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特表2024-542891ヒドロシリル化による3-ハロプロピルトリハロシランの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-18
(54)【発明の名称】ヒドロシリル化による3-ハロプロピルトリハロシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/16 20060101AFI20241111BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
C07F7/16
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534209
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2022083399
(87)【国際公開番号】W WO2023104560
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】21213073.6
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ホアスト メアチュ
【テーマコード(参考)】
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4H039CA92
4H039CF10
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ12
4H049VR21
4H049VR33
4H049VS12
4H049VT17
4H049VT30
4H049VT44
4H049VT48
4H049VW02
4H049VW32
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の合成方法、新規触媒系の使用、および新規組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
I)ハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、
II)トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランと
の反応を含む、少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の合成方法であって、
前記少なくとも1種の不飽和化合物と前記少なくとも1種のH-シランとの反応を、
III)Karstedt触媒と、
IV)式(A):
【化1】
[式中、
は、アリール基であり、
各Rは、独立してアルキル基であり、
nは、0および1から選択される]による少なくとも1種の助触媒と
の存在下で実施することを特徴とする、方法。
【請求項2】
が、フェニル基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
が、C1~C4アルキル基、好ましくはメチル基であることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の助触媒と前記Karstedt触媒とのモル比が、1:1~100:1、好ましくは2:1~50:1、より好ましくは5:1~25:1の範囲であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種の不飽和化合物と前記少なくとも1種のH-シランとのモル比が、2:1~0.2:1、好ましくは1.5:1~0.5:1、より好ましくは1.2:1~0.8:1の範囲であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の不飽和化合物と前記少なくとも1種のH-シランとの反応を、少なくとも1種の溶媒中で実施し、前記溶媒が、好ましくは少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種の不飽和化合物と前記少なくとも1種のH-シランとの反応を、30~250℃、好ましくは50~220℃、より好ましくは80~200℃の範囲の温度で実施することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の不飽和化合物と前記少なくとも1種のH-シランとの反応を、不活性雰囲気中で実施することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、
A1)前記少なくとも1種のH-シランと、前記Karstedt触媒と、前記式(A)による少なくとも1種の助触媒とを混合して、予備混合物を得る方法工程と、
A2)前記予備混合物に前記少なくとも1種の不飽和化合物を添加する方法工程と
を含み、前記方法工程を、所与の順序で実施することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の不飽和化合物が、塩化アリルであることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種のH-シランが、トリクロロシランであることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種の不飽和化合物が、塩化アリルであり、前記少なくとも1種のH-シランが、トリクロロシランであり、前記式(A)による少なくとも1種の助触媒が、N,N-ジメチルアニリンおよびN,N-ジメチルベンズアミドからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ヒドロシリル化反応、好ましくはハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランとのヒドロシリル化反応を媒介して、3-ハロプロピルトリハロシラン化合物を得るのに適した触媒組成物であって、
α)Karstedt触媒と、
β)式(A):
【化2】
[式中、
は、アリール基であり、
各Rは、独立してアルキル基であり、
nは、0および1から選択される]による少なくとも1種の助触媒と
を含む、触媒組成物。
【請求項14】
3-ハロプロピルトリハロシラン化合物を得るための、ヒドロシリル化反応、好ましくはハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランとのヒドロシリル化反応における請求項13記載の触媒組成物の使用。
【請求項15】
a)ハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、
b)トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランと、
c)Karstedt触媒と、
d)式(A):
【化3】
[式中、
は、アリール基であり、
各Rは、独立してアルキル基であり、
nは、0および1から選択される]による少なくとも1種の助触媒と
を含む、反応性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の合成方法、触媒組成物およびヒドロシリル化反応におけるその使用、ならびに反応性組成物に関する。
【0002】
発明の背景
ヒドロシリル化反応は、触媒的ヒドロシリル化とも呼ばれ、特に官能性シランを製造するための最も重要な反応である。この反応は、不飽和結合をはさむSi-H結合の付加を表す。この反応によって製造されるシランの重要なグループは、3-クロロプロピルトリクロロシラン(トリクロロ(3-クロロプロピル)シランとも称される)などの3-ハロプロピルトリハロシラン化合物である。これらは従来、白金触媒の存在下で塩化アリルなどのハロゲン化アリルとトリハロシラン(例えばトリクロロシラン)などのH-シランとをヒドロシリル化することによって製造される。このタイプの反応は一般に、選択率および収率が中程度であるという欠点を有する。一般的に起こる副反応は、ハロゲン化アリルからプロペンへの還元であり、これは、SiClやSiBrなどの四ハロゲン化ケイ素の生成を伴う。その後生成したプロペンは、最終的に1当量のH-シランと反応し、プロピルトリクロロシランなどのプロピルトリハロシランが生じる。また、不利なことに、使用した不飽和化合物の異性化がしばしば起こる。
【0003】
前述の反応の選択率および収率を向上させるために、先行技術において様々な試みが報告されている。金属触媒として様々な供給源を使用することに加えて、収率および選択率を向上させるために助触媒が採用されてきた。これらの助触媒には、数例を挙げれば、ホスフィン、酸素、ケトンやアルデヒドなどの有機オキソ化合物、第三級アルコール、アルコラート、窒素系化合物などがある。
【0004】
西独国特許第1156073号明細書には、ヘキサクロロ白金酸または白金を炭に担持させたものと組み合わせた上記反応における助触媒としての、トリエチルアミンやトリブチルアミンなどのトリアルキルアミンの使用が開示されている。
【0005】
米国特許第4,292,434号明細書には、ヘキサクロロ白金酸または二ハロゲン化白金を主触媒とし、アミンを助触媒として使用した3-クロロプロピルトリクロロシランの合成が公表されている。この方法では、目的のシランを合成する前の工程で触媒を製造する必要がある。この追加の工程は、目的のシランを製造するのに必要な時間を増加させ、その製造に必要なコストおよび時間を不利に増加させるため、当然好ましくない。
【0006】
米国特許第3,925,434号明細書の実施例3および実施例4には、ヘキサクロロ白金酸およびフェノチアジンからなる触媒系の存在下での塩化アリルとトリクロロシランとの反応が開示されている。反応の選択率は、中程度であるに過ぎない(引用文献の表Iを参照)。多くの副生成物が生成し、粗混合物中の大部分のフラクションは、プロピルトリクロロシランを構成している。特に、プロピル基からの塩素原子の除去は、こうして得られたアルキルシランをさらに官能基化することができないため望ましくない。
【0007】
独国特許出願公開第10243180号明細書には、白金触媒と、脂肪族アミド、ニトリルおよびアミンから選択されたリガンドとを用いた3-クロロプロピルトリクロロシランの製造が開示されている。好ましいアミドは、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN,N-ジメチルホルムアミドであり、好ましいアミンは、N,N-ジメチルブチルアミン、tert-ブチルアミンまたはトリエチルアミンである。
【0008】
中国特許第108069996号明細書には、ヘキサクロロ白金酸を白金触媒として用い、ホルムアミドおよびそのN-アルキル誘導体を用いて3-クロロプロピルトリクロロシランを製造することが報告されている。
【0009】
中国特許第102127104号明細書には、n-ブチルアミンの存在下での3-クロロプロピルトリクロロシランの合成が開示されている。しかし、この脂肪族アミンを助触媒として用いた場合の選択率は低い。
【0010】
総じて、先行技術による提案は、収率および/または選択率が十分でないという欠点を有する。
【0011】
本発明の目的
したがって、先行技術の欠点を克服することが本発明の目的である。本発明のさらなる目的は、出発物質としてのハロゲン化アリルおよびH-シランからの3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の製造の選択率を向上させることである。前述の反応物から出発して3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の収率を向上させることがさらに望ましい。
【0012】
発明の概要
これらの目的は、
I)ハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、
II)トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランと
の反応を含む、本発明による少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の合成方法であって、
少なくとも1種の不飽和化合物と少なくとも1種のH-シランとの反応を、
III)Karstedt触媒と、
IV)式(A):
【化1】
[式中、
は、アリール基であり、
各Rは、独立してアルキル基であり、
nは、0および1から選択される]による少なくとも1種の助触媒と
の存在下で実施することを特徴とする方法によって達成される。
【0013】
成分IおよびIIをIIIおよびIVの存在下で反応させることにより、少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物が得られる。
【0014】
本発明による方法により、3-ハロプロピルトリハロシラン化合物を高収率で得ることができる。さらに、本発明の方法の選択率が向上することで、プロピルトリハロシランや四ハロゲン化ケイ素などの望ましくない副生成物が少なくなる。本発明の文脈において、選択率とは、特にプロピルトリハロシランに対する3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の選択率を意味する。選択率の向上により、所望の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の精製が容易になる。本発明の方法はさらに、生態および環境に優しく、先行技術の方法よりも原子効率が高い。
【0015】
上述の目的を特に良好に達成する好ましい実施形態は、以下の説明および従属請求項に記載されている。
【0016】
発明の詳細な説明
本明細書全体を通じたパーセンテージは、別段の記載がない限り重量パーセンテージ(wt.-%またはweight-%)である。したがって、100万分の1(ppmと略記)も重量基準であり、mg/kgに相当する。本明細書で示される濃度は、別段の記載がない限り、組成物、溶液または分散液全体の体積または質量に関するものである。
【0017】
本発明による「アルキル」という用語は、環式および/または非環式構造要素を含む分岐または非分岐アルキル基を含み、アルキル基の環式構造要素は、当然のことながら少なくとも3個の炭素原子を必要とする。本明細書および特許請求の範囲におけるC1~CXアルキルとは、1~X個の炭素原子(Xは整数)を有するアルキル基を指す。C1~C8アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチルが挙げられる。置換アルキル基は、理論的には、少なくとも1つの水素を官能基で置き換えることによって得ることができる。別段の記載がない限り、アルキル基は、好ましくは置換または非置換のC1~C8アルキルから選択され、より好ましくは、水溶性が改善されるため、置換または非置換のC1~C4アルキルから選択される。
【0018】
本発明による「アリール」という用語は、環状の芳香族炭化水素基、例えば、個々の環炭素原子が任意にN、Oおよび/またはSで置換されたフェニルまたはナフチル、例えばベンゾチアゾリルを指す。好ましくは、前記炭素原子のいずれも、本明細書で前述したような他の元素で置き換えられていない。さらに、アリール基は、水素原子をそれぞれ官能基で置き換えることによって任意に置換されている。C5~CXアリールという用語は、環状芳香族基中に(任意にN、Oおよび/またはSで置き換えられた)5~X個の炭素原子を有するアリール基を指す(Xは、当然のことながら整数である)。別段の記載がない限り、C5~C6アリールが好ましく、C6アリールがさらにより好ましい。
【0019】
別段の記載がない限り、上記の基は、置換または非置換である。置換基としての官能基は、好ましくは、ハロゲン化物(塩素、臭素)、エーテル(-OR)、チオエーテル(-SR)、アミン(-NH、NHR、およびNR)、イミン、アミド、ケトン、エステル、アルコキシシリル(-Si(OR))、アルキルシリル(-SiR)、チオール(-SH)、およびヒドロキシル基(-OH)からなる群から選択される。好ましくは、上記の基は、非置換である。
【0020】
2つ以上の基が所与の群から選択される場合、各基は、以下に別段の記載がない限り互いに独立して選択され、これは、各基が前記群の同じメンバーとなるように選択することも、異なるメンバーとなるように選択することも可能であることを意味する。本明細書に記載される方法は、命名された方法工程を含む。命名された方法工程は、別段の記載がない限り、好ましくは所与の順序で実施される。本方法は任意に、前記方法工程の前、後および/または間に実施されるさらなる方法工程を含む。本発明の一態様について記載された優先事項および詳細は、別段の記載がない限り、または技術的に実行不可能でない限り、その他の態様にも準用される。
【0021】
本発明による方法により、3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の製造が可能となる。本発明の文脈における3-ハロプロピルトリハロシラン化合物には、特に3-ハロプロピルトリハロシラン、3-ハロプロピルメチルジハロシラン、または3-ハロプロピルジメチルハロシラン、および以下に記載される化合物が含まれる。好ましい3-ハロプロピルトリハロシラン化合物は、3-クロロプロピルトリクロロシラン、3-ブロモプロピルトリクロロシラン、3-クロロ-2-メチルプロピルトリクロロシランおよび3-ブロモ-2-メチルプロピルトリクロロシランからなる群から選択される。少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物としては、3-クロロプロピルトリクロロシランおよび3-クロロ-2-メチルプロピルトリクロロシランがより好ましく、3-クロロプロピルトリクロロシランがこの文脈において最も好ましい。
【0022】
少なくとも1種の不飽和化合物は、塩化アリル(3-クロロプロパ-1-エンとも称される、CAS番号107-05-1)などのハロゲン化アリルおよび塩化メタリル(3-クロロ-2-メチルプロパ-1-エンとも称される、CAS563-47-3)などのハロゲン化メタリルからなる群から選択される。ハロゲン化物は、好ましくは塩化物である。好ましいのは、ハロゲン化アリルである。少なくとも1種の不飽和化合物が塩化アリルであることがさらにより好ましい。
【0023】
少なくとも1種のH-シランは、トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される。H-シランは、単結合によりケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む。少なくとも1種のH-シランは、好ましくは、トリハロシランおよびメチルジハロシランからなる群から選択される。さらにより好ましいのは、トリハロシランである。少なくとも1種のH-シラン中に存在するハロゲン原子は、好ましくは、塩素および臭素からなる群から独立して選択され、より好ましくは、ハロゲン原子は塩素原子である。特に好ましくは、少なくとも1種のH-シランは、トリクロロシラン(H-SiCl)である。
【0024】
少なくとも1種の不飽和化合物と少なくとも1種のH-シランとのモル比は、好ましくは2:1~0.2:1、より好ましくは1.5:1~0.5:1、さらにより好ましくは1.2:1~0.8:1の範囲である。
【0025】
Karstedt触媒は、当該技術分野で知られている。Karstedt触媒は、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサンの白金錯体(CAS番号68478-92-2)である。Karstedt触媒は、典型的にはアルコール溶液として使用される。本文脈でのアルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールおよび前述のものの混合物からなる群から選択され、特にイソプロパノールが好ましい。少なくとも1種のアルコールとKarstedt触媒との重量比は、好ましくは20:1~1:10、好ましくは10:1~1:5、より好ましくは5:1~1:2の範囲である。
【0026】
Karstedt触媒と少なくとも1種の不飽和化合物とのモル比は、好ましくは1:10~1:10,000,000、より好ましくは1:100~1:1,000,000、さらにより好ましくは1:1,000~1:100,000の範囲である。
【0027】
少なくとも1種の助触媒は、式(A):
【化2】
[式中、
は、アリール基であり、
各Rは、独立してアルキル基であり、
nは、0および1から選択される]による。
【0028】
は、好ましくは非置換アリール基であり、より好ましくは非置換C5~C12アリールであり、さらにより好ましくは非置換C5~C6アリールであり、最も好ましくは(非置換)フェニル基である。Rは、好ましくはC1~C4アルキル基であり、より好ましくはメチル基である。nは、好ましくは1である。
【0029】
最も好ましくは、少なくとも1種の助触媒は、N,N-ジメチルアニリンおよびN,N-ジメチルベンズアミドからなる群から選択される。
【0030】
式(A)による少なくとも1種の助触媒とKarstedt触媒とのモル比は、好ましくは1:1~100:1、より好ましくは2:1~50:1、さらにより好ましくは5:1~25:1の範囲である。
【0031】
好ましくは、少なくとも1種の不飽和化合物と少なくとも1種のH-シランとの反応は、少なくとも1種の溶媒中で実施され、該溶媒は、好ましくは、本明細書で概説した優先事項が適用された少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物である。他の溶媒は、当業者がルーチン実験に基づいて選択することができる。しかし、少なくとも1種の溶媒としての少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物によって、驚くべきことに、反応の収率および選択率が向上する。
【0032】
好ましくは、少なくとも1種の不飽和化合物と少なくとも1種のH-シランとの反応は、30~250℃、好ましくは50~220℃、より好ましくは80~200℃の範囲の温度で実施される。
【0033】
少なくとも1種の不飽和化合物と少なくとも1種のH-シランとの反応時間は、特に限定されない。反応は、少なくとも1種の不飽和化合物および/または少なくとも1種のH-シランが消費されるまで実施することができる。典型的には、少なくとも1種の不飽和化合物と少なくとも1種のH-シランとの反応は、1分~24時間、好ましくは1~12時間、より好ましくは2~6時間実施される。
【0034】
好ましくは、少なくとも1種の不飽和化合物と少なくとも1種のH-シランとの反応は不活性雰囲気中で実施される。この目的での不活性雰囲気の様々な提供方法は、当業者に知られている。特に都合の良い方法は、窒素、アルゴン、または前述のものの混合物などの不活性ガス中で反応を実施することである。
【0035】
本発明の一実施形態において、少なくとも1種の不飽和化合物は、塩化アリルであり、少なくとも1種のH-シランは、トリクロロシランであり、式(A)による少なくとも1種の助触媒は、N,N-ジメチルアニリンおよびN,N-ジメチルベンズアミドからなる群から選択される。
【0036】
本発明による方法は、好ましくは、
A1)少なくとも1種のH-シランと、Karstedt触媒と、式(A)による少なくとも1種の錯化剤とを混合して、予備混合物を得る方法工程と、
A2)予備混合物に少なくとも1種の不飽和化合物を添加する方法工程と
を含み、これらの方法工程は、所与の順序で実施される。
【0037】
方法工程A2で得られた混合物を反応させることにより、3-ハロプロピルトリハロシラン化合物が得られる。方法工程A2において、少なくとも1種の不飽和化合物を連続的に添加することが好ましい。本発明の文脈における連続的添加とは、少なくとも1種の不飽和化合物を、1ステップではなく、ある期間にわたって添加することと理解されるべきである。ある期間とは、反応の全期間の1~25%、好ましくは2~10%を意味する。
【0038】
任意に、本発明による少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の合成方法では、次いで方法工程A3:
A3)3-ハロプロピルトリハロシラン化合物を精製する方法工程
が実施される。
【0039】
前記化合物の様々な精製方法は、当業者に知られている。例えば、得られた混合物は、蒸留、濾過、沈殿または前述のものの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの方法によって精製され、蒸留が最も好ましい精製方法である。
【0040】
本発明はさらに、ヒドロシリル化反応、好ましくはハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランとのヒドロシリル化反応を媒介して、3-ハロプロピルトリハロシラン化合物を得るのに適した触媒組成物であって、
α)Karstedt触媒と、
β)式(A):
【化3】
[式中、
は、アリール基であり、
各Rは、独立してアルキル基であり、
nは、0および1から選択される]による少なくとも1種の助触媒と
を含む触媒組成物に関する。
【0041】
本発明による触媒組成物は、ヒドロシリル化反応、特に前述の反応を媒介(または触媒)することができ、すなわち後者の場合、必ずしもそれ自体が永続的変化を受けることなく、少なくとも1種の不飽和化合物および少なくとも1種のH-シランを3-ハロプロピルトリハロシラン化合物に転化させることができる。
【0042】
本発明の別の態様は、3-ハロプロピルトリハロシラン化合物を得るための、ヒドロシリル化反応、好ましくはハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランとのヒドロシリル化反応における本発明による触媒組成物の使用を対象とする。
【0043】
本発明のさらなる態様において、本発明は、
a)ハロゲン化アリルおよびハロゲン化メタリルからなる群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と、
b)トリハロシラン、メチルジハロシランおよびジメチルハロシランからなる群から選択される少なくとも1種のH-シランと、
c)Karstedt触媒と、
d)式(A):
【化4】
[式中、
は、アリール基であり、
各Rは、独立してアルキル基であり、
nは、0および1から選択される]による少なくとも1種の助触媒と
を含む反応性組成物に関する。
【0044】
反応性組成物は、少なくとも1種の3-ハロプロピルトリハロシラン化合物の合成に使用することができる。
【0045】
少なくとも1種の不飽和化合物の量は、反応性組成物の総量に対して、好ましくは5重量%~80重量%、より好ましくは10重量%~60重量%、さらにより好ましくは15重量%~50重量%の範囲である。
【0046】
少なくとも1種のH-シランの量は、反応性組成物の総量に対して、好ましくは10重量%~90重量%、より好ましくは20重量%~85重量%、さらにより好ましくは30重量%~80重量%の範囲である。
【0047】
Karstedt触媒の量は、反応性組成物の総量に対して、好ましくは0.1ppm~10重量%、より好ましくは0.5ppm~1重量%、さらにより好ましくは1ppm~0.1重量%の範囲である。
【0048】
式(A)による少なくとも1種の助触媒の量は、反応性組成物の総量に対して、好ましくは0.1ppm~10重量%、より好ましくは0.5ppm~5重量%、さらにより好ましくは1ppm~1%の範囲である。
【0049】
反応性組成物は、好ましくは少なくとも1種の溶媒を含み、該溶媒は、好ましくは本明細書で前述したものから選択される。反応性組成物中の少なくとも1種の溶媒の量は、反応性組成物の総量に対して、好ましくは10重量%~90重量%、より好ましくは20重量%~80重量%、さらにより好ましくは30重量%~70重量%の範囲である。前述の成分の量は、任意に溶媒の量によって減少させることができる。
【0050】
上述の量は、好ましくは反応開始前に使用される総量を指す。
【0051】
本発明により、簡便かつ経済的なヒドロシリル化反応を、高収率および高選択率で実施することが可能となる。
【0052】
次に、本発明を以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【0053】
実施例
合成手順I.
リービッヒ冷却器を備えた100mlの四ツ口フラスコを油浴に入れ、次いで窒素雰囲気下で、36.5gの3-クロロプロピルトリクロロシラン、15.0gのトリクロロシラン、Karstedt触媒(イソプロパノール中20重量%の白金、反応性組成物1kg当たり64mgの白金)、および存在する場合には助触媒を表1に示す量で装入した。リービッヒ冷却器自体を、冷却トラップ(イソプロパノール/ドライアイス)に接続した。この混合物に、シリンジポンプにより8.5gの塩化アリルを添加した(1mL/分)。塩化アリルを完全に添加した後、油浴を180℃に、底部温度が前記温度に達するまで、ただし少なくとも3時間にわたって加熱した。結果を表1に列挙する。
【0054】
GC分析:Restek RTX 200カラム(L:60m、ID:0.53mm、d:3μm)を備えたAgilent 6890 Nガスクロマトグラフを用い、以下の温度プログラムを適用してクロマトグラムを得た:温度:40℃;初期時間:7.00分;速度:15℃/分;最終温度:240℃;最終時間:10.00分;インジェクター温度:250℃;検出器温度:280℃。当該化合物の保持時間は、以下のとおりであった:8.26分、トリクロロシラン;9.70分、テトラクロロシラン;10.01分、塩化アリル;15.53分、プロピルトリクロロシラン;19.45分、3-クロロプロピルトリクロロシラン。
【0055】
選択率
3-クロロプロピルトリクロロシランのGC面積を四塩化ケイ素のGC面積で除すことにより、選択率を算出した。四塩化ケイ素1分子につき、ヒドロシリル化反応で非常に望ましくないプロピルトリクロロシラン1分子が生成するため、四塩化ケイ素の量は、プロピルトリクロロシランに対する3-クロロプロピルトリクロロシランの選択率を評価する便利な方法である。
【0056】
【表1】
【0057】
式(A)による助触媒を用いた本発明による方法が、圧倒的に最も優れた選択率を示した。アセトアミドやジメチルアセトアミドなどの多くの助触媒が、助触媒なしの参照反応と比較して効率的であることが実証されたが、式(A)による化合物、本発明者らの実施例ではN,N-ジメチルアニリンおよびN,N-ジメチルベンズアミドを使用した場合のみ、7を大きく上回る選択率が得られた。
【0058】
合成手順II:
上述の合成手順(合成手順I)を繰り返したが、ただし、Karstedt触媒をヘキサクロロ白金酸に置き換えた。結果を以下の表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示した結果は、白金供給源が反応結果に大きく影響することを示している。特に、Karstedt触媒からヘキサクロロ白金酸に変更した場合、収率はわずかに低下しただけであった。最も明白な影響は、後者の場合に得られる選択率が大幅に低くなることに見られる。この観察は、ヒドロシリル化反応におけるKarstedt触媒と式(A)の助触媒との組み合わせ、特に本明細書に記載の組み合わせの独自性を証明するものである。
【0061】
本発明の他の実施形態は、本明細書の検討または本明細書に開示された本発明の実施から当業者には明らかであろう。本明細書および実施例は、単なる例示と見なされることが意図され、本発明の真の範囲は、以下の特許請求の範囲のみによって定められる。
【国際調査報告】