(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】リチウム硫黄電池用正極材及びこれを含むリチウム硫黄電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/15 20170101AFI20241108BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241108BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241108BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241108BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241108BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20241108BHJP
【FI】
C01B32/15
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M10/0566
H01M10/052
C01B32/158
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532940
(86)(22)【出願日】2023-05-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2023006712
(87)【国際公開番号】W WO2024025104
(87)【国際公開日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】10-2022-0094135
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0156801
(32)【優先日】2022-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0064021
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】592127149
【氏名又は名称】韓国科学技術院
【氏名又は名称原語表記】KOREA ADVANCED INSTITUTE OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】291,Daehak-ro Yuseong-gu,Daejeon 34141,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨ-チャン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジンウ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ソア・キム
(72)【発明者】
【氏名】クォン-ナム・ソン
(72)【発明者】
【氏名】スン-ボ・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン-グワン・イム
【テーマコード(参考)】
4G146
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
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(57)【要約】
本発明は、リチウム硫黄電池の正極に使用するための炭素複合体及びその製造方法に関するものであって、前記炭素複合体は、多孔性炭素基材と;前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、遷移金属粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;前記炭素コーティング層にドープされた少なくとも1種の異種元素と;を含み、前記異種元素が、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性炭素基材と、
前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、遷移金属粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と、
前記多孔性炭素基材及び前記炭素コーティング層の少なくともいずれか一方にドープされた少なくとも1種の異種元素と;を含み、
前記遷移金属粒子は、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含み、
前記異種元素は、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上を含む、炭素複合体。
【請求項2】
前記炭素コーティング層は、前記コア部の表面全体を被覆している、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項3】
前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D
50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、40%以下である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項4】
前記遷移金属粒子は、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルビジウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、セリウム(Ce)、ガドリウム(Gd)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、及びインジウム(In)のうちから選択される1種以上をさらに含む、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項5】
前記遷移金属粒子は、遷移金属元素100モル%を基準として、コバルト元素の含有量が95モル%である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項6】
前記遷移金属粒子は、遷移金属元素100モル%を基準として、コバルト元素の含有量が100モル%である、請求項5に記載の炭素複合体。
【請求項7】
前記遷移金属粒子は、コバルトナノ粒子である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項8】
前記遷移金属複合粒子のコア部は、平均粒径(D
50)が1nm~90nmである、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項9】
前記炭素コーティング層は、厚さが10nm以下である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項10】
前記炭素コーティング層は、結晶性炭素を含む、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項11】
前記炭素コーティング層は、1層の単層構造または2層以上の多層構造である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項12】
前記炭素コーティング層は、1層の単層構造または2層~5層の多層構造である、請求項11に記載の炭素複合体。
【請求項13】
前記炭素コーティング層は、前記異種元素として窒素元素を含み、1層の単層構造または2層~4層の多層構造である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項14】
前記遷移金属複合粒子は、平均粒径(D
50)が2nm~100nmである、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項15】
前記多孔性炭素基材は、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、酸化グラフェン(GO)、還元された酸化グラフェン(rGO)、カーボンブラック、グラファイト、グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素繊維(ACF)、活性炭、フラーレン、またはこれらのうちの2種以上を含む、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項16】
前記多孔性炭素基材は、カーボンナノチューブ(CNT)を含み、
前記カーボンナノチューブは、絡み合ったカーボンナノチューブ(entangled CNT)を含む、請求項15に記載の炭素複合体。
【請求項17】
前記遷移金属複合粒子の含有量は、前記炭素複合体100重量%を基準として15重量%以下である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項18】
前記異種元素の含有量は、前記炭素複合体100重量%を基準として10重量%~50重量%である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項19】
前記炭素複合体中の前記遷移金属元素間の結合数は、前記遷移金属元素と前記異種元素間の結合数よりも多く、
元素間の結合は、広域X線吸収微細構造(EXAFS)分析により確認された、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の炭素複合体の製造方法であって、
遷移金属含有前駆体、炭素前駆体及び多孔性炭素基材を混合し、熱処理するステップを含み、
前記遷移金属含有前駆体は、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含み、
前記炭素前駆体は、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上の異種元素を含む、炭素複合体の製造方法。
【請求項21】
前記炭素前駆体は、ドーパミン、ポリドーパミン、メラミン、1,10-フェナントロリン、ポリアニリン、窒化炭素(g-CN)、グルコース、フェニレンジアミン、またはこれらの混合物を含む、請求項20に記載の炭素複合体の製造方法。
【請求項22】
前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体を混合して金属-炭素前駆体複合体(M-C precursor complex)を製造するステップと、
前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材を混合して金属-炭素-基材前駆体複合体(M-C-substrate precursor complex)を製造するステップと、
前記金属-炭素-基材前駆体複合体を熱処理するステップと、
を含む、請求項20に記載の炭素複合体の製造方法。
【請求項23】
前記熱処理は、600℃~1,000℃の温度で行われる、請求項20に記載の炭素複合体の製造方法。
【請求項24】
請求項1から19のいずれか一項に記載の炭素複合体と、硫黄系化合物と、を含む、正極活物質。
【請求項25】
請求項24に記載の正極活物質を含む、正極。
【請求項26】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレーターと、電解液とを含み、
前記正極は、請求項25に記載の正極を含む、リチウム硫黄電池。
【請求項27】
硫黄系化合物を含む正極活物質と、導電材としての、請求項1から19のいずれか一項に記載の炭素複合体と、を含む、正極。
【請求項28】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレーターと、電解液とを含み、
前記正極は、請求項27に記載の正極である、リチウム硫黄電池。
【請求項29】
前記リチウム硫黄電池は、E/S比が10μL/mg以下であり、硫黄ローディング量が2mg/cm
2以上である、請求項28に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項30】
前記リチウム硫黄電池は、電気自動車(EV)、ドローン、またはアーバンエアモビリティ(UAM)用である、請求項28に記載のリチウム硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池用正極材及びそれを含むリチウム硫黄電池に関する。
【0002】
本出願は、韓国特許庁への2022年7月28日付け出願の韓国特許出願第2022-0094135号及び2022年11月21日付け出願の韓国特許出願第2022-0156801号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウム硫黄電池は、S-S結合(sulfur-sulfur bond、硫黄-硫黄結合)を有する硫黄系物質を正極活物質として使用し、リチウム金属を負極活物質として使用した電池システムを意味する。前記正極活物質の主材料である硫黄は、世界的に資源量が豊富であり、毒性がなく、しかも、原子当たりの重さが低いという長所がある。
【0004】
二次電池の応用領域が電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵装置(ESS)などに広がることに伴い、重さに対して相対的に低いエネルギー貯蔵密度(~250Wh/kg)を有するリチウム-イオン二次電池に比べて、重さに対して理論上相対的に高いエネルギー貯蔵密度(~2,600Wh/kg)を実現することができることから、リチウム硫黄電池技術が脚光を浴びている。
【0005】
リチウム硫黄電池は、放電時に負極活物質であるリチウムが電子を出してリチウム陽イオンにイオン化されながら酸化され、正極活物質である硫黄系物質が電子を受け入れて還元される。ここで、硫黄系物質の還元反応を利用して前記S-S結合が2つの電子を受け入れて硫黄陰イオンの形態に変換される。リチウムの酸化反応により生成されたリチウム陽イオンは、電解質を介して正極に伝達され、これは、硫黄系化合物の還元反応により生成される硫黄陰イオンと結合して塩を形成する。具体的には、放電前の硫黄は、環状のS8構造を有しているが、これは、還元反応によりリチウムポリスルフィド(Lithium polysulfide、Li2Sx)に変換され、リチウムポリスルフィドが完全に還元されてリチウムスルフィド(Lithium sulfide、Li2S、硫化リチウム)が生成される。
【0006】
このように、正極活物質に使用される硫黄は不導体であるため、電気化学反応によって生成された電子の移動が難しく、充放電過程でポリスルフィド(LiSx)が溶出したり、硫黄やリチウムスルフィドの電気伝導性が低いために電気化学反応の動力学的活性が遅くなり、電池寿命特性や速度特性が低下したりするという問題があった。
【0007】
これに関連して、最近、電気化学的触媒として多く使用されていた白金(Pt)を使用してリチウム硫黄二次電池の充放電過程における硫黄の酸化還元反応の動力学的活性を向上させることで、リチウム硫黄二次電池の高性能化を実現する研究が行われている。しかし、白金などの貴金属触媒は高価で実用化が難しいだけでなく、充放電過程における硫黄の酸化還元反応によって被毒する可能性があるため、リチウム硫黄二次電池の正極材料として活用することが容易ではないという問題がある。
【0008】
そのため、リチウム硫黄二次電池の充放電時の電気化学反応の動力学的活性を向上させることができ、また、コスト面でも実用化に有利な正極材料の技術開発が絶えず求められている。
【0009】
一方、上述したように不導体である硫黄は、多孔性炭素基材などの支持体に担持されて正極に使用されるが、このとき、上述したように電池の酸化還元反応により生成されるリチウムスルフィドが炭素支持体に2D形状のフィルム状に生成される場合、電子とリチウムのイオン伝達特性が著しく低下し、硫黄の活用率も低下するため、むしろリチウム硫黄電池の可逆容量及びエネルギー密度が低くなるという問題がある。
【0010】
そこで、最近、電解液中で溶媒によるソルベーション(solvation;溶媒和)によって生成されるリチウムスルフィドの形状を3D形状に制御するための研究が行われている。ただし、このような研究で使用される溶媒がリチウム金属負極との反応性が高いため、リチウム硫黄電池の実用化は依然として難しいのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、上述の問題を解消し、
リチウムポリスルフィドとの吸着力に優れ、硫黄の酸化/還元反応の動力学的活性を高めるための正極材を提供することである。
【0012】
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、リチウム硫黄電池を駆動する際に、多孔性炭素基材上にリチウムスルフィドを3D形状に生成することができる炭素複合体を提供することである。
【0013】
具体的には、一般的なリチウム硫黄電池に使用されている電解液を利用しつつも、リチウムスルフィドを3D形状に生成することができる炭素複合体、及びこれを用いた高性能のリチウム硫黄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、
本発明の一側面によれば、下記の態様の炭素複合体が提供される。
【0015】
第1の態様による炭素複合体は、
多孔性炭素基材と;前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、遷移金属粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;前記多孔性炭素基材及び前記炭素コーティング層の少なくともいずれか一方にドープされた少なくとも1種の異種元素と;を含み、前記遷移金属粒子が、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含み、前記異種元素が、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上を含む。
【0016】
第2の態様によれば、第1の態様において、
前記炭素コーティング層は、前記コア部の表面全体を被覆し得る。
【0017】
第3の態様によれば、第1または第2の態様において、
前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、40%以下であり得る。
【0018】
第4の態様によれば、第1から第3の態様のいずれか1つの態様において、
前記遷移金属粒子は、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルビジウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、セリウム(Ce)、ガドリウム(Gd)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、及びインジウム(In)のうちから選択される1種以上をさらに含み得る。
【0019】
第5の態様によれば、第1から第4の態様のいずれか1つの態様において、
前記遷移金属粒子は、遷移金属元素100モル%を基準として、コバルト元素の含有量が95モル%であり得る。
【0020】
第6の態様によれば、第1から第5の態様のいずれか1つの態様において、
前記遷移金属粒子は、遷移金属元素100モル%を基準として、コバルト元素の含有量が100モル%であり得る。
【0021】
第7の態様によれば、第1から第6の態様のいずれか1つの態様において、
前記遷移金属粒子は、コバルトナノ粒子であり得る。
【0022】
第8の態様によれば、第1から第7の態様のいずれか1つの態様において、
前記遷移金属複合粒子のコア部は、平均粒径(D50)が1nm~90nmであり得る。
【0023】
第9の態様によれば、第1から第8の態様のいずれか1つの態様において、
前記炭素コーティング層は、厚さが10nm以下であり得る。
【0024】
第10の態様によれば、第1から第9の態様のいずれか1つの態様において、
前記炭素コーティング層は、結晶性炭素を含み得る。
【0025】
第11の態様によれば、第1から第10の態様のいずれか1つの態様において、
前記炭素コーティング層は、1層の単層構造または2層以上の多層構造であり得る。
【0026】
第12の態様によれば、第1から第11の態様のいずれか1つの態様において、
前記炭素コーティング層は、1層の単層構造または2層~5層の多層構造であり得る。
【0027】
第13の態様によれば、第1から第12の態様のいずれか1つの態様において、
前記炭素コーティング層は、前記異種元素として窒素元素を含み、1層の単層構造または2層~4層の多層構造であり得る。
【0028】
第14の態様によれば、第1から第13の態様のいずれか1つの態様において、
前記遷移金属複合粒子は、平均粒径(D50)が2nm~100nmであり得る。
【0029】
第15の態様によれば、第1から第14の態様のいずれか1つの態様において、
前記多孔性炭素基材は、カーボンナノチューブ(carbon nanotube、CNT)、グラフェン(graphene)、酸化グラフェン(graphen oxide、GO)、還元された酸化グラフェン(reduced graphene oxide、rGO)、カーボンブラック、グラファイト(graphite)、グラファイトナノファイバー(graphite nanofiber、GNF)、カーボンナノファイバー(carbon nanofiber、CNF)、活性化炭素繊維(activated carbon fiber、ACF)、活性炭、フラーレン、またはこれらのうちの2種以上を含み得る。
【0030】
第16の態様によれば、第1から第15の態様のいずれか1つの態様において、
前記多孔性炭素基材は、カーボンナノチューブ(CNT)を含み、前記カーボンナノチューブは、絡み合ったカーボンナノチューブ(entangled CNT;交絡カーボンナノチューブ)を含み得る。
【0031】
第17の態様によれば、第1から第16の態様のいずれか1つの態様において、
前記遷移金属複合粒子の含有量は、前記炭素複合体100重量%を基準として15重量%以下であり得る。
【0032】
第18の態様によれば、第1から第17の態様のいずれか1つの態様において、
前記異種元素の含有量は、前記炭素複合体100重量%を基準として10重量%~50重量%であり得る。
【0033】
第19の態様によれば、第1から第18の態様のいずれか1つの態様において、
前記炭素複合体中の前記遷移金属元素間の結合数は、前記遷移金属元素と前記異種元素間の結合数よりも多く、前記元素間の結合は、広域X線吸収微細構造(EXAFS:extended X-ray absorption fine structure)分析により確認され得る。
【0034】
本発明の他の側面によれば、下記の態様の炭素複合体の製造方法が提供される。
【0035】
第20の態様による炭素複合体の製造方法は、
第1から第19の態様のいずれか1つの態様による炭素複合体の製造方法であって、遷移金属含有前駆体、炭素前駆体及び多孔性炭素基材を混合し、熱処理するステップを含み、前記遷移金属含有前駆体が、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含み、前記炭素前駆体が、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上の異種元素を含む。
【0036】
第21の態様によれば、第20の態様において、
前記炭素前駆体は、ドーパミン(dopamine)、ポリドーパミン(polydopamine)、メラミン(melamin)、1,10-フェナントロリン(phenanthroline)、ポリアニリン(polyaniline)、窒化炭素(carbon nitride、g-CN)、グルコース(glucose)、フェニレンジアミン(phenylenediamine)、またはこれらの混合物を含み得る。
【0037】
第22の態様によれば、第20または第21の態様において、
前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体を混合して金属-炭素前駆体複合体(M-C precursor complex)を製造するステップと、前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材を混合して金属-炭素-基材前駆体複合体(M-C-substrate precursor complex)を製造するステップと、前記金属-炭素-基材前駆体複合体を熱処理するステップと、を含み得る。
【0038】
第23の態様によれば、第20から第22の態様のいずれか1つの態様において、
前記熱処理は、600℃~1,000℃の温度で行われ得る。
【0039】
本発明のさらに他の側面によれば、下記の態様の正極活物質、正極及びリチウム硫黄電池が提供される。
【0040】
第24の態様によれば、
第1から第19の態様のいずれか1つの態様による炭素複合体と、硫黄系化合物と、を含む、正極活物質が提供される。
【0041】
第25の態様によれば、
第24の態様による正極活物質を含む、正極が提供される。
【0042】
第26の態様によれば、
正極と;負極と;前記正極と前記負極との間に介在するセパレーター(分離膜)と;電解液と;を含み、前記正極は、第25の態様による正極を含む、リチウム硫黄電池が提供される。
【0043】
第27の態様によれば、
硫黄系化合物を含む正極活物質と、導電材としての、第1から第19の態様のいずれか1つの態様による炭素複合体と、を含む、正極が提供される。
【0044】
第28の態様によれば、
正極と;負極と;前記正極と前記負極との間に介在するセパレーターと;電解液と;を含み、前記正極は、第27の態様による正極である、リチウム硫黄電池が提供される。
【発明の効果】
【0045】
本発明の一態様による炭素複合体は、リチウムポリスルフィド(LiPS、Li2Sx、2≦x≦8)との吸着力に優れた効果がある。また、前記炭素複合体は、硫黄の酸化/還元反応に優れた動力学的活性を提供する効果を有する。
【0046】
特に、前記炭素複合体は、表面に生成されるリチウムスルフィドの形状を3D形状に制御することにより、イオン伝達をスムーズにし、2D形状のリチウムスルフィドの過電圧上昇を抑制することにより、充放電過程における硫黄の酸化/還元反応に優れた動力学的活性を提供する効果を有する。
【0047】
したがって、前記炭素複合体を正極添加剤及び/又は正極活物質を担持する担持体として適用したリチウム硫黄二次電池は、リチウムポリスルフィドの電解液への溶出が抑制され、硫黄の転換率が向上し、このような性能が安定的に維持されることにより、高性能を安定的に実現する効果を有する。
【0048】
さらに、本発明の一態様によるリチウム硫黄電池は、初期容量及び充放電サイクルによる容量維持率及び電池のエネルギー密度の面で優れた効果を有する。
【0049】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい態様を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割のためのものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】リチウム硫黄二次電池の充放電時に正極において本発明の一態様による炭素複合体の表面に生成されるリチウムスルフィドの形状を制御する機能を示す模式図である。
【
図2a】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体の透過型電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscopy)写真である。
【
図2b】本明細書中の実施例3による炭素複合体の異なる倍率でのTEM写真である。
【
図2c】本明細書中の実施例4による炭素複合体のSEM写真である。
【
図3】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体の熱重量分析(TGA:thermogravimetric analysis)結果を示すグラフである。
【
図4】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体のX線光電子分光法(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)分析の結果、窒素元素の1s状態を示すグラフである。
【
図5a】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体のXPS分析の結果、遷移金属元素の状態を示すグラフである。
【
図5b】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体中の遷移金属の結合状態についての広域X線吸収微細構造(EXAFS:extended X-ray absorption fine structure)分析の結果を示すグラフである。
【
図6】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体と比較例1(CNT)とについて、クロノアンペロメトリー(chronoamperometry;時間-電流法)分析を行った結果を示すグラフである。
【
図7】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体と比較例1(CNT)とについて、電流密度0.05Cで最初の放電を行った後の走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscopy)写真である。
【
図8】本明細書中の実施例1、実施例2及び比較例2による炭素複合体と比較例1(CNT)とを用いた電池の性能評価の結果を示すグラフであって、定電流特性評価の結果を示すグラフ(a)、および、最初の充放電サイクルにおける容量-電圧曲線グラフ(b)である。
【
図9】本明細書中の比較例4による炭素複合体を示すTEM画像(a)、および、比較例3及び比較例4の電池の性能評価の結果を示すグラフ(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明について詳しく説明する。しかしながら、本発明は、下記の内容によってのみ限定されるものではなく、必要に応じて、各構成要素が種々に変形されたり選択的に混用されたりすることがある。したがって、本発明の思想及び技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物ないし代替物を含むものと理解されるべきである。
【0052】
この明細書中の全般にわたって、ある構成がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に断りのない限り、ある他の構成要素を除外するわけではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0053】
本明細書の全般にわたって、「A及び/又はB」という記載は、「A又はB又はこれらの両方」を意味する。
【0054】
本明細書で使われた特定の用語は便宜のためのものであり、限定的なものではない。例えば、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」、「内」及び「外」などの位置を表す用語は、絶対的な位置ではなく、構成要素相互間の相対的な位置や方向を説明するために使用されたり、参照される図面における位置や方向を表したりすることができる。前記用語には、それら自体に加えて、それらを含む単語、それらの派生語及び類似の意味を持つ単語が含まれる。
【0055】
本発明の一側面によれば、リチウム硫黄二次電池の正極において電気化学的触媒として使用できる炭素複合体が提供される。
【0056】
図1は、前記炭素複合体の機能の一例を示す模式図である。
【0057】
本発明の一側面による炭素複合体は、炭素複合体の表面と、電解質溶媒分子によって溶媒和(solvate)されたリチウムポリスルフィド(LiPS)との間の吸着強度を調整することにより、炭素複合体の表面に3D形状のリチウムスルフィド(Li2S)を生成させるためのものである。
【0058】
従来、ドナー数(donor number)の高い電解液を設計することで、リチウムスルフィドを3D形状に成長させる研究が報告されてきたが、そのような電解液はリチウム金属と反応しやすいため、リチウム金属表面での不可逆的な分解反応が激しいという問題がある。
【0059】
そこで、本発明の発明者らは、通常の電解質におけるリチウムポリスルフィドの吸着及び転換反応を促進しつつも、リチウムスルフィドを3D形状に成長させることができる正極触媒を提供するための鋭意研究の結果、本発明を完成するに至った。
【0060】
本発明の一側面による炭素複合体は、多孔性炭素基材と;前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、遷移金属粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;前記多孔性炭素基材及び前記炭素コーティング層の少なくともいずれか一方にドープされた少なくとも1種の異種元素と;を含む。前記遷移金属粒子は、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含み、前記異種元素は、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上である。
【0061】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子は、前記多孔性炭素基材の外部表面上に、気孔の内部表面上に、またはそれらの両方に配置され得る。前記気孔の内部表面とは、前記多孔性炭素基材の表面上における前記多孔性炭素基材の気孔の内部を意味し得る。
【0062】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子は、リチウム硫黄電池の正極活物質として、硫黄(S8)、リチウムスルフィド(Li2S)、リチウムポリスルフィド(Li2Sx、2≦x≦8)、ジスルフィド化合物及びこれらのうちの2種以上の混合物などの硫黄系化合物の酸化及び還元反応に対する触媒活性を有する。本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子を触媒と名付けることができるが、前記遷移金属複合粒子の機能はこれに限定されるものではない。
【0063】
前記遷移金属複合粒子は、遷移金属粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む。
【0064】
前記遷移金属複合粒子は、触媒の活性成分としての遷移金属粒子をコア部に含む。具体的には、前記遷移金属複合粒子のコア部は、前記遷移金属粒子のみから構成され得る。
【0065】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子のコア部は、前記遷移金属粒子から遊離した遷移金属元素を単一原子サイズで含んでいてもよく、炭素複合体の触媒活性のために、前記遷移金属複合粒子のコア部は、遷移金属原子間の結合によって形成された遷移金属粒子を含んでいてもよい。
【0066】
前記コア部に含まれる遷移金属粒子は、それ自体が前記硫黄系化合物の酸化及び還元反応に対する触媒活性を有する一方で、生成されるリチウムスルフィドの形状を制御する遷移金属元素を含む。この目的のために、前記遷移金属粒子は、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含む。
【0067】
本発明の一態様によれば、前記遷移金属粒子は、前記コバルト及び鉄に加えて、例えば、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルビジウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、セリウム(Ce)、ガドリウム(Gd)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、及びインジウム(In)のうちから選択される1種以上をさらに含み得る。
【0068】
前記コバルト及び鉄のそれぞれは、硫黄の酸化還元に対する触媒活性を提供することができ、このとき、硫黄の酸化還元によって生成されるリチウムスルフィドに対して適切な結合力を発揮するため、炭素複合体の表面に形成されるリチウムスルフィドの形状を立体形状、すなわち3D形状とすることができる。
【0069】
図6は、本発明の一態様による炭素複合体を用いて電池駆動時に生成されるリチウムスルフィドの形状を予測するためのクロノアンペロメトリー(chronoamperometry)分析の結果を示すグラフを示す。Li
2S粒子が2D形状に成長する場合には、Bewick、Fleischman、and Thirsk(BFT)モデルに従う。一方、3D形状に成長する場合には、Scharifker-Hills(SH)モデルに従う。測定したグラフをフィッティングして分析した
図6を参照すると、SHモデルに適合することから、炭素複合体表面に形成されるリチウムスルフィドの形状が立体形状であることが確認できる。
【0070】
本発明の一態様において、前記クロノアンペロメトリーは、PNE Solution社のPESC05-0.1装置を用いて25℃の恒温チャンバーで実施することができる。
【0071】
したがって、本発明の一態様において、前記コア部に含まれる遷移金属粒子がコバルト及び/又は鉄の元素を含む場合、硫黄の酸化還元により生成されるリチウムスルフィドの形状は、立体形状、すなわち3D形状であり得る。
【0072】
一方、前記遷移金属複合粒子のコア部に、コバルト及び鉄に比べてリチウムスルフィドに対する結合力が強い遷移金属元素から構成される遷移金属粒子が含まれる場合、生成されるリチウムスルフィドに対する結合力が強いため、炭素複合体の表面にリチウムスルフィドがフィルム形状、すなわち2D形状に生成される。この場合、炭素複合体の表面にフィルム状に形成されたリチウムスルフィドによって炭素複合体の触媒活性が低下するという問題を有する可能性がある。
【0073】
例えば、前記遷移金属複合粒子のコア部に含まれる遷移金属粒子がニッケル(Ni)元素のみから構成される場合、遷移金属粒子が鉄及び/又はコバルトの元素のみから構成される場合に比べて、生成されたリチウムスルフィドの形状がより平坦なフィルム状、すなわち2D形状に形成されるという問題がある。
【0074】
本発明の他の態様において、前記コア部に含まれる遷移金属粒子が鉄(Fe)元素のみから構成される場合、コバルト元素のみから構成される場合に比べて、生成された3D形状のリチウムスルフィドのサイズがより大きくなり得る。逆に、コバルト元素のみから構成される場合、生成された3D形状のリチウムスルフィドのサイズがより小さくなり、これにより、生成されたリチウムスルフィドの総表面積が大きくなり、これを用いたリチウム硫黄電池の可逆容量及び寿命安定性が向上する効果を示すことができる。
【0075】
このような観点から、本発明のさらに他の態様において、前記遷移金属粒子は、遷移金属元素100モル%を基準として、コバルト元素の含有量が95モル%以上であり得る。
【0076】
本発明のさらに他の態様において、前記遷移金属粒子は、遷移金属元素100モル%を基準として、コバルト元素の含有量が100モル%であり得る。すなわち、前記遷移金属粒子は、コバルト金属粒子であり得る。具体的には、前記遷移金属粒子は、コバルト金属ナノ粒子であり得る。
【0077】
本発明の一態様において、前記遷移金属粒子は、遷移金属含有前駆体から金属粒子に成長したものであり、例えば、球状、楕円状、シート状、板状、繊維状、針状、または中空状の形状を有し得る。
【0078】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子のコア部は、前記遷移金属粒子100%から構成され得、これにより、前記遷移金属複合粒子のコア部の大きさは、遷移金属粒子の大きさと同じであり得る。
【0079】
本発明の一態様において、前記遷移金属粒子は、例えば、1nm~90nmの平均粒径(D50)を有し得る。具体的には、前記遷移金属粒子の平均粒径(D50)は、1nm~80nm、2nm~50nm、5nm~40nm、5nm~35nm、5nm~30nm、または10nm~20nmであり得る。前記遷移金属粒子の大きさが前記範囲である場合、電子及び/又はイオンの導電率が優れており、これによる電池の性能向上と製造工程の点で有利な効果を奏し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
本明細書において、前記粒子の大きさは、これを測定する公知の方法によって測定できるものであり、その測定方法に特に限定されるものではない。例えば、前記粒子の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)、電界放射型電子顕微鏡(field-emission electron microscopy)またはレーザー回折法(laser diffraction method)によって測定され得る。前記レーザー回折法による測定は、例えば、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(例えばMicrotrac MT 3000)を用いて行われ得る。前記平均粒径(D50)とは、粒径による粒子個数の累積分布の50%となる点での粒径を意味する。
【0081】
前記遷移金属複合粒子は、上記のような遷移金属粒子の表面の少なくとも一部が炭素コーティング層によって被覆された形態を有する。
【0082】
前記炭素コーティング層は、前記遷移金属粒子の大きさを制御し、前記遷移金属複合粒子が担持される前記多孔性炭素基材との結合部位(site)を提供して、多孔性炭素基材に担持され得るように機能し得る。また、前記炭素コーティング層は、コア部の遷移金属粒子の金属相(metallic phase)を安定的に維持できるように機能し得る。例えば、前記炭素コーティング層は、電解液中のリチウムポリスルフィドが前記遷移金属粒子の表面に直接化学結合するのを阻害して、リチウム硫黄電池の駆動時に遷移金属粒子による触媒活性を安定的に維持できるように機能し得る。本発明において、前記炭素コーティング層の機能は、上述した機能に限定されるものではない。
【0083】
本発明の一態様において、前記炭素コーティング層によって被覆されるコア部の面積は、例えば、前記コア部の総面積を基準として、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または99%以上であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明の一態様において、前記炭素コーティング層は、前記コア部の表面全体を被覆し得る。後述するように、前記炭素コーティング層が前記コア部の表面全体に形成されることにより、前記炭素コーティング層による遷移金属複合粒子の活性安定化の点で有利な効果を奏し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0085】
本明細書において、前記炭素コーティング層によって被覆されるコア部の面積は、例えば、TEMによって測定され得る。前記TEMとしては、Tecnai社製のG2 F30 S-Twinを使用できるが、これに限定されるものではない。
【0086】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、40%以下であり得る。例えば、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、30%以下、25%以下、20%以下、または15%以下であり得る。例えば、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、1%以上、5%以上、7.5%以上、または10%以上であり得る。例えば、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、10%~20%、または10%~15%であり得る。前記遷移金属複合粒子の平均粒径に対する前記炭素コーティング層の厚さの比が前記範囲である場合、前記炭素コーティング層による遷移金属複合粒子の活性安定化の点で有利な効果を発揮し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子の表面を被覆する炭素コーティング層は、均一な厚さを有し得る。例えば、前記コア部の表面に形成された炭素コーティング層の任意の10箇所で測定された厚さの標準偏差(△d)は、0.5nm以下であり得る。
【0088】
本発明の一態様において、前記炭素コーティング層は、前記遷移金属複合粒子の表面全体を被覆しており、前記炭素コーティング層は、全面にわたって任意の100箇所で測定された厚さの標準偏差(△d)が0.5nm以下であり得る。
【0089】
本発明の一態様において、前記炭素コーティング層は結晶性炭素を含み得る。例えば、本発明の他の態様において、前記炭素コーティング層は、結晶性炭素から構成され得る。例えば、前記炭素コーティング層は、炭素前駆体の炭化によって形成されるものであって、結晶性炭素のみから構成され得る。
【0090】
本明細書において、前記「結晶性」炭素は、原子寸法レベルで3次元スケールの炭素が存在することを示す。例えば、前記結晶性かどうかは、回折技術、融解熱測定、TEMなどによって確認できる。例えば、結晶性かどうかは、XRDスペクトルにおいて各炭素が少なくとも1つの明瞭なピークを有することで確認できる。
【0091】
図2aを参照すると、本発明の一態様による炭素複合体のTEM写真は、遷移金属複合粒子を含むコア部の表面に形成された炭素コーティング層が結晶性炭素で構成されていることを示している。
【0092】
本発明の一態様において、前記炭素コーティング層は、炭素に加えて、ドーピング元素として少なくとも1種の異種元素を含み得る。具体的には、前記異種元素は、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上を含む。
【0093】
後述するように、前記炭素複合体を製造するために、前記多孔性炭素基材、遷移金属含有前駆体及び炭素前駆体を混合し、次いで熱処理するステップを行い得る。このとき、前記炭素前駆体は、前記窒素、硫黄及び酸素のうちから選択される1種または2種以上の異種元素を含む。これにより、前記炭素前駆体に由来する炭素によって遷移金属粒子の表面に炭素コーティング層が形成され、前記炭素前駆体に由来する異種元素は、前記多孔性炭素基材及び前記炭素コーティング層の少なくともいずれか一方にドープされる。
【0094】
前記炭素コーティング層は、前記遷移金属複合粒子の平均粒径に対して40%以下、具体的には30%以下、25%以下、20%以下、または15%以下、例えば1%以上、2%以上、5%以上、7.5%以上、または10%以上の厚さで被覆できる。例えば、前記遷移金属複合粒子の平均粒径に対して10%~20%または10%~15%の厚さで被覆できる。前記炭素コーティング層は、前記遷移金属粒子の表面を薄い厚さで被覆することにより、遷移金属粒子を多孔性炭素基材に均一な大きさで担持できるようにしつつ、前記遷移金属粒子による触媒活性を良好に発揮できるようにする。例えば、前記炭素コーティング層の厚さが、前記遷移金属複合粒子の全厚さの40%以内になるように形成されることにより、炭素コーティング層の内部に位置する遷移金属粒子と、炭素コーティング層の外部から接近するリチウムポリスルフィドとの間の円滑な相互作用(interaction)を維持することができる。本発明の一態様において、前記炭素コーティング層の厚さを薄くすることにより、遷移金属粒子とリチウムポリスルフィドとの間の相互作用を向上させ、これにより遷移金属粒子による触媒活性の点で有利な効果を発揮することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0095】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子の平均粒径に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、1~40%、1~25%、5~20%、または10~20%であり得る。
【0096】
遷移金属粒子が炭素コーティング層で覆われることなく前記炭素複合体に担持されると、遷移金属粒子の大きさが不均一に形成されるため、触媒の安定性が著しく低下し、そのため、これを用いて電池を駆動した場合に電池の寿命安定性が悪くなるという問題がある。
【0097】
この観点から、本発明の一態様において、前記炭素コーティング層は、前記遷移金属複合粒子のコア部の表面全体を被覆するものであり得る。
【0098】
本発明の一態様において、前記炭素コーティング層は、例えば10nm以下の厚さを有し得る。具体的には、前記炭素コーティング層の厚さは、5nm以下であり得る。本発明の一態様において、前記炭素コーティング層の厚さは、例えば0.5nm以上であり得る。より具体的には、前記炭素コーティング層の厚さは、例えば、1nm~5nm、または0.5nm~2nmであり得る。
【0099】
前記炭素コーティング層の厚さは、例えば、炭素複合体のSEM画像、TEM画像等の顕微鏡観察により測定され得るが、前記炭素コーティング層の厚さの測定方法はこれに限定されるものではない。
【0100】
本明細書において、特に断りのない限り、SEM画像はHitachi(日立製作所)社製のS-4800電界放射型走査電子顕微鏡を用いて得られ、TEM画像はTecnai社製のG2 F30 S-Twinを用いて得られ得る。
【0101】
本発明の一態様において、前記炭素コーティング層は、1層の単層で構成され得る。
【0102】
本発明の他の態様において、前記炭素コーティング層は、2層以上の多層構造で構成され得る。例えば、前記炭素コーティング層は、2層~5層からなる多層構造、2層~4層からなる多層構造、または2層~3層からなる多層構造で構成され得る。前記炭素コーティング層が多層構造で構成される場合、前記炭素複合体の触媒活性の点で有利な効果が期待できるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0103】
本発明の他の態様において、前記炭素コーティング層は、前記遷移金属複合粒子のコア部の表面全体を被覆する2層~3層の多層構造であって、全体の厚さが5nm以下であり、少なくとも1つの窒素元素がドープされた結晶性炭素から構成され得る。
【0104】
上記のような遷移金属粒子を含むコア部と、前記コア部の少なくとも一部の表面を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子は、硫黄の酸化及び還元に対する活性を提供する触媒であって、前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置する。
【0105】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子の形状は、コア部に含まれる遷移金属粒子の形状に対応することができ、例えば、球状、楕円状、シート状、板状、繊維状、針状、または中空状の形状を有し得る。
【0106】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子は、コア部の平均粒径(D50)が、1nm~90nm、より具体的には5nm~40nm、5nm~30nm、5nm~25nm、または10nm~20nmであり得、前記遷移金属複合粒子の平均粒径の40%以下、より具体的には25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下の厚さで前記コア部の表面を被覆する炭素コーティング層を含み得る。
【0107】
本発明の他の態様において、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)は、例えば、2nm~100nm、2nm~90nm、5nm~80nm、5nm~75nm、5nm~60nm、5nm~50nm、5nm~40nm、5nm~30nm、5nm~25nm、5nm~21nm、10nm~21nm、または11nm~21nmであり得る。前記遷移金属複合粒子の大きさが前記範囲である場合、電子及び/又はイオンの導電性が優れており、これによる電池の性能向上の側面と製造工程上有利な効果を示すことができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0108】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材は、前記遷移金属複合粒子の導電性を向上させ、前記遷移金属複合粒子を電極の構成として提供するための担持体の機能を有する。
【0109】
本発明において、前記遷移金属複合粒子は単独でもリチウム硫黄電池の正極に触媒として使用され、リチウムポリスルフィドの還元反応に活性を付与することができる。しかし、本発明によれば、上記のような遷移金属複合粒子は、前記多孔性炭素基材の外部表面及び/又は気孔の内部表面に位置することにより、リチウムポリスルフィドの吸着及び硫黄の酸化/還元反応の活性化をさらに向上させることができるという効果を発揮することができる。
【0110】
前記多孔性炭素基材は、多数の微細気孔(pore)を含む材料であり、前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に前記遷移金属複合粒子を担持する。
【0111】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材は、炭素に加えて、ドーピング元素として少なくとも1種の異種元素を含み得る。具体的には、前記異種元素は、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上を含み得る。
【0112】
具体的には、本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材及び/又は炭素コーティング層に存在する少なくとも1つの炭素原子は、前記異種元素によって置換された構造を有し得る。
【0113】
本発明の他の態様において、前記多孔性炭素基材及び前記遷移金属複合粒子内の炭素コーティング層の両方が、炭素に加えて、ドーピング元素として少なくとも1種の異種元素を含む場合、後述するように、前記異種元素は、同一の前駆体に由来する可能性があるため、互いに同一の元素を含み得る。
【0114】
本発明の他の態様において、前記多孔性炭素基材及び前記炭素コーティング層に含まれる異種元素は、互いに独立して、窒素、硫黄及び酸素のうちから選択される1種または2種以上の元素を含み得る。具体的には、前記多孔性炭素基材にドープされた異種元素は、前記炭素コーティング層に含まれる異種元素とは異なる前駆体に由来するものであり得る。例えば、前記多孔性炭素基材は、前記遷移金属複合粒子との結合力を向上させたり、電解液中のリチウムポリスルフィドとの結合力を向上させたりするために、窒素、硫黄及び酸素のうちから選択される1種または2種以上の元素を含む前駆体を用いて前記多孔性炭素基材をドープした後、前記遷移金属粒子と混合して炭素複合体を形成することもできる。
【0115】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子は、前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方の位置に化学的及び/又は物理的に結合され得る。
【0116】
本発明の一態様において、前記遷移金属複合粒子は、前記多孔性炭素基材の外部表面及び/又は気孔の内部表面に物理的に吸着され得る。あるいは、前記遷移金属複合粒子に存在する元素及び前記多孔性炭素基材の炭素間のC-C共有結合及び/又はpi-pi相互作用により、前記遷移金属複合粒子は、前記多孔性炭素基材の外部表面及び/又は気孔の内部表面に化学的に結合され得る。また、前記遷移金属複合粒子と前記多孔性炭素基材との間には、前述の物理的吸着及び化学的結合が同時に存在することもできる。
【0117】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材は、外部表面及び内部に多数の微細気孔を含む。前記微細気孔の平均直径(D50)は、例えば5nm~100nm、具体的には5nm~80nm、5nm~60nm、または5nm~50nmであり得る。前記微細気孔の平均直径(D50)は、気孔の大きさによる気孔の大きさの分布における50%となる点での気孔の直径を示す。前記気孔直径は、例えば、多孔性炭素基材の表面に垂直な方向の気孔の直径をTEM分析することにより測定することができるが、測定方法はこれに限定されるものではない。
【0118】
前記多孔性炭素基材は、上記のように多数の微細気孔を含み、前記遷移金属複合粒子を担持できるものであれば、その素材が、特に限定されるものではない。
【0119】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材の材料(素材)は、例えば、カーボンナノチューブ(carbon nanotube、CNT)、グラフェン(graphene)、酸化グラフェン(graphen oxide、GO)、還元された酸化グラフェン(reduced graphene oxide、rGO)、カーボンブラック、グラファイトナノファイバー(graphite nanofiber、GNF)、カーボンナノファイバー(carbon nanofiber、CNF)、活性化炭素繊維(activated carbon fiber、ACF)、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、活性炭、フラーレン、またはこれらのうちの2種以上を含み得る。
【0120】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材が材料としてカーボンナノチューブを含む場合、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、またはこれらの両方を含み得る。
【0121】
本発明の他の態様において、前記多孔性炭素基材が材料としてカーボンナノチューブを含む場合、前記カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを1次構造として、前記複数の1次構造が凝集して2次構造体として形成された絡み合ったカーボンナノチューブ(entangled CNT;交絡カーボンナノチューブ)を含み得る。
【0122】
本発明の一態様によれば、前記絡み合ったカーボンナノチューブは、1次構造のカーボンナノチューブが絡み合って形成されるインタースティシャルボリューム(interstitial volume;間隙容積)によって、前記1次構造のカーボンナノチューブに比べて気孔率(porosity)が向上した特徴を有し得る。
【0123】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材の大きさは、例えば10μm~100μm、具体的には20μm~50μmであり得るが、これに限定されるものではない。前記多孔性炭素基材の大きさが前記範囲である場合、電極活物質層形成用スラリーの製造において、固形分調整及び電極物性、例えば、接着力及び電池性能(出力及び容量など)の面で有利な効果を発揮することができる。
【0124】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材の気孔容積(pore volume)は、例えば、1cm3/g~5cm3/g、具体的には1cm3/g~4cm3/gであり得る。前記気孔容積は、例えば、液体窒素の吸着に基づいて得られるN2等温線(isotherm)分析によって計算、測定された値であり得る。
【0125】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材のBET比表面積は、例えば、150m2/g~2,000m2/g、具体的には250m2/g~700m2/gであり得るが、これに限定されるものではない。
【0126】
前記BET比表面積は、BET法によって測定したものであり、BET比表面積を測定するための公知の方法に従って測定された値を示し得る。例えば、前記BET比表面積は、BEL Japan社製のBELSORP-mini IIを用いて液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出された値であり得る。
【0127】
上記のように、本発明の一側面によれば、前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に前記遷移金属複合粒子を含む炭素複合体が提供される。
【0128】
本発明の一態様において、前記炭素複合体は、例えば10μm~100μm、具体的には20μm~50μmの平均粒径(D50)を有し得る。また、前記炭素複合体は、例えば0.5cm3/g~4cm3/g、具体的には1cm3/g~3cm3/gの気孔容積を有し得る。また、前記炭素複合体は、例えば150m2/g~500m2/g、具体的には250m2/g~300m2/gのBET比表面積を有し得る。
【0129】
本発明の一態様において、前記炭素複合体全体100重量%を基準として、前記遷移金属複合粒子の含有量は、例えば15重量%以下であり得る。具体的には、前記遷移金属複合粒子の含有量は、5重量%~15重量%であり得る。前記遷移金属複合粒子の含有量が前記範囲である場合、触媒活性を示す位置を十分に確保しつつ、電極内の電子及び/又はイオン伝導度(導電率)の点で有利な効果を発揮することができる。したがって、これを利用した電池の性能向上の点で優れた効果を発揮し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0130】
本発明の他の態様において、前記炭素複合体中の前記多孔性炭素基材と前記遷移金属複合粒子の重量比は、例えば95:5~70:30であり得る。具体的には、前記多孔性炭素基材と前記遷移金属複合粒子の重量比は、90:10~80:20、または95:5~85:15であり得る。前記多孔性炭素基材と前記遷移金属複合粒子の重量比が前記範囲である場合、触媒活性を示す位置を十分に確保しつつ、遷移金属複合粒子間の凝集現象を改善して抵抗特性を向上させる効果を発揮することができる。したがって、これを用いた電池の性能向上の点で優れた効果を発揮し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0131】
本発明の一態様において、前記炭素複合体は、前記多孔性炭素基材及び前記炭素コーティング層の少なくともいずれか一方に異種元素を含む。本発明の一態様において、前記炭素複合体100重量%を基準として、前記異種元素の含有量は、例えば、0.1重量%以上または0.5重量%以上であり得る。また、前記炭素複合体100重量%を基準として、前記異種元素の含有量は、例えば、20重量%以下または10重量%以下であり得るが、これに限定されるものではない。具体的には、前記炭素複合体全体100重量%を基準として、前記異種元素の含有量は、例えば0.1重量%~20重量%、具体的には0.5重量%~10重量%であり得る。前記異種元素の含有量が前記範囲である場合、遷移金属の触媒活性を促進しつつ、リチウムポリスルフィドを吸着する点で有利な効果を発揮することができる。
【0132】
本発明の一態様において、上記のように、前記遷移金属複合粒子のコア部は、遷移金属原子間の結合により形成された遷移金属粒子を含む。
【0133】
本発明の他の態様において、前記炭素複合体は、前記炭素複合体の触媒活性を阻害しない範囲で、前記遷移金属粒子から遊離した遷移金属元素を単原子状態でさらに含むこともできる。
【0134】
前記炭素複合体内に前記遷移金属原子が含まれる形態は、例えば、広域X線吸収微細構造(EXAFS:extended X-ray absorption fine structure)分析により確認され得る。具体的には、前記炭素複合体内において前記遷移金属粒子中の遷移金属原子が金属結合しておらず、単一原子状態で含まれている場合、EXAFS分析の結果から、前記遷移金属元素と前記異種元素間との結合が確認される。一方、2つ以上の遷移金属原子が互いに金属結合して金属粒子状態で含まれている場合、EXAFS分析の結果から、前記遷移金属元素間の結合が確認される。
【0135】
本発明の一態様において、前記炭素複合体中の元素間の結合がEXAFS分析によって確認される場合、前記炭素複合体は、前記遷移金属元素と前記異種元素との間の結合数よりも多い数の前記遷移金属元素間の結合を含み得る。
【0136】
本発明の他の態様において、前記炭素複合体中の元素間の結合がEXAFS分析によって確認される場合、前記遷移金属元素間の結合を示すピーク強度は、前記遷移金属元素と異種元素との間の結合を示すピーク強度よりも、例えば10倍以上、具体的には20倍以上、より具体的には50倍以上を示し得る。
【0137】
以上のような本発明の炭素複合体は、リチウムポリスルフィドとの結合部位を提供し、硫黄の酸化還元反応に対する触媒活性を示しながら、表面に生成されるリチウムスルフィドを立体形状に生成することにより、これを用いたリチウム硫黄電池の寿命特性を向上させる効果を奏し得るが、本発明のメカニズムはこれに限定されるものではない。
【0138】
本発明の一態様によれば、前記炭素複合体は、正極活物質である硫黄系化合物を担持する担持体であって、前記硫黄系化合物とさらに複合化されて正極活物質として使用されたり、または、前記炭素複合体自体が正極の添加剤として使用されたりすることができる。
【0139】
本発明の一態様によれば、前記炭素複合体は、リチウム硫黄電池のセパレーターの添加剤として使用され得る。
【0140】
本発明の他の側面は、上術した炭素複合体の製造方法を提供する。
【0141】
本発明の他の側面による炭素複合体の製造方法は、遷移金属含有前駆体、炭素前駆体及び多孔性炭素基材を混合し、熱処理するステップを含む。具体的には、前記遷移金属含有前駆体は、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含み、前記炭素前駆体は、窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)のうちから選択される1種または2種以上の異種元素を含む。
【0142】
まず、前記遷移金属含有前駆体は、前記遷移金属複合粒子のコア部に含まれる遷移金属粒子を形成するための前駆体として、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の少なくとも一方を含む。
【0143】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体は、前記遷移金属元素を含有する金属塩(metal salt)、金属アセチルアセトネート(metal acetyl acetonate)、金属水酸化物(metal hydroxide)、金属塩化物(metal chloride)、金属酸化物(metal oxide)、金属塩化水和物(metal chloride hydrate)、またはこれらのうちの2種以上を含み得る。
【0144】
本発明の他の態様において、前記遷移金属含有前駆体は、前記遷移金属元素を含む金属塩のみを含み得る。前記遷移金属含有前駆体として前記金属塩のみを含むことにより、遷移金属複合粒子の製造方法を簡素化することができるとともに、製造される遷移金属複合粒子のサイズ制御が容易であり、触媒活性を向上させる点で有利な効果を奏し得る。
【0145】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体は、コバルト金属塩として、例えば、コバルトアセチルアセトネート(cobalt acetyl acetonate)、コバルト水酸化物(cobalt hydroxide)、コバルト塩化物(cobalt chloride)、コバルト酸化物(cobalt oxide)、コバルト塩化水和物(cobalt chloride hydrate)、またはこれらのうちの2種以上を含み得る。
【0146】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体は、コバルト金属塩として塩化コバルト六水和物(cobalt chloride hexahydrate)を含み得る。
【0147】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体は、鉄金属塩として、例えば、鉄アセチルアセトネート(iron acetyl acetonate)、鉄水酸化物(iron hydroxide)、鉄塩化物(iron chloride)、鉄酸化物(iron oxide)、鉄塩化水和物(iron chloride hydrate)、またはこれらのうちの2種以上を含み得る。
【0148】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体は、鉄金属塩として塩化鉄六水和物(iron chloride hexahydrate)を含み得る。
【0149】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体は、コバルト及び/又は鉄を提供する前駆体に加えて、他の遷移金属元素を含む前駆体をさらに含み得る。このとき、さらに含まれ得る遷移金属元素は、例えば、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルビジウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、セリウム(Ce)、ガドリウム(Gd)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、及びインジウム(In)のうちから選択される1種以上である。
【0150】
本発明の他の態様において、前記遷移金属含有前駆体は、ニッケル金属塩として、例えば、ニッケルアセチルアセトネート(nickel acetyl acetonate)、ニッケル水酸化物(nickel hydroxide)、ニッケル塩化物(nickel chloride)、ニッケル酸化物(nickel oxide)、ニッケル塩化水和物(nickel chloride hydrate)、またはこれらのうちの2種以上をさらに含み得る。
【0151】
本発明の一態様において、前記炭素前駆体は、前記遷移金属粒子の表面の少なくとも一部を被覆するための炭素コーティング層を形成するための前駆体である。
【0152】
本発明において、前記炭素前駆体は、窒素、硫黄及び酸素のうちから選択される少なくとも1種の異種元素を含むことにより、前記炭素コーティング層及び前記多孔性炭素基材の少なくともいずれか一方に異種元素をドープするための前駆体として機能し得る。
【0153】
本発明の一態様において、前記炭素前駆体は、炭素に加えて、上記のように、窒素、硫黄及び酸素のうちから選択される1種以上の異種元素を含み、前記炭素前駆体は、炭化して結晶性炭素コーティング層を提供できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0154】
前記炭素前駆体は、例えば、炭素及び窒素元素を含むものであり、ドーパミン(dopamine)、ポリドーパミン(polydopamine)、メラミン(melamin)、1,10-フェナントロリン(phenanthroline)、ポリアニリン(polyaniline)、窒化炭素(carbon nitride、g-CN)、グルコース(glucose)、フェニレンジアミン(phenylenediamine)、またはこれらの混合物を含み得る。
【0155】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素基材については上述の説明を援用することとする。
【0156】
前記炭素複合体の製造方法は、前記遷移金属含有前駆体、前記炭素前駆体及び前記多孔性炭素基材を混合し、熱処理するステップを含む。
【0157】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体と前記炭素前駆体との重量比は、例えば1:0.5~1:5、具体的には1:0.5~1:2、より具体的には1:0.5~1:1であり得る。
【0158】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体と前記多孔性炭素基材との重量比は、例えば1:1~1:10、具体的には1:3~1:8、より具体的には1:3~1:7であり得る。
【0159】
本発明の一態様において、前記炭素前駆体と前記多孔性炭素基材との重量比は、例えば0.5:10~5:1、具体的には0.5:8~2:3、より具体的には0.5:7~1:3であり得る。
【0160】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体と前記炭素前駆体と前記多孔性炭素基材との重量比は、例えば1:0.5~5:1~10、具体的には1:0.5~2:3~8、より具体的には1:0.5~1:3~7であり得る。前記遷移金属含有前駆体と前記炭素前駆体と前記多孔性炭素基材との重量比が前記範囲である場合、製造される炭素複合体の性能の面で有利な効果を発揮し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0161】
本発明の一態様において、前記炭素複合体の製造方法は、前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体を先に混合し、次いで、前記多孔性炭素基材を混合し、熱処理するステップを含み得る。前記炭素複合体の製造のために、前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体を先に混合し、次いで前記多孔性炭素基材を混合する場合、炭素コーティング層の厚さの均一性及び前記遷移金属複合粒子の大きさの均一性の点で有利な効果を有し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0162】
本発明の一態様によれば、前記炭素複合体の製造方法は、
(S1)前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体を混合して、金属-炭素前駆体複合体(M-C precursor complex)を製造するステップと、
(S2)前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材を混合して、金属-炭素-基材前駆体複合体(M-C-substrate precursor complex)を製造するステップと、
(S3)前記金属-炭素-基材前駆体複合体を熱処理するステップと、を含み得る。
【0163】
前記ステップ(S1)は、前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体を混合すると、前記遷移金属含有前駆体から遷移金属粒子が形成され、その表面に炭素前駆体が物理的及び/又は化学的結合により結合された金属-炭素前駆体複合体(M-C precursor complex)を製造するためのものである。
【0164】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体の混合は、適切な溶媒中で行うことができ、攪拌を伴うことができる。このとき、前記遷移金属含有前駆体が遷移金属元素を含有する金属塩である場合、前記溶媒は水であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0165】
本発明の一態様において、前記ステップ(S1)における前記混合は、室温、例えば23℃~25℃で行われ得る。
【0166】
本発明の一態様において、前記ステップ(S1)の混合時に攪拌を行う場合、前記攪拌は、例えば200rpm~250rpm、具体的には220rpm~240rpmの条件で行われ得る。前記攪拌を上述した条件で行うとき、生成される遷移金属粒子の大きさの均一性の点で有利な効果を奏し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0167】
本発明の一態様において、前記ステップ(S1)では、前記遷移金属含有前駆体及び前記炭素前駆体が混合された溶液中の固形分の含有量は、例えば10重量%~50重量%であり得る。
【0168】
本発明の一態様において、前記遷移金属含有前駆体と前記炭素前駆体とは、例えば1:2~2:1のモル比、具体的には1:1のモル比で混合され得る。前記遷移金属含有前駆体と前記炭素前駆体とのモル比が前記範囲である場合、製造される遷移金属複合粒子の表面における炭素コーティング層の厚さ及び大きさの均一性の点で有利な効果を発揮し得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0169】
前記ステップ(S2)は、上記で製造された金属-炭素前駆体複合体は、前記多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方の位置に担持された金属-炭素-基材前駆体複合体(M-C-substrate precursor complex)を製造するためのものである。
【0170】
本発明の一態様において、上記で製造された金属-炭素前駆体複合体は、ステップ(S1)で用いられた溶媒、例えば水に分散した形態で存在してもよく、前記金属-炭素前駆体複合体が分散した分散液に前記多孔性炭素基材を添加することにより、前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材が分散した分散液を製造してもよい。
【0171】
本発明の一態様において、前記金属-炭素-基材前駆体複合体の製造のために、前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材が分散している分散液のpHは、例えば8~9であり得る。
【0172】
本発明の他の態様において、前記ステップ(S2)は、前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材の混合物、例えば、前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材が分散した分散液の酸性度を調整するために、pH調整剤を添加するステップをさらに含み得る。
【0173】
前記pH調整剤は、製造された分散液のpHに応じて、塩基性化合物または酸性化合物であり得る。
【0174】
本発明の一態様において、前記pH調整剤は、塩基性化合物を含み得、前記塩基性化合物は、例えばアミン系化合物であり得る。前記アミン系化合物は、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane、TRIS)を含み得る。
【0175】
本発明の他の態様において、前記pH調整剤は、酸性化合物を含み得、前記酸性化合物は、例えば有機カルボン酸であり得る。前記有機カルボン酸は、例えば、ギ酸(formic acid)、酢酸(acetic acid)、プロピオン酸(propionic acid)、酪酸(butyric acid)、ピバル酸(pivalic acid)、シュウ酸(oxalic acid)、マロン酸(malonic acid)、コハク酸(succinic acid)、グルタル酸(glutaric acid)、アジピン酸(adipic acid)、アクリル酸(acrylic acid)、安息香酸(benzoic acid)、フタル酸(phtalic acid)、またはこれらのうちの2種以上を含み得る。
【0176】
本発明の一態様において、前記pH調整剤を添加するステップをさらに含む場合、前記pH調整剤は、前記ステップ(S1)で使用される遷移金属含有前駆体100重量部に対して100~800重量部、例えば200~700重量部または300~600重量部、具体的には300重量部~400重量部または300重量部~350重量部の量で添加され得るが、これに限定されない。
【0177】
本発明の一態様において、前記ステップ(S2)では、攪拌を伴うことができる。前記攪拌は、例えば室温で行われ得、12時間~48時間、具体的には20時間~30時間、例えば24時間行われ得る。
【0178】
本発明の一態様において、前記ステップ(S2)は、前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材を混合した後、濾過及び洗浄するステップをさらに含み得る。
【0179】
本発明の一態様において、前記洗浄は、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合溶媒を用いて行われ得る。本発明の一態様において、前記洗浄は、水で1~3回行われた後、エタノールなどのアルコール系有機溶媒を用いて1回行われるような方法で行われ得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の一態様において、前記ステップ(S2)は、前記金属-炭素前駆体複合体及び前記多孔性炭素基材を混合した後、濾過、洗浄、及び乾燥するステップをさらに含み得る。
【0180】
本発明の一態様において、前記乾燥は、例えば真空中で行われ得、50℃~70℃、具体的には60℃の条件で行われ得る。
【0181】
前記ステップ(S3)は、上記で製造された金属-炭素-基材前駆体複合体を熱処理することにより、多孔性炭素基材の外部表面及び気孔の内部表面のうち少なくとも一方に遷移金属粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層とを含む遷移金属複合粒子が担持された炭素複合体を製造するためのものである。前記熱処理により、前記炭素前駆体に含まれる異種元素が、前記多孔性炭素基材及び前記炭素コーティング層の少なくともいずれか一方にドープされ得る。
【0182】
本発明の一態様において、前記熱処理は、例えば600℃~1,000℃で行われ得る。具体的には、750℃~850℃、例えば800℃の温度で行われ得る。
【0183】
本発明の一態様において、前記熱処理は、0.5℃/分~2℃/分の範囲から選択される速度を一定に保ちながら昇温することを伴うことができる。
【0184】
本発明の一態様において、前記熱処理は、1℃/分の速度で昇温しながら行われ得る。
【0185】
以上のような方法によれば、上述した炭素複合体を製造することができる。
【0186】
本発明のさらに他の側面によれば、上述した炭素複合体及び硫黄系化合物を含む正極活物質、及びこれを含む正極が提供される。
【0187】
前記正極は、上述した炭素複合体を正極活物質の担持体として使用し、これを、正極活物質である硫黄系化合物と混合して形成された複合体を正極活物質として含み得る。
【0188】
本発明の一態様において、前記硫黄系化合物としては、例えば、硫黄(S8)、リチウムスルフィド(Li2S)、リチウムポリスルフィド(Li2Sx、2≦x≦8)、ジスルフィド化合物、またはこれらのうちの2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0189】
本発明の一態様において、前記炭素複合体と硫黄系化合物とは、例えば1:9~9:1の含有比で混合され得る。具体的には、1:9~5:5、より具体的には2:8~4:6の含有比で混合され得る。
【0190】
本発明の一態様において、前記正極活物質は、前記炭素複合体と硫黄系化合物とを混合した後、熱処理して形成され得る。前記熱処理は、例えば130℃~200℃、具体的には130℃~180℃または150℃~160℃の温度で行われ得る。
【0191】
本発明の一態様において、前記リチウム硫黄電池用正極は、炭素複合体及び硫黄系化合物を含む正極活物質に加えて、バインダーをさらに含み得る。前記バインダーは、リチウム硫黄電池の正極に使用可能なバインダーであれば特に限定されるものではない。
【0192】
本発明の一態様において、前記バインダーは、例えば、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)を含み得、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散したPVDFを含み得る。+
本発明の他の態様において、前記バインダーは、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)などの水系バインダーを含み得、具体的には、水などの水系溶媒に分散した水系バインダーを含み得る。
【0193】
本発明の他の態様において、前記リチウム硫黄電池用正極は、前記正極活物質及びバインダーに加えて、導電材、添加剤などをさらに含み得る。このとき、前記バインダー、導電材、及び添加剤の具体的な種類については、通常のものが利用可能であるため、説明を省略する。
【0194】
本発明のさらに他の態様において、前記リチウム硫黄電池用正極は、正極集電体を含み、前記正極活物質がバインダーと共に前記集電体の片面または両面に塗布された正極活物質層を含み得る。
【0195】
このとき、前記正極集電体は、当該電池に化学的変化を引き起こすことなく高い導電性を有するものであれば特に限定されない。
【0196】
本発明の一態様において、前記炭素複合体を含む正極は、初期容量、サイクル安定性の点で優れた効果を発揮し得るが、本発明の効果はこれに限定されるものではない。
【0197】
本発明の一態様において、前記リチウム硫黄電池用正極は、例えば2mg/cm2以上、具体的には2.0mg/cm2~2.5mg/cm2の硫黄(S)ローディング量を有し得る。
【0198】
本発明のさらに他の側面によるリチウム硫黄電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレーターと、電解液とを含み、前記正極は、正極活物質として上述した炭素複合体と、硫黄系化合物とを含む。
【0199】
本発明の一態様において、前記負極及びセパレーターは、本発明の目的を阻害しない範囲内でリチウム硫黄電池に使用できるものであれば、特に限定されることはない。
【0200】
本発明の一態様において、前記負極としては、例えばリチウム金属を使用できる。
【0201】
本発明の一態様において、前記セパレーターは、リチウム硫黄電池のセパレーターとして通常使用可能なものであれば、特に限定されることはない。
【0202】
本発明の一態様において、前記セパレーターは、多孔性ポリオレフィン基材を含み得、必要に応じて、前記多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも片面に無機物粒子をさらに含み得る。また、前記セパレーターは、必要に応じて、前記無機物粒子を結着するバインダーをさらに含み得る。
【0203】
本発明の他の態様において、前記セパレーターは、固体電解質を含むフィルム状の電解質膜であり得、必要に応じて前記固体電解質を結着するバインダーをさらに含み得る。前記固体電解質は、高分子系固体電解質、無機物系固体電解質、またはこれらの混合組成物など、リチウム硫黄電池に通常使用可能なものであれば、特に限定されることはない。
【0204】
本発明の一態様において、前記電解液は、リチウム硫黄電池に通常使用できるものを含む。前記電解液は、リチウム塩及び非水系溶媒を含み得る。
【0205】
前記リチウム塩は、リチウム硫黄電池の電解液に通常使用可能なものであれば、特に限定されることはない。前記リチウム塩は、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiC4BO8、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi、(SO2F)2NLi、(CF3SO2)3CLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミド、またはこれらのうちの2種以上を含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0206】
前記非水系溶媒は、リチウム硫黄電池の電解液に通常使用可能なものであれば、特に限定されることはない。前記非水系溶媒は、例えば、環状カーボネート溶媒、線状カーボネート溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、またはこれらのうちの2種以上の混合溶媒を含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0207】
本発明の一態様において、前記電解液は、リチウム塩としての(CF3SO2)2NLiを含み、非水系溶媒としてのジオキソラン(DOL)/ジメトキシエタン(DME)の2成分系を含み得る。例えば、前記電解液は、LiNO3などの通常の添加剤をさらに含み得る。
【0208】
本発明の一態様において、前記リチウム硫黄電池の外形には、例えば、コイン型、円筒型、パウチ型または角型などが挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。また、前記リチウム硫黄電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用できるだけでなく、複数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池として使用でき、その使用形態は特に限定されない。
【0209】
本発明の一態様において、前記炭素複合体を含む正極を用いたリチウム硫黄電池は、硫黄の酸化還元反応に対する動力学的活性に優れており、かつ、電池の初期容量及びサイクル安定性の面でも優れた効果を発揮し得るが、本発明の効果はこれに限定されるものではない。
【0210】
本発明の一態様において、前記リチウム硫黄電池は、電極中の硫黄のローディング量を高めることにより、エネルギー密度が向上する効果を奏し得るが、本発明の効果はこれに限定されるものではない。
【0211】
本発明の一態様において、前記リチウム硫黄電池は、例えば10μL/mg以下の電解質/硫黄(E/S)比を有し得る。従来は、正極の活性が低いためにE/S比を下げることに限界があったが、本発明は、E/S比を安定的に下げることができるという効果があるため、前記リチウム硫黄電池のE/S比は、前記範囲よりも大きな値を有してもよく、その下限が限定されないことは当業者にとって自明であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0212】
本発明のさらに他の態様によれば、硫黄系化合物を含む正極活物質、上述の炭素複合体を正極添加剤として含む正極、及びこれを含むリチウム硫黄電池が提供される。
【0213】
本発明の一態様において、前記炭素複合体を担持体として硫黄系化合物と複合化して形成された正極活物質の形態で前記炭素複合体を正極に含める本発明の一側面とは別に、前記炭素複合体を正極活物質とは別に添加剤として含めることができる。
【0214】
本発明の一態様において、前記炭素複合体を正極添加剤として使用すると、電池の容量を向上させることができるだけでなく、リチウムポリスルフィドとの反応性が向上するため、電池の性能を向上させることができるという効果が期待できる。
【0215】
本発明の一態様において、前記炭素複合体を正極添加剤として使用する場合、前記炭素複合体は、正極活物質層に含まれる正極活物質、バインダー及び炭素複合体の総重量を基準として1~25重量%、例えば1~15重量%または1~10重量%の含有量で含まれ得るが、これに限定されるものではない。
【0216】
本発明の一態様において、前記正極には、正極活物質として硫黄系化合物、または通常の炭素担持体に前記硫黄系化合物を担持したものが使用できる。前記硫黄系化合物については、本発明の上述の側面による正極の構成を援用するものとする。また、前記通常の炭素担持体は、例えば、上述した多孔性炭素基材そのものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0217】
本発明の一側面によるリチウム硫黄電池は、例えば、電気自動車(electric vehicle、EV)、ドローン(drone)、またはアーバンエアモビリティ(urban air mobility、UAM;都市型エアモビリティ)に使用することができるが、本発明の用途はこれに限定されない。
【0218】
以下、本発明の一態様による炭素複合体の製造方法及び炭素複合体を用いた正極活物質の製造方法について、実施例を挙げて詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範疇がこれらに限定されるものではない。
【0219】
[炭素複合体の製造]
以下の表1の組成を用い、以下の方法に従って実施例1~4及び比較例1~4による炭素複合体を用意した。
【0220】
【0221】
実施例1(FeC@CNT)
まず、表1の組成のように、500mLの蒸留水に、塩化鉄水和物(FeCl2・6H2O、99%、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社製)とドーパミン塩酸塩(98wt%、シグマアルドリッチ社製)とを1:1のモル比で投入し、230rpmで30分間、室温(23℃)で攪拌することにより、鉄-炭素前駆体複合体(Fe-C precursor complex)を製造した。
【0222】
これに定量の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(BET比表面積275m/g、Carbon Nano-material Technology Co.,LTD)を投入し、室温で30分間攪拌して分散液を製造した。次に、製造された分散液に定量のTrizma base(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、TRIS)を投入してpH8.5を維持した。得られた分散液を室温で24時間攪拌した後、ろ過し、蒸留水で3回、続いてエタノールで1回洗浄した後、60℃で乾燥して鉄-炭素-CNT前駆体複合体(Fe-C-CNT precursor complex)を製造した。
【0223】
製造された鉄-炭素-CNT前駆体複合体をアルゴン雰囲気下の管状電気炉に入れ、800℃で2時間熱処理(昇温速度1℃/分)して、炭素複合体(D50 35μm)を得た。前記得られた炭素複合体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる多孔性炭素基材と;前記MWCNTの外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、鉄粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;ドープされた窒素元素と;を含んでいた。このとき、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、15%であった。
【0224】
実施例2(CoC@CNT)
金属塩としてFeCl2・6H2Oの代わりにCoCl2・6H2O(99%、シグマアルドリッチ社製)を用い、表1の組成に従って、実施例1の方法と同様にして炭素複合体(D50 35μm)を得た。前記得られた炭素複合体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる多孔性炭素基材と;前記MWCNTの外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、コバルト粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;ドープされた窒素元素と;を含んでいた。このとき、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、15%であった。
【0225】
実施例3(CoC@CNT、ワンポット法)
以下の方法により、表1の組成のように、遷移金属含有前駆体、炭素前駆体及び多孔性炭素基材を同時に混合し、熱処理することにより、炭素複合体を製造した。
【0226】
まず、500mLの蒸留水に、定量の塩化コバルト水和物(CoCl2・6H2O)、ドーパミン塩酸塩(98wt%)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(BET比表面積275m2/g)及びTrizma base(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、TRIS、TRIS)を投入し、室温(23℃)で24時間230rpmにて攪拌した後、ろ過し、蒸留水で3回、続いてエタノールで1回洗浄した後、60℃で乾燥してコバルト-炭素-CNT前駆体複合体(Co-C-CNT precursor complex)を製造した。
【0227】
製造されたコバルト-炭素-CNT前駆体複合体をアルゴン雰囲気下の管状電気炉に入れ、800℃で2時間熱処理(昇温速度1℃/分)して、炭素複合体を得た。前記得られた炭素複合体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる多孔性炭素基材と;前記MWCNTの外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、コバルト粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;ドープされた窒素元素と;を含んでいた。このとき、前記遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、100%(1:1)であった。
【0228】
実施例4(CoC@CNT、炭素前駆体としてグルコースを使用)
炭素前駆体としてドーパミン塩酸塩(98wt%)の代わりにグルコースを用いた以外は、実施例2の方法と同様にして炭素複合体を得た。前記得られた炭素複合体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる多孔性炭素基材と;前記MWCNTの外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、コバルト粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;ドープされた酸素元素と;を含んでいた。このとき、炭素コーティング層は、遷移金属複合粒子の表面の一部のみに形成されており、形成された炭素コーティング層の厚さは、遷移金属複合粒子の平均粒径(D50)に対して100%(1:1)であった。
【0229】
比較例1
遷移金属複合粒子を担持せずに、炭素複合体として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(BET比表面積275m2/g)を製造した。
【0230】
比較例2
金属塩としてFeCl2・6H2Oの代わりにNiCl3・6H2Oを用い、表1の組成に従って、実施例1の方法と同様にして炭素複合体(D50 35μm)を得た。前記得られた炭素複合体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる多孔性炭素基材と;前記MWCNTの外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、ニッケル粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;ドープされた窒素元素と;を含んでいた。このとき、前記遷移金属複合粒子の平均粒径に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、15%であった。
【0231】
比較例3
ドーパミン塩酸塩を用いなかった以外は、実施例1の方法と同様にして炭素複合体(D50 35μm)を得た。前記得られた炭素複合体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる多孔性炭素基材と;前記MWCNTの外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、鉄粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;を含んでいた。このとき、前記遷移金属複合粒子の平均粒径に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、55%であった。
【0232】
比較例4
ドーパミン塩酸塩を用いなかった以外は、実施例2の方法と同様にして炭素複合体(D50 35μm)を得た。前記得られた炭素複合体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)からなる多孔性炭素基材と;前記MWCNTの外部表面及び気孔の内部表面の少なくともいずれか一方に位置し、コバルト粒子を含むコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を被覆する炭素コーティング層と、を含む遷移金属複合粒子と;を含んでいた。このとき、前記遷移金属複合粒子の平均粒径に対する前記炭素コーティング層の厚さの比は、55%であった。
【0233】
[炭素複合体の構造確認]
炭素複合体の顕微鏡観察
上記で用意した実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体のTEM画像を
図2aに示し、実施例3の炭素複合体のTEM画像を
図2bに示し、実施例4の炭素複合体のSEM画像を
図2cに示した。
【0234】
図2aを参照すると、実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体は、MWCNTの表面に遷移金属複合粒子(コア部は遷移金属粒子からなり、シェル部は炭素コーティング層からなる)が均一に形成されており、形成された遷移金属複合粒子の平均粒径(D
50)は、それぞれ10nm(実施例1)、20nm(実施例2)、30nm(比較例2)であった。
【0235】
また、実施例1、実施例2及び比較例2のいずれにおいても、遷移金属粒子の表面に炭素コーティング層が形成されていることが確認され、このとき、各炭素コーティング層の厚さはそれぞれ1nm(実施例1)、1nm(実施例2)、1nm(比較例2)であり、任意に測定した10箇所における炭素コーティング層の厚さ間の偏差が0.5nm以下であることが確認された。
【0236】
図2bを参照すると、実施例3の炭素複合体は、MWCNTの表面に遷移金属複合粒子(コア部はコバルトからなり、シェル部は炭素コーティング層からなる)が一部凝集した形態で形成された。実施例2と実施例3の炭素複合体の形状を比較した結果、実施例2のように製造した方が、遷移金属複合粒子の大きさの均一性の点で有利であることが確認された。
【0237】
また、
図2cを参照すると、炭素前駆体としてグルコースを用いることでドーピング元素として酸素元素を含む実施例3の炭素複合体は、実施例2に比べて、遷移金属複合粒子のシェル部に形成された炭素コーティング層の厚さの均一性が劣っていることが確認できた。要するに、実施例2の炭素コーティング層は、任意の10箇所で測定した厚さの標準偏差(△d)が5nm以下であるのに対し、実施例3の炭素コーティング層は、任意の10箇所で測定した厚さがそれぞれ10nm~100nmであり、厚さ間の標準偏差(△d)が50nmであることが確認された。
【0238】
遷移金属粒子の含有量確認
上記で用意した実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体に担持された遷移金属粒子の含有量を測定するためにTGA分析を行い、その結果を
図3に示した。TGA分析では、製造された炭素複合体を100℃から800℃まで昇温しながら(昇温速度10℃/分)加熱して、重量減少を測定した。
【0239】
図3を参照すると、昇温時の温度変化がなくなった時点での重量が遷移金属粒子の重量に相当するので、実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体は、いずれも遷移金属粒子を10重量%の量で担持していることが確認された。
【0240】
異種元素ドーピングの確認
上記で用意した実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体についてXPS分析を行い、XPS分析により窒素元素のピークを確認した結果を
図4に示した。
【0241】
図4を参照すると、上記で用意した実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体は、窒素元素を含んでいることが確認された。前記窒素元素は、炭素前駆体としてのドーパミンに由来するものと推察され、窒素元素の大部分は、グラファイト型窒素(graphitic N)とピリジン型窒素(pyridinic N)の形態で含まれていることが確認された。
【0242】
遷移金属元素の結合形態の確認
上記の実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体に対するXPS分析を行い、各遷移金属元素の2pスペクトル(2p spectra)を確認した結果を
図5aに示した。
図5aを参照すると、実施例1(Fe)、実施例2(Co)及び比較例2(Ni)は、いずれにもほとんどの遷移金属元素が金属状態で存在していることが確認された。
【0243】
また、実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体についてEXAFS分析を行い、炭素複合体中の各遷移金属元素の結合形態を確認した結果を
図5bに示した。
図5bには、遷移金属元素の結合形態の確認を容易にするために、それぞれの遷移金属原子でできた金属箔であるCo箔、Fe箔及びNi箔のグラフと、遷移金属元素と酸素原子(O)との結合を示すそれぞれの遷移金属酸化物であるCoO、FeO及びNiOのグラフとを一緒に示した。
【0244】
図5bを参照すると、実施例1、実施例2及び比較例2の炭素複合体はいずれも、遷移金属元素と異種元素との結合よりも、遷移金属元素間の金属結合を多く含んでいることが確認された。このことから、前記炭素複合体の触媒活性は遷移金属粒子に由来すると推察された。
【0245】
[リチウム硫黄電池の製造]
上記で製造した炭素複合体を用いたリチウム硫黄電池の性能を評価するために、以下のようにしてリチウム硫黄コイン型電池を用意した。
【0246】
正極の製造
上記で用意した実施例1、実施例2及び比較例1~比較例4のそれぞれの炭素複合体30重量%と硫黄(硫黄粉末、シグマアルドリッチ社製)70重量%とを混合し、155℃で8時間等温熱処理して正極活物質を得た。
【0247】
作動電極の製造のために、上記で製造した正極活物質と、バインダーとしてのポリアクリロニトリルバインダー(PAN binder、LA 132)とを、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶媒を用いて9:1の重量比で混合し、正極スラリーを製造した。
【0248】
製造された正極スラリーをカーボンコートされたAl箔に塗布した後、60℃で8時間乾燥させた。その後、電極を加圧し、コイン状に切断して正極を製造した。
【0249】
電池の製造
正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレーターと、電解液とをケース内に収容して電池を製造した。
【0250】
正極としては上記で製造した正極を用意し、セパレーターとしては多孔性ポリプロピレン膜(Celgard 2400、Welcos Co.,Ltd.社製)を用意した。基準電極及び相対電極としては、それぞれリチウム金属(200μm厚)を用意した。
【0251】
電解液としては、1,3-ジオキソランとジメトキシメタン(DOL/DME)とを1:1体積比で混合した溶媒(PANAX E-TEC Co.,韓国)に、電解質としての1.0 M LiTFSI(ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミドリチウム塩)と添加剤としての2.0重量%のLiNO3(99.99% metal basis、シグマアルドリッチ社製)とを含有させた、溶液を用いた。
【0252】
正極における硫黄のローディング量は2.25mg/cm2であり、電池のE/S比は10μL/mgであった。
【0253】
コイン型電池はCR2032規格で製造され、以下の電気化学的性能実験のために、基準電極及び相対電極としてはそれぞれ200μm厚のリチウム金属を使用した。
【0254】
[リチウム硫黄電池の性能評価]
リチウムスルフィドの形状評価
上記で製造した電池の駆動時に炭素複合体の表面に成長するリチウムスルフィドの形状を評価するためにクロノアンペロメトリー(Chronoamperometry)分析を行い、その結果を
図6に示した。(a)は電流-時間曲線を示し、(b)は相対電流-相対時間曲線を示す。電池の充放電は、電流密度0.5C、電圧範囲1.7V-2.8Vの条件下で行った。前記分析評価は、PNE Solution社製のPESC05-0.1装置を用いて、25℃恒温チャンバーで行った。
【0255】
図6の(b)を参照すると、炭素複合体としてCNTを用いた比較例1、及び、遷移金属粒子としてNi金属粒子を担持した炭素複合体を用いた比較例2の場合、形成されるリチウムスルフィドが平面(2D)形状であるのに対し、遷移金属粒子としてFe金属粒子を担持した炭素複合体を用いた実施例1、及び、遷移金属粒子としてCo金属粒子を担持した炭素複合体を用いた実施例2の場合、形成されるリチウムスルフィドが立体(3D)形状であることが確認された。
【0256】
また、電流密度0.05Cでの最初の放電後の炭素複合体のSEM画像を
図7に示した。
【0257】
図7を参照すると、実施例1及び実施例2の炭素複合体の表面には立体形状のリチウムスルフィドが形成されているのに対し、比較例1及び比較例2の炭素複合体の表面には、フィルム状のリチウムスルフィドが形成されていることが確認された。
【0258】
また、
図7を参照すると、Fe金属粒子を担持した炭素複合体を用いた実施例1で生成されたリチウムスルフィドの大きさよりも、Co金属粒子を担持した炭素複合体を用いた実施例2で生成されたリチウムスルフィドの大きさが小さいことが確認された。
【0259】
電池の容量及び寿命評価
各電池について、電圧1.7V~2.8V、電流密度0.5C(1Cレート=1675mA/g)で充放電を50回繰り返し、このときの定電流特性を
図8(a)に示した。また、最初の充放電サイクルにおける容量-電圧曲線を
図8(b)に示した。
【0260】
図8(a)を参照すると、実施例1、実施例2及び比較例1の炭素複合体は、50回の充放電サイクルで電池の駆動が安定しているのに対し、比較例2の炭素複合体は、20回の充放電サイクル後に電池の駆動が著しく不良となっていることが確認された。一方、電池の可逆容量は、実施例2(~1200mAh/g)>実施例1(~1050mAh/g)>比較例1(~950mAh/g)の順に高いことが確認された。
【0261】
図8(b)を参照すると、リチウムスルフィド(Li
2S)の転換反応の反応性が実施例2>実施例1>比較例1>比較例2の順に評価された。特に、
図8(b)のグラフ上に示すQ
L及びQ
Hに対するQ
H/Q
Lの比は、それぞれ実施例2(0.409)<実施例1(0.420)<比較例1(0.482)<比較例2(0.568)であり、実施例2におけるリチウムスルフィド(Li
2S)の転換反応の反応性改善効果が最も優れていることが確認された。
【0262】
炭素コーティング層の有無による活性の評価
比較例4の炭素複合体のTEM画像を
図9の(a)に示し、比較例3及び比較例4の炭素複合体を用いて上記で製造した電池の0.5Cでの充放電サイクルによる容量評価結果を
図9の(b)に示した。
【0263】
まず、比較例3及び比較例4の炭素複合体は、製造過程でドーパミン塩酸塩、すなわち炭素前駆体を投入せずに製造されたものである。
図9(a)を参照すると、比較例4の炭素複合体には、CNT上に不均一な大きさの複数の遷移金属粒子が担持されていることが確認された。
【0264】
図9(b)を参照すると、比較例4の炭素複合体の容量は比較例3の炭素複合体の容量よりも高いが、比較例3及び比較例4はいずれも充放電サイクルに伴って容量が急激に低下し、駆動安定性が不良となっていることが確認された。
【0265】
これにより、本発明による炭素複合体中の遷移金属複合粒子の炭素コーティング層は、電池の駆動安定性を確保するために不可欠であることを確認された。
【国際調査報告】