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特表2024-543066FeCrAl粉末、及び当該粉末製の物体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】FeCrAl粉末、及び当該粉末製の物体
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241112BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20241112BHJP
   B22F 10/00 20210101ALI20241112BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20241112BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241112BHJP
   B22F 5/12 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/28
B22F10/00
B22F3/15 M
B22F1/00 T
B22F5/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527704
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 SE2022051053
(87)【国際公開番号】W WO2023086007
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】2130304-5
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591098101
【氏名又は名称】カンタール・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ベリルント, ロゲル
(72)【発明者】
【氏名】ノッカート, ヨハンナ
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA32
4K018BA16
4K018BB04
4K018EA11
4K018HA03
4K018HA08
(57)【要約】
本開示は、以下の組成を有する、フェライト系鉄-クロム-アルミニウム(FeCrAl)粉末に関する(残部はFe、及び不可避不純物):
Al 4.0~6.0
Y 最大0.20
Hf 0.05~0.20
O 0.01~0.03
Cr 19.0~23.0
Ta 0.05~0.30
Ti 0.01~0.10
C 0.01~0.05
N 0.01~0.10
Si 最大0.50
Mn 最大0.30
P 最大0.01
S 最大0.01
Zr 0.05~0.20
これにより、優れたクリープ強度を有する物体又はその合金がもたらされる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で以下の元素を有する粉末:
残部のFe及び不可避不純物
Al 4.0~6.0
Y 最大0.20
Hf 0.05~0.20
O 0.01~0.03
Cr 19.0~23.0
Ta 0.05~0.30
Ti 0.01~0.10
C 0.01~0.05
N 0.01~0.10
Si 最大0.50
Mn 最大0.30
P 最大0.01
S 最大0.01
Zr 0.05~0.20。
【請求項2】
Crの含有量が20~22重量%である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
Yの含有量が最大0.16重量%である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
Oの含有量が0.01~0.02重量%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
Hfの含有量が0.10~0.20重量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項6】
Taの含有量が0.15~0.25重量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
Tiの含有量が0.01~0.05重量%である、請求項1から6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
Zrの含有量が0.10~0.15重量%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の粉末から製造される物体又は合金。
【請求項10】
管、又はストリップ、又はワイヤ、又は加熱素子、又は構造要素である、請求項9に記載の物体。
【請求項11】
1100℃の空気中で8.0MPaの負荷により単軸で測定した場合、二次クリープ速度が、HIP処理した条件で8.0E-09[1/s]未満である、請求項9又は10に記載の物体。
【請求項12】
1100℃の空気中で8.0MPaの負荷により単軸で測定した場合、二次クリープ速度が、熱間押出した条件で7.0E-08[1/s]未満である、請求項9又は10に記載の物体。
【請求項13】
前記物体を製造するための方法が、付加製造工程及び/又はHIP工程を含む、請求項9から12のいずれか1項に記載の物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェライト系鉄-クロム-アルミニウム合金(FeCrAl)粉末に関し、当該粉末により、優れたクリープ強度を有する物体又はその合金がもたらされる。
【背景技術】
【0002】
クロム(Cr)含有率が15~25重量%であり、アルミニウム(Al)含有率が3~6重量%であるFeCrAl粉末から製造される鉄-クロム-アルミニウム(FeCrAl)合金は、900~1300℃の温度にさらされると保護性のα-アルミナ(Al)(酸化アルミニウムスケール)を形成する能力で、よく知られている。よってこれらの合金は、良好な耐酸化性が必要とされる用途で非常に有用である。しかしながら、当該粉末により高温用途でよい性能を発揮する製品がもたらされるものの、さらにより高いクリープ耐性及び良好な形状安定性を備える製品に対する必要が、常に存在する。これらの性質により、耐用年数がより長くするなるからである。
【0003】
そこで、本開示の態様によれば、合金又はその物体を製造するために使用すると、これらの特性を有するFeCrAl粉末がもたらされる。
【発明の概要】
【0004】
本開示により、クリープ耐性が高い物体をもたらすのに最適化された、フェライト系鉄-クロム-アルミニウム合金(FeCrAl)粉末組成物が提供される。本開示によってさらに、以下に規定する粉末から製造されているため、優れたクリープ強度及び形状安定性を示すことになる、合金又は物体(当該物体は、管、ワイヤ、ストリップ、シート、加熱素子又は構造要素から選択され得る)も提供される。さらに、本開示による粉末は、従来の製造方法でも、また付加製造法でも使用可能である。「形状安定性」という用語は、高温にさらされても、当該物体が基本的にその形状(形態)を保つことを意味する。
【0005】
本開示による鉄-クロム-アルミニウム合金(FeCrAl)粉末は、重量%(wt%)で以下の組成を有することを特徴とする:
【0006】
詳細な説明
本開示は、重量%(wt%)で以下の組成を有することを特徴とする鉄-クロム-アルミニウム合金(FeCrAl)粉末に関する:
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、イットリウム及び酸素の含有率を低くするとともに、モリブデンを意図的に添加しないことにより、本粉末が、従来のFeCrAl粉末と比較して、優れたクリープ耐性を備える物体をもたらすことを見出した。酸化イットリウムはクリープ強度に貢献すると考えられているので、これらの元素を減少させれば、クリープ強度の低下につながるはずなので、この知見は非常に驚くべきことである。しかしながら当該粉末製の物体については、クリープ強度が向上することが示されている。
【0008】
本粉末(ひいては当該合金及び(1又は複数の)物体について)の合金元素を、以下でより詳細に説明する。「重量%」及び「wt%」という用語は、互換可能に使用される。また、特定の元素について言及された特性又は寄与の列挙は、網羅的であるとみなされるべきではない。
【0009】
鉄(Fe)
鉄の主な機能は、組成物の残部をなすことである。
【0010】
クロム(Cr)19.0~23.0重量%
クロムは、耐食性を改善させるとともに、引張強度及び降伏強度を増大させるので、重要な元素である。クロムはさらに、いわゆる第三元素効果(すなわち、遷移酸化段階にある酸化クロム形成)により、表面におけるAlの形成を容易にする。クロムの量が少なすぎると、耐食性が失われることになる。よって、クロムは少なくとも19.0重量%、例えば少なくとも20.0重量%の量で存在するのが望ましい。クロムが多すぎると、α~α’分解及び475℃脆化につながり、フェライト構造に対する固溶体硬化効果の増加にもつながる。よって、クロムの最大含有率は、23.0重量%、例えば最大22.0重量%に設定される。複数の実施態様によれば、クロムの含有率は、19.0~23.0重量%、例えば20.0~22.0重量%である。
【0011】
アルミニウム(Al)4.0~6.0重量%
アルミニウムは、高温で酸素にさらされると、稠密で薄いAl層(これにより、その下にある表面が、さらなる酸化から保護される)を表面に形成するので、重要な元素である。アルミニウムはさらに、電気抵抗を増大させる。アルミニウムの量が少なすぎると、Al層の形成能力が失われることになり、電気抵抗も減少することになる。よってアルミニウムは、少なくとも4.0重量%、例えば少なくとも4.5重量%の量で存在するのが望ましい。アルミニウムの含有量が多すぎると、低温での脆性につながり、また不所望の脆いアルミナイド(aluminides)の形成が促進される。よって、アルミニウムの最大量は、6.0重量%、例えば最大5.5重量%に設定される。複数の実施態様によれば、Al含有量は、4.0~6.0重量%、例えば4.5~5.5重量%である。
【0012】
チタン(Ti)0.01~0.10重量%
チタンは、遊離した炭素又は窒素と結合させるために添加される。ある実施態様によれば、Tiの含有量は、0.01~0.06重量%である。
【0013】
窒素(N)0.01~0.10重量%
窒素は、析出硬化により強度を高めるために、含まれている。窒素の水準が高すぎると、耐食性に不利な影響を与え得る。よって窒素の最大量は、0.10重量%である。本開示によれば、Nの含有量は、0.01~0.10重量%、例えば0.01~0.07重量%である。
【0014】
ジルコニウム(Zr)0.05~0.20重量%
ジルコニウムは、ZrC又はZrN析出物の形成によりC及びNの活性を減少させるので、重要な元素である。ジルコニウムは、製造された物体の高温クリープ強度も改善することができる。Zrの量が少なすぎると、不所望の炭化クロム及び/又は窒化アルミニウムの形成リスクが高まる。よってジルコニウムは、少なくとも0.05重量%、例えば少なくとも0.07重量%、例えば少なくとも0.10重量%の量で存在するのが望ましい。一方で、ジルコニウムの含有量が高すぎると、Alの形成に不利な影響を与え得る。これらの理由から、ジルコニウムの最大含有量は、0.20重量%、例えば最大0.15重量%に設定される。
【0015】
イットリウム(Y)最大0.20重量%
イットリウムは、本粉末において任意選択的な元素である。イットリウムが添加されると、製造される物体の耐酸化性が改善される。しかしながら、イットリウムの添加量が多すぎると、高温脆化(hot embrittlement)につながる。結果的に、イットリウムの最大含有量は、最大0.20重量%、例えば最大0.15重量%に設定される。
【0016】
炭素(C)0.01~0.05重量%
炭素は、析出硬化により強度を高めるために添加される。炭素の水準が高すぎると、炭化クロムの形成に起因して成形が困難になることがあり、耐食性にも不利な影響を与え得る。よって炭素の最大量は、本発明による粉末中で0.05重量%である。
【0017】
ケイ素(Si)最大0.50重量%
ケイ素は、電気抵抗を増大させるため、また耐食性を向上させるために、最大0.50重量%の水準で存在する。しかしながらこの水準を超えると、硬度が増大し、また低温で脆くなる。
【0018】
酸素(O)0.01~0.03重量%
酸素は、酸化物の形態で存在する。本発明者らは、驚くべきことに、酸素の含有量を下げることにより、従来のFeCrAl合金と比較して、先に又は下記に規定される粉末を用いて製造された物体が、非常に低いクリープ速度を有し、これにより高い形状安定性も有することを見出した。許容される最大含有量は、0.03重量%である。よって複数の実施態様によれば、酸素の含有量は、0.01~0.03重量%、例えば0.01~0.02重量%である。
【0019】
ハフニウム(Hf)0.05~0.50重量%
ハフニウムは、遊離した窒素又は炭素と結合させるために含まれており、ハフニウムが含まれていないと、耐食性に不利な影響をもたらすことがある。複数の実施態様によれば、Hfの含有率は、0.05~0.50重量%、例えば0.10~0.30重量%、例えば0.10~0.20重量%である。
【0020】
タンタル(Ta)0.05~0.30重量%
タンタルは、遊離した窒素又は炭素と結合させるために含まれており、タンタルが含まれていないと、耐食性に不利な影響をもたらすことがある。複数の実施態様によれば、各元素の含有率は、0.05~0.30重量%、例えば0.15~0.25重量%である。
【0021】
マンガン(Mn)最大0.30重量%
マンガンは、任意選択的な合金元素である。Mnの含有量が多すぎると、アルミナ層の形成が妨げられる。よってMnの含有量は、最大0.30重量%、例えば最大0.20重量%に設定される。
【0022】
複数の実施態様によれば、当該粉末又は物体は、以下の不純物元素(例示に過ぎず、これらに限られない)のうち1又は複数について微量な画分を含み得る:マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、セリウム(Ce)、カルシウム(Ca)、リン(P)、タングステン(W)、コバルト(Co)、硫黄(S)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、及び銅(Cu)。不純物元素とは、製造方法に起因して、及び/又は製造プロセスで使用される材料に起因して存在するものの、特性に影響を与えないほどわずかな量で存在するものを意味する。
【0023】
さらに、先に又は以下で規定されるFeCrAl粉末又はFeCrAl物体は、ここで言及された合金元素を、ここで言及されたあらゆる範囲で含み得る。1つの実施態様によれば、本粉末又は物体は、ここで言及されたあらゆる範囲にある、ここで言及されたすべての合金元素からなる。
【0024】
さらに、先に又は以下で規定される合金又は物体は、先に又は以下で規定されるFeCrAl粉末の合金元素を、ここで言及されたあらゆる範囲で含み得るか、又はここで言及されたあらゆる範囲にある、当該合金元素からなり得る。先に又は以下で規定されるFeCrAl粉末から得られる物体は、高温、例えば1250℃までの温度で良好に稼働する。さらに、本物体は、高温耐食性に優れており、酸化、硫化及び浸炭に対する耐性が高い。さらにこの物体は、高温クリープ強度及び形状安定性の点で優れている。
【0025】
本物体は、管、又はストリップ、又はシート、又はワイヤ、又は加熱素子、又は構造要素から選択され得る。この物体は、電気的加熱素子として、又は高温用途における物体として特に有用である。
【0026】
先に又は以下で規定されるFeCrAl粉末は、様々な方法によって製造することができ、例えば、
ガス噴霧により直接、
先に又は以下で言及する範囲にあるすべての合金元素を含む粉末を加熱、
先に又は以下で言及する範囲にあるすべての合金元素を含む粉末を混合、
により製造可能だが、これらに限られない。
【0027】
本発明をさらに、以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例
【0028】
表1に記載の化学組成(重量%)を有する3つの粉末(表1)を、窒素ガス噴霧法により製造し、その後、適切な画分にふるい分けし、粒径750μm未満の粉末を得た。合金1は、本開示の範囲内にある本発明による合金の例であり、合金2及び合金3は、参照用合金である。
【0029】
【0030】
3つの粉末(表1参照)を、1150℃及び100MPaの圧力で3時間保持することによりHIP処理した。HIP処理しただけの機械試験用試料片を取り出し、外形寸法が
138×450mmの円筒形押出ビレットを機械加工した。その後、押出ビレットを従来の押し出しプロセスにより熱間加工して管にし、複数の試料片を押出管から取った。
【0031】
クリープ試験のサンプルは、HIP処理しただけの試料片から、及び押出成形された管の試料片から機械加工した。クリープ試験は、二次クリープ速度を特定するために空気中において単軸で、1100℃、8.0MPaの引張負荷で行った。クリープ試験の結果を、表2に示す。表2の結果から分かるように、本発明による粉末から製造された物体のクリープ強度は、二次クリープ速度が低く、破断までの時間が長い。よって、本発明による粉末から製造された物体は、機械的安定性が良好であるとともに、負荷にさらされたときに高温で変形しないであろう。
【0032】
【国際調査報告】