(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】エポキシ複合材料の化学酵素分解
(51)【国際特許分類】
C08J 11/18 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
C08J11/18 ZAB
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532824
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 CN2021134704
(87)【国際公開番号】W WO2023097534
(87)【国際公開日】2023-06-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524170522
【氏名又は名称】サイエンスコ エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フェラオ, ビクトル
(72)【発明者】
【氏名】ストレイフ, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】マジエロ, プリシラ
(72)【発明者】
【氏名】ビヨー, クロード
(72)【発明者】
【氏名】チアン, ファン
(72)【発明者】
【氏名】リン, タオ
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA21
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA76
4F401EA32
4F401EA59
4F401EA90
(57)【要約】
エポキシ複合材料に対して、ガラス転移温度よりも少なくとも10℃高い温度の溶媒処理を行う工程の後、酵素処理の工程を含む、エポキシ複合材料を分解する及び炭素繊維をリサイクルする方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行う工程であって、前記化学的前処理が、前記複合材料CMを、少なくとも100℃且つ前記複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い処理温度T
trで、前記複合材料CMの前記ガラス転移温度Tgよりも高い沸点を有する有機溶媒と接触させて、複合材料CM1を得ることを含み、
前記処理温度T
trが、ASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCによって決定される前記複合材料CMの前記ガラス転移温度T
gよりも少なくとも10℃高いが、
但し、
ASTM E1356-08(2014)に準拠するDSCによりガラス転移温度が検出できない場合には、前記処理温度T
trは条件(c1)及び(c2)から選択される少なくとも1つの条件を満たすことを条件とし、
条件(c1)が、ASTM D7028-07(2015)に準拠してDMAによってガラス転移温度T
g2を決定することができ、前記処理温度T
trが前記ガラス転移温度T
g2よりも少なくとも10℃高いことであり、
条件(c2)が、前記処理温度が少なくとも300℃であることである、工程;並びにその後
b)前記工程a)の後に得られた前記複合材料に対して酵素処理を行う工程であって、前記酵素処理が前記複合材料を少なくとも1種の酵素と接触させて複合材料CM3を得ることを含む工程;
の連続する工程を含む、複合材料の分解方法であって、
前記工程a)及びb)が少なくとも1回実施される、
方法。
【請求項2】
前記ガラス転移温度Tgが、ASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCにより検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂Cが1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有し且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、少なくとも1種の硬化剤R2とに由来する単位を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記強化繊維が炭素繊維である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程a)の前記化学的前処理が、前記複合材料CM1を前記有機溶媒と接触させた後に前記複合材料CM1をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させて複合材料CM2を得ることを含む工程a’)を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素がグルタチオンS-トランスフェラーゼである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記酵素処理が、前記複合材料CM1又はCM2をパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させることを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複合材料CM1又はCM2を前記グルタチオンS-トランスフェラーゼ及び前記パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと同時に接触させる、又は前記複合材料CM1若しくはCM2を最初に前記グルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させ、その後前記パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
c)前記複合材料CM3に対して化学的後処理を行う工程であって、前記化学的後処理が、強いブレンステッド塩基を含む水溶液と前記複合材料CM3を接触させて複合材料CM4を得ることを含む工程を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
複合材料CMから炭素繊維を回収する方法であって、
- 前記複合材料CMに含まれるエポキシ樹脂Cを、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって分解し、それによって炭素繊維とエポキシ樹脂Cの分解生成物とを含む複合材料CM3又はCM4を得ることであって、
前記材料CM3又はCM4が、分解されていないエポキシ樹脂Cを含まないか、又は分解されていないエポキシ樹脂Cの残りの部分を含むかのいずれかであること;並びに
- 前記材料CM3又はCM4から前記炭素繊維を分離すること;
を含む方法。
【請求項11】
炭素繊維をリサイクルする方法であって、
- 請求項10に記載の方法によって複合材料CMから炭素繊維を回収すること;及び
- 請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に関与する前記複合材料CMと同じ又は異なる複合材料CM”を形成することであって、前記複合材料CM”が前記複合材料CM中に含まれるエポキシ樹脂Cと同じ又は異なるエポキシ樹脂C”と、前記回収された炭素繊維とを含むこと;
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学酵素的経路によるエポキシ複合材料の分解方法、特に、溶媒中でエポキシ複合材料を化学的に前処理してから1種以上の酵素を含む酵素処理と化学的後処理を行う方法に関する。本発明は、エポキシ複合材料から炭素繊維を回収してリサイクルする方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料は構造的に緻密で混み合った材料であるため、その構造のリサイクル/分解プロセスの開発が困難である。
【0003】
炭素繊維とエポキシ樹脂とを含む複合材料は、特に航空、航空宇宙及び自動車産業で広く使用されている。
【0004】
炭素繊維強化ポリマーを使用した軽量材料に対する世界的な需要の高まりのため、炭素繊維の需要が増加している。
【0005】
このような複合材料の需要の増加に合わせて複合材料の効果的な回収及びリサイクル方法が存在しないことは、これらの製品の寿命の終了時の廃棄物の量が増加することを意味する。
【0006】
熱分解(エポキシ樹脂の熱分解)、化学的分解(酸又は超臨界流体によるエポキシ樹脂の分解)又は機械的分解(複合材料の細断、破砕、及び粉砕)など、複合材料構造に含まれるエポキシ樹脂の様々な種類の分解がすでに開発されている。しかしながら、これらの手法は、いくつかの欠点を有する。これらは、炭素繊維の品質を低下させる傾向があるか、又はこれらは、非常にエネルギーを消費し、有毒物質を取り扱うことになる。
【0007】
Ma,Y et al.(Polymer Degradation and Stability 2018,153,307-317)は、溶媒による前処理又はエポキシ複合材料の機械的破砕後のエポキシ樹脂の解重合及び酸消化を用いた従来の化学分解を評価した。ただし、その結果は、強い化学条件を使用し、薄い複合材料及び少ない数の炭素繊維シート対して適用して示されたものである。
【0008】
酵素による分解は、一般的に、環境への影響が少ない穏やかで安全な条件を意味する。
【0009】
酵素によるポリマーの分解は、基本的には、リグニン、ポリエステル、ポリアミド又はポリウレタンで評価されている(米国特許出願公開第2016/0280881号明細書、米国特許出願公開第2009/0162337号明細書、国際公開第99/29885号パンフレット、米国特許第6255451号明細書)ものの、エポキシ樹脂では評価されていない。
【0010】
Eliaz et al.(Materials 2018,11,2123)は、エポキシ樹脂の微生物分解を評価した。ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)及びオクロバクトラム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)の2種類の細菌種は、エポキシ樹脂を分解できる可能性があると特定された。
【0011】
Moeser et al.(Advanced Materials Research 2014,1018,131-136)は、微生物による未硬化エポキシ樹脂の分解の評価も報告している。しかしながら、結果は、明確ではない。
【0012】
エポキシ複合材料の分解技術の進歩にもかかわらず、そのような製品に由来する廃棄物に関しての環境への影響に対処するために、並びに環境に悪影響を及ぼすことなく販売製品の拡大を保証するために、薄い又は厚い複合材料から高品質の炭素繊維を効果的に回収することができる、温和な条件を使用する方法を提供することが求められている。
【発明の概要】
【0013】
本出願人は、この分野における研究を追求し、今回、高品質の炭素繊維の回収及びリサイクルにつながる温和な条件を使用した化学酵素法により、多数の炭素繊維シートを含む薄い及び厚いエポキシ複合材料を分解することができる独自の方法を見出した。
【0014】
本発明の第1の目的は、
a)エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行うことであって、前記化学的前処理が、複合材料CMを、少なくとも100℃且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い処理温度Ttrで、複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点を有する有機溶媒と接触させて、複合材料CM1を得ることを含み、
処理温度Ttrが、ASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCによって決定される複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高いが、
但し、
ASTM E1356-08(2014)に準拠するDSCによりガラス転移温度が検出できない場合には、処理温度Ttrは条件(c1)及び(c2)から選択される少なくとも1つの条件を満たすことを条件とし、
条件(c1)が、ASTM D7028-07(2015)に準拠してDMAによってガラス転移温度Tg2を決定することができ、処理温度Ttrがガラス転移温度Tg2よりも少なくとも10℃高いことであり、
条件(c2)が、処理温度が少なくとも300℃であることである、工程;並びにその後
b)工程a)の後に得られた複合材料に対して酵素処理を行う工程であって、前記酵素処理が複合材料を少なくとも1種の酵素と接触させて複合材料CM3を得ることを含む工程;
の連続する工程を含む、複合材料の分解方法であって、
工程a)及びb)が少なくとも1回実施される、
方法に関する。
【0015】
特に、ガラス転移温度Tgは、ASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCにより検出される。
【0016】
したがって、エポキシ樹脂Cは、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有し且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1と、少なくとも1種の硬化剤R2とに由来する単位を含む。特に、硬化剤R2は、アミン又はイミダゾール誘導体である。
【0017】
特に、強化繊維は炭素繊維である。
【0018】
本発明の方法は、適切な溶媒を使用する最初の処理によってエポキシ複合材料の分解を可能にし、複合材料の接触表面積の増加を促し、エポキシ樹脂Cの酵素分解の促進及び高品質の炭素繊維の回収を可能にする。
【0019】
好ましくは、本発明の方法は、工程a)の化学的前処理が、複合材料CM1を有機溶媒と接触させた後に複合材料CM1をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させて複合材料CM2を得ることを含む工程a’)を更に含む。
【0020】
典型的には、工程b)における酵素はグルタチオンS-トランスフェラーゼである。特に、グルタチオンS-トランスフェラーゼは、N.アロマチシボランス(N.aromaticivorans)株由来である。
【0021】
有利には、工程b)は、複合材料CM1又はCM2をパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させることを更に含む。特に、パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼは変異酵素であり、優先的には、少なくとも2つの点変異L199V及びY385Fを示す変異酵素である。
【0022】
好ましくは、工程b)は、複合材料CM1又はCM2をグルタチオンS-トランスフェラーゼ及びパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと同時に接触させること、又は複合材料CM1又はCM2を最初にグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させ、その後パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼと接触させること、のいずれかを含む。
【0023】
より好ましくは、工程b)における酵素処理に続いて、強いブレンステッド塩基を含む水溶液と複合材料CM3を接触させて複合材料CM4を得ることを含む、複合材料CM3に対する化学的後処理である追加の工程c)が行われる。
【0024】
本発明は、適切な溶媒が関与する化学的前処理の使用が、複合材料の表面積を増やし、酵素活性を改善することによって複合材料の分解に影響を与えるという発見に基づいている。
【0025】
実際、驚くべきことに、少なくとも100℃且つ複合材料のガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高いが溶媒の沸点未満である温度で、複合材料のガラス転移温度よりも高い沸点を有する有機溶媒と、そのような複合材料を接触させることによって、複合材料に対して化学的前処理を行うことで複合材料CM1を得る方法の使用は、炭素繊維を損傷することなしに温和な条件を使用してエポキシ樹脂Cの酵素分解を増加できることが見出された。
【0026】
本発明の第2の目的は、複合材料CMから炭素繊維を回収する方法であって、
- 複合材料CMに含まれるエポキシ樹脂Cを、工程a)及びb)、並びに任意選択的なa’)及びc)による方法によって分解し、それによって炭素繊維とエポキシ樹脂Cの分解生成物とを含む複合材料CM3又はCM4を得ることであって、
前記材料CM3又はCM4が、分解されていないエポキシ樹脂Cを含まないか、又は分解されていないエポキシ樹脂Cの残りの部分を含むかのいずれかであること;並びに
- 材料CM3又はCM4から炭素繊維を分離すること;
を含む方法に関する。
【0027】
本発明の第3の目的は、炭素繊維をリサイクルする方法であって、
- 本発明による方法によって、複合材料CMに含まれるエポキシ樹脂Cを分解し、複合材料CM3又はCM4から炭素繊維を分離することによって、複合材料CMから炭素繊維を回収すること;及び
- 本発明による方法に関与する複合材料CMと同じ又は異なる複合材料CM”を形成することであって、前記複合材料CM”が、複合材料CM中に含まれるエポキシ樹脂Cと同じ又は異なるエポキシ樹脂C”と、回収された炭素繊維とを含むこと;
を含む方法に関する。
【0028】
1.エポキシ複合材料の分解方法
本発明による方法は、以下に記載する少なくとも2つの工程a)及びb)を含む。
【0029】
1.1工程a)
工程a)は、エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行うことであって、前記化学的前処理が、複合材料CMを、少なくとも100℃且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い処理温度Ttrで、複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点を有する有機溶媒と接触させて、複合材料CM1を得ることを含む。
【0030】
したがって、工程a)は、複合材料と有機溶媒との混合物を、少なくとも100℃且つ複合材料のガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い処理温度Ttrで処理することを含む。
【0031】
「ガラス転移温度」Tgという用語は、温度の上昇に伴い、ポリマー系材料が硬くて比較的脆いガラス状の状態から粘稠な又はゴム状の状態に徐々に可逆的に転移することである。これは、それよりも低い温度では材料の物理的特性がガラス状又は結晶状態と類似した形で変化し、それを超える温度ではゴム状の材料のように挙動することを意味する。
【0032】
Tgは、当業者に公知の任意の方法によって決定することができる。
【0033】
一般に、ガラス転移温度Tgは、ASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCによって複合材料上で検出することができ、そのためそのようなガラス転移温度Tgは、処理温度Ttrを決定するための基礎として役立つ。Tgを決定するためには、TA InstrumentsのDSC Q2000熱量計が有利に使用される。この装置は、ベースライン(空のセルを標準DSCプログラム条件、すなわち室温(約20℃)から350℃まで、10℃/分の加熱速度で実行)及びインジウム校正(100℃から180℃まで、10℃/分)で十分に校正されたものである。複合材料サンプルが準備される。適切なサンプル質量は約3~約12mgである。これは、複合材料全体の組成、特にそのエポキシ含有量に応じて調整することができる。サンプルは、試験片が入れられる試験片ホルダーと確実によく接触するように、十分に薄く十分に平坦であることが有利である。試験片ホルダーは、典型的には、蓋に穴が開けられたTzeroアルミニウムパン(TA Instrumentsから入手可能)である。パンは試験のために密閉される。サンプルは、10℃の加熱速度を使用して室温(約20℃)から350℃まで加熱される。重要なことには、冷却プログラムの後に2回目の加熱プログラムは適用されない。Tgは最初で唯一の加熱プログラム中に決定される。そのようにすることで、この最初の加熱プログラムが完全に完了した時点でエポキシの架橋度又はその他の構造的特徴が大幅に変化したサンプルのTgを決定することが回避される。測定は、50mL/分で窒素ガスを流しながら行われる。中間点温度、つまり外挿された開始点と外挿された終了点との間の熱流量の差の1/2に対応する熱曲線上の点がガラス転移温度Tgとして定義される。
【0034】
複合材料のガラス転移温度Tg[ASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCによって決定]と比較して、処理温度Ttrは、ASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCに従って決定される複合材料のガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高くなければならない。Ttrは、好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも30℃、更により好ましくは少なくとも35℃、Tgよりも高い。Ttrは、Tgよりも更に摂氏度、例えば少なくとも40℃、更には少なくとも50℃高くてもよい。特に、Ttrは、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも175℃、より好ましくは少なくとも200℃である。
【0035】
まれに、ASTM E1356-08(2014)に準拠したDSCによってガラス転移温度Tgが検出できない場合がある。この状況は、一部の高度に架橋された複合材料で特に生じ得る。その場合、上で説明したように、処理温度Ttrが条件(c1)又は(c2)から選択される少なくとも1つの条件を満たすことを条件として、工程a)は適用可能なままである。
【0036】
本出願人は、一部の複合材料では、ASTM D7028-07(2015)に準拠した動的機械分析(DMA)によってガラス転移温度Tg2を検出できる一方で、DSCによってガラス転移温度Tgが検出できない可能性があることを観察した。 その場合、特に条件(c1)を満たす場合には工程a)を適用することができる。条件(c1)は、処理温度Ttrがガラス転移温度Tg2よりも少なくとも10℃高いことを必要とする。(c1)の好ましい実施形態では、Ttrは、Tg2よりも少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも30℃、更により好ましくは少なくとも35℃高い。Ttrは、Tg2よりも更に摂氏度、例えば少なくとも40℃、更には少なくとも50℃高くてもよい。更に、Ttrは、有利には、Tg2を200℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは50℃以上超えない。
【0037】
DMA試験には、TA InstrumentsのQ800動的機械分析装置を使用することができる。複合材料サンプルの平らで清浄な乾燥した長方形のストリップ試験片は、ASTM規格の推奨事項及び機器メーカーのマニュアルに従って準備することが有利である。試験片は確実に乾燥させるために適切にコンディショニングされる。各サンプルについて2つ以上の試験片を試験することができ、この場合、Tg2の保持値は各測定の平均値とし、明らかに欠陥のある結果は除外され得る。試験片はDMAアナライザーに配置される。デュアルカンチレバーモードは、35mm(L)、最大15mm(W)、5mm(T)のクランプサイズで使用され得る。このモードでは、試験片が両端でクランプされ、中央が曲げられる。試験片は、定ひずみモードで公称周波数1Hzで振動させられる。試験片は、室温(約20℃)から開始してTg2よりも少なくとも50℃高い最終温度まで、5℃/分(9°F/分)の速度で加熱される。パージガスとして窒素が使用されてもよい。貯蔵弾性率(E’)の大幅な低下が始まる温度が、ガラス転移温度(Tg2又は「DMATg」)であると帰属される。より正確には、Tg2は貯蔵弾性率からの2つの接線の交点として決定される。
【0038】
有利には、工程a)において、複合材料と有機溶媒との混合物は、少なくとも100℃の温度且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高いが溶媒の沸点Tb未満の温度で加熱することができる。
【0039】
「沸点」Tbという用語は、液体の蒸気圧が液体の周囲の圧力に等しくなり、液体が蒸気に変化する温度である。
【0040】
異なる溶媒の沸点Tbは、当該技術分野で知られているソフトウェアによって予測することができる。出願人は、溶媒の予測される沸点が2~25℃の範囲で実験沸点と異なる可能性があることを観察した。本発明による溶媒の沸点Tbは、HSPiPソフトウェアの予測法バージョン(5.3.06)を使用して予測した。それらは表1に記載されている。
【0041】
したがって、複合材料と有機溶媒の混合物において、有機溶媒は複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点Tbを有する。
【0042】
特に、工程a)の複合材料と有機溶媒との混合物は、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも175℃、より好ましくは少なくとも200℃の温度で加熱することができる。
【0043】
本発明において、工程a)で使用される溶媒は、複合材料CMの膨潤及び剥離を促進する。好ましくは、溶媒の剥離性は膨潤性よりも優れている。
【0044】
「膨潤」とは、流体の蓄積によって引き起こされる複合材料の構造の拡大であると理解すべきである。余分な流体は構造の重量を増加させる可能性がある。
【0045】
本明細書において使用される「剥離」という用語は、適切な方法で複合構造を破壊し、構造の内部を露出させ、全体の表面積を高める薄い水平スライスを生成することとして理解されなければならない。剥離は構造が膨潤した後に達成される。
【0046】
ごくまれに、DSCでもDMAでもaについてTgが検出されないことがある(これは、非常に高度に架橋された一部の複合材料で生じ得る)。その場合、(c2)に従って、処理は少なくとも300℃、好ましくは少なくとも350℃、場合によっては少なくとも400℃の温度で行う必要がある。これは、試行錯誤しながら進めることができる。すなわち、最初の処理で十分な膨潤が得られない場合は、より高い温度で、例えば最初に使用した温度よりも少なくとも50℃高い温度で、処理によって十分な膨潤が得られるまで処理を繰り返すことができる。
【0047】
処理は、溶媒の沸点よりも低い温度で行わなければならないことは自明である。本発明による溶媒の予測される沸点は431℃まで可能であることに留意されたい。したがって、処理に対して特に耐性がある複合材料に関して少なくとも400℃の処理を提案することは、依然として意味がある。
【0048】
好ましくは、工程a)における有機溶媒は、複合材料CMのガラス転移温度よりも高い沸点を有する。
【0049】
本発明の方法の工程a)によれば、複合材料CMの剥離効果は、水素結合を形成する能力がより高い有機溶媒を使用することによって高められる。
【0050】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、溶媒の極性を分散力(δD)、双極子から生じる極性の程度(δP)、及び水素結合能力(δH)の点から特徴付けるために通常使用される尺度である。これらには、例えば他の溶媒との、及びポリマー、顔料、ナノ粒子との分子間相互作用についての情報が含まれる。
【0051】
HSPは、当業者に公知の様々な方法によって決定することができる。本発明による溶媒のHSPは、HSPiPソフトウェアの予測法バージョン(5.3.06)を使用して予測した。それらは表1に記載されている。
【0052】
水素結合能力(δH)に応じたHSP値を有する適切な溶媒は、複合材料を膨潤させるのみならず、複合材料の剥離も促進し、複合材料の表面積を増加させる。
【0053】
特に、有機溶媒は、下の表1に記載される構造に従う、ベンジルアルコール、シレン、N-メチル-ピロリドン、フェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8、S9、S10、S11、S12、S13、S14、S15、S16、S17、又はそれらの混合物から選択される環状溶媒である。好ましくは、有機溶媒は、ベンジルアルコール、シレン、及びそれらの混合物から選択される。より好ましくは、有機溶媒はベンジルアルコールである。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
より具体的には、工程a)は、エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行う工程を含み、前記化学的前処理は、
a1)複合材料CMと、複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点Tbを有する有機溶媒とを含む混合物M1を形成すること、次いで、
a2)エポキシ樹脂Cを膨潤及び剥離させることができるように、混合物M1を少なくとも100℃の温度且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い温度で少なくとも10分間維持すること、次いで
a3)混合物M1から有機溶媒を除去し、その後複合材料CM1を得ること、
を含む。
【0059】
3つの工程a1)、a2)、及びa3)は連続している。
【0060】
好ましくは、工程a)は撹拌なしで行われる。
【0061】
工程a)は、5時間~72時間継続することができる。
【0062】
特に、工程a2)において、溶媒中の複合材料CMの混合物M1は2時間~5時間加熱される。
【0063】
特に、工程a2)において、溶媒中の複合材料CMの混合物M1は、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも175℃、より好ましくは少なくとも200℃の温度で加熱される。
【0064】
特に、工程a3)において、有機溶媒は濾過によって除去される。
【0065】
有利には、工程a3)において、複合材料CMは、35℃~50℃の温度で24時間~数週間、より好ましくは24時間~48時間乾燥される。
【0066】
有利には、溶媒/複合材料CMの重量比は、50g/g~200g/gに含まれる。
【0067】
工程a)の後に得られる複合材料CMは複合材料CM1と呼ばれる。
【0068】
工程a)の後に、任意選択的に工程a’)を行うことができる。
【0069】
工程a’)は、複合材料CMを有機溶媒と接触させた後、複合材料CM1をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させることを含む。
【0070】
工程a’)により、エポキシ樹脂Cのリン酸化をある程度まで進めることができる。
【0071】
本発明において、複合材料が添加される溶媒は、リン酸水溶液、リン酸二ナトリウム水溶液、及びそれらの組み合わせの中から選択される。より具体的には、工程a’)の溶媒は、リン酸二ナトリウムの水溶液である。
【0072】
更に具体的には、工程a’)で使用されるリン酸二ナトリウムの水溶液は、リン酸二ナトリウムの濃度が120~1000g/mL、好ましくは120~500g/Lのものである。特に、リン酸二ナトリウムは、無水リン酸二ナトリウムの形態で使用される。
【0073】
有利には、リン酸二ナトリウム/複合材料CM1の重量比は5~150g/gである。
【0074】
好ましくは、溶媒中の複合材料との混合物にシクロデキストリンが更に添加される。
【0075】
本発明において、シクロデキストリンは、α-1,4グリコシド結合によって連結されたα-D-グルコピラノースサブユニットの大環状環からなる環状オリゴ糖である。これは、特に、1,4グリコシド結合によって連結された5つ以上のα-D-グルコピラノース単位から構成される。シクロデキストリンαは、6個のα-D-グルコピラノースサブユニットを含む。シクロデキストリンβは、7個のα-D-グルコピラノースサブユニットを含む。シクロデキストリンγは、8個のα-D-グルコピラノースサブユニットを含む。
【0076】
好ましくは、工程a’)で使用されるシクロデキストリンは、環内に6~8単位の範囲の多数のD-グルコピラノースサブユニットを含む。
【0077】
より好ましくは、シクロデキストリンは、シクロデキストリンα、シクロデキストリンβ及びシクロデキストリンγを含む群の中から選択され、更に好ましくは、シクロデキストリンは、シクロデキストリンβである。
【0078】
有利には、シクロデキストリン/複合材料CM1の重量比は、0.5~50g/gに含まれる。
工程a’)は、好ましくは撹拌下で行われる。
工程a’)は、72時間~4日間継続することができる。
【0079】
有利には、工程a’)は、以下の工程を含む:
a’1)複合材料CM1と、シクロデキストリンと、リン酸及び/又はその塩の水溶液とを含む混合物M2を形成する工程、次いで
a’2)エポキシ樹脂Cをリン酸化できるようにするために、混合物M2を10℃から100℃未満までの温度で少なくとも10分間維持する工程、次いで
a’3)混合物M2の水を除去する工程。
【0080】
3つの工程a’1)、a’2)、及びa’3)は連続している。
【0081】
特に、工程a’2)において、溶媒中の複合材料CM1とシクロデキストリンとの混合物は、36時間から数週間、好ましくは36時間~72時間撹拌される。
【0082】
特に、工程a’3)において、溶媒中の複合材料CM1の混合物は、10℃~100℃、好ましくは40℃~95℃、より好ましくは55℃~90℃に含まれる温度で撹拌される。
【0083】
特に、工程a’3)において、水は加圧濾過によって除去される。
【0084】
好ましくは、工程a’3)において、複合材料CM1は、35℃~50℃の温度で24時間~72時間乾燥される。
【0085】
工程a’)の後に得られる複合材料CMは、複合材料CM2と呼ばれる。
【0086】
好ましくは、複合材料CMの前処理は、工程a)と、エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行うことを含む追加の工程a’)とを含み、前記化学的前処理は、
a1)複合材料CMと、複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点Tbを有する有機溶媒とを含む混合物M1を形成すること、次いで、
a2)エポキシ樹脂Cを膨潤及び剥離させることができるように、混合物M1を少なくとも100℃の温度且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い温度で少なくとも10分間維持すること、次いで
a3)混合物M1から有機溶媒を除去し、その後複合材料CM1を得ること、
a’1)複合材料CM1と、シクロデキストリンと、リン酸及び/又はその塩の水溶液とを含む混合物M2を形成すること、次いで
a’2)エポキシ樹脂Cをリン酸化できるようにするように、混合物M2を10℃から100℃未満の温度で少なくとも10分間維持すること、次いで
a’3)混合物M2から水を除去して複合材料CM2を得ること、
を含む。
【0087】
1.2工程b)
工程b)は、工程a)又はa’)の後に得られた複合材料CMを酵素的に処理することを含み、この処理は、複合材料CM2又はCM1を少なくとも1種の酵素と接触させて混合物M3を得る工程を含む。好ましくは、工程b)で使用される複合材料は複合材料CM2である。
【0088】
具体的には、酵素処理は、複合材料CM1又はCM2を酵素グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)と接触させることによって行われる。
【0089】
本発明の意味において、「グルタチオンS-トランスフェラーゼ」(GST)は、下に概略的に示されるように、エポキシ樹脂を切断し、還元型グルタチオン(GSH)を補因子として使用することによって、n>mであるエポキシ樹脂Cの解重合反応を触媒する能力を有する酵素である:
【化1】
【0090】
標準化された命名法では、これらの酵素は、EC2.5.1.18のメンバーとして分類される。
【0091】
本発明の方法で使用されるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)は、真核生物由来又は原核生物由来であってよく、優先的には原核生物由来である。
【0092】
GSTのスーパーファミリーの中でも、β-エーテラーゼと呼ばれる立体特異的グルタチオンS-トランスフェラーゼのサブクラスが本発明の方法のために特に興味深いものである。
【0093】
特に、スフィンゴビウム(Sphingobium)属由来の酵素LigE、LigP、及びLigF並びにそれらの相同体を使用することができる。当業者によって容易に同定される相同体の中でも、ノボスフィンゴビウム(Novosphingobium)属PP1Y由来の酵素LigE-NS(=NsLigE)及びLigF-NS、並びにノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス(Novosphingobium aromaticivorans)DSM12444由来のLigE-NA(=NaLigE)、LigF-NA(=NaLigF1)、及びNaLigF2を挙げることができる。
【0094】
方法の特定の実施では、工程b)で使用されるグルタチオンS-トランスフェラーゼは、β-エーテラーゼである。特に、工程b)で使用されるGSTは、スフィンゴビウム(Sphingobium)属由来の酵素LigE、LigP若しくはLigF又はこれらの酵素の任意の相同体、例えばLigD、LigL、LigN、LigO又はLigGである。優先的には、工程b)で使用されるGSTは、LigE相同体である。
【0095】
本発明の方法の特定の実施では、工程b)におけるグルタチオンS-トランスフェラーゼは、ノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス(Novosphingobium aromaticivorans)(N.アロマチシボランス(N.aromaticivorans))株由来である。グルタチオンS-トランスフェラーゼは、特にノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス(Novosphingobium aromaticivorans)株由来のLigE相同体、すなわちLigE-NAであり得る。
【0096】
特に、グルタチオンS-トランスフェラーゼは、適切な固体担体上に固定化することができる。
【0097】
有利には、グルタチオンS-トランスフェラーゼは、グルタチオンS-トランスフェラーゼを発現する溶解した細菌の培養液の形態で複合材料CM1又はCM2に添加される。細菌は、上述した通りである。溶解した細菌の培養液は、上述したように、細菌を培養し、続いて遠心分離して細胞ペレットを得てから、細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合し、細菌を超音波処理で溶解することによって得られる。
【0098】
細菌の溶解から得られた培養液は、グルタチオンS-トランスフェラーゼを含む。少なくとも1体積%のこの溶液を使用することができ、好ましくは1体積%~20体積%使用することができる。
【0099】
特に、工程b)では、複合材料CM1又はCM2は、適切な媒体中のグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触する。
【0100】
特に、適切な媒体は、上記緩衝液中にグルタチオンS-トランスフェラーゼを含む水性媒体である。
【0101】
有利には、適切な媒体中のグルタチオンS-トランスフェラーゼ細胞ペレット/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.5g/g~10g/gに含まれる。
【0102】
好ましくは、適切な媒体は、6~11、より好ましくは8~10に含まれるpHを有する。
【0103】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、グルタチオンS-トランスフェラーゼと少なくとも50時間、より好ましくは少なくとも72時間接触する。
【0104】
特に、複合材料CM1又はCM2は、20℃~45℃に含まれる温度でグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触する。
【0105】
有利には、複合材料CM1又はCM2は、還元型グルタチオンの水性媒体、グリシン、及び任意選択的なシクロデキストリンの水性媒体と更に接触する。
【0106】
有利には、水性媒体中の還元型グルタチオン/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.1g/g~50g/gに含まれる。
【0107】
有利には、水性媒体中のグリシン/複合材料CM1又はCM2の重量比は、1g/g~100g/gに含まれる。
【0108】
したがって、工程b)において、複合材料CM1又はCM2は、還元型グルタチオンの水性媒体、グリシン、適切な媒体中のグルタチオンS-トランスフェラーゼと、及び任意選択的にはシクロデキストリンの水性媒体とも、好ましくは8~10に含まれるpHで、好ましくは20℃~45℃に含まれる温度で、好ましくは少なくとも50時間接触する。
【0109】
特に、工程b)は、以下の工程を含む:
b1)反応器に、複合材料CM1又はCM2、還元型グルタチオン、グリシン、適切な媒体中のグルタチオンS-トランスフェラーゼ、及び任意選択的なシクロデキストリンを、好ましくは連続的に添加する工程;
b2)工程b1)の後に得られた混合物を、20℃~45℃に含まれる温度で少なくとも50時間撹拌する工程;
b3)任意選択的に濾過及び洗浄を行う工程;及びその後
b4)任意選択的に加熱乾燥する工程。
【0110】
b1)、b2)、並びに任意選択的なb3)及びb4)の4つの工程は、連続している。
【0111】
工程b1)後に得られる混合物は、上述した適切な媒体中のグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させた複合材料CM1又はCM2に対応する。
【0112】
工程b)後に得られる混合物を混合物M3と呼ぶ。
【0113】
得られた混合物M3は、8~10に含まれるpHを有する。
【0114】
好ましくは、工程b4)において、複合材料CM1又はCM2は、35℃~50℃の温度で24時間~72時間乾燥される。
【0115】
工程c)の後に得られる複合材料CMを複合材料CM3と呼ぶ。
【0116】
有利には、工程b)は、複合材料CM1又はCM2をパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)と接触させて混合物M3を得ることを更に含む。
【0117】
本発明の意味において、EC1.14.13.2として分類されるパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)は、芳香族化合物の分解に関与するフラボタンパク質である。補因子NADPは、水素の受容体として反応に関与し、反応中にNADPHに変換される。工程b)では、この酵素は、以下に概略的に示されるように、補因子FADと共に、樹脂構造中に多く存在する芳香族部位へのヒドロキシル基の付加を触媒する。
【化2】
【0118】
したがって、この反応は、樹脂の酸化を可能にする。その場合、樹脂はより親水性になり、水性媒体への溶解性が向上する。更に、これらのヒドロキシル化された部位は、工程c)で行われる切断をより受けやすい。
【0119】
好ましい実施形態では、工程b)で使用されるパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来である。
【0120】
或いは、工程b)で使用されるパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来であってよい。
【0121】
工程b)で使用されるPHBH酵素は、野生型酵素又は変異型酵素であってよい。
【0122】
本発明の好ましい実施形態では、工程b)で使用されるPHBHは変異酵素であり、更により優先的には、これは以下に従う少なくとも2つの点変異L199V及びY385Fを示す変異酵素である:
- 2つの点変異L199V及びY385Fで修飾された緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来の変異PHBH酵素(実施例では「M010」と示す)。
【0123】
別の実施形態では、工程b)で使用されるPHBHは、以下に従う少なくとも2つの点変異L200V及びY385Fを示す変異酵素であってよい:
- 2つの点変異L200V及びY385Fで修飾されたコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の変異PHBH酵素(実施例では「YM321」と示す)。
- 3つの点変異L200V、Y385F、及びD39Yで修飾されたコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の変異PHBH酵素(実施例では「YM322」と示す)。
【0124】
特に、PHBHは、適切な固体担体上に固定化することができる。
【0125】
有利には、PHBHは、PHBHを発現する溶解細菌の培養液の形態で複合材料CM1又はCM2に添加される。細菌は、上述した通りである。溶解した細菌の培養液は、上述したように、細菌を培養し、続いて遠心分離して細胞ペレットを得てから、細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合し、細菌を超音波処理で溶解することによって得られる。
【0126】
細菌の溶解から得られた培養液は、PHBHを含む。少なくとも1体積%、好ましくは1体積%~20体積%のこの溶液を使用することができる。
【0127】
特に、工程b)では、複合材料CM1又はCM2は、適切な媒体、特に上記緩衝水性媒体中のPHBHと接触する。
【0128】
好ましくは、適切な媒体は、6~11、より好ましくは8~10に含まれるpHを有する。
【0129】
有利には、工程b)において、複合材料CM1又はCM2は、補因子ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を含む水系と更に接触する。
【0130】
有利には、水系は、補因子NADPの再生を可能にする化合物を含む。NADPの再生手段は、当業者に周知である。特に、水系は、グルコースと、グルコース-6-リン酸を酸化する一方でNADP+をNADPHに還元するグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素(EC1.1.1.49に分類される)とを含む。当業者は、これらの酵素をよく知っており、ET004などの1つのグルコースデヒドロゲナーゼを選択することができるであろう。
【0131】
特に、複合材料CM1又はCM2と更に接触する水性媒体は、ET004などのグルコースデヒドロゲナーゼを含む。
【0132】
好ましくは、工程b)は、複合材料CM1又はCM2をグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)及びパラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)と同時に接触させることによって行われる。
【0133】
或いは、酵素処理は、複合材料CM1又はCM2を最初にグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)と接触させ、その後パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)と接触させることによって行われる。
【0134】
特に、適切な媒体中のGST細胞ペレット/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.5g/g~10g/gに含まれる。
【0135】
特に、適切な媒体中のPHBH細胞ペレット/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.5g/g~10g/gに含まれる。
【0136】
好ましくは、適切な媒体は、6~11、より好ましくは8~10に含まれるpHを有する。
【0137】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、GST及びPHBHと少なくとも50時間同時に接触する。
【0138】
特に、複合材料CM1又はCM2は、20℃~45℃に含まれる温度でGST及びPHBHと同時に接触する。
【0139】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、還元型グルタチオンの水性媒体、グリシン、及び任意選択的なシクロデキストリンの水性媒体と更に接触する。
【0140】
有利には、適切な媒体中の還元型グルタチオン/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.1g/g~50g/gに含まれる。
【0141】
有利には、適切な媒体中のグリシン/複合材料CM1又はCM2の重量比は、1g/g~100g/gに含まれる。
【0142】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、NADPを含む水性媒体と更に接触する。より好ましくは、水性媒体中のNADP/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.001g/g~1g/gに含まれる。
【0143】
有利には、複合材料CM1又はCM2は、FADを含む水性媒体と更に接触する。特に、水性媒体中のFAD/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.0001g/g~1g/gに含まれる。
【0144】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、適切な媒体中のET004と更に接触する。より具体的には、ET004細胞ペレット/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.5g/g~10g/gに含まれる。
【0145】
したがって、好ましい実施形態では、複合材料CM1又はCM2は、適切な媒体中のGST及びPHBH、還元型グルタチオン、グリシン、及びグルコースの水性媒体、NADP及びFADの水性媒体、適切な媒体中のET004、並びに任意選択的なシクロデキストリンの水性媒体と、好ましくは8~10に含まれるpHで、好ましくは20℃~45℃に含まれる温度で、好ましくは少なくとも50時間、同時に接触する。
【0146】
特に好ましい実施形態では、工程b)は以下の工程を含む:
b1)反応器に、複合材料CM1又はCM2、還元型グルタチオン、グリシン、グルコース、NADP、FAD、並びに適切な媒体中のGST、PHBH及びET004、並びに任意選択的なシクロデキストリンを、好ましくは連続的に添加する工程;
b2)工程b1)の後に得られた混合物を、20℃~45℃に含まれる温度で少なくとも50時間撹拌する工程;
b3)任意選択的に濾過及び洗浄を行う工程;及びその後
b4)任意選択的に加熱乾燥する工程。
【0147】
b1)、b2)、並びに任意選択的なb3)及びb4)の4つの工程は、連続している。
【0148】
工程b1)後に得られる混合物は、上述した適切な媒体中のGST及びPHBHと同時に接触させた複合材料CM1又はCM2に対応する。
【0149】
工程b)後に得られる混合物を混合物M3と呼ぶ。
【0150】
得られた混合物M3は、8~10に含まれるpHを有する。
【0151】
好ましくは、工程b4)において、複合材料CM1又はCM2は、35℃~50℃の温度で24時間~72時間乾燥される。
【0152】
工程c)の後に得られる複合材料CMを複合材料CM3と呼ぶ。
【0153】
別の実施形態では、本発明による方法の工程b)は、複合材料CM1又はCM2を最初にグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)と接触させ、その後パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)と接触させることによって行われる。
【0154】
特に、適切な媒体中のGST細胞ペレット/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.5g/g~10g/gに含まれる。
【0155】
特に、適切な媒体中のPHBH細胞ペレット/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.5g/g~10g/gに含まれる。
【0156】
好ましくは、適切な媒体は、6~11、より好ましくは8~10に含まれるpHを有する。
【0157】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、GSTと、その後にPHBHと、少なくとも50時間、より好ましくは少なくとも72時間接触する。特に、複合材料CM1又はCM2は、20℃~45℃に含まれる温度でGSTと接触し、その後PHBHと接触する。
【0158】
有利には、適切な媒体中の還元型グルタチオン/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.1g/g~50g/gに含まれる。
【0159】
有利には、適切な媒体中のグリシン/複合材料CM1又はCM2の重量比は、1g/g~100g/gに含まれる。
【0160】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、NADPを含む水性媒体と更に接触する。より好ましくは、適切な媒体中のNADP/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.001g/g~1g/gに含まれる。
【0161】
有利には、複合材料CM1又はCM2は、FADを含む水性媒体と更に接触する。特に、適切な媒体中のFAD/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.0001g/g~1g/gに含まれる。
【0162】
好ましくは、複合材料CM1又はCM2は、適切な媒体中のET004と更に接触する。より具体的には、ET004細胞ペレット/複合材料CM1又はCM2の重量比は、0.5g/g~10g/gに含まれる。
【0163】
したがって、第2の実施形態では、複合材料CM1又はCM2は、適切な媒体中のGST、還元型グルタチオン、グリシン、及びグルコースの水性媒体、適切な媒体中のET004、適切な媒体中の更なるPHBH、並びにNADP及びFADの水性媒体、並びに任意選択的なシクロデキストリンの水溶液と、好ましくは8~10に含まれるpHで、好ましくは20℃~45℃に含まれる温度で、好ましくは少なくとも50時間接触する。
【0164】
第2の実施形態では、工程b)は以下の工程を含む:
b1)反応器に、複合材料CM1又はCM2、還元型グルタチオン、グリシン及びグルコース、適切な媒体中のGST、並びに任意選択的なシクロデキストリンを、好ましくは連続的に添加する工程;
b2)NADP及びFAD、適切な媒体中のPHBH及びET004を添加する工程、
b3)工程b2)の後に得られた混合物を、20℃~45℃に含まれる温度で少なくとも50時間撹拌する工程;
b4)任意選択的に濾過及び洗浄を行う工程;及びその後
b5)任意選択的に加熱乾燥する工程。
【0165】
b1)、b2)、b3)、並びに任意選択的なb4)及びb5)の5つの工程は、連続している。
【0166】
工程b2)の後に得られる混合物は、上述した適切な媒体中でGSTと接触させてから更にPHBHと接触させた複合材料CM1又はCM2に相当する。
【0167】
工程b)後に得られる混合物を混合物M3と呼ぶ。
【0168】
得られた混合物M3は、8~10に含まれるpHを有する。
【0169】
好ましくは、工程b4)において、複合材料CM1又はCM2は、35℃~50℃の温度で24時間~72時間乾燥される。
【0170】
工程c)の後に得られる複合材料CMを複合材料CM3と呼ぶ。
【0171】
1.3工程c)
工程b)に続いて、任意選択的に工程c)が行われる。
【0172】
工程c)は、複合材料CM3の化学的後処理を含み、化学的後処理は、強いブレンステッド塩基を含む水溶液と複合材料CM3を接触させる工程を含む。
【0173】
実際、工程c)は、酵素処理工程b)の後に行われる。
【0174】
工程c)では、強いブレンステッド塩基がエポキシ樹脂の切断による更なる分解を促進することができる。
【0175】
特定の実施形態では、強いブレンステッド塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、又は水酸化カリウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物から選択される。好ましくは、強いブレンステッド塩基は水酸化ナトリウムである。
【0176】
好ましくは、強いブレンステッド塩基は、0.1mol/L~10mol/L、より好ましくは1mol/L~10mol/Lに含まれる濃度である。
【0177】
有利には、(強いブレンステッド塩基の水溶液)/複合材料CM3の重量比は、10g/g~100g/gに含まれる。
【0178】
有利には、好ましい実施形態では、工程c)において、複合材料CM3は、20℃~100℃に含まれる温度、より有利には60℃~100℃の温度で48時間~2週間、強いブレンステッド塩基を含む水溶液と接触する。
【0179】
有利には、工程c)は、以下の工程を含む:
c1)複合材料CM3を、強いブレンステッド塩基を含む水溶液と接触させる工程、
c2)加熱する工程、その後
c3)任意選択的に濾過及び洗浄を行う工程、及びその後
c4)任意選択的に加熱乾燥する工程。
【0180】
好ましくは、工程c2)は撹拌しながら行われる。
【0181】
好ましくは、工程c4)において、複合材料CM3は、35℃~50℃の温度で24時間~72時間乾燥される。
【0182】
工程c)の後に得られる複合材料CMを複合材料CM4と呼ぶ。
【0183】
2.ラウンド
本発明による方法は、複数回、好ましくは少なくとも1回、より好ましくは少なくとも2回繰り返して行うことができる。
【0184】
本発明の方法は、1回~30回、好ましくは1回~20回、より好ましくは1回~10回繰り返して行うことができる。
【0185】
本発明による方法の1回目のラウンドは、以下に対応する:
a)エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行うことであって、前記化学的前処理が、複合材料CMを、少なくとも100℃且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い処理温度Ttrで、複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点を有する有機溶媒と接触させて、複合材料CM1を得ること;
a’)任意選択的に、複合材料CM1をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させて、複合材料CM2を得ること;
b)工程a)又はa’)の後に得られた複合材料に対して酵素処理を行うことであって、前記酵素処理が複合材料を少なくとも1種の酵素と接触させて複合材料CM3を得ることを含むこと;
c)任意選択的に、複合材料CM3を強いブレンステッド塩基を含む水溶液と接触させて、複合材料CM4を得ること。
【0186】
本発明による方法の1回目のラウンドを行った後に得られる複合材料に対し、本発明による方法を再度行うことができ、したがって工程a)の複合材料CMを置き換えることができる。次いで、本発明による方法の2回目のラウンドが行われる。
【0187】
その場合、2回目のラウンドは、以下に対応する:
a)1回目のラウンドの後に得られた、エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行うことであって、前記化学的前処理が、複合材料CMを、少なくとも100℃且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い処理温度Ttrで、複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点を有する有機溶媒と接触させて、複合材料CM1’を得ること;
a’)任意選択的に、複合材料CM1’をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させて、複合材料CM2’を得ること;
b)工程a)又はa’)の後に得られた複合材料に対して酵素処理を行うことであって、前記酵素処理が複合材料を少なくとも1種の酵素と接触させて複合材料CM3’を得ることを含むこと;
c)任意選択的に、複合材料CM3’を強いブレンステッド塩基を含む水溶液と接触させて、複合材料CM4’を得ること。
【0188】
本発明による方法の1回目のラウンドを実施した後に得られる複合材料は、上で定義した複合材料CM3又は複合材料CM4であってよい。好ましくは、これは複合材料CM4に対応する。
【0189】
特に、2回より多くのラウンドを行うことができ、より具体的には3回より多くのラウンドを実行することができる。好ましくは、1~30回のラウンド、より好ましくは2~20回のラウンド、更に好ましくは2~10回のラウンドを行うことができる。
【0190】
有利には、本発明による方法を1回~10回行うことができる。
【0191】
3.エポキシ複合材料
本発明による方法は、エポキシ複合材料を分解することを目的とする。
【0192】
本発明の方法で使用されるエポキシ複合材料は、エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む。
【0193】
特に、エポキシ樹脂Cは、
- 1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む少なくとも1種の芳香族化合物R1に由来する単位と、
- 少なくとも1種の硬化剤R2に由来する単位と、
- 任意選択的な追加の化合物R3に由来する単位と、
を含む。
【0194】
「~由来する単位を含むエポキシ樹脂」という表現は、当然のことながら、この組成物に使用される様々な基本成分の混合物及び/又は反応生成物を含有するエポキシ樹脂を意味すると理解されるべきであり、これらの一部は、エポキシ樹脂又は複合材料又はそのような複合体材料を含む完成品の様々な製造段階、特に硬化工程中、少なくとも部分的に互いに又は周囲の化学的環境と反応することが意図されているか又は反応することが可能である。
【0195】
換言すると、エポキシ樹脂Cは、後述する少なくとも1種の芳香族化合物R1と、少なくとも1種の硬化剤R2とから製造される。
【0196】
有利には、エポキシ樹脂Cは、1種の芳香族化合物R1と1種の硬化剤R2とに由来する単位を含む。
【0197】
有機化合物に関して本明細書で使用される場合、用語「芳香族」は、1つ以上のアリール部位を含む有機化合物が、典型的には、酸素、窒素及び硫黄のヘテロ原子から選択される1つ以上のヘテロ原子によってそれぞれ任意選択的に中断され得、1つ以上のアリール部位の1つ以上の炭素原子が、典型的には、アルキル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ハロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキルから選択される1つ以上の有機基で任意に置換され得ることを意味する。
【0198】
本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、非局在化共役π系を有し、nが0又は正の整数である4n+2に等しい複数のπ電子を有する環式の共平面5~14員の有機基を意味し、環員のそれぞれが炭素原子であるベンゼンなどの化合物、1つ以上の環員がヘテロ原子、典型的には酸素、窒素及び硫黄原子から選択されるヘテロ原子であるフラン、ピリジン、イミダゾール及びチオフェンなどの化合物並びにナフタレン、アントラセン及びフルオレンなどの縮合環系が含まれ、これらの中で、環炭素の1つ以上は、典型的には、アルキル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ハロアルキル、アリール、アルカリール、ハロ基から選択される1つ以上の有機基で置換され得、例えばフェニル、メチルフェニル、トリメチルフェニル、ノニルフェニル、クロロフェニル又はトリクロロメチルフェニルなどであり得る。
【0199】
本明細書で使用される場合、「エポキシド基」は、隣接エポキシ基、すなわち1,2-エポキシ基を意味する。
【0200】
3.1.芳香族化合物R1
エポキシ樹脂Cの第1の必須化合物は、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し且つ少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する少なくとも1つの芳香環を含む芳香族化合物R1である。
【0201】
本発明による芳香族化合物R1は、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有し、少なくとも2つのエポキシド基の1つは、少なくとも1つのグリシジルオキシ基を有する芳香環が有するグリシジルオキシ基由来のエポキシド基であり得る。
【0202】
特に好適な芳香族化合物R1には、ジグリシジルレゾルシノール、1,2,2-テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン又は1,1,1-トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンなど、フェノール及びポリフェノールのポリグリシジルエーテル;ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールCのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)及びビスフェノールSのジグリシジルエーテル(4,4’-スルホニルジフェノール)並びにそれらのオリゴマーなどのビスフェノールのジグリシジルエーテル;芳香族アルコールのポリグリシジルエーテル;エポキシ化ノボラック化合物;エポキシ化クレゾールノボラック化合物;トリグリシジルアミノフェノール(TGAP)などのアミノフェノールのポリグリシジルエーテル;トリグリシジルアミノクレゾールが含まれる。
【0203】
好ましくは、適切な芳香族化合物R1としては、p-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0510など);m-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0610など);2,2-ビス(4,4’-ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールAに基づく物質のジグリシジルエーテル(DowのDER 661又はMomentiveのEPON 828など);フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(DowのDEN 431又はDEN 438など);ジヒドロキシジフェニルメタンのジグリシジル誘導体(HuntsmanのPY 306など)などの公知の市販の化合物が挙げられる。
【0204】
有利には、芳香族化合物R1は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールCのジグリシジルエーテル(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)及びビスフェノールSのジグリシジルエーテル(4,4’-スルホニルジフェノール)などのビスフェノールのジグリシジルエーテルに対応する。
【0205】
特に、芳香族化合物R1は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルに対応する。
【0206】
3.2硬化剤R2
エポキシ樹脂Cの第2の必須化合物は、硬化剤R2である。
【0207】
エポキシ樹脂の硬化剤は、当業者に周知である。
【0208】
これは、一級アミン、二級アミン若しくは三級アミンなどのアミン、ケチミン、ポリアミド樹脂、イミダゾール誘導体、ポリメルカプタン、無水物、三フッ化ホウ素アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジド、光硬化剤又は紫外線硬化剤であり得る。
【0209】
特に、硬化剤としてのアミンは、ポリアミンである。これは、脂肪族ポリアミン又は芳香族アミンであり得る。
【0210】
硬化剤として適切なアミンには、ジエチレントリアミン(DTA)、トリエチレンテトラミン(TTA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ジプロペンジアミン(DPDA)、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、アミン248、N-アミノエチルピペラジン(N-AEP)、Lamiron C-260、Araldit HY-964、メンタンジアミン(MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)、S cure211、Wandamin HM、1.3BAC、m-キシレンジアミン(m-XDA)、Sho-アミンX、アミンブラック、Sho-アミンブラック、Sho-アミンN、Sho-アミン1001、Sho-アミン1010、メタフェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)が含まれる。
【0211】
硬化剤R2として適切なイミダゾール誘導体には、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-イミダゾール、3-ベンジル-2-メチルイミダゾール、5-メチル-2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、5-エチル-2-メチルイミダゾール又は1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテートが含まれる。
【0212】
硬化剤R2として好適な無水物には、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノントリカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水エノメチレンテトラヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチルデンテトラヒドロフタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロ-4-メチルフタル酸、無水コハク酸、無水メチルシクロヘキセンジカルボン酸、アルキルスチレン-無水マレイン酸コポリマー、無水クロレンド酸、ポリアゼライン酸無水物が含まれる。
【0213】
好ましくは、硬化剤R2は、一級アミン及びイミダゾール誘導体から選択される。
【0214】
3.3 追加の化合物R3
エポキシ樹脂Cは、1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有する少なくとも1種のエポキシ化合物に由来する単位も含むことができる。適切なエポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及びエポキシ化合物が挙げられる。
【0215】
適切な芳香族エポキシ化合物としては、1分子あたり2つ以上のエポキシド基を有する芳香族化合物が挙げられ、例えばフェノール及びポリフェノールのポリグリシジルエーテル、例えばジグリシジルレゾルシノール、1,2,2-テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン又は1,1,1-トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、ビスフェノールA(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン)、ビスフェノールF(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールC(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン)、及びビスフェノールS(4,4’-スルホニルジフェノール)のジグリシジルエーテル(これらのオリゴマーを含む)、フルオレン環含有エポキシ化合物、ナフタレン環含有エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン変性フェノール系エポキシ化合物、エポキシ化ノボラック化合物、及びエポキシ化クレゾールノボラック化合物、アミンのポリグリシジル付加物、例えばN,N-ジグリシジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、トリグリシジルアミノフェノール(TGAP)、トリグリシジルアミノクレゾール、若しくはテトラグリシジルキシレンジアミン、又はアミノアルコール、例えばトリグリシジルアミノフェノール、ポリカルボン酸のポリグリシジル付加物、例えばジグリシジルフタレート、ポリグリシジルシアヌレート、例えばトリグリシジルシアヌレート、ビニル化合物と共重合可能なグリシジル(メタ)アクリレートのコポリマー、例えばスチレングリシジルメタクリレートなどの既知の化合物が挙げられる。
【0216】
1分子あたり2つ以上のエポキシド基を有する適切なエポキシ化合物としては、公知の市販の化合物、例えばN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(HuntsmanのMY 9663、MY 720及びMY 721など)、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソ-プロピルベンゼン(MomentiveのEPON 1071など);N,N,N’,N’-テトラクリシジル-ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン(MomentiveのEPON 1072など);p-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0510など);m-アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(HunstmanのMY 0610など);2,2-ビス(4,4’-ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールAに基づく物質のジグリシジルエーテル(DowのDER 661又はMomentiveのEPON 828など)及び好ましくは25℃で8~20Pa・sの粘度のノボラック樹脂;フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル(DowのDEN 431又はDEN 438など);ジシクロペンタジエンに基づくフェノールノボラック(HuntsmanのTactix(登録商標)556など);ジグリシジル1,2-フタレート;ジヒドロキシジフェニルメタンのジグリシジル誘導体(HuntsmanのPY 306など)が挙げられる。
【0217】
1分子あたり2つ以上のエポキシド基を有する適切な脂環式エポキシ化合物としては、例えば、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルとエチレングリコールとのコポリマー、ジシクロペンタジエンジエポキシド、4-ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2,8,9-ジエポキシリモネン(リモネンジオキシド)、3,4-エポキシ-6-メチル-シクロヘキシルメチル、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)スピロ[1,3-ジオキサン-5,3’-[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン]、アリルシクロペンテニルエーテルのジエポキシド、1,4-シクロヘキサジエンジエポキシド、1,4-シクロヘキサンメタノールジグリジカルエーテル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ジグリシジル1,2-シクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、3-(オキシラン-2-イル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ビス(2,3-エポキシプロピル)シクロヘキサ-4-エン-1,2-ジカルボキシレート、4,5-エポキシテトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ポリ[オキシ(オキシラニル-1,2-シクロヘキサンジイル)]α-ヒドロ-ω-ヒドロキシ-エーテル、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンなどの公知の化合物が挙げられる。
【0218】
1分子当たり2つ以上のエポキシド基を有する適切な脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、ブタンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ化ポリブタジエン、ジペンテンジオキシド、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、及び水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂などの公知の化合物が挙げられる。
【0219】
適切な脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、3’,4’-エポキシシクロヘキサンメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(CELLOXIDE(商標)2021P樹脂(Daicel Corporation)及びARADITE CY 179(Huntsman Advanced Materials))、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン(CELLOXIDE(商標)8010(Daicel Corporation))、ポリ[オキシ(オキシラニル-1,2-シクロヘキサンジイル)]、α-ヒドロ-ω-ヒドロキシ-エーテルと2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールの3:1混合物(EHPE 3150(Daicel))などの公知の市販の化合物が挙げられる。
【0220】
エポキシ樹脂は、任意選択的に、芳香族モノエポキシ化合物、モノ脂環式エポキシ化合物、及び脂肪族モノエポキシ化合物から選択される、1分子あたり1つのエポキシド基を有する1種以上のモノエポキシド化合物に由来する単位を更に含み得る。適切なモノエポキシド化合物としては、例えば、飽和脂環式モノエポキシド、例えば3,3’-ビス(クロロメチル)オキサシクロブタン、イソブチレンオキシド、スチレンオキシド、オレフィン系モノエポキシド、例えばシクロドデカジエンモノエポキシド、3,4-エポキシ-1-ブテンなどの公知の化合物が挙げられる。
【0221】
4.回収方法
本発明は、複合材料CMから炭素繊維を回収する方法にも関し、前記方法は、
- 複合材料CMに含まれるエポキシ樹脂Cを、工程a)及びb)、並びに任意選択的なa’)及びc)による方法によって分解し、それによって炭素繊維とエポキシ樹脂Cの分解生成物とを含む複合材料CM3又はCM4を得ることであって、
前記材料CM3又はCM4が、分解されていないエポキシ樹脂Cを含まないか、又は分解されていないエポキシ樹脂Cの残りの部分を含むかのいずれかであること;並びに
- 材料CM3又はCM4から炭素繊維を分離すること;
を含む。
【0222】
好ましくは、炭素繊維の回収方法に使用される複合材料は複合材料CM4である。
【0223】
複合材料は、物理的又は化学的特性が大きく異なる2つ以上の構成材料から製造された材料であり、それらを組み合わせると、個々の構成要素と異なる特徴を有する材料がもたらされる。したがって、典型的には、複合材料は、マトリックスと強化材とを含む。
【0224】
強化材は、好ましくは、強化繊維である。これは、無機、有機又は植物繊維、特にガラス繊維又は炭素繊維であり得る。より好ましくは、強化材は、炭素繊維である。
【0225】
本発明では、複合材料は、炭素繊維を含む強化繊維と、上述した少なくとも1種のエポキシ樹脂Cを含むマトリックスとを含む。
【0226】
典型的には、複合材料の分解プロセスは、より価値の高い成分である炭素繊維を回収することを目的とする。
【0227】
本発明による複合材料CMからの炭素繊維の回収方法により、複合材料から高品質の炭素繊維を回収することができる。
【0228】
したがって、複合材料CMから炭素繊維を回収する方法は、
a)エポキシ樹脂Cと強化繊維とを含む複合材料CMに対して化学的前処理を行うことであって、前記化学的前処理が、複合材料CMを、少なくとも100℃且つ複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも少なくとも10℃高い処理温度Ttrで、複合材料CMのガラス転移温度Tgよりも高い沸点を有する有機溶媒と接触させて、複合材料CM1を得ること;
a’)任意選択的に、複合材料CM1をリン酸及び/又はその塩の水溶液と接触させて、複合材料CM2を得ること;
b)工程a)又はa’)の後に得られた複合材料に対して酵素処理を行うことであって、前記酵素処理が複合材料を少なくとも1種の酵素と接触させて複合材料CM3を得ることを含むこと;
c)任意選択的に、複合材料CM3を強いブレンステッド塩基を含む水溶液と接触させて、複合材料CM4を得ること;
を含む、複合材料を分解する工程を含む。
【0229】
有利には、複合材料CMは、炭素繊維を含む。したがって、工程b)又は工程c)において、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料CM3又はCM4が得られ、炭素繊維を単離することができる。
【0230】
上の「ラウンド」の段落で説明したように、工程b)又はc)の後に得られる複合材料は、本発明による複合材料の分解方法の1回目のラウンドが行われた後、本発明による複合材料の分解方法を再度受けることができ、したがって工程a)の複合材料CMを置き換えることができる。次いで、本発明による方法の2回目のラウンドが行われる。この方法で複数のラウンドを実行することができる。
【0231】
その場合、複合材料CMから炭素繊維を回収する方法は、
- 複合材料CMに含まれるエポキシ樹脂Cを、工程a)及びb)、並びに任意選択的なa’)及びc)による方法によって分解し、それによって炭素繊維とエポキシ樹脂Cの分解生成物とを含む複合材料CM3又はCM4を得ることであって、
前記材料CM3又はCM4が、分解されていないエポキシ樹脂Cを含まないか、又は分解されていないエポキシ樹脂Cの残りの部分を含むかのいずれかであること;並びに
- 工程a)及びb)、並びに任意選択的なa’)及びc)に従う方法による複合材料CM3又はCM4の分解方法を繰り返し、それによって炭素繊維とエポキシ樹脂Cの分解生成物とを含む複合材料CM3’又はCM4’を得ることであって、
前記材料CM3’又はCM4’が、分解されていないエポキシ樹脂Cを含まないか、又は分解されていないエポキシ樹脂Cの残りの部分を含むかのいずれかであること;並びに
- 炭素繊維を材料CM3又はCM4から分離すること;
を含む。
【0232】
好ましくは、炭素繊維を回収するための2回目のラウンドで使用される複合材料は複合材料CM4’である。
【0233】
有利には、複合材料CMは、炭素繊維を含む。したがって、工程b)又は工程c)において、エポキシ樹脂含有量が減少した複合材料CM3’又はCM4’が得られ、炭素繊維を単離することができる。
【0234】
5.複合材料のリサイクル方法
本発明は、炭素繊維をリサイクルする方法であって、
- 本発明による方法によって、複合材料CMに含まれるエポキシ樹脂Cを分解し、材料CM3又はCM4から炭素繊維を分離することによって、複合材料CMから炭素繊維を回収する工程;及び
- 本発明による方法に関与する複合材料CMと同じ又は異なる複合材料CM”を形成することであって、前記複合材料CM”が、複合材料CM中に含まれるエポキシ樹脂Cと同じ又は異なるエポキシ樹脂C”と、回収された炭素繊維とを含む工程;
を含む方法に関する。
【0235】
「リサイクル」とは、本来の目的であるか他の目的であるかを問わず、廃棄物を製品、材料、又は物質へと再処理するあらゆる回収作業であると理解されるべきである。言い換えると、リサイクルされた製品は、同じ元の製品に再利用される必要はなく、異なる目的のために使用される他の異なる製品にさえも再利用される。
【0236】
複合材料は、物理的又は化学的特性が大きく異なる2つ以上の構成材料から製造された材料であり、それらを組み合わせると、個々の構成要素と異なる特徴を有する材料がもたらされる。したがって、典型的には、複合材料は、マトリックスと強化材とを含む。
【0237】
本発明において、複合材料は、炭素繊維を含む強化繊維と、少なくとも1種のエポキシ樹脂を含むマトリックスとを含む。
【0238】
マトリックスは、上述の少なくとも1種のエポキシ樹脂Cを含む。したがって、マトリックスは、上述した1種以上のエポキシ樹脂を含むことができる。
【0239】
マトリックスは、不飽和ポリエステル、ポリビニルエステル、フェノール樹脂及びポリウレタンなどの他の熱硬化性樹脂を含むこともできる。
【0240】
マトリックスは、上述した少なくとも1種の追加の化合物R3と、上述した少なくとも1種の硬化剤R2とに由来する単位を含む別のエポキシ樹脂を含むこともできる。
【0241】
マトリックスは、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PE)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリオレフィン、又はそれらの組み合わせなどの熱可塑性樹脂を含むこともできる。
【0242】
有利には、マトリックスは、ポリアミド粒子、ポリイミド粒子又はこれらの組み合わせを含む。
【0243】
特に、マトリックスは、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン又はこれらの組み合わせを含む。これらの熱可塑性樹脂は、強化剤として使用することができる。その場合、マトリックスは、熱可塑性強化エポキシ樹脂である。
【0244】
マトリックスは、エポキシ樹脂の硬化を強化又は促進する促進剤も含むことができる。
【0245】
マトリックスは、コアシェルゴム、難燃剤、湿潤剤、顔料、染料、UV吸収剤、充填剤、導電性粒子及び粘度調整剤などの性能調整剤を含むことができる。
【0246】
好ましくは、エポキシ樹脂がマトリックスの主成分である。より好ましくは、これは、マトリックスの少なくとも50重量%を占める。
【0247】
有利には、炭素繊維をリサイクルして、本発明の方法に関与する複合材料CMと同一の又は異なる複合材料CM’’に使用することができる。
【0248】
請求項を含む本明細書全体を通して、全ての方法という用語は、プロセスという用語と同義であると理解されるべきである。
【0249】
本発明は、以下の実施例によって説明される。
【実施例】
【0250】
混合及びその後の4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)(M-DEAとも表される)の存在下でのジグリシジルエーテルビスフェノールA(DGEBAとも表される)の重合によって製造されたエポキシ樹脂(29.48%)に埋め込まれた16枚の炭素繊維シート(70.52重量%)を含む1cm×1cm×0.334cmの複合材料。エポキシ樹脂は以下の一般構造を有する:
【化3】
(式中、nはエポキシ樹脂の繰り返し単位の数に対応する整数である)。複合材料でASTM E1356-08(2014)に準拠してDSCによって測定されたガラス転移温度は164℃であった。
【0251】
実施例では、溶解したGST発現細菌の培養液としてGSTが添加される。これは、以下のプロセスに従って製造される:
1.GST発現株を培養し、遠心分離して細胞ペレットを得る;
2.細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合する;
3.リン酸緩衝液中で超音波処理することによって細胞を溶解し、GSTを含む培養液を得る。
【0252】
実施例では、溶解したPHBH発現細菌の培養液としてPHBHが添加される。これは、以下のプロセスに従って製造される:
1.PHBH発現株を培養し、遠心分離して細胞ペレットを得る;
2.細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合する;
3.リン酸緩衝液中で超音波処理することによって細胞を溶解し、PHBHを含む培養液を得る。
【0253】
実施例では、溶解したET004発現細菌の培養液としてET004が添加される。これは、以下のプロセスに従って製造される:
1.ET004発現株を培養し、遠心分離して細胞ペレットを得る;
2.細胞ペレットをリン酸緩衝液(0.1M pH=7.0)と1g(ペレット)/10ml(緩衝液)の割合で混合する;
3.リン酸緩衝液中で超音波処理することによって細胞を溶解し、ET004を含む培養液を得る。
【0254】
対照(試験1’~4’)を含む一連の実験(試験1~4)を行った。試験では、開示された4つの工程全てを含む場合と含まない場合の本発明による工程の組み合わせを使用して、異なる方法を評価した。表2に示されているように、所定の工程を中止したが、それらの順序は変更しなかった。
【0255】
酵素を系に添加する意義を理解するために、工程b)で酵素の存在をなくした対照実験を行った(試験1’~4’)。その後、全てのプロセスで酵素を用いて、及びこれらの物質を使用せずに行った。この2種類の実験の唯一の違いは、工程b)の間の酵素の存在の有無のみである。
【0256】
【0257】
表2において、(-)は工程が行われなかったことを意味し、(×)は工程が行われたことを意味する。したがって、
試験1及び試験1’:工程a’)、b)、及びc)のみを行った。
試験2及び試験2’:全ての工程a)、a’)、b)、及びc)を行った。
試験3及び試験3’:工程a)、a’)、及びb)のみ行った。
試験4及び試験4’:全ての工程a)、a’)、b)、及びc)を行った。
【0258】
実施例1-工程a)複合材料を溶媒にさらす
この工程は、複合材料の表面積を増やして次の工程で使用する試薬を拡散しやすくするために、複合材料を膨潤させ、場合によっては剥離して残りの樹脂マトリックスに埋め込まれた炭素繊維のシートにすることを目的とする。
【0259】
最初に、0.9300gのn=2単位の1cm×1cm×3.34mmの四角い複合材料CM+50.00gのベンジルアルコール(BZA)又はシレン(CRN)を含む混合物M1を調製した。混合物M1を撹拌せずに200℃で5時間加熱し、続いてM1を濾過して、剥離した複合材料CMを上澄み液から分離した。200mLの18.2mΩのMillie-Q水と200mlの無水エタノールで任意の分量に分けて交互に複合材料CMを洗浄し、得られた複合材料CM1を35℃のオーブンで24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
【0260】
結果:
膨潤率S%と剥離度D.E.%は、それぞれ式1と式2を用いて計算した。
【数1】
【0261】
式1において、minitial及びmfinalは、それぞれ処理前及び処理後の複合材料CMの最初の及び最終の登録された質量である。
【0262】
式2において、ncomposite sheets、ncomposite coupons、及びXは、それぞれ剥離処理後の複合材料試験片から得られた観察されたシートの数、剥離処理前の複合材料試験片の数、及びそれぞれに含まれる炭素繊維シートの数である。この事例の調査では、Xは常に16であった。
【0263】
結果は下の表3に示されている:
【0264】
【0265】
試験1~4の分解方法の1回目のラウンドの後、ベンジルアルコールとシレンの両方の溶媒が複合材料をうまく膨潤させ、剥離できることが観察された。ベンジルアルコールはより優れた剥離特性を示し、シレンはより優れた膨潤特性を示した。
【0266】
実施例2-工程a’)複合材料CMを無水リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)と接触させる
複合材料CMに対して工程a)を行った後、エポキシ樹脂のリン酸化を可能にするために、以下に記載する方法に従って複合材料CM1に対して工程a’)を行った。
【0267】
最初に、1.0177gの複合材料CM1+5.40gのNa2HPO4+1.50gのβ-シクロデキストリン+22.8gの18.2mΩのMillie-Q H2Oの混合物M2を調製した。混合物M2を高温条件で減圧濾過した後、混合物M2を撹拌しながら90℃で48時間加熱し、上澄み液から複合材料CMを分離した。複合材料CMを、任意の分量に分けた400mlの18.2mΩのMillie-Q H2Oで洗浄した。得られた複合材料CM2を35℃で24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
【0268】
実施例3-工程b)複合材料をグルタチオンS-トランスフェラーゼと接触させることによる酵素処理
複合材料CMに対して工程a)を行った後、酵素によるエポキシ樹脂の分解を促進するために、以下で説明する方法に従って複合材料CM2に対して工程b)を行った。
- N.アロマチシボランス株(N.aromaticivorans)株由来の「NaLigE」と名付けられたグルタチオンSトランスフェラーゼ
- 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来の変異型パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ酵素:M010-2(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のL199V及びY385F変異型酵素)。
【0269】
最初に、表4に記載の量の試薬を使用してストック液と緩衝液を調製した。
【0270】
【0271】
第2の予備工程では、2.0重量%のNADP(β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)と0.4重量%のFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)を、pH=7.00の0.1Mリン酸緩衝水溶液中で混合することによって補因子溶液を調製する。
【0272】
酵素処理は以下に記載の方法に従って行った:
【0273】
最初に、0.9458gの複合材料CM2+76.50gのストック液+0.55gの補因子溶液+30.00gの緩衝液+3.00gの酵素グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)+1.80gの酵素グルコースデヒドロゲナーゼ(ET004)+3.00gの酵素パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)の混合物を調製し、混合物M3を得た。混合物M3のpHを、2MのNaOH水溶液を使用して約9に補正し、混合物M3を、機械的撹拌を使用して400rpmで30℃で72時間加熱し、反応時間全体の間に反応媒体にO2(g)を供給した。次いで、混合物M3を濾過して上澄み液から複合材料CM3を分離した。400mlの18.2mΩのMillie-Q水を使用して複合材料CM3を洗浄し、35℃で24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
【0274】
試験2及び3:試験2及び3の間に使用した系には、コンデンサーに接続されており磁気撹拌を使用する丸底フラスコが含まれる。系全体をシリコンオイルバス中で加熱した。反応媒体にはO2(g)を供給せず、試験2及び3のプロセス全体でpH制御は行わなかった。
【0275】
試験4-この系では、Rushtonインペラに接続されたメカニカルスターラーを備えた、より温度制御を行い易い水浴に接続されたガラスジャケット付き反応器を使用した。この系をO2(g)ラインに接続し、必要に応じてプロセス全体の間に3MのNaOH水溶液を使用して反応液のpHを約9に補正した。
【0276】
結果:
マトリックスの分解によって副生成物を同定するために、上澄み液を以下の条件でLCMS技術によって分析した。
【0277】
LCMS条件
HPLCキャラクタリゼーション条件:
(1)移動相
溶液A:水(2mMのNH4Ac)
溶液B:アセトニトリル
A:B比=95:5から5:95までの勾配
(2)流量:0.4mL/分;
(3)カラム:Waters BEH C18 50mm×2.1mm、1.7μm
(4)MSイオン化モード:ESI+及びESI-
(5)スキャンモード:MSフルスキャン、m/z50~1500
(6)スプレー電圧:ESI+=3.0kV及びESI-=2.5kV
(7)コーン電圧:40V
(8)ソース温度:150℃
(9)脱溶媒温度:450℃
(10)コーンガス:50L/h
(11)脱溶媒ガス流量:900L/h。
【0278】
LCMSにより、質量MS+Hが817.4998;815.4858;377.1959;315.1813;197.1325;214.1590のフラグメントの構造が、エポキシ樹脂C分解下での酵素作用により生成することが示された。
【0279】
各試験で得られた複合材料の質量減少は、全ての試験を実施した後に計算した。
【0280】
実施例4-工程c)複合材料CM4を水酸化ナトリウム(NAOH)と接触させる
複合材料CMに対して工程b)を行った後、以下に説明する方法に従って複合材料CM3に対して工程c)を行った。
【0281】
最初に、0.8744gの複合材料CM3+50.00gの2MのNaOH水溶液の混合物M4を調製した。次いで、混合物M4を、撹拌を使用して90℃で48時間加熱した。混合物M4を真空濾過して上澄み液から複合材料CMを分離した。複合材料CM3を400mlの18.2mΩの水で洗浄し、35℃で24~72時間乾燥した。得られた複合材料CM4を、質量減少を計算するために秤量し、その後の分解のために保存した。
【0282】
乾燥した複合材料CM4を秤量し、本発明の1回目のラウンドの試験後の複合材料の最終的な質量減少を計算した。
【0283】
実施例5-本発明による方法の2回のラウンド
1回目のラウンド:
- 工程a)
最初に、0.9300gのn=2単位の1cm×1cm×3.34mmの四角い複合材料CM+50.00gのベンジルアルコール(BZA)又はシレン(CRN)を含む混合物M1を調製した。混合物M1を撹拌せずに200℃で5時間加熱し、続いてM1を濾過して、剥離した複合材料CMを上澄み液から分離した。200mLの18.2mΩのMillie-Q水と200mlの無水エタノールで任意の分量に分けて交互に複合材料CMを洗浄し、得られた複合材料CM1を35℃のオーブンで24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
- 工程a’)
最初に、1.0177gの複合材料CM1+5.40gのNa2HPO4+1.50gのβ-シクロデキストリン+22.8gの18.2mΩのMillie-Q H2Oの混合物M2を調製した。混合物M2を高温条件で減圧濾過した後、混合物M2を撹拌しながら90℃で48時間加熱し、上澄み液から複合材料CMを分離した。複合材料CMを、任意の分量に分けた400mlの18.2mΩのMillie-Q H2Oで洗浄した。得られた複合材料CM2を35℃で24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
- 工程b)
最初に、0.9458gの複合材料CM2+76.50gのストック液+0.55gの補因子溶液+30.00gの緩衝液+3.00gの酵素グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)+1.80gの酵素グルコースデヒドロゲナーゼ(ET004)+3.00gの酵素パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)の混合物を調製し、混合物M3を得た。混合物M3のpHを、2MのNaOH水溶液を使用して約9に補正し、混合物M3を、機械的撹拌を使用して400rpmで30℃で72時間加熱し、反応時間全体の間に反応媒体にO2(g)を供給した。次いで、混合物M3を濾過して上澄み液から複合材料CM3を分離した。400mlの18.2mΩのMillie-Q水を使用して複合材料CM3を洗浄し、35℃で24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
【0284】
試験2及び3:試験2及び3の間に使用した系には、コンデンサーに接続されており磁気撹拌を使用する丸底フラスコが含まれる。系全体をシリコンオイルバス中で加熱した。反応媒体にはO2(g)を供給せず、試験2及び3のプロセス全体でpH制御は行わなかった。
【0285】
試験4-この系では、鋼製のRushtonインペラに接続されたメカニカルスターラーを備えた、より温度制御を行い易い水浴に接続されたガラスジャケット付き反応器を使用した。この系をO2ラインに接続し、必要に応じてプロセス全体の間に3MのNaOH水溶液を使用して反応液のpHを約9に補正した。
- 工程c):
最初に、0.8744gの複合材料CM3+50.00gの2MのNaOH水溶液の混合物M4を調製した。次いで、混合物M4を、撹拌を使用して90℃で48時間加熱した。混合物M4を真空濾過して上澄み液から複合材料CMを分離した。複合材料CM3を400mlの18.2mΩの水で洗浄し、35℃で24~72時間乾燥した。得られた複合材料CM4を、質量減少を計算するために秤量し、その後の分解のために保存した。
【0286】
2回目のラウンド:
実施した各試験の順序やパラメータを変更せずに、1回目のラウンドからの固体に対して工程全体を再度行った。
- 工程a)
最初に、0.8700gの複合材料CM4+50.00gのベンジルアルコール(BZA)又はシレン(CRN)を含む混合物M1を調製した。M1’を濾過した後、撹拌せずに混合物M1’を200℃で5時間加熱して、剥離した複合材料CMを上澄み液から分離した。200mLの18.2mΩのMillie-Q水と200mlの無水エタノールで任意の分量に分けて交互に複合材料CMを洗浄し、得られた複合材料CM1’を35℃のオーブンで24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
- 工程a’)
最初に、0.9234gの複合材料CM1’+5.40gのNa2HPO4+1.50gのβ-シクロデキストリン+22.8gの18.2mΩのMillie-Q H2Oの混合物M’2を調製した。混合物M2’を高温条件で減圧濾過した後、混合物M2’を撹拌しながら90℃で48時間加熱し、上澄み液から複合材料CMを分離した。複合材料CMを、任意の分量に分けた400mlの18.2mΩのMillie-Q H2Oで洗浄した。得られた複合材料CM2’を35℃で24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
- 工程b)
最初に、0.8532gの複合材料CM2’+76.50gのストック液+0.55gの補因子溶液+30.00gの緩衝液+3.00gの酵素グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)+1.80gの酵素グルコースデヒドロゲナーゼ(ET004)+3.00gの酵素パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PHBH)の混合物を調製し、混合物M3’を得た。混合物M3’のpHを、2MのNaOH水溶液を使用して約9に補正し、混合物M3’を、機械的撹拌を使用して400rpmで30℃で72時間加熱し、反応時間全体の間に反応媒体にO2(g)を供給した。次いで、混合物M3’を濾過して上澄み液から複合材料CM3’を分離した。400mlの18.2mΩのMillie-Q水を使用して複合材料CM3’を洗浄し、35℃で24~72時間乾燥し、その後の分解のために保存した。
【0287】
試験2及び3:試験2及び3の間に使用した系には、コンデンサーに接続されており磁気撹拌を使用する丸底フラスコが含まれる。系全体をシリコンオイルバス中で加熱した。反応媒体にはO2(g)を供給せず、試験2及び3のプロセス全体でpH制御は行わなかった。
【0288】
試験4-この系では、鋼製のRushtonインペラに接続されたメカニカルスターラーを備えた、より温度制御を行い易い水浴に接続されたガラスジャケット付き反応器を使用した。この系をO2ラインに接続し、必要に応じてプロセス全体の間に3MのNaOH水溶液を使用して反応液のpHを約9に補正した。
- 工程c)
最初に、0.8145gの複合材料CM3’+50.00gの2MのNaOH水溶液の混合物M4’を調製した。次いで、混合物M4’を、撹拌を使用して90℃で48時間加熱した。混合物M4’を真空濾過して上澄み液から複合材料CMを分離した。複合材料CM3’を400mlの18.2mΩの水で洗浄し、35℃で24~72時間乾燥した。得られた複合材料CM4’を、質量減少を計算するために秤量し、その後の分解のために保存した。
【0289】
結論:
本発明による試験及び対照試験を含む実施した全ての試験における質量減少は、以下の表5に示されている。
【0290】
【0291】
表5から分かるように、膨潤特性よりも剥離性が優れた溶媒で1回目の溶媒処理を行うと、複合材料の質量減少が促進される。ベンジルアルコール(BZA)は、シレン(CRN)と比較して優れた剥離特性を示し、全ての試験(BZAを使用した試験2、3、及び4)の終了時に優れた質量減少を示した。
【0292】
本発明の全ての試験(試験1、2、3、及び4)は、対照試験(試験1’、2’、3’、及び4’)と比較して質量減少の増加を示し、このことは複合材料の質量減少に対する酵素分解の重要性と効率を実証している。
【0293】
前処理工程a)を中止すると(試験1及び試験1’)、複合材料の質量減少は小さくなり、1回目と2回目のラウンドの後では少ないか同程度となる。このことは、複合材料の分解に対する酵素の活性が限定的であることを示しており、これは、表面積が小さく、非常にコンパクトな構造であることに起因する可能性がある。
【0294】
試験2は、対照と比較して、また追加のラウンドを行っても質量減少が増加し、特にベンジルアルコール(試験2BZA)でより優れていることを実証しており、酵素活性の強化を促進するためには膨潤と剥離が重要であることを示している。これは、元の複合材料の緻密性をなくすか低下させて、より多くの樹脂を反応媒体にさらすことにより、剥離の程度に正比例して大きくなる表面積が、酵素の作用を促進させることを明確に裏付けている。
【0295】
試験3は、複合材料がNaOHによる化学的後処理を受ける場合の工程c)の中止が、複合材料の質量減少に影響を及ぼし得ることを実証しており、この追加の工程により、エポキシ樹脂の切断による複合材料の分解を増加できることを示している。ここでも、ベンジルアルコール(試験3 BZA)を使用した場合の方が明らかに優れた結果であり、剥離も優れている。そのため、BZAは、CRNよりも優れた剥離特性を示したことから、シレン(試験3 CRN)と比較した場合に酵素活性も向上している。
【0296】
試験4は、より大きい質量減少が、溶媒の膨潤能力、特に剥離能力のみならず、酵素の最適な性能を保証するための酵素反応媒体工程の制御によっても影響を受けることを明確に裏付けている。
【0297】
したがって、驚くべきことに、複合材料の膨潤及び剥離を促進し、複合材料の表面積を増加させて結果として複合材料中の酵素の拡散と活性を増加させ、樹脂の分解を促進し、リサイクル可能な炭素繊維の回収を可能にすることができる溶媒による化学的前処理を有する、温和な条件を使用して複合材料を分解する方法が見出された。
【0298】
本発明は、上記の説明によって限定されず、本明細書に添付される特許請求の範囲によって限定されることが理解されるべきである。
【国際調査報告】