(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】内皮細胞バリアを改善するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241108BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N1/00 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534276
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 US2022052120
(87)【国際公開番号】W WO2023107553
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511266520
【氏名又は名称】ユナイテッド セラピューティクス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】フィオレット,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ピーターセン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ボンヴィライン,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】グラハム,デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴュ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ゴア,ロッテ ヴァン デン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB11
4B065BB26
4B065BB28
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】
本明細書では、内皮細胞の血管バリアの改善で使用するための方法および組成物が記載される。本方法は、バリアアゴニスト化合物および内皮細胞を培養するための改善された技術の使用を含み得る。内皮細胞を培養するための改善された方法および組成物は、以下のうちの少なくとも1つのまたは複数を含み得る:アデニリルシクラーゼ活性化剤、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体の内在化の活性化剤、密着結合タンパク質発現の直接的または間接的誘導因子、および接着結合タンパク質発現の直接的または間接的誘導因子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む、内皮細胞を作製する方法。
【請求項2】
内皮細胞を細胞培養培地中で培養するステップをさらに含み、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップが、培養するステップの間に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップが、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
血管バリアの強化が、血管漏出の低減によって判定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記内皮細胞が肺(lung)内皮細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
内皮細胞を用いて移植可能な肺を作製するステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記内皮細胞が、ヒト肺動脈内皮細胞およびヒト肺微小血管内皮細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物が、内皮細胞間結合の発現の増大を促進する、環状アデノシン一リン酸(cAMP)の生成の増大を促進する、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体の内在化を促進する、接着結合タンパク質の生成の増大を促進する、または密着結合タンパク質の生成の増大を促進する1つまたは複数の化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物が、フォルスコリンおよびフィンゴリモド-リン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
接触させるステップが、内皮細胞を約30μMから約50μMの濃度のフォルスコリンと接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
接触させるステップが、内皮細胞を約40μMの濃度のフォルスコリンと接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
接触させるステップが、内皮細胞を約50nMの濃度のフィンゴリモド-リン酸と接触させることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
接触させるステップが、内皮細胞を約40μMの濃度のフォルスコリンおよび約50nMの濃度のフィンゴリモド-リン酸と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法であって、改善が、
(i)培養内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップ、および
(ii)内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり、内皮細胞を細胞培養培地中で維持するステップ
を含み、
前記血管バリアの強化が血管漏出の低減によって特徴付けされる、方法。
【請求項15】
前記少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物が、フォルスコリンおよびフィンゴリモド-リン酸を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
接触させるステップの後、フォルスコリンが約30μMから約50μMの濃度で細胞培養培地中に存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
接触させるステップの後、フォルスコリンが約40μMの濃度で細胞培養培地中に存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
接触させるステップの後、フォルスコリンが約40μMの濃度で細胞培養培地中に存在し、フィンゴリモド-リン酸が約5nMから約50nMの範囲の濃度で細胞培養培地中に存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
接触させるステップの後、フォルスコリンが約40μMの濃度で細胞培養培地中に存在し、フィンゴリモド-リン酸が約50nMの濃度で細胞培養培地中に存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物を含む細胞培養培地であって、前記少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物がフォルスコリンおよびフィンゴリモド-リン酸を含む、細胞培養培地。
【請求項21】
前記バリアアゴニスト化合物がメチルプレドニゾロンをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
メチルプレドニゾロンをさらに含む、請求項20に記載の細胞培養培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年12月8日に出願された米国特許仮出願第63/287,254号および2022年8月19日に出願された米国特許仮出願第63/399,494号に対する優先権を主張し、これら出願の全内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本願は全体として、細胞培養物に、さらに特には、限定はしないが、内皮細胞の血管バリアを改善するための方法および組成物、ならびにこのような方法から作製される細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
本願は、培養中の内皮細胞の血管バリアを増強させるためのバリアアゴニスト化合物の使用に関する。
【0004】
肺組織の操作は、毎年肺疾患で死亡している40万人を超えるアメリカ人への健康で移植可能な肺の供給の可能性を有する、有望ではあるが困難な分野である。組織を操作された移植可能な肺を生成するための1つの戦略は、開始スキャフォールドとしてブタの肺を使用する脱細胞化-再細胞化方法を介する。このような肺スキャフォールドの移植を成功させるための最大の困難の1つは、成熟した機能的な血管バリアを復元することである。成熟した血管バリアの重要な構成要素は、血流から下層の肺組織への体液および分子の移動の調節を助ける密着結合タンパク質および接着結合タンパク質の内皮発現である。
【0005】
ブタ肺スキャフォールドの再細胞化された血管系からの漏出の予防は、依然として非常に困難である。再細胞化された肺スキャフォールドが機能試験(例えば、エクスビボでの肺の灌流)でうまくいかない1つの理由は、血管漏出に起因して気道に体液が流れることである。したがって、培養内皮細胞で細胞の血管漏出を低減させる方法および組成物に対する要求は、未だ解決されていない。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、血管バリアが増強した内皮細胞を作製するための方法および組成物を提供することによって、これまでに公知のアプローチの欠点に対処する。本開示の方法および組成物は、低減した血管漏出を特徴とする、血管バリアが増強した培養内皮細胞を作製するために使用することができる。また、本明細書では、血管バリアが増強した内皮細胞から肺組織を作製するための、改善された方法および組成物が提供される。
【0007】
内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含み得る。一部の実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、培養の際に内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップをさらに含み得る。多くの実施形態では、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップは、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり行ってよい。一部の態様では、血管バリアの強化は、血管漏出の低減によって判定される。
【0008】
本開示の内皮細胞は、任意のヒトまたは非ヒト内皮細胞であり得る。本開示の内皮細胞は、肺内皮細胞であり得る。一部の実施形態では、内皮細胞は、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)およびヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC)からなる群から選択され得る。一部の態様では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を用いて移植可能な肺を作製するステップをさらに含む。
【0009】
本開示のバリアアゴニスト化合物には、内皮細胞間結合の発現の増大を促進する、環状アデノシン一リン酸の生成の増大を促進する、接着結合タンパク質(例えばVE-カドヘリン)の生成の増大を促進する、または密着結合タンパク質(例えば、ZO-1、JAM-A、クローディン-5、オクルジン)の生成の増大を促進する、1つまたは複数の化合物が含まれ得る。一部の好ましい実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップであって、少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物がフォルスコリンおよびフィンゴリモド-リン酸を含むステップを含み得る。一部の実施形態では、バリアアゴニスト化合物は、メチルプレドニゾロンをさらに含んでいてよい。内皮細胞を作製する方法の一部のこのような実施形態では、フォルスコリンは、約30μMから約50μMの濃度で存在し得る。好ましくは、フォルスコリンは、約40μMの濃度で存在し得る。一部の実施形態では、フィンゴリモド-リン酸は、約5nMから約50nMの濃度で存在し得る。好ましくは、フィンゴリモド-リン酸は、約50nMの濃度で存在し得る。一部の好ましい実施形態では、フォルスコリンは約40μMの濃度で存在し得、フィンゴリモド-リン酸は約50nMの濃度で存在し得る。
【0010】
本明細書では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製するための改善された方法が開示されている。一部の実施形態では、改善は、(i)培養内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップ、および(ii)内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり、内皮細胞を細胞培養培地中で維持するステップであって、血管バリアの強化が血管漏出の低減によって特徴付けされるステップを含む。一部の実施形態では、少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物には、フォルスコリンおよびフィンゴリモド-リン酸が含まれ得る。細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する改善された方法の一部のこのような実施形態では、フォルスコリンは、約30μMから約50μMの濃度で存在し得る。好ましくは、フォルスコリンは、約40μMの濃度で存在し得る。一部の実施形態では、フィンゴリモド-リン酸は、約5nMから約50nMの濃度で存在し得る。好ましくは、フィンゴリモド-リン酸は、約50nMの濃度で存在し得る。このような改善された方法の一部の好ましい実施形態では、フォルスコリンは約40μMの濃度で存在し得、フィンゴリモド-リン酸は約50nMの濃度で存在し得る。
【0011】
本開示は、内皮細胞の作製に有用な細胞培養培地組成物を提供する。細胞培養培地組成物は、少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物を含み得る。一部の実施形態では、本開示の細胞培養培地組成物に含まれる少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物には、フォルスコリンおよびフィンゴリモド-リン酸が含まれ得る。一部の実施形態では、本開示の細胞培養培地組成物に含まれるバリアアゴニスト化合物には、フォルスコリン、フィンゴリモド-リン酸、およびメチルプレドニゾロンが含まれ得る。
【0012】
前述の概要、ならびに以下の図面の説明および詳細な説明は、共に、例示的かつ説明的なものである。これらは、本開示のさらなる詳細を提供するためのものであるが、限定するものとしては解釈されない。他の目的、利点、および新規な特徴は、本開示の以下の詳細な説明から当業者に容易に明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1A~
図1B: MCDB131培養培地(
図1A)およびHPLM培養培地(
図1B)での処理の15時間、48時間、および120時間後の培養HPAECのインピーダンスの増大における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンおよびFTY720Pの有効性を示す図である。
【
図2】
図2A~
図2B: 0μM、10μM、または40μMのフォルスコリンを有するMCDB131培養培地での処理の15時間、48時間、および100時間後のPromoCell(PC)から入手した培養HMVECのインピーダンスの増大における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンの有効性を示す図である。(
図2A)様々な処理条件での、ECISによって測定された、正規化されたインピーダンス。(
図2B)様々な処理条件で得られた生ECISトレース。
【
図3】
図3A~
図3B: 0μM、10μM、または40μMのフォルスコリンを有するMCDB131培養培地での処理の15時間、48時間、および100時間後のCell Applications(CA)から入手した培養HMVECのインピーダンスの増大における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンの有効性を示す図である。(
図3A)様々な処理条件での、ECISによって測定された、正規化されたインピーダンス。(
図3B)様々な処理条件で得られた生のECISトレース。
【
図4】
図4A~
図4B: 0μM、40μM、または60μMのフォルスコリンを有するMCDB131培養培地での処理後15時間、48時間、および100時間の、ATCCから入手した培養HPAECのインピーダンスの増大における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンの有効性を示す図である。(
図4A)様々な処理条件での、ECISによって測定された、正規化されたインピーダンス。(
図4B)様々な処理条件で得られた生のECISトレース。
【
図5】0μMまたは40μMのフォルスコリンおよび0nM、5nM、または50nMのFTY720Pを有するMCDB131培養培地での処理の15時間、48時間、および120時間後の、培養HPAECのインピーダンスの増大における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンおよびFTY720Pの有効性を示す図である。
【
図6】
図6A~
図6C: フルオレセインイソチオシアネート(FITC)-デキストラン経内皮透過性アッセイを介して測定された、フォルスコリン(40μM)およびFTY720P(50nM)を有するMCDB131培養培地での処理の18時間後の、培養HPAECの血管バリアの増強における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンおよびFTY720Pの有効性を示す図である。
【
図7】
図7A~
図7B: フローサイトメトリーによって測定された、両化合物での処理後18時間後の、培養HPAECでの密着結合(TJ)タンパク質および接着結合(AJ)タンパク質の発現の増大における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンおよびFTY720Pの有効性を示す図である。(
図7A)各々のアッセイされた結合タンパク質について陽性である細胞のパーセンテージ。(
図7B)生トレース。
【
図8】
図8A~
図8B: 免疫蛍光によって測定された、両化合物での処理後2時間(
図8A)および18時間(
図8B)の、培養HPAECの原形質膜での密着結合タンパク質および接着結合タンパク質の発現の増大における、バリアアゴニスト化合物であるフォルスコリンおよびFTY720Pの有効性を示す図である。
【
図9】培養HPAECの経上皮電気抵抗(TEER)の増大に対する、バリアアゴニスト化合物であるメチルプレドニゾロン(MP)とフォルスコリンおよびフィンゴリモドリン酸との組み合わせの相乗効果を示す図である。多重比較を伴う二元配置ANOVAを行った。N=3の個別の生物学的反復から
**p<0.001。
【
図10】
図10A~
図10B: インビトロでのHPAEC増殖に対するバリアアゴニスト化合物の効果を示す図である。(
図10A)様々な処理条件下での経時的な細胞数の定量を示す図である。播種の0時間後に、細胞を培地のみまたはバリアアゴニスト化合物を添加した培地で処理した。(
図10B)様々な処理条件下での経時的な細胞数の定量を示す図である。播種の48時間後に、細胞を培地のみまたはバリアアゴニスト化合物を添加した培地で処理した。多重比較を伴う二元配置ANOVAを行った。p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示に従った実施形態を、以下でさらに完全に記載する。本開示の態様はしかし、異なる形態で実施されてもよく、本明細書で示される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなるように、および本開示によって本発明の範囲を当業者に完全に伝えるために、提供される。本明細書の記載で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載することのみを目的としており、限定するためのものではない。
【0015】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。用語、例えば、一般に使用される辞書で定義されている用語は、本願および関連技術の文脈におけるそれらの意味と合致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書でそのように明記されていない限り、理想化されたまたは過剰に形式的な意味では解釈されるべきではないことがさらに理解される。以下では明確に定義しないが、このような用語は、それらの一般的な意味に従って解釈されるべきである。
【0016】
本明細書の記載で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載することのみを目的としており、本発明を限定するためのものではない。本明細書で記載される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によってその全体が組み込まれる。矛盾する場合では、定義を含め、本明細書が優先される。他の態様は、以下に続く特許請求の範囲の中で示されている。
【0017】
本技術の実施は、別段の指示がない限り、組織培養、免疫学、分子生物学、微生物学、化学的操作、および細胞生物学の従来の技術を利用し、これらは、当技術分野の技術の範囲内である。
【0018】
文脈により別段の指示がない限り、本明細書で記載される様々な特徴が任意の組み合わせで使用され得ることが、具体的に意図される。さらに、本開示ではまた、一部の実施形態で、本明細書で示されるあらゆる特徴または特徴の組み合わせが排除または省略され得ることも検討される。説明のために、複合体が構成成分A、B、およびC(または、A、B、および/もしくはC)を含むことが本明細書で記載されていれば、A、B、もしくはCのいずれか、またはこれらの組み合わせが単独でまたは任意の組み合わせで省略および排除され得ることが、具体的に意図される。
【0019】
別段のことが明示されていない限り、全ての特定された実施形態、特徴、および用語は、記載された実施形態、特徴、または用語と、これらの生物学的同等物との両方を含むものである。
【0020】
範囲を含む、全ての数値による指定、例えば、pH、温度、時間、濃度、および分子量は、必要に応じて1.0もしくは0.1の増加量で、または代替的には+/-15%、または代替的には10%、または代替的には5%、または代替的には2%の変動量で(+)または(-)に変動し得る近似値である。常に明記はされていないが、全ての数値による指定は、「約」という用語が前にあることが理解される。
【0021】
定義
本発明および添付の特許請求の範囲の記載で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈から別段のことが明らかに示されていない限り、複数形も含むものである。
【0022】
「実質的に」および「約」という用語は、小さな変動を記載および説明するために本明細書で使用される。事象または状況と組み合わせて使用される場合、当該用語は、前記事象または状況が正確に生じる場合、および前記事象または状況が近似で生じる場合を指し得る。数値と組み合わせて使用される場合、当該用語は、前記数値の±10%以下、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下の変動範囲を指し得る。第1の数値を、第2の数値と「実質的に」または「約」等しいと記載する場合、当該用語は、第1の数値が第2の数値の±10%以下、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下の変動範囲内にあることを指し得る。「許容可能な」、「効果的な」、または「十分な」という用語は、本明細書で開示されている任意の構成成分、範囲、投与形態などの選択を記載するために使用される場合、前記構成成分、範囲、投与形態などが、開示されている目的のために適切であることを意味している。
【0023】
さらに、量、比率、および他の数値は、本明細書において範囲形式で表されることがある。このような範囲形式は利便性および簡便性のために使用されることが理解され、また、明示的に特定された数値を範囲の限界として含むだけではなく、その範囲に含まれる全ての個々の数値または部分範囲も各数値および部分範囲が明示的に特定されているかのように含むと、柔軟に理解されるべきである。例えば、約1から約200の範囲の比率は、約1および約200という明示的に記載された限界だけではなく、個々の比率、例えば約2、約3、および約4、ならびに部分範囲、例えば約10から約50、約20から約100なども含むと理解されるべきである。
【0024】
同様に本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された事項の1つまたは複数の、任意のおよび全ての考えられる組み合わせ、ならびに選択的に(「または」)解釈される場合には組み合わせの欠如を指し、包含する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「任意選択の」または「任意選択で」は、その後に記載される事象または状況が生じても生じなくてもよいこと、および、記載が、事象または状況が生じる場合および生じない場合を含むことを意味する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「バリアアゴニスト化合物」という用語は、例えば血管漏出の低減によって決定される内皮細胞の血管バリアの増強が可能な任意の化合物を指す。バリアアゴニスト化合物は、1つまたは複数の重複しているまたは異なるメカニズムを介して、内皮細胞の血管バリアを増強させることができる。非限定的な例として、一般に、バリアアゴニストは、血流から下層の肺組織への体液および分子の移動の調節を助ける密着結合タンパク質および接着結合タンパク質の内皮発現を増強させることができる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「完全培地」という用語は、内皮細胞(例えば、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)、ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC))の血管バリアの増強に最適化された細胞培養培地を指す。一部の場合では、完全培地は、無機塩、微量元素、ビタミン、アミノ酸、脂質、炭水化物、サイトカイン、増殖因子、低分子、および/または追加のタンパク質を含み、ここで、構成成分の、互いに対する比率は、血管バリアの増強に最適化されている。一部の実施形態では、完全培地は、1×大血管内皮添加物(LVES)を含む。一部の実施形態では、完全培地は、EGF、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、ヘパラン硫酸、塩基性FGF、約2%のFBS、約2ng/mLのVEGF、および約30nMの亜セレン酸ナトリウムを含む。典型的な追加のタンパク質には、アルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチン、およびインスリンが含まれる。典型的な炭水化物には、グルコースが含まれる。典型的な無機塩には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびカルシウムイオンが含まれる。典型的な微量元素には、亜鉛、銅、セレン、およびトリカルボン酸が含まれる。典型的なアミノ酸には、必須アミノ酸、例えばL-グルタミン(例えば、アラニル-l-グルタミンもしくはグリシル-l-グルタミン)、または非必須アミノ酸(NEAA)、例えばグリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、および/もしくはL-セリンが含まれる。典型的な低分子には、フォルスコリン、フィンゴリモド-リン酸(FTY720P)、およびメチルプレドニゾロン(MP)が含まれる。一部の実施形態では、完全培地はまた、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、フェノールレッド、抗生物質、および/またはβ-メルカプトエタノールのうちの1つまたは複数を含む。一部の場合では、完全培地は無血清培地である。一部の場合では、完全培地はゼノフリー培地である。
【0028】
本明細書で使用される場合、「内皮細胞」という用語は、内皮の任意の細胞を指す。通常、内皮細胞は細胞単層を形成しており、当該層は全ての血管の表面を覆い、血流と周辺組織との間の交換を調節する(Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al., Molecular Biology of the Cell. 4th Edition. Garland Science; 2002)。内皮細胞は、あらゆる器官系の内皮細胞であり得る。例えば、内皮細胞は、肺(lung)内皮細胞または肺(pulmonary)内皮細胞であり得る。内皮細胞は、ヒト内皮細胞または非ヒト内皮細胞であり得る。内皮細胞は培養内皮細胞であり得る。内皮細胞は、当技術分野で公知のあらゆる方法を使用して、器官組織から単離することができる。内皮細胞は、当技術分野で公知のあらゆる方法を使用して培養することができる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「血管漏出」という用語は、血管バリアまたは血管膜を通過する体液の移動を指す。一部の実施形態では、血管漏出は、血管内部から下層組織への体液および分子の血管外漏出を指す。一部の実施形態では、血管漏出の増大は内皮細胞バリアの透過性の増大を反映し、血管漏出の減少は内皮細胞バリアの透過性の低下を反映する。
【0030】
内皮細胞バリアを改善するための組成物
内皮細胞の血管バリアを増強させるための細胞培養培地組成物もまた、本明細書で提供される。一部の実施形態では、培養内皮細胞の血管バリアを増強させるための細胞培養培地組成物が提供される。
【0031】
一部の態様では、内皮細胞の血管バリアを増強させるための細胞培養培地組成物は、少なくとも1つのバリアアゴニスト化合物を含む。一部の実施形態では、内皮細胞の血管バリアを増強させるための細胞培養培地組成物は、少なくとも2つの(すなわち、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれを超える)バリアアゴニスト化合物を含む。バリアアゴニスト化合物の非限定的な例としては、アデニリルシクラーゼ活性化剤、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体の内在化の活性化剤、シグナル伝達酵素Rac1の直接的または間接的活性化剤、密着結合タンパク質(例えば、ZO-1、JAM-A、クローディン-5、およびオクルジン)発現の直接的または間接的誘導因子、ならびに接着結合タンパク質(例えばVE-カドヘリン)発現の直接的または間接的誘導因子が含まれる。一部の場合では、細胞培養培地は、少なくとも1つのバリアアゴニスト化合物を任意選択で添加した、FBSベースの培地である。一部の場合では、細胞培養培地は、1つまたは複数のバリアアゴニスト化合物を任意選択で添加した無血清培地である。一部の場合では、細胞培養培地は、1つまたは複数のバリアアゴニスト化合物を任意選択で添加した最小培地である。一部の場合では、細胞培養培地は、1つまたは複数のアミノ酸添加物(例えばL-グルタミン)および/または抗生物質をさらに含む。一部の場合では、細胞培養培地組成物は、内皮細胞、例えば、肺内皮細胞、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)、またはヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)などの血管バリアの増強のための以下で記載する方法と共に使用される。
【0032】
一部の実施形態では、内皮細胞は肺(lung)内皮細胞である。一部の実施形態では、内皮細胞は肺(pulmonary)内皮細胞である。一部の実施形態では、内皮細胞はヒト内皮細胞である。一部の実施形態では、内皮細胞は培養内皮細胞である。一部の実施形態では、内皮細胞は、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)またはヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)である。
【0033】
細胞培養培地組成物の一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約1μMから約100μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約10μMから約60μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約30μMから約50μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。生成物の濃度について、アデニリルシクラーゼ活性化剤はさらに、約30μM、31μM、32μM、33μM、34μM、35μM、36μM、37μM、38μM、39μM、40μM、41μM、42μM、43μM、44μM、45μM、46μM、47μM、48μM、49μM、または50μMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、約40μMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、アデニリルシクラーゼの活性を増強させるかまたは環状アデノシン一リン酸(cAMP)の生成を増大させる任意の活性化剤を包含する。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、タンパク質EpacおよびRap1、ならびに/またはプロテインキナーゼA(PKA)の活性化を誘導し、これによって、原形質膜に隣接するアクチン細胞骨格の再配置を誘導する。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、接着結合タンパク質(例えばVE-カドヘリン)の発現を増大させる。一部の場合では、1つまたは複数のアデニリルシクラーゼ活性化剤が、細胞培養培地組成物に含まれる。アデニリルシクラーゼの直接的および間接的活性化剤の非限定的な例としては、フォルスコリン、コレラ毒素、プロスタグランジンE1、ノルエピネフリン(NE)、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンI2、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド1-27(PACAP1-27)、PACAP1-38、およびNKH477が含まれる。
【0034】
細胞培養培地組成物の一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約1nMから約100nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約10nMから約70nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約40nMから約60nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。生成物の濃度について、S1P受容体の内在化の活性化剤はさらに、約40nM、41nM、42nM、43nM、44nM、45nM、46nM、47nM、48nM、49nM、50nM、51nM、52nM、53nM、54nM、55nM、56nM、57nM、58nM、59nM、または60nMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、約50nMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、S1P受容体の内在化を増大させる任意の活性化剤を包含する。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、密着結合タンパク質(例えば、ZO-1、JAM-A、クローディン-5、オクルジン)の発現を増大させる。一部の場合では、S1P受容体の内在化の1つまたは複数の活性化剤が、細胞培養培地組成物に含まれる。一部の態様では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、フィンゴリモド-リン酸(FTY720P)またはS1Pであり得る。
【0035】
一部の実施形態では、細胞培養培地組成物は、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤を含む。一部の実施形態では、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤を含む細胞培養培地組成物は、約1μMから約100μMの範囲の濃度のアデニリルシクラーゼ活性化剤、および約1nMから約100nMの範囲の濃度のS1P受容体の内在化の活性化剤を含む。一部の好ましい実施形態では、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤を含む細胞培養培地組成物は、約30μMから約50μMの範囲の濃度のアデニリルシクラーゼ活性化剤、および約40nMから約60nMの範囲の濃度のS1P受容体の内在化の活性化剤を含む。一部の好ましい実施形態では、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤を含む細胞培養培地組成物は、約40μMの濃度のアデニリルシクラーゼ活性化剤、および約50nMの濃度のS1P受容体の内在化の活性化剤を含む。
【0036】
一部の実施形態では、細胞培養培地組成物は、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤、および少なくとも1つの追加のバリアアゴニスト化合物を含む。追加のバリアアゴニスト化合物は、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤のメカニズムと実質的に同一のまたは異なるメカニズムを介して作用し得る。例えば、追加のバリアアゴニスト化合物は、限定はしないが、内皮接着分子の発現を誘導する、および/または結合タンパク質の転写調節に影響を与える化合物であり得る。一部の実施形態では、細胞培養培地組成物は、約1μMから約100μMの範囲の濃度のアデニリルシクラーゼ活性化剤、約1nMから約100nMの範囲の濃度のS1P受容体の内在化の活性化剤、および約0.5μMから約50μMの範囲の濃度の少なくとも1つの追加のバリアアゴニスト化合物を含む。一部の好ましい実施形態では、細胞培養培地組成物は、約30μMから約50μMの範囲の濃度のアデニリルシクラーゼ活性化剤、約40nMから約60nMの範囲の濃度のS1P受容体の内在化の活性化剤、および約0.5μMから約2μMの範囲の濃度の少なくとも1つの追加のバリアアゴニスト化合物を含む。一部の好ましい実施形態では、細胞培養培地組成物は、約40μMの濃度のアデニリルシクラーゼ活性化剤、および約50nMの濃度のS1P受容体の内在化の活性化剤、および約1μMの濃度の少なくとも1つの追加のバリアアゴニスト化合物を含む。一部の実施形態では、細胞培養培地組成物は、フォルスコリンおよびFTY-720Pを含む。一部の実施形態では、少なくとも1つの追加のバリアアゴニスト化合物は、メチルプレドニゾロンである。一部の実施形態では、細胞培養培地組成物は、フォルスコリン、FTY-720P、およびメチルプレドニゾロンを含む。
【0037】
培養培地組成物の一部の実施形態では、ウシ胎児血清(FBS)は、約1%から約10%容積濃度(v/v)またはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲であり得る。ある特定の生成物濃度では、ウシ胎児血清は、約1.25%、1.5%、1.75%、2.0%、2.25%、2.5%、2.75%、3.0%、3.25%、3.5%、3.75%、4.0%、4.25%、4.5%、4.75%、5.0%、5.25%、5.5%、5.75%、6.0%、6.25%、6.5%、6.75%、7.0%、7.25%、7.5%、7.75%、8.0%、8.25%、8.5%、8.75%、9.0%、9.25%、9.5%、9.75%、または10.0%の容積濃度(v/v)で含まれていてよい。一部の場合では、FBSは、約2%の濃度で含まれる。
【0038】
培養培地組成物の一部の実施形態では、組成物は、アデニリルシクラーゼ活性化剤およびS1P受容体の内在化の活性化剤などの1つまたは複数の追加の構成成分をさらに添加された基礎培地を含む。一部の場合では、基礎培地は、MCDB131(Gibco(10372019))培地である。一部の場合では、基礎培地は、HPLM(Gibco(A4899101))培地である。一部の実施形態では、基礎培地は、内皮細胞増殖培地2(EGM2、PromoCell)である。一部の場合では、培養培地組成物は、L-グルタミン(例えばGlutaMAX(商標))を含む。一部の場合では、培地組成物は、約0.1μg/mLから約10,000μg/mLを含む。一部の場合では、培地組成物は、約0.1μg/mLから約10,000μg/mLを含む。一部の場合では、培地組成物は、約0.1μg/mLから約100μg/mLの抗生物質を含む。一部の実施形態では、培地組成物は、約0.1μg/mLから約50μg/mLの抗生物質を含む。抗生物質の非限定的な例としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、アムホテリシン、ゲンタマイシン、およびアムホテリシンBが含まれる。
【0039】
一部の実施形態では、培地組成物は、MCDB131培地およびHPLM培地から選択される基礎培地を含む。一部の場合では、培地組成物は、EGF、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、ヘパラン硫酸、塩基性FGF、約2%のFBS、約2ng/mLのVEGF、約30nMの亜セレン酸ナトリウム、フォルスコリン、およびFTY720Pをさらに含む。一部の場合では、培地組成物は、EGF、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、ヘパラン硫酸、塩基性FGF、約2%のFBS、約2ng/mLのVEGF、約30nMの亜セレン酸ナトリウム、フォルスコリン、FTY720P、およびメチルプレドニゾロン(MP)をさらに含む。
【0040】
内皮細胞バリアを改善するための方法
本明細書では、ある特定の実施形態において、例えばHPAECおよびHMVECを含む内皮細胞の血管バリアを増強させるための方法が開示されている。
【0041】
血管漏出を最小にするための1つの方法は、内皮細胞間結合タンパク質の発現の増大を介する。内皮細胞間結合タンパク質としては、限定はしないが、密着結合(例えば、ZO-1、JAM-A、クローディン-5、オクルジン)タンパク質および接着結合(例えばVE-カドヘリン)タンパク質が含まれる。従来の内皮培養方法、特に、再細胞化されたスキャフォールド内でのまたは再細胞化されたスキャフォールド上での内皮細胞培養方法は、内皮バリアを強化するように特異的には設計されていない微小血管内皮細胞培養培地MCDB131中での増殖を伴うものであった。これらの方法では、MCDB131基礎培地を大血管内皮添加物(LVES)と組み合わせることで、安定な血管バリアの形成よりも細胞増殖を優先させるように設計されたMCDB完全培地が作製される(表1を参照されたい)。
【0042】
【0043】
本明細書では、血管バリアの強化が細胞増殖よりも優先される、内皮細胞を作製するための方法が提供される。血管バリアの強化の優先は、細胞培養培地(例えば、MCDB131またはHPLM)にバリアアゴニスト化合物(例えば、フォルスコリン、フィンゴリモド-リン酸(FTY720P)、および/またはメチルプレドニゾロン(MP))を添加することによって行うことができる。
【0044】
シグナル伝達酵素Rac1は、血管バリア強化のプロセスにおける重要な媒介物として機能する。フォルスコリンによって誘導されるcAMPの増大は、Rac1によって媒介される内皮バリアの密着化を引き起こす。フォルスコリンは、酵素アデニリルシクラーゼを刺激して、環状アデノシン一リン酸(cAMP)を生成させる。cAMPは、2つの主要な下流のシグナル伝達経路を利用して、血管バリアを強化する。cAMPはEpac1に直接結合し、Epac1は、Rap1を介して作用して、グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を刺激し、Rac1を活性化させる。あるいは、cAMPはPKAを活性化させ得、PKAもまた、GEFを介するRac1の活性化をもたらす。Epac1/Rap1またはPKAを介するRac1の活性化は、密着結合タンパク質および接着結合タンパク質(例えば、クローディン、オクルジン、VE-カドヘリンなど)の発現の増大を介して皮質のアクチン細胞骨格を強化することによって、血管バリアを増強させる(Schegel and Washke, Cell Tissue Res, 2014)。
【0045】
リン酸化され活性なFTY720代謝産物であるFTY720Pは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体の内在化を誘導するが、当該受容体は、原形質膜から細胞質に移動し、一部にはクローディン-5の発現の増大によって、さらなる細胞骨格の再配置およびバリアの強化を引き起こす。さらに、S1P(およびFTY720P)もまた、Rac1の活性化およびそれに続く血管バリアの密着化をもたらす。
【0046】
メチルプレドニゾロン(MP)は、合成の抗炎症性グルココルチコイドである。このグルココルチコイドの直接的な遺伝子標的としては、密着結合(オクルジン、クローディン-5)および接着結合(VE-カドヘリン)が含まれる。MPはまた、体液の再吸収において役割を有する抗浮腫薬でもあり、細胞膜の水透過性を増大させるアクアポリン水チャネルの上方調節を誘導する。MPは、細胞質内のグルココルチコイド受容体(GR)に結合することによって作用する。GC-GR複合体は核に移動し、GC-GR複合体は核内で、GC応答性エレメント(GRE)を介して結合タンパク質の転写を刺激する。
【0047】
一部の実施形態では、本開示は、血管バリアが強化された内皮細胞を培養するための方法を提供する。一部の実施形態では、培養内皮細胞は肺(lung)内皮細胞である。一部の実施形態では、培養内皮細胞は肺(pulmonary)内皮細胞である。一部の実施形態では、培養内皮細胞はヒト内皮細胞である。一部の実施形態では、培養内皮細胞は、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)またはヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)である。内皮細胞は、当技術分野で公知の方法によって培養することができる。内皮細胞は、二次元基質または三次元基質で培養することができる。
【0048】
HPAECは、ヒト肺動脈内皮に由来する細胞である。これらは接着性であり、玉石のような外見をしている。HPAECは、表面タンパク質マーカーである血小板内皮細胞接着分子(PECAM/CD31)および血管内皮カドヘリン(VE-カドヘリン/CD144)の発現を特徴とし得る。これら細胞はまた、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR-2/Flk-1/KDR)、血管内皮増殖因子1(VEGFR1/Flt-1)、および内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)も発現する。インビトロでのHPAECの機能的特性としては、アセチル化された低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みおよび管腔の形成が含まれる。
【0049】
一部の実施形態では、本開示は、内皮細胞を作製するための方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、血管バリアが増強した内皮細胞を作製するための方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む、内皮細胞を作製するための方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、内皮細胞を少なくとも3つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む、内皮細胞を作製するための方法を提供する。一部の態様では、このような方法は、内皮細胞を細胞培養培地中で培養するステップを含み、ここで、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップが、培養するステップの間に行われる。一般に、内皮細胞が培養物中でコンフルエントになると、内皮細胞をバリアアゴニスト化合物と接触させてよい。一部の実施形態では、内皮細胞が培養物中で約50%、約60%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約100%コンフルエントになると、内皮細胞をバリアアゴニスト化合物と接触させてよい。
【0050】
一部の実施形態では、本開示は、内皮細胞を少なくとも1つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む、内皮細胞を作製するための方法を提供する。一部の態様では、このような方法は、内皮細胞を細胞培養培地中で培養するステップを含み、ここで、内皮細胞を少なくとも1つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップが、培養するステップの間に行われる。一般に、内皮細胞が培養物中でコンフルエントになると、内皮細胞をバリアアゴニスト化合物と接触させてよい。一部の実施形態では、内皮細胞が培養物中で約50%、約60%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または約100%コンフルエントになると、内皮細胞をバリアアゴニスト化合物と接触させてよい。
【0051】
一部の実施形態では、バリアアゴニスト化合物は、内皮細胞を含む細胞培養培地に直接添加してよい。一部の態様では、内皮細胞を培養する細胞培養培地にバリアアゴニスト化合物を直接添加することによって、内皮細胞をバリアアゴニスト化合物と接触させることができる。一部の場合では、内皮細胞を、バリアアゴニスト化合物を含む細胞培養培地と接触させることによって、内皮細胞をバリアアゴニスト化合物と接触させることができる。
【0052】
一部の実施形態では、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり、内皮細胞を少なくとも1つのバリアアゴニスト化合物と接触させてよい。一部の実施形態では、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間は、約1時間から約10日間の範囲であり得る。一部の実施形態では、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも10時間、少なくとも15時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも100時間、少なくとも120時間、または少なくとも150、またはそれを超える時間であり得る。一部の実施形態では、内皮細胞に、1サイクルまたは複数サイクルの培地交換を行ってよい。一部の実施形態では、内皮細胞に培地交換サイクルを全く行わなくてもよい。例えば、また例示のみを目的として、バリアアゴニスト化合物と120時間にわたり接触させた内皮細胞は、培地交換を行わずに、バリアアゴニスト化合物を含む同一の培養培地で120時間維持してもよい。例示のみを目的とした別の例として、バリアアゴニスト化合物と120時間にわたり接触させた内皮細胞に、120時間の接触期間の過程にわたり、1サイクル、2サイクル、3サイクル、またはそれを超えるサイクル数の培地交換を行ってもよく、ここで、各培地交換サイクルは、細胞から培養培地を取り出すステップ、および、バリアアゴニスト化合物を含む新たな培地を細胞に添加するステップを含む。
【0053】
一部の態様では、血管バリアの強化は、血管漏出の低減によって判定および/または特徴付けされる。一般に、血管漏出は、血管バリアを通過する、例えば血流から下層組織への、体液および分子の移動である。血管漏出は、本開示に従った任意の適用可能な技術によってアッセイすることができる。血管漏出を測定するためのまたは血管バリアの密着化を定量するための技術の非限定的な例としては、電気的細胞-基質インピーダンスセンシング(ECIS)、経内皮電気抵抗(TEER)測定、およびフルオレセインイソチオシアネート(FITC)-デキストラン経内皮透過性アッセイが含まれる。
【0054】
一部の実施形態では、本開示は、本明細書で記載される方法に従って作製された内皮細胞を用いて移植可能な器官を作製するための方法を提供する。移植可能な器官の非限定的な例としては、肺、心臓、腎臓、および肝臓が含まれる。一部の実施形態では、移植可能な器官は、移植可能な肺である。
【0055】
本開示に従ったあらゆるタイプの内皮細胞を使用することができる。内皮細胞の非限定的な例としては、ヒト肺静脈内皮細胞(HPVEC)、ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC)、ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)、ヒト肝臓類洞内皮細胞(HLSEC)、ヒト糸球体内皮細胞(HGEC)、およびヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)が含まれる。一部の実施形態では、内皮細胞は、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)およびヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC)からなる群から選択される。
【0056】
内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約1μMから約100μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。内皮細胞を作製する方法の一部の態様では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約10μMから約60μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約30μMから約50μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤はさらに、約30μM、31μM、32μM、33μM、34μM、35μM、36μM、37μM、38μM、39μM、40μM、41μM、42μM、43μM、44μM、45μM、46μM、47μM、48μM、49μM、または50μMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、約40μMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、アデニリルシクラーゼの活性を増強させるかまたは環状アデノシン一リン酸(cAMP)の生成を増大させる任意の活性化剤を包含する。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、タンパク質EpacおよびRap1の活性化を誘導し、これによって、皮質のアクチン細胞骨格の再配置を誘導する。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、VE-カドヘリンなどの接着結合タンパク質の発現を増大させる。一部の場合では、1つまたは複数のアデニリルシクラーゼ活性化剤が、内皮細胞を作製する方法で使用される細胞培養培地組成物に含まれる。アデニリルシクラーゼの直接的および間接的活性化剤の非限定的な例としては、フォルスコリン、コレラ毒素、プロスタグランジンE1、ノルエピネフリン(NE)、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンI2、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド1-27(PACAP1-27)、PACAP1-38、およびNKH477が含まれる。
【0057】
内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約1nMから約100nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の態様では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約10nMから約70nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約40nMから約60nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、約40nM、41nM、42nM、43nM、44nM、45nM、46nM、47nM、48nM、49nM、50nM、51nM、52nM、53nM、54nM、55nM、56nM、57nM、58nM、59nM、または60nMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、約50nMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、S1P受容体の内在化を増大させる任意の活性化剤を包含する。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、密着結合タンパク質(例えば、ZO-1、JAM-A、クローディン-5、および/またはオクルジン)の発現を増大させる。一部の場合では、S1P受容体の内在化の1つまたは複数の活性化剤が、内皮細胞を作製する方法で使用される細胞培養培地組成物に含まれる。一部の態様では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、フィンゴリモド-リン酸(FTY720P)またはS1Pであり得る。
【0058】
内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、メチルプレドニゾロン(MP)は、モル濃度で約0.1μMから約50μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で培養培地中に存在し得る。一部の態様では、メチルプレドニゾロンは、モル濃度で約0.5μMから約10μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の態様では、メチルプレドニゾロンは、モル濃度で約0.5μMから約2μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約0.5μM、約0.6μM、約0.7μM、約0.8μM、約0.9μM、約1μM、約1.1μM、約1.2μM、約1.3μM、約1.4μM、約1.5μM、約1.6μM、約1.7μM、約1.8μM、約1.9μM、または約2μMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約1μMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、メチルプレドニゾロンは、例えば接着分子の発現を誘導することによって、血管バリアの完全性を増大させる。
【0059】
一部の実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む。一部のこのような実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含む。一部の実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約1μMから約100μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約1nMから約100nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約30μMから約50μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約40nMから約60nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約40μMの濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約50nMの濃度で存在する。
【0060】
一部の実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも3つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む。一部のこのような実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含む。一部の実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約1μMから約100μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約1nMから約100nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約30μMから約50μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約40nMから約60nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約40μMの濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約50nMの濃度で存在する。一部の実施形態では、内皮細胞を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも3つの(すなわち、3つ、4つ、5つ、6つ、またはそれを超える)バリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含み得、ここで、少なくとも3つのバリアアゴニスト化合物には、フォルスコリン、フィンゴリモド-リン酸、およびメチルプレドニゾロン(MP)が含まれる。内皮細胞を作製する方法の一部のこのような実施形態では、フォルスコリンは、約30μMから約50μMの濃度で存在し得る。好ましくは、フォルスコリンは、約40μMの濃度で存在し得る。一部の実施形態では、フィンゴリモド-リン酸は、約5nMから約50nMの濃度で存在し得る。好ましくは、フィンゴリモド-リン酸は、約50nMの濃度で存在し得る。一部の好ましい実施形態では、フォルスコリンは約40μMの濃度で存在し得、フィンゴリモド-リン酸は、約50nMの濃度で存在し得る。一部の実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約0.5μMから約2μMの濃度で存在し得る。一部の好ましい実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約1μMの濃度で存在し得る。一部の好ましい実施形態では、フォルスコリンは約40μMの濃度で存在し得、フィンゴリモド-リン酸は約50nMの濃度で存在し得、そしてメチルプレドニゾロンは約1μMの濃度で存在し得る。
【0061】
本開示は、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法に対する改善を提供する。一部の実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法に対する改善は、(i)培養内皮細胞を少なくとも1つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップ、および(ii)内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり、内皮細胞を細胞培養培地中で維持するステップであって、血管バリアの強化が血管漏出の低減によって特徴付けされるステップを含む。一部の実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法に対する改善は、(i)培養内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップ、および(ii)内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり、内皮細胞を細胞培養培地中で維持するステップであって、血管バリアの強化が血管漏出の低減によって特徴付けされるステップを含む。
【0062】
細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約1μMから約100μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。内皮細胞を作製する方法の一部の態様では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約10μMから約60μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部のこのような実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、モル濃度で約30μMから約50μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤はさらに、約30μM、31μM、32μM、33μM、34μM、35μM、36μM、37μM、38μM、39μM、40μM、41μM、42μM、43μM、44μM、45μM、46μM、47μM、48μM、49μM、または50μMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、約40μMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、アデニリルシクラーゼの活性を増強させるかまたは環状アデノシン一リン酸(cAMP)の生成を増大させる任意の活性化剤を包含する。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、タンパク質EpacおよびRap1、ならびに/またはPKAの活性化を誘導し、これによって、原形質膜に隣接するアクチン細胞骨格の再配置を誘導する。一部の実施形態では、アデニリルシクラーゼ活性化剤は、接着結合タンパク質(例えばVE-カドヘリン)の発現を増大させる。一部の場合では、1つまたは複数のアデニリルシクラーゼ活性化剤が、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法で使用される細胞培養培地組成物に含まれる。アデニリルシクラーゼの直接的および間接的活性化剤の非限定的な例としては、フォルスコリン、コレラ毒素、プロスタグランジンE1、ノルエピネフリン(NE)、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンI2、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド1-27(PACAP1-27)、PACAP1-38、およびNKH477が含まれる。
【0063】
細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約1nMから約100nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部のこのような実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約10nMから約70nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、モル濃度で約40nMから約60nMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、約40nM、41nM、42nM、43nM、44nM、45nM、46nM、47nM、48nM、49nM、50nM、51nM、52nM、53nM、54nM、55nM、56nM、57nM、58nM、59nM、または60nMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、約50nMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、S1P受容体の内在化を増大させる任意の活性化剤を包含する。一部の実施形態では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、密着結合タンパク質(例えば、ZO-1、JAM-A、クローディン-5、および/またはオクルジン)の発現を増大させる。一部の場合では、S1P受容体の内在化の1つまたは複数の活性化剤は、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法で使用される細胞培養培地組成物に含まれる。一部の態様では、S1P受容体の内在化の活性化剤は、フィンゴリモド-リン酸(FTY720P)またはS1Pであり得る。
【0064】
細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、メチルプレドニゾロン(MP)は、モル濃度で約0.1μMから約50μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で培養培地中に存在し得る。一部の態様では、メチルプレドニゾロンは、モル濃度で約0.5μMから約10μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。一部の態様では、メチルプレドニゾロンは、モル濃度で約0.5μMから約2μMまたはこれらの間にある任意の値もしくは部分範囲の濃度で存在し得る。内皮細胞を作製する方法の一部の実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約0.5μM、約0.6μM、約0.7μM、約0.8μM、約0.9μM、約1μM、約1.1μM、約1.2μM、約1.3μM、約1.4μM、約1.5μM、約1.6μM、約1.7μM、約1.8μM、約1.9μM、または約2μMのモル濃度で含まれていてもよい。一部の好ましい実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約1μMのモル濃度で含まれる。一部の実施形態では、メチルプレドニゾロンは、例えば接着分子の発現を誘導することによって、血管バリアの完全性を増大させる。
【0065】
一部の実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも2つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む。一部のこのような実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含む。一部の実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約1μMから約100μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約1nMから約100nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約30μMから約50μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約40nMから約60nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約40μMの濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約50nMの濃度で存在する。
【0066】
一部の実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも3つのバリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含む。一部のこのような実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含む。一部の実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約1μMから約100μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約1nMから約100nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約30μMから約50μMの範囲の濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約40nMから約60nMの範囲の濃度で存在する。一部の好ましい実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤および少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤と接触させるステップを含み、ここで、少なくとも1つのアデニリルシクラーゼ活性化剤は約40μMの濃度で存在し、少なくとも1つのS1P受容体の内在化の活性化剤は約50nMの濃度で存在する。一部の実施形態では、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法は、内皮細胞を少なくとも3つの(すなわち、3つ、4つ、5つ、6つ、またはそれを超える)バリアアゴニスト化合物と接触させるステップを含み得、ここで、少なくとも3つのバリアアゴニスト化合物としては、フォルスコリン、フィンゴリモド-リン酸、およびメチルプレドニゾロン(MP)が含まれる。細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部のこのような実施形態では、フォルスコリンは、約30μMから約50μMの濃度で存在し得る。好ましくは、フォルスコリンは、約40μMの濃度で存在し得る。一部の実施形態では、フィンゴリモド-リン酸は、約5nMから約50nMの濃度で存在し得る。好ましくは、フィンゴリモド-リン酸は、約50nMの濃度で存在し得る。一部の好ましい実施形態では、フォルスコリンは約40μMの濃度で存在し得、フィンゴリモド-リン酸は、約50nMの濃度で存在し得る。一部の実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約0.5μMから約2μMの濃度で存在し得る。一部の好ましい実施形態では、メチルプレドニゾロンは、約1μMの濃度で存在し得る。一部の好ましい実施形態では、フォルスコリンは約40μMの濃度で存在し得、フィンゴリモド-リン酸は約50nMの濃度で存在し得、そしてメチルプレドニゾロンは約1μMの濃度で存在し得る。
【0067】
細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間にわたり、内皮細胞を少なくとも1つのバリアアゴニスト化合物とさせてよい。細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法の一部の実施形態では、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間は、約1時間から約10日間の範囲であり得る。一部の実施形態では、内皮細胞の血管バリアの強化を可能にするために十分な期間は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも10時間、少なくとも15時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも100時間、少なくとも120時間、または少なくとも150時間、またはそれを超える時間であり得る。一部のこのような実施形態では、内皮細胞に、1サイクルまたは複数サイクルの培地交換を行ってよい。一部の実施形態では、内皮細胞に培地交換サイクルを全く行わなくてもよい。例えば、また例示のみを目的として、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法では、バリアアゴニスト化合物と120時間にわたり接触させた内皮細胞は、培地交換を行わずに、バリアアゴニスト化合物を含む同一の培養培地で120時間維持してもよい。例示のみを目的とした別の例として、細胞培養培地中の培養内皮細胞から肺組織を作製する方法では、バリアアゴニスト化合物と120時間にわたり接触させた内皮細胞に、120時間の接触期間の過程にわたり、1サイクル、2サイクル、3サイクル、またはそれを超えるサイクル数の培地交換を行ってよく、ここで、各培地交換サイクルは、細胞から培養培地を取り出すステップ、および、バリアアゴニスト化合物を含む新たな培地を細胞に添加するステップを含む。
【実施例】
【0068】
これらの実施例は、例示のみを目的として提供され、本明細書で提供される特許請求の範囲を限定するためではない。
【0069】
[実施例1]
内皮細胞バリア強化化合物は、複数の異なる培養培地で機能的である
培養培地
バリアアゴニスト化合物が複数のタイプの細胞培養培地で血管バリア強化効果を発揮し得るかどうかを判定するために、異なる細胞培養培地を試験した。一アッセイでは、以下の2つの個別の細胞培養培地を試験した:1)MCDB131完全培地:1×大血管内皮添加物(LVES)を添加したMCDB131基礎培地、および2)HPLM完全培地:1×LVESを添加したヒト血漿様培地(HPLM)。各完全培地の構成成分を表1に示す。
【0070】
プロトコル
ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)を、コンフルエントになるまでMCDB131完全培地またはHPLM完全培地のいずれか(ここで、完全培地は、表1で定義されているように1×LVESを含有している)で培養した。細胞の凍結バイアルを、37℃の水浴を使用して解凍した。細胞を2,000~5,000細胞/cm2の間の細胞密度でT75フラスコに播種し、完全培地(すなわち、MCDB131完全培地またはHPLM完全培地)で培養した。細胞を、37℃、20%O2、5%CO2のインキュベーターで維持した。細胞の増殖をモニタリングし、培地を48時間ごと(すなわち、培養の3日目、5日目、7日目など)に交換した。
【0071】
コンフルエントになったら、細胞をバリアアゴニスト(40μMのフォルスコリンおよび50nMのフィンゴリモド-リン酸(FTY720P))を伴ってまたは伴わずに処理し、xCELLigenceプラットフォーム(電気的細胞-基質インピーダンスセンシング(ECIS))システムを使用して、バリア機能の変化についてアッセイした。簡潔に述べると、xCELLigenceのサポートのある96ウェルプレート(ACEA Biosciences、E-Plate96PET、カタログ番号00300600910)を製造者のプロトコルに従って準備し、その後、プレートに約6,600細胞/ウェル(約20,000細胞/mLに対応する)を播種した。ECISの測定値を所望の時点で得た。実験期間にわたり、培地を毎日交換した。
【0072】
バリアアゴニスト処理の15時間後、48時間後、および5日後の、電気的細胞-基質インピーダンスセンシング(ECIS)の結果。インピーダンス値が高いほど、内皮バリアが密着していることを示している。全ての結果を、処理前のインピーダンスレベルに対して正規化した。一元配置ANOVA、テューキー多重比較ポストホック検定を使用して、統計分析を行った。
【0073】
結果
図1Aおよび
図1Bにおいてグラフで示されているように、試験したバリアアゴニスト化合物は、試験した全ての時点で、MCDB131完全培地(
図1A)およびHPLM完全培地(
図1A)で培養されたHPAECのインピーダンスの増強において有効であった。これらのデータは、バリアアゴニスト化合物が複数の異なるタイプの細胞培養培地と適合し、これら培地で有効であることを示唆している。
【0074】
[実施例2]
培養内皮細胞の血管バリアの強化のためのフォルスコリン濃度の最適化
観察される内皮細胞バリア密着化効果を最大にするフォルスコリン濃度を決定するために、複数の濃度のフォルスコリンを3つの個別の実験で試験した。
【0075】
実験1
ヒト微小血管内皮細胞(PromoCell、PCから入手したHMVEC)を、実施例1で記載されているように、コンフルエントになるまでMCDB131完全培地で培養した。コンフルエントになったら、細胞をフォルスコリン(10μMもしくは40μM)で処理したか、または処理しなかった(コントロール)。ECISの結果を、バリアアゴニスト処理の15時間、48時間、および5日(100時間)に得た。
【0076】
結果
図2Aおよび
図2Bにおいてグラフで示されているように、40μMのフォルスコリンは、10μMのフォルスコリンまたは未処理コントロールよりも血管バリア強度の増強を大きく誘導した。
【0077】
実験2
ヒト微小血管内皮細胞(Cell Applications、CAから入手したHMVEC)を、コンフルエントになるまでMCDB131完全培地で培養した。コンフルエントになったら、細胞をフォルスコリン(10μMもしくは40μM)で処理したか、または処理しなかった(コントロール)。ECISの結果を、バリアアゴニスト処理の15時間後、48時間後、および5日(100時間)後に得た。
【0078】
結果
図3Aおよび
図3Bにおいてグラフで示されているように、40μMのフォルスコリンは、10μMのフォルスコリンまたは未処理コントロールよりも血管バリア強度の増強を大きく誘導した。これらのデータは、本実施例の実験1および実施例1の結果に照らして、フォルスコリンが複数の異なるタイプの内皮細胞において血管バリア強化効果を発揮することを示している。
【0079】
実験3
ヒト肺動脈内皮細胞(ATCCから入手したHPAEC)を、コンフルエントになるまでMCDB131完全培地で培養した。コンフルエントになったら、細胞をフォルスコリン(40μMもしくは60μM)で処理したか、または処理しなかった(コントロール)。ECISの結果を、バリアアゴニスト処理の15時間後、48時間後、および5日(100時間)後に得た。
【0080】
結果
図4Aおよび
図4Bにおいてグラフで示されているように、40μMのフォルスコリンは、60μMのフォルスコリンまたは未処理コントロールよりも血管バリア強度の増強を大きく誘導した。これらのデータは、フォルスコリンが複数の異なるタイプの内皮細胞において血管バリア強化効果を発揮すること、およびフォルスコリンが有限範囲内の濃度で存在している場合にその血管バリア強化効果が最適に生じることを示している。
【0081】
[実施例3]
培養内皮細胞の血管バリアの強化のためのFTY720P濃度の最適化
観察される内皮細胞バリア密着化効果を最大にするFTY720P濃度を決定するために、複数のFTY720P濃度を試験した。
【0082】
実験1
ヒト肺動脈内皮細胞(ATCCから入手したHPAEC)を、コンフルエントになるまでMCDB131完全培地で培養した。コンフルエントになったら、細胞をフォルスコリン(40μM)、フォルスコリン(40μM)+FTY720P(50nM)、フォルスコリン(40μM)+FTY720P(5nM)で処理したか、または処理しなかった(コントロール)。ECISの結果を、バリアアゴニスト処理の15時間後、48時間後、および5日(120時間)後に得た。
【0083】
結果
図5においてグラフで示されているように、フォルスコリン(40μM)+FTY720P(50nM)は、フォルスコリン(40μM)単独、フォルスコリン(40μM)+FTY720P(5nM)、および未処理コントロールよりも血管バリア強度の増強を大きく誘導した。これらのデータは、FTY720P(50nM)がフォルスコリンと組み合わされると内皮細胞の血管バリア強化を増強させ得ること、およびこの効果が濃度依存性であることを示している。
【0084】
実験2
ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)を、コンフルエントになるまで、半透性のコラーゲン処理膜上のMCDB131完全培地で培養した。コンフルエントになったら、細胞をバリアアゴニスト(40μMのフォルスコリンおよび50nMのフィンゴリモド-リン酸(FTY720P))を伴ってまたは伴わずに18時間処理し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)-デキストラン経内皮透過性アッセイを使用して、バリア機能の変化についてアッセイした。バリアアゴニスト化合物(上記のような)を伴うまたは伴わないMCDB131での培養HPAECの一晩(18時間)のインキュベーションの後、細胞を、FITC-デキストラン中で20、40、または120分間インキュベートした。インキュベーションの後、下層の培地中のFITC-デキストランのレベル(すなわち、内皮細胞単層および下層の半透膜を通過したFITC-デキストランのレベル)を、485nmの励起フィルターおよび535nmの発光フィルターを有する蛍光プレートリーダーを使用して定量した。
【0085】
結果
図6A~
図6Cにおいてグラフで示されているように、フォルスコリン(40μM)+FTY720P(50nM)は、FITC-デキストランとのインキュベーションの20分後(
図6A)、40分後(
図6B)、および120分後(
図6C)に測定すると、未処理コントロールで見られたものよりも血管バリア強度の増強を大きく誘導した(内皮細胞単層を下層の培地まで通過するFITC-デキストランの量の減少によって測定される)。各プロットの小さなドットは、試験した個々のウェルを示す。統計分析は、対応のないt検定を使用して行った。これらのデータは、上記の実施例3の実験1でのECISベースの所見に対する直交的裏付けを提供している。
【0086】
[実施例4]
フォルスコリンおよびFTY720Pは、HPAECの細胞間結合での密着結合タンパク質および接着結合タンパク質の発現を増大させる
本実施例は、培養内皮細胞内での密着結合タンパク質および接着結合タンパク質の発現の増強におけるフォルスコリンおよびFTY720Pの有効性を示している。
【0087】
プロトコル
フローサイトメトリーによる評価
ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)を、コンフルエントになるまでMCDB131完全培地で培養した(ここで、完全培地は、表1で定義されているように1×LVESを含有している)。コンフルエントになったら、細胞を、バリアアゴニスト(40μMのフォルスコリンおよび50nMのフィンゴリモド-リン酸(FTY720P))を伴ってまたは伴わずに18時間処理した。処理後、結合タンパク質を保護するために、HPAECを透過処理せずに固定し、示されている通りに染色した。フローサイトメトリー分析を行って、密着結合タンパク質および接着結合タンパク質の発現の差を定量した。
【0088】
免疫蛍光染色による評価
ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)を、コンフルエントになるまでMCDB131完全培地で培養した(ここで、完全培地は、表1で定義されているように1×LVESを含有している)。コンフルエントになったら、細胞を、バリアアゴニスト(40μMのフォルスコリンおよび50nMのフィンゴリモド-リン酸(FTY720P))を伴ってまたは伴わずに2時間または18時間処理し、バリア機能の変化についてアッセイした。密着結合マーカーおよび接着結合マーカー(HPAEC上で発現される)の免疫蛍光染色を、免疫蛍光に適した抗体を使用して行った。
【0089】
結果
図7Aおよび
図7Bにおいてグラフで示されているように、試験したバリアアゴニスト化合物は、フローサイトメトリーによって測定すると、培養HPAECでの密着結合タンパク質および接着結合タンパク質の発現の増大において有効であった。処理とコントロールとの間で同じゲーティングを使用する、個々の結合マーカーについて陽性の細胞の定量を、
図7Aにまとめる。生データを
図7Bにまとめる。曲線の右側または上側へのシフトは、より多くの結合タンパク質の存在を示す。
【0090】
図8Aおよび
図8Bで示されているように、試験したバリアアゴニスト化合物(40μMのフォルスコリンおよび50nMのフィンゴリモド-リン酸(FTY720P))は、バリアアゴニスト化合物での処理の2時間後(
図8A)および18時間後(
図8B)の免疫蛍光によって測定すると、培養HPAECの原形質膜での密着結合(ZO-1、クローディン-5、およびJAM-A)タンパク質ならびに接着結合(VE-カドヘリン)タンパク質の発現の増大において有効であった。
【0091】
[実施例5]
フォルスコリン、FTY720P、およびメチルプレドニゾロンは、培養HPAECの経上皮電気抵抗を相乗的に増大させる
本実施例は、ATCCから入手した培養HPAECの経上皮電気抵抗(TEER)を増大させるための、バリアアゴニスト化合物であるメチルプレドニゾロン(MP)をフォルスコリンおよびフィンゴリモドリン酸と組み合わせることの相乗効果を示している。
【0092】
TEERの評価
バリアアゴニスト処理を2日目(48時間)に開始し、残りの培養を通して維持した。EVOM(商標)Manual TEER測定器(EVOM 3 Instrument、上皮のボルト/オームメーター)を製造者のプロトコルに従って(参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、EVOM(商標)Manual TEER測定器:クイックスタートガイド、World Precision Instruments)使用して、細胞をTEERの分析にかけた。TEERの測定値は、MCDB131培養培地でのバリアアゴニスト処理の24時間後、48時間後、および120時間後に得た。バリアアゴニスト化合物は、培養物に投与される際、以下の濃度で提供された:フォルスコリン(40μM)、FTY720-P(50nM)、メチルプレドニゾロン(1μM)。
【0093】
結果
図9で示されているように、メチルプレドニゾロン処理は、いかなるバリアアゴニスト化合物も伴わずに培養された細胞と比較して、培養細胞のTEERを有意に増大させた。メチルプレドニゾロン単独は、フォルスコリンおよびFTY720-Pでの処理の後に見られた程度よりも大きくTEERを増大させることはなかったが、メチルプレドニゾロン、フォルスコリン、およびFTY720-Pの組み合わせは、フォルスコリンおよびFTY720-Pでの処理の後の程度よりも大きく、TEERの相乗的な増大をもたらした。
【0094】
[実施例6]
バリアアゴニスト化合物はHPAECの増殖を調節する
本実施例は、細胞がフォルスコリン(40μM)の存在下で培養されると内皮細胞の増殖が低減すること、およびFTY720-PまたはMPと培養されると内皮細胞の増殖が低減しないことを示している。
【0095】
プロトコル
HPAECを低い初期コンフエルエンシー(3000~5000細胞/cm
2)で播種して、I型コラーゲンでコーティングした培養ディッシュ上でのそれらの増殖を研究した。バリアアゴニストを0時間目(
図10A)または48時間目(
図10B)に添加し、残りの培養を通して維持した。バリアアゴニスト化合物は、培養培地(MCDB131)に添加される際、以下の濃度で添加された:フォルスコリン(40μM)、FTY720-P(50nM)、メチルプレドニゾロン(1μM)。ヘキスト色素で染色し、Celigo Imaging Cytometer(Nexcelom Bioscience)でイメージングされた核の個々の定量を介して、細胞数を測定した。
【0096】
結果
図10Aで示されているように、フォルスコリンで処理した細胞は、FTY720-Pで処理した細胞または処理を受けなかった細胞よりも有意に低い内皮細胞増殖を示した。
図10Bで示されているように、フォルスコリンを含む1つまたは複数のバリアアゴニスト化合物で処理した細胞は、当該化合物を含まない群(未処理またはメチルプレドニゾロンのみ)よりも有意に低い内皮細胞増殖を示した。
【0097】
これらの実施例は、例示のみを目的として提供されており、本明細書で提供される特許請求の範囲を限定するためのものではない。
【0098】
ある特定の実施形態を説明および記載してきたが、これら実施形態において、以下の特許請求の範囲で定義されているその広い方の態様における技術から逸脱することなく、当技術分野における通常の技術に従って変更および修正を行うことができることが理解される。
【0099】
本明細書で例示的に記載される実施形態は、本明細書で具体的に開示されていない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の限定のない状況下で、適切に実施され得る。したがって、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などは広く解釈され、限定を伴わない。さらに、本明細書で使用されている用語および表現は、限定の用語ではなく説明の用語として使用されており、このような用語および表現の使用では、示されているおよび記載されている特徴またはその一部分の何らかの同等物を排除することは意図されていないが、特許請求の範囲に記載の技術の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。さらに、「から基本的になる」という表現は、具体的に列挙されている要素、ならびに特許請求の範囲に記載の技術の基本的なおよび新規の特徴に実質的に影響しない追加の要素を含むと理解される。「からなる」という表現は、特定されていないいかなる要素も排除する。
【0100】
本開示は、本願で記載されている特定の実施形態に関して限定されるものではない。当業者には明らかとなろうが、多くの修正および変型を、その趣旨および範囲から逸脱することなく行うことができる。本明細書で列挙されたものに加えて、本開示の範囲内の機能的に同等な方法および組成物が、先の記載から当業者に明らかとなろう。このような修正および変型は、添付の特許請求の範囲に含まれるものである。本開示は、それに対してこのような特許請求の範囲の内容である同等物の全範囲と共に、添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定されるものである。本開示は、当然のことながら変化し得る特定の方法、試薬、化合物、または組成物に限定されないことが理解される。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載することのみを目的としており、限定することを意図したものではないことも理解される。
【0101】
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュグループの用語で記載されている場合、当業者には、本開示がまた、それによって、マーカッシュグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関しても記載されていることが認識されよう。
【0102】
当業者には理解されるように、任意のおよび全ての目的で、特に、記載要件の提供に関して、本明細書で開示されている全ての範囲は、終点を含む、任意のおよび全ての考えられる部分範囲およびこれらの部分範囲の組み合わせも包含する。あらゆる列挙された範囲は、十分に説明的であり、当該範囲を少なくとも2等分、3等分、4等分、5等分、10等分などすることが可能であることが、容易に認識され得る。非限定的な例として、本明細書で論じられる各範囲は、下3分の1、真ん中3分の1、および上3分の1などに容易に分けることができる。同様に当業者によって理解されるように、「最大」、「少なくとも」、「を超える」、「未満」などの全ての語は、列挙された数値を含み、上述したようにその後に部分範囲に分けられ得る範囲を指す。最後に、当業者によって理解されるように、範囲は、それぞれの個々のメンバーを含む。
【0103】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許出願、登録された特許、および他の文献は、それぞれの個々の刊行物、特許出願、登録された特許、または他の文献が参照によってその全体が組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、参照によって本明細書に組み込まれる。参照によって組み込まれる文書に含まれる定義は、これらが本開示における定義と矛盾する限りにおいて排除される。
【0104】
他の実施形態を、以下の特許請求の範囲で示す。
【国際調査報告】