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特表2024-542760ベンズイミダゾール誘導体化合物およびこの用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ベンズイミダゾール誘導体化合物およびこの用途
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/24 20060101AFI20241108BHJP
   A61K 31/683 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241108BHJP
   C07F 9/6561 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C07F9/24 H CSP
A61K31/683
A61K31/675
A61P1/04
A61P1/00
A61P1/14
A61P1/08
A61P11/06
A61P31/04
C07F9/6561 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532846
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 KR2022019846
(87)【国際公開番号】W WO2023106841
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0174301
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524206382
【氏名又は名称】ファームゲン サイエンス インク
【氏名又は名称原語表記】PHARMGEN SCIENCE, INC.
【住所又は居所原語表記】50 Jeyakgongdan 2-gil, Hyangnam-eup Hwaseong-si Gyeonggi-do 18622 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】イェオ, マルヒ
(72)【発明者】
【氏名】オ、ジェドゥ
(72)【発明者】
【氏名】イ、スルエ
(72)【発明者】
【氏名】イ、サンハク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヘユン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヒドク
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ウィサン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドンキュ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ドゥヒョン
(72)【発明者】
【氏名】カン、スンヒ
【テーマコード(参考)】
4C086
4H050
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086DA40
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA68
4C086ZA69
4C086ZA71
4C086ZB35
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
(57)【要約】
本発明は、胃酸分泌の抑制効果を示す一般式1または一般式2で示されるベンズイミダゾール誘導体化合物、これを活性成分として含む薬剤学的組成物およびこの用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式1または一般式2で示される、ベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体:
【請求項2】
およびRが、それぞれ独立して、水素、C-CのアルキルまたはC-Cのシクロアルキルであることを特徴とする、請求項1に記載のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体。
【請求項3】
およびRが、それぞれ独立して、水素またはC-Cアルキルであることを特徴とする、請求項2に記載のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体。
【請求項4】
前記薬剤学的に許容される塩が、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択されたアルカリ金属またはアルカリ土金属塩であることを特徴とする、請求項1に記載のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体。
【請求項5】
前記薬剤学的に許容される塩が、ナトリウム塩であることを特徴とする、請求項4に記載のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体。
【請求項6】
上記の一般式1または一般式2の化合物が、下記の群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体:
ジイソプロピル(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)ホスホネート;
(S)-ジ-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート;
tert-ブチル((4-(S)-5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ハイドロゲンホスファート;
(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルジハイドロゲンホスファート;
ソジウム(S)-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート;および
ソジウム(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルホスファート。
【請求項7】
活性成分として、請求項1から6のいずれか一項に定義された一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体を、薬剤学的に許容される担体とともに含む、胃酸分泌抑制用の薬剤学的組成物。
【請求項8】
活性成分として、請求項1から6のいずれか一項に定義された一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体を、薬剤学的に許容される担体とともに含む、胃酸分泌障害により誘発される疾患の予防または治療用の薬剤学的組成物。
【請求項9】
前記胃酸分泌障害により誘発される疾患が、消化管疾患、胃食道疾患、胃食道逆流症(GERD)、消化性潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、NSAIDs起因性潰瘍、胃炎、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症、消化不良、機能性ディスペプシア、ゾリンジャー・エリソン症候群(Zollinger-Ellison syndrome)、非びらん性胃食道逆流症(NERD)、内臓の関連痛、胸焼け、吐き気、食道炎、嚥下困難、流涎症、気道障害および喘息からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の胃酸分泌障害により誘発される疾患の予防または治療用の薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンズイミダゾール誘導体化合物およびこの用途に関し、より詳細には、下記の一般式1または一般式2で示されるベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体、およびこの用途に関する:
【0002】
【0003】
【背景技術】
【0004】
胃酸は、タンパク質の消化、カルシウムや鉄粉などのミネラルの吸収、摂取した飲食物における有害な微生物の滅菌などといったように、肯定的な役割を果たす。しかしながら、胃酸は、約pH 1~2程度の非常に強い酸性であるため、過剰に胃酸が分泌されたり食道に逆流したりする場合、胃炎や胃潰瘍および胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease;GERD)を引き起こしてしまう虞がある。
【0005】
胃酸の分泌は、胃の粘膜に存在する壁細胞(parietal cell)のプロトンポンプ(H/K-ATPase)によって行われる。色々な胃酸分泌刺激因子によってプロトンポンプはATP(アデノシン三リン酸)を消耗し、細胞質にある水素イオンと胃内腔のカリウムイオンとを1対1交換するという方式により水素イオンを胃腔内に排出する。
【0006】
胃酸分泌抑制薬としては、H2受容体拮抗薬(H2 receptorant agonist;H2 RA)とプロトンポンプ阻害薬(proton pumpイソニアジド(INH)ibitor;PPI)が代表的に用いられてきている。しかしながら、H2 RAは、直接的にプロトンポンプを抑えるのではなく、胃酸の分泌を刺激するヒスタミン経路のみを遮断するため、部分的な効果を示す。また、PPIもプロドラッグ(prodrug)であって、胃酸により活性化過程を経てはじめて薬効を発揮するため、必ず食前に服用しなければならず、作用の発現時間が遅く、かつ、半減期が短いため、夜間胃酸急増(nocturnal acid breakthrough;NAB)の症状を抑えるのに限界がある。したがって、このような欠点を補完可能な新規な機序の胃酸分泌抑制薬の開発が望まれている。
【0007】
近頃、新規な系の胃酸分泌抑制薬であるカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competive acid blocker;P-CAB)として、ボノプラザン(日本、2015年)とテゴプラザン(韓国、2019年)がそれぞれ市場に出回っている。P-CAB系薬は、既存のPPIに比べて、胃酸を分泌するプロトンポンプ抑制能が5~100倍改善されてPPIに比べて強力な薬効を発揮する。また、作用機序の側面からみて、既存のPPIは、プロドラッグ(prodrug)であって、酸における活性化過程が必要であったものの、P-CABは活性化の過程が不要である。特に、PPIがプロトンポンプと非可逆的に共有結合をするのに対し、P-CABは可逆的に結合することにより、薬効の発現時間(onset time)が非常に早く、作用時間が長い他、食餌とは無関係に服用可能であるという長所を有する。
【0008】
しかしながら、P-CAB系薬のうち、テゴプラザン(韓国、2019年)は、pH依存的な水溶解度(pH-dependent 溶解度)を有し、特に、中性水溶液中の溶解度が著しく低い難溶性の薬である。このような特性によって、食事をはじめとする胃腔内のpHが中性に上昇したときに薬の溶解度が低くなることに起因して、生体利用率が低下し、しかも、中性注射剤など多種多様な製剤に製剤化し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】大韓民国公開特許第10-2018-0030412号公報
【特許文献2】大韓民国公開特許第10-2019-0005674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、胃酸分泌抑制活性を示す一般式1または一般式2で示される新規なベンズイミダゾール誘導体化合物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、活性成分として前記化合物を含む、胃酸分泌抑制用の薬剤学的組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、活性成分として前記化合物を含む、胃酸分泌障害により誘発される疾患の予防または治療用の薬剤学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、下記の一般式1または一般式2で示されるベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体が提供される:
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
本発明に係る一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物は、薬剤学的に許容される塩を形成することができる。前記薬剤学的に許容される塩には、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどにより形成されたアルカリ金属またはアルカリ土金属塩を含み得るが、これに何ら制限されるものではない。本発明に係る一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物は、通常の方法によりその塩に転換可能である。
【0018】
一方、本発明に係る化合物は、非対称炭素中心を有し得るため、RまたはS異性体、ラセミ体、部分立体異性体混合物および個々の部分立体異性体として存在し得、これらのすべての異性体および混合物は、本発明の範囲に含まれる。
【0019】
本明細書中では、説明のしやすさのために、特に指摘しない限り、一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物は、一般式1または一般式2の化合物、この薬剤学的に許容される塩および立体異性体をいずれも網羅する意味として用いられる。
【0020】
本明細書の全般に亘って、一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物を定義するに当たっては、下記のような置換体について定義された概念が用いられる。
【0021】
特に断りのない限り、この開示における用語「アルキル」は、直鎖状または分枝状の、例えば、1個~7個の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素群のラジカルを意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、1-エチルプロピルおよび1,2-ジメチルプロピルなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0022】
特に断りのない限り、この開示における用語「シクロアルキル」は、環状の、例えば、3個~7個の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素群のラジカルを意味する。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、上記の一般式1または一般式2において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、C-CのアルキルまたはC-Cのシクロアルキルであり得る。
【0024】
本発明の他の実施形態によれば、上記の一般式1または一般式2において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはC-Cアルキルであり得る。
【0025】
本発明に係る上記の一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物のうちの代表例には、下記の化合物が含まれ得るが、これらにのみ何ら限定されるものではない:
【0026】
ジイソプロピル(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)ホスホネート;
(S)-ジ-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート;
tert-ブチル((4-(S)-5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ハイドロゲンホスファート;
(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルジハイドロゲンホスファート;
ソジウム(S)-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート;および
ソジウム(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルホスファート。
【0027】
本発明の他の態様によれば、上記の一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体を、薬剤学的に許容される担体とともに含む、胃酸分泌抑制用の薬剤学的組成物が提供される。
【0028】
本発明の他の態様によれば、上記の一般式1または一般式2のベンズイミダゾール誘導体化合物、またはこの薬剤学的に許容される塩または立体異性体を、薬剤学的に許容される担体とともに含む、胃酸分泌障害により誘発される疾患の予防または治療用の薬剤学的組成物が提供される。
【0029】
本発明における「薬剤学的組成物(pharmaceutical composition)」は、本発明に係る活性化合物に加えて、担体、希釈剤、賦形剤などのような他の化学成分を含み得る。したがって、前記薬剤学的組成物には、必要に応じて、薬剤学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはこれらの組み合わせが含まれ得る。
【0030】
本発明の他の実施形態によれば、前記胃酸分泌障害により誘発される疾患は、消化管疾患、胃食道疾患、胃食道逆流症(GERD)、消化性潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、NSAIDs起因性潰瘍、胃炎、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症、消化不良、機能性ディスペプシア、ゾリンジャー・エリソン症候群(Zollinger-Ellison syndrome)、非びらん性胃食道逆流症(NERD)、内臓の関連痛(内臓痛覚、内臓痛)、胸焼け、吐き気、食道炎、嚥下困難、流涎症、気道障害または喘息であり得るが、これらに何ら制限されるものではない。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る一般式1または一般式2で示されるベンズイミダゾール誘導体化合物は、胃酸分泌の抑制効果を示すので、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker;P-CAB)として機能することができて、胃酸分泌抑制薬として使用することができ、または、胃酸分泌障害により誘発される疾患の予防または治療剤として使用することができる。また、本発明に係る一般式1または一般式2で示されるベンズイミダゾール誘導体化合物は、既存に胃酸分泌抑制薬として開発されたテゴプラザンよりも中性水溶解度が格段に改善されて、食餌など生体内pHによる影響がなく、しかも、注射剤をはじめとする製剤に製剤化し易い。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、製造例および実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。但し、これらの実施例は、単なる本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲がこれらにより限定されることはない。
【0033】
下記の実施例において用いられる略語の説明は、下記の通りである:
【0034】
ACN:アセトニトリル
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
EtOAc:エチルアセテート
FA:ギ酸(formic acid)
MeOH:メタノール
【0035】
実施例1:ジイソプロピル(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)ホスホネート(diisopropyl(S)-(4-((5,7-difluorochroman-4-yl)oxy)-6-(dimethylcarbamoyl)-2-methyl-1H-benzo[d]imidazol-1-yl)phosphonate)の製造
【0036】
【0037】
7-[[(4S)-5,7-ジフルオロ-3,4-ジヒドロ-2H-クロメン-4-イル]オキシ]-N,N,2-トリメチル-3H-ベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(80mg, 0.21mmol)を乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)(2mL)に溶かした後、窒素雰囲気下で60% NaH(12.39mg, 0.31mmol)を0℃で加え、常温で30分間攪拌した。この反応物にホスホロクロリジル酸ジイソプロピル(diisopropyl phosphorochloridate)(53.85mg, 0.27mmol)を0℃で入れ、常温で1時間かけて攪拌した。反応が終わった後、EtOAcにより抽出し、かつ、塩水により洗い流し、無水NaSOにより乾燥させた後、カラムクロマトグラフィー(EtOAc:Hexane:MeOH=6:6:1)により分離して白色の固体である目的化合物のジイソプロピル(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)ホスホネート(43mg, 37%)を得た。
【0038】
NMR(DMSO-d6): 7.13 (1H), 6.93(s, 1H), 6.83(t, 1H), 6.70(d, 1H), 6.03(s, 1H), 4.43~4.37(m, 3H), 4.25(t, 1H), 2.97(s, 6H), 2.45(s, 3H), 2.24(d, 1H), 2.07(t, 1H), 1.24(d, 12H); MS+:552.44
【0039】
実施例2:(S)-ジ-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート((S)-di-tert-butyl((4-((5,7-difluorochroman-4-yl)oxy)-6-(dimethylcarbamoyl)-2-methyl-1H-benzo[d]imidazol-1-yl)methyl)phosphate)の製造
【0040】
【0041】
7-[[(4S)-5,7-ジフルオロ-3,4-ジヒドロ-2H-クロメン-4-イル]オキシ]-N,N,2-トリメチル-3H-ベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(1,000mg, 2.58mmol)を乾燥DMF(25.8mL)に溶かした後、窒素雰囲気下で60% NaH(154.89mg, 3.87mmol)を0℃で加え、常温で30分間攪拌した。この反応物にホスホロクロリジル酸ジイソプロピル(1,336mg, 5.16mmol)を0℃で入れ、常温で1時間かけて攪拌した。反応が終わった後、EtOAcにより抽出し、かつ、塩水により洗い流し、無水NaSOにより乾燥させた後、カラムクロマトグラフィー(EtOAc:Hexane:MeOH=6:6:1)により分離して、白色の固体である目的化合物の(S)-ジ-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート(812mg, 52%)を得た。
【0042】
NMR(DMSO-d6): 7.30(s, 1H), 6.94(s, 1H), 6.81(t, 1H), 6.76(d, 1H), 6.14(s, 1H), 6.02(d, 2H), 4.36(d, 1H), 4.22(d, 1H), 2.97(s, 6H), 2.61(s, 3H), 2.22(d, 1H), 2.07(t, 1H), 1.38~1.26(m, 18H); MS+: 610.33
【0043】
実施例3:tert-ブチル((4-(S)-5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ハイドロゲンホスファート(tert-butyl((4-(((S)-5,7-difluorochroman-4-yl)oxy)-6-(dimethylcarbamoyl)-2-methyl-1H-benzo[d]imidazol-1-yl)methyl)hydrogen phosphate)の製造
【0044】
【0045】
(S)-ジ-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート(295mg, 0.49mmol)をDMF(4.86mL)に溶かした後、4N HCl(1.4mL)を0℃で加え、常温で90分間攪拌した。反応が終わった後、逆相カラムクロマトグラフィー(0.1% FA)により分離し、かつ、凍結乾燥させて白色の固体である目的化合物のtert-ブチル((4-(S)-5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ハイドロゲンホスファート(74.2mg, 27%)を得た。
【0046】
NMR(DMSO-d6): 7.31(s, 1H), 6.94(s, 1H), 6.81(t, 1H), 6.71(d, 1H), 6.15(s, 1H), 5.96(d, 2H), 4.37(d, 1H), 4.23(t, 1H), 2.98(s, 6H), 2.64(s, 3H), 2.24(d, 1H), 2.07(m, 1H), 1.26(s, 9H); MS+:554.47
【0047】
実施例4:(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルジハイドロゲンホスファート((S)-(4-((5,7-difluorochroman-4-yl)oxy)-6-(dimethylcarbamoyl)-2-methyl-1H-benzo[d]imidazol-1-yl)methyldihydrogen phosphate)の製造
【0048】
【0049】
tert-ブチル((4-(S)-5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ハイドロゲンホスファート(200mg, 0.33mmol)をDMF(6.57mL)に溶かした後、4N HCl(0.5mL)を0℃で加え、常温で90分間攪拌した。反応が終わった後、逆相カラムクロマトグラフィー(0.1% FA)により分離し、かつ、凍結乾燥させて白色の固体である目的化合物の(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルジハイドロゲンホスファート(64.1mg, 35%)を得た。
【0050】
NMR(DMSO-d6): 7.31(s, 1H), 6.94(s, 1H), 6.81(t, 1H), 6.71(d, 1H), 6.14(s, 1H), 5.95(d, 2H), 4.37(d, 1H), 4.22(t, 1H), 2.98(s, 6H), 2.64(d, 3H), 2.25(d, 1H), 2.07(m, 1H); MS+:498.29
【0051】
実施例5:ソジウム(S)-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート(sodium(S)-tert-butyl((4-((5,7-difluorochroman-4-yl)oxy)-6-(dimethylcarbamoyl)-2-methyl-1H-benzo[d]imidazol-1-yl)methyl)phosphate)の製造
【0052】
【0053】
tert-ブチル((4-(S)-5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ハイドロゲンホスファート(52.8mg, 0.095mmol)をACN:HO=1:1(9.5mL)に溶かした後、NaOH(4.2mg, 0.105mmol)を加え、常温で1分間攪拌した。反応が終わった後、凍結乾燥させて白色の固体である目的化合物のソジウム(S)-tert-ブチル(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチル)ホスファート(54mg, 98%)を得た。
【0054】
NMR(D2O): 7.47(s, 1H), 7.13(s, 1H), 6.65~6.56(m, 2H), 5.96~5.93(m, 3H), 4.51~4.45(m, 2H), 3.15(s, 3H), 3.05(s, 3H), 2.72(s, 3H), 2.39(d, 1H), 2.22~2.14(m, 1H), 1.04(s, 9H); MS+: 554.35
【0055】
実施例6:ソジウム(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルホスファート(sodium(S)-(4-((5,7-difluorochroman-4-yl)oxy)-6-(dimethylcarbamoyl)-2-methyl-1H-benzo[d]imidazol-1-yl)methyl phosphate)の製造
【0056】
【0057】
(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルジハイドロゲンホスファート(51.6mg, 0.104mmol)をACN:HO=1:1(10.4mL)に溶かした後、NaOH(8.7mg, 0.218mmol)を加え、常温で1分間攪拌した。反応が終わった後、凍結乾燥させて白色の固体である目的化合物ソジウム(S)-(4-((5,7-ジフルオロクロマン-4-イル)オキシ)-6-(ジメチルカルバモイル)-2-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-イル)メチルホスファート(52mg, 93%)を得た。
【0058】
NMR(D2O): 7.52(s, 1H), 7.11(s, 1H), 6.65~6.58(m, 2H), 5.95(s, 1H), 5.84(d, 2H), 4.48~4.45(m, 2H), 3.15(s, 3H), 3.06(s, 3H), 2.71(s, 3H), 2.41(d, 1H), 2.22~2.13(m, 1H); MS+: 498.33
【0059】
実験例1:水溶解度試験(pH 6.8)
【0060】
ガラスバイアルにそれぞれの試験物質が5.12mg/mlの濃度になるように秤量した後、0.5M Tris-HCl(pH 6.8、株式会社T&I製、BTH-9168)を加え、ボルテックスを用いて1分間混合し、超音波破砕機(ソニケーター)において30分間処理して溶液を調製した。当該溶液を目視にて観察した後、写真にて記録した。完全に溶解されなかった場合に、さらに緩衝溶液を加えて溶液を調製し、観察を繰り返し行った。完全に溶解されたときの濃度を確認して溶解度を評価した。比較化合物としては、テゴプラザン(tegoprazan)を用いた。測定された結果を下記の表1に示す。
【0061】

【0062】
上記の表1から明らかなように、本発明に係る実施例3および実施例4の化合物は、比較化合物に比べて128倍の改善された水溶解度(pH 6.8)を示し、実施例2、実施例5および実施例6の化合物は、比較化合物に比べて256倍の改善された水溶解度(pH 6.8)を示した。したがって、水溶解度が格段に改善された本発明の新規なベンズイミダゾール誘導体化合物は、食餌に伴う胃腔内のpHの上昇にも拘わらず、溶解度に影響がなく、さらには、注射剤をはじめとする製剤に製剤化し易い。
【0063】
実験例2:経口投与による胃酸分泌抑制能の確認試験
【0064】
試験日の1週間前に試験動物(ラット)(rat)を購買して順化を行った。順化の後に、試験の前日に食物を除去し、かつ、絶食板を用いて24時間かけて絶食を行った。各個体の体重を測定して群別に体重順位を順次に割り当てて各群の平均値が均一に分布するように無造作で配分した。試験物質(実施例の化合物および比較化合物)は、0.5%メチルセルロース溶液に溶かして用い、比較化合物としてはテゴプラザン(tegoprazan)を用いた。調製された試験薬を試験動物に3mg/5mL/kgの量にて経口で投与し、30分後に吸入麻酔器を用いて3分間吸入麻酔(3%イソフルラン)を行った。麻酔された試験動物の胸骨の左側の約1cm下の上腹部を最小限に切開した後に胃を露出させ、胃と十二指腸との連結部位である幽門輪を結着させた。胃と十二指腸を元の位置に戻し、開腹部位を手術用のステープラーにて丁寧に縫い合わせた。ヒスタミン(7.5mg/2.5mL/head)を首の後ろ部分の皮下に徐々に投与して胃酸の分泌を促した。手術をしてから3時間後に実験動物をイソフルランにて麻酔した後、開腹して胃を摘出した。摘出された胃から得られた胃液を15mL 円すい管に移した後、5,000rpmにて10分間遠心分離した後、上澄液のみを分離した。分離された胃液の0.2mLを蒸留水24.8mLに希釈して合計で25mLの希釈液を製造した後、0.01N NaOHを少量ずつ投与してpH 7になるまで滴定した。胃液の量と滴定にかかった0.01N NaOHの量とを加算して総酸度を計算することにより効能を評価した。
【0065】
【0066】
測定された結果を下記の表2に示す。
【0067】
【0068】
上記の表2から明らかなように、本発明に係る実施例1、実施例4および実施例6の化合物は、胃酸分泌動物モデルにおいて強力な胃酸分泌抑制能を有するということを確認することができた。
【0069】
実験例3:十二指腸への投与による胃酸分泌抑制能の確認試験
【0070】
試験日の1週間前に試験動物(ラット)(rat)を購買して順化を行った。順化の後に、試験の前日に食物を除去し、かつ、絶食板を用いて24時間かけて絶食を行った。各個体の体重を測定して群別に体重順位を順次に割り当てて各群の平均値が均一に分布するように無造作で配分した。試験物質(実施例の化合物および比較化合物)は、0.5%メチルセルロース溶液に溶かして用い、比較化合物としてはテゴプラザン(tegoprazan)を用いた。実験動物に対し、吸入麻酔器を用いて3分間吸入麻酔(3%イソフルラン)を行った。麻酔された試験動物の胸骨の左側の約1cm下の上腹部を最小限に切開した後に胃を露出させ、胃と十二指腸との連結部位である幽門輪を結着させた。調製された薬を1mg/5mL/kgの量にて十二指腸内に投与し、胃と十二指腸を元の位置に戻し、開腹部位を手術用のステープラーにて丁寧に縫い合わせた。ヒスタミン(7.5mg/2.5mL/head)を首の後ろ部分の皮下に徐々に投与して胃酸の分泌を促した。手術をしてから3時間後に実験動物をイソフルランにて麻酔した後、開腹して胃を摘出した。摘出された胃から得られた胃液を15mL円すい管に移した後、5,000rpmにて10分間遠心分離した後、上澄液のみを分離した。分離された胃液の0.2mLを蒸留水24.8mLに希釈して合計で25mLの希釈液を製造した後、0.01N NaOHを少量ずつ投与してpH 7になるまで滴定した。胃液の量と滴定にかかった0.01N NaOHの量とを加算して総酸度を計算することにより効能を評価した。
【0071】
【0072】
測定された結果を下記の表3に示す。
【0073】
【0074】
上記の表3から明らかなように、本発明に係る実施例6の化合物は、pHが中性である十二指腸に薬を投与したとき、比較化合物に比べて改善された胃酸分泌抑制能を示した。したがって、本発明に係る実施例6の化合物は、胃腔内のpHが中性である食後や色々な生体環境下でもpHとは無関係に同一の効力を発揮することが見込まれる。
【国際調査報告】