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特表2024-542897ポリオレフィン多孔質膜、その製造方法、電池セパレータ、及び電気化学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多孔質膜、その製造方法、電池セパレータ、及び電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/44 20210101AFI20241112BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20241112BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241112BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20241112BHJP
   H01M 50/406 20210101ALI20241112BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/417
H01M50/489
H01M50/403 B
H01M50/403 A
H01M50/406
H01M50/411
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544439
(86)(22)【出願日】2023-04-25
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 CN2023090556
(87)【国際公開番号】W WO2024077927
(87)【国際公開日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2022/128427
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202211244275.0
(32)【優先日】2022-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523277116
【氏名又は名称】中材▲リ▼膜(南京)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薛山
(72)【発明者】
【氏名】白耀宗
(72)【発明者】
【氏名】▲賈▼国重
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼志▲剛▼
(72)【発明者】
【氏名】▲鄭▼蕾
(72)【発明者】
【氏名】董秋春
(72)【発明者】
【氏名】薛云卿
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼源
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼奇▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】孟祥淦
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼▲緒▼杰
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼杲▲ジュン▼
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB01
5H021BB02
5H021BB05
5H021CC02
5H021EE04
5H021HH00
5H021HH06
(57)【要約】
本開示は、電気化学デバイス用セパレータの技術分野に関し、ポリオレフィン多孔質膜、その製造方法、電池セパレータ、及び電気化学デバイスを開示する。本開示のポリオレフィン多孔質膜は、網目繊維構造を有し、その2万倍のSEM画像を観察した場合、以下の特性を有する。即ち、(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向結果R_MDが、(R_MD)<0.8を満たすこと、(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向結果R_TDが、(R_TD)<0.8を満たすこと。したがって、本開示のポリオレフィン多孔質膜は、セパレータとして電池における力学的性質が一致しており、セパレータの電池生産における安定性及び電池に適用した場合の安全性を向上させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、以下の特性を有する、ことを特徴とするポリオレフィン多孔質膜。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.8を満たし、R_MDは以下の式1により得られること
【数1】
式1
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積は、Lcosθであり、φは、nmを単位とした繊維の直径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.8を満たし、R_TDは以下の式2により得られること
【数2】
式2
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積は、Lcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項2】
網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、下記の特性を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン多孔質膜。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.5を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数3】
式1
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.5を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数4】
式2
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項3】
MD方向の延伸強度とTD方向の延伸強度との比であるMD/TD延伸強度比は、
0.8≦MD/TD延伸強度比≦1.2である、ことを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項4】
MD方向の破断伸びとTD方向の破断伸びとの比であるMD/TD破断伸び比は、
0.75≦MD/TD破断伸び比≦1.34である、ことを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項5】
膜厚が1~30μmである、ことを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィン多孔質膜は、
網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、下記特性を有し、
ポリオレフィン、孔形成剤及び添加剤を混練して押し出し、流延シートを製造するステップ1と、
流延シートを延伸し、延伸過程において流延シート自体の温度を140℃以下にし、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.5℃未満にし、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比であるMD/TD延伸倍率比を、0.9≦MD/TD延伸倍率比≦1.1にして、油付き膜を得るステップ2と、
油付き膜に抽出を施した後、ホットセット処理を行い、ホットセット処理過程において拡幅延伸処理によりステップ2のMD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比を維持するステップ3と、
を含む、ことを特徴とするポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.8を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数5】
式1
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.8を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数6】
式2
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項7】
前記ポリオレフィン多孔質膜は、網目繊維構造を有し、その2万倍のSEM画像を観察した場合、以下の特性を有し、
ポリオレフィン、孔形成剤及び添加剤を混練して押し出し、流延シートを製造するステップ1と、
流延シートを延伸し、延伸過程において流延シート自体の温度を140℃以下にし、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.5℃未満にし、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比であるMD/TD延伸倍率比を0.9≦MD/TD延伸倍率比≦1.1にし、油付き膜を得るステップ2と、
油付き膜に抽出を施した後、ホットセット処理を行い、ホットセット処理過程において拡幅延伸処理によりステップ2のMD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比を維持するステップ3と、
を含む、ことを特徴とする請求項6に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.5を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数7】
式1
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.5を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数8】
式2
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項8】
前記ステップ2では、MD方向の延伸倍率及びTD方向の延伸倍率は、いずれも5倍以上である、ことを特徴とする請求項6又は7のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ1では、前記ポリオレフィンの混練物における質量の割合は15%以上であり、前記ポリオレフィンの粘度平均分子量は、20万~500万の間である、ことを特徴とする請求項6又は7のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
前記添加剤は、酸化防止剤を含み、前記酸化防止剤の混練物における質量の割合は、0~0.5%であり、前記ステップ1では、酸化防止剤は、アミン類、含硫黄化合物、含窒素化合物、含リン化合物、有機金属塩のうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項6又は7のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
前記孔形成剤は、ホワイトオイル、パラフィンオイル、ポリエチレングリコールのうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項6又は7のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜を含む、ことを特徴とする電池セパレータ。
【請求項13】
正極と負極を分離する素子として、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜、又は請求項12に記載の電池セパレータを含む、ことを特徴とする電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本開示は、2022年10月28日に受理局である中国特許庁に提出された、出願番号がPCT/CN2022/128427、名称が「ポリオレフィン多孔質膜、その製造方法、電池セパレータ、及び電気化学デバイス」であるPCT特許出願の優先権を主張しており、そのすべての内容は引用により本開示に組み込まれている。
【0002】
[技術分野]
本開示は、電気化学デバイス用セパレータの技術分野に関し、特にポリオレフィン多孔質膜、その製造方法、電池セパレータ、及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
セパレータはリチウムイオン電池の重要な主材料として、主として正極と負極を分離して、短絡を防止するとともに、所定の電解液濡れ性と保液性を確保し、リチウムイオン輸送のための通路を提供する役割を果たす。セパレータの各特性は直接電池の界面特性と内部抵抗を決定し、さらに電池の充放電特性とサイクル特性に影響する。
【0004】
従来技術のリチウムイオン電池用セパレータは主にポリオレフィン多孔質セパレータを主体とし、ポリオレフィン多孔質セパレータは内部に多数の微細貫通細孔を含み、ポリオレフィンを骨格として多数の細孔を支持する三次元立体構造であり、その製造方法は主に乾式延伸法と湿式延伸法に分けられる。これらのうち、乾式法とは、ポリオレフィン膜を形成した後、低温でこの膜を延伸して微細孔を形成する方法であり、前記延伸により、ポリオレフィンの結晶化部であるシート間にマイクロクラックが生じることである。湿式法は、ポリオレフィン系樹脂が溶融して単相となる高温下でポリオレフィン系樹脂と希釈剤とを混練し、冷却中にポリオレフィンと希釈剤とを相分離した後、希釈剤を抜き出して空孔を形成する方法である。
【0005】
湿式法では、相分離処理後、延伸/抽出プロセスにより機械的強度と透明性を付与し、シート状に成形したポリエチレンブランクシートを延伸し、速度、倍率、温度等の延伸条件を調整することにより、結晶構造中の非晶質部分を長く延伸し、微細繊維を形成しながらシート層間に微細孔を形成する。湿式法は、乾式法に比べて、膜厚が薄く、孔径が均一であり、物性に優れている。
【0006】
公開番号JP2005056851Aの文献は積層膜の微多孔質膜を提案しており、セパレータのTD方向(機械に垂直な方向、幅方向)の熱収縮率を下げるために、その製造方法は、TD方向の延伸を行わないので、TD方向においては収縮が全くないといえるが、MD方向(機械方向、長さ方向)の一軸のみで孔を開けることで、TD方向の強度が十分でない極端な異方性を持つ微多孔質膜が形成され、これにより、例えば電池の圧壊試験や衝突試験等において、一方向に割れ等が生じ易くなる可能性がある。
【0007】
公開番号JP2014141644Aには、MD方向とTD方向の延伸強度の比が0.9以上1.5未満である2軸配向多孔質ポリプロピレン膜が記載されている。しかし、このポリプロピレン膜は乾式法で製造されているため、ガス抵抗が低く、破断伸び、靭性のさらなる改良が必要である。
【0008】
公開番号CN107250234Bの中国特許には、ポリプロピレンを主成分とし、MD方向とTD方向の延伸強度の比が0.4以上2.0以下であり、MD方向とTD方向の破断伸び比が0.6以上1.7以下であるポリオレフィン微多孔質膜が開示され、ポリオレフィン樹脂の結晶化を促進又は抑制する添加剤、造核剤及び結晶化阻止剤を添加することにより、ポリオレフィン多孔質膜の細孔構造を均一かつ微細にし、耐衝撃性を更に向上させることができる。
【0009】
そのため、電池の安全性を向上させるためには、セパレータの特性を向上させることが重要である。従来のポリオレフィン多孔質セパレータはリチウムイオン電池において成熟して応用できるが、従来技術は、主にセパレータの基本的な物性や物理的及び化学的特性に注目しており、ミクロ構造の一致性に対する注目は少ない。リチウムイオン電池用湿式セパレータの特性を向上させるためには、ミクロ構造を最適化させることで、その特性を向上させ、力学的性質の各方向の均一性を最適化させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-056851号(日本/A)
【特許文献2】特開2014-141644号(日本/A)
【特許文献3】中国特許第107250234号(中国/B)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、電池セパレータとして使用される場合、電池の安全性に優れた電池を提供でき、電池の生産安定性を向上させるポリオレフィン多孔質膜を提供することを目的とする。
本開示は、また、セパレータの延伸における配向の違いを小さく制御するとともに、成形温度を制御することによって、ミクロ繊維構造の配向が均一で、巨視的な両方向の力学的性質の違いが小さいポリオレフィン多孔質膜を得ることができる、上記のポリオレフィン多孔質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係るポリオレフィン多孔質膜は、湿式延伸により製造され、網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、以下の特性を有する。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.8を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数1】
式1
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、θは、繊維nとMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.8を満たし、R_TDは以下の式2により得られること
【数2】
式2
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、βは、繊維nとTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
【0013】
任意選択的に、係るポリオレフィン多孔質膜は、湿式延伸により製造され、網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、前記ポリオレフィン多孔質膜は以下の特性を有する。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.5を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数3】
式1
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、θは、繊維nとMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.5、R_TDは、以下の式2により得られること
【数4】
式2
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、βは、繊維nとTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
【0014】
前記ポリオレフィン微多孔質膜は、さらに、以下の特性を有する。
【0015】
任意選択的に、MD方向の延伸強度とTD方向の延伸強度との比がMD/TD延伸強度比であると、0.8≦MD/TD延伸強度比≦1.2である。
【0016】
任意選択的に、MD方向の破断伸びとTD方向の破断伸びとの比がMD/TD破断伸び比であると、0.4≦MD/TD破断伸び比≦1.2である。
【0017】
任意選択的に、前記ポリオレフィン多孔質膜の膜厚が1~30μmである。
【0018】
本開示は、さらに、
ポリオレフィンの混練物中の質量比≧15%、酸化防止剤の混練物中の質量比0~0.5%となるように、ポリオレフィン、孔形成剤、及び添加剤を混練して押し出し、ツインスクリューにより高温で分散させて混合し、可塑化した後、ダイを介して押し出し、流延シートを製造するステップ1と、
流延シートを延伸し、延伸過程において流延シート自体の温度を140℃以下にし、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.5℃未満にし、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比であるMD/TD延伸倍率比を、0.9≦MD/TD延伸倍率比≦1.1にして、油付き膜を得るステップ2と、
油付き膜に抽出を施した後、ホットセット処理を行い、ホットセット処理過程においてMDとTDとの元の延伸倍率の関係を維持し、前記ホットセット処理過程において拡幅延伸処理によりステップ2のMD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比を維持するステップ3と、
を含む前記ポリオレフィン多孔質膜の製造方法を提供する。
【0019】
任意選択的に、前記ステップ2では、MD方向の延伸倍率及びTD方向の延伸倍率は、いずれも5倍以上である。
【0020】
任意選択的に、前記ポリオレフィンの粘度平均分子量は、20万~500万の間である。
【0021】
任意選択的に、前記孔形成剤は、ホワイトオイル、パラフィンオイル、ポリエチレングリコールのうちの1種又は複数種である。
【0022】
任意選択的に、前記ステップ1では、添加剤は、酸化防止剤を含み、前記酸化防止剤は、アミン類、含硫黄化合物、含窒素化合物、含リン化合物、有機金属塩のうちの1種又は複数種である。
【0023】
本開示は、さらに、前記ポリオレフィン多孔質膜を含む電池セパレータを提供する。
本開示は、さらに、正極と負極を分離する素子として、前記ポリオレフィン多孔質膜又は前記電池セパレータを含む電気化学デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0024】
本開示は、以下の有益な効果がある。
本開示のポリオレフィン多孔質膜は、セパレータとして電池における力学的性質が一致しており、セパレータの電池生産における安定性及び電池に用いる場合の安全性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本開示の実施例の技術的解決手段をより明確に説明するために、以下では、実施例に使用される図面を簡単に説明するが、理解されるように、以下の図面は本開示のいくつかの実施例のみを示すため、範囲を限定するものではないとしてみなすべきであり、当業者であれば、創造的な努力を必要とせずに、これらの図面に基づいて他の図面を得ることもできる。
【0026】
図1】実施例1のポリオレフィン多孔質膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
図2】実施例2のポリオレフィン多孔質膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
図3】実施例3のポリオレフィン多孔質膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
図4】実施例4のポリオレフィン多孔質膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
図5】実施例5のポリオレフィン多孔質膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
図6】実施例6のポリオレフィン多孔質膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
図7】実施例9のポリオレフィン多孔質膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示の実施例の目的、技術的解決手段、及び利点をより明確にするために、以下、本開示の実施例における技術的解決手段を明確かつ完全に説明する。実施例に条件が明記されていない場合は、通常の条件又はメーカーが提案した条件に従って実施する。使用した試薬又は計器は製造メーカーが明記されていない場合、いずれも市販で購入できる通常の製品である。
【0028】
本発明者らは、ポリオレフィン多孔質膜中の繊維構造の均一性がセパレータの性能を確保するための重要な要素であり、マイクロ繊維構造の特性がポリオレフィン多孔質膜の電池セパレータとしての各マクロ性能を決定し、繊維の分布及び配向の均一性がセパレータの力学的性質の収縮均一性を決定し、ポリオレフィン多孔質膜が以下の特性を有する場合、優れた力学的性質の各方向の均一性を得ることができ、さらに電池に用いる場合により高い安全性を有することを見出した。
その2万倍のSEM画像を観察した場合、前記ポリオレフィン多孔質膜は、以下の特性を有する。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.8を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数5】
式1
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、θは、繊維nとMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.8を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数6】
式2
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、βは、繊維nとTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
【0029】
1つの形態では、係るポリオレフィン多孔質膜は、湿式延伸により製造され、網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、以下の特性を有する。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.5を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数7】
式1
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、θは、繊維nとMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.5を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数8】
式2
(ここで、Nは、観察領域内の最外側表面における繊維の数であり、各繊維はnで表され、βは、繊維nとTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維nの長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維nの直径の値である。)
【0030】
[ポリオレフィン樹脂]
原料となるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができる。ポリエチレンとしては、特に限定されないが、各種のポリエチレン、例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどを用いることができる。
なお、ポリエチレンは、エチレンの単独重合体であってもよく、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレンなどが挙げられる。
本明細書では、前記ポリオレフィン多孔質膜とは、ポリオレフィン樹脂を主成分とする微多孔質膜、例えば、ポリオレフィン樹脂が微多孔質膜の全量の90質量%以上である微多孔質膜をいう。以下、本実施形態に係るポリオレフィン多孔質膜の物性について説明する。
【0031】
[MD/TD延伸強度比]
本開示のポリオレフィン多孔質膜では、MD方向とTD方向の延伸強度の比であるMD/TD延伸強度比が0.8以上1.2以下であってもよい。延伸強度の比が上記の範囲である場合、あらゆる方向の衝撃に対して力をより均一に受けることができるので、セパレータとして電池に適用した場合の耐衝撃性が向上し、より安定的で、膜の破れや短絡を抑制することができる。
電池に適用した場合の安全性及び安定性の観点から、任意選択的に、MD/TD延伸強度比を1に近づけるが、この場合、ポリオレフィン多孔質膜の強度に方向依存性がないため、膜に応力が加わった際に、靭性に優れており、特定方向にクラックが発生することがなく、微多孔質膜に異物が貫通しても貫通孔の拡大を回避することができる。そうでない場合、MD方向の延伸強度が大きすぎると、MD方向の引き裂きが発生することがある。TD方向の延伸強度が大きすぎると、TD方向の引き裂きや電極タブの接着部の接着破壊が発生して短絡が発生しやすくなることがある。
【0032】
[MD/TD破断伸び比]
本開示のポリオレフィン多孔質膜では、MD方向とTD方向の破断伸び比であるMD/TD破断伸び比が0.8以上1.2以下であってもよい。破断伸び比が上記の範囲である場合、あらゆる方向の衝撃に対して力をより均一に受けることができるので、セパレータとして電池に適用した場合の耐衝撃性が向上し、より安定的で膜の破れや短絡を抑制することができる。
電池に適用した場合の安全性及び安定性の観点から、任意選択的に、MD/TD破断伸び比を1に近づけるが、この場合、ポリオレフィン微多孔質膜の強度に方向依存性がないため、膜に応力が加わった際に、靭性に優れており、特定方向にクラックが発生することがなく、異物が微多孔質膜を貫通しても貫通孔の拡大を回避することができる。
【0033】
[膜厚]
ポリオレフィン多孔質膜の膜厚は特に限定されない。本開示のポリオレフィン多孔質膜は、膜強度の観点から、膜厚が2μm以上、好ましくは5μm以上である。また、透過性の観点から、微多孔質膜の厚さは50μm以下、好ましくは30μm以下である。
【0034】
[延伸強度]
本開示のポリオレフィン多孔質膜では、延伸強度がMD、TDの両方向で150MPa以上、好ましくは200MPa以上である。延伸強度が弱いと、電池の捲回性が悪くなったり、外部からの電池衝突試験、電池内の異物などにより短絡が生じやすくなる。また、MD方向及びTD方向の延伸強度の上限は特に限定されず、実際の生産経験からMD方向及びTD方向の延伸強度の上限は好ましくは700MPa以下、好ましくは600MPa以下、好ましくは550MPa以下である。
【0035】
[破断伸び]
本開示のポリオレフィン多孔質膜では、MD方向及びTD方向の破断伸びがそれぞれ90%以上であってもよい。破断伸びが上記の範囲である場合、電池内で衝撃を受けた際に、その柔軟性を利用してセパレータの膜の破れや短絡の発生を抑制することができる。また、MD方向及びTD方向の破断伸びの上限は特に限定されず、例えば400%以下、好ましくは300%以下、好ましくは200%以下である。破断伸びが上記の範囲である場合、電極捲回時に、セパレータが伸びて変形することがなく、捲回性が良好である。
MD及びTDの破断伸びは、それぞれ、10~200%、好ましくは10~150%、好ましくは10~120%である。MD及びTD破断伸びが上記の範囲にある微多孔質膜は、電池の捲回性が良好であるだけでなく、電池衝突試験などで変形しにくい。
【0036】
[熱収縮率]
ポリオレフィン多孔質膜は、電池にした状態での高温貯蔵試験、高温サイクル試験、ベーク試験などで優れた結果を示すなど、セパレータとして高温での熱収縮特性にも優れている必要がある。
充放電時のセパレータの寸法安定性から、MD方向の熱収縮率が5%未満、且つTD方向の熱収縮率が6.5%未満、好ましくは、MDの熱収縮率が4%以下、且つTDの熱収縮率が4%以下、好ましくは、MDの熱収縮率が3%以下、且つTDの熱収縮率が2.5%以下、好ましくは、MDの熱収縮率が1%以下、且つTDの熱収縮率が1%以下である。熱収縮率が上記の任意の範囲よりも大きい場合、電池乾燥工程、電池高温サイクル試験、電池高温保存試験等で微多孔質膜が幅方向に収縮しやすいので、好ましくない。
【0037】
[ポリオレフィン多孔質膜の製造方法]
本開示のポリオレフィン多孔質膜は、湿式延伸法により製造され、その製造方法は、ポリオレフィン樹脂材料の1種又は2種以上を主原料とし、上記原料と孔形成剤及び酸化防止剤とを混練し、混練物をダイから押し出して流延シートにするステップ(1)と、流延シートを2軸延伸して油付き膜を製造するステップ(2)と、油付き膜に抽出を施した後、ホットセット処理を行うステップ(3)と、を含む。
【0038】
延伸中の流延シートの温度と延伸倍率比に対する制御は、上記の特性を有するポリオレフィン多孔質膜を得るための重要な要素の1つである。2軸延伸において温度場及び延伸場を制御する必要があり、流延シート自体の温度が140℃を超えないこと、延伸領域の温度場の異なる点間の温度差が0.5℃未満であること、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率の比が0.9以上且つ1.1以下であることが必要であり、実際の延伸倍率の比が上記の範囲である場合、得られるポリオレフィン多孔質膜の延伸強度又は破断伸びは、MD方向及びTD方向のバランスが良好となり、膜の強度をさらに向上させ、耐衝撃性を向上させることができる。
【0039】
次に、ホットセット処理において、MDとTD方向の元の延伸倍率の関係を維持する必要があり、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率の比をステップ(2)の2軸延伸の延伸倍率の比である0.9以上且つ1.1以下に維持することがもう1つの重要な要素である。
【0040】
ここで、MD方向の延伸倍率、TD方向の延伸倍率は、実際のセパレータのMD方向の延伸倍率、TD方向の実際延伸倍率である。
【0041】
同時延伸の場合、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率は設備の実際の設定から直接得ることができ、また以下のように得ることができる。MD方向の同時延伸倍率は同時延伸後に得られた油付き膜のMD方向の速度と延伸前のシートの走行速度との比に等しい。TD方向の同時延伸倍率は、同時延伸後に得られた油付き膜のTD方向の幅と、延伸前のシートのTD被延伸領域の幅との比に等しく、クリップ把持部の幅の長さを差し引くことに注意する必要がある。
【0042】
非同時延伸の場合、MD方向の非同時延伸倍率は、設備の実際の設定から直接得ることができ、MD方向に延伸した後、TD延伸前のシートの速度と延伸前の速度との比から得ることができる。TD方向の非同時延伸倍率は、TD延伸終了後の油付き膜の実際の幅とMD延伸前のゲル状シートの実際の幅との比である。
【0043】
上記ポリオレフィン多孔質膜の製造方法は、上記特性を有するポリオレフィン多孔質膜が得られる限り、ポリオレフィン、孔形成剤及び酸化防止剤の種類及び配合比率、混練・押出方式、抽出剤の種類及び使用の有無、ホットセットを緩和するプロセス等に特に限定されない。
【0044】
原料であるポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができる。ポリエチレンとしては特に限定されないが、各種のポリエチレン、例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが用いられ得る。なお、ポリエチレンはエチレンの単独重合体であってもよく、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレンなどが挙げられる。
【0045】
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量は、重合体溶融物の加工が容易であり、膜が破らないという観点から、20万以上500万以下である。ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が上記範囲であると、製膜性が良好となる。
【0046】
また、成膜材料は、必要に応じて、ポリオレフィン材料以外の樹脂成分の重合体を含んでもよく、例えば、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂等の耐熱性樹脂等を用いることができる。ここで、混練物中のポリオレフィンの質量割合は15%以上であり、混練物中の耐熱性樹脂の質量割合は10%未満である。
【0047】
前記孔形成剤は、ホワイトオイルのような液体炭化水素混合物、フタル酸ジオクチル(DOP)のような有機酸エステル、リン酸トリオクチル(TOP)のような無機酸エステル、ポリオレフィン樹脂と均一な溶液を形成できる有機物、又は上記複数の孔形成剤の混合物などであってもよい。
【0048】
前記酸化防止剤は、1種類の主酸化防止剤のみを用いてもよいし、複数種類の酸化防止剤を配合して用いてもよい。酸化防止剤を添加することにより、せん断加工中に発生する重合体と孔形成剤の経時劣化を遅らせることができ、膜面の色、平坦性、強度を効果的に改善することができる。
【0049】
任意選択的に、延伸温度は、ポリオレフィン樹脂と孔形成剤との混合物が十分に溶融する軟化点(Tcd)以上であって、ポリオレフィン樹脂の融点以下の範囲である。なお、ここで、ポリオレフィン樹脂の融点とは、ゲル状シート中のポリオレフィン樹脂の融点である。延伸温度がポリオレフィン樹脂の融点以下である場合、ゲル状シート中のポリオレフィン樹脂の溶融が抑制され、延伸により分子鎖を効率よく配向させることができる。また、延伸温度が軟化点(Tcd)以上である場合、ゲル状シート中のポリオレフィン樹脂を十分に軟化させて延伸力を低下させることができるため、製膜性が良好となり、延伸時の膜の破れを抑制でき、高倍率延伸を可能にする。延伸温度は、例えば50℃以上140℃以下、好ましくは、60℃以上130℃以下とすることができる。ここで、延伸温度とはゲル状シートの温度である。
【0050】
セパレータの延伸における配向の違いを小さく制御するとともに、成形温度を制御することによって、ミクロ繊維構造の配向が均一で、巨視的な両方向の力学的性質の違いが小さいポリオレフィン多孔質膜を得ることができ、このポリオレフィン多孔質膜を電池のセパレータとして用いる場合、セパレータの電池生産における安定性及び電池に用いる場合の安全性を向上させることができる。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本開示を詳細に説明する。なお、本開示はこれらの例に限定されない。
【0052】
[実施例1]
ポリエチレン粉末(GUR4116、Ticona CELANESE)25重量部、ポリプロピレン(T30S、鎮海煉化社製)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)70重量部を用いて、該ポリオレフィン組成物とパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延して、シート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。120℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向及びTD方向においてともに6.5倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタン中に牽引して抽出を行い、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD牽引の作用によりTD方向において15%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0053】
[実施例2]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4012、Ticona CELANESE)23重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)77重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。117℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では7.5倍率、TD方向では7.2倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜を牽引してジクロロメタンに抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。
その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD牽引の作用によりTD方向において18%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0054】
[実施例3]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2122、Ticona CELANESE)15重量部、高密度ポリエチレン粉末(GUR4116、Ticona CELANESE)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。122℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では7.2倍率、TD方向では7.1倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD牽引の作用によりTD方向において20%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0055】
[実施例4]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2122、Ticona CELANESE)5重量部、高密度ポリエチレン粉末(VH200U、KPIC)10重量部、ポリエチレン粉末(VH035、KPIC)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。117℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では6.8倍率、TD方向では6.8倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD方向の牽引の作用によりTD方向において21%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0056】
[実施例5]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2122、Ticona CELANESE)5重量部、高密度ポリエチレン粉末(VH200U、KPIC)10重量部、ポリエチレン粉末(VH035、KPIC)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。116℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここで、MD方向では8倍率、TD方向では8倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD方向の牽引の作用によりTD方向において21%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0057】
[実施例6]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2122、Ticona CELANESE)5重量部、高密度ポリエチレン粉末(VH200U、KPIC)10重量部、ポリエチレン粉末(VH035、KPIC)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。115℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では10倍率、TD方向では10倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD方向の牽引の作用によりTD方向において21%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0058】
[実施例7]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2122、Ticona CELANESE)5重量部、高密度ポリエチレン粉末(VH200U、KPIC)10重量部、ポリエチレン粉末(VH035、KPIC)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。115℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では10倍率、TD方向では11倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD方向の牽引の作用によりTD方向において21%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0059】
[実施例8]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2122、Ticona CELANESE)5重量部、高密度ポリエチレン粉末(VH200U、KPIC)10重量部、ポリエチレン粉末(VH035、KPIC)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。115℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では10倍率、TD方向では9.1倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD方向の牽引の作用によりTD方向において21%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0060】
[実施例9]
超高分子量ポリエチレン粉末(VH200U、LPIC)15重量部、高密度ポリエチレン粉末(VH035、KPIC)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して段階的に延伸し。90℃の条件下で、流延シートをMD方向に延伸し、ここでは、MD方向の延伸倍率を9倍とした。その後、119℃、60m/minの速度でTD方向における高速延伸を行い、TD方向の延伸倍率を8.3倍率(出口での幅と元の鋳片の幅との比は8.2倍)とした。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にする。延伸が完了すると、油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD方向の牽引の作用によりTD方向において22%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、繊維構造配向が均一なポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0061】
[比較例1]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4116、Ticona CELANESE)25重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)77重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。117℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では7.9倍率、TD方向では6.5倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD牽引の作用によりTD方向において18%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、ポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0062】
[比較例2]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2122、Ticona CELANESE)5重量部、高密度ポリエチレン粉末(VH200U、KPIC)10重量部、ポリエチレン粉末(VH035、KPIC)5重量部、パラフィンオイル(60#、浙江正信社製)80重量部を用いて、該高分子量ポリエチレンとパラフィンオイルとの合計100重量部に対して、これらに酸化防止剤(Irg1010(Ciba Specialty Chemicals BASF))0.3重量部、酸化防止剤(P168(Ciba Specialty Chemicals株式会社製))0.1重量部を加え、これらを順に混合した。助剤を混合した後、超高分子量ポリエチレン材料及びパラフィンオイルを一緒に2軸押出機に投入して混練を行い、最終的に混合メルトゲルを製造した。
Tダイを用いて、このゲルを押し出して、押し出したメルトの温度を220℃以下に制御し、その後、表面温度が15℃の恒温金属2本ロールで素早く冷却し、圧延してシート厚さを1.5mmのシートにした。
シート、すなわち流延シートを牽引して延伸した。116℃、40m/minの速度で高速延伸を行い、ここでは、MD方向では7.1倍率、TD方向では5.4倍率の延伸を行った。延伸する際には温度場の均一性を制御し、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.3℃未満にし、延伸後に油付き膜を得た。油付き膜をジクロロメタンに牽引して抽出を施し、油付き膜中のパラフィンオイルを抽出により除去した。その後、40℃の恒温熱風でセパレータ中に残留されたジクロロメタンを除去し、抽出及び乾燥において、MD方向の牽引の作用によりTD方向において21%と少量の収縮が起こったため、次に、131℃のホットセット及び拡幅により、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との元の比を実現し、最終的には、ポリオレフィン多孔質膜を得た。
【0063】
<評価方法>
(1)膜厚試験
実施例で得られたポリオレフィン多孔質膜の厚さを、高精度マイクロメータで測定した。
(2)繊維配向度試験
米国FEI社のNova Nano SEM 450型電界放出走査電子顕微鏡を用いて、ポリオレフィン多孔質膜の2万倍のSEM像を得て、半径1000nmの円を観察領域として観察した。
上記式1及び式2に従って、ポリオレフィン多孔質膜のMD方向の繊維配向結果R_MD及びTD方向の繊維配向結果R_TDを得た。
なお、R_MD及びR_TDを計算する際に、ポリオレフィン多孔質膜の最外側表面の繊維を選択し、Nは観察領域内の最外側表面の繊維の数であり、各繊維はn(nは自然数)で表され、選択された繊維長さとは同一繊維上の同一延伸方向を有する同一太さのセグメントを1つの長さとし、同一繊維上の太さが変化した場合には1つの長さではなく、差を適時補正する必要がある。前記同一太さのセグメントは、当該セグメント内の最も太い部分の幅の、最も細い部分の幅からの増加率が5%以内であることを意味し、繊維の直径とは同一太さのセグメント上の最も太い部分の幅と最も細い部分の幅との平均値であり、繊維とMD方向又はTD方向とがなす角は、当該同一太さのセグメントの延伸方向とMD方向又はTD方向とがなす角である。
(3)延伸強度試験
GB 1040.3-2006に準拠して試験を行い、切断法を用いて試験片を製造し、試験片のタイプは2型試験片である。試験片は、長さ200mm、幅25mmの長尺バーを用い、治具間距離は(100±5)mm、試験速度は(250±10)mm/minとされた。
(4)破断伸び試験
GB 1040.3-2006に準拠して試験を行い、切断法を用いて試験片を製造し、試験片のタイプは2型試験片である。試験片は長さ200mm、幅25mmの長尺バーを用い、治具間距離は(100±5)mm、試験速度は(250±10)mm/minとされた。
(5)熱収縮率試験
GB/T12027-2004に準拠して試験を行い、ポリオレフィン微多孔質セパレータから100mm×100mmのサンプルを取り外し、送風オーブンに入れて105℃で1時間静置したところ、次式から熱収縮率を求めることができた。
MD熱収縮率(%)=|(加熱前MD長さ-加熱後MD長さ)÷加熱前MD長さ|×100
TD熱収縮率(%)=|(加熱前TD長さ-加熱後TD長さ)÷加熱前TD長さ|×100
表1~2を参照すると、上記の実施例及び比較例の特性試験結果は次のようである。
【0064】
表1:実施例1~9のポリオレフィン多孔質膜の関連特性のパラメータ指標
【表1】
【0065】
表2:比較例1~2のポリオレフィン多孔質膜の関連特性のパラメータ指標
【表2】
【0066】
表1と表2はそれぞれ実施例1~9、比較例1~2のポリオレフィン多孔質膜の関連特性指標であり、ポリオレフィン多孔質膜におけるMD方向の繊維配向結果R_MDが(R_MD)<0.8を満たし、TD方向の繊維配向結果R_TDが(R_TD)<0.8を満たす場合、優れた力学的性質の各方向の均一性をセパレータに付与することができ、電池に適用した場合の安全性をより高くすることができる。
【0067】
上記は、本開示の好適な実施例に過ぎず、本開示を限定するものではなく、本開示は、当業者にとって様々な変更及び変化が可能である。本開示の精神及び原則において行われるいかなる補正、均等置換及び改良なども本開示の保護範囲内に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-07-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、以下の特性を有する、ことを特徴とするポリオレフィン多孔質膜。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.8を満たし、R_MDは以下の式1により得られること
【数1】
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積は、Lcosθであり、φは、nmを単位とした繊維の直径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.8を満たし、R_TDは以下の式2により得られること
【数2】
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積は、Lcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項2】
網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、下記の特性を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン多孔質膜。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.5を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数3】
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.5を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数4】
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項3】
MD方向の延伸強度とTD方向の延伸強度との比であるMD/TD延伸強度比は、
0.8≦MD/TD延伸強度比≦1.2である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項4】
MD方向の延伸強度とTD方向の延伸強度との比であるMD/TD延伸強度比は、
0.8≦MD/TD延伸強度比≦1.2である、ことを特徴とする請求項2に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項5】
MD方向の破断伸びとTD方向の破断伸びとの比であるMD/TD破断伸び比は、
0.75≦MD/TD破断伸び比≦1.34である、ことを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項6】
MD方向の破断伸びとTD方向の破断伸びとの比であるMD/TD破断伸び比は、
0.75≦MD/TD破断伸び比≦1.34である、ことを特徴とする請求項2に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項7】
膜厚が1~30μmである、ことを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜。
【請求項8】
前記ポリオレフィン多孔質膜は、
網目繊維構造を有し、
その2万倍のSEM画像を観察した場合、下記特性を有し、
ポリオレフィン、孔形成剤及び添加剤を混練して押し出し、流延シートを製造するステップ1と、
流延シートを延伸し、延伸過程において流延シート自体の温度を140℃以下にし、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.5℃未満にし、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比であるMD/TD延伸倍率比を、0.9≦MD/TD延伸倍率比≦1.1にして、油付き膜を得るステップ2と、
油付き膜に抽出を施した後、ホットセット処理を行い、ホットセット処理過程において拡幅延伸処理によりステップ2のMD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比を維持するステップ3と、
を含む、ことを特徴とするポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.8を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数5】
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.8を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数6】
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項9】
前記ポリオレフィン多孔質膜は、網目繊維構造を有し、その2万倍のSEM画像を観察した場合、以下の特性を有し、
ポリオレフィン、孔形成剤及び添加剤を混練して押し出し、流延シートを製造するステップ1と、
流延シートを延伸し、延伸過程において流延シート自体の温度を140℃以下にし、延伸領域の温度場の異なる点の間の温度差を0.5℃未満にし、MD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比であるMD/TD延伸倍率比を0.9≦MD/TD延伸倍率比≦1.1にし、油付き膜を得るステップ2と、
油付き膜に抽出を施した後、ホットセット処理を行い、ホットセット処理過程において拡幅延伸処理によりステップ2のMD方向の延伸倍率とTD方向の延伸倍率との比を維持するステップ3と、
を含む、ことを特徴とする請求項8に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
(1)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のMD方向における繊維配向R_MDが、(R_MD)<0.5を満たし、R_MDは、以下の式1により得られること
【数7】
(ここで、θは、繊維とMD方向とがなす角であり、θは、MD方向の左向きを開始として反時計回りで得られたものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosθとの積はLcosθであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
(2)半径1000nmの円内で、繊維径>15nmの繊維のTD方向における繊維配向R_TDが、(R_TD)<0.5を満たし、R_TDは、以下の式2により得られること
【数8】
(ここで、βは、繊維とTD方向とがなす角であり、βは、TD方向の上向きを開始として反時計回りで得られるものであり、μmを単位とした繊維長さの値Lとcosβとの積はLcosβであり、φは、nmを単位とした繊維径の値である。)
【請求項10】
前記ステップ2では、MD方向の延伸倍率及びTD方向の延伸倍率は、いずれも5倍以上である、ことを特徴とする請求項8又は9のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ1では、前記ポリオレフィンの混練物における質量の割合は15%以上であり、前記ポリオレフィンの粘度平均分子量は、20万~500万の間である、ことを特徴とする請求項8又は9のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項12】
前記添加剤は、酸化防止剤を含み、前記酸化防止剤の混練物における質量の割合は、0~0.5%であり、前記ステップ1では、酸化防止剤は、アミン類、含硫黄化合物、含窒素化合物、含リン化合物、有機金属塩のうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項8又は9のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項13】
前記孔形成剤は、ホワイトオイル、パラフィンオイル、ポリエチレングリコールのうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項8又は9のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜の製造方法。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜を含む、ことを特徴とする電池セパレータ。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリオレフィン多孔質膜を含む、ことを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項16】
請求項14に記載の電池セパレータを含む、ことを特徴とする電気化学デバイス。
【国際調査報告】