IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 普米斯生物技術(珠海)有限公司の特許一覧

特表2024-542944抗メソテリンナノボディおよびその使用
<>
  • 特表-抗メソテリンナノボディおよびその使用 図1
  • 特表-抗メソテリンナノボディおよびその使用 図2
  • 特表-抗メソテリンナノボディおよびその使用 図3
  • 特表-抗メソテリンナノボディおよびその使用 図4
  • 特表-抗メソテリンナノボディおよびその使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】抗メソテリンナノボディおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20241112BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241112BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20241112BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20241112BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20241112BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241112BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241112BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20241112BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241112BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20241112BHJP
   G01N 33/533 20060101ALI20241112BHJP
   G01N 33/534 20060101ALI20241112BHJP
   G01N 33/535 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20241112BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/46
C07K14/725
C07K19/00
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/13
A61K47/64
A61K39/395 Y
A61P35/00
A61K31/7088
A61K48/00
A61K38/02
A61K35/76
A61K35/17
A61K39/395 T
A61K49/00
A61K51/10 200
G01N33/53 D
G01N33/532 B
G01N33/533
G01N33/534
G01N33/535
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523232
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 CN2022125135
(87)【国際公開番号】W WO2023066133
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】202111208871.9
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521530738
【氏名又は名称】普米斯生物技術(珠海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】BIOTHEUS INC.
【住所又は居所原語表記】10B, BUILDING 4, NO 1 KEJI 7TH ROAD, TANGJIAWAN TOWN, XIANGZHOU DISTRICT, ZHUHAI, GUANGDONG 519080, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 振 清
(72)【発明者】
【氏名】繆 小 牛
(72)【発明者】
【氏名】呉 凡
(72)【発明者】
【氏名】李 志 遠
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA13
4C084CA53
4C084NA13
4C084ZB26
4C085AA14
4C085AA26
4C085BB11
4C085DD33
4C085DD62
4C085EE01
4C085HH03
4C085HH11
4C085KA04
4C085KA27
4C085KA29
4C085KB82
4C085KB99
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB43
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、MSLNに特異的に結合するナノボディもしくはその抗原結合断片、ナノボディもしくはその抗原結合断片を含む組成物、抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、およびそれを含む宿主細胞、ならびに関連する使用に関する。さらに、本発明は、これらの抗体またはその抗原結合断片の治療的および診断的使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MSLNに特異的に結合することができるナノボディもしくはその抗原結合断片であって、
配列番号4および6~9のいずれか1つに記載の可変領域(VHH)に含まれるCDR1もしくはそのバリアント、CDR2もしくはそのバリアント、およびCDR3もしくはそのバリアント
を含み、
前記バリアントが、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個もしくは3個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有し;好ましくは、前記置換が保存的置換であり;
好ましくは、前記CDRが、IMGT、KabatもしくはChothiaナンバリング系に従って定義される、
ナノボディもしくはその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号1に記載の配列を有するCDR1もしくはそのバリアント、配列番号2に記載の配列を有するCDR2もしくはそのバリアント、および配列番号3に記載の配列を有するCDR3もしくはそのバリアント
を含み、
前記バリアントが、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個もしくは3個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有し;好ましくは、前記置換が保存的置換であり;
好ましくは、前記ナノボディもしくはその抗原結合断片が、配列番号1に記載の配列を有するCDR1、配列番号2に記載の配列を有するCDR2、および配列番号3に記載の配列を有するCDR3を含み;
好ましくは、前記CDRがIMGTナンバリング系によって定義される、
請求項1に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片。
【請求項3】
(i)配列番号4に記載の配列;
(ii)配列番号4に記載の配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有する配列;または
(iii)配列番号4に記載の配列と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する配列
から選択されるアミノ酸配列を含み、
好ましくは、前記置換が保存的置換である、
請求項1または2に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片。
【請求項4】
ヒト化されており、
好ましくは、ヒト免疫グロブリンの重鎖フレームワーク領域(例えば、ヒト免疫グロブリン重鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域)をさらに含み、前記重鎖フレームワーク領域が、場合により、ヒト残基からラクダ残基への1個以上(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個)の復帰突然変異を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片。
【請求項5】
(i)配列番号10に記載のFR1、または配列番号10と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号10と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR1;
(ii)配列番号11~13のいずれか1つに記載のFR2、または配列番号11~13のいずれか1つと比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号11~13のいずれか1つと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR2;
(iii)配列番号14~16のいずれか1つに記載のFR3、または配列番号14~16のいずれか1つと比較して1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号14~16のいずれか1つと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR3;
ならびに/または、
(iv)配列番号17に記載のFR4、または配列番号17と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号17と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR4
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片。
【請求項6】
(i)配列番号6~9のいずれか1つに記載の配列;
(ii)配列番号6~9のいずれか1つに記載の配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有する配列;または
(iii)配列番号6~9のいずれか1つに記載の配列と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する配列
から選択されるアミノ酸配列を含み、
好ましくは、前記置換が保存的置換である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片。
【請求項7】
MSLNに特異的に結合することができるポリペプチド構築物であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片と、免疫グロブリンFcドメインとを含み、
好ましくは、前記免疫グロブリンFcドメインが、場合により、ペプチドリンカーを介して、ナノボディもしくはその抗原結合断片のN末端および/またはC末端(例えば、C末端)に連結されており;
好ましくは、前記免疫グロブリンFcドメインが、IgG Fcドメイン(例えば、IgG1 Fcドメイン)であり;
好ましくは、前記免疫グロブリンFcドメインが、配列番号5に記載の配列、それと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する配列、またはそれと比較して1個以上のアミノ酸の置換、欠失、もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸の置換、欠失、または付加)を有する配列を含む、
ポリペプチド構築物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、または請求項7に記載のポリペプチド構築物をコードする、単離された核酸分子。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸分子を含むベクターであって;好ましくはクローニングベクターまたは発現ベクターである、ベクター。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸分子または請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片または請求項7に記載のポリペプチド構築物を調製するための方法であって、請求項10に記載の宿主細胞をタンパク質発現可能な条件下で培養すること、ならびに培養された宿主細胞の培養物からナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築物を回収することを含む、方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片または請求項7に記載のポリペプチド構築物を含む、二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体であって;
好ましくは、MSLNと特異的に結合し、さらに1つ以上の他の標的と特異的に結合し;
好ましくは、第2の標的に対する第2の結合特異性を有する少なくとも1つの第2の抗体をさらに含む、
二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片または請求項7に記載のポリペプチド構築物と、前記ナノボディもしくはその抗原結合断片または前記ポリペプチド構築物に連結された治療剤とを含む、コンジュゲートであって;
好ましくは、前記治療剤が、細胞傷害剤、ホルモン剤、生物学的応答調節剤、追加の抗体もしくはその抗原結合断片などの抗腫瘍剤からなる群から選択される、
コンジュゲート。
【請求項14】
抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体であって、前記抗原結合ドメインが、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片を含み、
好ましくは、前記キメラ抗原受容体が、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)によって発現される、
キメラ抗原受容体。
【請求項15】
請求項14に記載のキメラ抗原受容体をコードする、単離された核酸分子。
【請求項16】
請求項15に記載の単離された核酸分子を含むベクターであって;好ましくは、キメラ抗原受容体T細胞を調製するために使用される、ベクター。
【請求項17】
請求項15に記載の単離された核酸分子または請求項16に記載のベクターを含む、宿主細胞であって;
好ましくは、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)であり;
好ましくは、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)である、
宿主細胞。
【請求項18】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、請求項7に記載のポリペプチド構築物、請求項8に記載の単離された核酸分子、請求項9に記載のベクター、請求項10に記載の宿主細胞、請求項12に記載の二重特異性もしくは多重特異性抗体、請求項13に記載のコンジュゲート、請求項14に記載のキメラ抗原受容体、請求項15に記載の単離された核酸分子、請求項16に記載のベクター、または請求項17に記載の宿主細胞を含む、医薬組成物であって;
好ましくは、薬学的に許容される担体および/もしくは賦形剤をさらに含み;
好ましくは、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、請求項7に記載のポリペプチド構築物、請求項8に記載の単離された核酸分子、請求項9に記載のベクター、または請求項10に記載の宿主細胞を含み;
好ましくは、請求項12に記載の二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体を含み;
好ましくは、請求項13に記載のコンジュゲートを含み;
好ましくは、請求項14に記載のキメラ抗原受容体、請求項15に記載の単離された核酸分子、請求項16に記載のベクター、または請求項17に記載の宿主細胞を含む、
医薬組成物。
【請求項19】
対象における腫瘍を予防および/もしくは治療するための医薬の製造における、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、請求項7に記載のポリペプチド構築物、請求項8に記載の単離された核酸分子、請求項9に記載のベクター、請求項10に記載の宿主細胞、請求項12に記載の二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体、請求項13に記載のコンジュゲート、請求項14に記載のキメラ抗原受容体、請求項15に記載の単離された核酸分子、請求項16に記載のベクター、請求項17に記載の宿主細胞、または請求項18に記載の医薬組成物の使用であって;
好ましくは、前記腫瘍が、MSLN陽性腫瘍であり;
好ましくは、前記腫瘍が、胃がん、肺がん、卵巣がん、食道がん、膵臓がん、子宮頸がん、中皮腫もしくは乳がんなどの固形腫瘍からなる群から選択され;
好ましくは、前記対象が、ヒトなどの哺乳動物であり;
好ましくは、前記ナノボディもしくはその抗原結合断片、ポリペプチド構築物、単離された核酸分子、ベクター、宿主細胞、二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体、コンジュゲート、キメラ抗原受容体、または医薬組成物が、単独で、もしくは追加の薬学的に活性な薬剤(例えば、抗悪性腫瘍剤)との組み合わせで使用される、
使用。
【請求項20】
対象における腫瘍を予防および/もしくは治療するための方法であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、請求項7に記載のポリペプチド構築物、請求項8に記載の単離された核酸分子、請求項9に記載のベクター、請求項10に記載の宿主細胞、請求項12に記載の二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体、請求項13に記載のコンジュゲート、請求項14に記載のキメラ抗原受容体、請求項15に記載の単離された核酸分子、請求項16に記載のベクター、請求項17に記載の宿主細胞、または請求項18に記載の医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含み;
好ましくは、前記腫瘍が、MSLN陽性腫瘍であり;
好ましくは、前記腫瘍が、胃がん、肺がん、卵巣がん、食道がん、膵臓がん、子宮頸がん、中皮腫もしくは乳がんなどの固形腫瘍からなる群から選択され;
好ましくは、前記対象が、ヒトなどの哺乳動物である、
方法。
【請求項21】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片または請求項7に記載のポリペプチド構築物と、前記ナノボディもしくはその抗原結合断片または前記ポリペプチド構築物に連結された検出可能な標識とを含む、コンジュゲートであって;例えば、前記検出可能な標識が、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル化合物、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインもしくは蛍光タンパク質)、放射性核種またはビオチンである、コンジュゲート。
【請求項22】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、または請求項7に記載のポリペプチド構築物、または請求項21に記載のコンジュゲートを含む、キットであって;
好ましくは、請求項21に記載のコンジュゲートを含み;
好ましくは、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片または請求項7に記載のポリペプチド構築物と、前記ナノボディもしくはその抗原結合断片または前記ポリペプチド構築物を特異的に認識することができる第2の抗体とを含み;場合により、前記第2の抗体が、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル化合物、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインもしくは蛍光タンパク質)、放射性核種またはビオチンなどの検出可能な標識をさらに含む、
キット。
【請求項23】
試料中におけるMSLNの存在またはレベルを検出するための方法であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、請求項7に記載のポリペプチド構築物、または請求項21に記載のコンジュゲートを使用することを含み;
好ましくは、ウェスタンブロット、酵素免疫測定法(例えば、ELISA)、化学発光免疫測定法、蛍光免疫測定法または放射免疫測定法などの免疫学的アッセイであり;
好ましくは、請求項21に記載のコンジュゲートを使用することを含み;
好ましくは、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片または請求項7に記載のポリペプチド構築物を使用することを含み、前記ナノボディもしくはその抗原結合断片または前記ポリペプチド構築体を検出するために、検出可能な標識(例えば、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル化合物、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインもしくは蛍光タンパク質)、放射性核種またはビオチン)を有する第2の抗体を使用することをさらに含む、
方法。
【請求項24】
試料中におけるMSLNの存在もしくはレベルを検出するための、またはMSLNを標的とする抗腫瘍療法によって腫瘍が治療可能であるか否かを検出するための、検出試薬の製造における、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノボディもしくはその抗原結合断片、または請求項7に記載のポリペプチド構築物、または請求項21に記載のコンジュゲートの使用であって;
好ましくは、前記検出試薬が、試料中におけるMSLNの存在またはレベルを検出し、場合により、請求項23に記載の方法によって、腫瘍がMSLNを標的とする抗腫瘍療法によって治療可能であるか否かを検出し;
好ましくは、前記試料が、対象(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト)からの細胞試料(例えば、腫瘍細胞を含む試料)または体液試料(例えば、血液)である、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本出願は、MSLNに特異的に結合するナノボディもしくはその抗原結合断片、ナノボディもしくはその抗原結合断片を含む組成物、抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、およびそれを含む宿主細胞、ならびにそれらに関連する使用に関する。さらに、本発明は、抗体またはその抗原結合断片の治療的および診断的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
メソテリン(MSLN)は、膵臓がん、卵巣がん、中皮腫、および他のいくつかのがんにおいて高発現している40kDaの細胞表面糖タンパク質である。MSLNは、少数の患者の血液中に分泌された可溶性のsMSLNの形で存在することもあるため、血液中のMSLNの測定は、患者の状態を診断および追跡するのに有用となり得る。MSLN遺伝子は、分子量69kDaの前駆体タンパク質をコードしており、これが40kDaの膜結合タンパク質(MSLNと呼ばれる)と巨核球増強因子(MPF)と呼ばれる31kDaの切断断片へとプロセッシングされ、この断片が細胞から分泌される。MSLNはがん特異的抗原ではなく、正常な胸膜、心膜および腹膜の中皮細胞でも発現され得るが、様々ながん細胞で高発現している。MSLNの正常組織における分布は限られているため、腫瘍特異的治療の有望な標的となる。
【0003】
現在、MSLNを標的とする様々な抗体医薬または細胞療法が臨床段階に進んでいる。例えば、バイエル、イミュノジェン、モルフォシスおよび他の会社により開発された抗体コンジュゲート薬のアネツマブ・ラブタンシンは、固形がんの治療薬として第II相臨床試験において使用されている(NCT03926143);また、モルフォテックにより開発されたMSLNを標的とするモノクローナル抗体薬のアマツキシマブも固形がんの臨床治療に使用されており、現在第II相臨床試験中である;さらに、中国人民解放軍陸軍医科大学とTCRセラピューティクスも、MSLNを標的とするCAR-T療法を開発しており、いずれも現在臨床試験段階にある。既存の臨床試験のほとんどは、メソテリンを標的とする治療法が安全であることを示しているが、治療効果は控えめである。
【0004】
ナノボディまたは重鎖抗体(hcAb)としても知られる単一ドメイン抗体(sdAb)は、ラクダおよびサメの血清から単離される抗体であり、その体積は従来の抗体の約1/10である。従来の抗体と異なり、単一ドメイン抗体は重鎖のみで構成され、その抗原結合領域はヒンジ領域を介してFc領域に接続された単一ドメインのみであり、この抗原結合領域は、抗体から分離された後にもなお抗原と結合する能力を有している。単一ドメイン抗体は、分子量が小さく、安定性に優れるという特徴を有する。医薬品開発および診断試薬開発において、従来の通常の抗体と比較すると、それらは組織への浸透性が良く、投与が柔軟で、ヒト化度が高く、組換えタンパク質への変換が容易であり、その他にも多くの利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の内容
本願発明者らは、広範囲にわたる研究の後、抗MSLNナノボディをスクリーニングして、取得した。このナノボディはMSLNに対して高い結合活性を有し、ヒト、サルおよび/またはマウスのMSLNと交差反応性を示す。さらに、ナノボディは分子量が小さく、安定性が良いという特徴も有している。医薬品開発および診断試薬開発において、従来の一般的な抗体と比較すると、それは組織への浸透性が良く、投与が柔軟で、ヒト化度が高く、組換えタンパク質への変換が容易であり、その他にも多くの利点がある。
【0006】
これに基づき、本願はまた、ナノボディもしくはその抗原結合断片を含む組成物、ナノボディもしくはその抗原結合断片をコードする核酸、それを含む宿主細胞、ならびにそれらに関連する使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ナノボディおよびその抗原結合断片
したがって、第1の態様において、本願は、MSLNに特異的に結合できるナノボディもしくはその抗原結合断片を提供する。本明細書に記載のナノボディは、通常、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4と呼ばれる4つのフレームワーク領域(FR)と3つの相補性決定領域(CDR)から構成される。抗原結合断片は、MSLNと特異的に結合する断片の能力を付与するのに十分な、ナノボディの少なくとも一部を含んでいる。いくつかの実施形態において、本願のナノボディは、抗原と結合する能力および特異性を実質的に維持する限り、FR1および/またはFR4の一部のみを含むように、あるいはそれらのフレームワーク領域の1つもしくは2つを欠くように、N末端またはC末端で切断され得る。
【0008】
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、
配列番号4および6~9のいずれか1つに記載の可変領域(VHH)に含まれるCDR1もしくはそのバリアント、CDR2もしくはそのバリアント、CDR3もしくはそのバリアント;
を含み、
バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個もしくは3個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有している。特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
【0009】
特定の実施形態において、CDRはIMGT、KabatもしくはChothiaナンバリング系に従って定義される。
【0010】
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、
配列番号1に記載の配列を有するCDR1もしくはそのバリアント、配列番号2に記載の配列を有するCDR2もしくはそのバリアント、および配列番号3に記載の配列を有するCDR3もしくはそのバリアント;
を含み、
バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個もしくは3個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有している。特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
【0011】
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、配列番号1に記載の配列を有するCDR1、配列番号2に記載の配列を有するCDR2、および配列番号3に記載の配列を有するCDR3を含んでいる。
【0012】
特定の実施形態において、CDRはIMGTナンバリング系によって定義される。
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、
(i)配列番号4に記載の配列;
(ii)配列番号4に記載の配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有する配列;または
(iii)配列番号4に記載の配列と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する配列
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0013】
特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、ヒト化されている。
【0014】
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、ヒト免疫グロブリンの重鎖フレームワーク領域(例えば、ヒト免疫グロブリン重鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域)をさらに含み、前記重鎖フレームワーク領域は、場合により、ヒト残基からラクダ残基への1個以上(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個)の復帰突然変異を含む。
【0015】
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、
(i)配列番号10に記載のFR1、または配列番号10と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号10と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR1;
(ii)配列番号11~13のいずれか1つに記載のFR2、または配列番号11~13のいずれか1つと比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号11~13のいずれか1つと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR2;
(iii)配列番号14~16のいずれか1つに記載のFR3、または配列番号14~16のいずれか1つと比較して1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号14~16のいずれか1つと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR3;
ならびに/または、
(iv)配列番号17に記載のFR4、または配列番号17と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有するか、または配列番号17と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは100%の配列同一性を有するFR4
を含む。
【0016】
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片は、
(i)配列番号6~9のいずれか1つに記載の配列;
(ii)配列番号6~9のいずれか1つに記載の配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個もしくは5個のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加)を有する配列;または
(iii)配列番号6~9のいずれか1つに記載の配列と比較して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する配列
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0017】
特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
ポリペプチド構築物
第2の態様において、本願はまた、上述のナノボディもしくはその抗原結合断片と免疫グロブリンFcドメインとを含む、MSLNに特異的に結合できるポリペプチド構築物も提供する。
【0018】
この文脈において、Fc領域とも呼ばれるFcドメインは、CH2およびCH3ドメインを含む重鎖定常領域の一部を意味する。いくつかの実施形態において、Fcドメインは、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。Fcドメインがヒンジを含む場合、ヒンジは2つのFc含有ポリペプチド間の二量体化を媒介する。Fcドメインは、任意の抗体重鎖定常領域アイソタイプであり得る。いくつかの実施形態において、Fcドメインは、IgGl、IgG2、IgG3またはIgG4のFcドメインである。
【0019】
特定の実施形態において、本願のポリペプチド構築物に含まれるFcドメインは、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と一致するアミノ酸配列を含むネイティブFc領域である。例えば、Fcドメインは、ネイティブ配列を有するヒトIgG1 Fc領域、ネイティブ配列を有するヒトIgG2 Fc領域、ネイティブ配列を有するヒトIgG3 Fc領域、またはネイティブ配列を有するヒトIgG4 Fc領域であり得る。ネイティブFc領域は、エフェクター機能を有し得る。例示的な「エフェクター機能」は、Fc受容体への結合;C1q結合(Clq結合)および補体依存性細胞傷害性(CDC);抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション;およびB細胞の活性化などを含む。機能的な変化は、ネイティブFc領域中の少なくとも1つのアミノ酸残基を異なる残基で置換することによって、または化学修飾によって生じさせることができ、そのような変化は、例えば、エフェクターリガンド(例えば、FcRまたは補体成分C1q)に対する抗体の親和性を変化させ、それによってエフェクター機能を変化させる(例えば、低下させる、または高める)ことを含む。
【0020】
したがって、特定の実施形態において、本願のポリペプチド構築物に含まれるFcドメインは、本願の抗体の以下の特性:Fc受容体結合、抗体のグリコシル化、システイン残基の数、エフェクター細胞機能または補体機能などの1つ以上を変化させるために、ネイティブFc領域と比較して、1個以上(例えば、1個~5個などの1個~10個)のアミノ酸変異または化学修飾を含み得るバリアントFc領域でもあってもよい。
【0021】
特定の実施形態において、本願のポリペプチド構築物に含まれるFcドメインは、ADCC活性を有する。特定の実施形態では、本願のポリペプチド構築物に含まれるFcドメインは、ADCC活性を有さない。
【0022】
特定の実施形態において、免疫グロブリンFcドメインは、場合により、ペプチドリンカーを介して、ナノボディもしくはその抗原結合断片のN末端および/またはC末端(例えば、C末端)に連結されている。
【0023】
特定の実施形態において、免疫グロブリンFcドメインは、IgG Fcドメイン(例えば、IgG1 Fcドメイン)である。
【0024】
特定の実施形態において、免疫グロブリンFcドメインは、配列番号5に記載の配列、またはそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する配列、またはそれと比較して1個以上のアミノ酸の置換、欠失、もしくは付加(例えば、1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸の置換、欠失、または付加)を有する配列を含む。
【0025】
ナノボディおよびポリペプチド構築物の調製
本願のナノボディまたはポリペプチド構築物は、当技術分野で公知の様々な方法によって調製することができ、例えば、遺伝子工学的組換え技術によって取得され得る。例えば、本願のナノボディまたはポリペプチド構築物をコードするDNA分子は、化学合成またはPCR増幅によって取得され得る。得られたDNA分子は、発現ベクター中に挿入され、宿主細胞にトランスフェクトされる。次に、トランスフェクトされた宿主細胞が特定の条件下で培養され、本願の抗体またはポリペプチド構築物が発現される。
【0026】
本願の抗原結合断片は、インタクトなナノボディ分子の加水分解によって取得され得る(Morimotoら、J. Biochem. Biophys. Methods 24:107~117頁(1992年)およびBrennanら、Science 229:81 (1985年)を参照)。さらに、これらの抗原結合断片は、組換え宿主細胞から直接生成されることもできる(Hudson、Curr. Opin. Immunol. 11: 548~557頁(1999年); Littleら、Immunol. Today, 21: 364~370頁(2000年)に概説されている)。当業者であれば、そのような抗原結合断片を調製するための他の技術をよく知っている。
【0027】
核酸分子
第3の態様において、本願はまた、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片、または上記のポリペプチド構築物をコードする、単離された核酸分子も提供する。
【0028】
ベクター
第4の態様において、本願はまた、上記の核酸分子を含むベクターも提供する。特定の実施形態において、ベクターはクローニングベクターまたは発現ベクターである。
【0029】
宿主細胞
第5の態様において、本願はまた、上記の核酸分子またはベクターを含む宿主細胞も提供する。そのような宿主細胞は、細菌細胞(例えば、大腸菌(E. coli)細胞)などの原核細胞、ならびに真菌細胞(例えば、酵母細胞)、昆虫細胞、植物細胞、および動物細胞(例えば、マウス細胞、ヒト細胞などの哺乳動物細胞)などの真核細胞を含むが、これらに限定はされない。
【0030】
調製方法
第6の態様において、本願はまた、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片または上記のポリペプチド構築物を調製するための方法も提供し、この方法は、タンパク質の発現を可能にする条件下で上記の宿主細胞を培養すること、ならびに培養された宿主細胞の培養物からナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築物を回収することを含む。
【0031】
二重特異性または多重特異性抗体
第7の態様において、本願はまた、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片、または上記のポリペプチド構築物を含む、二重特異性抗体または多重特異性抗体も提供する。本願はまた、二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体の製造における、本願のナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築物、またはそれらをコードする核酸分子、ベクターもしくは宿主細胞の使用も提供する。
【0032】
特定の実施形態において、二重特異性抗体または前記多重特異性抗体は、MSLNと特異的に結合し、さらに1つ以上の他の標的と特異的に結合する。
【0033】
特定の実施形態において、二重特異性抗体または前記多重特異性抗体は、第2の標的に対する第2の結合特異性を有する少なくとも1つの第2の抗体をさらに含む。
【0034】
コンジュゲート
第8の態様において、本願はまた、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片または上記のポリペプチド構築物と、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片または上記のポリペプチド構築物にコンジュゲートされた治療剤とを含む、コンジュゲートも提供する。本願はまた、コンジュゲートの製造における、本願のナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築物、またはそれらをコードする核酸分子、ベクターもしくは宿主細胞の使用も提供する。
【0035】
特定の実施形態において、治療剤は、細胞傷害剤、ホルモン剤、生物学的応答調節剤、追加の抗体またはその抗原結合断片などの抗悪性腫瘍薬からなる群から選択される。
【0036】
キメラ抗原受容体
第9の態様において、本願はまた、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、一次シグナル伝達ドメインおよび/または同時刺激シグナル伝達ドメイン)を含み、抗原結合ドメインが上記のナノボディもしくはその抗原結合断片を含む、キメラ抗原受容体も提供する。本願はまた、キメラ抗原受容体またはキメラ抗原受容体を発現する免疫細胞の製造における、本願のナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築物、またはそれらをコードする核酸分子、ベクターもしくは宿主細胞の使用も提供する。
【0037】
特定の実施形態において、抗原結合ドメインは、MSLNを認識する能力をキメラ抗原受容体に付与し;スペーサードメインは、タンパク質の構造的柔軟性を促進し、1つもしくは2つのドメインの互いに対する移動を可能にし;膜貫通ドメインは、細胞膜(特に、真核細胞の膜)と会合しているとき、熱力学的に安定となり得;細胞内シグナル伝達ドメインは、有効な抗原受容体結合シグナルを免疫エフェクター細胞内部に伝達すること、CAR発現免疫エフェクター細胞の少なくとも1つの正常なエフェクター機能を活性化すること、またはCAR発現免疫エフェクター細胞による少なくとも1つのサイトカインの分泌を増強することに関与する。
【0038】
特定の実施形態において、キメラ抗原受容体は、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)によって発現される。
【0039】
第10の態様において、本願はまた、上記のキメラ抗原受容体をコードする単離された核酸分子も提供する。
【0040】
第11の態様において、本願はまた、上記の単離された核酸分子を含むベクターも提供する。特定の実施形態において、単離された核酸分子はキメラ抗原受容体T細胞の調製に用いられる。
【0041】
第12の態様において、本願はまた、上記の単離された核酸分子またはベクターを含む宿主細胞も提供する。
【0042】
特定の実施形態において、宿主細胞は、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)である。
【0043】
特定の実施形態において、宿主細胞は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)である。
【0044】
医薬組成物
第13の態様において、本願はまた、第1の態様のナノボディもしくはその抗原結合断片、第2の態様のポリペプチド構築物、第7の態様の二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体、第8の態様のコンジュゲート、第9の態様のキメラ抗原受容体、第3もしくは第10の態様の単離された核酸分子、第4もしくは第11の態様のベクター、または第5もしくは第12の態様の宿主細胞を含む、医薬組成物も提供する。
【0045】
特定の実施形態において、医薬組成物は、薬学的に許容される担体および/もしくは賦形剤をさらに含む。
【0046】
特定の例示的な実施形態において、薬学的に許容される担体および/もしくは賦形剤は、無菌注射可能な液体(例えば、水性または非水性の懸濁液または溶液)を含む。特定の例示的な実施形態において、そのような無菌注射液は、注射用水(WFI)、注射用静菌水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、ブドウ糖溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%のポリソルベート20を含む溶液)、pH緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)、リンゲル液およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0047】
特定の実施形態において、医薬組成物は、第1の態様のナノボディもしくはその抗原結合断片、第2の態様のポリペプチド構築物、第3の態様の単離された核酸分子、第4の態様のベクター、または第5の態様の宿主細胞を含む。
【0048】
特定の実施形態において、医薬組成物は、上記の第7の態様の二重特異性抗体または多重特異性抗体を含む。
【0049】
特定の実施形態において、医薬組成物は、上記の第8の態様のコンジュゲートを含む。
特定の実施形態において、医薬組成物は、上記の第9の態様のキメラ抗原受容体、第10の態様の単離された核酸分子、第11の態様のベクター、または第12の態様の宿主細胞を含む。
【0050】
医薬用途
第14の態様において、本願はまた、対象における腫瘍を予防および/もしくは治療するための医薬の製造における、第1の態様のナノボディもしくはその抗原結合断片、第2の態様のポリペプチド構築物、第7の態様の二重特異性もしくは多重特異性抗体、第8の態様のコンジュゲート、第9の態様のキメラ抗原受容体、第3もしくは第10の態様の単離された核酸分子、第4もしくは第11の態様のベクター、第5もしくは第12の態様の宿主細胞、または第13の態様の医薬組成物の使用も提供する。
【0051】
特定の実施形態において、腫瘍はMSLN陽性腫瘍である。
特定の実施形態において、腫瘍は、胃がん、肺がん、卵巣がん、食道がん、膵臓がん、子宮頸がん、中皮腫もしくは乳がんなどの固形腫瘍からなる群から選択される。そのような腫瘍はMSLNを高発現することが当技術分野において知られている(例えば、Auroreら、cancer discovery、2016年を参照)。
【0052】
特定の実施形態において、対象はヒトなどの哺乳動物である。
特定の実施形態において、ナノボディもしくはその抗原結合断片、ポリペプチド構築物、単離された核酸分子、ベクター、宿主細胞、二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体、コンジュゲート、キメラ抗原受容体、または医薬組成物は、単独で、もしくは追加の薬学的に活性な薬剤(例えば、抗悪性腫瘍剤)との組み合わせで使用される。
【0053】
腫瘍の予防および/もしくは治療のための方法
第15の態様において、本願はまた、対象における腫瘍を予防および/もしくは治療するための方法であって、第1の態様のナノボディもしくはその抗原結合断片、第2の態様のポリペプチド構築物、第7の態様の二重特異性もしくは多重特異性抗体、第8の態様のコンジュゲート、第9の態様のキメラ抗原受容体、第3もしくは第10の態様の単離された核酸分子、第4もしくは第11の態様のベクター、第5もしくは第12の態様の宿主細胞、または第13の態様の医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0054】
特定の実施形態において、腫瘍はMSLN陽性腫瘍である。
特定の実施形態において、腫瘍は、胃がん、肺がん、卵巣がん、食道がん、膵臓がん、子宮頸がん、中皮腫もしくは乳がんなどの固形腫瘍からなる群から選択される。
【0055】
特定の実施形態において、対象はヒトなどの哺乳動物である。
本願のナノボディもしくはその抗原結合断片、ポリペプチド構築物、二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体、または医薬組成物は、錠剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、ゲル剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、トローチ剤、坐剤、注射剤(注射用溶液、注射用無菌粉末および注射用濃縮溶液を含む)、吸入剤、スプレー剤など、医療分野で公知の任意の剤形に製剤化され得る。好ましい剤形は、意図される投与の様式および治療用途に応じて異なる。本願のナノボディもしくはその抗原結合断片、ポリペプチド構築物、二重特異性もしくは多重特異性抗体、または医薬組成物は、製造および保存条件下で無菌かつ安定であるべきである。好ましい剤形の1つは注射用液剤である。そのような注射用液剤は、無菌の注射用液剤であり得る。例えば、無菌の注射用液剤は、本願のナノボディもしくはその抗原結合断片、ポリペプチド構築物、二重特異性もしくは多重特異性抗体、または医薬組成物の必要用量を適切な溶媒中に組み込み、場合により、同時に他の所望の成分(pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、等張化剤、保存剤、希釈剤、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定はされない)をそれに組み込み、次いで、フィルター無菌することによって、調製され得る。さらに、無菌の注射用液剤は、保存および使用を容易にするために、無菌凍結乾燥散剤末として(例えば、真空乾燥または凍結乾燥によって)調製されてもよい。そのような無菌凍結乾燥散剤は、注射用水(WFI)、注射用静菌水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%のポリソルベート20を含む溶液)、pH緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)、リンゲル液およびこれらの任意の組み合わせなどの適切な担体中に、使用前に分散され得る。
【0056】
本願のナノボディもしくはその抗原結合断片、ポリペプチド構築物、二重特異性もしくは多重特異性抗体、または医薬組成物は、経口、頬側、舌下、眼科、局所、非経口、直腸、髄腔内、大槽内、鼠径部、膀胱内、体表面(例えば、粉末、軟膏、もしくは点滴)、または経鼻経路を含むがこれらに限定はされない、当該技術分野で公知の任意の適切な方法により投与され得る。しかしながら、多くの治療用途では、好ましい投与の経路/様式は非経口投与(例えば、静脈内注射またはボーラス注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射)である。当業者であれば、投与の経路および/または様式は、意図される目的に応じて異なることを理解するであろう。特定の実施形態において、本願のナノボディもしくはその抗原結合断片、ポリペプチド構築物、二重特異性もしくは多重特異性抗体、または医薬組成物は、静脈内注射またはボーラス注射により投与される。
【0057】
検出アプリケーション
コンジュゲート
第16の態様において、本願はまた、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片または上記のポリペプチド構築物と、ナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築物にコンジュゲートされた検出可能な標識とを含む、コンジュゲートも提供する。特定の実施形態において、検出可能な標識は、例えば、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル化合物、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインもしくは蛍光タンパク質)、放射性核種またはビオチンである。
【0058】
キット
第17の態様において、本願はまた、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片、または上記のポリペプチド構築物、または上記の第16の態様のコンジュゲートを含むキットも提供する。
【0059】
特定の実施形態において、キットは、上記の第16の態様のコンジュゲートを含む。
特定の実施形態において、キットは、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片または上記のポリペプチド構築物と、ナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築物を特異的に認識することができる第2の抗体とを含み;場合により、第2の抗体はさらに、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル化合物、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインもしくは蛍光タンパク質)、放射性核種またはビオチンなどの検出可能な標識をさらに含む。
【0060】
検出方法
第18の態様において、本願はまた、試料中におけるMSLNの存在またはレベルを検出するための方法も提供し、この方法は、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片、または上記のポリペプチド構築物、または上記の第16の態様のコンジュゲートを使用することを含む。特定の実施形態において、方法は治療目的、診断目的、または非治療非診断目的に使用される。
【0061】
特定の実施形態において、方法は、ウェスタンブロット、酵素免疫測定法(例えば、ELISA)、化学発光免疫測定法、蛍光免疫測定法または放射免疫測定法などの免疫学的アッセイである。
【0062】
特定の実施形態において、方法は、上記の第16の態様のコンジュゲートを使用することを含む。
【0063】
特定の実施形態において、方法は、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片または上記のポリペプチド構築物を使用することを含み、方法は、ナノボディもしくはその抗原結合断片またはポリペプチド構築体を検出するために、検出可能な標識(例えば、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル化合物、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインもしくは蛍光タンパク質)、放射性核種またはビオチン)を有する第2のナノボディを使用することをさらに含む。
【0064】
特定の実施形態において、方法は(1)本願のナノボディもしくはその抗原結合断片、本出願のポリペプチド構築物、または本願の第16の態様のコンジュゲートと試料を接触させること;(2)抗原抗体免疫複合体の形成を検出するか、または免疫複合体の量を検出することを含む。免疫複合体の形成は、MSLNまたはMSLN発現細胞の存在を指し示す。
【0065】
特定の実施形態において、方法は、腫瘍がMSLNを標的とする抗腫瘍療法によって治療可能か否かを検出するために用いられる。
【0066】
検出試薬の調製のための使用
第19の態様において、本願はまた、試料中におけるMSLNの存在またはレベルを検出するか、またはMSLNを標的とする抗腫瘍療法によって腫瘍が治療可能であるか否かを検出するための検出試薬の製造における、上記のナノボディもしくはその抗原結合断片、または上記のポリペプチド構築物、または上記の第16の態様のコンジュゲートの使用を提供する。
【0067】
特定の実施形態において、検出試薬は、試料中におけるMSLNの存在またはレベルを検出し、場合により、腫瘍が、上記の第18の態様の方法によってMSLNを標的とする抗腫瘍療法によって治療可能であるか否かを検出する。
【0068】
特定の実施形態において、試料は、対象(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト)からの細胞試料(例えば、腫瘍細胞を含む試料)または体液試料(例えば、血液)である。
【0069】
用語の定義
本願において、特に断らない限り、本明細書で使用される科学用語および技術用語は、当業者に一般的に理解される意味を有する。さらに、本明細書で使用されるウイルス学、生化学、および免疫学の実験手順は、対応する分野で広く使用されている日常的な手順である。一方、本願をよりよく理解するために、関連用語の定義および説明が以下に提供される。
【0070】
本明細書において、用語「例えば(e.g.)」、「など(such as)」、「例えば(for example)」、「含む(comprise)」、「含む(include)」、またはそれらの変形が使用される場合、これらの用語は限定的な用語とはみなされず、代わりに「限定することなく」または「限定されない」という意味に解釈される。
【0071】
本明細書において別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、本願を説明する文脈において(特に以下の特許請求の範囲の文脈において)、用語「1つの(a)」および「1つの(an)」および「その(the)」ならびに同様な参照語は、単数および複数を包含するものと解釈される。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「ラクダ抗体」は、ラクダ科の動物(ラクダ、アルパカ、およびラマ(L.glama)を含む)を抗原で免疫化または攻撃することによって生成される、抗原に対する抗体を意味する。ラクダ科の動物が産生する抗体の中には、軽鎖を欠く「ラクダ重鎖抗体(HCAb)」が存在することが当業者には既知である。そのような抗体は、1つのHCAbの重鎖の可変ドメイン(VHH)と、従来的な2つのCH2およびCH3領域のみを含んでおり、別々にクローニングされて発現されるVHH領域は、良好な構造安定性と抗原結合活性を有している。VHHは現在、標的抗原と結合できる最小のユニットとして知られている。
【0073】
本明細書で使用される場合、用語「ナノボディ」は、当業者に一般的に理解される意味を有し、通常、重鎖抗体(例えば、ラクダまたはサメの抗体)の可変領域から誘導され、単一の単量体可変抗体ドメイン(例えば、単一の重鎖可変領域)からなる抗体断片を意味する。典型的には、ナノボディは4つのフレームワーク領域と3つの相補性決定領域から構成され、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の構造を有している。ナノボディは、抗原結合能と特異性を実質的に保持する限り、FR1および/またはFR4の一部のみを含むように、あるいはそれらのフレームワーク領域の1つもしくは2つを欠くように、N末端またはC末端で切断され得る。ナノボディは単一ドメイン抗体(sdAb)とも呼ばれ、この2つは互換的に使用される。
【0074】
本明細書で使用される場合、ナノボディの「抗原結合断片」という用語は、ナノボディが結合するのと同じ抗原と特異的に結合する能力を保持し、かつ/または抗原の特異的結合についてナノボディと競合する、ナノボディの断片を含むポリペプチドを意味し、これは「抗原結合部分」とも呼ばれる。一般に、あらゆる目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるFundamental Immunology、第7章(Paul, W.編、第2版、Raven Press、ニューヨーク(1989年))を参照されたい。本願の抗体の抗原結合断片は、組換えDNA技術、または本願のナノボディの酵素的もしくは化学的切断によって取得され得る。いくつかの実施形態では、全長のナノボディと比較して、ナノボディの「抗原結合断片」は、抗原結合能と特異性を実質的に保持する限り、FRlおよび/またはFR4の一部のみを含むように、あるいはそれらのフレームワーク領域の1つもしくは2つを欠くように、N末端またはC末端で切断され得る。
【0075】
ナノボディの抗原結合断片は、当業者に公知の従来技術(例えば、組換えDNA技術または酵素的もしくは化学的断片化法)を用いて、所与のナノボディ(例えば、本願により提供されるナノボディ)から得ることができ、ナノボディの抗原結合断片は、インタクトなナノボディと同様な方法で特異性についてスクリーニングされ得る。
【0076】
本書において、用語「ナノボディ」が言及される場合、文脈上明らかにそうでないことが指し示されない限り、インタクトなナノボディだけでなく、ナノボディの抗原結合断片も含まれる。
【0077】
本明細書で使用される場合、用語「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体の可変領域における抗原結合を担うアミノ酸残基を意味する。ナノボディはCDR1、CDR2、CDR3と名付けられた3つのCDRを含む。これらのCDRの正確な境界は、Kabatナンバリング系(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、ベセスダ、メリーランド、1991年)、Chothiaナンバリング系(Chothia & Lesk (1987年) J. Mol. Biol. 196:901~917頁;Chothiaら、(1989年) Nature 342:878~883頁)、またはIMGTナンバリング系(Lefrancら、Dev. Comparat. Immunol. 27:55~77頁、2003年)など、当技術分野で公知の種々のナンバリング系に従って定義され得る。所与のナノボディについて、当業者であれば、各ナンバリング系によって定義されるCDRを容易に同定するであろう。さらに、異なるナンバリング系間の対応は、当業者にはよく知られている(例えば、Lefrancら、Dev. Comparat. Immunol. 27:55~77頁、2003年を参照)。
【0078】
本明細書で使用される場合、用語「フレームワーク領域」または「FR」残基は、上記で定義されたCDR残基以外の抗体可変領域のアミノ酸残基を意味する。
【0079】
本明細書で使用される場合、用語「Fcドメイン」または「Fc領域」は、CH2およびCH3ドメインを含む重鎖定常領域の一部を意味する。抗体のFc断片は、多くの異なる機能を有しているが、抗原結合には関与しない。Fc領域によって媒介される「エフェクター機能」は、Fc受容体結合;C1q結合および補体依存性細胞傷害性(CDC);抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション;およびB細胞活性化などを含む。いくつかの実施形態では、Fc領域はヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。Fc領域がヒンジを含む場合、ヒンジは2つのFc含有ポリペプチド間の二量体化を媒介する。Fc領域は、IgGl、IgG2、IgG3またはIgG4などの抗体重鎖定常領域アイソタイプのものであり得る。
【0080】
Fcドメインは、ネイティブFc領域またはバリアントFc領域のいずれかを含み得る。ネイティブFc領域は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と一致するアミノ酸配列を含み、例えば、ネイティブヒトFc領域は、ネイティブ配列を有するヒトIgG1(非AおよびAアロタイプ)Fc領域;ネイティブ配列を有するヒトIgG2 Fc領域;ネイティブ配列を有するヒトIgG3 Fc領域;およびネイティブ配列を有するヒトIgG4 Fc領域、ならびに天然に存在するそれらのバリアントを含む。バリアントFc領域は、少なくとも1つのアミノ酸修飾によりネイティブFc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、バリアントFc領域は、ネイティブFc領域と比較して変化したエフェクター機能(例えば、Fc受容体結合、抗体グリコシル化、システイン残基の数、エフェクター細胞機能、または補体機能)を有し得る。
【0081】
本明細書で使用される場合、用語「ヒト化抗体」は、ヒト抗体のものとの配列相同性を高めるように遺伝子工学的に操作され、アミノ酸配列が改変されている非ヒト抗体を意味する。一般的に言って、ヒト化抗体のCDR領域の全部または一部は、非ヒト抗体(ドナー抗体)由来であり、非CDR領域(例えば、可変領域のFRおよび/または定常領域)の全部または一部は、ヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)由来である。特定の実施形態では、ヒト化抗体のCDR領域は、非ヒト抗体(ドナー抗体)由来であり、非CDR領域(例えば、可変領域のFRおよび/または定数領域)の全部または一部は、ヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)由来である。ヒト化抗体は一般に、抗原特異性、親和性、反応性などを含むがこれらに限定されない、ドナー抗体の期待される特性を保持する。本願において、ドナー抗体は、所望の特性(例えば、抗原特異性、親和性、反応性など)を有するラクダ科動物抗体であり得る。ヒト化抗体を調製するために、免疫動物の抗体のCDR領域が、当該技術分野で公知の方法を用いてヒトフレームワーク配列に挿入され得る。ナノボディの文脈では、ヒト化抗体は、ヒト化VHH、すなわち、1つ以上のフレームワーク領域がヒトフレームワーク領域で実質的に置換されたVHHを意味し得る。場合によっては、ヒト免疫グロブリンの特定のフレームワーク領域(FR)が、対応する非ヒト残基で置換される。さらに、ヒト化VHHは、元のVHHにもヒトフレームワーク配列にも見られないが、VHHまたはVHH含有ポリペプチドの性能をさらに改善し最適化するために含められる残基を含んでいてもよい。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「同一性」は、2つのポリペプチド間または2つの核酸間の配列の一致を意味するために使用される。2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するために、配列は最適な比較の目的で整列される(例えば、第2のアミノ酸配列または核酸配列と最もよく一致するように、第1のアミノ酸配列または核酸配列にギャップが導入され得る)。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドが比較される。第1の配列中のある位置が、第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められている場合、分子は同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、その配列が共有する同一位置の数の関数である(すなわち、パーセント同一性=重複する同一位置の数/位置の総数×100%)。特定の実施形態では、両配列が同じ長さである。
【0083】
2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的なアルゴリズムを用いても達成され得る。2つの配列の比較のための数学的アルゴリズムの非限定的な1つの例は、KarlinとAltschul、1990年、Proc.Natl. Acad.Sci. U.S.A. 87:2264~2268頁であり、これはKarlinとAltschul、1993年、Proc.Natl. Acad.Sci. U.S.A. 90:5873~5877頁によって改良された。そのようなアルゴリズムは、Altschulら、1990年、J. Mol. Biol. 215:403のNBLASTおよびXBLASTプログラムに統合されている。
【0084】
本明細書で使用される場合、用語「特異的結合」は、抗体とそれが指向する抗原との結合反応など、2分子間の非ランダムな結合反応を意味する。特異的結合の相互作用の強度または親和性は、相互作用の平衡解離定数(K)によって表され得る。本願において、用語「K」は、特異的な抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を意味し、これは、抗体と抗原との間の結合親和性を記述するために使用される。平衡解離定数が小さいほど、抗体と抗原の結合は強固になり、抗体と抗原の親和性は高くなる。
【0085】
2つの分子間の特異的結合特性は、当該技術分野で知られている方法を用いて決定され得る。1つのアプローチは、抗原結合部位/抗原複合体の形成と解離の速度を測定することである。「会合速度定数」(kまたはkon)と「解離速度定数」(kdisまたはkoff)はどちらも、濃度と実際の会合および解離の速度から計算され得る(Malmqvist M、Nature、1993年、361:186~187頁を参照)。比kdis/konは、解離定数Kに等しい(Daviesら、Annual Rev Biochem、1990年; 59:439~473頁参照)。K、kon、およびkdisの値は、任意の有効な方法によって測定され得る。特定の実施形態では、解離定数は、Biacore装置を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定され得る。また、解離定数を測定するために、生物発光干渉法またはKinexaが使用され得る。
【0086】
本明細書で使用される場合、本願の検出可能な標識は、蛍光、分光、光化学、生化学、免疫学、電気、光学または化学的な手段によって検出可能な任意の物質であり得る。そのような標識は、当該技術分野において周知であり、その例は、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼなど)、放射性核種(例えば、H、125I、35S、14C、または32P)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセイン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、フィコエリトリン(PE)、テキサスレッド、ローダミン、量子ドットまたはシアニン色素誘導体(例えば、Cy7、Alexa 750))、発光物質(例えば、アクリジニウムエステル化合物、ルミノールおよびその誘導体、ターピリジンルテニウムなどのルテニウム誘導体などの化学発光物質)、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads(登録商標))、コロイド状金または着色ガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズなどの熱量マーカー、ならびに上記標識で修飾されたアビジン(例えば、ストレプトアビジン)に結合するビオチンを含むが、これらに限定はされない。
【0087】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、ポリヌクレオチドが挿入され得る核酸送達ビヒクルを意味する。ベクターが、挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を発現できる場合、そのベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、それが運ぶ遺伝物質エレメントが宿主細胞で発現され得るように、形質転換、形質導入、トランスフェクションによって宿主細胞に導入され得る。ベクターは、当業者によく知られており、プラスミド;ファージミド;コスミド;酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、P1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体;λファージもしくはM13ファージなどのファージ、ならびに動物ウイルスなどを含むが、これらに限定はされない。ベクターとして使用され得る動物ウイルスは、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(例えば、SV40)を含むが、これらに限定はされない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、およびレポーター遺伝子を含むがこれらに限定はされない、様々な発現制御エレメントを含み得る。さらに、ベクターは複製起点も含み得る。
【0088】
本明細書で使用される場合、用語「宿主細胞」とは、ベクターを導入するために使用され得る細胞を指し、これは、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)などの原核細胞、酵母細胞、アスペルギルス(Aspergillus)などの真菌細胞、S2ショウジョウバエ(Drosophila)細胞もしくはSf9などの昆虫細胞、または線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞もしくはヒト細胞などの動物細胞を含むが、これらに限定はされない。
【0089】
本明細書で使用される場合、用語「保存的置換」は、アミノ酸配列を含むタンパク質/ポリペプチドの期待される性質に悪影響を及ぼさない、または変化させないアミノ酸置換を意味する。例えば、保存的置換は、部位特異的突然変異誘発およびPCRを介した突然変異誘発など、当技術分野で知られている標準的な技法によって導入され得る。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基、例えば、対応するアミノ酸残基と物理的または機能的に類似しているもの(例えば、類似のサイズ、形状、電荷、共有結合もしくは水素結合を形成する能力を含む化学的性質などを有するもの)で置換されるものを含む。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、およびヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β-分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、ならびに芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。したがって、対応するアミノ酸残基を同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基で置換することが好ましい。アミノ酸の保存的置換を同定するための方法は、当該技術分野において周知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれるBrummellら、Biochem. 32:1180~1187頁(1993年); Kobayashiら、Protein Eng. 12(10):879~884頁(1999年);およびBurksら、Proc. Natl Acad. Set USA 94:412~417頁(1997年)を参照)。
【0090】
本稿に含まれる20種類の従来的なアミノ酸は、従来の用法に従って記述されている。例えば、参照により本明細書に組み込まれるImmunology-A Synthesis(第2版、E. S. GolubとD. R. Gren編、Sinauer Associates、サンダーランド、マサチューセッツ(1991年))を参照されたい。本願において、用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は同じ意味を有し、互換的に使用される。そして、本願において、アミノ酸は一般に、当技術分野で周知の1文字および3文字の略号で表される。例えば、アラニンはAまたはAlaで表され得る。
【0091】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体および/もしくは賦形剤」は、対象および有効成分と薬理学的および/または生理学的に適合する担体および/もしくは賦形剤を意味し、これは当技術分野で周知であり(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro AR編、第19版、ペンシルベニア: Mack Publishing Company、1995年を参照)、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、希釈剤、浸透圧を維持するための薬剤、吸収を遅延させるための薬剤、保存剤を含むが、これらに限定はされない。例えば、pH調整剤は、リン酸緩衝液を含むが、これに限定はされない。界面活性剤は、Tween-80などのカチオン性、アニオン性または非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定はされない。イオン強度増強剤は、塩化ナトリウムを含むが、これに限定されるものではない。保存剤は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの様々な抗細菌および坑真菌剤を含むが、これらに限定されるものではない。浸透圧を維持するための薬剤は、糖、NaClなどを含むが、これらに限定されるものではない。吸収を遅延するための薬剤は、モノステアリン酸塩およびゼラチンを含むが、これらに限定されるものではない。希釈剤は、水、水性緩衝液(例えば、緩衝生理食塩水)、アルコールおよびポリオール(例えば、グリセロール)などを含むが、これらに限定されるものではない。保存剤は、チメロサール、2-フェノキシエタノール、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの様々な抗細菌および坑真菌剤を含むが、これらに限定されるものではない。安定化剤は、当業者によって一般的に理解される意味を有し、医薬品中の有効成分の望ましい活性を安定化させることができ、グルタミン酸ナトリウム、ゼラチン、SPGA、サッカライド(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、ラクトース、デキストラン、またはグルコース)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、グリシン)、タンパク質(例えば、乾燥ホエー、アルブミンもしくはカゼイン)、またはその分解産物(例えば、ラクトアルブミン加水分解物)などを含むが、これらに限定はされない。特定の例示的な実施形態において、薬学的に許容される担体または賦形剤は、無菌注射可能な液体(例えば、水性または非水性の懸濁液または溶液)を含む。特定の例示的な実施形態において、そのような無菌注射液は、注射用水(WFI)、注射用静菌水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、ブドウ糖溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%のポリソルベート20を含む溶液)、pH緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)、リンゲル液およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0092】
本明細書で使用される場合、用語「予防」は、対象における疾患もしくは状態もしくは症状の発生を予防または遅延させるために実施される方法を意味する。本明細書で使用される場合、用語「治療」は有益な、または望ましい臨床転帰を得るために行われる方法を意味する。本願の目的のためには、有益なまたは所望の臨床転帰は、検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらず、症状の緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患の進行の遅延もしくは減速、疾患の状態の改善もしくは緩和、および症状の軽減(部分的であるか完全であるかにかかわらず)を含むが、これらに限定はされない。加えて、「治療」は、治療を受けなかった場合に予想される生存期間と比較して生存期間を延長することを意味し得る。
【0093】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、ヒト、サル、マウスなどの哺乳動物を意味する。特定の実施形態において、対象(例えば、ヒト、サル、マウス)は、MSLNに関連する疾患(例えば、MSLN陽性腫瘍)を有するか、またはそのリスクがある。
【0094】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」は、少なくとも部分的に所望の効果を得るのに十分な量を意味する。例えば、予防的有効量とは、疾患(例えば、MSLN陽性腫瘍)の発症を予防、阻止または遅延させるのに十分な量であり;治療的有効量とは、疾患を患っている患者において、既存の疾患およびその合併症を治癒または少なくとも部分的に予防するのに十分な量である。そのような有効量を決定することは、十分に当業者の能力の範囲内である。例えば、治療的使用のための有効量は、治療される疾患の重症度、患者自身の免疫系の全体的な状態、年齢、体重、および性別などの患者の一般的な状態、薬剤投与の方法、同時に投与される他の治療薬などに依存するであろう。
【発明の効果】
【0095】
本願の有益な効果
本願は、ヒト、サルおよび/またはマウスのMSLNと交差反応性を有する、MSLNに対する高い結合活性を有するナノボディを提供する。さらに、ナノボディは分子量が小さく、安定性が良いという特徴も有している。医薬品開発および診断試薬開発において、従来の一般的な抗体と比較すると、それは組織への浸透性が良く、投与が柔軟で、ヒト化度が高く、組換えタンパク質への変換が容易であり、その他にも多くの利点がある。
【0096】
したがって、本願のナノボディは、腫瘍増殖の阻害およびMSLNの検出を含むがこれらに限定されない様々な目的に使用され得る。さらに、本願の完全ヒト化抗体は、免疫原性反応を惹起することなく、ヒト対象に安全に投与され得る。したがって、本願の抗体は、重要な臨床的価値を有する。
【0097】
以下、添付の図面および実施例を参照して本願の実施形態が詳細に記述されるが、当業者であれば、以下の図面および実施例が本願を説明するためにのみ用いられ、本願の範囲を限定するものではないことを理解するであろう。本願の様々な目的および有利な態様は、添付の図面および以下の好ましい実施形態の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1図1は、抗MSLNナノボディのCHO-hMSLN細胞に対する親和性の検出結果を示している。
図2図2は、ヒト化抗MSLNナノボディのCHO-hMSLN細胞に対する親和性の検出結果を示している。
図3図3は、ヒト化抗MSLNナノボディのCHO-cyMSLN細胞に対する親和性の検出結果を示している。
図4図4は、CHO-mMSLN細胞に対するヒト化抗MSLNナノボディの親和性の検出結果を示している。
図5図5は、ヒトMSLNとそのリガンドCA125の結合を阻害するヒト化抗MSLNナノボディの阻害活性の検出結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0099】
配列情報
本願でカバーされる配列が、以下の表に記載される。
【0100】
【表1-1】
【0101】
【表1-2】
【0102】
本願を実施するための具体的なモデル
以下、本願を説明することを意図しているが、限定することは意図していない以下の実施例を参照して、本願を説明する。
【0103】
本願で使用されている分子生物学的実験法および免疫測定法は、特に断らない限り、基本的にJ. Sambrookら、Molecular Cloning: Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年およびF. M. Ausubelら、Compiled Laboratory Guide to Molecular Biology、第3版、John Wiley & Sons, Inc.、1995年に記載されている方法を参照して実施した;制限酵素の使用は、製品メーカーにより推奨される条件に従った。当業者であれば、実施例は本願を例示により説明するものであり、請求される本願の範囲を限定することを意図したものではないことを理解するであろう。
【0104】
実施例1:抗MSLNナノボディの免疫化およびスクリーニング
アルパカ(Llama)にヒトMSLN(AcroBiosystemsより購入、カタログ番号:MSN-H522a)を免疫した後、アルパカの末梢リンパ球から全RNAを抽出し、逆転写してcDNAを得た。cDNAのPCR産物を酵母ディスプレイベクターに連結し、次いで出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)(ATCCより購入、カタログ番号:208289)に電気形質転換して、抗MSLNナノボディライブラリーを構築した。
【0105】
ビオチン標識キット(Thermoより購入、カタログ番号:90407)の製品説明書に従って、ヒトMSLNを標識した。増殖させた抗MSLNナノボディ酵母ライブラリーをビオチン標識MSLNで標識した後、磁気ビーズを用いて陽性標識酵母を濃縮した。磁気ビーズで濃縮した酵母細胞を増殖させた後、1:200に希釈した抗c-Myc抗体(Thermoより購入、カタログ番号:MA1-980)と適量のビオチン標識MSLNを加えて染色し、酵母細胞をPBSで洗浄した後、1:500に希釈したヤギ抗マウスIgG(H+L)Alexa Fluor Plus 488(Invitrogenより購入、カタログ番号:A32723TR)およびストレプトアビジンAPCコンジュゲート蛍光抗体(Invitrogenより購入、カタログ番号:SA1005)を添加し、15分間インキュベートした。細胞をPBSに再懸濁し、BD FACSAria II装置でソーティングし、ヒトMSLNとの結合能の高い酵母細胞を得た。
【0106】
磁気ビーズによる濃縮とフローサイトメトリーによるソーティングにより得られたヒトMSLNとの結合能の高い酵母細胞を、増殖培地中、30℃、225rpmで一晩培養し、酵母プラスミド抽出キット(Tiangenより購入(カタログ番号DP112))の操作に従って酵母プラスミドを抽出した。プラスミドをTop10コンピテントセル(Tiangenより購入、カタログ番号:CB104-02)に電気形質転換し、アンピシリン耐性プレート上にコーティングし、37℃で一晩培養した。単一クローンを選択して塩基配列を決定し、VHH(可変領域)遺伝子の塩基配列を取得し、IMGTナンバリング系に従ってCDR領域の塩基配列を決定した。得られたモノクローナルナノボディYE-17の配列情報を下表に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例2:発現ベクターの構築、抗MSLNナノボディのタンパク質発現および精製
スクリーニングされた抗MSLN抗体YE-17のVHHのコード配列と、ヒトIgG1 Fcセグメントのコード配列(配列番号5)とを相同組換えによって、ヒトIgG1 FcセグメントをVHHのC末端に連結させた融合タンパク質発現配列へと組み立てた。ExpiCHO(商標)Expression System kit(Thermoより購入、カタログ番号:A2910001)を用いて、製品説明書に記載されているトランスフェクション方法に従い、調製した融合タンパク質発現プラスミドをExpi-CHO細胞(Thermoより購入、カタログ番号:A2910002)に中間の量でトランスファーした。5日間の細胞培養後、上清を回収し、プロテインA磁気ビーズ(GenScriptより購入、カタログ番号:L00723)を用いて標的タンパク質を精製した。磁気ビーズを適当な量(磁気ビーズの量の1~4倍)の結合バッファー(PBS+0.1% Tween 20、pH7.4)に再懸濁し、精製すべき試料に加え、室温で1時間、その間、軽く振盪しながらインキュベートした。試料を磁気スタンド(Beaverより購入)に置き、上清を捨て、磁気ビーズを結合バッファーで3回洗浄した。磁気ビーズの3~5倍の量の溶出バッファー(0.1Mクエン酸ナトリウム、pH3.2)を加え、室温で5~10分間振盪し、磁気スタンドに戻した後、溶出バッファーを回収し、中和バッファー(1Mトリス、pH8.54)の入った回収チューブに移し、よく混合して調製を完了し、精製抗MSLNナノボディYE-17を得た。
【0109】
実施例3:抗MSLNナノボディのタンパク質結合親和性の検出
ForteBio親和性測定は、既存の方法に従って実施した(Estep, Pら、High throughput solution based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning、MAbs、2013.5(2):p.270~8頁)。概略、センサーを分析バッファー中、30分間、オフラインで平衡化し、その後、ベースラインを確立するために60秒間オンラインで検出し、実施例2で得られた精製抗体をAHQセンサーにオンラインで負荷した。次に、センサーを100nMのヒトMSLN(Uniprot ID:Q13421)中に5分間入れ、その後、センサーをPBSに移して5分間解離させた。1:1結合モデルを用いて、速度論的解析を実行した。加えて、対照群として抗体アマツキシマブ(CAS番号:931402-35-6)を並行して設定した。抗体アマツキシマブの重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を配列番号18~19に示した。結果を表3に示した。
【0110】
【表3】
【0111】
実施例4:抗MSLNナノボディの細胞結合親和性の検出
ヒトMSLN(Uniprot ID:Q13421)を過剰発現するCHO細胞、すなわち、CHO-hMSLN細胞を、MSLN cDNAを含むpCHO1.0ベクター(Invitrogenより購入)をトランスフェクションすることによって調製した。増殖させた培養CHO-MSLN細胞を、細胞密度が2×10個/mlになるように調整し、96ウェルフロープレートに1ウェルあたり100μLずつ加え、後の使用のために遠心分離した。実施例2で調製した精製抗MSLN抗体YE-17をPBSで400nMから始めて合計12段階、3倍希釈した。上記の希釈試料を、細胞を入れた上記96ウェルフロープレートに1ウェルあたり100μL添加し、4℃で30分間インキュベートし、そしてPBSで2回洗浄した。PBSで100倍に希釈したヤギF(ab’)抗ヒトIgG-Fc(PE)(Abcamより購入、カタログ番号:ab98596)を1ウェルあたり100μL添加し、4℃で30分間インキュベートし、そしてPBSで2回洗浄した。PBSを1ウェルあたり100μl加えて細胞を再懸濁し、CytoFlex(Bechman)フローサイトメーターで検出を行い、そして対応するMFI(平均蛍光強度)値を算出した。
【0112】
実験結果を図1および表4に示す。実験結果は、実施例2で調製した抗MSLN抗体YE-17は、CHO-hMSLN細胞に対する結合活性を有し、その結合活性は、モルフォテックの単鎖対照抗体アマツキシマブよりも高いことを示した。
【0113】
【表4】
【0114】
実施例5:ヒト化抗MSLNナノボディのタンパク質結合親和性の検出
この例では、抗体YE-17をヒト化した。そして、ベクターの構築、ヒト化抗体の発現および精製は、実施例2に記載の方法に従って、ヒト化抗体の配列に基づいて行った。最終的に、YE-17を基にして4株のヒト化抗体、すなわち、HZ-P-YE-17-01、HZ-P-YE-17-02、HZ-P-YE-17-03およびHZ-P-YE-17-04を取得し、それらのVHH配列をそれぞれ配列番号6~9に示した。
【0115】
精製したヒト化抗体のタンパク質結合親和性を、実施例3に記載した方法に従って検出し、結果を表5に示した。
【0116】
【表5】
【0117】
実施例6:ヒト化抗MSLNナノボディのCHO-hMSLNへの結合能および交差反応性の検出
精製したヒト化抗体を、実施例4に記載した方法に従って、CHO-hMSLN細胞に対する親和性の検出に付した。
【0118】
結果を図2および表6に示す。結果は、実施例5で調製したヒト化抗MSLN抗体がいずれも、CHO-hMSLN細胞に対する結合活性を有することを示した。
【0119】
【表6】
【0120】
ヒト化抗体のサルMSLN(cyMSLN、Uniprot ID:F6Q1U7)に対する親和性を細胞レベルで同定するために、実施例4に記載の方法に従って細胞株を構築し、CHO-cyMSLN細胞に対する精製ヒト化抗体の親和性を検出した。
【0121】
結果を図3および表7に示す。結果は、抗体YE-17およびそのヒト化抗MSLN抗体がいずれも、CHO-cyMSLN細胞に対する結合活性を有することを示した。
【0122】
【表7】
【0123】
マウスMSLN(mMSLN、Uniprot ID:Q61468)に対する抗体の親和性を細胞レベルで同定するために、実施例4に記載の方法に従って細胞株を構築して、CHO-mMSLN細胞に対する精製ヒト化抗体の親和性を検出し、その結果を図4および表8に示した。
【0124】
【表8】
【0125】
表6~8および図2~4の結果を組み合わせると、抗体YE-17およびそのヒト化抗体はヒトおよびサルのMSLN細胞に対して交差結合活性を有すること、また、抗体YE-17およびそのヒト化抗体の一部(例えば、HZ-P-YE-17-01、HZ-P-YE-17-02、HZ-P-YE-17-03)もヒト、サルおよびマウスMSLN細胞に対して一定の交差結合活性を有することが示された。
【0126】
実施例7:抗MSLNヒト化ナノ抗体によるヒトMSLNとそのリガンドであるCA125の結合阻害
ヒトMSLNとそのリガンドであるCA125の結合を阻害する抗体の阻害活性を同定するために、以下の方法に従って実験的検証を実施した:1μg/mLのヒトMSLNを高吸着ELISAプレート上にコーティングし、コーティングを4℃で一晩実施した;その後、コーティング溶液を廃棄し、5%BSAを用いて室温で2時間ブロッキングを行った;段階希釈したヒト化抗体を加え、室温で1時間インキュベートした;プレートを3回洗浄し、次いで1μg/mLのビオチン-CA125(Acroより購入、カタログ番号:CA5-H82F4)を添加し、室温で1時間インキュベートした;プレートを3回洗浄し、次いで1:10000に希釈したSA-HRP(Abcamより購入、カタログ番号:Ab7403)を添加し、室温で30分間インキュベートした;プレートを6回洗浄し、次いで50μl/mLのTMB発色溶液を添加し、3~5分間インキュベートした;50μl/mLの停止溶液を添加した;そして、A450の値を機械で読み取った。
【0127】
結果を図5および表9に示す。結果は、抗体YE-17とそのヒト化抗体がいずれも、ヒトMSLNとそのリガンドであるCA125の結合を効果的に阻害でき、それによってがんの浸潤と転移を阻害し得ることを示した。
【0128】
【表9】
【0129】
本願の具体的な実施形態を詳細に説明したが、当業者であれば、公開されているあらゆる教示に基づいて細部に様々な修正および変更を加えることができること、また、これらの変更は本願の保護範囲内であることを理解するであろう。本出願全体は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって与えられている。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024542944000001.xml
【国際調査報告】