(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】共溶媒ヒドロトロープとアニオン性又はキレート性抽出剤との相乗的組み合わせによる希土類又はアクチニドの液‐液抽出法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/26 20060101AFI20241112BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20241112BHJP
C22B 60/02 20060101ALI20241112BHJP
G21C 19/46 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22B3/26
C22B59/00
C22B60/02
G21C19/46 310
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527098
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2022080663
(87)【国際公開番号】W WO2023078989
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524169098
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジ アトミック エ オー エネルジズ アルタナティヴス
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(71)【出願人】
【識別番号】500379381
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシャルシュ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】Centre National de la Recherche Scientifique
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, FR-75016 Paris, France
(71)【出願人】
【識別番号】524169102
【氏名又は名称】ユニヴェリシテ ドゥ モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE MONTPELLIER
(71)【出願人】
【識別番号】524167876
【氏名又は名称】エコール ナショナル シュペリユール ドゥ シミ ドゥ モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE DE CHIMIE DE MONTPELLIER
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】ゼンブ,トマ
(72)【発明者】
【氏名】エル マンガー,アズマエ
(72)【発明者】
【氏名】デュアメ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ペレ-ロステン,ステファヌ
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA32
4K001AA33
4K001AA39
4K001BA19
4K001DB26
4K001DB27
4K001DB31
4K001DB34
(57)【要約】
本発明は、希土類群及びアクチニド群の元素から選択した金属の少なくとも1種の塩を、それら元素を含有する酸性水相から液‐液抽出する方法であって、前記金属の前記塩と少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤とを含む酸性水相を、少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤と少なくとも1種の抽出剤とを含む有機相と混合する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類群及びアクチニド群の元素から選択した金属の少なくとも1種の塩を、それら元素を含有する酸性水相から液‐液抽出する方法であって、少なくとも以下の工程:
(i)前記金属の前記少なくとも1種の塩と、初期量Q1の少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤とを含む平衡化酸性水相(Ph
aq.e)を調製する工程、
(ii)初期量Q2の少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤と、少なくとも1種の抽出剤とを含む有機相(Ph
org)を調製する工程、
(iii)上記工程(ii)において調製した前記有機相と、上記工程(i)において調製した前記平衡化酸性水相とを接触させ、混合物Mを得る工程、
(iv)前記混合物Mを撹拌する工程、並びに
(v)前記平衡化酸性水相から前記有機相を分離する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記金属は、ランタン、ネオジム、ユウロピウム、ジスプロシウム、エルビウム、イッテルビウム、ウラン、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(i)及び(ii)で使用する前記非イオン性ヒドロトロープ剤は、以下:
‐ アルキレングリコールアルキルエーテルであって、アルキルはメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、テルブチル、及びペンチルから選択され、アルキレンはエチレン、プロピレン、及びジプロピレンから選択されるアルキレングリコールアルキルエーテル、並びに
‐ C
2‐C
3アルキルオキシ基を含む第一級アルコール
から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記非イオン性ヒドロトロープ剤は、1‐プロポキシ‐2‐プロパノール、ジプロピレングリコールn‐プロピルエーテル、及びエチレングリコールモノペンチルエーテルから選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記平衡化酸性水相に含まれる前記非イオン性ヒドロトロープ剤は、前記有機相に存在する非イオン性ヒドロトロープ剤と同一であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記平衡化酸性水相は、濃度1.10
-4~6mol/L、好ましくは約0.01~4mol/Lの少なくとも1種の強酸を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(i)は、初期量Q1の前記少なくとも1種のヒドロトロープ剤を含む予備平衡化相を、希土類群及びアクチニド群の元素から選択された金属の少なくとも1種の塩を含有する酸性水溶液に添加し、平衡化酸性水相を得る予備平衡化工程であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記予備平衡化相は、純粋1‐プロポキシ‐2‐プロパノール、又は純粋ジプロピレングリコールn‐プロピルエーテル、又は純粋エチレングリコールモノペンチルエーテルであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(i)は、予備平衡化相/酸性水相体積比が1:1~1:10になるようにして実施することを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
工程(i)の前に少なくとも1つの予備浸出工程を更に含むことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(ii)において調製した前記有機相中に存在する前記抽出剤は、ビス(2‐エチルヘキシル)リン酸、N,N’‐ジメチル‐N,N’‐ジオクチルヘキシル‐エトキシ‐マロンアミド、N,N‐ジ‐(2‐エチルヘキシル)イソブチルアミド、トリオクチルアミン、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記平衡化酸性水相から抽出する前記金属はランタニドであり、前記抽出剤はビス(2‐エチルヘキシル)リン酸、N,N’‐ジメチル‐N,N’‐ジオクチルヘキシル‐エトキシ‐マロンアミド、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記抽出剤は、ビス(2‐エチルヘキシル)リン酸とN,N’‐ジメチル‐N,N’‐ジオクチルヘキシル‐エトキシ‐マロンアミドとの混合物であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記平衡化酸性水相から抽出する前記金属はアクチニドであり、前記抽出剤はN,N‐ジ‐(2‐エチルヘキシル)イソブチルアミド、トリオクチルアミン、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水相と前記有機相とを1/1の体積割合で混合することを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、いくつかの段階を含む抽出装置において実施し、各段階により工程(iii)~(v)の実施が可能になり、前記方法は、各工程(v)の後及び各工程(iii)の前に、前記酸性水相及び前記有機相中に含まれる前記非イオン性ヒドロトロープ剤の量をそれぞれ初期値Q1及びQ2と同一の値に再調整する少なくとも1つの中間工程を更に含むことを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
更に少なくとも以下の工程:
‐ 工程(v)の後に前記有機相に含まれる前記金属の塩を脱抽出する工程(vi)であって、前記工程(vi)は少なくとも前記有機相を、いわゆる「脱抽出溶液」水相と接触させることを含み、前記溶液は少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤を初期量Q3で含有する、工程(vi)、並びに
‐ 前記有機相を前記脱抽出相から分離し、前記金属の塩を含む脱抽出相を回収する工程(vii)
を含むことを特徴とする請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程(vi)及び(vii)は多段階の脱抽出装置において実施し、各段階により工程(vi)及び(vii)の実施が可能になり、次いで前記方法は、各工程(vii)の後及び各工程(vi)の前に、脱抽出溶液中に含まれる前記非イオン性ヒドロトロープ剤の量を初期値Q3と同一の値に再調整する少なくとも1つの中間工程を更に含むことを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1種の抽出剤と、希土類群及びアクチニド群の元素から選択した金属を、前記金属及び非イオン性ヒドロトロープ剤を含有する酸性水相から液‐液抽出するための非イオン性ヒドロトロープ剤とを含む有機相の使用。
【請求項20】
前記有機相の前記非イオン性ヒドロトロープ剤は、前記酸性水相の非イオン性ヒドロトロープ剤と同一であることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類群又はアクチニド群の元素を、それらが含まれる酸性水溶液から抽出及び精製する分野に関する。本発明による方法は、特にウラン(U)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、又はこれらの混合物の抽出に適している。
【背景技術】
【0002】
現代冶金術は主に湿式冶金、高温冶金、電気冶金、原子力の手法を網羅している。湿式冶金手法は、希土類群及びアクチニド群の元素を抽出及び精製するための主要な参考となる技術である。
【0003】
金、銀、銅、及びプラチナの天然堆積物を除いて、自然界に見られる金属は主に、周囲の化学元素との自然な反応過程の結果としての塩や鉱物の形態で存在する。一般に、所望の金属は鉱物又は鉱石から抽出する。ウランを含有する最も知られている鉱石は閃ウラン鉱であり、以前は瀝青ウラン鉱として知られていた。希土類元素は、バストネサイト、モナザイト、ゼノタイム、ロパライト、及びアパタイトなどの様々な鉱物に含まれる。採鉱過程の後、機械的及び化学的分離、濃縮及び精製工程が続く。その後、原子力燃料用の十分な純度の酸化希土類や核燃料用のウラン精鉱(「イエローケーキ」とも称する)などの、取得した原材料を使用し、製品を製造する。希土類元素は、現代の消費者向け電子機器に不可欠な化合物であり、風力タービン発電機や電動モビリティ用のモーターにおける磁性化合物としても使用されている。従って、これらの金属は、効率的かつ二酸化炭素を排出しない、環境に優しい技術の開発に重要な現代の広範な発明にとって不可欠である。これらの金属は、現代の水素化物電池、ハイブリッド車や電気自動車、スマートフォン、高精細度(HD)スクリーン、レーザー技術、原油精製、触媒作用、並びに発電機の磁性化合物としての永久磁石に重要な成分である。
【0004】
アクチニドは、周期表におけるアクチニウム(89番)からローレンシウム(103番)までの15種の化学元素の一群である。これらの重金属の名前は、化学的特性が関連していることから、この群の最初のアクチニウムに因んでいる。これらは全てfブロック元素であり、例外としてローレンシウムはdブロックに属する。アクチニドは全て放射性であり、放射性崩壊を経てエネルギーを放出する。アクチニドは全て高速中性子へと核分裂する特性があり、熱中性子へと核分裂するものもある。ウラン、トリウム、及びプルトニウムは地球上で最も豊富なアクチニドである。自然界にかなりの量で存在するランタニド(プロメチウムを除く)とは異なり、ほとんどのアクチニドは非常に希少な元素である。最も多く存在する天然元素はトリウム及びウランであり、合成が最も容易な元素はプルトニウムである。他の元素は微量にしか存在しない。
【0005】
従って、希土類及びアクチニド類の入手は、二酸化炭素を排出しない技術の開発及び普及に極めて重要である。原子力発電所は、二酸化炭素を排出せずにエネルギーを産生することを可能にする。2015年にフランス政府が採択した「エネルギー転換法」の目的は、より多様で炭素排出の低い発電を組み合わせることである。2030年までに原子力の総比率を約50%にすることを計画している。よって、原子力発電及び核燃料サイクルはフランスのエネルギー政策において重要な役割を担い続けるであろう。
【0006】
更に、製品の寿命には限りがある。スマートフォンなどの希土類を含む電子機器では、一般的に寿命は2~3年と推定され、その一方で、希土類を含有する磁石は15年程度使用できる。核燃料棒の滞留時間は原子炉の種類や使用する燃料によって異なるが、燃料は一般的には4~6年原子炉に残留する。金属含有製品の寿命が尽きた場合、廃棄物の発生量を減少させ、再利用可能な材料の量を増加させるためにはリサイクル戦略が重要である。核燃料及び希土類元素については、リサイクル戦略及び廃棄物管理戦略が様々にある。
【0007】
どのようなリサイクル戦略も、効果的かつ安価で、産業規模において利用可能でなければならない。更に、金属のライフサイクル全体を通じて、環境に配慮した、持続可能で、グリーンケミストリーな側面を考慮しなければならない。
【0008】
最も古く、現在では「成熟している」分離手順のひとつには液‐液抽出が挙げられ、溶媒抽出としても公知である。この手順は一般に、原材料の抽出と製造との間で、そして製品の寿命が尽きた後に適用し、原材料を回収し、廃棄物を分別する。核燃料サイクル管理の分野では、放射性核分裂生成物を分離及び単離するために液‐液抽出を利用する(特にフランスのPUREX法及びDIAMEX法)。1例として、PUREX(プルトニウム・ウラン還元抽出)化学法は、使用済み核燃料を処理するための方法であり、1947年以来、液‐液抽出法によりマイナーアクチニドや核分裂生成物からプルトニウム及びウランを別々に分離するために使用されている。この方法では、30%のリン酸トリブチル(TBP)を含むドデカンから成る有機溶媒を用いてウラン及びプルトニウムを抽出する。その後、硝酸相中で核分裂生成物を回収し、プルトニウム還元によりウラン/プルトニウム溶液からプルトニウムを抽出する。
【0009】
これらの方法により、ウラン及びプルトニウムを核分裂生成物(例えばセシウム)や超ウラン元素(アメリシウム、キュリウム等)から分離することが可能になる。以前は廃棄物とみなされていたが、これらの超ウラン元素は第4世代発電機用の閉鎖型燃料サイクルで再度使用できる。更に、液‐液抽出により、原料鉱石や電気・電子機器廃棄物(WEEE)から希土類元素を選択的に分離できるようになる。
【0010】
湿式冶金による液‐液抽出は、溶解物質を、互いに接触している1種の液相から別の液相(非混和性又は部分的混和性)へと移す方法であると国際純正・応用化学連合(IUPAC)は定義している。2相間の溶質種の分布(分布係数)により、所与の抽出法の効率を推定することが可能となる。複数の化合物を溶解させ、抽出できる場合、所望の結果を得るには、選んだ手法の選択性が重要である。
【0011】
液‐液抽出法の最終的な目標は、(所望の)イオンをA相からB相に選択的に移動させ、不要なイオンはA相に残すことである。脱抽出は逆の工程である。温度及びpHを制御した抽出と脱抽出との連続サイクルは、希土類又はアクチニド類を、例えば鉄などの他の金属から分離させるための基礎を形成する。
【0012】
用語「湿式冶金」は、鉱石、精鉱、及びリサイクルした材料又は残留した材料から金属を回収することを指す。採鉱とリサイクルとの両分野では、浸出、濃縮、及び回収が主要な工程である。湿式冶金の文脈ではほとんどの場合、A相は、所望のイオン及び不要なイオンを含む酸性水相を指す。この相は「供給液」とも称し、鉱石や鉱物、又は(リサイクルの場合)有価廃棄物、例えば電子廃棄物や金属廃棄物、又は使用済み核燃料棒を酸処理することから生じる。この湿式化学法は「浸出」と称し、抽出サイクルにおける第1工程である。
【0013】
第2工程、いわゆる濃縮工程では、調合した有機相に供給液を接触させる。この工程は所望のイオンを有機相中に抽出させるために設計しており、これは三元系又は四元系調合を利用した液‐液抽出の分野である。現在公知で使用されている全ての方法において、有機相は、純粋であるか又は希釈剤で希釈した1種以上の錯化抽出剤を含有し、また相改質剤も含有することが多い。
【0014】
有機相に所望の金属を添加した後の第3工程は「脱抽出」(de-extraction)であり、その工程では、前記金属を有機相(「抽出物」)から新たな水相へと再抽出する。有機溶媒は回収し、別の抽出サイクルに再利用できる。
【0015】
液‐液抽出法の成功は2相間の化合物の分布に依存する。この分布は、水系/有機系に関するIUPACの慣例に従い、モル濃度スケールでの分布比(DA)で表す。これは、「一般に平衡状態で測定する、水相中の総分析濃度に対する有機相中の元素の総分析濃度」と定義される。この分布比DAは、有機相中の溶質種Aのモル濃度([A]org)と、水相中の同じ溶質種Aのモル濃度([A]aq)の比に相当する。
【0016】
DAが高いほど、有機相中に溶質Aが多く存在し、抽出効率が高い。複数の溶質(種A及びB)を抽出する場合、溶媒抽出系の選択性は、次式(1)に従って分離係数(S)で表される。
[式1]
SA/B=DA/DB=([A]org・[B]aq)/([A]aq・[B]org) (1)
式中、
DA及びDBはそれぞれ2つの種A及びBの分布比である。2種の分布比DAとDBとの差が大きい程、液‐液抽出法は、Dがより高い種に対して選択性が高くなる。
【0017】
希土類のリサイクルにおける主な障害の1つは、ほとんどの製品で使用する希土類の量が1ミリグラム~数キログラムの範囲にあるということである。このことは、希土類の用途が複雑であること、性質が類似しているため異なる元素を分離して純粋かつ固有の元素を得ることが困難であることと相まって、現在リサイクルされている希土類は1%未満であることを意味する。液‐液抽出は、ランタノイド陽イオンを抽出する方法が既に工業規模で適用されているものもあることから、進歩する可能性のある方法である。
【0018】
工業的に使用されている主な液‐液抽出法同士は、特に、実施に用いる溶媒の種類、及び使用する抽出・洗浄方法が異なる。これらの方法で使用する溶媒により、一般的に99.9%を超える純度で様々な希土類を抽出することが可能となる。商業的には、最も一般的に使用される溶媒は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸などの有機リン抽出剤、並びにカルボン酸、及びアルキルリン酸塩が挙げられる。これらの例としては、ジ‐2‐エチルヘキシルリン酸(HDEHP)、2‐エチルヘキシルホスホン酸(HEHEHP)、ビス(トリメチル‐2,2,4‐ペンチル)ホスフィン酸(商品名Cyanex(登録商標)272で販売されている製品など)、商品名Versatic(商標) Acid 10及びVersatic(商標) Acid 911、で販売されている製品などの分岐鎖カルボン酸の混合物、トリ‐n‐ブチルリン酸塩(TBP)、又はAliquat336が挙げられる。
【0019】
リン酸トリブチル(TBP)は、長い間、主要産業分類で抽出法に最も一般的に使用されてきた溶媒である。第四級アンモニウム並びに第三級カルボン酸(バーサチック酸)も商業的に使用されている。
【0020】
これらの製剤は、希土類の生産及び精製のための首尾よく確立された効率的な方法において石油留分(Isopar(登録商標)、Isane(登録商標)、Kerosene等)で希釈して使用されることが多いにも関わらず、その使用に関連するいくつかの問題が科学者や技術者の懸念となっている。
【0021】
3価のランタノイド種(Ln3+)も溶解している硝酸塩の水溶液から3価のアクチノイド陽イオン(An3+)を分離することは困難である。3価のアクチノイド及びランタノイドの陽イオンを分離することの難しさは、イオン半径及び水和数が類似していることに起因する。従って、第1工程では、非常に高い硝酸濃度でPUREXラフィネートを用いてLn3+/An3+共抽出を行う。DIAMEX(ジアミド抽出)として公知のこの方法は、N,N’‐ジメチル,N,N’‐ジオクチルヘキシルエトキシマロンアミド(DMDOHEMA)などのマロンアミド系抽出剤を使用する。第2工程では、ランタノイド陽イオンとアクチノイド陽イオンとを、SANEX(抽出によるアクチノイドの分離)抽出法により、より酸性度の低い条件下で分離する。最後に、マイナーアクチノイド陽イオンAm3+とCm3+とをDIAMEXに類似した別の方法により分離する。
【0022】
N,N‐ジアルキルアミド類(又は同等のモノアミド抽出剤)は、アクチニド抽出用抽出剤の有望な群に属すことが証明されている。これらは6価及び4価のアクチニドイオンに対する親和性が良好であり、主要な核分裂生成物に対しての親和性は低い。この群の抽出剤は水溶液にほとんど溶解せず、化学的分解や放射性分解に対して安定である。合成及び精製は非常に簡単であり、物理化学的性質及び選択性は3つの炭化水素鎖を変化させることで容易に調整できる。N,N‐ジアルキルアミドの主な利点は、TBPのように酸化還元工程や還元剤添加を必要とせずウランとプルトニウムとを同時に抽出できることである。ウランとプルトニウムとは、水溶液のpHを調整することにより分離可能である。
【0023】
しかし、脂肪族希釈剤中に希釈したモノアミドから成る有機相中のウラン濃度を高めると、粘度が上昇し、従来の抽出剤では工業的に使用できなくなる可能性があることが見出されており、モデル化されている(M. Pleines、“Viscosity‐control and prediction of microemulsions.モンペリエ大学学位論文”、博士学位論文,2018年)。従って、これらの化合物の溶媒和が不十分な場合、水相と平衡状態にある有機相は2つの異なる相に分離する。これがいわゆる「第3相」現象である。
【0024】
研究対象の製剤の性質に関わらず、「第3相」の形成は、既知の溶媒を使用する際の大きな障害となる。なぜなら、全ての工業系において、第3相は安定した粘性のある乳状液であり、液‐液抽出を停止させることから、容器を完全に空にして洗浄する必要があり、希土類の場合は非常にコストが掛かり、放射性元素を含有する抽出の場合は実際的に不可能だからである。第3相が出現するリスクは、方法の強化、ひいてはコストを制限する要素である。発表された第3相出現の希少な理論モデル(C.Erlingerら、“Attractive Interactions between Reverse Aggregates and Phase Separation in Concentrated Malonamide Extractant Solutions”、Langmuir、1999年3月、15巻、7号、pp.2290‐2300、doi:10.1021/la980313w)は指針となるにはまだ十分に予測的ではなく、第3相は、試験工場又は予備試験工場で体系的に試行錯誤する試験運転を実施することにより実際に回避されている。これにより施術者は、酸及び金属の濃度がLOC(限界有機濃度)を下回る条件下で進行することとなり、実際、従来の市販溶媒の負荷容量は100g.L-1以下の値に制限される。この最大負荷容量を達成するためにLOCを上昇させる方法がいくつか利用されており、例えば希釈剤の温度や極性を上昇させたり、溶媒に相改質剤、例えば脂肪族アルコール、TODGA‐ドデカン系のDHOAなどのモノアミド、TRUEXアクチニド(III)/ランタニド(III)共抽出法のCMPO‐ドデカン系で使用するTBPなどのリン酸塩を使用する。いずれの場合も効率や選択性の点で抽出に好ましくない結果をもたらす。
【0025】
よって、この第3相現象を回避しながら、高性能、低コスト、かつ環境に配慮した方法で、希土類群又はアクチニド群に属する1種以上の元素を選択的に抽出する方法が必要である。
【0026】
従って、この必要性を解消するために、本発明者らは本発明の主題である抽出法を開発した。
【0027】
非常に驚くべきことに、また、背景技術の学説に完全に反する一連の論拠によれば、本発明者らは、液‐液抽出で通常使用される分岐アルカン系希釈剤のうち全部又は一部を非イオン性ヒドロトロープ剤に置き換えることにより、第3相現象を完全に回避できることを発見した。
【0028】
より正確には、本発明は、希土類群又はアクチニド群に属する1種以上の元素を回収するために設計した抽出法に関する。ここでは、溶媒和性又はイオン性(陽イオン性又は陰イオン性)抽出剤と組み合わせた非イオン性ヒドロトロープ剤(共溶媒)を新規抽出系として使用する。前記新規抽出系は、抽出剤分子を含んで脂肪族希釈剤及び相改質剤を含むことも多い液‐液抽出法で従来使用されてきた有機相に取って換わるものである。
【0029】
従って、本発明の目的は、希土類群及びアクチニド群の元素から選択した金属の少なくとも1種の塩を、それら元素を含有する酸性水相から液‐液抽出する方法であって、少なくとも以下の工程:
(i)前記金属の前記少なくとも1種の塩と、初期量Q1の少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤とを含む平衡化酸性水相(Phaq.e)を調製する工程、
(ii)初期量Q2の少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤と、少なくとも1種の抽出剤とを含む有機相(Phorg)を調製する工程、(iii)上記工程(ii)において調製した前記有機相と、上記工程(i)において調製した前記平衡化酸性水相とを接触させ、混合物Mを得る工程、
(iv)前記混合物Mを撹拌する工程、並びに
(v)前記平衡化酸性水相から前記有機相を分離する工程
を含むことを特徴とする方法である。
【0030】
本発明に従った液‐液抽出法により、希土類群及びアクチニド群の金属を酸性水相から効率的かつ選択的に抽出しながら、前記金属が有機相へと通過する際の粘度増加を低減し、炭化水素などの従来の溶媒を用いて抽出法を実施する際に通常観察されるいわゆる「第3相」効果を低減又は排除することが可能となる。特に、本発明による抽出法は、酸性溶液中に存在する可能性の高い少なくとも1種の希土類及び/又はアクチニドを酸性溶液から抽出可能にする。この抽出法は、抽出収率が高く、前記酸性溶液中にも存在する可能性の高い金属不純物、特に鉄に対して選択性が高い。本発明による方法の利点の1つは、当業者に周知の技術に従って向流方式で操作する複数の段階(典型的には2~10段階)から成る抽出装置で実施できることでもある。本発明による液‐液抽出法は更に、閉回路で実施可能であり、それにより、廃液を最小限に抑え、コストを大幅に削減できる。最後に、本発明による方法は、工業界におけるどのような液‐液抽出法及びどのような抽出設備にも容易に適応可能である。
【0031】
本発明は、燃料元素の製造に先だったウランの精製、照射した核燃料の処理、又は採鉱精鉱由来のリン酸塩からのウランの抽出で特に適用できる。
【0032】
本発明はまた、モナザイト、バストネサイト、ゼノタイムなどの希土類に富む天然鉱石の精鉱からでも、又は希土類に富む鉱石以外の天然鉱石の処理から得られる精鉱、例えば「都市鉱山」で得る精鉱、即ち希土類を含有する産業廃棄物及び家庭使用後廃棄物から成る「鉱山」、特に電気・電子機器由来の廃棄物(「WEEE」又は「W3E」としても公知)からでも、又は希土類を含有する製品を製造することで、並びに浸出で生じた水溶液をそれら水溶液中に含まれる希土類回収のために処理することで生じる廃物の精鉱からでも、希土類の製造に適用できる。
【0033】
希土類群には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及び15種のランタニド元素、すなわちセリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)が含まれる。
【0034】
アクチニド群には15種の化学元素、アクチニウム(89番‐Ac)からローレンシウム(103番‐Lr)、特にウラン(92番‐U)が含まれる。
【0035】
本発明による方法は、ランタン(La)及びネオジム(Nd)などのいわゆる「軽」希土類、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)などのいわゆる「重」希土類、又はウラン、及びこれらの混合物から選択される金属の抽出に特に適している。
【0036】
本発明によれば、「ヒドロトロープ剤」とは、水相にも有機相にも溶解する化合物を意味する。より正確には、ヒドロトロープ剤は、疎水性化合物を水溶液中に可溶化する化合物である。ヒドロトロープは通常、親水性部分と疎水性部分から構成されているが(界面活性剤のように)、後者は一般に短すぎて自発的な自己凝集やミセル形成を起こさない(J. Mehringer及びWerner Kunz、Advances in Colloid and Interface Science、2021年、294号、102476)。ヒドロトロープ剤には、酸性、塩基性、又は塩電解質のヒドロトロープ剤と非電解質のヒドロトロープ剤がある。これらの分子体積は0.090nm3超~0.5nm3未満である。
【0037】
非イオン性ヒドロトロープ剤は特に、短鎖又は中鎖第一級、第二級、又は第三級アルコールから、またアルキレングリコールアルキルエーテルから選択してもよい。本発明の目的において、「短鎖」とは1~4個の炭素原子を有する炭素鎖であり、「中鎖」とは5又は6個の炭素原子を有する炭素鎖である。
【0038】
本発明の特定の1実施形態によれば、工程(i)及び(ii)で使用する前記非イオン性ヒドロトロープ剤は以下:
‐ アルキレングリコールアルキルエーテルであって、アルキルはメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、テルブチル、及びペンチルから選択され、アルキレンはエチレン、プロピレン、及びジプロピレンから選択されるアルキレングリコールアルキルエーテル、並びに
‐ C2‐C3アルキルオキシ基を含む第一級アルコール
から選択される。
【0039】
このようなヒドロトロープ剤としては、特に、1‐プロポキシ‐2‐プロパノール(PnP)、ジプロピレングリコールn‐プロピルエーテル(DPnP)、及びエチレングリコールモノペンチルエーテル(C5E1)が挙げられる。このうち、1‐プロポキシ‐2‐プロパノールが好ましい。
【0040】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、平衡化酸性水相に含まれる非イオン性ヒドロトロープ剤は、有機相に存在する非イオン性ヒドロトロープ剤と同一である。
【0041】
「酸性水相」とは、有機酸又は無機酸の溶液を意味し、前記酸は「強酸」又は「弱酸」と称する。
【0042】
酸性水相は、特に、前記金属の塩を含む天然鉱石又は都市鉱石の精鉱の酸性溶液であることができる。
【0043】
本発明による方法の様々な工程に従って使用される酸性水相中に存在する酸は特に、硝酸、リン酸、硫酸、塩酸、及びこれらの混合物などの強酸、酢酸、ギ酸、クエン酸及び酒石酸、並びにこれらの混合物などの弱酸から、及び少なくとも1種の強酸と少なくとも1種の弱酸との混合物から選択してもよい。
【0044】
本発明の特定の1実施形態によれば、平衡化酸性水相は濃度1.10-4~6mol/L、好ましくは約0.01~4mol/Lの少なくとも1種の強酸を含む。
【0045】
特定の1実施形態によれば、平衡化酸性水相中に存在する酸が硝酸などの強酸である場合、酸濃度は好ましくは0.01~3mol/Lの範囲である。
【0046】
本発明の別の特定の実施形態によれば、平衡化酸性水相は、例えば濃度1~6mol/L、好ましくは約1~3mol/Lの酢酸などの少なくとも1種の弱酸を含む。
【0047】
酸性水相中の金属塩の濃度は、好ましくは約0.01mol/L~1.0mol/L(両端の値を含む)である。
【0048】
本発明に従う抽出法によれば、工程(i)は、初期量Q1の少なくとも1種のヒドロトロープ剤を含む予備平衡化相を、希土類群及びアクチニド群の元素から選択された金属の少なくとも1種の塩を含有する酸性水溶液に添加し、平衡化酸性水相(Phaq.e)を得る予備平衡化工程である。
【0049】
予備平衡化工程では、前記予備平衡化相により前記酸性水相が飽和可能になり、従って、抽出中に水相及び有機相が安定に維持できるようになる(工程(iii)及び(iv))。
【0050】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、予備平衡化相は純粋1‐プロポキシ‐2‐プロパノール(PnP)、又は純粋ジプロピレングリコールn‐プロピルエーテル(DPnP)、又は純粋エチレングリコールモノペンチルエーテル(C5E1)である。この場合、ヒドロトロープ剤の初期量Q1は、酸性水相を飽和するために使用される純粋ヒドロトロープ剤の体積に相当する。
【0051】
好ましくは、工程(i)は予備平衡化相/酸性水相体積比が約1:1~1:10、より好ましくは約1:3になるようにして実施する。
【0052】
工程(i)の所要時間は一般に5~60分、好ましくは5~20分、より好ましくは約10分である。所要時間が10分であると、前記予備平衡化相により水相を飽和させることが可能になる。
【0053】
工程(i)は一般に約20~50℃の温度で実施する。好ましくは、工程(i)は周囲温度で、すなわち約20℃~25℃の温度で実施する。
【0054】
工程(i)は少なくとも大気圧に等しい圧力、更に好ましくは大気圧で実施することが好ましい。
【0055】
特定の1実施形態によれば、本発明の方法は、工程(i)の前に少なくとも1つの予備浸出工程を更に含んでもよい。この予備浸出工程は、例えば、抽出する希土類及び/又はアクチニドを含む固体材料を、硫酸、塩酸、又は最も頻繁には硝酸などの強酸、又は酢酸などの弱酸を高濃度で含む溶液と接触させることにより、従来の様式で実施することが可能である。この浸出工程により、希土類群及びアクチニド群から選択される元素の溶液が得られる。
【0056】
本発明によれば、有機相は初期量Q2の少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤、及び少なくとも1種の抽出剤を含む。一般に、この有機相の密度は酸性水相の密度とは少なくとも0.1mg/L異なり、これにより、工程(v)中、水相と有機相とは容易に分離できる。
【0057】
工程(ii)で調製した有機相に含まれる抽出剤は、平衡化酸性水相から抽出する元素の少なくとも1種に特異的な荷電分子又は中性分子、及びこれら分子の混合物から選択できる。抽出剤は、特にリン系非イオン性抽出剤、アミド、カルボン酸塩、及びいくつかの二官能性分子から選択してもよい。好ましい1実施形態によれば、抽出剤は、ビス(2‐エチルヘキシル)リン酸(HDEHP)、N,N’‐ジメチル‐N,N’‐ジオクチルヘキシル‐エトキシ‐マロンアミド(DMDOHEMA)、N,N‐ジ‐(2‐エチルヘキシル)イソブチルアミド(DEHiBA)、トリオクチルアミン(TOA)、及びこれらの混合物から選択される。
【0058】
本発明に従う方法の特定の1実施形態によれば、平衡化酸性水相から抽出する金属はランタニドであり、抽出剤はHDEHP、DMDOHEMA、及びこれらの混合物から選択される。
【0059】
本発明による方法の特に有利な1実施形態によれば、平衡化酸性水相から抽出する金属がランタニドである場合、抽出剤はHDEHPとDMDOHEMAとの混合物である。実際、以下の実施例において実証するように、このような混合物から成る抽出剤を用いて得られるランタニドの抽出収率は、HDEHPのみ又はDMDOHEMAのみから成る抽出剤を用いて得る抽出収率の合計よりも高い。このことは、本発明による方法に従った希土類抽出収率に及ぼすHDEHPとDMDOHEMAとの混合物の相乗効果を示している。
【0060】
抽出剤がHDEHPとDMDOHEMAとの混合物である場合、DMDOHEMA/HDEHP混合物中のDMDOHEMAのモル分率は、好ましくは0.3~0.8の範囲である。特に好ましくは、DMDOHEMA/HDEHP混合物中のDMDOHEMAのモル分率は0.5であり、これは最も高い相乗効果に対応する。
【0061】
本発明の方法の特定の1実施形態によれば、平衡化酸性水相から抽出する金属がアクチニド、特にウランである場合、抽出剤はHDEHiBA、TOA及びこれらの混合物から選択される。
【0062】
本発明に従った方法の好ましい1実施形態によれば、有機相は、少なくとも1種の抽出剤及び非イオン性ヒドロトロープ剤のみから成り、即ち、それ以外は何も含まず、特に有機希釈剤も含まない。実際、工業的規模での2成分有機廃液の管理は、多成分有機廃液より簡単である。
【0063】
本発明の好ましい1実施形態によれば、有機相中に含まれるヒドロトロープ剤の初期量Q2は約0.1~10mol/L、より好ましくは約1.5~8mol/Lの範囲である。
【0064】
これは、本発明による方法の好ましい1実施形態を表すものではないが、有機相は、抽出剤及び非イオン性ヒドロトロープ剤に加えて、脂肪族系の有機希釈剤を含んでもよい。この場合、有機相は好ましくは、少なくとも0.5mol/L、好ましくは少なくとも4mol/L、より好ましくは5mol/Lの非イオン性ヒドロトロープ剤を含む。
【0065】
接触工程(iii)は、平衡化酸性水相と有機相とを単に混合することにより実施できる。
【0066】
好ましい1実施形態によれば、水相と有機相とは、1:1~1:4の体積比、より好ましくは1:1の体積比で混合する。
【0067】
撹拌工程(iv)は、平衡化酸性水相に最初から含まれる金属塩が有機相の全体又は一部を通過する実際の抽出工程に相当する。
【0068】
工程(iv)は一般に約20~50℃の温度、好ましくは20~30℃の温度、より好ましくは20~25℃の温度、すなわち周囲温度で実施する。
【0069】
工程(iv)において有機相は平衡化酸性水相から、例えば遠心分離により分離してもよい。
【0070】
本発明の特定の好ましい実施形態によれば、本方法は、好ましくは向流方式で操作するいくつかの段階を含む抽出装置において実施し、各段階により工程(iii)~(v)の実施が可能になる。この場合、本方法は、各工程(v)の後及び各工程(iii)の前に、酸性水相及び有機相中に含まれる非イオン性ヒドロトロープ剤の量をそれぞれ初期値Q1及びQ2と同一の値に再調整する少なくとも1つの中間工程を更に含む。
【0071】
その後、平衡化酸性水相から抽出され、分離後に有機相に含まれる金属塩を回収できる。
【0072】
従って、好ましい1実施形態によれば、本方法は、更に少なくとも以下の工程:
‐ 工程(v)終了時に有機相に含まれる金属の塩を脱抽出する工程(vi)であって、前記工程(vi)は少なくとも前記有機相を、「脱抽出溶液」と呼ばれる水相と接触させることを含み、前記溶液は少なくとも1種の非イオン性ヒドロトロープ剤を初期量Q3で含有する、 工程(vi)、並びに
‐ 有機相を前記脱抽出相から分離し、前記金属の塩を含む脱抽出相を回収する工程(vii)
を含む。
【0073】
脱抽出溶液は水、特に蒸留水を含んでもよく、即ち水及び前記非イオン性ヒドロトロープ剤のみから成るか、又は水と少なくとも1種の酸と前記非イオン性ヒドロトロープ剤との混合物を含む。
【0074】
脱抽出溶液中に含まれる非イオン性ヒドロトロープ剤の初期濃度Q3は好ましくは約0.1~5mol/L、より好ましくは約0.5~4mol/Lの範囲である。
【0075】
本発明の特に有利で好ましい1実施形態によれば、脱抽出溶液中に含まれる非イオン性ヒドロトロープ剤は、有機相の非イオン性ヒドロトロープ剤と同一であり、それ自体は好ましくは平衡化酸性水相に含まれる非イオン性ヒドロトロープ剤と同一である。
【0076】
脱抽出溶液が酸を含む場合、前記酸は好ましくは平衡酸性水相に含まれる酸と同一である。
【0077】
本発明の好ましい1実施形態によれば、工程(vi)及び(vii)は、好ましくは、向流方式で操作する、多段階の脱抽出装置中で実施し、各段階は工程(vi)及び(vii)を実施可能にする。この場合、本発明による方法は、各工程(vii)の後及び各工程(vi)の前に、脱抽出溶液中に含まれる非イオン性ヒドロトロープ剤の量を初期値Q3と同一の値に再調整する少なくとも1つの中間工程を更に含む。
【0078】
本発明の第2の目的は、上で定義された有機相、すなわち少なくとも1種の抽出剤と、希土類群及びアクチニド群の元素から選択した金属を、前記金属及び非イオン性ヒドロトロープ剤を含有する酸性水相から抽出するための非イオン性ヒドロトロープ剤とを含む有機相の使用である。
【0079】
この使用によれば、有機相は好ましくは1種以上の抽出剤及び非イオン性ヒドロトロープ剤のみを含む。この場合、前記有機相は、それ以外は何も含まず、特に有機希釈剤も含まない。
【0080】
この使用の好ましい1実施形態によれば、有機相の非イオン性ヒドロトロープ剤は酸性水相の非イオン性ヒドロトロープ剤と同一である。
【0081】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の実施例の詳細な記載及び添付の図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】酸性水相からのユウロピウム(Eu)の抽出に及ぼす水相中の酸の性質の影響を示し、この酸性水相の酸濃度は2種類すなわち
図1(a):1M及び
図1(b):0.03Mである。
【
図2】鉄に対する希土類(La、Nd、Eu、Dy、Er、Yb)の選択性係数の推移を示し、なお、S
Ln/Feは酸の性質の関数として表記する。
図2(a):硝酸、
図2(b):リン酸、
図2(c):硫酸、
図2(d):塩酸。
【
図3】ユウロピウム抽出収率の変化を時間の関数として示す。
【
図4】抽出後における有機相の相対粘度に及ぼすPnPの影響を示す。
【
図5】従来の抽出系と比較したヒドロトロープを含有する有機相の負荷能力を示す。
【
図6】ユウロピウムの抽出に及ぼす水相中の酸濃度及び有機相中の抽出剤濃度の影響を示す。
【
図7】当該酸性水相からのユウロピウム(Eu)の抽出に及ぼす水相中の酸の性質の影響を示し、この酸性水相の酸濃度は2種類;
図7(a):0.3M及び
図7(b):1Mである。
【
図8】n‐ドデカンを含有する有機相と比較した、ヒドロトロープを含有する有機相の負荷容量を示す。
【
図9】ユウロピウム抽出収率の変化を時間の関数として示す。
【
図10】相乗効果に及ぼすPnPの使用の影響を示す。
【
図11】D
Ln,eqと表記した分布係数の推移を、X
DMDOHEMAと表記したDMDOHEMA抽出剤のモル分率の関数として示す。
【
図12】ユウロピウム分布係数の推移を、使用したヒドロトロープの性質の関数として示す。
【
図13】ユウロピウム分布係数を、2種の異なる抽出剤を用いた水相の酸性度の関数として示し、この抽出剤は2種類;
図13(a):HDEHP、
図13(b):DMDOHEMAである。
【
図14】2種の異なる抽出剤について、希土類分布係数の推移を、水相の酸性度の関数として示し、この抽出剤は2種類;
図14(a):HDEHP、
図14(b):DMDOHEMAである。
【
図15】ウラン分布係数の推移を、抽出剤DEHiBAの濃度の関数として示す。
【
図16】ウラン分布係数の推移を、抽出剤TOAの濃度の関数として示す。
【
図17】酸性水相から得た希土類及びウランを工業的規模で抽出するために設計した、本発明に従った回収方法の1実施例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0083】
軽希土類、即ちランタン(La)及び/又はネオジム(Nd)、並びに重希土類、即ちユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、及び/又はイッテルビウム(Yb)、又はアクチニド、即ちウランを含む酸性水相を用いて、以下の実施例で報告される実験結果を得た。研究対象の抽出系の選択性を評価するため、鉄も水相に添加した。
【0084】
抽出剤として、ビス(2‐エチルヘキシル)リン酸(HDEHP)及びN,N’‐ジメチル,N,N’‐ジオクチルヘキシルエトキシマロンアミド(DMDOHEMA)を使用して希土類を抽出し、一方、ジ‐エチルヘキシルイソブチルアミド(DEHiBA)又はトリオクチルアミン(TOA)を使用してウランを抽出した。これらの元素は、抽出する元素(単数又は複数)を含有する予備平衡化した水溶液と、以下のヒドロトロープ剤(希釈剤):1‐プロポキシ‐2‐プロパノール(PnP)、ジプロピレングリコールn‐プロピルエーテル(DPnP)、又はエチレングリコールモノペンチルエーテル(C5E1)のいずれか1種中に希釈した濃度0.1~2mol/Lの抽出剤を含む有機相とを接触させることにより、硝酸、硫酸、リン酸、又は塩酸の水溶液から抽出した。次いで、得られた結果を、「従来の」脂肪族又は芳香族希釈剤、例えばn‐ドデカン、水素化テトラプロピレン(TPH)、トルエン、イソオクタン、Isane(登録商標)(IP‐175)などのイソパラフィン系溶媒中に同じ抽出剤を溶解して得られた結果と比較した。
【0085】
以下の実施例で報告される分布係数、抽出収率、及び選択性係数を、液‐液抽出の分野における慣例に従って判定した。即ち、
‐ それぞれ有機相と水相との2相間の、DMと表記した金属元素Mの分布係数を、以下の式(2)により求める。
[式2]:DM=[M]org/[M]aq (2)
式中、
[M]orgは抽出後における有機相中の金属元素Mの濃度であり、
[M]aqは抽出後における水相中の金属元素Mの濃度である。
‐ 水相からのEMと表記した金属元素Mの抽出収率を以下の式(3)により求める。
[式3]:EM=[M]org/[M]aq,initial=DM/(DM+1) (3)
式中、
[M]org及びDMは、前述と同じ意味であり、一方、[M]aq,initialは、抽出前の水相中の金属元素Mの濃度であり、一方、金属元素M2に対する金属元素M1の、SM1/M2と表記した選択性係数は以下の式(4)により求める。
[式4]:SM1/M2=DM1/DM2 (4)
式中、
DM1は金属元素M1の分布係数であり、
DM2は金属元素M2の分布係数である。
【0086】
実施例1:アニオン性抽出剤(HDEHP)を用いる本発明の方法に従ったランタニド(La、Nd、Eu、Dy、Er、及びYb)の分離
1.1 酸の性質の影響
初めに、酸性水相から希土類を抽出することを目的とする試験を試験管内で、以下の相を用いて実施した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/Lの抽出剤HDEHPを含む相。本発明による方法に従った抽出実験の結果と、本発明に属さない比較抽出法とを比較できるように、従来の溶媒を用いた抽出実験を並行して行った。比較のため、イソパラフィン系溶媒Isane(登録商標)IP175を基準とした。
‐ 水相として:PnP単独で予備平衡化し、10mMの水和硝酸ユウロピウム、及び0.03M又は1Mの硝酸、リン酸、硫酸、又は塩酸を含み、PnP/水相体積比が3:1である水溶液。
【0087】
有機相(Org)/水相(Aq)比(Org/Aq)を1(v/v)にし、周囲温度で1時間、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させた。有機相と水相とを、5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中のユウロピウム濃度を、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP‐AES、Spectrо Arcоs装置、AMETEK社製)及びエネルギー分散型蛍光X線分析法(EDXRF‐SPECTRO装置、XEPOSモデル、AMETEK社製)により測定した。
【0088】
これらの試験結果を添付
図1に示す。図は、ユウロピウムの分布係数D
Euを、使用した酸の性質の関数として表している。これらの図において、白い棒グラフで示した結果は、溶媒としてIsaneIP175を用いて実施した本発明に属さない比較抽出法に対応し、ハッチングした棒グラフは、ヒドロトロープ剤としてPnPを用いて実施した本発明による抽出法に対応する。
図1(a)は、使用した様々な酸の濃度を1Mに設定した場合を示し、
図1(b)は、その濃度を0.03Mに設定した場合を示す。
【0089】
図1(a)に示すように、酸濃度が1Mであると、HDEHP抽出剤をIsaneIP175で希釈した場合、ユウロピウム抽出は測定不能である。一方、これらの結果から、少なくとも10倍の分布係数の増加が観察されるため、HDEHP抽出剤によるユウロピウムの抽出は、有機相中のIsaneIP175をPnPに置き換えることにより大幅に促進されることが分かる。
【0090】
図1(b)から、溶媒としてIsaneIP175を使用して酸濃度0.03Mでユウロピウムを抽出することにより、分布係数が
図1(a)と比較して大幅に増加し、PnPの場合では少なくとも2倍、抽出が明らかに向上したことが分かる。これは、本発明者らの知る限り、従来の希釈剤を使用して酸性度が1M以上の水相から希土類を抽出できることを示す研究については言及していない文献と一致している。
【0091】
1.2. 鉄に対する選択性の検討
全ての方法で主要な不純物である鉄に対する希土類抽出の選択性を、試験管内で以下の相を用いて実施する試験により評価した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/Lの抽出剤HDEHPを含む相。本発明による方法に従った抽出実験の結果と、本発明に属さない比較抽出法とを比較できるように、従来の溶媒を用いた抽出実験を並行して行った。比較のため、イソパラフィン系溶媒Isane(登録商標)IP175を基準とした。
‐ 水相として:ランタン(La)、ネオジム(Nd)、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、又はイッテルビウム(Yb)と、鉄(Fe)とを含み、希土類濃度はそれぞれ10mM、鉄濃度は30mMである水溶液。これらの水溶液は、1Mの硝酸、リン酸、硫酸、又は塩酸を含む酸性溶液で希釈した。
【0092】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で1時間、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させた。その後、有機相と水相とを、5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中で、希土類及び鉄の濃度を測定した(節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0093】
これらの試験結果を添付
図2に示す。図は、使用した様々な酸:(a)硝酸、(b)リン酸、(c)硫酸、及び(d)塩酸についてSF
Ln/Feと表記する鉄に対する希土類の選択性係数を表す。これらの図において、白い棒グラフで示した結果は、溶媒としてIsaneIP175を用いて実施した本発明に属さない比較抽出法に対応し、ハッチングした棒グラフは、ヒドロトロープ剤としてPnPを用いて実施した本発明による抽出法に対応する。
【0094】
これらの図が示すように、鉄に対する全ての希土類の抽出に関する方法の選択性は、本発明による方法に従って、IsaneIP175をPnPに置き換えることにより劇的に向上する。
【0095】
1.3 抽出速度
抽出効率に対する時間の影響を、試験管内で以下の相を用いて実施する試験により評価した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/Lの抽出剤HDEHPを含む相。本発明による方法に従った抽出実験の結果と、本発明に属さない比較抽出法とを比較できるように、従来の溶媒を用いた抽出実験を並行して行った。比較のため、イソパラフィン系溶媒Isane(登録商標)IP175を基準とした。
‐ 水相として:0.03mol/Lの硝酸を含む超純水(即ち、25℃で抵抗が18MΩ/cmを超えるMilli‐Q水)の酸性溶液中に10mMのユウロピウム(Eu)を含む水溶液。
【0096】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で1、3、10、30、60、120、及び180分、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させた。有機相と水相とを、5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中で、ユウロピウムの濃度を測定した(節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0097】
これらの試験結果を添付
図3に示す。図はユウロピウム抽出収率(%で表すE)の変化を時間(単位min.)の関数として表している。この図において、中黒の丸が付いた曲線は、本発明に属さない方法に従って溶媒としてIsane(登録商標)IP175を使用して実施した実験に対応し、中黒の四角が付いた曲線は、本発明による方法に従ってヒドロトロープ剤としてPnPを使用して実施した実験に対応する。
【0098】
図3に記載の結果に示すように、本発明による方法に従ってPnPを使用するとユウロピウム抽出速度は高まり、10分後には80%、30分後には99%の収率プラトーに達している。これに対し、本発明に属さない方法では、同じ99%の収率に達するのに2倍の抽出時間、即ち60分掛かる。
【0099】
1.4 抽出後の有機相の粘度
有機相の粘度は、工業的規模では考慮する必要がある重要なパラメータである。この目的のため、抽出後の有機相の粘度に及ぼす塩類及び抽出剤の濃度の影響を、試験管内で以下の相を用いて実施する試験により評価した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/L~2mol/Lの抽出剤HDEHPを含有する相。本発明による方法に従った抽出実験の結果と、本発明に属さない比較抽出法とを比較できるように、従来の溶媒を用いた抽出実験を並行して行った。比較のため、イソパラフィン系溶媒Isane(登録商標)IP175を基準とした。
‐ 水相として:0.03mol/Lの硝酸を含む超純水(即ち、25℃で抵抗が18MΩ/cmを超えるMilli‐Q水)の酸性溶液中に10mMのジスプロシウム(Dy)を含む水溶液。
【0100】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で60分、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させた。有機相と水相とを、5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。有機相の粘度を、自動回転球粘度計、参考商品AMVn(Anton Paar社,オーストリア、Graz)を用いて、抽出前後に25℃で測定した。
【0101】
これらの試験結果を添付
図4に示す。図では、相対粘度(単位mPa.s)を、初期ジスプロシウム濃度(単位mol.L
-1のC
Dy.initial)の関数として(
図4a)、又は初期抽出剤濃度(単位mol.L
-1のC
HDEHP.initial)の関数として(
図4b)表している。これらの図において、白い棒グラフで示した結果は、溶媒としてIsaneIP175を用いて実施した本発明に属さない比較抽出法に対応し、ハッチングした棒グラフは、ヒドロトロープ剤としてPnPを用いて実施した本発明による抽出法に対応する。
【0102】
図4に示すように、本発明による方法に従って抽出を実施した場合、水相の相対粘度は、水相中のジスプロシウム濃度によってはほとんど変化せず、また抽出剤の濃度の関数としてほとんど変化せず、抽出前の有機相の粘度の1.5倍以下である。一方、本発明に属さない比較方法に従ってIsaneIP175を用いて抽出を実施した場合、抽出後の有機相の粘度は、抽出前の粘度と比較して最大5倍まで増加し得ることが観察されている。
【0103】
1.5. 負荷容量(ローディングキャパシティ)
本発明による抽出法の効率を評価するために、負荷容量試験を実施し、「従来の」希釈剤を使用する抽出系の負荷容量と比較した。
負荷容量試験を、試験管内で以下の相を用いて評価及び実施した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/Lの抽出剤HDEHPを含む相。本発明による方法に従った抽出実験の結果と、本発明に属さない比較抽出法とを比較できるように、従来の溶媒、即ちn‐ヘプタン、ドデカン、イソオクタン、及びトルエンを用いた抽出実験を並行して行った。
‐ 水相として:0.03mol/Lの硝酸を含む超純水(即ち、25℃で抵抗が18MΩ/cmを超えるMilli‐Q水)の酸性溶液中に濃度10mmol/L~400mmol/Lのユウロピウム(Eu)を含む水溶液。
【0104】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で60分、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させた。次いで有機相と水相とを、5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中で、ユウロピウムの濃度を測定した(節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0105】
これらの試験結果を添付
図5に示す。図は、単位mmol.L
-1で表すC
Eu,orgと表記した平衡状態での有機相中のユウロピウム濃度の変化を、初期水相中のユウロピウム濃度(C
Eu,initial/mmol.L
-1)の関数として表している。この図において、中黒の丸が付いた曲線は、本発明による方法に従ったPnP存在下での抽出に対応する。他の曲線は、本発明によらない方法に従って従来の溶媒を用いて実施した抽出に対応する。中黒の四角が付いた曲線:n‐ヘプタン、頂点が上を向いている中黒の三角が付いた曲線:ドデカン、頂点が下を向いている中黒の三角が付いた曲線:ドデカン+5%PnP、中黒の菱形が付いた曲線:イソオクタン、空白の丸が付いた曲線:トルエン。
【0106】
図5は、ヘプタン、ドデカン、イソオクタン、及びトルエンの場合にユウロピウム抽出における飽和の開始が観察され、最初の3種の希釈剤では第3相が形成されたことを示している。一方、本発明の方法に従ったPnPでは、飽和も第3相も観察されず、水相中のユウロピウム濃度が400mmol/Lを超える場合には、250mmol/Lを超える負荷容量が期待できる。n‐ドデカン+5%PnP混合物の場合、負荷容量はn‐ドデカンをPnPで完全に置き換えた場合よりも低い。にも拘らず、試験した濃度範囲では、5%のPnP量でも第3相は回避されている。
【0107】
いずれにせよ、これらの結果は、通常、希土類抽出分野で従来使用されている抽出系の負荷限界である400mmol/Lを超える希土類を、PnPを使用して有機相に負荷できる可能性を示している。
【0108】
1.6 水相の酸性度及び有機相中の抽出剤濃度の影響
硝酸水相の酸性度及び有機相中の抽出剤濃度の、この系のユウロピウム抽出能力に及ぼす影響を、試験管内で以下の相を用いて実施する試験により評価した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.01mol/L~3mol/Lの抽出剤HDEHPを含む相。本発明による方法に従った抽出実験の結果と、本発明に属さない比較抽出法とを比較できるように、従来の溶媒を使用する抽出実験を、ドデカンを用いて並行して行った。
‐ 水相として:濃度0.1mol/L~3mol/Lの硝酸を含む超純水(即ち、25℃で抵抗が18MΩ/cmを超えるMilli‐Q水)の硝酸溶液中に10mmol/Lのユウロピウム(Eu)を含む水溶液。
【0109】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で60分、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させ、その後、5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中でユウロピウム濃度を測定した(節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0110】
これらの試験結果を添付
図6に示す。
図6(a)はユウロピウム分布係数(D
Eu,eq)の変化を、有機相中の単位mol.L
-1で表すHDEHPの初期濃度(C
HDEHP,initial)の関数として示し、
図6(b)はユウロピウム分布係数(D
Eu,eq)の変化を、水相中のmol.L
-1で表す初期硝酸濃度(C
HNO3,initial)の関数として示している。この図では、中黒の丸が付いた曲線は、本発明の方法に従ってPnPを用いて実施した抽出に対応し、中黒の四角が付いた曲線は、本発明に属さない方法に従ってドデカンを用いて実施した抽出に対応する。
【0111】
図6(a)は、本発明による方法に従ったPnPでは、抽出剤の濃度を増加させると第3相が出現することなく抽出の効率が向上したことを示している。これは本発明に属さない方法に従って従来の溶媒であるドデカンを用いて観察された結果とは異なる。
図6(b)は、水相の酸性度を増加させると、PnPによるユウロピウムの抽出が徐々に減少したことを示している。硝酸が1mol/Lを超えると、ドデカンを用いて実施した抽出法では分布係数の値はゼロに向かう傾向があり、一方、PnPの存在下で抽出を実施した場合には分布係数の減少は無視できる程度に留まる。これにより、本発明による方法に従って使用する酸濃度の範囲が広がる。
【0112】
実施例2:抽出剤としてDMDOHEMAを使用した本発明による方法に従った、ランタニド:La、Nd、Eu、Dy、Er、及びYbを分離する方法
2.1 酸の性質の影響
初めに、酸性水相から希土類を抽出することを目的とする試験を試験管内で、以下の相を用い実施した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/Lの抽出剤DMDOHEMAから成る相。本発明による方法に従った抽出実験の結果と、本発明に属さない比較抽出法とを比較できるように、従来の溶媒を用いた抽出実験を並行して行った。比較のため、イソパラフィン系溶媒Isane(登録商標)IP175を基準とした。
‐ 水相として:PnP単独で予備平衡化し、10mMの水和硝酸ユウロピウム、及び1M又は3Mの硝酸、リン酸、硫酸、又は塩酸を含む水溶液。
【0113】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で1時間、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させ、その後、回転数5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中でユウロピウム濃度を測定した(実施例1において節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0114】
これらの試験結果を添付
図7に示す。図は、D
Eu,eqと表記したユウロピウム分布係数を、使用した酸の性質の関数として示している。
図7(a)は、使用する異なる酸の濃度を1Mに設定した場合を示し、
図7(b)では濃度を3Mに設定している。これらの図において、白い棒グラフは、本発明に属さないIsane(登録商標)IP175を使用した抽出法を実施して得られた結果に対応し、ハッチングした棒グラフは、PnPを使用して本発明による抽出法を実施して得られた結果に対応する。
【0115】
図7(a)に示すように、1Mの酸濃度では、抽出剤をIsane(登録商標)IP175で希釈した場合、ユウロピウム抽出は測定不能である。一方、ユウロピウムの抽出はIsane(登録商標)IP175を有機相中のPnPに置き換えることにより促進され、分布係数が少なくとも20倍増加することが分かる。
【0116】
図7(b)から、Isane(登録商標)IP175を希釈剤として使用し、抽出剤の濃度を3Mにすると、分布係数は
図7(a)と比較して劇的に増加し、PnPの場合には抽出が少なくとも2倍になり明確に向上したことが分かる。
【0117】
2.2. 負荷容量
本発明による抽出法の効率を評価するために、負荷容量試験を実施し、「従来の」希釈剤を使用する抽出系の負荷容量と比較した。
負荷容量試験を、試験管内で以下の相を用いて評価及び実施した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/Lの抽出剤DMDOHEMAを含む相。結果を比較できるように、従来の希釈剤を使用する抽出実験を、ドデカンを用いて並行して行った。
‐ 水相として:3mol/Lの硝酸を含む超純水(即ち、25℃で抵抗が18MΩ/cmを超えるMilli‐Q水)の酸性溶液中に濃度10mmol/L~400mmol/Lのユウロピウム(Eu)を含む水溶液。
【0118】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で60分、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させ、その後、回転数5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中で、ユウロピウムの濃度を測定した(実施例1において節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0119】
これらの試験結果を添付
図8に示す。図は、単位mmol/Lで表すC
Eu,eqと表記した平衡状態での有機相中のユウロピウム濃度の変化を、初期水相中のユウロピウム濃度(単位mmol.L
-1のC
Eu,initial)の関数として表している。この図において、中黒の丸が付いた曲線は、PnPを使用して本発明による抽出法を実施することで得られた結果に対応し、中黒の四角が付いた曲線は、ドデカンを使用して本発明に属さない抽出法を実施することで得られた結果に対応する。
【0120】
図8は、ユウロピウム抽出における飽和の開始がドデカン中で観察され、第3相が形成されたことを示している。一方、PnPでは、飽和も第3相も観察されず、水相中のユウロピウム濃度が400mmol/Lを超える場合には、250mmol/Lを超える負荷容量が期待できる。
【0121】
いずれにせよ、これらの結果は、通常、希土類抽出分野で従来使用されている抽出系の負荷限界である400mmol/Lを超える希土類を、PnPを使用して有機相に負荷できる可能性を示している。
【0122】
2.3 抽出速度
抽出効率に及ぼす時間の影響を、試験管内で以下の相を用いて実施する試験により評価した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/Lの抽出剤DMDOHEMAを含む相。結果を比較できるように、従来の希釈剤を使用する抽出実験を、ドデカンを用いて並行して行った。
‐ 水相として:3mol/Lの硝酸を含む超純水(即ち、25℃で抵抗が18MΩ/cmを超えるMilli‐Q水)の酸性溶液中に10mMのユウロピウム(Eu)を含む水溶液。
【0123】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で1、3、10、30、60、120、又は180分、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させ、その後、回転数5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中で、ユウロピウムの濃度を測定した(実施例1において節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0124】
得られた結果を添付
図9に示す。図は、ユウロピウム抽出収率(%で表すE)の変化を時間(単位min.)の関数として表している。この図において、中黒の四角が付いた曲線は、PnPを使用して本発明による方法を実施することで得られた結果に対応し、中黒の丸が付いた曲線は、抽出溶媒としてドデカンを使用して本発明に属さない方法を実施することで得られた結果に対応する。
【0125】
図9に示すように、本発明の方法によるPnPを使用するとユウロピウム抽出速度は高まり、収率値は15分後には80%に、60分後には99%の収率プラトーに達している。
【0126】
実施例3:ランタニド:ランタン、ネオジム、ユウロピウム、ジスプロシウム、エルビウム、及びイッテルビウムを分離するための、陰イオン性と溶媒和性との相乗効果をもたらす2種の抽出剤(HDEHP及びDMDOHEMA)を用いた本発明による抽出法
硝酸水溶液からの希土類抽出に及ぼすHDEHPとDMDOHEMAとの混合物の相乗効果、並びにこれらの抽出特性に及ぼすこの混合物のDMDOHEMA/HDEHPモル比の影響を、以下の相を用いて実施する抽出試験により評価した。
‐ 水相として:酸化状態(III)の5種の希土類塩をそれぞれの形態:La(NO3)3、Nd(NO3)3、Eu(NO3)3、Dy(NO3)3、及びYb(NO3)3で、各々10mmol/Lで、1mol/Lの硝酸を含む超純水(即ち、25℃で抵抗が18MΩ/cmを超えるMilli‐Q水)の溶液中に溶解することで得られた相、及び
‐ 有機相として:0.6mol/Lの抽出剤を含有するPnPを含む相であって、この抽出剤は、DMDOHEMAのみ、HDEHPのみ、又はDMDOHEMAとHDEHPとの混合物から成り、DMDOHEMAとHDEHPとのモル比は変化する(0~1)。結果を比較できるように、同様の抽出実験ではあるが従来の希釈剤を用いた実験を、Isane(登録商標)IP175を用いて並行して行った。
【0127】
鉄は鉱石、特に天然鉱石中の主な不純物として自然界で存在するため、更に30mmol/Lの硝酸鉄(III)を水相に添加した。
【0128】
体積比1(v/v)の水相/有機相(Aq/Org)を用いて抽出試験を実施した。水相と有機相とを一定温度(25℃)で1時間接触させた後、25℃で20分間遠心分離(5000rpm)することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中の希土類濃度を測定した(実施例1において節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0129】
これらの試験結果を添付
図10及び11に示す。図は、D
Ln,eqと表記した希土類の分布係数をX
DMDOHEMAと表記したHDEHPに対するDMDOHEMAのモル分率の関数として表している。これらの図において、中黒の四角が付いた曲線は、PnPを使用した本発明による方法を実施することで得られた結果に対応し、中黒の丸が付いた曲線は、Isane(登録商標)IP175を使用した本発明に属さない方法を実施することで得られた結果に対応する。
【0130】
図10では、X
DMDOHEMAと表記したDMDOHEMAのモル分率Xの関数として、PnP(中黒の四角)とIsane(登録商標)IP175(中黒の丸)の場合でのランタン(
図10(a))とユウロピウム(
図10(b))との分布係数を比較している。
【0131】
図11は、D
Ln,eqと表記した様々なランタニドの分布係数の推移を、X
DMDOHEMAと表記した抽出剤DMDOHEMAのモル分率Xの関数として示す。この図では以下のように示す。La=中黒の丸が付いた曲線、Nd=中黒の四角が付いた曲線、Eu=頂点が上を向いている中黒の三角が付いた曲線、Dy=頂点が下を向いている中黒の三角が付いた曲線、Yb=中黒の菱形が付いた曲線。
【0132】
図10及び11において、X
DMDOHEMA=0で得られた結果は、抽出剤がHDEHPのみから成る場合に得られた結果に対応し、X
DMDOHEMA=1で得られた結果は、抽出剤がDMDOHEMAのみから成る場合に得られた結果に対応する。
【0133】
これらの結果から、全ての希土類について、DMDOHEMAとHDEHPの混合物から成る抽出剤で得られた抽出収率は、一方ではDMDOHEMAのみから成る抽出剤で得られた抽出収率の合計より高く、他方ではHDEHPのみから成る抽出剤で得られた抽出収率の合計より高いことが分かり、このことは、これら全ての希土類の抽出に及ぼすDMDOHEMAとHDEHPとの混合物の相乗効果を強調するものである。
【0134】
また、結果から、DMDOHEMAとHDEHPとの混合物の相乗効果はDMDOHEMAのモル分率が0.5の場合に最も高く、PnPの場合には抽出収率はドデカンより高いことも分かる。
【0135】
実施例4:ヒドロトロープ剤としてPnP、DPnP、又はC
5
E
1
を使用した本発明による方法に従った希土類の抽出
初めに、酸性水相から希土類を抽出するために、ヒドロトロープ剤PnPを他の共溶媒ヒドロトロープ剤に置き換えることを目的とする試験を、試験管内で以下の相を用いて実施した。
‐ 有機相として:PnP、DPnP、又はC5E1で希釈した濃度0.6mol/LのHDEHPを抽出剤として含む相、及び
‐ 水相として:単独で使用するヒドロトロープ剤で予備平衡化し、10mMの水和硝酸ユウロピウム及び0.03Mの硝酸を含む水溶液。
【0136】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で1時間、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させ、その後、回転数5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中でユウロピウム濃度を測定した(実施例1において節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0137】
これらの試験結果を添付
図12に示す。図は、D
Euと表記したユウロピウム分布係数を、使用したヒドロトロープ剤の性質の関数として示している。この図では、ユウロピウムの分布係数(D
EU,eq)を、使用したヒドロトロープ剤の各々について示している。白い棒グラフはPnPに対応し、斜めにハッチングした棒グラフはDPnPに対応し、縦にハッチングした棒グラフはC
5E
1に対応する。
図12に示すように、3種のヒドロトロープはいずれも希土類の抽出に有効である。
【0138】
実施例5:予備浸出工程を含み、浸出、抽出、及び脱抽出のための弱有機酸を使用する本発明による抽出法
本例では、ユウロピウムの抽出は「温和な」又は「環境に配慮した」条件下で、即ち強酸を使用せずに実施した。
初めに、酢酸などの弱酸を含む水相から希土類を抽出することを目的とする試験を試験管内で、以下の相を用いて実施した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した濃度0.6mol/LのHDEHP又はDMDOHEMAを抽出剤として含む相。結果を比較できるように、従来の希釈剤を使用する抽出実験を、ドデカンを用いて並行して行った。
‐ 水相として:PnP単独で予備平衡化し、10mMの水和硝酸ユウロピウム及び1M~6Mの酢酸を含む水溶液。
【0139】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で1時間、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させ、その後、回転数5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中でユウロピウム濃度を測定した(実施例1において節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0140】
これらの試験結果を添付
図13及び14に示す。
図13は、D
Eu,eqと表記したユウロピウム分布係数を、酢酸濃度の関数として表している。
図13(a)は、HDEHPを抽出剤として本方法を実施した場合を示し、
図13(b)ではDMDOHEMAを抽出剤として使用している。
【0141】
図14は、2種の異なる抽出剤、すなわち
図14(a):HDEHP及び
図14(b):DMDOHEMAについて、希土類分布係数(D
Ln,eq)の推移を、水相の初期酸性度(単位mol.L
-1のC
acid,initial)の関数として示す。これらの
図13及び14では、各曲線は次のように対応する。中黒の丸:La、中黒の四角:Nd、頂点が上を向いている中黒の三角:Eu、頂点が下を向いている中黒の三角:Dy、及び中黒の菱形:Yb。
【0142】
図13(a)に示すように、HDEHPを用いたユウロピウムの抽出は効果的であり、ドデカンをPnPに置き換えることで、2倍以上向上する。
【0143】
図13(b)では、抽出剤がドデカンで希釈された場合にはユウロピウム抽出は測定不能であるが、抽出は有効となっている(6M酢酸中で分布係数は0.6から2.8に増加)。このように、本発明による抽出法に従えば、ヒドロトロープ剤を使用することで強酸の存在は不要となる。共溶媒として作用するヒドロトロープ剤を使用することで、複雑な新規有機分子を合成する必要なく、強酸を用いた公知の抽出法を実施することが可能になるが、その効率は十分ではない。本発明による方法のこの実施例では、水和した弱有機酸と全てのヒドロトロープ剤との作用の相乗効果が観察される。
【0144】
図14(a)では、軽希土類の場合、酸性度が高くなるにつれて抽出効率は大幅に低下し、重希土類の場合、ほとんど低下していない。酸性度は抽出効率に重要な役割を担い、軽希土類と重希土類間の選択性を誘導する。
図14(b)は、DMDOHEMAでは効果が逆であることを示している。酢酸濃度が高いほど抽出の効率は高まる。
【0145】
実施例6:本発明による方法に従ったウランの抽出
初めに、酸性水相からウランを抽出することを目的とする試験を試験管内で、以下の相を用いて実施した。
‐ 有機相として:PnPで希釈した様々な濃度0.01~2mol/Lの抽出剤DEHiBA又はTOAを含む相。結果を比較できるように、従来の希釈剤を使用する抽出実験を、特にドデカン、トルエン、TPH、及びイソオクタンを用いて並行して行った。
‐ 水相として:PnP単独で予備平衡化し、3Mの硝酸又は硫酸で希釈した250ppmの硝酸ウラン又は硫酸ウランを含む水溶液。
【0146】
Org/Aq比を1(v/v)にし、周囲温度で1時間、回転撹拌しながら有機相と水相とを接触させ、その後、回転数5000rpmで20分間遠心分離することにより分離した。このように回収した水相及び有機相中で、ユウロピウムの濃度を測定した(実施例1において節1.1で上述したICP‐AES及びEDXRF)。
【0147】
これらの試験結果を
図15に示す。図は、Du(単位mol.L
-1)と表記したウランの分布係数を、異なる溶媒(中黒の丸:TPH、中黒の四角:ドデカン、頂点が上を向いた中黒の三角:トルエン、及び頂点が下を向いた中黒の三角:PnP)で希釈したDEHiBAの濃度の関数として表している。
【0148】
図15から、PnPを用いた場合、従来の溶媒を用いた場合よりもウランの抽出が非常に向上し、第3相の出現も有機相の粘度上昇もないことが分かる。
【0149】
図16は、ウラン分布係数(D
U,eq)を、様々な溶媒(中黒の丸:ドデカン、中黒の四角:イソオクタン、頂点が上を向いた中黒の三角:トルエン、及び頂点が下を向いた中黒の三角:PnP)で希釈したTOA抽出剤の濃度の関数として示す。
【0150】
図16から、ドデカンなどの従来の溶媒では、例えば濃度0.1mol/L以上で第3相が出現するのに対し、PnPでは第3相の出現も有機相の粘度上昇もなく、ウランの抽出が非常に向上したことが分かる。これにより、試薬がより少量になり実施がより簡易になる。従って、本発明による抽出法では、根本的な理由から第3相の事故が確実に起こらないようになり、溶媒改質剤の使用が不要になるのみならず、現在の方法と比較して臨界事故に対する安全域を拡大できる。
【0151】
実施例7:本発明による抽出法を実施するための工業設備の例
上記実施例1~5に示した本発明による抽出法は、例えば、本明細書に添付した
図17に示しているように工業用抽出設備1で実施することが可能である。
【0152】
この設備1は、金属を含む酸性水相21を収容した槽2、及び非イオン性ヒドロトロープ剤31を収容した槽3を備え、槽2及び3は、平衡化酸性水相41を得るために、金属を含む酸性水相21と前記ヒドロトロープ剤31とを混合するための容器4に、それぞれ導管211及び311を介して収容物の供給を行う。導管412により非イオン性ヒドロトロープ剤を槽3に戻すことが可能となる。設備1はまた、少なくとも1種の抽出剤及び非イオン性ヒドロトロープ剤を含む有機相51を収容する槽5も備える。複数の段階(図示せず)を含む抽出段階の装置6には、中間段階で導管411を介して平衡化酸性水相41が供給され、前記抽出装置の第1段階で導管511を介して有機相51が供給され、前記抽出装置の最終段階で槽17から出る導管1711を介して非イオン性ヒドロトロープ剤を含む水性洗浄液が供給される。このように、水相及び有機相は標準的な実践に従った前記抽出装置内を向流で循環する。前記装置の各段階には、相を混合する装置や、接触後に同じ相を分離する装置(図示せず)が含まれる。槽17には、一方では非イオン性ヒドロトロープ剤槽18から出ている導管1811により非イオン性ヒドロトロープ剤が供給され、他方では水性洗浄液槽19から出ている導管1911により水性洗浄液191が供給される。槽17の排出口に位置する導管1712は、非イオン性ヒドロトロープ剤を槽18に戻すために使用する。抽出装置6内で酸性水相21と有機相51とを混合した後には、希土類群又はアクチニド群に属する少なくとも数種の元素を有機相51に移す。その後、このように金属を含む有機相51を、導管611を介して、複数の段階(図示せず)を含む脱抽出装置7の第1工程に移す。希土類群又はアクチニド群に属する元素を少なくとも部分的に含まない平衡化酸性水相を、導管612を介して脱抽出部23に送る。脱抽出部23により、前記酸性水相に含まれる非イオン性ヒドロトロープ剤が回収可能になる。前記非イオン性ヒドロトロープ剤は、溶媒121との混合物の形態であり、好ましくはIsaneなどの脂肪族化合物の混合物から成る。溶媒121は、導管2311を介して槽13に送られる。脱抽出部23の排出口では、非イオン性ヒドロトロープ剤を含まない酸性水相(ラフィネート)を導管2312を介して容器24に移す。その後、この容器24は空にできる。
【0153】
設備1はまた、非イオン性ヒドロトロープ剤を含む脱抽出溶液81を収容する槽8も備える。槽8には、導管911を介して槽9から水溶液91が供給され、また導管1011を介して槽10から前記非イオン性ヒドロトロープ剤101が供給される。導管812はヒドロトロープ剤を槽10に戻すために使用し、導管811は脱抽出溶液81を脱抽出装置7に該装置の最終段階で供給するために使用する。希土類群又はアクチニド群71に属する元素の少なくとも一部を含む脱抽出溶液は、脱抽出装置7から排出されると、導管711を介して脱抽出部11に移る。Isane系溶媒121を収容した槽12は導管1211を介して槽11に接続されている。溶媒121を脱抽出部11に導入することにより、脱抽出溶液81に含有される非イオン性ヒドロトロープ剤を回収できるようになる。非イオンヒドロトロープ剤を含まないが希土類群又はアクチニド群に属する元素を含む脱抽出溶液は、導管1112を介して容器20に送られる。溶媒121と非イオン性ヒドロトロープ剤との混合物は、導管1111を介して槽13に移り、槽13自体は導管1311を介して蒸留部14に接続されている。蒸留部14により、非イオン性ヒドロトロープ剤を溶媒121から分離することが可能になる。蒸留部14から排出された非イオン性ヒドロトロープ剤は、導管1411を介して槽15に回収された後、導管1511を介して槽16に戻る。蒸留部14から排出された溶媒121は、次に導管1412を介して槽12に移る。この槽12は脱抽出部23に溶媒を供給するために更に使用する。
この脱抽出部23には導管1212を介して溶媒121が供給される。
また、脱抽出装置7の排出口では、希土類群又はアクチニド群に属する元素を少なくとも部分的に含まない有機相が、導管712を介して槽16に移る。槽16により、有機相中の非イオン性ヒドロトロープ剤の量を、導管1611を介して槽5に移る前に再調整することが可能となる。
その後、容器20内の脱抽出溶液に含有された希土類群又はアクチニド群に属する元素は、例えばこれらの元素を前記溶液中に析出させるといった従来の技術により回収できる。
【国際調査報告】