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特表2024-542892粗製メチルメタクリレートの精製プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-18
(54)【発明の名称】粗製メチルメタクリレートの精製プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/52 20060101AFI20241111BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C07C67/52
C07C69/54 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535185
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 GB2022053179
(87)【国際公開番号】W WO2023111533
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】2118029.4
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500460209
【氏名又は名称】ミツビシ ケミカル ユーケー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI CHEMICAL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】クラーク、アダム ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ヤルマション、ラーシュ アンデシュ ニクラス
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD15
4H006BC37
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD32
4H006BD53
4H006BD84
(57)【要約】
典型的には、メチルメタクリレート(MMA)を含む1つ以上の解重合(コ)ポリマーから得られる、粗製メチルメタクリレート(MMA)の流れを精製するためのプロセスが記載される。この流れは、少なくとも80重量%のレベルのMMAと、エチルアクリレート(EA)とを含む。このプロセスは、-前述のMMAの流れを分別晶析して、分別晶析直前のMMAの流れと比較して低減したEA含有量を有する分別晶析されたMMAの流れを提供する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも80重量%のレベルのメチルメタクリレート(MMA)と、エチルアクリレート(EA)とを含む粗製MMAの流れを精製するプロセスであって、
(i)前記MMAの流れを分別晶析して、分別晶析直前の前記MMAの流れと比較してEA含有量が低減された分別晶析されたMMAの流れを提供する工程を含むプロセス。
【請求項2】
前記粗製MMAの流れの1回、2回又はそれ以上の分別晶析を連続して実施して、前記粗製の流れから前記EAを徐々に除去する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記粗製の流れは、分別晶析以外の技術による分別晶析前の精製工程にかけられて、少なくとも92.5重量%のMMAレベルを有する分別晶析前に精製された粗製の流れが生成される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記粗製MMAの流れは、EA以外の不純物も含み、EA及びEA以外の不純物を含む前記粗製MMAの流れを分別晶析以外の技術により分別晶析前に精製して、-工程(i)において前記粗製MMAの流れを分別晶析する前に、未精製の粗製MMAの流れと比較してEA以外の前記不純物の低減した含有量と、少なくとも92.5重量%のMMAとを含む分別晶析前に精製された粗製MMAの流れを得る、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記分別晶析されたMMAの流れは、EA以外の不純物を含み、前記流れは、分別晶析以外の技術により分別晶析後の精製工程にかけられて、前記工程前の分別晶析された流れの含有量と比較してEA以外の前記不純物の含有量が低減される、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記粗製MMAの流れは、80~99重量%のMMA、典型的には90~99重量%のMMAを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
EAは、前記粗製の流れに、10重量%未満、典型的には7.5重量%未満、より典型的には5重量%未満、最も典型的には2重量%未満、特に1.5重量%未満のレベルで存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記EAは、前記粗製の流れに、0.01~10重量%、典型的には0.01~7.5重量%、より典型的には0.05~5重量%、最も典型的には0.1~1.5重量%のレベルで存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
分別晶析直前の前記粗製MMAの流れは、少なくとも92.5重量%、典型的には少なくとも97.5重量%、より典型的には少なくとも99重量%のMMAを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記プロセスは、MMA含有量が98重量%を超える分別晶析されたMMAの流れを生成する、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記分別晶析されたMMAの流れは、少なくとも99重量%、典型的には少なくとも99.5重量%、より典型的には少なくとも99.8重量%、最も典型的には少なくとも99.9重量%のMMAを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記分別晶析されたMMAの流れと前記粗製MMAの流れとを比較したEAの比は、1:2未満、典型的には1:10未満、より典型的には1:50未満である、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記粗製MMAの流れは、MMA残留物、典型的には80%超のMMA残留物、例えば85%超、90%超又は95%超のMMA残留物を含む解重合(コ)ポリマーから得られる、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記粗製MMAの流れは、MMA及びEA残留物とのコポリマーを含む解重合(コ)ポリマーから得られ、典型的には、1%超のEA残留物、例えば2、3、4、又は5%超のEA残留物、例えば1~20%、1~15%又は1~10%のEA残留物である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記分別晶析されたMMAの流れは、5000ppm未満のEA、典型的には1000ppm未満のEA、より典型的には500ppm未満のEA、最も典型的には100ppm未満のEAを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記分別晶析されたMMAの流れは、350ppm未満のMiB、典型的には200ppm未満のMiB、より典型的には100ppm未満のMiBを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記分別晶析されたMMAの流れは、500ppm未満のMA、典型的には200ppm未満のMA、より典型的には100ppm未満のMA、最も典型的には25ppm未満のMAを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
工程(i)の前記分別晶析プロセスは、静的晶析又は流下膜晶析など、懸濁晶析又は層状晶析から選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
工程(i)からの生成物の流れに対して1つ以上の更なる分別晶析工程が実施され、実施される際に、上記の分別晶析後の不純物及びMMAのレベル及び比が、前記1つ以上の更なる分別晶析の生成物の流れに適用されることができる、請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記分別晶析は、結晶及び残留物を生成する前記粗製の流れの第1の冷却フェーズと、前記第1の冷却フェーズで形成された前記結晶を加熱し部分的に再溶融し溶解された結晶及び溶解フェーズの液体を生成する任意の溶解フェーズと、それから精製された液体を生成する結晶溶融フェーズと、を含む第1の段階を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記第1の段階のプロトコルに従って前記第1の段階から生成された前記精製された液体の流れを再晶析する少なくとも1つの更なる晶析段階が実行される、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
2回以上の更なるこの晶析が順次実行される、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記第1の冷却フェーズの後に、更なる晶析のために残留液体を除去する又はリサイクルすることができる、請求項20~22のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記溶解フェーズの液体を更なる晶析のためにリサイクルすることができる、請求項20~23のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
前記冷却フェーズは、精製される前記流れの温度が結晶形成を開始するために一時的に低下される初期核形成フェーズと、前記温度が最初に上昇され、任意に、前記冷却フェーズの残りの期間中にゆっくりとした結晶形成のために再びゆっくりと低下する結晶形成フェーズとを含む、請求項20~24のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記分別晶析は、典型的には、精製される前記流れの温度が結晶形成を開始するために一時的に低下される核形成フェーズを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項27】
前記分別晶析は、結晶成長フェーズを含み、典型的には、核形成をもたらした温度が最初に上昇され、ゆっくりと結晶形成するために任意に再びゆっくりと低下される、請求項1~26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
前記分別晶析中に形成された前記結晶を、1回以上の溶解フェーズにかけ、形成された前記結晶を加熱し部分的に再溶融する、請求項1~27のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項29】
前記粗製MMAの前記冷却フェーズにおける結晶形成の温度範囲は、-48~-70℃、より典型的には-50~-69℃、最も典型的には-52~-69℃である、請求項20~28のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項30】
前記核形成フェーズの温度は、-53~-75℃、より典型的には-55~-72℃、最も典型的には-58~-62℃の範囲である、請求項25~29のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項31】
前記分別晶析のプロトコルは、結晶が形成され始めるまで-53℃から-75℃の範囲で、分別晶析される前記流れに核形成フェーズの冷却工程を適用することを含む、請求項25~30のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項32】
前記分別晶析のプロトコルは、分別晶析される前記流れに前記結晶形成フェーズの初期温度まで加熱する工程を適用することを含む、請求項25~31のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項33】
前記初期温度は、前記核形成温度より高く、-48℃以下である、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記分別晶析のためのプロトコルは、前記結晶形成フェーズ中及び前記結晶形成期間に、前記流れを前記初期温度から徐々に冷却することを含む、請求項25~33のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項35】
前記結晶形成期間は、1~20時間である、請求項34に記載のプロセス。
【請求項36】
結晶形成のための分別晶析操作温度は、-45℃~-70℃である、請求項1~35のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項37】
分別晶析操作圧力は、10~500kPaA(0.1~5bara)、例えば50~200kPaA(0.5~2bara)又は80~150kPaA(0.8~1.5bara)である、請求項1~36のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項38】
分別晶析前及び分別晶析後の精製工程は、分別蒸留、反応性蒸留、隔壁蒸留及びスピニングバンド蒸留、反応性晶析、蒸発晶析、冷却晶析、蒸発、蒸気圧縮蒸発、膜濾過、逆浸透、限外濾過、気-液クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル浸透クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、吸着、昇華、及び液-液抽出などの専門化された蒸留技術から独立して選択される、請求項3~37のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項39】
前記粗製の流れの分別晶析の前に、分別晶析以外の1つ以上の精製工程は、前記粗製の流れに対して実施される、請求項3~38のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項40】
分別晶析以外の1つ以上の精製工程は、前記分別晶析された生成物の流れに対して実施される、請求項5~39のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、典型的にはメチルメタクリレート(MMA)を含む1つ以上の解重合(コ)ポリマーから、粗製(crude)メチルメタクリレートを精製するためのプロセスに関する。不純物は、他のモノマー又は解重合副生成物を含み得る。本発明は、特にこのような不純物の1つ、即ちエチルアクリレートの除去に関する。エチルアクリレート(EA)は、エチルアクリレート残留物を含むコポリマーの解重合の結果としての不純物として、及び/又は解重合プロセスの副生成物として存在し得る。典型的には、MMAとエチルアクリレートのコポリマーの解重合により存在する。エチルアクリレートは、メチルメタクリレートの「近い沸点物(close boiler)」であること、即ちエチルアクリレートの沸点は、メチルメタクリレートの沸点に近いことが知られている。これにより、通常の蒸留を用いてエチルアクリレートとメチルメタクリレートを完全に分離することが困難になる。特に、MMAは、重合の影響を受けやすく、これを回避するには、多数の段階、高い還流比、及び高圧である蒸留塔は、望ましくない。
【背景技術】
【0002】
工業規模での生成物の精製には、代替の精製方法が当業者に知られている。これらには、分別蒸留、反応性蒸留、隔壁蒸留及びスピニングバンド蒸留、反応性晶析、蒸発晶析、冷却晶析、蒸発、蒸気圧縮蒸発、膜濾過、逆浸透、限外濾過、気-液クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル浸透クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、吸着、昇華及び液-液抽出などの専門化された蒸留技術が含まれるが、これらに限定されず、特許文献1、特許文献2及び特許文献3はいずれも、メタクリル酸などの生成物の流れから標的となる分子を除去するために使用できる様々な分離方法を開示している。特許文献4は、培養物中の他の成分から生物由来の化合物を分離するための様々な方法を開示している。
【0003】
更に、粗製メチルメタクリレートの精製では、多くの場合、粗製の流れ(crude stream)の供給源に応じて、複数の不純物を除去する必要がある。EAはクロマトグラフィーによってMMAから分離できるが、このようなプロセスは、関連する清掃、ダウンタイム、及び運転経費のために、工業規模では問題となる可能性があることが知られている。
【0004】
特許文献5(Eastman Kodak)は、MMAよりも凝固点が低いメチルブチレートを除去するための分別晶析を含むアルキルメタクリレートの精製プロセスを記載している。
【0005】
特許文献6(Parten)は、分別晶析によりメチルメタクリレートよりも凝固点が高い近い沸点物を製造プロセスの粗製MMAから分離できることを開示している。Partenは又、実際には凝固点がより低いメチルイソブチレート(MiB)などの他の製造プロセスの不純物もメチルメタクリレートから分離できることを示している。
【0006】
Partenは、分別晶析後のMiBレベルの低下について言及している。MiBの凝固点は-85℃である。しかしながら、粗製の流れ及びMMA結晶におけるPartenのMiBレベルは、2300ppmから1300ppmへと、その元のレベルの56%にしか低下していない。
【0007】
リサイクルの流れのEAレベルは、一般的に効果的であるはるかに低いレベルに低下させる必要があるであろう。リサイクルの流れのコポリマー供給源の中には、EAの割合が比較的高いものがあり、5重量%及び10重量%のレベルは珍しくなく、一部の流れに2500ppmなどのより低いレベルが存在したとしても、1300ppmに低下させることは、精製されたMMAモノマーの流れでは十分なレベルでは依然としてないであろう。
【0008】
驚くべきことに、利用可能な精製プロセスのうち、EAは分別晶析によってMMAの粗製の流れから十分に低いレベルまで除去できることがわかった。EAはMiBに比べてMMAに化学構造がより類似しており、EAはMiB(-85℃)に比べてMMA(48℃)のものに近い「より高い」凝固点(-71℃)を有しているにもかかわらず、分別晶析によってMMAからEAを除去するこのプロセスは、以前に報告されたMiBの除去よりも驚くほど効果的である。構造のこのような類似性により、EAはMMAと共晶析し、後者の結晶格子に閉じ込められ、それに応じてEAの除去レベルが低くなると予想されたが、逆の効果が判明した。この効果は、EAがすでに2重量%未満という低いレベルで特に顕著である。このような低いレベルでさえも、EAをその以前のレベルのほんの一部、典型的には、100ppm未満まで効果的に除去できることは驚くべきことである。
【0009】
更に、分別晶析、又は分別晶析と分別蒸留前又は分別蒸留後の精製工程との組み合わせにより、現在のリーチ規制の下で十分な精製されたMMAのモノマーの流れが提供される。本発明によるMMAの純度レベルははるかに高く、この技術によりEAのレベルは非常に低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第20150119541号明細書
【特許文献2】米国特許第6380427号明細書
【特許文献3】国際公開第2020006058号
【特許文献4】米国特許第10808262号明細書
【特許文献5】英国特許出願公開第1235208号明細書
【特許文献6】米国特許第6670501号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、特許請求の範囲に従って粗製MMAを精製するプロセスが提供される。
典型的には、分別晶析されたMMAの流れと粗製MMAの流れとを比較したEAの比は、1:5未満、より典型的には1:10未満、最も典型的には1:50未満である。有利なことに、本発明のプロセスによって、粗製MMAの流れから90%w/wを超える、より典型的には95%w/wを超える、最も典型的には97%w/wを超えるEAを除去できることが判明した。
【0012】
有利なことに、分別晶析されたMMAの流れにおけるMMA純度は、98重量%を超え、例えば98.5重量%を超え、典型的には99重量%を超え、例えば99.5重量%、99.6重量%、99.7重量%、99.8重量%、又は99.9重量%を超え得る。
【0013】
本発明のプロセスは、分別晶析からの収率(総最終生成物/総供給原料)を80%、例えば85%超、90%超、又は95%超とすることができる。
本発明の分別晶析プロセスでは、懸濁晶析又は層状晶析(layer crystallisation)、例えば、静的晶析又は流下膜晶析(falling film crystallisation)など、当業者に知られている任意の形態の分別晶析を使用することができる。
【0014】
本発明による分別晶析の典型的な方法は、MMAの結晶及び残留物を生成する粗製の流れの第1の冷却フェーズと、第1の冷却フェーズで形成された結晶を加熱し部分的に再溶融し溶解された結晶と溶解フェーズ(sweating phase)の液体を生成する任意の溶解フェーズと、それから精製された液体を生成する結晶溶融フェーズと、を含む第1の段階を含む。溶解フェーズは、MMAよりも低い温度で溶融する結晶の不純な部分から残留EA及びその他の不純物を除去するために利用される。溶解フェーズには、単一の加熱及び再溶融工程、或いは結晶の所望の純度を達成するために必要な1、2、3、4、又は5つの工程などの複数の加熱及び再溶融工程が含まれ得る。残留液体は、冷却フェーズ及び溶解フェーズの後、又は溶解フェーズの各加熱及び再溶融工程の後に除去される。残留液体は、任意に更なる粗製MMA供給物の流れと混合した後、更なるMMA結晶を抽出するためにリサイクルされることができる。
【0015】
典型的には、第1の段階から生成された精製された液体の流れを典型的には第1の段階のプロトコルに従って再晶析する、少なくとも1つの更なる晶析段階が実行される。任意に、液体生成物の2つ以上の更なる晶析が連続して実行され、次第に純度の高い液体が生成される。必要とされる最終生成物の純度に応じて、最大6つ又は7つの連続精製段階を実行できる。しかしながら、有利なことに、1つ又は2つの精製段階後に、十分な精製及びEA除去が達成できることが判明した。
【0016】
第1の冷却フェーズの後、残留液体を除去又はリサイクルすることができる。加えて、任意の溶解フェーズの液体も、更なる晶析のためにリサイクルすることができる。これにより、プロセスの収率が向上することができる。
【0017】
任意に、初期の核形成工程が行われることができ、この場合、温度が一時的に低下して結晶形成が開始され、次いでゆっくりとした結晶形成のためにより高い温度に上げられる。
【0018】
従って、冷却フェーズには、任意に、精製される液体の温度が一時的に低下して結晶形成が開始される初期核形成フェーズと、最初に温度が上昇し、任意に、冷却フェーズの残りの期間中にゆっくりとした結晶形成のために再びゆっくりと低下する結晶形成フェーズが含まれる。
【0019】
典型的には、精製される液体生成物の流れは、約-45℃~約-75℃まで冷却され、結果、粗製液体生成物の流れの一部が凍結して固体メチルメタクリレートの結晶と、液体生成物の流れのうち凍結せずに残った部分である残留液体又は上澄み液が形成される。
【0020】
メチルメタクリレート結晶中の不純物のレベルは、粗製液体生成物の流れが冷却される速度によって影響を受ける可能性がある。液体生成物の流れが冷却される速度は、結晶に含まれる不純物の量を最小限に抑えることで、不純物からのメチルメタクリレートの分離を最適化するように制御することができる。比較的遅い冷却速度では、液体生成物の流れのより速い冷却の結果として形成される結晶よりも低い割合の不純物を含むメチルメタクリレートの結晶が生成されることが判明している。液体生成物の流れの冷却速度は、好ましくは30℃/分未満、より好ましくは20℃/分未満、最も好ましくは10℃/分未満である。更により低い冷却速度、例えば、5又は4又は3又は2又は1又は0.5又は0.1℃/分未満を使用することができる。
【0021】
結晶形成に適した温度範囲は、例えば-48~-70℃、より典型的には-50~-69℃、最も典型的には-52~-69℃などの液体中のMMAの飽和点である。
核形成に適した温度は、例えば-53~-75℃、より典型的には-55~-72℃、最も典型的には-58~-62℃の範囲などのMMAの凝固点より低い。
【0022】
従って、晶析に適したプロトコルは、結晶が形成され始めるまで上記の範囲での核形成冷却工程、核形成温度を超える上記の結晶形成範囲までの加熱工程、及び同じ温度範囲でのゆっくりとした冷却である。
【0023】
典型的には、加熱工程では、温度を-48~-63℃に上げ、その後、任意に-48℃未満から-70℃までの温度範囲でゆっくり冷却する。
結晶形成を行う冷却は、結晶成長を最適化するために、例えば、1~20時間、典型的には4~10時間、最も典型的には6~8時間かけてゆっくりと行われ得る。
【0024】
定義
本明細書では、(コ)ポリマーとは、ホモポリマー又はコポリマーを意味する。
コポリマーという用語には、2つ以上の種類のモノマー残留物を有するポリマーが含まれ、従ってターポリマーなどが含まれる。
【0025】
粗製MMAとは、不純物の一部が除去されているかどうかにかかわらず、その中に不純物を含む任意のMMAを意味する。従って、粗製MMAには、分別晶析の前に精製されたMMAの流れが含まれる。
【0026】
収率とは、総最終生成物/総供給物を意味する。この収率は、最終生成物に基づいており、これは1回又は1回を超える分別晶析段階を経る場合がある。典型的には、1回の段階又は2回の段階で十分であるが、最終生成物の流れを生成するために、1~7回の段階、より一般的には1~3回の段階の精製された生成物の流れを実施することができる。
【0027】
本発明を、ここで以下の例及び図面を参照して例示としてのみ説明する:
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】分別晶析の概略図である。
図2】実施例2の分別晶析の温度対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施例1
結果は、いくつかの不純物に加えて、MMA純度が約94重量%の合成粗製物に基づいている。試験では、晶析による精製により、EA濃度が大幅に低下することができ、いくつかの他の不純物が存在してもMMA純度が向上することができたことが示された。2回の連続した分別晶析が実施された。
【0030】
分別晶析は、静的晶析であり、以下の表1に詳細を示す成分を有する粗製混合供給物に対して実行された。
【0031】
【表1】
【0032】
上記の結果からわかるように、EAの除去は、MiB及びMAなどの他の一般的な不純物よりも、単一の段階及び次の段階の晶析の両方で分別晶析にて著しく大きくなる。
第1の段階の生成物の流れも又、第2の段階で溶融することにより再晶析され再収集されて、同様に有益なEAの除去により生成物が更に精製された。
【0033】
両方の段階で、未晶析の残留液体から又は溶解した結晶から、未晶析の不純な溶融物をリサイクルして、後の段階で晶析させることも可能であった。
一般的なプロセスを図1に模式的に示す。供給段階では、不純な供給液を-60℃などの純粋なMMAの凝固点未満の温度に急速に冷却してMMA結晶の核形成を行い、次いでMMAの凝固点である-48℃に加熱して、その後MMA結晶をゆっくりと晶析し始める。数時間かけて、液体を徐々に-65℃まで冷却して、母液から徐々に晶析を行う。母液が十分な量晶析したら、プロセスを停止する。精製段階では、残りの未晶析の母液を晶析装置から除去し、必要な結晶純度に達するまで温度をゆっくりと上昇させることにより、結晶が部分的に再溶融又は「溶解」される。次いで、再溶融された液体も晶析装置から除去し、必要な純度の残りの結晶が完全に溶融され、次いで精製された液体が収集され分析される。次いで、この第1の段階の精製された液体は、第2の段階で再晶析され、上記のプロセスが繰り返された。表1では、2つの段階のみが例示されているが、必要に応じて複数の段階を実施することができる。
【0034】
説明されていないが、元の母液残留物と溶解した結晶残留物の両方をリサイクルし、必要により更に晶析して収率を向上させることができる。
実施例2
内容積6リットルのジャケット容器を使用して、MMA-EAの2成分混合物(MMA中、5重量%のEA、2重量%のEA、及び1重量%のEA)の分別晶析を実行した。これらは、処理された粗製MMA中に存在し得るEAのレベルを表す。晶析容器は、絶縁ホースにより接続された外部Unistat 705冷凍ユニット(Huber オッフェンブルク/ドイツ)を使用して冷却した。このシステムは、熱伝達流体(Huber Thermal Fluid(HTF)DW-Therm M90.200.02)を使用した。晶析装置システムの温度は、Unistat 705ユニットの内蔵温度制御機能により制御された。出口HTF温度が0~-60℃の範囲で制御された(図2)。
【0035】
分別晶析プロセスは、23時間にわたる最終の精製された結晶生成物の核形成、成長、複数の「溶解」、及び溶融フェーズからなった。図2からわかるように、核形成は、温度を比較的急速にMMAの凝固点未満に下げ、その後、比較的急速に温度を上昇させてMMAの凝固点又はそれに近い温度にすることで行われる。次いで、上澄み液の純度に応じて凝固点が下がるにつれて、温度をゆっくりと下げて結晶成長を行う。次いで、上澄み液を取り除き、温度をMMAの融点に向かってわずかに上げて結晶の溶解を開始する。図2では、単一の溶解工程を示している。しかしながら、複数の溶解工程を実施することもできる。各溶解フェーズの後、晶析容器からEA含有量の多い液体プロセス画分を除去して、晶析したMMAのこの不純物のレベルを低減した。次いで、温度を-20℃に上げて結晶を溶融して、精製されたMMAを液体として除去した。分離効率は、初期の2成分MMA-EA濃度と最終の溶融した生成物の濃度から決定された。エチルアクリレート濃度は、MMA中のEAが10~1重量%のレベルとMMA中のEAが500~5ppmwのレベルの2つの別々の検量線からGC-FID分析によって決定された。
【0036】
結果は表2に示される。
【0037】
【表2】
【0038】
表2からわかるように、MMA生成物の流れからEAを除去する分離効率は非常に高い。
注目は、本出願に関連する本明細書と同時に又はそれ以前に提出され、本明細書と共に公開される全ての文献及び文書に向けられ、全てのそのような文献及び文書の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
本明細書(任意の添付する特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に開示された全ての特徴、及び/又はそのように開示された任意の方法又はプロセスの全ての工程は、そのような特徴及び/又は工程の少なくともいくつかが相互に排他的である場合の組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【0040】
本明細書(任意の添付する特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に開示されたそれぞれの特徴は、他に明示的に述べられていない限り、同一、等価、又は同様の目的を果たす代替の特徴によって置き換えられ得る。従って、特に記載されない限り、開示されたそれぞれの特徴は、一般的な一連の等価又は同様の特徴の単なる一例である。
【0041】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は本明細書(任意の添付する特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に開示された特徴の任意の新規な1つ、又は任意の新規な組み合わせ、或いはそのように開示された任意の方法又はプロセスの工程の、任意の新規な1つ又は任意の新規な組み合わせに及ぶ。
図1
図2
【国際調査報告】