(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ステント、ステントの製造方法、及び呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/06 20060101AFI20241112BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20241112BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20241112BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/04 100
A61L31/12 100
A61L31/14 500
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515200
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 US2022080726
(87)【国際公開番号】W WO2023102462
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513112245
【氏名又は名称】リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミネソタ
【氏名又は名称原語表記】REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MINNESOTA
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】門脇 功治
(72)【発明者】
【氏名】グルマック,ダニエル イー.
(72)【発明者】
【氏名】ハンター,ライアン コールソン
(72)【発明者】
【氏名】メイバー,ロブロイ ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ピーターソン,グレゴリー カーミット
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081AC06
4C081AC09
4C081CA161
4C081CA18
4C081DA03
4C081DB07
4C081EA03
(57)【要約】
生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む、呼吸器用のステント。前記生体吸収性ポリエステルコポリマーは2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであり、2種類の前記エステル結合形成性モノマーをそれぞれモノマーA及びモノマーBとした場合に、下記式で表されるR値が0.25以上0.99以下である:R=[AB]/(2[A][B])×100。式中、[A]はポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)であり、[B]はポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)であり、[AB]はポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む、呼吸器用のステントであって、
前記生体吸収性ポリエステルコポリマーが、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであり、
2種類の前記エステル結合形成性モノマーをそれぞれモノマーA及びモノマーBとした場合に、下記式で表されるR値が0.25以上0.99以下である、ステント。
R=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
【請求項2】
JIS K6251(2017)に従った測定によるヤング率が0.1MPa以上50MPa以下である、請求項1に記載のステント。
【請求項3】
下記式で定義される復元性が40%以上である、請求項1又は2に記載のステント。
復元性(%)=(L
0×2-L
1)/L
0×100
L
0:初期長
L
1:ステントの最も長さのある方向に引張り応力を加えて、初期長L
0に対して100%の引張ひずみを生じさせる操作を10回繰り返した後の長さ
【請求項4】
下記式で定義される粘液付着量が60%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のステント。
粘液付着量(%)= (As-Asb)×100/(Ac-Acb)
As:サンプルの450nmにおける吸光度
Asb:サンプルのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
Ac:ポリ乳酸製ステントの450nmにおける吸光度
Acb:ポリ乳酸製ステントのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
【請求項5】
さらに水溶性ポリマーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のステント。
【請求項6】
下記式で定義される水溶性ポリマー含有量が0.1質量%以上25質量%以下である、請求項5に記載のステント。
水溶性ポリマー含有量(質量%)=[M1/(M1+M2)×100]
M1:水溶性ポリマーの質量
M2:ポリエステルコポリマーの質量
【請求項7】
前記水溶性ポリマーがポリアルキレングリコールである、請求項5又は6に記載のステント。
【請求項8】
前記ステント100質量%中に、前記生体吸収性ポリエステルコポリマーを50質量%以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のステント。
【請求項9】
前記モノマーAが、乳酸及びグリコール酸からなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記モノマーBが、カプロラクトン及びδ-バレロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1~8のいずれか一項に記載のステント。
【請求項10】
外径が4mm以上24mm以下であり、厚みが0.2mm以上2mm以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のステント。
【請求項11】
外側表面に複数の突起又は複数の凹凸を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のステント。
【請求項12】
前記突起又は凹凸の高さが0.1mm以上3.0mm以下である、請求項11に記載のステント。
【請求項13】
前記生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む印刷材料を用いて3Dプリンティングを行う工程を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のステントの製造方法。
【請求項14】
呼吸器用のステントを用いて呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法であって、
前記ステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含み、
前記生体吸収性ポリエステルコポリマーが、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであり、
2種類の前記エステル結合形成性モノマーをそれぞれモノマーA及びモノマーBとした場合に、下記式で表されるR値が0.25以上0.99以下である、方法。
R=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む、呼吸器用のステントに関する。本開示はまた、該ステントの製造方法、及び該ステントを用いて呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、体内に留置可能なインプラント医療機器であり、径方向に拡張可能なものもあり、様々な体腔または脈管(例えば血管系、食道、胃腸管、大腸および小腸、胆管、膵管、肺管、尿管、鼻腔および気管など)の内側に配置される。体腔または脈管が狭窄した場合、内腔を確保するためにステントが狭窄部分に留置される。
【0003】
このようなステントは、体腔内または脈管内に長期にわたって留置されるものや、所定の期間のみ体腔内または脈管内に留置され、内腔の開通性を維持した後に体内から除去されるものがある。例えば、肺がんなどで気道や気管支が狭窄した際に呼吸を確保するために狭窄部位に留置される気道ステントが、非特許文献1に開示されている。
所定の期間のみ体腔または脈管に留置されるステントの場合、生分解性の高分子材料を用いて治療したいというニーズがある。
【0004】
このような生体吸収性材の高分子材料として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン、あるいはこれらの共重合体である生体吸収性ポリエステルが注目されている。
例えば、特許文献1や2には、ポリ乳酸やポリカプロラクトンからなる生体吸収性ステントが開示されているが、生体吸収性ステントを開発する際に克服すべき課題は多く残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020-122096号
【特許文献2】日本国特許第6505438号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yueqi Zhu et al., Materials Today 2017、 20、 516-529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
体腔内または脈管内の動きによって屈曲、延伸、圧迫など複数の物理作用が働く環境の中でステントとして適切に機能することが求められるため、ステントには生体器官の内部の動きに対する高い追従性が求められている。また、気道ステントなど呼吸器用のステントにおいては、粘液付着や生体器官の動きに対する追従性の低さに起因した合併症の発生が大きな問題となっている。しかし、非特許文献1や特許文献2に記載の生体吸収性ステントは、硬質であるがゆえに生体器官の動きに対する追従性に乏しく、留置箇所から移動、脱落したり、周辺組織を傷つけたりする場合があった。更に、ステントを留置部位に搬送するためのトロカーやカテーテルは気道よりも内径が細く、硬質のステントはトロカーの中を通して搬送することが難しく、時には破損することもあった。また、硬質のステントをうまく変形させることができたとしても、気道のサイズに適した形状に復元することは不可能であった。
【0008】
また、特許文献1には、生体吸収性ポリエステルを含み、かつ生体器官の動きに対する追従性に優れた医療用成形体が開示されているが、粘液付着に関する検討はされていない。そして、粘液付着はステントの狭窄や感染など合併症の発生の原因となる場合があった。
【0009】
そこで本開示は、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含むことにより粘液付着を抑制でき、生体器官の動きに対する追従性に優れた生体適合性の高い呼吸器用のステントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本開示は以下を提供する。
〔1〕
生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む、呼吸器用のステントであって、
前記生体吸収性ポリエステルコポリマーが、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであり、
2種類の前記エステル結合形成性モノマーをそれぞれモノマーA及びモノマーBとした場合に、下記式で表されるR値が0.25以上0.99以下である、ステント。
R=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
〔2〕
JIS K6251(2017)に従った測定によるヤング率が0.1MPa以上50MPa以下である、〔1〕に記載のステント。
〔3〕
下記式で定義される復元性が40%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のステント。
復元性(%)=(L0×2-L1)/L0×100
L0:初期長
L1:ステントの最も長さのある方向に引張り応力を加えて、初期長L0に対して100%の引張ひずみを生じさせる操作を10回繰り返した後の長さ
〔4〕
下記式で定義される粘液付着量が60%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のステント。
粘液付着量(%)= (As-Asb)×100/(Ac-Acb)
As:サンプルの450nmにおける吸光度
Asb:サンプルのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
Ac:ポリ乳酸製ステントの450nmにおける吸光度
Acb:ポリ乳酸製ステントのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
〔5〕
さらに水溶性ポリマーを含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のステント。
〔6〕
下記式で定義される水溶性ポリマー含有量が0.1質量%以上25質量%以下である、〔5〕に記載のステント。
水溶性ポリマー含有量(質量%)=[M1/(M1+M2)×100]
M1:水溶性ポリマーの質量
M2:ポリエステルコポリマーの質量
〔7〕
前記水溶性ポリマーがポリアルキレングリコールである、〔5〕又は〔6〕に記載のステント。
〔8〕
前記ステント100質量%中に、前記生体吸収性ポリエステルコポリマーを50質量%以上含む、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載のステント。
〔9〕
前記モノマーAが、乳酸及びグリコール酸からなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記モノマーBが、カプロラクトン及びδ-バレロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一つである、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載のステント。
〔10〕
外径が4mm以上24mm以下であり、厚みが0.2mm以上2mm以下である、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載のステント。
〔11〕
外側表面に複数の突起又は複数の凹凸を有する、〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載のステント。
〔12〕
前記突起又は凹凸の高さが0.1mm以上3.0mm以下である、〔11〕に記載のステント。
〔13〕
前記生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む印刷材料を用いて3Dプリンティングを行う工程を含む、〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載のステントの製造方法。
〔14〕
呼吸器用のステントを用いて呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法であって、
前記ステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含み、
前記生体吸収性ポリエステルコポリマーが、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであり、
2種類の前記エステル結合形成性モノマーをそれぞれモノマーA及びモノマーBとした場合に、下記式で表されるR値が0.25以上0.99以下である、方法。
R=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
【0011】
本開示は、粘液付着を抑制でき、生体器官の動きに対する追従性に優れ生体適合性の高い呼吸器用のステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態の具体例に係るステントの概略模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の別の具体例に係るステントの概略模式図である。
【
図3】
図3は、一実施形態のさらに別の具体例に係るステントの概略模式図である。
【
図4】
図4は、一実施形態のさらに別の具体例に係るステントの概略模式図である。
【
図6】
図6は、一実施形態のさらに別の具体例に係るステントの概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について説明する。なお、本開示は以下説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<ステント>
本実施形態に係るステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む、呼吸器用のステントである。
【0015】
本開示における「呼吸器」とは、呼吸に関する器官の総称であり、例えば、気道、口腔、鼻腔、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺等が挙げられる。
本実施形態に係るステントは、呼吸器用のステントであり、気道、気管、気管支、又は肺用のステントであることが好ましい。
本実施形態に係るステントを狭窄した呼吸器内に留置することにより、呼吸器の狭窄を解除して気流を確保することができる。
本実施形態に係るステントは狭窄した呼吸器のみならず、閉塞した呼吸器にも適用し得る。
【0016】
〔生体吸収性ポリエステルコポリマー〕
本実施形態に係るステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む。
本実施形態に係るステントは、特定の生体吸収性ポリエステルコポリマーを含むことにより、一定期間が経過後に生体内外で分解され、その結果物が代謝又は排出されるため、留置したステントを生体から取り出す処置が不要になるという利点がある。また、一定期間が経過後に生体内でステントの一部が分解される場合、ステントの残存した部分と生体組織とが馴染み、合併症を生じ難いという利点がある。
【0017】
本実施形態に係るステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含みさえすれば、生体吸収性ポリエステルコポリマーの含有量は限定されないが、ステント全体(100質量%)に対して生体吸収性ポリエステルコポリマーを50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。
生体に適用した際にステントが完全に消失することが求められる場合には、ステントが生体吸収性ポリエステルコポリマーのみからなる、つまりステント全体(100質量%)に対して生体吸収性ポリエステルコポリマーを100質量%含むことが特に好ましい。さらに、本開示において要求される、生体器官の動きに対する追従性に優れたステントとするため、ステントは、以下に説明するような生体吸収性ポリエステルコポリマーを上記の範囲内で含むことが好ましい。
【0018】
ここで、本開示の実施形態に係るステントにおける「生体吸収性」とは、生体内外に留置された後、ステントが加水分解反応や酵素反応によって自然に分解(すなわち生分解)し、その結果物が代謝または排出されることによって消失する性質である。
【0019】
本実施形態に係るステントにおいて、ポリエステルコポリマーは生体吸収性を有する。
ポリエステルコポリマーは、少なくとも1種類のエステル結合形成性モノマーを含む2種類以上のモノマーから構成されている共重合体であり、エステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするコポリマーであってもよい。
本実施形態に係るポリエステルコポリマーは、2種類以上のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを含むことが好ましく、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであってもよい。
【0020】
本実施形態に係るステントにおいて、生体吸収性ポリエステルコポリマーのより好ましい態様は、生体吸収性ポリエステルコポリマーが、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマー(以下、このような生体吸収性ポリエステルコポリマーが含む2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーについて、単に「本開示のポリエステルコポリマー」と記す場合がある。)を含む態様である。
【0021】
ポリエステルコポリマーの含有量は、ステント中の生体吸収性ポリエステルコポリマー(100質量%)中に、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。このような含有量とすることで、ステントが、体腔内または脈管内の動きによって屈曲、延伸、圧迫など複数の物理作用を受けて変形しても、元の形状に戻ることができ、かつ粘液付着を抑制することができる。
【0022】
「エステル結合形成性モノマー」とは、重合後、モノマー単位がエステル結合で連結しているポリマーを形成するモノマー、すなわち重合後にポリエステルを生じるモノマーを言う。
【0023】
エステル結合形成性モノマーとしては、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸の環状エステル、及びヒドロキシカルボン酸の二量体環状エステルからなる群より選択された少なくとも一種であることが好ましく、ヒドロキシカルボン酸等を用いることがより好ましい。
すなわち、ポリエステルコポリマーが、2種類以上のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを含み、前記エステル結合形成性モノマーが、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸の環状エステル、及びヒドロキシカルボン酸の二量体環状エステルからなる群より選択された少なくとも一種であることが好ましい。
【0024】
ヒドロキシカルボン酸としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を用いることが特に好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、特に、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0025】
乳酸としては、L-乳酸、D-乳酸、及びそれらの混合体を用いることができるが、得られるポリマーの物性や生体適合性の面からは、L-乳酸を用いることが好ましい。モノマーとしてL-乳酸とD-乳酸との混合体を用いる場合、L体の含有率が85%以上であることが好ましく、95%以上である方がより好ましい。
【0026】
ヒドロキシカルボン酸の環状エステルとしては、ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシ基とカルボキシル基が分子内脱水縮合した環状化合物であるラクトンが好ましい。また、ヒドロキシカルボン酸の二量体環状エステルとしては、2分子のヒドロキシカルボン酸の互いのヒドロキシ基とカルボキシル基が脱水縮合したラクチドが好ましい。
【0027】
ラクトンとしては、カプロラクトン、ジオキセパノン、エチレンオキザラート、ジオキサノン、1,4-ジオキサン-2,3-ジオン、トリメチレンカーボネート、δ-バレロラクトン、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、ピバロラクトン等を用いることができ、特にカプロラクトン、δ-バレロラクトンが好ましい。
【0028】
ラクチドとしては、乳酸2分子が脱水縮合したジラクチドや、グリコール酸2分子が脱水縮合したグリコリド、テトラメチルグリコリドを用いることができる。
【0029】
エステル結合形成性モノマーとしては、以上例示したモノマーの誘導体を用いることもできる。
【0030】
これらのなかでも本実施形態において、エステル結合形成性モノマーが、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、カプロラクトン、ジオキセパノン、エチレンオキザラート、ジオキサノン、1,4-ジオキサン-2,3-ジオン、トリメチレンカーボネート、δ-バレロラクトン、β-プロピオラクトン、ブチロラクトン(β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン)、ピバロラクトン、ジラクチド、グリコリド、及びテトラメチルグリコリドからなる群より選択された少なくとも一種であることがより好ましい。
【0031】
そして、モノマーA(後述)が、乳酸、グリコール酸、ジラクチド、及びグリコリドからなる群より選選される少なくとも1種であり、モノマーB(後述)が、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、δ-バレロラクトン、及びカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、モノマーAは、乳酸又はグリコール酸であることがさらに好ましく、モノマーBは、カプロラクトン又はδ-バレロラクトンであることがさらに好ましい。
【0032】
本明細書中では、生体吸収性ポリエステルコポリマーが2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーである場合、2種類のエステル結合形成性モノマーのうち、そのモノマー残基のみで構成されるホモポリマーの結晶性が高いモノマーをモノマーA、そのモノマー残基のみで構成されるホモポリマーの結晶性の低い他方のモノマーをモノマーBとする。ホモポリマーの結晶性は、次のように示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0033】
ホモポリマーをアルミニウムPANに採取し、示差走査熱量計(EXTAR 600;セイコーインスツル株式会社製)でDSC法により下記の条件Aで測定し、融解熱を算出する。単位質量当たりの融解熱が高いほど、結晶性が高いことを意味する。例えばポリ乳酸の単位質量当たりの融解熱を上記方法で求めると、93J/gである。
【0034】
(条件A)
機器名:EXTAR 600(セイコーインスツル株式会社製)
温度条件:25℃→250℃(加熱速度:10℃/min)
標準物質:α-アルミナ
【0035】
本開示においては、モノマーA残基とモノマーB残基の結晶化率がともに14%未満であることが好ましい。当該結晶化率が14%未満であれば、ヤング率の上昇が抑えられ、ステントに適したポリエステルコポリマーを得ることができる。モノマーAの残基及びモノマーB残基の結晶化率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
ここで、モノマーの残基の結晶化率とは、あるモノマー残基のみからなるホモポリマーの単位質量当たりの融解熱と本開示のポリエステルコポリマー中の当該モノマー残基の質量分率の積に対する、本開示のポリエステルコポリマー中の当該モノマー残基の単位質量当たりの融解熱の割合である。すなわち、モノマーA残基の結晶化率とは、モノマーAのみからなるホモポリマーの単位質量あたりの融解熱と本開示のポリエステルコポリマー中のモノマーA残基の質量分率の積に対する、本開示のポリエステルコポリマー中のモノマーA残基の単位質量当たりの融解熱の割合である。モノマーA残基およびモノマーB残基の結晶化率は、それぞれ本開示のポリエステルコポリマーのモノマーA残基もしくはモノマーB残基の中で結晶構造を形成している割合を示す。
【0036】
特に、モノマーA残基が乳酸残基、モノマーB残基がカプロラクトン残基である場合には、乳酸残基、カプロラクトン残基の結晶化率は14%未満であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。結晶化率は、具体的に下記の方法で求めるものとする。
【0037】
ポリエステルコポリマーを濃度が5質量%になるようにクロロホルムに溶解させ、その溶液を“テフロン(登録商標)”製シャーレ上に移して、常圧、室温(20℃~25℃)下で20~24時間乾燥させる。結果物を減圧乾燥させて、ポリエステルコポリマーフィルムを得る。得られたポリエステルコポリマーフィルムをアルミナPANに採取し、示差走査熱量計でDSC法により下記の条件で測定し、温度条件(D)及び(E)の測定結果から融解熱を算出する。結晶化率は下記式から算出する。
【0038】
乳酸残基の結晶化率(%)=〔(ポリエステルコポリマーの乳酸残基の単位質量当たりの融解熱)/(乳酸残基のみからなるホモポリマーの単位質量当たり融解熱)×(ポリエステルコポリマー中の乳酸残基の質量分率)〕×100
【0039】
カプロラクトン残基の結晶化率(%)=〔(ポリエステルコポリマーのカプロラクトン残基の単位質量当たりの融解熱)/(カプロラクトン残基のみからなるホモポリマーの単位質量当たり融解熱)×(ポリエステルコポリマー中のカプロラクトン残基の質量分率)〕×100
【0040】
機器名:EXTAR 600(セイコーインスツル株式会社製)
温度条件:(A)25℃→(B)250℃(加熱速度:10℃/min)→(C)250℃(保持時間:5min)→(D)-70℃(冷却速度:10℃/min)→(E)250℃(加熱速度:10℃/min)→(F)250℃(保持時間:5min)→(G)25℃(冷却速度:100℃/min)
標準物質:アルミナ
【0041】
本明細書において、「モノマー残基」とは、原則として、当該モノマーを含む2種以上のモノマーを重合して得られたコポリマーの化学構造中における、当該モノマーに由来する化学構造の反復単位を言う。例えば、乳酸(CH3CH(OH)COOH)と、カプロラクトン(ε-カプロラクトン:下記式)とを重合して、乳酸とカプロラクトンのコポリマーとした場合、
【0042】
【0043】
乳酸モノマー残基は下記式で表され、
【0044】
【0045】
下記式で表される単位
【0046】
【0047】
がカプロラクトンモノマー残基である。
【0048】
なお、例外として、モノマーとしてラクチド等の2量体を用いる場合には、「モノマー残基」は当該2量体に由来する2回の繰り返し構造のうちの1つを意味するものとする。例えば、ジラクチド(L-(-)-ラクチド:下記式)
【0049】
【0050】
とカプロラクトンとを重合した場合、得られるコポリマーの化学構造には、ジラクチド残基として上記式(R1)に示される構造が2回繰り返された構造が形成されるが、この場合にはそのうち1つの乳酸単位を「モノマー残基」と捉え、ジラクチドに由来して2つの「モノマー残基」、すなわち2つの乳酸残基が形成されたと考えるものとする。
【0051】
本実施形態の生体吸収性ポリエステルコポリマーは、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーである。ここで、2種類のモノマー残基を「主構成単位」とする、とは、その他のモノマー残基を含めたポリマー全体に含まれる全てのモノマー残基数の和を100%とした場合に、当該2種類のモノマー残基数の和が50モル%以上であり、かつ2種類のモノマーのそれぞれの残基数が20モル%以上であることを意味する。例えば、モノマーA残基とモノマーB残基とを主構成単位とする、とは、ポリマー全体に含まれる全てのモノマー残基数の和を100%とした場合に、モノマーA残基とモノマーB残基の残基数の和が50モル%以上であり、かつモノマーA残基数が20モル%以上であり、かつモノマーB残基数が20モル%以上であることを意味する。
ここで、モノマーA残基、モノマーB残基、その他の残基のモル分率は、核磁気共鳴(NMR)測定により、それぞれの残基に由来するシグナルの面積値より決定できる。例えば、モノマーA残基が乳酸残基、モノマーB残基がカプロラクトン残基である場合には、後述する測定例1に記載の方法でそれらのモル分率を測定することができる。
【0052】
モノマーA残基数とモノマーB残基数の和は、前述の定義から、その他のモノマー残基を含めたポリマー全体に含まれる全てのモノマー残基数の和を100モル%とした場合に50モル%以上であり、75モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。また、モノマーA残基数およびモノマーB残基数は、同じく前述の定義からそれぞれ20モル%以上であり、30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましい。モノマーA残基数およびモノマーB残基数の和が100モル%(ポリマー全体)であるポリマー、すなわちモノマーAおよびモノマーBのみからなるポリマーは、特に好ましい態様として挙げられる。
【0053】
なお、本開示の効果を損なわない限りにおいて、主構成単位を構成する2種類のエステル結合形成性モノマーと共重合し得る別のモノマーを更に共重合させることもできる。このようなモノマーとしては、前述のエステル結合形成性モノマーのうちのさらに別のものを用いることができる。
【0054】
また、リンカーとして機能するモノマーを共重合させることも好ましい態様である。リンカーとして機能するモノマーとしては、主構成単位を構成する2種類のエステル結合形成性モノマーとは別のヒドロキシカルボン酸や、ジアルコール、ジカルボン酸、アミノ酸、ジアミン、ジイソシアネート、ジエポキシド等が挙げられる。
【0055】
なお、本明細書においては、エステル結合形成性モノマー以外のモノマーを構成単位に含むことにより、エステル結合以外の結合で連結された構成単位を含むコポリマーも含めて「ポリエステルコポリマー」と表記するものとする。
【0056】
本実施形態に係るポリエステルコポリマーは、生体吸収性を有する必要がある。当業者は、上記例示したモノマーを適宜組み合わせ、また本開示に規定する範囲内においてモノマーの量比を調整することにより、用途に応じて適当な生体吸収性を発現するコポリマーを合成することができるであろう。
【0057】
本開示のポリエステルコポリマーにおいて、モノマーA残基とモノマーB残基のモル比は、モノマーAとモノマーBのうち一方が過剰に存在すると、ポリエステルコポリマーがホモポリマー様の性質に近づくことから、モノマーA残基とモノマーB残基の全体(全モル数100%)に対する、モノマーA残基のモル比率が20%~80%であることが好ましく、30%~70%がより好ましく、40%~60%がさらに好ましい。
【0058】
本実施形態に係るステントにおいては、ポリエステルコポリマーが、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであり、2種類のエステル結合形成性モノマーのうち、そのモノマー残基のみで構成されるホモポリマーの結晶性が高いモノマーをモノマーA、そのモノマー残基のみで構成されるホモポリマーの結晶性の低い他方のモノマーをモノマーBとした場合に、下記式で表されるR値が0.25以上0.99以下であることが好ましい。
【0059】
R=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
【0060】
R値は、2種類のエステル結合形成性モノマー残基、すなわちモノマーA残基およびモノマーB残基を主構成単位とするコポリマーにおける、モノマー残基の配列のランダム性を示す指標として用いられる。例えば、モノマー配列が完全にランダムなランダムコポリマーでは、R値は1となる。
R値は核磁気共鳴(NMR)測定によって、隣り合う二つのモノマー残基の組み合わせ(以下ダイアドと呼ぶ場合がある)のうちA-A、B-B、A-B、B-Aの数の割合を定量することで決定でき、具体的には後述する測定例1に記載の方法で測定するものとする。例えば、ポリエステルコポリマーがモノマーAおよびモノマーBのみからなる場合、[AB]とは、ポリエステルコポリマー中の全ダイアド(A-A、B-B、A-B、B-A)の総数に対する、A-Bダイアドの数およびB-Aダイアドの数の合計の割合を指す。
また、エステル結合形成性モノマーが3種類以上存在する場合には、含有量の多い2種類のエステル結合形成性モノマーを選択して、その2種類の中で、そのモノマー残基のみで構成されるホモポリマーの結晶性が高いモノマーをモノマーA、そのモノマー残基のみで構成されるホモポリマーの結晶性の低い他方のモノマーをモノマーBとする。
例えば、ポリエステルコポリマーがモノマーX、モノマーY、およびモノマーZの3種類のモノマーからなる場合、含有量の多い上位二つのモノマーを選択し、その2種類のモノマーの中でホモポリマーの結晶性が高いモノマーをモノマーA、ホモポリマーの結晶性の低い他のモノマーをモノマーBとし、含有量の最も少ないものをモノマーCとする。その際に、[AB]とは、ポリエステルコポリマー中の全ダイアド(A-A、B-B、A-B、B-A、A-C、C-A、B-C、C-B、C-C)の総数に対する、A-Bダイアドの数およびB-Aダイアドの数の合計の割合を指す。ポリエステルコポリマーが4種類以上のモノマーからなる場合も同様である。
R値が0.25未満であると、ポリエステルコポリマーの結晶性が高く、得られるステントは硬くなりヤング率が上昇することや復元性が低下することがある。一方、R値が0.99を超えると、得られるステントは柔らかくなりすぎ粘着性を示すようになり、取扱性が低下することや復元性が低下することがある。そのため、生体器官の動きに対する高い追従性および、粘液付着を抑制して高い生体適合性を発揮するためには、R値が0.25以上0.99以下であることが好ましく、0.45以上0.99以下であることがさらに好ましく、0.50以上0.85以下であることがより好ましく、0.50以上0.80以下であることがさらにより好ましい。
【0061】
本実施形態に係るポリエステルコポリマーの重量平均分子量は、結晶化率を好適な範囲に制御するため、80,000~1,000,000の範囲内が好ましく、100,000~1,000,000の範囲内がさらに好ましく、120,000~750,000の範囲内がより好ましく、150,000~750,000の範囲内がより好ましく、150,000~500,000の範囲内がさらに好ましく、200,000~500,000の範囲内が特に好ましい。ポリエステルコポリマーの重量平均分子量は、例えば測定例2に記載の方法で測定することができる。
【0062】
〔ポリエステルコポリマーの製造方法〕
本実施形態に係るポリエステルコポリマーは、一例として、
2種類のエステル結合形成性モノマーであるモノマーAおよびモノマーBを、重合完了時においてモノマーA残基の数とモノマーB残基の数の和が全残基の数の50モル%以上、モノマーA残基の数が全残基の数の20モル%以上、かつモノマーB残基の数が全残基の数の20モル%以上となるよう配合して重合させるマクロマー合成工程;
前記マクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結するか、あるいは前記マクロマー合成工程で得られたマクロマー溶液に前記モノマーAおよび前記モノマーBを追添加することによりマクロマーをマルチ化するマルチ化工程;
を有するポリエステルコポリマーの製造方法により製造することができる。
【0063】
〔マクロマー合成工程〕
マクロマー合成工程では、モノマーAとモノマーBを、理論上重合完了時においてモノマーA残基の数とモノマーB残基の数の和が全残基の数の50モル%以上、モノマーA残基の数が全残基の数の20モル%以上、かつモノマーB残基の数が全残基の数の20モル%以上となるよう配合して重合を行う。これにより、モノマーA残基とモノマーB残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーが得られる。本製造方法においてはさらにマルチ化工程(後述)を行うため、本明細書においては、本工程により得られるポリエステルコポリマーを「マクロマー」と表現する。
【0064】
エステル結合形成性モノマーとしては、前述のものと同様のものを用いることができ、エステル結合形成性モノマーの好ましい組み合わせ等についても前述の記載に準じる。
【0065】
2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを構成するモノマー残基の分布のランダム性は、重合時のモノマーの反応性の違いにより変化する。すなわち、重合時に、当該2種類のモノマーのうち、一方のモノマーの後に、同じモノマーと他方のモノマーが同確率で結合すれば、モノマー残基が完全にランダムに分布したコポリマーが得られる。しかし、一方のモノマーの後にいずれかのモノマーが結合し易い傾向がある場合は、モノマー残基の分布に偏りのあるグラジエントコポリマーが得られる。得られたグラジエントコポリマーは、その分子鎖にそって重合開始末端から重合終了末端にかけてモノマー残基の組成が連続的に変化している。
【0066】
ここで、モノマーAの方がモノマーBよりも初期重合速度が大きい場合、マクロマー合成工程においてモノマーAとモノマーBとを共重合させた場合、モノマーAの後にモノマーAが結合し易い。そのため、合成されたマクロマーにおいては、重合開始末端から重合終了末端にかけてモノマーA単位の割合が徐々に減少する組成勾配をなすグラジエント構造が形成される。すなわち、本工程で得られるマクロマーは、モノマーA残基とモノマーB残基とが骨格中で組成勾配をなすように配置されたグラジエント構造を有する。すなわち、初期重合速度の異なるモノマーAとモノマーBを本工程で用いることにより、骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有するマクロマーを得ることができる。このようなマクロマーを、本明細書においては「グラジエントマクロマー」と呼ぶ場合がある。
【0067】
マクロマー合成工程においては、このようなグラジエント構造を実現するために、開始末端から一方向に起こる重合反応によりマクロマーを合成することが望ましい。このような合成反応としては、開環重合、リビング重合を利用した反応が好ましい例として挙げられる。
【0068】
本工程で得られるマクロマーは、最終的に前述のR値範囲を満たすポリエステルコポリマーを製造しやすくするため、ポリエステルコポリマーで所望されるR値と同様のR’値を有するもの、すなわち、下記式で表されるR’値が0.25以上0.99以下であることが好ましい。
R’=[AB’]/(2[A’][B’])×100
[A’]:マクロマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B’]:マクロマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB’]:マクロマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A’-B’、およびB’-A’)のモル分率(%)
【0069】
マクロマー合成工程で合成されるマクロマーの重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上である。また、結晶性を抑えマクロマーの柔軟性を保つためには、マクロマー合成工程で合成されるマクロマーの重量平均分子量は、150,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましい。
【0070】
〔マルチ化工程〕
マルチ化工程では、マクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結するか、あるいはマクロマー合成工程で得られたマクロマー溶液にモノマーAおよびモノマーBを追添加することによりマルチ化する。本工程においては、一のマクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結してもよいし、二以上のマクロマー合成工程で得られた複数のマクロマーを連結してもよい。なお、「マルチ化」とは、モノマーA残基とモノマーB残基とが骨格中で組成勾配を有するように配置されたグラジエント構造を有する分子鎖が複数繰り返される構造を形成することを意味する。
マルチ化するマクロマー単位の数は2以上であれば良いが、連結数が多いと分子鎖の絡み合いによる引っ張り強度の向上効果が出ることから、マルチ化するマクロマー単位の数は3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、6以上であることがさらに好ましい。一方、製造されるポリエステルコポリマーの分子量が過度に増大すると、粘度上昇により成形性に悪影響を及ぼす懸念があるため、マクロマー単位の数は80以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
マクロマー単位の連結数は、マルチ化工程において使用する触媒や反応時間によって調整することができる。マクロマー同士を連結させてマルチ化を行う場合、マクロマー単位の数は、最終的に得られたポリエステルコポリマーの重量平均分子量を、マクロマーの重量平均分子量で除して求めることができる。
【0071】
マルチ化工程における触媒としては、例えば、p-トルエンスルホン酸4-ジメチルアミノピリジニウム、4-ジメチルアミノピリジン等が使用可能である。
【0072】
本開示のポリエステルコポリマーは、マクロマー単位同士が直線状に連結した直鎖状ポリマーでも良いし、マクロマー単位が分岐して連結した分岐鎖状ポリマーであっても良い。
【0073】
直鎖状のポリエステルコポリマーは、例えば、グラジエントマクロマーと、同様のグラジエントマクロマーを、一度に1分子ずつ、末端同士を介して結合させてゆくことで合成できる。
【0074】
グラジエントマクロマーがヒドロキシル基とカルボキシル基を各末端に有する場合は、末端同士を縮合剤により縮合させることで、マルチ化したポリエステルコポリマーが得られる。縮合剤としては、p-トルエンスルホン酸4-ジメチルアミノピリジニウム、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-カルボニルジイミダゾール、1,1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム=クロリドn水和物、トリフルオロメタンスルホン酸(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-(2-オクトキシ-2-オキソエチル)ジメチルアンモニウム、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロリン酸塩、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、クロロトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロリン酸塩、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O-(3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン-3-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、S-(1-オキシド-2-ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルチウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、O-[2-オキソ-1(2H)-ピリジル]-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、{{[(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデン)アミノ]オキシ}-4-モルホリノメチレン}ジメチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸塩、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロリン酸塩、1-(クロロ-1-ピロリジニルメチレン)ピロリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、2-フルオロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロリン酸塩、フルオロ-N,N,N’,N’-テトラメチルホルムアミジニウムヘキサフルオロリン酸塩等が使用可能である。
【0075】
また、重合反応がリビング性を有する場合、すなわち重合物の末端から連続して重合反応を開始しうる場合には、重合反応が終了した後のグラジエントマクロマー溶液にモノマーAおよびモノマーBを追添加する操作を繰り返すことで、マルチ化することができる。
【0076】
あるいは、グラジエントマクロマー同士は、ポリマーの力学的特性に影響を与えない範囲においてリンカーを介してマルチ化しても良い。特に、複数のカルボキシル基または複数のヒドロキシ基を有するリンカー、例えば2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を使用すると、リンカーが分岐点となった分岐鎖状のポリエステルコポリマーを合成することができる。
【0077】
以上のような製造方法により得られるポリエステルコポリマーは、モノマーA残基とモノマーB残基とが、骨格中で組成勾配を有するように配置されたマクロマー単位が2つ以上連結した構造のコポリマーとなり、これは本開示のポリエステルコポリマーの好ましい態様である。本明細書においては、このような構造を便宜的に「マルチグラジエント」構造、マルチグラジエント構造を有するコポリマーを「マルチグラジエントコポリマー」と記載する場合がある。
【0078】
つまり本開示のポリエステルコポリマーはマルチグラジエントコポリマーであることが好ましく、マルチグラジエントコポリマーとしては、モノマーA残基と前記モノマーB残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有するマクロマー単位が2つ以上連結した構造を有することが好ましく、このようなマクロマー単位が3つ以上連結した構造を有することがより好ましい。また、モノマーA残基と前記モノマーB残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有するマクロマー単位の連結数の上限としては、そのようなマクロマー単位の連結数は80以下であることが好ましく、40以下がより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
【0079】
前述の通り、モノマーA残基が乳酸であり、モノマーB残基がカプロラクトン残基であるポリエステルコポリマーは、本開示の特に好ましい。このようなポリエステルコポリマーは、下記のような製造方法により好ましく製造される。
【0080】
まず、マクロマー合成工程において、触媒の存在下にてジラクチドとε-カプロラクトンを重合させる。ジラクチド、ε-カプロラクトン単量体は、使用前に不純物を取り除くために、好ましくは精製される。ジラクチドの精製は、たとえばナトリウムによって乾燥されたトルエンからの再結晶で可能である。ε-カプロラクトンは、たとえばCaH2からN2雰囲気下で減圧蒸留によって精製される。
【0081】
乳酸残基とカプロラクトン残基とを有するマクロマー合成工程の触媒としては、通常のゲルマニウム系、チタン系、アンチモン系、スズ系触媒等のポリエステルの重合触媒が使用可能である。このようなポリエステルの重合触媒の具体例としては、オクチル酸スズ、三フッ化アンチモン、亜鉛粉末、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズが挙げられる。触媒の反応系への添加方法は特に限定されるものではないが、好ましくは原料仕込み時に触媒を原料中に分散させた状態で添加する、あるいは減圧開始時に触媒を分散処理した状態で添加する方法である。触媒の使用量は使用するモノマーの全量に対して0.01~3質量%(金属原子換算)、より好ましくは0.05~1.5質量%である。
【0082】
乳酸残基とカプロラクトン残基とを有するマクロマーは、ジラクチド、カプロラクトンおよび触媒を、撹拌機を備えた反応容器に入れ、120℃~250℃、窒素気流下でジラクチドとカプロラクトンを反応させることにより得ることができる。
【0083】
反応にはヒドロキシピバル酸、アルコール等の開始剤を用いてもよい。水を助開始剤として使用する場合は、重合反応に先立って、90℃付近で助触媒反応を行うことが好ましい。
【0084】
反応時間としては2時間以上、好ましくは4時間以上、更には重合度を上げるためには、反応時間はより長時間例えば8時間以上が好ましい。ただし、長時間反応を行いすぎるとポリマーの着色の問題が生じるため、反応時間は3~30時間が好ましい。
【0085】
次に、マルチ化工程において、乳酸残基とカプロラクトン残基とを有するグラジエントマクロマーの末端同士を縮合反応により連結し、マルチ化する。縮合反応の反応温度は10℃~100℃が好ましく、更に好ましくは20℃~50℃である。反応時間としては1日以上、更に好ましくは2日以上が好ましい。ただし、長時間反応を行いすぎるとポリマーの着色の問題が生じるため、反応時間は2~4日が好ましい。
【0086】
本実施形態に係るポリエステルコポリマーは、マクロマー単位が2つ以上連結した構造を有し、モノマーA又はモノマーBにおいて、初期重合速度の速い方の速度をVX、遅い方をVYとした場合に、マクロマー単位は、1.1≦VX/VY≦40を満たすモノマーA残基及びモノマーB残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであることが好ましい。
1.1≦VX/VY≦40を満たすモノマーA残基及びモノマーB残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであるマクロマー単位を2つ以上連結した構造のポリエステルコポリマーとすることにより、グラジエント構造のマクロマー単位とすることができ、結果として本実施形態に係るポリエステルコポリマーがマルチグラジエント構造となるために好ましい。
【0087】
本明細書中で「マクロマー」とは、上述のマクロマー合成工程で得られるポリエステルコポリマーを指し、マクロマー合成工程の後に上述のマルチ化工程に用いるためのポリエステルコポリマーであるため、混乱を避けるためにこのポリエステルコポリマーを「マクロマー」と表現する。「マクロマー単位」とは、ポリエステルコポリマーの分子鎖中において、1つのマクロモノマーからなる部分を指す。例えば、マクロマーが2つ連結してポリエステルコポリマーを形成している場合、そのポリエステルコポリマーはマクロマー単位が2つ連結した構造を有するポリエステルコポリマーである。
【0088】
また、「マクロマー単位における2種類のモノマー残基を「主構成単位」とする」、とは、当該2種類のモノマー残基数の和が、その他のモノマー残基を含めたマクロマー単位全体に含まれる全てのモノマー残基数の合計(100%)の50モル%以上であり、かつそれぞれの残基の数が、マクロマー単位全体に含まれる全てのモノマー残基数の合計(100%)の20モル%以上であることを意味する。例えば、「モノマーA残基とモノマーB残基とを主構成単位とする」、とは、これら2種類のモノマー残基の数の和が、マクロマー単位全体に含まれる全てのモノマー残基数の合計(100%)の50モル%以上であり、かつモノマーA残基の数が20モル%以上であり、かつモノマーB残基の数が20モル%以上であることを意味する。ここで、モノマーA残基、モノマーB残基、その他の残基のモル分率は、核磁気共鳴(NMR)測定により、それぞれの残基に由来するシグナルの面積値より決定できる。例えば、モノマーA残基が乳酸残基、モノマーB残基がカプロラクトン残基である場合には、これらのモル分率は後述する測定例1に記載の方法で測定することができる。
【0089】
ここで、モノマーA又はモノマーBにおいて、初期重合速度の速い方と遅い方であるVXとVYは、以下の方法で求められる。モノマーAとモノマーBを等モル混合し、必要に応じて溶媒、触媒を添加し、最終的に合成された、あるいは合成しようとするポリエステルコポリマーにおける上述のR値と誤差10%の範囲内で同じR値になるように温度等の条件を調整し重合反応を開始する。重合中の試料から定期的にサンプリングを行い、モノマーAとモノマーBの残量を測定する。残量は、例えば、クロマトグラフィーや核磁気共鳴(NMR)測定で測定する。仕込み量から残量を差し引くことで、重合反応に供されたモノマー量が求められる。サンプリング時間に対して重合反応に供されたモノマー量をプロットすると、その曲線の初期勾配がVX、VYである。
【0090】
モノマーAがモノマーBよりも初期重合速度が大きい場合、このようなモノマーAとモノマーBとを反応させると、重合初期においてモノマーAが重合中のポリマー末端に結合する確率が高い。一方、モノマーAが消費され反応液中の濃度が減少する重合後期においては、モノマーBが重合中のポリマー末端に結合する確率が高くなる。その結果、一方の末端からモノマーA残基の割合が徐々に減少するグラジエントポリマーが得られる。このようなグラジエントポリマーは、結晶性が低くなり、ヤング率上昇も抑えられる。こうしたグラジエント構造が形成されやすくするため、VX/VYは、1.3以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。一方、モノマーAとモノマーBの重合速度の差が大きすぎると、グラジエントポリマーはモノマーAのみが重合した後にモノマーBが重合したブロックポリマーに近い構造となり、結晶性が高くなってヤング率の上昇を招く場合があることから、VX/VYは30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、10以下であることが一層好ましい。
【0091】
このようなモノマーAとモノマーBの好ましい組み合わせとしては、ジラクチドとε-カプロラクトン、グリコリドとε-カプロラクトン、グリコリドとジラクチド、ジラクチドとジオキセパノン、エチレンオキザラートとジラクチド、ジラクチドとδ-バレロラクトン、グリコリドとδ-バレロラクトンが挙げられる。
【0092】
本実施形態に係るステントは、前述のとおり生体吸収性ポリエステルコポリマーとして、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを含むことが好ましい。本実施形態に係るステントは、さらに生体吸収性ポリエステルコポリマーとは異なる水溶性ポリマーを含むことも好ましい。生体吸収性ポリエステルコポリマーとは異なる水溶性ポリマーの含有量は特に限定されないが、本実施形態に係るステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーとは異なる水溶性ポリマーを0.1~50質量%含むことがより好ましく、0.1~10質量%含むことがさらに好ましい。
【0093】
加えて、粘液付着を抑制する観点から、本実施形態に係るステントは、下記式で規定される水溶性ポリマー含有量が0.1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましく、2.0質量%以上5.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0094】
水溶性ポリマー含有量(質量%)=[M1/(M1+M2)×100]
M1:水溶性ポリマーの質量
M2:ポリエステルコポリマーの質量
【0095】
なお、生体吸収性ポリエステルコポリマーとは異なる水溶性ポリマーとは、生体吸収性ポリエステルコポリマー以外のポリマーであって、水に溶解するポリマーのことを指す。より具体的には、後述の測定法に従って、水に溶解するかどうかを評価することで、あるポリマーがこのカテゴリに含まれるかどうか判断することができる。
【0096】
水溶性ポリマーは、水溶性を有する材料から構成される。ただし、水溶性ポリマーには水溶性の発現を損ねない限りは、上記材料以外の添加剤等が含まれてもよい。ここで、37℃に加温した100mLの水中に、1gのポリマーを加え、3時間撹拌して目視にて確認し、ポリマーが溶解していた場合に、その材料(ポリマー)は「水溶性を有する」と判断される。水溶性材料は、37℃の水100質量部に1質量部以上可溶な材料であることが好ましい。
【0097】
生体吸収性ポリエステルコポリマーとは異なる水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセトアミド、ポリマレイン酸、ポリスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ポリリン酸、でんぷん、寒天、ゼラチン、プルラン、デキストリン、キサンタンガム、及びこれらの塩または共重合体または共重合体塩などが挙げられるが、これらのうち、特にポリアルキレングリコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩または共重合体または共重合体塩が好ましく、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩または共重合体または共重合体塩がより好ましく、ポリアルキレングリコールが最も好ましい。
【0098】
本実施形態に係るステントは、前述のとおり生体吸収性ポリエステルコポリマーとして、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを含むことが好ましい。ステントは、さらに生体吸収性のホモポリマーを含むことも好ましい。つまり、生体吸収性ポリエステルコポリマーとして、2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマー、並びに、ホモポリマーの両方を含むステントは、本実施形態に係るステントの好ましい態様である。
【0099】
すなわち、本実施形態に係るステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーは、生体吸収性のポリエステルコポリマー以外のポリエステルを更に含んでいてもよい。
このような生体吸収性のポリエステルコポリマー以外のポリエステルとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D、L、DL体)、ポリε-カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレート吉草酸、ポリオルソエステル、ポリヒドロキシバレリル酸、ポリヒドロキシヘキサン酸、ポリブチレンサクシネート、ポリテレフタール酸トリメチレン、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリジオキサノンからなる群より選択されるポリエステルが挙げられる。
【0100】
なかでも、本実施形態に係るステントは、乳酸とグリコール酸の共重合体、又は乳酸とε-カプロラクトンとの共重合体のいずれかを含でいることが好ましく、本実施形態に係るステントは、更にポリ乳酸を含んでいてもよい。
【0101】
なお、本実施形態に係るステントが生体吸収性ポリエステルコポリマーとして2種類のエステル結合形成性モノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマー並びにホモポリマーの両方を含む態様の場合、生体器官の動きに対する追従性を維持するために、ホモポリマーのステント中の含有量は、生体吸収性ポリエステルコポリマー(100量%)中に50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、その下限は特に限定されないが、ホモポリマーのステント中の含有量は、1質量%以上であることが好ましい。
【0102】
本実施形態に係るステントは、JIS K6251(2017)に従った測定によるヤング率が0.1MPa以上50MPa以下であることが好ましい。この測定方法は、後述する測定例3に記載のとおりである。ステントは、様々な体腔内または脈管内に留置されるものであるため、ステントのヤング率が高すぎると、屈折や湾曲などの変形によって外力がステントに加わった場合に、ステントが留置箇所周辺の組織を圧迫、擦傷、穿刺などして傷つける可能性がある。そのため、ステントのヤング率は、50MPa以下であることが好ましく、20MPa以下であることがさらに好ましく、10MPa以下であることがさらに好ましい。
一方、ステントのヤング率が低すぎると、屈折や湾曲などの変形によって外力がステントに加わると、ステントが形状を維持できなくなるため、ステントのヤング率は0.1MPa以上が好ましく、0.5MPa以上がより好ましく、1.0MPa以上であることがさらにより好ましい。
【0103】
本実施形態に係るステントは、JIS K6251(2017)に従った測定による引張強さが4MPa以上であることが好ましい。この測定方法は、後述する測定例3に記載のとおりである。引張強さは、ステントの耐破断強度に直結する因子である。そのためステントの引張強さは4MPa以上であることが好ましく、5MPa以上であることがさらに好ましい。屈折や湾曲などのより激しい変形が生じる部位に用いるステントでは、引張強さは10MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがさらに好ましい。ステントの引張強さは大きいほど好ましく、引張強さに特に上限はないが、引張強さの現実的な上限は500MPa程度と考えられる。
【0104】
本実施形態に係るステントは、JIS K6251(2017)に従った測定による破断伸度が200%以上であることが好ましい。この測定方法は、後述する測定例3に記載のとおりである。破断伸度はステントの耐破断強度を示す因子である。体腔内または脈管内の動きによって屈曲、延伸、圧迫など複数の物理作用が働く環境の中に設置されるステントの場合、ステントの破断伸度は、200%以上が好ましい。より激しい変形が生じる部位に用いるステントでは、ステントの破断伸度は500%以上であることが好ましく、800%以上であることがより好ましく、1000%以上であることがさらにより好ましい。ステントの破断伸度は大きいほど好ましく、破断伸度に特に上限はないが、破断伸度の現実的な上限は2500%程度と考えられる。
【0105】
また、本実施形態に係るステントは、様々な体腔内または脈管内に留置して用いられるものであるため、体腔または脈管の内面の動きによって屈曲、延伸、圧迫など複数の物理作用を受けて変形しても、復元性(すなわち元の形状に戻る能力)を持つことが必要である。また、復元性は、ステントを搬送する際に使用するトロカーやカテーテルの中に変形させたステントを挿入、搬送し、搬送先でステントがトロカーの出口から出た際に、元通りの形状に復元して気道壁にしっかりと固定させるためにも必要となる特性である。そのため本実施形態に係るステントは、以下の式で定義される復元性が40%以上であることが重要である。なお復元性は、後述の測定例3のように下記式から定量的に評価することができる。
【0106】
復元性(%)=((L0×2-L1)/L0)×100
L0:初期長
L1:ステントの最も長さのある方向に引張り応力を加えて、初期長L0に対して100%の引張ひずみを生じさせる操作を10回繰り返した後の長さ
【0107】
ステントの復元性が100%に近いほど、果たすべき機能が変形によって失われにくいことを示す。ステントは、体腔または脈管の内面の動きによって屈曲、延伸、圧迫など複数の物理作用を受けるため、本実施形態に係るステントは復元性が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることが特に好ましい。ステントの復元性は大きいほど好ましく、復元性の上限は100%である。
【0108】
さらに、本実施形態に係るステントは、様々な体腔内または脈管内に留置して用いられるものであるため、粘液付着を抑制できることが好ましい。よって本実施形態に係るステントは、以下の式で定義される粘液付着量(%)が60%以下であることが好ましい。粘液付着量は、後述の測定例5のように下記式から定量的に評価することができる。
【0109】
粘液付着量(%)= (As-Asb)×100/(Ac-Acb)
As:サンプルの450nmにおける吸光度
Asb:サンプルのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
Ac:ポリ乳酸製ステントの450nmにおける吸光度
Acb:ポリ乳酸製ステントのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
【0110】
ステントの粘液付着量が0%に近いほど、ステントは粘液付着を抑制することができる。粘液付着はステントの狭窄や感染など合併症の発生の原因となる場合があるため、本実施形態に係るステントは、粘液付着量が60%以下であることが好ましく、50%以下であることが好ましい。
【0111】
このような生体吸収性ポリエステルコポリマーを用いて、溶融成形法、溶媒成形法、電解紡糸法または3Dプリンターによる成形法を用いて成形加工することで、本実施形態に係るステントを作製(成形又は成型)することができる。
【0112】
溶融成形法とは、ポリマーを加熱して溶融させ、鋳型や押出成形機、プレス機などを用いて成形する方法であり、繊維状、フィルム状、チューブ状などに成形してステントを作製することができる。例えば直径1mmの口金をセットした押出成形機内で200℃まで本明細書に記載のコポリマーを加熱し、押し出すことでポリマーを糸状に成形することができ、その繊維を織り加工や編み加工することでステントを作製することができる。
【0113】
溶媒成形法とは、ポリマーを溶媒に溶解させ、得られた溶液を鋳型や凝固浴に注入し、溶媒と溶質を分離することで成形する方法であり、ポリマーを繊維状、フィルム状、チューブ状などに成形してステントを作製することができる。溶媒成形法の具体例としてはクロロホルムに20%溶解させたポリマー溶液に、直径0.5~20mmの棒を浸漬させた後引き上げ、溶媒の揮発の後、棒を再度浸漬させることを5~50回程度繰り返し、最後に芯となる棒を引き抜くことでチューブ状のステントに成形することができる。
【0114】
電解紡糸法とは、紡糸ノズル内のポリマー溶液に高電圧を加えることにより、直径が数ナノメートルのナノファイバーからなる繊維構造体を生成することができる技術であり、紡糸時間の調整によって繊維構造体の厚みを所望の範囲に調整することができる。例えば、円柱状のコレクターを回転させながらポリマー繊維を集積した後、コレクターを繊維構造体から引き抜くことにより、チューブ状の繊維構造体を作製することができる。
また、上述の生体吸収性ポリエステルコポリマーを3Dプリンター用のインク材料とすることで、オーダーメード型のステントを作製することができる。なお、本開示は、上述の生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む印刷材料を用いて3Dプリンティングを行う工程を含むステントの製造方法にも関する。
【0115】
本実施形態に係るステントの形状について説明する。
図1~3は、本実施形態の具体例に係るステントを模式的に示す図である。
本実施形態に係るステントの形状は、特に限定されるものではないが、
図1に示すようにステントは管状構造部分を含んでいてもよい。
図1に示すステント10においては、管状構造部分の内側が内側表面11であり、内側表面11以外の面が外側表面12である。また、管状構造部分は、径方向に拡張可能でもよい。また、
図3は本実施形態に係る別のステントを示し、分岐を有している。本実施形態に係るステントは、ステントが適用される呼吸器の形状に合う形状を有することが好ましい。
【0116】
また、本実施形態に係るステントのサイズは、特に限定されるものではないが、呼吸器用ステントとして機能するために、管状構造部分における外径が4mm以上24mm以下であり、厚みは0.2mm以上2mm以下であることが好ましく、外径が6mm以上20mm以下であり、厚みは0.25mm以上1.5mm以下であることがより好ましく、外径が6mm以上20mm以下であり、厚みは0.3mm以上1.2mm以下であることがさらにより好ましい。
厚みをこのように制御することで、合併症を起こす恐れの少ないより安全なステントを提供できる。なお、ステントの厚みは、式「(ステントの外径-ステントの内径)/2」、により求めることができる。
【0117】
また、ここでいう「外径」とは、外周面に突起または凹凸がある場合は、それらを含むと規定される。外周面に突起または凹凸がない場合は、「外径」は突起または凹凸を含まないと規定され、ステントの一部に上記範囲の外径となる部位が存在していさえすれば良い。
【0118】
本実施形態に係るステントの形状は、上述のものに限定されるものではないが、留置後のステントの移動を防ぐために、ステントの外側表面に突起又は凹凸が配置されていることが好ましい。突起又は凹凸の数は複数であることが好ましい。
複数の突起又は凹凸は規則的またはランダムに配置されていてもよい。ステントの外側表面に突起が配置されている場合、例えば、
図1、2及び3に示すように複数の突起40Aが規則的またはランダムに配置されていてもよい。
【0119】
また突起又は凹凸は、外側表面上に局所的に配置されていてもよく、外側表面の全体に配置されていてもよく、外側表面上に点在していてもよい。
【0120】
突起40Aの形状は、特に制限はなく、例えば、半球状、円柱状、円錐状、柱状、多角錘状、鍵状等であってもよい。突起40Aの形状は、より具体的には、例えば、
図1に示すような半球状であってもよく、
図2に示すような円柱状であってもよい。
凹凸の形状は、特に制限はなく、ひだ状、シボ状、パターン形状(例えばライン状、波状)等であってもよい。凹凸の形状は、より具体的には、例えば、
図6における図に示すようなひだ状であってもよく、
図4に示すステントにおける凸部40Bのような、ライン状のパターン形状であってもよい。
【0121】
また、ステントの外側表面に突起又は凹凸が配置されている場合、突起の大きさについても特に制限はなく、突起又は凹凸の大きさ(高さ)は、組織への刺激を抑える観点からから、4.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましく、2.0mm以下がさらにより好ましい。また、ステントの留置後の移動を防ぐ効果を発揮するには、突起又は凹凸の大きさ(高さ)は、0.1mm以上が好ましく0.2mm以上がより好ましい。
【0122】
留置後のステントの移動を防ぐために、例えば、3DCTに基づいた解剖学的精度の高いデータを作成し、解剖学的な解析に基づいて3Dプリント技術を用いて、ステントを適用する患者の呼吸器の形状に適したサイズ及び形状のステントとすることもできる。また、ステントを配置する呼吸器の内腔径とステント外径の差異が10%以下であるステントが好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下であることがよりさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0123】
本実施形態に係るステントの組成は、上述の生体吸収性ポリエステルコポリマーを含むこと以外に特に制限はなく、ステント全体又はステントの一部のみが生体吸収性ポリエステルコポリマーからなっていてもよい。
また、本実施形態に係るステントは、基材を有していてもよく、基材の表面に樹脂層を有していてもよい。
【0124】
〔基材〕
ステントが有する基材(ステント基材)の材料は、特に限定されるものではなく、金属、又は樹脂を含んでいてもよい。
金属としては、例えば、ステンレス鋼、コバルト合金、チタン合金、ニッケルチタン合金(ニチノール)などが挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、生体吸収性ポリエステルコポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、及びシリコーン樹脂等が挙げられ、生体適合性、力学物性、加工性などの観点から生体吸収性ポリエステルコポリマー又はシリコーン樹脂が好ましい。
【0125】
基材の材料が生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む場合、基材はその全体が生体吸収性ポリエステルコポリマーにより形成したものであってもよく、一部に生体吸収性ポリエステルコポリマーを含むものであってもよい。
基材に含まれる生体吸収性ポリエステルコポリマーとしては上述のものを挙げることができ、基材に含まれる生体吸収性ポリエステルコポリマーの好ましい例も同様である。
基材は、1種の材料又は2種以上の材料から形成されていてもよい。
【0126】
〔樹脂層〕
本実施形態のステントは、表面層として樹脂層を有していてもよい。ステントの表面層における樹脂層は、基材表面上に形成され樹脂からなる。
【0127】
本実施形態に係るステントが樹脂層を有する場合、基材と、樹脂層との間に、基材の成分と樹脂層の成分とが混合した混合層を含むことが好ましい。
樹脂層の材料としての樹脂は、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、生体吸収性ポリエステルコポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、及び水溶性ポリマーが挙げられ、生体吸収性ポリエステルコポリマー、及び水溶性ポリマーが好ましい。
樹脂層の材料が生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む場合、樹脂層は、その全体が生体吸収性ポリエステルコポリマーにより形成したものであってもよく、一部に生体吸収性ポリエステルコポリマーを含むものであってもよい。
本実施形態に係るステントは、ステントの表面に、樹脂を含む樹脂層を有し、前記樹脂層(100質量%)中に、前記生体吸収性ポリエステルコポリマーを50質量%以上含むことが好ましい。樹脂層100質量%中、生体吸収性ポリエステルコポリマーの含有量は70質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0128】
図5は
図1に示す本実施形態の一具体例に係るステント10のA-A断面図である。
図5に示すように、ステント10は、基材21と、樹脂層23との間に、基材21の成分と樹脂層23の成分とが混合した混合層22を含むことが好ましい。
【0129】
基材と、樹脂層との間に形成される混合層は、樹脂層を構成する樹脂の一部が基材の内部に入り込んだものであってもよい。また、混合層は、基材を構成する材料の一部が樹脂層の内部に入り込んだものであってもよい。本実施形態に係るステントが混合層を含む場合、樹脂を含む層が、樹脂層と、混合層とを含む2層以上の積層構成となる。
【0130】
本実施形態に係るステントは、少なくとも内側表面11の一部に、樹脂層を有することが好ましく、内側表面11の全部に樹脂層が形成されていてもよい。本実施形態に係るステントは、さらに、外側表面12の一部又は全部に樹脂層を有していてもよい。
生体適合性の観点から、本実施形態に係るステントは、内側表面11及び外側表面12の全部に、すなわち、ステントの表面の全部に樹脂層を有していることが好ましい。
【0131】
樹脂層を形成する生体吸収性ポリエステルコポリマー及び水溶性ポリマーについては上述の生体吸収性ポリエステルコポリマー及び水溶性ポリマーについての説明をそのまま援用し得る。
樹脂層は、1種の材料、又は2種以上の材料から形成されていてもよい。
【0132】
また、本実施形態に係るステントは、薬剤を担持もしくは吸着させることによって、薬剤溶出ステントとして用いることも可能である。
本実施形態に係るステントは、様々な体腔または脈管(例えば血管系、食道、胃腸管、大腸および小腸、胆管、膵管、肺管、尿管、鼻腔および気管など)の狭窄した部位に移植して内腔を確保する用途に適用できるが、これらに限定されるものではない。なお、本実施形態に係るステントは、生体吸収性ポリエステルコポリマーを含むことから復元性が高く、さらに薬剤溶出ステントとして用いることが可能なため、本実施形態に係るステントは、血管系、気管、鼻腔などに留置するステントに用いることが好適であり、さらに粘液付着を抑制できることから、本実施形態に係るステントは、気管、鼻腔などに留置するステントに用いることが特に好適である。
【0133】
<呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法>
本実施形態に係る呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法は、呼吸器用のステントを用いて呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法であって、
前記ステントは、上記実施形態の生体吸収性ポリエステルコポリマーを含む。
【0134】
本実施形態に係る呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法は、上述のステントを用いることにより、粘液付着を抑制でき、生体適合性に優れた方法であり、合併症の発生を抑制することができる。
本実施形態に係る呼吸器の狭窄を解除して気流を確保する方法において、ステントについては上述の説明をそのまま援用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本実施形態に係るステントは、例えば、気道、口腔、鼻腔、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺等の呼吸器に適用し得るステントである。また、本実施形態に係るステントは、呼吸器以外の様々な体腔または脈管(例えば血管系、食道、胃腸管、大腸および小腸、胆管、膵管、肺管、尿管など)の狭窄した部位に移植して内腔を確保する用途にも適用できる。
【実施例】
【0136】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0137】
(測定例1:核磁気共鳴(NMR)による各残基のモル分率およびR値の測定)
精製したポリエステルコポリマーを重クロロホルムに溶解し、1H-NMRにより測定してポリエステルコポリマー中の乳酸モノマー残基及びカプロラクトンモノマー残基の比率をそれぞれ算出した。また、1Hホモスピンデカップリング法により、乳酸のメチン基(5.10ppm付近)、カプロラクトンのαメチレン基(2.35ppm付近)、εメチレン基(4.10ppm付近)について、あるモノマー残基に乳酸とカプロラクトンのどちらが隣り合っているかを示すシグナルで、隣り合う二つのモノマー残基の組合せを分離し、それぞれのピーク面積を定量した。ε-カプロラクトンの代わりにδ-バレロラクトンを用いた場合、同様に乳酸のメチン基(5.10ppm付近)、バレロラクトンのαメチレン基(2.35ppm付近)、εメチレン基(4.10ppm付近)について、あるモノマー残基に乳酸とバレロラクトンのどちらが隣り合っているかを示すシグナルで、隣り合う二つのモノマー残基の組合せを分離し、それぞれのピーク面積を定量した。
それぞれのピーク面積比から、[AB]及びR値を算出した。ここで、[AB]は、ポリエステルコポリマー中の乳酸残基とカプロラクトン残基もしくはバレロラクトン残基が隣り合った構造のモル分率である。具体的には、[AB]はA-Aダイアド、A-Bダイアド、B-AダイアドおよびB-Bダイアドの総数に対するA-Bダイアドの数とB-Aダイアドの数の合計の割合(%)である。結果を表1に示す。
機器名:JNM-ECZ400R(日本電子株式会社製)
1Hホモスピンデカップリング照射位置:1.66ppm
溶媒:重クロロホルム
測定温度:室温(20℃~25℃)
【0138】
R=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
【0139】
(測定例2:ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量の測定)
使用したポリエステルコポリマーの重量平均分子量は以下に示す条件で測定した。
【0140】
(GPC測定条件)
機器名:Prominence(株式会社島津製作所製)
移動相:クロロホルム(HPLC用)(和光純薬工業株式会社製)
流速:1mL/min
カラム:TSKgel GMHHR-M(φ7.8mm×300mm;東ソー株式会社製)
検出器:UV(254nm)、RI
カラム、検出器温度:35℃
標準物質:ポリスチレン
精製したポリエステルコポリマーをクロロホルムに溶解し、0.45μmのシリンジ(DISMIC-13HP;ADVANTEC社製)を通過させて不純物等を除去した後にGPCにより測定して、ポリエステルコポリマーの重量平均分子量を算出した。結果を表1に示す。
【0141】
(測定例3:引張り試験)
各実施例及び比較例で作製したステント(厚み1.0mm)から40mm×5mmの試験片を切り出し、テンシロン万能試験機RTM-100(株式会社オリエンテック製)でJIS K6251(2017)に従い、下記の条件で引張試験を測定し、破断伸度、引張強さを算出した。また、応力-ひずみグラフにおいて、応力の発生開始から5点のデータから得られる1次近似式の傾きをヤング率として算出した。
必要に応じて、適切なマーカを用いて、2本の標線を試験片につけた。標線は、試験片は引っ張られていない状態とし、試験片の平行部分に対して直角に、かつ、試験片の中央から等距離に、正確、かつ、鮮明に付けた。
機器名:EZ-1kNLX(島津アクセス製)
試験前の標線間距離:10mm
つかみ具間距離:10mm(標線の位置をつかんだ)
引張速度:500mm/min
ロードセル:1kN
試験回数:5回
【0142】
さらに復元性は、500mm/minの引張速度で、試験前のつかみ具間距離に対して100%の引張ひずみを生じさせた(操作1)。そして操作1の後、ただちに(すなわち形状保持時間を0秒として)、500mm/minの速度で引張ひずみを緩和させて、つかみ具間距離を5mmに戻した(操作2)。操作2の後、ただちに(すなわち形状保持時間を0秒として)、前述の操作1及び操作2を再度行った。これを繰り返し、操作1及び操作2をそれぞれ10回行った後、得られたL1の値を用いて、下式から復元性を求めた。
(復元性(%))=((L0×2-L1)/L0)×100
L0:初期長(試験前の標線間距離)
L1:ステントの最も長さのある方向に引張り応力を加えて、初期長に対して100%の引張ひずみを生じさせる操作を10回繰り返した後の長さ(試験後の標線間距離)
【0143】
(測定例4:ポリマーの水溶性の評価)
37℃の100mLの水中に、1gのポリマーを加え、得られた溶液を3時間撹拌した。その後溶液を目視にて確認し、ポリマーが溶解していた場合、そのポリマーは水溶性を有する、と判断した。
【0144】
(測定例5:in vitroでの粘液付着試験)
唾液からムチンを精製し、濃度が100μg/mLになるように調製しムチン溶液とした。ステントを直径4mm径のディスク形状に打ち抜き、マイクロタイタープレートの48ウェルにセットした。それぞれのウェルに濃度100μg/mLのムチン溶液を600μL添加し、37℃で20~24時間インキュベートした。また、コントロールとして、ムチン溶液の代わりにPBSを添加し、37℃で20~24時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、ブロッキングバッファー(ThermoFisher Scientific 37570)を添加し、室温(20℃~25℃)で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、WGA(Biotinylated Wheat Germ Agglutinin (WGA)、Vector Laboratories B-1025-5、PBSで500倍希釈した)を添加し、室温で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(HRP-Streptavidin、Sigma-Aldrich RABHRP3-600UL)を添加し、室温で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、TMB(3,3′,5,5′-Tetramethylbenzidine (TMB) substrate、Thermo Scientific PI34028)溶液を250μL添加し、室温で15~30分インキュベート後にサンプルを取り出し、2mol/Lの硫酸を250μL添加し、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダで測定して、以下の式(1)に示すように、粘液(ムチン)付着量を算出した。
【0145】
[粘液付着量]
(粘液付着量(%))= (As-Asb)×100/(Ac-Acb) 式(1)
As:サンプルの450nmにおける吸光度
Asb:サンプルのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
Ac:ポリ乳酸製ステントの450nmにおける吸光度
Acb:ポリ乳酸製ステントのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSを用い、一晩インキュベート)の450nmにおける吸光度
【0146】
[リン酸緩衝液]
リン酸緩衝液の組成は、以下の通りである。
KCl 0.2g/L
KH2PO4 0.2g/L
NaCl 8.0g/L
Na2HPO4(anhydrous) 1.15g/L
EDTA 0.25g/L
【0147】
<実施例1>
50.0gのL-ラクチド(PURASORB L;PURAC社製)と、39.6gのε-カプロラクトン(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)とをモノマーとして、0.46gのヒドロキシピバル酸を開始剤として、セパラブルフラスコに採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、5.8mLのトルエン(超脱水、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.27gのオクチル酸スズ(II)(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を加え、140℃で9.5時間反応させ、粗コポリマーを得た。
得られた粗コポリマーを200mLのクロロホルムに溶解し、撹拌状態にある3000mLのヘキサンに滴下して、沈殿物を得た。沈殿物を50℃で減圧乾燥してマクロマーを得た。
【0148】
当該マクロマー50gと、触媒である2.9gのp-トルエンスルホン酸4-ジメチルアミノピリジニウム(合成品)と、1.2gの4,4-ジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、200mLのジクロロメタン(脱水、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)に溶解し、縮合剤である2.4mLのジイソプロピルカルボジイミド(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を添加し、室温(20℃~25℃)で20時間縮合重合させた。
反応混合物を220mLのクロロホルムで希釈し、乳酸を10g添加した後3時間撹拌した。その後330mLのイオン交換水を加え、15分間撹拌し、デカンテーションで水相を除去する工程を除去した水相のpHが7になるまで繰り返した。残った有機相を撹拌状態にある2200mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を50℃で減圧乾燥して実施例1の精製ポリエステルコポリマーを得た。
得られたポリエステルコポリマーを約5mm角にカットした後、押出機に投入し、設定温度を100℃~200℃にし、得られるフィラメントの直径が1.75mmになるよう押し出した。このフィラメントを用い、熱溶解積層法式の3Dプリンターを用いて、
図6に示すチューブ状の成形体(内径:10mm、厚み:1.0mm、長さ:40mm)であるステントを得た。
【0149】
<実施例2>
60.0gのL-ラクチド(PURASORB L;PURAC社製)と、31.7gのε-カプロラクトン(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)とをモノマーとして、0.46gのヒドロキシピバル酸を開始剤として、セパラブルフラスコに採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、5.8mLのトルエン(超脱水、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.27gのオクチル酸スズ(II)(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を加え、140℃で9.5時間反応させ、粗コポリマーを得た。
得られた粗コポリマーを200mLのクロロホルムに溶解し、撹拌状態にある3000mLのヘキサンに滴下して、沈殿物を得た。沈殿物を50℃で減圧乾燥してマクロマーを得た。
【0150】
当該マクロマー50gと、触媒である2.1gのp-トルエンスルホン酸4-ジメチルアミノピリジニウム(合成品)と、0.87gの4,4-ジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、200mLのジクロロメタン(脱水、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)に溶解し、縮合剤である1.7mLのジイソプロピルカルボジイミド(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を添加し、室温(20℃~25℃)で20時間縮合重合させた。
【0151】
反応混合物を220mLのクロロホルムで希釈し、乳酸を10g添加した後3時間撹拌した。その後330mLのイオン交換水を加え、15分間撹拌し、デカンテーションで水相を除去する工程を除去した水相のpHが7になるまで繰り返した。残った有機相を撹拌状態にある2200mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を50℃で減圧乾燥して実施例2の精製ポリエステルコポリマーを得た。
また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0152】
<実施例3>
ヒドロキシピバル酸の量を0.45g、粗コポリマーを得るための反応温度を150℃、p-トルエンスルホン酸4-ジメチルアミノピリジニウムの量を2.1g、4,4-ジメチルアミノピリジンの量を0.87g、ジイソプロピルカルボジイミドの量を1.7mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の精製ポリエステルコポリマーを得た。
また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0153】
<実施例4>
50.0gのL-ラクチド(PURASORB L;PURAC社製)と、38.5mLのε-カプロラクトン(和光純薬工業株式会社製)とを、モノマーとしてセパラブルフラスコに採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、14.5mLのトルエン(超脱水、和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.81gのオクチル酸スズ(II)(和光純薬工業株式会社製)、助開始剤としてイオン交換水をモノマー/助開始剤比が142.9となるよう添加し、90℃で、1時間助触媒反応を行ったあと、150℃で、6時間、共重合反応させて、粗コポリマーを得た。
【0154】
得られた粗コポリマーを100mLのクロロホルムに溶解し、撹拌状態にある1400mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を3回繰り返し、沈殿物を70℃で減圧乾燥してマクロマーを得た。
【0155】
当該マクロマー30gと、触媒である0.28gのp-トルエンスルホン酸4-ジメチルアミノピリジニウム(合成品)と、0.10gの4、4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)を採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、濃度が30%となるようジクロロメタン(脱水、和光純薬工業株式会社製)に溶解し、5mLのジクロロメタンに溶解した縮合剤である0.47gのアミレン(東京化成工業社製)を添加し、室温(20℃~25℃)で2日間縮合重合させた。
【0156】
反応混合物に30mLのクロロホルムを添加し、得られた溶液を撹拌状態にある500mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を50mLのクロロホルムに溶解し、得られた溶液を撹拌状態にある500mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を2回繰り返し、沈殿物を50℃で減圧乾燥して実施例4の精製ポリエステルコポリマーを得た。また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0157】
<実施例5>
実施例3で得られたポリエステルコポリマーを45gと、ポリ乳酸(Nature3D社製)を5gとを、クロロホルム(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)500mLに加え溶解した後、得られた溶液を撹拌状態にある3000mLのヘキサンに添加して、得られた沈殿物を常圧、室温(20℃~25℃)下で24時間乾燥させた。さらに、この沈殿物を50℃で減圧乾燥させて、実施例5のポリマー組成物を得た。また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0158】
<実施例6>
ポリエステルコポリマーの量を35g、ポリ乳酸の量を15gに変更した以外は、実施例5と同様の方法で操作を行い、実施例6のポリマー組成物を得た。また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0159】
<実施例7>
実施例1で得られたポリエステルコポリマーを48.5gと、ポリエチレングリコール(シグマアルドリッチ社製)を1.5gとを、クロロホルム(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)500mLに溶解した後、得られた溶液を撹拌状態にある3000mLのヘキサンに添加して、沈殿物を得た。得られた沈殿物を常圧、室温(20℃~25℃)下で24時間乾燥させた。さらに、この沈殿物を50℃で減圧乾燥させて、実施例7のポリマー組成物を得た。また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0160】
<実施例8>
実施例1で得られたポリエステルコポリマーの量を48g、ポリエチレングリコールの量を2.0gとした以外は、実施例7と同様の方法で操作を行い、実施例8のポリマー組成物を得た。また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0161】
<実施例9>
実施例1で得られたポリエステルコポリマーの量を47.5g、ポリエチレングリコールの量を2.5gとした以外は、実施例7と同様の方法で操作を行い、実施例9のポリマー組成物を得た。
また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0162】
<実施例10>
p-トルエンスルホン酸4-ジメチルアミノピリジニウムの量を1.5g、ジイソプロピルカルボジイミドの量を1.2mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で合成を行い、実施例10の精製ポリエステルコポリマーを得た。
また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0163】
<実施例11>
50.0gのL-ラクチド(PURASORB L;PURAC社製)を、モノマーとしてセパラブルフラスコに採取した。これをアルゴン雰囲気下とし、14.5mLのトルエン(超脱水、和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.81gのオクチル酸スズ(II)(和光純薬工業株式会社製)を添加、150℃で3時間重合反応させた。これに、38.5mLのε-カプロラクトン(和光純薬工業株式会社製)を添加し、150℃で6時間重合反応させ、粗コポリマーを得た。
得られた粗コポリマーを100mLのクロロホルムに溶解し、得られた溶液を撹拌状態にある1400mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を3回繰り返し、沈殿物を70℃で減圧乾燥して実施例11の精製ポリエステルコポリマーを得た。
また、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0164】
<比較例1>
ポリ乳酸(Nature3D社製)を約5mm角にカットした後、押出機に投入し、設定温度を100℃~200℃にし、得られるフィラメントの直径が1.75mmになるようポリエステルコポリマーを押し出した。このフィラメントを用い、実施例1と同様にしてチューブ状の成形体であるステントを得た。
【0165】
実施例1~11及び比較例1で得られたポリマーとステントの各種測定結果を表1に示す。
【0166】
【0167】
【0168】
なお、表1中の「モノマーA残基比率」とは、モノマーA残基とモノマーB残基の全モル数(100%)に対する、モノマーA残基のモル比率(mol%)を示す。実施例1~11において、モノマーAはL-ラクチドであり、モノマーBはε-カプロラクトンである。また、VXはL-ラクチドの初期重合速度、VYはε-カプロラクトンの初期重合速度を表す。
【符号の説明】
【0169】
10 ステント
11 内側表面
12 外側表面
21 基材
22 混合層
23 樹脂層
40A 突起
40B 凸部
【国際調査報告】