(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ヒト赤血球系前駆細胞を作製するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20241108BHJP
【FI】
C12N5/078
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534161
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-07-23
(86)【国際出願番号】 US2022051992
(87)【国際公開番号】W WO2023107477
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523373821
【氏名又は名称】トレイルヘッド バイオシステムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ウェルチー アンゼリカ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
既知組成の培養培地を用いて造血幹細胞からヒト赤血球系前駆細胞を誘導するための方法が提供される。本方法によって作製された赤血球系前駆細胞には、巨核球/赤血球系前駆細胞(MEP細胞)、およびCD71+CD235+CD34-赤血球系細胞が含まれ、これらは、赤血球へとさらに分化させることが可能である。培養培地、単離された細胞集団、およびキットもまた提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞を作製する方法であって、ヒトGATA1+ MEP細胞を得るために、第0日~第4日に、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地中でヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を培養する段階を含む、前記方法。
【請求項2】
ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るために、第4日~第9日に、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中で前記ヒトGATA1+ MEP細胞がさらに培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HSCが臍帯血に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記HSCが骨髄または末梢血に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記IL3R経路アゴニストがIL-3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
IL-3が、5~15 ng/mlの範囲内の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
IL-3が10 ng/mlの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記TGFβ経路アゴニストが、アラントラクトン、アクチビンA、TGFB1、およびノーダル、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記TGFβ経路アゴニストが、500~1000 nMの範囲内の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記TGFβ経路アゴニストがアラントラクトンであり、これが750 nMの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記AHR経路アンタゴニストが、SR1、GNF351、AHRアンタゴニスト5ヘミマレアート、AHRアンタゴニスト1、PDM2、BAY 2416964、CH-223191、AHRアンタゴニスト2、AHRアンタゴニスト4、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記AHR経路アンタゴニストが、500~1000 nMの範囲内の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記AHR経路アンタゴニストがSR1であり、これが750 nMの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記RET経路アンタゴニストが、RETki、レンバチニブ、レゴラフェニブ、プラルセチニブ、セルペルチニブ(Selpertinib)、レンバチニブメシル酸塩、RET-IN-4、RPI-1、JNJ38158471、アムバチニブ、TG101209、レゴラフェニブ塩酸塩、イロラセルチブ塩酸塩、AST487、PF477736、BBT594、AD80、GSK3179106、SPP86、RET-IN-3、WF-47-JS03、RET V804M-IN-1、トランス-プラルセチニブ、PZ1、レゴラフェニブD3、RET-IN-1、ML786二塩酸塩、WHI-P180塩酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記RET経路アンタゴニストが、500~1000 nMの範囲内の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記RET経路アゴニストがRETkiであり、これが750 nMの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記AKT経路アンタゴニストが、MK2206、GSK690693、ペリフォシン(KRX-0401)、イパタセルチブ(GDC-0068)、カピバセルチブ(AZD5363)、PF-04691502、AT 7867、トリシリビン(NSC154020)、ARQ751、ミランセルチブ(ab235550)、ボルセルチブ(Borussertib)、セリセルチブ(Cerisertib)、Akti1/2、CCT128930、A 674563、PHT 427、ミルテホシン、AT 13148、ML 9、BAY 1125976、オリドニン、TIC10、ペクトリナリン、Acti IV、10-DEBC、API-1、SC 66、FPA 124、API-2、ウロリチンA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記AKT経路アンタゴニストが、50~150 nMの範囲内の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記AKT経路アンタゴニストがMK2206であり、これが100 nMの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記鉄供給源が、ホロトランスフェリン、FeIII_EDTA、オプティフェリン(Optferrin)、FeSO4、硝酸第一鉄、ラクトフェリン、フェリチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記鉄供給源が、150~250 ug/mlの範囲内の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記鉄供給源がホロトランスフェリンであり、これが200 ug/mlの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記EPOR経路アゴニストが、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記EPOR経路アゴニストがEPOである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記EPOR経路アゴニストがEPOであり、これが2 U/mlの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記AMPK経路アゴニストが、AICAR、メトホルミン、BC1618、マルビジン-3-O-アラビノシドクロリド、A-769662、MK8722、ベムペド酸、AICARリン酸塩、フェンホルミン塩酸塩、EX229、ギンゲロール、カジノールB、PF06409577、フルフェナム酸、GSK621、ウロリチンB、MK3903、キトサンオリゴ糖、パルミトエライジン酸、O-304、アマロゲンチン、7-メトキシイソフラボン、EB-3D、ブホルミン塩酸塩、プラチコジンD、ZLN024塩酸塩、ダントロン、アンプキノン(Ampkinone)、ギンコライドC(ginkolide C)、ゴミシンJ、デメチレンベルネリン(Demethylenebernerine)、ASP4132、IM156、バカリン(Vacarin)、MOTS-c(ヒト)酢酸塩、カーウェオール、AMPKアクチベーター4、マレイン、オイホルビアステロイド、シミラセモシドC、メトホルミンD6塩酸塩、MT6378、RSVA405、ネポジン、3α-ヒドロキシモグロール、AMPKアクチベーター1、YLF-466D、ブホルミン、IQZ23、ガレジン塩酸塩、カランジン、COH-SR4、HL271、ZLN024、EB-3D、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記AMPK経路アゴニストが、50~150 uMの範囲内の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記AMPK経路アゴニストがAICARであり、これが100 uMの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記脂質供給源が、Albumax、遊離脂肪酸、リゾホスファチジルコリン トリアシルグリセリド、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、コレステロール、スフィンゴミエリン、ノックアウト血清代替物、Lipid Mixture 1(商標)、Chemically Defined Lipid Concentrate(商標)、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記脂質供給源がAlbumaxである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記脂質供給源がAlbumaxであり、これが0.5%の濃度で前記培養培地中に存在する、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を作製する方法であって、
(a) ヒトGATA1+ MEP細胞を得るために、第0日~第4日に、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地中でヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を培養する段階;ならびに
(b) ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るために、第4日~第9日に、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中で該ヒトGATA1+ MEP細胞をさらに培養する段階
を含む、前記方法。
【請求項33】
段階(a)において、前記IL3R経路アゴニストがIL-3であり、前記TGFβ経路アゴニストがアラントラクトンであり、前記AHR経路アンタゴニストがSR1であり、前記RET経路アンタゴニストがRETkiであり、かつ前記AKT経路アンタゴニストがMK2206である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
段階(a)において、IL-3が10 ng/mlの濃度で前記培養培地中に存在し、アラントラクトンが750 nMの濃度で前記培養培地中に存在し、SR1が750 nMの濃度で前記培養培地中に存在し、RETkiが750 nMの濃度で前記培養培地中に存在し、かつMK2206が100 nMの濃度で前記培養培地中に存在する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
段階(b)において、前記AHR経路アンタゴニストがSR1であり、前記鉄供給源がホロトランスフェリンであり、前記EPOR経路アゴニストがEPOであり、前記AMPK経路アゴニストがAICARであり、かつ前記脂質供給源がAlbumaxである、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
段階(b)において、SR1が750 nMの濃度で前記培養培地中に存在し、ホロトランスフェリンが200 ug/mlの濃度で前記培養培地中に存在し、EPOが2 U/mlの濃度で前記培養培地中に存在し、AICARが100 uMの濃度で前記培養培地中に存在し、かつAlbumaxが0.5%の濃度で前記培養中に存在する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞を得るための培養培地。
【請求項38】
AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るための培養培地。
【請求項39】
ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞の単離された細胞培養物であって、該培養物が、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地中で培養されたヒトGATA1+ MEP細胞を含む、前記細胞培養物。
【請求項40】
ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞の単離された細胞培養物であって、該培養物が、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中で培養されたヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を含む、前記細胞培養物。
【請求項41】
請求項1に記載の方法によって作製された、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞。
【請求項42】
請求項2または請求項32に記載の方法によって作製された、ヒトCD71+CD235+CD34-ヒト赤血球系前駆細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年12月8日に提出された米国特許仮出願第63/287,372号の優先権を主張する。該仮出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
造血幹細胞(HSC)は、多能性であって自己複製性の細胞であり、造血系の全体が該細胞から生じる。HSCは、骨髄および臍帯血において天然に見いだされる希少な細胞であり、かつ末梢血においてはさらに希少である。HSCは典型的には、特定のマーカーの発現かまたは非発現によって定義され、これには、CD34の発現、ならびにLineage特異的マーカーおよびCD38の非発現が含まれる(Lin-CD34+CD38-)。HSCが増殖する培養条件により、HSCが造血系の下流のどの細胞系列へと分化するのかが決定される。したがって、特定の造血系列の産生を促進する培養条件を同定することは、大きな関心を集めている。
【0003】
HSCは、適切な条件下で血液成分へと分化することが可能であり、該血液成分には赤血球および血小板が含まれる。輸血用の血液製剤は、常にどこでも不足していることに加えて、献血は、既存の病原体および新たに出現する病原体に汚染されている懸念があることから、HSCから血液成分をインビトロで作製する技能は、再生医療において焦点である。
【0004】
CD34+ HSCからRBCを作製する最も初期のプロトコルでは、赤血球系列を発生させるための重要な培養成分として、インターロイキン-3(IL-3)、エリスロポエチン(EPO)、および幹細胞因子(SCF)が同定された(たとえば、以下を参照されたい:Giarratana et al. (2011) Blood 118:5071-5079(非特許文献1); Kim (2014) Yonsei Med. J. 55:304-309(非特許文献2))。しかしながら、SCFは高価な試薬であるため、赤血球系前駆細胞を作製するためのSCF含有培養培地は、SCFを含まない培地と比べて高価である。
【0005】
CD34+ HSCから赤血球を作製するためのさらなるプロトコルが記述されており、これは、分化の特定のステージのための成分をさらに定義している。たとえば、赤血球系細胞を作製するための、21日間にわたる4ステージ型のプロトコルが記述されており、これは、IL-3、EPO、およびSCFのみならず、トロンボポエチン(TPO)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、およびfms関連チロシンキナーゼ3リガンド(FL)を含み、ウシ血清も含む培養成分を利用するものである(Zhang et al. (2017) Stem Cells Transl. Med. 6:1698-1709(非特許文献3))。無血清で赤血球系細胞を分化させるためのプロトコルが記述されており、これにおいては、IL-3、EPO、およびSCFの使用に加えて、デキサメタゾン、インスリン、ホロトランスフェリン、およびウシ血清アルブミンが培養培地中に含まれる(Uchida et al. (2018) Mol. Ther. Methods Clin. Dev. 9:247-256(非特許文献4))。
【0006】
このように、いくらかの進展はあるものの、培養下でヒト造血幹細胞からヒト赤血球系前駆細胞を作製するための、効率的であってかつ安定な方法および組成物が、依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Giarratana et al. (2011) Blood 118:5071-5079
【非特許文献2】Kim (2014) Yonsei Med. J. 55:304-309
【非特許文献3】Zhang et al. (2017) Stem Cells Transl. Med. 6:1698-1709
【非特許文献4】Uchida et al. (2018) Mol. Ther. Methods Clin. Dev. 9:247-256
【発明の概要】
【0008】
本開示は、既知組成の培養培地を用いて、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)、たとえば臍帯血または骨髄細胞などに由来する該幹細胞から、ヒト赤血球系前駆細胞を作製するための方法を提供する。本開示は2ステージ型のプロトコルを提供し、該プロトコルは、4日間という短期間の培養で、GATA1+巨核球/赤血球系前駆細胞の取得を可能にし、かつ、9日間という短期間の培養で、CD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞の取得を可能にする。したがって、本開示の方法は、巨核球/血小板系列と赤血球系列の両方の前駆細胞を得るために使用することが可能であり、かつ、赤血球系列の過程にある、より分化した前駆細胞であって、赤血球へとさらに分化することが可能な前駆細胞を得るために使用することも可能である。
【0009】
本開示の培養培地は、幹細胞において特定のシグナル伝達経路をアゴナイズするかまたはアンタゴナイズするかのいずれかである小分子作用物質を含み、その結果、赤血球系列の過程にあるHSCの分化が促進されて、赤血球系細胞に関連するバイオマーカーの発現がもたらされる。本開示の方法は、赤血球系前駆細胞を得るために必要な時間を顕著に短縮し、かつ、より初期のプロトコルと比べて安価な試薬を使用することによって関連コストを削減する、という利点を有する。たとえば、本開示の培養培地は、高価な試薬である幹細胞因子(SCF)を使用する必要がない。さらに、小分子である作用物質を培養培地中において使用することで、培養成分の厳密な制御が可能になる。
【0010】
したがって、1つの局面において本開示は、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞を作製する方法に関連し、該方法は以下の段階:ヒトGATA1+ MEP細胞を得るために、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地中で、第0日~第4日に、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を培養する段階、を含む。
【0011】
1つの態様において、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るために、第4日~第9日に、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中でヒトGATA1+ MEP細胞はさらに培養される。
【0012】
1つの態様において、HSCは臍帯血に由来する。1つの態様において、HSCは骨髄に由来する。1つの態様において、HSCは末梢血に由来する。
【0013】
1つの態様において、IL3R経路アゴニストはIL-3である。1つの態様において、IL-3は、5~15 ng/mlの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、IL-3は、10 ng/mlの濃度で培養培地中に存在する。
【0014】
1つの態様において、TGFβ経路アゴニストは、アラントラクトン、アクチビンA、TFGB1、ノーダル、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、TGFβ経路アゴニストは、500~1000 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、TGFβ経路アゴニストはアラントラクトンであり、これは750 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0015】
1つの態様において、AHR経路アンタゴニストは、SR1、GNF351、AHRアンタゴニスト5ヘミマレアート、AHRアンタゴニスト1、PDM2、BAY 2416964、CH-223191、AHRアンタゴニスト2、AHRアンタゴニスト4、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、AHR経路アンタゴニストは、500~1000 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AHR経路アンタゴニストはSR1であり、これは750 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0016】
1つの態様において、RET経路アンタゴニストは、RETki、レンバチニブ、レゴラフェニブ、プラルセチニブ、セルペルチニブ(Selpertinib)、レンバチニブメシル酸塩、RET-IN-4、RPI-1、JNJ38158471、アムバチニブ、TG101209、レゴラフェニブ塩酸塩、イロラセルチブ塩酸塩、AST487、PF477736、BBT594、AD80、GSK3179106、SPP86、RET-IN-3、WF-47-JS03、RET V804M-IN-1、トランス-プラルセチニブ、PZ1、レゴラフェニブD3、RET-IN-1、ML786二塩酸塩、WHI-P180塩酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、RET経路アンタゴニストは、500~1000 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、RET経路アゴニストはRETkiであり、これは750 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0017】
1つの態様において、AKT経路アンタゴニストは、MK2206、GSK690693、ペリフォシン(KRX-0401)、イパタセルチブ(GDC-0068)、カピバセルチブ(AZD5363)、PF-04691502、AT 7867、トリシリビン(NSC154020)、ARQ751、ミランセルチブ(ab235550)、ボルセルチブ(Borussertib)、セリセルチブ(Cerisertib)、Akti1/2、CCT128930、A 674563、PHT 427、ミルテホシン、AT 13148、ML 9、BAY 1125976、オリドニン、TIC10、ペクトリナリン、Acti IV、10-DEBC、API-1、SC 66、FPA 124、API-2、ウロリチンA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、AKT経路アンタゴニストは、50~150 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AKT経路アンタゴニストはMK2206であり、これは100 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0018】
1つの態様において、鉄供給源は、ホロトランスフェリン、FeIII_EDTA、オプティフェリン(Optferrin)、FeSO4、硝酸第一鉄、ラクトフェリン、フェリチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、鉄供給源は、150~250 ug/mlの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、鉄供給源はホロトランスフェリンであり、これは200 ug/mlの濃度で培養培地中に存在する。
【0019】
1つの態様において、EPOR経路アゴニストは、EPO、EPOアナログ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、EPOR経路アゴニストはEPOである。1つの態様において、EPOR経路アゴニストはEPOであり、これは2 U/mlの濃度で培養培地中に存在する。
【0020】
1つの態様において、AMPK経路アゴニストは、AICAR、メトホルミン、BC1618、マルビジン-3-O-アラビノシドクロリド、A-769662、MK8722、ベムペド酸、AICARリン酸塩、フェンホルミン塩酸塩、EX229、ギンゲロール、カジノールB、PF06409577、フルフェナム酸、GSK621、ウロリチンB、MK3903、キトサンオリゴ糖、パルミトエライジン酸、O-304、アマロゲンチン、7-メトキシイソフラボン、EB-3D、ブホルミン塩酸塩、プラチコジンD、ZLN024塩酸塩、ダントロン、アンプキノン(Ampkinone)、ギンコライドC(ginkolide C)、ゴミシンJ、デメチレンベルネリン(Demethylenebernerine)、ASP4132、IM156、バカリン(Vacarin)、MOTS-c(ヒト)酢酸塩、カーウェオール、AMPKアクチベーター4、マレイン、オイホルビアステロイド、シミラセモシドC、メトホルミンD6塩酸塩、MT6378、RSVA405、ネポジン、3α-ヒドロキシモグロール、AMPKアクチベーター1、YLF-466D、ブホルミン、IQZ23、ガレジン塩酸塩、カランジン、COH-SR4、HL271、ZLN024、EB-3D、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、AMPK経路アゴニストは、50~150 uMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AMPK経路アゴニストはAICARであり、これは100 uMの濃度で培養培地中に存在する。
【0021】
1つの態様において、脂質供給源は、Albumax、遊離脂肪酸、リゾホスファチジルコリン トリアシルグリセリド、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、コレステロール、スフィンゴミエリン、ノックアウト血清代替物、Lipid Mixture 1(商標)、Chemically Defined Lipid Concentrate(商標)、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、脂質供給源はAlbumaxである。1つの態様において、脂質供給源はAlbumaxであり、これは0.5%の濃度で培養培地中に存在する。
【0022】
別の局面において、本開示は、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を作製する方法に関連し、該方法は以下の段階を含む:
(a) ヒトGATA1+ MEP細胞を得るために、第0日~第4日に、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地中でヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を培養する段階;ならびに
(b) ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るために、第4日~第9日に、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中でヒトGATA1+ MEP細胞をさらに培養する段階。
【0023】
非限定的な例示的試薬および例示的濃度には、上に列挙したものが含まれる。1つの態様において、段階(a)において、IL3R経路アゴニストはIL-3であり、TGFβ経路アンタゴニストはアラントラクトンであり、AHR経路アンタゴニストはSR1であり、RET経路アンタゴニストはRETkiであり、かつAKT経路アンタゴニストはMK2206である。1つの態様において、段階(a)において、IL-3は10 ng/mlの濃度で培養培地中に存在し、アラントラクトンは750 nMの濃度で培養培地中に存在し、SR1は750 nMの濃度で培養培地中に存在し、RETkiは750 nMの濃度で培養培地中に存在し、かつMK2206は100 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0024】
1つの態様において、段階(b)において、AHR経路アンタゴニストはSR1であり、鉄供給源はホロトランスフェリンであり、EPOR経路アゴニストはEPOであり、AMPK経路アゴニストはAICARであり、かつ脂質供給源はAlbumaxである。1つの態様において、段階(b)において、SR1は750 nMの濃度で培養培地中に存在し、ホロトランスフェリンは200 ug/mlの濃度で培養培地中に存在し、EPOは2 U/mlの濃度で培養培地中に存在し、AICARは100 uMの濃度で培養培地中に存在し、かつAlbumaxは0.5%の濃度で培養中に存在する。
【0025】
別の局面において、本開示は、ヒト赤血球系前駆細胞を作製するための培養培地に関連する。1つの態様において、本開示は、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞を得るための培養培地を提供し、該培養培地は、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む。1つの態様において、本開示は、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るための培養培地を提供し、該培養培地は、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む。
【0026】
別の局面において、本開示は、ヒト赤血球系前駆細胞の単離された細胞培養物に関連する。1つの態様において、本開示は、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞の単離された細胞培養物を提供し、該培養物は、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地中で培養されたヒトGATA1+ MEP細胞を含む。1つの態様において、本開示は、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞の単離された細胞培養物を提供し、該培養物は、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中で培養されたヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を含む。
【0027】
本開示の方法によって作製されたヒト赤血球系前駆細胞もまた提供される。1つの態様において、本開示は、本開示の方法によって作製されたヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞に関連する。1つの態様において、本開示は、本開示の方法によって作製されたヒトCD71+CD235+CD34-ヒト赤血球系前駆細胞に関連する。
【0028】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、GATA1の最大発現のために最適化された8因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上部は、GATA1のために最適化された場合の、あらかじめ選択された53種類の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下部は、このモデルにおいて試験されたエフェクター、およびGATA1の最大発現に対する該エフェクターの寄与を示す。「値」の列は、モデルを模倣するのに必要となる、各エフェクターの濃度を指す。
【
図2】
図2は、GATA1の最大発現のために最適化された6因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上部は、GATA1のために最適化された場合の、あらかじめ選択された53種類の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下部は、このモデルにおいて試験されたエフェクター、およびGATA1の最大発現に対する該エフェクターの寄与を示す。「値」の列は、モデルを模倣するのに必要となる、各エフェクターの濃度を指す。
【
図3】
図3は、HBA1の最大発現のために最適化された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上部は、HBA1のために最適化された場合の、あらかじめ選択された53種類の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下部は、このモデルにおいて試験されたエフェクター、およびHBA1の最大発現に対する該エフェクターの寄与を示す。「値」の列は、モデルを模倣するのに必要となる、各エフェクターの濃度を指す。
【
図4A】
図4A~4Bは、MEP細胞について試験された、1種類の検証済みエフェクターの濃度に対する、GATA1遺伝子、GATA2遺伝子、CD36遺伝子、およびTFRC遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。
図4Aは、全3種類の最終的なエフェクターの存在下での、関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図4Bは、最終的なエフェクターのうちの1種類を欠くが、その他は存在している際の、関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。遺伝子の発現に対するエフェクターの正の影響、およびそれらの因子寄与は、各エフェクターについてのプロットの傾きによって示される。
【
図5A】
図5A~5Bは、赤血球系細胞への変換について試験された、1種類の検証済みエフェクターの濃度に対する、GATA1遺伝子、HBA1遺伝子、GYPA遺伝子、およびTFRC遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。
図5Aは、全6種類の最終的なエフェクターの存在下での、関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。
図5Bは、最終的なエフェクターのうちの1種類を欠くが、その他は存在している際の、関心対象の遺伝子の発現レベルを示す。遺伝子の発現に対するエフェクターの正の影響、およびそれらの因子寄与は、各エフェクターについてのプロットの傾きによって示される。
【
図6】
図6A~6Bは、臍帯血CD34+細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示し、ここで該細胞は、ステージ1培地かまたは文献の培地において4日間かまたは5日間にわたり増殖させたものである。
図6Aは、CD71に対する抗体、CD235(グリコーゲン)に対する抗体を用いて染色され、かつ、解析から死細胞を除外するため、生死判定マーカーであるFVS700を用いて染色された細胞についての結果を示す。
図6Bは、ステージ1培地において増殖させたCD71+細胞、および培養培地中において増殖させたCD71+細胞の、第4日および第5日における平均蛍光強度(MFI)を示す。
【
図7A】
図7A~7Bは、臍帯血CD34+細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示し、ここで該細胞は、ステージ1培地(濃灰色)かまたは文献の培地(淡灰色)において4日間かまたは5日間にわたり増殖させたものである。CD71、CD34、CD38、CD123、CD45RA、CD41、およびFVS700に対する抗体を用いて染色され、かつ、解析から死細胞を除外するため、生死判定マーカーを用いて染色された細胞についての結果が示される。
【
図8A】
図8A~8Cは、臍帯血CD34+細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示し、ここで該細胞は、ステージ1培地かまたは文献の培地において4日間にわたり増殖させ、それに続いて、ステージ2培地かまたは文献の培地において3日間、5日間、または7日間にわたり増殖させたものである。細胞は、CD71に対する抗体、CD235(グリコホリンAおよびB)に対する抗体を用いて染色され、かつ、解析から死細胞を除外するため、生死判定マーカーであるFVS700を用いて染色された。
図8Aは、ステージ2培地における3日間の培養の結果を示す。
図8Bは、ステージ2培地における5日間の培養の結果を示す。
図8Cは、ステージ2培地における7日間の培養の結果を示す。
【
図9A】
図9A~9Cは、臍帯血CD34+細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示し、ここで該細胞は、ステージ1培地かまたは文献の培地において4日間にわたり増殖させ、それに続いて、ステージ2培地かまたは文献の培地において3日間、5日間、または7日間にわたり増殖させたものである。細胞は、DRAQ5を用いてDNAに関して染色された。
図9Aは、ステージ2培地における3日間の培養の結果を示す。
図9Bは、ステージ2培地における5日間の培養の結果を示す。
図9Cは、ステージ2培地における7日間の培養の結果を示す。
【
図10】
図10は、臍帯血CD34+細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示し、ここで該細胞は、ステージ1培地において4日間にわたり増殖させ、それに続いて、2種類の異なる基礎培地を用いたステージ2培地において、5日間にわたり増殖させたものである。Stemline 2培地と例示的な基礎培地とが比較された。細胞は、CD71に対する抗体、CD235(グリコホリンAおよびB)に対する抗体を用いて染色され、かつ、解析から死細胞を除外するため、生死判定マーカーであるFVS700を用いて染色された。ステージ2培地において5日間にわたり細胞を増殖させた後の、培養物中の細胞数が評価された。
【
図11】
図11A~11Bは、さまざまな濃度のコレステロールサプリメントおよびホロトランスフェリンにおけるHBAの発現(
図11A)、ならびにさまざまな濃度のコレステロールサプリメントおよびEPOにおけるHBAの発現(
図11B)を表す等高線プロットを示す。プロット上部の濃色の領域は、HBAの最大発現を示し、一方で下部の濃色の領域は、HBAの最小発現を示す。この解析は、コレステロールサプリメントを追加し、かつEPOおよびホロトランスフェリンの濃度を高くすることが、該系においてHBAの発現を最大化するのに最適であることを示している。
【
図12】
図12は、赤血球マーカーであるHBG2の最大発現のために最適化された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上部は、HBG2のために最適化された場合の、あらかじめ選択された53種類の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下部は、このモデルにおいて試験されたエフェクター、およびHBG2の最大発現に対する該エフェクターの寄与を示す。「値」の列は、モデルを模倣するのに必要となる、各エフェクターの濃度を指す。このモデルは、MEP細胞を作製するためにステージ1培地において増殖させたHSCが、赤血球系列へと分化する潜在能力を有する細胞を生じさせることを示している。
【
図13】
図13は、巨核球/血小板マーカーであるPF4の最大発現のために最適化された8因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上部は、PF4のために最適化された場合の、あらかじめ選択された53種類の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下部は、このモデルにおいて試験されたエフェクター、およびPF4の最大発現に対する該エフェクターの寄与を示す。「値」の列は、モデルを模倣するのに必要となる、各エフェクターの濃度を指す。このモデルは、MEP細胞を作製するためにステージ1培地において増殖させたHSCが、血小板系列へと分化する潜在能力を有する細胞を生じさせることを示している。
【
図14】
図14は、本開示の培養方法の代表的なものの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本明細書においては、小分子ベースのアプローチを用いて、既知組成の培養条件下でヒトCD34+造血幹細胞(HSC)からヒト赤血球系前駆細胞を作製することを可能にする、方法論および組成物が記載される。実施例1に記載されるように、高次元の実験計画法(High-Dimensional Design of Experiments)(HD-DoE)アプローチが使用されて、アウトプットである応答、これはたとえば遺伝子発現などであるが、該応答に対する、プロセスの複数のインプット(たとえば、小分子であるアゴニストまたはアンタゴニスト)が同時に試験された。これらの実験により、特定のシグナル伝達経路のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを含む、既知組成の培養培地であって、2ステージ型のプロトコルにおいて非常に短い時間でHSCから赤血球系前駆細胞を作製するのに十分なものである、培養培地を同定することが可能となった。プロトコルの第1のステージにおいては、CD34+ HSCから、GATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞が作製される。プロトコルの第2のステージにおいては、GATA1+ MEP細胞から、CD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞が作製される。最適化された2ステージ型の培養培地は、因子についての致命度解析によってさらに検証されたが、これは、実施例2に記載されるように、アゴニストまたはアンタゴニストである個々の作用物質を消失させた際の影響を調査するものであった。実施例3に記載されるように、当該分化プロトコルによって作製された細胞の表現型が、フローサイトメトリー解析によってさらに確認された。さらに、本開示の方法によって作製された巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞の、分化に関する潜在能力が、実施例4において調査された。本開示の培養方法の代表的なものが、
図14において概略図として示されている。
【0031】
本発明のさまざまな局面は、以下のサブセクションにおいてより詳細に説明される。
【0032】
I. 細胞
本開示の培養において使用される出発細胞は、ヒトCD34+造血幹細胞である。本明細書において使用される場合、「造血幹細胞」(HSCと略される)との用語は、造血系細胞の多岐にわたるさまざまな型へと分化する能力を有する、幹細胞を指す。CD34は、当技術分野においてHSCの表面マーカーとして確立している、膜貫通型リン酸化糖タンパク質である。ヒトHSCは、利用可能な供給源から容易に入手することが可能であり、該供給源には、ヒト臍帯血、成人の骨髄、および末梢血が含まれる。HSCには、長期HSC(LT-HSC)と短期HSC(ST-HSC)の両方が含まれる。
【0033】
長期HSC(LT-HSC)は、骨髄または臍帯血に見いだされるHSCであり、非対称細胞分裂のプロセスを通じて、幹細胞プールが維持されるように自己複製することが可能であり、または短期HSC(ST-HSC)へと、もしくは系列が限定された前駆細胞へと分化することも可能であり、該前駆細胞は、活発な増殖および分化を経て、血液系列における最終的に分化した細胞を産生する。LT-HSCは、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+細胞分画において富化されていると考えられている。LT-HSCは、不活発であって、かつ培養下でゆっくりと分裂する細胞であり、最初の細胞分裂までに最長で80時間かかる(Cheung and Rando (2013) Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 14:329-340)。これとは対照的に、短期HSC(ST-HSC)は、その定義によれば、限定的な自己複製能力を有するものであり、老化の前に、4~12週間にわたってリンパ・造血系の生成を引き起こす旨が一般的に記述されている。
【0034】
1つの態様において、HSCはCD34を発現している(CD34+)。1つの態様において、HSCは、Lineageマーカーを発現していない(Lin-)。1つの態様において、HSCはCD38を発現していない(CD38-)。1つの態様において、HSCはCD45RAを発現していない(CD45RA-)。1つの態様において、HSCはCD90を発現している(CD90+)。1つの態様において、HSCは、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+細胞である。
【0035】
ある態様において、HSCは、HSC表現型に関連する遺伝子(本明細書においてHSC関連遺伝子マーカーとも称される)の1種または複数種を発現しており、その非限定的な例には、CHRBP、Mecom、Meg3、HOPX、LMO2、CD34、TAL1、およびGATA2が含まれる。
【0036】
II. 培養培地の成分
CD34+ HSCからヒト赤血球系前駆細胞を作製するための、本開示の方法は、細胞受容体および/またはシグナル伝達経路に対する特異的なアゴニストおよび/またはアンタゴニストを含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む。ある特定の態様において、該培養培地は外部から血清を追加されていない、かつ/または該培養培地は外部からウシ血清アルブミンを追加されていない、かつ/または該培養培地は幹細胞因子(SCF)を欠いている(すなわち、該培地はSCFを含まない)。
【0037】
1つの態様において、本開示は、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞を得るための培養培地を提供し、該培養培地は、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む。1つの態様において、本開示は、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るための培養培地を提供し、該培養培地は、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む。
【0038】
実施例1に記載されるように、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地は、4日間という短期間でCD34+ HSCからGATA1+ MEP細胞を作製するのに十分なものであった。さらに、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中でもう5日間、さらに培養を行うことは、GATA1+ MEP細胞からCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を作製するのに十分なものであった。
【0039】
本明細書において使用される場合、細胞受容体またはシグナル伝達経路の「アゴニスト」とは、細胞受容体またはシグナル伝達経路を刺激する(活性化する)作用物質を指すことが意図される。細胞のシグナル伝達経路の刺激は、細胞外で開始させることが可能であり、これはたとえば、シグナル伝達経路に関与する細胞表面受容体を活性化するアゴニストを使用することによって、なされる(たとえば、アゴニストは受容体のリガンドであり得る)。上記に加えて、または上記に代えて、細胞のシグナル伝達の刺激は、細胞内で開始させることが可能であり、これはたとえば、シグナル伝達経路の構成要素と細胞内で相互作用する小分子アゴニストを使用することによって、なされる。
【0040】
本明細書において使用される場合、細胞のシグナル伝達経路の「アンタゴニスト」とは、細胞のシグナル伝達経路を阻害する(下方制御する)作用物質を指すことが意図される。細胞のシグナル伝達経路の阻害は、細胞外で開始させることが可能であり、これはたとえば、シグナル伝達経路に関与する細胞表面受容体をブロックするアンタゴニストを使用することによって、なされる。上記に加えて、または上記に代えて、細胞のシグナル伝達の阻害は、細胞内で開始させることが可能であり、これはたとえば、シグナル伝達経路の構成要素と細胞内で相互作用する小分子アンタゴニストを使用することによって、なされる。
【0041】
IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、AKT経路アンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源は、当技術分野において公知であり、かつ市販されている。これらは、所望のアウトカムを達成するのに効果的な濃度で、培養培地中において使用され、ここで所望のアウトカムとは、たとえば、関心対象のマーカーを発現している赤血球系前駆細胞の産生である。アゴニストである適切な作用物質およびアンタゴニストである適切な作用物質の非限定的な例、ならびに効果的な濃度範囲は、以下にさらに記載されている。
【0042】
IL3R経路のアゴニストには、IL3Rシグナル伝達経路を刺激する(活性化する)ことが可能な、作用物質、分子、化合物、または物質が含まれる。1つの態様において、IL3R経路アゴニストは、IL3であるか、またはそのIL3R結合アナログである。別の態様において、IL3R経路アゴニストはIL-3である。1つの態様において、IL3R経路アゴニストはIL-3であり、これは、5~15 ng/mlの範囲、6~14 ng/mlの範囲、7~13 ng/mlの範囲、または8~12 ng/mlの範囲の濃度で培地中に存在する。1つの態様において、IL3R経路アゴニストはIL-3であり、これは10 ng/mlの濃度で培地中に存在する。
【0043】
TGFβ経路のアゴニストには、TGFβシグナル伝達経路を刺激する(活性化する)ことが可能な、作用物質、分子、化合物、または物質が含まれる。1つの態様において、TGFβ経路アゴニストは、アラントラクトン、アクチビンA、TGFB1、ノーダル、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、TGFβ経路アゴニストはアクチビンAである。別の態様において、TGFβ経路アゴニストはアラントラクトンである。1つの態様において、TGFβ経路アゴニストはアラントラクトンであり、これは、500~1000 nMの範囲、600~900 nMの範囲、または700~800 nMの範囲の濃度で培地中に存在する。1つの態様において、TGFβ経路アゴニストはアラントラクトンであり、これは750 nMの濃度で培地中に存在する。
【0044】
AHR(芳香族炭化水素受容体)経路のアンタゴニストには、AHRシグナル伝達経路を阻害する(下方制御する)ことが可能な、作用物質、分子、化合物、または物質が含まれる。1つの態様において、AHR経路アンタゴニストは、SR1、GNF351、AHRアンタゴニスト5ヘミマレアート、AHRアンタゴニスト1、PDM2、BAY 2416964、CH-223191、AHRアンタゴニスト2、AHRアンタゴニスト4、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、AHR経路アンタゴニストは、500~1000 nMの範囲内、600~900 nMの範囲内、または700~800 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AHR経路アンタゴニストはSR1であり、これは、500~1000 nMの範囲内、600~900 nMの範囲内、または700~800 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AHR経路アンタゴニストはSR1であり、これは750 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0045】
RET(トランスフェクション中の再構成(rearranged during transfection))経路のアンタゴニストには、RETシグナル伝達経路を阻害する(下方制御する)ことが可能な、作用物質、分子、化合物、または物質が含まれる。1つの態様において、RET経路アンタゴニストは、RETki、レンバチニブ、レゴラフェニブ、プラルセチニブ、セルペルチニブ(Selpertinib)、レンバチニブメシル酸塩、RET-IN-4、RPI-1、JNJ38158471、アムバチニブ、TG101209、レゴラフェニブ塩酸塩、イロラセルチブ塩酸塩、AST487、PF477736、BBT594、AD80、GSK3179106、SPP86、RET-IN-3、WF-47-JS03、RET V804M-IN-1、トランス-プラルセチニブ、PZ1、レゴラフェニブD3、RET-IN-1、ML786二塩酸塩、WHI-P180塩酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、RET経路アンタゴニストは、500~1000 nMの範囲内、600~900 nMの範囲内、または700~800 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、RET経路アンタゴニストはRETkiであり、これは、500~1000 nMの範囲内、600~900 nMの範囲内、または700~800 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、RET経路アンタゴニストはRETkiであり、これは750 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0046】
AKT経路のアンタゴニストには、AKTシグナル伝達経路を阻害する(下方制御する)ことが可能な、作用物質、分子、化合物、または物質が含まれる。1つの態様において、AKT経路アンタゴニストは、MK2206、GSK690693、ペリフォシン(KRX-0401)、イパタセルチブ(GDC-0068)、カピバセルチブ(AZD5363)、PF-04691502、AT 7867、トリシリビン(NSC154020)、ARQ751、ミランセルチブ(ab235550)、ボルセルチブ、セリセルチブ、Akti1/2、CCT128930、A 674563、PHT 427、ミルテホシン、AT 13148、ML 9、BAY 1125976、オリドニン、TIC10、ペクトリナリン、Acti IV、10-DEBC、API-1、SC 66、FPA 124、API-2、ウロリチンA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、AKT経路アンタゴニストは、500~1000 nMの範囲内、600~900 nMの範囲内、または700~800 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AKT経路アンタゴニストはMK2206であり、これは、500~1000 nMの範囲内、600~900 nMの範囲内、または700~800 nMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AKT経路アンタゴニストはMK2206であり、これは750 nMの濃度で培養培地中に存在する。
【0047】
鉄供給源の非限定的な例示的態様には、ホロトランスフェリン、FeIII_EDTA、オプティフェリン(Optferrin)、FeSO4、硝酸第一鉄、およびそれらの組み合わせが含まれる。1つの態様において、鉄供給源は、100~300 ug/mlの範囲内、150~250 ug/mlの範囲内、または175~225 ug/mlの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、鉄供給源はホロトランスフェリンであり、これは、100~300 ug/mlの範囲内、150~250 ug/mlの範囲内、または175~225 ug/mlの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、鉄供給源はホロトランスフェリンであり、これは200 ug/mlの濃度で培養培地中に存在する。
【0048】
EPOR経路のアゴニストには、エリスロポエチン受容体(EPOR)シグナル伝達経路を刺激する(活性化する)ことが可能な、作用物質、分子、化合物、または物質が含まれる。1つの態様において、EPOR経路アゴニストは、EPOであるか、またはそのEPOR結合アナログである。別の態様において、EPOR経路アゴニストはEPOである。1つの態様において、EPOR経路アゴニストはEPOであり、これは、1~3 U/mlの範囲、1.5~2.5 U/mlの範囲、または1.75~2.25 U/mlの範囲の濃度で培地中に存在する。1つの態様において、EPOR経路アゴニストはEPOであり、これは2 U/mlの濃度で培地中に存在する。
【0049】
AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)経路のアゴニストには、AMPKシグナル伝達経路を刺激する(活性化する)ことが可能な、作用物質、分子、化合物、または物質が含まれる。1つの態様において、AMPK経路アゴニストは、AICAR、メトホルミン、BC1618、マルビジン-3-O-アラビノシドクロリド、A-769662、MK8722、ベムペド酸、AICARリン酸塩、フェンホルミン塩酸塩、EX229、ギンゲロール、カジノールB、PF06409577、フルフェナム酸、GSK621、ウロリチンB、MK3903、キトサンオリゴ糖、パルミトエライジン酸、O-304、アマロゲンチン、7-メトキシイソフラボン、EB-3D、ブホルミン塩酸塩、プラチコジンD、ZLN024塩酸塩、ダントロン、アンプキノン、ギンコライドC、ゴミシンJ、デメチレンベルネリン、ASP4132、IM156、バカリン、MOTS-c(ヒト)酢酸塩、カーウェオール、AMPKアクチベーター4、マレイン、オイホルビアステロイド、シミラセモシドC、メトホルミンD6塩酸塩、MT6378、RSVA405、ネポジン、3α-ヒドロキシモグロール、AMPKアクチベーター1、YLF-466D、ブホルミン、IQZ23、ガレジン塩酸塩、カランジン、COH-SR4、HL271、ZLN024、EB-3D、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの態様において、AMPK経路アゴニストは、50~250 uMの範囲内、50~150 uMの範囲内、または75~125 uMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AMP経路アゴニストはAICARであり、これは、50~250 uMの範囲内、50~150 uMの範囲内、または75~125 uMの範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、AMP経路アゴニストはAICARであり、これは100 uMの濃度で培養培地中に存在する。
【0050】
脂質供給源の非限定的な例示的態様には、Albumax、遊離脂肪酸、リゾホスファチジルコリン トリアシルグリセリド、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、コレステロール、スフィンゴミエリン、ノックアウト血清代替物、Lipid Mixture 1(商標)(Sigma-Aldrich社)、Chemically Defined Lipid Concentrate(商標)(ThermoFisher Scientific社)、およびそれらの組み合わせが含まれる。1つの態様において、脂質供給源はAlbumaxである。1つの態様において、脂質供給源はAlbumaxであり、これは、0.1~1.0%の範囲内、0.25~0.75%の範囲内、または0.4~0.6%の範囲内の濃度で培養培地中に存在する。1つの態様において、脂質供給源はAlbumaxであり、これは0.5%の濃度で培養培地中に存在する。
【0051】
III. 培養条件
CD34+ HSCからヒト赤血球系前駆細胞を作製する本開示の方法は、上のサブセクションIIにおいて述べた、既知組成であってかつ最適化された培養培地と組み合わせて、当技術分野において確立している、細胞培養のための標準的な培養条件を利用する。たとえば細胞は、37度であり、かつ5% O2および5% CO2という条件下で培養することが可能である。基礎培地は、そこにサプリメント作用物質が追加され得る出発培地として、使用することが可能である。たとえば、1つの態様において、市販されているStemline(登録商標)II造血幹細胞拡大培地(Sigma-Aldrich社)を、基礎培地として使用することが可能である。別の態様において、市販されているStemSpan(商標)SFEM II培地(STEMCELL Technologies社)を、基礎培地として使用することが可能である。適切な基礎培地の他の非限定的な例には、X-VIVO(商標)15無血清造血系細胞培地(Lonza Bioscience社)、StemMACS(商標)HSC拡大培地(Miltenyi Biotec社)、およびStemPro(商標)-34 SFM(ThermoFisher Scientific社;カタログ番号10639011)が含まれる。さらに、当業者であれば、当技術分野において確立している試薬を用いて、適切な無血清基礎培地を開発することが可能である。細胞は、標準的な培養容器もしくは培養プレートにおいて培養することが可能であり、これはたとえば、培養皿、培養フラスコ、または96ウェルプレートなどである。
【0052】
出発細胞であるCD34+ HSCは、当技術分野において確立している方法によって得ることが可能である。ヒトCD34+ HSCの供給源には、臍帯血、末梢血、および骨髄が含まれる。CD34+ HSCは、たとえば、標準的な磁気での富化によって、得ることが可能である。
【0053】
本開示の方法のさまざまな態様において、出発細胞であるCD34+ HSCは、特定の培養培地中において、成果物である関心対象の細胞のバイオマーカーの1種または複数種を発現する細胞が産生されるのに十分な時間にわたり、培養される。出発細胞であるHSCは、CD34マーカーを発現している。さらなるHSC関連遺伝子マーカーの非限定的な例には、CHRBP、Mecom、Meg3、HOPX、LMO2、CD34、TAL1、およびGATA2が含まれる。
【0054】
ある態様において、CD34+ HSCは、巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞が産生されるのに十分な時間にわたり、ステージ1培地において培養され、該MEP細胞は、MEP関連バイオマーカーの1種または複数種の発現に基づいて同定することが可能である。MEP関連バイオマーカーの非限定的な例には、GATA1、TFRC、TAL1、およびGATA2が含まれる。さまざまな態様において、MEP細胞は、少なくとも1種類の、少なくとも2種類の、少なくとも3種類の、または少なくとも4種類のMEP関連バイオマーカーを発現し得る。1つの態様において、細胞は、少なくとも1種類のMEP関連バイオマーカーの発現レベルが、出発細胞集団と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加するのに十分な時間にわたり、培養される。培養された細胞における遺伝子マーカーの発現レベルは、当技術分野において利用可能な技術(たとえばRNAseq解析)によって測定することが可能である。1つの態様において、MEP細胞はGATA1+である。1つの態様において、CD34+ HSCは、GATA1+ MEP細胞が産生されるのに十分な時間にわたり、ステージ1培地において培養され、ここで、CD41およびCD235について陽性であるのは、培養物中の細胞の10%未満である。
【0055】
ある態様において、GATA1+ MEP細胞は、赤血球系列にコミットされた前駆細胞が産生されるのに十分な時間にわたり、ステージ2培地において培養され、該前駆細胞は、赤血球系列関連バイオマーカーの1種または複数種の発現に基づいて同定することが可能である。ある態様において、赤血球系列にコミットされた前駆細胞は、CD71+かつCD235+であるとともに、CD34陰性(CD34-)でもある。さらなる赤血球系列関連バイオマーカーの非限定的な例には、HBA1、CD36、TFRC、PRG2、HBB、HBG2、ALAD、ALAS2、CA2、GYPA、GYPB、GATA1、KLF1、およびTFRCが含まれる。さまざまな態様において、赤血球系前駆細胞は、少なくとも1種類の、少なくとも2種類の、少なくとも3種類の、または少なくとも4種類の、少なくとも5種類の、またはより多くの、赤血球系列関連バイオマーカーを発現し得る。1つの態様において、細胞は、少なくとも1種類の赤血球系列関連バイオマーカーの発現レベルが、出発細胞集団と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%増加するのに十分な時間にわたり、培養される。培養された細胞における遺伝子マーカーの発現レベルは、当技術分野において利用可能な技術(たとえばRNAseq解析)によって測定することが可能である。
【0056】
1つの態様において、細胞は、培養の第0日~第4日に、または少なくとも4日間にわたり、または少なくとも96時間にわたり、ステージ1培地において培養される。1つの態様において、細胞は、培養の第5日~第9日に、または少なくとも5日間にわたり(ステージ1の培養後)、または少なくとも120時間にわたり(ステージ1の培養後)、ステージ2培地において培養される。
【0057】
培養培地は、典型的には、定期的に新鮮培地と交換される。たとえば、さまざまな態様において、培地は24時間ごとに、48時間ごとに、または72時間ごとに交換される。
【0058】
IV. 用途
ヒト赤血球系前駆細胞を作製するための、本開示の方法および組成物により、これらの細胞集団を効率的かつ安定的にさまざまな用途に利用することが可能になる。たとえば、該方法および組成物を、赤血球系細胞の発生および分化の研究に使用することが可能であり、該研究には、赤血球系細胞に関連する疾患および障害を理解するのに役立つ、生物学的解析が含まれる。たとえば、本開示の方法を用いて作製された赤血球系前駆細胞は、当技術分野において確立している手法にしたがって、該細胞で発現している表面マーカーに結合する作用物質を用いて、さらに精製することが可能である。
【0059】
加えて、本開示の方法による赤血球系前駆細胞について、輸血用の血液成分を作製するという用途が意図される。たとえば、本開示のMEP細胞は、血小板へとさらに分化させることが可能であり、該血小板は、それを必要とする対象における輸血のために使用することが可能である。同様に、MEP細胞およびCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞は、赤血球へとさらに分化させることが可能であり、該赤血球は、それを必要とする対象における輸血のために使用することが可能である。したがって、本開示の方法および組成物はまた、血小板および/またはRBCの輸血を必要とするさまざまな造血系の疾患および障害の処置に関しても、使用することが可能である。
【0060】
V. 組成物
他の局面において、本開示は、赤血球系前駆細胞を作製する方法に関連する組成物を提供し、該組成物には、培養培地、および単離された細胞培養物が含まれる。
【0061】
1つの局面において、本開示は、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞を得るための培養培地を提供し、該培養培地は、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む。別の局面において、本開示は、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を得るための培養培地を提供し、該培養培地は、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む。適切な作用物質の非限定的な例、およびその濃度には、上のサブセクションIIにおいて述べたものが含まれる。
【0062】
別の局面において、本開示は、ヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞の単離された細胞培養物を提供し、該細胞培養物は、IL3R経路アゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、AHR経路アンタゴニスト、RET経路アンタゴニスト、およびAKT経路アンタゴニストを含む培養培地中で培養されたヒトGATA1+ MEP細胞を含む。別の局面において、本開示は、ヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞の単離された細胞培養物を提供し、該細胞培養物は、AHRアンタゴニスト、鉄供給源、EPORアゴニスト、AMPKアゴニスト、および脂質供給源を含む培養培地中で培養されたヒトCD71+CD235+CD34-赤血球系前駆細胞を含む。適切な作用物質の非限定的な例、およびその濃度には、上のサブセクションIIにおいて述べたものが含まれる。
【0063】
さらなる別の局面において、本開示は、本開示の方法によって作製された赤血球系前駆細胞を提供する。本明細書に記載されるように、1つの態様において、本開示は、本開示の方法によって作製されたヒトGATA1+巨核球/赤血球系前駆(MEP)細胞を提供する。本明細書に記載されるように、1つの態様において、本開示は、本開示の方法によって作製されたヒトCD71+CD235+CD34-ヒト赤血球系前駆細胞を提供する。
【0064】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、該実施例は、さらなる限定として解釈されるべきものではない。図、ならびに本出願の全体で引用されている参考文献、特許、および特許公報の全ての内容は、参照により明示的に本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0065】
実施例1:造血幹細胞に由来する赤血球系前駆細胞を作製するためのプロトコルの開発
赤血球系前駆細胞を作製するための2ステージ型の配合(recipe)が開発され、ここで該配合は、ヒト造血幹細胞を、培養下で9日後に、CD71およびCD235を発現する前駆細胞へと誘導することが可能である。これらの細胞は、脱核赤血球へとさらに分化させることが可能である。
【0066】
本実施例は、Bukys et al. (2020) Iscience 23:101346において以前に記述されたように、高次元の実験計画法(HD-DoE)を利用する。該方法は、プロセスの複数のインプットを同時に試験するための、コンピューターによる設計ジオメトリを利用し、かつ、エフェクター/応答についての深い空間の数学的モデリングを提供するものである。該方法により、複雑なプロセス、たとえば細胞分化の過程などを制御する、シグナル伝達の組み合わせのインプットを発見することが可能となる。該方法は、プロセスにおける複数のもっともらしい重要なパラメーターが、アウトプットである応答、これはたとえば遺伝子発現などであるが、該応答に影響を与える際に、そのようなパラメーターを試験することを可能にする。遺伝子発現は、たとえばヒト細胞などの、表現型上の際立った特徴をもたらすため、該方法は、どのシグナル伝達経路が細胞の運命を制御しているのかを同定および理解するために、適用することが可能である。本実施例においてはHD-DOE法は、多能性幹細胞段階から直接、赤血球系前駆細胞を発現させる遺伝子を誘導するための条件を見いだす目的で、適用された。
【0067】
それぞれのステージのための配合を開発するため、複数のシグナル伝達経路のアゴニストおよびアンタゴニスト(本明細書においてエフェクターと称される)での3日間の処理後の、あらかじめ選択された53種類の遺伝子2セットの発現に対する影響が、試験され、そしてモデル化された。これらのエフェクターは、小分子であるかまたはタンパク質であり、特定の運命へと幹細胞を段階的に分化させる過程において、一般的に使用されている。エフェクターの選択は、赤血球(RBC)の誘導に関する現在の文献および造血前駆細胞へのHSCの分化に関する現在の文献と、他の細胞型の細胞運命の制御に関連する利用可能なデータとの組み合わせに基づくものであった。
【0068】
巨核球/赤血球前駆細胞のためのステージ1用の配合
巨核球系列および赤血球系列についての二分化能を有し、GATA1を発現する前駆細胞を作製するための配合が開発され、これは、ヒト造血幹細胞(HSC)を、CD34およびCD71を発現する前駆細胞へと誘導したが、その際、下流のコミットされた系列マーカーであるCD41およびCD235(それぞれ、巨核球系列マーカーおよび赤血球系列マーカーである)について陽性であったのは、細胞のうちの10%未満であった。GATA1を発現する、これらの二分化能前駆細胞は、細胞運命を誘導する分子およびシグナルがさらに適用された際に、成熟血小板へとさらに分化すること、および成熟赤血球へとさらに分化することが、可能である。GATA1を発現する二分化能前駆細胞の別名は、巨核球/赤血球前駆(MEP)細胞であり、かつ、それら細胞のための配合は、本明細書においてステージ1用の配合と称される。
【0069】
エフェクターを試験するため、少なくとも8種類の因子を用いた実験であって、ある濃度範囲にあるエフェクターのさまざまな組み合わせに対する、細胞の応答を評価することが可能な実験が設計された。モデルを解析するため、本発明者らは、巨核球/赤血球前駆細胞において発現している遺伝子の発現、たとえば特に、GATA1、TFRC、TAL1、およびGATA2などの発現に注目した。GATA1ヌルマウスは、貧血のために胎生期の第10日に死亡する(Pevny et al. (1991) Nature 349:257-260)。GATA1はまた、他の血液系列、たとえば、巨核球、好酸球、およびマスト細胞などの成熟化のためにも必要である(Dore and Crispino (2011) Blood 118:231-239)。初代ヒトCD34細胞のシングルセル試験により、GATA1は骨髄系共通前駆細胞において低発現しており、かつMEP細胞において高発現していることが示されている。加えて、Tal1もまた、胎生期の過程における血液の生成に必要である(Shivdasani et al. (1995) Nature 373:432-434)。マウスにおけるGATA2の欠失は、重度の貧血を引き起こし、かつ胎生期の第10日における死亡を引き起こす(Tsai et al. (1994) Nature 371:221-226)。GATA2はまた、その上方制御という形で巨核球の発生に関与して、赤血球系細胞への分化を阻害し、かつ巨核球生成を促進する(Ikonomi et al. (2000) Exp Hematol. 28:1423-1431)。遺伝子の発現レベルに対する各エフェクターの影響は、モデリングの過程で各エフェクターについて算出される、因子寄与と称されるパラメーターによって定義される。全ての実験は、臍帯血から単離されたCD34+細胞集団を用いて実施された。
【0070】
ステージ1での分化のための配合を同定するため、細胞は、幹細胞因子(SCF)を含む培地において3日間にわたり増殖させた。次に、D-最適化による実験計画法での圧縮を用いて生成された、エフェクターの組み合わせであって、48種類の異なる組み合わせが、機械的に調製された。エフェクターの組み合わせは基礎培地中に調製され、続いて細胞へと添加されて、その後該細胞は、分化することが可能となった。3日後にRNA抽出が実施され、そして定量PCR解析を用いて遺伝子発現が取得された。データは正規化され、そして、エフェクター設計に対する部分的最小二乗回帰解析を用いてモデル化されて、その結果、遺伝子特異的なモデルが生成され、該モデルは、最大のQ2、すなわち最大の予測力に関して調整された後で、個々の遺伝子の発現を、組み合わせで制御するエフェクターの能力、および個々に制御するエフェクターの能力についての説明をもたらした。試験された空間内の解はその後調査されて、望ましさについて対処することが可能であった。
【0071】
重要な調節遺伝子であるGATA1の最大発現のための最適化は、ロバスト解をもたらした。この解においては、他の遺伝子、たとえば、MKI67、CD36、TFRC、およびPRG2もまた、高発現すると予測された。これらの遺伝子は、GATA1を発現する二分化能前駆細胞の産生をもたらすこの条件のもっともらしさを、さらに裏付けるものである。このモデルは、IL3、アラントラクトン、SR1、RETki、MK2206、ロシグリタゾン、sc79、およびデキサメタゾンを含む8種類の因子についての、初期の試験から導かれたものであった。
図1に示されるように、これらのエフェクターのうちの5種類:IL3、アラントラクトン、SR1、RETki、およびMK2206は、関心対象の遺伝子の発現に対して正の影響を示し、因子寄与はそれぞれ、41、8、6、14、および17であった。GATA1の80%最大発現を達成する仕様のうちで、この複合培地組成は、0.53というCpk値(工程能力指数)を有しており、これは、3.9%という不成功のリスクに対応する値であった。GATA1を発現するMEP細胞のためのインプットの複雑なセットである本発明は、既存の文献と比較され、そして異なっていることが見いだされた。注目すべきことに、赤血球生成の誘導に一般的に使用される因子である、デキサメタゾン;これは、グルココルチコイド受容体のアゴニストであって、ヒドロコルチゾンのアナログであるが、該デキサメタゾンは含まれず、かつGATA1の最大発現を妨害した。
【0072】
EPO、または一般的に使用されている他のサイトカインが、GATA1の誘導に必要とされるかどうかを試験するため、本発明者らは、ある濃度範囲にある6種類の因子を用いた実験を実施した。この実験において、CD34細胞は解凍され、そして10 ng/mLのSCFを含む培地で一晩維持された。翌日、エフェクターの組み合わせであって48種類の異なる組み合わせが細胞に添加され、そして5 ng/mLのSCFは、全てのウェルにおいて維持された。重要な調節遺伝子であるGATA1の最大発現のための最適化は、ロバスト解をもたらした。この解においては、巨核球および赤血球において発現している他の遺伝子、たとえば、ITGA2b、ZFPM1、KLF1、およびEPORもまた、高発現すると予測された。このモデルは、IL6、IL3、SCF、EPO、アクチビンA、およびIGFIIについての、初期の試験から導かれたものであった。
図2に示されるように、これらのエフェクターのうちの2種類:IL3およびアクチビンAは、関心対象の遺伝子の発現に対して正の影響を示し、因子寄与はそれぞれ、31および33であった。EPOは、HSCから赤血球生成を開始させる過程において一般的に使用される、また別の作用物質であるが、該EPOはGATA1の誘導に不要であり、したがって、本発明者らの配合からは除外された。TGFβファミリーのメンバーであるアクチビンAは、本発明者らの配合においては使用されなかったが、これは、アラントラクトンもまた、TGFβアゴニストであって、GATA1の誘導を支援し、かつより安価であるためである。
【0073】
上述の観点から、ステージ1での分化のための代表的な配合が、以下の表1にまとめられる。
【0074】
(表1)HSCからMEP細胞を生じさせる、検証されたエフェクター
【0075】
CD71+CD235+CD34-前駆細胞のためのステージ2用の配合
ステージ2培地を作り出すため、ヒト臍帯血細胞由来の初代CD34+細胞は、造血幹細胞をGATA1二分化能前駆細胞(MEP前駆細胞)に変換するステージ1培地(表1)において、5日間培養された。この前駆細胞は、赤血球系列および巨核球系列に分化する潜在能力を有している。GATA1二分化能前駆細胞の分化をさらに誘導するため、さらなるHD-DoE実験が実施された。その結果、さらなる遺伝子調節モデルが得られ、これは分化プロトコルを作成するために使用された。このモデルの基礎は、12因子のHD-DoE実験であって、ステージ1の処理の完了後のさらなる3日間にわたる、赤血球系列への細胞の分化に注目するHD-DoE実験であった。
【0076】
エフェクターを試験するため、D-最適化による実験計画法での圧縮を用いて生成された、エフェクターの組み合わせであって、96種類の異なる組み合わせが、機械的に調製された。エフェクターの組み合わせは基礎培地中に調製され、続いて細胞へと添加されて、その後該細胞は、分化することが可能となった。3日後にRNA抽出が実施され、そして定量PCR解析を用いて遺伝子発現が取得された。データは正規化され、そして、エフェクター設計に対する部分的最小二乗回帰解析を用いてモデル化されて、その結果、遺伝子特異的なモデルが生成され、該モデルは、最大のQ2、すなわち最大の予測力に関して調整された後で、個々の遺伝子の発現を、組み合わせで制御するエフェクターの能力、および個々に制御するエフェクターの能力についての説明をもたらした。試験された空間内の解はその後調査されて、望ましさについて対処することが可能であった。
【0077】
HBA1の最大発現のための最適化は、ロバスト解をもたらした。この解においては、他の遺伝子、たとえば、MKI67、TFRC、HBB、HBG2、ALAD、ALAS2、CA2、GYPA、GYPB、GATA1、KLF1、およびTFRCもまた高発現すると予測され、これら全ての遺伝子は赤血球系細胞において高発現することから、該系列への細胞のコミットメントが示唆される。同じモデルにおいて、CSF1R、TPOR、およびMPOは下方制御されていた(他の造血系列に関連する遺伝子)。加えて、幹細胞段階に関連する遺伝子である、CD34、MECOM、およびCRHBPは下方制御されていたが、これは、細胞が分化していることを示している。このモデルは、以下を含む12種類の因子についての、初期の試験から導かれたものであった:HB-EGF、オプティフェリン、SR1、ノックアウト血清、イブプロフェン、GM-CSF、ホロトランスフェリン、EPO、エルトロンボパグ、ニューレグリン1、THI0019、およびAICAR。
図3に示されるように、これらのエフェクターのうちの5種類:SR1、ノックアウト血清、ホロトランスフェリン、EPO、およびAICARは、関心対象の遺伝子の発現に対して正の影響を示し、因子寄与はそれぞれ、7、13、15、31、および9であった。HBA1の80%最大発現を達成する仕様のうちで、この複合培地組成は、0.64というCpk値(工程能力指数)を有しており、これは、2.7%という不成功のリスクに対応する値であった。
【0078】
上述の観点から、ステージ2での分化のための代表的な配合が、以下の表2にまとめられる。
【0079】
(表2)CD71+CD235+CD34-前駆細胞のためのステージ2用の配合において検証されたエフェクター
【0080】
実施例2:造血幹細胞に由来する赤血球系前駆細胞を誘導する培養条件の因子についての致命度解析
実施例1に記載されるステージ1用の配合およびステージ2用の配合について同定されている、検証済み因子のそれぞれを消失させた際の影響を評価するため、動的プロファイル解析が使用され、そして、最終的なエフェクターのそれぞれを欠くが、その他は存在している際の、関心対象の遺伝子の発現レベルが比較された。関心対象の遺伝子の発現レベルは、所望のアウトカムが到達可能であるかどうかを明らかにするものであるため、因子についてのこの致命度解析により、インプットである各エフェクターの重要性の度合いが明らかとなった。
【0081】
ステージ1用の配合
ステージ1用の配合において、最終的な5種類の因子が1種類ずつ除去された一方で、他の4種類の因子は残され、そして、GATA2、GATA1、CD36、およびTFRCの発現レベルが、5種類全ての因子が存在する場合と比較して評価された。結果は
図4A~4Bに要約されている。IL-3が除去された場合、GATA1発現の値は510から240へと低下し、CD36発現の値は260から70へと変化し、GATA2発現の値は2200から1400へと低下し、かつTFRC発現の値は960から580へと下落した。変化は全て、MEP前駆細胞として望ましい遺伝子の発現の、有意な減少を表している。
【0082】
SR1を欠く場合、GATA1の発現の低下が引き起こされ、これは510から410への低下であった;SR1はまた、TFRCの発現に対する重要な因子としても注目されたが、これは、SR1を除去すると、TFRCのレベルが970から570へと低下したためである。MK2206は、GATA1の最大発現を確実にすることに関与しており、このAKT阻害剤を除去すると、GATA1のレベルは510から400へと低下した。RETkiを欠く場合、GATA1の発現の低下が引き起こされ、これは510から410への低下であった。アラントラクトンが除去された場合、GATA1の値は510から460へと低下し、GATA1の発現に対するその影響は、他よりも弱いものであった。
【0083】
ステージ2用の配合
ステージ2用の配合において、最終的な5種類の因子が1種類ずつ除去された一方で、他の4種類の因子は残され、そして、GATA1、HBA1、GYPA(CD235)、およびTFRCの発現レベルが、5種類全ての因子が存在する場合と比較して評価された。結果は
図5A~5Bに要約されている。EPOが除去された場合、GATA1の値は1386から736へと低下し、HBA1の値は700から285へと変化し、GYPAの値は345から61へと低下し、かつTFRCの値は2943から898へと下落した。変化は全て、望ましい遺伝子の発現の、有意な減少を表している。
【0084】
ホロトランスフェリンが除去された場合、GATA1の値は1370から967へと低下し、HBA1の値は688から500へと低下し、GYPAの値は330から170へと低下し、かつTFRCの値は2883から1703へと低下した。ノックアウト血清を除去すると、HBA1の発現は688から520へと低下し、かつGATA1の発現は1357から1221へと変化したため、この因子は、HBA1およびGATA1の誘導にとって重要であることが見いだされた。
【0085】
AMPKアゴニストであるAICARは、HBA1およびGYPAの上方制御のために重要な因子であることが見いだされた。AICARが除去された場合、HBA1のレベルは689から569へと下落し、かつGYPAのレベルは337から256へと低下した。SR1の追加は、HBA1の発現に対する影響、ならびにグリコホリンAおよびBの発現に対する影響を有している。SR1が除去された場合、HBA1の発現は700から597へと低下した。
【0086】
実施例3:造血幹細胞に由来する赤血球系前駆細胞を誘導するための細胞培養培地の、フローサイトメトリーによる検証
実施例1に記載される、開発した配合を検証するため、細胞は、文献の培地と対比されつつ、ステージ1培地およびステージ2培地で処理され、そしてフローサイトメトリーが使用されて、それぞれのステージの最後でバイオマーカーの発現が評価された。
【0087】
ステージ1用の配合
実施例1に記載されるステージ1用の配合を検証するため、臍帯血由来のCD34+細胞は、ステージ1のGATA1二分化能前駆細胞誘導培地において4日間か5日間にわたり増殖させ、そして、フローサイトメトリーが使用されて、造血前駆細胞マーカーの発現が評価された。ステージ1のGATA1を発現する二分化能前駆細胞培地と比較するため、比較用として細胞は、RBCへの分化を促進するために一般的に使用されている、文献に記述されている分化培地(IL3 10 ng/mL、ヒドロコルチゾン 1 uM、SCF 100 ng/mL、およびEPO 6 U/mL)においても増殖させた。
【0088】
文献に基づき、マーカーのさまざまな組み合わせを使用して、巨核球/赤血球前駆細胞(MEP細胞)を同定することが可能であり、これはたとえば、Lin-CD34+CD38中/低/CD45RA-(Sanada et al. (2016) Blood 128:923-933; Debili et al. (1996) Blood 88:1284-1296)であるか、あるいはLin-CD34+CD38+CD123-CD45RA-(Cimato et al. (2016) Cytometry B. Clin. Cytom. 90:415-423)である。上述の全てのマーカーの発現は評価され、そして、巨核球系列の最終マーカーおよび赤血球の最終マーカーについても同様に行うことで、補完された。これらのマーカーのうちCD34は、元のHSC集団において発現しており、かつその発現は、いずれかの系列へと分化していく過程で低下する。以下のさらなるマーカーが評価された:インテグリンA2B(ITGA2B)としても知られる巨核球マーカー、CD41;赤血球でのみ発現するCD235(グリコホリン);および、赤血球への分化の過程で発現が実質的に増加するが、GATA1を発現する前駆細胞ステージの過程においても発現している、CD71(TRFC、トランスフェリン受容体C)。完全に分化した赤血球細胞は、CD71を発現していないか、またはCD71を低レベルで発現しているかのいずれかである。
【0089】
細胞を4日間か5日間にわたり増殖させた後で、フローサイトメトリー解析が実施され、そして、GATA1+二分化能細胞培地において増殖させたCD34細胞の免疫表現型が評価された。フローサイトメトリー解析により、HSCから前駆細胞への変換を促進する、該配合の効率が確認された。
図6A~6Bに示されるように、いずれかの培地を用いた際の、CD71+である細胞の相対的割合は、第4日および第5日において同等である。CD71の平均蛍光強度(MFI)は、標的の発現レベルを反映しており、かつ、ステージ1培地は、タンパク質発現の有意な増加を引き起こした。CD71のレベルは、第4日および第5日の両方で、文献の培地と比較して、ステージ1培地において高かった。グリコホリンは、CD235と称され、かつ赤血球の最終的なコミットメントマーカーであるが、
図6Aに示されるように、グリコホリンの発現は、両方の培地において第4日には低かったものの、第5日においては、文献の培地を用いた際には細胞の1.64%がCD235+であったのに対し、ステージ1培地を用いた際には細胞のおよそ10%がCD235+であり、これは、ステージ1培地が、コミットされた赤血球系列への分化を加速することが可能であることを示唆するものであった。
【0090】
図7A~7Bは、ステージ1培地(濃灰色)を用いて4日間か5日間にわたり増殖させた細胞、ならびに文献の培地(淡灰色)を用いて4日間か5日間にわたり増殖させた細胞における、CD34、CD38、CD123、CD71、CD45RA、およびCD41の染色を示す。血小板系列についてのコミットメントマーカーであるCD41/ITGA2Bのレベルは、第5日において、両方の条件で低いかまたは非存在であった。第5日において、CD34のレベルは両方の条件で同様であったが、これは、前駆細胞の特性が維持されていることを示唆している。CD38の発現は、第4日および第5日において、文献の培地を使用した細胞で比較的高かった。以前の研究(Sanada et al., 2016; Debili et al., 1996)は、赤血球系前駆細胞はCD38+である一方で、二分化能前駆細胞(巨核球/赤血球前駆細胞)はCD38について低いかまたは陰性であることを示している。
図7A~7Bはまた、いずれの培地を用いた場合にも、細胞の大半がCD45RAおよびCD123について陰性であることを示している(第5日におけるCD45RA:文献の培地でおよそ15% 対 ステージ1培地でおよそ11%;第4日におけるCD45RA:文献の培地で39% 対 ステージ1培地で28%;第5日におけるCD123:文献の培地で7.6% 対 ステージ1培地で1.1%;第4日におけるCD123:文献の培地でおよそ6.6% 対 ステージ1培地でおよそ10%)。顆粒球/単球前駆細胞はCD45RA
+であり、かつ、骨髄系共通前駆細胞および顆粒球・単球前駆細胞は両方ともCD123+であるため、これらのマーカーは、上記誘導条件を用いた際に、妨害性の骨髄系列が誘導されないことを明らかにするものである。
【0091】
ステージ2用の配合
実施例1に記載されるステージ2用の配合を検証するため、臍帯血由来のCD34+細胞は、ステージ1培地において4日間増殖させ、そしてその後、ステージ2培地において3日間、5日間、および7日間増殖させ、そしてフローサイトメトリー解析が使用されて、赤血球系細胞マーカーの発現が評価された。ノックアウト血清は、独占権のある調合法を有し、かつ高価であるため、本発明者らはまた、同じ配合においてノックアウト血清が除去され、そして代わりに0.5% albumaxが追加されている配合も試験したが、該albumaxは、ノックアウト血清の主成分である。Albumaxは、脂質をロードされたウシ血清アルブミンである。加えて、ステージ2培地と比較するため、細胞は、RBCへの分化のための文献の培地(ステージ1:IL3 10 ng/mL、ヒドロコルチゾン 1 uM、SCF 100 ng/mL、およびEPO 6 U/m;ステージ2:SCF 50 ng/mL、EPO 3 U/mL、および200 ug/mL ホロトランスフェリン)を用いて増殖させた。CD34(これはHSCにおいて発現し、その発現は分化の過程で減少する)の発現もまた評価されたが、一方でCD235は、赤血球によって発現される。CD71の発現は、RBCへの分化の過程で実質的に増加するが、これは、分化の後期のステージの過程で低下する。
【0092】
図8A~8Cに示されるように、フローサイトメトリー解析により、MEP細胞から赤血球系前駆細胞への変換を促進する、ステージ2培地の効率が確認された。より重要なことに、albumaxを含むステージ2培地は、文献の配合と比較した場合に、より迅速な分化(CD235のより高度な発現)を促進した。
図8Aにおける結果は、第3日において、文献の培地を用いた場合の、CD71およびCD235を発現する細胞のパーセンテージは、ステージ2培地と比較して低い(10% 対 23%および29%)ことを示している。
図8Bに示されるように、第5日において、文献の培地と比較した場合に、ステージ2培地はより迅速な分化を促進した。このタイムポイントにおいて、ステージ2培地では、70%の細胞がCD71およびCD235の二重陽性であったのに対し、文献の培地では34%であった。最後に、
図8Cに示されるように、第7日において、ステージ2培地はやはり、文献の培地よりも優れたパフォーマンスを示し、87%の細胞がCD71およびCD235の二重陽性であるという結果をもたらしたのに対し、文献の培地では59%であった。総合すると、このデータは、文献のプロトコルと比較して、ステージ2培地が、より迅速であり、赤血球系列へのより効率的な変換を促進しており、かつより安価であることを示している。
【0093】
脱核は、ヒトRBC分化の最終段階の1つである。ステージ2の過程での細胞の脱核を測定するため、細胞膜透過性のDNA色素であるDRAQ5が使用され、それに続いてフローサイトメトリー解析が実施された。結果は
図9A~9Cに示されている。予想されたように、この分化プロセスにおいて脱核は早すぎるため、試験されたいずれの条件においても、脱核は観察されなかった。
【0094】
RBCへの分化のための、費用対効果の高い基礎培地を開発するため、基礎培地のさまざまな組成が試験され、そしてStemline IIのパフォーマンスと比較された。基礎培地のパフォーマンスは、ステージ2での分化の過程(本発明者らのステージ2用の配合)において試験された。基礎培地の組成のうちの1種類は特に、分化に関してStemLine IIと同様のパフォーマンスを示した。この基礎培地の成分は、以下の表3に示されている。CD71およびCD235についてのフローサイトメトリー解析を示す
図10に証明されるように、両培地の分化プロファイルは類似していた;しかしながら、表3の例示的な基礎培地が使用された場合、Stemline II培地と比較して、2倍多い増殖が観察された。
【0095】
【0096】
ステージ2用の配合をさらに精練するため、ステージ2用の配合と同じ因子を使用しつつ、重要な因子、たとえば、EPOおよびホロトランスフェリンなどの異なる濃度を試験するように、さらなるモデリング実験が実施された。加えて、脂質のインプットはRBCへの分化にとって重要であるため、市販のコレステロールサプリメント(Sigma社)が試験された。結果は
図11に示されている。HBAの最大発現のための最適化は、ホロトランスフェリンの濃度が高く(600 ug/mL)かつEPOの濃度が高い(4 U/mL)ほど、HBAのより高度な発現を引き起こしたことを示すものであった。コレステロールサプリメントもまた、HBAの発現に対して正の影響を有していた。ステージ2用の配合において、コレステロールサプリメントを追加し、かつ、EPOを増加させ(4 U/mL)、かつホロトランスフェリンを増加させる(600 ug/mL)と、対照と比較して、より高度な増殖が促進されたことが、細胞数の定量化により示された。
【0097】
実施例4:造血幹細胞に由来する巨核球/赤血球系前駆細胞の分化に関する潜在能力
分化に関するMEP細胞の潜在能力を調査するため、CD34+ HSCは、ステージ1培地(実施例1に記載されている)において4日間培養された。次に、実施例1に記載されるようにHD-DoEを用いて、エフェクター(全12種類)の組み合わせであって、96種類の異なる組み合わせが基礎培地中に作製され、これは細胞へと添加されて、そして細胞は、さらに分化することが可能となった。3日後、RNA抽出が実施され、そして以前に記述されたように、遺伝子発現がモデル化された。この系列チャレンジ実験において、以下の12種類の因子が試験された:HB-EGF、オプティフェリン、SR1、ノックアウト血清、イブプロフェン、GM-CSF、ホロトランスフェリン、EPO、PD102807、ニューレグリン1、THI0019、およびAICAR。遺伝子特異的なモデルが、上の記載と同様に得られ、そして、下流の系列の誘導に関連する最適な条件について、同様に調べられた。
【0098】
該モデルを解析するため、本発明者らは、コミットされた赤血球系前駆細胞および完全に分化した赤血球において発現している遺伝子の発現、たとえば特に、HBG2、HBA、HBB、GYPA、GYPB、EPOR、ALAD、TFRCなどの発現に注目した。これらの遺伝子のうち、HBG2、HBA、HBBはヘモグロビンをコードする;GYPA、GYPBはグリコホリンであり、EPOR(EPO受容体)、ALAD(赤血球におけるヘム合成のための律速酵素をコードする)。その結果が
図12にまとめられている、1つのモデルは、上述の全遺伝子の上方制御を明らかにするものであり、加えて、CA2、ALAS2、GATA1、ICAM4、TAL1、およびMLLT3の上方制御も明らかにするものであったが、これらのうちの複数は、赤血球系列に関連していることが以前に証明されているものであった。この実験は、ステージ1培地を用いて得られたMEP細胞の、赤血球系列にコミットしかつ最終的な遺伝子を活性化する能力を、証明するものであった。このモデルにおいて、本発明者らはヘモグロビン発現の上昇を示しているが、正規化後におよそ156335というHBG2の発現は、極めて多量のヘモグロビンmRNAの産生を表すものである。
【0099】
次に、上述のものと同様の実験が、巨核球/血小板系列に向かって細胞をチャレンジさせるために実施された;しかしながら、12因子の代わりに8因子が使用され、これは結果として、エフェクターの組み合わせであって、48種類の異なる組み合わせをもたらした。因子は以下のように、血小板への分化を誘導するために一般的に使用される、経路を調節するインプットを含むものであり、また、血小板系列を制御し得るとして本発明者らが仮説を立てた他のものによって、強化されたものであった:TPO、SCF、VEGF、JQ1、アバトロンボパグ、ピルビン酸、ノックアウト血清代替物培地添加物、およびIL6。モデルを解析するため、本発明者らは、巨核球前駆細胞において発現している遺伝子の発現、たとえば、PF4、ITGA2b、FLI1、ZFPM1などの発現に注目した。その結果が
図13にまとめられている、1つのモデルは、特に、上述の全遺伝子の有意な上方制御を明らかにし、これは、血小板系列へのコミットメントを示唆している。このモデルに基づいて、およそ6339というPF4の高発現が観察され、かつ、巨核球で発現している他の既知の遺伝子も同様に上方制御されていたが、これらは、巨核球系列への完全なコミットメントを証明するものである。総合すると、このデータは、ステージ1培地において4日間にわたり増殖させたHSCはMEP細胞を産生し、該MEP細胞は、系列を誘導するその後のインプットに応じて、2種類の系列:赤血球系列および巨核球系列へと分化する潜在能力を有していることを、示すものである。
【0100】
等価物
当業者であれば、本明細書に記載される本発明の特定の態様の多くの等価物を認識するであろう、または慣用されている程度の実験を用いれば、それら等価物を確認可能であろう。添付の特許請求の範囲にはそのような等価物が包含されることが意図される。
【国際調査報告】