(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】3D印刷された準安定性カルシウム種のin situミネラル化
(51)【国際特許分類】
A61L 27/02 20060101AFI20241108BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20241108BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20241108BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20241108BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20241108BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20241108BHJP
A61L 27/00 20060101ALI20241108BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61L27/02
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/18
A61L27/52
A61L27/00
C07K7/06 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532954
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2022083515
(87)【国際公開番号】W WO2023099416
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518453383
【氏名又は名称】オムヤ インターナショナル アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエラ メロ ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ショエルコップ
(72)【発明者】
【氏名】ルーシー キント
(72)【発明者】
【氏名】ロザーリオ マウリツィオ グッロ
【テーマコード(参考)】
4C081
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081AB03
4C081AB06
4C081CA17
4C081CA18
4C081CD011
4C081CD02
4C081CD04
4C081CD08
4C081CD11
4C081CD12
4C081CD15
4C081CE11
4C081CF21
4C081DA12
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045EA20
4H045EA34
4H045EA40
(57)【要約】
本発明は、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク、そのような生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの製造方法、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法、生体ミネラル化された3D印刷物品、さらには3D印刷のためのHABPファミリーのオリゴペプチド及びP11-ファミリーのオリゴペプチドを含む群より選択されるオリゴペプチドである結晶化トリガー物質の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、
(b)キャリア材料、及び
(c)結晶化トリガー物質、
を含む、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項2】
前記カルシウムカチオン系化合物が、前記カルシウムカチオン系化合物の総重量に基づいて、50重量%未満、好ましくは40重量%未満、より好ましくは30重量%未満、最も好ましくは20重量%未満の結晶化度を有する、請求項1に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項3】
前記カルシウムカチオン系化合物が、動的光散乱によって特定したときに、1~500nm、好ましくは50~400nm、最も好ましくは100~350nmの範囲内である重量メジアン粒径d
50を有する、請求項1又は2に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項4】
前記キャリア材料が、ヒドロゲルを形成するのに適する材料であり、好ましくは、前記キャリア材料が、ゼラチン、メチルセルロース、アルギネート、アガロース、フィブリン、ヒアルロン酸、タンパク質、例えばゼラチン、ナイドジェン、コラーゲン、及びヘパラン硫酸プロテオグリカン、及びこれらの混合物、K-カラゲニン、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポロキサマー、ペプチド、並びにこれらの混合物を含む群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項5】
前記結晶化トリガー物質が、ペプチド、オリゴペプチド、又はタンパク質であり、好ましくは、前記結晶化トリガー物質が、オリゴペプチドであり、より好ましくは、前記結晶化トリガー物質が、11のアミノ酸残基を備え、及び疎水性芳香族コアを備えるオリゴペプチドである、請求項1~4のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項6】
前記結晶化トリガー物質が、HABPファミリーのオリゴペプチド、好ましくはHABP1及びHABP2、並びにP11-ファミリーのオリゴペプチド、好ましくはP11-4、P11-8、P11-9、P11-12、P11-13、P11-14、P11-15、P11-16、P11-17、P11-18、P11-19、P11-20、P11-24、P11-25、P11-26、P11-27、P11-28、P11-29、P11-30、P11-31、P11-32、及び混合物から成る群より選択され、最も好ましくはP11-4、を含む群より選択されるオリゴペプチドであり、所望に応じて、前記P11-ファミリーのオリゴペプチドは、負に荷電した多糖類又は正に荷電した多糖類と会合している、請求項1~5のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項7】
前記結晶化トリガー物質が、4位及び8位のアミノ酸がフェニルアラニン(F)であり、並びに6位のアミノ酸がトリプトファン(W)であり、並びに/又は前記ペプチドの5位及び7位の両方のアミノ酸残基がオルニチン(O)若しくはグルタミン酸(E)であるオリゴペプチドである、請求項1~6のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項8】
前記インクが、
(a)前記インクの総重量に基づいて、2~30重量%、好ましくは5~25重量%、最も好ましくは10~25重量%の範囲内の量の前記カルシウムカチオン系化合物、及び
(b)前記インクの総重量に基づいて、1~10重量%、好ましくは1~8重量%、最も好ましくは1~5重量%の範囲内の量の前記キャリア材料、及び
(c)前記インクの総重量に基づいて、0.05~3重量%、好ましくは0.05~2.8重量%、最も好ましくは0.1~2.5重量%の範囲内の量の前記結晶化トリガー物質、及び
(d)前記インクの総重量に基づいて、57~96.95重量%、好ましくは64.2~93.95重量%、最も好ましくは67.5~98.9重量%の範囲内の量の緩衝液、
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項9】
準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムである前記カルシウムカチオン系化合物が、安定剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項10】
前記安定剤が、塩化マグネシウム、ポリアスパラギン酸、グルタミン酸、ポリアクリル酸、ホスフェート、例えばL-O-ホスホセリン、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウム、糖類、EDTMP、キサンタン、ポリソルベート、クエン酸、エチレンジアミン、生体サンプルからの抽出物、二重親水性ブロックコポリマー、並びにこれらの混合物を含む群より選択される、請求項9に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク。
【請求項11】
(a)準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物を提供すること、
(b)キャリア材料を提供すること、
(c)結晶化トリガー物質を提供すること、及び
(d)工程(a)の準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムである前記カルシウムカチオン系化合物、工程(b)の前記キャリア材料、及び工程(c)の前記結晶化トリガー物質を混合すること、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの製造方法。
【請求項12】
下記の工程を含む、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法:
(a)請求項1~10のいずれか一項に記載の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを提供すること、
(b)3Dプリンターを用いて、前記生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを所定の形状に印刷すること、及び
(c)前記生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、前記生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを、10~50℃、好ましくは15~45℃の範囲内の温度で硬化させること。
【請求項13】
工程(c)における前記硬化が、
(a)15~40℃の範囲内の温度、最も好ましくは20~40℃の範囲内の温度で、及び/又は
(b)2時間~21日間、好ましくは12時間~19日間、最も好ましくは24時間~18日間の範囲内の硬化時間で、及び/又は
(c)3~6体積%、好ましくは4~6体積%、最も好ましくは4.5~5.5体積%である雰囲気中のCO
2含有量で、及び/又は
(d)75体積%超、好ましくは80~100体積%の範囲内、最も好ましくは85~99.5体積%の範囲内の湿度で、
行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、工程(c)で得られた前記生体ミネラル化された3D印刷物品を、好ましくは少なくとも50℃の温度で、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは65~90℃の範囲内の温度で、及び/又は5時間~36時間、好ましくは5時間~32時間、最も好ましくは6時間~26時間の範囲内の乾燥時間で乾燥させる工程(d)をさらに含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる生体ミネラル化された3D印刷物品。
【請求項16】
前記物品が、歯科再建材料、セラミック代替物、軟体動物殻代替物、真珠層代替物、象牙質代替物、歯代替物、又は骨代替物である、請求項15に記載の生体ミネラル化された3D印刷物品。
【請求項17】
3D印刷のための、HABPファミリーのオリゴペプチド及びP11-ファミリーのオリゴペプチドを含む群より選択されるオリゴペプチドである結晶化トリガー物質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体模倣型ミネラル化(minerizable)可能3D印刷インク、そのような生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの製造方法、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法、生体ミネラル化された3D印刷物品、さらには3D印刷のためのHABPファミリーのオリゴペプチド及びP11-ファミリーのオリゴペプチドを含む群より選択されるオリゴペプチドである結晶化トリガー物質(crystallization trigger)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
3D(3次元)印刷は、典型的には、コンピュータ制御のもと、プラスチック又は液体などの材料が堆積、接合、又は固化されて3次元物体が製造されるように行われ、物体は、典型的には、層を次々に形成することによって構築される。この技術によって、目的に合わせて広く様々な物体を構築することができるという観点から、3D印刷は、様々な用途分野で用いられ得る。また、生体材料及び組織工学の分野においても、この技術は、歯科再建材料、セラミック代替物、軟体動物殻代替物、真珠層代替物、象牙質代替物、歯代替物、又は骨代替物の目的に合わせた製造について大きな関心を集めている。
【0003】
例えば、中国特許出願公開第108126244(A)号明細書は、ヒドロゲルを含むことを特徴とする生体ミネラル化された3D印刷インクに関し、ヒドロゲルは、リン源を含有する濃縮アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸ナトリウム複合体を含み、リン源の濃度範囲は、0.1mol/L~1.5mol/Lであり、ヒドロゲル中のアルギン酸ナトリウムの質量分率は、10%~20%であり、ヒドロゲル中のアルギネート複合体の質量分率は、5%~20%である。中国特許第106668934(B)号明細書は、金属イオン、希土類イオン、及び水溶性ポリマーを含有する純水にアモルファスリン酸カルシウムを浸漬し、乾燥及び粉砕してリン酸カルシウム系3D印刷材料を得ることを含む、バイオ医療用リン酸カルシウム系3D印刷材料の製造方法に関し、水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、及びデンプンのうちの少なくとも1つである。中国特許出願公開第109999223(A)号明細書は、歯槽骨を修復するための調節可能な人工骨修復システムに関し、以下の成分:1 分解性天然ポリマー、2 分解性人工ポリマー、3 バイオセラミック、4 金属、を特徴とする。中国特許出願公開第108295306(A)号明細書は、リン酸カルシウム粒子及びヒドロゲル材料を含む、メソポーラスナノリン酸カルシウム粒子フィラーを含む3次元印刷ヒドロゲル材料に関し、リン酸カルシウム粒子は、ヒドロゲル材料中に均一に分散しており、リン酸カルシウムについて、粒子表面は、ポリエチレングリコールで修飾されており、リン酸カルシウム粒子は、結晶外殻を有する中空のスフィア又は楕円体であり、リン酸カルシウム粒子の細孔径は、主として20nm~70nmである。米国特許出願公開第2018243980(A1)号明細書は、ポリマーを3次元印刷し、ミネラル化するためのシステムに関し、システムは、シリンジ押出機を有する3次元プリンターユニットと、3次元プリンターユニットに動作可能に結合された流体供給システムと、3次元プリンターユニット及び流体供給システムに動作可能に結合された制御ユニットと、を備え、制御ユニットは、3次元プリンターユニットに3次元ポリマー物体の一部分を印刷させ、流体供給システムに3次元ポリマー物体のその部分を流体で洗浄させて3次元ポリマー物体のその部分をミネラル化させ、及び3次元プリンターユニットに3次元ポリマー物体の次の部分を印刷させるように構成されている。
【0004】
中国特許第104147641(B)号明細書は、質量比0.1~0.6:1の有機材料及び無機材料、並びにタンパク質で被覆された脂質ミクロスフィア粉末を含む、パーソナライゼーションのための骨修復材料に関し、有機材料は、PLGA、PLA、及びPGAから成る群より選択され、PLA:PGA=5%~95%:95%~5%であり、分子量範囲は、8000~250000であり、PLA分子量は、8000~250000の範囲内であり、PGA分子量範囲は、8000~250000であり、無機材料は、β-リン酸三カルシウム、α-リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、及びリン酸四カルシウムのうちの1又は複数から選択されるリン酸カルシウム塩であり、脂質ミクロスフィアに封入されるタンパク質は、組換えヒトインターフェロンβであり、各脂質ミクロスフィア粉末中の組換えヒトインターフェロンβの含有量は、50~200ng/1回量である。韓国特許出願公開第20180128227(A)号明細書は、FDM-3D印刷用のフィラメント複合樹脂組成物に関し、生体適合性ポリマー、骨活性化セラミック、及び分散剤を含み、骨活性化セラミックは、100nm~800nmの粒径を有する。中国特許出願公開第108815574(A)号明細書は、骨修復ヒドロゲルステントに関し、この骨修復ヒドロゲルステントが、ポリマーゲルキャリアとミネラル化ナノ骨粒子とを含むことを特徴とし、ポリマーゲルキャリアは、ポリマーゲルとマトリックスメタロプロテイナーゼとを含む。ペプチド鎖に応答して、ポリマーゲルは、マトリックスメタロプロテイナーゼ応答性ペプチド鎖で直接架橋され、骨修復ヒドロゲル足場は、紫外線励起下で3D印刷に供される。
【0005】
しかし、先行技術の3D印刷物品は、いくつかの欠点を抱えており、特に、骨、歯、貝殻、及び/又は真珠層を模倣するために用いられ得るカルシウムベースの3D印刷物品は、典型的には、充分な硬度及び結晶化を実現するために焼結される必要がある。
【0006】
したがって、骨、歯、貝殻、及び/又は真珠層を模倣するために用いられ得るカルシウムベースの3D印刷物体などの3D印刷物体を製造することは可能であるが、典型的には、これらの物体は、充分な硬度及び結晶化を実現するために焼結される必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、カルシウム材料をベースとする生体ミネラル化された3D印刷物品の製造に適する3D印刷インクを提供することである。本発明のさらなる目的は、生体ミネラル化された3D印刷物品が、骨、歯、貝殻、及び/又は真珠層を模倣するのに適することである。本発明の別の目的は、生体模倣型のミネラル化された3D印刷物品が、充分な硬度を提供すること、及び焼結することなく硬化を実現することができることである。
【0008】
前述の目的及び他の目的の1又は複数は、独立請求項において本明細書で定められる主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、対応する従属請求項に定められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、したがって、以下を含む生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクに関する:
(a)準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、
(b)キャリア材料、及び
(c)結晶化トリガー物質。
【0010】
1つの実施形態によると、カルシウムカチオン系化合物は、カルシウムカチオン系化合物の総重量に基づいて、50重量%未満、好ましくは40重量%未満、より好ましくは30重量%未満、最も好ましくは20重量%未満の結晶化度を有する。
【0011】
別の実施形態によると、カルシウムカチオン系化合物は、動的光散乱によって特定したときに、1~500nm、好ましくは50~400nm、最も好ましくは100~350nmの範囲内である重量メジアン粒径d50を有する。
【0012】
さらに別の実施形態によると、キャリア材料は、ヒドロゲルを形成するのに適する材料であり、好ましくは、キャリア材料は、ゼラチン、メチルセルロース、アルギネート、アガロース、フィブリン、ヒアルロン酸、タンパク質、例えばゼラチン、ナイドジェン、コラーゲン、及びヘパラン硫酸プロテオグリカン、並びにこれらの混合物など、K-カラゲニン、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポロキサマー、ペプチド、並びにこれらの混合物を含む群より選択される。
【0013】
1つの実施形態によると、結晶化トリガー物質は、ペプチド、オリゴペプチド、又はタンパク質であり、好ましくは、結晶化トリガー物質は、オリゴペプチドであり、より好ましくは、結晶化トリガー物質は、11のアミノ酸残基を備え、及び疎水性芳香族コアを備えるオリゴペプチドである。
【0014】
別の実施形態によると、結晶化トリガー物質は、HABPファミリーのオリゴペプチド、好ましくはHABP1及びHABP2、並びにP11-ファミリーのオリゴペプチド、好ましくはP11-4、P11-8、P11-9、P11-12、P11-13、P11-14、P11-15、P11-16、P11-17、P11-18、P11-19、P11-20、P11-24、P11-25、P11-26、P11-27、P11-28- P11-29、P11-30、P11-31、P11-32、及び混合物から成る群より選択され、最も好ましくはP11-4、を含む群より選択されるオリゴペプチドであり、所望に応じて、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、負に荷電した多糖類又は正に荷電した多糖類と会合している。
【0015】
さらに別の実施形態によると、結晶化トリガー物質は、4位及び8位のアミノ酸がフェニルアラニン(F)であり、並びに6位のアミノ酸がトリプトファン(W)であり、並びに/又はペプチドの5位及び7位の両方のアミノ酸残基がオルニチン(O)若しくはグルタミン酸(E)であるオリゴペプチドである。
【0016】
1つの実施形態によると、インクは、
(a)インクの総重量に基づいて、2~30重量%、好ましくは5~25重量%、最も好ましくは10~25重量%の範囲内の量のカルシウムカチオン系化合物、及び
(b)インクの総重量に基づいて、1~10重量%、好ましくは1~8重量%、最も好ましくは1~5重量%の範囲内の量のキャリア材料、及び
(c)インクの総重量に基づいて、0.05~3重量%、好ましくは0.05~2.8重量%、最も好ましくは0.1~2.5重量%の範囲内の量の結晶化トリガー物質、及び
(d)インクの総重量に基づいて、57~96.95重量%、好ましくは64.2~93.95重量%、最も好ましくは67.5~98.9重量%の範囲内の量の緩衝液、
を含む。
【0017】
1つの実施形態によると、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物は、安定剤を含む。
【0018】
別の実施形態によると、安定剤は、塩化マグネシウム、ポリアスパラギン酸、グルタミン酸、ポリアクリル酸、ホスフェート、例えばL-O-ホスホセリン、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウムなど、糖類、EDTMP、キサンタン、ポリソルベート、クエン酸、エチレンジアミン、生体サンプルからの抽出物、二重親水性ブロックコポリマー、並びにこれらの混合物を含む群より選択される。
【0019】
さらなる態様によると、本明細書で定められる生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの製造方法が提供され、この方法は、
(a)準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物を提供すること、
(b)キャリア材料を提供すること、
(c)結晶化トリガー物質を提供すること、及び
(d)工程(a)の準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、工程(b)のキャリア材料、及び工程(c)の結晶化トリガー物質を混合すること、
を含む。
【0020】
別の態様によると、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法が提供され、この方法は、
(a)本明細書で定められる生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを提供すること、
(b)3Dプリンターを用いて、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを所定の形状に印刷すること、及び
(c)生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを、10~50℃、好ましくは15~45℃の範囲内の温度で硬化させること、
を含む。
【0021】
1つの実施形態によると、工程(c)における硬化は、
(a)15~40℃の範囲内の温度、最も好ましくは20~40℃の範囲内の温度で、及び/又は
(b)2時間~21日間、好ましくは12時間~19日間、最も好ましくは24時間~18日間の範囲内の硬化時間で、及び/又は
(c)3~6体積%、好ましくは4~6体積%、最も好ましくは4.5~5.5体積%である雰囲気中のCO2含有量で、及び/又は
(d)75体積%超、好ましくは80~100体積%の範囲内、最も好ましくは85~99.5体積%の範囲内の湿度で、
行われる。
【0022】
別の実施形態によると、方法は、工程(c)で得られた生体ミネラル化された3D印刷物品を、好ましくは少なくとも50℃の温度で、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは65~90℃の範囲内の温度で、及び/又は5時間~36時間、好ましくは5時間~32時間、最も好ましくは6時間~26時間の範囲内の乾燥時間で乾燥させる工程(d)をさらに含む。
【0023】
別の態様によると、本明細書で定められる方法によって得られる生体ミネラル化された3D印刷物品が提供される。
【0024】
1つの実施形態によると、物品は、歯科再建材料、セラミック代替物、軟体動物殻代替物、真珠層代替物、象牙質代替物、歯代替物、又は骨代替物である。
【0025】
さらなる態様によると、3D印刷のための、HABPファミリーのオリゴペプチド及びP11-ファミリーのオリゴペプチドを含む群より選択されるオリゴペプチドである結晶化トリガー物質の使用が提供される。
【0026】
本発明の目的上、以下の用語が以下の意味を有することは理解されたい。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲において「含む(comprising)」の用語が用いられる場合、それは、他の要素を排除するものではない。本発明の目的上、「から成る(consisting of)」の用語は、「含む(comprising of)」の用語の好ましい実施形態であると見なされる。以降において、ある群が少なくともある特定の数の実施形態を含むと定められる場合、これは、これらの実施形態のみから成ることが好ましい群も開示するものであるとも理解されたい。
【0028】
単数形の名詞に言及する際に不定冠詞又は定冠詞、例えば「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」が用いられる場合、特に断りのない限り、これにはその名詞の複数形も含まれる。
【0029】
「得ることができる」又は「定めることができる」及び「得られる」又は「定められる」などの用語は、交換可能に用いられる。例えばこれが意味することは、文脈から他が明確に示されない限り、「得られる」の用語は、例えばある実施形態が、例えば用語「得られる」に続く一連の工程によって得られなければならないことを示すことを意味するものではないが、そのような限定された理解は、「得られる」又は「定められる」の用語によって、好ましい実施形態として常に含まれる、ということである。
【0030】
本発明によると、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、
(a)準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、
(b)キャリア材料、及び
(c)結晶化トリガー物質、
を含む。
【0031】
本発明に従う生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、キャリア材料、及び結晶化トリガー物質を含む必要があることが特に見出された。
【0032】
以下において、本発明、特に前述の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクのさらなる詳細について言及する。
【0033】
本発明の1つの要件は、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクが、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物を含むことである。
【0034】
「準安定性」炭酸カルシウムの用語は、材料の形態学的状態を調べる既知の手段で分析した場合に、低い含有量の結晶形態を有する又は結晶形態を有しない炭酸カルシウムを意味することは理解される。例えば、準安定性炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの総重量に基づいて、50重量%未満、好ましくは40重量%未満、より好ましくは30重量%未満、最も好ましくは20重量%未満の結晶化度を有する。したがって、準安定性炭酸カルシウムは、好ましくはアモルファス炭酸カルシウムである。
【0035】
加えて、「準安定性」炭酸カルシウムは、したがって、材料の形態学的状態を調べる既知の手段で分析した場合に、高い含有量のアモルファス形態を有する。例えば、準安定性炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの総重量に基づいて、50重量%超、好ましくは60重量%超、より好ましくは70重量%超、最も好ましくは80重量%超のアモルファス相を有する。
【0036】
別の選択肢として、「準安定性」炭酸カルシウムの用語は、材料の形態学的状態を調べる既知の手段で分析した場合に、高い含有量の結晶形態を有する又は結晶形態から成る炭酸カルシウムを意味し、これは安定ではないことから、より安定な炭酸カルシウム種に転移する。例えば、準安定性炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの総重量に基づいて、50重量%超、好ましくは70重量%超、より好ましくは80重量%超、最も好ましくは90重量%超、例えば約100重量%の結晶化度を有する。したがって、準安定性炭酸カルシウムは、好ましくはバテライトである。例えば、カルサイトに転移したバテライトである。
【0037】
同様に、「準安定性」リン酸カルシウムの用語は、材料の形態学的状態を調べる既知の手段で分析した場合に、低い含有量の結晶形態を有する又は結晶形態を有しないリン酸カルシウムを意味する。例えば、準安定性リン酸カルシウムは、リン酸カルシウムの総重量に基づいて、50重量%未満、好ましくは40重量%未満、より好ましくは30重量%未満、最も好ましくは20重量%未満の結晶化度を有する。したがって、準安定性リン酸カルシウムは、好ましくはアモルファスリン酸カルシウムである。
【0038】
加えて、「準安定性」リン酸カルシウムは、したがって、材料の形態学的状態を調べる既知の手段で分析した場合に、高い含有量のアモルファス形態を有する。例えば、準安定性リン酸カルシウムは、リン酸カルシウムの総重量に基づいて、50重量%超、好ましくは60重量%超、より好ましくは70重量%超、最も好ましくは80重量%超のアモルファス相を有する。
【0039】
一般に、カルシウムカチオン系化合物は、したがって、カルシウムカチオン系化合物の総重量に基づいて、50重量%未満、好ましくは40重量%未満、より好ましくは30重量%未満、最も好ましくは20重量%未満の結晶化度を有する。
【0040】
加えて、カルシウムカチオン系化合物は、したがって、材料の形態学的状態を調べる既知の手段で分析した場合に、高い含有量のアモルファス形態を有する。例えば、カルシウムカチオン系化合物は、カルシウムカチオン系化合物の総重量に基づいて、50重量%超、好ましくは60重量%超、より好ましくは70重量%超、最も好ましくは80重量%超のアモルファス相を有する。
【0041】
アモルファス相の高い含有量を維持するために、カルシウムカチオン系化合物は、低い含水量を有することが好ましい。本発明の1つの実施形態によると、カルシウムカチオン系化合物は、カルシウムカチオン系化合物の総乾燥重量に基づいて、≦10.0重量%、好ましくは0.01~10.0重量%、より好ましくは0.02~9.0重量%、最も好ましくは0.05~8.0重量%の含水量を有する。
【0042】
例えば、カルシウムカチオン系化合物は、準安定性炭酸カルシウムの総乾燥重量に基づいて、≦10.0重量%、好ましくは0.01~10.0重量%、より好ましくは0.02~9.0重量%、最も好ましくは0.05~8.0重量%の含水量を有する準安定性炭酸カルシウムである。1つの実施形態では、カルシウムカチオン系化合物は、準安定性炭酸カルシウムの総乾燥重量に基づいて、≦10.0重量%、好ましくは0.01~10.0重量%、より好ましくは0.02~9.0重量%、最も好ましくは0.05~8.0重量%の含水量を有するアモルファス炭酸カルシウムである。別の実施形態では、カルシウムカチオン系化合物は、準安定性炭酸カルシウムの総乾燥重量に基づいて、≦10.0重量%、好ましくは0.01~10.0重量%、より好ましくは0.02~9.0重量%、最も好ましくは0.05~8.0重量%の含水量を有するバテライトである。
【0043】
別の選択肢として、カルシウムカチオン系化合物は、準安定性リン酸カルシウムの総乾燥重量に基づいて、≦10.0重量%、好ましくは0.01~10.0重量%、より好ましくは0.02~9.0重量%、最も好ましくは0.05~8.0重量%の含水量を有する準安定性リン酸カルシウムである。1つの実施形態では、カルシウムカチオン系化合物は、準安定性リン酸カルシウムの総乾燥重量に基づいて、≦10.0重量%、好ましくは0.01~10.0重量%、より好ましくは0.02~9.0重量%、最も好ましくは0.05~8.0重量%の含水量を有するアモルファスリン酸カルシウムである。
【0044】
カルシウムカチオン系化合物は、特に小さい粒径、好ましくはナノメートル範囲の粒径を有することが好ましい。特に、結晶の形成に有利であり、インク中に適切な範囲の熱を発生させることによって進行させることができる硬化に対して有利な効果を有することから、カルシウムカチオン系化合物の粒径の制御が行われる。
【0045】
1つの実施形態では、カルシウムカチオン系化合物は、したがって、好ましくは、1~500nmの範囲内の重量メジアン粒径d50を有する。例えば、カルシウムカチオン系化合物は、50~400nm、最も好ましくは100~350nmの範囲内の重量メジアン粒径d50を有する。
【0046】
1つの実施形態では、カルシウムカチオン系化合物は、1~500nm、好ましくは50~400nm、最も好ましくは100~350nmの範囲内の重量メジアン粒径d50を有する準安定性炭酸カルシウムである。
【0047】
別の選択肢としての実施形態では、カルシウムカチオン系化合物は、1~500nm、好ましくは50~400nm、最も好ましくは100~350nmの範囲内の重量メジアン粒径d50を有する準安定性リン酸カルシウムである。
【0048】
値dxは、それに対して粒子のx%がdxよりも小さい直径を有するという直径を表す。これは、d50値が、全粒子の50%がこれよりも小さい粒径となる粒径であることを意味している。dx値は、特に指示のない場合、重量%で示される。d50値は、したがって、重量メジアン粒径であり、すなわち、全粒子の50重量%がこの粒径よりも小さい。
【0049】
さらに、本発明の意味における重量メジアン粒径d50は、一次粒径を意味することに留意されたい。すなわち、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物は、好ましくは粉砕によって、解凝集される。カルシウムカチオン系化合物などの固体凝集材料を解凝集するための方法は、本技術分野において公知であり、この目的のために公知の各方法が、本発明において用いられてよい。好ましくは、このような解凝集は、粉砕法を用いることによって、続いて所望に応じて、より大きい粒子を除去する目的でふるいに掛けることによって、行われる。
【0050】
加えて又は別の選択肢として、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の、窒素及びISO 9277に従うBET法を用いて測定されるBET比表面積は、1.0m2/g~100.0m2/g、より好ましくは5.0m2/g~80.0m2/g、最も好ましくは10.0m2/g~70.0m2/gの範囲内である。例えば、準安定性炭酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の、窒素及びISO 9277に従うBET法を用いて測定されるBET比表面積は、10.0m2/g~70.0m2/g、より好ましくは10.0m2/g~50.0m2/g、最も好ましくは15.0m2/g~40.0m2/gの範囲内である。例えば、準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の、窒素及びISO 9277に従うBET法を用いて測定されるBET比表面積は、10.0m2/g~70.0m2/g、より好ましくは25.0m2/g~70.0m2/g、最も好ましくは50.0m2/g~70.0m2/gの範囲内である。
【0051】
準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物は、本技術分野において公知のいかなる方法によって得られてもよいことは理解される。好ましくは、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物は、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の水溶液中での沈澱を含む方法によって得られる。例えば、沈澱は、4~15℃の範囲内の温度で、より好ましくは6~10℃の範囲内の温度で行われ得る。加えて又は別の選択肢として、沈澱は、7以上のpHで、より好ましくは7~10の範囲内のpHで行われることが好ましい。加えて又は別の選択肢として、沈澱に用いられる化合物の濃度は、0.02mM~2M、好ましくは0.2mM~1Mで変動し得ることが好ましい。
【0052】
沈澱は、沈澱に用いられる化合物が好ましくは一工程で互いに接触するように、可能な限り速く行われることは理解される。
【0053】
1つの実施形態では、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物は、本明細書の例に記載の方法によって得られる。
【0054】
例えば、カルシウムカチオン系化合物が準安定性リン酸カルシウムである場合、準安定性リン酸カルシウムは、水溶液中でリン酸カルシウム塩を沈澱させることによって得られ得る。沈澱は、リン酸二アンモニウム水溶液を硝酸カルシウム四水和物水溶液と一工程で接触させることで行われ得る。さらなる工程において、沈澱した準安定性リン酸カルシウムが、例えばろ過によって、液相から分離され得る。得られた準安定性リン酸カルシウムは、凍結乾燥を例とする洗浄のさらなる工程に掛けられ得る。
【0055】
例えば、カルシウムカチオン系化合物が準安定性炭酸カルシウムである場合、準安定性炭酸カルシウムは、水溶液中で炭酸カルシウム塩を沈澱させることによって得られ得る。沈澱は、炭酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液と一工程で接触させることで行われ得る。さらなる工程において、沈澱した準安定性炭酸カルシウムが、例えばろ過によって、液相から分離され得る。得られた準安定性炭酸カルシウムは、凍結乾燥を例とする洗浄のさらなる工程に掛けられ得る。
【0056】
生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、キャリア材料を含むことがさらに必要とされる。キャリア材料は、カルシウムカチオン系化合物及び結晶化トリガー物質が分散されるマトリックスを提供することには特に留意されたい。キャリアのさらなる有益性は、カルシウムカチオン系化合物及び結晶化トリガー物質が絡み合うことで、押し出し中にスラリーの固形分が液体から分離しないことである。これに加えて、キャリアは、3D印刷構造体に構造上の支持を付与し、さらには、インクの粘度を調整する可能性も提供する。
【0057】
特に、本発明の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク中のキャリア材料として、製造されるべき材料の種類において典型的に用いられるいかなるキャリア材料が用いられてもよい。製造されるべき物品は、特に、歯科再建材料、セラミック代替物、軟体動物殻代替物、真珠層代替物、象牙質代替物、歯代替物、又は骨代替物として用いられることから、キャリア材料は、生体適合性であり、非常に優れた親水性を有し、生体毒性がなく、免疫原性がないことが特に好ましい。例えば、FDAによって人体への添加剤(human body additives)としての使用が承認されているキャリア材料である。
【0058】
1つの実施形態では、キャリア材料は、ヒドロゲルを形成するのに適する材料である。したがって、キャリア材料は、好ましくは、3次元架橋され、水中で崩壊しない材料である。さらに、キャリア材料は、粘度の増加に、しかし流動性の減少に影響する。これに加えて、キャリア材料は、好ましくはpH緩衝化されている。
【0059】
例えば、キャリア材料は、ゼラチン、メチルセルロース、アルギネート、アガロース、フィブリン、ヒアルロン酸、タンパク質、例えばゼラチン、ナイドジェン、コラーゲン、及びヘパラン硫酸プロテオグリカン、並びにこれらの混合物など、K-カラゲニン、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポロキサマー、ペプチド、並びにこれらの混合物を含む群より選択される。
【0060】
したがって、キャリア材料は、好ましくは、ヒドロゲルを形成するのに適する材料であり、ゼラチン、メチルセルロース、アルギネート、アガロース、フィブリン、ヒアルロン酸、タンパク質、例えばゼラチン、ナイドジェン、コラーゲン、及びヘパラン硫酸プロテオグリカン、並びにこれらの混合物など、K-カラゲニン、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポロキサマー、ペプチド、並びにこれらの混合物を含む群より選択されることは理解される。
【0061】
キャリア材料は、上述の材料の混合物であってもよいことは理解される。例えば、キャリア材料は、タンパク質の混合物であってもよい。例えば、キャリア材料は、ゼラチン、ナイドジェン、コラーゲン、及びヘパラン硫酸プロテオグリカンなどのタンパク質の混合物であってもよい。このようなキャリア材料は、本技術分野で公知であり、例えばMatrigel(商標)の商品名で入手可能である。
【0062】
上記の観点から、キャリア材料は、天然由来のヒドロゲル又は合成ベースのヒドロゲルであってよい。
【0063】
より正確には、キャリア材料が天然由来のヒドロゲルである場合、キャリア材料は、好ましくは、ゼラチン、メチルセルロース、アルギネート、アガロース、フィブリン、ヒアルロン酸、タンパク質、例えばゼラチン、ナイドジェン、コラーゲン、及びヘパラン硫酸プロテオグリカン、並びにこれらの混合物など、K-カラゲニン、並びにこれらの混合物を含む群より、より好ましくはこれらから成る群より選択される。
【0064】
別の選択肢として、キャリア材料が天然由来のヒドロゲルである場合、キャリア材料は、好ましくは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポロキサマー、ペプチド、及びこれらの混合物を含む群より、より好ましくはこれらから成る群より選択される。
【0065】
製造されるべき物品は、特に、歯科再建材料、セラミック代替物、軟体動物殻代替物、真珠層代替物、象牙質代替物、歯代替物、又は骨代替物として用いられることから、キャリア材料は、天然由来のヒドロゲルであることが好ましい。
【0066】
最も好ましくは、キャリア材料は、メチルセルロースである。
【0067】
生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、結晶化トリガー物質を含む。結晶化トリガー物質は、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの制御された硬化が得られるように、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の結晶化を制御することから、特に有利である。
【0068】
結晶化トリガー物質は、ペプチド、オリゴペプチド、又はタンパク質であることが好ましい。より好ましくは、結晶化トリガー物質は、オリゴペプチドである。例えば、結晶化トリガー物質は、HABPファミリーのオリゴペプチド、好ましくはHABP1及びHABP2を含む群より選択されるオリゴペプチドである。
【0069】
最も好ましくは、結晶化トリガー物質は、11のアミノ酸残基を備え、及び疎水性芳香族コアを備えるオリゴペプチドである。1つの実施形態では、結晶化トリガー物質は、HABPファミリーのオリゴペプチド及びP11-ファミリーのオリゴペプチドを含む群より、好ましくはこれらから成る群より選択されるオリゴペプチドである。例えば、結晶化トリガー物質は、P11-ファミリーのオリゴペプチドである。
【0070】
本発明の1つの実施形態では、11のアミノ酸残基を備え、及び疎水性芳香族コアを備えるオリゴペプチドは、全体として正味の正又は負の電荷を有し、より好ましくは、-6、-4、-2、+2、+4、又は+6を例とする全体として正味の偶数の電荷を有する。最も好ましくは、11のアミノ酸残基を備え、及び疎水性芳香族コアを備えるオリゴペプチドは、全体として正味の負電荷を有し、より好ましくは、-6、-4、又は-2を例とする全体として正味の偶数の電荷を有する。
【0071】
例えば、オリゴペプチドは、P11-4(配列:CH3CO-QQRFEWEFEQQ-NH2)、P11-8(配列:CH3CO-QQRFOWOFEQQ-NH2)、P11-9(配列:CH3CO-SSRFEWEFESS-NH2)、P11-12(配列:CH3CO-SSRFOWOFESS-NH2)、P11-13(配列:CH3CO-EQEFEWEFEQE-NH2)、P11-14(配列:CH3CO-QQOFOWFOQQ-NH2)、P11-15(配列:CH3CO-NNRFEWEFENN-NH2)、P11-16(配列:CH3CO-NNRFOWOFENN-NH2)、P11-17(配列:CH3CO-TTRFEWEFETT-NH2)、P11-18(配列:CH3CO-TTRFOWOFETT-NH2)、P11-19(配列:CH3CO-QQRQOQOQEQQ-NH2)、P11-20(配列:CH3CO-QQRQEQEQEQQ-NH2)、P11-24(配列:CH3OH-SSRQEQEQESS-NH2)、P11-25(配列:CH3CO-SSRSESESESS-NH2)、P11-26(配列:CH3CO-QQOQOQOQOQQ-NH2)、P11-27(配列:CH3CO-EQEQEQEQEQE-NH2)、P11-28(配列:CH3CO-OQOFOWOFOQO-NH2)、P11-29(配列:CH3CO-QQEFEWEFEQQ-NH2)、P11-30(配列:CH3CO-ESEFEWEFESE-NH2)、P11-31(配列:CH3CO-SSOFOWOFOSS-NH2)、P11-32(配列:CH3CO-OSOFOWOFOSO-NH2)、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0072】
1つの実施形態では、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、正に荷電しており、+2、+4、又は+6を例とする全体として正味の偶数の電荷を有する。
【0073】
P11-ファミリーの正に荷電したオリゴペプチドは、配列相同性を共有していることは理解される。
【0074】
好ましくは、5位及び7位のアミノ酸残基は、オルニチン(O)である。好ましくは、1位及び2位のアミノ酸残基は同じであるが、10位及び11位のアミノ酸残基は逆である。
【0075】
好ましくは、1位及び2位のアミノ酸残基は同じであり、セリン(SS)、グルタミン(QQ)、スレオニン(TT)、及びアスパラギン(NN)を含む群より選択される。
【0076】
好ましくは、10位及び11位のアミノ酸残基は同じであり、セリン(SS)、グルタミン(QQ)、スレオニン(TT)、及びアスパラギン(NN)を含む群より選択される。
【0077】
いくつかの実施形態では、1位、2位、10位、及び11位のアミノ酸残基は同じであり、この場合、それらはすべて、セリン(SS)、グルタミン(QQ)、スレオニン(TT)、又はアスパラギン(NN)の何れかである。
【0078】
好ましくは、3位のアミノ酸残基は、オルニチン(O)又はアルギニン(R)の何れかである。
【0079】
好ましくは、4位のアミノ酸残基は、フェニルアラニン(F)又はグルタミン(Q)の何れかである。
【0080】
好ましくは、6位のアミノ酸残基は、トリプトファン(W)又はグルタミン(Q)の何れかである。
【0081】
好ましくは、8位のアミノ酸残基は、フェニルアラニン(F)又はグルタミン(Q)の何れかである。
【0082】
好ましくは、9位のアミノ酸残基は、グルタミン酸(E)又はグルタミン(Q)の何れかである。
【0083】
1つの実施形態では、正に荷電したオリゴペプチドは、P11-8(配列:CH3CO-QQRFOWOFEQQ-NH2)、P11-12(配列:CH3CO-SSRFOWOFESS-NH2)、P11-14(配列:CH3CO-QQOFOWFOQQ-NH2)、P11-15(配列:CH3CO-NNRFEWEFENN-NH2)、P11-16(配列:CH3CO-NNRFOWOFENN-NH2)、P11-18(配列:CH3CO-TTRFOWOFETT-NH2)、P11-19(配列:CH3CO-QQRQOQOQEQQ-NH2)、P11-26(配列:CH3CO-QQOQOQOQOQQ-NH2)、P11-28(配列:CH3CO-OQOFOWOFOQO-NH2)、P11-31(配列:CH3CO-SSOFOWOFOSS-NH2)、P11-32(配列:CH3CO-OSOFOWOFOSO-NH2)、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0084】
好ましくは、正に荷電したオリゴペプチドは、P11-14(配列:CH3CO-QQOFOWFOQQ-NH2)、P11-28(配列:CH3CO-OQOFOWOFOQO-NH2)、P11-31(配列:CH3CO-SSOFOWOFOSS-NH2)、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0085】
オリゴペプチドのアミノ酸鎖が、生理活性ペプチド配列を含むように延長されてもよいこと、又はアミノ酸鎖が、治療活性分子若しくは薬物若しくは同種のものと結合されることは理解される。
【0086】
1つの実施形態では、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、正に荷電しており、負に荷電した多糖類と会合している。
【0087】
好ましくは、多糖類は、グリコサミノグリカン、オリゴ糖、ムコ多糖、及びデキストランを含む群より選択される。好ましくは、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、反対に荷電した多糖類(例:負に荷電した多糖類)と複合体化される。1つの実施形態では、負に荷電した多糖類は、グリコサミノグリカン(GAG)であり、コンドロイチン硫酸(CS)、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロナン、ヒアルロン酸、ヘパリン、及びヘパラン硫酸、又はこれらの誘導体を含む群より選択される。多糖類は、天然又は合成であってもよい。ペプチド複合体は、SAP:多糖類の組み合わせ、SAP:オリゴ糖の組み合わせ、及びSAP:GAGの組み合わせ、から選択され得る。特に、ペプチド複合体は、SAP:GAGの組み合わせである。
【0088】
例えば、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、正に荷電したペプチドであり、グリコサミノグリカン(GAG)、オリゴ糖、ムコ多糖、及びデキストランを含む群より選択される多糖類と会合している。
【0089】
本出願全体を通して、P11-ファミリーのオリゴペプチドと荷電多糖類との複合体は、例えばペプチド:グリカン若しくはペプチド:GAG又はP11:グリカン若しくはP11:GAGと称され得る。
【0090】
1つの実施形態では、オリゴペプチドは、P11-8(配列:CH3CO-QQRFOWOFEQQ-NH2):GAG、P11-12(配列:CH3CO-SSRFOWOFESS-NH2):GAG、P11-14(配列:CH3CO-QQOFOWFOQQ-NH2):GAG、P11-15(配列:CH3CO-NNRFEWEFENN-NH2):GAG、P11-16(配列:CH3CO-NNRFOWOFENN-NH2):GAG、P11-18(配列:CH3CO-TTRFOWOFETT-NH2):GAG、P11-19(配列:CH3CO-QQRQOQOQEQQ-NH2):GAG、P11-26(配列:CH3CO-QQOQOQOQOQQ-NH2):GAG、P11-28(配列:CH3CO-OQOFOWOFOQO-NH2):GAG、P11-31(配列:CH3CO-SSOFOWOFOSS-NH2):GAG、P11-32(配列:CH3CO-OSOFOWOFOSO-NH2):GAG、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0091】
例えば、正に荷電したオリゴペプチドは、P11-14(配列:CH3CO-QQOFOWFOQQ-NH2):GAG、P11-28(配列:CH3CO-OQOFOWOFOQO-NH2):GAG、P11-31(配列:CH3CO-SSOFOWOFOSS-NH2):GAG、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0092】
別の選択肢として、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、負に荷電しており、-2、-4、又は-6を例とする全体として正味の偶数の電荷を有する。好ましくは、P11-ファミリーの負に荷電したオリゴペプチドは、-2の全体として正味の負の電荷を有する。
【0093】
P11-ファミリーの負に荷電したオリゴペプチドは、配列相同性を共有していることは理解される。
【0094】
好ましくは、5位、7位、及び9位のアミノ酸残基は、グルタミン酸(E)である。
【0095】
好ましくは、3位のアミノ酸残基は、グルタミン酸(E)又はアルギニン(R)の何れかである。
【0096】
好ましくは、4位及び8位のアミノ酸残基は同じであり、好ましくは、フェニルアラニン(F)、グルタミン(Q)、及びセリン(S)から成る群より選択される。好ましくは、6位のアミノ酸残基は、トリプトファン(W)、グルタミン(Q)、及びセリン(S)から成る群より選択される。
【0097】
好ましくは、1位及び2位のアミノ酸残基は、同じであっても又は異なっていてもよく、10位及び11位のアミノ酸残基は逆である。
【0098】
好ましくは、1位及び2位のアミノ酸残基は同じであり、セリン(SS)、グルタミン(QQ)、スレオニン(TT)、及びアスパラギン(NN)を含む群より選択される。
【0099】
好ましくは、10位及び11位のアミノ酸残基は同じであり、セリン(SS)、グルタミン(QQ)、スレオニン(TT)、及びアスパラギン(NN)を含む群より選択される。
【0100】
1つの実施形態では、結晶化トリガー物質は、4位及び8位のアミノ酸がフェニルアラニン(F)であり、6位のアミノ酸がトリプトファン(W)であるオリゴペプチドである。
【0101】
加えて又は別の選択肢として、結晶化トリガー物質は、ペプチドの5位及び7位の両方のアミノ酸残基がオルニチン(O)又はグルタミン酸(E)であるオリゴペプチドである。
【0102】
例えば、結晶化トリガー物質は、4位及び8位のアミノ酸がフェニルアラニン(F)であり、6位のアミノ酸がトリプトファン(W)である、又はペプチドの5位及び7位の両方のアミノ酸残基がオルニチン(O)又はグルタミン酸(E)であるオリゴペプチドである。
【0103】
好ましくは、結晶化トリガー物質は、4位及び8位のアミノ酸がフェニルアラニン(F)であり、6位のアミノ酸がトリプトファン(W)であり、ペプチドの5位及び7位の両方のアミノ酸残基がオルニチン(O)又はグルタミン酸(E)であるオリゴペプチドである。
【0104】
例えば、オリゴペプチドは、P11-4(配列:CH3CO-QQRFEWEFEQQ-NH2)、P11-9(配列:CH3CO-SSRFEWEFESS-NH2)、P11-13(配列:CH3CO-EQEFEWEFEQE-NH2)、P11-15(配列:CH3CO-NNRFEWEFENN-NH2)、P11-17(配列:CH3CO-TTRFEWEFETT-NH2)、P11-20(配列:CH3CO-QQRQEQEQEQQ-NH2)、P11-24(配列:CH3OH-SSRQEQEQESS-NH2)、P11-25(配列:CH3CO-SSRSESESESS-NH2)、P11-27(配列:CH3CO-EQEQEQEQEQE-NH2)、P11-29(配列:CH3CO-QQEFEWEFEQQ-NH2)、P11-30(配列:CH3CO-ESEFEWEFESE-NH2)、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0105】
好ましくは、オリゴペプチドは、P11-4(配列:CH3CO-QQRFEWEFEQQ-NH2)、P11-13(配列:CH3CO-EQEFEWEFEQE-NH2)、P11-29(配列:CH3CO-QQEFEWEFEQQ-NH2)、P11-30(配列:CH3CO-ESEFEWEFESE-NH2)、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0106】
最も好ましくは、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、P11-4(配列:CH3CO-QQRFEWEFEQQ-NH2)である。
【0107】
P11-ファミリーの負に荷電したオリゴペプチドが用いられる場合、キトサン及びその誘導体又は他のカチオン性多糖類などの正に荷電した多糖類を用いることが所望され得ることは理解される。別の選択肢として、複合体がP11-ファミリーの正に荷電したオリゴペプチドを備える場合、キトサン及びその誘導体又は他のカチオン性多糖類などの正に荷電した(すなわち、同じ電荷の)多糖類を用いることが所望され得る。
【0108】
好ましくは、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、1~400,000Paの範囲内の弾性率を有する。
【0109】
複合体中のP11-ファミリーのオリゴペプチド対GAGの比は、必要とされる機械的特性及びさらには必要とされる粘度に応じて選択される。
【0110】
生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクが、従来のブルックフィールド粘度計、例えばEV-2+タイプで、ディスクスピンドル3及び100rpmを用いて測定して、好ましくは200~800Pa・sの範囲内の粘度を有することは理解される。
【0111】
好ましくは、P11-ファミリーのオリゴペプチドは、数秒間から最大で24時間以内にゲル又はゲル様の物質(ヒドロゲル)を形成する。ゲル又はゲル様の物質(ヒドロゲル)を形成する時間は、用いられる緩衝系に依存し、所望される必要性に応じて選択可能であることには留意されたい。P11-ファミリーのオリゴペプチドが、グリコサミノグリカン(GAG)を含む群より選択される多糖類と会合している場合、オリゴペプチドは、好ましくは、オリゴペプチドとGAGが混合される前に、ゲル又はゲル様の物質(ヒドロゲル)を形成する。
【0112】
また、アミノ酸鎖が生理活性ペプチド配列を含むように延長されている、又はアミノ酸鎖が治療活性分子若しくは薬物若しくは同種のものと結合している、P11-ファミリーの荷電オリゴペプチドも提供される。
【0113】
結晶化トリガー物質が、キャリア材料としても機能する場合があることには留意されたい。この場合、結晶化トリガー物質及びキャリア材料は、同じである。例えば、結晶化トリガー物質がキャリア材料として作用する場合、すなわち、結晶化トリガー物質及びキャリア材料が同じである場合、結晶化トリガー物質及びキャリア材料は、好ましくはコラーゲンである。
【0114】
生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、緩衝液、好ましくは製造されるべき材料の種類において典型的に用いられる緩衝液をさらに含み得ることは理解される。緩衝液は、有利には、カルシウムカチオン系化合物の溶解を回避するために、インクを7付近のpH範囲で緩衝させるために用いられる。さらに、緩衝液は、ペプチド、無機添加剤、及び存在し得る細胞を含む、溶液中のすべての考え得る電荷を安定に維持するために用いられる。
【0115】
例えば、緩衝液は、PBS緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、及び同種のものを含む群より選択され得る。
【0116】
上記の観点から、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、
(a)インクの総重量に基づいて、2~30重量%の範囲内の量のカルシウムカチオン系化合物、及び
(b)インクの総重量に基づいて、1~10重量%の範囲内の量のキャリア材料、及び
(c)インクの総重量に基づいて、0.05~3重量%の範囲内の量の結晶化トリガー物質、及び
(d)インクの総重量に基づいて、57~96.95重量%の範囲内の量の緩衝液、
を含む。
【0117】
例えば、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、
(a)インクの総重量に基づいて、5~25重量%、最も好ましくは10~25重量%の範囲内の量のカルシウムカチオン系化合物、
(b)インクの総重量に基づいて、1~8重量%、最も好ましくは1~5重量%の範囲内の量のキャリア材料、及び
(c)インクの総重量に基づいて、0.05~2.8重量%、最も好ましくは0.1~2.5重量%の範囲内の量の結晶化トリガー物質、及び
(d)インクの総重量に基づいて、64.2~93.95重量%、最も好ましくは67.5~98.9重量%の範囲内の量の緩衝液、
を含む。
【0118】
準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の形態を安定化させるために、カルシウムカチオン系化合物が安定剤を含むことが好ましい。
【0119】
好ましくは、安定剤は、塩化マグネシウム、ポリアスパラギン酸、グルタミン酸、ポリアクリル酸、ホスフェート、例えばL-O-ホスホセリン、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウムなど、糖類、EDTMP、キサンタン、ポリソルベート、クエン酸、エチレンジアミン、生体サンプルからの抽出物、二重親水性ブロックコポリマー、並びにこれらの混合物を含む群より選択される。
【0120】
したがって、1つの実施形態では、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、
(a)インクの総重量に基づいて、2~30重量%の範囲内の量の、安定剤を含むカルシウムカチオン系化合物、
(b)インクの総重量に基づいて、1~10重量%の範囲内の量のキャリア材料、及び
(c)インクの総重量に基づいて、0.05~3重量%の範囲内の量の結晶化トリガー物質、及び
(d)インクの総重量に基づいて、57~96.95重量%の範囲内の量の緩衝液、
を含む、好ましくはこれらから成る。
【0121】
例えば、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、
(a)インクの総重量に基づいて、5~25重量%、最も好ましくは10~25重量%の範囲内の量の、安定剤を含むカルシウムカチオン系化合物、
(b)インクの総重量に基づいて、1~8重量%、最も好ましくは1~5重量%の範囲内の量のキャリア材料、及び
(c)インクの総重量に基づいて、0.05~2.8重量%、最も好ましくは0.1~2.5重量%の範囲内の量の結晶化トリガー物質、及び
(d)インクの総重量に基づいて、64.2~93.95重量%、最も好ましくは67.5~98.9重量%の範囲内の量の緩衝液、
を含む、好ましくはこれらから成る。
【0122】
本明細書で定められる生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、好ましくは、その製造方法によって製造される。生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの製造方法は、
(a)準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物を提供すること、
(b)キャリア材料を提供すること、
(c)結晶化トリガー物質を提供すること、及び
(d)工程(a)の準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、工程(b)のキャリア材料、及び工程(c)の結晶化トリガー物質を混合すること、
を含む。
【0123】
生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インク、カルシウムカチオン系化合物、キャリア材料、結晶化トリガー物質の定義、及びこれらの好ましい実施形態に関しては、本発明の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの技術的詳細を考察する際に上記で提供された記載内容が参照される。
【0124】
工程(d)は、工程(a)の準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、工程(b)のキャリア材料、及び工程(c)の結晶化トリガー物質を混合することによって行われる。成分を互いに充分に混合するのに適するいかなる混合(又は撹拌)手段が用いられてもよいことは理解される。混合、かきまぜ、又は撹拌のための適切な装置は、当業者に公知である。
【0125】
工程(d)は、室温で、すなわち、20℃±2℃の温度で、又は工程(d)で調製される混合物の凝固点を超える温度で行われ得る。例えば、工程(d)は、10~50℃、好ましくは15~45℃の温度で行われる。
【0126】
準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物が安定剤をさらに含む場合、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの製造方法は、
(a)安定剤を含む、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物を提供すること、
(b)キャリア材料を提供すること、
(c)結晶化トリガー物質を提供すること、及び
(d)工程(a)の安定剤を含む、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物、工程(b)のキャリア材料、及び工程(c)の結晶化トリガー物質を混合すること、
を含む。
【0127】
生体ミネラル化された3D印刷物品及び製造方法
本発明のさらなる態様によると、本明細書で定められる生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを用いて、生体ミネラル化された3D印刷物品を製造することができる。
【0128】
したがって、本発明は、さらに、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法に関し、その方法は、
(a)生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを提供すること、
(b)3Dプリンターを用いて、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを所定の形状に印刷すること、及び
(c)生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを、10~50℃の範囲内の温度で硬化させること、
を含む。
【0129】
生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの定義及びその好ましい実施形態に関しては、本発明の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの技術的詳細を考察する際に上記で提供された記載内容が参照される。
【0130】
方法工程(b)に関して、製造されるべき物品を印刷するのに適するいかなる3Dプリンターが本発明に用いられてもよいことには留意されたい。例えば、3Dプリンターは、空気圧式、押出式、及びピストン式の3Dプリンターから選択されてよい。このような3Dプリンターは、当業者に公知であり、ここでさらに詳細に説明する必要はない。
【0131】
生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法の工程(c)において、生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、10~50℃の範囲内の温度で硬化される。例えば、生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、工程(c)において、15~45℃の範囲内の温度で硬化される。
【0132】
1つの実施形態では、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクは、工程(c)において、15~40℃の範囲内の温度、最も好ましくは20~40℃の範囲内の温度で硬化される。
【0133】
加えて又は別の選択肢として、工程(c)における硬化は、2時間~21日間、好ましくは12時間~19日間、最も好ましくは24時間~18日間の範囲内の硬化時間で行われる。例えば、工程(c)における硬化は、2時間~5日間、好ましくは12時間~4日間、最も好ましくは24時間~72時間の範囲内の硬化時間で行われる。
【0134】
加えて又は別の選択肢として、工程(c)における硬化は、3~6体積%、好ましくは4~6体積%、最も好ましくは4.5~5.5体積%である雰囲気中のCO2含有量で行われる。
【0135】
加えて又は別の選択肢として、工程(c)における硬化は、75体積%超、好ましくは80~100体積%の範囲内、最も好ましくは85~99.5体積%の範囲内の湿度で行われる。
【0136】
1つの実施形態では、工程(c)における硬化は、したがって、
(a)15~40℃の範囲内の温度、最も好ましくは20~40℃の範囲内の温度で、又は
(b)2時間~21日間、好ましくは12時間~19日間、最も好ましくは24時間~18日間の範囲内の硬化時間で、又は
(c)3~6体積%、好ましくは4~6体積%、最も好ましくは4.5~5.5体積%である雰囲気中のCO2含有量で、又は
(d)75体積%超、好ましくは80~100体積%の範囲内、最も好ましくは85~99.5体積%の範囲内の湿度で、
行われる。
【0137】
好ましくは、工程(c)における硬化は、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の結晶化をもたらす高い湿度で行われる。したがって、工程(c)における硬化は、
(a)10~50℃、好ましくは15~45℃、より好ましくは15~40℃の範囲内の温度、最も好ましくは20~40℃の範囲内の温度で、及び
(b)75体積%超、好ましくは80~100体積%の範囲内、最も好ましくは85~99.5体積%の範囲内の湿度で、
行われることが好ましい。
【0138】
さらに、雰囲気中のCO2含有量は、細胞の形成及びサンプルのミネラル化に有利に影響を与える特定の範囲に保持されることが好ましい。したがって、工程(c)における硬化は、
(a)10~50℃、好ましくは15~45℃、より好ましくは15~40℃の範囲内の温度、最も好ましくは20~40℃の範囲内の温度で、及び
(b)75体積%超、好ましくは80~100体積%の範囲内、最も好ましくは85~99.5体積%の範囲内の湿度で、及び
(c)3~6体積%、好ましくは4~6体積%、最も好ましくは4.5~5.5体積%である雰囲気中のCO2含有量で、
行われることが好ましい。
【0139】
硬化は、好ましくは、2時間~21日間、好ましくは12時間~19日間、最も好ましくは24時間~18日間の範囲内の時間にわたって行われることは理解される。例えば、硬化は、2時間~5日間、好ましくは12時間~4日間、最も好ましくは24時間~72時間の範囲内の時間にわたって行われる。したがって、工程(c)における硬化は、
(a)10~50℃、好ましくは15~45℃、より好ましくは15~40℃の範囲内の温度、最も好ましくは20~40℃の範囲内の温度で、及び
(b)75体積%超、好ましくは80~100体積%の範囲内、最も好ましくは85~99.5体積%の範囲内の湿度で、及び
(c)3~6体積%、好ましくは4~6体積%、最も好ましくは4.5~5.5体積%である雰囲気中のCO2含有量で、及び
(d)2時間~21日間、好ましくは12時間~19日間、最も好ましくは24時間~18日間、例えば2時間~5日間若しくは12時間~4日間若しくは24時間~72時間、の範囲内の硬化時間で、
行われることが好ましい。
【0140】
得られた生体ミネラル化された3D印刷物品を最終的な硬化に供するために、方法は、好ましくは、例えば高められた温度で又は充分な時間にわたって、物品を乾燥させる工程をさらに含む。
【0141】
したがって、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法は、好ましくは、工程(c)で得られた生体ミネラル化された3D印刷物品を乾燥させるさらなる工程(d)を含む。好ましい実施形態では、乾燥は、少なくとも50℃の温度、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは65~90℃の範囲内の温度で、又は5時間~36時間、好ましくは5時間~32時間、最も好ましくは6時間~26時間の範囲内の乾燥時間にわたって行われる。例えば、5時間~24時間、好ましくは5時間~18時間、最も好ましくは6時間~12時間の範囲内の乾燥時間である。好ましくは、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法は、好ましくは、工程(c)で得られた生体ミネラル化された3D印刷物品を、好ましくは少なくとも50℃の温度で、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは65~90℃の範囲内の温度で乾燥させる工程(d)をさらに含む。
【0142】
最終的な硬化は、好ましくは、高められた温度で物品を乾燥させる工程をさらに含み、それは、適用される温度に応じて、充分な時間にわたって行われることは理解される。
【0143】
1つの実施形態では、乾燥は、物品が低い残留含水量を有するように行われる。しかし、製造されるべき物品の観点から、自然を模倣し、細胞を生存状態で保持するために、乾燥時に物品を完全に乾燥させることは避けることが有利である。したがって、乾燥の結果として、TGAで測定した場合の物品の残留含水量が、1~8重量%、好ましくは2~5重量%の範囲内となることが好ましい。
【0144】
したがって、方法は、工程(c)で得られた生体ミネラル化された3D印刷物品を、好ましくは少なくとも50℃の温度で、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは65~90℃の範囲内の温度で、及び5時間~36時間、好ましくは5時間~32時間、最も好ましくは6時間~26時間の範囲内の乾燥時間で乾燥させるさらなる工程(d)を含む。例えば、5時間~24時間、好ましくは5時間~18時間、最も好ましくは6時間~12時間の範囲内の乾燥時間である。
【0145】
この観点から、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法は、好ましくは、
(a)生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを提供すること、
(b)3Dプリンターを用いて、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを所定の形状に印刷すること、
(c)生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを、10~50℃の範囲内の温度で硬化させること、及び
(d)工程(c)で得られた生体ミネラル化された3D印刷物品を、好ましくは少なくとも50℃の温度で、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは65~90℃の範囲内の温度で、及び5時間~36時間、好ましくは5時間~32時間、最も好ましくは6時間~26時間の範囲内の乾燥時間で乾燥させること、
を含む。
【0146】
さらなる態様によると、本発明は、生体ミネラル化された3D印刷物品にも関する。物品は、好ましくは、本明細書で定められる生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法によって得ることができる。
【0147】
したがって、生体ミネラル化された3D印刷物品は、
(a)生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを提供すること、
(b)3Dプリンターを用いて、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを所定の形状に印刷すること、及び
(c)生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを、10~50℃の範囲内の温度で硬化させること、
を含む、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法によって得ることができる。
【0148】
好ましくは、生体ミネラル化された3D印刷物品は、
(a)生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを提供すること、
(b)3Dプリンターを用いて、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを所定の形状に印刷すること、及び
(c)生体ミネラル化された3D印刷物品を得るために、生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクを、10~50℃の範囲内の温度で硬化させること、及び
(d)工程(c)で得られた生体ミネラル化された3D印刷物品を、好ましくは少なくとも50℃の温度で、より好ましくは60~100℃、最も好ましくは65~90℃の範囲内の温度で、及び5時間~36時間、好ましくは5時間~32時間、最も好ましくは6時間~26時間の範囲内の乾燥時間で乾燥させること、
を含む、生体ミネラル化された3D印刷物品の製造方法によって得ることができる。
【0149】
物品は、好ましくは、歯科再建材料、セラミック代替物、軟体動物殻代替物、真珠層代替物、象牙質代替物、歯代替物、又は骨代替物であることは理解される。
【0150】
本発明において得られる有利な効果の観点から、本出願の別の態様は、さらに、3D印刷のための生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの使用に関する。
【0151】
生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの定義及びその好ましい実施形態に関しては、本発明の生体模倣型ミネラル化可能3D印刷インクの技術的詳細を考察する際に上記で提供された記載内容が参照される。
【0152】
本発明者らは、結晶化トリガー物質が、3D印刷された後の構築物の硬度を増加させるのに有利であることを見出した。したがって、本発明のさらなる態様は、HABPファミリーのオリゴペプチド及びP11-ファミリーのオリゴペプチドを含む群より選択されるオリゴペプチドである結晶化トリガー物質の、3D印刷のための使用に関する。
【0153】
別の選択肢として又は加えて、準安定性炭酸カルシウム又は準安定性リン酸カルシウムであるカルシウムカチオン系化合物の、3D印刷のための使用が提供される。
【0154】
以下の例及び試験は、本発明を例証するものであるが、本発明を何ら限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【
図1】
図1は、製造したACP(左)及び印刷後のACP(右)のSEM写真を示す。
【
図2】
図2は、製造したACCのSEM写真を示す。
【
図3】
図3は、製造したACPインクの硬度比較を示す。
【
図7】
図7は、製造したACCインクの硬度比較を示す。
【
図8】
図8は、例4の3D印刷前後におけるACPのXRDの比較を示す。
【
図9】
図9は、例4の3D印刷前後におけるACPのFTIRの比較を示す
【実施例】
【0156】
使用した材料
CaCl2・2H2O ≧99% Sigma Aldrich製
Na2CO3 ≧99.5% Sigma Aldrich製
L-O-ホスホセリン ≧98% TCI製
Ca(NO3)2・4H2O ≧99% Sigma Aldrich製
(NH4)2HPO4 ≧98% Sigma Aldrich製
NH4OH溶液(28.0~30.0% NH3基準) Sigma Aldrich製
Whatman硝酸セルロースメンブレンフィルター、Φ9cm、0.8μm
Fannフィルター、特別硬質ろ紙、Φ9cm、2~5μm
アモルファスリン酸カルシウム ACP及びアモルファス炭酸カルシウム ACC:Omya AG製
メチルセルロース(MC) Sigma Aldrich製
NaOH Sigma Aldrich製
Na2HPO4 Sigma Aldrich製
クエン酸 Sigma Aldrich製
1×PBS(pH=7.4) Sigma Aldrich製
ペプチド P11-4(配列:CH3CO-QQRFEWEFEQQ-NH2) Credentis AG製
【0157】
ACP及びACCの製造
ACPの製造:水溶液中でのリン酸カルシウム塩の沈澱を、リン酸二アンモニウム水溶液を撹拌しながら、硝酸カルシウム四水和物水溶液を一工程で添加することで行った。この工程で、沈澱が観察された。ACPは、ろ過及び洗浄工程、それに続く凍結乾燥によって回収した。
【0158】
溶液の調製及び合成の詳細を、以下の表1及び表2に示す。
【表1】
【表2】
【0159】
最終生成物は、さらなる使用までデシケーター中に保存した。
【0160】
図1は、製造したACP(左)及び印刷後のACP(右)のSEM写真を示す。
【0161】
ACCの製造:水溶液中での炭酸カルシウム塩の沈澱を、炭酸ナトリウム水溶液を撹拌しながら、塩化カルシウム水溶液を一工程で添加することで行った。この工程で、沈澱が観察された。ACCは、ろ過及び洗浄工程、それに続く凍結乾燥によって回収した。
【0162】
溶液の調製及び合成の詳細を、以下の表3及び表4に示す。
【表3】
【表4】
【0163】
最終生成物は、さらなる使用までデシケーター中に保存した。
【0164】
【0165】
溶液の調製
ストック溶液 MC 15cp(メチルセルロース)ライト(7.4重量/重量%)
8gのMCを100gのPBS(リン酸緩衝食塩水)に溶解し、4℃で一晩膨潤させる。
P11-4ペプチド(1重量/重量%、3重量/重量%)(3ml用)-ml数に応じて調整
ペプチドP11-4を、0.04M Na2HPO4、1M NaOH、及び0.02M クエン酸の溶液に溶解する。
【0166】
特性評価方法
TGA
熱重量分析は、Perkin Elmer製のTGA 4000で行った。TGAプログラムは、30.00℃で1.0分間保持、及び10.00℃/分で30.00℃から900.00℃まで昇温とした。
【0167】
BET
粉末の比表面積は、Micromeritics ASAP 2460で測定した。サンプルの脱気は真空下で行った。サンプルは、ISO 9277規格に従って測定した。
【0168】
粒径分布
粒径分布は、Malvern Zetasizer Nano ZSを用いて動的光散乱によって行った。サンプル調製では、水溶液中に0.1重量%の粒子及び0.0021重量%のポリアクリレート分散剤を含有する分散溶液を調製した。この懸濁液を、3分間にわたって高せん断混合し、続いて30分間にわたって超音波処理を行った。サンプルを測定した。
【0169】
ビッカース実験
測定は、Struers DURAMIN-40 M1(https://www.struers.com/en/Products/Hardness-testing/Hardness-testing-equipment/Duramin-40)を用いて行った。
【0170】
圧痕のための平坦面を得るために、手作業でサンプルを研削し(1000グレードのペーパー)、磨き(コットン布)、繊維くずの出ないペーパータオルで清浄化した。分析後に面をN2でフラッシングした。圧痕の位置は、光学検査及びマイクロメーターステージによるナビゲーションによって選択した。その後、HV0.01に適する荷重を適用した。力を加えた位置に先端を10秒間留め、その後取り除いた。圧痕のサイズを光学的に測定し、続いてビッカース硬度の自動評価を行った。
【0171】
測定機器は、ASTM E384、ISO 6507、及びJIS Z 2244の規格に従って作動する。
【0172】
XRD
約0.16cm3のサンプルを、XRD分析のための平坦な円形(d=20mm)面を提供するPMMA試料ホルダーに載せた。次に、40kV及び25mAで作動する1kWのX線管、θ-θ(ブラッグ-ブレンターノ)ゴニオメーター、並びにLYNXEYE XE-T検出器を備えたBruker D8 Advance ECO粉末回折計を用い、0.02°2θのステップで3°から70°2θまで、ステップあたり0.5秒で走査して、ブラッグの法則に従ってサンプルを分析した。すべての実験において、ニッケルフィルターを通したCuKα放射線(λ=1.54060・10-10m)を用いた。測定中、サンプルを15rpmで回転させて、分析結晶面のランダムな分布を最大化した。得られた粉末回折パターンは、Bruker DIFFRACsuiteソフトウェアパッケージEVAを用いて、ICDD PDFライブラリーの参照パターンと比較し、無機分の含有量に関して定性的に解釈した。
【0173】
FTIR(パーキン-エルマー)
種類の確認のための、減衰全反射法(ATR)でのサンプルのFTIRスペクトル。FTIRスペクトルは、1回反射型ATRユニット(Gladi(登録商標)-ATR)を用いて収集した。スペクトルデータは、僅かにスムージングし(値20)、ベースライン補正し、及び1.5A(3.16%の透過率に相当する吸光度)に正規化した。
【0174】
電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)
検査には、電界放出型走査電子顕微鏡(Zeiss Sigma VP)を用いた。2種類の異なる検出器を使用した。
1.二次電子検出器(SE)からの画像は、サンプルの粒子形状を示す。
2.インレンズ二次電子検出器(InLens)を用いて微細構造を示した。
【0175】
例
インクを製造する前に、ゲル液体材料MC及びペプチドを以下のように調製した。
1. 8gのMCを100gのPBS(リン酸緩衝食塩水)に溶解し、4℃で一晩膨潤させた。
2. 90.63mgのペプチドP11-4を、100.6μlの1M NaOH /1.365mlの0.04 Na2HPO4に溶解した。自己組織化の最終工程として、1.5mlの0.02M クエン酸を添加した。
【0176】
ACPインクの製造では、まず、ゲル液体材料(MC及びP11-4)を混合し、続いて無機分(ACP)を添加し、すべての材料を混合した。
【0177】
3DプリンターRegenHU 3Discoveryを用いて、金属シリンジ針(内径0.3mm)又はコニカルPLA針(内径0.4mm)を通しての直接押し出しにより、3D印刷物品サンプルを作製した。インクを3mlのプラスチックシリンジに充填し、先端を取り付けた。1~2mm/秒の流速が測定されるまで、空気圧を加えてインクを押し出した。続いて、3D印刷物品サンプルを、1×1cmの正方形の形状で、コンピュータ制御による電動式3Dステージの動きによって、1行ずつ及び1層ずつ(各層の高さ3mmで合計3層)印刷した。
【0178】
3D印刷物品サンプルを、硬化のために、37℃、99体積%の湿度、及び5体積%のCO2であるインキュベーター中、定められた時間間隔(0.04、017、1、2、6、9、16日間)にわたって保存した。
【0179】
3D印刷物品サンプルを、さらに70℃で24時間にわたって乾燥し、ビッカース、XRD、及びFTIRでのさらなる特性評価のためにデシケーター中で保存した。
【0180】
作製した3D印刷物品サンプルを、以下の表5に示す。
【表5】
【0181】
ACCインクの製造では、まず、ゲル液体材料(MC及びP11-4)を混合し、続いて無機分(ACC)を添加し、すべての材料を混合した。
【0182】
3DプリンターRegenHU 3Discoveryを用いて、金属シリンジ針(内径0.3mm)又はコニカルPLA針(内径0.4mm)を通しての直接押し出しにより、3D印刷物品サンプルを作製した。インクを3mlのプラスチックシリンジに充填し、先端を取り付けた。1~2mm/秒の流速が測定されるまで、空気圧を加えてインクを押し出した。続いて、3D印刷物品サンプルを、1×1cmの正方形の形状で、コンピュータ制御による電動式3Dステージの動きによって、1行ずつ及び1層ずつ(各層の高さ3mmで合計3層)印刷した。
【0183】
3D印刷物品サンプルを、硬化のために、37℃、99体積%の湿度、及び5体積%のCO2であるインキュベーター中、16日間にわたって保存した。
【0184】
3D印刷物品サンプルを、さらに70℃で24時間にわたって乾燥し、ビッカース、XRD、及びFTIRでのさらなる特性評価のためにデシケーター中で保存した。
【0185】
作製した3D印刷物品サンプルを、以下の表6に示す。
【表6】
【0186】
ペプチドなどの結晶化トリガー物質の使用は、3D印刷された後の構築物の硬度を増加させるのに有利である。このことは、
図3、4、5、及び6(例2、3、4、及び6)に見られるように、より高濃度の結晶化トリガー物質を含有する配合物の硬度測定及び比較によって裏付けられた。これらのサンプルは、コントロール(歯)よりもさらに高い硬度を示す。時間も、硬度の上昇に対して役割を果たしており、このことは、結晶化トリガー物質含有量のより高い配合物(例3及び4)で見ることができる。このことからも、結晶化トリガー物質が、構築物の硬化に強く関与していることが再度示唆された。また、XRD及びFTIR(
図8及び
図9)によって示されるように、アモルファス相が結晶相へと転移したことも明らかになった。特に、
図8のACPに対して示されるピークのブロード化は、リン酸カルシウムの総重量に基づいて20重量%未満の結晶化度を有する準安定性リン酸カルシウム、特にアモルファスリン酸カルシウムが存在することを明確にするものである。
【配列表】
【国際調査報告】