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特表2024-542750臍帯組織又はウォートンゼリーの間葉系幹細胞に由来するセクレトームを含んでいる新規治療薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】臍帯組織又はウォートンゼリーの間葉系幹細胞に由来するセクレトームを含んでいる新規治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/51 20150101AFI20241108BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/55 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20241108BHJP
【FI】
A61K35/51
A61P17/02
A61K38/19
A61K38/18
A61K38/20
A61K38/55
A61K38/48
A61K38/22
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532815
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 SG2022050858
(87)【国際公開番号】W WO2023101603
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】2117430.5
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2203017.5
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524205639
【氏名又は名称】セリジェニクス・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】イェオ,アイミン
(72)【発明者】
【氏名】モク,パメラ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シシュン
(72)【発明者】
【氏名】アウ,イビン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BC11
4B065BD18
4B065CA44
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA01
4C084DA04
4C084DA05
4C084DA12
4C084DA18
4C084DA19
4C084DB01
4C084DB52
4C084DB57
4C084DB62
4C084DB63
4C084DC09
4C084DC32
4C084NA14
4C084ZA891
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB59
4C087CA04
4C087CA16
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
本発明は、理想的には、限定するものではないが、創傷の治療において使用するための、臍帯組織又はウォートンゼリー組織の間葉系幹細胞から得られるセクレトームを含んでいる新規治療薬、及び、それを含んでいる製剤又は医薬組成物;前記治療薬を製造する方法;及び、前記治療薬を用いて創傷を治療する方法;に関する。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯組織の間葉系幹細胞又はウォートンゼリー組織の間葉系幹細胞から得られたセクレトームを含んでいる治療薬であって、前記セクレトームが、以下の成分を含んでいるか又は以下の成分からなる前記治療薬: 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);成長調節タンパク質α(GRO-a);肝細胞増殖因子(HGF);インターロイキン-6(IL-6);白血病抑制因子(LIF);単球走化性タンパク質3(MCP-3);幹細胞増殖因子β(SCGF-b);組織メタロプロテイナーゼ1阻害剤(TIMP-1);マトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP-3);アンジオポエチン様タンパク質4(ANGPTL4)、腫瘍壊死因子受容体RI(TNF-RI)、及び、CD63+エキソソーム。
【請求項2】
前記セクレトームが、以下の成分(その任意の組み合わせを包含する)のうちの少なくとも1を含んでいるか又はその少なくとも1からなる、請求項1に記載の治療薬: インターロイキン-8(IL-8);単球走化性タンパク質1(MCP-1);マクロファージ遊走阻止因子(MIF);組織メタロプロテイナーゼ2阻害剤(TIMP-2);アンジオポエチン-1;フォリスタチン;マトリックスメタロプロテイナーゼ1(MMP-1);マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2);及び、マトリックスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)。
【請求項3】
前記セクレトームが、G-CSFの量に対して以下の相対量の前記成分を含んでいる又は前記成分からなる、請求項1又は請求項2に記載の治療薬:
【表1】
【請求項4】
前記セクレトームが、以下の量の前記成分を含むか又は以下の量の前記成分からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の治療薬:
【表2】
【請求項5】
各成分の量が、以下の量で存在する、請求項4に記載の治療薬:
【表3】
【請求項6】
前記CD63+エキソソームが、2~30μg/mL又は5~20μg/mLの量で存在している、先行する請求項のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項7】
臍帯組織の間葉系幹細胞又はウォートンゼリー組織の間葉系幹細胞から得られたセクレトームを含んでいる治療薬を製造する方法であって、
(i) 臍帯の間葉系幹細胞又はウォートンゼリーの間葉系幹細胞をコンフルエントになるまで培養すること;
(ii) 増殖培地を除去し、該細胞層を等張塩溶液で洗浄すること;
(iii) 該細胞を増殖因子を含んでいない培地でインキュベートすること;次いで、
(iv) 該細胞を増殖因子培地でインキュベートすること;及び、
(v) 前記細胞から細胞セクレトームを回収すること;
を含んでいる、前記方法。
【請求項8】
段階(iii)及び/若しくは段階(iv)を1回若しくは2回以上繰り返すことができ、並びに/又は、段階(v)を段階(iii)及び/若しくは段階(iv)の後に行うことができる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
増殖因子培地でのインキュベーションが増殖因子を含まない培地でのインキュベーションに先行するように、段階(iii)と段階(iv)を逆にしてもよい、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記等張塩溶液が、リン酸緩衝生理食塩水である、好ましくは、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記増殖因子を含んでいない培地が、0.01~0.5%のヒト血清アルブミン又は組換えヒト血清アルブミン、50~500μMのアスコルビルリン酸ナトリウム及びpen-strep-glutamax-NEAAを含んでいる基礎培地(例えば、DMEM)を含んでいる、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記増殖因子培地が、0.1~2IUのFGF2及び/又はEGF及び/又はTGFβ及び/又はPDGF、0.01~0.5%のヒト血清アルブミン又は組換えヒト血清アルブミン、50~500μMのアスコルビルリン酸ナトリウム及びpen-strep-glutamax-NEAAを含んでいる基礎培地(例えば、DMEM)を含んでいる、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記セクレトームを、0.1~1%の担体タンパク質及び/又は0.5~10mMのアスコルビルリン酸ナトリウム及び/又は0.5~20%のスクロース及び/又はリン酸緩衝液を加えることによって、安定化させる、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項7~13のいずれか1項に記載の方法により得られたセクレトームを含んでいる、治療薬。
【請求項15】
請求項7~13のいずれか1項に記載の方法により得られた請求項1~7のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項16】
創傷を治療する方法であって、その創傷に請求項1~6又は14又は15のいずれか1項に記載の治療薬を投与することを含む、前記方法。
【請求項17】
創傷治療において使用するための、場合により、請求項7~13又は14又は15のいずれか1項に記載の方法を用いて製造された又は得られた、請求項1~6のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項18】
創傷治療のための医薬の製造における、場合により、請求項7~13又は14又は15のいずれか1項に記載の方法を用いて製造された又は得られた、請求項1~6のいずれか1項に記載の治療薬の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規治療薬、及び、そのような治療薬を含んでいる製剤又は医薬組成物;理想的には、限定するものではないが、創傷の治療において使用するための製剤又は医薬組成物;前記治療薬を製造する方法;及び、前記治療薬を使用して創傷を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷は、通常、皮膚が裂けたり、切れたり若しくは穴が開いたりする傷(開放創)、又は、鈍的外傷によって挫傷が生じる傷(閉鎖創)である。いずれの場合も、皮膚の表皮が損傷している。
【0003】
創傷は、以下のように分類することができる:清潔創傷 - 無菌状態で創られ、微生物が存在せず、その皮膚は合併症なしに治癒する可能性が高い;汚染創傷 - 通常、偶発的な損傷に起因し、その創傷内には、病原性微生物及び異物が存在する;感染創傷 - その創傷には、病原性微生物が存在し、そして、その病原性微生物は、増殖し、感染の臨床症状を示す;及び、コロニー形成創傷 - 慢性的な状態で、病原性微生物を含んでおり、治癒が困難である(例えば、褥瘡)。
【0004】
さらに、創傷は、開放創か閉鎖創かによって分類することができる。
【0005】
開放創は、創傷の原因となった物体によって分類される:切創 - きれいで鋭利な物体(例えば、ナイフ、カミソリ又はガラスの破片)によるもの;裂傷 - 何らかの鈍的外傷による不規則な裂け目のような傷;擦過傷(かすり傷) - 皮膚の一番上の層(表皮)が削り取られた表在性の傷;剥離 - 身体構造が通常の挿入点から強制的に切り離されたもの;穿刺創 - 皮膚に穴を空ける物体(例えば、とげ、釘、針)に起因するもの;貫通創 - 物体(例えば、ナイフ)が皮膚に刺さって皮膚から出てきたことによるもの;銃創 - 銃弾又は同様の発射体が身体に突き刺るか又は貫通することによるもの;及び、重傷 - 引き裂かれた大火傷を包含する。
【0006】
閉鎖創は、カテゴリーは少ないが、開放創と同様に危険である:血腫(又は、血液腫瘍) - 血管が損傷し、それによって、血液が皮膚の下に集まることによる;内部血管の病理に起因する血腫は、点状出血、紫斑及び斑状出血である(大きさに基づいて分類が異なる);外部からの外傷に起因する血腫は、挫傷であり、一般に、打撲とも称される;及び、挫滅外傷 - 長時間に渡って加えられた大きな又は極端な力によって引き起こされるもの。
【0007】
傷口の細菌感染などの合併症は、治癒過程を妨げ、生命を脅かす合併症を引き起こし得る。従って、創傷を確実に迅速かつ効果的に治癒することが重要である。さらに、速やかに治癒しない場合、医療制度に対する創傷ケアにかかる費用は、施設にとって莫大な負担となる。
【0008】
用語「慢性創傷」は、生理的な治癒障害を有する患者において生じる創傷を示している。このような障害により、皮膚創傷は、急性創傷治癒の特徴から逸脱しやすい。
【0009】
米国では、毎年、推定300~600万人の慢性皮膚潰瘍が患者に発生している。最も一般的な基礎障害は、静脈逆流、圧迫及び糖尿病である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
全ての創傷、特に、治癒困難な創傷は、急性創傷反応を促進する創傷治癒療法の候補であり;従って、慢性創傷に存在する欠落又は機能不全の成分を補うことができる。
【0011】
本明細書中に記載されている発明は、限定するものではないが、特に、創傷、特に、慢性創傷の治癒において使用するための、新しい治療法に関する。この治療法は、上皮細胞と非上皮細胞の両方のシグナル伝達経路を活性化するように働き、そして、無数の異なるサイトカインと増殖因子が関与する。従って、比較的複雑ではあるが、効果的な治療法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様によれば、臍帯組織の間葉系幹細胞又はウォートンゼリー組織の間葉系幹細胞から得られたセクレトームを含んでいる治療薬が提供される。
【0013】
本明細書で言及するウォートンゼリーとは、臍帯内のゲル状物質であり、その大部分はムコ多糖類(ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸)からできている。それは、一部の線維芽細胞とマクロファージを含んでいる粘液性結合組織として機能し、そして、胚体外中胚葉に由来する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、該セクレトームは、以下の成分を含んでいるか又は以下の成分からなる: 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);成長調節タンパク質α(GRO-a);肝細胞増殖因子(HGF);インターロイキン-6(IL-6);白血病抑制因子(LIF);単球走化性タンパク質3(MCP-3);幹細胞増殖因子β(SCGF-b);組織メタロプロテイナーゼ1阻害剤(TIMP-1);マトリックスメタロプロテイナーゼ3(MMP-3);アンジオポエチン様タンパク質4(ANGPTL4)、腫瘍壊死因子受容体RI(TNF-RI)、及び、CD63+エキソソーム。
【0015】
本発明のさらに好ましい実施形態では、該セクレトームは、さらに、以下の成分(その任意の組み合わせを包含する)のうちの少なくとも1を含んでいるか又はその少なくとも1からなる: インターロイキン-8(IL-8);単球走化性タンパク質1(MCP-1);マクロファージ遊走阻止因子(MIF);組織メタロプロテイナーゼ2阻害剤(TIMP-2);アンジオポエチン-1;フォリスタチン;マトリックスメタロプロテイナーゼ1(MMP-1);マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2);及び、マトリックスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)。
【0016】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、前記成分は、以下の相対量で存在している:
【表1】
【0017】
本明細書における相対量への言及は、22166pg/mLの濃度で1.0と指定される基準成分(即ち、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF))を考慮した各成分の量への言及であり、従って、他の各成分の量(pg/mL)は、相対量を導出するために、22166で割られる。
【0018】
さらなる好ましい実施形態では、前記成分は、以下の量で存在している:
【表2】
【0019】
さらなる好ましい実施形態では、該治療薬は、約2~30μg/mL、理想的には、5~20μg/mLである量のCD63+エキソソームを含んでいる。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態では、前記成分は、上記の相対量又は上記の濃度量のいずれかで存在している。
【0021】
本明細書におけるCD63への言及は、抗原への言及であり、ここで、該抗原は、タンパク質であり、そして、ヒトにおいては、CD63遺伝子によってコードされる。CD63は、主に細胞内小胞の膜に結合している。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、臍帯組織の間葉系幹細胞又はウォートンゼリー組織の間葉系幹細胞から得られたセクレトームを含んでいる治療薬を製造する方法が提供され、ここで、該方法は、
1. 臍帯の間葉系幹細胞又はウォートンゼリーの間葉系幹細胞をコンフルエントになるまで培養すること;
2. 増殖培地を除去し、該細胞層を等張塩溶液で洗浄すること;
3. 該細胞を増殖因子を含んでいない培地でインキュベートすること;次いで、
4. 該細胞を増殖因子培地でインキュベートすること;及び、
5. 前記細胞から細胞セクレトームを回収すること;
を含んでいる。
【0023】
本発明の好ましい方法では、段階3及び/又は段階4を1回又は2回以上繰り返すことができ、並びに、段階5は段階3及び/又は段階4の後に行うことができる。
【0024】
さらなる好ましい方法では、増殖因子培地でのインキュベーションが増殖因子を含まない培地でのインキュベーションに先行するように、段階3と段階4を逆にしてもよい。
【0025】
上記の方法において、好ましくは、前記等張塩溶液は、リン酸緩衝生理食塩水である。この段階は、増殖培地成分を除去するために行われる。
【0026】
上記方法において、好ましくは、前記増殖因子を含んでいない培地は、0.01~0.5%のヒト血清アルブミン又は組換えヒト血清アルブミン、50~500μMのアスコルビルリン酸ナトリウム及びpen-strep-glutamax-NEAAを含んでいる基礎培地(例えば、DMEM)を含んでいる。
【0027】
上記方法において、好ましくは、前記増殖因子培地は、0.1~2IUのFGF2及び/又はEGF及び/又はTGFβ及び/又はPDGF、0.01~0.5%のヒト血清アルブミン又は組換えヒト血清アルブミン、50~500μMのアスコルビルリン酸ナトリウム及びpen-strep-glutamax-NEAAを含んでいる基礎培地(例えば、DMEM)を含んでいる。
【0028】
上記の方法において、段階3-6を何サイクルも繰り返すことが可能である。理想的には、合計で、前記細胞は2~14日間培養/インキュベートされる。
【0029】
本発明のさらなる好ましい方法では、収集されたセクレトームを滅菌濾過し、及び、限外濾過で濃縮する。この濃縮されたセクレトームは、プールされて、下流の用途において使用される最終的なセクレトームをもたらす。
【0030】
さらに好ましくは、該セクレトームは、0.1~1%の担体タンパク質及び/又は0.5~10mMのアスコルビルリン酸ナトリウム及び/又は0.5~20%のスクロース及び/又はリン酸緩衝液を加えることによって、安定化させる。
【0031】
該セクレトームは、長期保存のために、凍結又は凍結乾燥させることもできる。
【0032】
本発明のさらなる態様によれば、上記の方法によって得られたセクレトームを含んでいる新規治療薬が提供される。
【0033】
本発明のさらに別の態様によれば、創傷を治療する方法が提供され、ここで、該方法は、該創傷に前記治療薬を投与することを含む。
【0034】
本発明のさらに別の態様によれば、創傷治療において使用するための本発明の治療薬(これは、本発明の方法を用いて製造されても又は得られてもよい)が提供される。
【0035】
本発明のさらに別の態様によれば、創傷を治療するための医薬の製造おける、本発明の治療薬(これは、本発明の方法を用いて製造されても又は得られてもよい)の使用が提供される。
【0036】
後に続く特許請求の範囲及び先行する本発明の説明において、文脈上、明示的な表現又は必要な含意によりそうでないことが要求される場合を除き、単語「含んでいる(comprise)」、又は、その変形、例えば、「含んでいる(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」などは、包括的な意味で、即ち、記載された特徴の存在を特定するために使用されるが、本発明の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在又は付加を排除するために使用されるものではない。
【0037】
本明細書において引用されている全ての参考文献(これは、特許又は特許出願を包含する)は、参照により本明細書に組み込まれる。いかなる文献も、先行技術を構成することを認めるものではない。さらに、いかなる先行技術も、当技術分野における一般的な知識の一部を構成することを認めるものではない。
【0038】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかに関連して記載されているとおりであり得る。
【0039】
本発明の他の特徴は、以下の実施例から明らかになるであろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含む)において開示された特徴の任意の新規な1つ又は任意の新規な組み合わせに及ぶ。従って、本発明の特定の態様、実施形態又は実施例と関連して記載された特徴、整数、特性、化合物又は化学部分は、それと両立しない場合を除き、本明細書中に記載されている他の任意の態様、実施形態又は実施例にも適用可能であると理解されるべきである。
【0040】
さらに、別途示されていない限り、本明細書中で開示されている任意の特徴は、同一又は類似の目的を果たす代替的な特徴で置き換えることができる。
【0041】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数だけではなく複数も企図するものと理解されるべきである。
【0042】
以下、本発明の実施形態について、下記を参照して、例証としてのみ記載する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1A】ヒト皮膚線維芽細胞、ヒトケラチノサイト及びヒト内皮細胞を用いて、細胞の増殖と代謝に対するセクレトームの有効性を示している。細胞を、3日間(内皮細胞)、4日間(ケラチノサイト)又は5日間(線維芽細胞)、アッセイ希釈液(未処理)、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。ヒト皮膚線維芽細胞(1A)、ヒトケラチノサイト(1B)及びヒト内皮細胞(1C)に関して、細胞増殖及び代謝が示されている。
図1B】ヒト皮膚線維芽細胞、ヒトケラチノサイト及びヒト内皮細胞を用いて、細胞の増殖と代謝に対するセクレトームの有効性を示している。細胞を、3日間(内皮細胞)、4日間(ケラチノサイト)又は5日間(線維芽細胞)、アッセイ希釈液(未処理)、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。ヒト皮膚線維芽細胞(1A)、ヒトケラチノサイト(1B)及びヒト内皮細胞(1C)に関して、細胞増殖及び代謝が示されている。
図1C】ヒト皮膚線維芽細胞、ヒトケラチノサイト及びヒト内皮細胞を用いて、細胞の増殖と代謝に対するセクレトームの有効性を示している。細胞を、3日間(内皮細胞)、4日間(ケラチノサイト)又は5日間(線維芽細胞)、アッセイ希釈液(未処理)、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。ヒト皮膚線維芽細胞(1A)、ヒトケラチノサイト(1B)及びヒト内皮細胞(1C)に関して、細胞増殖及び代謝が示されている。
図2】ヒト皮膚線維芽細胞、ヒトケラチノサイト及びヒト内皮細胞を用いて、細胞の増殖と代謝に対するセクレトームの有効性を示している。細胞を、3日間(内皮細胞)、4日間(ケラチノサイト)又は5日間(線維芽細胞)、アッセイ希釈液(未処理)、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。細胞増殖は、細胞をサフラニンOで染色することにより示されている。
図3A】創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。脱表皮した(de-epidermised)ヒトの皮膚に相当する創傷を、3日間、無処置で放置したか、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。7日目に、創傷の閉鎖を、MTT染色により視覚的に評価し(3A)、図3Aの画像を用いて定量的に評価した(3B)。
図3B】創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。脱表皮した(de-epidermised)ヒトの皮膚に相当する創傷を、3日間、無処置で放置したか、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。7日目に、創傷の閉鎖を、MTT染色により視覚的に評価し(3A)、図3Aの画像を用いて定量的に評価した(3B)。
図4】創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。脱表皮した(de-epidermised)ヒトの皮膚に相当する創傷を、3日間、無処置で放置したか、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。7日目に、創傷の閉鎖を、セクショニング後のH&E染色により視覚的に評価した。赤の縦線は、0日目の最初の創縁を示している。セクレトームは、対照と比較して、ケラチノサイトの増殖と遊走を促進している(創床閉鎖が早かった)(P<0.05)。対照(無調整培地(un-conditioned medium))は、未処置の創傷と比較して、効果を示していない(P>0.05)。
図5A】インビボでの創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。ラットに、全層創傷を作った。創傷を、3日間、無処置で放置したか(5A及び5D)、無調整培地(un-conditioned medium)で処理したか(対照5B及び5E)又はセクレトームで処理した(5C及び5F)。3日目(5A-C)及び5日目(5D-F)に、創傷の閉鎖と創床分析を、セクショニング後のH&E染色により評価した。
図5B】インビボでの創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。ラットに、全層創傷を作った。創傷を、3日間、無処置で放置したか(5A及び5D)、無調整培地(un-conditioned medium)で処理したか(対照5B及び5E)又はセクレトームで処理した(5C及び5F)。3日目(5A-C)及び5日目(5D-F)に、創傷の閉鎖と創床分析を、セクショニング後のH&E染色により評価した。
図5C】インビボでの創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。ラットに、全層創傷を作った。創傷を、3日間、無処置で放置したか(5A及び5D)、無調整培地(un-conditioned medium)で処理したか(対照5B及び5E)又はセクレトームで処理した(5C及び5F)。3日目(5A-C)及び5日目(5D-F)に、創傷の閉鎖と創床分析を、セクショニング後のH&E染色により評価した。
図5D】インビボでの創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。ラットに、全層創傷を作った。創傷を、3日間、無処置で放置したか(5A及び5D)、無調整培地(un-conditioned medium)で処理したか(対照5B及び5E)又はセクレトームで処理した(5C及び5F)。3日目(5A-C)及び5日目(5D-F)に、創傷の閉鎖と創床分析を、セクショニング後のH&E染色により評価した。
図5E】インビボでの創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。ラットに、全層創傷を作った。創傷を、3日間、無処置で放置したか(5A及び5D)、無調整培地(un-conditioned medium)で処理したか(対照5B及び5E)又はセクレトームで処理した(5C及び5F)。3日目(5A-C)及び5日目(5D-F)に、創傷の閉鎖と創床分析を、セクショニング後のH&E染色により評価した。
図5F】インビボでの創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。ラットに、全層創傷を作った。創傷を、3日間、無処置で放置したか(5A及び5D)、無調整培地(un-conditioned medium)で処理したか(対照5B及び5E)又はセクレトームで処理した(5C及び5F)。3日目(5A-C)及び5日目(5D-F)に、創傷の閉鎖と創床分析を、セクショニング後のH&E染色により評価した。
【実施例
【0044】
方法及び材料
幹細胞のセクレトーム産生
1. Celligenics幹細胞を、95-100%コンフルエントになるまで培養する。
【0045】
2. 増殖培地を除去し、その細胞層を等張塩類溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)で2回洗浄して、増殖培地成分を除去する。
【0046】
3. 次いで、細胞を、0.01~0.5%のヒト血清アルブミン又は組換えヒト血清アルブミン、50~500μMのアスコルビルリン酸ナトリウム及びpen-strep-glutamax-NEAAを含んでいる基礎培地(例えば、DMEMなど)を含んでいる増殖因子非含有培地、又は、0.1~2IUのFGF2及び/又はEGF及び/又はTGFβ及び/又はPDGF、0.01~0.5%のヒト血清アルブミン又は組換えヒト血清アルブミン、50~500μMのアスコルビルリン酸ナトリウム及びpen-strep-glutamax-NEAAを含んでいる基礎培地(例えば、DMEM)を含んでいる増殖因子培地と一緒にインキュベートする。
【0047】
4. 例えば2日後、該培地(2日目のセクレトーム)を回収し、段階3を繰り返す。
【0048】
5. 段階3と段階4を数サイクル繰り返してセクレトームを収集することができる。
【0049】
幹細胞セクレトーム産生後の処理
1. 上記からの収集したセクレトームを滅菌濾過し、そして、限外濾過で濃縮する。複数の収集日からのその濃縮されたセクレトームはプールされて、下流の用途において使用される最終的なセクレトームをもたらす。
【0050】
2. 該セクレトームは、凍結又は凍結乾燥の前に、0.1~1%の担体タンパク質及び/又は0.5~10mMのアスコルビルリン酸ナトリウム及び/又は0.5~20%のスクロース及び/又はリン酸緩衝液を加えることによって、安定化させる。
【0051】
幹細胞セクレトームの特徴づけ
収集された分泌物は分析され、その活性成分は、増殖因子、サイトカイン、酵素、シグナル伝達分子、マトリックスタンパク質及び細胞外小胞を含んでいる。以下に記載されている量は、最初に収集された時にそのセクレトーム中に存在するであろう量に対して正規化され、平均化されている。該セクレトームは、CD63+エキソソーム(約2~30μg/mL)も含んでいる。
【表3】
【0052】
創傷治癒に対するセクレトームの使用
インビトロ: 2D細胞ベースアッセイ
目的及び方法: 細胞の増殖及び代謝に対する上記セクレトームの効果を評価する。ヒト皮膚線維芽細胞、ヒトケラチノサイト及びヒト内皮細胞を、96ウェルプレートに播種した。細胞を、5日間(線維芽細胞)、4日間(ケラチノサイト)又は3日間(内皮細胞)、アッセイ希釈液(未処理)、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。細胞の増殖及び代謝は、CCK8試薬で染色し、次いで、450nmの吸光度を読み取り、細胞標準物質と比較することで評価した。細胞増殖の証拠は、細胞をサフラニンOで染色することでさらに実証した。
【0053】
インビトロ: 3D皮膚モデル
目的及び方法: 創傷治癒に対するセクレトームの効果を評価するために、脱表皮した(de-epidermised)ヒト皮膚等価物を作成した。創傷は、3日間、無処置で放置したか、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。7日目に、創傷の閉鎖を、MTT染色によって、又は、セクショニング後のH&E染色によって、評価した。
【0054】
インビボ: ラット創傷モデル
目的及び方法: 創傷治癒に対するセクレトームの潜在的効果を評価するために、ラットに、全層創傷を作った。創傷は、3日間、無処置で放置したか、無調整培地(un-conditioned medium)(対照)又はセクレトームで処理した。3日目と5日目に、創傷の閉鎖と創床分析を、セクショニング後のH&E染色によって評価した。
【0055】
結果
幹細胞セクレトームの適用
セクレトームを、様々なアッセイにおいて、創傷治癒特性について試験した。セクレトームは、皮膚線維芽細胞、ケラチノサイト及び内皮細胞の増殖を促進し;コラーゲン産生を促進する。
【0056】
セクレトームは、さらに、脱表皮した(de-epidermised)した真皮ヒト皮膚等価物において、ケラチノサイトの増殖と分化も促進する。
【0057】
動物モデルでは、セクレトームは、より速い創傷閉鎖、血管新生及びマトリックスの沈着/成熟を促進する。
【0058】
図1及び図2は、セクレトームが、対照と比較して、ヒトの皮膚線維芽細胞、ケラチノサイト及び内皮細胞の増殖及び代謝を促進することを示している(P<0.05)。対照(無調整培地(un-conditioned medium))は、セクレトームで処理されていない細胞に対して効果を示さなかった(P>0.05)。図2において、セクレトームで処理されたパネルは、より多くの増殖を示しており、これは代謝の増加を示唆している。
【0059】
脱表皮した(de-epidermised)したヒト皮膚等価物を用いて、創傷治癒に対するセクレトームの効果を評価した。図3及び図4は、創傷治癒に対するセクレトームの効果を示している。
【0060】
図3では、セクレトームの使用によって創傷の閉鎖が促進されることが理解され得る。対照は、効果を示していない。
【0061】
図4には、創傷の画像が示されている。赤い縦線は、各創傷の0日目の最初の創縁を示している。セクレトームで処理された創傷は閉鎖し、角化層と基底層が創傷を埋めている。従って、セクレトームが、対照と比較して、ケラチノサイトの増殖及び遊走を促進した(創床閉鎖が早かった)ことが理解され得る(P<0.05)。対照(無調整培地(un-conditioned medium))は、セクレトームで処理されていない創傷に対して効果を示さない(P>0.05)。セクレトームは、ケラチノサイトの分化(表皮の層化)を促進する。
【0062】
図5は、対照又はセクレトームでの処理後3日目と5日目のラットモデルにおける創傷治癒を図で示している。黄色の点は、上皮舌を描いており、黒い矢印は、血管の形成を示している。セクレトームは、無処理又は無調整培地(un-conditioned medium)による処理と比較して、再上皮化、血管新生及び細胞外マトリックスの成熟を促進する。
【0063】
これらを総合すると、当該データは、創傷を治療するのに有利に使用することが可能なセクレトームの再生効果を明確に示している。
【表4】
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
【国際調査報告】