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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】Fab-PEGを含む製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241108BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241108BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20241108BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/26
A61K9/19
A61K47/60
C07K16/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533010
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2022083929
(87)【国際公開番号】W WO2023099607
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211590.1
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518320269
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファーマ エスアールエル
(71)【出願人】
【識別番号】515168949
【氏名又は名称】バイオジェン エムエー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】イェーツ アンドリュー ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ベナチェッタ カティア
(72)【発明者】
【氏名】マッサント ジャン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA29
4C076DD38
4C076DD46
4C076DD51
4C076FF11
4C085AA13
4C085BB31
4C085CC22
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA57
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は薬学的組成物の分野に関連する。より具体的には、本発明は、例えば、高濃度で、抗体分子、より具体的にはFab-PEGまたはFab’-PEG分子を含む薬学的組成物、およびそのような製剤を作製する方法を対象とする。本発明による薬学的組成物は、凍結乾燥することができ、適切な期間にわたって約2~25℃の温度での貯蔵時に安定である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.約50~約200 mg/mLの濃度でのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、
b.pHを約5.0~約7.0の間で維持する緩衝液、
c.約1~約5%w/vのスクロース、
d.約0.5~約4%w/vのグリシン、および
e.任意で界面活性剤
を含む、液体薬学的組成物。
【請求項2】
請求項1記載の薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られた凍結乾燥製剤。
【請求項3】
a.約50~約80%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、
b.pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2~約14%w/wの緩衝液、
c.約7~約30%w/wのスクロース、
d.約3.5~約24%w/wのグリシン、および
e.任意で界面活性剤
を含む、凍結乾燥製剤。
【請求項4】
Fab-PEGまたはFab’-PEG分子がヒト化抗体またはヒト抗体に由来する、請求項1記載の液体薬学的組成物、または請求項2もしくは請求項3記載の凍結乾燥製剤。
【請求項5】
Fab-PEGまたはFab’-PEG分子がCD40Lに特異的に結合する、請求項1もしくは請求項4記載の液体薬学的組成物、または請求項2~4のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項6】
Fab-PEGまたはFab’-PEG分子が、
a.SEQ ID NO:1において定義される配列を有するCDR-H1;SEQ ID NO:2において定義される配列を有するCDR-H2;SEQ ID NO:3において定義される配列を有するCDR-H3;SEQ ID NO:4において定義される配列を有するCDR-L1;SEQ ID NO:5において定義される配列を有するCDR-L2;およびSEQ ID NO:6において定義される配列を有するCDR-L3を含む;または
b.SEQ ID NO:7において定義される配列を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列を有する重鎖可変領域を含む;または
c.SEQ ID NO:7において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する重鎖可変領域を含む、
請求項1および4~5のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~5のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項7】
Fab-PEGまたはFab’-PEG分子が、
a)改変ヒンジ領域中の1個のチオール基に共有結合的に連結されたマレイミド基を有し;リジン残基が、該マレイミド基に共有結合的に連結されており;かつ
b)およそ20 KDaの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが、該リジン残基上のアミン基の各々に付着している、
請求項6記載の液体薬学的組成物または凍結乾燥製剤。
【請求項8】
緩衝液がヒスチジン緩衝液である、請求項1および4~7のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~7のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項9】
緩衝液の濃度が約10~約50 mMである、請求項1および4~8のいずれか一項記載の液体薬学的組成物。
【請求項10】
界面活性剤が約0.01~約0.2%w/vの量である、請求項1および4~9のいずれか一項記載の液体薬学的組成物。
【請求項11】
任意の界面活性剤がポリソルベートである、請求項1および4~10のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~8のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項12】
ポリソルベートがPS20である、請求項11記載の液体薬学的組成物または凍結乾燥製剤。
【請求項13】
スクロース:グリシンの比(w/w)が2:3~2:1または約2:3~約2:1である、請求項1および4~12のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~8および11~12のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項14】
約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMの緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、約2%w/vのグリシン、および任意で約0.05%w/vのPS20を含む、請求項1および4~13のいずれか一項記載の液体薬学的組成物。
【請求項15】
約67%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2.6~2.8%w/wの緩衝液、約16.5~16.75%w/wのスクロース、約13.3~13.5%w/wのグリシン、および任意で約0.3%w/wの界面活性剤を含む、請求項2~8および11~13のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項16】
以下の工程:
a.薬学的組成物を得るために、緩衝液、スクロース、グリシン、および任意の界面活性剤と一緒にFab-PEGまたはFab’-PEG分子の混合物を形成する工程、ならびに
b.工程a.の混合物を凍結乾燥に供する工程、ならびに
c.凍結乾燥製剤を回収する工程
を含む、請求項2~8および11~13および15のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤を作製するための方法。
【請求項17】
溶媒を添加することによって、請求項2~8および11~13および15のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤または請求項16記載の方法によって得られた凍結乾燥製剤を再構成するための方法であって、溶媒が水または食塩緩衝液であり得る、前記方法。
【請求項18】
請求項1および4~14のいずれか一項記載の液体薬学的組成物または請求項2~8および11~13および15のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤の入った容器を含む、製造物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は薬学的組成物の分野に関連する。より具体的には、本発明は、抗体分子、より具体的にはFab-PEGまたはFab’-PEG分子を高濃度で含む薬学的組成物、およびそのような薬学的組成物を作製する方法に関する。本発明による薬学的組成物は、凍結乾燥製剤を提供するために凍結乾燥することもできる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
治療用抗体の工業生産は複雑な作業である。それは、ミリグラム量で抗体を作製するための研究室で開発されたプロセスから、マルチキログラム量へのスケールアップを必要とする。抗体はかなり安定な分子であるにもかかわらず、ある一定期間にわたって高濃度で貯蔵すると、それらはやはり、化学的および物理的な不安定さに悩まされる場合がある。典型的な化学的不安定さは、脱アミド、加水分解、酸化、ベータ脱離、ジスルフィド交換、または還元をもたらす場合がある。物理的不安定さは、変性、凝集、または沈殿をもたらす可能性がある。
【0003】
液体製剤は最小限の調製で投与することができるものの、時間の経過とともに安定性が低下するという弱点を有する。液体製剤中のタンパク質を安定化して凝集、沈殿、または分解を回避または最小化することは、いまだ特別な課題のままである。不溶物または沈殿物の形成を伴う凝集は特に問題である。それは、投与時に免疫学的反応をもたらす、および/または、例えば、送達デバイスの閉塞をもたらすことによって、薬学的組成物の適切な投与を実施する際に困難をもたらす可能性がある。
【0004】
凍結乾燥(Freeze-drying)(すなわち、凍結乾燥(lyophilisation))は、そうでなければ液体形態で不安定である抗体の長期貯蔵安定化のために用いられ得る。より低い温度での抗体の凍結乾燥は、製品に対するダメージを低下させ、分子の完全性を保持するのを助ける。それは、貯蔵可能期間を延長させ、輸送のための温度要求性を低減させ、抗体の化学的および生物学的特定を保全する。凍結乾燥は、最終製剤中で高濃度の抗体を達成し、よって、再構成後の注入体積ならびに注入時間を低減させることを容易にする。
【0005】
しかしながら、他のタンパク質と同様に、抗体は、安定剤の非存在下では凍結乾燥時に変性を受ける。安定剤としては、ある特定の糖類、ポリオール類、アミノ酸類、塩類、およびポリマー類、例えばポリエチレングリコールが挙げられ得る。一般に、好ましい安定剤は、所与の製剤について選択されるが、場合によっては、安定剤の組み合わせが用いられてもよい。乾燥時の安定化のメカニズムは、安定剤が水代替物として機能することであると一般に考えられている。水とタンパク質との間の相互作用は、タンパク質の立体配座安定性にとって重要であると考えられている。乾燥時に水が除去されると、安定剤は、水分子がするように、タンパク質と水素結合を形成することができ、凍結乾燥プロセス時に天然のタンパク質構造を保持するのを助ける可能性がある(Chang L, et al. 2005)。
【0006】
糖類またはポリオール類によってもたらされる安定化のレベルは一般に、それらの濃度によって決まる。糖/ポリオール濃度をある特定のレベルに増加させると最終的に、凍結乾燥時に安定化の限界に到達する可能性があり、さらにはタンパク質を不安定化する可能性すらあり、タンパク質に対する安定剤の特定の比は、凍結乾燥抗体の貯蔵安定性に影響を及ぼす可能性がある(Chang L, et al. 2005)。結晶増量剤(crystalline bulking agent)は、固体産物の密度を増加させ、構造損失を最小化する、充填剤として機能する可能性がある。それはまた典型的には、均一な高密度組成物を提供し、一般に再構成することは容易である。グリシンは、結晶化可能な化合物を必要とする凍結乾燥品における、増量剤の候補の別の例であり(Carpenter et al., 1997)、製剤の有する見かけ体積および粘稠度の課題、例えば、最初の乾燥プロセス時の崩壊などを回避するような適切なテクスチャを提供することによって機能する。グリシンはさらに、いくつかの状況において安定性のわずかな増加をもたらす可能性があることが既に示されている(Meyer 2009)が、矛盾するデータも存在する(WO2007124090)。
【0007】
WO2016128318およびWO2017194646は、種々の安定剤の組み合わせの中で、全長抗体、スクロース、およびグリシンを含有する製剤を記載する。US6372716は、グリシンとスクロースとの組み合わせで第IX因子を含有する凍結乾燥製剤を記載する。
【0008】
WO2019096776は、Fab-PEG分子、糖(スクロースまたはトレハロース)、および少なくとも1つのアミノ酸、例えばグリシンを含有する噴霧乾燥製剤を記載する。しかしながら、スクロースおよびグリシンの組み合わせは、少なくとも再構成の観点からは有望な結果を何ら示さなかった。
【0009】
Fab-PEGまたはFab’-PEG分子によって生じる重要な課題は、特に、酸性種レベルの増加をもたらすスクシンイミドPEGリンカーの加水分解および開環に関するその安定性である。
【0010】
凍結乾燥が抗体分子の望ましい長期貯蔵を達成するのに良い選択であるにもかかわらず、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子などの抗体部分を製剤化する簡単で汎用的なプロトコールは存在しない。これらの分子は、凍結乾燥プロセスおよび/または長期貯蔵時に不安定になる可能性があり、凝集物が再構成時に形成される可能性があるか、または凍結乾燥ケーキが再構成するには時間が掛かり過ぎる可能性がある。高濃度の安定剤は、最終製剤の物理化学的特性(すなわち、粘度)に影響を与える可能性がある。上記のことから、当技術分野において、高濃度のFab-PEGまたはFab’-PEG分子を含む、さらに改善された薬学的組成物、より具体的には凍結乾燥薬学的組成物を提供する必要性が残っている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の概要
本発明は、約50~約200 mg/mLの濃度でのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する緩衝液、約1.0~約5.0%w/vのスクロース、約0.5~約4.0%w/vのグリシン、および任意で界面活性剤を含む、薬学的組成物を提供する。いくつかの態様において、緩衝液の濃度は約10~50 mMである。
【0012】
いくつかの態様において、本発明による薬学的組成物は、100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、約2.0%w/vのグリシン、および任意で約0.05%w/vのポリソルベート20を含む。
【0013】
本明細書において、本明細書において記載された薬学的組成物のいずれかを凍結乾燥することによって得られた凍結乾燥製剤も提供される。いくつかの態様において、本発明は、約50~約80%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、 pHを約5.0~約7.0の間で維持する約3~約14%w/wの緩衝液、約7~約30%w/wのスクロース、約3.5~約24%w/wのグリシン、および任意で界面活性剤を含む、凍結乾燥製剤を提供する。
【0014】
いくつかの態様において、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、ヒト化抗体またはヒト抗体に由来する。いくつかの態様において、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、CD40Lに特異的に結合する。
【0015】
本発明はまた、a.薬学的組成物を得るために、緩衝液、スクロース、グリシン、および任意の界面活性剤と一緒に、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子の混合物を形成する工程;b.工程a.の混合物を凍結乾燥に供する工程;ならびにc.凍結乾燥製剤を回収する工程を含む、凍結乾燥製剤を作製するための方法、ならびに溶媒を添加することによって本発明による凍結乾燥製剤を再構成するための方法も提供する。
【0016】
本発明による薬学的組成物または凍結乾燥製剤の入った容器を含む製造物品も記載する。
【0017】
本明細書に記載の薬学的組成物および/または凍結乾燥製剤は、疾患または障害の処置における投与で有用であり得る。
【0018】
定義
用語「含む(comprising)」は、本明細書において用いられる場合、他の要素を排除しない。すなわち、全ての具体的に言及した特徴ならびに任意の、付加的な、特定されていない特徴を包含するとして解釈される。
【0019】
単数名詞に言及する際に、不定冠詞または定冠詞、例えば、「1つの(a)」、「1つの(an)」、または「その(the)」が用いられる場合、他に特に明記しない限り、これはその名詞の複数形を含む。
【0020】
用語「約」または「およそ」は、問題の特徴の技術的作用を依然として確実にすると当業者が理解する、精度の区間を示す。該用語は典型的には、示した数値から±10%、好ましくは±5%のずれを示す。用語「約」が用いられる場合、本願は、指定された厳密値を利用することも記載する。点での値(point value)に言及する場合、本願は、利用されるそのような値のおよそ値も記載し、範囲の端点の場合も同じである。例えば、記載が「約50~約200」を特定する場合には、それは、「50±10%~200±10%」ならびに「50~200」を意味する。
【0021】
用語「CD40L」または「CD40リガンド」は、CD154、CD40対抗受容体(CD40CR)、gp39、T-BAM、T細胞活性化分子、TRAF、TNF関連活性化タンパク質(TRAP)、および腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー5(TNFSF5)としても公知のタンパク質を指す。それは、TNFファミリーの39 kDa II型膜糖タンパク質である。CD40Lは、215アミノ酸の細胞外ドメイン、24アミノ酸の膜貫通領域、および22アミノ酸の細胞質側末端からなる、261アミノ酸のポリペプチドである。
【0022】
用語「抗体」は、本明細書において用いられる場合、モノクローナル抗体を指し、当技術分野において公知の組換え技術によって作製されている組換え抗体に限定されない。「抗体」には、2つの本質的に完全な重鎖および2つの本質的に完全な軽鎖を有する任意の種の抗体、特に、哺乳類種の抗体、IgA1、lgA2、IgD、IgG1、lgG2a、lgG2b、lgG3、lgG4、IgEおよびIgMを含む任意のアイソタイプのヒト抗体、その改変バリアント、ならびに/またはその抗原結合断片が含まれる。
【0023】
用語「Fab」は、本明細書において用いられる場合、抗体の重鎖の1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインならびに軽鎖の1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインを含む抗体断片を指す。「Fab’」分子は、ヒンジドメインをさらに含むFabである。
【0024】
用語「Fab-PEG」または「Fab’-PEG」は、PEG部分と組み合わせたFabまたはFab’部分をそれぞれ含む分子に関する。FabまたはFab’分子は、ペグ化するために、修飾アミノ酸残基、例えば、システイン残基またはリジン残基を含むことができる。例えば、Fab分子は、改変が、エフェクター分子の付着を可能にする1つまたは複数のアミノ酸のその重鎖のC末端への付加である、改変Fab断片であり得る。追加のアミノ酸は、エフェクター分子が付着され得る1つまたは複数のシステイン残基を含有する改変ヒンジ領域を形成し得る。
【0025】
FabまたはFab’部分は、組換えFabまたはFab’部分をコードする1つまたは複数の発現ベクターを形質移入した原核生物宿主細胞または真核生物宿主細胞を培養することによって入手することができる。例えば、真核生物宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳類細胞であってよい。原核生物宿主細胞は典型的には、大腸菌(E. coli)細胞などのグラム陰性細菌である。宿主細胞は、それらの増殖および組換えタンパク質の発現を支持する任意の培地中で培養され得る。各宿主細胞にとって最良の条件は当業者に公知である。
【0026】
産生で用いられる宿主細胞に応じて、細胞培養の上清、細胞周辺腔、または封入体のいずれかから回収された後に、FabまたはFab’部分は精製することができる。精製方法は当業者に周知である。精製方法は典型的には、種々のクロマトグラフィー工程およびろ過工程の組み合わせを含む。全工程は典型的には、水性条件で実施される。最初のシリーズの精製工程後、FabまたはFab’部分は、ペグ化され、さらに精製することができる。プロセスの最後に回収された溶液は、製剤化を受けることができる。
【0027】
用語「PEG」は、ポリ(エチレングリコール)部分を指す。他の適切なPEG化合物としては、これらに限定されないが、マレイミドモノメトキシPEG、活性化PEGポリプロピレングリコール、メトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが含まれるが、以下の種類の荷電ポリマーまたは中性ポリマーもまた含まれる:デキストラン、コロミン酸、または他の炭水化物ベースのポリマー、アミノ酸のポリマー、ならびにビオチンおよび他のアフィニティ試薬誘導体。PEG化合物の大きさは、所望するところに応じて変化し得るが、概して平均で500Da~50000Da、例えば、20000~40000Daなど5000~40000Daの分子量範囲である。ポリマーの大きさは特に、製品の意図する用途、例えば、腫瘍などのある特定の組織に局在する能力または循環半減期を延長する能力に基づき選択され得る(Chapman, 2002を参照)。したがって、例えば、製品が、例えば腫瘍の処置での使用のために、循環を離れて組織に浸透することを意図とする場合、例えば、およそ5000Daの分子量を有する、低分子量ポリマーを使用することは利点となり得る。製品が循環中のままである用途では、例えば、20000Da~40000Daの範囲での分子量を有する、より高い分子量のポリマーを使用することが利点となり得る。
【0028】
用語「PEG化」は、カップリング剤またはカップリング部分もしくは活性化部分による誘導体化(例えば、チオール、トリフラート、トレシラート(tresylate)、アジリジン、オキシラン、および/またはマレイミド部分による、例えば、PEG-マレイミド)の有りまたは無しで、PEG部分またはその誘導体のそのパートナー分子(例えば、FabまたはFab’分子)への、例えば共有結合による、付着を指す。例えば、PEG部分は、Fab’または改変Fabのヒンジ領域中のシステインに付着させてもよい。代替的にまたは付加的に、PEG改変Fab断片は、改変ヒンジ領域中に1個のチオール基に共有結合的に連結されたマレイミド基を有してもよい。リジン残基は、マレイミド基に共有結合的に連結され得、リジン残基上のアミン基の各々に、およそ20,000 Daの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが付着され得る。したがって、Fab断片に付着したPEGの総分子量はおよそ40,000 Daであり得る。最良のペグ化方法は当業者に周知である。
【0029】
用語「CD40Lに特異的に結合する」、「ヒトCD40Lに特異的に結合する」、および同等の記載は、本明細書において用いられる場合、ペグ化されたまたはされていないFabまたはFab’分子が、生物学的に意味のある作用を達成するのに十分な親和性および特異性でCD40L/ヒトCD40Lに結合することを意味する。選択された分子は通常、CD40L/ヒトCD40Lについて結合親和性を有し、例えば、FabまたはFab’分子は、100nM~1 pMの間のKd値でヒトCD40Lに結合し得る。用語「Kd」は、本明細書において用いられる場合、特定のFabまたはFab’分子-抗原の相互作用の解離定数を指すことを意図し、その標的に対するFabまたはFab’分子の親和性を表す。親和性は、例えば、BIAcoreアッセイなどの表面プラズモン共鳴アッセイ;酵素結合免疫吸着測定法(ELISA);および/または競合アッセイ(例えば、RIA)によって、決定され得る。本発明の意味の範囲内で、CD40L/ヒトCD40Lに特異的に結合するFabまたはFab’分子は、別の分子、例えば、cyno CD40Lにも結合し得る。CD40L/ヒトCD40Lに特異的に結合するFabまたはFab’分子はまた、CD40L/ヒトCD40Lを中和し得る。
【0030】
用語「中和する」は、本明細書において用いられる場合、特異的に結合する分子の生物学的作用を阻害するかまたは実質的に低減させる、ペグ化されているまたはされていないFabまたはFab’分子を指す。したがって、「FabまたはFab’分子がCD40L/ヒトCD40Lを中和する」という表現は、CD40LまたはヒトCD40Lに特異的に結合し、かつ例えばCD40へのCD40Lの結合を阻止することによって、その生物学的作用を阻害するかまたは実質的に低減させる、FabまたはFab’分子を指す。
【0031】
ペグ化されているまたはされていないFabまたはFab’分子との関連での用語「高濃度」または関連用語は、該分子の濃度が少なくとも50 mg/mLであることを意味する。
【0032】
用語「安定性」は、本明細書において用いられる場合、本発明による製剤におけるペグ化されているまたはされていないFabまたはFab’分子の物理的、化学的、および立体配座的安定性を指す。タンパク質製剤の不安定性は、例えば、高次ポリマーを形成するタンパク質の化学的分解または凝集、脱グリコシル、グリコシル化または酸化の改変によって、引き起こされ得る。
【0033】
用語「安定製剤」は、関心対象のタンパク質(ここでは、ペグ化されているまたはされていないFabまたはFab’分子)が貯蔵時にその物理的、化学的および/または生物学的特性を本質的に保持している製剤を指す。製剤におけるタンパク質安定性を測定するために、種々の分析方法が十分に当業者の知識の範囲内である(実施例の欄のいくつかの実施例を参照)。安定性は典型的には、選択した温度(例えば、-70℃、2~8℃、25℃、または35℃以上)で選択した期間(例えば、 3ヶ月、6ヶ月、または12ヶ月以上)にわたって評価される。FabまたはFab’分子(ペグ化されているまたはされていない)は典型的には、ひとたび製剤化されると、患者に投与される前に冷蔵庫(典型的には2~8℃)内でまたは室温(典型的には15~25℃)で貯蔵されることから、該製剤化分子は、例えば2~8℃および25℃で示されるように、少なくとも2~25℃である期間にわたって安定であることが重要である。(初期データと比較して)所与の期間にわたる安定性を特徴づけるために、(これらに限定されないが、)例えば以下の種々の値を用いることができる:1)貯蔵が25℃で実施される場合、抗体の単量体形態の1年当たりの変化が10%以下、2)貯蔵が2~8℃で実施される場合、高分子量種(HMWまたはHMWS;本明細書において凝集物とも呼ばれる)の変化が約0.5ポイント/年(年当たり0.5%)以下、もしくは貯蔵が25℃で実施される場合、HMWSの変化が約3ポイント/年(年当たり3%)以下、および/または3)pHの+/- 0.3単位以下の変動。
【0034】
本明細書において用いられる場合、「薬学的組成物」は、いずれの区別なく、「安定薬学的組成物」、「製剤」、または「安定製剤」とも称することができる。
【0035】
用語「緩衝液」は、 本明細書において用いられる場合、薬学的用途または獣医学的用途での製剤において安全であることが公知であり、かつ製剤にとって望ましいpH範囲内に製剤のpHを維持または制御する作用を有する、化合物の溶液を指す。
【0036】
用語「界面活性剤」は、 本明細書において用いられる場合、疎水性の油性物質の水溶性を向上させるかまたはそうではなく異なる疎水性を有する2種類の物質の混和性を向上させるために特に用いることができる、可溶性化合物を指す。この理由から、これらのポリマーは通常、工業的用途、化粧品、および医薬品で用いられる。それらはまた、特に、薬物の吸収または標的組織へのその送達を改変するために、薬物送達用途のモデル系としても用いられる。周知の界面活性剤としては、ポリソルベート(Tweenとしても公知のポリオキシエチレン誘導体; PS20またはPS80など)ならびにポロクサマー(すなわち、Pluronics(登録商標)としても公知のエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドに基づくコポリマー)が挙げられる。
【0037】
用語「安定化剤」、「安定剤」または「等張剤」は、本明細書において用いられる場合、生理的に許容されかつ製剤に対して適切な安定性/浸透圧を付与する化合物である。それは特に、製剤と接触している細胞膜を通過する水の正味の流動を妨げる。凍結乾燥(freeze-drying)(凍結乾燥(lyophilisation))プロセスの間、安定剤は凍結保護剤としても有効である。グリセリンなどの化合物は通常、そのような目的で用いられる。他の適切な安定作用物質としては、これらに限定されないが、アミノ酸またはタンパク質、塩類(例えば、塩化ナトリウム)、および糖類(例えば、デキストロース、トレハロース、スクロース、およびラクトース)が挙げられる。いくつかの態様において、安定化剤はスクロースである。
【0038】
用語「増量剤」は、凍結乾燥された後に薬学的調製物の凍結乾燥物または残留固体塊に構造を与え、かつ崩壊からそれを保護する化学物質を指す。結晶化可能な増量剤は、凍結乾燥の間に結晶化することができる本明細書に記載される増量剤を意味するものとする。該増量剤は、例えばグリシンであることができる。
【0039】
用語「凍結乾燥(freeze-drying)」は、「凍結乾燥(lyophilization)」としても知られ、少なくとも3つの主要な工程からなる凍結乾燥製剤を得るためのプロセスを指す:1)凝固点を下回るまで凍結乾燥させる製品の温度を低下させる(典型的には、-40℃~-80℃;凍結工程)、2)高圧真空(典型的には、30~300 mTorr;第1の乾燥工程)、および3)温度を上昇させる(典型的には、20℃~40℃;第2の乾燥工程)。抗体を含む溶液の凍結乾燥のための技術は、当技術分野において周知である。SYNAGIS(商標)、REMICADE(商標)、CIMZIA(登録商標)、RAPTIVA(商標)、SIMULECT(商標)、XOLAIR(商標)、およびHERCEPTIN(商標)など、多数の市販のモノクローナル抗体製品は、凍結乾燥製剤として供給される。凍結乾燥製剤は、「凍結乾燥製剤」さらには「凍結乾燥物」としても公知である。
【0040】
用語「バイアル」または「容器」は、本明細書において用いられる場合、液体形態または凍結乾燥形態で、本明細書に記載の製剤を保持するのに適しているリザーバーを広い意味で指す。同様に、製剤が凍結乾燥形態下にある場合、それは再構成のための溶媒を保持する。本発明において用いることができるバイアルの例としては、アンプル、チューブ、ボトル、シリンジ(プレフィルドシリンジなど)、カートリッジ、または注射を介する、例えば、静脈内注入もしくは皮下注射を介する、患者への製剤の送達に適している他のそのようなリザーバーが挙げられる。
【0041】
用語「溶媒」は、本明細書において用いられる場合、水性溶媒を指す。該水性溶媒は、水単独からなってもよく、または水+1種もしくは複数種の混和性溶媒を含んでもよく、かつ糖類、緩衝液、塩類、または他の賦形剤などの溶解溶質を含んでもよい。非限定的な水性溶媒としては、水(注射用の水など)、さらには食塩溶媒または食塩緩衝液(PBSなど)が挙げられる。
【0042】
用語「再構成時間」は、本明細書において用いられる場合、望ましい体積の溶媒(例えば、水または食塩緩衝液)で凍結乾燥物を再構成するのに要する時間を意味する。予想外なことに、優れた賦形剤は、少なくとも約10%以上の全再構成時間を低減させる。再構成時間は、再構成される再構成の最終体積によって決まる。典型的には、例えば、許容可能な再構成時間は、1mLの体積あたり10分以下の範囲内であると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の詳細な説明
本発明は一部には、緩衝液中でのスクロースおよびグリシンの組み合わせ、より具体的には、ある特定の比率での組み合わせは、薬学的組成物の加工性(processability)に影響を与えることなく、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子に対して長期安定性を与えるFab-PEGまたはFab’-PEG分子含有凍結乾燥薬学的組成物をもたらすという、発明者らの驚くべき発見に基づく。発明者らの発見は、本発明による薬学的組成物は、特に、例えば2~8℃および25℃で示されるように、2~25℃にて凍結乾燥状態で貯蔵した場合、ある期間にわたって安定であるというものである。いくつかの態様において、本発明による凍結乾燥製剤はまた、再構成するのが容易である(20分未満)。
【0044】
1つの局面において、本発明は、
a.約50~約200 mg/mLの濃度でのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、
b.pHを約5.0~約7.0の間で維持する緩衝液、
c.約1~約5%w/vのスクロース、
d.約0.5~約4%w/vのグリシン、および
e.任意で界面活性剤
を含む、液体薬学的組成物を提供する。
【0045】
いくつかの態様において、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は好ましくは、ヒトCD40LなどCD40Lに好ましくは特異的に結合する、ヒト化抗体またはヒト抗体に由来する。
【0046】
いくつかの態様において、該Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、WO 2008/118356(その全体が本明細書において組み入れられる)に開示されるペグ化されたFabまたはFab’断片であり、かつSEQ ID NO:4、5および6のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDR1、CDR2およびCDR3を有する軽鎖可変領域(LCVR)、ならびにSEQ ID NO:1、2および3のアミノ酸配列をそれぞれ有するCDR1、CDR2およびCDR3を有する重鎖可変領域(HCVR)を有する。いくつかの態様において、該Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、SEQ ID NO:7に示されるVL鎖配列およびSEQ ID NO:8に示されるVH鎖配列を有する。いくつかの態様において、該Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、SEQ ID NO:9に示される軽鎖配列およびSEQ ID NO:10に示される重鎖配列を有する。いくつかの態様において、該Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、WO 2008/118356に記載されるように、改変ヒンジ領域中のシステインでPEG化される。いくつかの態様において、マレイミド基は、改変ヒンジ領域中のシステインにおける1個のチオール基に共有結合的に連結される。いくつかの態様において、リジン残基は次いで、該マレイミド基に共有結合的に連結され、およそ20 KDaの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが、リジン残基上のアミン基の各々に付着する。したがって、一価のFab’ に共有結合的に連結されたPEG全体の総分子量は、およそ40 KDaであり得る。本発明による抗CD40L Fab-PEGまたはFab’-PEG分子はまた、SEQ ID NO:7もしくはそれと少なくとも80%の同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域、および/またはSEQ ID NO:8もしくはそれと少なくとも80%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域も含み得る。代替的にまたは付加的に、本発明による抗CD40L Fab-PEGまたはFab’-PEG分子はまた、SEQ ID NO:9 もしくはそれと少なくとも80%の同一性を有する配列を含む軽鎖、および/またはSEQ ID NO:10もしくはそれと少なくとも80%の同一性を有する配列を含む重鎖も含み得る。
【0047】
したがって、いくつかの態様において、本発明による薬学的組成物および/または凍結乾燥製剤は、
a.SEQ ID NO:1において定義される配列を有するCDR-H1;SEQ ID NO:2において定義される配列を有するCDR-H2;SEQ ID NO:3において定義される配列を有するCDR-H3;SEQ ID NO:4において定義される配列を有するCDR-L1;SEQ ID NO:5において定義される配列を有するCDR-L2;およびSEQ ID NO:6において定義される配列を有するCDR-L3を含むか;または
b.SEQ ID NO:7において定義される配列を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列を有する重鎖可変領域を含むか;または
c.SEQ ID NO:7において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する重鎖可変領域を含む、
Fab-PEGまたはFab’-PEG分子を含む。
【0048】
本明細書の全体にわたって、相補性決定領域(「CDR」)は、Kabatの定義(Kabat definition)(Kabat et al., (1991), 5th edition, NIH publication No. 91-3242)により定義される。
【0049】
いくつかの態様において、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は薬学的組成物中に、約50~約200 mg/mLの濃度、例えば、約70~約150 mg/mL、例えば、約70、約75、約80、約85、約90、約95、約100、約105、約110、約115、約120、約125、 約130、約135、約140、約145、または約150 mg/mLの濃度で存在する。代替的にまたは付加的に、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は液体薬学的組成物中に、100mL当たりの重量(グラム)(%w/v)を単位として表される量で存在する。よって、いくつかの態様において、全体として薬学的組成物中に存在するFab-PEGまたはFab’-PEG分子は、約5~約20%w/vの量で、例えば、約7~約15%w/v、例えば、約7.0、約7.5、約8.0、約8.5、約9.0、約9.5、約10.0、約10.5、約11.0、約11.5、約12.0、約12.5、約13.0、約13.5、約14.0、約14.5、または約15.0%w/vの量で存在することができる。薬学的組成物が凍結乾燥されると、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、重量当たりの重量(%w/w)を単位として表され得る量で存在する。よって、いくつかの態様において、全体として凍結乾燥物(すなわち、凍結乾燥製剤)中に存在するFab-PEGまたはFab’-PEG分子は、約50~約80%w/wの量で、例えば、約55~約75%w/w、例えば、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、または約75.0%w/wの量で存在することができる。例えば、いくつかの態様において、凍結乾燥物中のFab-PEGまたはFab’-PEG分子の濃度は約67.0%w/wである。
【0050】
本発明による液体薬学的組成物は全体として、pHを約5.0~約7.0の間で維持する緩衝液を含む。pHを弱酸性pHから中性pHで制御するのに許容可能な緩衝液としては、これらに限定されないが、リン酸、酢酸、クエン酸、ヒスチジン、アルギニン、TRIS、およびヒスチジン緩衝液が挙げられる。「TRIS」は、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3,-プロパンジオールおよび任意のその薬理学的に許容される塩を指す。いくつかの態様において、液体薬学的組成物は、5.0(または約5.0)~7.0(または約7.0)の間に含まれるpH、例えば、5.0(または約5.0)~6.0(または約6.0)の間に含まれるpH、例えば、(約)5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、または6.0のpHを維持するヒスチジン緩衝液、例えばヒスチジン-HCl緩衝液を含む。本発明の態様の全てにおいて、別段の指示がない限り、pH値は23~25℃で測定され、pH単位の±0.1または±0.2の範囲内である。いくつかの態様において、ヒスチジン緩衝液は、それらの割合が当業者によって決定される所望のpHによって決定される、ヒスチジンおよびヒスチジン-HClの混合物を含む緩衝液であり、本明細書において、ヒスチジン/ヒスチジン-HCl緩衝液とも称され得る。
【0051】
いくつかの態様において、液体薬学的組成物中の緩衝液濃度は約10~約100 mMである。いくつかの態様において、緩衝液の濃度は、約10~約50 mM、例えば、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、または約50 mMである。例えば、緩衝液の濃度は、20 mMまたは約20 mMであることができる。薬学的組成物が凍結乾燥されると、緩衝液は、重量当たりの重量(%w/w)を単位として表され得る量で存在する。そのような場合において、凍結乾燥物は、約2%~約14%w/wまたは約3~約14%w/wの量で、例えば、約2%~約12%w/wまたは3~約12%w/w、例えば、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、または約12%w/wの量で存在する緩衝液を含む。例えば、いくつかの態様において、凍結乾燥物中の緩衝液の濃度は約2.5~2.6%w/wである。さらなる態様において、凍結乾燥物中の緩衝液の濃度は約2.6~2.8%w/wである。
【0052】
全体として本発明の文脈において、スクロースは液体薬学的組成物中に、約1~約5%w/v、例えば、約1.5~約4%w/vの量で、または、いくつかの態様において、約2~約4%w/vの量で、例えば、約2.0、約2.25、約2.5、約2.75、約3.0、約3.25、約3.5、約3.75、もしくは約4.0%w/vの量で存在する。例えば、スクロースの量は約2.5%w/vであることができる。薬学的組成物が凍結乾燥されると、スクロースは、重量当たりの重量(%w/w)を単位として表され得る量で存在する。そのような場合において、凍結乾燥物は、約7~約30%w/w、例えば、約10~約25%w/wの量で、または、いくつかの態様において、約15~25%w/w、例えば、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、もしくは約25%w/wの量でスクロースを含む。例えば、いくつかの態様において、凍結乾燥物中のスクロースの量は、約16.5~16.75%w/wであることができる。
【0053】
全体として本発明の文脈において、グリシンは液体薬学的組成物中に、約0.5~約4%w/v、例えば、約1~約3%w/vの量で、または約1.5~約3%w/vの量で、例えば、約1.5、約1.75、約2.0、約2.25、約2.5、約2.75、約3.0%w/vの量で存在する。いくつかの態様において、本発明により用いられるグリシンはL-グリシンである。例えば、グリシンの量は約2.0%w/vであることができる。薬学的組成物が凍結乾燥されると、グリシンは、重量当たりの重量(%w/w)を単位として表され得る量で存在する。そのような場合において、凍結乾燥物は、約3.5~約24%w/wの量で、例えば、約7~約20%w/wまたは約10~約20%w/w量で、例えば、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、または約20%w/wの量でグリシンを含む。例えば、いくつかの態様において、凍結乾燥物中のグリシンの量は約13.3~13.5%w/wであることができる。
【0054】
全体として本開示の文脈において、界面活性剤は任意で、液体薬学的組成物中に存在し得る。存在する場合、該界面活性剤は、例えば、PS20などのポリソルベートである。界面活性剤は、約0.01%~約0.2%w/vの濃度で、例えば、約0.02%~約0.1%(w/v)の濃度で、例えば、約0.02、約0.03、約0.04、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、または約0.1%(w/v)の濃度で、水性抗体分子含有溶液中に加えられる。例えば、界面活性剤はPS20であり、かつ約0.05%w/vの量である。薬学的組成物が凍結乾燥されると、界面活性剤は、重量当たりの重量(%w/w)を単位として表される量で存在する。そのような場合において、凍結乾燥物は、約0.07~1.3%w/wの量で、例えば、約0.1~0.7%w/wの量で、例えば、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、または約0.7%w/wの量で、界面活性剤を含む。例えば、界面活性剤はPS20であり、かつ凍結乾燥物中のその量は0.3%w/wまたは約0.3%w/wであることができる。
【0055】
本発明者によって、全体として本発明の文脈において、重量/重量(w/w)比スクロース:グリシンが、凍結乾燥物の性能に重要な役割を果たすことが、驚くべきことに示されている。いくつかの態様において、比(w/w)スクロース:グリシンは約2:3~約2:1である。いくつかの態様において、比(w/w)スクロース:グリシンは、約3:4~約5:3または約4:5~約3:2である。いくつかの態様において、比(w/w)スクロース:グリシンは、約3:4、約4:5、約5:6、約9:10、約11:12、約1:1、約13:12、約7:6、約6:5、約5:4、または約4:3であることができる。例えば、比(w/w)スクロース:グリシンは約1:1または約5:4であることができる。したがって、いくつかの態様において、本明細書において、
a.約50~約200 mg/mLの濃度でのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、
b.pHを約5.0~約7.0の間で維持する緩衝液、
c.約2:3~約2:1の比(w/w)スクロース:グリシンでのスクロースおよびグリシン、および
d.任意で界面活性剤
を含む液体薬学的組成物が提供される。
【0056】
いくつかの態様において、液体薬学的組成物は、約50~約200 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0または約7.0のpHでの約10~約100 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約1~約5%w/vのスクロース、約0.5~約4%w/vのグリシン、および任意で約0.01~約0.2%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むか、またはそれらからなる。いくつかの態様において、液体薬学的組成物は、約70~約150 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約1.5~約4%w/vのスクロース、約1~約3%w/vのグリシン、および任意で約0.02~約0.1%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むか、またはそれらからなる。いくつかの態様において、本発明の液体薬学的組成物は、約70~約150 mg/mLでのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約2~約4%w/vのスクロース、約1.5~約3%w/vのグリシン、および任意で約0.02~約0.1%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むか、またはそれらからなる。例えば、本発明による液体薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、約2%w/vのグリシン、および約0.05%w/vのポリソルベート20を含むことができる。いくつかの態様において、本発明による液体薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、および約2%w/vのグリシンを含むことができる。いくつかの態様において、液体薬学的組成物は、約50~約200 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0または約7.0のpHでの約10~約100 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約2:3~約2:1の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに任意で約0.01~約0.2%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むか、またはそれらからなる。いくつかの態様において、液体薬学的組成物は、約70~約150 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約3:4~約5:3の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに任意で約0.02~約0.1%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むか、またはそれらからなる。いくつかの態様において、本発明の液体薬学的組成物は、約70~約150 mg/mLでのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約4:5~約3:2の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに任意で約0.02~約0.1%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むか、またはそれらからなる。例えば、本発明による液体薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、1:1または約5:4の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに約0.05%w/vのポリソルベート20を含むことができる。いくつかの態様において、本発明による液体薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、ならびに約1:1または約5:4の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシンを含むことができる。本発明はさらに凍結乾燥製剤を記載する。Fab-PEGまたはFab’-PEG分子を含む液体薬学的組成物の凍結乾燥のための技術は当技術分野において周知である。
【0057】
本発明は、約50~約80%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2%~約12%w/wまたは約3~約14%w/wの緩衝液、約7~約30%w/wのスクロース、約3.5~約24%w/wのグリシン、および任意で界面活性剤を含む凍結乾燥製剤をさらに記載する。いくつかの態様において、凍結乾燥製剤(すなわち、凍結乾燥物)は、約58~約75%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2%~約12%w/wまたは約3~約12%w/wの緩衝液、約10~約25%w/wのスクロース、約7~約20%w/wのグリシン、および任意で約0.07~約1.3%w/wの界面活性剤を含む。いくつかの態様において、凍結乾燥物は、約58~約75%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2%~約12%w/wまたは約3~約12%w/wの緩衝液、約15~約25%w/wのスクロース、約10~約20%w/wのグリシン、および任意で約0.1~約0.7%w/wの界面活性剤を含む。いくつかの態様において、凍結乾燥物は、約67%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2.5~2.6%w/wの緩衝液、約16.5~16.75%w/wのスクロース、約13.3~13.5%w/wのグリシン、および任意で約0.3%w/wの界面活性剤を含む。さらなる態様において、凍結乾燥製剤は、約67%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約2.6~2.8%w/wのヒスチジン緩衝液、約16.5および17.5%w/wのスクロース、約13.3~13.5%w/wのグリシン、および0.3~0.4%w/wのポリソルベート20を含む。
【0058】
当業者は、製剤成分の%w/wでの任意の所与の組成物中の構成成分の合計の組み合わせ量が、100%に等しくなることを理解する。本発明による凍結乾燥製剤の文脈における「pHを・・・の間で維持する・・・w/wの緩衝液」という表現は、凍結乾燥製剤が得られた出発液体製剤のpHを指すことも理解すべきである。例えば、約67%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約2.6~2.8%w/wのヒスチジン緩衝液、約16.5および17.5%w/wのスクロース、約13.3~13.5%w/wのグリシン、および0.3~0.4%w/wのポリソルベート20を含む凍結乾燥製剤では、pHを約5.5で維持するヒスチジン緩衝液は、約0.3~0.4%w/wのヒスチジンおよび2.3~2.4%w/wのヒスチジン-HClを含み得る。
【0059】
いくつかの態様において、凍結乾燥製剤は、全体として本発明による液体薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られる。したがって、以下:
a.約50~約200 mg/mLの濃度でのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、
b.pHを約5.0~約7.0の間で維持する緩衝液、
c.約1~約5%w/vのスクロース、
d.約0.5~約4%w/vのグリシン、および
e.任意で界面活性剤
を含む液体薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られた凍結乾燥製剤も包含される。
【0060】
いくつかの態様において、凍結乾燥製剤は、約50~約200 mg/mLでのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約7.0のpHでの約10~約100 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約1~約5%w/vのスクロース、約0.5~約4%w/vのグリシン、および任意で約0.01~約0.2%w/vのPS20を含むかまたはそれらからなる液体薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られる。いくつかの態様において、凍結乾燥製剤は、約70~約150 mg/mLでのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約1.5~約4%w/vのスクロース、約1~約3%w/vのグリシン、および任意で約0.02~約0.1%w/vのPS20を含むかまたはそれらからなる液体薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られる。いくつかの態様において、凍結乾燥製剤は、約70~約150 mg/mLでのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約2~約4%w/vのスクロース、約1.5~約3%w/vのグリシン、および任意で約0.02~約0.1%w/vのPS20を含むかまたはそれらからなる液体薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られる。例えば、凍結乾燥製剤は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、約2%w/vのグリシン、および約0.05%w/vのポリソルベート20を含む液体薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られる。いくつかの態様において、凍結乾燥製剤は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、および約2%w/vのグリシンを含む液体薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られる。
【0061】
本発明はさらに、上記の薬学的組成物のいずれかを製造するための方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、緩衝液、スクロース、グリシン、および界面活性剤と一緒にFab-PEGまたはFab’-PEG分子の混合物を形成する工程を含む。製造する工程は典型的には、従来の手法を用いて実行される。いくつかの態様において、本発明による適切な液体薬学的組成物を調製するために、所与の量のFab-PEGまたはFab’-PEG分子、例えば、約50~約200 mg/mLが、pHを約5.0~約7.0で維持する約10~約100 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約1~約5%w/vのスクロース、約0.5~約4%w/vのグリシン、および任意で界面活性剤と混合される。これらの化合物(すなわち、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子、緩衝液、スクロース、グリシン、および任意の界面活性剤)の各1つは、上記の濃度、pH、および/または比に従って用いることができる。その結果生じる混合物は、次いで、バイアル内に分注される。このプロセスの変化形態は、当業者によって認識される。
【0062】
本発明はさらに、上記の凍結乾燥製剤(すなわち凍結乾燥物)のいずれかを製造するための方法を提供する。いくつかの態様において、そのような方法は、以下の工程を含む:1)緩衝液、スクロース、グリシン、および任意の界面活性剤と一緒にFab-PEGまたはFab’-PEG分子の混合物を形成する工程、2)工程1)の混合物を凍結乾燥に供する工程、および3)凍結乾燥製剤を回収する工程。製造する工程は、従来の手法を用いて実行される。いくつかの態様において、適切な安定製剤を調製するために、1)所定の量のFab-PEGまたはFab’-PEG分子、例えば、約50~約200 mg/mLが、pHを約5.0~約7.0で維持する約10~約100 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約1~約5%w/vのスクロース、約0.5~約4%w/vのグリシン、および任意で約0.01~約0.2%w/vのPS20と混合され、2)その結果生じる工程1)の混合物が凍結緩衝に供され、かつ 3)凍結乾燥物が回収される。化合物(すなわち、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子、緩衝液、スクロース、グリシン、および任意の界面活性剤)の各1つは、上記の濃度、pH、および/または比に従って用いることができる。その結果生じる凍結乾燥物は次いで、バイアル内に分注される。このプロセスの変化形態は、当業者によって認識される。
【0063】
本発明による液体薬学的組成物または凍結乾燥製剤内の使用のための追加の賦形剤には、いずれの限定なしに、増粘剤、増量剤、安定化剤、および/またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0064】
本発明はまた、本発明による薬学的組成物の入った容器も提供する。いくつかの態様において、容器は、これらに限定されないが、薬学的組成物を含むバイアル、アンプル、チューブ、ボトル、および/またはシリンジ(例えば、プレフィルドシリンジ)であり得る。
【0065】
いくつかの態様において、容器は、本発明による液体薬学的組成物または凍結乾燥製剤を含む1つまたは複数の容器、および送達デバイス、例えば、シリンジ、プレフィルドシリンジ、オートインジェクター、ニードルレスデバイス、インプラント、もしくはパッチ、および/または非経口投与用の他のデバイス、ならびに使用説明書を含む、キット・オブ・パーツ(kit-of-parts)の一部であり得る。
【0066】
本発明はまた、上記の液体薬学的製剤または凍結乾燥製剤および使用説明書を含むキット・オブ・パーツも提供する。さらなる態様において、キット・オブ・パーツは、1つまたは複数の容器中の本発明による液体または凍結乾燥製剤および使用説明書を含む。
【0067】
本発明はまた、上記の液体薬学的組成物または凍結乾燥製剤のいずれかの入った容器を含む、薬学的用途または獣医学的用途のための、製造物品も提供する。使用説明書を提供する包装材料もまた記載される。
【0068】
本明細書において提供される凍結乾燥製剤、特にシングルユースの凍結乾燥製剤は、溶媒で再構成されると、薬学的用途または獣医学的用途での使用に適している。再構成で用いられる溶媒の体積は、結果として生じる液体薬学的組成物中のFab-PEGまたはFab’-PEG分子の濃度を決定する。凍結乾燥前の体積より少ない体積の溶媒での再構成は、凍結乾燥前より濃縮されている製剤を提供し、逆もまた同様である。したがって、本発明は、溶媒を添加することによって、本発明による凍結乾燥薬学的組成物を再構成するための方法を提供する。いくつかの態様において、溶媒は水(例えば、注射用水)または食塩緩衝液(例えば、PBS)である。再構成の比(凍結乾燥薬学的組成物を再構成するために用いられる溶媒に対する凍結乾燥前の薬学的組成物の体積)は、約2:1から約1:10まで、例えば、約2:1、約3:2、約1:1、または約1:2など、変化し得る。したがって、非限定的な例として、凍結乾燥前の薬学的組成物が、100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する20 mMのヒスチジン緩衝液、2.5%w/vのスクロース、2%w/vのグリシン、および0.05%w/vのポリソルベート20を含むかまたはそれらからなる場合、および再構成の比が1:1である場合、再構成された製剤は、100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する20 mMのヒスチジン緩衝液、2.5%w/vのスクロース、2%w/vのグリシン、および0.05%w/vのポリソルベート20を含む。
【0069】
本発明はさらに、凍結乾燥製剤の再構成後に、結果として生じる液体製剤が、約70~約150 mg/mLでのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約2~約4%w/vのスクロース、約1.5~約3%w/vのグリシン、および任意で約0.02~約0.1%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むことを特徴とする、凍結乾燥製剤を記載する。例えば、本発明による再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、約2%w/vのグリシン、および約0.05%w/vのポリソルベート20を含むことができる。いくつかの態様において、本発明による再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、および約2%w/vのグリシンを含むことができる。いくつかの態様において、再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約50~約200 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0または約7.0pHでの約10~約100 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約2:3~約2:1の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに任意で約0.01~約0.2%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むかまたはそれらからなる。いくつかの態様において、再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約70~約150 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約3:4~約5:3の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに任意で約0.02~約0.1%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むかまたはそれらからなる。いくつかの態様において、本発明の再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約70~約150 mg/mLでのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、約5.0~約6.0のpHでの約10~約50 mMの緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)、約4:5~約3:2の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに任意で約0.02~約0.1%w/vの界面活性剤(例えば、PS20)を含むかまたはそれらからなる。例えば、本発明による再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、1:1または約5:4の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシン、ならびに約0.05%w/vのポリソルベート20を含むことができる。いくつかの態様において、本発明による再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMのヒスチジン緩衝液、ならびに約1:1または約5:4の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシンを含むことができる。他の態様において、本発明による再構成後の凍結乾燥薬学的組成物は、約70 mg/mlのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約14 mMのヒスチジン/ヒスチジンHCl緩衝液、ならびに約1:1または約5:4の各比(w/w)でのスクロースおよびグリシンを含むことができる。
【0070】
いくつかの態様において、本発明の凍結乾燥製剤は、少なくとも約12ヶ月間から約24ヶ月間維持され得る。いくつかの態様において、好ましい貯蔵条件下で、最初の使用前に、製剤は、明るい光を避け(好ましくは暗中で)、約2~約25℃の温度で、例えば、室温(約20~25℃)または約2~8℃で維持される(以下の実施例を参照)。
【0071】
本発明による薬学的組成物および/または再構成凍結乾燥物は、治療での使用のためのものである。例えば、本発明による薬学的組成物または再構成凍結乾燥物は、種々の障害または疾患、例えば、自己免疫疾患、炎症性疾患、がん、腫瘍性疾患、および/または神経変性疾患の処置で用いることができる。本発明はまた、本発明による薬学的組成物および/または再構成凍結乾燥物を投与する工程を含む、哺乳類対象において種々の障害または疾患、例えば、自己免疫疾患、炎症性疾患、がん、腫瘍性疾患、および/または神経変性疾患を処置するための方法も提供する。いくつかの態様において、本発明による薬学的組成物および/または再構成凍結乾燥物は、種々の障害または疾患、例えば、自己免疫疾患、炎症性疾患、がん、腫瘍性疾患、および/または神経変性疾患の処置のための医薬の製造において用いられ得る。
【0072】
全体として本発明の文脈において、自己免疫疾患または炎症性疾患には、これらに限定されないが、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚エリテマトーデス(CLE)、薬物誘発性エリテマトーデス、または新生児ループスを含む狼瘡、関節リウマチ、強直性脊椎炎、ループス腎炎、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、側頭動脈炎、ANCA関連血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、抗リン脂質症候群、膜性糸球体腎症、グッドパスチャー症候群、免疫グロブリンA腎症、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、慢性移植片拒絶、アトピー性皮膚炎、尋常性天疱瘡、乾癬、喘息、アレルギー、全身性強皮症、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、横断性脊髄炎、慢性免疫性多発ニューロパチー、重症筋無力症、アジソン病、甲状腺炎、自己免疫性胃炎、悪性貧血、セリアック病、潰瘍性大腸炎、サルコイドーシス、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、ベーチェット病、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性糖尿病、ライム神経ボレリア症、間質性肺疾患が含まれる。神経変性疾患には、これらに限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、フリードライヒ運動失調症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症、多巣性運動ニューロパチー、原発性側索硬化症、多発性硬化症、脊髄性筋萎縮症、ケネディ病、および脊髄小脳変性症が含まれる。同様に、状態、例えば、アテローム動脈硬化症、心不全、変形性関節症、非アルコール性脂肪性肝炎、過敏性腸症候群、クローン病、糖尿病合併症(腎障害、神経障害、動脈症、網膜症)、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性気道疾患、てんかん、緑内障、加齢黄斑変性、精神障害(不安、うつ状態、精神病)、慢性疲労症候群、腱付着部症/腱障害、早産児/胎内感染、肥満症/メタボリックシンドローム、皮膚科学的状態(尋常性ざ瘡、しゅさ性ざ瘡、日光角化症)、異常創傷治癒(ケロイド瘢痕)、泌尿生殖器障害(前立腺症/前立腺炎、過活動膀胱)。
【0073】
全体として本発明の文脈において、本発明による薬学的組成物および/または再構成凍結乾燥製剤(凍結乾燥物)は、哺乳類対象における自己免疫炎症性障害、神経変性障害、または神経筋障害を処置する方法において使用するものであり、該方法は、約24 mg/kgの用量の、CD40Lに特異的に結合するFab-PEGまたはFab’-PEGを、そのような処置の必要がある対象に、4週毎に約1回の頻度で投与する工程を含む。いくつかの態様において、本発明による凍結乾燥製剤は、使用説明書にしたがって再構成され、静脈内投与用の食塩液バッグに加えられる。
【0074】
ある特定の態様において、本発明の凍結乾燥製剤は、約67%w/wのCD40Lに特異的に結合するFab-PEGまたはFab’-PEG、pHを約5.5で維持する約2.6~2.8%w/wのヒスチジン/ヒスチジンHCl緩衝液、約16.5および17.5%w/wのスクロース、約13.3~13.5%w/wのグリシン、および0.3~0.4%w/wのポリソルベート20を含み、哺乳類対象において全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患を処置する方法での使用のために、使用説明書にしたがって再構成され、該方法は、24 mg/kgの用量のCD40Lに特異的に結合するFab-PEGまたはFab’-PEGを、そのような処置の必要がある対象に、4週毎に約1回の頻度で投与する工程を含む。ある特定の態様において、本発明の再構成凍結乾燥製剤は、少なくとも24週間、または少なくとも48週間投与される。
【0075】
特定の態様において、CD40Lに特異的に結合するFab-PEGまたはFab’-PEGは、
a)SEQ ID NO:1において定義される配列を有するCDR-H1;SEQ ID NO:2において定義される配列を有するCDR-H2;SEQ ID NO:3において定義される配列を有するCDR-H3;SEQ ID NO:4において定義される配列を有するCDR-L1;SEQ ID NO:5において定義される配列を有するCDR-L2;およびSEQ ID NO:6において定義される配列を有するCDR-L3を含むか;または
b)SEQ ID NO:7において定義される配列を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列を有する重鎖可変領域を含むか;または
c)SEQ ID NO:7において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する重鎖可変領域を含むか;または
d)SEQ ID NO:9において定義される軽鎖およびSEQ ID NO:10において定義される重鎖を含む。
【0076】
いくつかの態様において、Fab-PEGまたはFab’-PEG分子は、
a)改変ヒンジ領域中の1個のチオール基に共有結合的に連結されたマレイミド基を含み;リジン残基が、マレイミド基に共有結合的に連結されており;かつ
b)およそ20 KDaの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが、リジン残基上のアミン基の各々に付着している。
【0077】
さらなる態様において、本発明の再構成凍結乾燥製剤は、追加の治療剤との組み合わせで、自己免疫炎症性障害、神経変性障害、または神経筋障害の処置の方法における使用のためのものである。例えば、本発明の再構成凍結乾燥製剤は、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、または免疫介在性障害の病因に関与することが公知である多数の炎症誘発性サイトカイン、例えば、TNF、IL-1、IL-6、CTLA-4、JAK、IFN(例えば、アニフロルマブ)を標的とする療法、もしくはCD19、CD20(例えば、リツキシマブ)、CD22、BAFF(例えば、ベリムマブ)、およびBlyS/APRIL(例えば、アタシセプト)などB細胞活性を標的とする療法と同時投与され得る。
【0078】
いくつかの態様において、本発明の凍結乾燥製剤は、安定性を改善しており、約2~約25℃の温度で、例えば、室温(約20~25℃)または約2~8℃で容易に貯蔵することができる(以下の実施例を参照)。実際、本発明者らは、約67%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2.5~2.6%w/wの緩衝液、約16.5~16.75%w/wのスクロース、約13.3~13.5%w/wのグリシン、および任意で約0.3%w/wの界面活性剤を含む凍結乾燥製剤が、特に約2~約25℃の温度で貯蔵した場合、ある期間にわたって安定であることを見出している。該製剤は、Fab-PEGまたはFab’-Peg分子の凝集を最小化するが、再構成のための時間も低減させる。
【0079】
以下の実施例は、本発明の製剤および組成物の調製をさらに例示するために提供される。本発明の範囲は、以下の実施例のみからなると解釈されるべきではない。
【0080】
配列の説明
【実施例
【0081】
略語
DLS(動的光散乱);SEC(サイズ排除クロマトグラフィー);SE-HPLC(サイズ排除高速液体クロマトグラフィー);CEX:陽イオン交換クロマトグラフィー;Suc(スクロース);PS20(ポリソルベート20);Gly(グリシン);Man(マンニトール);Tre(トレハロース);His(ヒスチジン);Lac(ラクトース);Cit(シトラート);Ace(アセタート);Pov(ポビドン);Aggr:凝集。FD:凍結乾燥する(freeze-drying)または凍結乾燥された(freeze-dried);conc:濃度;prelyo:凍結乾燥前;recon:再構成
【0082】
材料
活性医薬成分は、本明細書においてFab1と名付けられた、Fab’-PEGである。その軽鎖配列はSEQ ID NO:9に示され、その重鎖配列はSEQ ID NO:10に示される。この分子は、WO 2008/118356に記載されるように、改変ヒンジ領域内のシステインでPEG化される。マレイミド基が、改変ヒンジ領域内のシステイン中の1個のチオール基に共有結合的に連結され;リジン残基が、マレイミド基に共有結合的に連結され;かつおよそ20 KDaの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが、リジン残基上のアミン基の各々に付着している。したがって、一価のFab’ に共有結合的に連結されたPEG全体の総分子量は、およそ40 KDaである。それは、製剤作業の前に、50mM酢酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、pH 5.0(本明細書においてDSと名付けられる)での液体組成物として提示される。
【0083】
方法
再構成:
凍結乾燥品を、標準的な方法を用いて、すなわち、バイアル内に水を注入することによって、再構成した。ケーキが透明溶液へと完全に溶解される時間を、ストップウォッチで測定した。
【0084】
外観(再構成の前および後)
ケーキの構造的完全性を視覚的に確認し、欠陥があれば報告した。観察を写真材料によって支援した。再構成試料の外観分析を実施して、色を確認しかつ可視粒子を検出した。外観分析は視覚的評価に基づいた。
【0085】
タンパク質濃度:
タンパク質濃度を、標準的な方法にしたがって、およそ1mg/mLに希釈した後に280nmで吸収を測定することによって決定し、較正されている分光光度計を用いて分析した。試料が視認可能なほど凝集している場合、試料を短時間遠心分離し、沈殿物を取り除き、吸引された上清に対して濃度を決定する必要がある場合がある。次いで、確立されている消衰係数を用いて以下の式により、試料濃度を算出する:
(c=タンパク質濃度(mg/mL); A280=280nmでの吸光度; dil=希釈係数;Em=消衰係数(0.82 mL/mg.cm);b=路長(cm))。
【0086】
タンパク質凝集、高分子量種、および低分子量種:
SECまたはSE-HPLCを標準的な方法にしたがって用いて、再構成製剤中の製品関連種(例えば、低分子量種、凝集物、および高分子量種)を分離および定量した。検出および定量を214nmでのUV吸光度によって行った。
【0087】
酸性種および塩基性種:
標準的な方法(340nmでの発光および280nmでの励起での蛍光検出を用いる)にしたがって、CEX分析を用いて、電荷プロファイルを決定し、総酸性種および塩基性種の値を提供した。
【0088】
実施例1:予備スクリーニング
製剤開発を、少なくとも緩衝液および安定剤を予め選択する予備スクリーニング試験から始めた(表1を参照)。凍結乾燥について標準的な手法を適用した。凍結乾燥前の製剤は100mg/mLのFab1を含有し、バッファー交換によって調製された。
【0089】
(表1)予備スクリーニング製剤
【0090】
凍結乾燥試料を、Fab1濃度100 mg/mLの製剤についてはバイアル内に0.5mlの水を注入することによって、および抗体濃度50 mg/mLの製剤についてはバイアル内に1.0 mlの水を注入することによって、再構成した。
【0091】
凍結乾燥製剤を、凍結乾燥品のケーキ外観によって評価した。それらは、欠陥のない、許容可能で、白色の、十分に形成されたケーキに見えた(写真は示さず)。
【0092】
(表2)再構成時間および再構成後のFab1濃度
a.凍結乾燥ケーキの体積効果のために、タンパク質濃度は典型的には、最初の凍結乾燥製剤のものより低かった。
【0093】
次いで、試料を再構成時間およびタンパク質濃度について評価した(表2を参照)。
【0094】
見てとれるように、50 mg/mL製剤と100mg/mL製剤との間で再構成時間は劇的に増加しており、再構成時間は100mg/mL製剤でより顕著であった。0.5mlの水で再構成されると、溶液は、凍結乾燥前の製剤と比較して希釈されたことに留意されたい。
【0095】
100 mg/mLの抗体を有する製剤について、タンパク質凝集もまた決定された(表3を参照)。異なる製剤でタンパク質凝集の有意差は観察されなかった。
【0096】
(表3)凍結乾燥前/再構成後のタンパク質凝集
a.データなし、クロマトグラムでポビドンによる干渉
【0097】
タンパク質凝集において有意差は認められなかったことから、異なる製剤の比較において、再構成時間のみが考慮された。最初のデータの検討から既に明らかなように、ポビドンは再構成時間に対して負の作用を有した。マンニトールは、再構成時間に対して正の作用を有することを示した。モデルでは、緩衝液としてヒスチジンおよび安定剤としてスクロースが好適であった。界面活性剤(0.01% Tween 20)の作用は有意ではなかった。
【0098】
実施例2:最適化スクリーニング
スクリーニング試験(実施例1)により、最適なプレ製剤がスクロース/マンニトール製剤であることが示され、最適化のためにさらなる評価を行った。高pH製剤は、酸性種の増加に関連して製品の安定性に問題を引き起こすことから、ヒスチジンpH6.0以外の他の緩衝液もまた、製剤最適化について考慮に入れ、酸性種の増加について評価した(表4の製剤を参照)。
【0099】
(表4)最適化製剤
【0100】
全ての試料を再構成時間、タンパク質凝集、および酸性種について評価した(表5;t0での値を参照)。
【0101】
(表5)再構成時間(Recon時間)、再構成後のタンパク質濃度(Fab1 conc)、ならびに凍結乾燥前(prelyo)/再構成後(after recon)の凝集および酸性種
a.再構成時間は3回の測定の平均である。
b.CEX分析は、特に製剤8~10で、遅延性であり、より高い酸性種含量をもたらした。
【0102】
次いで、全ての製剤を、タンパク質凝集に関する分解に対してFab-PEG製品を安定化および保護し、ある期間にわたって酸性種を増加させる、それらの能力について評価した(表6)。液体試料(凍結乾燥されていない製剤)および凍結乾燥試料を、4週間にわたって2~8℃および30℃でインキュベートした。
【0103】
(表6)安定性の促進:タンパク質凝集および酸性種(4週後、T0値は表5で報告)
a.SECカラムの実行によって、凝集種の明らかに低い含量が説明され、t0と比較して4週後で安定性を低下させた。しかしながら、データは依然として異なる製剤間で比較可能である。
b.CEX分析は、特に製剤8~10で、遅延性であり、より高い酸性種含量をもたらした。
【0104】
DS製剤(100mg/mL Fab1、50mM 酢酸Na、125mM NaCl、pH5.0)では、タンパク質凝集および酸性種の重大な増加が、30℃にて4週後に観察されたが、凍結乾燥品の大部分は、安定であったことを示した。より高いスクロース:マンニトール比を含む製剤は、低いスクロース:マンニトール比を含む製剤より安定であることを示した。特に、マンニトールのみを含む製剤は、タンパク質凝集および酸性種の重大な増加を示した(表6、製剤31)。ヒスチジン緩衝液を含む製剤は、乳酸緩衝液またはクエン酸緩衝液より安定であることが判明した。液体製剤では、より高いpHは酸性種の加速的増加をもたらし、特に、ヒスチジン製剤は50%を上回る酸性種を生じさせた。このことは、凍結乾燥によって水を取り除くことが、酸性種の増加に対してDPを安定化するのに最も重要な因子であることを示す。
【0105】
実施例1のように、再構成時間は、ヒスチジン緩衝液を含む製剤で最短であった(表5)。
【0106】
再構成時間の局面と安定性の局面との両方を考慮すると、ヒスチジンpH6.0は、緩衝液として最良の選択であることを示した。スクロース:マンニトールの比は、再構成時間(低スクロース:マンニトール比)と安定性(高スクロース:マンニトール比)との間の妥協案であった。凍結乾燥製剤の最適組成は、20mMヒスチジンpH 6.0、2.5%スクロース、2.5%マンニトール、100mg/mLの抗体分子として決定された。この製剤の再構成時間は、5分未満(0.5 mLの水で再構成)であり、30℃にて4週後ですら酸性種の増加に対して安定であった。
【0107】
実施例3:さらなる最適化試験
分子に関する重要な問題は、特に、酸性種のレベルの増加をもたらすスクシンイミドPEGリンカーの加水分解および開環に関する、その安定性である。リンカーの加水分解は、pHに強く依存する。pHの増加で、加水分解は加速される。酸性種の増加の速度は、凍結乾燥製剤では低下した。一方で、製剤調製時および再構成後のリンカーの加水分解を最小化するために、凍結乾燥製剤のpHを低下させること、ならびにさらなる最適化製剤の候補を特定することが推奨された。この点について、マンニトールに代えてグリシンを含むさらなる製剤を異なるpHで評価した(表7)。
【0108】
(表7)さらなる製剤の組成
A1およびB1: -20℃での昇華による凍結乾燥;A2およびB2: -5℃での昇華による凍結乾燥
【0109】
(表8)再構成時間および再構成後のタンパク質濃度(製剤を水で0.5 mLの最終体積に再構成した)
【0110】
(表9)凝集および酸性種
【0111】
残留水分は、-20℃での昇華によって得られた凍結乾燥製剤では1~2%であり、-5℃での昇華による凍結乾燥製剤では1%以下であった(データは示さず)。
【0112】
再構成時間は、特定の製剤では、10分未満さらには3分未満であった(表8)。2~8℃で4週の貯蔵後、特に40℃で4週後、再構成時間は、特に-5℃での昇華による凍結乾燥サイクルで得られた凍結乾燥製剤では、有意に増加した。
【0113】
2.5%スクロースおよび2.5%グリシンを含む製剤では、重量モル浸透圧濃度は450mOsmより高く、再構成製剤のpHは標的pHより0.2~0.5高かった(データは示さず)。
【0114】
凝集レベルは、特に40℃で4週後に、乳酸製剤でわずかに高かった(表9)。さらに、酸性種のレベルの重大な増加が乳酸製剤で観察された(表9)。
【0115】
グリシンは、グリシンを1.5%だけ含む製剤で結晶化しなかった。しかし、2.0%グリシンを有する製剤、特に2.5%グリシンを有する製剤では、グリシンの部分的結晶化が観察された(データは示さず)。より高い昇華温度は、より高い含量の結晶グリシンをもたらさなかった。グリシンは、グリシンの最も安定性の低い多形形態である、β-多形として結晶化された。
【0116】
20mMヒスチジンpH 6.0、2.5%スクロース、2.0%グリシン、0.05% Tween20中の100mg/mL Fab1は、実施例1および2で特定されたスクロース/マンニトール製剤の凍結乾燥製剤の代替候補と考えられた。スクロース/グリシン凍結乾燥製剤はまた、良好な再構成および安定性特性も示した。しかしながら、この製剤の重量モル浸透圧濃度は、スクロース/マンニトール製剤のものより高かった。
【0117】
緩衝液組成および緩衝液pHの評価は、pH5.5でのヒスチジン緩衝液がFab1凍結乾燥製剤の最良の選択であったことを示唆した。
【0118】
実施例4:長期安定性試験
pHの増加で、加水分解の加速の危険性がある。加えて、実施例2では、pHが酸性種の増加に対して劇的な作用を有することが示された。さらに、図3に示されるように、2.0%グリシンを有する製剤、特に2.5%グリシンを有する製剤では、グリシンの部分的結晶化が観察された。したがって、これまでの実施例で特定された最も好ましい製剤を全て、より低いpHで、すなわち、pH 6.0の代わりにpH 5.5で評価した(表10を参照)。
【0119】
(表10)製剤の組成
【0120】
凍結乾燥物は、欠陥のない、許容可能で、白色の、十分に形成されたケーキに見えた(写真は示さず)。再構成後かつ安定性試験の開始2ヶ月後まで、製剤は、無色の液体で、わずかに乳発光を発し、目に見える粒子はないように見えた。再構成後、安定性試験の開始後6~12ヶ月、製剤は、わずかに黄色の液体で、わずかに乳発光を発し、目に見える粒子はないように見えた。
【0121】
(表11)経時的な再構成時間
25℃/60%RH;30℃/65%RHおよび40℃/75%RH
【0122】
(表12)経時的な凝集(SE-HPLC)
【0123】
(表13)経時的な低分子量種(SE-HPLC)
【0124】
(表14)経時的な総酸性種
【0125】
(表15)経時的な総塩基性種
【0126】
3種類の製剤は、6ヶ月間の安定性試験を受けた(表11~15を参照)。6ヶ月安定性データを踏まえ、製剤Kを選択し、さらに6ヶ月間安定性試験を続けた。選択された製剤は驚くべきことに、最も一定かつ短い再構成時間、凝集に対する最良の安定性プロファイル(SE-HPLCおよびDLS)、および酸性種の増加に対する良好な安定性を示した(表11~15を参照)。
【0127】
製剤Iは、ポリソルベート含有製剤JおよびKより、大きな凝集物の含有量が高いため、選択されなかった(データは示さず)。製剤Jは、製剤Kと比較して再構成時間のばらつきがより高いことから、選択されなかった。
【0128】
参考文献
【0129】
本発明のさらなる局面:
1. a.約50~約200 mg/mLの濃度でのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、
b.pHを約5.0~約7.0の間で維持する緩衝液、
c.約1~約5%w/vのスクロース、
d.約0.5~約4%w/vのグリシン、および
e.任意で界面活性剤
を含む、液体薬学的組成物。
2. 請求項1記載の薬学的組成物を凍結乾燥することによって得られた凍結乾燥製剤。
3. a.約50~約80%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、
b.pHを約5.0~約7.0の間で維持する約3~約14%w/wの緩衝液、
c.約7~約30%w/wのスクロース、
d.約3.5~約24%w/wのグリシン、および
e.任意で界面活性剤
を含む、凍結乾燥製剤。
4. Fab-PEGまたはFab’-PEG分子がヒト化抗体またはヒト抗体に由来する、請求項1記載の液体薬学的組成物、または請求項2もしくは請求項3記載の凍結乾燥製剤。
5. Fab-PEGまたはFab’-PEG分子がCD40Lに特異的に結合する、請求項1もしくは請求項4記載の液体薬学的組成物、または請求項2~4のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
6. Fab-PEGまたはFab’-PEG分子が、
a.SEQ ID NO:1において定義される配列を有するCDR-H1;SEQ ID NO:2において定義される配列を有するCDR-H2;SEQ ID NO:3において定義される配列を有するCDR-H3;SEQ ID NO:4において定義される配列を有するCDR-L1;SEQ ID NO:5において定義される配列を有するCDR-L2;およびSEQ ID NO:6において定義される配列を有するCDR-L3を含む;または
b.SEQ ID NO:7において定義される配列を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列を有する重鎖可変領域を含む;または
c.SEQ ID NO:7において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する軽鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8において定義される配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは90%の同一性を有する重鎖可変領域を含む、
請求項1および4~5のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~5のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
7. Fab-PEGまたはFab’-PEG分子が、
a)改変ヒンジ領域中の1個のチオール基に共有結合的に連結されたマレイミド基を有し;リジン残基が、該マレイミド基に共有結合的に連結されており;かつ
b)およそ20 KDaの分子量を有するメトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーが、該リジン残基上のアミン基の各々に付着している、
請求項6記載の液体薬学的組成物または凍結乾燥製剤。
8. 緩衝液がヒスチジン緩衝液である、請求項1および4~7のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~7のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
9. 緩衝液の濃度が約10~約50 mMである、請求項1および4~8のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~8のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
10. 界面活性剤が約0.01~約0.2%の量である、請求項1および4~8のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~8のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
11. 任意の界面活性剤がポリソルベートである、請求項1および4~10のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~10のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
12. ポリソルベートがPS20である、請求項11記載の液体薬学的組成物または凍結乾燥製剤。
13. スクロース:グリシンの比(w/w)が2:3~2:1または約2:3~約2:1である、請求項1および4~12のいずれか一項記載の液体薬学的組成物、または請求項2~121のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
14. 約100 mg/mLのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.5で維持する約20 mMの緩衝液、約2.5%w/vのスクロース、約2%w/vのグリシン、および任意で約0.05%w/vのPS20を含む、請求項1および4~13のいずれか一項記載の液体薬学的組成物。
15. 約67%w/wのFab-PEGまたはFab’-PEG分子、pHを約5.0~約7.0の間で維持する約2.5~2.6%w/wの緩衝液、約16.5~16.75%w/wのスクロース、約13.3~13.5%w/wのグリシン、および任意で約0.3%w/wの界面活性剤を含む、請求項2~13のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤。
16. 以下の工程:
a.薬学的組成物を得るために、緩衝液、スクロース、グリシン、および任意の界面活性剤と一緒にFab-PEGまたはFab’-PEG分子の混合物を形成する工程、ならびに
b.工程a.の混合物を凍結乾燥に供する工程、ならびに
c.凍結乾燥製剤を回収する工程
を含む、請求項2~13および15のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤を作製するための方法。
17. 溶媒を添加することによって、請求項2~13および15~16のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤を再構成するための方法であって、溶媒が水または食塩緩衝液であり得る、前記方法。
18. 請求項1および4~14のいずれか一項記載の液体薬学的組成物または請求項2~13および15~17のいずれか一項記載の凍結乾燥製剤の入った容器を含む、製造物品。
【配列表】
2024542784000001.xml
【国際調査報告】