(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】エダラボンデクスボルネオール含有組成物の認知障害の治療における応用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4152 20060101AFI20241112BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241112BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K31/4152
A61P43/00 121
A61P25/28
A61K31/045
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527204
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-08
(86)【国際出願番号】 CN2022129456
(87)【国際公開番号】W WO2023078325
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】202111311631.1
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523266350
【氏名又は名称】ニューロドーン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】522447565
【氏名又は名称】シムサー ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チョンピン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、レイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ロン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、シーパオ
(72)【発明者】
【氏名】レン、チンション
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA05
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA13
4C206CA14
4C206KA08
4C206MA02
4C206MA03
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4C206MA05
4C206NA05
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZC75
(57)【要約】
組成物の認知障害の改善又は治療における応用であって、該組成物は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオール又はデクスボルネオールを含有し、該認知障害は、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症(VD)、軽度認知障害(MCI)及び他のタイプの認知症を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の認知障害の改善又は治療における応用であって、前記組成物は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオール又はデクスボルネオールを含有する、応用。
【請求項2】
前記組成物は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びデクスボルネオールを含有する、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項3】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は10:1~1:8である、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項4】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は7.5:1~2.5:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項5】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は5:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項6】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は4:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項7】
前記組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、ことを特徴とする請求項1~6に記載の応用。
【請求項8】
前記認知障害は、アルツハイマー病、血管性認知症、軽度認知障害及び他のタイプの認知症を指す、ことを特徴とする請求項1~6に記載の応用。
【請求項9】
前記認知障害は、アルツハイマー病、血管性認知症及び軽度認知障害を指す、ことを特徴とする請求項1~6に記載の応用。
【請求項10】
前記認知障害は、アルツハイマー病を指す、ことを特徴とする請求項1~6に記載の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月08日に中国特許局に提出された、出願番号が202111311631.1であり、発明名称が「エダラボンデクスボルネオール含有組成物の認知障害の治療における応用」である中国特許出願の優先権を主張し、その内容のすべては、参照により本出願に取り込まれる。
【0002】
本発明は製薬分野に属し、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオールの組成物の認知障害の治療における応用に関する。
【背景技術】
【0003】
認知症(dementia)は、獲得性認知機能障害を核とし、患者の日常生活能力、学習能力、仕事能力及び社会的コミュニケーション能力の明らかな減退を引き起こす症候群である。患者の認知機能障害は、記憶、学習、見当識、理解、判断、計算、言語、視空間機能、分析及び問題解決能力に関し、病気経過のある段階では、精神的、行動的、及び人格的な異常を伴うことが多い。認知症は変性性及び非変性性認知症を含み、前者はアルツハイマー(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性(FTLD)などを含み、後者は血管性認知症(VaD)、正常圧水頭症並びに外傷性脳損傷、感染、免疫、腫瘍、中毒及び代謝性疾患のような他の疾患による認知症を含む(2018年中国認知症及び認知障害診断ガイドライン、中華医学雑誌、2018.98 (13), p: 965-970)。
【0004】
ADは、発症の進行が遅く、経時的に悪化していく神経退行性疾患であり、現在、治癒、予防、又は病状の進行を遅らせることができない唯一の疾患である。2020年にWHOが発表した世界トップ10の死亡原因の中でADは7位になった。ADの最もよく見られる初期症状は短期記憶の喪失(最近の出来事を覚えることが困難である)であり、疾患が進行していくにつれて、症状は、言語障害、見当識障害(迷路しすいことを含む)、気分の不安定、動機の喪失、自理不能、及び多くの行動問題を含めて、徐々に現れる可能性がある。状況が悪化すると、患者はその原因で家庭又は社会から切り離され、次第に身体機能を失って死に至ることがある。病気経過が人それぞれであるが、診断後の平均余命は約3~9年である。
【0005】
国際アルツハイマー症協会が公開した『世界アルツハイマー報告書2021』によると、2019年時点で世界には合計5500万人のアルツハイマー症患者がいるが、高齢化の傾向に伴い、AD患者は2030年には世界で7800万人、2050年には1.29億人に達すると予測されている。中国はすでに人口高齢化の急速な発展段階に入っており、高齢者人口の数が増加し続けている。2018年末までに、中国の60歳以上の高齢者人口は2.49億人に達し、総人口の17.9%を占めており、65歳以上の高齢者人口は1.66億に達し、総人口の11.9%を占めている。2017年の全国精神疾患の疫学調査によると、中国の65歳以上の集団の老年期認知症罹患率は5.56%である(The Lancet Psychiatry, 2019. 6(3): p. 211-224)。近年のメタアナリシスによると、中国の60歳以上の集団の認知症の総罹患率は5.3%である。60歳以上の認知症患者は、約1000~1100万人であり、そのうちの60%がADである(The Lancet Neurology, 2020. 19(1): p. 81-92.)。
【0006】
米国FDAに承認された五つの「既存薬」は、AD患者のいくつかの症状を緩和することができ、四つのコリンエステラーゼ抑制剤であるタクリン(肝毒性が原因で市場から撤退した)、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン及び一つのNMDAR拮抗薬であるメマンチンを含む(Molecules, 2020. 25(24))。なお、2019年11月に中国NMPAにより条件付承認されたオリゴマン酸ナトリウムカプセル(九期一(登録商標)、GV-971、低分子酸性オリゴ糖)は、脳-腸軸を標的とし、軽度から中等度のAD患者の認知機能を改善する(First Approval. Drugs, 2020. 80(4): p. 441-444)。2021年6月7日に米国FDAにより条件付承認されたaducanumab(Aduhelm(登録商標)、anti-Aβマブ)という可溶性及び不可溶性Aβアミロイドを標的とするIgG1モノクローナル抗体薬物は、軽度認知障害又は軽度AD患者を治療するためのものである(First Approval. Drugs, 2021. 81(12): p. 1437-1443.)。しかし、現在、全ての承認された薬物は、まだADを治癒することができず、臨床ではより効果的で、より疾患の進行を遅らせることができるAD治療薬が必要である。
【0007】
3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン、edaravone)は、フリーラジカルを除去できる低分子化合物である。インビトロレベル(in vitro)では、エダラボンは、0.156~5 μMの濃度範囲で、濃度依存的に、Aβ1-42モノマーが凝集してAβプロトフィブリル(fibrils)になることを抑制し、Aβプロトフィブリルを解重合することができ、エダラボンは、ASH-SY5Y及び初代皮質ニューロンに対するβ1-42の神経毒性を低下させ、細胞生存率を向上させ、神経突起の成長を維持することができる。APP695タンパク質が安定的に発現するSY-SY5Y(SH-SY5Y-APP695)において、エダラボン(0.3~3 μM)は、濃度依存的に、BACE1発現及びAPP切断によるAβの生成を減少させて、GSK-3βの活性化を抑制し、tauリン酸レベルを低下させることができる(Proc Natl Acad Sci U S A, 2015. 112(16): p. 5225-30)。なお、エダラボンは、H2O2及びグルタミン酸誘導性初代海馬ニューロンの死亡を減少させ、ニューロンシナプスの成長を保護し、過剰酸化及び興奮性神経毒性を減少させることができる(Neurotoxicology, 2021. 85: p. 68-78)。インビボレベル(in vivo)では、エダラボンは、様々な認知症モデルラット又はマウスの認知機能を改善し、脳内酸化の指標、神経炎症、Aβプラーク形成、tauリン酸化レベルを減少させるなどのことができる。スコポラミン誘導性ラット認知症モデルにおいて、エダラボンを15 mg/kg/dayで7日間連続経口投与することは、スコポラミン誘導性空間学習及び長期記憶障害を改善することができる(International Journal of Pharmacology, 2013. 9(4): p. 271-276)。ラット海馬歯状回にオリゴマー化されたAβ1-40を注射するモデルにおいて、Aβを脳内注射するとともにエダラボン(5 mg/kg)を同一部位で投与することは、ラットの水迷路中での空間学習及び記憶能力を有意に改善し、海馬における4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-HNE)付加物のレベルを低下させ、Aβ注射で上昇したAChE及びChAT酵素活性を回復させることができる(Neurological Sciences, 2015. 36(11): p. 2067-2072)。側脳室にSTZ(ICV-STZ)を注射して学習記憶障害を誘導する散発性AD(SAD)ラットモデルにおいて、ICV-STZモデル作成後、14日間連続してエダラボンを9 mg/kg/dayで腹腔内注射により投与することは、ICV-STZモデルラットの水迷路試験(Morris water maze test)での空間学習及び記憶能力、及びステップダウン型受動的回避試験(step-down passive avoidance test)での非空間的長期記憶能力を有意に向上させることができ、STZモデル作成による海馬及び皮質中の様々な酸化ストレス指標レベルの変化を有意に回復させることができ、マロンジアルデヒド(MDA)、4-HNE付加物、・OH、タンパク質カルボニル(PC)、H2O2、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、還元型グルタチオン(GSH)、グルタチオンペルオキシダーゼを含む(GPx)(NeuroToxicology, 2013. 38: p. 136-145)。なお、エダラボン(1、3及び10 mg/kg/day)を28日間連続経口投与することは、同様に、ICV-STZラットの水迷路及び受動的回避試験における認知機能を改善し、STZによる脳内酸化ストレス、コリン作動性異常及び炎症を低減することができる(Eur J Neurosci, 2017. 45(7): p. 987-997)。AlCl3/D-ガラクトース化学誘導性マウス認知障害モデルにおいて、エダラボンを15日間連続腹腔内投与することは、マウスの水迷路及びステップダウン試験における認知機能を有意に改善することができる(Neurotoxicology, 2021. 85: p. 68-78)。なお、L-メチオニン誘導性ラット血管性認知症モデルにおいて、エダラボンを6 mg/kg/dayで9週間連続腹腔内投与することは、モデルラットの8アーム水迷路試験における空間学習及び記憶能力を有意に改善することができる(Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol, 2020. 393(7): p. 1221-1228)。APP/PS1トランスジェニックマウスモデルにおいて、エダラボン12.6 mg/kg(腹腔内注射、週に2回)の予防投与(3~9月齢)及び治療投与(9~12月齢)は、いずれもマウスの水迷路試験における認知機能の欠陥を改善し、脳内Aβプラークの沈着、ニューロン及び神経シナプスの喪失並びに神経炎症、tauタンパク質リン酸化(pSer396、pSer262、pSer199及びpThr231)及び酸化ストレスなどを減少させることができる。同様に、エダラボンのマウスへの経口投与におけるバイオアベイラビリティー(38%)に基づいて換算した後、マウス(3~12月齢)に33.2 mg/kg/dayで経口投与(飲水投与)することは、同様に、脳内Aβプラーク沈着を減少させ、マウスの認知機能を改善することができる(Proc Natl Acad Sci U S A, 2015. 112(16): p. 5225-30)。なお、APP/PS老齢マウス(14~17月齢)にエダラボン(8、24及び72 mg/kg/day、飲水投与)を経口投与することは、老齢トランスジェニックマウスの認知機能を有意に改善することができる(Drug Design, Development and Therapy, 2018. Volume 12: p. 2111-2128)。tau P301Lトランスジェニックマウス前頭側頭型認知症(FTD)モデルにおいて、9~10月齢及び21月齢のトランスジェニックマウスにエダラボンを24 mg/kg/dayで3ヶ月連続経口投与(飲水投与)することは、動物の水迷路試験及び新規物体認識試験における認知機能を有意に改善し、動物の運動欠陥を改善し、脳組織の4-HNE及び3-NT付加物の産生、tauリン酸化レベル及び神経炎症を減少させることができる(DOI: https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-306628/v1)。
【0008】
エダラボンの化学構造式は以下のとおりであり、
【化1】
【0009】
デクスボルネオール((+)-borneol)は、天然ボルネオールの主な成分であり(2020版中国薬典では、天然ボルネオールにおけるデクスボルネオール含有量が96%以上であると規定されている)、二環式モノテルペン化合物であり、多くの漢方薬の揮発性油中に存在する。デクスボルネオールは、NF-κB及びp38シグナル経路を調節し、炎症性神経炎を抑制し、脳内の複数の炎症促進因子(TNF-α、IL-1βなど)及び炎症性タンパク質(iNOS及びCOX-2)を減少させることができ(Eur J Pharmacol, 2014. 740: p. 522-31、Eur J Pharmacol, 2017. 811: p. 1-11)、なお、さらに抑制性GABAAR受容体を興奮させることができ、興奮性神経損傷を調節することができる(Front Pharmacol, 2021. 12: p. 606682)。
【0010】
デクスボルネオールの化学構造式は以下のとおりであり、
【化2】
【0011】
非臨床動物実験によると、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン及びデクスボルネオールの組成物(質量比4:1~1:1)は、相乗的に、脳梗塞面積を減少させ(発行済み特許CN101848711B)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を改善する(発行済み特許CN107613976B)ことができる。脳卒中を治療する新薬の研究開発において、エダラボンデクスボルネオール注射用濃溶液(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンとデクスボルネオールとの質量比が4:1である組成物)は、すでに2020年に虚血性脳卒中を治療するためのものとしてNMPAにより承認され、Y-2舌下錠(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンとデクスボルネオールとの質量比が5:1である組成物)は、すでに中国で第III相研究(中国臨床登録番号CTR20210233)、米国で第I相研究(ClinicalTrials.govNCT03495206)を行った。
【0012】
従来技術によれば、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン及びデクスボルネオールの組成物が認知症及びそれに関連する認知機能障害に対して治療作用を有するか否かを予測することができず、従来の3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン及びデクスボルネオールの組成物が相乗的な作用を奏するか否かは判断することもできない。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、医薬組成物の、認知機能障害を改善又は治療する医薬品の製造における応用を提供することであり、前記の医薬組成物は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン)又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールを含有する。
【0014】
本発明の別の目的は、医薬組成物の認知機能障害の改善又は治療における応用を提供することであり、ここで、それを必要とする患者に、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールを含有する医薬組成物を投与する。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、認知機能障害を治療するための医薬組成物を提供することであり、ここで、前記組成物は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールを含む。
【0016】
本発明のさらなる目的は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩と天然ボルネオールとの併用の、認知機能障害の治療における応用。
【0017】
さらに、前記医薬組成物中の3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールの併用は、認知機能障害の治療における効力を相乗的に増大させることができる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、前記認知機能障害は、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症(VD)、軽度認知障害(MCI)及び他のタイプの認知症であり、好ましくは、前記認知機能障害は、アルツハイマー病、血管性認知症及び軽度認知障害である。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記医薬組成物は、アルツハイマー病の認知機能を改善することができる。
【0020】
本発明の別の実施形態において、前記医薬組成物は、アルツハイマー病の海馬領域の長期増強(LTP)を回復させ、脳の海馬シナプスの機能を回復させることができる。
【0021】
本発明のさらなる実施形態において、前記医薬組成物は、アミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖及びtauタンパク質の過リン酸化などを含むアルツハイマー病の病理を改善することができる。
【0022】
本発明に記載の組成物において、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩:ボルネオールとの重量比は、10:1~1:8であり、好ましくは、7.5:1~2.5:1であり、さらに好ましくは、5:1又は4:1である。
【0023】
本発明に記載のボルネオールは、好ましくは、天然ボルネオールであり、前記天然ボルネオールはデクスボルネオールとも呼ばれる。
【0024】
本発明に記載の医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含んでもよい。
【0025】
賦形剤は、一般的には、薬物治療の活性な薬物成分(「API」)とともに調製される薬理学的不活性物質である。剤形を生産する場合、原薬の便利で正確な分配を可能にするために、しばしば賦形剤を用いて、有効な活性成分を含有する製剤を増量する(したがって「増量剤」、「充填剤」又は「希釈剤」と呼ばれることが多い) 。それは、薬物の吸収又は溶解の促進、又は他の薬効動力学的考慮などの異なる治療強化目的にもサポートすることができる。
【0026】
さらに具体的には、本発明の組成物は、単独で又は薬学的に許容可能な担体もしくは希釈剤と組み合わせて医薬組成物として調製することができ、且つ錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏、溶液、坐剤、注射液、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、エアゾール剤などの固体、半固体、液体又は気体形態の製剤として調製することができる。したがって、化合物の投与は、様々な形態で達成することができ、経口、頬、直腸、非経口、腹膜内、皮下、経皮、管内、関節内投与などを含む。活性剤は、投与後、全身的であってもよく、又は局所投与、壁内投与もしくは活性剤の量を移植部位に保持できるインプラントの使用によって局在化されてもよい。
【0027】
本発明で使用される組み合わせ療法は、各単一療法の用量が標準操作で現在使用されているものより低いことを許容するとともに、いずれかの単一療法を一般的に投与される場合の効果を超える効果を含めて、著しい効果を実現することができる。当業者であれば、用量レベルが、特定の化合物、症状の重症度及び副作用に対する被験者の感受性によって変化することを容易に理解するであろう。いくつかの特定の化合物は他のものよりも効果的である。特定の化合物の好ましい用量は、当業者により様々な手段で容易に確定することができる。好ましい手段は、特定の化合物の生理学的効果を測定することである。組み合わせ療法の使用は、各単一療法の用量が標準操作で現在使用されているものより低いことを許容するとともに、いずれかの単一療法を一般的に投与する場合に実現するものよりも大きな効果を含めて、著しい効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】エダラボンデクスボルネオール組成物によるAβ
1-42誘導性ニューロン損傷の保護を示した図である。
【
図2】エダラボンデクスボルネオール組成物によるICV-STZの空間学習記憶認知機能の改善を示した図である。
【
図3】エダラボンデクスボルネオール組成物がADトランスジェニックマウスの水迷路試験における認知機能に与える影響を示した図である。
【
図4】エダラボンデクスボルネオール組成物がADトランスジェニックマウスのY字迷路試験における認知機能に与える影響を示した図である。
【
図5】エダラボンデクスボルネオール組成物がADトランスジェニックマウスの脳切片の電気生理学に与える影響を示した図である。
【
図6】エダラボンデクスボルネオール組成物が5×FADトランスジェニックマウスの脳内AD関連病理に与える影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
下記実施例は、例を挙げて本発明を説明し、本発明を限定するものであると見なされるべきではない。実施例で言及されるエダラボンは3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンである。
実施例1:エダラボン及びデクスボルネオールの組成物によるAβ1-42誘導性初代皮質ニューロン損傷に対する保護
1 材料及び方法
1.1 動物
【0030】
SD妊娠ラット、上海斯莱克実験動物有限責任公司(生産許可証番号:SCXK(滬)2017-0005)
1.2 試薬及び消耗品
【0031】
【0032】
1.3 初代皮質ニューロンの製造
妊娠18日間のSD妊娠ラットを頸椎脱臼により屠殺し、ラットの子宮を解剖してE18胎仔の脳を摘出し、胎仔の大脳皮質組織を氷冷DMEMに分離し、解剖顕微鏡下で皮質組織上の髄膜及び血管を取り除き、皮質組織を氷冷DMEMに移して切断し(薬1 mm3)、パンクレアチンにより37℃で10 min消化し、FBSで消化を停止し、パスツールピペットで軽く吹き飛ばした後に200メッシュの篩を通過した。濾過された細胞懸濁液を15 mLの遠心管に移し、1000 rpmで5 min遠心分離し、上清を吸い出して捨てた後、37℃で予熱された完全培地(Neurobasal + B27 + GlutaMax + 1% P/S)で遠心管底部の細胞塊を軽く吹き飛ばし、血球計数板で計数し、完全培地で5×105細胞/mLまで希釈し、PDLでコーティングした96ウェルプレート内に接種し(100 μL/ウェル)培養し、翌日、完全培地で半分の液を交換し、11日目にニューロンが分化して成熟するまでインビトロ培養し、低酸素低グルコース負荷試験に用いた。
1.4 Aβ1-42誘導性初代皮質ニューロンの興奮性損傷試験
【0033】
インビトロで成熟した原代ニューロン培地を、異なる濃度(1.2、3.7、11.1、33.3、100.0μM)のエダラボン(E)、デクスボルネオール(B)又はエダラボンデクスボルネオール組成物(EB)を含有する完全培地に交換し、37℃で30 minインキュベートした後、オリゴマー化されたAβ
1-42(最終濃度50 μM)を加え、24 h培養し続け、ニューロンの生存率を検出した。Luminescent Cell Viability Assayキットを用いて、原代ニューロン細胞の生存率を検出した。取扱説明書に従って試薬を100 μL/ウェルで加え、10 min振盪し、SpectraMax i3X(Molecule Device)多機能性プレートリーダー上で化学発光値(LUM)を読み取り、ニューロンの相対生存率を計算した。計算式:
【数1】
LUM
バックグラウンドは、Luminescent Cell Viability Assay試薬を細胞のない完全培地ウェルに加える場合のバックグラウンド読み取りである。
【0034】
【0035】
1.5 データ統計
Prismソフトウェア(GraphPad)を用いてOne-way ANOVA一元配置分散分析を行った後、Uncorrected Fisher’s LSDを用いて二つの群の間の差異を分析した。P<0.05は、有意差があることを表す。Ex又はByは、DMSO群に比べて、#p<0.05であり、####p<0.0001であり、**p<0.01であり、***p<0.001であり、 ****p<0.0001,であり、ExByはEx及びBy群の両方に比べて有意差があった。
2 実験結果
【0036】
オリゴマー化されたAβ1-42は初代ニューロン生存細胞の生存率の低下を引き起こす。Aβ1-42誘導前のエダラボン(3.7~100 μM)又はデクスボルネオール(1.2~100μM)のプレインキュベーション及び投与は、Aβ誘導性神経毒性を濃度依存的に抑制し、細胞生存率を向上させることができる。異なる濃度のエダラボン(1.2、3.7、11.1、33.3、100.0μM)及びデクスボルネオール(1.2、3.7、11.1、33.3、100.0μM)の直交組成物は、Aβによるニューロン損傷を抑制することができ、特にE5B4(3.3:1)、E5B3(9:1)、E4B5(1:3.3)、E4B4(1:1)、E4B3(3.3:1)、E3B5(1:9)、E3B4(1:3.3)、E3B3(1:1)、E3B2(3.3:1)、E3B1(9:1)及びE2B2(1:1)組成物の保護作用は、対応する個々の保護作用より有意に優れていた(エラー! 参照元が見つかりません)。これにより、エダラボンとデクスボルネオールとのモル比9:1~1:9(質量比10:1~1:8)の比率範囲での組成物は相乗的な作用を有すると仮判断された。
実施例2:エダラボン及びデクスボルネオールの組成物による側脳室STZ注射誘導性認知症ラットの認知機能の改善
1 実験材料
1.1 実験動物
【0037】
Wistarラット、雄性、体重250~300 g、110匹、クリーン グレード、上海斯莱克実験動物有限責任公司により提供され、許可証番号:SCXK(滬)2012-0002。手術前後に通常通り飼育し、室温を23~25℃に維持し、自由に摂食させ、飲水させた。
1.2 試験機器
【0038】
Morris水迷路(Topscan lite 2.0分析ソフトウェア、Clever Systems);ラット脳ステレオタキシック(カタログ番号51600、Stoeling);分析天秤(カタログ番号AL104、Melttler Toledo)。
1.3 被験薬物
【0039】
エダラボン注射液(必存(登録商標))、活性成分3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン。エダラボンデクスボルネオール組成物(重量比が7.5:1、5:1及び2.5:1である)は必要な場合に調製して使用し、溶媒対照は8%プロピレングリコールである。
2 実験設計
2.1 実験のグループ分け及び投与
【0040】
実験動物を5つの群に分け、即ち偽手術群、モデル群、エダラボン群(6 mg/kg)、エダラボンデクスボルネオール(7.5:1)組成物(エダラボン6 mg/kg、デクスボルネオール0.8 mg/kg)、エダラボンデクスボルネオール(5:1)組成物(エダラボン6 mg/kg、デクスボルネオール1.2 mg/kg)、エダラボンデクスボルネオール(2.5:1)組成物(エダラボン6 mg/kg、デクスボルネオール2.4 mg/kg)である。モデル及び偽手術群動物に、対応する体積のブランク溶媒(8%プロピレングリコール)を投与し、全ての投与はいずれも腹腔内注射による投与であり、投与体積が10 mL/kgである。
2.2 実験手順
【0041】
実験において、偽手術群を除いて、手術に成功した動物を順にモデル及び各投与群にランダムに分けた。上記投与量設定原則に従って、各群の動物に、術後4時間に対応する薬物を静脈内注射し、その後に毎日一回投与し、14日間連続投与し、15日目にMorris水迷路実験を開始し、水迷路検出期間に、試験全体が終了するまで、毎日実験前に一回投与した。各群の動物に対していずれも水迷路試験を行い、隠しプラットフォーム逃避潜伏期間、撤去後の元ホームの所在象限の滞留時間である。
3 実験方法
3.1 ラット両側側脳室へのストレプトゾトシン(STZ)注射による認知症モデルの作成
【0042】
ラットを麻酔した後、腹臥位でステレオタキシックに固定し、背側頸正中切開を行い、頭蓋骨を露出し、ブレグマを座標とし、ブレグマより後方0.8 mm、側方1.5 mm、深さ3.6 mmの位置を側脳室注射点とした。マイクロインジェクタを用いて、両側脳室内にそれぞれSTZ(人工脳脊髄液で調製した)を10 μL注射し、1 min内に注射を完成し、針を3 min残した。注射終了後に皮膚を縫合した。初日用量は1.5 mg/kgであり、3日目に初日のSTZ注射方法を繰り返すと、STZの総注射量は3 mg/kgである。偽手術群動物の両側側脳室に同体積の人工脳脊髄液を注射した。
3.2 Morris水迷路実験
【0043】
Morris水迷路プールは、直径が160 cmであり、高さが50 cmであり、水深が29 cmである。プラットフォームは、直径が12 cmであり、高さが27 cmであり、SE象限(目的象限)の水面下2 cm位置に固定されていた。カメラレンズは、ラットの移動軌跡を同期記録するために、プールの中心から上方にプールの底部から2 m離れる位置に配置された。水温を22±1℃に維持した。実験は合計5日間であり、隠しプラットフォーム試験及び空間探索試験を含む。最初の4日間は隠しプラットフォーム試験であり、最後の日は空間探索実験である。
【0044】
(1)隠しプラットフォーム試験(hidden platform trial)
【0045】
本実験は4日間続き、試験時にプラットフォームの位置を目的象限(SE象限)に固定し、それぞれ四つの象限の水入り点から水に入れ、訓練時に動物をプールの壁の標識に面して軽く水に入れ、動物がプラットフォームを見つける時間(逃避潜伏期間、escape latency)を記録し、そして動物をプラットフォーム上に10 s滞留させた。90 s以内にプラットフォームが見つからない場合、潜伏期間を90sと記し、動物をプラットフォーム上に誘導して10 s滞留させた。訓練が終了した後、ラットを飼育ケージに戻し、保温に注意した。毎日4つの水入り点で1回ずつ訓練し、4回の潜伏期間の平均値をこの日の成績として統計分析した。毎日、各動物の水入り点の順序は一致したが、グループ内の動物間の情報の交流を排除するために、同じケージ内の異なる動物の水入り順序は異なっていた。
【0046】
(2)空間探索試験(probe trial)
【0047】
隠しプラットフォーム試験終了後24 hにプラットフォームを撤去した。そしてプラットフォームの対面の水入り点から水に入れ、ラットの120s内の水泳経路を記録し、ラットの目的象限での滞留時間を統計し分析した。被験動物の空間測位能力及び空間探索過程における変化規律を観察した。
3.3 データ統計
【0048】
データはMean ± SEMとして表された。各群の間の統計学的分析はPrismソフトウェア(GraphPad、USA)を用いて分析し、2群以上の比較は、One-way 又はTwo-way ANOVAを用いて検出した後、Fisher’s LSD testを用いて分析した。P<0.05は、有意差があることを表す。偽手術群に比べて、####p<0.0001であり、モデル群に比べて、*p<0.05であり、 **p<0.01であり、 ***p<0.001であり、****p<0.0001であり、 & p<0.05、&& p<0.01により、2群の比較を示した。
4 実験結果
【0049】
水迷路隠しプラットフォーム試験では、偽手術群に比べて、側脳室STZ(ICV-STZ)注射モデルは、逃避潜伏期間が有意に延長し、ICV-STZラットに認知機能障害が発生したことを示した。エダラボン(6 mg/kg)又はエダラボンデクスボルネオール組成物(7.5:1、5:1及び2.5:1)の腹腔内注射は、ICV-STZラット逃避潜伏期間を有意に短縮することができる。エダラボン投与群に比べて、エダラボンデクスボルネオール(7.5:1、5:1及び2.5:1)組成物は、ICV-STZモデルラットに対する学習機能の向上がエダラボンよりも優れていた(エラー! 参照元が見つかりませんA)。水迷路空間探索試験では、ICV-STZモデルラットは、目的象限での滞留時間が有意に短縮された。モデル群に比べて、エダラボン(6 mg/kg)又はエダラボンデクスボルネオール組成物(7.5:1、5:1及び2.5:1)腹腔内注射投与群は、ラットの目的象限での滞留時間が有意に延長し、且つエダラボンデクスボルネオール組成物(5:1及び2.5:1)群はエダラボン群より有意に優れていた(エラー! 参照元が見つかりませんB)。そのため、エダラボンデクスボルネオール組成物(7.5:1、5:1及び2.5:1)は、ICV-STZラットの認知機能欠陥を有意に改善することができ、且つその効力がエダラボンより明らかに優れていた。
実施例3:エダラボンデクスボルネオール組成物の長期投与が5×FADトランスジェニックマウスのAD認知機能及びAD病理に与える影響
1 材料及び方法
1.1 試験動物
【0050】
野生型WTマウス及び5×FADトランスジェニックマウスは、いずれも中国薬科大学の司馬健研究チームにより提供された。
1.2 被験薬物及び試薬
【0051】
エダラボン、即ちエダラボン注射液(必存(登録商標)、先声薬業)であり、活性成分が3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンである。エダラボンデクスボルネオール組成物、即ちエダラボンデクスボルネオール注射用濃溶液(先必新(登録商標)、先声薬業)であり、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンとデクスボルネオールとの質量比が4:1である。溶媒対照は8%のプロピレングリコールである。
1.3 実験方法
【0052】
本試験では、4群に分け、各群のマウスは8週齢から投与を開始し、16週間毎日連続投与した後、水迷路及びY字迷路行動学的実験を行い、行動学的検出が完了した後に動物を屠殺し、脳切片の電気生理学及び脳内AD病理を検出し、Aβプラーク、GFAP及びIba-1などのバイオマーカー並びにp-Tauなどの検出を含む。
1.3.1 動物の群分け及び投与
【0053】
WT: 溶媒対照群:野生型マウス10匹に、溶媒対照を、10 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
【0054】
5×FAD: 溶媒群:5×FADマウス10匹に、溶媒対照を、10 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
【0055】
5×FAD: エダラボン群:5×FADマウス10匹に、エダラボン(必存(登録商標))6 mg/kgを、10.0 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
【0056】
5×FAD: 組成物群:5×FADマウス10匹に、エダラボンデクスボルネオール(先必新(登録商標))7.5 mg/kg(エダラボン:デクスボルネオール=4:1、6 mg/kgのエダラボン及び1.5 mg/kgのデクスボルネオールを含有する)を、10.0 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
1.3.2 水迷路実験:
【0057】
実験開始前、環境に順応させるためにマウスを試験室に30 minほど置く必要がある。
【0058】
実験の準備:水迷路の恒温プール(内径120 cm、高さ50 cm)内に清水を注入し、水温を18~22℃ほどに制御し、プールの四つの頂点をそれぞれ「S」、「N」、「W」、「E」として記し、プラットフォームを「SW」方向に水面より1~2 cm低い位置に置き、水の中に二酸化チタンを添加して、水を不透明の乳白色にした。
【0059】
パラメータ設定:試験時間を1 minに設定し、マウスのプラットフォームでの滞留時間を2 sに設定した。
【0060】
訓練:最初の5日間は水迷路の訓練段階であり、毎日四つの異なる方位からそれぞれマウスをプールに入れ、それらがプラットフォーム上に乗る前の軌跡、時間並びに各象限での経路及び時間を記録した。1min以内にプラットフォームを見つけなかったマウスに対して、1min終了後、プラットフォーム上に案内し、10~15s滞留させた。マウスが放たれた具体的な方位は表1に示すとおりである。
【0061】
【0062】
試験:訓練終了後1日目に試験を行った。試験時、プラットフォームを撤去し、試験時間が60sであり、NE方位にマウスを投入し、試験中にマウスがプラットフォームを横断した回数及びプラットフォームの所在象限にいた時間を記録した。
1.3.3 Y字迷路実験:
【0063】
実験開始前、環境に順応させるためにマウスを試験室に30 minほど置く必要がある。
【0064】
訓練:Y字迷路の片方のアームをシャッターで遮り、残りの2本のアームのうちの片方のアームの末端にマウスを置き、自由に15 min探索させて録画した。
【0065】
試験:1 h訓練した後、シャッターを撤去し、アルコールでY字迷路の通路を拭き、前のマウスの匂いを取り除き、試験対象マウスを同じ位置に5 min置き、録画し、試験では、マウスが3本のアームに入った合計回数に対する新たに開放されたアームに入った回数の割合を記録した。
1.3.4 脳切片の電気生理学的検出
【0066】
マウスの行動学的検出が終了した後に電気生理学的記録を行った。麻醉後に全てのマウスに安楽死を実施し、脳組織を迅速に回収し、 4 ℃の酸素含有(95% O2/5% CO2)人工脳脊髄液(ACSF)(75 mM ショ糖、87 mM NaCl、2.5 mM KCl)中、1.25 mM NaH2PO4、21.4 mM NaHCO3、0.5 mM CaCl2、7 mM MgCl2及び20 mM グルコース)中に貯蔵した。海馬切片を振動ナイフにより 4℃の酸素含有ACSF中で切断し、32℃の酸素含有ACSF中にあった。次に、記録する前に切片を室温で1 時間インキュベートした。海馬 LTP は、二つの電気θパルス刺激(TBS)により誘導された。Clampex及びClampfit 8.2 (Molecular Devices)を用いてデータの収集及び分析を行った。
1.3.5 AD病理検出(免疫組織化学試験)
【0067】
動物行動学的検出が終了した後、マウスに対して心臓灌流を行った後に脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒドに24h固定し、30%のショ糖で脱水させ、包埋剤で急速凍結し包埋し、脳切片(厚さ30 μM)を行った。海馬領域がある脳切片を選択し、PBSで5 min×3回洗浄し、0.2%のTritonで透過処理し、PBSで7 min×3回洗浄し、Blocking buffer(2.5%BSA, 0.3% Triton)を用いて1hブロックし、脳切片を一次抗体中に4℃で一晩放置した。翌日、脳切片を一次抗体から取り出し、PBSで5 min×3回洗浄し、脳切片を二次抗体中に入れ、室温で遮光して1 hインキュベートし、脳切片を取り出し、PBSで5 min×3回洗浄し、DAPI含有抗蛍光消光剤を滴加し、マウントした。
1.4 統計分析
【0068】
データはMean ± SEMとして表された。各群の間の統計学的分析はPrismソフトウェア(GraphPad、USA)を用いて分析し、2群以上の比較は、One-way 又はTwo-way ANOVAを用いて検出した後、Fisher’s LSD testを用いて分析した。P<0.05は、有意差があることを表す。WT群に比べて、##p<0.01であり、###p<0.001であり、 ####p<0.0001であり、モデル群に比べて、*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.0001, ****p<0.0001であり、& p<0.05, &&p<0.01, &&&&p<0.0001により、2群の比較を示した。
2. 実験結果
2.1 エダラボンデクスボルネオール組成物によるADトランスジェニックマウスの認知機能欠陥の改善
【0069】
Morris水迷路試験では、同齢の野生型マウス(WT)に比べて、24週齢の5×FADマウスには認知機能欠陥が現れ、具体的には以下のとおりであり、隠しプラットフォーム訓練試験では、5×FADマウスは、2~5日間の逃避期がWTマウスより有意に長く、プラットフォーム撤去試験では、5×FADマウスは、目的象限での滞留時間及びプラットフォーム横断回数がいずれもWTマウスより明らかに少なかった。溶媒対照に比べて、8週齢から5×FADマウスに6 mg/kgエダラボン又は7.5 mg/kgエダラボンデクスボルネオール組成物(6 mg/kgエダラボン及び1.5 mg/kgデクスボルネオールを含有する)を1日1回腹腔内注射により投与し、16週間連続投与して、5xFADマウスの水迷路隠しプラットフォーム試験での逃避潜伏期間を有意に短縮させ(エラー! 参照元が見つかりませんA)、プラットフォーム撤去試験での目的象限における滞留時間及びプラットフォームを横断する回数を延長することができる(エラー! 参照元が見つかりませんB、C)。エダラボン投与群に比べて、組成物投与は、隠しプラットフォーム試験の5日目に逃避潜伏期間がより短くなり、プラットフォーム撤去試験での目的象限における滞留時間がより有意に長くなり、プラットフォームを横断する回数もより多くなった(エラー! 参照元が見つかりませんA、B及びC)。これにより、エダラボン及びエダラボン組成物は、いずれも5×FADマウスの水迷路試験での学習記憶認知機能を改善することができ、且つ組成物の改善作用がエダラボンより有意に優れていることが示された。
【0070】
Y-迷路では、同齢の野生型マウス(WT)に比べて、24週齢の5×FADマウスには認知機能欠陥が現れ、具体的には以下のとおりであり、5×FADマウスは、新たなアームへの進入率が有意に低下し、即ち空間参照記憶機能が低下した。溶媒対照に比べて、8週齢から5×FADマウスに6 mg/kgエダラボン又は7.5 mg/kg エダラボンデクスボルネオール組成物(6 mg/kgエダラボン及び1.5 mg/kgデクスボルネオールを含有する)を1日1回腹腔内注射により投与し、16週間連続投与して、5×FADマウスの新たなアームへの進入率を有意に増加させることができる。エダラボンに比べて、エダラボンデクスボルネオール組成物は、5×FADマウスの新たなアームへの進入率を高める効力が有意に高かった(エラー! 参照元が見つかりません)。これにより、エダラボン及びエダラボン組成物は、いずれも5×FADマウスのY字迷路試験での空間参照記憶認知機能を改善することができ、且つ組成物の改善作用がエダラボンより有意に優れていることが示された。
2.2 エダラボンデクスボルネオール組成物によるADマウス海馬領域シナプスの伝達機能の回復
【0071】
長期増強(LTP)は、シナプス機能の可塑性を反映し、学習及び記憶の主なメカニズムの一つである。水迷路及びY-迷路検出が終了した後、電気生理学的検出により、5×FADマウスの海馬の領域LTPが有意に損なわれることがわかった。5×FADマウス群に比べて、組成物の投与はマウス海馬 LTPを有意に回復させることができるが、エダラボンの投与は5×FADマウスの海馬LTPに対して明らかな回復作用がなく、且つ組成物投与場合のLTP回復もエダラボン群より有意に優れていた(エラー! 参照元が見つかりませんA、B及びC)。これにより、24週齢の5×FADトランスジェニックマウスの海馬領域シナプスの可塑性が損なわれており、一方、エダラボンデクスボルネオール組成物が海馬神経の可塑性を促進し、海馬 LTPをより良好なレベルに回復できることが示された。
2.3 エダラボンデクスボルネオール組成物によるADマウスの脳内AD病理の改善
【0072】
24週齢の5×FADマウスの脳内には、明らかなAD病理が発生しており、βアミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖及び海馬領域の神経細胞内tauタンパク質の過リン酸化を含む。溶媒対照群に比べて、8週齢から5×FADマウスに6 mg/kgエダラボン又は7.5 mg/kgエダラボンデクスボルネオール組成物(6 mg/kgエダラボン及び1.5 mg/kgデクスボルネオールを含有する)を1日1回腹腔内注射により投与し、16週間連続投与して、脳内のAD病理(βアミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖)及び海馬領域のtauリン酸化レベルを有意に低下させることができる。エダラボン投与群に比べて、エダラボンデクスボルネオール組成物は、AD病理(βアミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖)の改善及びtauリン酸化レベルの低下における効力に著しい優位性がある(エラー! 参照元が見つかりません)。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月08日に中国特許局に提出された、出願番号が202111311631.1であり、発明名称が「エダラボンデクスボルネオール含有組成物の認知障害の治療における応用」である中国特許出願の優先権を主張し、その内容のすべては、参照により本出願に取り込まれる。
【0002】
本発明は製薬分野に属し、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオールの組成物の認知障害の治療における応用に関する。
【背景技術】
【0003】
認知症(dementia)は、獲得性認知機能障害を核とし、患者の日常生活能力、学習能力、仕事能力及び社会的コミュニケーション能力の明らかな減退を引き起こす症候群である。患者の認知機能障害は、記憶、学習、見当識、理解、判断、計算、言語、視空間機能、分析及び問題解決能力に関し、病気経過のある段階では、精神的、行動的、及び人格的な異常を伴うことが多い。認知症は変性性及び非変性性認知症を含み、前者はアルツハイマー(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性(FTLD)などを含み、後者は血管性認知症(VaD)、正常圧水頭症並びに外傷性脳損傷、感染、免疫、腫瘍、中毒及び代謝性疾患のような他の疾患による認知症を含む(2018年中国認知症及び認知障害診断ガイドライン、中華医学雑誌、2018.98 (13), p: 965-970)。
【0004】
ADは、発症の進行が遅く、経時的に悪化していく神経退行性疾患であり、現在、治癒、予防、又は病状の進行を遅らせることができない唯一の疾患である。2020年にWHOが発表した世界トップ10の死亡原因の中でADは7位になった。ADの最もよく見られる初期症状は短期記憶の喪失(最近の出来事を覚えることが困難である)であり、疾患が進行していくにつれて、症状は、言語障害、見当識障害(迷路しすいことを含む)、気分の不安定、動機の喪失、自理不能、及び多くの行動問題を含めて、徐々に現れる可能性がある。状況が悪化すると、患者はその原因で家庭又は社会から切り離され、次第に身体機能を失って死に至ることがある。病気経過が人それぞれであるが、診断後の平均余命は約3~9年である。
【0005】
国際アルツハイマー症協会が公開した『世界アルツハイマー報告書2021』によると、2019年時点で世界には合計5500万人のアルツハイマー症患者がいるが、高齢化の傾向に伴い、AD患者は2030年には世界で7800万人、2050年には1.29億人に達すると予測されている。中国はすでに人口高齢化の急速な発展段階に入っており、高齢者人口の数が増加し続けている。2018年末までに、中国の60歳以上の高齢者人口は2.49億人に達し、総人口の17.9%を占めており、65歳以上の高齢者人口は1.66億に達し、総人口の11.9%を占めている。2017年の全国精神疾患の疫学調査によると、中国の65歳以上の集団の老年期認知症罹患率は5.56%である(The Lancet Psychiatry, 2019. 6(3): p. 211-224)。近年のメタアナリシスによると、中国の60歳以上の集団の認知症の総罹患率は5.3%である。60歳以上の認知症患者は、約1000~1100万人であり、そのうちの60%がADである(The Lancet Neurology, 2020. 19(1): p. 81-92.)。
【0006】
米国FDAに承認された五つの「既存薬」は、AD患者のいくつかの症状を緩和することができ、四つのコリンエステラーゼ抑制剤であるタクリン(肝毒性が原因で市場から撤退した)、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン及び一つのNMDAR拮抗薬であるメマンチンを含む(Molecules, 2020. 25(24))。なお、2019年11月に中国NMPAにより条件付承認されたオリゴマン酸ナトリウムカプセル(九期一(登録商標)、GV-971、低分子酸性オリゴ糖)は、脳-腸軸を標的とし、軽度から中等度のAD患者の認知機能を改善する(First Approval. Drugs, 2020. 80(4): p. 441-444)。2021年6月7日に米国FDAにより条件付承認されたaducanumab(Aduhelm(登録商標)、anti-Aβマブ)という可溶性及び不可溶性Aβアミロイドを標的とするIgG1モノクローナル抗体薬物は、軽度認知障害又は軽度AD患者を治療するためのものである(First Approval. Drugs, 2021. 81(12): p. 1437-1443.)。しかし、現在、全ての承認された薬物は、まだADを治癒することができず、臨床ではより効果的で、より疾患の進行を遅らせることができるAD治療薬が必要である。
【0007】
3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン、edaravone)は、フリーラジカルを除去できる低分子化合物である。インビトロレベル(in vitro)では、エダラボンは、0.156~5 μMの濃度範囲で、濃度依存的に、Aβ1-42モノマーが凝集してAβプロトフィブリル(fibrils)になることを抑制し、Aβプロトフィブリルを解重合することができ、エダラボンは、ASH-SY5Y及び初代皮質ニューロンに対するβ1-42の神経毒性を低下させ、細胞生存率を向上させ、神経突起の成長を維持することができる。APP695タンパク質が安定的に発現するSY-SY5Y(SH-SY5Y-APP695)において、エダラボン(0.3~3 μM)は、濃度依存的に、BACE1発現及びAPP切断によるAβの生成を減少させて、GSK-3βの活性化を抑制し、tauリン酸レベルを低下させることができる(Proc Natl Acad Sci U S A, 2015. 112(16): p. 5225-30)。なお、エダラボンは、H2O2及びグルタミン酸誘導性初代海馬ニューロンの死亡を減少させ、ニューロンシナプスの成長を保護し、過剰酸化及び興奮性神経毒性を減少させることができる(Neurotoxicology, 2021. 85: p. 68-78)。インビボレベル(in vivo)では、エダラボンは、様々な認知症モデルラット又はマウスの認知機能を改善し、脳内酸化の指標、神経炎症、Aβプラーク形成、tauリン酸化レベルを減少させるなどのことができる。スコポラミン誘導性ラット認知症モデルにおいて、エダラボンを15 mg/kg/dayで7日間連続経口投与することは、スコポラミン誘導性空間学習及び長期記憶障害を改善することができる(International Journal of Pharmacology, 2013. 9(4): p. 271-276)。ラット海馬歯状回にオリゴマー化されたAβ1-40を注射するモデルにおいて、Aβを脳内注射するとともにエダラボン(5 mg/kg)を同一部位で投与することは、ラットの水迷路中での空間学習及び記憶能力を有意に改善し、海馬における4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-HNE)付加物のレベルを低下させ、Aβ注射で上昇したAChE及びChAT酵素活性を回復させることができる(Neurological Sciences, 2015. 36(11): p. 2067-2072)。側脳室にSTZ(ICV-STZ)を注射して学習記憶障害を誘導する散発性AD(SAD)ラットモデルにおいて、ICV-STZモデル作成後、14日間連続してエダラボンを9 mg/kg/dayで腹腔内注射により投与することは、ICV-STZモデルラットの水迷路試験(Morris water maze test)での空間学習及び記憶能力、及びステップダウン型受動的回避試験(step-down passive avoidance test)での非空間的長期記憶能力を有意に向上させることができ、STZモデル作成による海馬及び皮質中の様々な酸化ストレス指標レベルの変化を有意に回復させることができ、マロンジアルデヒド(MDA)、4-HNE付加物、・OH、タンパク質カルボニル(PC)、H2O2、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、還元型グルタチオン(GSH)、グルタチオンペルオキシダーゼを含む(GPx)(NeuroToxicology, 2013. 38: p. 136-145)。なお、エダラボン(1、3及び10 mg/kg/day)を28日間連続経口投与することは、同様に、ICV-STZラットの水迷路及び受動的回避試験における認知機能を改善し、STZによる脳内酸化ストレス、コリン作動性異常及び炎症を低減することができる(Eur J Neurosci, 2017. 45(7): p. 987-997)。AlCl3/D-ガラクトース化学誘導性マウス認知障害モデルにおいて、エダラボンを15日間連続腹腔内投与することは、マウスの水迷路及びステップダウン試験における認知機能を有意に改善することができる(Neurotoxicology, 2021. 85: p. 68-78)。なお、L-メチオニン誘導性ラット血管性認知症モデルにおいて、エダラボンを6 mg/kg/dayで9週間連続腹腔内投与することは、モデルラットの8アーム水迷路試験における空間学習及び記憶能力を有意に改善することができる(Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol, 2020. 393(7): p. 1221-1228)。APP/PS1トランスジェニックマウスモデルにおいて、エダラボン12.6 mg/kg(腹腔内注射、週に2回)の予防投与(3~9月齢)及び治療投与(9~12月齢)は、いずれもマウスの水迷路試験における認知機能の欠陥を改善し、脳内Aβプラークの沈着、ニューロン及び神経シナプスの喪失並びに神経炎症、tauタンパク質リン酸化(pSer396、pSer262、pSer199及びpThr231)及び酸化ストレスなどを減少させることができる。同様に、エダラボンのマウスへの経口投与におけるバイオアベイラビリティー(38%)に基づいて換算した後、マウス(3~12月齢)に33.2 mg/kg/dayで経口投与(飲水投与)することは、同様に、脳内Aβプラーク沈着を減少させ、マウスの認知機能を改善することができる(Proc Natl Acad Sci U S A, 2015. 112(16): p. 5225-30)。なお、APP/PS老齢マウス(14~17月齢)にエダラボン(8、24及び72 mg/kg/day、飲水投与)を経口投与することは、老齢トランスジェニックマウスの認知機能を有意に改善することができる(Drug Design, Development and Therapy, 2018. Volume 12: p. 2111-2128)。tau P301Lトランスジェニックマウス前頭側頭型認知症(FTD)モデルにおいて、9~10月齢及び21月齢のトランスジェニックマウスにエダラボンを24 mg/kg/dayで3ヶ月連続経口投与(飲水投与)することは、動物の水迷路試験及び新規物体認識試験における認知機能を有意に改善し、動物の運動欠陥を改善し、脳組織の4-HNE及び3-NT付加物の産生、tauリン酸化レベル及び神経炎症を減少させることができる(DOI: https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-306628/v1)。
【0008】
エダラボンの化学構造式は以下のとおりであり、
【化1】
【0009】
デクスボルネオール((+)-borneol)は、天然ボルネオールの主な成分であり(2020版中国薬典では、天然ボルネオールにおけるデクスボルネオール含有量が96%以上であると規定されている)、二環式モノテルペン化合物であり、多くの漢方薬の揮発性油中に存在する。デクスボルネオールは、NF-κB及びp38シグナル経路を調節し、炎症性神経炎を抑制し、脳内の複数の炎症促進因子(TNF-α、IL-1βなど)及び炎症性タンパク質(iNOS及びCOX-2)を減少させることができ(Eur J Pharmacol, 2014. 740: p. 522-31、Eur J Pharmacol, 2017. 811: p. 1-11)、なお、さらに抑制性GABAA受容体を興奮させることができ、興奮性神経損傷を調節することができる(Front Pharmacol, 2021. 12: p. 606682)。
【0010】
デクスボルネオールの化学構造式は以下のとおりであり、
【化2】
【0011】
非臨床動物実験によると、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン及びデクスボルネオールの組成物(質量比4:1~1:1)は、相乗的に、脳梗塞面積を減少させ(発行済み特許CN101848711B)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を改善する(発行済み特許CN107613976B)ことができる。脳卒中を治療する新薬の研究開発において、エダラボンデクスボルネオール注射用濃溶液(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンとデクスボルネオールとの質量比が4:1である組成物)は、すでに2020年に虚血性脳卒中を治療するためのものとしてNMPAにより承認され、Y-2舌下錠(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンとデクスボルネオールとの質量比が5:1である組成物)は、すでに中国で第III相研究(中国臨床登録番号CTR20210233)、米国で第I相研究(ClinicalTrials.govNCT03495206)を行った。
【0012】
従来技術によれば、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン及びデクスボルネオールの組成物が認知症及びそれに関連する認知機能障害に対して治療作用を有するか否かを予測することができず、従来の3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン及びデクスボルネオールの組成物が相乗的な作用を奏するか否かは判断することもできない。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、医薬組成物の、認知機能障害を改善又は治療する医薬品の製造における応用を提供することであり、前記の医薬組成物は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン)又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールを含有する。
【0014】
本発明の別の目的は、医薬組成物の認知機能障害の改善又は治療における応用を提供することであり、ここで、それを必要とする患者に、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールを含有する医薬組成物を投与する。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、認知機能障害を治療するための医薬組成物を提供することであり、ここで、前記組成物は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールを含む。
【0016】
本発明のさらなる目的は、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩と天然ボルネオールとの併用の、認知機能障害の治療における応用。
【0017】
さらに、前記医薬組成物中の3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオールの併用は、認知機能障害の治療における効力を相乗的に増大させることができる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、前記認知機能障害は、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症(VD)、軽度認知障害(MCI)及び他のタイプの認知症であり、好ましくは、前記認知機能障害は、アルツハイマー病、血管性認知症及び軽度認知障害である。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記医薬組成物は、アルツハイマー病の認知機能を改善することができる。
【0020】
本発明の別の実施形態において、前記医薬組成物は、アルツハイマー病の海馬領域の長期増強(LTP)を回復させ、脳の海馬シナプスの機能を回復させることができる。
【0021】
本発明のさらなる実施形態において、前記医薬組成物は、アミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖及びtauタンパク質の過リン酸化などを含むアルツハイマー病の病理を改善することができる。
【0022】
本発明に記載の組成物において、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩:ボルネオールとの重量比は、10:1~1:8であり、好ましくは、7.5:1~2.5:1であり、さらに好ましくは、5:1又は4:1である。
【0023】
本発明に記載のボルネオールは、好ましくは、天然ボルネオールであり、前記天然ボルネオールはデクスボルネオールとも呼ばれる。
【0024】
本発明に記載の医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含んでもよい。
【0025】
賦形剤は、一般的には、薬物治療の活性な薬物成分(「API」)とともに調製される薬理学的不活性物質である。剤形を生産する場合、原薬の便利で正確な分配を可能にするために、しばしば賦形剤を用いて、有効な活性成分を含有する製剤を増量する(したがって「増量剤」、「充填剤」又は「希釈剤」と呼ばれることが多い) 。それは、薬物の吸収又は溶解の促進、又は他の薬効動力学的考慮などの異なる治療強化目的にもサポートすることができる。
【0026】
さらに具体的には、本発明の組成物は、単独で又は薬学的に許容可能な担体もしくは希釈剤と組み合わせて医薬組成物として調製することができ、且つ錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏、溶液、坐剤、注射液、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、エアゾール剤などの固体、半固体、液体又は気体形態の製剤として調製することができる。したがって、化合物の投与は、様々な形態で達成することができ、経口、頬、直腸、非経口、腹膜内、皮下、経皮、管内、関節内投与などを含む。活性剤は、投与後、全身的であってもよく、又は局所投与、壁内投与もしくは活性剤の量を移植部位に保持できるインプラントの使用によって局在化されてもよい。
【0027】
本発明で使用される組み合わせ療法は、各単一療法の用量が標準操作で現在使用されているものより低いことを許容するとともに、いずれかの単一療法を一般的に投与される場合の効果を超える効果を含めて、著しい効果を実現することができる。当業者であれば、用量レベルが、特定の化合物、症状の重症度及び副作用に対する被験者の感受性によって変化することを容易に理解するであろう。いくつかの特定の化合物は他のものよりも効果的である。特定の化合物の好ましい用量は、当業者により様々な手段で容易に確定することができる。好ましい手段は、特定の化合物の生理学的効果を測定することである。組み合わせ療法の使用は、各単一療法の用量が標準操作で現在使用されているものより低いことを許容するとともに、いずれかの単一療法を一般的に投与する場合に実現するものよりも大きな効果を含めて、著しい効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】エダラボンデクスボルネオール組成物によるAβ
1-42誘導性ニューロン損傷の保護を示した図である。
【
図2】エダラボンデクスボルネオール組成物によるICV-STZの空間学習記憶認知機能の改善を示した図である。
【
図3】エダラボンデクスボルネオール組成物がADトランスジェニックマウスの水迷路試験における認知機能に与える影響を示した図である。
【
図4】エダラボンデクスボルネオール組成物がADトランスジェニックマウスのY字迷路試験における認知機能に与える影響を示した図である。
【
図5】エダラボンデクスボルネオール組成物がADトランスジェニックマウスの脳切片の電気生理学に与える影響を示した図である。
【
図6】エダラボンデクスボルネオール組成物が5×FADトランスジェニックマウスの脳内AD関連病理に与える影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
下記実施例は、例を挙げて本発明を説明し、本発明を限定するものであると見なされるべきではない。実施例で言及されるエダラボンは3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンである。
実施例1:エダラボン及びデクスボルネオールの組成物によるAβ1-42誘導性初代皮質ニューロン損傷に対する保護
1 材料及び方法
1.1 動物
【0030】
SD妊娠ラット、上海斯莱克実験動物有限責任公司(生産許可証番号:SCXK(滬)2017-0005)
1.2 試薬及び消耗品
【0031】
【0032】
1.3 初代皮質ニューロンの製造
妊娠18日間のSD妊娠ラットを頸椎脱臼により屠殺し、ラットの子宮を解剖してE18胎仔の脳を摘出し、胎仔の大脳皮質組織を氷冷DMEMに分離し、解剖顕微鏡下で皮質組織上の髄膜及び血管を取り除き、皮質組織を氷冷DMEMに移して切断し(薬1 mm3)、パンクレアチンにより37℃で10 min消化し、FBSで消化を停止し、パスツールピペットで軽く吹き飛ばした後に200メッシュの篩を通過した。濾過された細胞懸濁液を15 mLの遠心管に移し、1000 rpmで5 min遠心分離し、上清を吸い出して捨てた後、37℃で予熱された完全培地(Neurobasal + B27 + GlutaMax + 1% P/S)で遠心管底部の細胞塊を軽く吹き飛ばし、血球計数板で計数し、完全培地で5×105細胞/mLまで希釈し、PDLでコーティングした96ウェルプレート内に接種し(100 μL/ウェル)培養し、翌日、完全培地で半分の液を交換し、11日目にニューロンが分化して成熟するまでインビトロ培養し、低酸素低グルコース負荷試験に用いた。
1.4 Aβ1-42誘導性初代皮質ニューロンの興奮性損傷試験
【0033】
インビトロで成熟した原代ニューロン培地を、異なる濃度(1.2、3.7、11.1、33.3、100.0μM)のエダラボン(E)、デクスボルネオール(B)又はエダラボンデクスボルネオール組成物(EB)を含有する完全培地に交換し、37℃で30 minインキュベートした後、オリゴマー化されたAβ
1-42(最終濃度50 μM)を加え、24 h培養し続け、ニューロンの生存率を検出した。Luminescent Cell Viability Assayキットを用いて、原代ニューロン細胞の生存率を検出した。取扱説明書に従って試薬を100 μL/ウェルで加え、10 min振盪し、SpectraMax i3X(Molecule Device)多機能性プレートリーダー上で化学発光値(LUM)を読み取り、ニューロンの相対生存率を計算した。計算式:
【数1】
LUM
バックグラウンドは、Luminescent Cell Viability Assay試薬を細胞のない完全培地ウェルに加える場合のバックグラウンド読み取りである。
【0034】
【0035】
1.5 データ統計
Prismソフトウェア(GraphPad)を用いてOne-way ANOVA一元配置分散分析を行った後、Uncorrected Fisher’s LSDを用いて二つの群の間の差異を分析した。P<0.05は、有意差があることを表す。Ex又はByは、DMSO群に比べて、#p<0.05であり、####p<0.0001であり、**p<0.01であり、***p<0.001であり、 ****p<0.0001,であり、ExByはEx及びBy群の両方に比べて有意差があった。
2 実験結果
【0036】
オリゴマー化されたAβ
1-42は初代ニューロン生存細胞の生存率の低下を引き起こす。Aβ
1-42誘導前のエダラボン(3.7~100 μM)又はデクスボルネオール(1.2~100μM)のプレインキュベーション及び投与は、Aβ誘導性神経毒性を濃度依存的に抑制し、細胞生存率を向上させることができる。異なる濃度のエダラボン(1.2、3.7、11.1、33.3、100.0μM)及びデクスボルネオール(1.2、3.7、11.1、33.3、100.0μM)の直交組成物は、Aβによるニューロン損傷を抑制することができ、特にE5B4(3.3:1)、E5B3(9:1)、E4B5(1:3.3)、E4B4(1:1)、E4B3(3.3:1)、E3B5(1:9)、E3B4(1:3.3)、E3B3(1:1)、E3B2(3.3:1)、E3B1(9:1)及びE2B2(1:1)組成物の保護作用は、対応する個々の保護作用より有意に優れていた(
図1)。これにより、エダラボンとデクスボルネオールとのモル比9:1~1:9(質量比10:1~1:8)の比率範囲での組成物は相乗的な作用を有すると仮判断された。
実施例2:エダラボン及びデクスボルネオールの組成物による側脳室STZ注射誘導性認知症ラットの認知機能の改善
1 実験材料
1.1 実験動物
【0037】
Wistarラット、雄性、体重250~300 g、110匹、クリーン グレード、上海斯莱克実験動物有限責任公司により提供され、許可証番号:SCXK(滬)2012-0002。手術前後に通常通り飼育し、室温を23~25℃に維持し、自由に摂食させ、飲水させた。
1.2 試験機器
【0038】
Morris水迷路(Topscan lite 2.0分析ソフトウェア、Clever Systems);ラット脳ステレオタキシック(カタログ番号51600、Stoeling);分析天秤(カタログ番号AL104、Melttler Toledo)。
1.3 被験薬物
【0039】
エダラボン注射液(必存(登録商標))、活性成分3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン。エダラボンデクスボルネオール組成物(重量比が7.5:1、5:1及び2.5:1である)は必要な場合に調製して使用し、溶媒対照は8%プロピレングリコールである。
2 実験設計
2.1 実験のグループ分け及び投与
【0040】
実験動物を5つの群に分け、即ち偽手術群、モデル群、エダラボン群(6 mg/kg)、エダラボンデクスボルネオール(7.5:1)組成物(エダラボン6 mg/kg、デクスボルネオール0.8 mg/kg)、エダラボンデクスボルネオール(5:1)組成物(エダラボン6 mg/kg、デクスボルネオール1.2 mg/kg)、エダラボンデクスボルネオール(2.5:1)組成物(エダラボン6 mg/kg、デクスボルネオール2.4 mg/kg)である。モデル及び偽手術群動物に、対応する体積のブランク溶媒(8%プロピレングリコール)を投与し、全ての投与はいずれも腹腔内注射による投与であり、投与体積が10 mL/kgである。
2.2 実験手順
【0041】
実験において、偽手術群を除いて、手術に成功した動物を順にモデル及び各投与群にランダムに分けた。上記投与量設定原則に従って、各群の動物に、術後4時間に対応する薬物を静脈内注射し、その後に毎日一回投与し、14日間連続投与し、15日目にMorris水迷路実験を開始し、水迷路検出期間に、試験全体が終了するまで、毎日実験前に一回投与した。各群の動物に対していずれも水迷路試験を行い、隠しプラットフォーム逃避潜伏期間、撤去後の元ホームの所在象限の滞留時間である。
3 実験方法
3.1 ラット両側側脳室へのストレプトゾトシン(STZ)注射による認知症モデルの作成
【0042】
ラットを麻酔した後、腹臥位でステレオタキシックに固定し、背側頸正中切開を行い、頭蓋骨を露出し、ブレグマを座標とし、ブレグマより後方0.8 mm、側方1.5 mm、深さ3.6 mmの位置を側脳室注射点とした。マイクロインジェクタを用いて、両側脳室内にそれぞれSTZ(人工脳脊髄液で調製した)を10 μL注射し、1 min内に注射を完成し、針を3 min残した。注射終了後に皮膚を縫合した。初日用量は1.5 mg/kgであり、3日目に初日のSTZ注射方法を繰り返すと、STZの総注射量は3 mg/kgである。偽手術群動物の両側側脳室に同体積の人工脳脊髄液を注射した。
3.2 Morris水迷路実験
【0043】
Morris水迷路プールは、直径が160 cmであり、高さが50 cmであり、水深が29 cmである。プラットフォームは、直径が12 cmであり、高さが27 cmであり、SE象限(目的象限)の水面下2 cm位置に固定されていた。カメラレンズは、ラットの移動軌跡を同期記録するために、プールの中心から上方にプールの底部から2 m離れる位置に配置された。水温を22±1℃に維持した。実験は合計5日間であり、隠しプラットフォーム試験及び空間探索試験を含む。最初の4日間は隠しプラットフォーム試験であり、最後の日は空間探索実験である。
【0044】
(1)隠しプラットフォーム試験(hidden platform trial)
【0045】
本実験は4日間続き、試験時にプラットフォームの位置を目的象限(SE象限)に固定し、それぞれ四つの象限の水入り点から水に入れ、訓練時に動物をプールの壁の標識に面して軽く水に入れ、動物がプラットフォームを見つける時間(逃避潜伏期間、escape latency)を記録し、そして動物をプラットフォーム上に10 s滞留させた。90 s以内にプラットフォームが見つからない場合、潜伏期間を90sと記し、動物をプラットフォーム上に誘導して10 s滞留させた。訓練が終了した後、ラットを飼育ケージに戻し、保温に注意した。毎日4つの水入り点で1回ずつ訓練し、4回の潜伏期間の平均値をこの日の成績として統計分析した。毎日、各動物の水入り点の順序は一致したが、グループ内の動物間の情報の交流を排除するために、同じケージ内の異なる動物の水入り順序は異なっていた。
【0046】
(2)空間探索試験(probe trial)
【0047】
隠しプラットフォーム試験終了後24 hにプラットフォームを撤去した。そしてプラットフォームの対面の水入り点から水に入れ、ラットの120s内の水泳経路を記録し、ラットの目的象限での滞留時間を統計し分析した。被験動物の空間測位能力及び空間探索過程における変化規律を観察した。
3.3 データ統計
【0048】
データはMean ± SEMとして表された。各群の間の統計学的分析はPrismソフトウェア(GraphPad、USA)を用いて分析し、2群以上の比較は、One-way 又はTwo-way ANOVAを用いて検出した後、Fisher’s LSD testを用いて分析した。P<0.05は、有意差があることを表す。偽手術群に比べて、####p<0.0001であり、モデル群に比べて、*p<0.05であり、 **p<0.01であり、 ***p<0.001であり、****p<0.0001であり、 & p<0.05、&& p<0.01により、2群の比較を示した。
4 実験結果
【0049】
水迷路隠しプラットフォーム試験では、偽手術群に比べて、側脳室STZ(ICV-STZ)注射モデルは、逃避潜伏期間が有意に延長し、ICV-STZラットに認知機能障害が発生したことを示した。エダラボン(6 mg/kg)又はエダラボンデクスボルネオール組成物(7.5:1、5:1及び2.5:1)の腹腔内注射は、ICV-STZラット逃避潜伏期間を有意に短縮することができる。エダラボン投与群に比べて、エダラボンデクスボルネオール(7.5:1、5:1及び2.5:1)組成物は、ICV-STZモデルラットに対する学習機能の向上がエダラボンよりも優れていた(
図2A)。水迷路空間探索試験では、ICV-STZモデルラットは、目的象限での滞留時間が有意に短縮された。モデル群に比べて、エダラボン(6 mg/kg)又はエダラボンデクスボルネオール組成物(7.5:1、5:1及び2.5:1)腹腔内注射投与群は、ラットの目的象限での滞留時間が有意に延長し、且つエダラボンデクスボルネオール組成物(5:1及び2.5:1)群はエダラボン群より有意に優れていた(
図2B)。そのため、エダラボンデクスボルネオール組成物(7.5:1、5:1及び2.5:1)は、ICV-STZラットの認知機能欠陥を有意に改善することができ、且つその効力がエダラボンより明らかに優れていた。
実施例3:エダラボンデクスボルネオール組成物の長期投与が5×FADトランスジェニックマウスのAD認知機能及びAD病理に与える影響
1 材料及び方法
1.1 試験動物
【0050】
野生型WTマウス及び5×FADトランスジェニックマウスは、いずれも中国薬科大学の司馬健研究チームにより提供された。
1.2 被験薬物及び試薬
【0051】
エダラボン、即ちエダラボン注射液(必存(登録商標)、先声薬業)であり、活性成分が3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンである。エダラボンデクスボルネオール組成物、即ちエダラボンデクスボルネオール注射用濃溶液(先必新(登録商標)、先声薬業)であり、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンとデクスボルネオールとの質量比が4:1である。溶媒対照は8%のプロピレングリコールである。
1.3 実験方法
【0052】
本試験では、4群に分け、各群のマウスは8週齢から投与を開始し、16週間毎日連続投与した後、水迷路及びY字迷路行動学的実験を行い、行動学的検出が完了した後に動物を屠殺し、脳切片の電気生理学及び脳内AD病理を検出し、Aβプラーク、GFAP及びIba-1などのバイオマーカー並びにp-Tauなどの検出を含む。
1.3.1 動物の群分け及び投与
【0053】
WT: 溶媒対照群:野生型マウス10匹に、溶媒対照を、10 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
【0054】
5×FAD: 溶媒群:5×FADマウス10匹に、溶媒対照を、10 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
【0055】
5×FAD: エダラボン群:5×FADマウス10匹に、エダラボン(必存(登録商標))6 mg/kgを、10.0 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
【0056】
5×FAD: 組成物群:5×FADマウス10匹に、エダラボンデクスボルネオール(先必新(登録商標))7.5 mg/kg(エダラボン:デクスボルネオール=4:1、6 mg/kgのエダラボン及び1.5 mg/kgのデクスボルネオールを含有する)を、10.0 mL/kgの用量で、1日1回、i.p.投与した。
1.3.2 水迷路実験:
【0057】
実験開始前、環境に順応させるためにマウスを試験室に30 minほど置く必要がある。
【0058】
実験の準備:水迷路の恒温プール(内径120 cm、高さ50 cm)内に清水を注入し、水温を18~22℃ほどに制御し、プールの四つの頂点をそれぞれ「S」、「N」、「W」、「E」として記し、プラットフォームを「SW」方向に水面より1~2 cm低い位置に置き、水の中に二酸化チタンを添加して、水を不透明の乳白色にした。
【0059】
パラメータ設定:試験時間を1 minに設定し、マウスのプラットフォームでの滞留時間を2 sに設定した。
【0060】
訓練:最初の5日間は水迷路の訓練段階であり、毎日四つの異なる方位からそれぞれマウスをプールに入れ、それらがプラットフォーム上に乗る前の軌跡、時間並びに各象限での経路及び時間を記録した。1min以内にプラットフォームを見つけなかったマウスに対して、1min終了後、プラットフォーム上に案内し、10~15s滞留させた。マウスが放たれた具体的な方位は表1に示すとおりである。
【0061】
【0062】
試験:訓練終了後1日目に試験を行った。試験時、プラットフォームを撤去し、試験時間が60sであり、NE方位にマウスを投入し、試験中にマウスがプラットフォームを横断した回数及びプラットフォームの所在象限にいた時間を記録した。
1.3.3 Y字迷路実験:
【0063】
実験開始前、環境に順応させるためにマウスを試験室に30 minほど置く必要がある。
【0064】
訓練:Y字迷路の片方のアームをシャッターで遮り、残りの2本のアームのうちの片方のアームの末端にマウスを置き、自由に15 min探索させて録画した。
【0065】
試験:1 h訓練した後、シャッターを撤去し、アルコールでY字迷路の通路を拭き、前のマウスの匂いを取り除き、試験対象マウスを同じ位置に5 min置き、録画し、試験では、マウスが3本のアームに入った合計回数に対する新たに開放されたアームに入った回数の割合を記録した。
1.3.4 脳切片の電気生理学的検出
【0066】
マウスの行動学的検出が終了した後に電気生理学的記録を行った。麻醉後に全てのマウスに安楽死を実施し、脳組織を迅速に回収し、 4 ℃の酸素含有(95% O2/5% CO2)人工脳脊髄液(ACSF)(75 mM ショ糖、87 mM NaCl、2.5 mM KCl)中、1.25 mM NaH2PO4、21.4 mM NaHCO3、0.5 mM CaCl2、7 mM MgCl2及び20 mM グルコース)中に貯蔵した。海馬切片を振動ナイフにより 4℃の酸素含有ACSF中で切断し、32℃の酸素含有ACSF中にあった。次に、記録する前に切片を室温で1 時間インキュベートした。海馬 LTP は、二つの電気θパルス刺激(TBS)により誘導された。Clampex及びClampfit 8.2 (Molecular Devices)を用いてデータの収集及び分析を行った。
1.3.5 AD病理検出(免疫組織化学試験)
【0067】
動物行動学的検出が終了した後、マウスに対して心臓灌流を行った後に脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒドに24h固定し、30%のショ糖で脱水させ、包埋剤で急速凍結し包埋し、脳切片(厚さ30 μM)を行った。海馬領域がある脳切片を選択し、PBSで5 min×3回洗浄し、0.2%のTritonで透過処理し、PBSで7 min×3回洗浄し、Blocking buffer(2.5%BSA, 0.3% Triton)を用いて1hブロックし、脳切片を一次抗体中に4℃で一晩放置した。翌日、脳切片を一次抗体から取り出し、PBSで5 min×3回洗浄し、脳切片を二次抗体中に入れ、室温で遮光して1 hインキュベートし、脳切片を取り出し、PBSで5 min×3回洗浄し、DAPI含有抗蛍光消光剤を滴加し、マウントした。
1.4 統計分析
【0068】
データはMean ± SEMとして表された。各群の間の統計学的分析はPrismソフトウェア(GraphPad、USA)を用いて分析し、2群以上の比較は、One-way 又はTwo-way ANOVAを用いて検出した後、Fisher’s LSD testを用いて分析した。P<0.05は、有意差があることを表す。WT群に比べて、##p<0.01であり、###p<0.001であり、 ####p<0.0001であり、モデル群に比べて、*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.0001, ****p<0.0001であり、& p<0.05, &&p<0.01, &&&&p<0.0001により、2群の比較を示した。
2. 実験結果
2.1 エダラボンデクスボルネオール組成物によるADトランスジェニックマウスの認知機能欠陥の改善
【0069】
Morris水迷路試験では、同齢の野生型マウス(WT)に比べて、24週齢の5×FADマウスには認知機能欠陥が現れ、具体的には以下のとおりであり、隠しプラットフォーム訓練試験では、5×FADマウスは、2~5日間の逃避期がWTマウスより有意に長く、プラットフォーム撤去試験では、5×FADマウスは、目的象限での滞留時間及びプラットフォーム横断回数がいずれもWTマウスより明らかに少なかった。溶媒対照に比べて、8週齢から5×FADマウスに6 mg/kgエダラボン又は7.5 mg/kgエダラボンデクスボルネオール組成物(6 mg/kgエダラボン及び1.5 mg/kgデクスボルネオールを含有する)を1日1回腹腔内注射により投与し、16週間連続投与して、5xFADマウスの水迷路隠しプラットフォーム試験での逃避潜伏期間を有意に短縮させ(
図3A)、プラットフォーム撤去試験での目的象限における滞留時間及びプラットフォームを横断する回数を延長することができる(
図3B、C)。エダラボン投与群に比べて、組成物投与は、隠しプラットフォーム試験の5日目に逃避潜伏期間がより短くなり、プラットフォーム撤去試験での目的象限における滞留時間がより有意に長くなり、プラットフォームを横断する回数もより多くなった(
図3A、B及びC)。これにより、エダラボン及びエダラボン組成物は、いずれも5×FADマウスの水迷路試験での学習記憶認知機能を改善することができ、且つ組成物の改善作用がエダラボンより有意に優れていることが示された。
【0070】
Y-迷路では、同齢の野生型マウス(WT)に比べて、24週齢の5×FADマウスには認知機能欠陥が現れ、具体的には以下のとおりであり、5×FADマウスは、新たなアームへの進入率が有意に低下し、即ち空間参照記憶機能が低下した。溶媒対照に比べて、8週齢から5×FADマウスに6 mg/kgエダラボン又は7.5 mg/kg エダラボンデクスボルネオール組成物(6 mg/kgエダラボン及び1.5 mg/kgデクスボルネオールを含有する)を1日1回腹腔内注射により投与し、16週間連続投与して、5×FADマウスの新たなアームへの進入率を有意に増加させることができる。エダラボンに比べて、エダラボンデクスボルネオール組成物は、5×FADマウスの新たなアームへの進入率を高める効力が有意に高かった(
図4)。これにより、エダラボン及びエダラボン組成物は、いずれも5×FADマウスのY字迷路試験での空間参照記憶認知機能を改善することができ、且つ組成物の改善作用がエダラボンより有意に優れていることが示された。
2.2 エダラボンデクスボルネオール組成物によるADマウス海馬領域シナプスの伝達機能の回復
【0071】
長期増強(LTP)は、シナプス機能の可塑性を反映し、学習及び記憶の主なメカニズムの一つである。水迷路及びY-迷路検出が終了した後、電気生理学的検出により、5×FADマウスの海馬の領域LTPが有意に損なわれることがわかった。5×FADマウス群に比べて、組成物の投与はマウス海馬 LTPを有意に回復させることができるが、エダラボンの投与は5×FADマウスの海馬LTPに対して明らかな回復作用がなく、且つ組成物投与場合のLTP回復もエダラボン群より有意に優れていた(
図5A、B及びC)。これにより、24週齢の5×FADトランスジェニックマウスの海馬領域シナプスの可塑性が損なわれており、一方、エダラボンデクスボルネオール組成物が海馬神経の可塑性を促進し、海馬 LTPをより良好なレベルに回復できることが示された。
2.3 エダラボンデクスボルネオール組成物によるADマウスの脳内AD病理の改善
【0072】
24週齢の5×FADマウスの脳内には、明らかなAD病理が発生しており、βアミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖及び海馬領域の神経細胞内tauタンパク質の過リン酸化を含む。溶媒対照群に比べて、8週齢から5×FADマウスに6 mg/kgエダラボン又は7.5 mg/kgエダラボンデクスボルネオール組成物(6 mg/kgエダラボン及び1.5 mg/kgデクスボルネオールを含有する)を1日1回腹腔内注射により投与し、16週間連続投与して、脳内のAD病理(βアミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖)及び海馬領域のtauリン酸化レベルを有意に低下させることができる。エダラボン投与群に比べて、エダラボンデクスボルネオール組成物は、AD病理(βアミロイドプラーク、アストロサイト増殖、ミクログリア増殖)の改善及びtauリン酸化レベルの低下における効力に著しい優位性がある(
図6)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知障害の改善又は治療に
おいて使用するための組成物であって
、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びボルネオール又はデクスボルネオールを含有する、
組成物。
【請求項2】
3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩及びデクスボルネオールを含有する、ことを特徴とする請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は10:1~1:8である、ことを特徴とする請求項1に記載の
組成物。
【請求項4】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は7.5:1~2.5:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の
組成物。
【請求項5】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は5:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の
組成物。
【請求項6】
前記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン又はその薬学的に許容可能な塩とボルネオール又はデクスボルネオールとの重量比は4:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の
組成物。
【請求項7】
薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、ことを特徴とする請求項1~6
のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項8】
前記認知障害は、アルツハイマー病、血管性認知症、軽度認知障害及び他のタイプの認知症を指す、ことを特徴とする請求項1~6
のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項9】
前記認知障害は、アルツハイマー病、血管性認知症及び軽度認知障害を指す、ことを特徴とする請求項1~6
のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項10】
前記認知障害は、アルツハイマー病を指す、ことを特徴とする請求項1~6
のいずれか一項に記載の
組成物。
【国際調査報告】