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特表2024-542733タウオパチーの診断及び/又は治療のための阻害性ペプチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】タウオパチーの診断及び/又は治療のための阻害性ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20241108BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20241108BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K38/08
A61K45/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/00
A61P21/00
A61K51/08 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532726
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2022083839
(87)【国際公開番号】W WO2023099560
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211241.1
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523150772
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】524204481
【氏名又は名称】エコール・デ・オート・エチュード・アン・サンテ・ピュブリック
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】518027472
【氏名又は名称】エコール プラティーク デ オート エチュード
【氏名又は名称原語表記】ECOLE PRATIQUE des HAUTES ETUDES
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シリル・ギャルニエ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA23
4C084BA24
4C084DC50
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA151
4C084ZA161
4C084ZA941
4C084ZC541
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB03
4C085KB07
4C085KB11
4C085KB15
4C085KB18
4C085KB19
4C085KB20
4C085KB82
4C085LL13
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045EA20
4H045FA20
4H045GA01
(57)【要約】
本発明は、タウオパチー、特にアルツハイマー病及びピック病の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドを提供する。阻害性ペプチドは、病理学的タウタンパク質内のPHF6配列の相互作用を特異的に阻害するヘキサペプチド配列を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドであって、前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号5(3p)、配列番号6(4p)、配列番号18(4pinv)、配列番号7(5p)、配列番号19(5pinv)、配列番号8(6p)、配列番号9(8p)、配列番号21(8pinv)、配列番号10(9p)、配列番号22(9pinv)、配列番号11(13p)、配列番号23(13pinv)、配列番号12(14p)、配列番号24(14pinv)、配列番号13(23p)、配列番号25(23pinv)、配列番号14(1tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号15(4tp)、配列番号27(4tpinv)、配列番号16(6tp)、配列番号28(6tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
阻害性ペプチド。
【請求項2】
前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号5(3p)、配列番号6(4p)、配列番号7(5p)、配列番号8(6p)、配列番号9(8p)、配列番号10(9p)、配列番号11(13p)、配列番号12(14p)、配列番号13(23p)、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、配列番号16(6tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
請求項1に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項3】
前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号6(4p)、配列番号7(5p)、配列番号9(8p)、配列番号10(9p)、配列番号11(13p)、配列番号12(14p)、配列番号13(23p)、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、及び配列番号16(6tp)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
請求項1に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項4】
前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号5(3p)、配列番号6(4p)、配列番号18(4pinv)、配列番号7(5p)、配列番号19(5pinv)、配列番号8(6p)、配列番号9(8p)、配列番号21(8pinv)、配列番号10(9p)、配列番号11(13p)、配列番号12(14p)、配列番号24(14pinv)、配列番号25(23pinv)、配列番号14(1tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号15(4tp)、配列番号27(4tpinv)、配列番号28(6tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
請求項1に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項5】
前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号6(4p)、配列番号18(4pinv)、配列番号7(5p)、配列番号19(5pinv)、配列番号14(1tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号15(4tp)、配列番号27(4tpinv)、配列番号16(6tp)、配列番号28(6tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
請求項1に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項6】
前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号6(4p)、配列番号7(5p)、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、及び配列番号16(6tp)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
請求項5に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項7】
前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、配列番号16(6tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
請求項5に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項8】
前記阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- 前記ヘキサペプチドは、配列番号14(1tp)及び配列番号16(6tp)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- 前記ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、前記アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又は前記アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
請求項5に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項9】
前記ヘキサペプチド又は前記ヘキサペプチド誘導体は、検出可能な部分、細胞透過剤、安定性増強部分、細胞性分解を可能にするタグ、及び血液脳関門シャトル部分からなる群から選択される異種性部分に連結されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項10】
前記ヘキサペプチド又は前記ヘキサペプチド誘導体は、検出可能な部分に、並びに細胞透過剤、細胞性分解を可能にするタグ、安定性増強部分、及び血液脳関門シャトル部分からなる群から選択される異種性部分に連結されている、請求項9に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項11】
前記ヘキサペプチド又は前記ヘキサペプチド誘導体は、陽電子放射断層撮影法(PET)による検出に好適な検出可能な部分に、特に11C、13N、15O、18F、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、44Sc、43Sc、47Sc、124I、76Br、及び82Rbからなる群から選択される放射性核種に連結されている、請求項9又は請求項10に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項12】
前記ヘキサペプチド又は前記ヘキサペプチド誘導体は、検出可能な部分に連結されており、前記検出可能な部分は、マルチモーダルナノ粒子である、請求項9又は請求項10に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項13】
前記ヘキサペプチド又は前記ヘキサペプチド誘導体は、環化されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための阻害性ペプチド。
【請求項14】
対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための、請求項1~13のいずれか一項に記載の少なくとも2つの阻害性ペプチドの組合せ。
【請求項15】
対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための、請求項1~13のいずれか一項に記載の少なくとも1つの阻害性ペプチド及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
少なくとも1つの追加の生物学的活性剤を更に含む、請求項15に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
前記診断は、タウオパチーの初期段階の診断である、請求項1~13のいずれか一項に記載の阻害性ペプチド、又は請求項14に記載の組合せ、又は請求項15若しくは16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記診断は、患者におけるタウオパチー治療の有効性をモニターするために使用される、請求項1~13のいずれか一項に記載の阻害性ペプチド、又は請求項14に記載の組合せ、又は請求項15若しくは16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記タウオパチーは、アルツハイマー病(AD)、ピック病(PD)、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底核変性症(CBD)、嗜銀顆粒病(AGD)、球状グリアタウオパチー(GGT)、加齢関連タウアストログリオパチー(ARTAG)、17番染色体関連前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム(FTDP-17)、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、グアドループ型パーキンソニズム、西太平洋筋萎縮性側索硬化症及びパーキンソニズム-認知症複合症(ALS/PDC)、慢性外傷性脳症(CTE)、ハンチントン病(HD)、ニーマン-ピック病C型(NPC)、ダウン症候群、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、及び筋強直性ジストロフィー(1型及び2型)、特にアルツハイマー病(AD)及びピック病(PD)からなる群から選択される、請求項1~13及び17~18のいずれか一項に記載の使用のための阻害性ペプチド、又は請求項14及び17~18のいずれか一項に記載の使用のための組合せ、又は請求項15~18に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年11月30日に出願された欧州特許出願第21 211 241号に対する優先権を主張するものである。この文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
アルツハイマー病は認知症の最も一般的な原因であり、臨床的には、個人の日常生活及び活動に支障をきたすほどに認知機能及び行動能力が失われることにより特徴付けられる。アルツハイマー病は2030年までに1,400万人の欧州人に影響を及ぼし、治療費は約1,400億ユーロ/年になるだろう。今日、推定620万人の65歳以上のアメリカ人がアルツハイマー病を抱えながら生活しており、この数は2060年までに約1,400万人に増加すると考えられている(Alzheimer & Dementia、2021 Alzheimer's Disease Facts and Figures、2021年、17巻(3号):327~496頁)。この疾患は、脳内の異常タンパク質:ベータ-アミロイド(Aβ)タンパク質及びタウタンパク質の蓄積と関連付けられている。こうした蓄積により、2つの特徴的な脳病変:(i)Aβタンパク質の細胞外(つまり、ニューロン外部の)蓄積によるアミロイド斑、及び(ii)化学的に修飾された(異常にリン酸化された)タウタンパク質の細胞内(つまり、ニューロン内部の)蓄積により形成される神経原線維タングル、つまり直線状細線維(SF)及び対らせん状細線維(PHF)が形成される。NFTは、アルツハイマー病に排他的な封入体ではなく、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、及び幾つかの他のものを含む、タウオパチーと総称される他の病態にも見られる特徴的な病変である(Huttonら、Nature、1998年、393巻:702~705頁;Isekiら、Acta Neuropathol.、2003年、105巻:265~270頁;Querfurthら、N. Engl. J. Med.、2010年、362巻:329~344頁;Irwinら、Parkinsonism Relat. Disord.、2016年、22巻:S29~S33頁;Silvaら、8. Silvaら、eLife、2019年、8巻:e45457頁)。アルツハイマー病及び関連疾患の進行を止めるための手法を見出すことを目的とした広範な研究にも関わらず、現在まで、疾患進行及び認知機能低下を停止又は逆転させることができる効果的な療法は存在しない(Grahamら、Annu. Rev. Med.、2107年、68巻:413~430頁;Medinaら、Int. J. Mol. Sci.、2018年、19巻:1160頁)。
【0003】
タウは、今や、アルツハイマー病及び他のタウオパチーの治療における重要な標的であると考えられている(Congdonら、Nature Rev. Neurol.、2018年、14巻:399~415頁;Jadhavら、Acta Neuropathol. Commun.、2019年、7巻:22頁;VandeVredeら、Neurosci. Lett.、2020年、731巻:124919頁)。実際、アルツハイマー病の神経病理学的変化(Aβ斑及びNFT)と認知障害との相関関係に焦点を当てた以前の研究では、認知障害の重症度は異常タウの負荷量と最も良好に相関することが示されている(Nelsonら、J. Neuropathol. Exp. Neurol.、2012年、71巻:362~381頁)。タウは、主にニューロンの軸索区画に見出される安定化微小管関連タンパク質である。成体ヒト脳では、17番染色体のMAPT遺伝子からの選択的スプライシングにより、6つのタウアイソフォーム(352~441アミノ酸残基、37~46kDa)が産出される。これらは、1つ又は2つのN末端インサートの非存在又は存在、及びタウのC末端半分における3つ(3R)又は4つ(4R)の微小管結合リピートの存在により区別される。選択的スプライシングの他に、タウは、幾つかの翻訳後修飾、例えば、リン酸化、アセチル化、メチル化、糖化、異性化、O-GlcNAc化、ニトロ化、SUMO化、グリコシル化、ユビキチン化、及び短縮を受ける可能性があり、タウ分子の大きな不均質性が生み出される。こうした翻訳後修飾の幾つかは、タウの凝集の局在化及び形成傾向(propensity)に影響を及ぼす。以前の研究では、タウの配列の2つの6残基セグメント、275VQIINK280(リピート2の先頭に位置する - 配列番号1)及び306VQIVYK311(リピート3の先頭に位置する - 配列番号2)がタウの凝集を駆動することが示されている。特に、タウタンパク質の対らせん状細線維(PHF)へのアセンブリは、PHF6とも称される306VQIVYK311に依存する。このモチーフは、タウにおける最も高いβ-アミロイド構造可能性と一致する。ヘキサペプチド領域における点変異は、β-アミロイド形成傾向の変化に応じて凝集を減少又は増加させることができる(Barghomら、Biochem.、2004年、43巻:1694~1703頁;von Bergenら、J. Biol. Chem.、2001年、276巻:48165~48174頁)。
【0004】
様々なタウ標的療法戦略、例えば、微小管安定化、免疫療法、O-GlcNac阻害、キナーゼの阻害、タウ発現低減、及びタウ凝集阻害が検討されてきた(様々なタウベース戦略に関する総説については、例えば、以下を参照:Gongら、Drugs Aging、2010年27巻(5号):351~365頁;Brundenら、Exp. Neurol.、2010年、223巻(2号):304~310頁;Boutajangoutら、Gerontology、2014年、60巻(5号):381~385頁;Bakotaら、Drugs、2016年、76巻(3号):301~313頁;Congdonら、Nat. Rev. Neurol.、2018年、14巻(7号):399~415頁;Chongら、Cell. Mol. Neurobiol.、2018年、38巻(5号):965~980頁;Hoskinら、Expert Opin. Investig. Drugs、2019年、28巻(6号):545~554頁;Dominguez-Meijideら、Brain Sci.、2020年、10巻(11号):858頁)。これらの中で、タウ凝集の阻害は、アルツハイマー病において最も幅広く研究されている戦略である(Jouanneら、Eur. J. Med. Chem.、2017年、139巻:153~167頁)。タウ凝集を阻害することを目的とした2つの異なる薬理学的戦略が開発されている。一方は、タウに直接結合し、相互作用が不可能な立体構造を維持して凝集を妨げるというものである(Cisekら、Curr. Alzheimer's Res.、2014年、11巻:918~927頁;Seidlerら、Nature Chem.、2018年、10巻:170~176頁).他方の戦略は、非毒性種の安定化を促進する相互作用に基づく(Cisekら、Curr. Alzheimer's Res.、2014年、11巻:918~927頁;Seidlerら、Nature Chem.、2018年、10巻:170~176頁;Uverskyら、Biochim. Biophys. Acta (BBA) Proteins Proteom.、2013年、1834巻:932~951頁;Martinelliら、Int. J. Mol. Sci.、2019年、20巻:1322頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/005867号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Alzheimer & Dementia、2021 Alzheimer's Disease Facts and Figures、2021年、17巻(3号):327~496頁
【非特許文献2】Huttonら、Nature、1998年、393巻:702~705頁
【非特許文献3】Isekiら、Acta Neuropathol.、2003年、105巻:265~270頁
【非特許文献4】Querfurthら、N. Engl. J. Med.、2010年、362巻:329~344頁
【非特許文献5】Irwinら、Parkinsonism Relat. Disord.、2016年、22巻:S29~S33頁
【非特許文献6】Silvaら、8. Silvaら、eLife、2019年、8巻:e45457頁
【非特許文献7】Grahamら、Annu. Rev. Med.、2107年、68巻:413~430頁
【非特許文献8】Medinaら、Int. J. Mol. Sci.、2018年、19巻:1160頁
【非特許文献9】Congdonら、Nature Rev. Neurol.、2018年、14巻:399~415頁
【非特許文献10】Jadhavら、Acta Neuropathol. Commun.、2019年、7巻:22頁
【非特許文献11】VandeVredeら、Neurosci. Lett.、2020年、731巻:124919頁
【非特許文献12】Nelsonら、J. Neuropathol. Exp. Neurol.、2012年、71巻:362~381頁
【非特許文献13】Barghomら、Biochem.、2004年、43巻:1694~1703頁
【非特許文献14】von Bergenら、J. Biol. Chem.、2001年、276巻:48165~48174頁
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【非特許文献106】Kwakら、Nature Commun、2020年、11巻、1377頁、doi.org/10.1038/s41467-020-15120-3
【非特許文献107】Dujardinら、Neuropathol. Appl. Neurobiol.、2015年、41巻(1号):59~80頁
【非特許文献108】C Combsら、Methods Mol. Biol.、2016年、1382巻:339~366頁
【非特許文献109】Cubinkovaら、Acta Virol.、2017年、61巻(1号):13~21頁
【非特許文献110】Gotzら、Adv. Exp. Med. Biol.、2019年、1184巻:381~391頁
【非特許文献111】Goodarziら、Cell Tissue Bank、2019年、20巻(2号):141~151頁
【非特許文献112】ら、Alzheimers Dement.(NY)、2020年、6巻(1号):el2114
【非特許文献113】Giongら、Int. J. Mol. Sci.、2021年、22巻(16号):8465頁
【非特許文献114】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18版、1990年、Mack Publishing Co.:イーストン、ペンシルベニア州
【非特許文献115】「Chaperons moleculaires et tauophathies: Effectet de Hsp90 sur la fibrillation in vitro du peptide VQIVYK issu de la proteine tau」、Claire Schirmer、2014年、Universite de Rennes、フランス
【非特許文献116】Gamierら(Sci. Rep.、2017年、7巻:6812頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タウの病理学的形態を標的とする新しい有望な療法手法が開発中であり、臨床治験で試験中であるが、アルツハイマー病又は他のタウオパチーの疾患修飾治療はまだ利用可能ではない。更に、タウ標的化療法の開発及び実施のための、主要な満たされていない必要性は、正確な生前診断である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の概要
本発明者は、病理学的タウタンパク質の自己会合プロセス、特にPHF6に依存するタウの対らせん状細線維(PHF)へのアセンブリを効率的に阻害することが可能な、弱~非アミロイド原性及び弱~非凝集性ヘキサペプチドを特定した。より詳細には、特定されたヘキサペプチドは、アルツハイマー病で観察されるPHF6ペプチド(VQIVYK、配列番号2)とそれ自身及び374HKLTF378(配列番号3)との相互作用、及びピック病で観察されるPHF6ペプチドと336QVEVKS341(配列番号4)との相互作用を標的とし、こうした相互作用は、アミロイド凝集体の核形成プロセスの原因である。特に、本発明者らは、特定されたヘキサペプチドが、PHF6自己会合をin vitroで効率的に阻害し、遊離タウタンパク質及びタウアミロイド構造の両方とin silicoで相互作用することができることを示した。特定されたヘキサペプチドは、タウオパチーを管理するための二重診断/療法手法(セラグノスティクス(theragnostics))を可能にする新しい分子の開発の骨格として使用することができる。実際、こうしたヘキサペプチドから出発して、(i)アルツハイマー病及び他のタウオパチーを治療するための療法剤として、及び(ii)タウオパチーの早期診断のためのプローブとして使用することができる分子を単一ツールにて生成することが可能である。
【0009】
したがって、本発明は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドであって、阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号5(3p)、配列番号6(4p)、配列番号18(4pinv)、配列番号7(5p)、配列番号19(5pinv)、配列番号8(6p)、配列番号9(8p)、配列番号21(8pinv)、配列番号10(9p)、配列番号22(9pinv)、配列番号11(13p)、配列番号23(13pinv)、配列番号12(14p)、配列番号24(14pinv)、配列番号13(23p)、配列番号25(23pinv)、配列番号14(1tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号15(4tp)、配列番号27(4tpinv)、配列番号16(6tp)、配列番号28(6tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む、
阻害性ペプチドを提供する。
【0010】
ある特定の実施形態では、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号5(3p)、配列番号6(4p)、配列番号7(5p)、配列番号8(6p)、配列番号9(8p)、配列番号10(9p)、配列番号11(13p)、配列番号12(14p)、配列番号13(23p)、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、配列番号16(6tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0011】
他の実施形態では、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号6(4p)、配列番号7(5p)、配列番号9(8p)、配列番号10(9p)、配列番号11(13p)、配列番号12(14p)、配列番号13(23p)、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、及び配列番号16(6tp)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0012】
更に他の実施形態では、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号5(3p)、配列番号6(4p)、配列番号18(4pinv)、配列番号7(5p)、配列番号19(5pinv)、配列番号8(6p)、配列番号9(8p)、配列番号21(8pinv)、配列番号10(9p)、配列番号11(13p)、配列番号12(14p)、配列番号24(14pinv)、配列番号25(23pinv)、配列番号14(1tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号15(4tp)、配列番号27(4tpinv)、配列番号28(6tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0013】
ある特定の実施形態では、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号6(4p)、配列番号18(4pinv)、配列番号7(5p)、配列番号19(5pinv)、配列番号14(1tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号15(4tp)、配列番号27(4tpinv)、配列番号16(6tp)、配列番号28(6tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0014】
ある特定の実施形態では、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号6(4p)、配列番号7(5p)、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、及び配列番号16(6tp)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0015】
ある特定の実施形態では、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号14(1tp)、配列番号15(4tp)、配列番号16(6tp)、配列番号26(1tpinv)、配列番号55(0tpinv)、及び配列番号56(3tpinv)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0016】
ある特定の実施形態では、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド又はその誘導体からなるか又はそれを含み、
- ヘキサペプチドは、配列番号14(1tp)及び配列番号16(6tp)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、
- ヘキサペプチド誘導体は、前記群から選択されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0017】
ある特定の実施形態では、阻害性ペプチド内のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、検出可能な部分、細胞透過剤、安定性増強部分、細胞性分解を可能にするタグ、及び血液脳関門シャトル部分からなる群から選択される異種性部分に連結されている。
【0018】
他の実施形態では、阻害性ペプチド内のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、検出可能な部分に、並びに細胞透過剤、細胞性分解を可能にするタグ、安定性増強部分、及び血液脳関門シャトル部分からなる群から選択される異種性部分に連結されている。
【0019】
ある特定の実施形態では、検出可能な部分は、陽電子放射断層撮影法(PET)による検出に好適であり、特に、11C、13N、15O、18F、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、44Sc、43Sc、47Sc、124I、76Br、及び82Rbからなる群から選択される放射性核種であってもよい。
【0020】
一部の実施形態では、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は検出可能な部分に連結されており、検出可能な部分はマルチモーダルナノ粒子である。
【0021】
ある特定の実施形態では、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は環化されている。
【0022】
本発明は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための、上記で規定の少なくとも2つの阻害性ペプチドの組合せを更に提供する。
【0023】
また、本発明は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び/又は治療における使用のための、上記で規定の少なくとも1つの阻害性ペプチド及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0024】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1つの追加の生物学的活性剤を更に含む。
【0025】
ある特定の実施形態では、本発明による診断は、初期段階のタウオパチーの診断である。
【0026】
ある特定の実施形態では、本発明による診断は、患者におけるタウオパチー治療の有効性をモニターするために使用される。
【0027】
ある特定の実施形態では、タウオパチーは、アルツハイマー病(AD)、ピック病(PD)、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底核変性症(CBD)、嗜銀顆粒病(AGD)、球状グリアタウオパチー(GGT)、加齢関連タウアストログリオパチー(ARTAG)、17番染色体関連前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17)(FTDP-17)、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、グアドループ型パーキンソニズム(Guadeloupean parkinsonism)、西太平洋筋萎縮性側索硬化症及びパーキンソニズム-認知症複合症(Western pacific amyotrophic lateral sclerosis and parkinsonism-dementia complex)(ALS/PDC)、慢性外傷性脳症(CTE)、ハンチントン病(HD)、ニーマン-ピック病C型(NPC)、ダウン症候群、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、及び筋強直性ジストロフィー(1型及び2型)、特にアルツハイマー病(AD)及びピック病(PD)からなる群より選択される。
【0028】
本発明のこうした及び他の目的、利点、並びに特徴は、当業者であれば、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むと明らかになるだろう。
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】予測法による配列分析及び細線維核形成に関与するドメインを示す図である。PHF6(306~311「VQIVYK」、PHF構造中のβ1)は、強力なアミロイド原性特性を示す(青色曲線)。二次構造予測は、配列全体がβ-ストランドとしてフォールディングする傾向があることを示している(赤色曲線)。クライオEMで決定したPHF(アルツハイマー病)及びNPF(ピック病)におけるBタウフォールディング(実施例セクションを参照)。いずれの構造でも、タウタンパク質は、平行βシート相互作用により線維軸に対して垂直に互いに積み重なっている。タウタンパク質は、アミノ酸側鎖の相互嵌合に対応する分子内相互作用により安定化されたヘアピンとしてフォールディングする(ピック病ではR1の末端が、アルツハイマー病のドメインR3及びR4に付加されている)。細線維の一次核形成段階と二次核形成段階に関与するペプチドは、球として表されている。一次核形成は、301VQIVYK306(濃青色/薄青色)が平行βシートとして自己アセンブリした結果である。二次核形成は、アルツハイマー病では301VQIVYK306アミノ酸側鎖と374HKLTF378(赤色/オレンジ色)との相互嵌合に対応し、ピック病では336QVEVKS341(濃緑色/薄緑色)との相互嵌合に対応する。
図2】バイオインフォマティクス手段による、PHF6ペプチド(1p)と比較した、22個の最初のヘキサペプチド(赤色)及び10個の追加のヘキサペプチド(緑色)のアミロイド原性特質の予測を示す図である。参照ペプチド1pを100%アミロイド原性であるとみなし、他のペプチドのスコアは、1pの関数として正規化されている。
図3】22個の最初のヘキサペプチド(赤色)及び10個の追加のヘキサペプチド(緑色)のGarnier-Delamarche表記である。ペプチド蛍光スコアを、1p蛍光スコア(内部対照)の関数として正規化した。16p及び9tpペプチド(青色)は、水性媒体への溶解性が低いため、他のペプチドのように800μMでは試験することができなかった。沈降の%及び蛍光の%を288μMの濃度で測定した。
図4】選択されたペプチドの存在下又は非存在下における1pの典型的な重合動力学を示す図である。1p単独(赤色);1p+4p(青色);1p+23p(緑色);1p+1tp(オレンジ色)。矢印は、5×原線維化緩衝液を添加した時間を示している。[ThT]=32mM、PM=800V、スリット03nm。
図5】選択されたペプチドの存在下又は非存在下における1pの重合動力学を示す図である。(A)1p単独(赤色)、1p+1tp(緑色)、及び1tp単独(青色)の動力学;(B)1p単独(赤色)、1p+4tp(緑色)、及び4tp単独(青色)の動力学;(C)1p単独(赤色)、1p+6tp(緑色)、及び6tp単独(青色)の動力学。[ThT]=32μM、MW=800V、スリット03nm、[1p]=155μM、[選択されたペプチド]=310μM。矢印は、5×原線維化緩衝液を添加した時間を示している。
図6】選択されたペプチドの存在下における1pの蛍光強度及び重合動力学の最大速度の結果を示す図である。最大重合速度は左側に示されており、100分時の蛍光強度は右側に示されている。全ての結果は、1pの100分時の蛍光強度及び最大重合速度を100%とみなして正規化した。速度の場合は50%及び蛍光強度の場合は100%にプロットされた閾値により、最も関心の高いペプチドが強調されている。各分析で、[ThT]=32μM、MW=800V、スリット03nm、[1p]=155μM、[選択されたペプチド]=310μM。
図7】最も興味深い阻害特性を有するペプチドの存在下での1pの蛍光強度及び重合動力学の最大速度の結果。最大重合速度は左側に示されており、100分時の蛍光強度は右側に示されている。全ての結果は、1pの100分時の蛍光強度及び最大重合速度を100%とみなして正規化した。各分析で、[ThT]=32μM、MW=800V、スリット03nm、[1p]=155μM、[選択されたペプチド]=310μM。
図8】6tp(紫色)がin silicoシミュレーションされたPHFのコア構造に及ぼす効果を示す図である。301VQIVYK306(濃青色/薄青色)は、平行βシートとして自己アセンブリし、アミノ酸側鎖相互嵌合により、374HKLTF378(赤色/オレンジ色)と相互作用する。試験した6tpペプチドの数は、1(化学量論0.25、パネルII)から4(化学量論1、パネルV)まで様々である。301VQIVYK306/374HKLTF378構造は、化学量論が0.25の場合から影響を受け、化学量論が0.5の場合は完全に不安定である。
図9】4tpと遊離タウタンパク質(R3/R4リピート)(A)及びPHF構造(B)との相互作用のin silico予測を示す図である。
図10】(A)100μMの「療法用」に分類される3つのペプチド(ヘキサペプチド1tp、4tp、6tp)及び「アミロイド性」に分類される2つのペプチド(ヘキサペプチド7tp及び1p)が、1×DMEM培地、8%血清で24時間処理した後の神経芽細胞腫株SH-SY5Yの細胞の増殖に及ぼす効果の分析を示す図である。(B)i)24時間後及び48時間後にMTT試験を使用して測定した細胞生存率並びにii)ペプチド処理の24時間後及び72時間後に細胞数により測定した細胞生存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本明細書全体を通じて、以下の段落で定義されている幾つかの用語が使用されている。
【0031】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、疾患又は障害、特にタウオパチーを有していてもよく又は有していなくてもよい、実験動物を含む、ヒト又は他の哺乳動物(例えば、霊長類、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、及びラクダ等)を指す。非ヒト対象は、トランスジェニック動物又は別様の改変動物であってもよい。本発明の多くの実施形態では、対象はヒトである。そのような実施形態では、対象は、多くの場合、「個体」又は「患者」と呼ばれる。「個体」及び「患者」という用語は、特定の年齢を示すものではない。「患者」という用語は、より詳細には、疾患又は障害、特にタウオパチーを患っている個体を指す。
【0032】
「タウ」及び「タウタンパク質」という用語は、本明細書では同義的に使用される。これらは、染色体17q21.31にマッピングされる単一の遺伝子であるMAPT(微小管関連タンパク質タウ)によりコードされるヒトタンパク質を指す。こうした用語は、成人ヒト脳にて選択的スプライシングにより産生される6つの非常に溶解性のタンパク質アイソフォームのいずれか1つを含む。「異常なタウ」、「異常な形態のタウ」、「病理学的タウ」、及び「病理学的形態のタウ」という用語は、本明細書では同義的に使用される。これらは、あらゆる非機能性形態又は調節解除形態のタウを指す。異常な翻訳後修飾が、この失敗の主な原因の1つであると考えられている。異常なリン酸化(過剰リン酸化)、アセチル化、糖化、ユビキチン化、ニトロ化、タンパク質分解切断(短縮)、立体構造変化、及び一部の他の修飾が、タウタンパク質の正常機能の喪失及び病理学的特徴の獲得を引き起こすと提案されている。タウタンパク質の機能喪失又は調節解除は、それが通常連結している微小管からの離脱をもたらす。遺伝学的、病理学的、及び生化学的分析により、異常なタウタンパク質が全てのタウオパチーの病態形成に大きな役割を果たしていることが判明している。
【0033】
本明細書で使用される場合、「タウオパチー」という用語は、当技術分野で理解されている意味を有し、異常なタウの沈着により特徴付けられる臨床的に、生化学的に、及び形態学的に不均質な神経変性疾患の群を指す。幾つかの一連の証拠から、タウ凝集がタウオパチーにおける神経変性プロセスの中心であることが示唆されている。タウオパチーでは、可溶性タウが微小管から切り離され、過剰リン酸化タウの異常な凝集細線維アセンブリを形成する。解剖学的領域関与が異なること、細胞タイプ、及び病理学的沈着物中のタウの異なるアイソフォームの存在に基づき、幾つかの神経病理学的表現型が区別される。「原発性タウオパチー」という用語は、タウタンパク質沈着が主要な特徴である障害を指す。「二次性タウオパチー」という用語は、別の多様な駆動力(例えば、アミロイド、加齢、外傷、遺伝、感染性疾患、毒素、自己免疫疾患、及び他の未知の要因)を有すると考えられるタウ病理を指す。原発性タウオパチーの命名法は、前頭側頭葉変性症(FTLD)の現代的分類と重複している。成人ヒト脳では、1つ又は2つのN末端インサートの存在又は非存在及び4つの半保存的リピートの2番目ものの存在又は非存在により異なる6つのタウアイソフォームが発現される。結果として、タウアイソフォームの半分は、3つのリピート(3Rタウ)を有し、アイソフォームの他方の半分は4つのリピート(4Rタウ)を有する。タウオパチーは、それらの細線維のアイソフォーム構成に基づいて特徴付けることができる。タウオパチーでは、3Rタウ/4Rタウの比が異なり、障害に依存するためである。したがって、タウオパチーは、3Rタウが優勢である「3Rタウオパチー」、4Rが優勢である「4Rタウオパチー」、及び3リピート(3R)タウ対4リピート(4R)タウの比がほぼ等しい「混合3R/4Rタウオパチー」という異なる群に分類されている。3Rタウオパチーの例としては、前頭側頭型認知症(FTD)とも呼ばれるピック病(PiD)が挙げられる。原発性4Rタウオパチーの例としては、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底核変性症(CBD)、嗜銀顆粒病(AGD)、球状グリアタウオパチー(GGT)、及び加齢関連タウアストログリオパチー(ARTAG)が挙げられる。主要な混合3R/4Rタウオパチーの例としては、17番染色体関連前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム(FTDP-17);ドーソン病としても知られている亜急性硬化性全脳炎(SSPE)が挙げられる。主要な混合3R/4Rタウオパチーの他の例としては、地理的に孤立したタウオパチー、例えば、グアドループ型パーキンソニズム、西太平洋筋萎縮性側索硬化症及びパーキンソニズム-認知症複合症(ALS/PDC)、及び北ウガンダ頷き症候群が挙げられる。二次性混合3R/4Rタウオパチーの例としては、アミロイド沈着に対して二次性のタウオパチーであるアルツハイマー病(AD);外傷に対して二次性である、拳闘家認知症としても知られている慢性外傷性脳症(CTE);ハンチントン病(HD);ニーマン-ピック病C型(NPC);ダウン症候群;及び脳炎後パーキンソニズム(PEP)が挙げられる。他の二次性タウオパチーとしては、筋強直性ジストロフィー(1型及び2型)が挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「異常なタウ凝集に関連付けられる障害」という用語は、タウオパチーであるとは規定されないが、異常なタウ沈着が存在する障害であるあらゆる疾患又は臨床状態を包含する。そのような疾患としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:レビー小体病(LBD)、クロイツフェルト-ヤコブ病、ゲルストマン-ストロイスラー-シャインカー病、封入体筋炎、プリオンタンパク質脳アミロイド血管症、筋萎縮性側索硬化症、神経原線維タングルを伴う非グアム型運動ニューロン病、石灰化を伴うびまん性神経原線維タングル、ハラーホルデン-スパッツ病、多系統萎縮症、淡蒼球橋黒質変性症(pallido-ponto-nigral degeneration)、タウ汎脳症(Tau panencephalopathy)、アストロサイトを伴うAD様のある特定のプリオン病(AD-like with astrocytes, certain prion diseases)(タウを伴うGSS)、LRRK2の変異、家族性英国認知症、家族性デンマーク認知症、脳鉄蓄積を伴う神経変性、SLC9A6関連精神遅滞、球状グリア封入体を伴う白質タウオパチー、外傷性ストレス症候群、てんかん、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型)、軽度認知障害(MCI)、多発性硬化症、パーキンソン病、非定型パーキンソニズム、HIV関連認知症、成人発症型糖尿病、老人性心アミロイドーシス、内分泌腫瘍、緑内障、眼アミロイドーシス、原発性網膜変性症、黄斑変性症(加齢黄斑変性症(AMD)等)、視神経ドルーゼン、視神経症、視神経炎、及び格子状ジストロフィー。
【0035】
本明細書で使用される場合、「阻害」という用語は、何かが起こることを防止すること、何かが起こることの発生を遅延させること、及び/又は何かが起こる程度若しくは可能性を低減させることを意味する。したがって、「異常なタウ凝集を阻害する」及び「異常なタウ凝集体の形成を阻害する」という用語は、本明細書では同義的に使用され、異常なタウ凝集の発生を防止すること、遅延させること、及び/又は可能性を低減させること、並びに異常なタウ凝集体の程度を低減させることを包含することが意図されている。
【0036】
「治療」という用語は、本明細書では、(1)疾患、障害、若しくは状態(ここでは、タウオパチー)の発病を遅延若しくは予防すること、(2)疾患、障害、若しくは状態の進行、増悪、若しくは悪化を緩徐若しくは停止させること、(3)疾患、障害、若しくは状態の症状の改善をもたらすこと、又は(4)疾患、障害、若しくは症状を治癒することを目的とした方法又はプロセスを特徴付けるために使用される。治療は、疾患、障害、又は状態の開始後に療法行為のために施してもよい。代替的に、治療は、疾患、障害、又は状態の発病前に、予防又は防止行為のために施してもよい。この場合、「予防」という用語が使用される。
【0037】
「診断」という用語には、本明細書で使用される場合、疾患(ここではタウオパチー)に対する対象の感受性の評価、対象が現在その疾患を有しているか否かの決定、及び疾患に罹患している対象の予後も含まれる。当業者であれば理解することになるように、そのような評価は、正確であることが好ましいが、通常は、診断しようとする対象の100%に対して正確ではない可能性がある。しかしながら、この用語では、対象の統計的に有意な部分がその疾患を患っているか、又はそれに対する素因を有することを特定することができることが求められる。ある部分が統計的に有意であるか否かは、当業者であれば、幾つかの周知の統計的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントt-検定、マン-ホイットニー検定等を使用して簡単に決定することができる。詳細については、Dowdy及びWearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、ニューヨーク、1983年を参照されたい。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.2、0.1、又は0.05である。「感受性」、「形成傾向」、及び「素因」という用語は、本明細書では同義的に使用され、疾患(ここでは、タウオパチー)を発症する確率が通常よりも高いことを指す。
【0038】
「標識された」及び「検出可能な作用剤又は部分で標識された」という用語は、本明細書では、ある実体(例えば、本発明の阻害性ペプチド)が、例えば別の実体(例えば、PHF6ペプチド又は異常なタウタンパク質)との結合後に視覚化され得ることを指定するために同義的に使用される。好ましくは、検出剤又は検出部分は、測定することができ、その強度が結合した実体の量に関連する(例えば、比例する)シグナルを生成するように選択される。ペプチドを標識及び/又は検出するための幅広く様々な系が当技術分野で周知である。標識ペプチドは、分光法手段、光化学手段、生化学手段、免疫化学手段、電気的手段、光学的手段、化学的手段、又は他の手段により直接的に又は間接的に検出可能な標識の組込み又はコンジュゲーションにより調製することができる。好適な検出可能な作用剤としては、これらに限定されないが、放射性核種、蛍光体、化学発光剤、マイクロ粒子、酵素、比色標識、磁気標識、ハプテン、分子ビーコン、及びアプタマービーコンが挙げられる。
【0039】
「医薬組成物」は、本明細書では、有効量の少なくとも1つの本明細書に記載の阻害性ペプチド、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含むと規定される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は、その意図されている目的、例えば、細胞、組織、系、又は対象における所望の生物学的、診断的、又は医学的応答を達成するのに十分な化合物(例えば、阻害性ペプチド)、作用剤、又は組成物のあらゆる量を指す。阻害性ペプチドの有効量は、測定可能な量の望ましい結果、例えば、異常なタウ凝集若しくは細胞毒性の阻害を誘発することができる量であるか、診断アッセイの場合は、目的の標的を検出することができる量であるか、又は治療方法の場合は、治療されている疾患若しくは状態の症状を測定可能な量だけ低減若しくは改善することができる量である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体又は賦形剤」という用語は、有効成分の生物学的活性の有効性を妨げず、投与されている濃度では宿主に対して過度に毒性でない担体媒体を指す。この用語には、溶剤、分散媒体、コーティング、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張剤、並びに吸着遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体及び作用剤の使用は、当技術分野で周知である(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W.Martin、第18版、1990年、Mack Publishing Co.:イーストン、ペンシルベニア州を参照。この文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。好ましくは、医薬担体又は賦形剤は、ヒト医薬にて許容される。ある特定の実施形態では、薬学的に許容される担体又は賦形剤は、獣医学的に許容される担体又は賦形剤である。
【0042】
「およそ」及び「約」という用語は、数値に関して本明細書で使用される場合、別様に明記されていない限り、又は状況から別様に明らかである場合を除き(例えば、そのような数値が可能な値の100%を超えることになる場合)、一般に、その数値のいずれの方向でも(その数値より大きいか又は小さい)10%の範囲内に収まる数値を含む。
【0043】
ある特定の好ましい実施形態の詳細な説明
上記で言及したように、本発明は、タウオパチー及び異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断及び治療の両方における使用のためのヘキサペプチド配列及び阻害性ペプチドを提供する。
【0044】
I - 阻害性ペプチド、ヘキサペプチド、及びヘキサペプチドベース分子
タウは、機能性である場合、そのリピートドメイン(R1、R2、R3、及びR4)を介して微小管に連結されている。PHF6(306VQIVYK311、配列番号2)は、R3ドメインの一体的部分であるため、正常な状態(つまり、疾患又は前疾患状態の非存在下)では接近可能ではない。タウタンパク質の機能喪失又は調節解除(リン酸化等)、及びしたがって微小管からの離脱は、タウオパチーの発病の原因である現象として認識されている。異常なタウタンパク質が細胞質内に遊離状態で見出されると、PHF6ペプチドは、本明細書に記載の阻害性ペプチドに対して接近可能になる。
【0045】
「阻害性ペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、異常なタウタンパク質の自己会合プロセス、特に、PHF6ペプチドが関与する異常なタウの自己会合プロセスを低減、阻害、又は防止するヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む分子を指す。ある特定の実施形態では、「阻害性ペプチド」という用語は、異常なタウタンパク質内のPHF6ペプチドの相互作用を低減、阻害、又は防止するヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む分子を指す。「阻害性ペプチド」という用語は、PHF6ペプチドの自己会合プロセスをin vitroで低減、阻害、又は防止するヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む分子も指す。本明細書で提供されるヘキサペプチド及びヘキサペプチド誘導体は、L-ヘキサペプチド、つまり6つのL-アミノ酸残基からなるペプチドである。「ヘキサペプチドを含む阻害性ペプチド」という語句は、阻害性ペプチドが、ヘキサペプチドのアミノ酸配列により構成されており、ヘキサペプチドは、その末端の一方の末端又は両方の末端が数個のアミノ酸により延長されていることを意味する。例えば、ヘキサペプチドは、合計で1、2、3、4、5、6、7、又は8個のアミノ酸残基により延長されていてもよい。こうしたアミノ酸残基は、ヘキサペプチドの阻害特性を改変しない。
【0046】
1. L-ヘキサペプチドの配列
本発明によるL-ヘキサペプチドは、下記のTable 1(表1)に示されているアミノ酸配列の1つからなる。
【0047】
【表1】
【0048】
したがって、本明細書で開示される阻害性ペプチドは、配列番号5~28及び55~56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するヘキサペプチドからなるか又はそれを含む。言い換えると、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド3p(配列番号5)、3pinv(配列番号17)、4p(配列番号6)、4pinv(配列番号18)、5p(配列番号7)、5pinv(配列番号19)、6p(配列番号8)、6pinv(配列番号20)、8p(配列番号9)、8pinv(配列番号21)、9p(配列番号10)、9pinv(配列番号22)、13p(配列番号11)、13pinv(配列番号23)、14p(配列番号12)、14pinv(配列番号24)、23p(配列番号13)、23pinv(配列番号25)、1tp(配列番号14)、1tpinv(配列番号26)、4tp(配列番号15)、4tpinv(配列番号27)、6tp(配列番号16)、6tpinv(配列番号28)、0tpinv(配列番号55)、及び3tpinv(配列番号56)のいずれか1つからなるか又はそれを含む。
【0049】
しかしながら、好ましい実施形態では、本明細書で開示される阻害性ペプチドは、本発明者らにより、弱アミロイド原性若しくは非アミロイド原性であり(PFH6ペプチドと比較して)、及び/又は弱凝集性若しくは非凝集性であると特定されたヘキサペプチドからなるか又はそれを含む。本明細書においてヘキサペプチドを特徴付けるために使用される「弱アミロイド性又は非アミロイド性」という用語は、特にPHF6ペプチドと比較して、原線維を形成しないか又は形成する傾向のないヘキサペプチドを指す。本明細書においてヘキサペプチドを特徴付けるために使用される「弱凝集性又は非凝集性」という用語は、特にPHF6ペプチドと比較して、自己凝集体を形成しないか又は形成する傾向のないヘキサペプチドを指す。したがって、好ましい実施形態では、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド3p(配列番号5)、4p(配列番号6)、4pinv(配列番号18)、5p(配列番号7)、5pinv(配列番号19)、6p(配列番号8)、8p(配列番号9)、8pinv(配列番号21)、9p(配列番号10)、9pinv(配列番号22)、13p(配列番号11)、13pinv(配列番号23)、14p(配列番号12)、14pinv(配列番号24)、23p(配列番号13)、23pinv(配列番号25)、1tp(配列番号14)、1tpinv(配列番号26)、4tp(配列番号15)、4tpinv(配列番号27)、6tp(配列番号16)、6tpinv(配列番号28)、0tpinv(配列番号55)、及び3tpinv(配列番号56)のいずれか1つからなるか又はそれを含む。特に、阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド3p、4p、5p、6p、8p、9p、13p、14p、23p、1tp、4tp、6tp、0tpinv、1tpinv、及び3tpinvのいずれか1つ、又はヘキサペプチド4p、5p、8p、9p、13p、14p、23p、1tp、4tp、及び6tpのいずれか1つからなっていてもよく又は含んでいてもよい。
【0050】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド3p(配列番号5)、4p(配列番号6)、4pinv(配列番号18)、5p(配列番号7)、5pinv(配列番号19)、6p(配列番号8)、8p(配列番号9)、8pinv(配列番号21)、9p(配列番号10)、13p(配列番号11)、14p(配列番号12)、14pinv(配列番号24)、23pinv(配列番号25)、1tp(配列番号14)、1tpinv(配列番号26)、4tp(配列番号15)、4tpinv(配列番号27)、6tpinv(配列番号28)、0tpinv(配列番号55)、及び3tpinv(配列番号56)のいずれか1つからなるか又はそれを含む。
【0051】
ある特定の好ましい実施形態では、本発明によるタウオパチーを診断及び/又は治療するための方法で使用するための阻害性ペプチドは、本発明者らにより、PHF6ペプチドの自己会合プロセスをin vitroで効率的に阻害すると特定されたヘキサペプチドからなるか又はそれを含む。したがって、ある特定の好ましい実施形態では、本発明による方法で使用するための阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド4p(配列番号6)、4pinv(配列番号18)、5p(配列番号7)、5pinv(配列番号19)、1tp(配列番号14)、1tpinv(配列番号26)、4tp(配列番号15)、4tpinv(配列番号27)、6tp(配列番号16)、6tpinv(配列番号28)、0tpinv(配列番号55)、及び3tpinv(配列番号56)のいずれか1つからなるか又はそれを含む。特に、阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド4p、5p、1tp、4tp、及び6tpのいずれか1つ、又はヘキサペプチド1tp、4tp、6tp、0tpinv、1tpinv、及び3tpinvのいずれか1つからなっていてもよく又は含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド1tp及び6tpのいずれか1つからなるか又はそれを含む。
【0052】
ある特定の実施形態では、ヘキサペプチドは、末端の修飾、例えば、アセチル化及びアミド化を含むように修飾されている。したがって、本明細書に記載のヘキサペプチドのC末端はアミド化されていてもよく、及び/又はN末端はアセチル化されていてもよい。例えば、ヘキサペプチド3p(配列番号5)は、N-アセチル化及びC-アミド化されている場合、Ac-VKYQVI-NH2と表記される。
【0053】
ある特定の実施形態では、ヘキサペプチドは、当技術分野で周知の塩形態、特に薬学的に許容される塩である。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、親ヘキサペプチドの生物学的活性を保持し、生物学的にも別様にも望ましくない、ヘキサペプチドの塩を指す。薬学的に許容される塩の例としては、これらに限定されないが、塩酸塩、酢酸塩、TFA塩、及び塩化ナトリウム塩が挙げられる。
【0054】
2. L-ヘキサペプチド誘導体
また、本発明は、L-ヘキサペプチド誘導体を提供する。ある特定の実施形態では、本発明によるL-ヘキサペプチド誘導体は、Table 1(表1)に示されているアミノ酸配列の1つからなり、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含む。他の実施形態では、本発明によるL-ヘキサペプチド誘導体は、Table 1(表1)に示されているアミノ酸配列の1つからなり、アミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ、又は2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0055】
本明細書で使用される場合、「保存的アミノ酸置換」という用語は、ヘキサペプチドの全体的な立体構造及び機能を変更することなく、アミノ酸を別のアミノ酸に置き換えることを指し、より詳細には、アミノ酸残基を、類似の特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、形状、疎水性、及び芳香族性等)を有するアミノ酸残基に置き換えることを指す。保存的アミノ酸置換の意味は、類似の特性を有するアミノ酸と同様に、当技術分野で周知である。例えば、本発明の状況では、疎水性脂肪族アミノ酸であるバリン(V)は、アラニン(A)、ロイシン(L)、又はイソロイシン(I)に置き換えることができ、塩基性アミノ酸であるリジン(K)は、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)、特にアルギニン(R)に置き換えることができ、疎水性脂肪族アミノ酸であるイソロイシン(I)は、バリン(V)、ロイシン(L)、又はアラニン(A)に置き換えることができ、中性極性アミノ酸であるグルタミン(Q)は、アスパラギン(N)、セリン(S)、又はトレオニン(T)、特にアスパラギン(N)に置き換えることができ、芳香族アミノ酸であるチロシン(Y)は、トリプトファン(W)又はフェニルアラニン(F)に置き換えることができる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「1、2、3、4、5、又は6位」という用語は、配列が左から右へと示されている場合、ヘキサペプチド(又はヘキサペプチド誘導体)のアミノ酸残基の1番目、2番目、3番目、4番目、5番目、又は6番目の位置を指す。
【0057】
したがって、本明細書で開示される阻害性ペプチドは、配列番号5~28及び55~56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含み、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0058】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、配列番号5~16、18~19、21~28、及び55~56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含み、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。特に、阻害性ペプチドは、配列番号5~16、26、及び55~56からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか若しくは含んでいてもよいか、又は配列番号6~7及び9~16からなる群から選択されるアミノ酸配列からなっていてもよく若しくは含んでいてもよく、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0059】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、配列番号5~12、14~16、18~19、21、24~28、55、及び56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含み、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0060】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、配列番号6~7、14~16、18~19、26~28、55、及び56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含み、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。特に、阻害性ペプチドは、配列番号6~7及び14~16からなる群から、又は配列番号14~16、26、55、及び56からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するヘキサペプチド誘導体からなっていてもよく又は含んでいてもよく、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。ある特定の実施形態では、阻害性ペプチドは、アミノ酸配列配列番号14又は配列番号16を有するヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含み、アミノ酸配列は、単一の保存的アミノ酸置換を含むか、又はアミノ酸配列は、1、3、及び5位の2つ若しくは2、4、及び6位の2つに保存的アミノ酸置換を含む。
【0061】
ある特定の実施形態では、ヘキサペプチド誘導体は、上記に記載のように、末端の修飾、例えば、アセチル化及びアミド化を含むように修飾されている。
【0062】
ある特定の実施形態では、ヘキサペプチド誘導体は、上記に記載のように、薬学的に許容される塩の状態である。
【0063】
3. ヘキサペプチドベース分子
ある特定の実施形態では、本発明によるタウオパチーを診断及び/又は治療するための方法で使用される阻害性ペプチドは、ヘキサペプチドベース分子からなるか又はそれを含む。本明細書で使用される場合、「ヘキサペプチドベース分子」という用語は、修飾されているが、例えば化学的に修飾されているが、異常なタウタンパク質内のPHF6ペプチドの相互作用に対するその阻害活性を保持している、本明細書で規定のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体を指す。また、「ヘキサペプチドベース分子」という用語は、修飾されているが、例えば化学的に修飾されているが、PHF6ペプチドの自己会合プロセスに対する阻害活性をin vitroで保持している、本明細書で規定のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体を指す。ある特定の実施形態では、修飾は、本明細書で規定のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体が異種性部分に連結されていることである。
【0064】
本明細書で使用される場合、「連結」という用語及び関連用語、例えば「リンク」及び「連結された」は、2つの基又は分子間の接続(例えば、ヘキサペプチドと異種性部分との間の)を指す。接続は、共有結合(共有化学結合による)、又は例えば物理的な力、例えば、静電結合、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、又は疎水性/親水性相互作用による非共有結合により達成することができる。接続は、直接的又は間接的であってもよい。間接的の場合、接続は、リンカー又はスペーサーを介していてもよい。「リンカー」及び「スペーサー」という用語は、本明細書では同義的に使用され、2つの他の分子(例えば、ヘキサペプチド及び異種性部分)を共有結合又は非共有結合のいずれかで接合する分子を指す。ペプチド修飾に使用されるリンカー及びスペーサー、特にペプチド性リンカー及びスペーサーは、当技術分野で知られている。「異種性部分」という用語は、本明細書で使用される場合、「コンジュゲート部分」という用語と同義であり、本明細書に記載のヘキサペプチドとは異なる任意の分子(化学的又は生化学的、天然に存在する、又は非コード性)を指す。本明細書で開示されるヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に連結されることになる異種性部分は、好ましくは、ヘキサペプチド若しくはヘキサペプチド誘導体の効力、薬物動態挙動、安定性、並びに/又は他の生物学的、物理的、及び化学的特性を最適化する能力、或いはヘキサペプチド若しくはヘキサペプチド誘導体に新しい物理化学的若しくは機能的特性を付与する能力について選択される。したがって、例えば、異種性部分は、(1)ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体の安定性を、例えばタンパク質分解に対する感受性を低減させることにより増加させる能力、(2)細胞透過性を増加させる能力、(3)検出可能性特性を付与する能力、及び(4)ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体を所与の細胞標的又は環境へと導く能力等に基づいて選択してもよい。本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体との連結に好適な異種性部分の例としては、これらに限定されないが、検出可能な部分、細胞透過剤、安定性増強部分、血液脳関門シャトル部分、細胞性分解を可能にするタグ、及びヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に望ましい特性を付与することが可能な任意の他の分子又は部分が挙げられる。
【0065】
a. 検出可能な部分。異種性部分は、検出可能な部分又は検出可能な標識であってもよい。したがって、ある特定の実施形態では、本発明によるタウオパチーを診断及び/又は治療するための方法で使用するための阻害性ペプチドは、検出可能な作用剤又は部分で標識されている本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む。検出可能な部分は、放射性同位元素、抗原決定基、酵素、ハイブリダイゼーションに利用可能な核酸、発色団、蛍光体、化学発光分子、電気化学的に検出可能な分子、及び蛍光偏光の変化又は光散乱の変化をもたらす分子の中から選択することができる。
【0066】
好ましくは、検出可能な部分は、診断画像化技法、例えば、蛍光、陽電子放射断層撮影法(PET)、磁気共鳴画像法(MRI)、単一光子放射コンピューター断層撮影法(SPECT/CT)、生体内レーザー走査顕微鏡法、内視鏡法、及び放射線画像化法による検出に好適である。有用な検出可能な標識としては、使用される技法又は画像化技法の組合せに応じて、これらに限定されないが、放射性核種、放射線造影剤、常磁性イオン、金属、生物学的タグ、蛍光標識、近赤外線標識、化学発光標識、超音波造影剤、及び光活性剤が挙げられる。そのような診断剤は当技術分野で周知であり、任意のそのような既知の診断剤を使用することができる。診断剤の非限定的な例としては、放射性核種、例えば、110In、111In、177Lu、18F、52Fe、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、44Sc、43Sc、47Sc、86Y、90Y、89Zr、94mTc、94TC、99mTc、120I、123I、124I、125I、131I、154~158Gd、32P、11C、13N、15O、186Re、188Re、51Mn、52mMn、55Co、72As、75Br、76Br、82mRb、83Sr、又は他のガンマ放射核、ベータ放射核、若しくは陽電子放射核を挙げることができる。好適な常磁性イオンとしては、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、又はエルビウム(III)を挙げることができる。金属造影剤としては、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、又はビスマス(III)を挙げることができる。超音波造影剤は、リポソーム、例えば、ガス充填リポソームを含んでいてもよい。放射線不透過性診断剤は、バリウム化合物、ガリウム化合物、及びタリウム化合物から選択することができる。当技術分野では、これらに限定されないが、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フトアルデヒド(o-phthaldehyde)、及びフルオレサミンを含む、幅広く様々な蛍光標識が知られている。使用される化学発光標識としては、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、又はシュウ酸エステルを挙げることができる。
【0067】
ある特定の好ましい実施形態では、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、主要な脳画像化技法の1つである陽電子放射断層撮影法(PET)による検出に好適な検出可能な部分で標識されている。そのような実施形態では、阻害性ペプチドは、11C、13N、15O、18F、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、44Sc、43Sc、47Sc、124I、76Br、及び82Rbからなる群から選択される放射性核種で、特に62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、44Sc、43Sc、及び47Scのいずれか1つで標識された、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む。
【0068】
ある特定の実施形態では、キレート剤を、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に付着させ、検出可能な部分、例えば放射性核種をキレートするために使用することができる。例示的なキレート剤としては、これらに限定されないが、DTPA(Mx-DTPA等)、DO3A、DOTA、EDTA、TETA、EHPG、HBED、NETA、NOTA、DOTMA、DFO、TETMA、PDTA、TTHA、LICAM、HYNIC、及びMECAMが挙げられる。タンパク質及びペプチドに金属又は他のリガンドを付着させるためのコンジュゲーション方法及びキレート剤の使用は、当技術分野で周知である。
【0069】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、医学的画像化での使用に好適なナノ粒子に付着している(Kalraら、「10. Nanoparticles in Medical Imaging」、Nanoparticles in Analytical and Medical Devices、2021年、175~210頁)。本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、平均直径が1マイクロメートル未満である粒子、球体、カプセル、及び他の構造を含むことを意味する。好ましい粒子は、最大で約50nm、又は最大で約10nmの粒径を有する。
【0070】
好適なナノ粒子としては、量子ドット、つまり、量子閉じ込め効果により独特な光学的及び電子的特性が生じるほど物理的寸法が小さい明色蛍光ナノ結晶が挙げられる。他の好適なナノ粒子は、光学的に検出可能なナノ粒子、例えば金属ナノ粒子である。ナノ粒子を形成するために使用される金属としては、これらに限定されないが、Ag、Au、Cu、Al、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、及びPt、又はそれらの酸化物が挙げられる。特に、金属は、Fe又は酸化鉄を含んでいてもよい。更なる表面機能層を追加してもよく、金属コア材料と組み合わせて形成してもよい。そのような機能層としては、これらに限定されないが、Ag酸化物、Au酸化物、SiO2、Al2O3、Si3N4、TiO2、ZnO、ZnO2、HfO2、Y2O3、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化鉄、及び他の酸化物;塩素又は塩化物でドープされたAg、塩素又は塩化物でドープされたAu、エチレン及びクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、ポリ(エチレン-co-ブチルアクリレート-co-一酸化炭素)(PEBA)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルデンフルオリド(Polyvinyldene fluoride)(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び他のポリマー;上記に挙げた金属層及び非金属層を含む少なくとも2層の積層多層等を挙げることができる。一部の実施形態では、金属コアは、Au、Ag、Fe、Ti、Ni、Cr、Pt、Ru、NiCr合金、NiCrN、PtRh合金、CuAuCo合金、IrRh合金、及び/又はWRe合金であってもよい。使用される金属は、生体適合性であるべきである。他の好適なナノ粒子としては、磁性ナノ粒子が挙げられる。「磁性ナノ粒子」という用語は、1つ若しくは複数の金属又はそれらの酸化物若しくは水酸化物を含む磁気応答性ナノ粒子を指す。例えば、超常磁性酸化鉄(SPIO)は、炭水化物でコーティングされた酸化鉄結晶のナノ粒子で構成されたMR造影剤の一種である。当技術分野で知られているように、光学的に検出可能な金属ナノ粒子又は量子ドットは、対象に全身投与すると、磁気共鳴画像法(MRI)、磁気共鳴分光法(MRS)、核磁気共鳴画像法(NMR)、マルチモーダル画像法、蛍光、陽電子放射断層撮影法(PET)、近赤外線(NIR)画像化法、X線画像化法、及びコンピューター断層撮影法(CT)を使用してin vivoで検出することができる。
【0071】
ある特定の実施形態では、ナノ粒子はマルチモーダルナノ粒子であり、特に脳組織の画像化に好適なマルチモーダルナノ粒子である。「マルチモーダルナノ粒子」という用語は、本明細書で使用される場合、1つよりも多くの生体画像化技法と組み合わせて使用することができるナノ粒子を指す。マルチモーダルナノ粒子は、異なる画像化技法に対する異なる造影剤として挙動する複数の部分を有していてもよい。マルチモーダル画像化又はマルチプレックス画像化は、1つよりも多くの画像化技法からのシグナルを同時に生成することを指す。例えば、SPECT、MRI、及びPETにより検出される光学的、磁気的、及び/又は放射性レポーターの組合せを使用して、マルチモーダルナノ粒子を開発することができる。マルチモーダルナノ粒子は、当技術分野で知られている(Jarzynaら、Rev. Nanomed. Nanobiotechnol.、2010年、2巻(2号):138~150頁;Huangら、Dalton Trans.、2011年、40巻(23号):6087~6103頁;Madruら、J. Nucl. Med.、2012年、53巻(3号):459頁;Tangら、Nanomedicine、2015年、10巻(8号):1343~1359頁;Burkeら、Philos. Trans. A Math. Phys. Eng. Sci.、2017年、375巻(2107号):20170261頁;Tang、「PET/SPECT/MRI multimodal nanoparticles」、「Design and Applications of Nanoparticles in Biomedical Imaging」内、Bulte及びModo(編)、2017年、205~228頁)。特に、ナノ粒子ベース放射性トレーサーは、SPECT/MRI及びPET/MRIのマルチモダリティプローブとして有望性を示している。
【0072】
b. 細胞透過剤。異種性部分は、細胞透過剤、例えば、細胞透過性ペプチド(つまり、CPP)であってもよい。したがって、ある特定の実施形態では、本発明による阻害性ペプチドは、細胞透過剤、例えば細胞透過性ペプチドに直接的に又は間接的に連結されている、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む。
【0073】
本明細書で使用される場合、「細胞透過性ペプチド」という用語は、付着したヘキサペプチドのいずれかの細胞膜を横切る転位置を増強する短いペプチド性作用剤(一般に30個未満のアミノ酸の)を指す。典型的には、細胞透過性ペプチドは、3つの異なるクラス:正荷電アミノ酸残基、例えばリジン又はアルギニンを高い相対存在量で含むアミノ酸組成を有するポリカチオン性CPP;極性/荷電アミノ酸残基及び非極性/疎水性アミノ酸残基の交互パターンを含む配列を有する両親媒性CPP;及び正味電荷が低い無極性残基のみを含む配列を有するか、又は細胞取り込みに重要な疎水性アミノ酸基を有する疎水性CPPに属する。
【0074】
本発明の実施での使用に好適な典型的なCPPの例としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:ポリアルギニン(ポリARG)(n個のR、ここでnは整数、例えば4<n<17であり、特に9個アルギニン、8個アルギニン、6個アルギニン)、ポリLYS(n個のK、ここでnは整数、例えば4<n<17である)、D-ポリARG(n個のR、ここでnは整数、例えば4<n<17である)、D-ポリLYS(n個のK、ここでnは整数、例えば4<n<17である)、SynBl、SynB3、ペネトラチン、ショウジョウバエホメオティックタンパク質アンテナペディダ(antennapedida)(ANTp)、PenArg、PenLys、TatP59W、Tat(HIVの転写トランス活性化因子)、Tat(48-60)、R9-Tat、D-Tat、BMVGag(7-25)、FHVCoat(35-49)、HTLV-II Rex(4-16)、P22 N-Q(4-30)、pVEC、TP10、PTD-4、PTD-5、Pep-1、Pep-2、Pep-3、E NQ-22、B21 N-(12-29)、U2AFQ(42-153)、PRP6(129-144)、MAP、SBP、FBP、MPG、MPG(ANLS)、及びREV(34-50)、これらは国際公開第2018/005867号パンフレットに記載されている;並びにEB1、トランスポータン、p-Antp、hcT(18-32)、Xentry、KLA seq。細胞透過性ペプチドの他の例としては、以下のものが挙げられる:W/R、NLS(核局在シグナル)、AlkCWK18、DiCWK18、DipaLytic、K16RGD、Pl、P2、P3、P3a、P9.3、Plae、Kplae、cKplae、MGP、HA2、LARL46、(LARL)n、Hel-11-7、KK、KWK、RWR、ヘルペスウイルスVP22、SCWKn、RGD、MPG、ARF(1-22)、BPrPp(1-28)、VT5、MAP、SG3、Pep-7、ステープルペプチド、プレニル化ペプチド、ペプデュシン(pepducin)、R6W3、アルギニンリッチペプチド様(Arg-X-Arg)nペプチド(式中、Xは一般的な炭素鎖スペーサー)、プロリンリッチペプチド(Schwartzら、Curr. Opin. Mol. Ther、2000年、2巻(2号):162~7頁;Leeら、Methods Mol. Biol.、2013年、991巻:281~92頁;Becharaら、FEBS Lett.、2013年、587巻(12号):1693~1702頁;Di Pisaら、J. Pept. Sci.、2015年、21巻(5号):356~369頁;Guoら、Biomed. Rep.、2016年、4巻(5号):528~534頁)。特定の態様によると、細胞透過性部分は、Svensenら、2012年、Trends in Pharmacological Sciences、33巻(4号):186~192頁に記載の通りである。
【0075】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に連結された細胞透過性ペプチド性部分はポリLys配列であり、これにより、結合後、細胞質内の遊離タウタンパク質を細胞分解系(プロテアソーム又は他のもの等)へと標的化することが可能になる。
【0076】
ある特定の実施形態では、CPPは、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に直接カップリングされている。他の実施形態では、ヘキサペプチドがその阻害活性を保持することが可能になるように、リンカーを用いて高荷電CPPをヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体から隔てることが望ましい。様々なリンカーのいずれかを使用することができる。好適なリンカーとしては、1~10個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個)のアミノ酸残基からなるペプチド性配列が挙げられる。
【0077】
ペプチドの細胞透過性を増強する別の方法は、N末端ミリストイル化(myristoilation)による。したがって、ある特定の実施形態では、阻害性ペプチドは、ミリストイル基(ミリスチン酸に由来する)に連結されている、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む。ミリストイル基は、飽和脂肪酸(Cl4)の14-炭水化物であり、これは、ペプチドに十分な疎水性及び膜に対する親和性を与えるが、ペプチドを膜に恒久的に係留するには不十分である。したがって、一般に、ミリストイル化は、タンパク質立体構造変化が膜付着に対するペプチドの親和性に影響を及ぼす立体構造局在化スイッチとして作用する。ミリストイル基は、ヘキサペプチドのN末端アミノ酸のアルファ-アミノ基にアミド結合を介して共有結合で付着していてもよい。
【0078】
c. 安定性増強部分。異種性部分は、安定性増強部分であってもよい。したがって、ある特定の実施形態では、本発明による方法で使用するための阻害性ペプチドは、安定性増強部分に直接的に又は間接的に連結されている、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む。
【0079】
本明細書で使用される場合、「安定性増強部分」という用語は、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に連結されると、その薬物動態に影響を及ぼす部分(分子)を指し、より詳細には、それは、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体の代謝安定性及び血漿半減期を増加させる。安定性増強部分は、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体の溶解性、腸管透過性、及びプロテアーゼに対する耐性等にも影響を及ぼす可能性がある。安定性増強部分としては、これらに限定されないが、炭水化物(グリカン)、脂質、例えば脂肪酸、及び水溶性ポリマー、例えばポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0080】
炭水化物部分の導入(糖化)は、ペプチドの生理学的特性を変化させ、それらの生物学的利用能を向上させることができることが知られている。グリコシル化は、ペプチドの薬物動態特性に好ましい影響を及ぼし、それらの経口吸収及び生物学的利用能の増加に結び付く。O-結合型及びN-結合型グリコシル化手法に加えて、ペプチド配列のN末端の様々なアミノ酸残基に炭水化物ユニットを付着させるための幾つかの化学的方法及び化学酵素的手法が確立されている。炭水化物は、単糖(例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース)、二糖(例えば、スクロース、ラクトース、マルトース)、オリゴ糖(例えば、ラフィノース、スタキオース)、又は多糖(デンプン、アミラーゼ、アミロペクチン、セルロース、キチン、カロース、ラミナリン、キシラン、マンナン、フコイダン、又はガラクトマンナン)であってもよい。
【0081】
ペプチドの脂質コンジュゲートは、より高い安定性及びより長い血漿半減期を呈することが知られている。好適な脂質の例としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:脂肪酸、エイコサノイド(例えば、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサン)、グリセロ脂質(例えば、一置換、二置換、三置換グリセロール)、グリセロリン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン)、スフィンゴ脂質(例えば、スフィンゴシン、セラミド)、ステロール脂質(例えば、ステロイド、コレステロール)、プレノール脂質、サッカロ脂質、又はポリケチド、油、ワックス、コレステロール、ステロール、脂溶性ビタミン、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、又はリン脂質。ある特定の実施形態では、脂質は脂肪酸である。脂肪酸は、飽和又は不飽和のいずれかである長鎖脂肪族鎖を有するカルボン酸である。好ましい脂肪酸は、4~28の偶数個の炭素原子の非分岐鎖を有する。脂肪酸コンジュゲートには、種々の手法が利用可能である。合成は、脂肪酸が、N末端又はリジンの側鎖のいずれかにコンジュゲートされるように実施することができる。また、ペプチドの、又はリンカー若しくはスペーサーのシステイン残基は、脂肪酸により修飾されて、対応するチオエステル誘導体をもたらすことができる。脂質化(ペプチドへの脂肪酸コンジュゲーション)に最も一般的に使用される脂肪酸は、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、及びステアリン酸(C18)である。
【0082】
ペプチドを水溶性(又は親水性)ポリマーに共有結合で付着させると、ペプチド薬物動態が影響を受けることが知られており、より詳細には、ペプチド安定性及び血漿半減期が増加する。好適な親水性ポリマーの例としては、これらに限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、他のポリ(アルキレンオキシド)、例えばポリ(プロピレングリコール)等、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、例えばポリ(オキシエチル化グリセロール)等、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸、及びポリアミノ酸が挙げられる。直鎖状又は分岐鎖状親水性ポリマーが企図される。
【0083】
ある特定の実施形態では、多くの水性溶媒及び有機溶媒にて良好な溶解性を有し、低い毒性及び免疫原性の欠如を呈し、透明、無色、無臭、及び安定である周知のポリマーであるPEGが親水性ポリマーとして好ましくは使用される。PEGの最も一般的な形態は、末端ヒドロキシル基を有する直鎖状又は分岐鎖状ポリエーテル:HO-(CH2-CH2O)n-CH2CH2-OHである。ペプチド修飾は、少なからぬ連結部分で誘導体化して、メトキシPEG-アミン、-マレイミド、又は-カルボン酸を産出することができるため、好ましくは、単官能メトキシ-PEG(mPEG):CH3O-(CH2CH2O)n-CH2CH2-OHであってもよい。好ましくは、平均分子量が約5~約50kDaのPEGが、臨床の承認された薬学的応用に使用される。2つ又はそれよりも多くの低分子量鎖を付加して、PEG複合体の総分子量を増加させてもよい。ペプチドのPEG化は、技術水準において幅広く知られている(総説については、Veronese、Biomaterials、2001年、22巻:405~417頁を参照)。PEGは、ペプチド又はリンカーの様々な利用可能な反応基、例えば、リジン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、セリン、トレオニン、N末端アミン、及びC末端カルボン酸、又は他の特定の部位にカップリングすることができる。
【0084】
d. 血液脳関門シャトル部分。異種性部分は、血液脳関門シャトル部分であってもよい。したがって、ある特定の実施形態では、本発明による方法で使用するための阻害性ペプチドは、血液脳関門シャトル部分に直接的に又は間接的に連結されている、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む。
【0085】
本明細書で使用される場合、「血液脳関門シャトル部分」という用語は、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に連結されると、能動輸送機構又は受動輸送機構のいずれかにより血液脳関門(BBB)を越えてペプチドを運搬する能力を有する部分を指す。BBBシャトルは、脳への薬物送達の強力な促進因子である。ある特定の実施形態では、血液脳関門シャトル部分は、BBBシャトルペプチドである。好適なBBBシャトルペプチドの例としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:Angiopep-2(Demeuleら、J. Pharmacol. Exp. Ther、2008年、324巻:1064~1072頁;Demeuleら、J. Neurochem.、2008年、106巻:1534~1544頁;Yingら、Angew. Chem., Int. Ed.、2014年、53巻:12436~12440頁); ApoB(3371-3409) (Spencerら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、2007年、104巻:7594~7599頁;Sorrentinoら、EMBO Mol. Med.、2013年、5巻:675~690頁);ApoE(159-167)(Wangら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、2013年、110巻:2999~3004頁;Bockenhoffら、J. Neurosci.、2014年、34巻:3122~3129頁;Reら、Nanomedicine、2011年、7巻:551~559頁);ペプチド-22(Malcorら、J. Med. Chem.、2012年、55巻:2227~2241頁);THR(Leeら、Eur. J. Biochem.、2001年、268巻:2004~2012頁;Pradesら、Biomaterials、2012年、33巻:7194~7205頁);THR レトロ-エナンチオ(Pradesら、Angew. Chem., Int. Ed.、2015年、54巻:3967~3972頁);CRT(Staquiciniら、J. Clin. Invest.、2011年、121巻:161~173頁);Leptin30(Barrettら、Regul. Pept.、2009年、155巻:55~61頁;Liuら、Biomaterials、2010年、31巻:5246~5257頁);RVG29(Kumarら、Nature、2007年、448巻:39~43頁;Kimら、Mol. Ther、2010年、18巻:993~1001頁;Zadranら、NeuroMol. Med.、2013年、15巻:74~81頁);DCDX (Weiら、Angew. Chem., Int. Ed.、2015年、54巻:3023~3027頁);アパミン(Oiler-Salviaら、Biopolymers、2013年、100巻:675~686頁;Wuら、Mol. Pharmaceutics、2014年、11巻:3210~3222頁);MiniAp-4(Oiler-Salviaら、Angew. Chem., Int. Ed.、2016年、55巻:572~575頁);GSH(Gaillardら、J. Controlled Release、2012年、164巻:364~369頁;Mdzinarishviliら、Drug Delivery Transl. Res.、2013年、3巻:309~317頁;Leeら、J. Neuroimmunol.、2014年、274巻:96~101頁;Lindqvistら、Mol. Pharmaceutics、2013年、10巻:1533~1541頁);G23(Georgievaら、Angew. Chem., Int. Ed.、2012年、51巻:8339~8342頁);g7(Costantinoら、J. Controlled Release、2005年、108巻:84~96頁;Tosiら、Curr. Med. Chem.、2013年、20巻:2212~2225頁;Tosiら、J. Neural Transm.、2011年、118巻:145~153頁;Vilellaら、J. Controlled Release、2014年、174巻:195~201頁);TGN(Liら、Biomaterials、2011年、32巻:4943~4950頁;Gaoら、Biomaterials、2012年、33巻:5115~5123頁;Zhangら、Biomaterials、2014年、35巻:456~465頁);TAT(47-57)(Schwarzeら、Science、1999年、285巻:156915~72頁;Aartsら、Science、2002年、298巻:846~850頁;Wangら、Biomaterials、2010年、31巻:2874~2881頁); SynBl (Rousselleら、Mol. Pharmacol.、2000年、57巻:679~686頁;Drinら、J. Biol. Chem.、2003年、278巻:31192~3120頁);ジケトピペラジン(Teixidoら、J. Am. Chem. Soc.、2007年、129巻:11802~11813頁;Teixidoら、Biopolymers、2013年、100巻:662~674頁);及びPhPro(Arranz-Gibertら、J. Am. Chem. Soc.、2015年、137巻:7357~7364頁)、これらは全て、Oiler-Salviaら、Chem. Soc. Rev.、2016年、45巻:4690~4707頁に記載されている。BBBシャトルペプチドの他の例としては、これらに限定されないが、Diaz-Perlasら、Chem. Sci.、2018年、9巻:8409~8415頁及びMajerovaら、Molecules、2020年、25巻(4号):874頁に記載のBBNシャトルペプチドが挙げられる。
【0086】
e. 他の異種性部分。本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体に付着させるのに好適な異種性部分の他の例としては、アルブミン結合小分子が挙げられ、これらは、高度に結合した小分子を介してアルブミンと間接的に相互作用することにより、糸球体濾過を低減させ、タンパク質分解安定性を向上させ、半減期を延長させることができる。他の好適な異種性部分としては、これらに限定されないが、ペプチドのクリアランスを低減させ、半減期を延長させることが知られているアルブミン(特にヒト血清アルブミン又はHAS)又はIgG断片(例えば、可変領域、CDR、又はFc領域)が挙げられる。ペプチドと親水性アミノ酸ポリマーとの融合も、ペプチドの半減期を延長させることが知られている。親水性アミノ酸ポリマーとしては、これらに限定されないが、XTENポリマー(AMunix社が開発した、6つの親水性の化学的に安定なアミノ酸残基A、E、G、P、S、及びTからなる非免疫原性ポリペプチド)又はPASポリマー(XL-Protein GmbH社が開発した、小型L-アミノ酸P、A、及び/又はSの長い反復配列を含むポリペプチド)が挙げられる。
【0087】
f. ペプチド修飾。異種性部分に連結されていることの代わりに又は加えて、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体自体を修飾して、ヘキサペプチドの効力、薬物動態挙動、安定性、並びに/又は他の生物学的、物理的、及び化学的特性を最適化することができる。
【0088】
例えば、本明細書で開示されるヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、タンパク質分解が頻繁に起こる環境、例えば血液中に存在する場合、タンパク質分解破壊に対する耐性を増加させるように修飾されていてもよい。実際、血液/血漿、肝臓、又は腎臓中の少なからぬタンパク質分解酵素は、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、及びカルボキシペプチダーゼであり、それらは、N末端及びC末端からペプチド配列を分解する。N末端及び/又はC末端の修飾は、多くの場合、ペプチド安定性を向上させる。N-アセチル化及びC-アミド化は、多くの場合、タンパク質分解に対する耐性を増加させることが報告されている。他のN末端修飾としては、メチル化、アシル化、及びチオグリコール酸アミド化が挙げられる。
【0089】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、N末端部分に、ペプチダーゼ切断に対する耐性を達成する1つ又は2つの追加のアミノ酸残基を含むように修飾されている。1位の追加のアミノ酸残基は、D-ヒスチジン、デスアミノヒスチジン、ヒドロキシル-ヒスチジン、アセチル-ヒスチジン、ホモ-ヒスチジン、N-メチルヒスチジン、α-メチルヒスチジン、イミダゾール酢酸、又はα,α-ジメチルイミダゾール酢酸(DMIA)からなる群から選択することができる。2位の追加のアミノ酸残基は、D-セリン、D-アラニン、バリン、グリシン、N-メチルセリン、N-メチルアラニン、又はα-アミノイソ酪酸からなる群から選択することができる。
【0090】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、C末端部分に荷電アミノ酸を導入する付加により修飾されていてもよい。そのような修飾は、安定性及び溶解性を増強させる。「荷電アミノ酸」及び「荷電残基」という用語は、本明細書では同義的に使用され、生理学的pHの水溶液中で負に荷電される(つまり、脱プロトン化される)か又は正に荷電される(つまり、プロトン化される)側鎖を含むアミノ酸を指す。1つ、2つ、又は3つ(一部の場合では、3つよりも多く)の荷電アミノ酸、特に負荷電アミノ酸をC末端位置に導入してもよい。負荷電アミノ酸残基としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン酸、ホモシステイン酸、及びホモグルタミン酸が挙げられる。そのような修飾は溶解性を向上させる。
【0091】
代替的に、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、環化により安定化させることができるが、環化は、ペプチド特質、特にヘキサペプチドがPHF6ペプチドの相互作用を阻害、低減、又は防止する能力を深刻には妨げない。環状ペプチドは、アミノ末端及びカルボキシル末端がペプチド結合又は他の共有結合で共に連結され、環状鎖を形成するポリペプチド鎖である。環化は、立体構造制約を導入し、ペプチドの可撓性を低減させ、それにより安定性及び透過性を向上させることができる。官能基に応じて、ペプチドは、頭部-尾部、頭部/尾部-側鎖、又は側鎖-側鎖で環化することができる。環化は、アミド、チオエーテル、チオエステル、尿素、カルバメート、スルホンアミド、ラクタム、ラクトン、及びジスルフィド架橋等のいずれか1つの形成により生じ得る。例えば、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、ジスルフィド結合形成を促進する、アミノ末端及びカルボキシル末端システインアミノ酸残基を含むように修飾されていてもよい。したがって、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体は、追加のシステインアミノ酸残基を含むように修飾されていてもよく、システインアミノ酸残基は、末端付近に存在するが、必ずしも末端そのものに存在する必要はない。代替的に、システインアミノ酸残基は、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体の末端の5つのアミノ酸残基内に位置していてもよい。ジスルフィド架橋は、ペプチドの効力、選択性、及び安定性を向上させることができるフォールディング及び立体構造制約を作り出すことが知られている。異なる方法では、ペプチドは、二官能性作用剤、例えばジカルボン酸(例えば、オクタン二酸)を介して環化されていてもよく、それにより、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体の2つの官能基(例えば、遊離アミノ、ヒドロキシル、及びチオ等)間のリンクが導入される。環状ペプチドを設計及び合成するための方法は、当技術分野で周知である。
【0092】
g. 阻害性ペプチド。当業者であれば理解することになるように、本発明による方法で使用するための阻害性ペプチドは、そのような修飾が、その所望の役割を実施する際の並びにその意図されている診断及び/又は療法効果を提供する際の阻害性ペプチドの機能性に著しい影響を及ぼさない限り、本明細書に記載の様々な異種性部分及びヘキサペプチド修飾の1つ又は1つよりも多くを含むように修飾されている、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなる。言い換えれば、所与のヘキサペプチドベース分子内では、修飾又は修飾の組合せは、得られるペプチドが、異常なタウタンパク質の自己会合プロセス、特に、PHF6に依存する、対らせん状細線維(PHF)への異常なタウのアセンブリに対する、出発ヘキサペプチド配列の阻害特性を保持する程度に限って許容される。本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体の修飾又は修飾の組合せは、得られるペプチドが、in vitroで、PHF6ペプチドの自己会合プロセスに対する出発ヘキサペプチド配列又はヘキサペプチド誘導体配列の阻害特性を保持する場合、許容されると実験的に決定することができる。一部の実施形態では、所与のアッセイにおいて活性の約100%が保持される。他の実施形態では、アッセイにおいて、活性の約98%、約95%、約90%、約85%、約80%、約70%、又は約60%が保持される。
【0093】
得られる阻害性ペプチドの意図されている使用に応じて、当業者であれば、ヘキサペプチド修飾(つまり、異種性部分への付着及び/又はヘキサペプチド修飾)の最適化された組合せを容易に起想することができる。例えば、阻害性ペプチドをタウオパチーの診断方法に使用することが意図されている場合、ヘキサペプチドベース分子は、好ましくは、検出可能な部分、好ましくは放射性核種、特にPET又はマルチモーダル画像化技法による検出に好適な放射性核種で標識されたヘキサペプチドを含んでいてもよい。
【0094】
したがって、ある特定の実施形態では、タウオパチーを診断及び治療するための方法で使用するための阻害性ペプチドは、C末端が検出可能な部分、例えばPETによる検出に好適な放射性核種で標識され、N末端が安定化部分又はCPP部分又はBBBシャトル部分に連結されるように修飾された、本明細書に記載のヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体からなる。
【0095】
本明細書に記載の阻害性ペプチドは、PHF6配列と特異的に相互作用する。特に、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、意図されていない配列ではなく、PHF6配列に対して特異的に(つまり、選択的に、優先的に)結合する。阻害性ペプチドが結合するPHF6配列は、in vitroではPHF6ペプチドであってもよく、又は細胞培養又はin vivoでは異常なタウタンパク質の一部であってもよく、異常なタウタンパク質は、単量体、小型凝集体、オリゴマー、又は原線維の形態であってもよい。例えば、結合は、2倍、5倍、10倍、100倍、200倍、500倍、又は500倍よりも強力であってもよく、意図されていない標的に対して結合が全く検出されなくてもよい。例えば、従来方法、例えば、競合結合アッセイ又は他の好適な分析方法を使用して、結合の特異性を決定することができる。
【0096】
3. L-ヘキサペプチド及びヘキサペプチドベース分子の調製
本明細書で開示されるヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、及びヘキサペプチドベース分子は、化学合成及び好適な宿主細胞での組換え発現を含む、様々な当技術分野で認識されている方法のいずれかを使用して調製することができる。
【0097】
例えば、ヘキサペプチド及びそれらの誘導体は、標準的な化学的方法を使用して調製することができる。固相ペプチド合成は、R.B.Merrifield(J. Am. Chem. Soc. 1963年、85巻:2149~2154頁)により最初に報告されたものであり、既知の短い配列のペプチド及びペプチド性分子を迅速かつ容易に合成する手法である。そのような固相技法の総括は、例えば「Solid Phase Peptide Synthesis」(Methods in Enzymology、G.B. Fields(編)、1997年、Academic Press:サンディエゴ、カリフォルニア州。この文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。こうした合成手順のほとんどは、成長中のペプチド鎖に1つ又は複数のアミノ酸残基又は好適に保護されたアミノ酸残基を順次付加することを含む。所望のペプチドを、アセンブリさせた後、固体支持体から切り離し、沈殿させ、得られた遊離ペプチドを、必要に応じて分析及び/又は精製することができる。例えば、「The Proteins」(第II巻、第3版、H. Neurathら(編)、1976年、Academic Press:ニューヨーク市、ニューヨーク州、105~237頁)に記載されている溶液法も、本明細書で開示されるヘキサペプチドの合成に使用することができる。
【0098】
代替的に、本発明による方法で使用するための十分な量のヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、又はヘキサペプチドベース分子を生成するために、組換えDNA法を使用することができる(Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州、2001年;及びAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons、ニューヨーク州、1994年)。こうした方法は、一般に、目的のペプチドをコードする核酸(例えば、DNA)を生成すること、ペプチドをコードする核酸分子を好適なベクターに移入すること、及び細胞培養系で大量発現させることを含む。ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体のDNAコード配列は、当技術分野で知られている方法を使用して合成的に容易に調製することができる(例えば、M.P. Edgeら、Nature、1981年、292巻:756~762頁を参照)。好適な組換え発現ベクターとしては、限定ではないが、プラスミドベクター、ファージベクターを含むウイルスベクター、人工ベクター、酵母ベクター、真核生物ベクター等が挙げられ、これらは、目的のコード配列の発現を指図するために必要な遺伝子エレメントを含む。核酸分子を発現ベクターに挿入すると、必要な調節配列に作動可能に連結されたコード配列がもたらされる。必要な制御配列、例えば、プロモーター及びポリアデニル化シグナル並びに好ましくはエンハンサーを含む、様々な宿主のための発現系が容易に入手可能である(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、1989年、Cold Spring Harbor Press:コールドスプリング、ニューヨーク州;及びR. Kaufman、Methods in Enzymology、1990年、185巻:537~566頁を参照)。次いで、形質転換された宿主細胞は、所望のペプチドの発現に有利な条件下で培養及び維持される。このようにして産生されたペプチドは、培養培地から直接的に又は細胞の溶解のいずれかにより回収及び単離される。
【0099】
組換え技法は、ヘキサペプチド又はヘキサペプチド誘導体が異種性ペプチド性部分に連結されている場合、好ましい可能性がある。それは、組換え技法が、比較的長いポリペプチド(例えば、10個又は20個よりも多くのアミノ酸)を大量に生成するためにより良好に適しているためである。したがって、当業者であれば理解するように、本明細書に記載のヘキサペプチド、又はヘキサペプチド誘導体、又はヘキサペプチドベース分子は、融合タンパク質(つまり、ヘキサペプチド配列が融合パートナーに連結されている分子)として産生させることができる。「融合パートナー」という用語は、融合タンパク質に1つ又は複数の望ましい特性を付与するアミノ酸配列を指す。したがって、融合パートナーは、融合タンパク質の調製中に宿主細胞におけるヘキサペプチド、又はヘキサペプチド誘導体、又はヘキサペプチドベース分子の発現を向上させるアミノ酸配列、及び/又は融合タンパク質の精製を容易にするアミノ酸配列、及び/又は非融合タンパク質の安定性と比較して融合タンパク質の安定性を増加させるアミノ酸配列(例えば、プロテアーゼに対する安定性が増加した融合タンパク質を得るため)等であってもよい。好適な融合パートナーの例としては、例えば、得られる融合タンパク質をニッケルキレートカラムで容易に精製することを可能にするポリヒスチジンタグが挙げられる。グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースB結合タンパク質、又はプロテインAは、市販の融合発現ベクターを使用して本明細書に記載のヘキサペプチドに融合させることができる好適な融合パートナーの他の例である。また、融合パートナーは、上記で規定の異種性ペプチド部分であってもよい。
【0100】
本発明によるヘキサペプチド、それらの誘導体、及びヘキサペプチドベース分子は、これらに限定されないが、親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、濾過、電気泳動、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、コンカナバリンAクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、及び分画溶解法(differential solubilization)等を含む、様々な標準的タンパク質精製技法を使用して精製することができる。
【0101】
「純度」は相対的な用語であり、必ずしも絶対的な純度、又は絶対的な濃縮、又は絶対的な選択として解釈されるものではないことが認識される。一部の実施形態では、回収されたヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、又はヘキサペプチドベース分子の純度は、少なくとも若しくは約60%、少なくとも若しくは約70%、少なくとも若しくは約80%、又は少なくとも若しくは約90%(例えば、少なくとも若しくは約91%、少なくとも若しくは約92%、少なくとも若しくは約93%、少なくとも若しくは約94%、少なくとも若しくは約95%、少なくとも若しくは約96%、少なくとも若しくは約97%、少なくとも若しくは約98%、少なくとも若しくは約99%)であるか、又はおよそ100%である。一部の好ましい実施形態では、本明細書に記載のヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、ヘキサペプチドベース分子は、好ましくは、「実質的に純粋な形態」で回収される。本明細書で使用される場合、「実質的に純粋な」という用語は、阻害性ペプチドを、それが意図されている応用で効果的に使用することを可能にする純度を指す。ヒトの診断及び/又は治療応用では、「実質的に純粋な」は、好ましくは、少なくとも若しくは約97%、少なくとも若しくは約98%、少なくとも若しくは約99%、又はおよそ100%純粋であることを指す。
【0102】
必要に応じて、調製後に、ヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、又はヘキサペプチドベース分子を滅菌してもよい。滅菌は、当技術分野で知られている幅広く様々な滅菌技法のいずれかを使用して、例えば、細菌保持フィルターによる濾過により、ガンマ線照射により、電子ビーム照射により、又は使用前に滅菌水又は他の滅菌注射用媒体に溶解又は分散させることができる滅菌固体組成物の形態に滅菌剤を組み込むことにより実施することができる。代替的に又は追加的に、精製されたヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、又はヘキサペプチドベース分子を、使用前に凍結乾燥してもよい。
【0103】
ヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、及びヘキサペプチドベース分子は、専門会社、例えば、Proteogenix社(シルチゲム、フランス)、Genepep社(モンペリエ、フランス)、Genscript(ピスカタウェイ、ニュージャージー州)、New England Peptide社(ガードナー、マサチューセッツ州)、及びCPC Scientific社(サニーベール、カリフォルニア州)、Peptide Technologies Corp.社(ゲイサーズバーグ、メリーランド州)、及びMultiple Peptide Systems社(サンディエゴ、カリフォルニア州)で商業的に合成することができる。
【0104】
ヘキサペプチド、ヘキサペプチド誘導体、及びヘキサペプチドベース分子は、当技術分野で知られているように、液体形態又は固体形態のいずれかで適切な条件下にて保管することができる。例えば、ペプチドは、調製/精製後又は提供業者から受領した際に、冷暗所で維持されるべきである。最も良好な保存には、明るい光を避け、冷蔵庫で4℃又はそれよりも低い温度で保管することができる。乾燥ペプチドは、室温で数日~数週間安定であるが、長期保管には-20℃が好ましい。
【0105】
4. 阻害性ペプチドの組合せ
本明細書に記載の阻害性ペプチドは、本発明による方法において単独で使用してもよい。代替的に、本明細書に記載の少なくとも2つの阻害性ペプチドを組み合わせて使用してもよい。したがって、ある特定の実施形態では、本発明による組合せは、本明細書に記載の2つの阻害性ペプチドからなる。他の実施形態では、本発明による組合せは、本明細書に記載の2つよりも多くの、例えば3つ又は4つの阻害性ペプチドからなる。
【0106】
特に、本発明による方法で使用するための組合せは、本明細書に記載の少なくとも2つの異なる阻害性ペプチドからなり、各阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド3p(配列番号5)、4p(配列番号6)、4pinv(配列番号18)、5p(配列番号7)、5pinv(配列番号19)、6p(配列番号8)、8p(配列番号9)、8pinv(配列番号21)、9p(配列番号10)、9pinv(配列番号22)、13p(配列番号11)、13pinv(配列番号23)、14p(配列番号12)、14pinv(配列番号24)、23p(配列番号13)、23pinv(配列番号25)、1tp(配列番号14)、1tpinv(配列番号26)、4tp(配列番号15)、4tpinv(配列番号27)、6tp(配列番号16)、6tpinv(配列番号28)、0tpinv(配列番号55)、及び3tpinv(配列番号56)、並びに本明細書に記載のそれらのヘキサペプチド誘導体のいずれか1つからなるか又はそれを含む阻害性ペプチドからなる群から選択される。特に、組合せは、少なくとも2つの異なる阻害性ペプチドからなっていてもよく、各阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド3p、4p、5p、6p、8p、9p、13p、14p、23p、1tp、4tp、6tp、0tpinv、1tpinv、及び3tpinvのいずれか1つ、又はヘキサペプチド4p、5p、8p、9p、13p、14p、23p、1tp、4tp、及び6tp、並びに本明細書に記載のそれらのヘキサペプチド誘導体のいずれか1つからなるか又はそれを含む阻害性ペプチドからなる群から選択される。
【0107】
ある特定の好ましい実施形態では、組合せは、少なくとも2つの異なる阻害性ペプチドからなり、各阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド3p、4p、4pinv、5p、5pinv、6p、8p、8pinv、9p、13p、14p、14pinv、23pinv、1tp、1tpinv、4tp、4tpinv、6tpinv、0tpinv、及び3tpinv、並びに本明細書に記載のそれらのヘキサペプチド誘導体のいずれか1つからなるか又はそれを含む阻害性ペプチドからなる群から選択される。
【0108】
ある特定の好ましい実施形態では、組合せは、少なくとも2つの異なる阻害性ペプチドからなり、各阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド4p、4pinv、5p、5pinv、1tp、1tpinv、4tp、4tpinv、6tp、6tpinv、0tpinv、及び3tpinv、並びに本明細書に記載のそれらのヘキサペプチド誘導体のいずれか1つからなるか又はそれを含む阻害性ペプチドからなる群から選択される。特に、組合せは、少なくとも2つの異なる阻害性ペプチドからなっていてもよく、各阻害性ペプチドは、ヘキサペプチド4p、5p、1tp、4tp、及び6tpのいずれか1つ、又はヘキサペプチド1tp、4tp、6tp、0tpinv、1tpinv、及び3tpinvのいずれか1つ、及び本明細書に記載のそれらのヘキサペプチド誘導体からなるか又はそれを含む阻害性ペプチドからなる群から選択される。
【0109】
ある特定の実施形態では、組成物内の第1の及び第2の(及び第3の等の)阻害性ペプチドの相対量は、病理学的タウ凝集において観察される1つ又は複数の個別の現象を阻害する(例えば、PHF6自己会合の阻害等)組成物の能力に影響を及ぼすように選択される。例えば、2元組合せの場合、相対量は、約35:65、又は約40:60、又は約45:55、約50:50、又は約55:45、又は約60:40、又は約65:35であってもよい。
【0110】
II - 阻害性ヘキサペプチド及びヘキサペプチドベース分子の使用
上記で既に言及したように、本明細書で提供されるヘキサペプチド配列は、アルツハイマー病に見出される対らせん状細線維(PHF)及び直線状細線維(SF)の形態、並びにピック病に見出される細いピック細線維(NPH)及び太いピック細線維(WPF)の形態の異常なタウタンパク質の核形成及び原線維化のプロセスに不可欠なPHF6ペプチドと特異的に相互作用する(つまり、特異的に結合する)。機能喪失又は調節解除により、PHF6配列を含む異常なタウタンパク質は微小管から離脱し、細胞質内で遊離した状態で見出され、それにより阻害性ペプチドが接近可能になる。したがって、本発明の阻害性ペプチドは、タウオパチー及び異常なタウ凝集に関連付けられる障害の分野における療法及び診断応用を含む、様々な応用に使用することができる。
【0111】
1 - 阻害/療法応用
本発明は、PHF6ペプチドの自己会合プロセスをin vitroで阻害するための方法における本明細書に記載の阻害性ペプチドの使用に関し、この方法は、PHF6ペプチド、又はPHF6ペプチドを含む試料を、阻害性ペプチドがPHF6ペプチドに結合し、PHF6ペプチドの自己会合プロセスを阻害することを可能にする条件下で、有効量の阻害性ペプチドと接触させるステップを含む。
【0112】
本方法で使用される阻害性ペプチドは、本明細書に記載の阻害性ペプチドの1つであってもよく、又は本明細書に記載の阻害性ペプチドの少なくとも2つの組合せであってもよい。この方法は、例えば、本発明者らが開発したモデルを使用して、溶液中にてin vitroで実施される(実施例セクションを参照)。PHF6ペプチド又はその試料と有効量の阻害性ペプチドとの接触は、典型的には、PHF6ペプチド又はその試料を阻害性ペプチドと組み合わせるか、混合するか、又はインキュベートすることを含む。阻害性ペプチドがPHF6ペプチドに結合して、PHF6ペプチドの自己会合プロセスが阻害されることを可能にする最適な条件(時間、温度、pH等)を決定することは、当業者の能力の範囲内である。
【0113】
当業者であれば、そのような方法は、PHF6ペプチドの会合プロセスをin vitroで阻害するために使用することができることを認識するだろう。この場合、会合プロセスは、PHF6ペプチドと374HKLTF378(配列番号3)との相互作用、又はPHF6ペプチドと336QVEVKS341(配列番号4)との相互作用である。そのような場合、使用されるin vitroモデルは、それぞれ、本発明者らが開発中のVQIVYK/HKLTF相互作用モデル及びVQIVYK/QVEVKS相互作用モデルである。
【0114】
本発明は、異常なタウ凝集を阻害、低減、又は防止するための方法における、本明細書に記載の阻害性ペプチドの使用に更に関し、この方法は、異常なタウタンパク質又は異常なタウタンパク質を含む生物学的試料若しくは系を、阻害性ペプチドが異常なタウに存在するPHF6配列に結合して、異常なタウ凝集を阻害、低減、又は防止することを可能にする条件下で、有効量の阻害ペプチドと接触させるステップを含む。
【0115】
そのような方法で使用される阻害性ペプチドは、本明細書に記載の阻害性ペプチドの1つであってもよく、又は本明細書に記載の阻害性ペプチドの少なくとも2つの組合せであってもよい。この方法は、in vitroで(例えば、異常なタウを発現する細胞又は他の生物系)又はin vivoで(動物、動物モデル、又は患者において)実施することができる。患者に由来するか又はゲノム編集された多能性幹細胞(PSC)は、タウオパチーの有効でロバストなin vitro細胞モデルの生成に役立つ(Shiら、Sci. Transl. Med.、2012年、4巻(124号): 124ra29;lovinoら、Brain、2015年、138巻(11号):334563359;Wray、Brain Pathl.、2017年、27巻(4号):525~529頁;Arberら、Alzheimer's Research & Therapy、2017年、9巻:42頁;Garcia-Leonら、Alzheimers Dement.、2018年、14巻(10号):1261~1280頁;Karchら、STEM Cell Reports、2019年、13巻(5号):939~955頁;Linら、Pharmaceuticals、2021年、14巻(6号):525頁;Penneyら、Molecular Psychiatry、2020年、25巻:148~167頁)。Kim及び同僚(Kimら、Nature Protoc.、2015年、10巻(7号):985~100頁;Kwakら、Nature Commun、2020年、11巻、1377頁、doi.org/10.1038/s41467-020-15120-3)は、β-アミロイド前駆体タンパク質及びプレセニリン-1過剰発現ReNcell(商標)VMヒト神経幹細胞株を使用して、アルツハイマー病の3次元(3D)ヒト神経幹細胞モデルを作出した。この3D細胞モデルは、アミロイド-β斑を含むアミロイド-βのロバストな細胞外沈着、並びに細胞体及び神経突起における高レベルのリン酸化タウ、並びに細線維状タウを誘導することができる。アルツハイマー病の3D神経幹細胞モデルも、Alzheimer's In a Dish(商標)という名称でAldrich社から市販されている。タウオパチーの動物モデルのほとんどは、遺伝子改変動物を含む(ほとんどがげっ歯動物であるが、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、及び線虫もある)。タウオパチーの動物モデルの総説については、Dujardinら、Neuropathol. Appl. Neurobiol.、2015年、41巻(1号):59~80頁;Combsら、Methods Mol. Biol.、2016年、1382巻:339~366頁;Cubinkovaら、Acta Virol.、2017年、61巻(1号):13~21頁;Gotzら、Adv. Exp. Med. Biol.、2019年、1184巻:381~391頁;Goodarziら、Cell Tissue Bank、2019年、20巻(2号):141~151頁;ら、Alzheimers Dement.(NY)、2020年、6巻(1号):el2114;Giongら、Int. J. Mol. Sci.、2021年、22巻(16号):8465頁)を参照されたい。in vivoで実施する場合、接触ステップは、典型的には、阻害性ペプチドを、動物、動物モデル、又は患者に投与することを含む(下記を参照)。in vivoで実施する場合、この方法は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の発症又は進行を阻害するために使用することができる。したがって、この方法は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害を治療又は予防するために使用することができる。
【0116】
したがって、本発明は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の治療又は予防における使用のための阻害性ペプチド又はその組合せ(任意選択で、1つ又は複数の適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化した後)にも関する。本発明は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害を治療又は予防するための方法であって、治療有効量の少なくとも1つの阻害性ペプチド又はその組合せ又はその医薬組成物を、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法にも関する。本発明の別の態様は、対象のタウオパチー若しくは異常なタウ凝集に関連付けられる障害の発病を予防するための、或いは疾患若しくは状態の発症を予防若しくは阻害するために、そのような疾患若しくは状態の初期段階にある対象、又はそのような疾患若しくは状態を発症しつつある対象を治療するための方法である。
【0117】
A. 適応症
多くの実施形態では、対象はヒトであり、より詳細には、タウオパチーを有すると診断された患者、又はタウオパチーを発症し易いと決定された対象である。
【0118】
本明細書に記載の方法に従って治療することができるタウオパチーは、タウタンパク質がヒト脳内で神経原線維タングル又はグリオ原線維タングル(gliofibrially tangle)への異常な凝集を起こすことを伴うあらゆる神経変性疾患であってもよい。臨床的には、タウオパチーは、認知症候群、運動障害、運動ニューロン疾患、又はそれらの混合型として現れる可能性がある。本明細書に記載の方法に従って治療することができるタウオパチーとしては、原発性タウオパチー及び二次性タウオパチーが挙げられる。治療されるタウオパチーは、3Rタウオパチー、4Rタウオパチー、又は3R/4R混合タウオパチーであってもよい。特に、本明細書に記載の方法を使用して治療することができるタウオパチーとしては、アルツハイマー病(AD)、ピック病(PD)、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底核変性症(CBD)、嗜銀顆粒病(AGD)、球状グリアタウオパチー(GGT)、加齢関連タウアストログリオパチー(ARTAG)、17番染色体関連前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム(FTDP-17)、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、グアドループ型パーキンソニズム、西太平洋筋萎縮性側索硬化症及びパーキンソニズム-認知症複合症(ALS/PDC)、慢性外傷性脳症(CTE)、ハンチントン病(HD)、ニーマン-ピック病C型(NPC)、ダウン症候群、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、及び筋強直性ジストロフィー(1型及び2型)が挙げられる。
【0119】
ある特定の実施形態では、本発明の方法を使用して治療されることになるタウオパチーは、アルツハイマー病、ピック病、進行性核上性麻痺(PSP)、及び、嗜銀顆粒病(AGD)からなる群から選択される。最も有病率が高いタウオパチーであるアルツハイマー病は、軽度の記憶喪失から始まり、会話を続ける能力及び環境に応答する能力の喪失に結び付く可能性があり、日常活動を行う個人の能力に深刻な影響を及ぼす進行性疾患である。ピック病(又は前頭側頭型認知症(FTD))は、脳の前頭葉に影響を及ぼし、失語症のような言語障害、行動障害、及び最終的には死を引き起こす、希なタイプの認知症である。ピック病は、アルツハイマー病に次いで有病率が高く、早期発症型認知症症例の20%を占める。それは20歳という若い人でも生じる可能性があるが、通常は、45歳~65歳で始まり、男性及び女性はほぼ等しく罹患する。進行性核上性麻痺(PSP)は、脳の特定の部分が徐々に悪化及び死滅することを伴う遅発型変性疾患である。この状態は、平衡感覚障害、運動緩徐、眼球運動困難、及び認知障害を含む症状に結び付く。PSPは、10万人当たり約6人が罹患し、最初の症状は典型的には60~70歳の個人に現れ、女性よりも男性の方が罹患する可能性がわずかにより高い。嗜銀顆粒病(AGD)は、頻度は多いが、依然として十分には認識されていない神経変性状態である。AGDは、アルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患であることが判明している。AGDの発症率は加齢と共に著しく増加し、その有病率は、65歳での9.3%から100歳以上の高齢者での31.3%までの範囲であると推定されている。AGDは、臨床的には、他の認知機能は比較的保たれている健忘及び顕著な神経精神医学的特徴により特徴付けられる。
【0120】
本発明による治療の効果は、治療する疾患を診断するための当技術分野で知られているアッセイのいずれかを使用してモニターすることができる。代替的に又は追加的に、本発明による治療の効果は、本明細書に記載の診断方法を使用してモニターすることができる(下記を参照)。
【0121】
B. 投与
阻害性ペプチド又はその組合せ(任意選択で、1つ又は複数の適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化した後)は、所望の投薬量で、それを必要とする対象に任意の好適な経路にて投与することができる。錠剤、カプセル、注射用溶液、リポソーム内封入、微粒子、マイクロカプセル等を含む、種々の送達系が知られており、本発明の阻害性ペプチドを投与するために使用することができる。投与方法としては、これらに限定されないが、経皮、皮内、筋肉内、腹腔内、病巣内、静脈内、皮下、鼻腔内、肺、硬膜外、眼、及び経口経路が挙げられる。阻害性ペプチド又はその組成物は、例えば、注入又はボーラス注射により、上皮又は皮膚粘膜内層(例えば、口腔、粘膜、直腸粘膜、及び腸粘膜等)を介した吸着により、任意の便利な又は他の適切な経路で投与することができる。投与は、全身性であってもよく又は局所的であってもよい。特に、投与は、CSF(脳脊髄液)経路への注射、又は脳への直接注射によるものであってもよい。非経口投与は、カテーテル挿入等により患者の所与の組織へと導くことができる。当業者であれば理解することになるように、阻害性ペプチド又はその組成物が、追加の治療剤と共に投与される実施形態では、阻害性ペプチド及び療法剤は、同じ経路(例えば、経口)で投与してもよく、異なる経路(例えば、経口及び静脈内)で投与してもよい。
【0122】
阻害性ペプチド又はその組合せは、(任意選択で、1つ又は複数の適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化した後)、カテーテル、針、又はインプラントに組み込んで投与してもよい。
【0123】
C. 投薬量
阻害性ペプチド又はその組合せの投与(任意選択で、1つ又は複数の適切な薬学的に許容されるものと共に製剤化した後)は、送達量が意図されている目的にとって効果的であるような投薬量で行われることになる。投与経路、製剤、及び投与される投薬量は、所望の療法効果、治療する疾患の重症度、患者の年齢、性別、体重、及び全般的な健康状態、並びに使用される阻害性ペプチド又はその組合せの効力、生物学的利用能、及びin vivo半減期、併用療法の使用(又は不使用)、及び他の臨床要因に依存することになる。こうした要因は、療法の過程で主治医により容易に判断可能である。代替的に又は追加的に、投与しようとする投薬量は、動物モデルを使用した研究から決定することができる。こうした方法又は他の方法に基づいて最大の有効性を達成するために用量を調整することは、当技術分野で周知であり、訓練を受けた医師の能力の範囲内である。本発明の阻害性ペプチドを使用した研究が実施されると共に、適切な投薬量レベル及び治療期間に関する更なる情報が明らかになるだろう。
【0124】
本発明による治療は、単一用量又は複数用量で構成されていてもよい。したがって、阻害性ペプチド又はその医薬組成物の投与は、一定期間にわたって一定であってもよく、又は周期的に及び特定の間隔で、例えば、毎時、毎日、毎週(又は何らかの他の複数日間隔で)、毎月、毎年(例えば、持続放出形態で)であってもよい。代替的に、送達は、所与の期間中に複数回、例えば、週2回又はそれよりも多く、及び月2回又はそれよりも多く等で、生じてもよい。投与は、一定期間にわたる継続的な投与、例えば静脈内送達であってもよい。
【0125】
しかしながら、一般には、好適な用量は、1日当たり約0.001~約100mg/レシピエント体重1kgの範囲、例えば、1日当たり約0.01~約100mg/kg体重、例えば、1日当たり約0.1mg/kg体重を上回る量、又は1日当たり約1~約10mg/kg体重の範囲であるだろう。例えば、好適な用量は、1日当たり約1mg/kg体重、5mg/kg体重、10mg/kg体重、20mg/kg体重、又は30mg/kg体重であってもよい。
【0126】
本発明の阻害性ペプチドは、例えば、1単位剤形当たり0.05~10000mg、0.5~10000mg、5~1000mg、又は約100mgの有効成分を含む単位剤形で便利に投与することができる。一部の実施形態では、投薬量単位は、約0.1mg、約0.5mg、約1mg、約10mg、約25mg、約50mg、約75mg、又は約100mgの有効成分を含む。
【0127】
D. 併用療法
本発明による治療は、単独で又は他の療法(つまり、療法剤及び/又は療法手技)、特にタウオパチーを患っている患者に有益であることが知られている療法と組み合わせて投与することができる。阻害性ペプチド又はその組合せ(任意選択で、1つ又は複数の適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化した後)は、追加の療法剤若しくは手技の投与前、療法剤若しくは手技と同時に、及び/又は追加の療法剤若しくは手技の投与後に投与することができる。
【0128】
タウ関連神経変性症候群の治療は限定的であり、主に対症療法である。現在、認知機能に対して承認されている薬剤には、コリンエステラーゼ阻害剤及びN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニストという2つの種類があり、各々は中程度の効果を示している。運動症状はドーパミン系レジメンに応答する可能性があり、言語療法は失語症症候群(神経損傷又は神経疾患による後天性言語機能障害)にある程度の有効性を示しており、理学療法は運動機能の延長に役立つことが判明している。感情鈍麻及びうつの症状は非常に一般的であり、多くの場合で、選択的セロトニン再取り込み阻害剤を含む療法又は薬理学的介入に応答する。したがって、阻害性ペプチド若しくはその組合せ又はその医薬組成物は、コリンエステラーゼ阻害剤、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニスト、ドーパミン系レジメン、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、言語療法、理学療法、及びそれらの任意の有益な組合せから選択される少なくとも1つの追加の療法剤又は療法手技と組み合わせて投与することができる。
【0129】
2 - 診断応用
本明細書に記載の阻害性ペプチドは、タウタンパク質に存在するPHF6配列と特異的に相互作用し、異常な又は病理学的なタウ、つまり機能喪失又は調節解除のためニューロンの細胞質内に遊離した状態で見出されるタウを検出するために使用することができる。ある特定の好ましい実施形態では、阻害性ペプチドは検出可能な部分を含む。
【0130】
したがって、本発明は、生物学的試料中の異常なタウタンパク質の存在又は非存在を検出するためのin vitro方法であって、生物学的試料を、好ましくは検出可能な部分で標識されているが必ずしもそうである必要はない有効量の阻害性ペプチドと、阻害性ペプチドが異常なタウタンパク質に結合することを可能にする条件下で接触させるステップ、及び生物学的試料中の異常なタウタンパク質に結合した阻害性ペプチドの存在又は非存在を検出するステップを含む方法に関する。この方法は、タウオパチーを患っている疑いのある個体から得られた生物学的試料(例えば、脳脊髄液の試料)に対して実施することができる。そのような方法は、例えば、タウオパチー(例えば、アルツハイマー病又はピック病)の存在又は状態を観察するために、例えば、臨床症状の前に疾患開始を検出するために、及び/又は療法治療の有効性(又は有効性の欠如)を追跡するために設計された診断戦略において使用することができる。
【0131】
本発明は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害の診断における使用のための阻害性ペプチド又はその組成物にも関する。本発明は、対象のタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害を診断するための方法であって、対象に、診断有効量の阻害性ペプチド又はその組成物を投与するステップ、及び異常なタウタンパク質に結合したあらゆる阻害性ペプチドを検出するステップを含み、異常なタウタンパク質に結合した阻害性ペプチドの検出は、対象がタウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害を患っているか又は発症するリスクがあることを示す、方法にも関する。特に、この方法は、タウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる疾患の早期診断に使用することができる。代替的に又は追加的に、この方法は、試験する患者に特に適した療法を選択するために使用することができる。
【0132】
診断有効量の阻害性ペプチド又はその組成物の対象への投与は、当技術分野で知られている任意の好適な投与方法を使用して実施することができる(上記を参照)。しかしながら、ある特定の実施形態では、投与は、好ましくは、標識阻害性ペプチドを含む組成物、例えば水性組成物の注射により実施される。標識阻害性ペプチドの用量は、投与しようとする化合物の種類、患者の体重、及び熟練の医師であれば明らかであると考えられる他の変数に応じて異なるだろう。一般に、用量は、好ましくは、0.001μg/kg~10μg/kg、好ましくは0.01μg/kg~1.0μg/kgの範囲であるだろう。診断方法で使用される阻害性ペプチドが放射性部分で標識されている場合、放射性線量は、約1μCi~約10mCi/kg体重、又は約5μCi~約1mCi/kg体重、又は約10μCi~約100μCi/kg体重、又は約1mCi~約10mCi/kg体重が一度に投与されるような量であってもよい。放射性線量は、例えば、100~600MBq、より好ましくは150~450MBqであってもよい。
【0133】
当技術分野で知られているように、投与後だが検出ステップの前に、標識阻害性ペプチドは、目的の組織(ここでは脳組織)に分布し、存在するあらゆる遊離している異常なタウタンパク質に結合することが可能になる。組織分布及び結合に必要な時間は、標識阻害性ペプチドに依存することになり、当業者であれば日常的な実験により決定することができる。
【0134】
当業者であれば理解することになるように、検出可能な部分で標識された阻害性ペプチドは、診断に使用することが意図されている検出技法に基づいて選択されることになる。好ましくは、検出は、画像化技法を使用して実施され、診断方法は、異常なタウタンパク質に結合したあらゆる阻害性ペプチドを検出するために対象の脳の少なくとも一部を画像化するステップを含む。最も広く使用されている神経画像診断法は、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピューター断層撮影法(CT)、陽電子放射断層撮影法(PET)、及び単一光子放射コンピューター断層撮影法(SPECT)である。ある特定の好ましい実施形態では、PETを使用して画像化が実施される。
【0135】
他の実施形態では、マルチモーダル画像化又はマルチプレックス画像化が検出ステップで使用される。マルチモーダル画像化又はマルチプレックス画像化は、1つよりも多くの画像化技法からのシグナルを同時に生成することを指す。第1の主な理由は、異なる画像化モード間に大きな補完性が存在ためである。例えば、陽電子放射断層撮影法(PET)又は単一光子放射断層撮影法(SPECT)により得られた画像には、高解像度3次元解剖学的情報は含まれていない。他方で、CT及び/又はMRIを使用することにより、高解像度構造画像を得ることができる。こうした画像は互いに補完し合い、標的とする器官の解剖学的特徴、生理学的特徴、病理学的特徴の完全な画像を提供する。したがって、ある特定の実施形態では、検出又は画像化ステップは、MRIベース画像化及びPETベース画像化を含むマルチモーダル画像化技法により実施される。
【0136】
画像化技法は、定量的データを提供することができる。したがって、対象の脳又は脳の一部で検出された異常なタウに結合した標識阻害性ペプチドの量又はレベルを、健常対象(つまり、タウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害を患っていない対象)の脳若しくは脳の同じ部分で決定された正常対照量若しくはレベルと、又は幾人かの(例えば、5、10、20、50、100、500、又は500人よりも多くの)健常対象で実施された決定の平均値である正常対照量若しくはレベルと比較することができる。対象の脳又は脳の一部で検出された異常なタウに結合した標識阻害性ペプチドの量又はレベルが正常対照量又はレベルより高い場合、対象は、タウオパチー又は異常なタウ凝集に関連付けられる障害を患っているか又は発症するリスクがあることを示す。対象の脳又は脳の一部で検出された異常なタウに結合した標識阻害性ペプチドの量又はレベルは、異なる診断(初期タウオパチー、タウオパチーの様々な段階、特定のタウオパチー等)に対応する1つ又は複数の所定の閾値と更に比較することができる。
【0137】
本明細書に記載の診断方法を使用すると、熟練の医師は、到達した診断に基づいて、各患者に適した治療法を選択及び処方することができる。所与の患者に適切な療法レジメンの選択は、本明細書で開示される診断方法により提供される診断にのみ基づいて行うことができる。代替的に、医師は、タウオパチーを診断するための既存の方法で使用される他の臨床的又は病理学的パラメーターも考慮することができる。
【0138】
本明細書に記載の診断方法は、患者におけるタウオパチー治療の有効性をモニターするために使用することができる。そのような方法では、異常なタウに結合した標識阻害性ペプチドの量又はレベルを、治療中の種々の時点で、例えば、治療開始前及び開始後、又は治療開始後の種々の時点で検出してもよい。異常なタウに結合した標識阻害性ペプチドの量又はレベルの減少は、タウオパチー治療が患者に有効であること、又は言い換えれば、患者がタウオパチー治療に応答性であることを示している。
【0139】
III - 医薬組成物及びパック及び診断キット
1 - 医薬組成物
上記で言及されているように、療法応用及び/又は診断応用において、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、それ自体で又は医薬組成物として投与することができる。したがって、本発明は、有効量の少なくとも1つの阻害性ペプチド、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。一部の実施形態では、医薬組成物は、1つ又は複数の追加の生物学的活性剤を更に含む。
【0140】
本発明の医薬組成物は、投与の容易さ及び投薬量の均一性のために投薬量単位形態で製剤化することができる。「単位剤形」という表現は、本明細書で使用される場合、治療しようとする患者/試験しようとする対象のための少なくとも1つの阻害性ペプチドの物理的に個別の単位を指す。しかしながら、組成物の合計1日投薬量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることになることが理解されるだろう。
【0141】
A. 製剤
本明細書に記載の医薬組成物は、所望の予防及び/若しくは療法効果並びに/又は診断目的を達成するために有効である任意の量及び任意の投与経路を使用して投与することができる。最適な医薬製剤は、投与経路(経口、経鼻、腹腔内、又は非経口、静脈内により、筋肉内、局所、皮下経路、又は組織への注射により)及び所望の投薬量に応じて様々であってもよい。そのような製剤は、投与された有効成分の物理的状態、安定性、in vivo放出速度、及びin vivoクリアランス速度に影響を及ぼすことができる。
【0142】
注射用調製物、例えば、滅菌注射用水性又は油性懸濁物は、好適な分散剤又は湿潤剤、及び懸濁剤を使用して、既知の技術に従って製剤化することができる。また、滅菌注射用調製物は、例えば、2,3-ブタンジオール中の溶液としての、非毒性で非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用溶液、懸濁物、又はエマルジョンであってもよい。使用することができるビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル液、U.S.P.、及び等張性塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌固定油が、溶液又は懸濁媒体として従来から使用されている。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む、あらゆる無刺激性固定油を使用することができる。脂肪酸、例えばオレイン酸も、注射用製剤の調製に使用することができる。滅菌液体担体は、非経口投与用の滅菌液体形態組成物に有用である。
【0143】
注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターによる濾過により、又は使用前に滅菌水又は他の滅菌注射用媒体に溶解又は分散させることができる滅菌固体組成物の形態の滅菌作用剤を組み込むことにより滅菌することができる。滅菌溶液又は懸濁物である液体医薬組成物は、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下注射により投与することができる。注射は、単回の押込みによるものであってもよく、又は徐注入によるものであってもよい。必要な場合又は所望の場合、組成物は、注射部位の痛みを和らげるために、局所麻酔薬を含んでいてもよい。
【0144】
有効成分の効果を延長させるためには、皮下注射又は筋肉内注射による成分の吸収を緩徐させることが望ましい場合が多い。非経口投与される有効成分の吸収の遅延は、成分を油ビヒクルに溶解又は懸濁させることにより達成することができる。注射用デポ形態は、生分解性ポリマー、例えばポリ乳酸ポリグリコリド中に有効成分のマイクロカプセル化マトリックスを形成することにより製造される。有効成分対ポリマーの比、及び使用される特定のポリマーの性質に応じて、成分放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が挙げられる。デポ注射用製剤は、有効成分を、体組織に適合性であるリポソーム又はマイクロエマルジョンに封入することによっても調製することができる。
【0145】
経口投与用の液体剤形としては、これらに限定されないが、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁物、シロップ、エリキシル、及び加圧組成物が挙げられる。少なくとも1つの阻害性ペプチドに加えて、液体剤形は、当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、例えば、水又は他の溶媒、可溶化剤、及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにそれらの混合物を含んでいてもよい。また、不活性希釈剤の他に、経口組成物は、補助剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、保存料、甘味料、香味料、及び芳香剤、増粘剤、着色剤、粘度調節剤、安定剤、又は浸透圧調節剤を含んでいてもよい。経口投与に好適な液体担体の例としては、水(上記のような添加剤、例えば、セルロース誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液を含んでいてもよい)、アルコール(一価アルコール及び多価アルコール、例えばグリコールを含む)及びそれらの誘導体、並びに油(例えば、分留ヤシ油及びラッカセイ油)が挙げられる。加圧組成物の場合、液体担体は、ハロゲン化炭化水素又は他の薬学的に許容される推進剤であってもよい。
【0146】
経口投与用の固形剤形としては、例えば、ロゼンジ剤、トローチ剤、錠剤、カプセル剤、発泡錠、口腔内崩壊錠、胃内滞留時間を増加させるように設計された浮遊錠、頬側パッチ、及び舌下錠が挙げられる。そのような固形剤形では、阻害性ペプチド又はその組合せは、少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤又は担体、例えば、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム及び以下のものの1つ又は複数と混合されていてもよい:(a)充填剤又は増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニタール(mannital)、及びケイ酸;(b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアカシア;(c)保水剤、例えばグリセロール;(d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム;(e)溶解遅延剤、例えばパラフィン;吸収促進剤、例えば第四級アンモニウム化合物;(g)湿潤剤、例えば、セチルアルコール及びグリセロールモノステアレート;(h)吸収剤、例えば、カオリン及びベントナイトクレイ;並びに(i)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、並びにそれらの混合物。固形製剤に好適な他の賦形剤としては、表面修飾剤、例えば、非イオン性及びアニオン性表面修飾剤が挙げられる。表面修飾剤の代表的な例としては、これらに限定されないが、ポロクサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、コロイド状二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びトリエタノールアミンが挙げられる。カプセル剤、錠剤、及び丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を更に含んでいてもよい。
【0147】
同様のタイプの固体組成物は、賦形剤、例えば、ラクトース又は乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコール等を使用して、軟質及び硬質充填ゼラチンカプセルの充填剤としても使用することができる。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤の固形剤形は、コーティング及びシェル、例えば、腸溶性コーティング、放出制御コーティング、及び医薬品製剤技術で周知の他のコーティングを用いて調製することができる。使用することができる埋込み型組成物の例としては、ポリマー性物質及びワックスを挙げることができる。
【0148】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物を局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定するものではないが、手術中の局所注入、注射、カテーテルによる局所適用、座薬により、又は皮膚パッチ、ステント、若しくは他のインプラントにより達成することができる。
【0149】
局所投与の場合、組成物は、好ましくは、担体、例えば、水、グリセロール、アルコール、プロピレングリコール、脂肪族アルコール、トリグリセリド、脂肪酸エステル、又は鉱油を含んでいてもよいゲル剤、軟膏、ローション剤、又はクリーム剤として製剤化されている。他の局所用担体としては、液体石油、イソプロピルパルミテート、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中のポリオキシエチレンモノラウラト(polyoxyethylenemonolaurat)(5%)、又は水中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)が挙げられる。必要に応じて、他の物質、例えば、抗酸化剤、保水剤、粘度安定剤、及び類似の作用剤を添加してもよい。
【0150】
加えて、ある特定の場合では、本発明の組成物は、皮膚の上、中、又は下に位置する経皮デバイス内に配置されていてもよいことが予想される。そのようなデバイスとしては、受動的放出機序又は能動的放出機序のいずれかにより有効成分を放出するパッチ、インプラント、及び注射が挙げられる。経皮投与としては、身体の表面並びに上皮組織及び粘膜組織を含む身体通路の内層を介する全ての投与が挙げられる。そのような投与は、ローション、クリーム、泡、パッチ、懸濁物、溶液、スプレー、及び坐薬(直腸及び膣)形態の本発明の組成物を使用して実施することができる。
【0151】
経皮投与は、有効成分(つまり、阻害性ペプチド)、及び皮膚に対して無毒性であり、全身吸収させるための成分を皮膚を介して血流へと送達することを可能にする担体を含む経皮パッチの使用により達成することができる。担体は、任意の数の形態、例えば、クリーム剤及び軟膏剤、ペースト剤、ゲル剤、並びに閉塞デバイスの形態をとることができる。クリーム剤及び軟膏剤は、粘性液体又は水中油型若しくは油中水型のいずれかの半固体エマルジョンであってもよい。有効成分を含む石油又は親水性石油に分散された吸収性粉末で構成されるペーストが好適であり得る。有効成分を血流へと放出するために、様々な閉塞デバイス、担体を有するか又は有さない有効成分を含むリザーバーを覆う半透膜、又は有効成分を含むマトリックスを使用することができる。
【0152】
坐薬製剤は、坐薬の融点を変更するためのワックスが添加されているか又は添加されていないココアバター及びグリセリンを含む伝統的な物質から作られていてもよい。水溶性座薬基剤、例えば、種々の分子量のポリエチレングリコールも使用することができる。
【0153】
吸入又は吹送による鼻腔内送達(例えば、鼻腔内粘膜送達の鼻粘膜送達)による投与の場合、本明細書に記載の少なくとも1つの阻害性ペプチドを、微細な不活性粉末担体又は液体担体と組み合わせることができる。また、1つ又は複数の粘膜送達促進剤が存在していてもよい。ペプチド薬物の鼻腔内吸着のための吸収促進剤の例としては、これらに限定されないが、胆汁酸塩、界面活性剤、液酸(fluidic acid)誘導体、ホスファチジルコリン、シクロデキストリン、及び細胞透過性ペプチド(CPP)が挙げられる。
【0154】
種々の製剤を生産するための物質及び方法は当技術分野で知られており、本主題の発明を実施するために応用することができる。抗体の送達に好適な製剤は、例えば「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18版、1990年、Mack Publishing Co.:イーストン、ペンシルベニア州に見出すことができる。
【0155】
B. 追加の生物学的活性剤
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の阻害性ペプチドは、本発明の医薬組成物中の唯一の有効成分である。他の実施形態では、医薬組成物は、1つ又は複数の生物学的活性剤を更に含む。好適な生物学的活性剤の例としては、これらに限定されないが、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗生物質、抗酸化剤、防腐剤、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0156】
そのような医薬組成物では、阻害性ペプチド及び少なくとも1つの追加の療法剤は、ペプチド及び療法剤を同時に、別々に、又は順次に投与するための1つ又は複数の調製物中に組み合わせてもよい。より詳細には、本発明の組成物は、阻害性ペプチド及び療法剤を一緒に又は互いに独立して投与することができるように製剤化されていてもよい。例えば、阻害性ペプチド及び療法剤は、単一の医薬組成物中に一緒に製剤化されていてもよい。代替的に、それらは、(例えば、異なる組成物中に及び/又は容器中に)維持されており、別々に投与され、それにより医薬キット又はパックを構成していてもよい。
【0157】
2 - 医薬品パック及び診断キット
別の態様では、本発明は、本発明の医薬組成物の1つ又は複数の成分を含む1つ又は複数の容器(例えば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコ、又はボトル)を含む、療法目的及び/又は診断目的で本明細書に記載の少なくとも1つの阻害性ペプチドをそれを必要とする対象に投与することを可能にする医薬品パック又はキットを提供する。
【0158】
医薬品パック又はキットの様々な成分は、固体形態(例えば、凍結乾燥)で供給されてもよく又は液体形態で供給されてもよい。各成分は、一般に、それぞれの容器に小分けされているか、又は濃縮形態で提供されるのが好適だろう。本発明によるパック又はキットは、凍結乾燥成分を再構成するための媒体を含んでいてもよい。キットの個々の容器は、好ましくは、商業販売のために密封状態で維持されることになる。
【0159】
ある特定の実施形態では、医薬品パック又は診断キットとしては、阻害性ペプチド又はその組成物を投与するためのデバイス、例えば、注射針、ペンデバイス、ジェット式注射器、又は別の無針注射器を挙げることができる。
【0160】
ある特定の実施形態では、医薬品パック又は診断キットは、1つ又は複数の追加の療法剤を含む。任意選択で、容器には、医薬製品又は生物学的製品の製造、使用、又は販売を規制する政府規制当局により定められている形態の通知又は添付文書が添付されていてもよく、通知は、製造、使用、又は販売の規制当局によるヒト投与のための承認を反映している。添付文書の通知は、本明細書で開示される治療方法に従って医薬組成物を使用するための説明を含んでいてもよい。代替的に又は追加的に、添付文書は、本明細書で開示される診断方法に従って診断キットを使用するための説明を含んでいてもよい。診断方法に従ってキットを使用するための説明書は、投与及び/若しくは画像化のために患者の用意を調えるための説明、並びに/又は診断方法の画像化部分を実施するための説明、並びに/又は得られた結果を解釈するための説明を含んでいてもよい。また、キットは、必要な補正及び正規化による統計分析を可能にするソフトウェアパッケージを含んでいてもよい。
【0161】
任意選択で、容器には、医薬製品又は生物学的製品の製造、使用、又は販売を規制する政府規制当局により定められている形態の通知又は添付文書が添付されていてもよく、通知は、製造、使用、又は販売の規制当局によるヒト投与のための承認を反映している。
【0162】
識別子、例えば、バーコード、無線周波数、IDタグ等がキット内に又はキット上に存在していてもよい。識別子は、例えば、品質管理、在庫管理、作業場間の移動の追跡等の目的で、キットを一意的に特定するために使用することできる。
【0163】
本発明は、以下の図及び実施例により更に説明されることになる。しかしながら、こうした実施例及び図は、本発明の範囲を制限するものであるといかなる点でも解釈されるべきではない。
【実施例
【0164】
実施例
以下の実施例には、本発明を製作及び実施するための好ましい様式の一部が説明されている。しかしながら、実施例は例示を目的としているに過ぎず、本発明の範囲を制限することは意図されていないことが理解されるべきである。更に、実施例の説明が過去形で示されていない限り、本文は、本明細書の残りの部分と同様に、実験が実際に実施されたこと又はデータが実際に得られたことを示唆することを意味するものではない。
【0165】
(実施例1)
PHF6相互作用を効率的に標的とするヘキサペプチドの特定
アルツハイマー病及び他のタウオパチーの管理に関しては、2つの問題が残っている。第1には、診断が難しく、死後まで確定しないことが多い。第2には、病理進行を停止させるか又は更に緩徐させることができる治療法はまだ存在しないことである。本研究は、二重診断及び療法手法(セラグノスティクス)を可能にする新しい分子を提供する。より詳細には、目標は、(i)タウオパチーを治療するための療法剤として、及び(ii)タウオパチーの早期診断のためのプローブとして使用することができる分子を単一ツールにて生成することである。こうした分子の基本骨格は、異常なタウタンパク質内のアミロイド構造の形成に関与する分子内相互作用を阻害する合成ヘキサペプチドである。より正確には、特定されたヘキサペプチドは、アルツハイマー病の場合に観察されるPHF6ペプチド(306VQIVYK311、配列番号2)とそれ自体及び374HKLTF378(配列番号3)との相互作用、及びピック病の場合に観察されるPHF6ペプチドとそれ自体及び336QVEVKS341(配列番号4)との相互作用を標的とする。アミロイド凝集の核形成プロセスの原因であるこうした相互作用は、アルツハイマー病ではβl-βl及びβ1-β8、ピック病ではβ1-β1及びβ1-β4という2つの個別の又は同時の核形成ステップにより生じる(図1を参照)。
【0166】
I. VQIVYK(配列番号2)に由来する合成ヘキサペプチドの選択
A. 研究したヘキサペプチド
1. 最初の22個のヘキサペプチド
アミロイド凝集を支配する法則に関する答えを提供することを目的とした以前の研究(論文「Chaperons moleculaires et tauophathies: Effectet de Hsp90 sur la fibrillation in vitro du peptide VQIVYK issu de la proteine tau」、Claire Schirmer、2014年、Universite de Rennes、フランス)において、本発明者らの研究グループは、VQIVYKペプチドに由来する順列バリアントのアミロイド原性の比較研究を実施した。6つのアミノ酸(2つのバリン残基、1つのグルタミン、1つのイソロイシン、1つのチロシン、1つのリジン)の各々を入れ替えると、360通りの考え得る組合せがもたらされる。こうした360通りの組合せのうち、93個のみが実際にタンパク質に見出される。興味深いことには、360個のバリアントは全て、67.592~93.416の凝集スコアを有する。こうしたスコアは特に高く、6,400万個の考え得るヘキサペプチドのうち、67.592よりも高いか又はそれと等しいスコアを有するものは219387個(0.34%)のみである。22個の配列を、タウタンパク質に由来する参照ペプチドVQIVYK(スコアは67,671)と比較した「MetAmyl」スコアに基づいて選択した(Table 2(表2))。
【0167】
【表2】
【0168】
2. 追加の10個のヘキサペプチド
以前に記載のように、VQIVYK(ペプチド1p)は、タウタンパク質全体のアミロイド線維の形成に不可欠なセグメントである。加えて、これは、in vitroでの会合プロセスの研究にとって良好なモデルであり、in vitroで形成される構造は、側鎖を介して「フェイス-ツウ-フェイス(face-to-face)」及び「バック-ツウ-アップ(back-to-up)」で相互作用する平行βシートである。「フェイス-ツウ-フェイス」相互作用と競合するため、潜在的な阻害性ペプチドは、ペプチド性鎖のいずれかの側に少なくともグルタミン-バリン-リジン(QVK)又はバリン-イソロイシン-チロシン(VIY)配列を、VQIVYKと同じ位置に有するべきである。上記に記載され、以前に研究された22個のペプチドの中には、そのような配列を示すものはない。したがって、10個の追加のヘキサペプチド(Table 3(表3)を参照)を設計及び生成した。こうした10個のヘキサペプチドは、VQIVYKで観察される「フェイス-ツウ-フェイス」相互作用と競合することができるように、VQIVYKと同一の位置に3つの偶数又は奇数アミノ酸(つまり、V-I-Y、又はQ-V-K)を呈するという特殊性を有する。
【0169】
【表3】
【0170】
こうした10個のペプチドを、バイオインフォマティクス及び生化学技法の両方により、以前の22個のペプチドと同じように研究した。
【0171】
B. 物質及び方法
1. ペプチドの可溶化
PHF6ペプチド(Ac-VQIVYK-NH2)並びに派生ヘキサペプチドは、Proteogenix(登録商標)によりN-アセチル化及びC-アミド化された形態で生成され、凍結乾燥形態で供給された。これらは、元のタンパク質をより良好に模倣するために、アセチル化及びアミド化されている。それらをミリQ水に再懸濁し、0.2μmで濾過して5mg/mLに近い濃度を得た。15分間ボルテックスした後、ペプチド溶液を、超音波水浴(Advantage-Lab AL04-04)で15分間35℃にて超音波処理し、次いで100,000gで10分間20℃にて超遠心分離した(Beckman TL100)。残留凝集体を含むペレットを廃棄した。上清の濃度を、モル吸光係数1450M-1cm-1を使用して1%SDS中で280nmのUV吸収を測定することにより決定した。
【0172】
2. ペプチドの重合
解凍後、作業濃度に近い1.25倍を超える濃度の溶液を得るために、0.2μmで濾過したミリQ H2Oでの事前希釈を実施した。このストック溶液を25℃のウォーターバスで1時間静置してインキュベートした後、分光光度的にアッセイし、最終使用濃度の1.25倍に調整した。体積の1/4の5×原線維化緩衝液(50mM MOPS、750mM NaCl、pH=7.2)を添加して、最終濃度を1×原線維化緩衝液(10mM MOPS、150mM NaCl、PH=7.2)にすることにより重合を開始させた。試料を、ウォーターバスで1.5~2時間25℃にて静置してインキュベートした。蛍光法による重合の研究は、蛍光を観察することができるように、5×重合緩衝液に100μMのチオフラビンT(ThT)を補完したことを除いて、同じ条件下で実施した。
【0173】
(a)ペプチドの凝集特質の決定。重合後、試料を100,000gで5分間25℃にて超遠心分離した(Beckman TL100、ローターTL-A100)。次いで、各試料の上清を収集した。次いで、1% SDSの存在下で、三重重複の各上清のアッセイを280nmにて実施した。ランベルト-ベールの法則A=ε×l×C;ε(ペプチド)=1450M-1cm-1を使用して上清の濃度を決定した。次いで、ペレットの沈降性種の濃度を、差:「試料の総濃度-上清中に存在する遊離ペプチドの濃度」により推定した。
【0174】
(b)ペプチドのアミロイド原性特質の決定。以前に示されているようにペプチドが重合したら、400μM及び800μMの濃度で重合したペプチド40μLを、0.2×1cmのサーモスタット制御タンク内で360μLのチオフラビンT(10μM ThT、1×MOPS)で希釈し、最終体積を400μLにした。次いで、希釈直後に励起波長450nmでの蛍光スペクトル(470nm~600nm)を記録することにより、試料の蛍光を測定した(Perkin Elmer LS 55、PM 750、slit10)。
【0175】
4. ペプチドのアミロイド原性特質のバイオインフォマティクス予測。
ペプチドのアミロイド原性の予測を、ゼロ凝集特質を有することが知られている、2つのグリシン残基に挟まれた「スペーサー」ペプチドにより互いに連鎖及び隔てられている種々のペプチドで構成される仮想配列であるGPNSKQSQDEG(配列番号51)に対して実施した。Gamierら(Sci. Rep.、2017年、7巻:6812頁)に記載の、4つの独立した予測方法(Aggrescan、Pasta 2.0、Tango、及びSalsa)を使用した。Aggrescan予測法及びSalsa予測法で得られた結果は区別がつかないことが見出されたため、こうした2つの方法を考慮に入れず、Tango法及びPasta 2.0法のみを使用した。こうした2つの方法の各々において、最も高い確率を有するアミノ酸に100%のスコアを割り当てた。各アミノ酸には、2つの異なる方法を使用して得られたパーセンテージの平均を割り当てた。各ペプチドのスコアは、それを構成する各アミノ酸のスコアの平均である。各ペプチドの全てのスコアは、参照ペプチドVQIVYK(1p)のスコアを100%であるとみなして正規化した。
【0176】
C. 結果
1. バイオインフォマティクス手法
得られた結果は図2に示されている。1pのアミロイド原性スコアを100%に設定し、他のペプチドのスコアを1pに対して正規化した。22個のペプチドのセット(図2では赤色)では、このようにして計算したアミロイド原性のパーセンテージは、6pペプチドの3から13pペプチドの160まで様々であることが見出された。22個のヘキサペプチドは、強力なアミロイド原性であることが予測されるもの(1p、12p、13p、及び17p)、弱いアミロイド原性であることが予測されるもの(3p、4p、5p、6p、9p、21p、22p、及び23p)、及びその間のペプチドの3つのカテゴリーに分類することができる。10個の追加のペプチドのセット(図2では緑色)では、アミロイド原性のパーセンテージは、0tpペプチドの9から2tpペプチドの100まで様々であることが見出された。10個のヘキサペプチドは、強力なアミロイド原性であることが予測されるもの(1tp、2tp、3tp、5tp、6tp、7tp、8tp、及び9tp)、弱いアミロイド原性であることが予測されるもの(0tp、4tp、及び10tp)の2つのカテゴリーに分類することができる。アミノ酸の鎖であるため、このバッチの10個の追加ヘキサペプチドは、主にアミロイド原性である。
【0177】
2. 生化学的手法
バイオインフォマティクスによりアミロイド原性特質を予測した後、全てのペプチドを、生化学的手法、つまり沈降及び蛍光/ThTを使用して研究した。生化学実験は、400μM及び800μMの2つのペプチド濃度で実施した。800μMで得られた結果のみが示されている。この濃度での沈降では、重合後の沈降性ペプチドの量を測定し、総濃度の関数としてパーセンテージで表した。この値はペプチドの凝集特質に対応する。他方では、蛍光試験を使用してアミロイド原性特質を決定した。得られた蛍光値は、その蛍光が100%であるとみなした1pに対する正規化に対応する(Table 4(表4))。
【0178】
【表4】
【0179】
バイオインフォマティクス予測で観察されたように、全ての生化学的結果は、こうしたペプチドが、凝集及びアミロイド原性特質の両方の点で大きな不均質性を呈することを示している。最初の22個のヘキサペプチドのセットでは、ペプチドの沈降のパーセンテージは、0(8p、13p)から約95(1p、17p)まで様々である。研究したペプチドは全て、1pの蛍光よりも低い蛍光を示している。一部は著しい蛍光を示す(12p及び11pではそれぞれ82%及び25%)。しかしながら、これらのほとんどは、1pと比較して非常に弱い蛍光を示す。10個の追加のヘキサペプチドのセットでは、ペプチドの沈降のパーセンテージは、0(0tp、1tp、及び4tp)から約85(7tp)まで様々である。蛍光では、7tpヘキサペプチドは1pよりも非常に高いパーセンテージを呈する(×4.5)。他のペプチドは、アミロイド原性特質を反映して著しい蛍光を示し、5tp及び8tpではそれぞれ約70%及び約20%である。他のペプチドは、1pと比較して非常に低い蛍光を示す。
【0180】
研究した2つの生化学的パラメーターを比較するために、得られた結果をGamier-Delamarcheのグラフ表記の形式で示した(図3)。この表記では、各ペプチドはドットとして表され、その座標は、アミロイド原性特質及びその凝集特質の両方を反映する。1pペプチドはグラフの左上にあり、その強力なアミロイド原性能及び自己凝集能を反映している。22個の最初のペプチドのうち、一部のペプチドは、アミロイド原性であり、凝集性が乏しく(21p)、その逆も同様である(19p)。10個の追加のヘキサペプチドのセットでは、一部は、アミロイド原性であり、凝集性であり(5tp、7tp)、他のものは、アミロイド原性が弱く、凝集性が弱い(1tp、4tp、及び6tp)。
【0181】
研究した32個のヘキサペプチドのうち、10個を更なる調査のために選択した。アミロイド原性が弱く、凝集性が弱いこうした10個のヘキサペプチドは、4p、5p、6p、9p、13p、14p、23p、1tp、4tp、及び6tpである。
【0182】
II. 10個の選択された合成ヘキサペプチドがPHF6重合に対して及ぼす効果
まず、VQIVYK(PHF6)によりin vitroで形成されたアミロイド線維の重合動力学を観察及び特徴付けることを可能にする研究モデルを再適用及び最適化した。次いで、VQIVYKに由来する10個の選択されたヘキサペプチド(4p、5p、6p、9p、13p、14p、23p、1tp、4tp、及び6tp)を、VQIVYK凝集に対するそれらの効果について試験した。
【0183】
A. 物質及び方法
1. ペプチドの可溶化。上記を参照されたい。
2. 5×原線維化緩衝液の調製
5×原線維化緩衝液(50mM MOPS、750nM NaCl、pH7.2)の溶液100mLの場合、10mLの500mM MOPS及び25mLの3M NaClを滅菌水で補完した。水酸化ナトリウムでpHを7.2に調整した。
【0184】
3. ペプチドの重合
解凍後、各ペプチドについて、作業濃度に近い濃度の溶液を得るために、滅菌水による目的のペプチドの事前希釈を実施した。次いで、ペプチドを4℃で一晩静置してインキュベートした。実験当日、ペプチド溶液を10分間超音波処理し、室温で1時間静置し、再度10分間超音波処理し、280nm(ε=1450M-1cm-1)で分光光度的に分析した。UVスペクトルは、300nmを0として事前に正規化した。溶液は、最終的に所望の濃度を1/4を上回るペプチド濃度に調製した。体積の1/4の5×原線維化緩衝液を添加して、最終濃度を1×原線維化緩衝液(10mM MOPS、150mM NaCl、PH=7.2)にすることにより、VQIVYKの重合を開始させた。
【0185】
4. 限界アセンブリ濃度(CCa)
VQIVYKペプチド(種々の濃度、52μM~344μMの)をその体積の1/4の5×原線維化緩衝液と混合することにより、VQIVYKの重合を開始させた。重合後、試料を16,900gで15分間沈降させた。遊離ペプチドの濃度を、nanodrop800でアッセイすることにより測定した。したがって、重合ペプチドの濃度は、以下の関係性を使用して決定した。
[1p]ペレット=[lp]初期-[lp]上清
【0186】
5. 蛍光分光法による、VQIVYK重合に対する派生ペプチドの効果
分析は、4セルラックを装着した蛍光分光計(Perkin Elmer社製のLS55)で実施した。黒色石英セル(0.2×1.0cm)を使用した。励起波長及び発光波長はそれぞれ450nm及び480nmであり、感度(光電子増倍管「PM」)を800Vに設定した。スリットのサイズは3nm~6nmと様々であった。ラックのセルの位置に関して各動力学の正規化を実施した。
【0187】
6. 動力学データの処理
まず、KaleidaGraphソフトウェアの「スムーズ」オプションを使用して、10ポイントにわたって結果を平滑化した。ラックのセルの位置に関して正規化した後、原線維化緩衝液を添加する前に、各動力学の開始を0に調整した。最後に、各動力学の結果を、100%とみなした、重合開始から100分後の1p対照の蛍光強度に対して正規化した。
【0188】
B. 結果
1. 限界アセンブリ濃度の決定
当技術分野で知られているように、VQIVYKペプチドの各バッチについて、限界アセンブリ濃度を決定する必要がある。本研究で使用したバッチのCCaは、実験的に32μMであると決定された。
【0189】
2. 蛍光分光法実験の最適化
チオフラビン-T(ThT)(ペプチド重合の研究を可能にするインターカレーター)の場合、励起及び発光の最大蛍光強度が観察される波長値はそれぞれ450nm及び480nmであることが観察されている。したがって、こうした値を残りの実験で使用した。ThTの作業濃度は、ThTが重合速度に影響を及ぼさない濃度である32μMに設定した。1pの濃度は、満足のいく動力学が得られた155μMに設定した(データは示さず)。
【0190】
3. 10個の選択されたペプチドがPHF6の重合に対して及ぼす効果
第1の手法として、1pの2倍高いペプチド濃度、つまり310mMのペプチド濃度で作業することを選択した。10個の選択されたペプチドの各々は、1pでのみ試験した(図4)。
【0191】
1pの動力学(赤色)は、核形成段階から始まり、続いて急速な重合(伸長)段階を経て、プラトーを形成する飽和段階へと向かう傾向がある。1p+4pの動力学(青色)は、1p単独の動力学に似ているが、重合速度はより遅い(1p単独の50%)。1p単独の蛍光強度の80%に等しい蛍光強度で飽和プラトーに到達する。したがって、4pは1pの重合を阻害する。23pの存在下では(緑色)、より長い核形成段階が観察される。これは、1p単独の場合と比較して最高速度に到達するのがより遅いことを意味する。速度はより遅いが(1p単独の速度の65%)、100分時の蛍光強度はより高く(1p単独の161.7%)、より高いプラトーにより遅く到達する可能性が高い。23pは1pと会合してアミロイド構造を形成すると考えられるため、非阻害性ペプチドであると分類した。1tpの存在下では(オレンジ色)、核形成段階を区別することが困難である。重合段階では、速度が強力に阻害される(1p単独の速度の12%)。同様に、100分時の蛍光強度は非常に低い(1pの23.5%)。したがって、1tpは阻害性ペプチドである。
【0192】
例として、1pの存在下又は非存在下での3つのペプチド1tp、4tp、及び6tpの動力学を図5に示す。図示されていないが、4p及び5pも治療上興味深い。
【0193】
3つのペプチド(1tp、4tp、及び6tp)は、蛍光がほぼゼロであることから明らかなように、それら自体では重合しない。1tp又は6tpの存在下での1pは、明らかに阻害されている最大重合速度及び最終蛍光強度を呈することが見出された。こうした3つのペプチドの重合を15時間にわたって追跡した(図示せず)。より長期間にわたって、著しい変化はなく、阻害効果が持続することが見出された。
【0194】
様々なペプチドの存在下にて全ての動力学を処理及び分析した後、選択された全てのペプチドの蛍光強度と最大重合速度とを比較した(図6)。様々なペプチドの効果を定量化し、ペプチドを分類した。重合速度については阻害の閾値を50%に設定し、蛍光強度については閾値を100%に設定した。
【0195】
こうした基準に基づき、試験した10個の選択されたペプチドのうち、5個のペプチド:4p、5p、1tp、4tp、及び6tpが顕著な阻害効果を呈する。選択されたペプチドの存在下での1pの重合動力学は、3つのカテゴリー:8p及び23pペプチドで観察される非常に高い速度及び蛍光強度を示す動力学;1p単独の動力学に概ね従う重合動力学、例えば、ペプチド4p、5p、9p、13p、及び14pで観察されるもの;及び1p単独に比べて遅く、より低い蛍光強度を有する動力学、例えば、1tp、4tp、及び6tpペプチドで観察されるものに分類することができる。
【0196】
最も興味深い阻害特性を示すことが見出されたペプチドは、それらの変化型を研究するために何回か試験した(図7)。
【0197】
また、選択されたヘキサペプチドの阻害活性を、raptorXプログラムを使用した分子モデリングによりin silicoで研究した。図8(A)は、1tpヘキサペプチドがPHF6-HKLTF相互作用に及ぼす効果の特定の例を示す。RaptorXソフトウェアを引き続き使用して、アルツハイマー病の場合、対らせん状細線維(PHF)内にて、PHF6ペプチド(配列番号2)とそれ自体及び374HKLTF378(配列番号3)との間で生じる相互作用をin silicoでモデル化することが可能だった(図8B図8I)。また、PHF6/HKLTF対の数と比較して、異なる化学量論:0.25(図8(B-II))、0.50(図8(B-III))、0.75(図8(B-IV))、及び1.00(図8B図8V)の化学量論で、この構造に対する阻害性ペプチドの一部(6tp及び4tp)のin silico効果を試験することも可能だった。図9は、4tpと遊離タウタンパク質(R3/R4リピート)及びPHF構造との相互作用のin silico予測を示す。この図は、4tpがまず遊離タウタンパク質、つまりそのセグメントβ1(PHF6、306VQIVYK311)ストランド、β4(336QEVVKS342 - 配列番号52)ストランド、β7(356SLDNITHV363 - 配列番号53)ストランド、及びβ8(371IETHKLTF37 - 配列番号54)ストランドと特異的に相互作用し、次にPHFの末端と相互作用することができることを明確に示している。こうした結果は、4tpペプチドが遊離タウタンパク質の自己会合プロセスを阻害することができることを示し、PHFの成長を遮断することができることも示している。
【0198】
C. 考察
10個の選択されたペプチドは、3つのカテゴリー:「一切の阻害効果を示さない」ペプチド、8p、9p、13p、14p、及び23pペプチド;「弱い阻害効果を示す」ペプチド、4p、5p、及び4tpペプチド;並びに「強力な阻害効果を示す」ペプチド、1tp及び6tpペプチドに分類された。PHF6凝集の阻害の点で最も興味深い5つの選択されたペプチド(4p、5p、1tp、4tp、及び6tp)のうち、3つ(1tp、4tp、6tp)は1pと同じ位置に3つのアミノ酸を有する配列を有する。
【0199】
将来の実験としては、10個の選択されたヘキサペプチドの逆配列を有する10個のヘキサペプチドの研究が挙げられる。加えて、10個の選択されたヘキサペプチドよりも凝集性が高いにも関わらず、アミロイド原性が非常に不良なペプチド3p及び6pを試験することも興味深いだろう。同様に、ヘキサペプチドの混合物が、PHF6ペプチドの凝集に対して及ぼす効果を試験する必要があるだろう。VQIVYKの場合はヒト病理学的タウタンパク質β1、HKLTFの場合はβ8内の真の相互作用ペプチドに対応するVQIVYK/HKLTF相互作用モデルを開発し、特徴付けることになり、このモデルでヘキサペプチドを試験することになる。病理学的ヒトタウタンパク質を発現する細胞モデルを使用してin vitro試験を実施することになり、続いて、病理学的ヒトタウを発現するモデル、特にレンヌ(フランス)のISERT(Institut de Recherche en Sante, Environnement et Travail)で開発されたゼブラフィッシュモデルで実験を行うことになる。同時に、最も効率的なヘキサペプチドの化学修飾を行って、それらを診断方法に有用にし、ヒトにおける療法使用に望ましい安定性及び他の特性を向上させることになる。
【0200】
(実施例2)
in vivoでの療法用及びアミロイド性ヘキサペプチドの評価
「療法用」と分類される3つのヘキサペプチド(1tp、4tp、6tp)及び「アミロイド性」と分類される2つのペプチド(7tp及び1p)が、神経芽細胞腫株SH-SY5Yの細胞の増殖に及ぼす効果を、1×DMEM培地、8%血清中の100μMの濃度のヘキサペプチドの存在下で24時間処理した後で研究した。得られた結果は、図10(A)に示されている。得られた画像により、「療法用」と分類されたペプチドの存在下で培養された細胞は、外観だけでなく数においてもペプチドの非存在下で培養された対照細胞と同一であるように思われることが明らかに示された。逆に、「アミロイド性」に分類されたペプチドの存在下で細胞を培養すると、細胞数が著しく減少するように思われ、外見も異なっていた。したがって、「アミロイド性」として分類されたペプチドと比較して、「治療用」として分類されたペプチドは神経芽細胞腫細胞増殖にいかなる効果も示さないと思われる。
【0201】
こうした細胞の生存率を、2つの異なる方法:試験する様々なヘキサペプチドで処理した24時間及び48時間後にMTT試験を使用する方法、及び様々なヘキサペプチドで処理した24時間及び72時間後に細胞を計数する方法により評価した。得られた結果は、図10(B)に示されている。2つの方法を使用して得られた結果は、上記でなされた観察を裏付けた。細胞増殖は、「アミロイド性」として分類されたペプチドの存在下で観察されたものとは対照的に、「治療用」として分類されたペプチドの存在下では影響を受けなかった。更に、細胞増殖は、「療法用」として分類されたペプチドの存在下では、対照群と比較してより良好だった。これは、細胞増殖を促進する必須アミノ酸(V、I、及びK)又は半必須アミノ酸(Y)がペプチド配列に存在することにより説明することができる。
【0202】
結論として、本実験では、「療法用」として分類及び選択されたペプチドが、神経芽細胞腫株SH-SY5Yの細胞の増殖に関して総合的な安全性を示したことが一切の疑いなく実証された。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8A
図8B
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
【配列表】
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【国際調査報告】