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特表2024-542905二層結晶化組織を有する鋼板およびそのような鋼板の製造方法
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  • 特表-二層結晶化組織を有する鋼板およびそのような鋼板の製造方法 図1
  • 特表-二層結晶化組織を有する鋼板およびそのような鋼板の製造方法 図2
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  • 特表-二層結晶化組織を有する鋼板およびそのような鋼板の製造方法 図7A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】二層結晶化組織を有する鋼板およびそのような鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/48 20060101AFI20241112BHJP
   C21D 1/70 20060101ALI20241112BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241112BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C21D9/48 H
C21D1/70 V
C22C38/00 301T
C22C38/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574784
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2022080635
(87)【国際公開番号】W WO2023083679
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】102021129191.7
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペルツゲン、ローラ
(72)【発明者】
【氏名】カウプ、デエル. ブルクハルト
(72)【発明者】
【氏名】ウンティート、クレメンス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥーツ、アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB02
4K037EB08
4K037FB00
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG00
4K037FJ01
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FK02
4K037FK03
4K037GA00
4K037GA07
(57)【要約】
本発明は、二層再結晶化組織を含む包装用鋼板の製造方法に関する。本方法は、
重量基準で10~1000ppmの炭素含有量(C)および特定の再結晶化温度(T)を有する鋼から作製された冷延鋼板を準備するステップであり、前記鋼板が第1の面(a)および第2の面(b)を有する、ステップと、
少なくとも部分的に窒素不透過性であるバリア層(3)を鋼板の第1の面(a)上に塗布するステップと、
鋼板を加熱温度(TE)にまで加熱するステップと、
を含み、
加熱工程は、少なくとも再結晶化温度(TR)に達するまで、窒素化ガス雰囲気中で少なくとも一時的に実施され、これにより、鋼板を加熱する際に、ガス雰囲気からの窒素は、少なくとも鋼板の第2の面(b)の表面付近の領域(2)で拡散され、かつ前記領域(2)に貯蔵され、これにより、鋼の再結晶化温度は、表面付近の領域(2)において値ΔTだけ上昇し、
加熱温度(TE)は、再結晶化温度(TR)以上であり、かつ、表面付近の領域(2)においてΔTだけ上昇した再結晶化温度(TR+ΔT)よりも低い。
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装用の鋼板の製造方法であって、
10~1000重量ppmの炭素含有量(C)および所定の再結晶化温度(T)を有する鋼の冷延鋼板を準備するステップであり、前記鋼板が第1の面(a)および第2の面(b)を有する、ステップと、
少なくとも実質的に窒素不透過性であるバリア層(3)を前記鋼板の第1の面(a)に塗布するステップと、
前記鋼板を加熱温度(T)にまで加熱するステップと、
を含み、
前記加熱は窒化処理ガス雰囲気中で少なくとも前記再結晶化温度(T)に少なくとも一時的に到達するまで行われ、その結果、前記鋼板を加熱する際に、窒素は前記ガス雰囲気から少なくとも前記鋼板の前記第2の面(b)の表面近傍領域(2)に拡散し、かつ、この領域(2)に取り込まれ、その結果、前記表面近傍領域(2)における前記鋼の前記再結晶化温度は値ΔTだけ上昇し、
前記加熱温度(T)は、前記再結晶化温度(T)以上、かつ、前記表面近傍領域(2)においてΔTだけ上昇した前記再結晶化温度(T+ΔT)未満である、方法。
【請求項2】
前記冷延鋼板の鋼が、以下の重量組成:
C:0.001%超、かつ、0.1%未満、好ましくは0.06%未満;
Mn:0.01%超、かつ、0.6%未満;
P:0.04%未満;
S:0.04%未満、かつ、好ましくは0.001%超;
Al:0.08%未満、かつ、好ましくは0.005%超;
Si:0.1%未満;
任意のCu:0.1%未満;
任意のCr:0.1%未満;
任意のNi:0.1%未満;
任意のTi:0.1%未満、かつ、好ましくは0.02%超、特に好ましくは0.05%超;
任意のNb:0.08%未満、かつ、好ましくは0.01%超;
任意のMo:0.08%未満;
任意のSn:0.05%未満;
任意のB:0.01%未満、好ましくは0.005%未満、かつ、好ましくは0.0005%超;
任意のN:0.02%未満、特に0.016%未満、かつ、好ましくは0.001%超;
残部鉄および不可避不純物、
を有し、
前記冷延鋼板を前記窒化処理ガス雰囲気中で加熱後の重量基準平均窒素含有量が0.005%以上、好ましくは0.015%以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷延鋼板の前記鋼が、重量基準で、200ppmを超える、好ましくは500ppmを超えるチタン、および/または、100ppmを超えるニオブ、および/または、50ppmを超えるアルミニウムを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記冷延鋼板が、加熱時間(t)内に室温から前記加熱温度(T)にまで加熱され、かつ、前記加熱温度(T)に達した後に、所定の焼鈍時間(t)の間中ずっと前記加熱温度(T)に維持され、前記加熱時間(t)は、好ましくは1.0~300秒の範囲内であり、および/または、前記焼鈍時間(t)は、好ましくは1.0秒~80秒の範囲内であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記冷延鋼板の前記鋼が、初期窒素含有量(N)を有し、前記冷延鋼板の加熱中に、前記表面近傍領域(2)の前記平均窒素含有量が、前記表面近傍領域(2)の厚さにわたって平均化された値として、前記鋼の前記初期窒素含有量(N)よりも50~1000ppm上回る値にまで増加し、前記窒素含有量の勾配が、前記冷延鋼板の断面全体にわたって特に形成され、前記鋼板の前記第2の面(b)の前記表面近傍領域(2)から前記バリア層(3)が設けられた前記鋼板の前記第1の面(a)に向かって窒素含有量が減少していることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱中、特に前記保持時間(t)の間、前記冷延鋼板の前記第2の面(b)上の前記表面近傍領域(2)の窒化処理が少なくとも一時的に施され、前記焼鈍時間(t)中に、前記表面近傍領域(2)の外側の前記冷延鋼板の再結晶化焼鈍が少なくとも部分的に、特に前記鋼板の前記第1の面(a)上の第1の領域(1)で施されるが、前記鋼板の前記第2の面(b)上の前記表面近傍領域(2)は再結晶化しない、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋼板が加熱される際の窒素の前記取り込みによって前記表面近傍領域(2)における前記再結晶化温度が上昇する前記値ΔTが、30℃より大きく、好ましくは50℃より大きく、特に、100℃~250℃の範囲内にある、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記バリア層(3)が、前記鋼板の前記第1の面(a)の表面に、ゾル-ゲル層、特にSiO、TiOおよび/またはZrOの層を塗布することによって形成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記鋼板が鋼帯であり、前記ゾル-ゲル層が、ストリップコーティングプロセスにおいて、特に湿式化学的に、前記鋼帯の表面の前記第1の面(a)上に塗布されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記バリア層(3)が、シリカを含有する水性電解質から前記鋼板の前記第1の面(a)の表面に電解的に塗布されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記バリア層(3)のコーティング重量が、1~10mg/mの範囲内、好ましくは3~6mg/mの範囲内にある、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
炭素含有量(C)を10~1000重量ppm有する鋼から作製され、第1の面(a)および第2の面(b)を有し、かつ厚さが0.5mm未満の鋼板、特に包装用の鋼板であって、前記第1の面(a)の表面上に少なくとも実質的に窒素不透過性のバリア層(3)が存在し、前記鋼板は、前記第1の面(a)上に第1の領域(1)および前記第2の面(b)上に第2の領域(2)を備える二層結晶化組織を有し、前記第1の領域(1)は、少なくとも実質的に再結晶化し、かつ、前記第2の領域(2)は、再結晶化しないか、または少なくとも完全には再結晶化しない、鋼板。
【請求項13】
請求項12に記載の鋼板であって、
C:0.001%超、かつ、0.1%未満、好ましくは0.06%未満;
Mn:0.01%超、かつ、0.6%未満;
P:0.04%未満;
S:0.04%未満、かつ、好ましくは0.001%超;
Al:0.08%未満、かつ、好ましくは0.005%超;
Si:0.1%未満;
任意のCu:0.1%未満;
任意のCr:0.1%未満;
任意のNi:0.1%未満;
任意選択のTi:0.1%未満、かつ、好ましくは0.02%超、特に好ましくは0.02%超;
任意のNb:0.08%未満、かつ、好ましくは0.01%超;
任意のMo:0.08%未満;
任意のSn:0.05%未満;
任意のB:0.01%未満、好ましくは0.005%未満、かつ、好ましくは0.0005%超;
0.005%以上、好ましくは0.015%超、特に好ましくは0.02%超の前記鋼板の厚さにわたって平均化された窒素含有量、
ならびに残部鉄および不可避不純物
の重量組成を有する、鋼板。
【請求項14】
前記第1の領域(1)の厚さが、50μm~450μmの範囲内、好ましくは90μm~400μmの範囲内、特に150μm~300μmの範囲内にあり、および/または、前記第2の領域(2)の厚さが、1μm~50μmの範囲内、好ましくは2μm~10.0μmの範囲内にあることを特徴とする、請求項12または13に記載の鋼板。
【請求項15】
引張強さが、500MPa超、好ましくは700MPa超であり、および/または、破断伸びが、5%超、好ましくは7%超であることを特徴とする、請求項12から14のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項16】
前記鋼板の前記第2の領域(2)中の前記平均窒素含有量が、50~1000重量ppmであることを特徴とする、請求項12から15のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項17】
前記窒素含有量の勾配が、少なくとも前記第2の領域(2)内および/または前記鋼板の厚さ全体にわたって存在し、前記窒素含有量が前記鋼板の前記第2の面(b)から前記第1の面(a)に向かって減少することを特徴とする、請求項12から16のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項18】
前記第2の領域(2)の硬さおよび/または引張強さが、前記第1の領域(1)のよりも大きく、前記第1の領域(1)の硬さに対する前記第2の領域(2)の硬さの比が、好ましくは1.2より大きく、特に好ましくは1.4より大きく、前記鋼板の前記第2の領域(2)のビッカース硬さが、好ましくは250HV0.025以上、特に好ましくは300HV0.025以上であることを特徴とする、請求項12から17のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項19】
前記第2の領域(2)の再結晶化度が、30%未満、好ましくは20%未満であり、および/または、前記第1の領域(1)の再結晶化度が70%超、好ましくは80%超であることを特徴とする、請求項12から18のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項20】
窒化物層、特に窒化鉄層が前記第2の領域(2)の表面上に存在することを特徴とする、請求項12から19のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項21】
前記バリア層(3)が、ゾル-ゲル層、特にSiO、TiOおよび/またはZrOの層であることを特徴とする、請求項12から20のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項22】
前記第1の領域(1)の表面上の前記バリア層(3)が、1μm未満、特に0.1μm未満の厚さ、または10mg/m未満、好ましくは3mg/m~6mg/mのコーティング重量を有することを特徴とする、請求項12から21のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項23】
前記鋼板の成形後の前記第2の領域(2)の表面の曲げ半径が、8mm~14mmの範囲内であり、前記曲げ半径の外側にある前記第2の領域(2)が、1.0μm未満、好ましくは0、8μm未満である粗さ(Ra)、および/または、3未満、好ましくは2.5未満である粗さ係数を有し、前記粗さ係数は、前記曲げ半径の外側の前記第2の領域(2)の表面の前記粗さと非変形部分における前記鋼板の前記粗さとの比によって定義されることを特徴とする、請求項12から22のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項24】
請求項12から23のいずれか一項に記載の鋼板から作製された容器、特に缶であって、前記容器が少なくとも1つの凸状変形部分を有し、前記鋼板の前記第2の領域(2)が前記変形部分の前記凸状の外側に位置する、容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層結晶化組織を有する鋼板の製造方法、深絞り加工による包装(packaging)の製造に特に使用することができる二層結晶化組織を有する鋼板、ならびにその鋼板から作製された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
スズ鋼板(tinplate)または電解クロム被覆鋼(ECCS)などの鋼板から包装を製造するために、厚さが0.1~0.25mmの範囲内のますます薄い鋼板が資源効率の理由から使用されている。より薄い鋼板から十分に安定な包装を製造できることを確実にするために、包装鋼の強度を向上する必要がある。さらに、厚さの減少および強度の向上に影響されずに鋼板が依然として容易に成形可能であることを保証する必要があり、その結果、鋼板は、深絞り加工および引張り成形加工における包装の製造中に生じる激しい変形を受ける可能性がある。
【0003】
鋼中に溶解した非結合窒素を導入することによって鋼の強度を向上することは、従来技術から広く知られている。鋼への未結合窒素の導入は、固着(sticking)、窒化処理(nitriding)または硝化作用(nitrifying)と呼ばれ、鋼および鋼製品の固溶体強化のための周知のプロセスである。
【0004】
包装の製造を目的とした鋼板(包装鋼としても知られる)の場合、鋼を窒化処理することによって強度を高めることも公知である。例えば、ドイツ特許第102014116929号明細書によれば、400~1200ppmの炭素含有量を有する熱間圧延鋼製品から窒化包装鋼を製造する方法が公知であり、熱間圧延ストリップを冷間圧延して板状の鋼製品を形成し、次いで板状の冷間圧延鋼製品を焼鈍炉(特に連続焼鈍炉)で焼鈍して再結晶化させ、その際に、窒素含有ガスが焼鈍炉に導入され板状の鋼製品に吹き付けられ、100ppmを超える濃度に相当する量の非結合窒素を板状の鋼製品に導入するか、または板状の鋼製品中の非結合窒素の量を100ppm超の濃度まで増加させる。最後に、焼鈍および窒化処理された板状の鋼製品は、再結晶化焼鈍直後に100K/s以上の冷却速度で冷却される。この方法を用いて、650MPaを超える、特に700MPa~850MPaの引張強さを有する、包装目的のための板状の冷間圧延鋼製品を製造することができる。
【0005】
国際公開第2005/056841号パンフレットによれば、表面の窒素濃度が高く、コア領域の窒素濃度が低い鋼板の厚さ全域にわたる窒素勾配を有する鋼板の製造方法が公知であり、この方法において、窒素は、鋼板が完全に再結晶化した後に、550℃~800℃の温度でアンモニアガス雰囲気の焼鈍炉内での鋼板の焼鈍中または焼鈍後に導入される。
【0006】
鋼帯(steel strip)を窒化処理することによってスズ鋼板および他の包装鋼を製造するための高強度鋼帯を製造する方法は、米国特許第3219494号明細書により公知であり、コイルに巻き取られた鋼帯は、最初に鋼帯内に窒素に富んだ外殻を得るためにベル型焼鈍炉内で窒化処理され、ベル型焼鈍炉内の窒化処理はアンモニアガス雰囲気によって行われ、鋼板を不活性ガス雰囲気中で再結晶化温度を上回る温度に加熱する際に窒素の拡散により表面付近に導入された窒素の鋼帯の厚さにわたる均一な分布がもたらされることで、窒素に富んだ外殻から鋼帯を通ってそのコア領域に向かって窒素が拡散することができ、鋼の組織が完全に再結晶化することになる。439MPa~527MPaの範囲内の強さが、厚さ0.25mmの鋼板で達成された。
【0007】
包装の製造のための深絞り加工における鋼板の成形中に、鋼の粒状組織に起因して、成形区域の外側、特に小さい曲げ半径を有する区域、特に14mmより小さい曲げ半径を有する区域で粗面化が発生する。粗面化度は、鋼組織の粒度に依存する。鋼組織の平均結晶粒径が小さいほど、粗面化度は低くなる。100~1000ppm(0.01~0.1重量%)の範囲内の低炭素含有量を有する包装鋼は、通常、10~30μmの範囲内の結晶粒径(平均結晶粒径)を有する。鋼の(比較的粗粒の)結晶粒組織に起因して、鋼組織の結晶粒が成形中に半径方向外側に押し出され、次いで鋼板の表面を突き抜けることができるため、成形中に成形区域の外側で粗面化が生じる。これは、冷間圧延後に完全に再結晶化した冷延鋼板において特に顕著である。包装を製造するための冷延鋼板(cold-rolled steel)は通常、鋼板の本来の組織状態および成形性を回復するために、冷間圧延後に完全に再結晶化される。しかしながら、完全に再結晶化した鋼板は、比較的大きな平均結晶粒径を有する粗大な鋼組織を有し、圧延焼入れ鋼板よりも軟質である。再結晶化した鋼板の粒度が粗大化しかつ強度が低下することにより、鋼のミクロ組織(microstructure)の粗大化した結晶粒が成形中に目視可能なほどに表面に押し出される可能性があるため、成形中に激しい粗面化が発生しやすくなる。このような粗面化により、包装(例えば缶)の安定性および耐食性に関して問題が生じることが多い。この理由は、粗面化された区域が、高い機械的応力を受ける包装の外側(例えば缶底部の縁部)に位置するためである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、曲げ半径が小さい、特に曲げ半径が14mm未満の厳しい成形の場合であっても、成形区域の外側に粗面化が発生しない、高強度で成形性が良好な包装製造用鋼板を開示することである。特に、鋼板は、0.3mm未満の薄い鋼板であっても、成形加工の際の機械的要件を満たすために、5%以上の破断伸びで500MPa以上の強さを有する必要がある。同時に、板状の鋼製品から缶詰缶(tin can)または飲料缶などの包装を意図通りに製造することができるように、鋼板は、包装鋼として意図された使用のために例えば深絞り加工または延伸成形加工での十分な成形性を有する必要がある。本発明のさらなる目的は、このような包装用鋼板を製造する方法を提供することである。
【0009】
これらの課題は、請求項1の特徴を有する方法および請求項12の特徴を有する鋼板によって解決される。本発明による方法および鋼板の好ましい実施形態は、従属請求項に示されている。
【0010】
鋼板に言及する場合、板またはストリップの形態の平鋼製品を意味する。鋼または冷延鋼板の合金成分の含有量または濃度に関する%またはppmで表した値は、いずれの場合も鋼または鋼板の重量に関するものを指す。製造方法に関して以下に開示される本発明の特徴は、本方法の製品(すなわち、鋼板)にも適宜に関連し、逆もまた同様である。
【0011】
包装用の鋼板を製造するための本発明による方法では、炭素含有量(C)が10~1000重量ppmであり所与の再結晶化温度(T)(鋼組成によって本質的に予め決定される)を有する鋼から製造され、第1の面および第2の面を有する冷延鋼板は、その第1の面に、少なくとも実質的に窒素不透過性のバリア層が設けられ、次いで好ましくは連続焼鈍炉内で少なくとも再結晶化温度と同程度に高い(最大)加熱温度に加熱され、加熱は、少なくとも前記再結晶化温度に少なくとも一時的に到達するまで窒化処理ガス雰囲気中で行われ、それにより鋼板の加熱中に窒素が窒化処理ガス雰囲気から少なくとも鋼板の第2の面の表面付近の領域に拡散し、この領域に析出する、これにより、鋼板の第2の面の表面近傍領域における鋼の再結晶化温度が値ΔTだけ上昇し、加熱温度Tは、一方では再結晶化温度以上であり、他方では表面近傍領域においてΔTだけ上昇した再結晶化温度(T+ΔT)よりも低くなるように選択される。
【0012】
加熱温度Tは、冷延鋼板の熱処理における最高温度であり、すなわち、冷延鋼板は、本発明の方法による熱処理前にも熱処理中にも熱処理後にも、(最高)加熱温度Tよりも高い温度に加熱されることはない。冷延鋼板を加熱すると、鋼板の第2の面の窒化処理ガス雰囲気から表面近傍領域への(原子状)窒素の拡散により、窒化処理ガス雰囲気からの窒素が鋼板の第2の面の表面近傍領域にのみ取り込まれる。鋼板の反対側の第1の面は、バリア層によって覆われ、バリア層を通過する窒素の侵入が防止される。その結果、鋼の再結晶化温度は、鋼板の第2の面の表面近傍領域でのみ値ΔTだけ上昇するが、鋼板の第1の面の領域の再結晶化温度は、少なくとも実質的に変化しないまま維持され、すなわち、加熱前の冷延鋼板の鋼組成によって決定される鋼の本来の再結晶化温度に一致する。したがって、加熱温度(T)は、T≦T<T+ΔTとなるように選択され、式中、Tは鋼の初期再結晶化温度である。
【0013】
結果として、二層結晶化組織が鋼板に形成され、鋼板は、少なくとも実質的に完全に再結晶化した第1の領域を第1の面に含み、再結晶化しないか、またはせいぜい部分的にしか再結晶化しない第2の領域を第2の面に含む。結晶化組織のこの二層構造により、本発明による方法がもたらされる。この理由は、バリア層のために第2の領域よりも加熱中に窒化処理されないか、またはせいぜいほんの少ししか窒化処理されない、第1の面の隣接する第1の領域よりも、鋼板の第2の面の(表面付近の)第2の領域の方が、加熱中の窒化のために、より高い再結晶化温度を有するためである。加熱温度は、(表面近傍の)第2の領域の(ΔTだけ上昇した)再結晶化温度と(窒化処理されておらず、したがって、鋼の初期再結晶化温度に少なくとも実質的に等しい再結晶化温度を有する)隣接する第1の領域の再結晶化温度との中間にあるため、窒化処理されていない第1の領域のみが加熱中に再結晶化され、一方、窒化処理された(表面近傍の)第2の領域は、再結晶化しないか、または不完全にしか再結晶化せず、その結果、(冷間圧延からの)圧延硬さ(roll-hard)のままである。
【0014】
鋼板の第1の面のバリア層は、原子状窒素が鋼板の表面を通って内部に拡散するのを防止する。これを確実にするために、バリア層を形成する材料は、特に300℃を超える温度、かつ、好ましくは少なくとも600℃以下の温度に対して耐熱性であることが適切である。この理由は、これらの温度で鋼板が焼鈍炉内で窒化処理され、焼鈍炉のガス雰囲気からの窒素原子が触媒反応によって鋼板の高温表面に析出し、鋼板中に拡散するためである。
【0015】
バリア層は、例えば、炉用塗料またはシリコーン樹脂系エンジン塗料などの耐熱性塗料によって形成することができる。バリア層を塗布するため、鋼板が焼鈍炉内に載置される前に、耐熱性塗料材料が例えば噴霧によって鋼板の第1の面の片面に塗布される。バリア層はまた、鋼板の片面に電解析出されたコーティング、例えば、特に80~140mg/mの範囲内のクロムコーティング重量を有するクロム/酸化クロム層によって形成することもできる。
【0016】
バリア層は、焼鈍炉の窒素含有ガス雰囲気から鋼板内への窒素の通過を大幅に防止するように設計されており、すなわち、例えば、鋼板の第1の面の表面のバリア層による不完全な被覆または第1の面のバリア層の欠陥に起因して鋼板内に拡散し得る不可避の窒素残留物はさておき、鋼板の第1の面のバリア層を通る窒素の侵入は抑制される。好ましくは、バリア層は、鋼板の第1の面に侵入することができる窒素の量が最大限でも鋼板の第2の面に拡散する窒素の量の10%であるように形成される。したがって、本発明による方法では、窒素は本質的に鋼板の第2の面でのみ拡散し、窒素濃度の勾配が鋼板の断面全体にわたって形成され、第2の面から第1の面に向かって傾斜している、このことが、鋼板が加熱温度(T)に加熱された際の窒素含有量の増加に伴う再結晶化温度の上昇に起因して、少なくとも実質的に再結晶化した第1の領域を第1の面に、そして再結晶化していないまたは少なくとも完全には再結晶化していない第2の領域を第2の面に有する二層結晶化組織の形成をもたらす。
【0017】
バリア層は、好ましくはゾル-ゲル層、特にSiO、TiOおよび/またはZrOの層である。このようなゾル-ゲル層は、ゾル-ゲル法によって生成することができ、コーティング溶液として使用されるゾル(コロイド分散液として存在する)を鋼板の第1の面の表面に塗布し、続いて湿式化学的に形成された層をゲル化および乾燥させることによって、鋼板表面に効率的に塗布することができる。SiO-ゾル-ゲル層を調製するために、特にシリコンアルコラートを前駆体として使用することができる。特に、
・オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、
・オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、または
・オルトケイ酸テトライソプロピル(TPOS)
の水溶液を、鋼帯の第1の面aの表面に塗布することができる。ZrO-またはTiO-ゾル-ゲル層の生成のために、ジルコニウムプロピラートまたはチタニウム(2-プロピラート)の水溶液を塗布することができる。
【0018】
ゾル-ゲル層は、ストリップコーティングプロセスにおいて第1の面の鋼帯の表面に湿式化学的に塗布されることが好ましい。このようにして、鋼板表面にゾル-ゲル層を塗布するためのゾル-ゲル法は、効率的なプロセス制御を達成するために連続ストリップコーティングプロセスに統合することができ、このプロセスでは、鋼板はストリップ形態であり、後続の鋼帯の窒化処理および焼鈍は、ストリップが所定のストリップ速度で通過する連続焼鈍炉内で行われる。ゾル-ゲル層は、連続焼鈍炉の上流の別個の工程で塗布される。ゾルのゲル化および乾燥は、連続焼鈍炉内での鋼帯の加熱中に少なくとも部分的に行うことができ、したがって非常に効率的なプロセスが達成され、ストリップラインの長さが縮小される。ゾル-ゲル法、特にSiO層を製造するためのゾル-ゲル法を使用して、鋼板の片面に緻密で均一なバリア層を塗布できることが示されており、これがバリア層を塗布する上でこの方法が好ましい理由である。
【0019】
特に好ましい実施形態では、ケイ酸塩含有バリア層は、シリカおよびナトリウム塩を含有する塩基性の水性電解質から鋼板の両面のうちの一方に電解塗布され、バリア層として機能するケイ酸塩層は、鋼板の両面のうちの一方に、1~10mg/mの範囲内、特に好ましくは3~6mg/mの範囲内で塗布される。バリア層の電解塗布中、鋼板表面は同時に脱脂される。バリア層の電解塗布により、鋼板の表面全体に均一に分布したバリア層であって、均質かつ十分なコーティング重量を有し、焼鈍炉内の窒化プロセス中に鋼帯の第1の面全体の窒素侵入を防止するバリア層を製造することが可能になる。
【0020】
焼鈍炉内の窒化処理プロセスによって第1の領域の少なくとも実質的に完全な再結晶化を達成するために、鋼板の温度は、好ましくは、加熱温度に達した後に所定の焼鈍時間(t)の間中ずっと加熱温度(T)に維持される。焼鈍時間は、好ましくは1秒超、特に1~80秒の範囲内、好ましくは1~10秒の範囲内である。例えば10秒を超えるより長い焼鈍時間にすると、第1の領域の完全な再結晶化に加えて、加熱中に導入された窒素の分布が鋼板の厚さ全体にわたって平準化され、その結果、再結晶化した第1の領域と再結晶化していないかまたはほとんど再結晶化していない第2の領域との間の鋼板のコア領域に広い遷移ゾーンが生じる。
【0021】
したがって、本発明の目的はまた、特に包装の製造に使用することができ、炭素含有量(C)が10~1000重量ppmおよび厚さが0.5mm未満の鋼から作製される鋼板であって、第1の面上に第1の領域および第2の面上に第2の領域を備える二層結晶化組織を有し、第1の領域は少なくとも実質的に再結晶化し、第2の領域は再結晶化せず、または少なくとも完全には再結晶化せず、少なくとも実質的に窒素不透過性のバリア層が第1の面の表面上に配置されている鋼板を提供することである。バリア層のバリア効果により、本発明による方法では、窒素は本質的に鋼板の第2の面でのみ拡散し、鋼板の断面全体にわたって第2の面から第1の面に向かって傾斜する窒素濃度の勾配が形成され、これは、鋼板が加熱温度(T)に加熱されたときの窒素含有量の増加に伴う再結晶化温度の上昇に起因する二層結晶化組織の形成をもたらす。本発明による鋼板の二層結晶化組織は、以下では二層ミクロ組織とも呼ばれる。
【0022】
本発明による鋼板は、500MPa超、特に600MPa超、好ましくは700MPa超の非常に大きな強さを有し、伸び(破断伸び)は5%以上であり、これは深絞り用途に許容される。同時に、鋼板は、良好な成形性を(特に深絞り加工において)有する。鋼板は、曲げ半径が非常に小さい厳しい成形の場合であっても、圧延硬さを維持し再結晶化していない第2の区域が曲げ半径の外側に位置するとき、曲げ半径の外側に粗面化が発生しないという事実によって特に特徴付けられる。これは、圧延硬さの第2の区域の高強度のために、再結晶化した第1の区域の粗大結晶粒が、曲げ半径の外側の表面に押し出され得ないという事実によって達成される。したがって、圧延硬さのままの第2の区域は、第1の区域の再結晶化鋼組織の粗大結晶粒に対する障壁を形成する。圧延硬さの第2の区域は、再結晶化した第1の区域からの粗大化した結晶粒が成形中に鋼板の表面に押し出されるのを防止する。これにより、成形中の望ましくない光学効果および機械的不安定性が防止され、また、鋼板の第2の面の表面に塗布されたコーティングのポロシティおよび亀裂が防止される。
【0023】
鋼板の特に良好な成形性は、圧延硬さの第2の領域ができるだけ薄く、特に再結晶化した第1の領域よりも薄い場合に得られる。好ましくは、第1の領域は、50μm~450μmの範囲内、特に好ましくは90μm~400μmの範囲内、特に150μm~300μmの範囲内の厚さを有し、第2の領域の厚さは、好ましくは1μm~50μmの範囲内、特に好ましくは2μm~10μmの範囲内である。好ましくは、第2の領域の厚さは、第1の領域の厚さの1%~10%である。再結晶化していないかまたはほとんど再結晶化していない第2の領域の厚さがこれだけ薄いと、鋼板の成形性は、圧延硬さのままの第2の領域の高強度によってほとんど影響を受けない。それにもかかわらず、鋼板の成形中、第2の区域は、鋼板の表面を通して押し出される鋼組織の粗大結晶粒に対して十分な障壁を形成し、したがって表面の粗面化を防止する。
【0024】
鋼板の加熱時に窒素の取り込みにより第2の領域の再結晶化温度が上昇する値ΔTは、加熱終了後に鋼板の第2の領域に窒化処理によって導入される窒素含有量によって制御することができ、特に次式によって記述できる線形関係を観察することができる。
ΔT=a・ΔN(ppm)(式中、aは比例定数であり、ΔN(ppm)は鋼板の加熱中に窒化処理により第2の領域に導入された(鋼の重量を基準とした)ppm単位での窒素含有量である)。様々な窒素含有量やその他同じ合金組成を有する試料に対する試験により、一例としてa≒1.2K/ppmの値を得た。したがって、表面近傍領域におけるΔT≒10K~24Kの範囲内の再結晶化温度の上昇は、(0.001から0.002重量%に相当する)10ppm~20ppmの範囲内のΔNの少量の添加で早くも達成することができる。例えばΔN=100ppm(0.01重量%に相当する)のより高い窒素負荷では、表面近傍領域の再結晶化温度の(理論的に達成可能な)上昇は早くも約ΔT≒120Kである。好ましくは、鋼板の加熱時の窒素導入により第2の領域の再結晶化温度が上昇する値ΔTは、Kよりも大きく、特に好ましくは100Kよりも大きく、特に100K~250Kの範囲内である。
【0025】
本発明による方法では、鋼板は、単段加熱工程または二段熱処理のいずれかで加熱することができる。単段加熱工程では、加熱時間(t)内に室温から加熱温度(T)にまで鋼板を加熱し、加熱温度(T)に到達後、所定の焼鈍時間(t)の間中ずっと加熱温度(T)に保持する。加熱時間(t)は好ましくは1.0~300秒の範囲内にあり、および/または焼鈍時間(t)は好ましくは1.0秒~80秒の範囲内にあり、特に好ましくは1~10秒の範囲内にある。加熱中に、鋼板は少なくとも一時的に窒化処理ガス雰囲気、特にアンモニアの体積分率が0.1~6%の範囲内のアンモニア含有ガス雰囲気に曝される。
【0026】
二段加熱工程では、窒化処理は第1段階において中間温度で行い、焼鈍は第2段階において中間温度よりも高い加熱温度で行う(このため、以下の加熱温度を焼鈍温度ともいう)。中間温度は、本来の再結晶化温度Tよりも低い。二段工程では、鋼板は第1段階において、第1の加熱時間内に室温から中間温度T<Tにまで加熱され、保持時間tの間少なくともほぼこの温度に保持される。中間温度Tは、好ましくは300℃~600℃の範囲内、特に好ましくは400℃~550℃の範囲内である。この理由は、アンモニアガスが焼鈍炉のガス雰囲気の窒化処理成分として使用される場合、金属表面上の原子状窒素への解離が約300℃の温度で始まるためである。いずれの場合も、約550℃以下の温度では、本発明による合金組成物の大部分に(完全な)再結晶化はまだ生じない。したがって、第1段階の好ましい中間温度Tでは、窒化処理ガス雰囲気からの解離した窒素の鋼板の第2の領域への拡散は起こるが、再結晶化はまだ生じない。第1の領域の再結晶化は、本来の再結晶化温度T以上であるがT+ΔT未満である加熱温度(焼鈍温度)Tに鋼板が加熱される第2段階まで生じない。例えば、加熱温度Tは、使用される鋼の初期再結晶化温度Tの値に応じて、650℃~800℃の範囲内であり、特に約750℃である。
【0027】
第1の実施形態における鋼板の単段加熱の場合と同様に、二段工程では、鋼板の第1の領域の(部分的)再結晶化のみが少なくとも実質的に生じるが、第2の領域は再結晶化しない。第1段階で窒化処理された第2の領域の再結晶化は、第2の領域の窒化処理によってΔTだけ増加した再結晶化温度T+ΔTを下回るように加熱温度(焼鈍温度)Tを選択することで防止される。
【0028】
二段熱処理では、鋼板は、連続焼鈍炉内で、最初に、鋼の(初期)再結晶化温度Tを下回る比較的低い中間温度Tの第1段階で、好ましくは10~150秒の範囲内の保持時間の間、鋼板の第2の面の表面付近の第2の領域で適切に焼鈍され、第2段階では、好ましくは1~300秒、特に好ましくは1~10秒の範囲内にある焼鈍時間tの間、中間温度よりも高く、かつ鋼の(初期)再結晶化温度(T)を超える加熱温度(焼鈍温度T)で第1の領域においてのみ少なくとも部分的に再結晶焼鈍される。
【0029】
二段工程において鋼板を室温から中間温度まで加熱する第1の加熱時間(t )は、好ましくは1.0~120秒の範囲内、特に好ましくは10~90秒の範囲内にあり、第1の実施形態と同様に、本発明による鋼板の所望の材料特性に応じて適合させることができる。鋼板を中間温度で保持する保持時間(t)も、ここでは好ましくは1.0~90秒の範囲内、特に好ましくは10~60秒の範囲内にあり、同様に本発明による鋼板の所望の材料特性に応じて選択される。保持時間が経過した後、第2の加熱時間(t )中に、第2段階における冷却後または冷却せずに直後に、鋼板を加熱温度T(焼鈍温度)に加熱し、焼鈍時間(t)の間、少なくとも略この加熱温度Tに保持することができる。任意選択で、焼鈍炉にも、焼鈍期間中に窒化処理ガス雰囲気を供給することができるが、こうすることで解離した(原子状)窒素が利用可能になり、鋼板の(さらなる)窒化処理がより深い第2の区域で焼鈍期間t中にさらに起こり得る。このことが、鋼板の第2の領域の寸法の第1の面の方向における増加をもたらし、したがって第2の領域の厚さを増加させる。この場合の加熱温度T(焼鈍温度)も、本来の再結晶化温度Tと、鋼板表面近傍領域の窒化処理によりT+ΔTに上昇した再結晶化温度との中間にある。したがって、二段工程では、加熱温度T:T≦TRE<T+ΔTも成り立ち、中間温度(T)は初期再結晶化温度Tよりも低い。
【0030】
単段工程および二段工程の両方において、鋼板は、加熱中かつ再結晶化温度に達する前に、解離した(原子状)窒素を焼鈍炉内に供給する窒化処理ガス雰囲気に少なくとも一時的に曝され、解離した(原子状)窒素は、最初に鋼板の第2の面の第2の領域のみで表面付近の鋼板に拡散し、そこで再結晶化温度を上昇させ、一方、鋼板の第1の面では、バリア層を通過する窒素の侵入が阻止される。
【0031】
冷延鋼板の鋼は、好ましくは以下の重量組成を有する。
・炭素、C:0.001%超、かつ、0.1%未満、好ましくは0.06%未満;
・マンガン、Mn:0.01%超、かつ、0.6%未満;
・リン、P:0.04%未満;
・硫黄、S:0.04%未満、かつ、好ましくは0.001%超;
・アルミニウム、Al:0.08%未満;
・ケイ素、Si:0.1%未満;
・任意選択の銅、Cu:0.1%未満;
・任意選択のクロム、Cr:0.1%未満;
・任意選択のニッケル、Ni:0.1%未満;
・任意選択のチタン、Ti:0.1%未満、かつ、好ましくは0.02%超;
・任意選択のニオブ、Nb:0.08%未満、かつ、好ましくは0.01%超;
・任意選択のモリブデン、Mo:0.08%未満;
・任意選択のスズ、Sn:0.05%未満;
・任意選択のホウ素、B:0.01%未満、好ましくは0.005%未満、かつ、好ましくは0.0005%超;
・任意選択の窒素、N:0.02%未満、特に0.016%未満、かつ、好ましくは0.001%超;
・残部鉄および不可避不純物、
・ここで、冷延鋼板を窒化処理ガス雰囲気中で加熱後の、鋼板の全厚にわたって平均化した、平均窒素重量含有量(N)は、0.01%以上、好ましくは0.015%以上である。
【0032】
平均窒素含有量(N)または平均窒素含有量について言及する場合、それぞれの厚さ全体にわたって平均化した窒素濃度を意味する。したがって、鋼板の平均窒素含有量(N)について言及する場合、鋼板の厚さ全体にわたって平均化した窒素濃度を意味する。
【0033】
冷延鋼板の鋼は、好ましくは0.001重量%を超え、かつ、0.02重量%未満、特に好ましくは0.016重量%未満である初期窒素含有量Nを予め有することがある。ただし、窒素(不可避の窒素不純物は別として)を含まない鋼を使用してもよい。初期窒素含有量を0.02重量%未満の値に制限することで、通常の冷間圧延装置(鋼板を超微細鋼板に冷間圧延するための圧延機)を使用して、熱間圧延によって鋼から製造されたホットストリップ(hot strip)を無理なく冷間圧延することができるようになる。さらに、鋼中の初期窒素含有量がN<0.02重量%と低いことにより、スラブを鋳造する際の欠陥の形成が防止される。しかしながら、冷延鋼板中の可能な限り高い(平均)窒素含有量を達成し、それによって高い固溶体強化を達成するために、ホットストリップを製造するために使用される鋼は、好ましくは0.001重量%~0.02重量%の範囲内、特に好ましくは0.005重量%~0.016重量%である(初期)窒素含有量を予め有すると有利である。
【0034】
冷延鋼板の鋼が初期窒素含有量(N)を有する場合、冷延鋼板を鋼板の第2の面の第2の領域で加熱すると、窒素含有量は初期窒素含有量(N)を超える値まで増加する。それにより、第2の領域中の重量基準の窒素含有量が、この領域の厚さにわたって平均化された値として、好ましくは鋼の初期窒素含有量(N)よりも50ppm超、特に好ましくは400~800ppm高い値まで増加する場合、第2の領域の厚さに応じて、鋼板の強度の(時にはかなりの)上昇が観察される。5%以上の破断伸びで700MPaを超える強さの鋼板を達成することができる。窒化処理プロセスによって第2の区域に析出された窒素の(平均)窒素含有量は、鉄中の窒素の溶解限界の約1000ppmに達する可能性がある。
【0035】
加熱温度(焼鈍温度)での鋼板の焼鈍中のプロセスパラメータ、特に保持時間および焼鈍時間の設定、ならびに焼鈍炉のガス雰囲気中の窒化処理ガス(特にアンモニア)の(任意設定の)濃度に応じて、鋼板の第1の領域もある程度窒化処理される。しかしながら、焼鈍後または加熱終了時に第1の領域と第2の領域との再結晶化度の可能な限り最大の差を得るために、第1の領域の窒化処理は(大幅に)低減するのが好ましい。第2の領域の再結晶化度は、30%未満であることが好ましく、より好ましくは20%未満であり、第1の領域の再結晶化度は70%超であり、より好ましくは80%超である。第1の領域が完全に再結晶化することが、特に好ましい。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板が熱間圧延とそれに続く冷間圧延によって予備段階で製造される鋼は、重量基準で、Cを0.001%超、かつ、0.1%未満、Mnを0.01%超かつ0.6%未満、Pを0.04%未満、Sを0.04%未満、Alを0.08%未満、Siを0.1%未満、および場合により初期窒素含有量(N)を最大0.020%かつ好ましくは0.016%以下含み、残部が鉄および不可避不純物である。窒化後、鋼板は、好ましくは、平均窒素含有量N>Nを0.020%以上、特に好ましくは0.025%以上、特に0.040~0.080%の範囲内のNを含む。平均窒素含有量がN>0.040%の鋼板の引張強さは800MPa以上であり、同時にこの鋼板の破断伸びは2%~10%の範囲内にあるため、深絞り加工に十分な成形性を発揮する。
【0037】
冷延鋼板の加熱中に第2の領域に取り込まれた窒素は、溶解形態および/または窒化物として結合形態で(溶解限界以下で)存在することができる。強力な窒化物形成剤が鋼中に存在する場合、挿入された窒素は、少なくとも部分的に窒化物中に結合した窒素として、特にTiNおよび/またはNbNおよび/またはAlNとして存在する。窒化処理中に第2の領域に導入される窒素の格子間侵入が強度を高める上で好ましいため、高強度の鋼板を得る場合、鋼はTi、Nb、MoまたはAlなどの窒化物形成剤をできるだけ少なく含有することが好都合である。したがって、窒化物形成剤の重量百分率についての以下の上限が好ましい:
・Al:0.08%未満Si:
・Ti:0.1%未満、かつ、好ましくは0.02%超;
・Nb:0.08%未満、かつ、好ましくは0.01%超;
・Mo:0.08%未満;
・B:0.01%未満、好ましくは0.005%未満;
【0038】
他方、第2の領域の窒化処理中の窒化物の形成により、鋼板の再結晶化した第1の領域と、再結晶化していないか、または少なくとも完全には再結晶化していない第2の領域との間の明確な境界が促進される。したがって、第1の領域と第2の領域との再結晶化度で可能な限り大きな差が望まれる場合、Ti、Nb、Moおよび/またはAlなどの強力な窒化物形成剤が鋼に十分な量添加される。これに関連して、冷延鋼板の鋼は、好ましくは、重量基準で、200ppmを超えるチタンおよび/または100ppmを超えるニオブおよび/または0.0005%を超えるホウ素および/または50ppmを超えるアルミニウムを含有する。特に好ましくは、この場合の強力な窒化物形成剤の重量分率での合計は、300ppmを超え、好ましくは500ppmを超える。チタン、ニオブおよび/またはアルミニウムなどの強力な窒化物形成剤は、第1の領域に析出した窒素を結合するため、最初に表面付近にのみ析出した窒素が第1の面に向かって鋼板の内部にさらに拡散するのを阻止する。したがって、鋼板の表面には、高い窒素含有量を有し、鋼板の厚さと比較して非常に薄い第1の領域が生成され、この領域の再結晶化温度の大幅な上昇をもたらす。本発明による方法によれば、冷延鋼板が、ここで、一方では鋼板の(非添加または微添加の)第2の領域における鋼の(初期)再結晶化温度よりも高く、他方では窒化領域の(上昇した)再結晶化温度よりも低い温度にまで加熱される場合、第1の領域のみが(完全に)再結晶化し、第2の領域は再結晶化温度の上昇に起因して圧延硬さを維持する。これは、第1の領域と第2の領域との間の境界が明確な、本発明による鋼板のミクロ組織の二層結晶化をもたらす。
【0039】
窒素供与体中の窒素の濃度に応じて、表面窒化物層、特に窒化鉄層を第2の領域の自由表面上に形成することもできる。この表面窒化物層は脆く、成形中に剥がれる可能性があるため、鋼板の成形中の粗面化の観点から不利である。表面窒化物層の形成は、焼鈍炉の窒化処理ガス雰囲気中の窒素の濃度に本質的に依存する。例えば、窒素供与体としてアンモニアを含むガス雰囲気を使用する場合、第1の区域の表面上の窒化物層の形成は、約2~3体積%のアンモニア含有量から実験室規模で観察することができる。窒化物層は非常に薄く、その厚さは約10μm以下の範囲内にある。第2の領域の表面の窒化物層を避けるためには、ガス雰囲気中のアンモニア濃度は3体積%以下とすることが好ましい。ガス雰囲気中のアンモニアの体積分率とは、鋼板が誘導加熱器で加熱された実験室試験での状態を指し、実験炉のガス雰囲気中のアンモニアの体積分率は室温で決定した。
【0040】
鋼板の第1および第2の領域の結晶化度に関連する二層ミクロ組織の形成は、特に加熱時間および焼鈍時間によって影響され得る。好ましくは、冷延鋼板は、1.0~120秒の加熱時間内に室温から加熱温度(T)にまで(必要に応じて、保持時間の間は温度を一定に保つ保持段階を間に挿入して段階的に)加熱され、1.0~90秒の焼鈍時間(t)の間中ずっと加熱温度に保持される。短い加熱時間および短い焼鈍時間は、鋼板の第2の面から第1の面への窒素勾配のより強い形成に寄与する。この理由は、短い加熱時間および短い焼鈍時間では最初に鋼板の第2の領域の表面にのみ析出した窒素はコア領域に拡散することができないためである。焼鈍時間を延長すると、表面付近の第2の領域からコア領域への窒素の拡散を観察することができ、その結果、鋼板のコア領域も少なくともわずかに窒化処理される。
【0041】
したがって、再結晶化していない第2の領域の厚さを加熱時間によって制御することができ、これにより第2の領域の厚さと加熱時間との間に直線相関を観察することができる。したがって、本発明による方法の調整可能なプロセスパラメータは、加熱時間を介して利用可能であり、それによって、再結晶化していない、したがって圧延硬さの第2の領域の厚さを具体的に調整することができる。選択された加熱時間に応じて、第2の領域の厚さを0.1μm~150μmに設定することができ、それにより、第2の領域の厚さは可能な限り薄くなるはずであり、好ましくは1μm~10μm、特に1μm~2μmである。第1の領域の表面上のバリア層は、好ましくは1μm未満、特に0.1μm未満の薄い厚さ、または10mg/m未満の重量支持を有し、特に好ましくは第2の領域より薄い。バリア層の厚さは、特に300℃を超える温度、特に300℃~600℃の温度で、鋼板の第1の面上の窒素の拡散を少なくとも実質的に完全に防止する上で十分に厚い。同時に、バリア層は、その密度が小さいために鋼板の機械的特性に影響を及ぼさないか、または少なくとも大幅な影響を及ぼさない。
【0042】
冷延鋼板が窒化処理ガス雰囲気中で加熱されると、第2の領域において窒素含有量の勾配が形成され、窒素含有量は冷延鋼板の第2の面から第1の面に向かって徐々に減少する。第2の領域に取り込まれる窒素の量は、窒化処理ガス雰囲気の窒素濃度によって、特に焼鈍炉のガス雰囲気中のアンモニアの体積分率によって制御することができる。
【0043】
好ましくは、鋼板は、窒素含有ガス雰囲気を有する連続焼鈍炉内で加熱され、連続焼鈍炉内を鋼板が通過する。鋼板がストリップの形態であるのは、便宜的である。窒素含有ガス雰囲気は、特にアンモニアガスを焼鈍炉に導入することで供給することができ、これにより、加熱中に、アンモニア分子は、鋼板の第2の領域の加熱された表面での触媒反応により原子状窒素に熱解離し、第2の領域の表面を通って鋼板内に拡散する。鋼板の第1の面では、この拡散過程は、バリア層によって少なくとも阻害されるか、または好ましくは完全に抑制されるため、加熱中に窒素がそこでは鋼板に拡散し得ないか、またはほんのわずかしか拡散し得ない。窒素含有ガス雰囲気中のアンモニアの体積濃度は、好ましくは0.1%超、特に0.1%~10%、より好ましくは0.1%~5%、特に0.5%~3%である。特に好ましくは、冷延鋼板は、特にHNxを含有する不活性保護ガス雰囲気中で加熱され、窒素含有ガス雰囲気中のHNxの体積濃度は、好ましくは90%~99.5%である。
【0044】
したがって、本発明による方法を用いて、炭素含有量(C)10~1000重量ppmおよび厚さ0.5mm未満の鋼から鋼板を製造することができ、この鋼板は、鋼板の第1の面上に第1の領域および鋼板の第2の面上に第2の領域を有する二層結晶化組織であって、第1の領域が少なくとも実質的に再結晶化し、第2の領域が再結晶化しない、または少なくとも完全には再結晶化しない、二層結晶化組織と、(製造方法の結果として)少なくとも実質的に窒素不透過性のバリア層であって、第1の面の表面上に存在するバリア層と、を有する。窒素含有量の勾配は、鋼板の第2の領域に少なくとも存在し、窒素含有量は、第2の面の表面から第1の面に向かって減少する。
【0045】
したがって、鋼板の第2の領域の硬さは、第1の領域のよりも大幅に大きい。好ましくは、第2の領域のビッカース硬さは、220HV0.025以上、特に好ましくは300HV0.025以上である。好ましくは、第1の領域のビッカース硬さは、100HV0.025以上、かつ、280HV0.025未満である。第1の領域の硬さに対する第2の領域の硬さの比は、1.2より大きいことが好ましく、1.4より大きいことが特に好ましい。
【0046】
窒化後の鋼板の第2の領域における重量基準平均窒素含有量が400~800ppmである場合、特に高い強さ値および硬さ値を得ることができる。
【0047】
二層ミクロ組織の2つの領域は、それらの硬さまたは強さの観点からだけでなく、それらの集合組織の観点からも互いに異なる。例えば、少なくとも実質的に再結晶化した第1の領域と、ほとんどまたは全く再結晶化していない第2の領域を、εファイバ中の{001}方位と{111}方位の比率によって区別することもできる。εファイバ中の{001}方位と{111}方位の比率は、鋼板の成形挙動を特徴付ける「変形指数」(deformation index)として定義できる。{111}方位は良好な成形性を可能にし、良好なランクフォード値(r値)を有するが、{001}方位は成形性に劣る。ここで、εファイバは、(鋼帯の圧延方向およびストリップ面の法線方向に垂直な)横方向に平行な<110>ベクトルで定義される。本発明による鋼板では、いずれの場合も、再結晶化した第1の領域は0.8未満の変形指数を有し、第2の領域は2.0を超える、特に2.0~5.0の変形指数を有する。第1および第2の領域の集合組織の対応する特徴付けは、ミクロ組織の他のファイバ、例えば圧延方向にある<110>ベクトルによって定義されるαファイバについても定義することができる。
【0048】
第2の領域の鋼板の(再)結晶度が30%未満、好ましくは20%未満である場合、および/または第1の領域の(再)結晶度が70%超、好ましくは80%超である場合、第1の領域と第2の領域の相互間の有利な明確な境界が得られる。加熱温度(T)にT=T+ΔT/2が適用される場合、2つの領域間の特に明確な境界を得ることができる。好ましくは、加熱温度Tは、T+ΔT/3~T+2ΔT/3の範囲内である。
【0049】
本発明による方法によって製造された鋼板は、包装の製造に有利に使用することができ、この方法によって鋼板は、成形プロセスにおいて、例えば缶の本体に形成することができる。場合によっては、鋼板は、14mm未満の非常に小さい曲げ半径で激しい成形を受ける。本発明による鋼板は、特に、圧延硬さのままの第2の区域が曲げ半径の外側にある場合、成形中に曲げ半径の外側で表面の粗面化がほとんど起こらないという事実によって特徴付けられる。成形中に発生する粗面化は、例えば、鋼板試験片を深絞りして、直方体の四隅に異なる曲げ半径を有する直方体容器を形成し、次いで容器の曲げ半径の外側の粗さを測定する4半径カップ試験によって検出することができる。本発明による鋼板では、8mm~14mmの範囲内の曲げ半径で鋼板を形成した後の第2の区域の外面の粗さ(Ra)は、好ましくは1.0μm未満、特に好ましくは0.8μm未満であり、および/または、粗さ係数が3未満、好ましくは2.5未満である。粗さ係数は、90°の角度の外側の第2の領域の表面の粗さと鋼板から形成された容器の非変形部分における鋼板の粗さとの比によって定義される。
【0050】
したがって、本発明の目的は、製造方法およびそれにより製造される鋼板に加えて、鋼板から製造された少なくとも1つの凸状に形成された部分を有する容器でもあり、それにより、本発明による鋼板の第2の領域は、形成された部分の凸状の外側に位置するようになる。特に、容器は、缶底およびその上に形成された本体を有する缶であってもよく、缶底と本体との間の移行部は、成形部分を形成する。
【0051】
本発明による包装鋼および製造方法のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して以下により詳細に説明される実施形態の結果である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明による方法の加熱工程の一実施形態の温度-時間図の形態の概略図である。
図2】本発明による、二層ミクロ組織を有する鋼板の断面の概略図である。
図3】本発明による、二層ミクロ組織を有する鋼板の断面の顕微鏡像(金属組織断面図)である。
図4】本発明による方法において異なる加熱時間(t)で加熱され窒化処理された、本発明による鋼板の異なる試料で測定された、鋼板の断面でのビッカース硬さ(HV0.025)の厚さに対する変動のプロットである。
図5】異なる加熱時間(t)で加熱され窒化処理された、本発明による鋼板の応力-ひずみ線図[σ(ε)]の比較を示す図である。
図6】4半径カップ試験の概略図である。
図6a】本発明による鋼板からこの試験で製造された、容器の角部に異なる曲げ半径を有する容器の底部の上面図である。
図6b】容器の側面図の断面図である。
図7】本発明による鋼板の試験片に対して行われた図6の4半径カップ試験の結果を表す図であり、
図7a図6bからの異なる位置(P0~P4)における曲げ半径(R1~R4)の外側の粗さ(μm単位のRa)を示す図である。
図7b】これらの位置(P0~P4)における粗さ係数(Ra係数=Ra/R、式中Rは容器の非変形部分における鋼板の粗さである)を示す図である。
【0053】
10~1000重量ppmの炭素含有量を有し、熱間圧延後に冷間圧延された鋼板が、本発明による鋼板の製造のための出発製品として使用される。鋼の合金組成は、(例えば、ASTM A623-11「スズ延伸製品の標準仕様」または「欧州規格EN10202」に定義された)包装鋼の規格によって指定された制限に便宜上適合しているが、特に初期窒素含有量に関して、特に0.02重量%を超える高い窒素含有量を有する高窒化鋼板が製造される場合、これらから逸脱する可能性がある。本発明による鋼板を製造することができる鋼の成分を以下に詳細に説明する。
【0054】
鋼の組成:
・炭素、C:0.001%超、かつ、0.1%未満、好ましくは0.06%未満;
炭素は、硬度および強度を高める効果を有する。したがって、鋼は、好ましくは0.001重量%を超える炭素を含有する。一次冷間圧延工程の期間中および必要に応じて二次冷間圧延工程(スキンパス圧延)の期間中の鋼板の圧延性を、破断伸びを減少させずに、確保するために、炭素含有量は0.1重量%を超えない必要がある。
【0055】
・マンガン、Mn:0.01%超、かつ、0.6%未満;
マンガンも、硬度および強度を高める効果を有する。マンガンはまた、鋼の鍛造性、溶接性および耐摩耗性を改善する。さらに、マンガンの添加は、熱間圧延の期間中の赤熱破壊(red fracture)の傾向を低減し、またマンガンは結晶粒微細化をもたらす。したがって、マンガン含有量は0.01重量%以上が好ましい。高強度を得るためには、マンガン含有量は0.1重量%超、特に0.20重量%以上が好ましい。しかしながら、マンガン含有量が高くなりすぎると、鋼の耐食性が損なわれる。さらに、マンガン含有量が高くなりすぎると、強さが大きくなりすぎるため、鋼はもはや冷間圧延したり成形したりすることができないことになる。したがって、マンガン含有量の上限は0.6重量%が好ましい。
【0056】
・リン、P:0.04%未満。
リンは、鋼中の望ましくない副生成物である。リン含有量が多いと、特に鋼の脆化をもたらし、それゆえ鋼板の成形性が低下する。このため、リン含有量の上限は0.04重量%である。
【0057】
・硫黄、S:0.04%未満、かつ、好ましくは0.001%超。
硫黄は、延性および耐食性を低下させる望ましくない付随元素である。したがって、鋼中に存在する硫黄は0.04重量%以下にする必要がある。他方、鋼を脱硫するには複雑で費用のかかる対策を講じる必要があるため、経済的観点からは0.001重量%未満の硫黄含有量はもはや正当化されない。したがって、硫黄含有量は、0.001重量%~0.04重量%の範囲内が好ましく、0.005重量%~0.01重量%の範囲内が特に好ましい。
【0058】
・アルミニウム、Al:0.08%未満
鋼の製造において、アルミニウムは、鋳造プロセスにおいて脱酸剤として作用し、鋼を鎮静させる。アルミニウムはまた、耐スケール性および成形性を高める。さらに、アルミニウムは窒素と共に窒化物を形成し、このことは本発明による鋼板において有利である。そのため、アルミニウムは0.005重量%以上の濃度で用いることが好ましい。一方、アルミニウム濃度が0.08重量%を超えると、アルミニウムクラスタの形態の表面欠陥をもたらす可能性があり、このためアルミニウム含有量はこの上限を超えないことが好ましい。
【0059】
・ケイ素、Si:0.1%未満;
鋼中のケイ素は、耐スケール性を高める。またケイ素は、固溶体硬化剤である。製鋼において、ケイ素は、溶融物を希釈するプラス効果を有し、脱酸剤として働く。鋼に対するケイ素の別のプラス効果は、引張強さ、降伏強さおよび耐スケール性を高めることである。そのため、ケイ素の含有量は0.003重量%以上が好ましい。しかしながら、ケイ素含有量が高くなりすぎる場合、特に0.1重量%を超える場合。鋼の耐食性が低下する可能性があり、特に電解コーティングによる表面処理がより困難になる可能性がある。
【0060】
・任意選択の窒素、N:0.02%未満、特に0.016%未満、かつ、好ましくは0.001%超。
窒素は、本発明による鋼板用の鋼が製造される溶鋼中の任意成分である。窒素は固溶体強化剤として作用して硬度および強度を高めることは確かである。しかしながら、溶鋼(molten steel)中の窒素含有量が0.02重量%を超えると、その溶鋼から製造されたホットストリップはもはや冷間圧延できないことを意味する。さらに、溶鋼中の窒素含有量が高いと、熱間圧延ストリップの欠陥のリスクが高まる。この理由は、窒素濃度が0.016重量%以上では、熱間成形性が低下するためである。本発明によれば、冷延鋼板を焼鈍炉内で窒化処理することによって鋼板の窒素含有量を後から増加させることが想定されている。したがって、溶鋼中への窒素の導入を完全に免除することができる。ただし、強力な固溶体強化を達成するためには、溶鋼が予め初期窒素含有量を0.001重量%超、特に好ましくは0.010重量%以上含有することが好ましい。
【0061】
・任意選択:窒化物形成剤、特にニオブ、チタン、ジルコニウム、バナジウム:
アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムまたはバナジウムなどの窒化物形成元素は、本発明による鋼板の鋼において、少なくとも部分的に、鋼中に最初に含有された窒素およびその後の焼鈍炉内の窒化プロセスによって窒化物の形態で導入された窒素を結合する上で任意選択的に有利である。これにより、成形挙動が改善され、実質的に時効のないIF(Interstitial Free)鋼板を製造することが可能になる。アルミニウム、チタンおよび/またはニオブは、鋼成分として特に好ましい。この理由は、強力な窒化物形成剤としてのそれらの特性に加えて、微量添加成分としても作用して結晶粒微細化によって、靭性を低下させることなく強度を高めるためである。
【0062】
したがって、鋼は、重量基準で、任意選択的に、
・チタン、Ti:好ましくは0.02%超、特に好ましくは0.02%超、かつ、0.1%未満、および/または
・ニオブ、Nb:好ましくは0.01%超、かつ、0.08%未満、および/または
・アルミニウム、Al:好ましくは0.005重量%超、かつ、0.08重量%未満、および/または
・モリブデン、Mo:0.08%未満;
を含有することが好ましい。
【0063】
その他の任意成分:
以下の追加の成分によって得ることができるさらなる有利な特性を鋼に(必要に応じて)付与するために、鋼は、残部鉄(Fe)および不可避不純物に加えて、
・任意選択の銅、Cu:0.1%未満;
・任意選択のクロム、Cr:0.1%未満;
・任意選択のニッケル、Ni:0.1%未満;
・任意選択のスズ、Sn:0.05%未満;
・任意選択のホウ素、B:0.01%未満、好ましくは0.005%未満かつ好ましくは0.0005%超;
など他の任意選択の成分を含有してもよい。
【0064】
表1は、熱間圧延および冷間圧延によって鋼板を製造することができる鋼組成A、BおよびCの実施形態を示す。冷延鋼板に二層ミクロ組織を形成するために本発明による方法でこれらの鋼組成を処理して二層結晶化組織を製造することができる。
【0065】
鋼板の製造方法:
記載された鋼の組成を用いて溶鋼が製造される。その際、好ましい実施形態の例において、鋼板の高い(平均)窒素含有量を達成するために、溶鋼に窒素を添加することによって、例えば窒素ガスを吹き込むことによって、および/または石灰窒素(カルシウムシアナミド)もしくは窒化マンガンなどの固体窒素化合物を添加することによって、鋼は予め初期窒素含有量Nを有することができる。溶鋼から製造された鋼板の強度が窒素固溶体強化に起因して高くなりすぎるのを防止するために、また鋼の熱間成形性を維持するために、ならびに溶鋼から製造されたスラブ内の窒化物によって引き起こされる欠陥を回避するために、鋼の初期窒素含有量(N)は、0.02重量%を超えないと有利であり、好ましくは0.016重量%以下である。
【0066】
まず、溶鋼からスラブを鋳造し、次いで熱間圧延し、室温まで冷却する。このようにして製造されたホットストリップは、1~4mmの範囲内の厚さを有し、500~750℃、好ましくは650℃~750℃の範囲内の所定の巻取り温度でコイルに巻き取られる。次いで、ホットストリップは、所定の巻取り温度でコイル状に巻かれる。0.5mm未満、好ましくは0.3mm未満の通常の板厚の薄い鋼板の形態の包装鋼を製造するために、ホットストリップは冷間圧延され、板厚減少率は50%~90%超の範囲にある。
【0067】
次いで、(原子状)窒素に対して少なくとも実質的に不透過性である、ケイ酸塩層またはゾル-ゲル層、特にSiO、TiOおよび/またはZrOの層の形態のバリア層が、0.5mm未満の厚さにまで冷間圧延された鋼板の両面のうちの一方の鋼板の表面に塗布される。コイル塗装工程では、例えば、シリコンアルコラートの分散液が、鋼帯の第1の面(a)の表面に塗布される。この目的のために、分散液は、噴霧ノズルを使用した湿式化学的コーティング工程で鋼帯の第1の面にゾルとして噴霧されるか、またはドクターブレードで塗布され、その後乾燥される。この工程では、分子鎖が最初に形成され、より長い時間経過後、微小粒子が形成される。さらなる過程において、粒子はゾル中で網状組織を形成する。湿式化学的に塗布されたゾル層では、その後加水分解や縮合反応によりゲル状態が生じる。ゲル化は、熱を加えることによって加速することができる。
【0068】
ゲル化および乾燥のために、ゾルがコーティングされた鋼帯を炉内に載置する。ゾルの乾燥は、有利には、連続焼鈍炉内で少なくとも部分的に行うことができ、連続焼鈍炉内では、引き続いて鋼板の熱処理が鋼板の窒化処理および部分再結晶化のために行われる。この目的のために、第1の面にバリア層が設けられた冷間圧延鋼帯は、連続焼鈍炉を通過し、そこで鋼の(初期)再結晶化温度Tを超える温度に鋼帯が加熱される。
【0069】
特に好ましい実施形態では、ケイ酸塩含有バリア層は、水性電解質から鋼板の両面のうちの一方に電解塗布される。この目的のために、シリカおよびナトリウム塩を含む塩基性水性電解質溶液を電解質タンクに添加し、鋼板をカソードとして所定のストリップ速度で電解質タンクを通過させる。表2は、電解質溶液の好ましい組成を示し、表2は、電解塗布工程の好ましいパラメータを示す。バリア層として機能するケイ酸塩層を1~10mg/mの範囲内、特に好ましくは3~6mg/mの範囲内で電解質から鋼板の片面に塗布する
【0070】
本発明による方法では、バリア層が塗布された後、冷延鋼板は、再結晶化焼鈍の前に、または好ましくは再結晶化焼鈍と同時に連続焼鈍炉内の窒化処理ガス雰囲気中で加熱することによって窒化処理される。窒化処理は、好ましくは、鋼板が鋼の(初期)再結晶化温度Tより高い温度に加熱されている間に、窒素含有ガス、好ましくはアンモニア(NH)を焼鈍炉内に導入することによって、焼鈍炉内での再結晶化焼鈍と同時に行われる。窒素含有ガスとしてアンモニアを使用する場合、好ましくは300℃より高い焼鈍炉内の温度において、触媒反応によって窒素含有ガスから窒素が解離することによって原子状窒素が形成され、原子状窒素は鋼板の表面で鋼板の第2の面の鋼板中に(格子間)拡散することができる。鋼板の第1の面では、窒素の拡散はバリア層によって阻止される。
【0071】
加熱中の鋼板表面の第2の面の酸化を防止するために、焼鈍炉内で不活性ガス雰囲気を使用することが好都合である。好ましくは、焼鈍炉内の雰囲気は、窒素供与体として作用する窒素含有ガスとHNxなどの不活性ガスとの混合物からなり、不活性ガスの体積分率は好ましくは90%~99.5%であり、ガス雰囲気の残りの体積分率は窒素含有ガス、特にアンモニアガス(NHガス)によって形成される。
【0072】
図1に、本発明による方法の好ましい実施形態の例における、焼鈍炉内で鋼板を窒化処理および焼鈍するための熱処理の温度-時間プロファイルを概略的に示す。この第1の実施形態の例では、鋼板の単段熱処理を連続焼鈍炉内で行い、単段加熱の間、鋼板に再結晶化焼鈍および窒化処理を同時に施す。図1に示すように、この実施形態では、鋼板は、10~15℃/秒の好ましい(平均)加熱速度で加熱時間(t)内に室温から加熱温度T≧Tにまで加熱され、焼鈍時間(t)の間は少なくとも略この温度に保持される。加熱温度Tは、(特定の領域において)鋼板が焼鈍されて再結晶化する焼鈍温度に対応し、初期再結晶化温度Tと、鋼板の表面近傍区域における窒化処理によってT+ΔTに上昇した再結晶化温度との中間にある。ここで、加熱温度T:T≦TRE<T+ΔTが成り立つ。
【0073】
加熱時間(t)は、好ましくは1.0~300秒の範囲、特に好ましくは10~120秒の範囲にあり、以下でさらに説明するように、本発明による鋼板の所望の材料特性に従って調整することができる。加熱時間を調整するために、焼鈍炉内で鋼板を加熱する加熱速度または連続焼鈍炉を通過させる速度を所望の加熱時間に応じて調整することができる。好ましい加熱時間(t)を1.0~300秒の範囲にするために、例えば、10K/s~80K/sの加熱速度を選択することができる。加熱時間中、連続焼鈍炉内の鋼板は、窒化処理ガス雰囲気、特にアンモニアガス雰囲気に曝される。焼鈍時間(t)は、好ましくは1.0~90秒の範囲、特に好ましくは10~60秒の範囲にあり、また本発明による鋼板の所望の材料特性に従って選択される。焼鈍時間(t)が経過した後、鋼板を焼鈍炉から出し、環境中で受動的に冷却するか、または能動冷却、例えば水冷もしくはガスフロー冷却によって室温にまで冷却する。適切な冷却速度は、ガスフロー冷却の場合は3K/s~20K/sの範囲にあり、水冷の場合は1000K/sを超える。
【0074】
鋼の(初期)再結晶化温度Tは、鋼の組成に依存し、一般的には550~720℃の範囲にある。
【0075】
冷延鋼板を焼鈍炉内で加熱すると、原子状窒素が鋼板表面を拡散するため、窒素含有ガスからの窒素は、最初、鋼板の第2の面の表面付近の領域にのみ析出する。表面近傍領域に拡散した窒素は、鋼の鉄の格子間に侵入型で組み込まれるか、または、特にAl、Nb、TiもしくはBなどの強力な窒化物形成剤が鋼中に存在する場合、窒化物として結合される。窒素が取り込まれると、表面近傍の第2の領域における鋼の再結晶化温度(T)は値ΔTだけ上昇する。表面付近の第2の領域における再結晶化温度(T)のこの上昇は、図1にΔTで示されている。
【0076】
本発明によれば、ここで、加熱温度(T)または焼鈍温度は、T≦TRE<T+ΔTが適用されるように選択される。したがって、加熱温度(T)または焼鈍温度は、本発明による方法において、冷延鋼板の製造に使用される鋼の(初期)再結晶化温度(T)と、表面近傍の第2の領域における鋼板の表面近傍の窒化処理に起因して値ΔTだけ上昇した再結晶化温度(T+ΔT)との中間にあるように設定される。加熱温度(T)(または焼鈍温度)をこのように設定することにより、再結晶化は、鋼板の第1の面上の第1の領域であって、表面付近の第2の領域の内側に隣接し、鋼板の焼鈍および同時の窒化処理の間は少なくとも最初は中に窒素が(まだ)取り込まれていない領域でのみ起こる。この理由は、鋼板のこの第1の領域においてのみ、加熱温度(T)が再結晶化温度(T)より高いが、第2の領域では、窒素の取り込みにより再結晶化温度がΔT上昇したので、加熱温度(T)は、T+ΔTに上昇した再結晶化温度より低いためである。したがって、少なくとも本質的に、好ましくはほぼ完全に再結晶化した第1の領域1と、第2の領域2とを有する二層ミクロ組織が、鋼板の断面にわたって形成され、第2の領域2は、再結晶化していないか、または少なくとも完全には再結晶化していない。
【0077】
したがって、窒素含有ガス雰囲気中での鋼板の加熱から生じるミクロ組織は、図2の本発明による鋼板の概略断面図に示すように、少なくとも本質的に完全に再結晶化した第1の領域1と、再結晶化していない第2の領域2とを含む。鋼板の第2の面bに位置する第2の領域2は、再結晶化していないか、または少なくとも完全には再結晶化しておらず、したがって冷延鋼板の圧延されたままの状態を維持している。対照的に、鋼板の第1の面a上にある第1の領域1は、(特に完全に)再結晶化する。図2に示すバリア層3は、鋼板の第1の面a上に位置する。
【0078】
第2の領域2および第1の領域1の再結晶化度は、加熱温度(T)および焼鈍時間(t)によって調整することができる。例えば、焼鈍時間(t)が10秒を超え、加熱温度(T)がT+ΔT/3~T+2ΔT/3にあれば、コア領域2と周辺領域1との間の明確な境界を得ることができる。同様に、周辺領域1の厚さは、加熱温度(T)および加熱時間(t)のプロセスパラメータによって調整することができる。
【0079】
したがって、本発明による方法を使用して、少なくとも大部分が再結晶化した第1の領域1と、圧延硬さである第2の領域2とを有する二層ミクロ組織を製造することができる。
【0080】
本発明による鋼板の製造後、通常の方法で、特に電解スズめっきまたはクロムめっきによって、片面または両面を化成層または保護層でコーティングすることができる。
【0081】
例:
本発明による鋼板、容器の製造におけるその使用および方法の実施形態の例を以下に説明する。
【0082】
厚さ0.23±0.01mmの鋼板を、表1に列挙した合金組成を有する溶鋼Aから熱間圧延およびその後の冷間圧延によって製造した(ppm数値は、冷延鋼板が製造された鋼中の合金成分の重量分率を指す)。冷延鋼板に、アンモニア体積分率5%のアンモニア含有不活性ガス雰囲気中で、様々な加熱時間tで加熱温度T750℃の熱処理を施し、45秒間の焼鈍時間tの間中ずっと加熱温度Tに保持した。
【0083】
熱処理した鋼板のミクロ組織を顕微鏡で調べた(冷間包埋し、粉砕し、研磨し、ナイタール後に3%硝酸でエッチング)。図3は、本発明による鋼板の金属組織断面の断面顕微鏡写真の一例を示し、そこから結晶化度の異なる2つの領域1、2と、鋼板の第1の面上のバリア層3(図3の断面では視認できない)とを見ることができる。図3から、本発明による鋼板は、再結晶化した第1の領域1と、再結晶化していない第2の領域2とを有する二層ミクロ組織を有し、第1の領域1は第2の領域2よりも著しく厚いことが明らかである。
【0084】
本発明による鋼板の試料について、断面を横切る様々な位置で硬さを記録した。図4は、鋼板試験片の厚さにわたる様々な位置(位置1~位置7、ここで位置1は鋼板の第1の面aの表面であり、位置7は鋼板の第2の面bの表面である)におけるビッカース硬さHV0.025の変動を示す。図4から、硬さは、鋼板試験片の厚さにわたって第1の面aから第2の面bに向かって徐々に(直線的に)増加していることが分かる。
【0085】
鋼板の厚さにわたる硬さのこの変動の起因は、鋼板の外側からコアに向かう窒素含有量の減少を伴う鋼板の第2の領域2における窒化処理および焼鈍炉内の熱処理中の第1の領域1の(完全な)再結晶化である。第2の領域2は圧延硬さを維持しているので硬さが大きく、第2の面bの鋼板表面で最大の硬さになる。
【0086】
図4からも、ビッカース硬さの絶対値が加熱時間tに依存することが分かる。短い加熱時間(例えば、t=60秒)熱処理された試料は、第1の面aのビッカース硬さが約100と低いが、長い加熱時間(例えば、t=300秒)処理された試料は、同じ面のビッカース硬さが150を超える。したがって、本発明による鋼板の硬さまたは強さは、加熱時間tを介して調整することができる。120秒を超えるより長い加熱時間では、第1の領域1の少なくとも部分的な硬化も加熱中に起こり、窒素がこの区域に拡散し、鋼の硬さまたは強さをそこで大きくすることも図4から分かる。
【0087】
このことは、本発明による鋼板の強さおよび伸びの測定によっても確認することができる。図5は、表1の鋼から作製された、本発明による鋼板の2つの試料の応力-ひずみ線図の例である。これらの試料はそれぞれ、異なる加熱時間t=60秒およびt=300秒加熱され、加熱時間中に窒化処理を施した。
【0088】
図5からは、本発明による鋼板の機械的パラメータ、特に引張強さおよび破断伸びが加熱時間によって調整可能であり、600MPa超の引張強さおよび7%を超える破断伸びが達成可能であることが分かる。
【0089】
したがって、本発明による方法は、5%を超える、好ましくは7%を超える良好な破断伸びと組み合わせて、600MPaを超える非常に大きな強さを特徴とする(窒化)鋼板を製造するために使用することができる。そのような鋼板は、缶詰缶または飲料缶などの安定した包装ならびにその部品、例えば、(ティアオフ)リッドなどの製造のための成形プロセスにおいて良好に加工することができる。
【0090】
ミクロ組織の正確な組成(特に第1および第2の領域の厚さおよび結晶化度)ならびに連続焼鈍炉内の窒化処理プロセスによって生成された第1および第2の領域の窒素含有量および鋼板の厚さ全域にわたる窒素含有量の勾配には、プロセスパラメータを変更することで影響を及ぼすことができる。したがって、本発明による方法によって製造された鋼板の特性は、様々な用途に合わせて調整することができる。
【0091】
本発明による鋼板の成形中の挙動は、4半径カップ試験において、鋼板試験片を容器の四隅のそれぞれで曲げ半径(R1、R2、R3およびR4)が異なる直方体容器に成形することによって調査した。
【0092】
図6は、4半径カップ試験中に鋼板から形成された容器の概略図であり、図6aは容器ベースの上面図であり、図6bは容器壁の領域における側面図の断面図である。図6aは、以下のサイズを有する、異なる曲げ半径(R1、R2、R3、R4)を示す。
R1=8mm、
R2=10mm、
R3=12mm、
R4=14mm。
【0093】
図6bに示す位置P0、P1、P2、P3およびP4で粗さ測定を行い、中心粗さRa値を決定した。
【0094】
4半径カップ試験では、いずれの場合も二層結晶化組織を有する鋼板を使用し、再結晶化した第1の領域1および再結晶化していない(したがって、ミル硬さのままの)第2の領域2は、曲げ半径の外側と内側の両方に配置された。これに関連して、第2の領域2の厚さが異なる鋼板も4半径カップ試験で試験した。第2の領域2の異なる厚さは、製造プロセスにおいてステッチ(stitching)プロセスの異なる加熱時間(試料A:t=1秒、試料B:t=300秒)によって生成された。
【0095】
4半径カップ試験の結果を図7Aおよび図7Bに示す。図7Aには、試験後の鋼板試験片の両方の変形例について、位置P1~P4(図6b参照)および容器の非変形底部の区域(図6bの位置P0)において様々な曲げ半径R1、R2、R3、R4で測定した中心粗さ(Ra値)を示す。
【0096】
図7Aから、曲げ半径R1~R4の全てにおける粗さRaは、容器の非変形底部における粗さよりも大きいことが分かる。さらに、図7Aから、(圧延硬さの)非再結晶化の第2の領域2が曲げ半径の外側に位置する容器では、曲げ半径R1~R4における粗さがより小さいことが分かる。対照的に、再結晶化した第1の領域1が曲げ半径の外側にある容器では、粗さRaがより大きい。第2の領域2が曲げ半径R1~R4の外側にある容器では、中心粗さ(Ra)は1.0μm未満、特に0.8μm未満である。
【0097】
図7Bに、曲げ半径R1~R4におけるRa値と容器の非変形底部領域におけるRa値との比によって定義されるRa係数を示す。図7Bから分かるように、非再結晶化の第2の領域2が曲げ半径R1~R4の外側に位置する容器では、Ra係数が約3倍小さい。第2の領域2が曲げ半径R1~R4の外側にある容器の場合、粗さ係数(Ra係数)は3未満、特に2.5未満である。
【0098】
このことから、本発明による鋼板を形成する際、非再結晶化の第2の領域2を有する鋼板の第2の面bが外側にあるとき、曲げ半径の外側で生じる粗面化がはるかに小さいことになる。したがって、4半径カップ試験の結果は、本発明による鋼板が、容器の曲げ半径の領域においてRa値が低く粗面化が少ない容器の製造に非常に適してことを示している。鋼板を容器に成形する際に、非再結晶化の第2の領域2を有する鋼板の第2の面bを、この面が成形後に容器の曲げ半径の外側になるように配置することが好ましい。この場合、鋼板の非再結晶化の第2の領域2は、鋼組織のより粗大な結晶粒に対する障壁に相当し、鋼組織の結晶粒が第2の面bの表面に目視可能な形で押し出されて曲げ半径の外側に望ましくない粗面化をもたらすことを防止する。圧延硬さの第2の領域2の厚さは、可能な限り薄くなるように、特に50μm未満になるように選択するのが好ましい。これにより、鋼板の機械的特性、特にその成形性が、圧延硬化された第2の領域2からほんのわずかな影響しか受けないことが保証される。特に、このことは、圧延硬さの第2の領域2の硬さおよび強さが大きいにもかかわらず、鋼板の成形性が大幅には低減しないことを保証する。実際、曲げ半径R1~R4の内側にあるのは、鋼板のより容易に成形可能な軟質の第1の面aであり、再結晶化したより軟質の第1の領域1を有している。鋼板が曲げ半径に成形される際に、鋼板の第1の領域1は、曲げ半径の内側に圧縮され、再結晶化した軟質の第1の領域1が、この成形に及ぼす抵抗はほんのわずかである。したがって、第2の面bにおける硬さおよび強さが大きいにもかかわらず、本発明による鋼板は、従来の成形プロセス、特に深絞り加工で容易に容器に成形することができ、弊害をもたらす粗面化が成形区域の外側の鋼板の表面に生じない。図7Aに示す試験片Aと試験片Bとの粗さの値を比較すると、第2の領域2の厚さはほんのわずかしか粗さに影響しないことが分かる。このため、鋼板成形時の粗面化を回避する観点からすれば、第2の領域の厚さを薄くすることができる。
【表1】

【表2】

【表3】


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
【国際調査報告】