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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ボツリヌス毒素組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20241112BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241112BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K35/742
A61P17/00
A61P17/10
A61P17/02
A61P25/06
A61K9/19
A61K47/26
A61K47/18
A61K9/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528620
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 KR2022017751
(87)【国際公開番号】W WO2023085849
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0156686
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0156703
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513243723
【氏名又は名称】メディトックス インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クァク, セオンソン
(72)【発明者】
【氏名】クォン, ジンヒ
(72)【発明者】
【氏名】ビョン, ジェユン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA29
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD38
4C076DD46
4C076DD51
4C076DD67
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC68
4C087MA17
4C087MA44
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA08
4C087ZA89
(57)【要約】
本開示は、低減された拡散効果、及び/または延長された期間の間の効果を有するボツリヌス毒素組成物に係わるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療が必要な患者の疾患を治療するための方法に使用するための、動物タンパク質を含まず、有効成分としてボツリヌス毒素を含む組成物であり、
前記方法は、前記組成物の治療有効量を、治療が必要な対象体に局所投与する段階を含み、
投与部位において、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物より拡散が低減された、ボツリヌス毒素組成物。
【請求項2】
前記ボツリヌス毒素は、非複合体ボツリヌス毒素である、請求項1に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項3】
前記組成物は、投与部位において、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物より延長された期間の間の効果を有する、請求項1または2に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項4】
前記組成物は、凍結乾燥された組成物である、請求項1または2に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項5】
凍結乾燥された組成物は、ボツリヌス毒素、ポリソルベート、メチオニン;並びに糖、糖アルコール及びイオン性化合物によって構成された群のうちから選択される1以上の成分を含む、請求項4に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項6】
動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物は、液状組成物である、請求項1または2に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項7】
液状組成物は、ボツリヌス毒素、ポリソルベート及びメチオニンを含む、請求項5に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項8】
前記組成物は、皮膚しわ、エラ張り顎、尖り顎、傷、皮膚軟化、傷痕、にきび、毛孔、弾力またはケロイド症状を改善させるか、あるいは顔面痙攣、瞼痙攣、斜頸、眼瞼痙攣、頸部筋緊張異常症、咽頭中央部筋緊張異常症、痙攣性発声障害、偏頭痛、肛門掻痒症または多汗症を治療するためのものである、請求項1ないし7のうちいずれか1項に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項9】
低減された拡散効果、または延長された期間の間の効果は、2回以上の繰り返し投与で生じる、請求項1または3に記載のボツリヌス毒素組成物。
【請求項10】
前記組成物の前記投与部位筋肉と隣接した筋肉の複合筋肉活動電位測定値は、動物タンパク質含有組成物を、同一投与部位及び同一投与位置に、同一用量投与したときの投与部位筋肉と隣接した筋肉の複合筋肉活動電位測定値より高い値を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の前記投与部位筋肉の複合筋肉活動電位測定値は、動物タンパク質含有組成物を、同一投与部位及び同一投与位置に、同一用量投与したときの投与部位筋肉の複合筋肉活動電位測定値より低い値を有する、請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
治療が必要な患者の疾患を治療するための方法に使用するための、動物タンパク質を含まず、有効成分として非複合体ボツリヌス毒素を含む組成物であり、
前記方法は、前記組成物の治療有効量を、治療が必要な対象体に局所投与する段階を含み、
投与部位において、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物より延長された期間の間の効果を有する、ボツリヌス毒素組成物。
【請求項13】
皮膚しわ、エラ張り顎、尖り顎、傷、皮膚軟化、傷痕、にきび、毛孔、弾力またはケロイド症状を改善させるか、あるいは顔面痙攣、瞼痙攣、斜頸、眼瞼痙攣、頸部筋緊張異常症、咽頭中央部筋緊張異常症、痙攣性発声障害、偏頭痛、肛門掻痒症または多汗症を治療するための医薬品の製造において、請求項1、2及び12のうちいずれか1項に記載のボツリヌス毒素組成物の用途。
【請求項14】
請求項1、2及び12のうちいずれか1項に記載のボツリヌス毒素組成物の治療有効量を個体に投与する段階を含む、皮膚しわ、エラ張り顎、尖り顎、傷、皮膚軟化、傷痕、にきび、毛孔、弾力またはケロイド症状を改善させるか、あるいは顔面痙攣、瞼痙攣、斜頸、眼瞼痙攣、頸部筋緊張異常症、咽頭中央部筋緊張異常症、痙攣性発声障害、偏頭痛、肛門掻痒症または多汗症を治療するための方法。
【請求項15】
低減された拡散効果は、2回以上の繰り返し投与で生じる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボツリヌス毒素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス毒素(BoNT:Botulinum neurotoxin)は、嫌気性ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)のポリペプチド生成物であり、神経と筋肉とが出合う部分において、神経伝達物質が分泌されないようにし、筋肉を麻痺させる役割を行う。ボツリヌス毒素は、本来致死を起こす毒性物質であるが、斜眼(strabismus)治療を含む、筋肉が過度に収縮されて生じる疾患に初めて使用された後、使用範囲が広くなり、現在は、多様な目的に使用されている。主に、筋肉緊張異常や片側顔面痙攣(hemifacial spasm)、震顫(tremor)、痙縮(spasticity)のようなその他の非筋肉緊張異常運動疾患を治療するために、ボツリヌス毒素が使用される。それ以外に、眼疾患(ocular disease)、偏頭痛(migraine)のような痛症関連疾患、泌尿器疾患(urologic disease)、及び美容目的のしわ治療のように、多様な適応症に使用されている。
【0003】
韓国公開KR2016-0113597は、疾患、障害または異常の治療が必要な患者における、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物、及びその用途に係わるものであり、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物は、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物と比較し、ボツリヌス毒素の効果が延長されることを開示している。
【0004】
しかし、これまで、低減された拡散効果を有するボツリヌス毒素組成物は、知られていない。
【0005】
なお、韓国公開KR2008-0050636と同KR2008-0049152は、それぞれボツリヌス神経毒素、またはボツリヌス神経毒素と、ボツリヌス神経毒素と共に自然に形成される複合タンパク質がないボツリヌス神経毒素との混合物によって構成された薬剤学的組成物について開示している。また、韓国公開KR2016-0113597は、疾患、障害または異常の治療が必要な患者における、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物、及びその用途に係わるものであり、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物は、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物と比較し、ボツリヌス毒素の効果が延長されることを開示している。
【0006】
しかし、これまで、非複合体ボツリヌス毒素を有効成分にし、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物の効果を延ばそうとする試みはなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、低減された拡散効果を有するボツリヌス毒素組成物、その疾患治療用途、またはそれを必要な対象体に投与し、疾患を治療する方法を提供することである。
【0008】
本発明の一目的は、非複合体ボツリヌス毒素を有効成分として含み、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物、疾患治療用医薬品製造におけるその用途、またはそれを必要な対象体に投与し、疾患を治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、低減された拡散効果、及び/または延長された期間の間の効果を有するボツリヌス毒素組成物に係わるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施例によれば、低減された拡散効果を有することにより、拡散による副作用発生危険を減らしたボツリヌス毒素組成物、疾患治療用医薬品製造におけるその用途、及びそれを利用した治療方法が提供される。
【0011】
本開示によれば、延長された効果を有するようになり、治療効果、及び患者の好都合性が高くなった非複合体ボツリヌス毒素を有効成分にし、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物、疾患治療用組成物製造におけるその用途、及びそれを利用した治療方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本明細書の実施例1に記載されたマウスにおいて、ボツリヌス毒素A型製品2種(コアトックス(Coretox)、ニューロノクス(Neuronox))及びプラセボ(placebo)を右側ふくらはぎ筋肉に投与した後、7日目の、投与部位筋肉及び反対側非投与筋肉に係わる複合筋肉活動電位(CMAP)数値を示すグラフである。CMAP値について、両側(two-tailed)t検定を使用して分析した。
図2】本明細書の実施例2に記載されたラットにおいて、互いに異なる剤形の複合体化されたボツリヌス毒素A型2種(TFXA21004(アルブミン剤形)、NXA20001(非アルブミン剤形))及びプラセボ(placebo)を、右側前脛骨筋に投与した後、14日目、右側前脛骨筋(投与筋肉)及び右側ふくらはぎ筋(非投与筋肉)におけるCMAP値を示す。CMAP値について、両側(two-tailed)t検定を使用して分析した。
図3】本明細書の実施例3に記載されたマウスにおいて、ボツリヌス毒素A型製品5種(コアトックス(Coretox)、ゼオミン(Xeomin)、ボトックス(Botox)、ニューロノクス(Neuronox)、イノトックス(Innotox))及びプラセボ(placebo)を、3回、右側ふくらはぎ筋肉における繰り返し投与によるDAS数値の経時的な変化を示すグラフである。グラフ上端の矢印は、各ボツリヌス毒素A型製品を投与した時期を示す。
図4】本明細書の実施例3に記載されたマウスでボツリヌス毒素A型製品5種(コアトックス(Coretox)、ゼオミン(Xeomin)、ボトックス(Botox)、ニューロノクス(Neuronox)、イノトックス(Innotox))及びプラセボ(placebo)を3回右側ふくらはぎ筋肉における繰り返し投与による、投与部位ふくらはぎ筋肉CMAP数値の経時的な変化を示すグラフである。グラフ上端の矢印は、各ボツリヌス毒素A型製品を投与した時期を示し、終了時点(一次投与後252日目)において、各ボツリヌス毒素投与群のCMAP値について、一元配置分散分析(one-way ANOVA)を行い、グループ間比較のために、チューキー事後検定(Tukey’s post-hoc test)を使用して分析した。a、b及びc互いに異なる文字は統計的に有意な差を示す。
図5】本明細書の実施例3に記載されたマウスでボツリヌス毒素A型製品5種(コアトックス(Coretox)、ゼオミン(Xeomin)、ボトックス(Botox)、ニューロノクス(Neuronox)、イノトックス(Innotox))及びプラセボ(placebo)を、3回、右側ふくらはぎ筋肉に投与した後、6~7日目反対側部位ふくらはぎ筋肉のCMAP数値を示すグラフである。各ボツリヌス毒素投与群の反対側筋肉のCMAP値について、一元配置分散分析(one-way ANOVA)(one-way ANOVA)を行い、グループ間比較のためにチューキー事後検定(Tukey’s post-hoc test)を使用して分析した。a、b及びcの互いに異なる文字は、統計的に有意な差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
取り立てての定義がない限り、本明細書に使用された技術的及び科学的な用語は、本開示が属した分野において一般的に使用されるところと同一な意味を有する。本開示の理解のために、下記定義が適用されるが、単数の表現は、文脈上、明白に取り立てての意味がない限り、複数の表現を含み、その逆もまたしかりである。
【0014】
本明細書で使用される、用語「ボツリヌス毒素(botulinum toxin)」は、全ての血清型(serotype)、その変異体または融合タンパク質を含み、細菌または組み換えによって生成されるボツリヌス毒素タンパク質分子を意味する。
【0015】
一態様において、ボツリヌス毒素は、血清型に制限なしに使用可能であり、タイプA(BoNT/A)、タイプB(BoNT/B)、タイプC(BoNT/C)、タイプD(BoNT/D)、タイプE(BoNT/E)、タイプF(BoNT/F)、タイプG(BoNT/G)、タイプH(BoNT/H)、タイプX(BoNT/X)、エンテロコッカス種ボツリヌス毒素J(eBoNT/J)及びモザイクボツリヌス毒素、及び/またはその変異体によってなる群のうちから選択されうる。モザイク毒素の例は、BoNT/DC、BoNT/CD及びBoNT/FAを含む。例えば、タイプAを使用しうる。
【0016】
一態様において、ボツリヌス毒素は、多様なBoNT/Aサブタイプ、例えば、BoNT/A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A9,A10;BoNT/Bサブタイプ、例えば、BoNT/B1,B2,B3,B4,B5,B6,B7,B8,Bnp及びBbv;BoNT/Cサブタイプ、例えば、BoNT/C及びCD;BoNT/Dサブタイプ、例えば、BoNT/D及びDC;BoNT/Eサブタイプ、例えば、BoNT/E1,E2,E3,E4,E5,E6,E7,E8,E9;BoNT/Fサブタイプ、例えば、BoNT/F1,F2,F3,F4,F5,F6,F7;及びBoNT/Gサブタイプ、例えば、BoNT/サブタイプGに由来する。該BoNTサブタイプは、キメラBoNT、例えば、BoNT/DC、BoNT/CD、BoNT/FAなどを含む。
【0017】
ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素誘導体を含む。該ボツリヌス毒素誘導体は、ボツリヌス毒素活性を有する天然ボツリヌス毒素または組み換え原型(recombinant native)ボツリヌス毒素の一部または一部鎖上に、1以上の化学的または機能的な変形を含む誘導体でもある。例えば、該ボツリヌス毒素誘導体は、欠失、変形または置換された1以上のアミノ酸を有する変形された毒素でもある。該ボツリヌス毒素は、組み換えペプチド、融合タンパク質、または例えば、異なる毒素血清型のサブユニットまたはドメインから製造されたハイブリッド神経毒素でもある。該ボツリヌス毒素は、また毒素活性を有する全体分子の一部でもあり、その組み合わせ、または共役分子、例えば、融合タンパク質の一部として利用されうる。
【0018】
用語「複合蛋白質」は、ヘマグルチニン(hemagglutinin)、及びヘマグルチニン活性を有さない非毒性成分(NTNH:nontoxic nonhemagglutinin)を意味する。
【0019】
ボツリヌス菌の菌株は、免疫学的に区別される神経毒素(タイプA-G)を生産する。タイプA-G神経毒素(NTX)の分子量(molecular masses)は、約150kDa(7S)である。酸性条件を有する培養培地及び食品において、NTXは、非毒性成分と結合し、PTX(progenitor toxins)と呼ばれる大きい複合体を形成する。PTXは、900kDa(19S)、500kDa(16S)及び300kDa(12S)の分子量を有しうる。12S毒素は、NTXと、ヘマグルチニン活性を有さない非毒性成分(NTNH)とによってなり、19S毒素及び16S毒素は、NTX、NTNH及びヘマグルチニンによってなる。タイプA菌株は、3種形態の毒素(19S、16S及び12S)を生産し、タイプB,C及びD菌株は16S毒素と12S毒素とを生産する。アルカリ条件において、PTXは、NTXと非毒性成分とに解離され、19S毒素及び16S毒素は、NTX、NTNH、及びヘマグルチニンの非毒性成分に解離され、12S毒素は、NTXとNTNHとに解離される。
【0020】
本発明のボツリヌス毒素組成物は、複合蛋白質を含む複合体ボツリヌス毒素組成物でもある。例えば、該複合体ボツリヌス毒素は、NTNHまたはヘマグルチニンを含むものでもあり、その場合、複合体ボツリヌス毒素の分子量は、約900kDaでもある。
【0021】
本発明のボツリヌス毒素組成物は、複合蛋白質を含まない非複合体ボツリヌス毒素組成物でもある。例えば、該非複合体ボツリヌス毒素は、NTNHまたはヘマグルチニンを含まないものでもあり、その場合、該非複合体ボツリヌス毒素の分子量は、約150kDaでもある。
【0022】
用語「動物タンパク質」は、血液由来の、血液混入、または他動物由来の産物を称する。
【0023】
本発明のボツリヌス毒素組成物は、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物でもある。例えば、本発明のボツリヌス毒素組成物は、動物に由来するタンパク質安定剤を含まないものでもある。一具体例において、本発明のボツリヌス毒素組成物は、ヒト血清アルブミンまたは組み換えヒトアルブミンを含まないものでもある。
【0024】
用語「有効成分」は、生物学的または生理学的に有効な製剤または組成物の物質を示す。特に、薬剤学的な製剤または組成物の脈絡において、前記用語「有効成分」は、目標とする薬剤学的効果を示す成分物質を示す。例えば、本発明の有効成分は、複合タンパク質がないボツリヌス毒素でもある。
【0025】
「投与」または「投与すること」は、製薬組成物または製薬有効成分を対象に提供する段階を意味する。該製薬組成物は、多様な適切な経路を介して投与されうる。
【0026】
一態様において、製薬組成物の投与は、経皮、皮下、または筋肉内の投与によってもなされる。一具体例において、前記組成物を筋肉または筋肉群に局所的に投与することによってもなされる。例えば、額しわ、皮膚しわの低減は、前記組成物を当該しわの経皮または皮下に投与することによってもなされる。例えば、一実施例の組成物は、皮下または筋肉内の注射投与がなされうる。一実施例による組成物は、プレフィルド・シリンジ(pre-filled syringe)を介し、皮下または筋肉内に注射投与されうる。一実施例の組成物は、経皮パッチまたはマイクロニードルを利用し、経皮投与されうる。
【0027】
「製薬組成物」は、有効成分を含む製剤を意味する。「製薬組成物」は、有効成分(例:ボツリヌス毒素)以外に、少なくとも1種のさらなる成分、例えば、アルブミン(ヒト血清アルブミンまたは組み換えヒトアルブミン)及び/または塩化ナトリウムを含むものでもある。該製薬組成物は、ヒトを始めとする哺乳類のような対象に投与するのに適する製剤である。該製薬組成物は、液体形態、または凍結乾燥された形態でもある。該製薬組成物が凍結乾燥製剤である場合、例えば、食塩水または水を使用し、凍結乾燥された製薬組成物を再溶解させて使用しうる。溶液形態でもある。該製薬組成物は、液体または固体でもある。該製薬組成物には、動物由来タンパク質及び/またはアルブミンがないのである。
【0028】
「治療する」、「治療すること」または「治療(treatment)」は、例えば、負傷したり損傷されたりする組織の治癒、または既存のものであったり、認知されたりする疾患、障害または異常を、変更、変化、強化、改善、改良及び/または美化させることにより、所望する治療上の結果を達成するようにする、疾患、障害または異常の軽減または低減(一部の低減、相当な低減、ほとんど完全な低減、及び完全な低減を含む)、解決または予防(一時的でもあり永久でもある)を意味する。本明細書において「治療」は、予防を含む概念である。「予防」は、疾病、障害または疾患の発病遅延を意味する。疾病、障害または疾患の発病が予定された期間の間遅延された場合、予防は完全なものであると見なされうる。
【0029】
一態様において、「治療(treatment)」は、下記のうち1以上を含む、哺乳動物(特に、ヒト)のような患者において、疾患、障害または医学的病態の治療を意味する:
(a)前述の疾患、障害または医学的病態の発生防止、すなわち、前述の疾患または医学的病態の再発防止、または前述の疾患または医学的病態にかかりやすい(pre-disposed)患者の予防的治療(prophylactic treatment);
(b)他の治療剤の効果に拮抗作用を行うことを含み、前述の疾患、障害または医学的病態の改善(ameliorating)、すなわち、患者における、前述の疾患、障害または医学的病態の除去または退行(regression);
(c)前述の疾患、障害または医学的病態の抑制(suppressing)、すなわち、患者において、前述の疾患、障害または医学的病態の発展を鈍化または阻止させること;または
(d)患者における、前述の疾患、障害または医学的病態の症状緩和。
【0030】
本明細書で使用される、「ユニット」、「unit(s)」または「U」という用語は、ボツリヌス毒素注射を打たれたマウスのうち50%を死滅させたボツリヌス毒素の量として定義される、LD50用量を称するものであり、1つの製品内において、互換可能に使用される。
【0031】
一態様において、ボツリヌス毒素の治療有効量は、約0.01U/kgないし約100U/kg、約0.1U/kgないし約100U/kg、約0.2U/kgないし約100U/kg、約0.2U/kgないし約50U/kg、約0.2U/kgないし約30U/kg、約0.2U/kgないし約10U/kg、約0.2U/kgないし約1U/kgである。他の態様において、体重60kg大人基準で約1Uないし約10、000U、約1Uないし約5、000U、約1Uないし約2、500U、約1Uないし約1、000U、約1Uないし約500U、約1Uないし約300U、約1Uないし約200U、約10Uないし約200U、約10Uないし約100U、約10Uないし約50Uでもある。
【0032】
本発明の一実施例によれば、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物が提供される。該ボツリヌス毒素組成物は、薬剤学的に許容され、動物タンパク質由来ではない賦形剤または添加剤を含むものでもある。一実施例の組成物は、治療が必要な患者の疾患を治療するための方法に使用するための、動物タンパク質を含まず、有効成分としてボツリヌス毒素を含む組成物であり、前記方法は、前記組成物の治療有効量を、治療が必要な対象体に局所投与する段階を含み、投与部位において、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物より拡散(diffusion)が低減されたものでもある。
【0033】
一実施例において、ボツリヌス毒素は、非複合体ボツリヌス毒素でもある。
【0034】
一実施例の組成物は、投与部位において、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物より延長された期間の間の効果を有するものでもある。
【0035】
一態様において、薬剤学的に許容される賦形剤または添加剤は、安定化剤、イオン化合物(ionic compound)、界面活性剤、緩衝剤、凍結乾燥保護剤、またはそれらの組み合わせ、例えば、アミノ酸(例:メチオニン)、塩(例:NaCl)、緩衝液、非イオン性界面活性剤(例:ポリソルベート、例えば、ポリソルベート20)、糖(例:白糖のようなジサッカライド)、糖アルコール(例:ソルビトール)、またはそれらの組み合わせでもある。
【0036】
本発明のボツリヌス毒素組成物は、固体製剤または液体製剤、例えば、凍結乾燥粉末、液状、またはプレフィルド・シリンジ(pre-filled syringe)製剤のように、いかなる形態にも製剤化されうる。
【0037】
一実施例の組成物は、凍結乾燥された組成物でもある。一実施例の凍結乾燥組成物は、ボツリヌス毒素、ポリソルベートのような非イオン性界面活性剤、及び/またはアミノ酸を含み、糖、糖アルコール及びイオン性化合物によって構成された群のうちから選択される1以上の成分を含むものでもある。
【0038】
一実施例において、ポリソルベートは、例えば、ポリソルベート20,40,60,80または100を含むものでもあり、例えば、ポリソルベート20を含むものでもある。一実施例において、アミノ酸は、メチオニンまたはイソロイシンでもある。例えば、一実施例の液状組成物は、安定化剤として、ポリソルベート20及びメチオニンを含むものでもある。
【0039】
一実施例において、糖は、トレハロース(trehalose)、スクロース(sucrose)、マルトース(maltose)、フラクトース(fructose)、ラピノース(raffinose)、ラクトース(lactose)またはグルコース(glucose)を含むものでもある。糖アルコールは、シクロデキストリン(cyclodextrin)、マンニトール(mannitol)、ソルビトール(sorbitol)、グリセロール(glycerol)、キシリトール(xylitol)またはイノシトール(inositol)を含むものでもある。例えば、一実施例の凍結乾燥組成物は、白糖(スクロース)を含むものでもある。
【0040】
一実施例において、イオン性化合物は、塩化ナトリウム(sodium chloride)、リン酸ナトリウム(sodium phosphate)、リン酸アンモニウム(ammonium phosphate)、硫酸マグネシウム(magnesium sulfate)、酢酸ナトリウム(sodium acetate)、乳酸ナトリウム(sodium lactate)、コハク酸ナトリウム(sodium succinate)、プロピオン酸ナトリウム(sodium propionate)またはリン酸カリウム(potassium phosphate)を含むものでもある。
【0041】
一実施例の凍結乾燥組成物において、ポリソルベートは、ボツリヌス毒素100ユニット当たり0.01ないし2mg、メチオニンは、0.01ないし10mg、糖は、0.1ないし50mg、糖アルコールは、0.1ないし50mg、イオン化合物は、0.1ないし10mgで含まれうる。
【0042】
一実施例の組成物は、液状組成物でもある。一実施例の液状組成物は、ボツリヌス毒素、及びポリソルベートのような非イオン性界面活性剤、及び/またはアミノ酸を含むものでもある。一実施例において、ポリソルベートは、例えば、ポリソルベート20,40,60,80または100を含むものでもあり、例えば、ポリソルベート20を含むものでもある。一実施例において、アミノ酸は、メチオニンまたはイソロイシンでもある。例えば、一実施例の液状組成物は、安定化剤として、ポリソルベート20及びメチオニンを含むものでもある。一実施例の液状組成物において、ポリソルベートの濃度は、0.05ないし2.5mg/mL、または0.1ないし2.5mg/mLであり、メチオニンの濃度は、0.5ないし50mM、または25ないし75mMでもある。一実施例の液状組成物のpHは、5.5ないし7.0でもある。
【0043】
一実施例の組成物の低減された拡散効果または延長された期間の間の効果は、1回以上、2回以上、3回以上、4回以上または5回以上の繰り返し投与で生じるものでもある。一実施例の組成物の投与部位筋肉と隣接した筋肉の複合筋肉活動電位測定値は、動物タンパク質含有組成物を、同一投与部位及び同一投与位置に、同一用量投与したときの投与部位筋肉と隣接した筋肉の複合筋肉活動電位測定値より高い値を有するものでもある。本明細書において、「投与部位筋肉と隣接した筋肉」は、投与部位筋肉と、所定の距離ほど離隔されている筋肉を意味する。また、「投与部位筋肉と隣接した筋肉」は、一実施例の組成物による影響(薬理作用)を受けないことが望ましい部位でもある。
【0044】
一実施例の組成物の投与部位筋肉の複合筋肉活動電位測定値は、動物タンパク質含有組成物を、同一投与部位及び同一投与位置に、同一用量投与したときの投与部位筋肉の複合筋肉活動電位測定値より低い値を有しうる。
【0045】
本発明の一実施例によれば、治療が必要な患者の疾患を治療するための方法に使用するための、動物タンパク質を含まず、有効成分として非複合体ボツリヌス毒素を含む組成物であり、前記方法は、一実施例の組成物の治療有効量を、治療が必要な対象体に局所投与する段階を含み、投与部位において、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物より延長された期間の間の効果を有するものであるボツリヌス毒素組成物が提供されうる。
【0046】
本明細書において、ボツリヌス毒素組成物について説明された部分は、矛盾しない限り、ボツリヌス毒素組成物を利用した治療方法、及び疾病治療のための医薬品製造において、ボツリヌス毒素組成物の用途においても、同一に適用されうるということは、言うまでもない。
【0047】
本発明の一実施例によれば、動物タンパク質を含まないボツリヌス毒素組成物を個体に投与し、疾患を改善させるか、あるいは治療するための用途が提供される。
【0048】
一実施例の用途は、ボツリヌス毒素、薬剤学的に許容される賦形剤または添加剤を含む組成物の治療有効量を個体に投与し、皮膚しわ、エラ張り顎、尖り顎、傷、皮膚軟化、傷痕、にきび、毛孔、弾力またはケロイドを改善させるための用途、あるいは顔面痙攣、瞼痙攣、斜頸、眼瞼痙攣、頸部筋緊張異常症、咽頭中央部筋緊張異常症、痙攣性発声障害、偏頭痛、肛門掻痒症または多汗症を治療するための用途でもある。
【0049】
本開示の他の態様によれば、前記ボツリヌス毒素、及び薬剤学的に許容される賦形剤または添加剤を含む組成物を個体に投与し、疾患を改善させるか、あるいは治療するための方法を提供する。一実施例の方法は、動物タンパク質を含まず、有効成分として、ボツリヌス毒素、薬剤学的に許容される賦形剤または添加剤を含む組成物を個体に投与し、皮膚しわ、エラ張り顎、尖り顎、傷、皮膚軟化、傷痕、にきび、毛孔、弾力またはケロイドを改善させるための用途、あるいは顔面痙攣、瞼痙攣、斜頸、眼瞼痙攣、頸部筋緊張異常症、咽頭中央部筋緊張異常症、痙攣性発声障害、偏頭痛、肛門掻痒症または多汗症を治療するための方法でもある。一実施例において、皮膚しわは、眉間しわ、額しわ(例:額の水平しわ)、口元しわ、目元しわ(例:目元外側しわ(目元の小じわ)、目下しわ)、マリオネットラインまたは鼻筋しわを含むものでもある。
【0050】
一態様において、ボツリヌス毒素は、単回または多回の治療セッションに投与されうる。投与量は、注射部位に、単一注入または分割注入によって投与されうる。多回治療セッションにおいてボツリヌス毒素は、1年以下、10ヵ月以下、8ヵ月以下、6ヵ月以下、5ヵ月以下、4ヵ月以下または3ヵ月以下の間隔で投与しうる。例えば、投与間隔は、3ヵ月以上1年以下、3ヵ月以上6ヵ月以下、または4ヵ月以上6ヵ月以下でもある。多回治療セッションにおいて、ボツリヌス毒素の投与間隔は、一次治療と二次治療とを含み、該二次治療の投与量は、該一次治療の投与量より少ないか、多いか、あるいは同一でもある。
【0051】
ボツリヌス毒素の投与用量、投与時間、投与方法、投与期間または間隔などは、患者の体重、年齢、性別、健康状態、疾患の重症度などにより、通常の技術者が適切に選択して使用しうる。
【0052】
ボツリヌス毒素、またはそれを含む組成物が投与される対象は、ヒトや動物、例えば、ヒト、豚、犬、猫、牛、馬、鼠などを制限なしに含むものでもある。
【0053】
本発明の一実施例によれば、皮膚しわ、エラ張り顎、尖り顎、傷、皮膚軟化、傷痕、にきび、毛孔、弾力またはケロイド症状を改善させるか、あるいは顔面痙攣、瞼痙攣、斜頸、眼瞼痙攣、頸部筋緊張異常症、咽頭中央部筋緊張異常症、痙攣性発声障害、偏頭痛、肛門掻痒症または多汗症を治療するための医薬品の製造において、請求項1、請求項2または請求項12によるボツリヌス毒素組成物の用途が提供されうる。
【0054】
本開示のさらに他の態様によれば、前記ボツリヌス毒素を有効成分にし、薬剤学的に許容される賦形剤または添加剤を含む組成物を個体に投与し、投与部位において、動物タンパク質を含むボツリヌス毒素組成物対比で、低減された拡散を示すボツリヌス毒素組成物を製造する方法が提供される。
【0055】
以下、本開示について、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、それらは、本開示について説明するためのものであるのみ、その範囲をいかよういにも制限するものではない。
【0056】
1.一実施例による組成物の拡散低減効果
実施例1:マウスにおけるコアトックス(Coretox)及びニューロノクス(Neuronox)の非臨床効能試験
メス5週齢CD1(ICR)マウスをオリエントバイオから購入し、1週間順化させて検疫した後、6週齢マウスを実験に使用した。飼料は、滅菌された実験動物用固形飼料(R40-10(SAFE(フランス)))を自由給餌し、飲水は、上水道水を高温高圧滅菌(autoclave)し、自由給餌させた。順化期間、検疫期間及び実験期間の間該マウスは、温度23±3℃、相対湿度55±15%、照明時間12時間(午前8時~午後8時)、換気回数15回/時間、及び照度150~300Luxに設定された特定病原体不在条件下において飼育された。本実験は、(株)メディトックス動物実験倫理委員会の検討及び承認(A-2020-016)後に行われた。
【0057】
試験物質は、以下のように準備された。コアトックス(Coretox(Lot No:NSA20011(メディトックス)))及びニューロノクス(Neuronox(Lot No:TFAA20024(メディトックス)))が使用された(表1)。プラセボ(偽薬投与群)は、滅菌生理食塩水(大韓薬品工業)が使用された。各試験物質を、滅菌生理食塩水を使用し、60U/ml濃度に希釈した。
【0058】
【表1】
【0059】
試験物質が投与された日を0日にし、注射麻酔剤(100mg/kg塩酸ケタミン+10mg/kgキシラジン)を利用し、マウスに麻酔をかけた後、表2により、それぞれの試験物質を、マウスの右側ふくらはぎ筋肉に、ハミルトン注射器を利用し、0.2mL/kgで投与した。
【0060】
評価は、外部的な電気刺激に反応する筋肉の活動電位を測定する複合筋肉活動電位(CMAP:compound muscle action potential)試験法が使用された。該CMAPは、Nicolet Viking Quest (Viasys Healthcare, Inc.)装備を利用し、各マウスの右側ふくらはぎ筋部位で測定した。注射麻酔剤でもって麻酔をかけた後、測定部位の毛を除毛し、うつ伏せにした姿勢にマウスを位置させた。測定する足側の座骨神経部位に負極を位置させ、その部位から脊椎を基準に、1cm離れた部位に正極を位置させた。記録電極と基準電極とを、ふくらはぎ筋部位とアキレス腱部位とにそれぞれ位置させ、接地電極を大腿直筋部位に位置させた。刺激のレベルと期間は、7~8mA、0.1msにし、増幅器のフィルタ範囲は、60Hzにおいて、2~10Kで設定した。当該条件で測定したとき、波形の基底部から最高点までの高さを、CMAP測定値でデータ化した。試験物質投与後7日目、投与部位ふくらはぎ筋肉と反対側足のふくらはぎ筋肉とについて測定した。
【0061】
Graphpad Prism 7.05 (GraphPad Software Inc., CA(米国))は、グラフ提示に使用され、SPSS software 25.0 (SPSS Inc., IL(米国))及びExcel (2013, MS(米国))は、統計分析に使用された。実験の結果は、平均±標準偏差で表示された。コルモゴロフ・スミルノフ検定を利用し、正規性検定を実施した。非母数データは、マン・ホイットニー検定を介して統計分析を行い、母数データの場合、両側(two-tailed)t検定を行い、p値が0.05より小さい場合、統計的に有意性があると判断した。
【0062】
【表2】
【0063】
マウス右側ふくらはぎ筋肉に、ボツリヌス毒素A型製品2種(コアトックス(Coretox)、ニューロノクス(Neuronox))を12U/kg用量で投与した後7日目、投与部位筋肉と反対側非投与部位筋肉とについてCMAP測定を実施した。その結果、投与部位筋肉のCMAP値は、コアトックス(Coretox)投与群とニューロノクス(Neuronox)投与群との間において有意な差が観察されていないが、反対側筋肉におけるCMAP値は、コアトックス(Coretox)投与群がニューロノクス(Neuronox)投与群対比で、有意に高く観察された(図1)。そのような結果から、非アルブミン剤形であるコアトックス(Coretox)投与群において、アルブミン剤形であるニューロノクス(Neuronox)投与群対比で、ボツリヌス毒素の拡散(diffusion)低減効果を確認した。
【0064】
実施例2:ラットでボツリヌス毒素A型の互いに異なる剤形に対する非臨床効能試験
そのような非アルブミン剤形の拡散低減効果は、900kDaの毒素を使用した場合にも、同一に示されることが、以下の実験を介して確認された。
【0065】
メス6週齢SDラットマウスを(株)オリエントバイオから購入し、1週間順化させて検疫した後、7週齢ラットを実験に使用した。飼料は、滅菌された実験動物用固形飼料(R40-10(SAFE(フランス)))を自由給餌し、飲水は、上水道水を高温高圧滅菌(autoclave)して自由給餌させた。順化期間、検疫期間及び実験期間の間マウスは、温度23±3℃、相対湿度55±15%、照明時間12時間(午前8時~午後8時)、換気回数15回/時間、及び照度150~300Luxに設定された特定病原体不在条件下において飼育された。本研究は、(株)メディトックス動物実験倫理委員会の検討及び承認(A-2021-001)後に行われた。
【0066】
試験物質は、以下のように準備された。100ユニット単位の複合体化されたボツリヌス毒素A型完製品であるTFXA21004(メディトックス)、NXA20001(メディトックス)を使用した(表3)。プラセボ(偽薬投与群)は、滅菌生理食塩水(大韓薬品工業)が使用された。各試験物質を、滅菌生理食塩水を使用し、100U/mL濃度に希釈した。
【0067】
【表3】
【0068】
試験物質が投与された日を0日にし、注射麻酔剤(60mg/kg塩酸ケタミン+10mg/kgキシラジン)を利用し、ラットに麻酔をかけた後、群構成(表4)により、それぞれの試験物質を、ラットの右側前脛骨筋(tibialis anterior)に、ハミルトン注射器を利用し、0.02mL/kgで投与した。
【0069】
【表4】
【0070】
複合筋肉活動電位(CMAP)試験法を使用して評価した。CMAPは、UltraPro S100 (Natus neurology Inc.)装備を利用し、試験物質投与後14日目、各ラットの右側前脛骨筋(投与筋肉)及びふくらはぎ筋(非投与筋肉)部位において、それぞれ測定された。注射麻酔剤でもって麻酔をかけた後、測定部位の毛を除毛し、うつ伏せにした姿勢に位置させた。正極は、ラットの4,5番目腰椎右側腰筋に位置させ、負極は、5,6番目腰椎を基準に、右側座骨神経に位置させた。正極と負極との距離は、1.5cmを維持させた。記録電極は、前脛骨筋及びふくらはぎ筋に位置させ、基準電極は、アキレス腱部位に位置させ、接地電極は、大腿直筋部位に位置させた。刺激のレベルと期間は、20~30mA、0.2msにし、増幅器のフィルタ範囲は、60Hzにおいて、2~10Kに設定した。当該条件で測定したとき、波形の潜在期以後、ベースラインから最高点までの高さをCMAP測定値でデータ化した。得られたデータは、実施例1と同一方法で統計処理した。
【0071】
ラット右側前脛骨筋に、互いに異なる剤形の複合体化されたボツリヌス毒素A型2種(TFXA21004(アルブミン剤形)、NXA20001(非アルブミン剤形))を2U/kg用量で投与した後14日目、右側前脛骨筋(投与筋肉)及び右側ふくらはぎ筋(非投与筋肉)についてCMAP測定を実施した。その結果、右側前脛骨筋において、2つの試験物質間にCMAP値差は、観察されていないが、非投与筋肉である右側ふくらはぎ筋において、TFXA21004投与群対比で、NXA20001投与群において、有意に増大されたCMAP値が観察された(図2)。そのような結果から、非動物性複合体化されたボツリヌス毒素A型剤形において、動物性剤形対比で、隣接筋肉におけるボツリヌス毒素の拡散低減効果を確認した。
【0072】
実施例3:マウスにおけるボツリヌス毒素製品5種非臨床効能試験
メス5週齢CD1(ICR)マウスをオリエントバイオから購入し、1週間順化させて検疫した後、6週齢マウスを実験に使用した。飼料は、滅菌された実験動物用固形飼料(R40-10(SAFE(フランス)))を自由給餌し、飲水は、上水道水を高温高圧滅菌(autoclave)して自由給餌させた。順化期間、検疫期間及び実験期間の間マウスは、温度23±3℃、相対湿度55±15%、照明時間12時間(午前8時~午後8時)、換気回数15回/時間、及び照度150~300Luxに設定された特定病原体不在条件下において飼育された。本実験は、(株)メディトックス動物実験倫理委員会の検討及び承認(A-2020-016)後に行われた。
【0073】
試験物質は、以下のように準備された。コアトックス(Coretox(Lot No:NSA20011(メディトックス)))、ニューロノクス(Neuronox(Lot No:TFAA20024(メディトックス)))、イノトックス(Innotox(Lot No:D020003(メディトックス))、ゼオミン(Xeomin(Lot No:925559(Merz))、ボトックス(Botox(Lot No:C5394C3(Allergan))が使用された(表5)。プラセボ(偽薬投与群)は、滅菌生理食塩水(大韓薬品工業)が使用された。各試験物質を、滅菌生理食塩水を使用し、60U/ml濃度に希釈し、イノトックス(Innotox)は、液状製品をそのまま使用した。
【0074】
【表5】
【0075】
試験物質が投与された日を0日にし、注射麻酔剤(100mg/kg塩酸ケタミン+10mg/kgキシラジン)を利用し、マウスに麻酔をかけた後、表6により、それぞれの試験物質を、マウスの右側ふくらはぎ筋肉に、ハミルトン注射器を利用し、コアノックス(Coretox)、ニューロノクス(Neuronox)、ゼオミン(Xeomin)、ボトックス(Botox)は、0.2mL/kgで投与し、イノトックス(Innotox)は、0.3mL/kgで投与した。一次投与後、84日間隔で、一次投与と同一に、二次及び三次の試験物質を調製し、同一位置に同一用量で投与した。
【0076】
評価は、マウス筋肉マヒ位置を肉眼で評価する足指外転点数(DAS:digit abduction score)評価法と、外部的な電気刺激に反応する筋肉の活動電位を測定する複合筋肉活動電位(CMAP)試験法とが使用された。表7に表記されたDAS数値は、マウスにおいて投与された側の足指形態による筋肉マヒ程度を示し、CMAP値は、神経遮断によって示される直接的な筋肉の収縮阻害程度を示す。DAS回復期間は、試験物質投与後、DAS点数が0点に回復される期間を示す。CMAP測定は、実施例1と同一に進められた。
【0077】
Graphpad Prism 7.05 (GraphPad Software Inc., CA(米国))は、グラフ提示に使用され、SPSS software 25.0 (SPSS Inc., IL(米国))及びExcel (2013, MS(米国))は、統計分析に使用された。実験の結果は、平均±標準偏差で表示された。DASグラフ及びCMAPグラフにおいて、AUC(area under the curve)値及びAAC(area above the curve)値は、Graphpad Prism softwareを利用して計算された。一元配置分散分析(one-way ANOVA)を行い、グループ間比較のために、チューキー事後検定(Tukey’s post-hoc test)を遂行した。分析時、p値が0.05より小さい場合、統計的に有意性があると判断した。
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
マウス右側ふくらはぎ筋肉に、ボツリヌス毒素A型製品5種(コアトックス(Coretox)、ゼオミン(Xeomin)、ボトックス(Botox)、ニューロノクス(Neuronox)、イノトックス(Innotox))を、12U/kg用量で、84日間隔で3回投与した後、DAS評価の結果、一次投与後、DAS回復期間には、有意な差が観察されていないが、二次及び三次の投与後、ゼオミン(Xeomin)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群及びイノトックス(Innotox)投与群のDAS回復期間の有意な増大が観察された。また、三次投与後、ボトックス(Botox)投与群及びニューロノクス(Neuronox)投与群の対比で、コアトックス(Coretox)投与群のDAS回復期間の有意な増大が観察された(表8)。DASグラフにおいて、168日目三次投与後、コアトックス(Coretox)投与群及びイノトックス(Innotox)投与群は、252日目、全個体の回復が観察され、ボトックス(Botox)投与群及びニューロノクス(Neuronox)投与群は、231日目、全個体の回復が観察され、ゼオミン(Xeomin)は、217日目、全個体の回復が観察され、コアトックス(Coretox)投与群及びイノトックス(Innotox)投与群において、長い作用期間が観察された(図3)。それと類似して、経時的な累積薬理学的効果を示す指標であるDASAUCにおいて、二次及び三次の投与後、ゼオミン(Xeomin)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群、イノトックス(Innotox)投与群、ニューロノクス(Neuronox)投与群のDASAUCが有意に高く観察され、三次投与後、ボトックス(Botox)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群及びイノトックス(Innotox)投与群のDASAUCが有意に高く観察された(表8)。
【0081】
DAS評価と類似して、CMAP測定において、168日目三次投与後、終了時点である252日目、投与部位筋肉のCMAP測定結果、ゼオミン(Xeomin)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群及びイノトックス(Innotox)投与群において、有意に低いCMAP値が測定され、強い効力が観察された(図4)。また、CMAPAAC比較結果、一次投与後、ゼオミン(Xeomin)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群、ニューロノクス(Neuronox)投与群、ボトックス(Botox)投与群のCMAPAACが有意に高く観察され、イノトックス(Innotox)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群のCMAPAACが有意に高く観察された。二次投与後、ゼオミン(Xeomin)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群、ニューロノクス(Neuronox)投与群、ボトックス(Botox)投与群、イノトックス(Innotox)投与群のCMAPAACが有意に高く観察され、三次投与後、ゼオミン(Xeomin)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群のCMAPAACが有意に高く観察された(表9)。図5を参照すれば、それぞれのボツリヌス毒素投与後6,7日目、反対側筋肉のCMAP測定結果、二次投与後、ボトックス(Botox)投与群、ニューロノクス(Neuronox)投与群対比で、コアトックス(Coretox)投与群、イノトックス(Innotox)投与群の反対側筋肉CMAP値の有意な増大が観察された。ゼオミン(Xeomin)の場合、4種類のボツリヌス毒素対比で、弱い効力を有していることが確認されるので(図4参照)、ゼオミン投与群において、反対側筋肉のCMAP値の有意な増大は、拡散防止効果のためではなく、4種類のボツリヌス毒素製品対比で、弱い効力に起因した結果と判断される。
【0082】
そのような結果から、ボツリヌス毒素A型製品5種に係わる3回繰り返し投与による効果を、マウスで比較した結果、アルブミン剤形のボツリヌス毒素製品(ゼオミン(Xeomin)、ボトックス(Botox)、ニューロノクス(Neuronox))対比で、非アルブミン剤形のボツリヌス毒素(コアトックス(Coretox)、イノトックス(Innotox))の強い効力、及び増大された作用期間と拡散低減効果とを確認した。
【0083】
【表8】
【0084】
a、b及びc:互いに異なる上添え字は、統計的に有意な差を示す(一元配置分散分析(one-way ANOVA)、チューキー事後検定(Tukey’s post-hoc test))
【0085】
【表9】
【0086】
a、b及びc:互いに異なる上添え字は、統計的に有意な差を示す(一元配置分散分析(one-way ANOVA)、チューキー事後検定(Tukey’s post-hoc test))
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】