えば、三角形、長方形、六角形、曲線、ジグザグパターンなどの他のレイダウンパターンも想定されることが理解されるであろう。これらのレイダウンパターンは、細孔サイズにも影響を与える可能性がある。
【0083】
アノード多孔質構造体10は、複数の積み重ね層11内で互いに距離を置いている複数のフィラメント2を含む。フィラメント2の特定の配置の結果として、アノード多孔質構造10は、アノード多孔質構造10の相互接続された細孔を形成する複数の空隙(すなわち、空き空間)を形成する。
【0084】
有利には、より厚い電極を得ることができる。任意選択的に、印刷されたアノードの多孔性は、アノードの厚さに基づいて選択される。アノードの厚さは、活性材料の低減量の影響を軽減しながら、増加させることができる。その結果、容量を効果的に増加させることができる。
【0085】
図2は、バッテリセルのアノード多孔質構造10の例示的な実施形態の斜視図の概略図を示す。アノード多孔質構造10は、互いの上部に積み重ねられた異なる層にフィラメントを堆積させることによって、印刷表面5上に3D印刷されている。アノード多孔質構造体10は、上側部分6a、及び底部部分6bを有する。下側部分6bは、印刷表面5と接触し得る。
【0086】
少なくとも2つの層は、互いの上部に積み重ねられ得る。好ましくは、少なくとも3つの層が積み重ねられる。例えば、互いの上部に積み重ねられた層の総数は、3~5の範囲であり得る。この例では、例示的なアノード多孔質構造10は、5つの層を有する。
【0087】
生産の観点から、直線に沿ってフィラメントの堆積を実施することによって、アノードを製造することは有益であり得る。印刷プロセスは、アノード多孔質構造10内に構造内細孔の規則的なパターンを形成するような配置で直線に沿ってフィラメントを印刷することによって加速され得る(格子/メッシュ多孔質構造を参照)。
【0088】
いくつかの例では、フィラメントは、押出印刷プロセスを採用することによって印刷される。
【0089】
図3は、バッテリセルのアノード多孔質構造10の例示的な実施形態の断面側面図の概略図を示す。多孔質構造10は、互いに積み重ねられた堆積フィラメント2の複数の層11を有する。フィラメント2は、フィラメント直径D及びフィラメント間距離Aを有する。層は、高さHを有し得る。この高さは、フィラメント直径Dに実質的に対応し得る。しかしながら、変形も可能である。異なる高さHを採用することによって、垂直方向及び水平方向の細孔を変更することができる。このようにして、面積容量を更に増加させることができる。
【0090】
多孔質3D印刷されたアノード構造は、当技術分野で既知のバッテリと比較して有意に高い面積容量を有するバッテリを製造することを可能にする。いくつかの例では、平方センチメートル当たり8ミリアンペア時間の最小面積容量を得ることができる。いくつかの例では、面積容量は、1平方センチメートル当たり10ミリアンペア時間よりも高く、又は1平方センチメートル当たり14ミリアンペア時間よりも更に高い。
【0091】
構築材料は、第1の層の形態で押出され得、第1の層は、複数のフィラメント2を含む。フィラメント2は、例えば、堆積した炭素系構築材料の細長いストランドの一部であり得る。一例では、細長いストランドは連続的に堆積される。しかしながら、非連続的な堆積も可能である。更に、1つ以上の追加の層を押出することができ、各追加の層は、以前に押出された層の上に垂直に積み重ねられ、また、前の層のいくつかのフィラメント2に対して角度を付けられた複数のフィラメント2を含む。所定のパターンは、製造されている三次元オブジェクトを画定するように分配される。
【0092】
単位表面積当たりの容量(例えば、1cm2当たり)は、アノードの構造的特性によって影響を受ける。面積容量は、単位表面積当たりの活性材料に関連する。フィラメントを所定の配置で複数の積み重ね層に堆積させることにより、連続する層のフィラメントが互いに接続されて、フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造が得られ、単位表面積当たり(例えば、1cm2当たり)の活性材料をより多く得ることができる。
【0093】
電極の面積容量は、電極の厚さ及び容積容量の関数である。電極内の比容量、結晶密度、容積分率などの活性材料特性も、面積容量に影響を与える。有利には、アノード材料の組成に基づいて理論比容量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%である比容量を得ることができる。この比容量は、時間的に、すなわち多くの充電-放電工程の後に維持され得る。
【0094】
(実施例)
セルの試験条件、計装及び調製は、このパラグラフに記載されている。コイン型バッテリ(CR2032)は、H2O<1ppm及びO2<1ppmのアルゴン充填グローブボックス(Jacomex GP-concept)内で、3D印刷されたグラファイト系の電極(面積:1.80cm2、直径:15.1mm)及び直径16mmのリチウム金属ディスク(Alfa Aesar99.9%)を負極として使用して組み立てられた。ポリマーセパレータ(Celgard 2400、直径:19mm)を2つの電極の間に位置決めした。各セルに、200μLの標準LP30電解液(SoulBrain MI)、すなわち、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)中の1MのヘキサフルオロホスフェートLiPF6を、重量比として1:1で充填した。セルをグローブボックス内の空気圧プレスで密封し、25℃の温度チャンバに転送し、定電流循環のためにBio-LogicのバッテリテスターBCS-810に接続した。コインバッテリを開回路電圧(OCV)で6時間平衡化し、次いで、定電流充放電、すなわち定電流によって、Li+/Liに対して0.02~1.0Vの電圧範囲にわたって循環させた。Cレートは、1時間で1回の完全充電又は放電に対応する1Cとして定義される。372mAh/gのグラファイトの理論比容量に基づいて、1C-レート=372mA/g及びC/10-レート=37.2mA/gのグラファイト。電極の他の構成要素(炭素添加剤、バインダ、カーボンファイバなど)は、電極の容量に寄与しないと推測されている。
【0095】
図4a、4b、及び4cは、バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。走査型電子顕微鏡を使用して画像を得る。印刷構造は、バインダとしてグラファイト90w.%及びCMC(pH=3)10w.%を含む。アノード組成物は、90/10重量%である。
【0096】
図4a~4cに示されるSEM画像は、グラファイト電極の拡大されたネットワークを示す。ファイバの形状及び直径は、非常に規則的であり、150~160マイクロメートルに近い。初期直径200μm(使用したノズルのサイズ)を考慮すると、染色中に直径が約25%、容積が約45%の収縮が発生した。乾燥した3D印刷された電極は、均質な態様を示し、そのような重要な収縮によって引き起こされる応力にもかかわらず、ファイバの表面ひび割れ又は切断さえ観察することができない。ファイバは、グラファイト粉末の粒子サイズ分布と一致して、約15μmの直径を有するランダムにパッキングされた不規則的な球体(バッテリ語彙における「ジャガイモ形状」)で構成されているように見える。ペースト調製及び電極の印刷中にグラファイト粒子の形態の変化はなかった。CMCポリマーの存在はほとんど見ることができない。これは、全ての3D印刷されたグラファイト電極内のポリマーバインダの非常に微細な分散を証明し、良好な機械的凝集性を保証する。より高い倍率は、3D印刷された電極が、グラファイト粒子の不規則的なパッキングに起因して、マイクロメートルスケールでさえ明らかに多孔質であることを示す。グラファイト粒子の表面と電解液との間の十分なリチウム-イオン交換を得るために、ファイバの深さに存在するものでさえも、全てのグラファイト粒子の良好な湿潤を可能にするためには、最小限の多孔性が必要である。
【0097】
図5は、例示的なグラフの概略図を示す。バインダとしてCMC pH3を有するグラファイト3D印刷された電極の比容量及びクーロン効率の進化対サイクルを示す。電極組成物は、90/10重量%である。
【0098】
バッテリセルの3D印刷されたグラファイト電極の容量は、標準コンポーネント(Celgardセパレータ、LP30電解質)を使用してハーフセル構成で測定した。セル調製パートを参照のこと。最初の比容量は、第1の放電(すなわち、酸化、脱リチウム化)及び充電(すなわち、還元、リチウム化)がそれぞれ87及び108mAh/gに制限され(
図5)、制限されたクーロン効率は87%であった。
【0099】
比容量及びクーロン効率は、それぞれ305(放電)及び312(充電)mAh/gの値で、第2のサイクルについて劇的に増加し、クーロン効率は97.9%である。次のサイクルでは、比容量は、第5のサイクル、約335mAh/gの放電、338mAh/gの充電、及び99.3%のクーロン効率の間に達するために連続的に増加している。放電中の335mAh/gの比容量は、372mAh/gのグラファイト材料の理論容量の90.8%に対応し、364mAh/gの商業用球状グラファイトの実用容量を参照すると、92.9%に達する。
【0100】
第6から第20まで、容量はほとんど変化しておらず、安定していると合理的にみなすことができる。クーロン効率は、一方では第20のサイクルで99.7%に達するまで、ゆっくりと継続的に増加している。
【0101】
ハーフセル構成(Li金属/電解質界面でのSEIは安定していない)及び添加剤を含まない標準的なLP30電解液を採用したため、クーロン効率が高くなることはほとんどない。
【0102】
20サイクル後、充電/放電レートがC/20に増加する。C/20で10サイクル後、クーロン効率が99.7%のままである間、311mAh/gの電荷を達成する能力の著しい損失(第30、
図5及び6)が観察される。対応する放電容量は304mA/gであり、クーロン効率は99.9%である。
【0103】
図6は、例示的なグラフの概略図を示す。バインダとしてCMCpH3を有するグラファイト3D印刷された電極の充電/放電プロファイルを示す。電極組成物は、90/10重量%である。
【0104】
第1のサイクル(
図6)の定電流プロファイルは、グラファイトの還元及び酸化の典型的なものではない。還元されたグラファイトLiC
6脱リチウム化の最終段階IVのみが、Li
+/Liに対して約0.26Vで観察されることができる。充電と放電との間の電位ヒステリシスは、0.17Vに近い最小値を示す。
【0105】
第2のサイクルの定電流プロファイルは、特に還元において、グラファイト電極のリチウム化及び脱リチウム化の典型的なプロファイルではないが、第1のサイクルと比較して正の及び劇的な進化を示す。第2の還元の初期段階(約20~40mAh/g)で、Li+/Liに対して0.17~0.18Vの第1の陰極擬似プラトーが観察され、続いて電位降下が起こり、約75mAh/gでLi+/Liに対してほぼ0.02Vに達し、その後再び上昇して130mAh/gでLi+/Liに対して0.048Vに達し、その後再び減少して、170~270mAh/gでLi+/Liに対して0.045Vの長い擬似プラトーに達する。第2の酸化は、グラファイトリチウム化の4つの遷移段階に相関する連続した電位プラトーを有する標準プロファイルを示す還元されたグラファイトLiC6脱リチウム化の典型である。段階I(高リチウム化グラファイト、LiC6の理論化学式)は、Li+/Liに対して0Vに近い。段階IIは、LiC12の化学式を有し、Li+/Liに対して0.11Vでのアノードプラトーは、LiC6からLiC12への遷移に対応する。段階IIIは、LiC18で達成される。Li+/Liに対して0.155Vでのアノードプラトーは、LiC12からLiC18への遷移に対応する。段階IVは、Li+/Liに対して0.240Vアノードプラトー後に達成される。最小の電位ヒステリシスは0.074Vの値に減少し、第1のサイクルと比較して第2のサイクル中のグラファイト電極の電気化学動態の有益な変化を支持する。
【0106】
第10及び第20を表す以下のサイクルは、カソード的(リチウム化)及びアノード的(脱リチウム化)モードの両方において、3つの周知の定電位プラトーを有するグラファイト電極の電気化学的リチウム化/脱リチウム化の典型である。最小電位ヒステリシス値は、0.044Vである。第10及び第20のサイクルの定電流プロファイルの間に明確な違いは見られず、この試験条件で3D印刷されたグラファイト電極の安定した電気化学的挙動を確認する。充電/放電レートをC/20に増加させることは、論理的に比容量を減少させる。第20のサイクル(C/40レート)と第21のサイクル(C/20レート)との間の予想容量損失は、10%未満であり、そのような厚いグラファイト電極に対して許容されると考えられる。Cレートを増加させることによる容量の損失は、より高い電流密度によって増加される抵抗効果に起因する。興味深いことに、第20のサイクルと第21のサイクルとの間の定電流プロファイルはほとんど変化せず、全ての定電位プラトーが見える。還元及び酸化の両方において、約0.016Vの限られた過電位のみが記録される。これは、0.032Vの最小電位ヒステリシスの増加、すなわち0.076Vに近い値に対応する。第30のサイクルに達すると、200mAh/g後のカソード的過電位の0.01Vのわずかな増加と、第21のサイクルと比較して6mAh/gの比容量の損失が見られる。
【0107】
同じ生産バッチからの他の3D印刷されたグラファイト電極を用いてバッテリ試験を繰り返すことによって、非常に類似した観察を得た。
【0108】
バインダとしてpH=3でCMCを有する3D印刷されたグラファイト電極は、340mAh/gのグラファイトに近い可逆的比容量をもたらすことができ、電極容量の95%を超える場合、Li+/Liに対して0.4Vに劣る動作電位をもたらすことができると結論付けることができる。
【0109】
第1のサイクルの低比容量は、一種の電極活性化に起因する。グラフェンシート間のリチウムイオンインターカレーションに起因して、グラファイト容積が変化し(LiC6状態に達したときにc軸で約10%)、初期還元/酸化工程中に、3D印刷された電極内の異なる構造的微小再配置を誘発し得る。このマイクロ再配置は、グラファイト粒子間の境界での接触面積を増加させ、したがって、電子透過及び最終的に電極容量を増加させることが推測される。これらの微小配置が生じるのと同時に、SEIは、グラファイト電極(細孔を含む)の表面上に形成される。
【0110】
図7a、7b及び7cは、本開示によるバッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。CMC及びカーボンマイクロファイバを有するグラファイト3D印刷された電極のSEM画像を示す。電極組成物は、重量%でグラファイト/CMC/ファイバ85/10/5である。
【0111】
3D印刷されたグラファイト電極の機械的特性及び電子伝導率を改善するために、カーボンマイクロファイバ(Sigrafil製粉カーボンファイバC M80-3.0/200-UN)をペーストの配合物に添加した。
図7のグラファイト電極の形状は、全体的に、
図4、すなわち炭素ファイバなし、と同じである。ファイバ自体の直径のサイズはやや規則的ではなく、後者は交差部間(約170μm)の下にファイバがある交差部で有意に大きい(約200μm)。ファイバの表面は、
図4よりも
図7では明らかに粗く、直線表面の傷は、表面に存在するカーボンマイクロファイバと同じ寸法を有する。これらの傷は、新たに印刷された電極の表面上に存在し、乾燥工程中にほとんどの可能性が失われたマイクロファイバの残留物であると疑われている。したがって、マイクロファイバを含有する電極の傷はほとんど回避できない。最高倍率はまた、印刷されたファイバ内カーボンマイクロファイバが存在することを確認する。
【0112】
図8は、例示的なグラフの概略図を示す。CMC及びカーボンマイクロファイバを有するグラファイトの3D印刷された電極の比容量及びクーロン効率の進化対サイクルを示す。電極組成物は、重量%でグラファイト/ファイバ/CMC85/5/10である。表面グラファイトの負荷は、グラファイト/cm
2の約42.2mgである。CレートはC/40である。
【0113】
図8は、85/5/10の重量比でグラファイト/カーボンマイクロファイバ/CMCを含有する3D印刷されたアノードの比容量とクーロン効率対サイクルの進化を示す。カーボンマイクロファイバの存在は、
図5と比較して、3D印刷された電極に存在するグラファイト材料の最大比容量及びクーロン効率値、放電中の332mAh/g及び充電中の333mAh/g、及び99.6%に影響を与えていない。40mg/cm
2よりも優れたグラファイト負荷である5層を含む厚い電極は、リチウムインターカレーション材料としてのグラファイトの性能に関して損失を示さない。したがって、10サイクル後に14mAh/cm
2よりも優れた可逆的面積容量(
図6)に達する。このような高い面積容量は、既知の技術分野では炭素系アノードについて記載されていない。本開示によれば、標準的なテープキャスト「ドクターブレード」法によって生成された厚いグラファイト系電極の低迷した電気化学的動態を効果的に防止することができる。発明者らの3D印刷グラファイト系電極プロトコルの利点を考慮に入れるための別のパラメータは、分散液(ペースト)のより簡単で迅速な調製プロセスである。3D印刷用ペーストの混合時間は2時間よりもはるかに短く、真空下での剥離工程は必要がない。
【0114】
図9は、例示的なグラフの概略図を示す。CMC及びカーボンマイクロファイバを有するグラファイト3D印刷された電極の面積容量の推移対サイクルを示す。電極組成物は、重量%でグラファイト/ファイバ/CMC85/5/10である。表面グラファイトの負荷は、グラファイト/cm
2の約42.2mgである。CレートはC/40である。
【0115】
図10は、例示的なグラフの概略図を示す。CMC及びカーボンマイクロファイバを有するグラファイト3D印刷された電極の充電/放電プロファイルが示される。電極組成物は、重量%でグラファイト/ファイバ/CMC85/5/10である。表面グラファイトの負荷は、グラファイト/cm
2の約42.2mgである。
【0116】
LTO系アノードは、Li
+/Liに対して約1.5Vで動作電圧を有し、これは、グラファイト系アノードの動作電圧よりも1ボルト以上優れている(
図6及び10を参照されたい)。高電圧アノードは、フルセルリチウムイオンバッテリのエネルギー密度に非常に有害である、E(エネルギー)=U(ボルト)*Q(容量)。LFP/グラファイトセルの動作電圧が3.0Vを超える間、セルLFP/LTOの動作電圧は、2.0V又は更に低い範囲である。加えて、LTO材料は、セルの重量測定容量を著しく妨げている、約170mAh/gの制限された比容量を提示する。
【0117】
グラファイト/ファイバ/CMC電極の定電流プロファイルを
図10に示す。第1のサイクルのプロファイルのみが異常である。以下のサイクルの全ての定電流プロファイルは、グラファイト材料の定電流リチウム化及び脱リチウム化の典型的なものである。活性化現象(前述の部分を参照)は、
図6よりもはるかに劇的ではなく、主に第1の還元工程に限定される場合でも、この場合に存在し得る。第1の還元の初期段階は明らかに異常であり、32mAh/gでLi
+/Liに対して0.085Vの電位に達する急速な低下がある。次に、電位が増加して、57mAh/gでLi
+/Liに対して0.11Vに達し、すぐに減少し、100mAh/gでLi
+/Liに対して約0.08Vで擬似定電位プラトーに達し、最後に190mAh/gでLi
+/Liに対して0.05Vで最後の定電位プラトーに達する。還元の容量は最も高いものであるが、SEI形成は、31mAh/gの不可逆的容量に対応する90.8%のクーロン効率を考慮に入れなければならない。第1の酸化の定電流プロファイルは、限られた可逆性を考慮して、酸化後のものと非常に類似している。第1のサイクルの電位ヒステリシスは約0.066Vであり、次のサイクルのヒステリシスよりもわずか0.01V大きい。以前に報告されたように、第2のサイクルから第10のサイクルまでの定電流プロファイルは、比容量の限られた増加(有益でさえある)を除いてほぼ同じであり、したがって、これらの試験条件における3D印刷されたグラファイト電極の高い安定性を支持する。
【0118】
図11a、11b、及び11cは、バッテリセルのアノード多孔質構造の例示的な実施形態の画像を示す。CMC及びPEDOT:PSSをバインダとして用いたグラファイト3D印刷された電極のSEM画像を示す。電極組成物は、グラファイト/CMC/PEDOT:PSS90/7.85/2.15(重量%)である。
【0119】
導電性PEDOT:PSS導電性ポリマーは、電極内の電子透過性、したがって、その電気化学的特性を増加させるために、3D印刷されたグラファイトアノードの配合物中にバインダとして添加された。
図11のグラファイト電極の形状は、全体的に
図4及び7と同じである。ファイバ間の間隔は単調ではなく、限られた波状形状を有する。
図11と同様に、印刷されたファイバは、交差部の直径が著しく大きく(約180μm)、交差部の下にファイバがある(約165μm)ことを示す。
【0120】
図12は、例示的なグラフの概略図を示す。CMC及びPEDOT:PSSをバインダとして用いたグラファイト3D印刷された電極の比容量及びクーロン効率の進化対サイクルを示す。電極組成物は、グラファイト/CMC/PEDOT:PSS90/7.85/2.15(重量%)である。面積グラファイト負荷は、グラファイト/cm
2の約26.6mgである。
【0121】
図12は、導電性ポリマーPEDOT:PSSを3D印刷されたグラファイト電極の配合物中の共バインダとして添加することの正の効果を明るみに出した。第1のサイクルでは、充電(還元)及び放電(酸化)で358及び335mAhg/gの高い比容量が得られる。これは、第1のサイクル以来、可逆的容量(理論的及び実用容量に対してそれぞれ90%及び92%より優れている)及び高いクーロン効率(90%より優れている)に達することを意味する。第2のサイクルは、342mAh/gよりも優れた可逆容量(それぞれ、理論容量及び実用容量に対して約92%及び94%)、並びに99.0%のクーロン効率を提示する。
【0122】
図13は、例示的なグラフの概略図を示す。CMC及びPEDOT:PSSをバインダとして用いたグラファイト3D印刷された電極の面積容量対サイクルを示す。電極組成物は、グラファイト/CMC/PEDOT:PSS90/7.85/2.15(重量%)である。面積グラファイト負荷は、グラファイト/cm
2の約26.6mgである。
【0123】
容量は、C/40で次のサイクルで安定したままであり、クーロン効率は、第10のサイクルで99.7%に達するまで増加する。対応する面積容量(
図13)は、26.6mg/cm
2のグラファイト負荷で9.0mAh/cm
2よりも優れている。より高いCレートC/20では、約310mAh/g(約8.24mAh/cm
2)の値に達するために、約10%の能力の限られた損失が観察され、第11のサイクルのために99.7%のクーロン効率が観察される。容量は、第16のサイクルで約306mAh/g(約8.14mAh/cm
2)の値及び99.8%のクーロン効率を示すように安定している。
【0124】
図14は、例示的なグラフの概略図を示す。バインダとしてCMC及びPEDOT:PSSを有するグラファイト3D印刷された電極の充電/放電プロファイルを示す。電極組成物は、グラファイト/CMC/PEDOT:PSS90/7.85/2.15(重量%)である。面積グラファイト負荷は、グラファイト/cm
2の約26.6mgである。
【0125】
対照的に、CMC/PEDOT:PSSバインダを含有する3D印刷されたグラファイト電極は、C/40及びC/20の両方で典型的なグラファイト電極定電流プロファイル(
図14)を提示し、還元(リチウム化)及び酸化(脱リチウム化)の両方で4つの明確に定義された定電位プラトーを有する。最小電位ヒステリシスは、C/40及びC/20レートでそれぞれ0.042及び0.064Vであり、これらは他の3D印刷されたグラファイト電極(バインダとしてCMCのみ、カーボンマイクロファイバの有無にかかわらず)の電位ヒステリシスよりも明らかに小さくなっている。この値は、電位ヒステリシスが0.044(C/40)及び0.076V(C/20)の
図6と比較する必要がある。C/40での最小電位ヒステリシスは2つの電極配合で近いが、
図6(導電性PEDOT:PSSなし)では20サイクル目であることを考慮すると、
図14(導電性PEDOT:PSSあり)では、この値は、2サイクル目以降に達し、後者の負荷は前者と比較して約30%優れている。より高い充電レート(C/20)での電位ヒステリシスの違いは明らかであり、0.01Vよりも優れており、つまり、電極配合にPEDOT:PSSを追加することにより、最小電位ヒステリシスの15%を超える減少が得られる。これらの観察は、より良い粒界電気輸送に起因する、電極の電気化学的動態を改善するために配合物中で導電性バインダを使用することの正の効果を支持する。また、他の導電性添加剤(カーボンブラック、硬質炭素、カーボンナノチューブ、カーボンファイバなど)を添加すると、3D印刷された電極内の電子透過性が更に有益に増加することが示唆されている。
【0126】
上記の例を考慮すると、3D印刷されたベースの炭素電極は、当該技術分野で既知の電極に関して以下の重要な有利な特徴を有することができる:
・全容量の95%以上で、Li+/Liに対して0.5V未満の低動作電圧であること、
・13mAh/cm2よりさえも優れた値に達している、6mAh/cm2の標準的な高容量よりも優れた高面積容量であること、及び
・90%よりも優れ、更に93%よりも優れた、高い第1のクーロン効率に達すること、である。
【0127】
図15は、バッテリセルのアノード多孔質構造10の例示的な実施形態の断面側面図の概略図を示す。フィラメント2は、構造内細孔が、多孔質アノード構造10の一端付近に広い開口部30を有し、多孔質アノード構造10の他端付近に狭い開口部40を有する形状を有するように位置決めされており、広い開口部30は、積み重ね層の1つ以上の上部層に形成されている。
【0128】
したがって、いくつかの例では、細孔のサイズは、アノード多孔質構造の厚さ方向に変化し得る。例えば、アノードの上部(自由端)は、底部(表面と接触する端部)よりも開放し得る。その結果、アノードの底部部分は導電性のためのより大きい接触面積を有し、上部部分(底部の反対側の自由端を参照)の細孔がより開き得、液体の拡散に有利になる。
【0129】
炭素系活性材料は、活性材料として主に炭素を有する材料であり得ることが理解されるであろう。例えば、炭素系材料は、グラファイトであり得る。グラファイトを使用すると、高容量をもたらし得る。しかしながら、様々な他の材料が使用され得る。例えば、炭素系活性材料は、炭素シリコン、硬質炭素、又はそれらの化合物であり得る。例えば、硬質炭素及びグラファイトを含む化合物が使用され得る。また、1つ以上の金属を有する化合物、例えば、スズ及び炭素(例えば、95重量%を超える炭素、及び5重量%未満のスズ)を含む化合物が使用され得る。
【0130】
いくつかの実施形態は、例えば、機械によって実行されると実施形態に従った方法及び/又は動作を機械に実行させることができる命令又は命令セットを記憶し得る機械又は有形のコンピュータ読み取り可能な媒体又は物品を使用して実装され得る。
【0131】
様々な実施形態は、ハードウェア要素、ソフトウェア要素、又は両方の組み合わせを使用して実装され得る。ハードウェア要素の例は、プロセッサ、マイクロプロセッサ、回路、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ロジックゲート、レジスタ、半導体デバイス、マイクロチップ、チップセットなどを含み得る。ソフトウェアの例には、ソフトウェアコンポーネント、プログラム、アプリケーション、コンピュータプログラム、アプリケーションプログラム、システムプログラム、マシンプログラム、オペレーティングシステムソフトウェア、モバイルアプリ、ミドルウェア、ファームウェア、ソフトウェアモジュール、ルーチン、サブルーチン、関数、コンピュータ実装方法、手順、ソフトウェアインターフェイス、アプリケーションプログラムインターフェイス(API)、方法、命令セット、コンピューティングコード、コンピュータコードなどが挙げられ得る。
【0132】
本明細書において、本発明は、本発明の実施形態の具体的な例を参照して説明される。しかしながら、本発明の本質から逸脱することなく、様々な修正、変形、代替、及び変更がその中で行われ得ることは明らかであろう。明確さと簡潔な説明を目的として、特徴は同一又は別の実施形態の一部として本明細書に記載されているが、しかしながら、これらの別の実施形態に記載された特徴の全て又は一部を組み合わせた代替実施形態も想定され、特許請求の範囲で概説されている本発明の枠組みに含まれるものと理解される。したがって、本明細書、図面、及び実施例は、限定的な意味ではなく、例示的な意味でみなされるべきである。本発明は、添付の特許請求の範囲内である全ての代替、修正、及び変形を包含することが意図される。更に、説明されている要素の多くは、任意の好適な組み合わせ及び場所で、別個の構成要素又は分散構成要素として、又は他の構成要素と組み合わせて実装され得る機能エンティティである。
【0133】
特許請求の範囲において、括弧内に配置された任意の参照符号は、特許請求の範囲を限定するものと解釈されてはならない。「含む(comprising)」という単語は、特許請求の範囲に列挙されているもの以外の他の特徴又は工程の存在を排除するものではない。更に、「a」及び「an」という単語は、「1つだけ」に限定されるものではなく、「少なくとも1つ」を意味するために使用され、複数を除外するものではない。特定の対策が相互に異なる特許請求の範囲に列挙されているという単なる事実は、これらの対策の組み合わせが有利に使用され得ないことを示すものではない。
【0134】
(付記)
(付記1)
アノードを含むバッテリセルであって、前記アノードが、互いの上部に積み重ねられた複数の層において、所定の構造配置で位置決めされた材料の相互接続されたフィラメントを含み、前記フィラメントが、連続する前記層のフィラメントが互いに接続されて、前記フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造を形成するように位置決めされ、構築された前記材料が、バッテリ電極反応に関与するように構成された炭素系活性材料を含む、バッテリセル。
【0135】
(付記2)
細孔のメッシュが、各層に形成されている、付記1に記載のバッテリセル。
【0136】
(付記3)
前記相互接続されたフィラメントが、格子構造を形成し、前記細孔が、前記格子構造内で相互接続されている、付記2に記載のバッテリセル。
【0137】
(付記4)
前記構築された材料が、前記構築された材料の総重量に対して、少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、更により好ましくは少なくとも85重量%の炭素系アノード活性材料を含む、付記1~3のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0138】
(付記5)
前記炭素系活性材料が、グラファイト、軟質炭素、硬質炭素、又は前述の材料のうちの1つ以上を含む複合材料のうちの少なくとも1つを含む、付記1~3のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0139】
(付記6)
前記多孔質アノード構造が、0.1~5ミリメートルの範囲内、好ましくは0.2~1ミリメートルの範囲内、より好ましくは0.4~0.7ミリメートルの範囲内の厚さを有する、付記1~5のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0140】
(付記7)
前記アノードが、少なとも2つの積み重ね層、より好ましくは少なくとも3つの積み重ね層、更により好ましくは少なくとも4つの積み重ね層を有する、付記1~6のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0141】
(付記8)
前記アノードが、少なくとも8ミリアンペア時間/cm2、より好ましくは少なくとも10ミリアンペア時間/cm2、更により好ましくは少なくとも12ミリアンペア時間/cm2の単位表面積当たりの容量を有する、付記1~7のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0142】
(付記9)
前記アノードが、前記構築された材料の組成から計算された理論的な比容量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアノード材料1グラム当たりの比容量を有する、付記1~9のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0143】
(付記10)
前記フィラメントが、50~750ミクロン、より好ましくは75~500ミクロンの直径を有する、付記1~9のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0144】
(付記11)
各層の前記フィラメントが、離間されており、各層の対向する隣接するフィラメント間の間隙距離が、前記フィラメントの厚さよりも小さい、付記1~10のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0145】
(付記12)
前記フィラメントが、前記構造内細孔が前記多孔質アノード構造の第1の端部付近でより広い開口部を有し、前記多孔質アノード構造の第2の端部付近でより狭い開口部を有する形状を有し、前記第2の端部が、前記第1の端部の反対側にあるように位置決めされており、前記より広い開口部が、前記積み重ね層の1つ以上の上側層に形成されている、付記1~11のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0146】
(付記13)
前記積み重ね層中の前記細孔が、長方形の形状を有する、付記1~12のいずれか一つに記載のバッテリセル。
【0147】
(付記14)
付記1~13のいずれか一つに記載のバッテリセルを製造するための方法であって、前記バッテリセルには、三次元多孔質アノードが設けられ、前記アノードが、互いの上部に積み重ねられた複数の層において、所定の構造配置で構築された材料の相互接続されたフィラメントを堆積させることによって生成され、前記フィラメントが、連続する前記層のフィラメントが互いに接続されて、前記フィラメント間に形成される構造内細孔を伴う多孔質アノード構造を形成するように位置決めされ、前記構築された材料が、バッテリ電極反応に関与するように構成された炭素系活性材料を含む、方法。
【国際調査報告】