(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】荷電粒子を用いて試料を分析するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/153 20060101AFI20241108BHJP
H01J 37/16 20060101ALI20241108BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20241108BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01J37/153
H01J37/153 B
H01J37/153 A
H01J37/16
H01J37/26
H01J37/28 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532867
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2022082858
(87)【国際公開番号】W WO2023099290
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】102021131970.6
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515263738
【氏名又は名称】インテグレイテッド ダイナミクス エンジニアリング ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Integrated Dynamics Engineering GmbH
【住所又は居所原語表記】Hermannstrasse 9-13, 65479 Raunheim, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】スティーブ ヤクソン ディエンペ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ハルトゲアス
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA02
5C101EE08
5C101EE53
5C101EE57
5C101EE63
5C101GG18
5C101HH65
(57)【要約】
本発明は、荷電粒子を用いて、例えば透過型または走査型の電子顕微鏡を用いて試料を画像化および/または分析および/または処理するための装置および方法に関する。この場合、磁界の影響を低減することが望ましい。このために、荷電粒子を用いて、とりわけ電子ビームを用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための装置であって、本装置は、荷電粒子を提供するための設備と、試料を収容および保持するための手段を有するチャンバと、荷電粒子を中心軸線MZに沿ってチャンバに向かう方向にガイドするための設備と、検出器と、を含む、装置が提案される。チャンバ内に配置された試料には、動作時に荷電粒子を印加することができる。さらに、干渉磁界を補償するための、かつ中心軸線MZに沿って最大の延在長さを有する、好ましくは縦長の補償体積を構成するための設備が設けられており、動作時に、補償体積の内部で存在する干渉磁界を低減することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を用いて、とりわけ電子ビームを用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための装置であって、
前記装置は、荷電粒子を提供するための設備と、試料を収容および保持するための手段を有するチャンバと、前記荷電粒子を中心軸線M
Zに沿って前記チャンバに向かう方向にガイドするための設備と、検出器と、を含み、
前記チャンバ内に配置された試料には、動作時に前記荷電粒子を印加することができ、
前記装置は、干渉磁界を補償するための、かつ前記中心軸線M
Zに沿って最大の延在長さを有する、好ましくは縦長の補償体積を構成するための設備を含み、
前記チャンバは、好ましくは少なくとも部分的に前記補償体積の内部に配置されており、
前記干渉磁界を補償するための設備は、それぞれ導体の少なくとも1つの巻回によって提供される少なくとも2つの補償コイルを含み、少なくとも2つの補償コイルは、前記中心軸線M
Zに沿って相並んで配置されているか、または前記中心軸線M
Zに対応付けられており、
動作時に、前記補償体積の内部で存在する干渉磁界を低減することができる、
装置。
【請求項2】
少なくとも1つのさらなる補償コイルは、座標Xに対応付けられており、
少なくとも1つのさらなる補償コイルは、座標Yに対応付けられており、
前記座標Xおよび前記座標Yは、前記中心軸線M
Zに対して直交している、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記補償体積は、略直方体形状に形成されており、
好ましくは、前記中心軸線M
Zの方向における前記延在長さは、前記中心軸線M
Zに対して垂直な方向における延在長さの少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍である、
請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
空間方向Zに対応付けられた前記補償コイルは、補償コイル対として構成されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
すべての補償コイルは、補償コイル対として構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
エミッタと試料収容部との間の距離および/または試料収容部と検出器との間の距離は、0.5m以上、1m以上、または1.5m以上でもあり、かつ/または
エミッタと検出器との間の距離は、1m以上、好ましくは1.5m以上、特に好ましくは2m以上である、
請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記エミッタおよび/または前記試料収容部および/または前記検出器の場所における磁束密度は、0.2μT以下、好ましくは0.1μT以下、特に好ましくは0.05μT以下、0.02μT以下、またはそれどころか0.01μT以下である、
請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記エミッタ、前記試料収容部および/または前記検出器が含まれる、少なくとも2つ、好ましくは3つの敏感な場所における磁束密度の大きさの差は、0.05μT以下、好ましくは0.01μT以下である、
請求項1から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記補償体積は、直方体形の延在長さを有し、
好ましくは前記中心軸線M
Zの方向における最大の延在長さは、少なくとも0.5m、好ましくは少なくとも1m、特に好ましくは少なくとも1.5m、またはそれどころかそれ以上であり、
好ましくは前記中心軸線M
Zに対して直交する平面における延在長さは、少なくとも0.2m×0.2m、好ましくは少なくとも0.3m×0.3m、特に好ましくは少なくとも0.4m×0.4m、少なくとも0.5m×0.5m、またはそれ以上である、
請求項1から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
前記中心軸線M
Zに対応付けられた前記補償コイルのうちの内側コイルは、前記中心軸線M
Zに対応付けられた前記補償コイルのうちの外側コイルよりも少ない巻回数を有する、
請求項1から9までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
前記内側コイルに属する導体ループの、動作時に電流が通流可能な横断面積は、前記外側コイルに属する導体ループの、電流が通流可能な横断面積と比較して、好ましくは少なくとも10%かつ多くとも70%、好ましくは少なくとも15%かつ多くとも65%、特に好ましくは少なくとも20%かつ多くとも60%小さい、
請求項1から10までのいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
前記中心軸線M
Zに対応付けられた前記少なくとも2つの補償コイルは、少なくとも部分的にチャンバ壁の外面および/または内面に配置されている、
請求項1から11までのいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
前記チャンバ壁内に部分的に延在する、空洞部を備えた少なくとも1つの収容領域が提供されており、
前記空洞部は、好ましくは前記チャンバ壁内の中空空間として構成されている、
請求項1から12までのいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
前記装置は、前記磁束密度を測定するための少なくとも1つの設備、好ましくは2つ以上の設備をさらに含む、
請求項1から13までのいずれか1項記載の装置。
【請求項15】
前記磁束密度を測定するための少なくとも1つの設備は、前記チャンバ内または前記チャンバの領域内に配置されている、
請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記磁束密度を測定するための設備は、少なくとも1つのセンサ、好ましくは磁界センサまたはフラックスゲート磁力計または飽和鉄芯型磁力計を含み、
前記測定するための設備は、好ましくは3つの空間方向で測定を行う、
請求項14または15記載の装置。
【請求項17】
好ましくは前記磁束密度の測定に基づいて前記補償コイルを閉ループ制御するための設備をさらに含み、
前記閉ループ制御するための設備によって磁界を補償するために、前記補償コイル対のうちのそれぞれ1つの個々の補償コイルまたは前記補償コイル対を制御することができるように、前記閉ループ制御が行われる、
請求項1から16までのいずれか1項記載の装置。
【請求項18】
動作時に、前記中心軸線M
Zに沿って、少なくとも空間方向Zにおける低減された磁束密度を提供することができ、
前記磁束密度は、少なくとも500mm、好ましくは少なくとも1000mm、特に好ましくは少なくとも1500mmの長さにわたって、0.2μT以下、好ましくは少なくとも0.1μT以下、特に好ましくは少なくとも0.05μT以下、0.02μT以下、またはそれどころか0.01μT以下である、
請求項1から17までのいずれか1項記載の装置。
【請求項19】
振動絶縁されて支承された少なくとも1つの配列を有する振動絶縁システムであって、
前記振動絶縁システムは、請求項1から18までのいずれか1項記載の、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための少なくとも1つの装置を含む、
振動絶縁システム。
【請求項20】
荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための方法であって、
請求項1から18までのいずれか1項記載の、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための装置が使用される、
方法。
【請求項21】
前記解像度は、最大100pm、好ましくは最大60pm、特に好ましくは最大50pm、またはそれどころか最大40pmである、
請求項20記載の高精度で測定するための方法。
【請求項22】
前記試料は、空間方向Zにおいて1nmから数マイクロメートルまでの、好ましくは少なくとも3μmまでの、またはそれ以上の範囲内の構造隆起部を有することができる、
請求項21記載の高精度で測定するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子を用いて、例えば透過型または走査型の電子顕微鏡を用いて試料を画像化および/または分析および/または処理するための装置および方法に関する。この場合、磁界の影響を低減することが望ましい。
【背景技術】
【0002】
フィードバックコントロール原理による磁界補償は公知である。この場合、本明細書では補償体積とも称される小さな空間体積が、破壊的な干渉によっていわばまたは実質的に無磁界にされる。この目的で、フィードバックセンサが、保護されるべきオブジェクトの近傍において干渉磁界、例えば地磁気を記録し、この信号を制御ユニットに伝送する。これらのセンサ信号に基づいて、制御ユニットは、補償コイルに導かれる補償電流を計算する。次いで、磁界が生成され、この磁界が、理想的なケースでは干渉の振幅が最小限に抑えられるように、または少なくとも大幅に低減されるように干渉磁界と破壊的に重畳する。
【0003】
とりわけ、加速させられた電子によって動作する機器、例えば走査型および/または透過型の電子顕微鏡は、電磁干渉に悩まされている。なぜなら、この電磁干渉は、画像化のために必要とされる電子の飛行軌道に対して直接的な影響を及ぼす可能性があり、ひいては結果の品質に対して悪影響を及ぼす可能性があるからである。
【0004】
このような機器のための典型的なインストレーションは、コイル配列の形態の大体積の補償構造体を含み、このコイル配列は、多くの場合、立方体形または直方体形の領域を画定しており、この領域にはできるだけ均質な補償磁界が存在する。次いで、この補償磁界の内部に、機器が位置付けられる。このような補償構造体は、一方では非常に嵩張っているが、他方では非常に非フレキシブルでもある。多くの場合、このような構造体内に機器を配置することができるようにするために、このような補償構造体を、現場での空間的な条件に適合させなければならず、また、手間をかけて組み付けられなければならない。したがって、利用可能な空間の大きさによって機器の大きさも制限されてしまう。
【0005】
よりコンパクトな配列は、本出願人の欧州特許第2544214号明細書に記載されている。特定の実施形態は、空間の周りに2つのコイルを配置し、この空間の内部で存在する磁界を補償することを想定している。磁界を補償するための上述したシステムは、主として測定システムの脆弱な箇所において補償体積を構成することができるように配置されている。したがって、補償体積は、非常に小さな空間体積にしか該当しない。
【0006】
さらなる実施形態は、1つの空間方向につき1組のコイル対を用いる代わりに、1つの空間方向につき、または1つの軸線につきそれぞれ1つのシングルコイルのみを設けることを想定している。その場合、補償磁界は、格段に不均質になるが、特定の用途にとってはそれだけでもう十分であり、3つのコイル構造が節約される。
【0007】
磁界を補償するためのこれらの配列は、ある程度の磁界補償を提供する非常に制限された空間体積しか提供することができないという点で共通している。したがって、磁界補償は、たとえあったとしても、数ミリメートルの寸法を有する非常に狭く限定された実質的に点状の空間体積内においてのみ可能である。
【0008】
したがって、達成可能な磁界補償は、すでに試料の領域または周辺において直接的に、または少なくともこの非常に小さな空間体積の外側において格段に減少してしまうので、電磁障害が急速に増大し、試料に向かう経路上における電子の飛行軌道が変化させられ、これによって最終的には測定結果の品質が損なわれることとなる。
【0009】
十分な磁界補償を有する空間体積の延在長さがわずかであるということは、機器が比較的大型であるという背景を前にしても不利である。なぜなら、走査型および/または透過型の電子顕微鏡は、比較的高精度であることに鑑みて、比較的長い構造または比較的背の高い構造を有することがますます多くなっているからである。
【0010】
したがって、機器または周囲に簡単に組み込むことができると同時に、それでもなお十分な磁界補償を有するより大きな空間体積も提供する、フレキシブルな磁界補償に対する需要が高まっている。
【0011】
したがって、本発明者らは、従来技術のこれらの欠点を少なくとも軽減するという課題に取り組んだ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が基礎とする課題は、より大きな領域または空間体積にわたってできるだけ良好な磁界補償を可能にすることができる、試料を画像化および/または分析するための装置および方法を提供することである。
【0013】
この場合、大体積の補償構造体が必要とされることなく、できるだけ大きな距離にわたって少なくとも所定の空間方向に沿ってできるだけ良好な磁界補償が達成されることが望ましい。
【0014】
この場合、磁界を補償するための装置および方法は、とりわけ走査型および/または透過型の電子顕微鏡(REMまたはTEM)において、または走査型および/または透過型の電子顕微鏡と組み合わせて使用可能であることが望ましい。
【0015】
この場合、本発明を既存の閉ループ制御コンセプトに組み込むことも可能であるか、または公知の閉ループ制御コンセプトを拡張することも可能であることが望ましい。
【0016】
とりわけ、この場合、機器の操作性における特殊な条件と機器固有の特性とが考慮されることが望ましい。
【0017】
磁界を補償するための装置および方法は、試料を画像化および/または分析するための対応する装置に、とりわけ走査型および/または透過型の電子顕微鏡の内部または表面に、好ましくは例えば1m、2m、またはそれどころか3mを超える比較的背の高い構造を有する装置の内部または表面にも、できるだけ良好に、かつわずかな労力で実装可能または組み込み可能であることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題は、それぞれの独立請求項に記載の、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析および/または処理するための装置および方法によって驚くほど簡単に解決される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態および発展形態は、それぞれの従属請求項から得られる。
【0020】
したがって、本発明は、第1の態様では、荷電粒子を用いて、とりわけ電子ビームを用いて高解像度で試料を画像化および/または分析および/または処理するための装置であって、
本装置は、荷電粒子を提供するための設備と、試料を収容および保持するための手段を有するチャンバと、荷電粒子を中心軸線MZに沿ってチャンバに向かう方向にガイドするための設備と、検出器と、を含み、
チャンバ内に配置された試料には、動作時に荷電粒子を印加することができ、
本装置は、干渉磁界を補償するための、かつ中心軸線MZに沿って延在長さを有する、好ましくは縦長の補償体積を構成するための設備を含み、
チャンバは、好ましくは少なくとも部分的に補償体積の内部に配置されており、
干渉磁界を補償するための設備は、それぞれ導体の少なくとも1つの巻回によって提供される少なくとも2つの補償コイルを含み、少なくとも2つの補償コイルは、中心軸線MZに沿って相並んで配置されているか、または中心軸線MZに対応付けられており、
動作時に、補償体積の内部で存在する干渉磁界を低減することができる、
装置に関する。
【0021】
本装置によれば、チャンバ内に配置された試料に、動作時に、実質的に元々そこに存在する磁界による干渉なしに荷電粒子を印加することができる。このようにして、干渉磁界の影響なく十分または完全に測定を実施することが可能となり、したがって、試料を、測定の場所に存在する磁界に関係なく画像化、分析および/または処理することが可能となる。
【0022】
この場合、補償体積は、好ましくは装置の中心軸線MZに沿って最大の延在長さを有する縦長の形状であってよい。この配列により、装置の設置場所に存在する干渉磁界を、3次元の空間体積において補償することが可能となり、この場合、干渉磁界を、水平平面においても鉛直方向に沿っても補償することが可能である。
【0023】
試料を画像化および/または分析するための本発明による装置は、動作時に、例えば透過型の電子顕微鏡において多く該当しうるように縦型に配置されていてもよいが、横型に配置されていてもよい。
【0024】
水平平面は、空間方向XおよびYによって画定され、水平方向に対する垂線または直交線は、空間方向Zと称されるということが仮定される。したがって、装置が縦型に配置されている場合には、装置の中心軸線MZは、空間方向Zに相当し、装置の方向または座標XおよびYは、空間方向XおよびYに相当する。動作時に、荷電粒子は、装置の中心軸線MZに沿って移動することができ、したがって、装置は、縦型に配置されている場合には、空間方向Zに対して平行に配置されている。
【0025】
補償体積の最大の延在長さが、装置の中心軸線MZの方向に沿っていることにより、装置の動作時に荷電粒子が補償体積を通過する経路を、できるだけ長くすることが可能となる。このことは、とりわけ、以下では簡略化されてエミッタとも称される、荷電粒子を提供するための設備または荷電粒子をガイドするための設備から、以下では試料収容部とも称される、試料の収容部の場所を介して、荷電粒子を検出するように構成された検出器までの経路を意味する。このために、少なくとも2つの補償コイルが、中心軸線MZに沿って相並んで配置されているか、または中心軸線MZに対応付けられている。
【0026】
中心軸線MZに沿って配置されるこれらの少なくとも2つの補償コイルの他に、本発明の有利な実施形態では、装置の座標XおよびYに対応付けることができる少なくとも2つのさらなる補償コイルが設けられている。したがって、これらの少なくとも2つのさらなる補償コイルに対応付けられた軸線MXおよびMYは、縦型に配置されている場合には、空間方向XおよびYに相当する。したがって、これらの軸線に対応付けられた補償コイルは、中心方向MZに対応付けられた少なくとも2つの補償コイルに対して直交している。
【0027】
このようにして、補償体積の内部で、すべての空間方向X,Y,およびZにおいて存在する干渉磁界を補償することが可能となる。2つの空間方向XおよびYには、この場合にも同様に、複数の補償コイルを対応付けてもよいし、またはただ1つの補償コイルを対応付けてもよい。
【0028】
このような補償コイルにより、装置の動作時に、有利には縦長の補償体積を生成することができ、この場合、存在する干渉磁界、例えば設置場所において支配的である地磁界および/または例えば選択された設置場所との組み合わせにおける周囲からの干渉および/または装置自体に起因する干渉を、少なくとも格段に、または理想的には実質的に完全に補償することができる。したがって、補償体積は、補償コイルによって生成された磁界の空間体積を表し、この空間体積内では、そこに存在する干渉磁界が低減されており、好ましくは磁束密度の所定の最大の大きさまで低減されている。
【0029】
このために、有利には、フィードバックコントロール原理を使用することができ、この場合、空間体積を、破壊的な干渉によっていわばまたは実質的に無磁界にすることができる。このために、補償コイルに補償電流を導くことができ、次いで、この補償電流によって磁界を生成することができ、この磁界は、理想的には干渉の振幅が最小限に抑えられるように、または少なくとも実質的に低減されるように、干渉磁界と破壊的に重畳する。この目的で、磁束密度を測定するための設備が設けられており、これについてはさらに後で説明する。
【0030】
本発明者らは、荷電粒子が試料に衝突する場所、すなわち試料収容部の場所だけではなく、エミッタの場所および/または検出器の場所においても磁界補償が実施された場合に、干渉磁界に起因する荷電粒子の偏向による測定の不正確さを、全体としてさらに格段に低減することができるということを発見した。
【0031】
したがって、とりわけ一方では、以下では敏感な場所とも称されるこれらの場所のうちの少なくとも2つ、好ましくは3つすべてにおける磁束密度ができるだけ小さくなっている場合、かつ/またはこれらの敏感な場所における磁束密度ができるだけ同じである場合に、装置を用いた画像化および分析に対して及ぼされる影響をできるだけ小さくすることが可能である。
【0032】
換言すれば、好ましくは装置のこれらの3つの敏感な場所において磁界を補償することができるように、補償コイルが選択および配置された場合に、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための装置の測定精度を特に高めることが可能である。
【0033】
これらの3つの敏感な場所に集中することにより、極めて有利には、非常に大体積の補償コイルを有する公知の配列の場合よりも小さな補償コイルを設けることが可能となる。したがって、中心軸線MZに沿って相並んで配置された2つの補償コイルを用いるだけでもう、少なくとも2つ、好ましくは3つの敏感な場所において、十分に良好な補償を達成することができ、この場合、これらの2つの補償コイルは、装置全体を包囲する1つの大きな補償コイルであって、かつ場合によっては収容のための対応する空間が用意されなければならない1つの大きな補償コイルよりも、格段に小さく構成可能である。
【0034】
したがって、磁界補償は、主として少なくとも2つの、好ましくは3つの敏感な場所に集中する。典型的に当てはまることであるが、これらの敏感な場所が中心軸線MZに沿って互いに同一線上に位置する場合には、少なくとも2つの、好ましくは3つの敏感な場所において、同様に中心軸線MZに沿って配置されている2つの補償コイルによるだけでもう、荷電粒子の偏向を、特に簡単に小さくすることが可能である。
【0035】
それぞれ隣り合う敏感な場所の間の距離は、本発明の好ましい実施形態によれば、少なくとも0.1mまたは0.2m、とりわけ少なくとも0.5m、好ましくは少なくとも1m、特に好ましくは少なくとも1.5m、またはそれどころかそれ以上であってよい。このことはつまり、エミッタと試料収容部との間の距離および/または試料収容部と検出器との間の距離が、0.5m以上、1m以上、または1.5m以上でもあってよいということを意味する。したがって、外側の敏感な場所の間、とりわけエミッタと検出器との間の距離は、1m以上、好ましくは1.5m以上、特に好ましくは2m以上であってよい。
【0036】
この場合、これに対して直交する平面における延在長さは、本発明の好ましい実施形態では、少なくとも0.2m×0.2m、好ましくは少なくとも0.3m×0.3m、特に好ましくは少なくとも0.4m×0.4m、少なくとも0.5m×0.5m、またはそれ以上であってよい。
【0037】
この場合、好ましい実施形態では、補償体積は、中心軸線MZの方向において、中心軸線MZに対して垂直な方向、すなわち座標XまたはYのうちの1つの座標の方向における補償体積の延在長さの少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、またはそれどころか2.5倍に相当する延在長さを有する。
【0038】
これにより、動作時に、特に好適には、本発明の意味において均質であると見なすことができる縦長の略直方体形の補償体積を構成することができる。
【0039】
試料を画像化および/または分析するための装置に対する補償コイルの配置は、装置に対する補償体積の向きを画定することができる。
【0040】
好適な配置では、補償体積内における供給された荷電粒子の経路区間をできるだけ長くすることができ、これにより、動作時に、荷電粒子を提供するための設備と試料との間の、荷電粒子の経路区間のうちのできるだけ大部分が、補償体積の内部に位置することになる。
【0041】
しかしながら、上述のように、本発明の本質的な態様は、とりわけ敏感な場所において、これらの敏感な場所のうちの少なくとも2つにおける磁束密度ができるだけ小さくなるように、装置の動作時に、できるだけ大きな磁界補償を可能することができることである。すなわち、実質的に、これらの敏感な場所が、外部の磁気干渉を受けないようにすることが望ましい。
【0042】
補償体積とは、本発明の枠内では、周りを取り巻く干渉磁界の磁束密度と比較してより小さい磁束密度を有する空間体積であると理解される。この場合、より小さいとは、設置場所に存在する干渉磁界を基準として少なくとも50%低減していることであり、すなわち、磁束密度の大きさが、少なくとも半分だけ低減していることである。
【0043】
本発明によれば、相並んで位置する少なくとも2つの補償コイルを配置することによって縦長の補償体積を構成することが可能となり、この補償体積では、とりわけエミッタ、試料収容部および/または検出器の場所における磁束密度が、補償のない場合に支配的である磁束密度に比べて少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも98%低減されている。
【0044】
この場合、時間の経過にわたって発生する磁界の変化を補償することもできる。この場合、地磁界に起因する典型的な磁束密度から出発するが、しかしながら、この地磁界は、機具自体に起因して、または装置の設置場所に存在する他の設備に起因していくらか増加したり、または変化したりする可能性もある。
【0045】
したがって、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための装置であって、エミッタおよび/または試料収容部および/または検出器の場所における動作時の磁束密度が、0.2μT以下、好ましくは0.1μT以下、特に好ましくは0.05μT以下、0.02μT以下、またはそれどころか0.01μT以下である、装置を提供することができる。
【0046】
本発明の特に好適な実施形態では、少なくとも2つ、好ましくは3つの敏感な箇所における磁束密度の大きさの差は、0.05μT以下、好ましくは0.01μT以下である。このことはつまり、動作時に、少なくとも2つ、好ましくは3つの敏感な場所における磁束密度を略同一に保つことができるということを意味し、このことは、測定精度に対して極めて特に好適に作用する。
【0047】
荷電粒子を提供するための設備は、好ましい実施形態では電子顕微鏡として、例えば走査型および/または透過型の電子顕微鏡として提供される。
【0048】
さらなる実施形態では、荷電粒子を提供するための設備は、リソグラフィ機器として提供される。
【0049】
さらに別の実施形態によれば、この設備は、磁気共鳴トモグラフィまたは核スピントモグラフィの機器として提供される。
【0050】
チャンバは、好ましくは真空チャンバとして構成されている。チャンバは、側壁と、底部と、蓋部と、によって画定されていてよい。チャンバは、試料を収容および/または保持するための手段、例えば試料ホルダを含むことができ、設備によって提供することができる粒子を用いて試料を画像化、検査および/または処理することが可能となるように、この手段に対して試料を位置付けすることができる。
【0051】
したがって、干渉磁界を補償するための本発明による設備は、好ましい実施形態では少なくとも4つの補償コイルを含み、これらの補償コイルを、配列の操作性が実質的に損なわれないように、本来の機器に、または配列に、または配列の周囲に組み込むことができる。
【0052】
本発明の意味では、動作時に試料を収容することができるチャンバ自体だけではなく、チャンバの外側に位置する少なくとも1つの直接的に隣接する領域も、磁束密度が相応に低減されている場合には、補償体積と称することができるか、または補償体積とすることができる。
【0053】
本発明は、比較的少ない建設技術的なコストとコンパクトな構成とにより、十分な磁界補償を有する補償体積の縦長の延在長さを提供することを可能にし、これにより、チャンバだけではなくチャンバの外側に位置する領域も、一緒に包囲することが可能となる。
【0054】
これにより、荷電粒子をガイドするための設備から試料までの、理想的には検出器までの経路上における荷電粒子が進行する領域を少なくとも部分的に、理想的には完全に一緒に包囲することが可能となる。
【0055】
したがって、有利な実施形態では、補償体積は、荷電粒子の飛行軌道を少なくとも部分的に、理想的には完全に取り囲んでいる空間方向において、縦長の延在長さを有することができる。このようにして、特に好適には、周りを取り巻く干渉磁界の影響を、荷電粒子の飛行軌道に沿って補償することができる。
【0056】
したがって、欧州特許第2544214号明細書に記載されているように、補償体積を、例えば走査型および/または透過型の電子顕微鏡、いわゆるREM機器および/またはTEM機器のただ1つの敏感な箇所または領域だけに縮小するのではなく、とりわけREM/TEM機器の敏感な箇所の周りの少なくとも1つの隣接する領域も、一緒に取り入れることが提案される。
【0057】
このことは、特に好適である。なぜなら、例えば、電子ビームは、外部の電磁干渉が作用する場合に、試料に衝突する前の最後の集束および/またはフィルタリングの直前または直後に、画像の品質に関して敏感に影響を受ける可能性があるだけでなく、荷電粒子を提供するための設備と試料への衝突との間のさらなる区間部分を介して、また、試料から検出器までの経路を介しても、画像の品質に関して敏感に影響を受ける可能性があるということが判明しているからである。
【0058】
干渉磁界を補償するための本発明による設備のコンパクトな構成は、空間内に補償コイルを配置することを可能にするだけでなく、この空間内に、荷電粒子を提供するための設備、とりわけREM/TEM機器を配置することも可能にする。
【0059】
むしろ、このコンパクトな構造は、干渉磁界を補償するための本発明による設備を、REM機器またはTEM機器に直接的に組み込むことも可能にする。
【0060】
このことは、有利である。なぜなら、一方では、高解像度で試料を画像化および/または分析するための装置全体が格段によりフレキシブルになり、また、例えば一方の設置場所から他方の設置場所への転置が、格段に容易になるからである。
【0061】
さらなる大きな利点は、顕微鏡の構造形式に関する具体的な解決策を構成および最適化することができ、設置場所での状況に関係なく機能することができるということにあると見て取れる。装置の設置場所に固有である、存在する干渉磁界の分析と場所固有の対応する適合も、これによって省略される。
【0062】
したがって、本発明による装置は、想定された設置場所に関係なく構築可能であり、したがって、フレキシブルに使用可能である。他方では、補償コイルから試料までの距離が短いことにより、測定の品質がより良好になる。なぜなら、補償をより正確に設定することが可能となるからである。
【0063】
本発明によれば、それぞれの個々の補償コイルに、好ましくは同じ軸線上で、少なくとも1つのさらなるコイルを対応付けることができる。このようにして、補償コイル対を形成することができ、この補償コイル対は、ヘルムホルツ状の構成に相当し、この補償コイル対によって、特に良好に均質な磁界を構成することができる。好ましい実施形態では、この場合、それぞれの座標XおよびYに、少なくとも1組の補償コイル対が対応付けられている。特に好適には、中心軸線MZに対応付けられた少なくとも2つの補償コイルが、補償コイル対として構成されている。
【0064】
このようにして、合計して少なくとも4組の補償コイル対を有する配列を提供することができ、この配列を用いることにより、すべての空間方向X,Y,およびZにおいて干渉磁界を特に良好に補償することができる。
【0065】
補償コイル対は、この補償コイル対のうちのただ1つの補償コイルのみに電流を給電することができるように接続可能であり、かつ/または制御可能であってよい。
【0066】
本発明者らは、中心方向MZにおいて相並んで配置された2つの補償コイル、とりわけ相並んで配置された2組の補償コイル対を備えている配列の場合には、補償のための開ループ制御および閉ループ制御が困難となる可能性があることを発見した。とりわけ、動作時に、例えば装置自体によって、または荷電粒子を提供するための設備によって、または荷電粒子をガイドするための設備によってさらなる磁界が形成され、このさらなる磁界が、設置場所に存在する磁界に重畳し、これにより、補償されるべき体積内において不均等な強さの磁界が支配的になり、この磁界を、相応に補償すべきであるという場合に、このことが該当する可能性がある。
【0067】
個々の補償コイルを相応に制御することよって、補償体積内の複数の異なる場所における磁束密度に影響を及ぼし、これによって低減することは可能ではあるが、しかしながら、とりわけ中心方向MZに配置された2つの補償コイルの間の領域では、過補償が迅速に生じてしまう可能性がある。なぜなら、閉ループ制御が複雑である可能性があるからである。
【0068】
存在する磁束密度の測定を用いることにより、このことを確認して、閉ループ制御を相応に適合させることは可能ではあるが、このような変更によっても、重畳領域においてさらなる過補償が生じる可能性があり、このさらなる過補償も、やはり補償されなければならない。
【0069】
その理由は、補償体積の1つの箇所における補償の程度が、複数のコイルによってそれぞれ異なる強さで影響を受ける可能性があるからである。したがって、補償コイルに導かれる補償電流を、センサ信号に基づいて制御ユニットによって計算することは、確かに可能ではある。
【0070】
しかしながら、この場合に生成される磁界は、干渉の振幅が最小限に抑えられるように、または少なくとも実質的に低減されるように、干渉磁界に重畳する可能性があるだけでなく、再び増幅されるように、干渉磁界に重畳する可能性もある。したがって、比較的長時間にわたって持続する可能性のある測定の最中には、望ましくない干渉が発生する可能性がある。
【0071】
したがって、中心方向MZに対応付けられた補償コイルまたは補償コイル対のうちの内側コイルを、外側コイルと比較して異なるように構成することが提案される。この場合、外側のコイルを、隣り合う内側のコイルよりも大きな電流が通流すると、好適であることが判明している。
【0072】
これにより、中心方向MZにおける補償体積の延在長さを最大化すること、および動作時にも、補償体積の内部で、時間的な観点から略一定の干渉磁界の補償を達成することが、より容易に可能となる。
【0073】
このことは、例えば内側のコイルを、外側のコイルの巻回数と比較して少ない巻回数を有するように構成することによって達成可能である。換言すれば、内側コイルの巻回数Niが、外側コイルの巻回数Naと比較して少なく、すなわち、少なくとも1つ少ない巻回を含み、したがって、絶対値的にNa>Niが成り立つ場合には、特に好適である。
【0074】
それぞれ異なる巻回数は、有利には、磁界の勾配が中央から出発して最小になるように適合させられる。
【0075】
これにより、内側のコイルは、補償体積に対して、外側のコイルよりも小さな影響を及ぼすこととなり、したがって、過補償の発生を十分に回避することが可能となる。内側のコイルの巻回数の方がより少ないことに基づいて、内側のコイルには、外側のコイルよりも小さな電流が通流する。したがって、コイルの導体ループの横断面積が同じである場合には、内側コイルにおける電流が通流可能な横断面積全体は、外側コイルと比較してより小さくなり、より弱い磁界が生成されることとなる。
【0076】
一般的に、内側コイルに属する導体ループの、動作時に電流が通流可能な横断面積は、外側コイルに属する導体ループの、電流が通流可能な横断面積と比較して、好ましくは少なくとも10%かつ多くとも70%、好ましくは少なくとも15%かつ多くとも65%、特に好ましくは少なくとも20%かつ多くとも60%小さいと、好適である。
【0077】
例えば、外側コイルの巻回数Na=26であって、かつ内側コイルの巻回数Ni=20またはNi=13である場合、すなわち、電流が通流可能な断面を約20%または50%小さくした場合に、良好な結果を達成することが可能であった。過度に小さくし過ぎると、内側コイルによって十分な補償がもはや不可能となってしまう可能性がある。
【0078】
本実施形態では、まず始めに、内側コイルの導体ループの半径または横断面積と、外側コイルの導体ループの半径または横断面積と、が同一であるということが仮定される。
【0079】
さらなる実施形態では、代替的または補足的に、内側の補償コイルの半径と外側の補償コイルの半径とをそれぞれ異なるように構成することが想定されており、好ましくは、内側コイルは、外側コイルよりも小さい半径を有する。これによっても、内側のコイルによる補償を低減することができ、これにより、過補償の危険性を低減することができる。
【0080】
要約すると、補償は、2段階のコンセプトに基づいており、まず始めに、それぞれのコイルごとに巻回数および/または大きさが規定され、次いで、動作時に、それぞれのコイルごとに、対応する測定後の個々の閉ループ制御および設定が実施される。この場合、それぞれの補償コイルを、それぞれ他方の補償コイルに関係なく閉ループ制御することができる。
【0081】
このために、干渉磁界を補償するための設備は、磁束密度を測定するための、すなわち干渉磁界を検出または測定するための少なくとも1つの設備を含むことができる。
【0082】
磁束密度を測定するための少なくとも1つの設備は、好ましくはチャンバの領域内、好ましくはチャンバ内に配置可能である。これにより、電子と試料との間の相互作用領域において直接的に磁束密度を検出することが可能となり、対応する補償コイルを相応に閉ループ制御することが可能となる。
【0083】
好ましい実施形態では、装置は、磁束密度を測定するための少なくとも2つのこのような設備を含み、これらの設備を、中心方向MZに沿って相互に離間して配置することができる。このことは、有利である。なぜなら、補償体積が、中心方向MZにおいて縦長の延在長さを有することができるからである。
【0084】
この場合、本発明の1つの実施形態では、磁束密度を測定するための少なくとも1つの設備を、チャンバに対応付けることができるか、またはチャンバ内に配置することができ、磁束密度を測定するためのさらなる設備を、チャンバの外側に、好ましくは荷電粒子を提供するための設備とチャンバとの間の領域に配置することができる。このようにして、チャンバの内部においてだけでなく、その上流に位置する、動作時に電子が横断する領域においても、存在する干渉磁界を測定および補償することが可能となる。
【0085】
好ましくは、磁束密度を測定するための設備は、敏感な場所の近傍に、すなわち例えばエミッタ、試料収容部および/または検出器の領域に配置されている。
【0086】
磁束密度を測定するための設備も、干渉磁界を発生させる可能性があるので、この設備を、試料の領域および荷電粒子の経路区間の領域に直接的に位置付けることは推奨されない。
【0087】
補償体積の延在長さが、好ましくは縦長であることに基づいて、磁束密度を測定するための少なくとも2つの設備は、好ましい実施形態では、好ましくは中心方向MZにおいて少なくとも0.2m、好ましくは少なくとも0.5m、特に好ましくは少なくとも1mの相互の距離を有し、これにより、補償体積の延在長さが縦長である場合であっても、特に良好な補償が可能となる。
【0088】
1つの実施形態では、磁束密度を測定するための少なくとも1つの設備は、より多くの巻回数を有する補償コイルの領域に配置されており、磁束密度を測定するための少なくとも第2の設備は、より少ない巻回数を有する補償コイルの領域に配置されている。このことは、対応する補償コイルのさらにより正確な制御を可能にし、これにより、過補償をさらに低減することができる。
【0089】
磁束密度を測定するための設備は、少なくとも1つのセンサ、好ましくは磁界センサまたはフラックスゲート磁力計または飽和鉄芯型磁力計を含むことができる。磁束密度を測定するための設備をチャンバ内に配置することが望ましい場合には、真空に適するように構成することが適当である。好ましくは、磁束密度を測定するための設備は、3つすべての空間方向で測定可能である。
【0090】
さらに有利には、補償コイルのための少なくとも1つの電流給電部と、検出または測定された干渉磁界に依存して補償コイル内の電流を開ループ制御および/または閉ループ制御するための設備と、が設けられている。
【0091】
これにより、それぞれの補償コイルごとに、またはそれぞれの導体ごとに、例えば1~3Aの間の範囲内であってよい電流を、個々に切り替えることが可能となり、これにより、所望の補償磁界を生成することができる。
【0092】
さらに有利には、好ましくは磁束密度の測定に基づいて補償コイルを閉ループ制御するための少なくとも1つの設備が設けられており、閉ループ制御するための設備によって磁界を補償するために、補償コイル対のうちのそれぞれ1つの個々の補償コイル、または補償コイル対を制御することができる。
【0093】
本発明の1つの実施形態によれば、中心方向MZおける少なくとも1つの補償コイルは、少なくとも部分的にチャンバ壁の外面および/または内面に配置されており、このために、好ましくはチャンバ壁内に少なくとも部分的に延在する空洞部が提供されており、空洞部は、好ましくはチャンバ壁内の中空空間として構成されている。このために、チャンバの壁は、少なくとも部分的に、補償コイルの少なくとも1つの区分のための、とりわけ導体の少なくとも1つの区分のための収容領域を提供すること、または有することができる。本発明の1つの実施形態では、導体を収容するための区分または収容領域が、チャンバ壁の外面および/または内面によって提供される。補償コイル、とりわけ補償コイルの導体は、少なくとも部分的にチャンバ壁の外面および/または内面に配置されている。例えば、導体の少なくとも1つの巻回は、チャンバの壁に沿って敷設される。代替的なまたは補足的な実施形態では、補償コイル、とりわけ導体を収容するための収容領域または区分が、少なくとも部分的にチャンバ壁内に延在する空洞部によって提供される。空洞部は、例えば、チャンバ壁の外面および/または内面に設けられた一種の溝部または陥没部として提供されてよい。本発明の本変形例では、一種の開いている空洞部が存在し、導体または補償コイルは、部分的または完全にこの空洞部内に沈められて位置することができる。
【0094】
しかしながら、空洞部は、好ましくはチャンバ壁内の中空空間として構成される。本変形例では、一種の閉じられた空洞部、例えば一種の管が存在しており、導体または補償コイルを、部分的または完全にこの管内に挿入することができる。第1の補償コイル、とりわけ導体を、例えばチャンバ壁に載置することにより、かつ/またはチャンバ壁内に導入することにより、チャンバに直接的に接続することができる。しかしながら、第1の補償コイル、とりわけ導体を、例えばフレームを介してチャンバに間接的に接続することもでき、このフレームには、巻回を提供するために導体が巻き付けられる。
【0095】
中心方向MZにおける少なくとも1つのさらなる補償コイルを、チャンバの外部に配置することができる。
【0096】
試料のできるだけ正確な画像化、分析および/または処理を可能にするために、配列は、有利には振動絶縁されて支承される。振動絶縁とは、システムに対して作用する干渉運動または干渉振動に対抗することであると理解される。理想的には、運動または振動が補償される。このことは、好ましくは運動の6自由度すべてにおいて実施される。したがって、このことは、しばしば振動補償とも称される。したがって、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための、振動絶縁されて支承された少なくとも1つの本発明による装置を有する振動絶縁システムも、本発明の分野に含まれている。
【0097】
振動絶縁システムは、能動的および/または受動的な振動絶縁システムとして提供されてよい。
【0098】
受動的な振動絶縁システムは、絶縁されるべき負荷への外部振動の伝達を低減するために、できるだけ小さい機械的剛性を有する「簡単な」支承部を特徴とする。受動的な振動絶縁システムに関する2つの例は、支承のための空気軸受およびポリマーばね要素である。
【0099】
振動の一種の減衰、または負荷の一種の「絶縁された」支承を特徴とする受動的な振動絶縁とは異なり、能動的な振動絶縁は、振動が能動的に補償されることを特徴とする。振動によって誘起される運動は、対応する対抗運動によって補償される。例えば、振動によって誘起される質量の加速度に対して、絶対値的に同じ大きさであるが反対の符号が付されている加速度が対抗させられる。結果として生じる負荷の全体加速度は、ゼロに等しくなる。負荷は、静止するか、または所望の姿勢に留まる。
【0100】
したがって、能動的な振動絶縁システムは、オプションとしてできるだけ小さい機械的剛性を有する支承部と一緒に、閉ループ制御システムを追加的に有し、この閉ループ制御システムは、閉ループ制御器とセンサおよびアクチュエータとを含み、これらにより、外部からシステムに侵入する振動に対して狙いを定めて対抗させられる。センサは、支承されるべき負荷の運動を検出する。閉ループ制御器を介して補償信号が生成され、この補償信号により、アクチュエータが制御され、これによって補償運動が生成される。この場合、デジタルまたはアナログの閉ループ制御区間を使用することが可能であるか、または両方一緒の、いわゆるハイブリッドの閉ループ制御区間を使用することも可能である。
【0101】
本発明の枠内には、荷電粒子を用いて、とりわけ電子ビームを用いて高解像度で試料を画像化および/または分析および/または処理するための方法であって、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための本発明による装置が使用される、方法も含まれている。
【0102】
本方法によれば、荷電粒子を中心方向MZに沿ってチャンバに向かう方向にガイドするための設備によって荷電粒子を提供し、チャンバ内に配置された試料へとガイドすることができ、動作時に、チャンバ内に配置された試料に荷電粒子に印加することができる。
【0103】
この場合、本発明の意味では、干渉磁界を補償するための、かつ好ましくは縦長の補償体積を構成するための設備は、好ましくは、最大の延在長さが中心方向MZに対して平行に延在するように配置されている。
【0104】
チャンバは、この場合、好ましくは少なくとも部分的に補償体積の内部に配置されている。
【0105】
干渉磁界を補償するための設備は、この場合、それぞれ導体の少なくとも1つの巻回によって提供される少なくとも4つの補償コイルを含むことができ、少なくとも2つの補償コイルは、中心軸線MZに沿って相並んで配置されているか、または中心軸線MZに対応付けられている。
【0106】
動作時に、補償体積の内部で存在する干渉磁界を低減することができる。
【0107】
したがって、好ましい実施形態では、補償体積は、チャンバ内に配置された試料を有する領域だけでなく、供給された荷電粒子が横断する領域も少なくとも部分的に含むことができる。
【0108】
有利には、これらの区分は、例えば、試料に衝突する前の荷電粒子の集束および/またはフィルタリングを含むことができ、したがって、これらの領域においても干渉磁界を補償することができる。
【0109】
本発明による方法は、とりわけ上述の本発明による装置を用いて実施可能である。
【0110】
本発明による装置は、とりわけ本発明による方法を実施するように構成されている。
【0111】
このようにして、とりわけ走査型または透過型の電子顕微鏡と組み合わせて、本発明による装置を用いることにより、最大100pm、好ましくは最大60pm、特に好ましくは最大50pm、またはそれどころか最大40pmの解像度を提供することが可能となる。
【0112】
この場合、試料は、中心方向MZにおいて1nmから数マイクロメートルまでの、好ましくは少なくとも3μmまでの、またはそれ以上の範囲内の構造隆起部を有することができる。
【0113】
磁界を補償するための本発明による装置および本発明による方法は、とりわけ走査型および/または透過型の電子顕微鏡(REMまたはTEM)において、または走査型および/または透過型の電子顕微鏡と組み合わせて使用可能である。
【0114】
この場合、本装置を既存の閉ループ制御コンセプトに組み込むことも可能であるか、または公知の閉ループ制御コンセプトを拡張することも可能である。
【0115】
このようにして、特に高いフレキシビリティが与えられている。したがって、フレキシブルな構造を可能にすることができる。このために、装置を、モジュール状に、またはモジュールとして、または個別モジュールとして提供して、現場で簡単に組み立てることが可能である。
【0116】
したがって、大きな構造高さまたは背の高い構造を有し、かつ1m以上、または2m以上、またはそれどころか3m以上であってよい比較的大きな走査型および/または透過型の電子顕微鏡のための磁界補償を提供することも可能である。この場合、従来の通常よりも格段により小さな空間を使用することができる。
【0117】
これに対して、磁界を補償するための従来の装置では、磁界を補償するための設備を収容するために大きなまたは非常に大きな空間が必要とされており、例えば、2mの構造高さを有する透過型の電子顕微鏡の場合には、コイルを収容する約8mの大きさのケージが必要とされている。このことは、そのような顕微鏡のために特別な空間、例えば適切なホールを提供しなければならないということを意味し、このことにより、設置のための可能性が大幅に縮小されてしまう。
【0118】
本発明のさらなる詳細は、図示の実施例の説明および添付の特許請求の範囲から得られる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【
図1a】従来技術による補償コイルの配列を示す図である。
【
図1b】従来技術による補償コイルの配列を示す図である。
【
図2】
図1a,
図1bの配列についての、中心方向M
Zにおける磁界の勾配を示す図である。
【
図3】合計して4組の補償コイル対を有する、1つの実施例による補償コイルの本発明による配列を示す図である。
【
図4】
図3の配列についての、中心方向M
Zにおける磁界の勾配を示す図である。
【
図5】
図3の補償コイルの本発明による配列についての補償磁界の経過および強さを示す図である。
【
図6a】例示的な走査型の電子顕微鏡の概略的な断面図である。
【
図6b】対応するビームガイダンスを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0120】
好ましい実施形態の以下の詳細な説明では、この実施形態におけるまたはこの実施形態に関する実質的に同じ部分を、明瞭にする目的で同じ参照符号によって示す。しかしながら、本発明をより良好に例示にするために、図面に示されている好ましい実施形態は、必ずしもいつも縮尺通りに示されているとは限らない。
【0121】
図1a、
図1bは、従来技術による補償コイルの配列、または磁界を補償するための設備31を示す。
図1aは、明瞭にする目的でのみ、直方体形のケージ50の例で空間方向X,Y,およびZを示し、このケージ50により、複数のコイルを、例えばそれぞれの側面51の領域にヘルムホルツ構成で配置することが簡単に可能となる。
【0122】
図1bは、このケージ50を示し、それぞれの側面51に厳密に1つの補償コイル(「コイル」)が対応付けられている。
図1bでは、これらの補償コイルは示されていない。本例では、ケージ50は、X方向およびY方向で200×200cmの延在長さと、300cmの高さと、を有する。
【0123】
図2は、
図1bの実施例からのケージ50の例における、空間方向Zにおける磁束密度の勾配を示す。ケージ50の高さに沿って、空間方向XおよびYによって形成される面に対して垂直な中心軸線に沿った勾配20に基づいて、磁束密度の値が示されている。
【0124】
図面からは、
図1bのコイル配列による補償コイルを用いることによって、例えば中央の領域または中間の領域において磁界を非常に良好に補償することができるが、これに対して、補償コイルの外側領域または補償コイルの近傍では、磁界がより大きな勾配を有するということが見て取れる。
【0125】
グラフからは、空間方向Zにおいて、例えば0.2μT以下の磁束密度を有する補償体積の延在長さは、1m未満であるということが見て取れる。例えば2mの構造高さを有する機器の場合には、空間方向Zにおいて、最大でも約1μTの補償しか提供することができず、この値は、特に敏感な装置にとっては高すぎる可能性がある。単位%で低減を示している下側の図における勾配21に基づき、
図1bの配列によって、約2mの延在長さにわたって0%~約100%の間の補償を達成することができるということだけでなく、とりわけ縁部領域において、存在する干渉磁界を増幅する過補償がもたらされる可能性もあるということが分かる。
【0126】
略100%の補償を達成することができ、ひいては磁界に関して略干渉のない領域は、空間方向Zの延在長さにおいて非常に小さく、わずか数センチメートルにすぎない。
【0127】
このことから、従来技術による補償コイルの配列からは、実際の磁界補償が実施される非常に小さな空間体積しか提供することができないということ、またはより良好な磁界補償を達成するためには、補償コイルを非常に大きく寸法設定しなければならないということが分かる。
【0128】
図3は、合計して4組の補償コイル対を有する、干渉磁界を補償するための特に好ましい設備30による補償コイルの本発明による配列を示す。当然ながら、例えば1組の補償コイル対またはすべての補償コイル対の代わりに、1つの軸線上に1つの補償コイルのみが設けられている配列、または中心軸線M
Zに沿って2つの補償コイルのみが設けられている配列も可能であり、かつ考えられる。しかしながら、本明細書のような対称的な構造により、比較的大きくて均質な補償体積を構成することが可能となる。
【0129】
図示の実施例では、4組の補償コイル対が、それぞれケージ60においてヘルムホルツ状の配列で設けられており、この場合、空間方向XおよびYにおいて、それぞれ1組の補償コイル対が配置されており、空間方向Zにおいて、2組の補償コイル対が相並んで配置されている。
【0130】
干渉磁界を補償するための設備30が、試料を画像化および/または分析するための、動作時には縦型で設置されている装置内に組み込まれている場合には、空間方向Zは、この装置の中心軸線MZに相当し、この中心軸線MZは、例示する目的で本図に一緒に示されている。装置は、本図には図示されていない。
【0131】
干渉磁界を補償するための設備30の図示の配列は、直方体形のケージ60を画定しており、このケージ60は、空間方向XおよびYに対して平行な2つの辺62によって画定された正方形の底面と、空間方向Zに対応付けられていて本例では最も長い辺である辺61と、によって、空間体積を画定している。動作時に、ケージ60によって画定された空間体積の内部で干渉磁界の補償を実施することができる。
【0132】
図示の実施例では、ケージの底面、すなわち辺62の長さは、2m×2mであり、高さ、すなわち辺61の長さは、3mである。好適な構成では、最も長い辺の長さ、ひいては高さは、底面の辺62の長さの少なくとも1.1倍であり、したがって、ケージは、立方体形というよりもむしろ直方体形に構成されている。このことは、対応する中心軸線MZに2組のコイル対が対応付けられているという状況に起因している。このようにして、中心軸線MZに沿って縦長の延在長さを有する、好ましくは縦長の補償体積を構成することができ、したがって、この縦長の補償体積は、特に好適には少なくとも部分的に、この方向に沿って動作時に供給される荷電粒子の経路を一緒に包囲する。
【0133】
この場合、相並んで配置された2組のコイル対を有するコイル構成の場合には、最も長い辺61に対するケージの底面の辺の長さの比は、
図3の実施例に示されているように1.1倍~3倍の間の範囲内にあり、特に好ましくは2倍または1.5倍である。
【0134】
当然ながら、空間方向に沿って、例えば空間方向Zに沿ってさらなる補償コイルまたは補償コイル対を相並んで配置することも可能であり、かつ考えられる。このようにして、さらにより長い補償体積を構成することができる。しかしながら、その場合には、制御がより複雑になることが判明している。なぜなら、同じ軸線上で隣り合うコイルの間の重畳領域において、過補償が発生する可能性があるからであり、このような過補償を、またしても適切な制御戦略によって補償しなければならないからである。
【0135】
相並んだ3つの補償コイルまたは3組の補償コイル対を有するケージ装置の場合には、最も長い辺61に対するケージの底面の辺の長さの比は、1.1倍~3倍の間、またはそれどころかさらに、例えば3.5倍または4倍であってよく、このことはつまり、底面が2m×2mである場合に、6m、7m、または8mの高さが可能であるということを意味する。しかしながら、このことは、十分に大きな空間を提供しなければならないということも意味する。
【0136】
図4は、
図3の配列についての、装置の空間方向Zにおける、または中心軸線M
Zに沿った磁界の勾配80,81を示し、この場合、比較のために、従来技術による配列を示している
図2からの勾配20,21も一緒に示されている。したがって、勾配80,81は、干渉磁界を補償するための本発明による設備30によって達成することができる磁束密度の低減を、空間方向Zにおける低減の強さと空間的な延在長さとに関して示す。この場合、
図1および
図3の補償コイルの基礎となる配列は、寸法に関して同じである。換言すれば、ケージ50,60の大きさは、同じである。
【0137】
この場合、上側のグラフは、動作時に補償体積の中心軸線MZに沿って存在する磁束密度を単位μTで示し、下側のグラフは、同様に中心軸線MZに沿った磁束密度の低減の程度を単位%で示す。この場合、勾配80は、中心軸線MZに沿った、または空間方向Zにおける磁束密度の大きさを示し、勾配81は、磁束密度の低減の程度を示す。
【0138】
図1に示されている配列についての磁界の勾配20,21と比較して、本図は、格段により強力な補償が可能となるということ、およびこの補償が、空間方向Zにおける格段により大きな延在長さにわたって延在しているということを非常に良好に示す。
【0139】
下側のグラフに挿入された実施例は、本発明の大きな利点を示し、ここでは、存在する干渉磁界、すなわち磁束密度を、補償体積によって少なくとも90%低減することが可能であるということが仮定される。本例では、勾配21からは、補償コイルのこの配列における空間方向Zに沿った補償磁界の延在長さを示していて、低減が90%であるところの長さL1が見て取れる。長さL1は、本例では約0.7mである。これと比較して、L2で示された長さは、勾配81から見て取れる、補償コイルの本発明による配列についての空間方向Zに沿った補償磁界の延在長さを示す。長さL2は、本例では約1.8mである。このことから、ケージ50,60の外寸が同じである場合には、従来技術に基づく配列と比較して、補償の程度が同じで格段により長い補償体積を提供することが可能であるということが分かる。
【0140】
より良好に例示するために、
図4の図面には、装置の敏感な場所の位置がさらに示されており、ここでは、エミッタに対してAが付されており、試料収容部に対してBが付されており、検出器に対してCが付されている。これにより、図面から、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための、本例の基礎となる装置のこれらの敏感な場所と補償体積との間の距離も見て取れる。本実施例では、エミッタと試料収容部との間の距離は、約0.5mであり、試料収容部と検出器との間の距離は、約0.6mである。
【0141】
本発明の意味では、エミッタと試料収容部との間の距離および/または試料収容部と検出器との間の距離は、0.1m以上、0.2m以上、とりわけ0.5m以上、1m以上、または1.5m以上であってもよい。したがって、エミッタと検出器との間の距離は、1m以上、好ましくは1.5m以上、特に好ましくは2m以上であってもよい。
【0142】
図4から見て取れるように、エミッタおよび/または試料収容部および/または検出器の場所における磁束密度は、0.2μT以下、好ましくは0.1μT以下、特に好ましくは0.05μT以下、0.02μT以下、またはそれどころか0.01μT以下である。本実施例では、エミッタおよび検出器の場所における磁束密度は、約0.15μTであり、試料収容部の場所における磁束密度は、約0.10μTである。
【0143】
したがって、エミッタ、試料収容部および/または検出器が含まれる、少なくとも2つ、好ましくは3つの敏感な場所における磁束密度の大きさの差は、本実施例では約0.05μTであり、他の構成では、例えば0.01μT以下というさらにより小さい差を実現することが可能である。
【0144】
ここから、補償可能性が同じである場合に、格段により大きな機器、またはより大きな構造を有する機器を、干渉磁界を補償するための本発明による設備30と一緒に動作させることが可能であるということが分かる。
【0145】
図5は、
図3の補償コイルの本発明による配列についての補償磁界の経過および強さを示す。本発明による補償コイルの配列により、非常に高い均質性を有する略直方体形の補償体積を提供することが可能となる。
【0146】
補償体積の底面は、記載された実施形態では約0.8m×0.8mであり、空間方向Zにおける延在長さは、約2.8mである。
【0147】
図6aおよび
図6bは、例示的な走査型の電子顕微鏡の断面図(
図6a)と対応するビームガイダンス(
図6b)とを概略的に示す。
【0148】
以下では、本発明を、走査型の電子顕微鏡10の例においてさらに掘り下げて説明する。これに関して、
図6aは、走査型の電子顕微鏡10の断面を示す。
図6bは、電子1の対応するビームガイダンスを示す。機能は、簡略的にのみ図示されている。すなわち、荷電粒子としての電子1が、電子アンテナ11によって生成される。抽出電圧および加速電圧を印加することにより、電子1が試料90へとガイドされる。ビームパスには、複数の集束設備および/または偏向設備および/または絞りが配置されており、これにより、電子1の飛行軌道および/またはビーム形状および/または画像化特性を相応に設定することができる。
【0149】
例示的に、このために、ビームを監視するための第1の絞り12と、コンデンサレンズ13と、とりわけ試料90を走査するための第1の偏向設備15および第2の偏向設備16と、対物レンズ17と、試料30の上流の最後の絞りとしての、好ましくは試料90を走査するために移動可能に配置された対物レンズ絞り18と、が設けられている。ビームパスには、さらに弁14が配置されている。
【0150】
試料90は、チャンバ19内において試料ホルダ23の上または表面に配置されている。電子ビーム1に対して相対的な、試料90または試料ホルダ23の位置は、例えば操作部24によって変更可能である。
【0151】
装置100は、電子顕微鏡10およびチャンバ19を含む。走査型の電子顕微鏡10の内部およびチャンバ19の内部には、それぞれ真空が印加されている。電子1は、試料90に衝突し、そこで二次電子を放出する。これらの二次電子により、検査されるべき試料90の特性を推定することが可能となる。試料90の走査を介して、この試料90を1つの点からまた1つの点へと検査することができる。例えば、後方散乱した電子を、検出器(図示せず)を用いて検出し、次いで検査することができる。
【0152】
図面には追加的に、本発明に即して空間方向Zに相並んで配置された2つの補償コイル41,42が示されている。これら2つのコイル41,42は、ここでは図平面X-Zにおける干渉磁界を補償するために、1組の補償コイル対を一緒に形成している。好ましくは、2つの空間方向XおよびYに対しても、それぞれ1組の補償コイル対が設けられている。補償コイル41,42は、導体の少なくとも1つの巻回によって提供される。補償コイル41,42は、磁界を補償するためのシステム40の構成部分である。システム40自体は、装置100の構成部分である。
【0153】
補償コイル41,42は、ここでは装置100全体にわたって延在している。したがって、補償コイル41,42によって捕捉される空間体積全体は、破壊的な干渉によっていわば無磁界にされる。
【0154】
補償コイル41,42によって生成される補償体積は、実質的に、対物レンズ17または絞り18と、電子ビーム1が衝突する試料90の表面と、の間の体積においてのみ提供される。提供される補償体積は、電子ビーム1と試料90との相互作用領域と、荷電粒子を提供するための設備、すなわち本実施例では走査型の電子顕微鏡10からの経路上における電子1の飛行軌道と、の両方を含む。
【0155】
磁界を補償するための本発明によるシステム40は、本実施例ではさらに、補償コイル対のうちの互いに隣り合う内側コイル44が、外側コイル45と比較して異なるように構成されていることを特徴としている。この場合、外側のコイル45を、隣り合う内側のコイル44よりも大きな電流が通流すると、好適であることが判明している。
【0156】
したがって、本実施例では、内側コイル44には、外側コイル45の巻回数と比較して少ない巻回数が設けられている。したがって、内側コイル44の巻回数Niは、外側コイル45の巻回数Naと比較して少なく、すなわち、内側のコイル44の巻回数Niは、少なくとも1つ少ない巻回を含む。
【0157】
本明細書では、外側コイル45の巻回数Na=26であり、かつ内側コイル44の巻回数Ni=20またはNi=13である場合に、良好な結果を得ることが可能であった。この場合、個々の巻回の横断面積は、同じである。
【0158】
他の実施形態では、内側コイル44の横断面積を、外側コイル45の横断面積よりも小さくなるように構成することも可能である。
【0159】
干渉磁界を補償するための設備30は、本実施例ではさらに、磁束密度を測定するための設備、すなわち干渉磁界を検出または測定するための設備を含む。図示の実施例では、磁束密度を測定するための2つのこのような設備24が設けられており、かつ概略的に示されており、2つの設備24のうちの一方は、試料90の領域に位置しており、2つの設備24のうちの他方は、さらに離れたところに、とりわけ動作時に供給される荷電粒子の経路区間の領域に位置している。
【0160】
磁束密度を測定するための設備24は、少なくとも1つのセンサを含み、このセンサは、磁界センサまたはフラックスゲート磁力計または飽和鉄芯型磁力計として構成されていてよい。この場合、試料90の領域に配置された設備24は、真空に適するように構成されている。
【0161】
さらに、補償コイルのための電流給電部と、検出または測定された干渉磁界に依存して補償コイル内の電流を開ループ制御および/または閉ループ制御するための設備と、が設けられている(図示せず)。
【0162】
これにより、それぞれの補償コイルごとに、またはそれぞれの導体ごとに、例えば1~3Aの間の範囲内であってよい電流を、個々に切り替えることが可能となり、これにより、所望の補償磁界を生成することができる。
【0163】
さらに有利には、好ましくは磁束密度の測定に基づいて補償コイルを閉ループ制御するための少なくとも1つの設備が設けられており、閉ループ制御するための設備によって磁界を補償するために、補償コイル対のうちのそれぞれ1つの個々の補償コイル、または補償コイル対を制御することができる。
【0164】
運転開始前または動作前に、設備30を較正する目的で、存在する干渉磁界を決定するための測定、すなわち存在する磁気ビーム、例えば地磁界を特定するための測定を実施することができるということは自明である。
【0165】
本装置により、動作時に、少なくとも1つの空間方向において、補償体積の内部において1μT未満、好ましくは0.8μT未満、特に好ましくは0.6μT未満、0.4μT未満、とりわけ0.2μT以下である補償された磁束密度を提供することが可能となる。図示の実施形態では、この空間方向は、空間方向Zである。
【0166】
この場合、補償体積は、空間方向Zにおいて少なくとも0.5m、好ましくは少なくとも1m、特に好ましくは少なくとも1.5m、またはそれどころかそれ以上の延在長さを有することができ、この場合、磁界を90%以上抑制することができる。この場合、空間方向Zに対して直交する平面における延在長さは、少なくとも0.2×0.2m、好ましくは少なくとも0.3×0.3m、特に好ましくは少なくとも0.4m×0.4m、少なくとも0.5×0.5m、またはそれ以上である。この直方体状の空間体積の内部では、本実施形態では動作時に、90%またはそれより強力に低減された磁束密度を有する均質な補償体積が得られる。
【0167】
本発明は、荷電粒子を用いて、とりわけ電子ビームを用いて高解像度で試料を画像化および/または分析および/または処理するための方法であって、荷電粒子を用いて高解像度で試料を画像化および/または分析するための本発明による装置100が使用される、方法も提供する。
【0168】
本方法によれば、荷電粒子1を中心方向MZに沿ってチャンバ19に向かう方向にガイドするための設備によって荷電粒子を提供し、チャンバ19内に配置された試料90へとガイドすることができ、動作時に、チャンバ19内に配置された試料90に荷電粒子を印加することができる。チャンバ19は、この場合、補償体積の内部に配置されている。
【0169】
本発明による方法は、上述の本発明による装置100を用いて実施可能である。
【0170】
本発明による装置100は、とりわけ本発明による方法を実施するように構成されている。
【0171】
このようにして、とりわけ
図6aまたは
図6bに示されているような走査型または透過型の電子顕微鏡と組み合わせて、本発明による装置100を用いることにより、最大100pm、好ましくは最大60pm、特に好ましくは最大50pm、またはそれどころか最大40pmの解像度を提供することが可能となる。
【0172】
この場合、試料は、中心方向MZにおいて1nmから数マイクロメートルまでの、好ましくは少なくとも3μmまでの、またはそれ以上の範囲内の構造隆起部を有することができる。
【0173】
磁界を補償するための本発明による装置100および本発明による方法は、とりわけ走査型および/または透過型の電子顕微鏡(REMまたはTEM)において、または走査型および/または透過型の電子顕微鏡と組み合わせて使用可能である。
【0174】
この場合、本装置を既存の閉ループ制御コンセプトに組み込むことも可能であるか、または公知の閉ループ制御コンセプトを拡張することも可能である。
【0175】
このようにして、特に高いフレキシビリティが与えられている。したがって、フレキシブルな構造を可能にすることができる。このために、装置100を、モジュール状に、またはモジュールとして、または個別モジュールとして提供して、現場で簡単に組み立てることが可能である。
【0176】
したがって、大きな構造高さまたは背の高い構造を有し、かつ1m以上、または2m以上、またはそれどころか3m以上であってよい比較的大きな走査型および/または透過型の電子顕微鏡のための磁界補償を提供することも可能である。この場合、従来の通常よりも格段により小さな空間を使用することができる。
【国際調査報告】