IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プロカリウム リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】がんの併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20241108BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P15/00
A61P35/04
A61K31/675
A61K31/704
A61K31/7068
A61K38/19
A61K38/20
A61K38/21
A61K48/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024534555
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2022085258
(87)【国際公開番号】W WO2023105076
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】21213559.4
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521339784
【氏名又は名称】プロカリウム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベスニュー,マチュー
(72)【発明者】
【氏名】グランヴィル,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】デバン,リヴィヤ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA19
4C084BA44
4C084DA01
4C084DA12
4C084DA22
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA38
4C086EA10
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC35
4C087MA02
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、対象におけるがんの予防及び/又は処置に関し、該対象は、第一の処置相においてグラム陰性菌を、及び第二の処置相において化学療法薬を投与される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学療法薬で化学療法を受けている又は受ける予定である対象における新生物疾患の予防又は処置における使用のための生弱毒グラム陰性菌であって、
前記生弱毒グラム陰性菌は、第一の処置相における投与用であり、前記化学療法薬は、第二の処置相における投与用である、
生弱毒グラム陰性菌。
【請求項2】
前記生弱毒グラム陰性菌が、経口投与用に配合される、請求項1に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項3】
前記生弱毒菌が、サルモネラ属菌である、請求項1又は2に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項4】
前記生弱毒菌が、サルモネラ・エンテリカである、請求項3に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項5】
前記生弱毒菌が、サルモネラ・エンテリカ血清型ティフィ及び/又はサルモネラ・エンテリカ血清型ティフィムリウムである、請求項4に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項6】
前記細菌が、遺伝子改変された非天然細菌である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項7】
前記遺伝子改変された非天然細菌が、サルモネラ病原性島2(SPI-2)遺伝子内に弱毒化変異を含む、請求項6に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項8】
前記SPI-2遺伝子がssaV遺伝子であり、前記第二の遺伝子がaro遺伝子である、請求項7に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項9】
前記細菌が、標的タンパク質又はペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項10】
前記標的タンパク質又はペプチドが、サイトカイン及び/又はケモカインである、請求項9に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項11】
前記サイトカイン及び/又はケモカインが、IL-15、IL-21、IFNα、CXCL9、CXCL10、IL-18、IL-27、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項10に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項12】
前記化学療法薬が、メトトレキサート、ビノレルビン、ドセタキセル、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン、ムスチン、ビンクリスチン(viscristine)、プロカルバジン、プレドニゾロン(prednisoline)、エトポシド、エピルビシン、カペシタビン、ホリニン酸、ドキソルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、パクリタキセル、マイトマイシンC、ミトキサントロン、イリノテカン、ブレオマイシン、ペメトレキセド、トリフルリジン/チピラシル(TAS-102)、アントラサイクリン、トポイソメラーゼ2型阻害剤、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項13】
前記化学療法薬が、シスプラチン、ゲムシタビン、カルボプラチン、メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、オキサリプラチン、及びマイトマイシンC、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項12に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項14】
前記第一の処置相が、前記第二の処置相の少なくとも1週間前に開始される、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項15】
前記第一の処置相が、前記第二の処置相の少なくとも10日前に開始される、請求項14に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項16】
前記新生物疾患が、固形腫瘍及び/又は血液学的悪性腫瘍に関連する、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項17】
前記新生物疾患が、前立腺がん、肝臓がん、腎臓がん、肺がん、乳がん、大腸がん、膀胱がん、膵臓がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頸がん、卵巣がん、甲状腺がん、黒色腫、がん腫、頭頸部がん、皮膚がん、又は肉腫から選択されるがんに関連する、請求項16に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項18】
前記対象が、肺内の転移を伴う乳がんを有する、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のための生弱毒グラム陰性菌。
【請求項19】
対象における新生物疾患を予防又は処置する方法であって、
前記対象に、(i)第一の処置相において生弱毒グラム陰性菌を、(ii)第二の処置相において化学療法薬を投与することを含み、前記細菌又は前記化学療法薬の単独投与に比べて増大された治療有効性をもたらす、
方法。
【請求項20】
請求項1~18に定義されたとおりの使用のための細菌を含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療の分野に関する。詳細には本発明は、対象における新生物疾患の発達を予防、処置、又は阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん形成及び進行に関連する潜在的メカニズムの理解が改善されるにつれて、がん治療の分野は新たな治療と共に発展を続けている。しかし、がんの分野でなされた大きな進歩にもかかわらず、依然として化学療法はがん処置の頼みの綱である。
【0003】
化学療法とは、細胞障害性化学薬品を使用して体内で急速に成長する細胞を死滅させる薬物処置を包含するために用いられる用語である。がん細胞は体内の他のほとんどの細胞と比較して成長率及び増殖率が増大することから、これらの薬物はがん細胞を処置するために用いられることが最も多い。しかし、化学療法は、腫瘍中の不充分な薬物濃度、全身毒性の出現、及び薬物耐性の誘導など、重篤な有害作用及び他の数多くの欠点に関連し得る。したがって、生じた副作用を充分に制御しながら化学療法の有効性が維持又は改善され得る数多くの方法が、開発されてきた。
【0004】
例えば、そのような方法のひとつが、細菌と併用での化学療法薬の使用である。そのような併用は、マウスモデルにおいて化学療法処置の効果を有意に改善し得ることが示されている(非特許文献1)。しかし、この試験における細菌は、腫瘍に直接投与されており、つまり効果を有するために、腫瘍に接近させる必要があった。加えて、細菌と化学療法の併用の致死的毒性を克服するためには、細菌が化学療法処置の12日後に投与されるように投与レジメンを最適化する必要があることが、見出された。他の方法では、相乗効果が実現されるように、細菌、具体的にはサルモネラ・ティフィムリウムが化学療法薬と共投与され得ることが示されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、追加的処置と併用で化学療法を用いることへの移行にもかかわらず、現在観察される有効性のレベルには、未だ改善の余地がある。したがって、がんの分野では依然として、化学療法の有効性を増大させる方法が非常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/106754号
【特許文献2】国際公開第2010/079343号
【特許文献3】国際公開第2000/68261号
【特許文献4】国際公開第2019/110819号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jia et al., 2007, int. J. Cancer: 121, 666-674.
【非特許文献2】Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Sambrook et al., HaRBor Laboratory Press 2001).
【非特許文献3】Short Protocols in Molecular Biology, 4th Ed. (Ausubel et al. eds., John Wiley & Sons 1999).
【非特許文献4】Protein Methods (Bollag et al., John Wiley & Sons 1996).
【非特許文献5】Spiram et al., 2021, ScienceSignaling: 14:705.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、化学療法と併用で生弱毒グラム陰性菌を投与することにより、対象において転移を含む新生物疾患を処置及び/又は予防するための効果的な方法を提供する。そのような方法は、現行の化学療法レジメンの有効性を改善させること、及び化学療法の間/後の正常組織の損傷レベルを低減させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様において、化学療法薬で化学療法を受けている又は受ける予定である対象における新生物疾患の予防又は処置における使用のための生弱毒グラム陰性菌があり、生弱毒グラム陰性菌は、第一の処置相における投与用であり、化学療法薬は、第二の処置相における投与用である。
【0010】
本発明の第二の態様において、対象における新生物疾患を予防又は処置する方法があり、前記方法は、前記対象に、(i)第一の処置相において生弱毒グラム陰性菌を、(ii)第二の処置相において化学療法薬を投与することを含み、前記方法は、細菌又は化学療法薬の単独投与に比べて増大された治療有効性をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、化学療法に及ぼすサルモネラのコンディショニング効果の作用機序の図式を示す。
図2A図2Aは、経口投与されたサルモネラが全身骨髄細胞の長期にわたる表現型の有意な変化を誘導することを示す。グラフは、生存するCD11chigh、HLA-DR、CD11b+/-、PDCA-1従来型樹状細胞上のマーカーCD80、CD86及びPD-L1の蛍光強度中央値を示す。n=4又は5マウス/群。
図2B図2Bは、経口投与されたサルモネラが全身骨髄細胞の長期にわたる表現型の有意な変化を誘導することを示す。グラフは、生存するCD11c-/low、PDCA1、HLA-DR-/Int、CD11b形質細胞様樹状細胞上のマーカーCD80、CD86及びPD-L1の蛍光強度中央値を示す。n=4又は5マウス/群。
図2C図2Cは、経口投与されたサルモネラが全身骨髄細胞の長期にわたる表現型の有意な変化を誘導することを示す。グラフは、生存するCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80単球上のマーカーPD-L1、CD80及びHLA-DRの蛍光強度中央値を示す。n=4又は5マウス/群。
図2D図2Dは、経口投与されたサルモネラが全身骨髄細胞の長期にわたる表現型の有意な変化を誘導することを示す。グラフは、生存するCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80マクロファージ上のマーカーPD-L1、CD80及びHLA-DRの蛍光強度中央値を示す。n=4又は5マウス/群。
図3A図3Aは、サルモネラ誘導性表現型変化のタイムコースを示す。A)実験のタイムラインを詳述した実験図式。
図3B図3Bは、サルモネラ誘導性表現型変化のタイムコースを示す。B)グラフは、生存するCD11chigh、HLA-DR、CD11b+/-、PDCA-1従来型樹状細胞(cDC)及び生存するCD11c-/low、PDCA1、HLA-DR-/Int、CD11b形質細胞様樹状細胞(pDC)についてのPBS対照群平均に対するパーセンテージとしてのマーカーCD80及びCD86の蛍光強度中央値を示す。示されるのは、n=4~5マウス/群の平均である。
図3C図3Cは、サルモネラ誘導性表現型変化のタイムコースを示す。C)グラフは、生存するCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80単球及びCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80マクロファージについてのPBS対照群平均に対するパーセンテージとしてのマーカーCD80、PD-L1及びHLA-DRの蛍光強度中央値を示す。示されるのは、n=4~5マウス/群の平均である。
図4A図4Aは、サルモネラの経口投与が骨髄造血の増大をもたらすことを示す。A)グラフは、全骨髄細胞に対するLKS細胞と称されるcKit及びSca-1の両方を発現する細胞系譜陰性(lineage negative)(CD5、CD11b、B220、GR-1、Terr-119、Ly-6B.2)生存細胞の%を示す。n=4~5マウス/群。
図4B図4Bは、サルモネラの経口投与が骨髄造血の増大をもたらすことを示す。B)サルモネラで経口処置された動物の骨髄中の生存LKS細胞の増加を示した代表的なフローサイトメトリープロット。
図4C図4Cは、サルモネラの経口投与が骨髄造血の増大をもたらすことを示す。C)サルモネラ処置後14日目の全骨髄細胞に対する生存LKS細胞%が、スピアマンランク相関を用いて同じタイムポイントの%脾臓単球(生存するCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80細胞)と相関された。
図5図5は、経口投与されたサルモネラが少なくとも14日間継続する全身樹状細胞の過剰反応状態を誘導することを示す。単一試験でn=5マウス/群;バーは、平均+/-SEMであり;示された統計法は、マン・ホイットニー検定である。
図6図6は、病原体関連分子パターン(PAMP)及び危険関連分子パターン(DAMP)に関係する初代ヒト単球の過剰反応性を実証したインビトロデータを示し、該細胞は、培地のみ、サルモネラ・ティフィムリウム又はβ-グルカン(真菌/細菌部分)で予めコンディショニングされている。
図7A図7Aは、同系同所4T1マウス乳がんモデルにおけるサルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後のシクロホスファミドの全身投与のタイムラインの図式的実証を示す。
図7B図7Bは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、シクロホスファミド、又はその両方で処置された4T1腫瘍担持マウスの原発腫瘍体積(mm3)を示す(n=5マウス/群)。雌BALB/cマウスが、サルモネラMD58又はPBS対照で経口的に前処置された。0日目に、マウスが、4T1-Luc2-1A4腫瘍細胞を乳腺脂肪体に接種された。原発腫瘍体積が、週あたり3回で52日間測定された。統計比較は、混合効果モデル及びシダック多重比較検定を用いたMD58+シクロホスファミド vs. PBS+シクロホスファミドである(有意性の度合いは示されない)。
図7C図7Cは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、シクロホスファミド、又はその両方で処置された4T1腫瘍担持マウスの自然発生的肺転移を示す(n=10マウス/群)。雌BALB/cマウスが、図7A及びBと同様に処置された。肺腫瘍量が、腫瘍接種後31日目にバイオルミネッセンスイメージング(BLI)により測定された。統計比較は、選択された比較のみのための個別のマン・ホイットニー検定である。
図7D図7Dは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、シクロホスファミド、又はその両方で処置された4T1腫瘍担持マウスのパーセント生存率を示す(n=15マウス/群)。雌BALB/cマウスが、図7A~Cと同様に処置された。生存率が、52日間にわたりモニタリングされた。両方のシクロホスファミド処置群が、PBS+生理食塩水対照より有意に良好な生存率を有したが、PBS+シクロホスファミド群とMD58+シクロホスファミド群の間に、統計学的差はなかった。統計法は、ログランク(マンテル・コックス)検定である。
図8A図8Aは、サルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後の、4T1マウス乳がん細胞の静脈内投与、及びその後の全身シクロホスファミドのタイムラインの図式的実証を示す。
図8B図8Bは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、シクロホスファミド、又はその両方で処置された4T1腫瘍担持マウスの実験的肺転移を示す(n=10マウス/群)。雌BALB/cマウスが、図8Aと同様に処置された。肺腫瘍量が、腫瘍接種後5日目及び12日目にバイオルミネッセンスイメージング(BLI)により測定された。各バーは、群の中央値を表す。統計比較は、選択された比較のみのための個別のマン・ホイットニー検定である。
図8C図8Cは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、シクロホスファミド、又はその両方で処置された4T1乳がん細胞の実験的転移を担持したマウスの生存率パーセンテージを示す(n=15マウス/群)。雌BALB/cマウスが、図8A及びBと同様に処置された。生存率が、25日間にわたりモニタリングされた。示された統計比較は、ログランク(マンテル・コックス)検定のみによる示された群 vs.PBS+シクロホスファミドである。
図9A図9Aは、サルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後の、4T1マウス乳がん細胞の静脈内投与、及びその後の腹腔内ゲムシタビンのタイムラインの図式的実証を示す。
図9B図9Bは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、ゲムシタビン、又はその両方で処置された4T1腫瘍担持マウスの実験的肺転移を示す(n=10マウス/群)。雌BALB/cマウスが、図9Aと同様に処置された。肺腫瘍量が、腫瘍接種後6日目にバイオルミネッセンスイメージング(BLI)により測定された。各バーは、群の中央値を表す。統計比較は、選択された比較のみのための個別のマン・ホイットニー検定である。
図10A図10Aは、サルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後のLL/2-Luc-M38マウス肺がん細胞の静脈内投与、及びその後の全身シクロホスファミドのタイムラインの図式的実証を示す。
図10B図10Bは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、シクロホスファミド、又はその両方で処置されたLL/2-luc腫瘍担持マウスの実験的肺転移を示す(n=10マウス/群)。雌アルビノC57BL/6マウスが、図10Aと同様に処置された。肺腫瘍量が、腫瘍接種後10日目にバイオルミネッセンスイメージング(BLI)により測定された。各バーは、群の中央値を表す。統計比較は、選択された比較のみのための個別のマン・ホイットニー検定である(n.s.)。
図11A図11Aは、サルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後の、4T1マウス乳がん細胞の静脈内投与、及びその後のドキソルビシンの全身投与のタイムラインの図式的実証を示す。
図11B図11Bは、サルモネラ・ティフィムリウムMD58、ドキソルビシン、又はその両方で処置された4T1腫瘍担持マウスの実験的肺転移を示す(n=10マウス/群)。雌BALB/cマウスが、図11Aと同様に処置された。肺腫瘍量が、腫瘍接種後6日目にバイオルミネッセンスイメージング(BLI)により測定された。各バーは、群の中央値を表す。統計比較は、選択された比較のみのための個別のマン・ホイットニー検定である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明が、より即座に理解され得るように、特定の用語が、最初に定義される。追加の定義は、詳細な記載全体で説明される。
【0013】
本明細書で用いられる、本発明の文脈における用語「弱毒」は、微生物の生存可能性を維持しながら病原性を低減して微生物を宿主にとって無害にする、微生物の改変をいう。この方法は、許容できる安全性プロファイルを維持しながら高特異性免疫反応を誘起する能力のためにワクチンの開発に通例、用いられる。そのような弱毒微生物の開発は、複数の方法を含んでもよく、例として、毒性が消失するまでインビトロ条件下で病原体を継代すること、化学的変異誘発、及び例えば不活性化変異又は弱毒化変異による、遺伝子操作技術が挙げられるが、これらに限定されない。用語「不活性化変異」及び「弱毒化変異」は、互換的に用いられ、特別な遺伝子が、適切に転写若しくは翻訳されず、又は非活性タンパク質中に発現されて、遺伝子の天然機能が測定可能でない程度に排除又は低減されるように、ヌクレオチドコードを変化させること、又はヌクレオチドの区分を欠失すること、又は非コード化ヌクレオチド若しくは非天然ヌクレオチドを付加すること、による改変など、特別な遺伝子の天然の遺伝子コード又はその遺伝子に関連する遺伝子プロモーターの改変をいう。こうして遺伝子の変異は、遺伝子の機能、又はその遺伝子がコードするタ
ンパク質の機能を不活性化する。
【0014】
「非天然の細菌又は複数の細菌」とは、天然由来細胞に関して改変されるように遺伝子改変又は「操作」された細菌(原核)細胞を意味する。そのような遺伝子改変は、例えば、細胞内への追加の遺伝子情報の組込み、既存の遺伝子情報の改変、又は実際には既存の遺伝子情報の欠失でもよい。これは、例えば細胞内への組換えプラスミドのトランスフェクション又は細菌ゲノムへの直接の改変を利用して、実現されてもよい。
【0015】
本明細書で用いられる用語「化学療法」、「化学療法の」、及び「化学療法薬」は、互換的に用いられ、がんの予防及び/又は処置で用いられる抗がん剤をいう。具体的にはそれは、がん細胞の成長及び分裂を予防する抗がん化学薬品をいう。化学療法薬としては、アルキル化剤、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、代謝抑制剤及び/若しくはトポイソメラーゼ阻害剤、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは化学療法薬は、シスプラチン、ゲムシタビン、カルボプラチン、メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されてもよい。
【0016】
本明細書で用いられる用語「第一の処置相」及び「第二の処置相」は、第一の処置相と第二の処置相の間に、患者/対象が本明細書に開示されたグラム陰性菌又は本明細書に開示された化学療法を受けていない間隙が存在するように、第一の処置相と第二の処置相が時間的に隔てられている処置の経過をいう。言い換えれば、グラム陰性菌が、化学療法の前に処置される対象に与えられる。好ましい実施形態において、第一の処置相が、第二の処置相の少なくとも1週間前に開始される。第一の処置相は、第二の処置相の少なくとも2週間前、少なくとも3週間前、少なくとも4週間前に開始されてもよい。より好ましくは、第一の処置相は、第二の処置相の少なくとも10日前に開始される。第二の処置相の前に対象において全身免疫反応を充分な時間、生じさせるように、第一の処置相が施されてもよい。
【0017】
本明細書で用いられる用語「異種ポリヌクレオチド」は、グラム陰性菌に導入されたポリヌクレオチド、即ち、それまでに存在していないポリヌクレオチドの導入をいう。該ポリヌクレオチドは、細菌にとって外因性でもよく、そのためこれらの用語は、当該技術分野での通常の意味を有する。内因性ポリヌクレオチドの場合、これは、前記1種又は複数の内因性ポリヌクレオチドの追加的なコピー又は複数のコピーを異種的な手法で導入することを含んでもよい。内因性ポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドは、前記ポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドの優勢なバリアントを宿主細菌に導入することを含んでもよく、ここで「優勢な」は、天然由来の内因性同等物を機能的に上回る異種ポリヌクレオチドの能力をいう。本発明の文脈における異種ポリヌクレオチドは、対象における送達、即ち、輸送及び分泌を予定された標的ポリヌクレオチドをコードしてもよい。得られたポリヌクレオチドは、本明細書において「カーゴ」又は「カーゴ分子」とも称される。したがって、本明細書に開示されたグラム陰性菌は、本明細書で開示された影響に加え、所望なら選択されたカーゴのための「送達ビヒクル」又は「担体」として働いてもよい。当業者は、送達されるカーゴが処置されるがんの型及び重症度をはじめとする複数の因子に依存することを、即座に理解するであろう。好ましくは異種ポリヌクレオチドは、治療タンパク質、例えばサイトカイン及び/又はケモカインをコードする。より好ましくは異種ポリヌクレオチドは、IL-15、IL-21、IFNα、CXCL9、CXCL10、IL-18、IL-27、又はそれらの任意の組み合わせをコードする。
【0018】
用語「腫瘍」、「がん」及び「新生物」は、互換的に用いられ、成長、増殖又は生存が正常な同等細胞の成長、増殖又は生存より大きな細胞又は細胞集団、例えば、細胞増殖性又は分化性障害をいう。典型的には成長は、制御されない。用語「悪性疾患」は、隣接す
る組織の侵襲をいう。用語「転移」は、対象の体内の他の部位、場所又は領域への腫瘍、がん又は新生物の伝播又は拡散をいい、該部位、場所又は領域は、原発腫瘍又はがんとはっきりと異なる。
【0019】
用語「有効量」又は「医薬有効量」は、所望の生物学的又は治療的結果を提供する薬剤の充分量をいう。その結果は、疾患の徴候、症状若しくは原因の1つ若しくは複数の低減、好転、軽快、低下、遅延、及び/若しくは軽減、又は生体系の任意の他の所望の改変であり得る。がんに関連して、有効量は、腫瘍を縮小させるのに、及び/又は腫瘍の成長速度を低下させるのに(腫瘍の成長を抑制するためなど)、又は他の不適切な細胞増殖を予防若しくは遅延させるのに充分な量を含んでもよい。幾つかの実施形態において、有効量は、発達を遅延させるのに、又は生存を延長するのに、又はがん若しくは腫瘍の安定化を誘導するのに充分な量である。
【0020】
幾つかの実施形態において、治療有効量は、再発を予防又は遅延させるのに充分な量である。治療有効量は、1回又は数回の投与で投与され得る。薬物又は併用の治療有効量は、以下の1つ又は複数をもたらし得る:(i)がん細胞の数を低減する;(ii)腫瘍サイズを低減する;(iii)周辺臓器へのがん細胞浸潤をある程度、阻害する、遅らせる、緩徐化する、好ましくは停止させる;(iv)腫瘍転移を阻害する(即ち、ある程度、緩徐化する、好ましくは停止させる);(v)腫瘍の成長を阻害する;(vi)腫瘍の出現及び/若しくは再発を予防若しくは遅延させる;並びに/又は(vii)がんに関連する症状の1つ若しくは複数をある程度、緩和する。
【0021】
例えば腫瘍の処置では、「治療有効投与量」は、腫瘍の縮小を、少なくとも約10%、又は約20%、又は約60%以上など、基底値測定に比べて少なくとも約5%誘導し得る。基底値測定は、非処置対象から得られてもよい。
【0022】
治療化合物の治療有効量は、対象の腫瘍サイズを減少させ得る、又は他の方法で症状を好転させ得る。当業者は、対象のサイズ、対象の症状の重症度、及び選択された特有の組成物又は投与経路のような因子に基づいてそのような量を決定することができよう。
【0023】
本発明の文脈における用語「免疫反応」は、がん性細胞の選択的損傷、破壊、又はヒトの身体からの排出をもたらす、例えば、リンパ球、抗原提示細胞、貪食細胞、顆粒球、及び上記細胞又は肝臓により産生された可溶性高分子(抗体、サイトカイン、及び補体など)の、作用をいう。好ましくは、本明細書に開示されたグラム陰性菌により発生された免疫反応は、全身性である。本明細書で用いられる用語「全身性」及び「全身を活性化させる」は、互換的に用いられ、本発明の文脈において、局所の空間的に制限された反応と対照的に対象の身体全体に及ぶ広範囲の免疫反応をいう。好ましくは全身免疫反応は、骨髄細胞、例えば樹状細胞、単球、及び/又はマクロファージの活性化及び/又は成熟を含み、本発明の文脈において、対象が、がん治療、例えば化学療法に対してより応答性になるように、対象の免疫系の「コンディショニング」を支援すると考えられる。したがってグラム陰性菌は、化学療法を投与する前に対象の免疫反応を「プライミングする」、「ブーストする」、「増幅する」、「増大する」、「改善する」、「増進する」、「予備活性化する」又は「促進する」ように作用し得る。前述の用語は、用語「コンディショニングされた」と互換的に用いられる。
【0024】
用語「処置」又は「治療」は、状態(例えば、疾患)、状態の症状を治癒する、癒す、軽減する、緩和する、改変する、救済する、好転させる、改善する、若しくは影響を及ぼすこと、又は疾患の症状、合併症、生化学的指標の開始を予防若しくは遅延させること、又は他の方法で疾患、状態、若しくは障害のさらなる発達を統計学的に有意な手法で停止若しくは阻害すること、を目的として活性剤を投与することをいう。
【0025】
本明細書で用いられる用語「対象」は、ヒト及び非ヒト動物を包含するものとする。好ましい対象としては、任意の所与の化学療法の有効性を増大する必要があるヒト患者が挙げられる。該方法は、免疫反応を増進することにより処置され得る障害を有するヒト患者を処置するのに特に適する。特別な実施形態において、該方法は、インビボでのがんの処置に特に適する。
【0026】
代替案(例えば、「又は」)の使用が代替案のどちらか一方、両方、又はそれらの任意の組み合わせを意味することが、理解されなければならない。本明細書で用いられる不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」が任意の列挙された、又は並べられた構成要素の「1つ又は複数」をいうことが、理解されなければならない。
【0027】
本明細書で用いられる「約」は、当業者により決定される特有の値に許容できる誤差範囲内を意味し、その値は、どのようにして測定又は決定されるか、即ち、測定系の限界に一部、依存するであろう。例えば「約」は、当該技術分野の実践あたり1以内又は1を超える標準偏差を意味し得る。或いは「約」は、20%以下の範囲を意味し得る。
【0028】
特有の値が、本出願及び特許請求の範囲で提供される場合、他に断りがなければ、「約」の意味は、特有の値に許容できる誤差範囲内であると推定されなければならない。
【0029】
本明細書で用いられる用語「組換え体」及び「組換え株(複数可)」は、互換的に用いられ、本発明の文脈において、細菌DNAが新しいDNAの導入により改変されるように遺伝子操作を受けたグラム陰性菌株をいう。組換えDNA法は通例、ベクター、例えばプラスミドを介した新しいDNAの導入を含む。そのような方法は、当業者に周知である。細菌の組換え株の使用は、長期の活性、より強い免疫反応を対象の体内で誘起すること、又は所望の分子の導入などの有利な特性を菌株に付与してもよい。
【0030】
本明細書で用いられる用語「非組換え体」及び「非組換え株(複数可)」は、互換的に用いられ、本発明の文脈において、これらの株が真核生物の遺伝子又は遺伝子断片を含有しない、という事実をいう。そのため本明細書で開示される非組換え株は、治療分子を対象/患者に送達することを目的とする「担体株」として働かない。したがって、本明細書に開示された非組換え株は、真核生物異種DNA、又は治療分子をコードする真核生物異種DNA、又は抗原になることを予定されたタンパク質若しくはその断片をコードする真核生物DNAをコードしない。
【0031】
それゆえ、本発明の任意の一実施形態において、グラム陰性菌は、非組換え体でもよく、治療分子の送達又は治療分子をコードするDNAの送達を目的とする「担体」株として働かない。
【0032】
本発明は、化学療法薬の有効性が増大され、こうして様々な用量の化学療法で対象におけるがん転帰を改善することが可能である効果的で安全な方法を提供する。そのため、本明細書に開示される方法はまた、改善された有効性により化学療法の副作用が最小限に抑えられ、こうして対象ががん処置を受けることが必要になり得る時間の長さを低減する方法を提供してもよい。
【0033】
したがって第一の態様において、化学療法薬で化学療法を受けている又は受ける予定である対象における新生物疾患の予防又は処置における使用のための生弱毒グラム陰性菌があり、生弱毒グラム陰性菌は、第一の処置相における投与用であり、化学療法薬は、第二の処置相における投与用である。
【0034】
化学療法薬は、がん性細胞の破壊を可能にするために、意図的に細胞障害性である。がん性細胞が破壊される工程の間、組織ダメージ関連化合物(DAMP)が、免疫原性細胞死と呼ばれる工程で放出される。DAMPの例としては、ヒートショックプロテイン及びHMGB1が挙げられる。免疫原性細胞死は、定義された時系列で起こる、細胞表面の組成変化及び可溶性媒体の放出を含む。そのようなシグナルは、がんに対する免疫系の活性化を援助することが知られている。
【0035】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、化学療法の投与前のグラム陰性菌の投与が対象の免疫系の骨髄細胞の有意な変化をもたらし、こうして化学療法後に放出される組織ダメージ関連化合物への高レベルの骨髄細胞応答性を誘導することを見出した。その結果、増大された抗腫瘍効果が、生成される。したがって生弱毒グラム陰性菌は、全身免疫反応をもたらし、続いて化学療法処置後に新生物疾患に対してより効果的な自然免疫反応及び効果的な適応免疫反応を組み込むことを可能にする対象の免疫系の能力をもたらす、対象の免疫系の「コンディショニング」剤と見なされる。
【0036】
生弱毒グラム陰性菌は、全身免疫反応を誘起するために投与されることになり、それゆえ好ましい投与経路は、経口、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内である。
【0037】
生弱毒グラム陰性菌は、好ましくは経口送達用に配合されてもよい。これらの送達経路に適した配合物は、当業者に自明であろう。好ましくは生弱毒グラム陰性菌は、液体凍結配合剤であるか、又はフリーズドライなどの工程で凍結乾燥されて適宜、貯蔵される。或いは生弱毒グラム陰性菌は、腸溶性コーティングされたカプセルに分配されてもよい。カプセル化された配合物が、用いられる場合、凍結乾燥された細菌が、カプセルから小腸に放出された場合に生存率を増大するようにコレスチラミンなどの胆汁吸着樹脂と混合されもよい(更なる詳細については、特許文献2参照)。細菌の特有の配合は、種々の因子、例えば標的患者集団、即ち、若齢の小児、青年又は成人に応じて変動してもよい。生弱毒グラム陰性菌は、任意の他の適切なアジュバント、希釈剤又は賦形剤を含む組成物中に配合されてもよい。適切なアジュバント、希釈剤又は賦形剤としては、リン酸水素二ナトリウム、大豆ペプトン、リン酸二水素カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、スクロース、滅菌生理食塩水、及び滅菌水が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
生弱毒グラム陰性菌の経口投与は、他の投与経路を上回る数多くの利点を有する。第一に経口投与は、患者のコンプライアンスを改善及び維持する際の重要な因子である非侵襲性の投与方法である。これは、侵襲的で、かつ不快な手順の可能性が最も高い手順を定期的に受けるがん対象において、特に当てはまる。第二に、本明細書に開示された生弱毒グラム陰性菌の経口投与は、生弱毒グラム陰性菌の腫瘍内送達を必要とせずに、化学療法の改善された有効性の有利な効果を提供する。したがって本発明の有用性は、例えば腫瘍が到達しにくい場所にある場合、処置される腫瘍の位置により限定されない。
【0039】
対象において必要とされる免疫反応を生じることが可能な任意の生弱毒グラム陰性菌が本発明で用いられ得ることが、予期される。本発明における使用のためのグラム陰性菌の例としては、大腸菌、サルモネラ、シゲラ、シュードモナス、モラクセラ、ヘリコバクター、ステノトロフォモナス、ブデロビブリオ、レジオネラ、クラミジア、及びエルシニア、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。グラム陰性菌は、グラム陰性菌がクリスタルバイオレット色素を保持しないグラムの分染技術を介して、即座に同定され得て、グラム陽性菌から分別され得る。
【0040】
好ましくは本発明の生弱毒グラム陰性菌は、サルモネラ属菌でもよい。本発明における使用のためのサルモネラ属菌の例は、サルモネラ・エンテリカ及びサルモネラ・ボンゴリ
である。サルモネラ・エンテリカは、セロタイプ又は血清型にさらに細分され得る。本発明における使用のための前記セロタイプ又は血清型の例は、サルモネラ・エンテリカ・ティフィ、サルモネラ・エンテリカ・パラティフィA、サルモネラ・エンテリカ・パラティフィB、サルモネラ・エンテリカ・パラティフィC、サルモネラ・エンテリカ・ティフィムリウム、及びサルモネラ・エンテリカ・エンテリティディス、又はそれらの任意の組み合わせである。好ましい実施形態において、生弱毒グラム陰性菌は、サルモネラ・エンテリカ血清型ティフィ及び/又はサルモネラ・エンテリカ・ティフィムリウムでもよい。最も好ましい実施形態において、生弱毒グラム陰性菌は、サルモネラ・エンテリカ血清型ティフィである。
【0041】
本発明の生弱毒グラム陰性菌は、遺伝子改変された非天然細菌を含んでもよい。当業者に理解されるとおり、遺伝子は、該当する遺伝子を標的とする組換えプラスミドでの相同組換えなど、当該技術分野で周知の複数の方法により変異されてもよく、その場合、標的遺伝子と相同性のある操作された遺伝子が、適切な核酸ベクター(プラスミド又はバクテリオファージなど)に組み込まれ、標的細胞にトランスフェクトされる。その相同性のある操作された遺伝子はその後、天然遺伝子を交換又は変異して所望の不活性化変異を実現するために、天然遺伝子で組み換えられる。そのような改変は、プロモーター領域などの遺伝子のコード部分又は任意の調節部分の中に存在してもよい。当業者に理解されるとおり、CRISPR/Casシステム、例えばCRISPR/Cas9などの任意の適切な遺伝子改変技術が、該当する遺伝子を変異するために用いられてもよい。
【0042】
こうして菌株を遺伝子操作するための数多くの方法及び技術が、当業者に周知であろう。これらの技術は、染色体組込みを介して、又は安定した常染色体自己複製遺伝子エレメントの導入を介して、異種遺伝子を細菌に導入するのに必要となるものを包含する。細菌細胞を遺伝子改変する(「トランスフォーミング」又は「操作」とも称される)ための例示的方法としては、バクテリオファージ感染、形質導入、コンジュゲーション、リポフェクション、又は電気穿孔が挙げられる。分子及び細胞生化学におけるこれら及び他の方法への一般的議論は、参照により本明細書に援用される、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3のような標準の教書に見出され得る。
【0043】
したがって生弱毒グラム陰性菌は、変化、例えば変異、付加、又は欠失を導入するために、例えば遺伝子操作を介して、又は化学的変異誘発を介して、幾つかの形態で改変された遺伝子構造を有してもよい。生弱毒グラム陰性菌がポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドをさらに含み得る、又は含み得ない組換え菌株であるように、生弱毒グラム陰性菌が、遺伝子改変されてもよい。前記ポリペプチドは、それ自体が治療分子でも、又はグラム陰性菌の効果を支援/増強するための分子でもよい。或いは生弱毒グラム陰性菌は、細菌の非組換え株でもよい。
【0044】
本発明に従って対象の全身免疫反応を誘導することが可能な任意の生弱毒グラム陰性菌が用いられ得ることが、予期される。好ましい実施形態において、任意の弱毒非病原性サルモネラ・エンテリカ血清型ティフィ又はティフィムリウム株が、用いられてもよい。更なる好ましい実施形態において、生弱毒グラム陰性菌は、Ty21a、CVD 908-htrA、CVD 909、Ty800、M01ZH09(「ZH9」と互換的に用いられる)、ZH9PA、x9633、x639、x9640、x8444、DTY88、MD58、WT05、ZH26、SL7838、SL7207、VNP20009、A1-R、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されてもよい。好ましい実施形態において、生弱毒菌は、M01ZH09又はMD58である。
【0045】
したがって、生弱毒グラム陰性菌が、遺伝子改変された非天然細菌である場合、前記遺伝子改変された非天然細菌がサルモネラ属菌に由来することが、好ましい。前記サルモネ
ラ属菌がサルモネラ病原性島2(SPI-2)遺伝子における弱毒化変異、及び/又は第二の遺伝子における弱毒化変異を含み得ることが、さらに好ましい。好ましくは遺伝子改変された非天然細菌は、サルモネラ属菌に由来し、SPI-2遺伝子における弱毒化変異及び第二の遺伝子における弱毒化変異の両方を含む。そのような生弱毒サルモネラ属微生物の適切な遺伝子及び詳細は、全体として参照により本明細書に組み入れられる特許文献3に記載されたとおりである。
【0046】
SPI-2遺伝子は、ssa遺伝子でもよい。例えば本発明は、ssaV、ssaJ、ssaU、ssaK、ssaL、ssaM、ssaO、ssaP、ssaQ、ssaR、ssaS、ssaT、ssaD、ssaE、ssaG、ssaI、ssaC及びssaHのうちの1つ又は複数において弱毒化変異を含む。好ましくは弱毒化変異は、ssaV又はssaJ遺伝子の中にある。より好ましくは弱毒化変異は、ssaV遺伝子の中にある。
【0047】
遺伝子操作されたサルモネラ属微生物はまた、SPI-2領域の中に存在し得る、又は存在し得ない第二の遺伝子内の弱毒化変異を含んでもよい。変異は、SPI-2領域の外側でもよく、芳香族化合物の生合成に関与してもよい。例えば本発明は、aro遺伝子の中に弱毒化変異を含んでもよい。好ましい実施形態において、aro遺伝子は、aroA又はaroCである。より好ましくはaro遺伝子は、aroCである。
【0048】
遺伝子操作されたサルモネラ属微生物が、二重の弱毒化変異を含む場合、両方の変異が、SPI-2遺伝子の中にあってもよい、又は両方の変異が、SPI-2領域内にあり得る、若しくはあり得ない第二の遺伝子の中にあってもよい。好ましくは、遺伝子操作されたサルモネラ属微生物は、ssaV遺伝子及びaro遺伝子内に弱毒化変異を含み、より好ましくはaro遺伝子は、aroCである。
【0049】
さらに別の実施形態において、遺伝子操作された微生物は、サルモネラ属微生物に由来してもよく、pltA、pltB、cdtB及びttsAから選択される1つ又は複数の遺伝子内に不活性化変異を含んでもよく、さらにaroA及び/又はaroC及び/又はssaVから選択される1つ又は複数の遺伝子内に弱毒化変異を含む。好ましくは弱毒化変異は、aroC及びssaV内にある。前記遺伝子及び変異の詳細は、全体として参照により本明細書に援用される特許文献4に記載されたとおりである。
【0050】
本明細書に開示された生弱毒グラム陰性菌は、標的タンパク質又はペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドを含んでもよい。異種ポリヌクレオチドは、それ自体が抗がん特性を有する標的タンパク質若しくはポリペプチドをコードしてもよく、並びに/又は異種ポリヌクレオチドが、生弱毒グラム陰性菌及び/若しくは化学療法の特性を支援及び/若しくは増強するタンパク質若しくはペプチドをコードしてもよい。好ましくは標的タンパク質又はペプチドは、サイトカイン及び/又はケモカインである。より好ましくは標的タンパク質又はペプチドは、IL-15、IL-21、IFNα、CXCL9、CXCL10、IL-18、IL-27、又はそれらの任意の組み合わせを含むリストから選択される。異種ポリヌクレオチドがコードする特異的な標的タンパク質又はペプチドが、非限定的にがんの型、がんの重症度及び患者の人口統計学的属性をはじめとする様々な因子に依存することを、当業者は即座に理解するであろう。
【0051】
本発明の化学療法薬は、がん細胞が成長及び分裂するのを予防する任意の化学療法薬でもよい。化学療法薬としては、アルキル化剤、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、代謝抑制剤及び/若しくはトポイソメラーゼ阻害剤、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
アルキル化剤は、アルキル基をDNAヌクレオチドに付着させて、DNA鎖の架橋、異常な塩基対合又はDNA鎖切断を引き起こしてDNA複製を予防することにより作用する。アルキル化剤の例としては、アルトレタミン、ベンダムスチン、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、イホスファミド、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、オキサリプラチン、テモゾロミド、チオテパ、及びトラベクテジンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
植物アルカロイドは、DNAトポイソメラーゼを妨害してDNA複製を阻害することにより作用する。植物アルカロイドはまた、細胞周期の中期で微小管タンパク質に結合し、それにより有糸分裂停止及び細胞死を引き起こし得る。植物アルカロイドの例としては、アクチノマイシンD、ドキソルビシン、及びマイトマイシンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
抗腫瘍性抗生物質(抗新生物性抗生物質とも称される)は通例、ストレプトマイセス菌に由来し、固形及び血液腫瘍の両方に対してブロードスペクトラム型の抗腫瘍効果を有する。抗腫瘍性抗生物質のメカニズムとしては、フリーラジカルによるDNA損傷、トポイソメラーゼII阻害、DNAインターカレーション、イオン輸送の改変、細胞膜流動性及びDNA結合の改変が挙げられる。抗腫瘍性抗生物質の例としては、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、及びアントラサイクリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
代謝抑制剤は、DNA及びRNA合成の間に必要とされるヌクレオチド塩基を模倣し、こうして細胞増殖のためのメカニズムを妨害して細胞死に導くことにより作用する。代謝抑制剤は、主に腫瘍細胞などの急速に分裂する細胞において効力を発する。代謝抑制剤の例としては、フルダラビン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、シタラビン、ペメトレキセドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
トポイソメラーゼ阻害剤は、DNA複製を予防すること、DNA損傷を刺激すること、及び細胞周期停止を誘導すること、により細胞増殖を阻害する。トポイソメラーゼには2種の大別:I型トポイソメラーゼ及びII型トポイソメラーゼがある。これらの酵素は、細胞分裂及びDNA形成において重要な役割を計画する。
【0057】
例えばトポイソメラーゼは、DNA鎖の切断を媒介してDNAスーパーコイルを緩め、DNA複製を可能にする。トポイソメラーゼ阻害剤の例としては、イリノテカン、トポテカン、エトポシド、及びテニポシドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
好ましくは化学療法薬は、シクロホスファミド、ゲムシタビン、メトトレキサート、ビノレルビン、ドセタキセル、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン、ムスチン、ビンクリスチン(viscristine)、プロカルバジン、プレドニゾロン(prednisoline)、エトポシド、エピルビシン、カペシタビン、ホリニン酸、ドキソルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、マイトマイシンC、ミトキサントロン、イリノテカン、ブレオマイシン、ペメトレキセド、トリフルリジン/チピラシル(TAS-102)、アントラサイクリン、トポイソメラーゼII型阻害剤、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。より好ましくは、化学療法薬は、シクロホスファミド、ゲムシタビン、シスプラチン、カルボプラチン、メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、オキサリプラチン及びマイトマイシンC、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。生弱毒グラム陰性菌及び化学療法を受けている対象が本明細書に記載された処置の有効性を増強するために他の治療又は医学的介入を受けていてもよいことを、当業者は即座に理解するであろう。
【0059】
化学療法薬は、種々の用量で投与されてもよい。例えば化学療法薬は、最大有効用量で投与されてもよい。最大有効用量は、化学療法薬が有効であり忍容性のある副作用を有する最高用量である。したがって、最大有効用量が使用される化学療法薬及び具体的対象に特異性があることが、理解される。したがって、薬剤そのものの最大有効用量が、達成されている場合でも、本発明は、化学療法薬の有効性を増大させることができる。加えて一部の例では、対象は、化学療法薬の有効性の改善から、少ないサイクルの化学療法が必要とされ、こうして対象が化学療法薬による有害な副作用に見舞われる機会を低減する程度まで利益を得ることができる。
【0060】
他の実施形態において、化学療法薬は、最大有効用量より低い用量、即ち、「最大以下の(sub-maximal)用量」で対象に投与されてもよく、その有効性は、本明細書に記載されたとおり、生弱毒化グラム陰性菌の投与を介して増大される。理論に結び付けるわけではないが、最大以下の用量での化学療法薬の投与は、本明細書に記載されたグラム陰性菌と併用で用いられた場合に、グラム陰性菌を殺傷せずにがん細胞を損傷するような用量により、特に有効な処置をもたらすことが予期される(非特許文献5)。サルモネラでコンディショニングされた免疫系の存在下でがん細胞を損傷すると、コンディショニングされた抗原提示細胞によりサルモネラコンディショニングで誘導された損傷がん細胞取込みの増加により抗原提示を増大することが、予期される。そのような変化は、より大きな程度、規模及び期間の特異的な適応抗がん免疫反応をもたらすと予測される。したがってこれらの例において、化学療法に誘導された毒性が、処置レジメンの開始から、最小限に抑えられるか又は少なくとも低減されながら、選択された化学療法の所望の有効性を生じることができる。
【0061】
本発明の生弱毒グラム陰性菌及び化学療法は、明確な時間的レジメンの中で防護的又は治癒的がん処置を必要とする対象に投与される。即ち、グラム陰性菌は、第一の処置相で投与され、化学療法は、第二の処置相で投与され、即ち、グラム陰性菌は、化学療法の前に患者又は対象に投与され、そのため処置される対象の免疫系は、先に記載されたとおり、生弱毒グラム陰性菌に応答してコンディショニングされるのに必要な時間を有する。本明細書に記載された本発明はそのため、致死的毒性を回避するために化学療法の投与の12日後に細菌が投与されなければならないことを見出した非特許文献1の開示と全く対照的である。それゆえ、本明細書に記載された有効な結果と組み合わせた処置レジメンの良好な安全性プロファイルが、本発明の驚くべき知見である。
【0062】
本発明は、生弱毒グラム陰性菌が第一の処置相で対象に投与されること、及び化学療法薬が第二の処置相で対象に投与されること、を開示する。好ましい実施形態において、第一の処置相は、第二の処置相の少なくとも1週間前に開始される。より好ましくは第一の処置相は、第二の処置相の少なくとも10日前に開始される。例えば第一の処置相は、第二の処置相、即ち化学療法薬の投与の開始の7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、1か月、2か月、又は3か月前に開始されてもよい。処置相のそれぞれが、グラム陰性菌又は化学療法薬のどちらかの反復投与を含んでもよい。好ましい実施形態において、生弱毒グラム陰性菌は、化学療法サイクルの前に投与され、処置される対象により必要とされる限り、将来の追加的化学療法サイクルの前に、グラム陰性菌の投与を反復する可能性がある。用語「第一の処置相」及び「第二の処置相」が単一「サイクル」の本明細書に開示された予防的/治癒的処置をいうこと、並びに多数のサイクルの前記予防的/治癒的処置が該当する対象の要件に応じて可能であることが、さらに理解される。
【0063】
本発明は、化学療法と併用で用いられる場合に、新生物疾患、及び/又は新生物疾患に関連する第二の疾患の予防及び/又は処置に用いられ得る生弱毒グラム陰性菌を提供する
。一実施形態において、新生物疾患は、固形がん及び/又は血液学的悪性腫瘍でもよい。新生物、腫瘍及びがんは、良性、悪性、転移型、及び非転移型を包含し、任意のステージ(I、II、III、IV、又はV)又はグレード(G1、G2、G3など)の新生物、腫瘍若しくはがん、又は進行、悪化、安定化若しくは寛解している新生物、腫瘍、がん若しくは転移物を包含する。
【0064】
化学療法薬で化学療法を受けている、又は受ける予定がある対象における新生物疾患の予防又は処置における使用のための生弱毒グラム陰性菌が原発腫瘍の転移を低減することが、予期される。特に防護的な、化学療法薬と併用されるサルモネラ処置が、肺への転移を低減する。
【0065】
転移がんは、対象の体内の本来の原発部位から続発部位へ伝播したがんである。新たに形成された続発的病理部位は、転移と称される。転移の工程は、侵襲、血管内侵入、循環、血管外漏出、及びコロニゼーションの5段階を含む。
【0066】
腫瘍細胞は、上皮間葉転換の分化転換工程を受け得て、そこで腫瘍細胞が、隣接組織に透過及び侵襲する能力を開発し得る。基底膜及び細胞外マトリックス(原発部位の)を通過し得るそのような腫瘍細胞は、リンパ又は血管循環に浸潤し得る(血管内侵入)。腫瘍細胞は、一旦、循環に入ると、血管基底膜及び細胞外マトリックスが続発部位で侵襲される血管外漏出の工程に進み得て、細胞が続発部位に付着してコロニゼーションし得る。腫瘍細胞は、脈管構造を通した転移に加えて、原発部位を取り囲む隣接組織に直接、侵襲し得る。
【0067】
共通する転移部位としては、肺、リンパ節、肝臓及び骨が挙げられる。特定の型のがんもまた、幾つかの共通する転移部位に関連する場合がある。例えば乳がんは、肺、肝臓、骨、及び/又は脳に転移する場合がある。膀胱がんは、肺、肝臓及び骨に転移する場合がある。肺がんは、副腎、骨、脳、肝臓、及び/又は他の肺に転移する場合がある。
【0068】
転移がんは、がんが周辺組織又はリンパ節内の続発部位に伝播したステージ3のがんとして分類される場合がある。転移がんはまた、がんが原発部位から遠く離れ得る別の臓器内の続発部位に伝播したステージ4のがんとして分類される場合がある。転移がんは、TNM系を用いてステージ分けされてもよく、ここでTは、腫瘍のサイズを1~4のスケールで記載し;Nは、リンパ節への伝播の度合いを0~3のスケールで記載し、Mは、転移の度合いを0~1のスケールで記載する。
【0069】
本発明により処置され得るがんとしては、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯茎、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頸部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、又は子宮の細胞又は新生物が挙げられるが、これらに限定されない。加えてがんは、具体的には以下の組織学的な型でもよいが、以下のものに限定されない:悪性新生物;がん腫;未分化がん腫;巨細胞及び紡錘形細胞がん;小細胞がん;乳頭がん;扁平上皮がん:リンパ上皮がん;基底細胞がん;毛質性上皮がん;移行上皮がん;乳頭状移行上皮がん;腺がん;悪性ガストリノーマ;胆管がん;肝細胞がん;混合型肝がん;索状腺がん;腺様嚢胞がん;腺腫様ポリープ中の腺がん;家族性腺がん性大腸ポリポーシス;固形がん;悪性カルチノイド腫瘍;細気管支肺胞上皮腺がん;乳頭腺がん;色素嫌性がん;好酸球がん;好酸性腺がん;好塩基球がん;明細胞腺がん;顆粒細胞がん;濾胞性腺がん;濾胞型乳頭腺がん;非被包性硬化性がん;副腎皮質がん;子宮内膜がん;皮膚付属器がん;アポクリン腺がん;脂腺がん;耳垢腺がん;粘表皮がん;嚢胞腺がん;乳頭状嚢胞腺がん;漿液性乳頭状嚢胞腺がん;粘液性嚢胞腺がん;粘液性腺がん;印環細胞がん;浸潤性導管がん;髄様がん;小葉がん;炎症性がん;乳房パジェット病;腺房細胞がん;腺扁平上皮がん;扁平上皮化生を伴う腺がん;悪性胸腺腫;悪性卵巣間質性腫瘍;悪性莢膜細胞腫;
悪性顆粒膜細胞腫;悪性アンドロブラストーマ;セルトリ細胞がん;悪性ライディッヒ細胞腫;悪性脂質細胞腫(lipid cell tumour, malignant);悪性パラガングリオーマ;悪性乳房外パラガングリオーマ;褐色細胞腫;グロムス腫瘍;悪性黒色腫;メラニン欠乏性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑の悪性黒色腫;類上皮細胞型黒色腫;悪性青色母斑;肉腫;線維肉腫;悪性線維性組織球腫;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児型横紋筋肉腫;胞巣型横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍;ミューラー管混合腫瘍;ネフロブラストーマ;ヘパトブラストーマ;がん肉腫;悪性間葉腫;悪性ブレンナー腫瘍;悪性葉状腫瘍;滑膜肉腫;悪性中皮腫;未分化胚細胞腫;胎児性がん;悪性奇形腫;悪性卵巣甲状腺腫;絨毛がん;悪性中腎がん;血管肉腫;悪性血管内皮腫;カポジ肉腫;悪性血管外皮腫;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;悪性軟骨芽細胞腫;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫;ユーイング肉腫;悪性歯原性腫瘍;エナメル上皮歯牙肉腫;悪性エナメル上皮腫;エナメル上皮線維肉腫;悪性松果腫;脊索腫;悪性グリオーマ;脳室上位腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;原線維性星状細胞腫;星芽細胞腫;グリオブラストーマ;乏突起神経膠腫;乏突起膠芽細胞腫;未分化神経外胚葉性;小脳腫瘍;神経節細胞芽腫;ニューロブラストーマ;レチノブラストーマ;嗅神経内分泌腫瘍;悪性髄膜腫;神経線維肉腫;悪性神経鞘腫;悪性顆粒細胞腫瘍;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン病(Hodgkin’s);側肉芽腫;悪性小リンパ球性リンパ腫;悪性びまん性大細胞型リンパ腫;悪性濾胞性リンパ腫;菌状息肉症;他の特定型非ホジキンリンパ腫;悪性組織球症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞性白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;肥満細胞性白血病;巨核芽球性白血病;骨髄肉腫;及び有毛細胞白血病。
【0070】
好ましくは固形がん及び/又は血液学的悪性腫瘍は、前立腺がん、肝臓がん、腎臓がん、肺がん、乳がん、大腸がん、膀胱がん、膵臓がん、脳がん、肝細胞がん、リンパ腫、白血病、胃がん、子宮頸がん、卵巣がん、甲状腺がん、黒色腫、がん腫、頭頸部がん、皮膚がん、又は肉腫から選択されるがんでもよい。
【0071】
好ましい実施形態において、本発明の処置レジメンは、転移を伴う乳がんの患者に投与されることになり、該転移は、肺内である。
【0072】
化学療法薬と併用での生弱毒グラム陰性菌の投与は、腫瘍量、腫瘍の成長、腫瘍の進行及び/又は腫瘍転移を低減し得る。用語「腫瘍量」は、対象におけるがん細胞の数、腫瘍のサイズ、又は腫瘍転移の量をいう。低減された腫瘍量は、処置反応及び生存転帰の改善に関連する。低減された腫瘍量は、例えば対象における腫瘍体積、サイズ若しくは質量の低減、腫瘍成長速度の低減、腫瘍進行速度の低減、腫瘍転移速度の低減、腫瘍転移数の低減、腫瘍の数の低減、又は対象におけるがんの量の全体的低減、により示されてもよい。それゆえ腫瘍量は、例えば腫瘍体積、腫瘍質量、腫瘍サイズ(径、周囲など)を測定することにより、定量されてもよい。腫瘍量を定量するための方法は、非限定的に臨床画像(MRI、PET-CTなど)をはじめとし、当該技術分野で公知である。
【0073】
対象の免疫系が、化学療法薬を受ける前に効果的にコンディショニングされるように、対象に投与される生弱毒グラム陰性菌の量は、対象において全身免疫反応を誘起するのに充分である。グラム陰性菌の投与により開始された免疫反応は、それ自体が治療レベルでも、又は治療レベル以下で、次の化学療法薬投与が所望の反応に必要となってもよい。生弱毒グラム陰性菌は、10~1012CFUの間の用量で投与されてもよく、ここでCFUは、コロニー形成単位である。例えば適切な用量は、10~10CFUの間、10~10CFUの間、10~10CFUの間、10~10CFUの間、10~10CFUの間、10~1010CFUの間、10~1011CFUの間、10~1012CFUの間、10~10CFUの間、10~10CFUの間、1
~10CFUの間、10~10CFUの間、10~1010CFUの間、10~1011CFUの間、10~1012CFUの間、10~10CFUの間、10~10CFUの間、10~10CFUの間、10~1010CFUの間、10~1011CFUの間、10~1012CFUの間、10~10CFUの間、10~10CFUの間、10~1010CFUの間、10~1011CFUの間、10~1012CFUの間、10~10CFUの間、10~1010CFUの間、10~1011CFUの間、10~1012CFUの間、10~1010CFUの間、10~1011CFUの間、10~1012CFUの間、1010~1011CFUの間、1010~1012CFUの間、又は1011~1012CFUの間でもよい。
【0074】
本明細書に開示された生弱毒グラム陰性菌は、使用の際に、対象において全身免疫反応を生じてもよい。好ましくは生弱毒グラム陰性菌は、骨髄細胞の活性化及び/又は成熟の増加をもたらす全身免疫反応を生じる。そのような骨髄細胞の例としては、従来型樹状細胞、形質細胞様樹状細胞、単球及び/又はマクロファージが挙げられるが、これらに限定されない。したがって本発明の文脈における全身免疫反応は、化学療法薬と併用で用いられた場合に相加又は相乗効果のどちらかをもたらし、こうして患者の転帰を改善する、循環及び/又は全身骨髄区画の長期表現型変化をいう場合がある。全身免疫反応の他の形態又は読出しは、当業者に自明であり、サルモネラ特異性抗体産生及びサルモネラ特異性T細胞の増殖が挙げられる。そのような測定は、処置の有効性の尺度を提供するために用いられてもよい。
【0075】
本発明の第二の態様において、対象における新生物疾患を予防又は処置する方法があり、前記方法は、前記対象に、(i)第一の処置相において生弱毒グラム陰性菌を、(ii)第二の処置相において化学療法薬を投与することを含み、前記方法は、細菌又は化学療法薬の単独投与に比べて増大された治療有効性をもたらす。
【0076】
それゆえ本発明の方法は、原発腫瘍若しくはがんの他の部位への転移、又は原発腫瘍若しくはがんから遠位の他の部位での転移腫瘍若しくはがんの形成若しくは定着を低減若しくは阻害し、それにより腫瘍若しくはがんの再燃、又は腫瘍若しくはがんの進行を阻害若しくは低減するために用いられてもよい。したがって本発明は、細胞増殖性若しくは細胞高増殖性障害、新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移の存在に関連する1つ又は複数の有害な(身体的)症状又は結果を軽減又は好転することなど、所与の対象の状態において検出可能又は測定可能な改善、即ち、治療上の利益又は有益な効果を提供する。
【0077】
それゆえ本発明の方法は、第一の処置相において生弱毒グラム陰性菌の、第二の処置相において化学療法薬の投与を含み、治療上の利益の増大と共に強力かつ持続性のある免疫反応を誘起する潜在性を有する併用療法である。本明細書に開示された治療的併用の相加性又は相乗性は、より低レベルの化学療法が必要とされることになり、より好適な毒性プロファイルにより有害作用の低減をもたらし得る。
【0078】
治療上の利益又は有益効果は、新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞増殖若しくは細胞高増殖性障害に関連する、又はそれにより引き起こされる、状態若しくは病理における任意の客観的若しくは主観的な一過性、一時的、若しくは長期の改善、又は有害症状の発症、重症度、期間若しくは頻度の低減である。それは、改善された生存率に導いてもよい。例えば1つ又は複数の関連する病理、有害症状又は合併症の重症度、期間又は頻度の漸増的又は部分的低減、或いは新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞増殖又は細胞高増殖性障害の生理学的、生化学的又は細胞的発現又は特徴の1つ又は複数の阻害又は回復が存在する場合に、本発明による処置方法の充分な臨床的エンドポイントが、実現される。
【0079】
それゆえ治療上の利益又は改善は、標的増殖細胞(例えば、新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移)の破壊、或いは新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞高増殖性障害に関連する、又はそれにより引き起こされる1つ又は複数の、ほとんど又はすべての病理、有害症状、又は合併症の切除でもよいが、これに限定されない。しかし、すべての標的増殖細胞(例えば、新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移)の治癒又は完全な破壊、或いは細胞増殖、又は新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞増殖又は細胞高増殖性障害に関連する、又はそれにより引き起こされるすべての病理、有害症状又は合併症の切除である必要はない。例えば、腫瘍若しくはがんの進行若しくは悪化を阻害することによる、腫瘍若しくはがん細胞塊の部分的破壊又は腫瘍若しくはがんの質量、サイズ、若しくは細胞数の安定化は、腫瘍若しくはがんの質量、サイズ又は細胞の一部又は大量が、残存したとしても、数日、数週間、又は数か月間だけであったとしても、死亡率を低減して寿命を延長することができる。
【0080】
治療上の利益の具体的な非限定的例としては、新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移の体積(サイズ又は細胞塊)、或いは細胞数の低減、新生物、腫瘍又はがんの体積増加を阻害又は予防すること(例えば、安定化すること)、新生物、腫瘍又はがんの進行、悪化又は転移を緩徐化又は阻害すること、或いは新生物、腫瘍又はがんの増殖、成長又は転移を阻害することが挙げられる。
【0081】
本発明の方法は、即座に効力を発しなくてもよい。例えば処置に続いて、新生物、腫瘍又はがんの細胞数又は質量が増加してもよいが、経時的に所与の対象において腫瘍細胞塊、細胞のサイズ又は数の最終的安定化又は低減が、続いて起こってもよい。
【0082】
阻害、低減、減少、遅延、又は予防され得る新生物、がん、及び転移に関連する追加的な有害症状及び合併症としては、例えば、吐気、食欲不振、無気力、疼痛、及び不快感が挙げられる。こうして細胞の高増殖性障害に関連する、又はそれにより引き起こされる有害症状又は合併症の重症度、期間又は頻度の部分的又は完全な減少又は低減、エネルギー、食欲、精神的安寧など、対象の生活の質及び/又は安寧の改善が、治療上の利益のすべての特別な非限定的例である。
【0083】
それゆえ治療上の利益又は改善はまた、処置される対象の生活の質における主観的改善を包含し得る。追加的実施形態において、方法が、対象の寿命(生存率)を延長又は拡大する。さらなる実施形態において、方法は、対象の生活の質を改善する。
【0084】
本発明が化学療法での過去の処置に対して難治性であった個体に特に適し得ることが、予期される。「難治性」とは、処置、例えば化学療法薬に応答しない任意の新生物疾患への関連を意図する。本発明が過去の化学療法処置に対して過去にローレスポンダー、ミドルレスポンダー又はハイレスポンダーであった個体に特に適することもまた、予期される。対象がレスポンダーであるか、又はノンレスポンダーであるかの決定は、化学療法処置への過去の応答に基づいても、又は特定の処置に応答した、若しくは応答しない対象の指標であるマーカーを同定するための生体試料のバイオマーカー分析を介してもよい。
【0085】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、化学療法薬の投与前に生弱毒グラム陰性菌を対象に投与することが前記化学療法の有効性増大をもたらすことを、見出した。本発明はさらに、以下の非限定的実施例を参照して記載される。
【実施例
【0086】
実施例1 - 対象の免疫系をグラム陰性菌でコンディショニングすることが化学療法への応答率増大を可能にする
本発明は、グラム陰性菌が対象の免疫系を効果的かつ全身的にコンディショニングして、次に投与される化学療法薬の有効性が増強されるように用いられ得る方法を提供する。理論に結び付けるものではないが、そのような効果がどのようにして起こるかを実証する可能な作用機序が、図1に提供される。
【0087】
実施例2 - 全身骨髄細胞における長期表現型変化の誘導
成体雌BALB/cマウスが、1×10CFUのサルモネラ・エンテリカ血清型ティフィムリウム株MD58(ΔaroC)で経口的に処置された。21日後に、脾臓が採取され、単細胞懸濁液が作製され、フローサイトメトリー染色が実施された。生存するCD11chigh、HLA-DR、CD11b+/-、PDCA-1従来型樹状細胞上、及び生存するCD11c-/low、PDCA1、HLA-DR-/Int、CD11b形質細胞様樹状細胞上のマーカーCD80、CD86、及びPD-L1の蛍光強度中央値が、測定された(図2A及び2B参照)。生存するCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80単球上、及び生存するCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80マクロファージ上のマーカーPD-L1、CD80、及びHLA-DRの蛍光強度中央値もまた、測定された(図2C及び2D参照)。
【0088】
図2に認められるとおり、骨髄細胞、例えば従来型樹状細胞、形質細胞様樹状細胞、単球及びマクロファージの様々な細胞マーカーが、サルモネラでの処置後21日目に有意な増加を呈し、サルモネラでの処置後の免疫細胞の活性化に及ぼす影響がかなりの期間にわたり持続可能であることが、示唆された。
【0089】
実施例3 - サルモネラ誘導性表現型変化のタイムコース
図2で観察された骨髄細胞の活性化/成熟表現型変化の速度論を探索するために、本発明者らは、タイムコース試験を実施した。成体雌BALB/cマウスが、1×10CFUのサルモネラ・エンテリカ血清型ティフィムリウム株MD58(ΔaroC)で経口的に処置された。1日、14日、21日又は42日後に、脾臓及び大腿骨が採取され、単細胞懸濁液が作製され、フローサイトメトリー染色が実施された(図3Aの実験図式を参照)。
【0090】
全身従来型(cDC)及び形質細胞様(pDC)樹状細胞上の活性化マーカーが、サルモネラの経口投与後に上方制御されて、投与後3週目にピークとなり、投与6週後までに基底レベル近くに戻ることが示された(図3B参照)。全身単球及びマクロファージ上の活性化マーカーもまた、サルモネラの経口投与後に上方制御されて、投与後3週目にピークとなり、投与6週後までに基底レベル近くに戻ることが示された(図3C参照)。
【0091】
実施例4 - サルモネラの経口投与は骨髄造血を増大する
成体雌BALB/cマウスが、1×10CFUのサルモネラ・エンテリカ血清型ティフィムリウム株MD58(ΔaroC)で経口的に処置された。1日、14日、21日又は42日後に、単離された骨髄細胞のフローサイトメトリー染色が、実施された。
【0092】
骨髄中の造血幹細胞/多能性前駆体の数が、経口投与の2週間後に有意に増加することが示される(図4A参照)。代表的なフローサイトメトリープロットもまた、サルモネラで経口処置された動物の骨髄中の生存するLKS細胞の増加を実証している(図4B参照)。加えて、サルモネラ処置後14日目の全骨髄細胞に対する生存するLKS細胞の%が、スピアマンランク相関を用いると同時点の%単球(生存するCD11c、CD11b、Ly6C、F4/80細胞)と相関された(図4C参照)。
【0093】
したがって本明細書のデータは、サルモネラの投与が免疫系、特に免疫系の骨髄部分(myeloid arm)をコンディショニングする、という仮説を裏づけている。さら
にこれらのデータは、サルモネラにより誘導された3~6週間の期間のコンディショニング変化により実証されたとおり、免疫系に及ぼすサルモネラコンディショニングの長期影響を実証している。骨髄造血性前駆細胞の数と脾臓単球の数との正の相関により示唆されるとおり、これらの変化は、全身/中枢に媒介される可能性がある。
【0094】
実施例5 - サルモネラの経口投与は少なくとも14日間継続する全身樹状細胞の過剰反応状態を誘導する
成体雌BALB/cマウスが、1×10CFUのサルモネラ・エンテリカ血清型ティフィムリウム株MD58(ΔaroC)で経口的に処置された。14日後に、脾臓が採取され、単細胞懸濁液が作製され、CD11c発現細胞が磁気分離により濃縮されて、1×10細胞/ウェルが示された刺激物質(TLR9、TLR2/6若しくはTLR4/2アゴニスト、又は対照)と共に24時間インキュベートされた。上清中のIL-6が、LegendPlexアッセイにより測定された(図5参照)。
【0095】
図5から明らかなとおり、グラム陰性菌、例えばサルモネラで処置された動物のCD11c発現細胞は、ビヒクル対照群に比較して、種々の刺激に応答してIL-6分泌(細胞の免疫反応性レベルの指標)の増大を実証した。これはさらに、本発明のグラム陰性菌の投与が免疫細胞のコンディショニングをもたらして、免疫細胞を次の刺激物質、例えば化学療法薬により誘導されたDAMPに対してより応答性にすることを裏づけている。
【0096】
実施例1~5で実証されたとおり、本明細書で開示された実験データは、生弱毒グラム陰性菌、例えばサルモネラでの処置が多数の免疫細胞型(例えば、樹状細胞、単球、及びマクロファージ)の予想に反した長期活性化と、骨髄中の造血幹細胞/多能性前駆体の増加と、をもたらすことを示している。理論に結び付けるものではないが、そのような生弱毒グラム陰性菌の投与により誘導された全身反応が対象又は患者の免疫系をコンディショニングし得ることで、化学療法薬と併用で投与される場合に、前記化学療法の抗腫瘍活性が増強されると考えられる。生弱毒グラム陰性菌を投与することにより観察された全身改変、即ち、前記生弱毒グラム陰性菌の腸内取込みと併せた多数の免疫細胞型の活性化及び造形系への影響(本明細書に実証されたとおり)が、抗腫瘍効果の増大を担うと考えられる。生弱毒グラム陰性菌により誘導される広範囲の全身効果が、用いられる化学療法薬にかかわらず有利な効果が観察されるような方法で、患者/対象の免疫系をコンディショニングし得ることを、当業者は即座に理解するであろう。加えて、対象/患者の免疫系をコンディショニングするためのグラム陰性菌の使用は、単独で用いられた場合に化学療法に抵抗を示したそれらの患者/対象にとって特に有利になり得る。
【0097】
実施例6 - インビトロで初代ヒト単球をグラム陰性菌でコンディショニングすることが次のPAMP及びDAMPでのチャレンジへの過剰反応性をもたらす
初代ヒト単球が、インビトロでサルモネラにより30分間コンディショニングされた後、すべてのサルモネラを除去するために抗生物質で洗浄され、続いてM-CSFの存在下で6日間、静置された。6日の静置期間後に、ヒト単球が、PAMP、DAMP又は培地のみの対照で刺激され、TNF-αの放出レベルが、ELISAを介して測定された。
【0098】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、本明細書で開示されたグラム陰性菌でコンディショニングされた細胞が、TNFαの放出レベルに反映されたとおり、PAMP及びDAMPの両方に過剰反応性を示すことを見出した(図6)。これは、PAMPでのチャレンジに応答して過剰反応性を誘導するに過ぎず、培地で処置された細胞(陰性対照)に対してTNFα放出レベルの差を示さないない、確定されたコンディショニング剤β-グルカンと対照的である。その一方で、本明細書に開示されたグラム陰性菌でコンディショニングされ、次にHMGB1(公知のDAMP)でチャレンジされた細胞は、培地のみの対照に比較してTNFα放出のおよそ5倍増加を示した。
【0099】
実施例6 - シクロホスファミド、ゲムシタビン又はドキソルビシンと併用でのサルモネラ処置
方法
細菌細胞の調製
弱毒サルモネラ・ティフィムリウム株(MD58)の希釈物が、経口強制投与用の1×10CFU/100μlを実現するのに必要な程度にPBSで作製された。
【0100】
同所4T1乳腺腫瘍モデル
6~7週齢雌BALB/cマウスが、1×10CFUサルモネラMD58又はPBS対照で経口的に前処置された。0日目に、マウスが、5×104T1-Luc2-1A4腫瘍細胞を第四乳腺脂肪体に接種された。腫瘍チャレンジ後10及び15日目に、マウスは、100mg/kgシクロホスファミドを腹腔内(IP)に受けた(図7A)。腫瘍接種後52日まで、原発腫瘍体積が週あたり3回測定され、肺腫瘍量がバイオルミネッセンスイメージング(BLI)により測定され、生存がモニタリングされた。
【0101】
実験的4T1肺転移モデル
6~7週齢雌BALB/cマウスが、1×10CFUのサルモネラMD58又はPBS対照で経口的に前処置された。0日目に、マウスが、1×10の4T1-Luc2-1A4腫瘍細胞を静脈内に接種された。腫瘍チャレンジ後3日目に、マウスは、40mg/kgシクロホスファミド(図8A)若しくは60mg/kgゲムシタビン(図9A)を腹腔内に(IP)、又は10mg/kgドキソルビシンを静脈内に(IV)(図11A)受けた。肺腫瘍の成長が、バイオルミネッセンスイメージング(BLI)によりモニタリングされ、生存が、モニタリングされた。
【0102】
LL/2肺腫瘍モデル
6~7週齢雌アルビノC57BL/6マウスが、1×10CFUのサルモネラMD58又はPBS対照で経口的に前処置された。0日目に、マウスが、1×10のLL/2-Luc-M38腫瘍細胞を静脈内に接種された。腫瘍チャレンジ後3日目に、マウスは、40mg/kgシクロホスファミドを腹腔内に受けた(図10A)。肺腫瘍の成長が、バイオルミネッセンスイメージング(BLI)によりモニタリングされた。
【0103】
インビボでのバイオルミネッセンスイメージング
全モデルの肺転移が、バイオルミネッセンスイメージング(BLI)によりモニタリングされた。D-ルシフェリン(Promega、E1605、3mg/20g体重)の腹腔内(IP)注射の10分後に、マウスが、各個別の動物の単一の胸部一定エリアROIを利用してIVISスペクトル(Perkin Elmer、マサチューセッツ州ウォルサム)で撮影された。画像解析が、Living Image 4.7.1(Perkin Elmer、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて実行された。画像ごとに少なくとも数百カウント得るため、及びCCDチップの飽和を回避するために、ビニング及び暴露時間が、調整された。
【0104】
結果
サルモネラ・ティフィムリウムの経口投与後の同系同所4T1マウス乳がんモデルにおけるシクロホスファミドの全身投与は、シクロホスファミド単剤療法に比較して、原発同所乳腺腫瘍量、肺転移を低減し(n.s.)、生存率を改善する(n.s.)(図7A~D)。
【0105】
サルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後の4T1マウス乳がん細胞の静脈内投与、及びその後の全身シクロホスファミドは、4T1腫瘍担持マウスにおける実験的肺転
移を低減し、腫瘍接種後5日目及び12日目に肺腫瘍を低減した(図8A~C)。
【0106】
サルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後の4T1マウス乳がん細胞の静脈内投与、及びその後の腹腔内ゲムシタビンは、肺への実験的4T1転移を低減した(図9A~B)。
【0107】
サルモネラ・ティフィムリウムの経口投与後のLL/2-Luc-M38マウス肺がん細胞の静脈内投与、及びその後の全身シクロホスファミドは、LL/2肺腫瘍の成長を低減した(図10A~B)。サルモネラ・ティフィムリウムの経口全身投与後の4T1ネズム乳がん細胞の静脈内投与、及びその後の静脈内ドキソルビシンは、肺への実験的4T1転移を低減した(図11A~B)。
【0108】
したがって、本発明の発明者らは、第一の処置相におけるグラム陰性菌の投与と、その後の第二の処置相における化学療法薬の投与が、処置がどちらか単独で用いられた場合より有効な治療を可能にすることを示した。そのため本発明は、がん患者の転帰が改善され得る方法を提供する。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
【国際調査報告】