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特表2024-542793SARS関連コロナウイルスに対する中和抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】SARS関連コロナウイルスに対する中和抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/10 20060101AFI20241108BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241108BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P31/14
A61P11/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533080
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2022084119
(87)【国際公開番号】W WO2023099688
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211717.0
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21215292.0
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524207585
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート ツー ケルン
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】クライン,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンシラ,カニカ
(72)【発明者】
【氏名】グリュル,ヘニング
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA45
4B065CA60
4C085AA03
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB42
4C085BB43
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA29
4H045EA31
4H045EA60
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、SARS関連コロナウイルスに対する抗体またはその抗原結合断片、そのような抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物、そのような抗体またはその抗原結合断片を含むキット、ならびに医薬としての、およびSARS関連コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、抗体またはその抗原結合断片および医薬組成物およびキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS関連コロナウイルスに対する抗体またはその抗原結合断片であって、
R200-1B9(配列番号27のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号28のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号29のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号30のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号31のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号32のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R207-2F11(配列番号33のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号34のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号35のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号36のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号37のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号38のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R40-1G8(配列番号39のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号40のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号41のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号42のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号43のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号44のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2G5(配列番号45のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号46のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号47のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号48のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号49のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号50のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2B11(配列番号51のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号52のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号53のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号54のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号55のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号56のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R207-2G4(配列番号57のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号58のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号59のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号60のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号61のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号62のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R40-1C8(配列番号63のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号64のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号65のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号66のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号67のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号68のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2B9(配列番号69のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号70のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号71のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号72のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号73のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号74のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-1B3(配列番号75のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号76のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号77のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号78のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号79のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号80のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2E1(配列番号81のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号82のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号83のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号84のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号85のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号86のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-1G9(配列番号87のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号88のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号89のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号90のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号91のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号92のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R121-1F1(配列番号93のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号94のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号95のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号96のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号97のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号98のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R259-1B9(配列番号99のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号100のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号101のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号102のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号103のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号104のCDR-L3アミノ酸配列を有する)
を含む群から選択される1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3および軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列の組合せを含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
R200-1B9(配列番号1の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号2の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R207-2F11(配列番号3の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号4の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R40-1G8(配列番号5の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号6の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R568-2G5(配列番号7の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号8の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R568-2B11(配列番号9の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号10の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R207-2G4(配列番号11の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号12の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R40-1C8(配列番号13の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号14の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R568-2B9(配列番号15の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号16の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R568-1B3(配列番号17の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号18の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R568-2E1(配列番号19の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号20の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R568-1G9(配列番号21の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号22の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R121-1F1(配列番号23の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号24の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、
R259-1B9(配列番号25の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号26の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)
を含む群から選択される1つの抗体の可変領域重鎖アミノ酸配列および可変領域軽鎖アミノ酸配列の組合せを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
含まれる前記アミノ酸配列が、R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、R568-2G5、R568-2B11、R207-2G4、R40-1C8、R568-2B9、およびR568-1B3を含む群から選択される1つの抗体、好ましくは、R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、およびR568-2G5を含む群からの1つの抗体のものである、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記SARS関連コロナウイルス株が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記CDRまたはその中に含まれる前記可変領域のアミノ酸配列が、多くとも0.4μg/ml、好ましくは多くとも0.1μg/ml、より好ましくは多くとも0.05μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.025μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.01μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.0025μg/ml、特に好ましくは多くとも0.0015μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2系統B.1、B.1.1.7、B.1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2の各々を中和することができる抗体由来である、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記CDRまたはその中に含まれる前記可変領域のアミノ酸配列が、多くとも1.3μg/ml、好ましくは多くとも0.5μg/ml、より好ましくは多くとも0.05μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.02μg/ml、特に好ましくは多くとも0.01μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2スパイクエスケープ変異体69-70del、K417E、N439K、K444Q、V445A、G446V、L452R、Y453F、L455F、G476S、S477N、E484K、F486V、F490S、Q493R、Q493K、S494P、N501Yの各々を中和することができる抗体由来である、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記CDRまたは前記抗体もしくはその抗原結合断片に含まれる前記可変領域のアミノ酸配列が、多くとも0.0015μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいて出現SARS-CoV-2スパイクエスケープ変異体R346S、Q414H、N440K、およびT478Kの各々を中和することができる抗体から得られる、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記CDRまたはその中に含まれる前記可変領域のアミノ酸配列が、多くとも0.08μg/ml、好ましくは多くとも0.025μg/ml、より好ましくは多くとも0.01μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.006μg/ml、特に好ましくは多くとも0.002μg/mlの平均IC50で、全てのバリアントおよび変異体にわたって説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2バリアントWu-01、B.1、B.1.1.7、B.1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2、ならびにSARS-CoV-2エスケープ変異体69-70del、K417E、N439K、K444Q、V445A、G446V、L452R、Y453F、L455F、G476S、S477N、E484K、F486V、F490S、Q493R、Q493K、S494P、N501Y、R346S、Q414H、N440K、およびT478Kを中和することができる抗体由来である、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物であって、好ましくは、ヒト対象に対するワクチン組成物である、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、および容器を含むキット。
【請求項11】
医薬としての使用のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項9に記載の医薬組成物、または請求項10に記載のキット。
【請求項12】
ワクチンとしての使用のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項9に記載の医薬組成物、または請求項10に記載のキット。
【請求項13】
ヒト対象におけるSARS関連コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、好ましくは、ヒト対象における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項9に記載の医薬組成物、または請求項10に記載のキット。
【請求項14】
SARS関連コロナウイルスを有するヒト対象の感染、好ましくは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を有するヒト対象の感染の予防における使用のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項9に記載の医薬組成物、または請求項10に記載のキット。
【請求項15】
前記抗体またはその抗原結合断片が、静脈内注入、吸入適用、皮下注射または筋肉内注射によって投与され、好ましくは、前記抗体またはその抗原結合断片が、最大4000mg、好ましくは最大2400mg、より好ましくは最大1200mg、さらにより好ましくは最大600mg、さらにより好ましくは最大300mg、特に好ましくは最大150mgの絶対用量で投与される、請求項11から14のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
請求項1から8のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
【請求項17】
発現制御配列と機能的に会合している請求項16に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項18】
請求項16に記載の核酸または請求項17に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項19】
(a)前記抗体またはその抗原結合断片の発現を可能にする条件下で請求項18に記載の宿主細胞を培養することと、
(b)前記抗体またはその抗原結合断片を回収することと
を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片の作製方法。
【請求項20】
SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する少なくとも1つのさらなる抗体と組み合わせた医薬品における使用のための請求項1から8のいずれかに記載の抗体であって、前記さらなる抗体が異なる結合特異性を有する、抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS関連コロナウイルスに対する抗体またはその抗原結合断片、そのような抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物、そのような抗体またはその抗原結合断片を含むキット、ならびに医薬としての、およびSARS関連コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、抗体またはその抗原結合断片および医薬組成物およびキットに関する。本発明はさらに、SARS関連コロナウイルスによる感染を治療、予防またはその重症度を軽減する方法、ならびにそのような抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、そのような核酸を含む発現ベクター、そのような核酸または発現ベクターを含む宿主細胞、およびそのような抗体またはその抗原結合断片を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行により、過去1年半において世界中で400万人以上の命が失われた。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の大多数は軽度であるが、入院および死亡はあらゆる年齢層で起こる可能性があり、併存疾患を有する高齢者は特にリスクにさらされている。効果的なSARS-CoV-2ワクチンの迅速かつ成功的な開発は、非常に重要な打開策である。ワクチンは重症疾患および死亡を防ぐだけでなく、感染拡大を軽減することができる。
【0003】
しかしながら、ワクチン未接種の個体および十分な免疫応答を開始することができない免疫不全患者などの脆弱な集団は、依然として感染症および重篤な合併症にかかりやすいままである。さらに、抗原エスケープ変異を有するSARS-CoV-2バリアントの現在の増加は、承認された治療薬およびワクチンの有効性を低減させ、ブレイクスルー感染の発生率を増加させる可能性がある。これにより、重症疾患を予防し、罹患率を低減させることによってSARS-CoV-2感染を効果的に治療できる介入の必要性が正当化される。
【0004】
中和抗体(NAb)は、ウイルス感染を予防および駆除するための体液性免疫系の重要な部分である。それらは細胞内へのウイルス侵入を阻止し、Fc媒介性エフェクター機能を介してウイルス粒子のクリアランスを媒介することができる。高度な単一B細胞クローニング戦略は、SARS-CoV-2に対するB細胞応答を解明するのに役立ち、いくつかの強力なモノクローナル抗体(mAb)の単離をもたらした(Andreano,E.ら、(2021).Cell 184、1821~1835 e1816;Ju,B.ら、(2020).Nature 584、115~119;Kreer,C.ら、(2020).Cell 182、843~854 e812;Liu,L.ら、(2020).Nature 584、450~456;Robbiani,D.F.ら、(2020).Nature 584、437~442;Rogers,T.F.ら、(2020).Science 369、956~963;Zost,S.J.ら、(2020).Nat Med 26、1422~1427.)。
【0005】
これらのSARS-CoV-2抗体は、ウイルス表面上で発現するスパイク(S)タンパク質に対するものであり、ヒトACE-2受容体に結合することによってヒト細胞へのウイルス侵入を促進する。スパイクタンパク質上では、NAb応答の大部分はSARS-CoV-2スパイクS1ドメインの受容体結合ドメイン(RBD)またはN末端ドメイン(NTD)に向けられる。スパイクタンパク質のS2ドメインは、β-コロナウイルス(β-CoV)の中ではS1よりも保存されているが、S2ドメインを標的とするmAbはまれであり、効力が低い(Pinto,D.ら、(2021).Science 373、1109~1116;Sauer,M.M.ら、(2021).Nat Struct Mol Biol 28、478~486.)。
【0006】
RBD指向性抗体の非常に強力な中和能力は、COVID-19を治療および予防するためのmAbの臨床開発につながった。mAbによる受動免疫は、曝露された個体の感染を予防するだけでなく、COVID-19を治療し、重症疾患に進行するのを防ぐことができる。これらのmAbのいくつかはCOVID-19の治療のためのFDAおよびEMAの承認による使用の認可を受けているか、または現在、第III相臨床試験において調査されている。
【0007】
SARS-CoV-2感染の抗体媒介性治療の成功にもかかわらず、スパイクタンパク質における抗原エスケープ変異を有するSARS-CoV-2バリアントの最近の出現により、中和活性の喪失に起因して、有効性が低減するか、または認可された抗体の効果が効かなくなっている。
【0008】
特に、SARS-CoV-2オミクロンバリアント(系統B.1.1.529)が、最近、世界的規模でさらなるおよび新たなリスクを引き起こす可能性のある懸念すべきバリアントとして出現した。このバリアントは異常に多数の変異を示し、そのうちのかなりの数は、オミクロンバリアントを発見した時点では、ほとんどのCOVID-19ワクチンおよびSARS-CoV-2中和モノクローナル抗体が標的とするスパイクタンパク質に影響を及ぼしている。この変異レベルは現在、その感染性、免疫系の回避、およびワクチン耐性に関する懸念につながっている。
【発明の概要】
【0009】
したがって、新規のオミクロンバリアントを含む、循環または出現SARS-CoV-2バリアントに対する効力および有効性を保持する次世代のmAbを開発することが不可欠である。
【0010】
十分詳細に公開されている公的に入手可能な抗体と比較して、自己反応性を示さず、懸念される循環SARS-CoV-2バリアントおよび出現エスケープバリアントに対して優れた中和効力を有する、SARS関連コロナウイルスに対するヒト抗体に対する要求が依然として存在している。
【0011】
したがって、本発明の目的は、自己反応性を示さず、懸念される循環SARS-CoV-2バリアントおよび出現エスケープバリアントに対して優れた中和効力を有する、SARS関連コロナウイルスに対する新規モノクローナル抗体を提供することである。本発明のさらなる目的は、ヒトまたは動物対象におけるSARS関連コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療または予防、およびSARS関連コロナウイルスによるヒトまたは動物対象の感染の予防に使用することができる、SARS関連コロナウイルスに対する新規モノクローナル抗体を提供することである。
【0012】
さらに、本発明の目的は、最近同定されたSARS-CoV-2オミクロンバリアントに対して優れた中和効力を有する新規モノクローナル抗体を提供することである。
【0013】
これらの目的は、本明細書以下に規定される本発明の態様によって解決された。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、SARS関連コロナウイルスに対する抗体またはその抗原結合断片であって、R200-1B9(配列番号27のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号28のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号29のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号30のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号31のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号32のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R207-2F11(配列番号33のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号34のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号35のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号36のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号37のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号38のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R40-1G8(配列番号39のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号40のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号41のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号42のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号43のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号44のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R568-2G5(配列番号45のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号46のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号47のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号48のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号49のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号50のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R568-2B11(配列番号51のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号52のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号53のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号54のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号55のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号56のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R207-2G4(配列番号57のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号58のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号59のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号60のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号61のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号62のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R40-1C8(配列番号63のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号64のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号65のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号66のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号67のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号68のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R568-2B9(配列番号69のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号70のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号71のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号72のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号73のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号74のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R568-1B3(配列番号75のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号76のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号77のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号78のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号79のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号80のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R568-2E1(配列番号81のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号82のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号83のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号84のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号85のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号86のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R568-1G9(配列番号87のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号88のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号89のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号90のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号91のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号92のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R121-1F1(配列番号93のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号94のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号95のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号96のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号97のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号98のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、R259-1B9(配列番号99のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号100のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号101のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号102のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号103のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号104のCDR-L3アミノ酸配列を有する)を含む群から選択される1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3および軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列の組合せを含む、抗体またはその抗原結合断片が提供される。
【0015】
本発明の第1の態様の一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、R200-1B9(配列番号1の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号2の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R207-2F11(配列番号3の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号4の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R40-1G8(配列番号5の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号6の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R568-2G5(配列番号7の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号8の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R568-2B11(配列番号9の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号10の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R207-2G4(配列番号11の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号12の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R40-1C8(配列番号13の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号14の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R568-2B9(配列番号15の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号16の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R568-1B3(配列番号17の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号18の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R568-2E1(配列番号19の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号20の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R568-1G9(配列番号21の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号22の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R121-1F1(配列番号23の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号24の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)、R259-1B9(配列番号25の可変領域重鎖アミノ酸配列および配列番号26の可変領域軽鎖アミノ酸配列を有する)を含む群から選択される1つの抗体の可変領域重鎖アミノ酸配列および可変領域軽鎖アミノ酸配列の組合せを含む。
【0016】
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、含まれるアミノ酸配列は、R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、R568-2G5、R568-2B11、R207-2G4、R40-1C8、R568-2B9、およびR568-1B3を含む群から選択される1つの抗体、好ましくは、R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、およびR568-2G5を含む群からの1つの抗体のものである。
【0017】
本発明の第1の態様の別の実施形態によれば、SARS関連コロナウイルス株は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。
【0018】
本発明の第1の態様のさらに別の実施形態によれば、CDRまたは抗体もしくはその抗原結合断片に含まれる可変領域のアミノ酸配列は、多くとも0.4μg/ml、好ましくは多くとも0.1μg/ml、より好ましくは多くとも0.05μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.025μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.01μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.0025μg/ml、特に好ましくは多くとも0.0015μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2系統B.1、B.1.1.7、B.1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2の各々を中和することができる抗体から得られる。
【0019】
本発明の第1の態様のさらに別の実施形態によれば、CDRまたは抗体もしくはその抗原結合断片に含まれる可変領域のアミノ酸配列は、多くとも1.3μg/ml、好ましくは多くとも0.5μg/ml、より好ましくは多くとも0.05μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.02μg/ml、特に好ましくは多くとも0.01μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2スパイクエスケープ変異体69-70del、K417E、N439K、K444Q、V445A、G446V、L452R、Y453F、L455F、G476S、S477N、E484K、F486V、F490S、Q493R、Q493K、S494P、N501Yの各々を中和することができる抗体から得られる。
【0020】
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、CDRまたは抗体もしくはその抗原結合断片に含まれる可変領域のアミノ酸配列は、多くとも0.0015μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいて出現SARS-CoV-2エスケープバリアントR346S、Q414H、N440K、およびT478Kの各々を中和することができる抗体から得られる。
【0021】
本発明の第1の態様のさらに別の実施形態によれば、CDRまたは抗体もしくはその抗原結合断片に含まれる可変領域のアミノ酸配列は、多くとも0.08μg/ml、好ましくは多くとも0.025μg/ml、より好ましくは多くとも0.01μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.006μg/ml、特に好ましくは多くとも0.002μg/mlの平均IC50で、全てのバリアントおよび変異体にわたって説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2バリアントWu-01、B.1、B.1.1.7、B.1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2、ならびにSARS-CoV-2エスケープ変異体69-70del、K417E、N439K、K444Q、V445A、G446V、L452R、Y453F、L455F、G476S、S477N、E484K、F486V、F490S、Q493R、Q493K、S494P、N501Y、R346S、Q414H、N440K、およびT478Kを中和することができる抗体から得られる。
【0022】
本発明の別の実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片は、100μg/mlの濃度の抗体またはその抗原結合断片で、抗核抗体(ANA)検査キット(NOVA-Lite HEp-2 ANAキット;Inova Diagnostics)を使用して透過処理したHEp-2細胞に対して検査した場合、検出可能な結合パターンとして規定される自己反応性を示さない。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による抗体またはその抗原結合断片、および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0024】
本発明の第2の態様の実施形態によれば、医薬組成物は、ヒトまたは動物対象に対するワクチン組成物である。
【0025】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様による抗体またはその抗原結合断片、および容器を含むキットが提供される。
【0026】
本発明の第4の態様によれば、医薬としての使用のための、好ましくはワクチンとしての使用のための、本発明の第1の態様による抗体またはその抗原結合断片、本発明の第2の態様による医薬組成物、または本発明の第3の態様によるキットが提供される。
【0027】
本発明の第5の態様によれば、ヒトまたは動物対象におけるSARS関連コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、好ましくは、ヒトまたは動物対象における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、本発明の第1の態様による抗体またはその抗原結合断片、本発明の第2の態様による医薬組成物、または本発明の第3の態様によるキットが提供される。
【0028】
本発明の第6の態様によれば、SARS関連コロナウイルスによるヒトまたは動物対象の感染、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によるヒトまたは動物対象の感染の予防における使用のための、本発明の第1の態様による抗体またはその抗原結合断片、本発明の第2の態様による医薬組成物、または本発明の第3の態様によるキットが提供される。
【0029】
本発明の第7の態様によれば、ヒトおよび/または動物対象におけるSARS関連コロナウイルス感染を治療もしくは予防するか、または疾患の重症度を軽減する方法であって、本発明の第1の態様による少なくとも1つの抗体および/またはその抗原結合断片の治療有効量を前記対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0030】
本発明の第4の態様または第5の態様または第6の態様または第7の態様の実施形態によれば、抗体は、SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する少なくとも1つのさらなる抗体と組み合わせて提供され、前記さらなる抗体は異なる結合特異性を有する。
【0031】
本発明の第4の態様または第5の態様または第6の態様または第7の態様の実施形態によれば、抗体は、静脈内注入、皮下注射、筋肉内注射、または吸入適用によって投与される。
【0032】
本発明の第4の態様または第5の態様または第6の態様または第7の態様の一実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、最大4000mg、好ましくは最大2400mg、より好ましくは最大1200mg、さらにより好ましくは最大600mg、さらにより好ましくは最大300mg、特に好ましくは最大150mgの絶対用量で投与される。
【0033】
本発明の第8の態様によれば、本発明の第1の態様による抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸が提供される。
【0034】
本発明の第9の態様によれば、発現制御配列と機能的に会合している本発明の第8の態様による核酸を含む発現ベクターが提供される。
【0035】
本発明の第10の態様によれば、本発明の第8の態様による核酸または本発明の第9の態様による発現ベクターを含む宿主細胞が提供される。
【0036】
本発明の第11の態様によれば、本発明の第1の態様による抗体またはその抗原結合断片の作製方法であって、抗体またはその抗原結合断片の発現を可能にする条件下で本発明の第10の態様による宿主細胞を培養することと、抗体またはその抗原結合断片を回収することとを含む、作製方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】(A)SARS-CoV-2エリート中和者からモノクローナル抗体を同定および単離するために使用した研究設計の概略図;(B)研究したCOVID-19回復期コホートにおけるSARS-CoV-2Wu01シュードウイルスに対する血清または血漿IgG中和IC50値を示すヒートマップを示す図である(Vanshylla,K.ら、(2021).Cell Host Microbe 29、917~929)。円グラフはコホートにおけるエリート中和者の割合(3.3%)を示す。
図2】25個のSARS-CoV-2スパイクシュードウイルスバリアントに対する本発明のエリート中和者NAb(上のパネル)および参照抗体(下のパネル)の中和プロファイルを示す図である。平均IC50値およびバリアントにわたる相対的中和幅、ならびにIGHV3-53の使用量を右の列に示す。SARS-CoV-1およびコウモリ-CoV WIV-1シュードウイルスに対する中和活性を有する交差中和抗体R121-3G2およびR40-1E1を中央のパネルに示す。
図3】臨床使用のために承認された抗体を含む、公開されたモノクローナル参照抗体と比較した、循環バリアントB.1、B.1.1.7、B.1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2のスパイク配列を有するSARS-CoV-2シュードウイルスバリアントに対する本発明の最も広域(100%)かつ最も強力なエリートNabのIC50値を示すプロットを示す図である。灰色の領域は0.02μg/ml未満の値を強調表示し、線は全てのバリアントにわたる幾何平均IC50値を示す。
図4】4つの出現スパイク変異、R346S、Q414H、N440KおよびT478Kのうちの1つを有するSARS-CoV-2シュードウイルスに対して試験した公開された抗体とともに、本発明の13個の最も強力かつ広域なbNAbの中和分析を示す図である。
図5】研究で使用したVOCまたはVOIにおける変異した残基を強調したSARS-COV-2スパイクドメインの概略図を示す。
図6A】真のウイルス単離株に対して(μg/mlでIC100として示した)、および図2に示した25個のSARS-CoV-2スパイクシュードウイルスバリアントに対して、ならびに図4に示した4個の出現スパイク変異、R346S、Q414H、N440KおよびT478Kのうちの1つを有するSRAS-CoV-2シュードウイルスに対して(μg/mlでIC50として示した)、試験した公開された抗体とともに、本発明の13個の最も強力かつ広域なbNAb、ならびに本発明の交差中和抗体R121-3G2およびR40-1E1の中和効力の個々の値を示す図である。試験した25個全てのSARS-CoV-2シュードウイルスバリアントにわたる平均中和効力、ならびにSARS-CoV-1シュードウイルスおよびWIV-1(コウモリコロナウイルス)シュードウイルスに対する中和効力がさらに示される。
図6B】同上。
図6C】同上。
図6D】同上。
図7】オミクロンバリアントのBA.1系統において同定されたスパイクタンパク質変異を有するSARS-CoV-2スパイク疑似バリアントに対して(μg/mlでIC50として示した)、試験した公開された抗体とともに、本発明の13個の最も強力かつ広域なbNAb、ならびに本発明の交差中和抗体R121-3G2およびR40-1E1の中和効力についての個々の値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本説明をより容易に理解できるように、最初に特定の用語を定義する。さらなる定義は詳細な説明を通して記載される。
【0039】
「1つの(a)」または「1つの(an)」実体という用語は、その実体の1つまたは複数を指すことに留意されたい;例えば、「ヌクレオチド配列」は、1つまたは複数のヌクレオチド配列を表すと理解される。このように、「1つの(a)」(または「1つの(an)」)、「1つまたは複数」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書において互換的に使用され得る。
【0040】
さらに、本明細書で使用される「および/または」は、他の有無にかかわらず、2つの指定された特徴または構成要素の各々の具体的な開示とみなされる。したがって、本明細書において「Aおよび/またはB」などの語句で使用される場合、「および/または」という用語は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」(単独)、および「B」(単独)を含むことを意図する。同様に、「A、B、および/またはC」などの語句で使用される場合、「および/または」という用語は、以下の態様の各々を包含することを意図する:A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)。
【0041】
本明細書において「含む」という言語で態様が記載されている場合はいつでも、「からなる」および/または「から本質的になる」という用語で記載されている他の類似の態様も提供されることが理解される。
【0042】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が関連する技術分野における当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology、Juo,Pei-Show、2nd ed.、2002、CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology、3rd ed.、1999、Academic Press;およびOxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology、Revised、2000、Oxford University Pressは、本開示で使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供する。
【0043】
単位、接頭辞、および記号は、それらの国際単位系(SI)で認められている形式で表記される。数値範囲は、その範囲を定義する数値を含む。別段の指示がない限り、ヌクレオチド配列は5’から3’の方向で左から右に書かれている。アミノ酸配列は、アミノからカルボキシの方向で左から右に書かれている。本明細書で提供される見出しは、本明細書全体を参照することによって得ることができる本開示の様々な態様を限定するものではない。したがって、直後に定義される用語は、本明細書の全体を参照することによってより完全に定義される。
【0044】
「約」という用語は、本明細書において、およそ、おおよそ、その周辺、またはその領域を意味するために使用される。「約」という用語が数値範囲とともに使用される場合、それは、記載された数値の上下に境界を拡張することによってその範囲を修飾する。一般に、「約」という用語は、例えば10パーセントの上または下(より高いまたはより低い)の変動によって、述べられた値の上下の数値を修飾することができる。
【0045】
本明細書において、「抗体」という用語は、免疫グロブリン様ドメイン(例えば、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE)を有する分子を指すために最も広い意味で使用され、モノクローナル、組換え、ポリクローナル、キメラ、ヒト、ヒト化、二重特異性抗体を含む多重特異性抗体、およびヘテロコンジュゲート抗体;単一可変ドメイン(例えば、V、VHH、V、ドメイン抗体)、抗原結合抗体断片、Fab、F(ab’)、Fv、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv、ジスルフィド結合scFv、ダイアボディなどを含み、前述のいずれかの修飾型を含む。
【0046】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、生殖細胞系列の免疫グロブリン配列に由来し、抗原またはその抗原結合部分に特異的に結合することができるタンパク質を指す。この用語は、任意のクラスまたはアイソタイプ(すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよび/またはIgY)の全長抗体、および任意の一本鎖またはそれらの断片を含む。抗原またはその抗原結合部分に特異的に結合する抗体は、その抗原もしくはその部分のみに結合し得るか、またはそれは、限られた数の相同抗原もしくはその部分に結合し得る。全長抗体は通常、少なくとも4つのポリペプチド鎖:ジスルフィド結合によって相互に連結されている2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む。
【0047】
特に製薬上関心のある免疫グロブリンサブクラスの1つは、IgGファミリーである。ヒトでは、IgGクラスは、それらの重鎖定常領域の配列に基づいて4つのサブクラス:IgG、IgG、IgGおよびIgGに細分され得る。軽鎖は、それらの配列組成の相違に基づいて、2種類、カッパおよびラムダに分けられ得る。IgG分子は、2つ以上のジスルフィド結合によって連結された2つの重鎖、および各々がジスルフィド結合によって重鎖に結合した2つの軽鎖から構成される。重鎖は、重鎖可変領域(VH)および最大3つの重鎖定常(CH)領域:CH1、CH2およびCH3を含み得る。軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)を含み得る。
【0048】
VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存されている領域により点在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変性の領域にさらに細分され得る。VHおよびVL領域は典型的に、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に対して以下の順序で並んでいる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の超可変領域は、抗原と相互作用可能な結合ドメインを形成し、一方、抗体の定常領域は、特に限定されないが、免疫系の様々な細胞(エフェクター細胞)、Fc受容体および古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。本発明の抗体は単離されてもよい。
【0049】
「単離された抗体」という用語は、それが産生された環境中の(他の)成分から分離および/もしくは回収された抗体、ならびに/またはそれが産生された環境中に存在する成分の混合物から精製された抗体を指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって実行され得ることが示されているため、抗体のある特定の抗原結合断片は、本発明の文脈において好適であり得る。
【0050】
抗体の「抗原結合部分」、「結合断片」または「抗原結合断片」という用語は、本明細書に記載されているように、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質などの抗原に特異的に結合する能力を保持している抗体の1つまたは複数の断片を指す。
【0051】
抗原結合断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab)2、F(ab’)2、F(ab)S、Fv(典型的には、抗体の単一アームのVLおよびVHドメイン)、一本鎖Fv(scFv;例えば、Birdら、Science 242:42S-426(1988);Hustonら、PNAS 85:5879-5883(1988)を参照のこと)、dsFv、Fd(典型的には、VHおよびCH1ドメイン)、およびdAb(典型的には、Vドメイン)断片;V、V、VHH、およびV-NARドメイン;単一のV鎖および単一のV鎖を含む一価分子;ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、およびカッパボディ(例えば、Illら、Protein Eng 10:949~57(1997)を参照のこと);ラクダIgG;IgNAR;ならびに1つもしくは複数の単離されたCDRまたは機能的パラトープが挙げられ、単離されたCDRまたは抗原結合残基またはポリペプチドは、機能的抗体断片を形成するように一緒に会合または連結され得る。
【0052】
様々な種類の抗体断片が、例えば、HolligerおよびHudson、Nat Biotechnol 2S:1126~1136(2005);国際公開番号WO2005/040219、ならびに米国公開第2005/0238646号および同第2002/0161201号に記載または概説されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を使用して得ることができ、断片は、インタクトな抗体と同様の方法で有用性に関してスクリーニングすることができる。
【0053】
「ヒト」抗体(HuMAb)とは、フレームワークおよびCDR領域の両方がヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を指す。さらに、抗体が定常領域を含む場合、定常領域もヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列に由来する。本明細書に記載されるSARS-CoV-2抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダム変異誘発もしくは部位特異的変異誘発、またはin vivoでの体細胞変異によって導入された変異)を含むことができる。しかしながら、本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含むことを意図するものではない。「ヒト」抗体および「完全ヒト」抗体という用語は、同義的に使用される。
【0054】
「ヒト化」抗体とは、非ヒト免疫グロブリンに由来する1つまたは複数の配列(CDR領域またはその一部)を含むヒト/非ヒトキメラ抗体を指す。したがって、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの少なくとも残基が、所望の特異性、親和性、配列組成および機能性を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類由来などの非ヒト種由来の抗体(ドナー抗体)の超可変領域からの残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の場合、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。このような修飾の例は、1つまたは複数のいわゆる復帰突然変異の導入であり、これは典型的にはドナー抗体に由来するアミノ酸残基である。
【0055】
抗体のヒト化は、当業者に公知の組換え技術を使用して実施することができる(例えば、Antibody Engineering,Methods in Molecular Biology、vol.248、Benny K.C.Loによる編集を参照のこと)。軽鎖および重鎖可変ドメインの両方に対して適切なヒトレシピエントフレームワークは、例えば、配列相同性または構造相同性によって同定され得る。あるいは、固定したレシピエントフレームワークを、例えば、構造、生物物理学的および生化学的特性に関する知識に基づいて使用することもできる。レシピエントフレームワークは生殖細胞系列由来であってもよいか、または成熟抗体配列に由来してもよい。ドナー抗体からのCDR領域は、CDR移植によって移入することができる。
【0056】
CDR移植されたヒト化抗体は、ドナー抗体からのアミノ酸残基の再導入(復帰突然変異)がヒト化抗体の特性に有益な影響を与える重要なフレームワーク位置の同定によって、例えば、親和性、機能性および生物物理学的特性をさらに最適化することができる。ドナー抗体由来の復帰突然変異に加えて、ヒト化抗体は、CDRまたはフレームワーク領域における生殖細胞系列残基の導入、免疫原性エピトープの除去、部位特異的変異誘発、親和性成熟などによって操作することができる。
【0057】
さらに、ヒト化抗体はレシピエント抗体またはドナー抗体において見出されない残基を含むことができる。これらの修飾は抗体の性能をさらに改良させるために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを含み、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR残基の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域を含むこともできる。「ヒト化抗体誘導体」という用語は、抗体および別の薬剤または抗体のコンジュゲートなどの、ヒト化抗体の修飾された形態を指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、「組換えヒト抗体」という用語は、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックもしくはトランス染色体である動物(例えばマウス)から単離された抗体、またはそれから調製されたハイブリドーマ、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞、例えば、トランスフェクトーマから単離された抗体、(c)組換え、コンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、および(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作製または単離された抗体などの、組換え手段によって調製、発現、作製または単離された全てのヒト抗体を含む。
【0059】
このような組換えヒト抗体は、生殖細胞系列遺伝子によってコードされる特定のヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列を利用する可変領域および定常領域を含むが、例えば、抗体成熟の間に生じるその後の再編成および変異を含む。当該技術分野で知られているように(例えば、Lonberg Nature Biotech.23(9):1117~1125(2005)を参照のこと)、可変領域は抗原結合ドメインを含み、これは、外来抗原に特異的な抗体を形成するために再編成する様々な遺伝子によってコードされる。再編成に加えて、可変領域は、外来抗原に対する抗体の親和性を増加させるために複数の単一アミノ酸の変化(体細胞変異またはハイパーミューテーションと称される)によってさらに改変され得る。定常領域は抗原に応答してさらに変化する(すなわち、アイソタイプスイッチ)。
【0060】
したがって、抗原に応答して軽鎖および重鎖免疫グロブリンポリペプチドをコードする、再編成され、体細胞変異した核酸分子は、元の核酸分子と配列同一性を有することはできないが、代わりに実質的に同一または類似している(すなわち、少なくとも80%の同一性を有する)。
【0061】
「キメラ抗体」とは、可変領域がある種に由来し、定常領域が別の種に由来する抗体、例えば、可変領域がマウス抗体に由来し、定常領域がヒト抗体に由来する抗体を指す。
【0062】
代替抗体フォーマットには、抗原結合部分の1つまたは複数のCDRを、アフィボディ、SpAスキャフォールド、LDL受容体クラスAドメイン、アビマーまたはEGFドメインなどの適切な非免疫グロブリンタンパク質スキャフォールドまたは骨格上に配置することができる代替スキャフォールドが含まれる。
【0063】
「ドメイン」という用語は、タンパク質の残りの部分とは独立した三次構造を保持する、折り畳まれたタンパク質構造を指す。一般に、ドメインはタンパク質の個別の機能的特性を担っており、多くの場合、タンパク質の残りの部分および/またはドメインの機能を喪失することなく、他のタンパク質に付加、除去、または移入させることができる。
【0064】
「単一可変ドメイン」という用語は、抗体可変ドメインに特徴的な配列を含む折り畳まれたポリペプチドドメインを指す。したがって、それは、V、VHHおよびVなどの完全な抗体可変ドメイン、ならびに例えば、1つまたは複数のループが抗体可変ドメインに特徴的ではない配列によって置換された修飾された抗体可変ドメイン、あるいは短縮された、またはN末端もしくはC末端の伸長を含む抗体可変ドメイン、ならびに少なくとも全長ドメインの結合活性および特異性を保持する可変ドメインの折り畳まれた断片を含む。
【0065】
単一可変ドメインは、異なる可変領域またはドメインとは独立して抗原またはエピトープに結合することができる。「ドメイン抗体」または「dAb(商標)」は、「単一可変ドメイン」と同じとみなすことができる。単一可変ドメインはヒトの単一可変ドメインであり得るが、げっ歯類、コモリザメおよびラクダ科のVHH dAb(商標)などの他の種由来の単一可変ドメインも含む。ラクダ科のVHHは、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコを含む種に由来する免疫グロブリン単一可変ドメインポリペプチドであり、軽鎖を天然に欠いている重鎖抗体を産生する。このようなVHHドメインは、当該技術分野で利用可能な標準的な技術に従ってヒト化することができ、このようなドメインは「単一可変ドメイン」であるとみなされる。本明細書で使用される場合、Vはラクダ科のVHHドメインを含む。
【0066】
抗原結合断片は、非抗体タンパク質スキャフォールド上の1つまたは複数のCDRの配置によって提供され得る。本明細書で使用される場合、「タンパク質スキャフォールド」には、免疫グロブリン(Ig)スキャフォールド、例えば、IgGスキャフォールドが含まれるが、これらに限定されず、これは4つの鎖もしくは2つの鎖の抗体であってもよいか、またはこれは抗体のFc領域のみを含んでもよいか、またはこれは抗体由来の1つもしくは複数の定常領域を含んでもよく、その定常領域はヒトもしくは霊長類起源であってもよいか、またはこれはヒトおよび霊長類の定常領域の人工キメラであってもよい。
【0067】
本明細書で使用される「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、およびIgE抗体)を指す。
【0068】
「アロタイプ」とは、特定のアイソタイプ群内で天然に存在するバリアントを指し、このバリアントは少しのアミノ酸が異なる(Jefferisら、mAbs 1:1(2009)を参照のこと)。
【0069】
「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」という語句は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と互換的に使用される。
【0070】
用語「治療する」、「治療すること」、または「の治療」(または文法的に等価の用語)とは、対象の状態の重症度が低減されるか、または少なくとも部分的に好転もしくは改善されること、および/または少なくとも1つの臨床症状において何らかの緩和、軽減もしくは減少が達成されること、および/または状態の進行を遅延させることを意味する。
【0071】
本明細書で使用される用語「予防する(prevent)」、「予防する(prevents)」、または「予防」、および「阻害する(inhibit)」、「阻害する(inhibits)」、または「阻害」(およびそれらの文法的等価物)は、疾患の完全な消滅を示すことを意味するものではなく、状態の発生を低減させ、状態の発症を遅延させ、および/または発症後の状態に関連する症状を低減させる任意の種類の予防的処置を包含する。
【0072】
本明細書で使用される「有効な」、「予防的に有効な」、または「治療的に有効な」量は、対象にある程度の改善または利益をもたらすのに十分な量である。別の言い方をすると、「有効な」、「予防的に有効な」、または「治療的に有効な」量は、対象における少なくとも1つの臨床症状において、ある程度の遅延、緩和、軽減、または減少をもたらす量である。当業者は、ある程度の利益が対象にもたらされる限り、効果は完全または治癒的である必要はないことを理解するであろう。
【0073】
本明細書で使用される「中和抗体」は、病原体に結合し、病原体が細胞に感染する能力および/または対象において疾患を引き起こす能力を妨げる任意の抗体またはその抗原結合断片である。
【0074】
本明細書で使用される「ペプチド」は、本明細書で具体的に例示されるペプチドの保存的変異であるペプチドを含む。本明細書で使用される「保存的変異」および「保存的アミノ酸置換」は、別の生物学的に類似した残基によるアミノ酸残基の置換を示す。保存的変異の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、システイン、グリシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、ノルロイシンもしくはメチオニンなどの、ある疎水性残基の別の残基への置換、またはアルギニンのリジンへの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸への置換、もしくはグルタミンのアスパラギンへの置換などの、ある極性残基の別の残基への置換が挙げられるが、これらに限定されない。互いに置換され得る中性親水性アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリンおよびスレオニンが挙げられる。
【0075】
「保存的変異」はまた、置換されたポリペプチドに対して惹起された抗体が置換されていないポリペプチドとも免疫反応することを条件として、置換されていない親アミノ酸の代わりに置換されたアミノ酸の使用も含む。このような保存的置換は、本発明のペプチドのクラスの定義の範囲内である。ペプチドの生物学的活性は、当業者に公知であり、本明細書に記載される標準的な方法によって決定することができる。
【0076】
核酸に関して、「実質的な相同性」という用語は、2つの核酸、またはその指定された配列が、最適に整列して比較された場合に、適切なヌクレオチドの挿入または欠失を伴って、ヌクレオチドの少なくとも約80%、少なくとも約90%~95%、またはヌクレオチドの少なくとも約98%~99.5%において同一であることを示す。あるいは、セグメントが選択的ハイブリダイゼーション条件下で鎖の相補体にハイブリダイズする場合、実質的な相同性が存在する。
【0077】
ポリペプチドに関して、「実質的な相同性」という用語は、2つのポリペプチド、またはその指定された配列が、最適に整列して比較された場合に、適切なアミノ酸の挿入または欠失を伴って、アミノ酸の少なくとも約80%、少なくとも約90%~95%、またはアミノ酸の少なくとも約98%~99.5%において同一であることを示す。
【0078】
2つの配列間の同一性パーセントは、2つの配列の最適なアラインメントのために導入される必要のあるギャップの数、および各ギャップの長さを考慮した、配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわち、相同性%=同一位置の数/全ての位置の数×100)。配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、以下の非限定的な例に記載されるように数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。
【0079】
核酸は、全細胞中、細胞溶解物中、または部分的に精製された形態もしくは実質的に純粋な形態で存在することができる。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当該技術分野で周知の他のものを含む、標準的な技術によって、他の細胞成分または他の汚染物質、例えば、他の細胞核酸(例えば、染色体の他の部分)またはタンパク質から離れて精製された場合に、「単離される」または「実質的に純粋になる」。F.Ausubelら、ed.Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley Interscience、New York(1987)を参照のこと。
【0080】
核酸、例えば、cDNAは、遺伝子配列を提供するための標準的な技術に従って変異させることができる。コード配列に関して、これらの変異は、所望のアミノ酸配列に影響を与え得る。特に、天然のV、D、J、定常、スイッチおよび本明細書に記載される他のこのような配列に実質的に相同であるか、またはこのような配列に由来するDNA配列が企図される(ここで、「由来する」は、配列が別の配列と同一であるか、または別の配列から修飾されていることを示す)。
【0081】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、連結している別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことを意図する。ある種類のベクターは「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターはウイルスベクターであり、追加のDNAまたはRNAセグメントがウイルスゲノムにライゲーションされ得る。ある特定のベクターは、導入される宿主細胞内で自律複製が可能である(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーマル哺乳動物ベクター)。
【0082】
他のベクター(例えば、非エピソーマル哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ得、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結している遺伝子の発現を指揮することができる。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と称される。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態である。本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は、プラスミドが最も一般的に使用されるベクターの形態であるため、互換的に使用することができる。しかしながら、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターも含まれ、これらは同等の機能を果たす。
【0083】
本明細書で使用される「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、細胞中に天然には存在しない核酸を含む細胞を指すことを意図し、組換え発現ベクターが導入されている細胞であり得る。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫を指すことを意図していることを理解すべきである。変異または環境の影響のいずれかに起因して、ある特定の修飾が後の世代に起こり得るので、このような子孫は、実際には、親細胞と同一ではあり得ないが、それでもなお、本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。
【0084】
本明細書で使用される「連結した」という用語は、2つ以上の分子の会合を指す。連結は共有結合であってもよいか、または非共有結合であってもよい。連結はまた、遺伝的(すなわち、組換えにより融合された)であってもよい。このような連結は、化学的コンジュゲーションおよび組換えタンパク質の産生などの、当該技術分野で認められている多種多様の技術を使用して達成することができる。
【0085】
「エフェクター機能」とは、抗体Fc領域とFc受容体もしくはリガンドとの相互作用、またはそれから生じる生化学的事象を指す。例示的な「エフェクター機能」には、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、ADCCおよび抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)などのFcγR媒介性エフェクター機能、ならびに細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)の下方調節が含まれる。このようなエフェクター機能は一般に、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とする。
【0086】
「Fc受容体」または「FcR」は、免疫グロブリンのFc領域に結合する受容体である。IgG抗体に結合するFcRは、これらの受容体の対立遺伝子バリアントおよび選択的スプライシング型を含む、FcγRファミリーの受容体を含む。FcγRファミリーは、3つの活性化(マウスではFcγRI、FcγRIII、およびFc.RIV;ヒトではFcγRIA、FcγRIIA、およびFcγRIIIA)および1つの抑制性(FcγRIIB)受容体からなる。ヒトFcγRの様々な特性は当該技術分野で公知である。大多数の先天性エフェクター細胞型は、1つまたは複数の活性化FcγRおよび抑制性FcγRIIBを共発現するのに対して、ナチュラルキラー(NK)細胞は、1つの活性化Fc受容体(マウスではFcγRIII、およびヒトではFcγRIIIA)を選択的に発現するが、マウスおよびヒトでは抑制性FcγRIIBを発現しない。ヒトIgG1はほとんどのヒトFc受容体に結合し、それが結合する活性化Fc受容体の型に関してはマウスIgG2aと同等と考えられている。
【0087】
「Fc領域」(断片結晶化可能領域)または「Fcドメイン」または「Fc」とは、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)に存在するFc受容体への結合、または古典的補体系の第1の成分(C1q)への結合を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介する抗体の重鎖のC末端領域を指す。したがって、Fc領域は、第1の定常領域免疫グロブリンドメイン(例えば、CH1またはCL)を除く抗体の定常領域を含む。
【0088】
「天然配列Fc領域」または「天然配列Fc」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含む。天然配列ヒトFc領域には、天然配列ヒトIgG1 Fc領域;天然配列ヒトIgG2 Fc領域;天然配列ヒトIgG3 Fc領域;および天然配列ヒトIgG4 Fc領域、ならびに天然に存在するそれらのバリアントが含まれる。天然配列Fcは、Fcの様々なアロタイプを含む(例えば、Jefferisら、mAbs 1:1(2009)を参照されたい)。
【0089】
「バリアント配列Fc領域」または「天然に存在しないFc」は、典型的には、とりわけ、血清半減期、補体結合、Fc受容体結合、タンパク質安定性および/もしくは抗原依存性細胞傷害、またはそれらの欠如などの、その機能的特性の1つまたは複数を変化させるための修飾を含む。一部の実施形態では、本開示の抗体は、化学的に修飾され得る(例えば、1つまたは複数の化学部分が抗体に結合され得る)か、またはそのグリコシル化を変化させるように、また、抗体の1つもしくは複数の機能的特性を変化させるように修飾され得る。
【0090】
「ヒンジ」、「ヒンジドメイン」、「ヒンジ領域」、および「抗体ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインに結合する重鎖定常領域のドメインを指し、ヒンジの上部、中部、および下部を含む(Rouxら、J Immunol 161:4083(1998))。ヒンジは、抗体の結合領域とエフェクター領域との間に様々なレベルの柔軟性を提供し、2つの重鎖定常領域間の分子間ジスルフィド結合のための部位も提供する。野生型IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4ヒンジの配列は、当該技術分野で公知である(例えば、国際PCT公開番号WO2017/087678)。一実施形態では、抗体のCH1のヒンジ領域は、ヒンジ領域におけるシステイン残基の数が変化するように、例えば、増加または減少するように修飾される。このアプローチは、例えば、米国特許第5,677,425号にさらに記載されている。
【0091】
定常領域は、例えば、二価抗体が2つの一価のVH-VL断片に分離するリスクを低減させるために、抗体を安定化させるように修飾され得る。例えば、IgG4定常領域では、残基S228(EUインデックスに従った残基番号)は、ヒンジでの重鎖間ジスルフィド架橋形成を安定化させるようにプロリン(P)残基に変異させることができる(例えば、Angalら、Mol Immunol.30:105~8(1995)を参照のこと)。抗体またはその断片は、それらの相補性決定領域(CDR)の観点から定義することもできる。
【0092】
「相補性決定領域」または「超可変領域」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合に関与するアミノ酸残基が位置する抗体の領域を指す。超可変性の領域またはCDRは、抗体可変ドメインのアミノ酸アラインメントにおいて最も変動が大きい領域として同定することができる。KabatデータベースなどのデータベースをCDR同定のために使用することができ、CDRは、例えば、軽鎖可変ドメインのアミノ酸残基24~34(CDR1)、50~59(CDR2)および89~97(CDR3)、ならびに重鎖可変ドメインにおけるアミノ酸残基31~35(CDR1)、50~65(CDR2)および95~102(CDR3)を含むと定義される;(Kabatら、1991;Sequences of Proteins of Immunological Interest、Fifth Edition、U.S.Department of Health and Human Services、NIH Publication No.91~3242)。あるいは、CDRは、「超可変ループ」(軽鎖可変ドメインにおける残基26~33(L1)、50~52(L2)および91~96(L3)、ならびに重鎖可変ドメインにおける残基26~32(H1)、53~55(H2)および96~101(H3)からの残基として定義することができる(ChothiaおよびLesk,J.Mol.Biol 196:901~917(1987))。本明細書に記載される抗体配列のCDR領域は、好ましくは、Chothiaの番号付けスキームを適応したIMGTの番号付けスキームに従って定義される(ImMunoGeneTics information system(商標);Lefranc,M.-P.ら、IMGT、国際ImMunoGeneTicsデータベース、Nucleic Acids Res 27、209~212(1999);http://imgt.org)。
【0093】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、例えば、それを同定するために使用される特定の方法によって定義される、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続アミノ酸から(通常、線状エピトープ)またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続アミノ酸(通常、立体構造エピトープ)の両方から形成され得る。連続アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒に曝露されても保持されるが、必ずしもそうとは限らず、一方、三次フォールディングによって形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒で処理すると喪失する。
【0094】
エピトープは、典型的には、特有の空間的立体構造において少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個のアミノ酸を含む。どのエピトープが所与の抗体と結合しているかを決定するための方法(すなわち、エピトープマッピング)は、当該技術分野において周知であり、例えば、免疫ブロット法および免疫沈降アッセイが挙げられ、(例えば、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質からの)重複または連続ペプチドが所与の抗体との反応性について試験される。エピトープの空間的立体構造を決定する方法としては、当該技術分野の技術、例えば、X線結晶構造解析、抗原変異解析、2次元核磁気共鳴、およびHDX-MSが挙げられる(例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、Vol.66、G.E.Morris、Ed.(1996)を参照のこと)。
【0095】
2つ以上の抗体に関して「同じエピトープに結合する」という用語は、所与の方法によって決定されるように、抗体がアミノ酸残基の同じセグメントに結合することを意味する。抗体が、本明細書に記載される抗体と、「同じエピトープ」に結合するかどうかを決定するための技術としては、例えば、エピトープマッピング法、例えば、エピトープの原子分解能を提供する抗原:抗体複合体の結晶のX線解析、および水素/重水素交換質量分析(HDX-MS)が挙げられる。
【0096】
他の方法は、抗原断片または抗原の変異したバリエーションへの抗体の結合をモニタリングし、抗原配列内のアミノ酸残基の修飾に起因する結合の喪失は、エピトープ成分の指標とみなされる場合が多い。さらに、エピトープマッピングのための計算的コンビナトリアル法を使用することもできる。これらの方法は、特定の短いペプチドをコンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーから親和性単離する、目的の抗体の能力に依存する。同じVおよびVまたは同じCDR1、2および3配列を有する抗体は、同じエピトープに結合すると予測される。
【0097】
「標的への結合について別の抗体と競合する」抗体は、標的への当該別の抗体の結合を(部分的または完全に)阻害する抗体を指す。2つの抗体が標的への結合について互いに競合するかどうか、すなわち、一方の抗体が標的への他方の抗体の結合を阻害するかどうか、およびどの程度まで阻害するかは、公知の競合実験、例えば、BIACORE(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)解析を使用して決定することができる。ある特定の実施形態では、抗体は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または100%だけ標的への結合について別の抗体と競合し、標的への別の抗体の結合を阻害する。阻害または競合のレベルは、どの抗体が「遮断抗体」(すなわち、標的と最初にインキュベートされるコールド抗体(cold antibody))であるかに応じて異なり得る。
【0098】
競合アッセイは、例えば、Ed HarlowおよびDavid Lane、Cold Spring Harb Protoc;2006;doi:10.1101/pdb.prot4277またはEd HarlowおよびDavid Laneによる「Using Antibodies」の第11章、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、USA 1999に記載されているように行うことができる。2つの抗体の「交差競合」は、抗体が両方の方法で少なくとも50%、すなわち、一方の抗体または他方の抗体が競合実験において最初に抗原と接触するかどうかにかかわらず、互いに遮断する場合である。
【0099】
本明細書で使用される「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」、および「特異的に結合する」という用語は、抗体が所定の抗原上のエピトープに結合することを指す。好ましくは、抗体は、所定の抗原または密接に関連している抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)に結合する親和性よりも少なくとも2倍大きい親和性で所定の抗原に結合する。
【0100】
本明細書において「結合親和性」という用語は、2つの分子、例えば、抗体またはその断片と抗原との間の非共有結合性相互作用の強度の測定値を指す。「結合親和性」という用語は、一価の相互作用(内因活性)を示すために使用される。
一価相互作用を介した、2つの分子間、例えば、抗体またはその断片と抗原との間の結合親和性は、平衡解離定数(K)の決定によって定量化され得る。次に、Kは、例えば、SPR法による、複合体の形成および解離の速度論の測定によって決定され得る。一価複合体の会合および解離に対応する速度定数は、それぞれ、会合速度定数k(またはkon)および解離速度定数k(またはkoff)と称される。Kは、方程式K=k/kを介して、kおよびkと関連付けられる。上記定義によれば、異なる分子相互作用と関連する結合親和性、例えば、所与の抗原に対する異なる抗体の結合親和性の比較は、個々の抗体/抗原複合体についてのK値の比較によって比較され得る。
【0101】
本明細書において「結合特異性」という用語は、単一の排他的抗原、または限られた数の相同性の高い抗原(またはエピトープ)との、抗体またはその断片などの分子の相互作用を指す。対照的に、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に特異的に結合することができる抗体は、非類似の分子に結合することができない。
【0102】
相互作用の特異性および平衡結合定数の値は、周知の方法によって直接的に決定され得る。リガンド(抗体など)がそれらの標的に結合する能力を評価するための標準的なアッセイは、当該技術分野で公知であり、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、RIA、およびフローサイトメトリー解析が挙げられる。抗体の結合速度論および結合親和性もまた、SPRなどの、当該技術分野で公知の標準的なアッセイによって評価され得る。
【0103】
「天然に存在する」という用語は、物体に適用して本明細書で使用される場合、物体が天然に見出され得るという事実を指す。例えば、天然の起源から単離され得、実験室においてヒトによって故意に修飾されていない、生物(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は天然に存在する。
【0104】
「ポリペプチド」とは、少なくとも2つの連続して連結したアミノ酸残基を含む鎖を指し、鎖の長さについて上限はない。タンパク質中の1つまたは複数のアミノ酸残基が、グリコシル化、リン酸化またはジスルフィド結合形成などであるが、これらに限定されない修飾を含み得る。「タンパク質」は、1つまたは複数のポリペプチドを含み得る。
【0105】
本明細書で使用される「核酸分子」という用語は、DNA分子およびRNA分子を含むことを意図する。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってもよく、cDNAであってもよい。
【0106】
「対象」という用語は、予防的処置または治療的処置のいずれかを受けるヒトおよび他の哺乳動物対象を含む。本明細書で使用される「対象」という用語は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。「非ヒト動物」という用語は、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物および非哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。
【0107】
本明細書で使用される「ug」および「uM」という用語は、それぞれ、「μg」および「μΜ」と互換的に使用される。
【0108】
本明細書で使用される「投与すること」とは、当業者に公知の様々な方法および送達系のいずれかを使用した、治療剤を含む組成物の、対象への物理的導入を指す。本明細書に記載される抗体のための異なる経路の投与には、例えば、注射または注入による、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、脊髄または他の非経口経路の投与が含まれる。
【0109】
本明細書で使用される「非経口投与」という語句は、通常は注射による、経腸および局所投与以外の投与の様式を意味し、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、リンパ内、病巣内、嚢内、眼窩内、心臓内、真皮内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内の注射および注入、ならびにin vivoエレクトロポレーションが含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
あるいは、本明細書に記載される抗体は、非経口ではない経路、例えば、局所、表皮または粘膜経路の投与を介して、例えば、鼻腔内、経口、膣、直腸、舌下または局所的に投与され得る。投与することはまた、例えば、1回、複数回、および/または1つもしくは複数の延長された期間にわたって、実施され得る。
【0111】
本明細書で使用される「ワクチン組成物」は、能動免疫および/または受動免疫を提供することができる、本発明の少なくとも1つの抗体またはその抗原結合部分を含む医薬組成物を意味する。本明細書で使用される「能動免疫」は、抗原に対する対象の免疫応答を誘導または増強することを意味する。本明細書で使用される「受動免疫」は、抗原を中和する抗体および/またはその抗原結合部分を提供することによって抗原または病原体に対する対象の免疫応答を補足することを意味する。
【0112】
本発明者らは、本発明者ら自身で本発明の課題を解決することに専念し、公的に入手可能な中和抗体と比較して、懸念される循環SARS-CoV-2バリアントおよび出現エスケープバリアントに対して優れた中和効力を有する、SARS関連コロナウイルスに対する新規かつ有用な超強力なヒトモノクローナル抗体を見出すことに成功した。
【0113】
本発明者らは最近、COVID-19回復個体のごく一部が、SARS-CoV-1に対する高度の交差反応性を有するSARS-CoV-2に対する非常に強力な抗体応答を開始することを実証した(Vanshylla,K.ら、(2021).Cell Host Microbe 29、917~929)。これらのエリート中和者において、10人の個体からの126個のモノクローナル抗体の単離および特性評価を含む、単一B細胞レベルでの抗体応答を詳細に解析した。
【0114】
1,361個のSARS-CoV-2反応性B細胞の塩基配列解析により、大部分がポリクローナルであるが、収束性の抗体応答であることが明らかになった。いくつかの抗体はサルベコウイルス交差反応性であり、メルベコウイルスおよびエンベコウイルス反応性を示すものもあった。包括的な中和マップに基づいて、いくつかの広域中和抗体(bNAb)を、本発明の一部として、循環Wu-01、B.1、B.1.1.7、B1.351、B.1.429、B.1.617、およびB.1.617.2 SARS-CoV-2バリアント、ならびに抗原エスケープの様々な顕著な部位に対して非常に有効であると同定することができた。
【0115】
さらに、本発明者らは、716,806個以上の固有の品質管理された配列を使用した、世界的に循環しているSARS-CoV-2バリアントの時系列系統樹に基づいて、抗原エスケープの可能性がある新たな部位を同定することができた(データ非掲載)。この世界的データを使用して、出現スパイクエスケープ部位としての有力な候補として、4つのRBD変異体、R346S、Q414H、N440K、およびT478Kを同定した。
【0116】
これらの変異体は現在高頻度で循環していないが、それらは、将来的に役割を果たす可能性があり、したがって本発明の抗体の中和効力の分析に含まれている。驚くべきことに、本発明の抗体は、DZIF-10c、S309、またはREGN10987などの臨床試験された抗体とは対照的に、これらのRBD変異体を高い効力で中和することもできた。
【0117】
したがって、エリート中和者から単離されたこれらのbNAbは、現在、循環および出現しているSARS-CoV-2バリアント、ならびにそのようなウイルスによって引き起こされる将来の潜在的なCoVパンデミックに対抗するための重要なリソースとして機能する。
【0118】
したがって、本発明は、SARS関連コロナウイルスに対する抗体またはその抗原結合断片を提供し、抗体またはその抗原結合断片は、
R200-1B9(配列番号27のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号28のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号29のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号30のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号31のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号32のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R207-2F11(配列番号33のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号34のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号35のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号36のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号37のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号38のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R40-1G8(配列番号39のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号40のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号41のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号42のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号43のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号44のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2G5(配列番号45のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号46のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号47のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号48のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号49のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号50のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2B11(配列番号51のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号52のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号53のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号54のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号55のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号56のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R207-2G4(配列番号57のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号58のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号59のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号60のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号61のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号62のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R40-1C8(配列番号63のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号64のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号65のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号66のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号67のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号68のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2B9(配列番号69のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号70のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号71のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号72のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号73のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号74のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-1B3(配列番号75のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号76のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号77のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号78のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号79のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号80のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-2E1(配列番号81のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号82のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号83のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号84のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号85のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号86のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R568-1G9(配列番号87のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号88のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号89のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号90のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号91のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号92のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R121-1F1(配列番号93のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号94のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号95のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号96のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号97のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号98のCDR-L3アミノ酸配列を有する)、
R259-1B9(配列番号99のCDR-H1アミノ酸配列、配列番号100のCDR-H2アミノ酸配列、配列番号101のCDR-H3アミノ酸配列、配列番号102のCDR-L1アミノ酸配列、配列番号103のCDR-L2アミノ酸配列、配列番号104のCDR-L3アミノ酸配列を有する)
を含む群から選択される1つの抗体の重鎖CDR1~CDR3および軽鎖CDR1~CDR3アミノ酸配列の組合せを含む。
【0119】
本発明の文脈において、本明細書において生成され、記載されている抗体は、完全なモノクローナルヒト抗体として、またはその任意の機能的断片もしくは抗原結合断片として使用され、特許請求され得る。好ましくは、抗体またはその機能的断片もしくは抗原結合断片の任意の種類は、抗体の重鎖の相補性決定領域(CDR)1~3および軽鎖のCDR1~3を少なくとも含むべきである。
【0120】
本明細書に記載される抗体配列のCDR領域は、好ましくは、Chothiaの番号付けスキームを適応したIMGTの番号付けスキームに従って定義される(ImMunoGeneTics information system(商標);Lefranc,M.-P.ら、IMGT、国際ImMunoGeneTicsデータベース、Nucleic Acids Res 27、209~212(1999);http://imgt.org)。
【0121】
本発明の抗体の可変領域重鎖アミノ酸配列および可変領域軽鎖アミノ酸配列に関する一般的な知識および本明細書で与えられる情報に基づいて、CDRは当業者によって容易かつ一義的に決定することができる。
【0122】
本発明の好ましい一実施態様によれば、本明細書に記載される抗体およびその抗原結合断片の軽鎖および重鎖配列のCDR配列は以下の通りである:
【0123】
【表1】

【0124】
本発明の一実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片は、抗体R200-1B9の重鎖アミノ酸配列(配列番号121)、または抗体R207-2F11の重鎖アミノ酸配列(配列番号123)、または抗体R40-1G8の重鎖アミノ酸配列(配列番号125)、または抗体R568-2G5の重鎖アミノ酸配列(配列番号127)、または抗体R568-2B11の重鎖アミノ酸配列(配列番号129)、または抗体R207-2G4の重鎖アミノ酸配列(配列番号131)、または抗体R40-1C8の重鎖アミノ酸配列(配列番号133)、または抗体R568-2B9の重鎖アミノ酸配列(配列番号135)、または抗体R568-1B3の重鎖アミノ酸配列(配列番号137)、または抗体R568-2E1の重鎖アミノ酸配列(配列番号139)、または抗体R568-1G9の重鎖アミノ酸配列(配列番号141)、または抗体R121-1F1の重鎖アミノ酸配列(配列番号143)、または抗体R259-1B9の重鎖アミノ酸配列(配列番号145)を含む。
【0125】
本発明の一実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片は、抗体R200-1B9の軽鎖アミノ酸配列(配列番号122)、または抗体R207-2F11の軽鎖アミノ酸配列(配列番号124)、または抗体R40-1G8の軽鎖アミノ酸配列(配列番号126)、または抗体R568-2G5の軽鎖アミノ酸配列(配列番号128)、または抗体R568-2B11の軽鎖アミノ酸配列(配列番号130)、または抗体R207-2G4の軽鎖アミノ酸配列(配列番号132)、または抗体R40-1C8の軽鎖アミノ酸配列(配列番号134)、または抗体R568-2B9の軽鎖アミノ酸配列(配列番号136)、または抗体R568-1B3の軽鎖アミノ酸配列(配列番号138)、または抗体R568-2E1の軽鎖アミノ酸配列(配列番号140)、または抗体R568-1G9の軽鎖アミノ酸配列(配列番号142)、または抗体R121-1F1の軽鎖アミノ酸配列(配列番号144)、または抗体R259-1B9の軽鎖アミノ酸配列(配列番号146)を含む。
【0126】
本発明の好ましい実施形態によれば、抗体は、配列番号121の重鎖アミノ酸配列および配列番号122の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号123の重鎖アミノ酸配列および配列番号124の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号125の重鎖アミノ酸配列および配列番号126の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号127の重鎖アミノ酸配列および配列番号128の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号129の重鎖アミノ酸配列および配列番号130の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号131の重鎖アミノ酸配列および配列番号132の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号133の重鎖アミノ酸配列および配列番号134の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号135の重鎖アミノ酸配列および配列番号136の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号137の重鎖アミノ酸配列および配列番号138の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号139の重鎖アミノ酸配列および配列番号140の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号141の重鎖アミノ酸配列および配列番号142の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号143の重鎖アミノ酸配列および配列番号144の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号145の重鎖アミノ酸配列および配列番号146の軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0127】
本発明の特定の実施形態によれば、抗体は、配列番号121の配列の2つの重鎖および配列番号122の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号123の配列の2つの重鎖および配列番号124の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号125の配列の2つの重鎖および配列番号126の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号127の配列の2つの重鎖および配列番号128の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号129の配列の2つの重鎖および配列番号130の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号131の配列の2つの重鎖および配列番号132の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号133の配列の2つの重鎖および配列番号134の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号135の配列の2つの重鎖および配列番号136の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号137の配列の2つの重鎖および配列番号138の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号139の配列の2つの重鎖および配列番号140の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号141の配列の2つの重鎖および配列番号142の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号143の配列の2つの重鎖および配列番号144の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号145の配列の2つの重鎖および配列番号146の配列の2つの軽鎖からなる。
【0128】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明による抗体またはその抗原結合断片に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、R568-2G5、R568-2B11、R207-2G4、R40-1C8、R568-2B9、R568-1B3、R568-2E1、R568-1G9、R121-1F1、およびR259-1B9を含む群から選択され、好ましくは、R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、R568-2G5、R568-2B11、R207-2G4、R40-1C8、R568-2B9、およびR568-1B3を含む群から選択され、より好ましくは、R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、およびR568-2G5を含む群から選択される。
【0129】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、本発明による抗体またはその抗原結合断片に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R200-1B9、R207-2F11およびR568-1G9を含む群から、好ましくはR207-2F11およびR568-1G9から選択される。全ての変異およびバリアントに対して非常に高く広域な中和効力を有することに加えて、これらの抗体はオミクロンバリアントに対して非常に優れた中和効力を特徴とする。
【0130】
本発明の一実施形態では、本発明の抗体に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R200-1B9である。本発明の別の実施形態では、本発明の抗体に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R207-2F11である。本発明の別の実施形態では、本発明の抗体に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R40-1G8である。本発明の別の実施形態では、本発明の抗体に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R568-2G5である。
【0131】
本発明の別の実施形態では、本発明の抗体に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R121-3G2である。この抗体は、SARS-CoV-2の異なるバリアントに加えて、SARS関連コロナウイルス株SARS-CoV-1およびコウモリコロナウイルスWIV-1を効率的に交差中和することができる。本発明のさらに別の実施形態では、本発明の抗体に含まれる配列の起源として使用される抗体は、R40-1E1である。この抗体もまた、SARS-CoV-2の異なるバリアントに加えて、SARS関連コロナウイルス株SARS-CoV-1およびコウモリコロナウイルスWIV-1を効率的に交差中和することができる。
【0132】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、SARS関連コロナウイルス株は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。
【0133】
本発明の一実施態様によれば、本発明による抗体またはその抗原結合断片に含まれるCDRまたは可変領域のアミノ酸配列は、多くとも0.4μg/ml、好ましくは多くとも0.1μg/ml、より好ましくは多くとも0.05μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.025μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.01μg/ml、特に好ましくは多くとも0.0025μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2系統B.1、B.1.1.7、B.1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2の各々を中和することができる抗体由来である。
【0134】
本発明の別の実施形態によれば、本発明による抗体またはその抗原結合断片に含まれるCDRまたは可変領域のアミノ酸配列は、多くとも1.3μg/ml、好ましくは多くとも0.5μg/ml、より好ましくは多くとも0.05μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.02μg/ml、特に好ましくは多くとも0.01μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2スパイクエスケープ変異体69-70del、K417E、N439K、K444Q、V445A、G446V、L452R、Y453F、L455F、G476S、S477N、E484K、F486V、F490S、Q493R、Q493K、S494P、N501Yの各々を中和することができる抗体由来である。
【0135】
本発明の別の実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片に含まれるCDRまたは可変領域のアミノ酸配列は、多くとも0.0015μg/mlのIC50で、説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいて出現SARS-CoV-2エスケープバリアントR346S、Q414H、N440K、およびT478Kの各々を中和することができる抗体から得られる。
【0136】
本発明の実施形態によれば、本発明による抗体またはその抗原結合断片に含まれるCDRまたは可変領域のアミノ酸配列は、多くとも0.08μg/ml、好ましくは多くとも0.025μg/ml、より好ましくは多くとも0.01μg/ml、さらにより好ましくは多くとも0.006μg/ml、特に好ましくは多くとも0.002μg/mlの平均IC50で、全てのバリアントおよび変異体にわたって説明に記載されているシュードウイルス中和アッセイにおいてSARS-CoV-2バリアントWu-01、B.1、B.1.1.7、B.1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2、ならびにSARS-CoV-2エスケープ変異体69-70del、K417E、N439K、K444Q、V445A、G446V、L452R、Y453F、L455F、G476S、S477N、E484K、F486V、F490S、Q493R、Q493K、S494P、N501Y、R346S、Q414H、N440K、およびT478Kを中和することができる抗体由来である。
【0137】
本発明によれば、IC50値を決定するためのシュードウイルス中和アッセイは、以下の「IgG中和活性を決定するためのシュードウイルス中和アッセイ」の節に記載されるように実施される。
【0138】
本発明の一実施形態によれば、本発明による抗体またはその抗原結合断片は、100μg/mlの濃度の抗体またはその抗原結合断片で、抗核抗体(ANA)検査キット(NOVA-Lite HEp-2 ANAキット;Inova Diagnostics)を使用して透過処理したHEp-2細胞に対して検査した場合、検出可能な結合として規定される自己反応性を示さない。
【0139】
本発明の好ましい実施態様によれば、自己反応性を測定するためのアッセイは、以下の「Hep-2自己反応性アッセイ」の節に記載されるように実施される。
【0140】
本発明の実施形態によれば、本明細書に記載される抗体の軽鎖および重鎖配列のCDR配列は以下の通りである:
【0141】
【表2】
【0142】
本発明の一実施形態によれば、抗体は、抗体R121-3G2の重鎖アミノ酸配列(配列番号147)、または抗体R40-1E1の重鎖アミノ酸配列(配列番号149)を有する。本発明の実施形態によれば、抗体は、抗体R121-3G2の軽鎖アミノ酸配列(配列番号148)、または抗体R40-1E1の軽鎖アミノ酸配列(配列番号150)を有する。
【0143】
本発明の好ましい実施形態によれば、抗体は、配列番号147の重鎖アミノ酸配列および配列番号148の軽鎖アミノ酸配列を含むか、または抗体は、配列番号149の重鎖アミノ酸配列および配列番号150の軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0144】
本発明の特定の実施形態によれば、抗体は、配列番号147の配列の2つの重鎖および配列番号148の配列の2つの軽鎖からなるか、または抗体は、配列番号149の配列の2つの重鎖および配列番号150の配列の2つの軽鎖からなる。
【0145】
一般に、本明細書に記載される抗体またはその抗原結合断片は、依然として配列番号151のようなSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対するものである限り、好ましくは依然として配列番号152のようなSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対するものである限り、上記に定義される配列と少なくとも80%同一である抗体アミノ酸配列をさらに包含する。
【0146】
一実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片が向けられるべき、配列番号151のSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質または配列番号152のその受容体結合ドメインの特定の配列は、配列変異69-70del、R346S、Q414H、K417E、N439K、N440K、K444Q、V445A、G446V、L452R、Y453F、L455F、G476S、S477N、T478K、E484K、F486V、F490S、Q493R、Q493K、S494PおよびN501Yの1つまたは複数をさらに含み得る。
【0147】
他の一実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片が向けられるべき、配列番号151のSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質または配列番号152のその受容体結合ドメインの特定の配列は、一般に知られているSARS-CoV-2バリアントWu01、B.1、B.1.1.7、B1.351、B.1.429、B.1.617、またはB.1.617.2のうちの1つから得られ得る。
【0148】
本明細書に包含される配列変異は、構造的折り畳みおよびスパイク(S)タンパク質に対する抗体の親和性を妨げない、抗体アミノ酸配列の些細な変異、すなわち保存的変異を有する配列を含むことを意味する。好ましくは、本明細書に明示的に開示された個別の配列と少なくとも80%、85%、90%または95%の全体的同一性をもたらすアミノ酸配列の逸脱は、本発明による抗体のCDR領域の外側にのみ存在する。特に、本発明は、抗体の定常領域内に1、2、3、4、5、または6個の変異を有する抗体アミノ酸配列を包含する。
【0149】
本発明による抗体は、好ましくはヒト起源のものである。したがって、少なくとも、抗体のフレームワークおよび定常領域などのCDR以外の配列は、好ましくはヒト起源のものであるか、またはヒト起源によるものとすることができる。さらに、本発明の抗体は好ましくはモノクローナルである。
【0150】
好ましい一実施形態では、抗体は、結合特異性および感染性病原体を中和する能力を保持するモノクローナル抗体またはその断片である。好ましい一実施形態では、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体である。例えば、抗体は、任意のヒトIgGアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のFcドメインを含む抗体であり得る。
【0151】
任意選択で、抗原結合化合物は、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab)、Fv、ダイアボディ、一本鎖抗体断片、もしくは複数の異なる抗体断片を含む多重特異性抗体からなるか、またはそれらを含む。
【0152】
本発明において、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対する抗体または抗原結合断片は、関連のないエピトープ、タンパク質またはタンパク質領域と比較して、少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも50倍、特に好ましくは少なくとも100倍高い親和性でSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に結合する抗体を意味する。
【0153】
ある程度の同一性を示す抗体が、上記または一般的な知識に基づいてSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対するものであるかどうかを決定することは、当業者にとって些細な作業である。
【0154】
2つの配列間の同一性パーセントの決定は、KarlinおよびAltschulの数学的アルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873~5877)を使用することによって本発明に従って達成される。このようなアルゴリズムは、AltschulらのBLASTNおよびBLASTPプログラム(J.Mol.Biol.(1990)215:403~410)の基礎となっている。BLASTヌクレオチド検索はBLASTNプログラムで実行される。比較目的のためにギャップドアラインメントを得るために、Altschulら(Nucleic Acids Res.(1997)25:3389~3402)によって記載されているように、ギャップドBLASTが利用される。BLASTおよびギャップドBLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメーターが使用される。
【0155】
本発明の好ましい実施形態によれば、抗体アミノ酸配列は、上記で定義され、本明細書に開示される配列と少なくとも85%同一、より好ましくは少なくとも90%同一、さらにより好ましくは少なくとも95%同一である核酸配列からなるか、またはそれを含む本発明の一部を形成する。
【0156】
本発明の好ましい実施形態によれば、SARS関連コロナウイルス株は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)であり、これは、当該技術分野において代替的にSARS関連コロナウイルス2と称され得る。本発明の別の好ましい実施形態によれば、SARS関連コロナウイルス株は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoVまたはSARS-CoV-1)またはコウモリSARS様コロナウイルスWIV-1、好ましくは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoVまたはSARS-CoV-1)である。
【0157】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片は、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質のエクトドメインに対するものである。
【0158】
本発明のより好ましい実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片は、Hoffmann M.ら、(2020).Cell 181、271~280(EPI_ISL_406716に記載されているSARS-CoV-2のWu01スパイク(S)ホモトリマーに対するものである。このウイルス単離株は集中的に研究されており、出願時点で最もよく理解されている。
【0159】
しかしながら、好ましくは、抗体またはその抗原結合断片は、他のウイルスバリアントの等価配列に対するものでもあるべきである。特定の一実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片は、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質(配列番号152)の受容体結合ドメイン(RBD)に対するものである。
【0160】
本発明の好ましい実施形態によれば、抗体またはその抗原結合断片は、100μg/mlの濃度の抗体またはその抗原結合断片で、抗核抗体(ANA)検査キット(NOVA-Lite HEp-2 ANAキット;Inova Diagnostics)を使用して透過処理したHEp-2細胞に対して検査した場合、検出可能な結合パターンとして規定されるヒト細胞に対する自己反応性を示さない。あるいは好ましくは、抗体またはその抗原結合断片の自己反応性を決定または除外するために、当該技術分野で公知の他のアッセイを使用してもよい。
【0161】
本出願の説明において、抗体の名称を使用することができる。抗体は重鎖および軽鎖からなり、これらも本説明の一部を形成することが指摘される。名称または配列番号によって抗体を参照する場合、これらの参照方法は交換可能であることを理解されたい。
【0162】
本発明はさらに、本明細書で定義され、さらに記載される本発明による抗体またはその抗原結合断片、および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。一態様では、医薬組成物は、ヒトおよび/または動物対象のためのワクチン組成物である。
【0163】
本発明はまた、本明細書で定義され、さらに記載される本発明による抗体またはその抗原結合断片、および容器を含むキットを包含する。
【0164】
一態様では、本発明はまた、医薬としての使用のための、好ましくはワクチンとしての使用のための、本明細書で定義され、さらに記載される本発明による抗体またはその抗原結合断片、本明細書に記載される医薬組成物、およびキットも対象とする。
【0165】
別の態様では、本発明はまた、ヒトまたは動物対象におけるSARS関連コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、好ましくは、ヒトまたは動物対象におけるSARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる疾患の治療または予防における使用のための、本明細書で定義され、さらに記載される本発明による抗体またはその抗原結合断片、本明細書に記載される医薬組成物、およびキットも対象とする。
【0166】
一態様では、本発明は、SARS関連コロナウイルスを有するヒトおよび/または動物対象の感染、好ましくは、SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を有するヒトおよび/または動物対象の感染の予防における使用のための、本明細書で定義され、さらに記載される本発明による抗体またはその抗原結合断片、本明細書に記載される医薬組成物、およびキットを対象とする。
【0167】
別の態様では、本発明は、SARS関連コロナウイルス感染を治療もしくは予防するか、またはヒトおよび/もしくは動物対象における疾患の重症度を軽減する方法であって、本明細書に記載される少なくとも1つの抗体および/またはその抗原結合断片の治療有効量を前記対象に投与することを含み、好ましくはSARS関連コロナウイルスがSARS-CoV-2である、方法を対象とする。
【0168】
本発明の一態様では、本発明による抗体および/またはその抗原結合断片は、静脈内注射もしくは注入、皮下注射、筋肉内注射、または吸入適用によって、好ましくは静脈内注射によって、それを必要とする患者に投与される。
【0169】
好ましい実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、最大4000mg、好ましくは最大2000mg、より好ましくは最大1200mg、さらにより好ましくは最大600mg、さらにより好ましくは最大300mg、特に好ましくは最大150mgの絶対用量で静脈内注入によって投与される。
【0170】
対象に投与される本発明の抗体またはその抗原結合断片の用量は、示された症状の重症度、ならびに対象の年齢、性別、および健康状態のような事柄に応じてさらに変化し得る。
【0171】
本発明の別の態様では、本発明による抗体は、吸入適用によってそれを必要とする患者に投与される。好ましい実施形態では、抗体は吸入適用によって投与され、投与前にメッシュネブライザーまたはジェットネブライザーによって霧状にされる液体医薬組成物で提供される。
【0172】
本発明の医薬組成物は、その意図する投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例としては、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口、経鼻(例えば、吸入および口から吸入する)、経皮(例えば、局所)、経粘膜、および直腸投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0173】
特定の実施形態では、組成物は、ヒトへの、静脈内、皮下、筋肉内、経口、経鼻、または局所投与に適合した医薬組成物として、日常的な手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物は、可溶化剤、および注射部位の痛みを和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔剤も含むことができる。
【0174】
本発明の方法は、エアロゾル化剤を配合した組成物の、例えば、吸入器またはネブライザーの使用による肺内投与を含み得る。例えば、米国特許第6,019,968号、同第5,985,320号、同第5,985,309号、同第5,934,272号、同第5,874,064号、同第5,855,913号、同第5,290,540号、および同第4,880,078号;ならびにPCT公開番号WO92/19244、WO97/32572、WO97/44013、WO98/31346、およびWO99/66903を参照されたく、これらの各々は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0175】
本発明の方法はまた、注射による(例えば、ボーラス注射または持続注入による)非経口投与のために製剤化された組成物の投与を含み得る。本発明の医薬製剤は、液体形態で提供され得るか、または凍結乾燥形態で提供され得る。
【0176】
一態様では、本発明は、本明細書に記載される抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸に関する。別の態様では、本発明は、発現制御配列と機能的に会合する本明細書に記載される核酸を含む発現ベクターに関する。
【0177】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される核酸を含む宿主細胞に関する。一態様では、本発明は、本明細書に記載される発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0178】
別の態様では、本発明は、
(a)抗体またはその抗原結合断片の発現を可能にする条件下で本明細書に記載される宿主細胞を培養することと、
(b)抗体またはその抗原結合断片を回収することと
を含む、本明細書に記載される抗体または抗原結合断片の作製方法に関する。
【0179】
別の実施態様では、本発明は、SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する少なくとも1つのさらなる抗体と組み合わせた医薬品における使用のための、本明細書に記載されるSARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗体またはその抗原結合断片であって、前記さらなる抗体が異なる結合特異性を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0180】
別の態様では、本発明はまた、ヒトまたは動物対象におけるSARS関連コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療、好ましくは、ヒトまたは動物対象におけるCOVID-19の治療または予防のための医薬の製造における、本発明による抗体もしくはその抗原結合断片または本発明の医薬組成物の使用も対象とする。
【0181】
本明細書に記載される本発明の全ての実施形態は、当業者がそのような組合せが技術的に意味をなさないと考えない限り、任意の組合せで組合せ可能であるとみなされる。
【実施例
【0182】
SARS-CoV-2感染個体および試料採取
血液試料は、University of Cologneの施設内審査委員会(IRB)により承認されたプロトコール20-1187および16-054に基づき、書面による同意を得たドナーから採取した。
【0183】
血清、血漿および全血試料の処理
血液試料をヘパリンシリンジまたはEDTAモノベット(monovette)チューブ(Sarstedt)に採取し、Histopaque-1077(Sigma)を使用した密度勾配遠心分離により血漿および末梢血単核細胞(PBMC)に分画した。血漿アリコートを使用するまで-80℃で保存した。血清を遠心分離によって血清ゲルチューブ(Sarstedt)から採取し、使用するまで-80℃で保存した。PBMCは使用するまで-150℃で保存した。
【0184】
血清および血漿試料からのIgGの単離
全IgGを単離するために、0.5~1mLの血漿を56℃で45分間熱不活性化し、PBS(Gibco)中のプロテインGセファロース4 Fast Flowビーズ(GE Healthcare)と4℃で一晩インキュベートした。翌日、ビーズをクロマトグラフィーカラム(BioRad)上でPBS(Gibco)を用いて洗浄し、プロテインG結合IgGを、0.1MのグリシンpH=3を使用して溶出し、直ちに1MのTris pH=8で緩衝化した。30kDaのカットオフAmicon Ultra-15カラム(Millipore)を使用してPBS(Gibco)への緩衝液交換を行い、精製したIgGを4℃で保存した。
【0185】
細胞株
VeroE6細胞、HEK-293T細胞および293T-ACE2細胞を、10%のFBS、1%のPS、1mMのL-グルタミンおよび1mMのピルビン酸ナトリウムを含有するDMEM(Gibco)中に維持した。細胞をT75フラスコ(Sarstedt)内の組織培養処理済みディッシュ上で37℃および5%COで成長させた。293-6E細胞を、FreeStyle Expression Medium(Thermo Fisher)中に37℃および6%COで維持し、110~120rpmで一定の振盪下に保った。
【0186】
単一B細胞選別
融合前のスパイクを確認したHexaProと呼ばれるSARS-CoV-2バリアント(Hsieh,C.L.ら、(2020).Science 369、1501~1505)を、2色選別戦略を使用してエリート中和者からスパイク特異的B細胞を選別するためのベイトタンパク質として使用した。HexaProタンパク質を、製造業者のプロトコールに従って、DyLight 488またはDylight 650抗体標識キット(Thermo Fisher)を使用して標識した。B細胞を、製造業者のプロトコールに従って、CD19 Microbeadsキット(Miltenyi Biotec)を使用して末梢血単核細胞(PBMC)画分から濃縮した。
【0187】
濃縮したB細胞を、ヒトCD20(AF700標識化;クローン2H7;BD Biosciencesカタログ#560631)およびヒトIgG(PE標識化;クローンG18-145;BD Biosciencesカタログ#555787)に対する抗体、DAPI(Thermo Fisherカタログ#D1306)、HexaPro-Dylight-488およびHexaPro-Dylight-650で染色した。DAPI陰性、CD20陽性、IgG陽性、HexaPro-Dylight-488陽性、およびHexaPro-Dylight-650陽性であったB細胞を、0.2μlのRNAsin(40U/μlのPromega)、0.1μlのRNAseOut(40U/μlのThermo Fisher)、0.2μlの10X PBS、0.4μlのDTT(100mMのPromega)、および3.1μlのヌクレアーゼフリーHO(Thermo Fisher)から構成される選別緩衝液を含有する96ウェルプレートに選別した。選別を、BD FACSAria(商標)Fusion細胞選別機(Becton Dickinson)で行い、選別された細胞をさらに処理するまで-80℃で凍結した。
【0188】
単一細胞cDNA産生およびPCR
選別した単一B細胞を、0.75μlのRandom Hexamer Primer(200ng/μlのThermo Fisher)、0.5μlのNP-40(10%のThermo Fisher)、0.15μlのRNAseOUT(100mMのThermo Fisher)、および5.6μlのヌクレアーゼフリーHO(Thermo Fisher)を用いて65℃で1分間溶解した。その後、2μlのヌクレアーゼフリーHO(Thermo Fisher)、3μlの5×RT緩衝液(Invitrogen)、0.5μlのdNTP(25mMのThermo Fisher)、1μlのDTT(100mMのInvitrogen)、0.1μlのRNAsin(40U/μlのPromega)、0.1μlのRNaseOUT(40U/μlのThermo Fisher)、および0.25μlのSuperscript IV(200U/μlのInvitrogen)を加え、RTで10分間、42℃で10分間、25℃で10分間、50℃で10分間、および94℃で5分間インキュベートすることによって逆転写を行った。
【0189】
個々の抗体配列はセミネステッドPCRを使用して増幅した。重鎖、カッパ鎖およびラムダ鎖は、3’Cg-RT(Ozawa,T.ら、(2006).Biotechniques 40、469~470、472、474諸所)、3’Cκ543(Tiller,T.ら、(2008).J Immunol Methods 329、112~124)、および3’Cκ494(Tillerら、2008)とともに5’oPR-IGHV、oPR-IGKVおよびoPR-IGLVプライマーミックス(Kreer,C.ら、(2020).J Immunol Methods 480、112752)を用いるPlatinum Taq(商標)DNAポリメラーゼ(Thermo Fisher)を使用して1回目のPCRで同時に増幅した。
【0190】
1回目のPCRは、94℃で1分間行い、94℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で55秒間を50サイクル行い、最終伸長は72℃で5分間行った。
【0191】
2回目のPCRでは、抗体鎖は、5’oPR-IGHV+3’IgG内部(Tillerら、2008)(重鎖)、5’oPR-IGKV+3’Cκ494(カッパ鎖)、および5’oPR-IGLV+3’XhoI Cλ(Tillerら、2008)(ラムダ鎖)のプライマー対を使用して別々の反応で増幅した。2回目のPCRは、94℃で1分間行い、94℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で45秒間を50サイクル行い、最終伸長は72℃で5分間行った。2回目のPCR産物を、後の配列解析のためにサンガーシーケンスによって配列決定した。
【0192】
抗体配列解析
240ヌクレオチドの最小長、および28アミノ酸以上の平均Phredスコアを有するB細胞配列を、IgBLAST(Ye,J.ら、(2013).Nucleic Acids Res 41、W34-40)で注釈を付け、フレームワーク領域(FWR)1から可変領域のJ遺伝子の末端までをトリミングした。16未満のPhredスコアを有する基礎細胞をマスクし、15超のマスクしたヌクレオチド、フレームシフトまたは終止コドンを有する配列をさらなる解析から除外した。
【0193】
これらの産生配列から、同一のV遺伝子をグループ化することによってクローン性を解析し、それらのCDRH3のペアワイズLevenshtein距離を決定した。個々の配列は、同じV遺伝子を共有し、CDRH3の最小同一性が75%であった場合にクローンにグループ化した。10ラウンドのランダム化入力の後に残った配列を非クローンであると指定した。CDRH3の長さをIMGT番号付けに基づいて算出し、配列の%は、個体内の全配列のうちの特定のV遺伝子を有する配列を表す。
【0194】
タンパク質合成のための抗体クローニング
単一B細胞由来抗体のクローニングを、以前に公開されたプロトコールに従って行った(Gieselmann,L.ら、(2021).Nat Protoc 16、3639~3671)。1回目のPCR産物を使用し、5’プライマーSLIC-oPR-IGHV、SLIC-oPR-IGKVおよびSLIC-oPR-IGLV(Kreerら、2020)、ならびに重鎖、カッパ鎖およびラムダ鎖のそれぞれについて3’プライマーSLIC_IgG_HC_rev、SLIC_KC_revおよびSLIC_LC_rev(Tillerら、2008)を使用して、別々の反応で各抗体鎖の可変領域を増幅した。
【0195】
PCRは、Q5 Hot Start High Fidelity DNA Polymerase(NEB)を使用して実施し、98℃で30秒間行い、98℃で10秒間、72℃で45秒間を35サイクル行い、最終伸長は72℃で2分間行った。PCR産物を、製造業者のプロトコールに従って、NucleoSpin(商標)96 PCR Clean-upキット(Macherey-Nagel)を使用して精製し、制限消化およびSLICアセンブリによってそれぞれのpIg発現ベクター(pIgG1、pIgK、またはpIgL)にクローニングした(von Boehmer,L.ら、(2016).Nat Protoc 11、1908~1923)。
【0196】
抗体合成
分枝ポリエチレンイミン(PEI)25kDa(Sigma-Aldrich)を使用して293-6E細胞(National Research Council Canada)の、1mlの293-6E培養あたり0.5μgの重鎖プラスミドおよび0.5μgの軽鎖プラスミドによるトランスフェクションによって抗体を作製した。細胞を37℃、および6%COのFreeStyle 293 Expression Medium(Thermo Fisher)および0.2%のペニシリン/ストレプトマイシンで110~120rpmにて維持した。トランスフェクションから7日後、細胞を遠心分離し、細胞培養上清を採取し、0.45μmのNalgene Rapid Flowフィルター(Thermo Fisher)でろ過し、プロテインGセファロース4 Fast Flow(GE Healthcare)の一晩とともに4℃で一晩インキュベートした。
【0197】
抗体結合セファロースビーズを、クロマトグラフィーカラム(BioRad)上でPBS(Gibco)を用いて洗浄し、0.1MのグリシンpH=3を使用して抗体を溶出し、直ちに1MのTris pH=8で緩衝化した。その後、50kDaのAmicon Ultra-15スピンカラム(Millipore)を使用してPBS(Gibco)への緩衝液交換を行い、抗体を4℃で保存した。
【0198】
SARS-CoV-2スパイクバリアントのクローニング
コドン最適化したSARS-CoV-2Wu01スパイク(Hoffmann,M.ら、(2020).Cell 181、271~280.e8)(単離株EPI_ISL_406716)を、pCDNA(商標)3.1/V5-HisTOPOベクター(Invitrogen)にクローニングした。D614G(B.1)、69~70欠失およびRBD変異体を、Q5(登録商標)部位特異的変異誘発キット(NEB)を使用し、製造業者のプロトコールに従って、対応するアミノ酸変異を導入することによって生成した。
【0199】
SARS-2-S RBDバリアントを、B.1バックグラウンドで生成し、R346S;Q414H;K417E;N439K;N440K;K444Q;V445A;G446V;Y453F;G476S;S477N;T478K;E484K;F486V;F490S;Q493R;Q493K;S494PおよびN501Yを含めた。SARS-CoV-2スパイクバリアントB1.1.7、B1.351、B.1.429、B.1.617およびB.1.617.2を、製造業者のプロトコールに従って、PCRおよび重複するセグメントのHiFiアセンブリ(NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Kit、New England Biolabs)を使用して、対応するアミノ酸変異(図5を参照のこと)を導入することによって生成した。
本研究で試験したSARS-CoV-2のオミクロンバリアントを、Pango v.3.1.17 2021-11-25に従ってBA.1系統と定義する。
【0200】
Wu01参照株(GISAID受託ID EPI_ISL_406716;ウイルス名:hCoV-19/Wuhan/WHU01/2020)のスパイク糖タンパク質アミノ酸配列と比較して、本明細書で使用したオミクロンバリアント(BA.1系統)は、スパイク糖タンパク質アミノ酸配列に以下の変化を有する:A67V、del69-70、T95I、G142D、del143-145、N211I、del212、ins215EPE、G339D、S371L、S373P、S375F、K417N、N440K、G446S、S477N、T478K、E484A、Q493R、G496S、Q498R、N501Y、Y505H、T547K、D614G、H655Y、N679K、P681H、N764K、D796Y、N856K、Q954H、N969K、およびL981F。前記オミクロンバリアントで得られた結果を図7に示す。
【0201】
シュードウイルス粒子の作製および滴定
HIV-1 Tat、HIV-1 Gag/Pol、HIV-1 Rev、ルシフェラーゼに続いてIRESおよびZsGreenをコードする個々のプラスミド(Crawford,K.H.D.ら、(2020).Viruses 12、513に記載されている試薬)、ならびにSARS-CoV-2、SARS-CoV-1またはWIV-1のスパイクタンパク質の共トランスフェクションによってシュードウイルス粒子を生成した。シュードウイルスの作製のために、製造業者のプロトコールに従ってFuGENE(商標)6トランスフェクション試薬(Promega)を使用してHEK 293T細胞にシュードウイルスコードプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間および72時間後、細胞残屑を遠心分離し、ウイルス培養上清を採取し、使用するまで-80℃で保存した。
【0202】
各ウイルスバッチを、293T-ACE2細胞(ヒトACE2受容体を発現する293T細胞)に感染させることによって滴定し、37℃および5%COでの48時間のインキュベーション時間の後、ルシフェリン/溶解緩衝液(Tris-HCL中の10mMのMgCl2、0.3mMのATP、0.5mMのコエンザイムA、17mMのIGEPAL(全てSigma-Aldrich)、および1mMのD-ルシフェリン(GoldBio))を加えた後、マイクロプレートリーダー(Berthold)を使用してルシフェラーゼ活性を測定した。感染細胞と非感染細胞との間で約1000倍の相対発光単位(RLU)差を生じるシュードウイルス希釈液を、シュードウイルス中和アッセイに使用した。
【0203】
IgG中和活性を決定するためのシュードウイルス中和アッセイ
IgG(モノクローナル抗体を含む)の中和活性を試験するために、IgGの3倍希釈系列を中和アッセイ培地(10%のFBS、100U/mlのペニシリン、100U/mlのストレプトマイシン、1mMのL-グルタミン、および1mMのピルビン酸ナトリウムを補足したDMEM)中で調製した。希釈したIgGを、96ウェルプレート中で100μLの総体積で37℃および5%COで1時間、上記(「シュードウイルス粒子の作製および滴定」の節)のように作製および滴定したシュードウイルス上清と共インキュベートした。希釈系列は、モノクローナル抗体では10μg/ml、精製血清または血漿IgGでは750μg/mlの開始濃度(IgGおよびシュードウイルスの共インキュベーション中の濃度を指す)を有した。その後、5μg/mlの最終濃度でポリブレンを補足した1.25×10個の細胞の293T-ACE2細胞(Crawfordら、2020に記載されている細胞)を各ウェルに加えた。
【0204】
37℃および5%COでの48時間のインキュベーション後、上記(「シュードウイルス粒子の作製および滴定」の節)のルシフェリン/溶解緩衝液試薬を使用してルシフェラーゼ活性を測定した。100μlのルシフェリン/溶解緩衝液を添加する前に、50μlの細胞培養上清を除去した。2分間の溶解およびピペッティングによる混合の後、150μlの上清を別の96ウェルプレートに移して、マイクロプレートリーダーでRLUを測定した(1ウェルあたり1秒で測定した)。
【0205】
非感染細胞(シュードウイルスとインキュベートしなかった細胞を含有するウェル)の平均バックグラウンドRLUを差し引いた後、50%阻害濃度(IC50)を、未処理のウイルス対照ウェル(IgGを含まない細胞およびシュードウイルスを含有するウェル)の平均と比較して50%のRLU減少をもたらすIgG濃度として決定した。
【0206】
最小二乗フィッティング法を使用して可変勾配を有するアゴニスト対正規化用量応答曲線をプロットする非線形フィットモデルを使用することによってGraphPad Prism7.0においてIgG IC50値を算出した。この用量応答曲線に基づいて、50%のY値を使用して、対応するX値またはIC50を算出した。各IgG試料を異なる日に2回の独立した実験で測定し、平均IC50値を報告した。
【0207】
SARS-CoV-2の真のウイルス中和アッセイ
真のSARS-CoV-2(COV2-P3)を、以前に記載されているように(Vanshyllaら、2021、Cell host & Microbe、29(6):917~929.e4)、VeroE6細胞を使用してSARS-CoV-2陽性スワブ試料から事前に成長させた。中和アッセイのために、2%のFBS、1%のPS、1mMのL-グルタミンおよび1mMのピルビン酸ナトリウムを含有するDMEM中のモノクローナルIgGの5倍系列希釈液を調製し、37℃で1時間、ウイルス(1000~2000TCID50)と共インキュベートした後、2%のFBS、1%のPS、1mMのL-グルタミンおよび1mMのピルビン酸ナトリウムを含有するDMEM(Gibco)中のVeroE6細胞を加えた。希釈系列は、モノクローナル抗体について10μg/mlの開始濃度(IgGおよびウイルスの共インキュベーション中の濃度を指す)を有した。
【0208】
37℃および5%COでの4日のインキュベーション後、明視野顕微鏡を使用して細胞変性効果(CPE)を観察することによって中和を解析し、CPEが認められなかった最高希釈ウェルの抗体濃度をその抗体のIC100とした。全ての試料を別の日に2回の独立した実験で測定し、全ての測定値からの平均IC100を報告した。
【0209】
Hep-2自己反応性アッセイ
DPBS中の100μg/mlのモノクローナル抗体を用いたNOVA Lite Hep-2 ANAキット(Inova Diagnostics)を使用して製造業者のプロトコールに従ってHep-2細胞自己反応性アッセイを実施した。陽性対照として、Hep-2細胞反応性HIV-1中和抗体4E10を含めた。15msの露光時間および10のゲインでLeica DMI3000 B顕微鏡を使用して画像を取得した。画像をAdobe Photoshopで処理し、Adobe Illustrator CC2018(登録商標)でアセンブルした。このアッセイで試験した本発明の抗体(R200-1B9、R207-2F11、R40-1G8、R568-2G5、R568-2B11、R207-2G4、R40-1C8、R568-2B9、R568-1B3、R568-2E1、R568-1G9およびR121-1F1)のいずれも、このアッセイにおいて自己反応性を示さなかった(データは示さず)。
【0210】
本発明の抗体で得られた結果の概要を図2、3、4、6および7に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【配列表】
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【国際調査報告】