(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ゼオライト担体上の遷移金属を含む不均一系触媒を用いたエーテルを製造するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 41/01 20060101AFI20241112BHJP
C07C 43/04 20060101ALI20241112BHJP
B01J 29/12 20060101ALI20241112BHJP
B01J 29/22 20060101ALI20241112BHJP
B01J 29/44 20060101ALI20241112BHJP
B01J 29/67 20060101ALI20241112BHJP
B01J 29/74 20060101ALI20241112BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C07C41/01
C07C43/04 B
B01J29/12 Z
B01J29/22 Z
B01J29/44 Z
B01J29/67 Z
B01J29/74 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523396
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 US2022048649
(87)【国際公開番号】W WO2023081174
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】503060525
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】ルオ、ジン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、シュエ
(72)【発明者】
【氏名】バートン、デイビッド ジー.
(72)【発明者】
【氏名】フラハティ、デイビッド ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ベルドゥゴ-ディアス、クラウディア エウヘニア
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ヤンシク
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジウン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
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4H006AA02
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4H006AB80
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4H006GP01
4H039CA61
4H039CB20
4H039CB40
(57)【要約】
エーテルを製造するためのプロセスであって、(a)エステルを、(b)水素により、(c)不均一系触媒の存在下で処理して、エステルを水素添加によって還元して、エーテル生成物を形成することを含み、不均一系触媒が、ゼオライト担持体上に堆積された遷移金属を含む、プロセス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステルの直接選択的還元によってエーテル生成物を製造するためのプロセスであって、(a)少なくとも1つのエステルを、(b)水素により、(c)不均一系触媒の存在下で処理して、前記少なくとも1つのエステルを水素添加によって直接かつ選択的に還元して、少なくとも1つのエーテルを形成することを含み、前記不均一系触媒が、ゼオライト担体上に堆積された遷移金属を含む、プロセス。
【請求項2】
前記エステルが、直鎖又は分岐鎖アルキル基、環状又は非環状アルキル基、及びこれらの混合物を含有するエステルである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記遷移金属が、パラジウム、白金、ニッケル、ルテニウム、コバルト、ロジウム、レニウム、銅、及びこれらの混合物のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記遷移金属が、前記不均一系触媒の総重量に基づいて、金属化合物が0.01~20重量%の量で前記ゼオライト担体上に堆積される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ゼオライトが、FAU、ナトリウムYゼオライト、MOR、BEA、CHA、FER、MFI、及びそれらの混合物のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ゼオライトが、1~300の範囲のAlに対するSiの比を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記プロセスの温度が、350K~650Kであり、前記プロセスの圧力が、0.1MPa~10MPaである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記エーテルが、非対称エーテルである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記プロセスが、蒸気相プロセス条件下で行われる蒸気相還元プロセスである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記プロセスが、液相プロセス条件下で行われる液相還元プロセスである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記不均一系触媒が、FAU上のパラジウム、FAU上の白金、FER上の白金、FAU上のロジウム、MOR上の白金、CHA上の白金、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1に記載のプロセスから製造されたエーテルを含む溶媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーテル化合物を製造するためのプロセスに関し、より具体的には、本発明は、不均一系触媒上で分子状水素を用いてアルキルエステルから直接、エーテル化合物を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
エーテルは、溶媒としてのものを含め、様々な用途に使用されている。エーテルは、優れた溶解力、化学的安定性並びに他の有機溶媒及び配合製品との相溶性を有するので、諸用途における溶媒としての使用に特に望ましい。エーテルを合成する既知のルートには、以下の3つのルート:(1)アルコキシドで処理されたハロゲン化アルキル(いわゆる「ウィリアムソンエーテル合成」)、(2)オレフィンへのアルコール添加、及び(3)アルコールの酸触媒カップリングが挙げられる。しかしながら、上記の3つのルートは、(1)望ましくないオレフィンを生成する競合する脱離反応を引き起こし得る強酸性条件又は塩基性条件の使用、(2)生成物の構造的多様性を制限する上記反応との反応性の欠如に起因して、生物由来原料の選択肢が制限されること、並びに(3)製造プロセスにおける毒性原料の使用及び廃棄物流の発生を含む、望ましくない制限を有する。したがって、上記の既知のルートの制限を伴わず、商業的にうまくスケールアップすることができる、エーテルを製造するための実行可能なルートを提供することが所望されている。
【0003】
例えば、エーテルを製造するためのこれまでに知られている方法としては、以下が挙げられる:(1)J.Org.Chem.,2007,72,5920-5922;Tetrahedron Letters,2017,58,3024-3027に開示されているように、化学量論的水素化物供与体として金属水素化物/ルイス酸錯体又はヒドロシランを貴金属触媒と共に使用するプロセス、(2)J.Org.Chem.,1981,46,831-832に開示されているように、チオエーテル(硫黄と2つの有機残基が結合した化合物である硫化物)などのチオネート(チオン酸の塩又はエステル)を製造するプロセス、(3)米国特許第8,912,365号に開示されているように、酸助触媒と混合した5%Pd/C触媒を用い、約700psi(4.8メガパスカル[MPa])、摂氏120度(℃)でα-モノグリセリドを触媒還元するプロセス、(4)Russian Chemical Bulletin 1988,37(1),15-19及びRussian Chemical Bulletin 1986,35,280-283に開示されているように、4.6%までの転化率及び57%までの選択性で、酢酸エチルに水素添加してエタノール中間体にし、続いてカップリングさせて、Re/(ガンマ-Al2O3)又はRe/(シータ-Al2O3)上に対称エーテル副生成物を形成するための非直接プロセス、並びに(5)米国特許第3,370,067号、第3,894,054号、及び第4,973,717号に開示されているように、様々な支持担体上の様々な金属触媒を使用して、90%を超える(>90%)などの高い選択性で、(例えば)テトラヒドロフランを製造するために、ラクトンを水素添加して環状エーテルにするプロセス。(6)生成物からの触媒の非実用的な分離を必要とする均一系金属錯体触媒(例えば、ルテニウム/トリホス錯体)を使用するプロセス。Angewandte Chemie,International Edition,2015,54,5196-5200;ChemSusChem,2016,9,1442-1448。
【0004】
最近出願された米国特許出願第63/107,739号には、Nb2O5及びWO3などの金属酸化物担持体によって担持された遷移金属を用いてエステルをエーテルに直接変換するプロセスが記載されている。本発明は、水素添加によるエーテル形成の高い直接選択性を報告したが、水素添加からのエーテル生成物の絶対的選択性は一般に低く、典型的には5~10%の範囲であり、最大値は16%であった。このプロセスを経済的に価値のあるものにするためには、触媒選択性の更なる改善が必要である。
【0005】
したがって、改善された絶対的選択性及び/又は直接選択性を含め、商業的に製造することができ、既存のプロセスを超える利点を提供する、エーテルを製造するための代替的なプロセスを有することが所望されているだろう。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ゼオライト担体上の遷移金属触媒を用いてエステル出発原料からエーテル生成物を製造するための新規なプロセスに関する。
【0007】
広範な実施形態では、本発明のプロセスは、不均一系触媒の存在下でエステルを水素添加することによってエーテルを製造することを含む。
【0008】
一実施形態では、本発明のプロセスは、高い(例えば、>10%)絶対的エーテル選択性を、高い(例えば、>80%)直接エーテル選択性と共に達成するために、分子状水素及び適切な触媒配合物を使用して、カルボン酸誘導体をエーテルに直接選択的還元することを含む。絶対的エーテル選択性は、反応中に形成された全生成物の割合であり、直接エーテル生成物選択性は、全エーテル生成物に対する直接エーテル生成物の割合である。
【0009】
別の実施形態では、エーテルを製造するための本発明のプロセスは、(a)少なくとも1つのエステルを、(b)水素と、(c)不均一系触媒の存在下で混合して、エステルを水素添加によって還元して、エーテルを形成することを含む。
【0010】
更に別の実施形態では、本発明は、上記のプロセスによって製造された上記のエーテル生成物を含む溶媒を含む。
【0011】
本発明のプロセスの1つ以上の実施形態によって提供され得る有利な特徴のいくつかは、例えば、以下を含む。
(1)活性触媒を一工程プロセスで使用する。触媒は、(i)アルコールを形成するためのエステル水素化分解と、それに続く(ii)アルコール脱水などの公知の二工程エーテル形成プロセスを経るのではなく、エステルの直接水素添加によってエステルを還元してエーテルを形成することに対して活性である。
(2)比較的安価なルートを使用する。このプロセスは、高価なヒドロシラン、金属水素化物又は金属水素化物/ルイス酸錯体を水素化物供与体として使用するのではなく、安価な分子状水素を還元剤として使用する。先行技術のプロセスにおいて使用される高反応性ヒドロシラン又は金属水素化物はまた、先行技術のプロセスを実行する操作者の安全性を確保するために、複雑かつ高価なプロセスの設計を必要とする。
(3)不均一系触媒を用いる。触媒が均一ではなく不均一であることは、触媒の再利用性及び分離に起因して、製造コストの低減に寄与することができる。
(4)効率的なプロセスを使用する。
(5)柔軟なプロセスを使用する。本プロセスは、原料としての一般的なエステル化合物(環状又は非環状)に適用可能であり、本プロセスは特定のエステル化合物に限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一実施形態では、本発明は、不均一系触媒を用いてエステルからエーテルを合成するための他とは異なる、新規な方法を含む。不均一系触媒上のエステルの反応は、様々な化学反応ルート又は経路、例えば水素化分解、加水分解、脱水、水素添加、及びエステル交換を含む。一般的な実施形態では、本発明のプロセスは、不均一系触媒の存在下で、酢酸プロピルなどのエステルの水素添加によってエーテルを製造することを含む。本発明の新規な水素添加反応経路又はスキーム、例えばR1が-CH3であり、R2が-CH2CH3である酢酸プロピル還元反応スキームの水素添加は、一般に以下の反応スキーム(I)として示される。
【0013】
【0014】
上記反応スキーム(I)において、還元プロセスによって水が生成され、生成された水は、蒸留又は当該技術分野において公知の他の手順などの従来のプロセスによって分離することができる。官能基R1、R2は、直鎖又は分岐鎖アルキル基、環状又は非環状アルキル基及びこれらの混合物を含むアルキル官能基であり得る。本明細書におけるエステルの例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。上記反応スキーム(I)から得られる所望のエーテル生成物は、R1がR2と等価である場合、対称エーテルであり得るか、又はR1がR2と等価でない場合、非対称エーテルであり、例えば非対称エーテルはエチルプロピルエーテルであり得る。
【0015】
本明細書における「対称エーテル」は、2つの同一の官能基を含有し、R1がR2に等しいエーテルを意味する。本明細書における「非対称エーテル」は、2つの異なる官能基を含有し、R1がR2と等しくないエーテルを意味する。
【0016】
本発明では、所望の反応スキームである反応スキーム(I)は、所望のエーテル生成物を得るための直接水素添加ルートである。「直接水素添加」又は「直接選択的還元」とは、アルコキシ基を未変化のままに維持しながら、水素添加によってエステル(R1COOCH2R2)からカルボニル酸素を除去し、エーテル(R1CH2OCH2R2)を形成することを意味する。本発明のプロセスがエステル(R1COOCH2R2)水素添加の典型的なルートを経ないため、本発明のプロセスは公知のプロセスとは異なり、エステルは水素化分解を介して最初に2つのアルコール(R1CH2OH+R2CH2OH分子)に分解され、その後、脱水を介してエーテルの混合物(R1CH2OCH2R1+R1CH2OCH2R2+R2CH2OCH2R2)を形成する。直接水素添加は、カルボニル酸素を除去するだけで、エステルからエーテルの構造を維持することができる。したがって、このプロセスに提供される非対称エステルは、有利なことに、このプロセスが水素化分解によってエステルを2つのアルコール分子に分解しないので、非対称エーテルの直接製造をもたらす。反応例におけるエチルプロピルエーテルの選択性を、以下の実施例において記載される表III及び表Vに列挙する。
【0017】
本明細書での「直接エーテル生成物」という用語は、エステルからのエーテルの一工程還元プロセスによって形成されるエーテルを意味する。
【0018】
本明細書での「間接エーテル生成物」という用語は、エステルからのエーテルの二工程還元プロセスによって形成されるエーテルを意味し、二工程還元プロセスは、(i)水素化分解及び(ii)脱水の工程を含む。
【0019】
本明細書での「直接エーテル生成物選択性」という用語は、全エーテル生成物に対する直接エーテル生成物の割合を意味する。例えば、酢酸プロピルの還元については、エチルプロピルエーテルが直接エーテル生成物であり、直接エーテル生成物選択性は、全エーテル生成物(エチルプロピルエーテル+ジプロピルエーテル+ジエチルエーテル)に対するエチルプロピルエーテルの割合である。
【0020】
本明細書での「エーテル生成物絶対的選択性」という用語は、反応において形成される全生成物(例えば、エーテル、アルコール及びアルカン)中のエーテル生成物の割合を意味する。
【0021】
有利なことに、本発明の1つの独自の要因は、本発明の一工程プロセスを使用すると、公知の二工程プロセスに対して直接エーテル選択性が増加することを含む。
【0022】
一実施形態では、エーテルを製造するための本発明のプロセスは、(a)エステルを、(b)水素により、(c)不均一系触媒の存在下で処理して、エステルを水素添加によって還元して、エーテルを形成することを含む。
【0023】
望ましい一実施形態では、上記の反応スキーム(I)に示すように、エーテルを製造するための本発明のプロセスは、(A)成分(a)である酢酸プロピルなどのエステル化合物を反応器に供給する工程と、(B)成分(b)である水素を反応器に供給し、反応器内に水素雰囲気を形成する工程と、(C)反応器内で水素添加反応を生じさせるのに十分なゼオライト担持体上の遷移金属を含む、成分(c)である不均一系触媒系を反応器に投入する工程と、(D)エステル化合物を還元してエーテル化合物を形成するのに十分な温度で、反応器の内容物である成分(a)~(c)を加熱する工程と、を含む。例えば、加熱工程(D)は、350ケルビン(K)~650Kの温度で行うことができる。列挙された工程の順序は、特定の状況において変更され得るか、又は工程が同時に行われ得ることもまた、当業者によって容易に理解される。
【0024】
当該技術分野で一般的に知られているように、「不均一系触媒」は、その相(例えば、固体、液体又は気体)が反応物の相と異なる触媒を指す。例えば、反応物(エステル及び水素)並びに生成物(例えば、エーテル)は、液相又は気相であり得るが、触媒は固体である。
【0025】
本発明において、本発明の不均一系触媒系は、遷移金属とゼオライト担持体との組み合わせである。例えば、本発明のいくつかの実施形態で使用される触媒は、ゼオライト担持体要素上に担持された0.1重量パーセント(重量%)~20重量%の遷移金属を含むことができる。
【0026】
当該技術分野において一般的に知られているように、ゼオライトは、分子寸法の細孔を有する三次元骨格に結合した角共有AlO4及びSiO4四面体から構成される結晶性アルミノケイ酸塩材料である。ゼオライト骨格中のアルミニウムの存在は、陽イオンによってバランスされる負電荷をもたらす。本発明のゼオライトは、有利には以下の骨格型FAU、MOR、BEA、CHA、FER、MFI、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る骨格型を有し、この骨格型は、International Zeolite Associationの命名規則に対応する。
【0027】
原子Si/Al比は、多くの場合、ゼオライトを特性評価するために触媒作用の実施において使用され、アルミナ含有部位(典型的には、HAlO2)1個当たりに存在するケイ素含有部位(典型的には、SiO2)の数を指す。本発明における使用のためのゼオライトは、1~300の範囲のSi:Al比を有し得る。いくつかの実施形態では、比は、2~250、又は更には10~50であり得る。
【0028】
遷移金属成分及びゼオライト担持体成分の両方からの相乗効果は、反応経路反応スキーム(I)に記載されるように、直接エーテル還元ルートを促進する。本明細書に開示されるような遷移金属とゼオライト担持要素との組み合わせがなければ、望ましくない二工程エーテル形成ルートが起こるであろう。モデルエステル化合物の競合反応経路についての定常状態速度及び生成物選択性は、例えば、充填床反応器及び/又は細流床反応器において、表面滞留時間によって制御される反応物圧力、温度及びエステル転化率の関数として得られる。
【0029】
成分(a)である、エーテルに還元されるエステル化合物は、例えばカルボン酸誘導体を含む1つ以上のエステル化合物、直鎖又は分岐鎖アルキル基、及び環状又は非環状アルキル基を含有するエステル、並びにこれらの混合物を含むことができる。いくつかの実施形態では、非対称エーテルは、R1基がR2基と等しくない反応スキーム(I)を含む。いくつかの実施形態では、本発明において有用なエステルは、例えば、酢酸プロピル(Sigma-Aldrichから入手可能)、酢酸ブチル(Sigma-Aldrichから入手可能)、プロピオン酸ブチル、グリセリンエステル;及びこれらの混合物であり得る。
【0030】
成分(a)であるエステルの濃度は特に重要ではない。しかしながら、いくつかの実施形態では、エステルが少なくとも1重量%の量で存在し、所望の生成速度を提供し、かつ/又は分離コストの増加を回避することが有利であり得る。いくつかの実施形態では、エステルの濃度は、1重量%~100重量%である。エステルの濃度は、液体供給原料中のエステル化合物の総重量に基づく。
【0031】
本発明のプロセスで有用な成分(b)である水素の濃度は、例えば、一実施形態では3重量%~100重量%であり、別の実施形態では10重量%~100重量%であり、更に別の実施形態では50重量%~100重量%である。例えば3重量%未満(<3重量%)の低濃度の水素は、反応性又はエーテル選択性を低下させる場合があり、したがって、そのような場合、反応圧力の望ましくない増加が必要となるだろう。水素の濃度は、気体供給原料中の水素の総重量に基づく。
【0032】
広範な実施形態では、本発明のプロセスにおいて使用される成分(c)である触媒は、1つ以上の不均一系触媒化合物を含み得る。本発明のプロセスで使用される触媒は、例えば、(cii)ゼオライト担持(担体)要素上に担持された(ci)遷移金属の組み合わせを含む。例えば、遷移金属(成分(ci))はパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、ニッケル(Ni)、並びにこれらの混合物が挙げられ得る。酸性ゼオライト担体要素(成分(cii))は、例えば、フォージャサイトゼオライト(faujasite zeolite、「FAU」):ナトリウムYゼオライト(NaY)(ナトリウムイオン交換されたYゼオライト);モルデナイトゼオライト(mordenite zeolite、「MOR」);ベータゼオライト(beta zeolite、「BEA」);チャバザイトゼオライト(chabazite zeolite、「CHA」);フェリエライトゼオライト(ferrierite zeolite、「FER」);Mobil-fiveゼオライト(Mobil-five zeolite、「MFI」)及びそれらの混合物を含む、任意のゼオライト又はゼオライトの混合物に由来し得る。これらのゼオライトは、好ましくは2~250の範囲のAlに対するSiの比を有し得る。1つの好ましい実施形態では、本発明において有用な不均一系触媒は、FAU担持体上に担持されたPd、FAU、MOR、FER又はCHA担持体上に担持されたPt;FAU3担持体上に担持されたRh、及びこれらの混合物であり得る。
【0033】
本発明の不均一系触媒は、いくつかの有利な特性を示す。例えば、本発明において有用な不均一系触媒は、直接エステル水素添加を触媒するために、触媒の金属化合物(例えば、Pd又はPt)と触媒のゼオライト担体との間の相乗効果を提供する。そうでなければ、エーテル選択性が低下する可能性がある。
【0034】
成分(c)である不均一系触媒としては、例えば、一実施形態では、不均一系触媒の総重量に基づいて0.01重量%~20重量%の金属化合物、別の実施形態では、不均一系触媒の総重量に基づいて0.1重量%~10重量%の金属化合物、更に別の実施形態では、不均一系触媒の総重量に基づいて1重量%~5重量%の金属化合物が挙げられる。
【0035】
還元プロセスを実施するために使用されるプロセス装置は、充填床反応器又は細流床反応器などの任意の従来の反応器であり得る。また、エステル転化率及びエーテル選択性は、反応器圧力、温度及び表面滞留時間によって制御することができる。
【0036】
例えば、本発明のプロセスの圧力は、一実施形態では、0.1MPa~10MPa、別の実施形態では2MPa~6MPa、更に別の実施形態では6MPa~10MPaである。前述の圧力範囲未満では、本明細書に開示されているよりも低い反応性又は低いエーテル選択性がもたらされ得る。前述の圧力範囲よりも高い圧力は、本発明で使用するのに十分であり得るが、それは、反応器の構築及び運用においてより高いコストを必要とする可能性がある。
【0037】
例えば、本発明のプロセスの温度は、一実施形態では350K~650K、別の実施形態では400K~500K、更に別の実施形態では500K~650Kである。前述の温度範囲未満では、本明細書に開示されるものよりも低い反応性がもたらされ得る。前述の温度範囲よりも高い温度では、望ましくないアルカン及びアルコール副生成物が生じる場合があり、そのため、そのような場合には、エーテルの選択性が低下する場合がある。
【0038】
例えば、本発明のプロセスのエステル転化率は、一実施形態では1%~100%、別の実施形態では1%~50%、更に別の実施形態では50%~100%である。いくつかの実施形態では、前述の転化範囲より高いエステル転化率は、副反応生成物を生じさせる場合がある。
【0039】
本発明のプロセスは、バッチプロセス又は連続プロセスとして実施され得る。いくつかの実施形態では、バッチプロセスを使用する場合、本発明のプロセスの滞留時間は、例えば、一実施形態では0.1時間(hr)~24時間であり、別の実施形態では0.1時間~8時間であり、更に別の実施形態では1時間~24時間である。いくつかの実施形態では、前述の滞留時間範囲を下回る滞留時間は、より低いエステル転化率を生じさせる場合があり、いくつかの実施形態では、前述の滞留時間範囲を上回る滞留時間は、望ましくない副反応生成物を生じさせる場合がある。
【0040】
いくつかの実施形態では、連続プロセスを使用する場合、本発明のプロセスの滞留時間は、例えば、一実施形態では0.1秒~100秒であり、別の実施形態では1秒~10秒であり、更に別の実施形態では10秒~100秒である。前述の滞留時間範囲を下回る滞留時間は、より低いエステル転化率を生じさせる場合があり、いくつかの実施形態では、前述の滞留時間範囲を上回る滞留時間は、望ましくない副反応生成物を生じさせる場合がある。
【0041】
本発明の還元プロセスを使用するいくつかの有利な特性及び/又は利点としては、例えば、本発明のプロセスが定常状態速度を達成することができること、及び本プロセスがエステル化合物の競合反応経路に対して生成物のより良好な、更にはゼオライト担持体を特徴としない他の不均一系触媒よりも更に良好な選択性を提供することができることが挙げられる。また、エーテルを製造するための従来のプロセスは塩も生成するが、本発明のプロセスは塩を生成しない。
【0042】
エステル化合物が還元プロセスを受けた後、得られるエーテル生成物が形成される。エステルからエーテル生成物へのターンオーバー速度は、一般的な一実施形態では10-8モルのエーテル/触媒のグラム数/秒(モル/gcat・s)~10-5モル/gcat・s、5×10-8モル/gcat・s~5×10-6モル/gcat・sであり得る。前述の速度範囲を下回るエステルターンオーバー速度は、より低いエーテル生成速度を生じさせる場合があり、いくつかの実施形態では、前述の滞留時間範囲を上回るエステルターンオーバー速度は、望ましくない副反応生成物を生じさせる場合がある。
【0043】
エーテル生成物の選択性は、エーテルを形成するために蒸気プロセス又は液体プロセスのいずれが使用されるか、かつバッチプロセス又は連続プロセスのいずれが使用されるかに依存し得る。一般に、直接エーテル生成物の選択性は、一実施形態では10%を超え、別の実施形態では10%~25%、更に別の実施形態では25%~60%である。
【0044】
本発明のプロセスによって製造されるエーテル生成物は、対称エーテル又は非対称エーテルであり得るが、本発明の例示として、かつそれによって限定されないが、本発明のプロセスは、非対称エーテルを参照して記載される。驚くべきことに、本発明のプロセスでは、エステルがエステル水素化分解及びアルコール脱水を受けることなく直接エーテルに転化されるので、本発明のプロセスは非対称エーテルに対して選択的であることが発見された。エステル水素化分解及びアルコール脱水は、特定のエーテルに対して選択的でないことが知られている2つのプロセスである。
【0045】
非対称エーテルが特定のプロセス又は最終用途のために望まれる場合、本発明のプロセスの使用は従来のプロセスよりも有利であり、その理由は以下のとおりである。
(1)エーテル生成物は、塩基性条件及び酸性条件下で対応するエステル生成物よりも安定している。また、本発明のエーテル生成物は、典型的には、高湿度及び/又は高温で起こり得る加水分解を受けない。
(2)本発明のプロセスの水素反応化学は、エステル生成物の骨格を未変化のままに維持すると考えられる。水素添加の間に、酸素分子のみが骨格から切り離され、炭素分子及び骨格酸素は未変化のまま残る。従来の反応プロセスにおいて、反応は、異なる反応条件下で、骨格を破壊し、一部を再び一緒に組み合わせる。したがって、エステルのエーテルへの直接水素添加/還元は起こらない。
(3)本発明のプロセスは、所望のエーテル生成物の選択性に悪影響を及ぼし得る望ましくない副反応を最小限に抑える。
【0046】
本発明のエーテル生成物は有機源及び再生可能源に由来するので、本発明のエーテル生成物は環境への影響が最小限である。例えば、エーテル生成物は、毒性、非生分解性、揮発性有機化合物(volatile organic compound、VOC)放出などに関して化学系工業用溶媒に課される厳しい規制に対処するために、地球規模のグリーン及びバイオ系溶媒として有利に使用することができる。グリーン及びバイオ系溶媒は、典型的には、塗料及びコーティング用途において使用される。他の用途としては、接着剤、医薬品及び印刷インクが挙げられる。いくつかの実施形態では、エーテル生成物は、起泡制御剤及び香味添加剤として使用することができる。他の実施形態では、エーテル生成物は、化粧品及びパーソナルケア用途において使用することができる。
【0047】
本発明は、産業において既知の溶媒に対してコスト及び性能の利点を有するバイオ系溶媒を提供する。加えて、本発明のプロセスによって提供される化学的変換は、例えば、バイオ系界面活性剤、消泡剤及び潤滑剤を経済的かつ環境的に好ましいプロセスで製造するために有用であり得る。
【0048】
本発明のエーテル生成プロセスはまた、(1)限定された反応物である塩化アルキルタイプ及び最終生成物の不純物の問題を克服するためのより堅牢なキャッピングプロセス、(2)新規なキャッッピングされた低粘度-低揮発性潤滑剤、並びに(3)食品及び医薬用途、金属加工流体用途、並びにエーテル溶媒を利用する他の用途のための新規な界面活性剤並びに新規なバイオ系消泡剤を開発するために使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下の本発明の実施例(Inv.Ex.)及び比較実施例(Comp.Ex.)(まとめて「実施例」とする)は、本発明を更に詳細に説明するために本明細書で提示されるが、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。他に指示がない限り、全ての部及び割合は、重量による。
【0050】
触媒
実施例で使用した触媒(「触媒」)配合を表I及び表IIに記載する。以下(表I)の触媒1~触媒14を使用する実施例は、蒸気相反応器で試験したが、触媒15~触媒28(表II)を使用する実施例は、液相反応器で試験した。
【0051】
遷移金属粒子(Pd、Pt、Ru、Co、Ni、Cu、Rh)を、ゼオライト(FAU、Tosoh;NaY,ACS Materials;MOR、ACS Materials及びTosoh;BEA、Tosoh;MFI、Tosoh及びZeolyst;CHA、ACS Materials;FER、Zeolyst)上に、示されるように、初期湿潤含浸(incipient wetness impregnation、IWI)、弱キャッピング成長アプローチ(weakly capping growth approach、WCGA)、イオン交換(ion exchange、IE)を使用して、又は修正されたNaBH4還元法によって、堆積される。
【0052】
IWI方法は、示された重量負荷に調整された前駆体濃度を有する水溶液を調製することを伴う。等体積の担持体細孔容積を担持体に滴下して加え、初期湿潤を達成した。IWI方法によって調製されたPd堆積ゼオライト触媒については、触媒4は、前駆体としてPd(NH3)4Cl2・H2Oを使用したが、一方で、触媒5、触媒22~触媒25は、前駆体としてPd(NH3)4(NO3)2を使用した。Pt、Rh、Ru、Ni、及びCo堆積ゼオライト触媒(触媒9~触媒14、触媒16~触媒26)について、使用した前駆体は、それぞれ、[Pt(NH3)4](NO3)2、Rh(NO3)3・xH2O、Ru(NO)(NO3)3、Ni(NO3)2・6H2O、Cu(NO3)2・2.5H2O、及びCo(NO3)2・6H2Oであった。
【0053】
WCGA方法は、Journal of the American Chemical Society 2015,137(36),11743-11748、Industrial & Engineering Chemistry Research 2021,60,2326-2336で公開されるような合成手順を伴う。最初に、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2をメタノールに溶解して、撹拌しながら170mg Pd L-1の濃度を達成する。前駆体が溶解した後、ゼオライト担持体を溶液に添加し、少なくとも18時間撹拌したままにする。最初の黄色溶液は、合成中に暗色に変わる。Pd-ゼオライト固体を遠心分離により回収し、メタノールで洗浄する。遠心分離後、固体は暗灰色から黒色を有し、濾液は透明である。触媒1~触媒3、触媒6、触媒8、触媒15を、WCGA方法により調製した。
【0054】
IE方法は、Journal of Catalysis 1989,118(1),266-274)に公開されている合成手順を伴う。簡単に言うと、触媒は、金属前駆体の水溶液を調製し、撹拌しながら担持体を添加することによって合成される。試料を少なくとも18時間撹拌したままにして、次いで遠心分離により分離する。触媒7をIE方法により調製した。
【0055】
修正されたNaBH4還元法は、JJournal of Molecular Catalysis A:Chemical 2013,376,63-70に記載されている通りである。簡単に言うと、5グラムのゼオライト及び483mgの塩化ルテニウム水和物(RuCl3・xH2O)を、150mLのエタノールと共に250cm3の三つ口丸底フラスコに入れる。混合物をAr雰囲気下で少なくとも24時間激しく撹拌する。その後、エタノール(40cm3)中のNaBH4の0.3M溶液を混合物に滴下し、得られた混合物を少なくとも更に24時間撹拌する。触媒を濾過により回収し、エタノールで洗浄する。
【0056】
それらを調製するために使用される方法にかかわらず、得られた湿潤固体は、353Kで12時間より長く、静的オーブン中で乾燥される。続いて、試料を流動空気(Ultra Zero Grade Air)中で酸化処理温度まで加熱し、2~12時間保持する。次いで、試料を周囲温度まで冷却する。次いで、試料を、20%H2/He(H2、Ultra High Purity 5.0)及び(He、Ultra High Purity 5.0)を流しながら還元温度まで加熱し、0.5~4時間保持する。試料を周囲温度まで冷却し、空気/He(Ultra Zero Grade Air、2cm3 min-1)及び(He、Ultra High Purity 5.0、250cm3 min-1)を1時間流して受動態化した後に、周囲空気に曝露する。
【0057】
エネルギー分散X線蛍光(energy dispersive X-ray fluorescence、EDXRF)及び誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)分析による元素分析は、H+(Al)に対するPdの比及び全重量負荷を与える。
【0058】
【0059】
【0060】
触媒1~触媒28を使用する実施例は、本発明の代表的な実施例(Inv.Ex.)であり、一方、触媒29~触媒33を使用する実施例は、比較実施例(Comp.Ex.)である。表III及びIVの触媒29~32は、表III及びIVに記載の材料を使用して、最近出願された米国特許出願第63/107,739号に記載の初期湿潤含浸方法を使用して調製した。表IV中の触媒33は、Sigma Aldrichから購入したケイ酸アルミニウム(Al2O3-SiO2)を担持体として使用して、初期湿潤含浸方法によって調製した。
【0061】
【0062】
【0063】
試験測定
本発明のプロセスは、(1)還元剤として分子状水素(H2)を使用し、(2)蒸気相又は液相で実施され、(3)エステルからエーテルへの還元のために不均一系触媒を使用するプロセスを含み、不均一系触媒は、遷移金属、例えばPd系触媒を含み、触媒担持体(担体)は、本発明の実施例ではゼオライト、又は比較実施例では、酸担持体、例えば、WO3系触媒担体若しくはNb2O5系触媒担体である、プロセスを含む。
【0064】
パートA:蒸気相反応器における触媒速度の測定
触媒1~触媒14並びに比較触媒29及び30を蒸気相反応器中で試験した。蒸気相反応器は、10ミリグラム(mg)~200mgの触媒を含有するステンレス鋼管(外径[outer diameter、O.D.]9.5ミリメートル[mm])内に保持された管状充填床反応器である。触媒は、ガラス棒及び充填ガラスウールを用いて反応器の中心に保持される。管状反応器を、電子温度制御装置(Watlow,EZ-Zoneから入手可能)によって制御された3ゾーン式炉(Applied Test Systems,3210から入手可能)内に配置する。触媒温度は、反応器内に同軸に整列され、触媒床内に沈められる1.6mmのステンレス鋼シース(Omegaから入手可能)内に含まれるK型熱電対によって測定する。過剰な炭化ケイ素(silicon carbide、SiC)(Washington Mills,Carborex green 36から入手可能)を所望の量の触媒と混合することにより、1.4立方センチメートル(cm3)の材料で、触媒床の体積を一定に保つ。システムは、電子圧力調節器(electronic pressure regulator、EPR、Equilibar Precision Pressureから入手可能なEquilibar GP1)によって制御される背圧調節器(back-pressure regulator、BPR、Equilibar Precision Pressure Controlから入手可能なEquilibar LF Series)を使用して加圧される。反応器圧力は、デジタル圧力ゲージ(Omegaから入手可能)及びEPRをそれぞれ使用して、触媒床の上流及び下流で監視する。
【0065】
実施例で使用される気体は、H2(「Ultra High Purity 5.0」としてAirgas Inc.から入手可能)及びHe(「Ultra High Purity 5.0」としてAirgas Inc.から入手可能)である。気体流量は、マスフローコントローラ(「EL-FLOW High Pressure」としてBronkhorstから入手可能)を用いて制御する。液体酢酸プロピル(C5H10O2、Sigma Aldrich,537438によって供給、99.5%以上[≧99.5%]で)の流量を、C5H10O2が、その出口がH2の交差流内の非多孔性砂の小さな床(SiO250~70メッシュ粒径、Sigma Aldrich,274739によって供給)内に配置されるポリエーテルエーテルケトン(polyether ether ketone、PEEK)ポリマー管(1.6mmのO.D.及び0.25mmの内径[inner diameter、I.D.])を通って供給されるときに、Hastelloyシリンダー(Dシリーズ制御器を有する100DX、Teledyne Iscoから入手可能)を有するステンレス鋼シリンジポンプを使用して制御する。縮合を回避するために、加熱テープ(Omegaから入手可能)を使用して、液体入口を取り囲む移送ラインを373Kに維持する。液体入口の下流の全ての移送ラインを、加熱テープを使用して373Kより上に加熱し、ライン温度を、デジタルリーダー(Omegaから入手可能)上に表示されたK型熱電対(Omegaから入手可能)で監視する。
【0066】
触媒は、全ての触媒測定の前に、触媒を所望の温度まで0.08ケルビン/秒(K s-1)で加熱し、触媒をその温度で所望の時間、H2を100立方センチメートル/分(cm3 min-1)で流しつつ、101キロパスカル(kPa)内で保持することによって系内で前処理する。反応器の流出物を、オンラインガスクロマトグラフィー(HP6890、Agilentから入手可能)を使用して特性評価する。ガスクロマトグラフ(gas chromatograph、GC)は、可燃性種の濃度を定量するために、炎イオン化検出器に接続されたキャピラリーカラム(DB-624 UI、長さ30メートル(m)、0.25mmのI.D.、1.40マイクロメートル[μm])を備えている。全ての成分についての感度係数及び保持時間を、気体標準及び液体標準を使用して決定する。反応器圧力及び温度、反応物流量、並びにGCサンプリングの制御は、連続測定を可能にするように自動化される。転化率は、生成物中に現れる炭素の量に基づいて炭素基準で計算される。炭素と酸素のバランスは±20%以内に収まる。速度及び選択性の測定中の反応器条件は、1MPa~10MPaの全範囲にわたって反応物圧力を連続的に減少させ、次いで増加させることによって変化させ、1つ以上の条件が実験全体を通して少なくとも2回測定され、測定された傾向が系統的な不活化の結果ではないことを確実にする。
【0067】
パートB:液相反応器における触媒速度の測定
触媒15~触媒28並びに比較触媒31及び32を液相反応器中で試験する。速度及び選択性の測定は、1,000mg~4,000mgの触媒(30メッシュ~60メッシュ)を含有するステンレス鋼管(1.6mmのOD)を含む細流床反応器で実施し、触媒は、Pyrexガラス棒及び充填ガラスウールを使用して反応器の中心に保持する。反応器を、電子温度制御装置(Watlowから入手可能なEZ-Zone)によって制御された2つの加熱カートリッジを含むアルミニウムクラムシェルで加熱する。反応温度は、反応器内で同軸に整列され、アルミニウムクラムシェル内に沈められる3.2mmのステンレス鋼シース(Omegaから入手可能)内に含まれるK型熱電対によって測定される。システムは、電子圧力調節器(EPR)(Equilibar Precision Pressure Controlから入手可能なEquilibar GP1)によって制御されるドーム型背圧調節器(BPR)(Equilibar Precision Pressure Controlから入手可能なEquilibar LF Series)を使用して最大6.6MPaまで加圧される。反応器圧力を、デジタル圧力ゲージ(Omegaから入手可能)及びEPRを使用して監視する。
【0068】
H2(Airgasから入手可能)及びHe(Airgasから入手可能)の気体流量は、マスフローコントローラ(Bronkhorstから入手なEL-FLOW High Pressureコントローラ)を使用して制御する。Sigma Aldrich,537438から供給される液体酢酸プロピル(C5H10O2)の流量は、≧99.5%で、C5H10O2を、H2及びHeの交差流内でステンレス鋼チューブ(1.6mmのO.D.及び0.15mmのI.D.)を通して供給しながら、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、HPLC)ポンプ(Chromtechから入手可能なP-LST40B)を使用して制御する。
【0069】
触媒は、全ての触媒測定の前に、0.08K s-1で423K又は573Kに加熱し、50cm3 min-1で流れるHe(20kPa)及びH2(81kPa)内で2時間保持することによって系内で前処理される。反応器の流出物は、冷水(約377Kの温度)を含むステンレス鋼冷却チャンバを通過し、次いで、気体生成物及び流体生成物は、気液分離器(gas-liquid separator、GLS)において分離される。GLSで収集された液体生成物を、HPLCポンプによって、オンラインガスクロマトグラフィー(Agilent、HP 7890B)に取り付けられた高圧液体サンプリングバルブ(LSV、Transcendent Enterprise Inc.、PLIS-6890、1μL注入体積)に送る。LSVの出口に、手動BPR(Swagelok)を設置して、液体の圧力を1,380kPaに維持して、生成物がサンプリングシステム内で蒸発するのを防止する。気体生成物及び液体生成物を、オンラインガスクロマトグラフィー(Agilent、HP 7890B)を使用して特性評価する。GCは、液体生成物用の2本のキャピラリーカラム(DB-Wax UI、長さ60m、0.25mmのI.D.、0.25μm、Agilentから入手可能)を備え、GS-GASPRO(GCカラム、長さ60m、0.32mmのI.D.、Agilentから入手可能)を炎イオン化検出器に接続して、種の濃度を定量する。全ての気体生成物及び液体生成物についての感度係数及び保持時間を、それぞれ、気体標準及びメタナイザー(Polyarc System、PA-SYC-411、Activated Research Companyから入手可能)を使用して決定する。反応圧力及び温度、反応物及び生成物の流量、並びにGCサンプリングの制御を自動化して、連続測定を可能にする。転化率は、生成物中に現れる炭素の量に基づいて炭素基準で計算される。炭素バランスは±10%以内に収まる。
【0070】
試験結果
エステル出発化合物として酢酸プロピルを使用する反応経路
分子状水素による酢酸プロピル(代表的なエステルの一例)の直接選択的還元のために実施例で使用される触媒(触媒1~触媒28)の動力学的検討を行い、酢酸プロピルをエーテルに変換する反応経路を決定する。GC分析により、固定床反応器から出てくる生成物流中にいくつかの生成物が観察される。様々な生成物としては、例えば、C2~C3アルカン及びアルケン、エタノール、プロパノール、ジプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、酢酸及び酢酸エチルなどの軽質炭化水素が挙げられる。この観察に基づいて、反応は、以下を含む反応器内のいくつかのルートを介して起こったと結論付けることができる。例えば、(1)酢酸プロピルの1つのエタノール及び1つのプロパノールへの水素化分解、(2)酢酸プロピルを加水分解し、プロパノール及び酢酸を形成、(3)次いで、アルコールを脱水して軽質炭化水素を形成することができ、並びに脱水してジプロピルエーテル、ジエチルエーテル及びエチルプロピルエーテルなどのエーテル生成物を形成することができ、(4)酢酸プロピルをエタノールでエステル交換し、酢酸エチル及びプロパノールを形成し、並びに(5)本発明のルートである反応スキーム(I)、すなわち、酢酸プロピルを水素で直接水素添加し、エチルプロピルエーテルを形成する。所望の生成物は酢酸プロピルの直接水素添加によるエチルプロピルエーテルであるので、本発明の反応スキーム(I)のルートが所望の反応経路である。エチルプロピルエーテルも上記ルート(3)から形成することができることに留意すべきである。しかしながら、上記ルート(3)はアルコール脱水反応を含み、そのようなアルコール脱水反応は、ジプロピルエーテル又はジエチルエーテルなどの対称エーテルを超えて非対称エーテルの形成に選択的ではないので、上記ルート(3)は望ましくない。本発明のプロセスは、対称エーテル又は非対称エーテルのいずれかの製造に限定されない。有利なことに、本発明のプロセスは、選択的かつ直接的な経路で、所望又は必要な場合に非対称エーテルを提供する。
【0071】
パートA:上記相エステル還元の結果
実施例1~5及び比較例A~M
本発明の実施例1~14並びに比較実施例29及び30、触媒1~触媒14及び29及び30を蒸気相で使用するエーテル選択性の結果を表Vに記載する。水素添加は、以下の反応条件下:温度356~503K、H2圧6.2MPa、酢酸プロピル圧10kPaで行った。
【0072】
【0073】
【0074】
パートB:液相エステル還元の結果
実施例15~28及び比較実施例31~33
本発明の実施例14~28並びに比較実施例31~33において、水素添加は、示された触媒を使用して液相反応器中で行われる。本発明の実施例についての反応は、6293kPaのH2圧下、119kPaのエステル圧で行われる。比較実施例についての反応は、4977kPaのH2圧下、1573kPaのエステル圧で行われる。液相反応器において、エステルのモル濃度は、蒸気相反応器と比較して供給流中でより高く、エステルは液体状態で維持される。エーテル生成物選択性を表VIに記載する。
【0075】
【0076】
パートA:蒸気相エステル還元
本発明の実施例1~9において、酢酸プロピルからのジプロピルエーテル及びジエチルエーテルの形成についての選択性は、ほとんどの場合、3%未満であるが、3つのエーテル生成物全ての中でのエチルプロピルエーテルについての相対的選択性は、ほとんどの場合、80%より高い。アルコール脱水は、対称エーテル又は非対称エーテルに対する選択性において優先性を有さないので、そのような性能は、エチルプロピルエーテルの実質的に全てが酢酸プロピルの直接水素添加反応経路に基づいて形成されることを示す。
【0077】
本発明の実施例1~本発明の実施例3の結果は、50のSi/Al比でFAU上に堆積されたPdが、エステルからエーテルへの直接水素添加を提供することを示す。Pd金属負荷は、エーテル選択性に対してわずかな影響しか及ぼさない。Si/Al比を有するFAU上の0.5~4重量%のPd負荷は、直接エステル還元に有効であり得る。
【0078】
本発明の実施例4~本発明の実施例5の結果は、IWIを介した調製方法及び異なる前駆体の使用が、エステルからエーテルへの水素添加の方向にわずかな影響しか及ぼさないことを示す。Pd(NH3)4Cl2・H2O又はPd(NH3)4(NO3)2前駆体のいずれかを用いたIWIによって調製されたFAU50上に堆積されたPdは、直接エステル還元に有効であり得る。
【0079】
本発明の実施例6~本発明の実施例7の結果は、250のSi/Al比を有するFAU上及び2のSi/Al比を有するYゼオライト上に堆積されたPdが、直接エステル還元に有効であり得ることを示す。
【0080】
本発明の実施例8の結果は、BEA250上に堆積されたPdはある程度機能するが、直接エステル水素添加を行う際にあまり有効ではないことを示す。
【0081】
本発明の実施例8~本発明実施例9の結果は、Pt及びRhが堆積されたFAU50触媒が、直接エステル水素添加に有効であり得ることを示す。
【0082】
本発明の実施例11~本発明実施例14の結果は、FAU50担持体上のRu、Ni、Cu及びCoなどの遷移金属はある程度機能するが、それらが直接エステル水素添加にはあまり有効でないことを示す。
【0083】
蒸気相反応において観察される最良の直接エステル還元性能は、本発明の実施例2において、触媒2(50のSi/Al比でFAU上に堆積された4.00重量%のPd)を使用して観察され、90.0%の直接エーテル選択性で48.4%の絶対的エチルプロピルエーテル選択性を与える。
【0084】
パートB:液相エステル還元
本発明の実施例15~19において、エチルプロピルエーテルについての絶対的選択性及び得られた直接エーテル選択性は、金属堆積ゼオライト触媒(FAU50上に堆積されたPd、MOR10上に堆積されたPt、MOR120上に堆積されたPt、FER10上に堆積されたPt及びCHA10上に堆積されたPt)が液相反応における直接エステル還元に適用され得ることを示す。
【0085】
本発明の実施例20~28の結果は、MFI11.5及びBEA14などのゼオライト担持体上に堆積されたPt、並びにBEA14、MOR10、MFI11.5及びCHA10などのPdが堆積されたゼオライト担持体、並びにMOR10、BEA250及びMFI180などのRuが堆積されたゼオライト担持体は、全てある程度まで機能するが、直接エステル水素添加を行う際にはあまり有効でないことを示す。
【0086】
比較実施例31、32、33の結果は、Al2O3、SiO2又はAl2O3-SiO2担持体上の触媒が、直接エステル水素添加において有効でないことを示す。このことは、ゼオライト担持体の微細構造が、直接エステル水素添加を触媒するのに重要であることを示している。
【0087】
液相反応において観察される最良の直接エステル還元性能は、本発明の実施例19から、触媒19(10のSi/Al比でFER上に堆積された2.46重量%のPt)を使用したものから得られ、93.7%の直接エーテル選択性で58.0%の絶対的エチルプロピルエーテル選択性を与える。
【0088】
結論
本発明は、蒸気相及び液相の両方において、エステルからエーテルへの直接水素添加にきわめて有効である、一連の金属堆積ゼオライト触媒(例えば、Pd堆積FAU、Pt堆積FAU、Rh堆積FAU、Pt堆積MOR、Pt堆積CHA、Pt堆積FER)を開示する。得られた最良の性能は、蒸気相反応において48.4%の絶対的エチルプロピルエーテル選択性及び90.0%の直接エーテル選択性であり、液相反応において58.0%の絶対的エチルプロピルエーテル選択性及び93.7%の直接エーテル選択性である。このような結果は、遷移金属/金属酸化物触媒に関する先行技術の性能(「Processes for Producing an Ether」、63/107、739)(これは、>5%の絶対的エチルプロピルエーテル選択性及び>85%の直接エーテル選択性を主張する)を有意に超える。
【国際調査報告】