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▶ シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】オリゴマー化プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 2/36 20060101AFI20241108BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20241108BHJP
   C07C 11/02 20060101ALI20241108BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
C07C2/36
C07C11/08
C07C11/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532794
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 US2021061402
(87)【国際公開番号】W WO2023101667
(87)【国際公開日】2023-06-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002105
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マクニール,エドワード
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC23
4H006BA21
4H006BA48
4H006BC10
4H006BC14
4H006BC51
4H006BC52
4H039CA20
4H039CF10
4H039CL11
4H039CL19
(57)【要約】
本明細書に記載される実施形態は、エチレンから1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンへのオリゴマー化の間に反応器を洗浄するための方法を提供する。本方法は、a)エチレンを反応させて、反応器インタークーラの熱伝達係数が約100~約160BTU/hr/ft/°Fの範囲になるまで、かつ/又は反応器インタークーラ全体の圧力低下が約25%増加するまで、約25℃~150℃の範囲の温度でオリゴマー化触媒の溶液を含む液体溶媒相でエチレンを接触させることによるオリゴマー化を介して、1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンを生成することと、b)オリゴマー化触媒溶液の流量を減少させることと、c)反応の温度を約125~145℃の範囲まで上昇させて、工程a)で生成されたポリマー生成物を1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンを含む相に配置することと、d)反応器を工程a)の条件に戻すことと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンから1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンへのオリゴマー化の間に反応器を洗浄するための方法であって、前記方法が、
a)エチレンを反応させて、反応器インタークーラの熱伝達係数が約100~約160BTU/hr/ft/°Fの範囲になるまで、かつ/又は前記反応器インタークーラ全体の圧力低下が約25%増加するまで、約25℃~150℃の範囲の温度でオリゴマー化触媒の溶液を含む液体溶媒相でエチレンを接触させることによるオリゴマー化を介して、1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンを生成することと、
b)前記オリゴマー化触媒溶液の流量を減少させることと、
c)前記反応の温度を約125~145℃の範囲まで上昇させて、工程a)で生成されたポリマー生成物を1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンを含む相に配置することと、
d)前記反応器を工程a)の条件に戻すことと、
を含む、方法。
【請求項2】
工程c)が、10時間~18時間で終了する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応器インタークーラ全体の圧力低下が約40psigであるときに工程c)を終了する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各インタークーラのプロセス出口温度と各反応器への温度勾配水出口温度との間の差が約1°~約5°Fであるときに工程c)を終了することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
システム圧力が、プロセス全体を通して維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンから前記ポリマー生成物を分離することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー生成物を1つ以上の相分離容器から除去することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記オリゴマー化触媒溶液の流量を減少させることが、エチレン消費を最小持続可能速度に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記液体溶媒相の流量が、工程c)の間に増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程c)における前記ポリマー生成物が、プロセスから除去される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
直鎖モノオレフィンは、種々の用途において確立された有用性を有する化合物である。末端直鎖モノオレフィン、特に1分子当たり12~20個の炭素原子を有するものは、種々の種類の洗剤の製造における有用な中間体として知られている。
【0002】
洗剤範囲の末端直鎖モノオレフィンの調製のために、いくつかの合成技術が開発されてきた。原料の入手可能性及びコストの観点からの1つの合成実施形態は、ある種の極性溶媒に溶解した触媒活性ニッケル錯体と接触させることによる、エチレンからのより高分子量の直鎖モノオレフィン(偶数のアルファ-モノオレフィン)へのオリゴマー化を伴う。様々な他の好適なオリゴマー化触媒及びプロセスも知られている。このようなオレフィンは、例えば、LLDPE用のコモノマーとして、又は合成潤滑剤として有用なC~C10範囲のもの、洗剤として有用なC12~C20範囲のもの、及びより高級のオレフィンを含む。低分子量アルコールを多価酸、例えばフタル酸でエステル化して、ポリ塩化ビニル用の可塑剤を形成することができる。残念ながら、アルファ-オレフィンの製造中に、残留物が反応器の壁及び反応器の他の表面上に堆積する場合がある。この残留物は、反応器の内壁、他の部分に蓄積し、熱伝達を阻害し、反応器を過熱させる可能性がある。
【0003】
オリゴマー化プロセスは、単純な二価ニッケル塩を有する触媒、水素化ホウ素還元剤、水溶性塩基、o-ジヒドロカルビル-ホスフィノ安息香酸及びそれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される配位子、並びに三価(三配位)ホスファイトを使用する。
【0004】
これらの触媒及びその中の不純物は、ポリマー性ポリエチレンの製造を促進する場合がある。ポリマーは、反応器中の溶媒相及び炭化水素相の両方に不溶性である。ポリマーは、制御弁、交換器、オリフィス、ライン、更にはカラムトレイを詰まらせたり汚したりする可能性があるので、全ての可能性のある生成物の中で最も望ましくない。オリゴマー化プロセスで生成されると、ポリマーは、エチレン供給物からの所望の生成物の収率の低下を引き起こす。ポリマーは、反応器から下流の機械装置を急速に汚染する傾向があるという点で、更により好ましくない影響を有する。したがって、プロセスからポリマーを除去する手順が望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に記載される実施形態は、エチレンから1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンへのオリゴマー化の間に反応器を洗浄するための方法を提供する。本方法は、
a)エチレンを反応させて、反応器インタークーラの熱伝達係数が約100~約160BTU/hr/ft/°Fの範囲になるまで、かつ/又は反応器インタークーラ全体の圧力低下が約25%増加するまで、約25℃~150℃の範囲の温度でオリゴマー化触媒の溶液を含む液体溶媒相でエチレンを接触させることによるオリゴマー化を介して、1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンを生成することと、b)オリゴマー化触媒溶液の流量を減少させることと、c)反応の温度を約125~145℃の範囲まで上昇させて、工程a)で生成されたポリマー生成物を1つ以上の直鎖アルファ-オレフィンを含む相に配置することと、d)反応器を工程a)の条件に戻すことと、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書に記載される実施形態は、触媒を使用することによって、エチレンから、高い直鎖性を有するオレフィン生成物の混合物へのオリゴマー化のためのプロセスを含む。オリゴマー化プロセスの主要な工程は、触媒の調製、反応、後処理のための液体生成物と溶媒相(その一部は再循環され、一部は分留によって精製される)への反応装置流出物の分離、生成物相から残留触媒を除去するための生成物相のスクラビング、スクラビングされた生成物の脱エテン化、及び脱エテン化生成物を所望の生成物画分に分離するための更なる後処理を含む。任意選択的な工程は、液相分離の前に反応器流出物から混入した気体状エチレンを分離除去することである。
【0007】
オリゴマー化プロセスは、単純な二価ニッケル塩を有する触媒、水素化ホウ素還元剤、水溶性塩基、o-ジヒドロカルビル-ホスフィノ安息香酸及びそれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される配位子、並びに三価(三配位)ホスファイトを使用する。
【0008】
オリゴマー化プロセスの実施形態では、オリゴマー生成物は、任意の所与の生成物について、「生成物分布」定数又はK係数と呼ばれる単一の定数によって定義することができる幾何学的分布パターンで、ブテンから、分析手順によって決定することができる程度までの大きさの全ての偶数炭素数オレフィンを含有する。K係数は、幾何比又はSchulz-Flory分布で形成されるアルファオレフィン反応器生成物中の成分について一定である。生成物分布は、以下の数式によって定義することができる。
【0009】
【数1】
【0010】
生成物混合物中の成分の割合は、K係数によって制御可能である。生成物分布定数は、触媒の種類、反応溶媒又は希釈剤、反応条件、触媒濃度及び反応溶液のエチレン飽和度を含む多くの要因によって影響を受ける。K係数は、オリゴマー化プロセスにおける生成物分布を設定するだけでなく、オリゴマー化生成物全体の平均炭素数も決定する。
【0011】
いくつかの実施形態では、C12~C18の範囲のアルファ-オレフィンが、特に望ましい市販製品である。オリゴマー化触媒及び条件は、反応工程(生成物分布定数が約0.9未満であり得る条件)において比較的高収率のC12~C18オリゴマーを生成するように選択されてもよい。
【0012】
ニッケル塩:一般に、本発明の触媒組成物を調製するために、ニッケル塩が反応媒体中に十分に可溶性である限り、任意の単純な二価ニッケル塩を使用することができる。「単純な二価」ニッケル塩という用語は、+2の形式原子価を有し、2つの一価に荷電したアニオン性基(例えば、ハロゲン化物)又は1つの二価に荷電したアニオン性基(例えば、炭酸塩)にイオン結合又は電気原子価結合を介して結合しており、任意の他の追加の分子種又はイオン種と錯化又は配位していないニッケル原子を意味する。したがって、単純な二価ニッケル塩は、1つ又は2つのアニオン性基に結合し、更に中性キレート配位子又は一酸化炭素及びホスフィンなどの基に錯化又は配位している錯体二価ニッケル塩を包含しない。しかしながら、単純な二価ニッケル塩は、1つ又は2つのアニオン性基に加えて結晶水を含有するニッケル塩を含むことを意味する。
【0013】
ほとんどの場合、触媒調製に使用される反応希釈剤又は溶媒への溶解度が少なくとも0.001モル/リットル(0.001M)である単純な二価ニッケル塩が、ニッケル触媒前駆体として使用するのに十分である。少なくとも0.01モル/リットル(0.01M)の反応希釈剤又は溶媒への溶解度が好ましく、少なくとも0.05モル/リットル(0.05M)の溶解度が最も好ましい。触媒調製のために適切に使用される反応希釈剤及び溶媒は、オリゴマー化プロセスのために適切に使用される極性有機溶媒であり、この溶媒は以下に定義される。
【0014】
好適な単純な二価ニッケル塩としては、無機及び有機の二価ニッケル塩が挙げられる。例示的な無機ニッケル塩は、塩化ニッケル、臭化ニッケル及びヨウ化ニッケルなどのハロゲン化ニッケル、炭酸ニッケル、塩素酸ニッケル、フェロシアン化ニッケル、並びに硝酸ニッケルである。例示的な有機二価ニッケル塩は、最大10個の炭素原子、好ましくは最大6個の炭素原子のニッケルアルカノエートなどのカルボン酸のニッケル塩、例えば、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、ヘキサン酸ニッケルなど;シュウ酸ニッケル;安息香酸ニッケル及びナフテン酸ニッケルである。他の好適な有機塩としては、ベンゼンスルホン酸ニッケル、クエン酸ニッケル、ニッケルジメチルグリオキシム及びニッケルアセチルアセトネートが挙げられる。
【0015】
ニッケルハロゲン化物、特に塩化ニッケル、及びニッケルアルカノエートは、一部には、低コストで入手可能であり、極性有機溶媒に可溶性であるため、好ましいニッケル塩である。
【0016】
ジヒドロカルビルホスフィノ安息香酸:本発明の触媒組成物の調製に用いられるo-ジヒドロ-カルビルホスフィノ-ベンゾエート配位子は、一般に8~30個の炭素原子を有するが、好ましくは14~20個の炭素原子を有し、好ましくは式(I)によって表される。
【0017】
【化1】
式中、Rは一価のヒドロカルビル基であり、Mは水素又はアルカリ金属である。M基は、好ましくは水素、ナトリウム又はカリウムである。R基の具体例は、メチル、エチル、イソブチル、ラウリル、ステアリル、シクロヘキシル、及びシクロペンチルなどの炭化水素アルキル基;ベンジル、フェニルシクロヘキシル、及びフェニルブテニルなどの芳香族置換基を有する炭化水素アルケニルR基である。フェニル、トリル、キシリル及びp-エチルフェニルなどの芳香族R基。好ましいR基は、6~10個の炭素原子の芳香族基、特にフェニル、及び5~10個の炭素原子のシクロアルキル、特にシクロヘキシルである。
【0018】
式(I)のo-ジヒドロカルビル-ホスフィノベンゾエート配位子の具体例は、o-ジフェニルホスフィノ安息香酸、o-(メチルフェニル-ホスフィノ)安息香酸、o-(エチルトリルホスフィノ)安息香酸、o-ジシクロヘキシルホスフィノ安息香酸、o-(シクロヘキシル-フェニルホスフィノ)安息香酸、o-ジペンチルホスフィノ安息香酸及びそれらのアルカリ金属塩である。
【0019】
式(I)の好ましいベンゾエート配位子は、R基が6~10個の炭素原子の芳香族又はシクロアルキルであるもの、特にジアリールホスフィノ安息香酸、アリールシクロアルキルホスフィノ安息香酸及びそれらのアルカリ金属塩である。このようなアリール置換及びシクロアルキル置換ホスフィノ-ベンゾエート配位子は、それらから調製される触媒組成物が、エチレンから、有用なC12~C20炭素範囲のオリゴマーを高い割合で含有する生成物混合物へのオリゴマー化を触媒するので、主として好ましい。
【0020】
o-ジヒドロカルビルホスフィノベンゾエート配位子は、遊離酸として好適に使用されるが、o-ジヒドロカルビル安息香酸のアルカリ金属塩を用いてより良好な結果が得られることもある。アルカリ金属塩は、触媒調製の前にアルカリ金属水酸化物又は酸化物溶液で処理することによって安息香酸から適切に予め形成されるか、又はあるいは、カルボン酸塩は、触媒調製中に等モル量のカルボン酸とアルカリ金属水酸化物との反応によって系内で生成される。
【0021】
触媒を調製する場合、ニッケル塩のベンゾエート配位子(遊離酸又はその塩)に対するモル比は、少なくとも1:1であり、すなわち、少なくとも1モルのニッケル塩がベンゾエート配位子1モルに対して提供される。ニッケル塩の安息香酸配位子(又はその塩)に対する適切なモル比は、約1:1~約10:1の範囲であるが、約1:1~約3:1のモル比が好ましい。
【0022】
水素化ホウ素還元剤:一般に、妥当な純度の任意の水素化ホウ素還元剤が、本発明のプロセスでの使用に適している。具体例としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素リチウムなどの水素化ホウ素アルカリ金属塩;各アルコキシが1~4個の炭素原子を有するアルコキシ水素化ホウ素アルカリ金属塩、例えば、トリメトキシ水素化ホウ素ナトリウム及びトリプロポキシホウ素カリウム、並びに各アルキルが1~4個の炭素原子を有する水素化ホウ素テトラアルキルアンモニウム、例えば水素化ホウ素テトラエチルアンモニウムが挙げられる。主として商業的入手可能性のために、水素化ホウ素アルカリ金属塩が好ましく、特に好ましいのは水素化ホウ素ナトリウムである。
【0023】
触媒を調製する場合、水素化ホウ素塩のニッケル塩に対するモル比は、少なくとも約0.2:1である。水素化ホウ素/ニッケル比に明確な上限はないようであるが、経済的理由から、モル比は約15:1以下であることが特に好ましい。水素化ホウ素塩のニッケル塩に対する好ましいモル比は、通常約0.25:1~約5:1であり、約0.5:1~約2:1の比がより好ましい。最良の結果は、多くの場合、モル比が約2:1であるときに得られる。
【0024】
水溶性塩基:任意の水溶性塩基が、pH調整目的のために使用され得る。例としては、炭酸水素カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、水酸化カリウム、及びカリウムtert-ブトキシド、並びに対応するナトリウム化合物が挙げられる。
【0025】
触媒を調製する場合、水溶性塩基の水素化ホウ素塩に対するモル比は、約0:1~約5:1の範囲である。水溶性塩基の水素化ホウ素塩に対する好ましいモル比は、通常、約0.25:1~約2:1である。
【0026】
ホスファイト:任意の三価ホスファイトを使用することができるが、アルキルホスファイトが好ましく、直鎖アルキルホスファイトが最も好ましい。好適なホスファイトの例は、トリイソプロピル-、トリイソブチル-、トリ-sec-ブチル-、トリメチル-、トリエチル-、トリ-n-プロピル-、及びトリ-n-ブチルホスファイトである。触媒を調製する場合、ベンゾエート配位子のホスファイトに対するモル比は、約50:1~約1000:1の範囲、好ましくは約100:1~約300:1の範囲であり得る。
【0027】
触媒の調製:本発明の触媒組成物は、触媒前駆体、すなわちニッケル塩、安息香酸配位子、ホスファイト、水溶性塩基及び水素化ホウ素還元剤を、極性有機溶媒(又は希釈剤)、例えば水素化ホウ素還元剤によって還元されないオリゴマー化プロセスに用いられる極性有機希釈剤又は溶媒中、エチレンの存在下で接触させることによって適切に予め形成される。
【0028】
触媒は、一般に約0℃~約50℃の温度で調製されるが、実質的に周囲温度、例えば約10℃~約30℃を使用してもよい。一般に、触媒前駆体を約10~約1,500psigのエチレン下で接触させる。約5分間~1時間の接触時間が一般に十分であるが、それより長くてもよい。いくつかの実施形態では、触媒調製領域におけるpHは、約7~約9の範囲であり、いくつかの実施形態では約8.7~約8.9の範囲である。pHは、当業者に公知の任意の適切な方法及び/又は分析器によって分析され得る。pHは、オンライン/系内で分析されてもよく、又はプロセス試料が分析のために触媒調製領域から取り出されてもよい。いくつかの実施形態では、pHが範囲外であり得るという視覚的指標は、沈殿物(典型的には黒色)の存在及び/又は触媒調製溶液の色の暗色化を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、ニッケル塩、安息香酸配位子、水溶性塩基及び水素化ホウ素還元剤は、触媒溶液タンク内の触媒調製領域においてバッチで調製される。固体安息香酸配位子及びニッケル塩は、別々の容器中で極性有機溶媒に溶解され得る。いくつかの実施形態では、極性溶媒は、反応器溶媒と同じである。水溶性塩基及び水素化ホウ素還元剤を冷水(約4℃)に溶解する。いくつかの実施形態では、ニッケル塩、水素化ホウ素塩及び塩基を、エチレン雰囲気下で接触させる。次いで、安息香酸配位子及び三価ホスファイトを添加する。
【0030】
いくつかの実施形態では、計量ポンプを使用して、様々な触媒成分溶液を触媒溶液タンクから反応器系に注入する。配位子溶液は、ホスファイトと共に反応器循環ループに直接注入される。ニッケル塩溶液をスクラバから来る反応器溶媒中に注入し、約117bargの高圧下でエチレンを含む触媒調製容器中で水溶性塩基及び水素化ホウ素還元剤と合わせ、反応器系に注入する。触媒注入速度を増加させると、反応速度又はエチレン取り込みが増加する。ホスファイトは溶解させる必要はなく、そのまま反応器系に注入される。
【0031】
他の実施形態では、触媒調製容器は必要とされない。触媒の成分を、機械的混合の必要性を除去する標準的なパイプ接合部に供給してもよい。成分は、シーケンスで供給され、次いで系から失われる可能性のある触媒のための補給物質として主反応ループに添加される。シーケンスは、以下の通りである。(i)極性有機溶媒中のニッケル塩の混合物をパイプを通して流すこと、(ii)流れているニッケル/極性有機溶媒混合物に、水性水素化ホウ素移動剤を塩基と共に添加すること、及び(iii)続いて、超臨界エチレンの流れを、合わせたニッケル/極性有機溶媒/水素化ホウ素塩/塩基の流れに添加すること。
【0032】
水溶性塩基及び水素化ホウ素還元剤溶液は、分解を遅らせるために低温及び塩基性に保たれるべきである。冷却水システム(50/50アルコール又はグリコール水混合物)は、必要な冷却を提供する。配位子溶液及びニッケル溶液を約40℃に保温して、溶媒副反応の起こらない所望の溶解度を達成する。安息香酸配位子及びホスファイトに対するこれらの成分、ニッケル塩+水溶性塩基及び水素化ホウ素還元剤の割合を変えることによって、K係数を制御することができる。
【0033】
反応条件:エチレンを、反応溶媒又は希釈剤の存在下、液相中で触媒組成物と接触させる。エチレン1モル当たり最大約30リットルの濃度が満足に使用される。一般に、溶媒又は希釈剤中のニッケル金属として計算した触媒の濃度は、少なくとも0.001Mであるが、好ましくは約0.002M~約0.01Mである。一般に、触媒系及び反応媒体は、連続的に、又は1回以上の投入のいずれかで反応器に導入され、エチレンは、加圧下で気体として、反応全体を通して連続的又は断続的に導入される。反応器内の圧力は、一般に、反応によって消費されたエチレンを置き換えるために適切な速度でエチレンを添加することによって維持される。
【0034】
適切な溶媒(又は希釈剤)は、官能基、例えば、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、カルボアルコキシ、アルカノイルオキシ、シアノ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミン、アミド、N-アルキルアミド、N,N-ジアルキルアミド、スルホニルアルキルなどの官能基に組み込まれた酸素、硫黄、窒素及びリンなどの原子を含有する有機化合物などの極性有機化合物である。例示的な酸素化有機溶媒は、グリセロールトリアセテート、エリスリトールのテトラシルエステル、ジエチレングリコールジアセテートなどのポリヒドロキシアルカンの完全にエステル化されたポリアシルエステル;酢酸エチル、プロピオン酸ブチル、及び酢酸フェニルなどのモノエステル;シクロアルキルエーテル、例えば、ジオキサン、テトラヒドロピラン;非環状アルキルエーテル、例えば、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びジブチルエーテル、アニソール、1,4-ジメトキシベンゼン及びp-メトキシトルエンなどの芳香族エーテル;脂肪族アルコール、例えばメタノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロエタノール、トリフルオロプロパノール、sec-ブタノール、ペルフルオロブタノール、オクタノール、ドデカノール、シクロアルカノール、例えば、シクロペンタノール、及びシクロ-ヘキサノール、多価非環状ヒドロキシアルカン、例えば、グリセロール及びトリメチレングリコール、2~10個の炭素のアルカンジオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール及び2,5-ヘキサンジオール;フェノール、例えば、クレゾール、p-クロロフェノール、m-ブロモフェノール、2,6-ジメチルフェノール、p-メトキシフェノール、2,4-ジクロロフェノール;アルキレンカーボネート、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートである。窒素含有有機溶媒の具体例は、ニトリル、例えば、アセトニトリル及びプロピオニトリル;アミン、例えば、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリヘキシルアミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、及びアニリン;N,N-ジアルキルアミド、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドである。硫黄含有溶媒の例示的な例は、スルホラン及びジメチルスルホキシドであり、例示的なリン含有溶媒は、トリアルキルホスフェート、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート及びトリブチルホスフェート、並びにヘキサアルキルホスホラミド、例えば、ヘキサメチルホスホラミドである。
【0035】
好ましい反応希釈剤及び溶媒は、酸素化有機溶媒である。特に好ましいのは、4~6個の炭素原子のアルカンジオール、例えば1,4-ブタンジオール及び2,5-ヘキサンジオールである。極性有機溶媒及び希釈剤は、エチレンオリゴマー化生成物混合物がそのような溶媒及び希釈剤に本質的に不溶性であるため、一部には、本プロセスで使用するのに好ましい。例えば、アルカンジオールなどの極性有機溶媒が使用される場合、三相反応混合物、すなわち、超臨界エチレン相、エチレンオリゴマー化生成物混合物、すなわちアルファ-オレフィン、並びにニッケル触媒及び溶媒の反応希釈剤が形成される。三相反応混合物が形成される場合、エチレンオリゴマー化生成物相は分離され、触媒含有希釈剤又は溶媒相は、更なるエチレンオリゴマー化に利用される。上で定義したように、同じ溶媒が触媒調製に用いられるので、一部には、極性有機溶媒も好ましい。
【0036】
反応は、反応剤、触媒系、及びプロセス媒体を着実に投入し、反応器の液体内容物を除去することによって連続的に行うことができる。例えば、触媒、試薬及び媒体のための供給システム並びに流出液のための排出システムを含むタンク反応器システムを使用することができる。いくつかの実施形態では、バッチプロセスも使用することができる。いくつかの実施形態では、反応器システムは、直列に接続された、それぞれがインタークーラを有する3つの反応器からなる。オリゴマー化反応は、発熱性である。反応熱は、温度勾配水循環ループ、及び反応器冷却器の各々のための空気冷却器又は冷却水交換器を使用し得るインタークーラを介して除去され得る。各インタークーラは、チューブ側にオリゴマー化プロセスを有し、シェル側に冷却媒体を有する、シェルアンドチューブ熱交換器である。反応器から熱を効率的に伝達することができ、そのため、反応器を所望の温度に効果的に維持することができ、最小量の冷却媒体を使用して熱を除去することができることが重要である。より効果的な熱伝達の別の利点は、反応を所与の温度に対してより高いスループットで行うことができることであり、これにより生産効率を改善する。温度制御を使用して、反応器内の反応速度及び触媒寿命を管理してもよい。最後の反応器からの三相反応器流体は、ハイドロクロンのバンクにおいて、アルファ-オレフィンに富むオーバーフローと溶媒に富むアンダーフローとに分離される。少量の過剰のエチレンが反応器出口に存在し、ハイドロクロンの塔頂に進む。
【0037】
ハイドロクロンからの溶媒に富むアンダーフローは、反応器入口にポンプで戻されて、循環溶媒ループを完成させ得る。パイプライン圧力から反応器圧力に圧縮された補給エチレン、1つ以上の再循環エチレン流、及び溶媒に溶解した補給触媒成分は、戻り溶媒循環ループに注入される。
【0038】
ハイドロクロンオーバーフローは、アルファ-オレフィン/エチレン上層と溶媒下層とに相分離され得る。溶媒層を溶媒ブリードとして抜き取って、使用済み触媒を排除する。この流れは、溶媒回収システムへと進む。アルファ-オレフィン相は、エチレンと共に、アルファ-オレフィン生成物として抜き取られ、溶媒スクラバへと進む。
【0039】
オリゴマー化反応中にエチレン/触媒接触を確立する正確な方法は重要ではない。一実施形態では、触媒組成物及び溶媒を反応器に投入し、エチレンを導入し、反応混合物を所望の反応時間にわたって反応温度及び圧力に維持する。極性有機溶媒を使用し、二相反応が形成される改変において、エチレンは、触媒組成物及び希釈剤を含有する反応ゾーンに連続的な様式で通され、一方、生成されるエチレンオリゴマー化生成物混合物は、反応ゾーンから同時に抜き取られる。
【0040】
オリゴマー化生成物は、分別蒸留、選択的抽出、吸着などの従来の方法によって反応混合物から分離され、回収される。反応溶媒、触媒及び任意の未反応エチレンは、更なる利用のために再循環させることができる。使用済み触媒、すなわち、エチレンオリゴマー化に対してもはや活性ではない触媒は、例えば、追加の水素化ホウ素還元剤及びニッケル塩と、先に定義したモル比(安息香酸配位子に基づく)で反応させることによって再生させることができる。追加の安息香酸配位子を、再生触媒に添加することができるが、使用済み触媒を再生する必要はない。
【0041】
オリゴマー化プロセスの間、エチレンは、ダイマー、トリマー、テトラマー、及びより大きなオリゴマーに変換される。生成物は、高い直鎖性(約90%より大きい)を有する直鎖末端オレフィンの高い割合(約95%より大きい)によって特徴付けられる。特定の生成物組成は、一般に、使用される本発明の触媒、使用される溶媒、反応条件、特に反応温度及び希釈剤、並びに触媒が均一状態又は不均一状態で使用されるかどうかに依存する。所望の生成物混合物に依存して、最適化された成分及び条件は、当業者によって容易に決定され得る。
【0042】
エチレンオリゴマー生成物は、確立された有用性を有する材料であり、多くは市販の化学物質である。生成物は、従来の触媒によって対応するアルコールに変換することができる。
【0043】
一般に、オリゴマー化プロセスは、適度な温度及び圧力で行われる。適切な反応温度は、約0℃~約250℃、約25℃~約150℃、又は約70℃~約100℃で変化する。反応は、大気圧以上で行われる。反応混合物が実質的に液相に維持される限り、正確な圧力は重要ではない。典型的な圧力は、約10psig~約5000psigで変化することができ、約400psig~約1600psigの範囲が好ましい。いくつかの実施形態では、反応混合物のpHは、約7~約9の範囲であり、いくつかの実施形態では、約7.5~約8.5の範囲である。pHは、当業者に公知の任意の適切な方法及び/又は分析器によって分析され得る。pHは、オンライン/系内で分析されてもよく、又はプロセス試料が分析のために反応器から除去されてもよい。いくつかの実施形態では、pHが範囲外であり得るという視覚的指標は、沈殿物(典型的には黒色)の存在及び/又は触媒調製溶液の色の暗色化を含む。
【0044】
エチレン分圧は、分岐生成物の形成を制限するように維持されるべきである。理論に束縛されるものではないが、系中で最も高い濃度を有する生成物は、1-ブテンであり、これは、エチレンと同様に、成長しつつあるオリゴマー鎖と反応して分岐生成物を生成し得る。したがって、ブテンとの反応が阻止されるようにエチレンの高い(十分な)分圧を維持することによって、ブテン挿入の確率を低下させることが望ましい。これは、標準的な熱力学反応と相平衡原理に基づいている。
【0045】
操作K係数が変化するにつれて、エチレン/再循環気体比を変化させて、規格通りの生成物を維持し得る。規格通りの生成物とは、所望の生成物の分岐及び/又は内部オレフィン値を指す。エチレン/再循環気体比は、反応器に供給される新鮮なエチレンに対する再循環エチレンの量である。再循環エチレンは、高圧エチレンエチレンカラムから戻り、ブテンを含有し得る。
【0046】
より低いK係数の操作が望まれる場合、より多くのエチレンがオリゴマー化相に溶解し、分圧を増加させて、反応相中のエチレン濃度を十分に保ち得る。これはまた、より多くのエチレンがC2カラムにおいて放出され、再循環され得ることを意味し、これは循環比の増加に寄与する。更に、より多くのブテンが、より低いK係数の操作で存在し、これは、上述のように分岐に影響を与える。再循環気体比は、BDLスクラバからHPエチレンカラムへのアルファ-オレフィン相流の速度によって(部分的に)操作される。
【0047】
再循環気体比は、物質収支健全性のための有用な概念及び測定基準である。再循環気体比は、生成物オリゴマー化相前進流、反応器へのエチレン再循環、及び反応器中のエチレン濃度が全て、所与の操作K係数に対して均衡したままであるかどうかを追跡及び評価するために使用することができる。生成物の分岐を許容可能なレベルに制限するために、適切なバランスが必要である。
【0048】
このプロセスでは、様々な量(一般に少量)のポリエチレンが反応器内で製造される。ポリエチレンは、反応器インタークーラを汚染する可能性があり、相分離器内の溶媒/オレフィン界面のラグ層に蓄積する可能性もある。
【0049】
溶融及び脱脂条件:反応器は、オレフィンを触媒的にオリゴマー化するために反応器が使用されるにつれて、望ましくない触媒残留物又はポリマー副産物が堆積する内部表面を有する。本明細書で使用される「内部表面」は、反応器の壁、熱交換器のプロセス側、反応器自体の中、それに隣接して、又はその下流にあるバルブ及び配管、熱電対又は他の機器、反応器の内容物に曝露されるプローブ、機器、又は任意の他の表面であり得る。残留物はまた、生成物分離容器内を含む下流の装置上に見出され得る。
【0050】
ポリマーは、循環液体中にある「フロック」又は雪に似た小粒子であり得る。ポリマーは、オレフィンと溶媒相との間の界面において粘性流体であり得る(ポリマー液体の比重は約0.9である)。金属ニッケルによって暗色化された粒状ポリエチレンは、触媒混合容器及び反応器へのその出口ライン内に見出される。最も一般的な種類であり、最も多くの問題を引き起こすものは、繊維性のものである。ストリングを生成するのは細いストランドの集合体である。
【0051】
内部表面上への固体副産物及び残留物の堆積に関連するいくつかの問題は、表面を通る熱伝達の効率の減少、容器又は配管の有効容量又は断面積の減少、バルブ又は機械的撹拌機構などの機械的要素の操作との干渉、及び当業者に知られている他の問題である。
【0052】
反応器の壁に蓄積することが長い間認識されていた残留物は、副生成物として形成される、意図された生成物よりも長い鎖長を有するオリゴマー又はポリマーである。このより高級のオリゴマー又はポリマー残基は、ここでは「ポリマー残基」と呼ばれる。例えば、エチレン反応の場合、ポリエチレン又はパラフィンワックス残留物が形成され、反応器の内部表面に蓄積する可能性がある。このポリマー残留物は、反応器の内部表面の熱伝達効率を低下させる可能性がある。
【0053】
ポリマー形成速度及び必要とされる溶融及び脱脂操作の結果として生じる頻度は、触媒系において使用される配位子及び配位子中の不純物によって影響され得る。
【0054】
ポリマー残留物は、操作条件を操作してポリマーを溶融させるか、又はさもなければプロセス装置からポリマーを移動させることによって、反応器及び関連するプロセス装置から除去することができ、溶融及び脱脂プロセス又は「ホットウォッシュ」と呼ぶことができる。ポリマーは、プロセス媒体、特にオレフィン生成物中に入れられ、プロセス装置から除去される。いくつかの実施形態では、オレフィン生成物が規格から外れることなく反応が維持されている間に、ポリマーの除去が行われる。
【0055】
溶融及び脱脂プロセス条件は、通常のプロセス条件下で除去されないポリマー残留物を除去するために、通常のプロセス条件よりも、ポリマーを生成物流中に入れるために流出物の温度を上昇させる、より厳しいものとして説明することができる。例えば、洗浄工程は、プロセス温度よりも高い温度で通常の反応剤を循環させて、ポリマー残留物を溶融するか、より迅速に除去するか、又は他の方法で取り除くことによって行われる「ホットウォッシュ」であり得る。溶融及び脱脂プロセスをいつ開始すべきかを決定するために使用することができる多くのプロセス測定基準がある。そのような測定基準は、限定ではないが、当業者によって理解される、反応器インタークーラのU値、反応器ループを通した圧力低下、温度勾配水温、及び/又はバルブ位置を含んでもよい。当業者は、これらの測定基準のうちの1つ以上に基づいて、溶融及び脱脂プロセスの開始を決定するであろう。
【0056】
各反応器は、反応器から熱を除去するために、出口に反応器インタークーラを含む。インタークーラ性能を監視するために様々な測定基準が使用されてもよく、閾値が満たされたときに、溶融及び脱脂プロセスが開始されてもよい。いくつかの実施形態では、閾値は、インタークーラの有効熱伝達係数(U値)によって決定されてもよい。1つ以上のインタークーラのU値は、いくつかの実施形態ではプロセスを開始するために約100~約160BTU/hr/ft/°F、他の実施形態では約120~約140BTU/hr/ft/°Fの範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、溶融及び脱脂プロセスは、U値が約160BTU/hr/ft/°F未満に低下したとき、又はU値が約100BTU/hr/ft/°Fであるときに開始されてもよい。U値は、当業者によって容易に計算される。
【0057】
いくつかの実施形態では、温度勾配水システムの温度は、溶融及び脱脂プロセスを開始するための指標として使用されてもよい。温度勾配水システムの温度が170°F未満であるときに、溶融及び脱脂が開始されてもよく、いくつかの実施形態では、開始は、温度が165°F未満であるときに始まってもよい。
【0058】
他の実施形態では、反応器セクション全体の圧力低下は、溶融及び脱脂プロセスを開始するための指標であり得る。圧力低下は、ポリマーが蓄積するにつれて増大し、反応器循環システムは、増大した圧力低下を自動的に補って同じ流量を維持するように構成される。いくつかの実施形態では、溶融及び脱脂プロセスは、反応器全体の圧力低下が約60~約80psigの範囲であるときに開始されてもよい。他の実施形態では、反応器範囲全体の圧力低下が、「ポリマーを含まない」状態における反応器全体の圧力低下に対して約25%、約50%又は約100%増加したときに、溶融及び脱脂プロセスを開始してもよい。「ポリマーを含まない」という用語は、溶融及び脱脂プロセスが開始及び完了した後の反応器の状態であると理解され得る。したがって、この制御パラダイムでは、溶融及び脱脂プロセスの間に、圧力低下が小さくなり、より低い値で安定するとき、これは、ポリマーが除去されたことの指標である。いくつかの実施形態では、このより低い値は、約40psig~約60psigの範囲であり得る。
【0059】
理論に束縛されることを望むものではないが、オレフィン/BDL比(これは、溶融及び脱脂手順の開始時のループ内の溶媒の量に対する反応器ループ内のオレフィン生成物の量(amount of olefin product、AO)を指す)もまた、溶融及び脱脂プロセスを開始する間に制御され得ると考えられる。原則として、オレフィン/溶媒比を比較的高くするのがよい。反応器内部構造物から溶融したポリマーは、オレフィン相に移動し、及び/又はオレフィン相によって相分離器に運ばれると考えられる。したがって、溶融及び脱脂プロセスの間にループ内により多くのオレフィンを有することは、ポリマーを搬送するためのより多くの反応材料を提供し、溶融及び脱脂の有効性を潜在的に増加させる。ポリマーの密度のために、ポリマーは、相分離器内のオリゴマー相と溶媒相との間に蓄積する。
【0060】
連続エチレンオリゴマー化プロセスでは、溶融及び脱脂プロセスは、以下のように行うことができる。触媒供給速度は、エチレン消費を最小持続可能速度まで減少させるために、約5~約50%、より好ましくは約30~約50%減少される。いくつかの実施形態では、触媒供給速度の減少は、約6~約10時間にわたって起こり得る。オレフィン生成を持続させる触媒供給速度を維持することによって、オリゴマー化生成物は、溶融及び脱脂プロセス全体を通して連続的に生成される。触媒供給速度を減少させた後、反応温度を約120℃~約145℃に上昇させてもよく、より好ましくは約135℃~約140℃に上昇させてもよい。温度の上昇は、ポリマーを表面から除去し、及び/又はポリマーをオレフィン相に入れ、及び/又はポリマーをオレフィン相によって相分離器に運ぶ。ポリマーは、オレフィンよりも密度が高く、相分離器内でオレフィンから分離する。ポリマーは、典型的には、溶媒よりも密度が低いので、ポリマーは、オレフィンと溶媒との間の界面に沈降し得る。
【0061】
溶融及び脱脂プロセス手順を終了する前に、相分離容器をブローダウンプロセスによってパージして、プロセスからポリマーを除去する。ポリマーは、重力及び/又は圧力操作によって除去され得る。いくつかの実施形態では、ポリマーは、パージ流を介してブローダウンシステムを通して溶媒と共に除去される。全体的な溶媒供給速度は、ポリマーでパージされる溶媒の量を補うために溶融及び脱脂プロセスの間に増加され、したがって、プロセス中の溶媒材料の定常状態を維持する。ブローダウンプロセスの間に全てのポリマーが除去されることを確実にするために、パージ流は、流れが本質的に溶媒からなるようになるまで監視される。パージ流が本質的に溶媒のみである場合、溶融及び脱脂プロセスを終了してもよい。当業者は、溶融及び脱脂プロセスをいつ終了するかを決定するために他の測定基準を使用してもよい。
【0062】
溶融及び脱脂操作の間、オリゴマー/BDL界面のレベルは、BDL分離器の底部からポリ/ラグ分離器の上部へと下げられる。そこから、ポリマー/ラグ層は、反応系からポリマー/ラグを効果的に除去するポリ/ラグブローダウン容器中にポリ/ラグ分離器の上部からブローダウン/脱圧(脱脂)される。
【0063】
一実施形態では、溶融及び脱脂プロセス条件は、約10時間~約18時間にわたって行われてもよく、他の実施形態では、条件は、約12~約15時間にわたって行われてもよい。溶融及び脱脂プロセスの間、反応器条件は、生成物を役に立たないものにするほど極端なものではない。いくつかの実施形態では、生成物は、操作仕様内のままである。溶融及び脱脂の間に製造された生成物は、生成物品質及び生成物分布が影響を受けないように十分に希釈されるように、以前に製造された生成物とブレンドされてもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、溶融及び脱脂プロセスはまた、ポリマーが除去されたことを示す1つ以上の閾値が満たされたときに終了させることができ、プロセスは、通常の操作手順に戻される。一実施形態では、各インタークーラのプロセス出口温度と各反応器への温度勾配水出口温度との間の差が約1°F~約5°Fであるときに、溶融及び脱脂プロセスは、終了されてもよく、触媒供給速度及び温度は、通常の操作条件に戻されてもよい。別の実施形態では、溶融及び脱脂プロセスは、反応器全体の圧力低下が小さくなり、インタークーラがポリマーを含まない状態を示す(より低い)値に戻ったときに終了されてもよい。いくつかの実施形態では、溶融及び脱脂プロセスは、圧力低下が約40psigの値に戻ったときに終了されてもよい。
【0065】
溶融及び脱脂プロセスが行われ、1つ以上の終了条件が満たされた後、反応器は、(1)プロセス媒体の温度を溶融及び脱脂条件から、約0℃~約250℃、約25℃~約150℃、又は約70℃~約100℃まで減少させること、(2)触媒供給速度を増加させて、エチレン消費を通常の持続可能速度に増加させることによって、サービスに戻すことができる。いくつかの実施形態では、これらの工程は、順次又は同時に行われてもよい。
【0066】
上述のようなプロセス媒体を使用することは、オリゴマー化プロセスに固有でない溶媒を使用する以前の溶融及び脱脂プロセスにおいて示されるように、触媒が被毒され得る機会を減少させるか、又は排除する。また、オリゴマー化反応を減少された速度で維持する能力は、販売可能な生成物のいくらかの生成を同時に維持しながら、下流のプロセス装置を再開する際のリスク、時間、及び操作上の課題を減少させる。これはまた、失われた生産時間の全体的な減少に寄与し得る。
【0067】
始動条件:いくつかの実施形態では、溶媒は、エチレンを反応器に供給する前に調整されてもよい。溶媒の調整は、溶媒を触媒と接触させ、溶液をプロセスの操作条件で約3~4日間の範囲の期間にわたってプロセスに通すことによって行うことができる。他の実施形態では、溶媒の調整は、既存のオリゴマー化プロセスにおいて現場外で行われてもよい。現場外の溶媒は、ある範囲の圧力及び温度、並びに全ての触媒成分、溶媒及び触媒分解生成物、オレフィン生成物、エチレン供給物、「溶融及び脱脂」ポリマーなどを含むオリゴマー化プロセス混合物/媒体の全ての成分に曝露されている。
【0068】
相分離:反応器生成物は、実質的な量の溶解エチレンと、活性触媒を含有する少量の溶解溶媒とを含有する。これらは、反応器生成物流の更なる処理の前に除去されるべきである。
【0069】
反応器生成物分離容器からのオレフィン相は、スクラバにおいて、触媒を含まない回収溶媒で抽出又は洗浄される。活性触媒を含むスクラバの底部からの溶媒は、反応器ループから抜き取られた溶媒ブリードを置き換えるための補給溶媒として触媒調製容器に供給されてもよい。いくつかの実施形態では、この触媒を含まない回収された溶媒の一部は、調整された溶媒として新しいオリゴマー化ユニットの始動中に使用されるために現場外に送られてもよい。
【0070】
スクラバからのオーバーヘッドであるAO生成物は、溶解したエチレンを回収するために2カラム蒸留ユニットに供給される。高圧(High Pressure、HP)エチレンカラムでは、エチレンの大部分は、40bargの操作圧力でオーバーヘッドに送られる。十分なエチレンが底部生成物中に残り、底部温度を許容可能なレベルに維持する。次いで、HPエチレンカラムの底部に残ったエチレンは、約13bargで操作される低圧(Low Pressure、LP)エチレンカラムのオーバーヘッドに送られる。次いで、LPエチレンカラムのオーバーヘッドは圧縮され、HPエチレンカラムに戻される。LPエチレンカラムからの底部流は、エチレンを含まない全範囲のAO生成物であり、これがAO水洗浄システムに送られる。
【0071】
HPエチレンカラムのオーバーヘッドで取り出された全てのエチレンは、約119bargの反応器圧力に圧縮される。この高圧エチレンの一部は、再循環エチレンとしてAO反応器に戻される。残りは、ジュール・トムソン膨張を介して減圧されて、HPエチレンカラムにおいて還流を生成するのに必要な液化を提供する。LPエチレンカラムのための還流は、従来の方法で生成される。いくつかのオレフィン生成物は、LPエチレンカラムにおいてエチレンでオーバーヘッドされる。冷却水による部分凝縮は、LPからHPエチレンカラムへの蒸気戻り中のAO生成物の量を減少させる。
【0072】
本開示のいくつかの実施形態が上記で詳細に説明されたが、当業者は、本開示の教示から実質的に逸脱することなく多くの修正が可能であることを容易に理解するであろう。したがって、そのような修正は、特許請求の範囲において定義される本開示の範囲内に含まれることが意図される。
【国際調査報告】