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特表2024-543017白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池
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  • 特表-白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池 図1
  • 特表-白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池 図2
  • 特表-白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池 図3
  • 特表-白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池 図4
  • 特表-白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池 図5
  • 特表-白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池 図6
  • 特表-白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに水素燃料電池
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/42 20060101AFI20241112BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20241112BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241112BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20241112BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B01J23/42 M
H01M4/92
H01M4/88 K
H01M4/88 C
H01M8/10 101
H01M4/86 B
H01M4/86 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525640
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2022128609
(87)【国際公開番号】W WO2023072286
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】202111272257.9
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523143774
【氏名又は名称】中石化石油化工科学研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】顧賢叡
(72)【発明者】
【氏名】王厚朋
(72)【発明者】
【氏名】張家康
(72)【発明者】
【氏名】彭茜
(72)【発明者】
【氏名】謝南宏
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA12
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA05
4G169EA08
4G169EC27
4G169FB06
4G169FB14
4G169FB46
4G169FC03
4G169FC08
4G169FC09
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB17
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE08
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H018HH06
5H018HH08
5H018HH10
5H126BB06
(57)【要約】
本発明は、白金-炭素触媒、その製造方法および使用、ならびに当該白金-炭素触媒を含んでいる水素燃料電池を開示する。白金-炭素触媒は、炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子を含んでいる。金属性白金粒子の50%以上は、炭素質支持体に対する接触角が70°以下である。本発明の白金-炭素触媒は、炭素質支持体上における金属性白金粒子の分散性が比較的良好であり、非常に均一なクラスタ粒子となり、金属性白金と炭素質支持体との相互作用が強力であり、電気化学活性表面積が向上しており、電気化学的安定性に優れる。本発明に係る白金-炭素触媒の製造方法は、バッチの再現性があり、工業規模にスケールアップしやすく、上述の白金-炭素触媒をバッチ生産できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子とを含んでいる白金-炭素触媒であって、
上記金属性白金粒子の50%以上は、上記炭素質支持体に対する接触角が70°以下であることを特徴とし、
好ましくは、上記金属性白金粒子の55%以上は、上記炭素質支持体に対する接触角が70°以下であり(例えば、上記金属性白金粒子の55~70%または60~70%は、上記支持体に対する接触角が70°以下であり)、
さらに好ましくは、上記金属性白金粒子の上記炭素質支持体に対する接触角は、40°~70°であり;
上記白金-炭素触媒の全量を基準とすると、
上記金属性白金の含有率は、20~70重量%であり、
上記炭素質支持体の含有率は、30~80重量%であり;
好ましくは、上記白金-炭素触媒の全量を基準とすると、
上記金属性白金の含有率は、50~70重量%であり、
上記炭素質支持体の含有率は、30~50重量%である;
白金-炭素触媒。
【請求項2】
上記白金-炭素触媒に含まれている金属性白金粒子の平均粒径は、3~6nmである、
請求項1に記載の白金-炭素触媒。
【請求項3】
上記白金-炭素触媒は、上記炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子とから実質的になる、
請求項1に記載の白金-炭素触媒。
【請求項4】
上記白金-炭素触媒は、上記炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子からなる、
請求項1に記載の白金-炭素触媒。
【請求項5】
上記炭素質支持体は、導電性カーボンブラックであり、
好ましくは、上記導電性カーボンブラックの比表面積は、200~2000m/g(好ましくは250~1500m/g)である、
請求項1に記載の白金-炭素触媒。
【請求項6】
上記白金-炭素触媒の電気化学活性表面積は、70~120m・g-1-Ptであり、
好ましくは、上記白金-炭素触媒の質量比活性は、0.2A・mg-1-Pt以上(好ましくは0.2~0.25A・mg-1-Pt)である、
請求項1に記載の白金-炭素触媒。
【請求項7】
下記工程を有する、白金-炭素触媒の製造方法:
工程S1:炭素質材料、白金前駆体、複合化剤および分散媒を分散させて、第1分散体とする工程であって、ここで、
上記複合化剤は、カルボン酸塩であり、
上記分散媒は、C~Cの二価アルコールおよび水であり、
上記二価アルコールの上記水に対する体積比は、(0.1~10):1であり、
上記白金前駆体の上記複合化剤に対するモル比は、1:(0.1~10)である、工程;
工程S2:上記第1分散体のpH値を8~14に調節して、第2分散体とする工程;
工程S3:上記第2分散体に還元剤を加えて、当該第2分散体中において上記還元剤と上記白金前駆体とを接触させ、還元反応させる工程であって、
上記還元剤は、酸性の有機還元剤であり、
上記還元剤の、白金元素としての上記白金前駆体に対するモル比は、一般的に、(5~1000):1である、工程。
【請求項8】
下記の関係を満たしている、請求項7に記載の製造方法。
/C<0.5(C/Cは、例えば0.15~0.49であり、好ましくは0.15~0.45であり、より好ましくは0.2~0.4である)
式中、
:上記工程S1における、上記白金前駆体の上記分散媒に対するモル濃度
:上記工程S1で得た上記第1分散体の液相に含まれている白金のモル濃度
【請求項9】
上記工程S1において、上記複合化剤は、モノカルボン酸のアルカリ金属塩および/またはモノカルボン酸のアンモニウム塩であり;
好ましくは、上記複合化剤は、下記式Iで表される化合物の1または2つ以上であり、
R-COOM(式I)
式I中、
Rは、水素、C~CアルキルまたはC~Cハロアルキルであり、
Mは、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンであり;
好ましくは、上記複合化剤は、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸ナトリウム、ジクロロ酢酸ナトリウムおよびトリクロロ酢酸ナトリウムのうち1または2つ以上であり;
好ましくは、上記白金前駆体の上記複合化剤に対するモル比は、1:(0.5~5)(好ましくは1:(1~3))である;
請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
上記工程S1において、上記炭素質材料、上記白金前駆体、上記複合化剤および上記分散媒を、超音波によって分散させ、
1Lの上記分散媒に対する超音波の出力は、1~20W(好ましくは2~12W)であり、
超音波による分散時間は、0.1~5時間(例えば0.2~1時間)である、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
上記工程S1において、上記二価アルコールの上記水に対する体積比は、(0.5~5):1(好ましくは(0.67~3):1)であり、
好ましくは、上記二価アルコールは、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコールであり、
より好ましくは、上記二価アルコールは、エチレングリコールである、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項12】
上記工程S1において、上記白金前駆体の上記分散媒に対する質量比は、1:(100~5000)(好ましくは1:(120~1000)、より好ましくは1:(160~300))である、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項13】
下記工程をさらに有する、請求項7に記載の製造方法:
工程S0:上記工程S1の上記炭素質材料を予備処理する工程であって、当該炭素質材料を、溶媒処理、第1酸化処理、第2酸化処理および高温処理により続けて処理して、予備処理した炭素質材料とする工程;
ここで、
上記溶媒処理においては、上記炭素質材料を有機溶媒に浸漬して、有機溶媒に浸漬した炭素質材料とし、
好ましくは、上記有機溶媒は、ケトン溶媒の1または2つ以上であり;
上記第1酸化処理においては、上記有機溶媒に浸漬した炭素質材料を第1酸化剤と接触させて、第1酸化処理した炭素質材料とし、
上記第1酸化剤は、過酸化水素および式IIで表される有機過酸化物のうち1または2つ以上であり、
【化1】

式II中、
およびRは、それぞれ、H、C~C12アルキル、C~C12アリール、C~C12アラルキルおよび下記構造から選択され、
【化2】

およびRは、同時にHではなく、
は、C~C12の直鎖もしくは分岐アルキルまたはC~C12アリールであり;
上記第2酸化処理においては、上記第1酸化処理した炭素質材料を第2酸化剤と接触させて、第2酸化処理した炭素質材料とし、
上記第2酸化剤は、HNOおよび/またはHSOのうち1または2つ以上であり;
上記高温処理においては、上記第2酸化処理した炭素質材料を、不活性雰囲気下、300~700℃(例えば300~600℃)にて焼成して、上記予備処理した炭素質材料とする。
【請求項14】
上記工程S0の上記溶媒処理において、
浸漬時間は5~24時間であり、
上記溶媒の上記炭素質材料に対する質量比は、(5~100):1であり、
好ましくは、上記溶媒処理における有機溶媒の温度は、20~70℃(好ましくは25~40℃)であり、
好ましくは、上記溶媒処理における有機溶媒は、アセトンである、
請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
上記工程S0の上記第1酸化処理において、
接触時間は、5~24時間であり、
上記第1酸化剤の上記有機溶媒に浸漬した炭素質材料に対する質量比は、(5~30):1であり、
好ましくは、上記第1酸化処理における接触温度は、20~70℃(好ましくは25~40℃)であり、
好ましくは、上記第1酸化処理において上記第1酸化剤は水溶液として与えられ、当該水溶液における上記第1酸化剤の含有率は5~30重量%であり、
好ましくは、上記第1酸化処理における第1酸化剤は、過酸化水素である、
請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
上記工程S0の上記第2酸化処理において、
接触時間は、5~24時間であり、
上記第2酸化剤の上記第1酸化処理した炭素質材料に対する質量比は、(5~50):1(好ましくは(10~30):1、より好ましくは(12~20):1)であり、
好ましくは、上記第2酸化処理における接触温度は、50~90℃であり、
好ましくは、上記第2酸化処理における第2酸化剤は、硝酸であり、
好ましくは、上記硝酸の濃度は、25~68重量%(好ましくは30~40重量%)である、
請求項13に記載の製造方法。
【請求項17】
上記工程S0の上記高温処理において、焼成温度は、500~600℃であり、
好ましくは、上記高温処理における焼成時間は、2~8時間(好ましくは3~6時間)である、
請求項13に記載の製造方法。
【請求項18】
上記工程S1において、水溶性の上記白金前駆体は、クロロ白金酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸カリウム、ヘキサクロロ白金酸ナトリウム、四塩化白金、硝酸テトラアンミン白金、硝酸白金、クロロ白金酸、クロロ白金酸カリウムおよびクロロ白金酸ナトリウムのうちの1または2つ以上であり、
好ましくは、上記工程S1において、上記炭素質材料は、導電性カーボンブラックであり、
上記導電性カーボンブラックの比表面積は、好ましくは200~2000m/gであり、より好ましくは250~1500m/gである、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項19】
上記工程S2においては、上記工程S1から得られる上記第1分散体のpH値を8~12に調節し、
例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムまたは水酸化ナトリウムを加えることによってpH値を調節する、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項20】
上記工程S3において、上記還元剤は、ギ酸、クエン酸および酒石酸のうち1または2つ以上であり、
上記還元剤は、好ましくはギ酸を含んでおり、より好ましくはギ酸であり;
好ましくは、上記工程S3において、上記還元剤の水溶性の上記白金前駆体に対するモル比は、(50~600):1(好ましくは(80~400):1、より好ましくは(100~200):1)であり、
このとき、水溶性の上記白金前駆体は、金属性白金として計算する;
請求項7に記載の製造方法。
【請求項21】
上記工程S3において、還元温度は50~140℃(好ましくは55~90℃、より好ましくは60~80℃)であり、
好ましくは、上記工程S3において、還元時間は、2~12時間である、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項22】
燃料電池における、請求項1~6のいずれか1項に記載の白金-炭素触媒の使用。
【請求項23】
請求項1~6のいずれか1項に記載の白金-炭素触媒を含むアノードおよび/またはカソードを備えている、
水素燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金-炭素触媒およびその製造方法および使用に関する。本発明はまた、白金-炭素触媒を使用した水素燃料電池にも関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池技術において、触媒は、核心となる材料である。燃料電池が稼働するときには、活性化や濃度、透過性、抵抗に偏りが生じる。この中では、活性化の偏りが最も顕著であり、カソードにおける酸素の還元反応(ORR)の交換電流密度が低くなる原因となる。
【0003】
これまでのところ、最も効率的な酸素の還元触媒は、白金-炭素触媒である。既報により報告されている白金-炭素触媒の合成方法の主たるものには、浸漬法、高温焼成法、真空スパッタリング法、イオン交換法、電気化学堆積法、ゾル-ゲル法、気液相還元法、グロー放電プラズマ法、置換法、マイクロ波促進還元法などがある。これらの方法には、それぞれ一長一短があるが、いずれも工業的に拡大する面においてはある程度の問題を抱えていた。
【0004】
燃料電池の触媒においては、支持体が非常に重要な要素である。支持体と金属触媒との相乗効果によって、触媒性能が向上することがある。白金-炭素触媒が不安定であるのは、原理的には、金属性白金粒子と炭素支持体との相互作用が弱いためである。金属性白金と炭素支持体との相互作用を強めることが、触媒の安定性を向上させるための鍵の一つとなっている。
【0005】
それゆえ、この技術分野においては、白金-炭素触媒をバッチ生産するための製造方法を開発するという喫緊の要求があった。この製造方法は、金属性白金と炭素支持体との相互作用を高めて白金-炭素触媒の安定性を向上できるのみならず、均一およびバッチ安定性が高い白金-炭素触媒をバッチ生産できるような製造方法である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、白金-炭素触媒およびその製造方法を提供することにある。本発明に係る白金-炭素触媒は、支持体との相互作用が強力であり、酸素の還元活性および安定性が向上している。本発明に係る製造方法により得られる白金-炭素触媒は、均一性およびバッチ安定性が高く、金属性白金と支持体との相互作用が強力であり、酸素の還元活性および安定性が向上している。
【0007】
本発明の第1態様によると、本発明は、白金-炭素触媒を提供する。この触媒は、炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子とを含んでいる。金属性白金粒子の50%以上は、炭素質支持体に対する接触角が70°以下である。
【0008】
本発明の第2態様によると、本発明は、白金-炭素触媒の製造方法を提供する。この製造方法は、下記の工程を有する。
・工程S1:炭素質材料、白金前駆体、複合化剤および分散媒を、超音波により分散させて、第1分散体とする。複合化剤は、カルボン酸塩である。分散媒は、C~Cの二価アルコールおよび水である。二価アルコールの水に対する体積比は、(0.1~10):1である。白金前駆体の複合化剤に対するモル比は、1:(0.1~10)である。S1においては、C/C<0.5が満たされている。ここで、Cは、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度である。Cは、工程S1で得た第1分散体の液相に含まれている白金のモル濃度である。
・工程S2:第1分散体のpH値を8~14に調節して、第2分散体とする。
・工程S3:第2分散体に還元剤を加えて、第2分散体中において還元剤と白金前駆体とを接触させ、還元反応させる。還元剤は、酸性の有機還元剤である。還元剤の、白金元素としての白金前駆体に対するモル比は、一般的に、(5~1000):1である。
【0009】
本発明の第3態様によると、本発明は、本発明の第2態様に係る製造方法によって得られる白金-炭素触媒を提供する。
【0010】
本発明の第4態様によると、本発明は、本発明の第1態様または第3態様に係る白金-炭素触媒の燃料電池における使用を提供する。
【0011】
本発明の第5態様によると、本発明は、水素燃料電池を提供する。水素燃料電池のアノードおよび/またはカソードは、本発明の第1態様または第3態様に係る白金-炭素触媒を含んでいる。
【0012】
具体的に、本開示は、下記の技術的解決手段を提供する。
<技術的解決手段1>
炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子とを含んでいる白金-炭素触媒であって、
上記金属性白金粒子の50%以上は、上記炭素質支持体に対する接触角が70°以下であることを特徴とし、
好ましくは、上記金属性白金粒子の55%以上は、上記炭素質支持体に対する接触角が70°以下であり(例えば、上記金属性白金粒子の55~70%または60~70%は、上記支持体に対する接触角が70°以下であり)、
さらに好ましくは、上記金属性白金粒子の上記炭素質支持体に対する接触角は、40°~70°であり;
上記白金-炭素触媒の全量を基準とすると、
上記金属性白金の含有率は、20~70重量%であり、
上記炭素質支持体の含有率は、30~80重量%であり;
好ましくは、上記白金-炭素触媒の全量を基準とすると、
上記金属性白金の含有率は、50~70重量%であり、
上記炭素質支持体の含有率は、30~50重量%である;
白金-炭素触媒
<技術的解決手段2>
上記白金-炭素触媒に含まれている金属性白金粒子の平均粒径は、3~6nmである、
技術的解決手段1に記載の白金-炭素触媒。
<技術的解決手段3>
上記白金-炭素触媒は、上記炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子とから実質的になる、
技術的解決手段1または2に記載の白金-炭素触媒。
<技術的解決手段4>
上記白金-炭素触媒は、上記炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子からなる、
技術的解決手段1~3のいずれかに記載の白金-炭素触媒。
本発明において、「白金-炭素触媒は、(実質的に)炭素質支持体および当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子からなる」とは、次のことを表す。すなわち、白金-炭素触媒の重量を基準として、炭素質支持体および金属性白金粒子の総重量は、90重量%以上、95重量%以上、96重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、99重量%以上でありうる。
<技術的解決手段5>
上記炭素質支持体は、導電性カーボンブラックであり、
好ましくは、上記導電性カーボンブラックの比表面積は、200~2000m/g(好ましくは250~1500m/g)である、
技術的解決手段1~4のいずれかに記載の白金-炭素触媒。
<技術的解決手段6>
下記(i)および/または(ii)を満たしている、技術的解決手段1~5のいずれかに記載の白金-炭素触媒:
(i)上記白金-炭素触媒の電気化学活性表面積は、70~120m・g-1-Ptである;
(ii)上記白金-炭素触媒の質量比活性は、0.2A・mg-1-Pt以上(好ましくは0.2~0.25A・mg-1-Pt)である。
<技術的解決手段7>
下記工程を有する、白金-炭素触媒の製造方法:
工程S1:炭素質材料、白金前駆体、複合化剤および分散媒を分散させて(任意構成で、超音波により分散させて)、第1分散体とする工程であって、ここで、
上記複合化剤は、カルボン酸塩であり、
上記分散媒は、C~Cの二価アルコールおよび水であり、
上記二価アルコールの上記水に対する体積比は、(0.1~10):1であり、
上記白金前駆体の上記複合化剤に対するモル比は、1:(0.1~10)であり、
任意構成で、上記工程S1で得られる分散体のpH値は、1~4である、工程;
工程S2:上記第1分散体のpH値を8~14に調節して、第2分散体とする工程;
工程S3:上記第2分散体に還元剤を加えて、当該第2分散体中において上記還元剤と上記白金前駆体とを接触させ、還元反応させる工程であって、
上記還元剤は、酸性の有機還元剤であり、
上記還元剤の、白金元素としての上記白金前駆体に対するモル比は、一般的に、(5~1000):1である、工程。
<技術的解決手段8>
下記の関係を満たしている、技術的解決手段7に記載の製造方法。
/C<0.5(C/Cは、例えば0.15~0.49であり、好ましくは0.15~0.45であり、より好ましくは0.2~0.4である)
式中、
:上記工程S1における、上記白金前駆体の上記分散媒に対するモル濃度
:上記工程S1で得た上記第1分散体の液相に含まれている白金のモル濃度
<技術的解決手段9>
下記(i)~(iii)のうち1つ以上を満たしている、技術的解決手段7または8に記載の製造方法:
(i)上記工程S1において、上記複合化剤は、モノカルボン酸のアルカリ金属塩および/またはモノカルボン酸のアンモニウム塩であり、
好ましくは、上記複合化剤は、下記式Iで表される化合物の1または2つ以上であり、
R-COOM(式I)
式I中、
Rは、水素、C~CアルキルまたはC~Cハロアルキルであり、
Mは、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンである;
(ii)好ましくは、上記複合化剤は、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸ナトリウム、ジクロロ酢酸ナトリウムおよびトリクロロ酢酸ナトリウムのうち1または2つ以上である;
(iii)上記白金前駆体の上記複合化剤に対するモル比は、1:(0.5~5)(好ましくは1:(1~3))である。
<技術的解決手段10>
上記工程S1において、上記炭素質材料、上記白金前駆体、上記複合化剤および上記分散媒を、超音波によって分散させ、
1Lの上記分散媒に対する超音波の出力は、1~20W(好ましくは2~12W)であり、
超音波による分散時間は、0.1~5時間(例えば0.2~1時間)である、
技術的解決手段7~9のいずれかに記載の製造方法。
<技術的解決手段11>
下記(i)および/または(ii)を満たしている、技術的解決手段7~10のいずれかに記載の製造方法:
(i)上記工程S1において、上記二価アルコールの上記水に対する体積比は、(0.5~5):1、1:(0.5~5)、(0.67~3):1または1:(1~3)である;
(ii)上記二価アルコールは、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコールであり、好ましくは、上記二価アルコールは、エチレングリコールである。
<技術的解決手段12>
上記工程S1において、上記白金前駆体の上記分散媒に対する質量比は、1:(100~5000)(好ましくは1:(120~1000)、より好ましくは1:(160~300))である、
技術的解決手段7~11のいずれかに記載の製造方法。
<技術的解決手段13>
下記工程をさらに有する、技術的解決手段7~12のいずれかに記載の製造方法:
工程S0:上記工程S1の上記炭素質材料を予備処理する工程であって、当該炭素質材料を、溶媒処理、第1酸化処理、第2酸化処理および高温処理により続けて処理して、予備処理した炭素質材料とする工程;
ここで、
上記溶媒処理においては、上記炭素質材料を有機溶媒に浸漬して、有機溶媒に浸漬した炭素質材料とし、
好ましくは、上記有機溶媒は、ケトン溶媒の1または2つ以上であり;
上記第1酸化処理においては、上記有機溶媒に浸漬した炭素質材料を第1酸化剤と接触させて、第1酸化処理した炭素質材料とし、
上記第1酸化剤は、過酸化水素および式IIで表される有機過酸化物のうち1または2つ以上であり、
【化1】

式II中、
およびRは、それぞれ、H、C~C12アルキル、C~C12アリール、C~C12アラルキルおよび下記構造から選択され、
【化2】

およびRは、同時にHではなく、
は、C~C12の直鎖もしくは分岐アルキルまたはC~C12アリールであり;
上記第2酸化処理においては、上記第1酸化処理した炭素質材料を第2酸化剤と接触させて、第2酸化処理した炭素質材料とし、
上記第2酸化剤は、HNOおよび/またはHSOのうち1または2つ以上であり;
上記高温処理においては、上記第2酸化処理した炭素質材料を、不活性雰囲気下、300~700℃(例えば300~600℃、一例として400℃、500℃、600℃または700℃)にて焼成して、上記予備処理した炭素質材料とする。
<技術的解決手段14>
下記(i)~(iii)のうち1つ以上を満たしている、技術的解決手段13に記載の製造方法。
(i)上記工程S0の上記溶媒処理において、
浸漬時間は5~24時間(例えば8時間)であり、
上記溶媒の上記炭素質材料に対する質量比は、(5~100):1(例えば、20:1または18:1)である;
(ii)上記溶媒処理における有機溶媒の温度は、20~70℃(好ましくは25~40℃、一例として25℃または35℃)である;
(iii)上記溶媒処理における有機溶媒は、アセトンである。
<技術的解決手段15>
下記(i)~(iv)のうち1つ以上を満たしている、技術的解決手段13または14に記載の製造方法。
上記工程S0の上記第1酸化処理において、
接触時間は、5~24時間(例えば、12時間または10時間)であり、
上記第1酸化剤の上記有機溶媒に浸漬した炭素質材料に対する質量比は、(5~30):1(例えば、25:1または20:1)である;
(ii)上記第1酸化処理における接触温度は、20~70℃(好ましくは25~40℃、一例として25℃)である;
(iii)上記第1酸化処理おける第1酸化剤は水溶液として与えられ、当該水溶液における上記第1酸化剤の含有率は5~30重量%(例えば、15重量%または10重量%)である;
(iv)上記第1酸化処理における第1酸化剤は、過酸化水素である。
<技術的解決手段16>
下記(i)~(iii)のうち1つ以上を満たしている、技術的解決手段13~15のいずれかに記載の製造方法:
上記工程S0の上記第2酸化処理において、
接触時間は、5~24時間(例えば12時間)であり、
上記第2酸化剤の上記第1酸化処理した炭素質材料に対する質量比は、(5~50):1(好ましくは(10~30):1、より好ましくは(12~20):1、一例として15:1または12:1)である;
(ii)上記第2酸化処理における接触温度は、50~90℃(例えば、70℃または65℃)である;
(iii)上記第2酸化処理における第2酸化剤は、硝酸であり、
好ましくは、上記硝酸の濃度は、25~68重量%(好ましくは30~40重量%、一例として30重量%または35重量%)である。
<技術的解決手段17>
下記(i)および/または(ii)を満たしている、技術的解決手段13~16のいずれかに記載の製造方法:
(i)上記工程S0の上記高温処理において、焼成温度は、500~600℃(例えば600℃)であり、
(ii)上記高温処理における焼成時間は、2~8時間(好ましくは3~6時間、一例として4時間)である。
<技術的解決手段18>
下記(i)および/または(ii)を満たしている、技術的解決手段7に記載の製造方法:
(i)上記工程S1において、水溶性の上記白金前駆体は、クロロ白金酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸カリウム、ヘキサクロロ白金酸ナトリウム、四塩化白金、硝酸テトラアンミン白金、硝酸白金、クロロ白金酸、クロロ白金酸カリウムおよびクロロ白金酸ナトリウムのうちの1または2つ以上である;
(ii)上記工程S1において、上記炭素質材料は、導電性カーボンブラックであり、
上記導電性カーボンブラックの比表面積は、好ましくは200~2000m/gであり、より好ましくは250~1500m/gである。
<技術的解決手段19>
上記工程S2においては、上記工程S1から得られる上記第1分散体のpH値を8~12に調節し、
例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムまたは水酸化ナトリウムを加えることによってpH値を調節する、
技術的解決手段7~18のいずれかに記載の製造方法。
<技術的解決手段20>
下記(i)および/または(ii)を満たしている、技術的解決手段7~19のいずれかに記載の製造方法:
(i)上記工程S3において、上記還元剤は、ギ酸、クエン酸および酒石酸のうち1または2つ以上であり、
上記還元剤は、好ましくはギ酸を含んでおり、より好ましくはギ酸である;
(ii)上記工程S3において、上記還元剤の水溶性の上記白金前駆体に対するモル比は、(50~600):1、(80~400):1または(100~200):1(一例として200:1)であり、
このとき、水溶性の上記白金前駆体は、金属性白金として計算する;
<技術的解決手段21>
下記(i)および/または(ii)を満たしている、技術的解決手段7~20のいずれかに記載の製造方法:
(i)上記工程S3において、還元温度は50~140℃、55~90℃または60~80℃(例えば75℃)である;
(ii)上記工程S3において、還元時間は、2~12時間(例えば6時間)である。
<技術的解決手段22>
技術的解決手段7~21のいずれかの製造方法によって得られる、白金-炭素触媒。
<技術的解決手段23>
燃料電池における、技術的解決手段1~6、22のいずれかに記載の白金-炭素触媒の使用。
<技術的解決手段23>
技術的解決手段1~6、22のいずれかに記載の白金-炭素触媒を含むアノードおよび/またはカソードを備えている、
水素燃料電池。
【0013】
本発明に係る白金-炭素触媒およびその製造方法には、下記の技術的効果をもたらしうる。
【0014】
(1)本発明の白金-炭素触媒は、炭素質支持体上における金属性白金粒子の分散性が良好であり、非常に均一なクラスタ粒子となり、金属性白金と炭素質支持体との相互作用が強力であるので金属性白金粒子が炭素質支持体に固着される。それゆえ、本発明に係る白金-炭素触媒は、電気化学活性表面積が向上しており、電気化学的安定性に優れる。
(2)本発明に係る白金-炭素触媒の製造方法は、バッチの再現性があり、工業規模にスケールアップしやすく、上述の白金-炭素触媒をバッチ生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】白金-炭素触媒における金属白金と炭素質支持体との接触角を説明するための模式図である。
図2】実施例1で調製した白金-炭素触媒における、金属白金と炭素質支持体との接触角を表すTEM像である。
図3】比較例1で調製した白金-炭素触媒における、金属白金と炭素質支持体との接触角を表すTEM像である。
図4】実施例1で調製した白金-炭素触媒のTEM像である。白金-炭素触媒の全量を基準とすると、金属性白金の含有率は、55重量%である。
図5】比較例1で調製した白金-炭素触媒のTEM像である。白金-炭素触媒の全量を基準とすると、金属性白金の含有率は、55重量%である。
図6】実施例1で調製した白金-炭素触媒の透過型電子顕微鏡像において、視野に含まれている金属白金粒子の粒径の統計結果である。
図7】市販の触媒であるJM70%のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に開示されている数値範囲の端点および任意の数値は、その数値範囲または数値と正確に一致する必要はない。そうではなく、これらの数値範囲または数値は、当該数値範囲または数値に近い値を含んでいると解さねばならない。また、数値範囲に関しては、2つの数値範囲の端点の値を組合せたり、数値範囲の端点の値と特定の数値とを組合せたり、任意の2つの特定の数値とを組合せたりことにより、1つ以上の新たな数値範囲が得られる。これらの数値範囲も、本明細書に具体的に開示されているものと解さねばならない。
【0017】
本発明の第1態様によると、本発明は、白金-炭素触媒を提供する。この触媒は、炭素質支持体と、当該炭素質支持体に支持されている金属性白金粒子とを含んでいる。
【0018】
本発明の白金-炭素触媒は、炭素質支持体上における金属性白金粒子の分散性が良好であり、非常に均一な金属性白金のクラスタ粒子が形成され、金属性白金と炭素質支持体との相互作用が強力である。
【0019】
本発明の白金-炭素触媒において、金属性白金粒子の50%以上は、支持体に対する接触角が70°以下である。例えば、金属性白金粒子の50~75%は、支持体に対する接触角が70°以下である。好ましくは、金属性白金粒子の55%以上は、支持体に対する接触角が70°以下である。例えば、金属性白金粒子の55~70%は、支持体に対する接触角が70°以下である。より好ましくは、金属性白金粒子の60%以上(例えば60~70%)は、支持体に対する接触角が70°以下である。本発明の白金-炭素触媒において、金属性白金粒子の炭素質支持体に対する接触角は、一般的に、40~70°である。
【0020】
本発明における、金属性白金粒子の炭素質支持体に対する接触角の具体的な定義を、図1に示す。接触角(θ)は、炭素層の平面をなす直線と、Pt粒子および炭素支持体表面の接触弧に引いた接線から得られる。本発明では、電子顕微に基づくプロファイル画像法により、金属性白金粒子と炭素質支持体との接触角を測定する。接触角θの範囲は、0°≦θ<180°である。
【0021】
本発明の白金-炭素触媒において、白金-炭素触媒に含まれている金属性白金粒子の平均粒径は、3~6nmである。本発明において、白金-炭素触媒に含まれている金属性白金粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡による観察で決定する。
【0022】
本発明の白金-炭素触媒において、白金-炭素触媒の全量を基準とすると、金属性白金の含有率は、20~70重量%であってもよく、好ましくは30~70重量%であり、より好ましくは35~70重量%である。炭素質支持体の含有率は、30~80重量%であってもよく、好ましくは30~70重量%であり、より好ましくは30~65重量%である。好適な実施形態において、白金-炭素触媒の全量を基準とすると、金属性白金の含有率は、50~70重量%または60~70重量%である。炭素質支持体の含有率は、30~50重量%または30~40重量%である。
【0023】
本発明において、白金-炭素触媒に含まれている白金元素および炭素質支持体の含有率は、誘導結合プラズマ分光法(ICP分光法)によって決定する。
【0024】
本発明の白金-炭素触媒において、炭素質支持体は、導電性カーボンブラックである。導電性カーボンブラックは、常導電性カーボンブラック、高導電性カーボンブラックおよび超高導電性カーボンブラックのうち1または2つ以上でありうる。好ましい導電性カーボンブラックの例としては、Vulcan XC72、Ketjen EC300J、Ketjen EC600J、Blackpearls 2000およびBlackpearls 3000のうち1または2つ以上が挙げられるが、これらには限定されない。導電性カーボンブラックの比表面積は、好ましくは200~2000m/gであり、より好ましくは250~1500m/gである。本発明において、比表面積は、BET法により測定する。
【0025】
本発明に係る白金-炭素触媒は、電気化学活性表面積が増加している。本発明に係る白金-炭素触媒の電気化学活性表面積(ECSA)は、70m・g-1-Pt以上であり、好ましくは70~120m・g-1-Ptであり、より好ましくは80~120m・g-1-Ptである。本発明に係る白金-炭素触媒の質量比活性は、0.2A・mg-1-Pt以上であり、好ましくは0.2~0.25A・mg-1-Ptである。
【0026】
本発明の第2態様によると、本発明は、白金-炭素触媒の製造方法を提供する。この製造方法は、下記の工程を有する。
・工程S1:炭素質材料、白金前駆体、複合化剤および分散媒を、超音波により分散させて、第1分散体とする。
・工程S2:第1分散体のpH値を8~14に調節して、第2分散体とする。
・工程S3:第2分散体に還元剤を加えて、第2分散体中において還元剤と白金前駆体とを接触させ、還元反応させる。
【0027】
工程S1において、白金前駆体は、還元反応条件下において還元剤により金属性白金に還元されうる、白金化合物であってもよい。本発明の製造方法において、白金前駆体は、クロロ白金酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸カリウム、ヘキサクロロ白金酸ナトリウム、四塩化白金、硝酸テトラアンミン白金、硝酸白金、クロロ白金酸、クロロ白金酸カリウムおよびクロロ白金酸ナトリウムのうち1または2つ以上であってもよい。好ましくは、白金前駆体は、クロロ白金酸である。
【0028】
工程S1において、複合化剤は、カルボン酸塩である。カルボン酸塩とは、カルボン酸の塩のうち水溶性のものである。好ましくは、複合化剤は、モノカルボン酸塩の1または2つ以上である。例えば、複合化剤は、モノカルボン酸のアルカリ金属塩および/またはモノカルボン酸アンモニウム塩であってもよい。モノカルボン酸塩とは、モノカルボン酸の塩のうち水溶性のものである。
【0029】
本発明において、複合化剤は、式Iで表される化合物の1または2つ以上であってもよい。
R-COOM(式I)
【0030】
式I中、Rは、水素、C~CアルキルまたはC~Cハロアルキルでありうる。Mは、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオン(-NH )でありうる。
【0031】
本発明において、C~Cアルキルには、C~C直鎖アルキルおよびC~C分岐アルキルが含まれる。その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、三級ブチル、n-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、2,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチルが挙げられるが、これらには限定されない。
【0032】
本発明において、ハロアルキルに含まれているハロゲン原子は、フッ素、塩素または臭素であってよく、好ましくは塩素である。
【0033】
複合化剤の具体例としては、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸ナトリウム、吉草酸ナトリウム、ヘキサン酸ナトリウム、モノクロロ酢酸ナトリウム、ジクロロ酢酸ナトリウムおよびトリクロロ酢酸ナトリウムのうち1または2つ以上が挙げられるが、これらには限定されない。
【0034】
好ましくは、複合化剤は、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸ナトリウム、ジクロロ酢酸ナトリウムおよびトリクロロ酢酸ナトリウムのうち1または2つ以上である。より好ましくは、複合化剤は、蟻酸ナトリウムおよび/または酢酸ナトリウムである。
【0035】
工程S1において、白金前駆体の複合化剤に対するモル比は、好ましくは1:(0.1~10)であり、より好ましくは1:(0.5~5)であり、さらに好ましくは1:(1~3)である。
【0036】
工程S1において、分散媒は、C~Cの二価アルコールおよび水である。好ましくは、二価アルコールは、エチレングリコールである。工程S1において、二価アルコールの水に対する体積比は、1:(0.1~10)であってもよく、好ましくは1:(0.5~5)であり、より好ましくは1:(1~3)である。
【0037】
工程S1において、分散媒の使用量は、白金前駆体および炭素質支持体の使用量に応じて選択してよい。好適には、工程S1において、白金前駆体の分散媒に対する質量比は、1:(100~5000)であってもよく、好ましくは1:(120~1000)であり、より好ましくは1:(150~500)であり、さらに好ましくは1:(160~300)である。
【0038】
工程S1において、炭素質支持体は、導電性カーボンブラックである。導電性カーボンブラックは、常導電性カーボンブラック、高導電性カーボンブラックおよび超高導電性カーボンブラックのうち1または2つ以上でありうる。好ましい導電性カーボンブラックの例としては、Vulcan XC72、Ketjen EC300J、Ketjen EC600J、Blackpearls 2000およびBlackpearls 3000のうち1または2つ以上が挙げられるが、これらには限定されない。導電性カーボンブラックの比表面積は、好ましくは200~2000m/gであり、より好ましくは250~1500m/gである。
【0039】
炭素質支持体および白金前駆体の使用量は、炭素質支持体に導入すべき白金の目標含有率に応じて選択してよい。本発明の製造方法において、炭素質支持体および白金前駆体の使用量は、白金-炭素触媒の全量を基準として、金属性白金の含有率が20~70重量%(好ましくは30~70重量%、より好ましくは35~70重量%)となり、炭素質支持体の含有率が30~80重量%(好ましくは30~70重量%、より好ましくは30~65重量%)となる量である。好適な実施形態において、炭素質支持体および白金前駆体の使用量は、白金-炭素触媒の全量を基準として、金属性白金の含有率が50~70重量%(好ましくは60~70重量%)となり、炭素質支持体の含有率が30~50重量%(好ましくは30~40重量%)となる量である。
【0040】
得られる白金-炭素触媒の活性および安定性をさらに向上させる観点から、本発明に係る製造方法は、好ましくは、工程S0を有する。工程S0では、工程S1における炭素質材料を予備処理する。工程S0においては、炭素質材料を、溶媒処理、第1酸化処理、第2酸化処理および高温処理によって続けて処理して、予備処理した炭素質材料とする。予備処理した炭素質材料は、工程S1に使用する。
【0041】
溶媒処理においては、炭素質材料を有機溶媒に浸漬して、有機溶媒に浸漬した炭素質材料とする。有機溶媒は、ケトン溶媒(例えばC~Cケトン)の1または2つ以上である。好ましくは、有機溶媒は、アセトンである。浸漬は、常温で行ってもよいし、昇温して行ってもよい。好適には、有機溶媒の温度は20~70℃であり、好ましくは20~50℃であり、より好ましくは25~40℃である。浸漬時間は、浸漬温度に応じて選択してよい。一般的に、浸漬時間は5~24時間であり、好ましくは8~12時間である。有機溶媒の使用量は、炭素質材料を液没させるのに充分な量でなくてはならない。一般的に、溶媒の炭素質材料に対する体積比は、(5~100):1であってよく、好ましくは(8~50):1であり、より好ましくは(10~30):1である。
【0042】
溶媒処理において浸漬が完了した後は、常法(濾過など)により固体と液相とを分離してよい。また、得られた固相を乾燥させて、有機溶媒に浸漬した炭素質材料としてよい。乾燥温度は、50~120℃であってよく、好ましくは60~80℃である。乾燥時間は、5~24時間であってよく、好ましくは8~12時間である。乾燥は、常圧条件下で行ってもよいし、減圧条件下で行ってもよい。
【0043】
第1酸化処理においては、有機溶媒に浸漬した炭素質材料を第1酸化剤と接触させて、第1酸化処理した炭素質材料とする。第1酸化剤は、過酸化水素および式IIで表される有機過酸化物のうち1または2つ以上である。
【化3】
【0044】
式IIにおいて、RおよびRは、それぞれ、H、C~C12アルキル、C~C12アリール、C~C12アラルキルおよび下記構造から選択される。また、RおよびRは、同時にHではない。Rは、C~C12の直鎖もしくは分岐アルキルまたはC~C12アリールである。
【化4】
【0045】
本発明において、C~C12アルキルの具体例としては、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル(ヘキシルの種々の異性体を含む)、シクロヘキシル、オクチル(オクチルの種々の異性体を含む)、ノニル(ノニルの種々の異性体を含む)、デシル(デシルの種々の異性体を含む)、ウンデシル(ウンデシルの種々の異性体を含む)、ドデシル(ドデシルの種々の異性体を含む)が挙げられるが、これらには限定されない。
【0046】
本発明において、C~C12アリールの具体例としては、フェニル、ナフチル、メチルフェニル、エチルフェニルが挙げられるが、これらには限定されない。
【0047】
本発明において、C~C12アラルキルの具体例としては、フェニルメチル、フェニルエチル、フェニル-n-プロピル、フェニル-n-ブチル、フェニル-tert-ブチル、フェニル-イソプロピル、フェニル-n-ペンチル、フェニル-n-ブチルが挙げられるが、これらには限定されない。
【0048】
有機過酸化物の具体例としては、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、エチルベンゼンヒドロペルオキシド、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンペルオキシド、過酸化ジベンゾイル、ジtert-ブチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドが挙げられるが、これらには限定されない。
【0049】
好ましくは、第1酸化剤は、過酸化水素である。
【0050】
第1酸化処理においては、液体分散媒の存在下において、有機溶媒に浸漬した炭素質材料と第1酸化剤とを液相中で接触させる。液体分散媒は、水および/またはC~Cアルコールであってよく、好ましくは水である。好適な実施形態において、第1酸化剤は液体分散媒に溶解して第1酸化剤溶液となっており、第1酸化剤溶液を有機溶媒に浸漬した炭素質材料と接触させる。この好適な実施形態において、好ましくは、過酸化水素溶液を第1酸化剤溶液として用いる。過酸化水素溶液において、過酸化水素の濃度は、8~30重量%であってよく、好ましくは10~20重量%である。
【0051】
第1酸化処理において、好適には、接触温度は20~70℃であり、好ましくは25~50℃であり、より好ましくは25~40℃である。接触時間は、接触温度に応じて選択してよい。接触時間は、好ましくは5~24時間であり、より好ましくは8~12時間である。第1酸化剤の使用量は、有機溶媒に浸漬した炭素質材料の量に応じて選択してよい。第1酸化剤の有機溶媒に浸漬した炭素質材料に対する質量比は、(5~30):1であってもよく、好ましくは(10~25):1である。
【0052】
第1酸化処理において第1酸化剤での処理が完了した後は、常法(濾過など)により固体と液相とを分離してよい。また、得られた固相を乾燥させて、第1酸化処理した炭素質材料としてよい。乾燥温度は、80~120℃であってよく、好ましくは90~110℃である。乾燥時間は、5~24時間であってよく、好ましくは8~24時間である。乾燥は、常圧条件下で行ってもよいし、減圧条件下で行ってもよい。
【0053】
第2酸化処理においては、第1酸化処理した炭素質材料と第2酸化剤とを接触させて、第2酸化処理した炭素質材料とする。第2酸化剤は、HNOおよび/またはHSOである。好ましくは、第2酸化剤は、HNOである。第2酸化剤の第2酸化処理した炭素質材料に対する質量比は、(5~50):1であり、好ましくは(10~30):1であり、より好ましくは(12~20):1である。
【0054】
第2酸化処理においては、液体分散媒の存在下において、第1酸化処理した炭素質材料と第2酸化剤とを接触させる。液体分散媒は、水および/またはC~Cアルコールであってよく、好ましくは水である。好適な実施形態において、第2酸化剤は液体分散媒に溶解して第2酸化剤溶液となっており、第2酸化剤溶液を第1酸化処理した炭素質材料と接触させる。この好適な実施形態において、好ましくは、硝酸を第2酸化剤溶液として用いる。硝酸の濃度は、25~68重量%であってよく、好ましくは30~40重量%である。
【0055】
第2酸化処理において、接触温度は、好ましくは50~90℃であり、より好ましくは55~80℃であり、さらに好ましくは60~75℃である。第2酸化処理において、接触時間は、接触温度に応じて選択してよい。好適には、接触時間は5~24時間であってよく、好ましくは5~12時間である。
【0056】
第2酸化処理において第2酸化剤での処理が完了した後は、常法(濾過など)により固体と液相とを分離してよい。また、得られた固相を乾燥させて、第2酸化処理した炭素質材料としてよい。乾燥温度は、80~120℃であってよい。乾燥時間は、5~15時間であってよく、好ましくは8~12時間である。乾燥は、常圧条件下で行ってもよいし、減圧条件下で行ってもよい。
【0057】
高温処理においては、第2酸化処理した炭素質材料を不活性雰囲気中で焼成して、予備処理した炭素質材料とする。焼成温度は、300~700℃であり、好ましくは500~600℃である。不活性雰囲気は、窒素ガスおよび/または第0族ガスによって形成される雰囲気でありうる。一例としては、窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガスのうち1または2つ以上のガスにより形成される雰囲気が挙げられる。焼成時間は、焼成温度に応じて選択してよい。好適には、焼成時間は2~8時間であり、好ましくは3~6時間である。
【0058】
本発明の製造方法において、工程S1では、炭素質材料、白金前駆体、複合化剤および分散媒を、超音波で分散させる。これにより、炭素質材料と白金前駆体とが完全に混合されうる。好ましくは、分散媒1Lあたりの超音波の出力は、1~20Wであり、好ましくは2~12Wである。超音波による分散時間は、0.2~1時間でありうる。炭素質材料、白金前駆体、複合化剤および分散媒の分散には、通常の超音波分散装置を利用してよい。
【0059】
本発明の製造方法において、工程S1で得られる分散液では、第1分散体の液相に含まれている白金の含有率は比較的低く、炭素質材料に付着している白金前駆体の割合が高い。本発明の製造方法においては、C/C<0.5である。C/Cは、好ましくは0.15~0.49であり、より好ましくは0.15~0.45であり、さらに好ましくは0.2~0.4である。ここで、各記号の定義は下記の通りである。
・C:白金前駆体の分散媒に対するモル濃度(C=mPt/V分散媒
・mPt:白金前駆体のモル量(mol)
・V分散媒:分散媒の体積(L)
・C:工程S1において得られる第1分散体の液相に含まれている白金のモル濃度
【0060】
本発明において、第1分散体の液相に含まれている白金のモル濃度Cは、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP法)により測定する。具体的な試験方法は、次の通りである。
1. 第1分散体の質量および体積を測定する。
2. 第1分散体から一定体積の分散液を取出して定量する。この体積をVとする。
3. 体積Vの分散液を、移動相フィルタ(濾過膜の孔径:0.22μm)により濾過する。固相を脱イオン水で洗浄する。濾過された液体および洗浄液を回収して液相とする。液相の合計体積をVとする。液相からサンプルを採取し、液相に含まれている白金のモル濃度をICPにより測定する。このモル濃度をCとする。第1分散体に含まれている白金のモル濃度を、C=C×V/Vにより求める。
【0061】
本発明の製造方法において、工程S2では、工程S1から得られる第1分散体のpH値を8~14に調節し、好ましくは8~12に調節する。第1分散体にpH調整剤を加えて、pH値を8~14(好ましくは8~12)に調節してもよい。好ましくは、pH調整剤は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムのうち1または2つ以上である。好ましくは、pH調整剤を水溶液として加える。水溶液の濃度は、従来通りに選択してよく、特に制限されない。
【0062】
本発明の製造方法において、工程S3では、還元剤は、酸性の有機還元剤である。好ましくは、還元剤は、ギ酸、クエン酸および酒石酸のうち1または2つ以上である。より好ましくは、還元剤は、ギ酸を含んでいる。さらに好ましくは、還元剤は、ギ酸である。
【0063】
本発明の製造方法において、工程S3では、還元剤の使用量は、化学量論比よりも多い。還元剤の、白金元素としての白金前駆体に対するモル比は、一般的には5~1000:1であり、好ましくは(50~600):1であり、より好ましくは(80~400):1であり、さらに好ましくは(100~200):1である。
【0064】
本発明の製造方法において、工程S3では、還元剤と第2分散体とを50~140℃にて接触させる。好適な実施形態において、工程S3では、還元剤と第2分散体とを55~90℃にて接触させて還元反応させる。この好適な実施形態によれば、最終的に得られる白金-炭素触媒において、炭素質支持体上の金属性白金粒子の分散がより均一になる。また、金属性白金粒子の粒径がより均一にもなる。この好適な実施形態において、より好ましくは、工程S3では、還元剤と第2分散体とを60~80℃にて接触させて還元反応させる。
【0065】
工程S3において、還元反応時間は、還元反応の温度に応じて選択してよい。一般的に、工程S3において、還元反応時間は、2~12時間であってよく、好ましくは4~10時間であり、より好ましくは6~8時間である。工程S3においては、還元反応を不活性雰囲気下で行う。不活性雰囲気の例としては、窒素ガスおよび/または第0族ガス(アルゴンガスおよび/またはヘリウムガスなど)により形成される雰囲気が挙げられる。
【0066】
好適な実施形態において、還元反応温度は60~80℃であり、還元反応時間は6~8時間である。この好適な実施形態によれば、最終的に得られる白金-炭素触媒の活性および安定性がさらに向上しうる。
【0067】
本発明の製造方法においては、従来の分離方法によって、工程S3で得た還元混合物から固形分を分離してよい。分離した固形分は、次に、水洗・乾燥させて、白金-炭素触媒とする。一般的には、濾過、遠心分離および沈降のうち1または2つ以上の組合せによって、工程S3で得た還元混合物を固液分離して、固形分としてもよい。乾燥は、温熱乾燥または凍結乾燥でありうる。温熱乾燥の温度は、55~85℃であってよく、好ましくは60~70℃である。凍結乾燥の温度は、-30℃~5℃であってよい。乾燥時間は、乾燥方法および乾燥温度に応じて選択してよい。乾燥時間は、一般的には4~24時間であってよく、好ましくは5~15時間である。
【0068】
本発明の第3態様によると、本発明は、本発明の第2態様に係る製造方法によって得られる白金-炭素触媒を提供する。
【0069】
本発明の第2態様に係る製造方法で製造された白金-炭素触媒において、金属性白金粒子の50%以上は、支持体に対する接触角が70°以下である。例えば、金属性白金粒子の50~75%は、支持体に対する接触角が70°以下である。好ましくは、金属性白金粒子の55%以上は、支持体に対する接触角が70°以下である。例えば、金属性白金粒子の55~70%は、支持体に対する接触角が70°以下である。より好ましくは、金属性白金粒子の60%以上は、支持体に対する接触角が70°以下である。本発明の第2態様に係る製造方法で製造された白金-炭素触媒において、金属性白金粒子の炭素質支持体に対する接触角は、一般的に、40~70°である。
【0070】
本発明の第2態様に係る製造方法で製造された白金-炭素触媒に関して、白金-炭素触媒に含まれている金属性白金粒子の平均粒径は、3~6nmである。
【0071】
本発明の第2態様に係る製造方法で製造された白金-炭素触媒は、電気化学活性表面積が増大している。本発明の第2態様に係る製造方法で製造された白金-炭素触媒の電気化学活性表面積(ECSA)は、70m・g-1-Pt以上であり、好ましくは70~120m・g-1-Ptであり、より好ましくは80~120m・g-1-Ptである。本発明に係る白金-炭素触媒の質量比活性は、0.2A・mg-1-Pt以上であり、好ましくは0.2~0.25A・mg-1-Ptである。
【0072】
本発明に係る白金-炭素触媒は、燃料電池に特に好適である。本発明の第4態様によると、本発明は、本発明の第1態様または第3態様に係る白金-炭素触媒の燃料電池における使用を提供する。
【0073】
本発明の第5態様によると、本発明は、水素燃料電池を提供する。水素燃料電池のアノードおよび/またはカソードは、本発明の第1態様または第3態様に係る白金-炭素触媒を含んでいる。
【実施例
【0074】
以下、実施例を参照しながら本発明を詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は、これらの実施例によっては制限されない。
【0075】
下記の実施例および比較例において、透過型電子顕微鏡による分析には、Tecnai G2 F20(FEI Company)を使用した。サンプルの調製方法は、次の通りである。
1. 約1mgのサンプルを採取し、60~80重量%のエタノール水溶液に分散させた。超音波によって10分間分散させた。
2. 少量の分散液をピペットで採取し、電子顕微鏡観察用の銅製グリッド上に滴下した。使用した銅製グリッドは、マイクログリッドまたは極薄マイクログリッドであり、いずれも極薄炭素フィルムまたは炭素支持フィルムは使用していなかった。
【0076】
白金-炭素触媒における、金属白金粒子の支持体に対する接触角の具体的な測定方法は、次の通りである。
1. 単層粒子(複数のPt/Cが重なっていない粒子)を選択した。
2. 透過型電子顕微鏡を明視野モードに調節し、Pt粒子の半球状の表面(ほぼ球状の表面)が見える視野を選択した。
3. 図1に示すように、炭素層の面である直線と、Pt粒子および炭素支持体表面の接触弧に引いた接線とからなる接触角(θ)を求めた。
4. 異なる8箇所の視野を選択し、当該視野における白金粒子の接触角を測定・記録した。
【0077】
白金-炭素触媒における、金属性白金粒子の粒径の具体的な測定方法は、次の通りである。
1. サンプルを透過型電子顕微鏡で分析し、触媒粒子が重複しておらず広範囲に分散している視野を8箇所無作為に選択した(倍率:40000~200000倍)。
2. 各視野につき50個の金属白金粒子を無作為に選択した(合計:400個)。
3. 粒子の粒径を測定・記録した。粒径の平均値を金属性白金粒子の平均粒径とした。
【0078】
下記の実施例および比較例において、超音波処理して得られた第1分散体の液相に含まれている白金のモル濃度Cは、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP法)により決定した。具体的な測定方法は、次の通りである。
1. 第1分散体の質量および体積を測定する。
2. 第1分散体から一定体積の分散液を取出して定量する。この体積をVとする。
3. 体積Vの分散液を、移動相フィルタ(濾過膜の孔径:0.22μm)により濾過する。固相を脱イオン水で洗浄する。濾過された液体および洗浄液を回収して液相とする。液相の合計体積をVとする。液相からサンプルを採取し、液相に含まれている白金のモル濃度をICPにより測定する。このモル濃度をCとする。第1分散体に含まれている白金のモル濃度を、C=C×V/Vにより求める。
【0079】
下記の実施例および比較例において、白金-炭素触媒の組成は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP法)により測定した。
【0080】
下記の実施例および比較例において、白金-炭素触媒の電気化学活性は、GB/T0042.4-2009(プロトン交換膜燃料電池-第四部:電極触媒の試験方法)に従って測定してもよい。具体的に、試験方法は、回転ディスクであってもよい。この試験方法では、触媒からスラリーを調製し、ガラス状炭素電極上にドロップコーティングした(直径:5mm)後、乾燥させて試験に用いる(このとき、電極上のPt量が18~22μg/cmとなるようにする)。触媒分極曲線の試験条件は、0.1MのHCOO溶液(酸素ガス飽和)、電圧掃引範囲:0~1.0V(vs. 可逆的な水素電極(RHE))、掃引速度:10mV/s、回転ディスク電極の回転速度:1600r/minであった。電気化学活性表面積(ECSA)の試験方法は、金属表面における水素原子の吸着・脱離に基づく水素アンダーポテンシャル析出法(HUPD法)であった。この試験条件は、0.1MのHCLO溶液(窒素ガス飽和)、電圧掃引範囲:0~1.0(vs. RHE)、掃引速度:50mV/sであった。例えば、単層の水素原子がカソードのPt表面に吸着され、アノードから脱離したとすると、約0.05~約0.4V(vs. RHE)の範囲のCVピークとなって現れる。
【0081】
具体的なCVピークの積算方法は、次の通りである。
1. CV曲線の0.4~0.6V近傍にある上側の曲線の、最低点における水平接線を左側に延長した線を、ピークのベースラインとする。
2. 二重層電流を減算する。
3. ベースライン上の水素原子の脱離・吸着面積を積算する。この面積をSとする。
4. 下記の計算式により、白金-炭素触媒の電気化学活性表面積(ECSA)を求める。
【数1】

式中、
は、ピーク面積である。単位は、A×V(アンペア×ボルト)である。
Vは、掃引速度であり、0.05V/sである。単位は、V/s(ボルト/秒)である。
ptは、ガラス状炭素電極に滴下したPtの質量(g)である。
【0082】
白金-炭素触媒の質量比活性(A/mgPt)の計算式は、次の通りである。
【数2】

式中、iは、反応電流(mA/cm)である。反応電流は、下記のK-L方程式に基づいて計算する。
【数3】

式中、
は、限界拡散電流であり、ORR曲線から直接読取ってもよい。
Ptは、ガラス状炭素電極上におけるPtの量(mgPt/cm)である。
【0083】
下記の実施例および比較例では、次の導電性カーボンブラックを使用した。
【0084】
(1)商品名:Ketjen EC300J(Lion of Japanから購入)、粒径:50~100nm、比表面積:1200m/g
(2)商品名:Ketjen EC600J(Lion of Japanから購入)、粒径:50~100nm、比表面積:1500m/g
(3)商品名:Vulcan XC72(Carbterから購入)、粒径:50~100nm、比表面積:260m/g
【0085】
以下に、本発明の実施例1~11を説明する。
【0086】
〔実施例1〕
(1)導電性カーボンブラックの前処理(工程S0)
導電性カーボンブラックであるKetjen EC600J(以下、導電性カーボンブラックを「カーボンブラック」と表記することがある)を、25℃にて8時間、分析グレードのアセトンに浸漬した。アセトンの導電性カーボンブラックに対する質量比は、20:1であった。浸漬の完了後、吸引濾過により固形分を得た。固形分を65℃にて12時間乾燥させて、アセトンに浸漬した導電性カーボンブラックを得た。
【0087】
アセトンに浸漬した導電性カーボンブラックと過酸化水素溶液(質量濃度:15%)とを混合して、25℃にて12時間反応させた。過酸化水素のカーボンブラックに対する質量比は、25:1であった。反応の完了後、反応混合物を吸引濾過した。濾塊を蒸留水で3回洗浄した後、真空乾燥させた。得られた固形分を110℃にて24時間乾燥させて、第1酸化処理した導電性カーボンブラックとした。
【0088】
第1酸化処理したカーボンブラックおよび硝酸水溶液(質量濃度:30%)を混合して、70℃にて12時間反応させた。HNOのカーボンブラックに対する質量比は、15:1であった。反応の完了後、反応混合物を吸引濾過した。得られた固形分を110℃にて12時間乾燥させて、第2酸化処理した導電性カーボンブラックとした。
【0089】
第2酸化処理したカーボンブラックを、600℃、窒素ガス雰囲気下にて4時間焼成し、予備処理した導電性カーボンブラックとした。
【0090】
(2)分散体の調製(工程S1および工程S2)
(工程S1)
175Lの脱イオン水と262Lのエチレングリコールとの混合液に、819gの予備処理した導電性カーボンブラックを加えた。均一に混合した後、700の酢酸ナトリウムを加えた。次に、クロロ白金酸水溶液(5.7molのクロロ白金酸を含んでいる)を加えた。得られた混合物を超音波で分散させて、分散体とした。材料の質量比は、カーボンブラック:クロロ白金酸:水:エチレングリコール:複合化剤=1.17:3.33:250:416.7:1であった。超音波の出力は、1000Wであった。超音波による分散時間は、0.5時間であった。分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金のモル濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をC(配合比率から決定した。以下同じ)とすると、C/C=0.23であった。超音波処理後に得られた分散体のpHは、2であった。
【0091】
(工程S2)
超音波処理後に得られた分散体に炭酸ナトリウムを加えて、分散体のpH値を12に調節した。
【0092】
(3)還元反応(工程S3)
pH値を調節した分散体を、加熱器を使用して75℃に加熱した。還元剤であるギ酸を加えて攪拌し、還元反応させた。還元剤のクロロ白金酸に対するモル比は、200:1であった。還元剤を加え終わった後、加熱器の加熱条件を維持して、6時間にわたり反応を続けさせた。
【0093】
反応の完了後、還元反応混合物を濾過して固形分を回収した。濾液に含まれるClの質量濃度が50ppm未満になるまで、固形分を脱イオン水で洗浄した。洗浄した固形分を、60℃にて12時間真空乾燥させた。乾燥させた固形分を粉砕して、1000gの白金-炭素触媒を得た。測定したところによると、白金-炭素触媒における白金の質量含有率は、54.5%であった(このことを、Pt/C-55%と表記する)。白金-炭素触媒から採取したサンプルを分析したところ、白金-炭素触媒に含まれている金属性白金のうち、支持体に対する接触角が70°以下であるものは69%であった(図2を参照)。測定したところ、白金-炭素触媒に含まれている白金粒子の平均粒径は、3.6nmであった(図3を参照)。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0094】
〔実施例2〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S0において、第2酸化処理した導電性カーボンブラックを窒素ガス雰囲気下で焼成するときの温度を、400℃、500℃または700℃に変更して、予備処理した導電性カーボンブラックとした。得られた白金-炭素触媒を、それぞれ、Pt/C-55%-400、Pt/C-55%-500およびPt/C-55%-700と表記する。
【0095】
工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.39(400℃)、0.28(500℃)および0.31(700℃)であった。
【0096】
Pt/C-55%-400において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、64%であった。Pt/C-55%-500において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、67%であった。Pt/C-55%-700において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、66%であった。得られた白金-炭素触媒はいずれも、金属性白金粒子の平均粒径が3~6nmであった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0097】
〔実施例3〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S2において、超音波処理後に得られた分散体に炭酸カリウムまたは水酸化ナトリウムを加えて、分散体のpHを12に調節した。得られた白金-炭素触媒を、それぞれ、Pt/C-55%-KCOおよびPt/C-55%-NaOHと表記する。
【0098】
Pt/C-55%-KCOにおいて、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、56%であった。Pt/C-55%-NaOHにおいて、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、58%であった。得られた白金-炭素触媒はいずれも、金属性白金粒子の平均粒径が3~6nmであった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0099】
〔実施例4〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S2において、超音波処理後に得られた分散体に炭酸ナトリウムを加えて、分散体のpHを8または10に調節した。得られた白金-炭素触媒を、それぞれ、Pt/C-55%-pH8およびPt/C-55%-pH10と表記する。
【0100】
Pt/C-55%-pH8において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、52%であった。Pt/C-55%-pH10において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、65%であった。得られた白金-炭素触媒はいずれも、金属性白金粒子の平均粒径が3~6nmであった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0101】
〔比較例1〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、有機酸のナトリウム塩およびエチレングリコールを使用しなかった。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.79であった。調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、35%であった(図4を参照)。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0102】
〔比較例2〕
次の点を除いて、実施例2と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、有機酸のナトリウム塩およびエチレングリコールを使用しなかった。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、それぞれ、0.73(400℃)、0.76(500℃)、0.74(700℃)であった。調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、それぞれ、30%(400℃)、33%(500℃)、34%(700℃)であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0103】
〔比較例3〕
次の点を除いて、実施例3と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、有機酸のナトリウム塩およびエチレングリコールを使用しなかった。調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、それぞれ、29%(炭酸カリウム)、31%(水酸化ナトリウム)であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0104】
〔比較例4〕
次の点を除いて、実施例4と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、有機酸のナトリウム塩およびエチレングリコールを使用しなかった。調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、それぞれ、26%(pH=8)、30%(pH=10)であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0105】
〔比較例5〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、有機酸のナトリウム塩を使用しなかった。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.65であった。調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、46%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0106】
〔比較例6〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S3において、還元剤であるギ酸をグルコースに変更した。グルコースの使用量は、実施例1の工程S3におけるギ酸の使用量と同じであった。工程S3から調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、24%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0107】
〔比較例7〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S3において、還元剤であるギ酸の使用量を、還元剤のクロロ白金酸に対するモル比が2:1となるように変更した。工程S3から調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、43%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0108】
〔実施例5〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S0を省略し、導電性カーボンブラックであるKetjen EC600Jを直接に工程S1に使用して分散体を得た。つまり、予備処理していない導電性カーボンブラックから白金-炭素触媒を調製した。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.43であった。工程S3から調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、51%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0109】
〔実施例6〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、材料の質量比を、導電性カーボンブラック:クロロ白金酸:水:エチレングリコール:複合化剤=1.17:3.33:300:300:1に変更した。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.31であった。工程S3から調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、58%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0110】
〔比較例8〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、材料の質量比を、導電性カーボンブラック:クロロ白金酸:水:エチレングリコール:複合化剤=1.17:3.33:30:550:1に変更した。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.59であった。工程S3から調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、48%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0111】
〔実施例7〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、超音波による分散時間を0.25時間に変更した。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.37であった。工程S3から調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、54%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0112】
〔実施例8〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S3において、還元剤の白金前駆体に対するモル比を、400:1に変更した。工程S3から調製した白金-炭素触媒において、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、58%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0113】
〔実施例9〕
(1)導電性カーボンブラックの前処理(工程S0)
導電性カーボンブラックであるKetjen EC300Jを、35℃にて8時間、アセトン(分析グレード)に浸漬した。アセトンの導電性カーボンブラックに対する質量比は、18:1であった。浸漬の完了後、吸引濾過して固形分を得た。固形分を65℃にて8時間乾燥させて、アセトンに浸漬した導電性カーボンブラックを得た。
【0114】
アセトンに浸漬した導電性カーボンブラックと過酸化水素溶液(質量濃度:10%)とを混合して、25℃にて10時間反応させた。過酸化水素のカーボンブラックに対する質量比は、20:1であった。反応の完了後、反応混合物を吸引濾過した。得られた固形分を105℃にて8時間乾燥させて、第1酸化処理した導電性カーボンブラックとした。
【0115】
第1酸化処理した導電性カーボンブラックと硝酸水溶液(質量濃度:35%)とを混合して、65℃にて12時間反応させた。HNOの導電性カーボンブラックに対する質量比は、12:1であった。反応の完了後、反応混合物を吸引濾過した。得られた固形分を86℃にて10時間乾燥させて、第2酸化処理した導電性カーボンブラックとした。
【0116】
第2酸化処理したカーボンブラックを、600℃、窒素ガス雰囲気にて4時間焼成して、予備処理した導電性カーボンブラックとした。
【0117】
(2)分散体の調製(工程S1および工程S2)
(工程S1)
7.5Lの脱イオン水と11.3Lのエチレングリコールとの混合液に、予備処理した導電性カーボンブラックを加えた。均一に混合した後、30gの蟻酸ナトリウムを加えた。次に、クロロ白金酸水溶液を加えた。得られた混合物を超音波で分散させて、分散体とした。材料の質量比は、カーボンブラック:クロロ白金酸:水:エチレングリコール:複合化剤=1.17:3.33:250:416.7:1であった。超音波の出力は、300Wであった。超音波にょる分散時間は、0.5時間であった。分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC1、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をC0とすると、C1/C0は、0.35であった。超音波処理後に得られた分散体のpHは、3であった。
【0118】
(工程S2)
超音波処理後に得られた分散体に炭酸ナトリウムを加えて、分散体のpH値を12に調節した。
【0119】
(3)還元反応(工程S3)
pH値を調節した分散体を、加熱器を使用して65℃に加熱した。還元剤であるギ酸を加えて攪拌し、還元反応させた。還元剤のクロロ白金酸に対するモル比は、100:1であった。還元剤を加え終わった後、加熱器の加熱条件を維持して、6時間にわたり反応を続けさせた。
【0120】
反応の完了後、還元反応混合物を濾過して固形分を回収した。濾液に含まれるClの質量濃度が50ppm未満になるまで、固形分を脱イオン水で洗浄した。洗浄固形分を、60℃にて6時間真空乾燥させた。固形分を粉砕して、白金-炭素触媒を得た。触媒における白金の粒径は、4.7nmであった。測定したところによると、白金-炭素触媒における白金の質量含有率は、68%であった。白金-炭素触媒から採取したサンプルを分析したところ、白金-炭素触媒に含まれている金属性白金のうち、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、52%であった。測定したところ、白金-炭素触媒に含まれている白金粒子の平均粒径は、4.7nmであった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0121】
〔実施例10〕
(1)導電性カーボンブラックの前処理(工程S0)
導電性カーボンブラックであるVulcan XC72を、実施例9と同様に予備処理して、予備処理した導電性カーボンブラックを得た。
【0122】
(2)分散体の調製(工程S1および工程S2)
(工程S1)
15Lの脱イオン水と22.5Lのエチレングリコールとの混合液に、予備処理した導電性カーボンブラックを加えた。均一に混合した後、60gの酢酸ナトリウムを加えた。次に、クロロ白金酸水溶液を加えた。得られた混合物を超音波で分散させて、分散体とした。材料の質量比は、カーボンブラック:クロロ白金酸:水:エチレングリコール:複合化剤=4.0:3.33:250:416.7:1であった。超音波の出力は、300Wであった。超音波いにょる分散時間は、0.6時間であった。分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.4であった。超音波処理後に得られた分散体のpHは、12であった。
【0123】
(工程S2)
超音波処理後に得られた分散体に炭酸ナトリウムを加えて、分散体のpH値を9に調節した。
【0124】
(3)還元反応(工程S3)
実施例10において調製した分散体を利用して、実施例9と同様に還元反応させた。反応の完了後、還元反応混合物を濾過して固形分を回収した。濾液に含まれるClの質量濃度が50ppm未満になるまで、固形分を脱イオン水で洗浄した。洗浄した固形分を、60℃にて8時間真空乾燥させて、乾燥固形分とした。乾燥固形分を粉砕して、白金-炭素触媒とした。測定したところ、白金-炭素触媒における白金の質量含有率は、39%であった。白金-炭素触媒から採取したサンプルを分析したところ、白金-炭素触媒に含まれている金属性白金のうち、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、67%であった。測定したところ、白金-炭素触媒に含まれている白金粒子の平均粒径は、3.5~4.2nmであった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0125】
〔実施例11〕
次の点を除いて、実施例10と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S0を省略し、カーボンブラックを直接に工程S1に使用して、分散体を得た。つまり、予備処理していないカーボンブラックから白金-炭素触媒を調製した。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.49であった。工程S3においてサンプルを分析したところ、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は51%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0126】
〔比較例9〕
次の点を除いて、実施例10と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、有機酸のナトリウム塩およびエチレングリコールを使用しなかった。工程S1において、分散体から採取したサンプルを分析し、分散体の液相に含まれている白金の濃度をC、白金前駆体の分散媒に対するモル濃度をCとすると、C/Cは、0.74であった。工程S3においてサンプルを分析したところ、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、34%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0127】
〔比較例10〕
次の点を除いて、実施例10と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S3において、還元剤であるギ酸をヒドラジン水和物に変更した。ヒドラジン水和物の使用量は、実施例1の工程S3におけるギ酸の使用量と同じであった。工程S3においてサンプルを分析したところ、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、21%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0128】
〔比較例11〕
次の点を除いて、実施例10と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S3において、還元剤であるギ酸の使用量を、還元剤のクロロ白金酸に対するモル比が2:1となるように変更した。工程S3においてサンプルを分析したところ、支持体に対する接触角が70°以下である金属性白金は、45%であった。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0129】
〔実施例12〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、エチレングリコールの代わりに1,2-プロピレングリコールを使用した。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0130】
〔実施例13〕
次の点を除いて、実施例1と同様に白金-炭素触媒を調製した。すなわち、工程S1において、エチレングリコールの代わりに1,3-プロピレングリコールを使用した。調製した白金-炭素触媒の電気化学特性を測定して、実験結果を表1にまとめた。
【0131】
図2、3は、それぞれ、実施例1または比較例1で調製した白金-炭素触媒の透過型電子顕微鏡像(TEM像)である。図2、3から分かるように、実施例1で調製した白金-炭素触媒では、金属性白金粒子のほとんどが、支持体との接触角が70°未満であった。一方、比較例1で調製した白金-炭素触媒では、金属性白金粒子のほとんどが、支持体との接触角が70°超であった。
【0132】
図4、5は、それぞれ、実施例1または比較例1で調製した白金-炭素触媒の透過型電子顕微鏡像である。図7は、市販の触媒(JM HiSPEC 13100、Pt/C:70重量%、「JM-70%」と略記する)の透過型電子顕微鏡像である。図4図5、7との比較から分かるように、実施例1で調製した白金-炭素触媒では、支持体上における金属性白金粒子の分散性が良好であり、金属性白金が非常に均一なクラスタ粒子を形成しており、粒子の大きさも比較的均一であった。一方で、比較例1で調製した白金-炭素触媒では、支持体上における金属性白金の分散性が比較的低く、金属性白金粒子の大きさが充分に均一ではなかった。図6は、実施例1で調製した白金-炭素触媒の透過型電子顕微鏡像の視野に含まれている金属白金粒子の粒径の、統計結果である。図6から分かるように、実施例1で調製した白金-炭素触媒に含まれている金属白金粒子の粒径は、比較的均一であった。
【0133】
実施例1~11および比較例1~11で調製した白金-炭素触媒の電気化学特性の試験結果を、表1にまとめる。表1から分かるように、本発明に係る白金-炭素触媒は、電気化学活性の安定性が向上していた。また、実施例1~11で調製した白金-炭素触媒の量は、いずれも、キログラムオーダーであった。このことから、本発明に係る製造方法は、白金-炭素触媒のバッチ生産に好適であることが分かる。
【0134】
【表1】
【0135】
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に記載した。しかし、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明の技術思想の範囲内において、本発明の技術的解決手段に様々な単純な変更を加えられる。その中には、種々の技術的特徴を他の任意の好適な手段で組合せたものも含まれる。このような単純な変更および組合せも、本発明が開示する内容に含まれ、本発明の保護範囲であると解さねばならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】