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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】改善された超硬合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20241112BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241112BHJP
   C22C 1/051 20230101ALN20241112BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529717
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-03
(86)【国際出願番号】 US2022078252
(87)【国際公開番号】W WO2023091830
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/281,663
(32)【優先日】2021-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523339148
【氏名又は名称】ハイペリオン マテリアルズ アンド テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】テル, オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】サンドヴァル ラヴォッティ, ダニエラ アンドレイナ
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF32
3C046FF39
3C046FF40
3C046FF44
3C046FF45
3C046FF48
3C046FF50
3C046FF51
3C046FF52
3C046FF55
4K018AD06
4K018FA06
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】
炭化タングステン(WC)を含む硬質相と、Coを含むバインダー相と、(I)MoC、TiC、TaC、及びNbC、並びにそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質であって、Cr及びVCを含まないか、又は(II)ZrC、BN、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、及びCrC、並びにそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質である添加剤とを有する超硬合金が提供される。提供される超硬合金は、耐かじり性、ビッカース硬度、Palmqvist破壊靭性、保磁力などの特性が向上される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCを含む硬質相と、
Coを含むバインダー相と、
MoC、TiC、TaC、及びNbC、並びにそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質である添加剤と
を含む、超硬合金。
【請求項2】
硬質相が、超硬合金の87重量%~91重量%である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
バインダー相が、超硬合金の9重量%~11重量%である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項4】
粒成長抑制物質が、超硬合金の0.1重量%~2重量%である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項5】
粒成長抑制物質がMoを含み、Moが超硬合金の0.1重量%~1.50重量%である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項6】
粒成長抑制物質が、Cr、VC、又はそれらの混合物ではない、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項7】
超硬合金が、少なくとも1400 HV30のHV30ビッカース硬度を有する、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項8】
超硬合金が、少なくとも7.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性値KIcを有する、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項9】
超硬合金が、少なくとも9kA/mの保磁力Hcを有する、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項10】
Moが、超硬合金の約0.40重量%と0.60重量%の間の範囲にある、請求項5に記載の超硬合金。
【請求項11】
WCを含む硬質相と、
Coを含むバインダー相と、
ZrC、及びBN、並びにそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質である添加剤と
を含む、超硬合金。
【請求項12】
粒成長抑制物質が、超硬合金の0.1重量%~1重量%である、請求項11に記載の超硬合金。
【請求項13】
添加剤が、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、Cr、及びそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質をさらに含む、請求項11に記載の超硬合金。
【請求項14】
超硬合金が、少なくとも1500 HV30のHV30のビッカース硬度を有する、請求項11に記載の超硬合金。
【請求項15】
超硬合金が、少なくとも9.9MPa√mのPalmqvist破壊靭性値KIcを有する、請求項11に記載の超硬合金。
【請求項16】
請求項1に記載の超硬合金を含む工具。
【請求項17】
請求項11に記載の超硬合金を含む工具。
【請求項18】
耐かじり性を向上させる方法であって、
WCを含む硬質相と、Coを含むバインダー相と、(I)MoC、TiC、TaC、及びNbC又は(II)ZrC、BN、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、及びCrCのいずれかを含む粒成長抑制物質である添加剤とを含む超硬合金試料を提供すること
を含む、方法。
【請求項19】
1~18メートル及び14~18メートルの摺動距離にわたって、インコネル718に対する超硬合金試料の平均摩擦係数(COF)を測定すること、及び
最も最適な耐かじり性を反映する、可能な限り低い摩擦係数(COF)を得るために、1~18メートル及び14~18メートルの摺動距離にわたって測定されたインコネル718に対する超硬合金試料の平均摩擦係数(COF)に基づいて、(I)MoC、TiC、TaC、及びNbC、又は(II)ZrC、BN、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、及びCrCのいずれかを含む粒成長抑制物質中のMoCの量を調整すること
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
約0.40重量%と0.60重量%の間の範囲のMoCを含む超硬合金試料が、最も最適な耐かじり性を有する、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、耐かじり性、ビッカース硬度、Palmqvist破壊靭性、保磁力などの、向上された特性を有する超硬合金に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]超硬合金は、その硬度と破壊靭性により、冶金製品として一般的に使用されている。一般に、超硬合金は、耐火炭化物、窒化物などの硬質成分を含む硬質相を有する。超硬合金は、Co、Ni、Feなどの延性金属バインダーを含むバインダー相も一般的に有する。硬質相と金属バインダー相は、様々な機械的及び物理的特性を実現する様々な微細構造に加工できる。異なる機械的特性及び物理的特性が達成されているとしても、そのような特性は一般に予測不可能である。そのため、超硬合金はさらなる改善を達成することを試みて研究開発が続けられている。こうした継続的な改善への要望は、少なくとも部分的には、作業に特殊な特性を持つ工具を必要とする硬質金属合金(例えば、インコネル合金及びその他の超合金)の使用の増加によって推進されている。既知の超硬合金の問題点を改善し解決する努力の中で、本発明者らは、本明細書に開示される向上された特性を有する超硬合金を発見した。
【発明の概要】
【0003】
[0003]従来の既知の超硬合金に関する上記の典型的な問題を考慮して、本出願は、新規かつ改善された超硬合金を提供する。
【0004】
[0004]本発明の実施形態は、WCからなる硬質相を含む超硬合金を含む。超硬合金には、Coを含むバインダー相、及びMoC、TiC、TaC、及びNbC、並びにそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質である添加剤をさらに含む。
【0005】
[0005]一実施形態では、硬質相は、超硬合金の87重量%~91重量%である。
【0006】
[0006]別の実施形態では、バインダー相は、超硬合金の9重量%~11重量%である。
【0007】
[0007]別の実施形態では、粒成長抑制物質は、超硬合金の0.1重量%~2重量%である。
【0008】
[0008]別の実施形態では、粒成長抑制物質はMoを含み、Moは超硬合金の0.1重量%~1.50重量%である。
【0009】
[0009]別の実施形態では、粒成長抑制物質は、Cr、VC、又はそれらの混合物ではない。
【0010】
[0010]別の実施形態では、超硬合金は、少なくとも1400 HV30のビッカース硬度HV30を有する。
【0011】
別の実施形態では、超硬合金は、少なくとも7.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性値KIcを有する。
【0012】
[0012]別の実施形態では、超硬合金の保磁力Hcは少なくとも9kA/mである。
【0013】
[0013]別の実施形態では、Moは、超硬合金の約0.40重量%~0.60重量%の間の範囲にある。
【0014】
[0014]本発明の別の実施形態は、WCからなる硬質相を含む超硬合金を含む。超硬合金は、さらに、Coを含む結合相と、ZrC、BN、及びそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質である添加剤とを含む。
【0015】
[0015]一実施形態では、粒成長抑制物質は、超硬合金の0.1重量%~1重量%である。
【0016】
[0016]別の実施形態では、添加剤は、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、Cr、及びそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質がさらに含まれる。
【0017】
[0017]別の実施形態では、超硬合金は、少なくとも1500 HV30のビッカース硬度HV30を有する。
【0018】
[0018]別の実施形態では、超硬合金は、少なくとも9.9MPa√mのPalmqvist破壊靭性値KIcを有する。
【0019】
[0019]本出願の別の実施形態には、本明細書に開示された超硬合金を含む工具を含む。
【0020】
[0020]本出願の別の実施形態には、耐かじり性を向上させる方法であって、該方法は、WCを含む硬質相と、Coを含むバインダー相と、(I)MoC、TiC、TaC、及びNbC、又は(II)ZrC、BN、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、及びCrのいずれかを含む粒成長抑制物質である添加剤とを有する超硬合金試料を提供することと、1~18メートル及び14~18メートルの摺動距離にわたって、インコネル718に対する超硬合金試料の平均摩擦係数(COF)を測定することと、最適な耐かじり性を反映する可能な限り低い摩擦係数(COF)を得るために、1~18メートル及び14~18メートルの摺動距離にわたってインコネル718に対する超硬合金試料の測定された平均摩擦係数(COF)に基づいて、(I)MoC、TiC、TaC、及びNbC、又は(II)ZrC、BN、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、及びCrのいずれかを含む粒成長抑制物質中のMoCの量を調整することとを含む。
【0021】
[0021]別の実施形態では、約0.40重量%~0.60重量%の間の範囲のMoCを含む超硬合金試料は、最も最適な耐かじり性を有する。
【0022】
[0022]その他のシステム、特徴、及び利点は、以下の図及び詳細な説明を検討することにより、当業者には明らかになるであろう。こうした追加のシステム、特徴、及び利点はすべて、この明細書に含まれ、本開示の範囲内にあり、以下の請求項によって保護されることが意図されている。このセクションのいかなる内容も、それらの請求を制限するものとして解釈されるべきではない。さらなる態様及び利点については、本開示の実施形態と併せて以下で説明する。本開示の前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は両方とも例及び説明であり、請求された開示のさらなる説明を提供することを意図していることが理解される。
【0023】
図面の簡単な説明
[0023]添付の図面は、主題のさらなる理解を提供するために含まれており、本明細書に組み込まれ、その一部を構成し、主題の実装を示し、説明とともに開示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】[0024]本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図2】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図3】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図4】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図5】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図6】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図7】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図8】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図9】[0025]本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図10】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像であり、Moの影響を示している。
図11】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像であり、Moの影響を示している。
図12】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図13】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像であり、Moの影響を示している。
図14】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像であり、Moの影響を示している。
図15】本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図16】[0026]Moの量を変えたインコネル718に対する平均摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図17】[0027]特定の例示的な実施形態におけるインコネル718に対する摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図18】[0028]0.47重量%のMoを含む実施形態と0.1重量%のMoを含む実施形態のインコネル718に対する摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図19】[0029]0.47重量%のMoを含む実施形態と0.25重量%のMoを含む実施形態のインコネル718に対する摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図20】[0030]0.47重量%Moを含む実施形態と0.75重量%Moを含む実施形態のインコネル718に対する摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図21】[0031]0.47重量%のMoを含む実施形態と1重量%のMoを含む実施形態のインコネル718に対する摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図22】[0032]0.47重量%のMoを含む実施形態と1.25重量%のMoを含む実施形態のインコネル718に対する摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図23】[0033]0.47重量%Moを含む実施形態と1.50重量%Moを含む実施形態のインコネル718に対する摩擦係数(COF)を示すグラフである。
図24】[0034]ZrC、BN、又はそれらの混合物を含む本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図25】[0034]ZrC、BN、又はそれらの混合物を含む本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図26】[0034]ZrC、BN、又はそれらの混合物を含む本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図27】[0034]ZrC、BN、又はそれらの混合物を含む本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図28】ZrC、BN、又はそれらの混合物を含む本出願の超硬合金の特定の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像である。
図29】[0035]基準グレードの材料に対する平均摩擦係数(COF)を測定することにより、本出願の超硬合金の特定の実施形態の耐かじり性を示すグラフである。
図30】[0036]0.47重量%Moを含むグレードのインコネル718の粉砕性能を基準グレードと比較して示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[0037]別途定義されていない限り、ここで使用されるすべての技術用語及び科学用語は、現在説明されている主題が関係する技術分野の通常の技術者に一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0026】
[0038]値の範囲、例えば濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲が提示されている場合、文脈上明確に別段の定めがない限り、その範囲の上限と下限、及びその範囲内のその他の記載値又は介在値の間の、下限値の10分の1単位までの介在値は、記載された主題に含まれるものと理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、より小さい範囲に独立して含まれる場合があり、そのような実施形態も、記載された範囲内で具体的に除外される制限を条件として、記載された主題の範囲内に包含される。記載された範囲に限界値の一方又は両方が含まれる場合、含まれる限界値の一方又は両方を除外する範囲も、記載された主題に含まれる。
【0027】
[0039]以下の定義は、説明されている主題のパラメータを示す。
【0028】
[0040]本開示において使用される「重量%」は、特に別途記載がない限り、超硬合金組成物の全重量の所定の重量パーセントを指す。
【0029】
[0041]本開示において使用される「約」及び「およそ」という用語は互換的に使用される。これは、使用されている数字の数値のプラス又はマイナス1%を意味する。したがって、「約」及び「およそ」は、特定の値が特定の値より「上」又は「下」になる可能性があることを規定することにより、数値範囲のエンドポイントに柔軟性を提供するために使用される。したがって、例えば、50%という値は、49.5%~50.5%で定義される範囲を含むことを意図している。
【0030】
[0042]本開示において使用される「主に」という用語は、特定のエンティティの少なくとも95%を包含することを意味する。
【0031】
[0043]ここで使用される「実質的に」という用語は、動作、特性、性質、状態、構造、項目、又は結果の完全又はほぼ完全な範囲又は程度を指す。
【0032】
[0044]ここで使用される「可能な限り低い」という用語は、記録された値のセットから最小値として決定される値の最小量を指。
【0033】
[0045]ここで使用される「最適」という用語は、最も好ましい、満足できる、又は望ましいものの量又は程度を指す。
【0034】
[0046]本開示全体を通じて使用される場合、「一般的に」という用語は、「およそ」、「典型的に」、「ほぼ」又は「付近又は範囲内」という意味を有する。
【0035】
[0047]本開示において使用される用語「パルムクビスト破壊靭性」、すなわちKlcは、エネルギーを吸収した際に、事前亀裂を有する材料がさらなる破壊の伝播に抵抗する能力を指す。
【0036】
[0048]本開示において使用される用語「HV30ビッカース硬度」(すなわち、30kgfの荷重を適用する)は、局所的な塑性変形に対する抵抗の尺度であり、試料を30kgfでビッカースチップで押し込むことによって得られる。
【0037】
[0049]本開示で使用されているISO 28079-2009規格は、インデンテーション法によって室温で超硬合金、サーメット、及び超硬合金の破壊靭性及び硬度を測定する方法を規定している。ISO 28079-2009規格は、インデンテーションと、ビッカース硬度のインデンテーションから発散する亀裂の対角線の長さを使用して計算される破壊靭性と硬度の測定に適用され、金属結合炭化物及び炭窒化物(例えば、超硬合金、サーメット、又は超硬合金)に使用することを目的としている。ISO 28079:2009規格で提案されている試験手順は、周囲温度での使用を意図しているが、合意によりより高い温度又はより低い温度に拡張できる。ISO 28079:2009規格で提案されている試験手順は、通常の実験室空気環境での使用も想定されている。通常、強酸や海水などの腐食性環境での使用は想定されていない。ISO 28079-2009規格は、例えば「Comprehensive Hard Materials book」、2014、Elsevier Ltd.の312ページに記載されているASTM B771規格と直接比較可能であり、その全文は参照により本明細書中で援用される。したがって、ISO 28079-2009規格を使用して測定された破壊靭性及び硬度は、ASTM B771規格を使用した測定値と同じであると想定できる。
【0038】
[0050]本開示において使用される用語「保磁力」、すなわちHcは、保磁力又は磁気保磁力とも呼ばれ、強磁性材料が外部磁場に対して消磁されることなく耐える能力の尺度である。
【0039】
[0051]本開示において使用される用語「摩擦係数」、すなわちμは、2つの物体間の接触する2つの表面の動きに抵抗する摩擦力を、2つの物体を押し付けて一緒に保持する法線力との関係で定量化するために使用される比率である。
【0040】
[0052]本開示において使用される用語「かじり(galling)」は、典型的には摺動面間の摩擦及び付着によって引き起こされる材料の摩耗の形態である。材料が摩耗すると、特に表面を圧縮する大きな力が加わった場合に、その一部が接触面とともに引っ張られる。したがって、かじりは表面間の摩擦と接着の組み合わせによって引き起こされ、その後、表面の下の結晶構造が滑り、引き裂かれる。これにより、通常、一部の材料が隣接する表面に付着したり、摩擦溶接されたりするが、かじられた材料は、表面に付着した材料の塊が丸まったり引き裂かれたりしてえぐれたように見える場合がある。
【0041】
[0053]本開示で使用されている用語「インコネル718」は、通常50.0重量%~55.0重量%の量のニッケル、通常17.0重量%~21.0重量%のクロム、通常2.8重量%~3.3重量%のモリブデン、通常4.75重量%~5.50重量%のニオブとタンタル、残部が鉄からなる一般的な超合金である。インコネル718は、当該技術分野ではNicrofer 5219、Superimphy 718、Haynes 718、Pyromet 718、Supermet 718、及びUdimet 718としても知られている。
【0042】
[0054]超硬合金のグレードは、WCの粒径に応じて分類できる。異なる種類のグレードは、ナノ、超微粒子、サブミクロン、微粒子、中微粒子、中粗微粒子、粗微粒子、極粗微粒子として定義されている。本開示で使用される場合、用語、(I)「ナノグレード」は、粒径が約0.2μm未満の材料として定義され、(II)「超微細グレード」は、粒径が約0.2μm~約0.5μmの材料として定義され、(III)「サブミクロングレード」は、粒径が約0.5μm~約0.9μmの材料として定義され、(IV)「微細グレード」は、粒径が約1.0μm~約1.3μmの材料として定義され、(V)「中粗グレード」は、粒径が約1.4μm~約2.0μmの材料として定義され、(VI)「中粗グレード」は、粒径が約2.1μm~約3.4μmの材料として定義され、(VII)「粗粒度」とは、粒径が約3.5μm~約5.0μmの材料と定義され、且つ(VIII)「極粗粒度」とは、粒径が約5.0μmを超える材料と定義される。
【0043】
[0055]本出願の超硬合金について、実施形態を参照して以下に説明する。ここで提供される説明は、特許請求の範囲を制限することを意図するものではなく、本出願に含まれる多様性を例示することを意図するものである。実施形態は、添付の図面を参照して以下でさらに詳しく説明され、図面では、同じ番号が複数の図にわたって同じ要素を表し、例示的な実施形態が示される。しかしながら、請求項の実施形態は、多くの異なる形態で実施される可能性があり、本明細書に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではない。ここで説明する例は、限定的な例ではなく、他の可能性のある例の中の単なる例である。
【0044】
超硬合金
[0056]本発明は、WCを含む硬質相、例えばCoなどのバインダー材料を含むバインダー相、及び/又は添加剤を含む超硬合金に関する。
【0045】
[0057]硬質相はWCを含む。特定の実施形態では、WCのグレードはサブミクロン、微細、又はそれらの混合物である。超硬合金は、主にWCを含み、WCは、通常、超硬合金の全重量の87重量%~91重量%の範囲で超硬合金中に存在する。いくつかの実施形態では、超硬合金は主にWCを含み、WCは、超硬合金の全重量の87重量%~91重量%の範囲で超硬合金中に存在する。他の実施形態では、WCは、超硬合金の全重量に対して89重量%~91重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに他の実施形態では、WCは、超硬合金の全重量に対して90重量%~91重量%の範囲で超硬合金中に存在する。特定の実施形態では、WCは、超硬合金中に、88重量%~89.5重量%、88重量%~90重量%、89重量%~89.5重量%、89重量%~90重量%、90重量%~90.5重量%、又は90.5重量%~91重量%の範囲で存在し、これらはすべて超硬合金の全重量に対する。硬質相は、Ti、Nb、V、Ta、Cr、Zr、Hfの炭化物、炭窒化物、且つ/若しくは窒化物、及びそれらの混合物などの追加の硬質相成分をさらに含み得る。
【0046】
[0058]バインダー相は、例えばCoなどのバインダー成分を含み、特定の実施形態では、バインダーはCoであり、その結果、超硬合金はWC-Co超硬合金になる。バインダーは、通常、超硬合金の全重量に対して9重量%~11重量%の範囲で超硬合金中に存在する。いくつかの実施形態では、バインダーは、超硬合金の全重量に対して9重量%~10重量%の範囲で超硬合金中に存在する。他の実施形態では、バインダーは、超硬合金の全重量に対して9.5重量%~11重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに他の実施形態では、バインダーは、超硬合金の全重量に対して10重量%~11重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに他の実施形態では、バインダーは、超硬合金の全重量に対して10.5重量%~11重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに他の実施形態では、バインダーは、超硬合金の全重量に対して10.5重量%~11重量%の範囲で超硬合金中に存在する。「およそ」という用語は、それが使用されている数字の数値の+/-1%を意味するものと理解される。
【0047】
[0059]添加剤は、MoC、TiC、TaC、NbC、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる粒成長抑制物質であり得る。粒成長抑制物質相は、通常、超硬合金の全重量に対して0.1重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。いくつかの実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の全重量に対して0.25重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。他の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の全重量に対して0.5重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに他の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の全重量に対して0.75重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに別の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の全重量に対して1重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらなる実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の全重量に対して1.25重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに他の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の全重量に対して1.50重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。さらに別の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の全重量に対して1.75重量%~2重量%の範囲で超硬合金中に存在する。特定の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金中に、超硬合金の総重量を基準として、0.4重量%~1重量%、約0.5重量%の範囲で存在する。「およそ」という用語は、それが使用されている数字の数値の+/-1%を意味するものと理解される。
【0048】
[0060]特定の実施形態では、粒成長抑制物質はCr及び/又はVCを含まない。この点に関して、本出願の超硬合金は、一般的に使用されるCr及び/又はVC以外の耐火性超硬合金との焼結中にWC粒の成長を抑制することができる。WC粒サイズの成長を制御することで、Cr及び/又はVCを添加しなくても優れた硬度と破壊靭性を実現できる。実際に、本出願の超硬合金によって達成される優れた硬度及び破壊靭性は、Cr及び/又はVCを粒成長抑制物質として利用するWC-Co超硬合金と同様である。本出願の超硬合金の得られる保磁力Hc値は、例えば、9kA/m~16kA/mの範囲にある。WC-10Coサブミクロングレード(つまり、10Coは超硬合金組成物の10重量%のCoを指し、グレードにはCr及び/又はVCを含み得る)の対応する保磁力Hc値は通常17kA/m~23kA/mの範囲であるが、WC-10Co粗グレードの保磁力Hc値は通常6kA/m~8.5kA/mの範囲である。
【0049】
[0061]Faragらの“The influence of grain growth inhibitors on the microstructure and properties of submicron, ultrafine and nano-structured hardmetals - A review, Int. J. Refract. Met. Hard Mater. 77. 12-30(2018)”及びWittmannらの“WC grain growth inhibition in nickel and iron binder hardmetals”, Int. J. Refract. Met. Hard Mater. 20. 51-60(2002)で説明されているように、WC粒成長の抑制は通常、Cr及び/又はVCを添加することによって行われ、これらは他の耐火炭化物と比較してより効果的であることが知られている。しかし、他の耐火炭化物及び/又はFeを適切な割合で使用することで、WCの粒成長が制限され、Crを粒成長抑制物質として使用する場合に期待される範囲の硬度と破壊靭性を備えた超硬合金が得られる。
【0050】
[0062]特に、本出願の超硬合金は、少なくとも1400 HV30のビッカース硬度HV30を有する。特定の実施形態では、焼結炭化物は、一般に、1400 HV30~1700HV30の範囲のHV30ビッカース硬度を有する。特定の実施形態では、超硬合金は、1400 HV30~1500 HV30、1400 HV30~1600HV30、1500 HV30~1550HV30、1500 HV30~1600HV30、1500 HV30~1700HV30、1550HV30~1600HV30、1600HV30~1700HV30の範囲、又は1650HV30~1700HV30の範囲のHV30ビッカース硬度を有する。
【0051】
[0063]本出願の超硬合金は、典型的に、少なくとも7.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。いくつかの実施形態では、超硬合金は、7.5MPa√m~12.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。他の実施形態では、超硬合金は、8.5MPa√m~12.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。さらに他の実施形態では、超硬合金は、9.5MPa√m~12.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。さらに他の実施形態では、超硬合金は、10.5MPa√m~12.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。さらに他の実施形態では、超硬合金は、11.5MPa√m~12.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。特定の実施形態では、超硬合金は、9MPa√m~11MPa√m又は9.5MPa√m~10.5MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。
【0052】
[0064]本発明の超硬合金は、少なくとも9kA/mの保磁力Hcを有する。いくつかの実施形態では、超硬合金は、9kA/m~25kA/mの保磁力、Hcを有する。別の実施形態では、超硬合金は、11kA/m~25kA/mの保磁力、Hcを有する。さらに別の実施形態では、超硬合金は、13kA/m~25kA/mの保磁力、Hcを有する。またさらに別の実施形態では、超硬合金は、15kA/m~25kA/mの保磁力、Hcを有する。さらなる実施形態では、超硬合金は、17kA/m~25kA/mの保磁力、Hcを有する。さらに別の実施形態では、超硬合金は、19kA/m~25kA/mの保磁力、Hcを有する。特定の実施形態では、超硬合金は、21kA/m~25kA/mの保磁力、Hcを有する。特定の特別な実施形態では、超硬合金は、12kA/m~20kA/m又は17kA/m~20kA/mの保磁力、Hcを有する。保磁力は一般に炭化物の微細構造と反比例関係にある。つまり、保磁力が増加すると、炭化物の粒径は減少する。したがって、保磁力が高いということは、炭化物の粒径が小さいことを意味する。
【0053】
[0065]以下の表1は、本出願の超硬合金の特定の実施形態を示しており、ビッカース硬度HV30、Palmqvist破壊靭性KIc、及び保磁力Hcを含んでいる。図1図8は、表1に示したグレードの走査型電子顕微鏡画像を示している。
【0054】
[0066][表1]
【0055】
[0067]さらに、粒成長抑制物質相は、一般に、超硬合金の0.1重量%~1.50重量%の量のMoを含む。特定の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の0.1重量%~1重量%の量のMoを含む。特定の実施形態では、粒成長抑制物質相は、超硬合金の0.25重量%~1.50重量%、0.50重量%~1.50重量%、0.75重量%~1.50重量%、0.90重量%~1.50重量%、1.00重量%~1.50重量%、1.10重量%~1.50重量%、1.25重量%~1.50重量%、又は1.40重量%~1.50重量%の量のMoを含む。
【0056】
[0068]すなわち、本実施形態では、粒成長抑制物質相がMoCとして添加され、その結果、超硬合金はMoを含むことになる。Moの量が1.25重量%を超えると、第3相の析出が発生する可能性がある。このような析出を回避するために、炭化物組成物中のMoの量の上限を1.25重量%又は1重量%に制限することができる。さらに、特定の実施形態では、本出願の超硬合金は、立方晶のCo相及びMo相を形成せず、また、そのような相を含まない。
【0057】
[0069]第3相の存在は、表2(下記)に示す試料を調製することによって実験的に検証された。各試料は、表2に示す重量%のMoと、10%のCoと、残余のWCを含んでいた。
【0058】
[0070][表2]
【0059】
[0071]図9図15は、表2の実施形態の微細構造の走査型電子顕微鏡画像を示す。前述の第3相は、Moの量が1.25重量%及び1.50重量%の場合の微細構造を示す図14図15に示されている。表2は、第3相の存在がPalmqvist破壊靭性KIcに悪影響を及ぼし、Moの量が0.1重量%~1重量%の範囲にある場合と比較して、Moの量が1.25重量%の場合にPalmqvist破壊靭性KIcが減少することを示している。
【0060】
[0072]表2に示す各試料について、インコネル718に対する摩擦係数(COF)を測定した。摩擦係数(COF)は、1メートル~18メートルの摺動距離で測定された。摩擦係数(COF)は、安定した挙動を示した14~18メートルの摺動距離でさらに測定された。結果を表2に示す。
【0061】
[0073]さらに、表2の試料の耐かじり性は、全摺動距離18メートルにわたって20Nの一定荷重で往復摺動試験を行うことによって測定された。図16は、インコネル718に対する平均摩擦係数(COF)をMo含有量(重量%)に対してプロットした結果を示している。図16に示す結果は、耐かじり性が概ね良好であり、Moが約0.40重量%~0.60重量%の間の範囲であることを示している(つまり、図16の1~18メートルの摺動距離にわたる平均COF測定値を示すグラフの最低点)。
【0062】
[0074]図16は、表2のすべての試料について、インコネル718に対する摩擦係数(COF)を摺動距離に対してプロットしたものである。0.47重量%Moを含む実施形態の摩擦係数(COF)は、最も低い摩擦係数(COF)を有する線として示されている。つまり、他の各試料は、0.47重量%Moの実施形態と比較して、摩擦係数(COF)が高くなっている。しかしながら、耐かじり性は、摩擦係数(COF)の関数だけではなく、図17の線に山と谷として示されているかじり事象の存在も考慮する。図17に示すように、より多くのかじり事象を示した試料は、それぞれ0.25重量%のMo、1重量のMo、及び1.25重量のMoで構成された試料である。さらに明確にするために、図19図21、及び図22は、0.25重量%のMo、1重量%のMo、及び1.25重量%のMoで構成された実施形態について図17から線を抽出し、0.47重量%のMoで構成された実施形態とともに線を示している。図19図21及び図22に示されているかじり事象の増加は、図16に示されている平均摩擦係数(COF)の上昇と一致している。
【0063】
[0075]対照的に、図18は、0.47重量%のMoで構成された実施形態と、0.1重量%のMoで構成された実施形態のみを示している。図20は、0.47重量%のMoで構成された実施形態と、0.75重量%のMoで構成された実施形態のみを示している。図23は、0.47重量%のMoで構成された実施形態と、1.50重量%のMoで構成された実施形態のみを示している。図18図20及び図23は、かじり事象(つまり、山と谷の数)が少ないことを示している。したがって、図16図23に示された結果をまとめると、耐かじり性は、一般に、約0.40重量%のMo~0.60重量%の範囲で良好であることがわかる。0.1重量%のMo、0.75重量%のMo、及び1.50重量%のMoを含む試料は、安定した摩擦係数(COF)によりインコネル718に対して良好な耐摩耗性を示す可能性があり、一般に、約0.40重量%~0.60重量%の間の範囲にわたるMoの試料では、満足のいく低い摩擦係数(COF)及び摩耗事象の減少(つまり、耐摩耗性の向上)という好ましい結果が観察された。
【0064】
[0076]本出願は、超硬合金の製造方法も含む。超硬合金の製造方法は、第1に、硬質相と結合相を混合及び/又は粉砕する工程と、第2に、硬質相とバインダー相の混合物を圧縮する工程と、第3に、硬質相とバインダー相の圧縮混合物を焼結する工程とを含む。必要に応じて、焼結製品を研磨し、コーティングして、超硬合金から製品(例えば、工具又はインサートなど)を得ることができる。コーティングは、化学気相堆積法(CVD)及び/又は物理的気相堆積法(PVD)によって提供され得る。上で説明したように、超硬合金は、粒成長抑制物質としてCr及び/又はVCを添加しなくても、優れた硬度と破壊靭性を実現できる。さらに、超硬合金の製造方法は、立方晶のCo相及びMo相の形成を回避するように進めることができる。
【0065】
ZrC及び/又はBN
[0077]本出願の超硬合金には、添加剤としてZrC及び/又はBNを含めることができる。ZrC又はBNの添加は、Ni合金を加工する際の金属の蓄積を減らすのに役立つ。この点で、金属の堆積は、あらゆる金属合金を加工する際の超硬合金工具にとって重大な損傷メカニズムとなる。これは通常、標準グレードの超硬合金の上にコーティングを施すことで解決される。しかしながら、添加剤としてZrC及び/又はBNを含む本出願の超硬合金は、コーティングが表面から完全に除去されると、機械加工された材料とバルク材料との接着性を低下させる可能性がある。
【0066】
[0078]添加剤がZrC及び/又はBNである場合、ZrC及び/又はBNは、超硬合金の0.1重量%~0.2重量%の量で存在することができる。Zrは酸素と反応して活性が高く、非常に多孔質な材料を生成する可能性があるため、大量のZrC(すなわち、5重量%超)の添加は回避される。さらに、添加剤がZrC及び/又はBNである場合、添加剤は、MoC、TiC、TaC、NbC、VC、Cr、及びそれらの混合物からなる群から選択される粒成長抑制物質をさらに含み得る。つまり、添加剤がZrC及び/又はBNである場合、Crの有無にかかわらず超硬合金を製造できる。
【0067】
[0079]表3(下)は、添加剤がZrC及び/又はBNであり、ビッカース硬度HV30及びPalmqvist破壊靭性KIcを含む場合の、本出願の超硬合金の特定の実施形態を示している。図24図28は、表3に示したグレードの走査型電子顕微鏡画像を示している。表3の参照グレードは、サブミクロンWCを含む10%のCoグレードを指す(つまり、10Coは、超硬合金組成物の10重量%のCoを指す)。
【0068】
[0080][表3]
【0069】
[0081]表3に示すように、ZrC及び/又はBNを含む超硬合金は、少なくとも1500 HV30のビッカース硬度HV30を有する。いくつかの実施形態では、超硬合金は、1500 HV30~1650HV30の範囲のHV30ビッカース硬度を有する。特定の実施形態では、超硬合金は、1550HV30~1650HV30のビッカース硬度HV30を有する。特定の実施形態では、超硬合金は、1600HV30~1650HV30のビッカース硬度HV30を有する。
【0070】
[0082]さらに、超硬合金ZrC及び/又はBNは、少なくとも9.9MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。特定の実施形態では、超硬合金は、9.9MPa√m~10.6MPa√mのPalmqvist破壊靭性KIcを有する。
【0071】
[0083]ZrCの添加は、一般的な粒成長抑制物質よりも効果が低いと認識されているため、超硬合金では一般的ではない。しかしながら、ZrCの少量添加はバインダーとニッケル合金の相互作用に影響を与え、それにより、金属の蓄積を減らすことで耐かじり性を向上させることができる。少量のBNの添加は、Coバインダーとニッケル合金との化学親和性を低下させ、それにより、耐かじり性も低減される。この点に関しては、Ni超合金/インコネル718に対する摩擦係数の時間的変化を観察することにより、金属の堆積を「かじり」の観点から測定した。一般的なWC-Co(Cr添加あり)は、摺動距離に沿って摩擦係数が急激に変化し、金属の蓄積が増加する。図29は、表3に示したZrC及び/又はBNを含む焼結炭化物のグレードでは、このような急激な変化は観察されなかったことを示している。この点に関して、図29は、基準グレード及び表3に示したZrC及び/又はBNを含む超硬合金のグレードの摺動距離に対する摩擦係数の曲線を示す。図29は、表3に示したZrC及び/又はBNを含む焼結炭化物のグレードでは、かじり事象に関連する急激な変化が観察されないことを示しています。ZrC及び/又はBNを添加すると金属の堆積が減少するが、機械加工に使用される一般的なWC-Co材料の範囲内の硬度と破壊靭性には影響しない。
【0072】
[0084]上で説明したように、本出願には、超硬合金の製造方法も含まれる。超硬合金の製造方法は、第1に、硬質相と結合相を混合及び/又は粉砕する工程と、第2に、硬質相とバインダー相の混合物を圧縮する工程と、第3に、硬質相とバインダー相の圧縮混合物を焼結する工程とを含む。必要に応じて、焼結製品を研磨し、コーティングして、超硬合金から製品(例えば、工具又はインサートなど)を得ることができる。コーティングは、化学気相堆積法(CVD)及び/又は物理的気相堆積法(PVD)によって提供され得る。少量のZrC及び/又はBNを超硬合金に添加することができる。特に、超硬合金の製造方法においては、硬質相とバインダー相の混合物に少量のZrC及び/又はBNを添加することができる。
【0073】
工具
[0085]本明細書に開示される超硬合金は、工具を調製するために使用することができる。本出願は、開示された超硬合金を含む工具に関する。例えば、工具は、エンドミル、インサート、ドリル、鋸チップなどであることができるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、工具はエンドミルである。
【0074】
[0086]図30は、0.47重量%Moを含むグレードのインコネル718の粉砕性能を基準グレードと比較して示している。図30に示すように、0.47重量%のMoから構成されるグレードでは、基準グレードと比較して平均パス数が約35%増加される。したがって、図30に示されている結果は、好ましい低摩擦係数(COF)及びかじり事象の減少(つまり、耐かじり性の向上)と一致しており、これらは一般に約0.40重量%と0.60重量%との間のMoの範囲にわたる試料で観察されている。
【0075】
[0087]本開示は実施形態に関連して説明されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に定義されている本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、具体的に説明されていない追加、削除、変更、及び置換を行うことができることを理解するであろう。
【0076】
[0088]本明細書における実質的にあらゆる複数形及び/又は単数形の用語の使用に関しては、当業者は、文脈及び/又は用途に応じて、複数形から単数形へ、及び/又は単数形から複数形へ翻訳することができる。明瞭化のために、ここでは単数/複数の様々な順列は明示的に示されていない。
【0077】
[0089]ここで説明する主題は、異なる他の構成要素内に含まれる、又は異なる他の構成要素に接続された異なる構成要素を示す場合がある。このように示されたアーキテクチャは単なる例示であり、実際には同じ機能を実現する他の多くのアーキテクチャを実装できることを理解する必要がある。概念的には、同じ機能を実現するための構成要素の配置は、望ましい機能が実現されるように効果的に「関連付け」られる。したがって、特定の機能を実現するためにここで組み合わせられた任意の2つの構成要素は、アーキテクチャや中間構成要素に関係なく、目的の機能が実現されるように互いに「関連付けられている」と見なすことができる。同様に、そのように関連付けられた任意の2つの構成要素は、所望の機能を実現するために互いに「操作可能に接続されている」又は「操作可能に結合されている」と見なすこともでき、また、そのように関連付けられる可能性がある任意の2つの構成要素は、所望の機能を実現するために互いに「操作可能に結合可能である」と見なすこともできる。操作可能に結合可能な具体的な例としては、物理的に結合可能及び/又は物理的に相互作用する構成要素、及び/又はワイヤレスで相互作用可能及び/又はワイヤレスで相互作用するコ構成要素、及び/又は論理的に相互作用する及び/又は論理的に相互作用可能な構成要素が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
[0090]いくつかの場合では、1つ又は複数の構成要素は、本明細書では「ように構成されている(configured to)」、「によって構成されている(configured by)」、「ように構成され得る(configurable to)」、「ように操作可能/作動可能(operable/operative to)」、「適応されている/適応可能である(adapted/adaptable)」、「できる(able to)」、「ように一致された/適合された(conformable/conformed to)」などと称し得る。当業者であれば、文脈上特に必要がない限り、このような用語(例えば、「ように構成されている(configured to)」)は、一般に、アクティブ状態の構成要素及び/又は非アクティブ状態の構成要素及び/又はスタンバイ状態の構成要素を包含できることが理解できるであろう。
【0079】
[0091]本明細書に記載された本発明の主題の特定の態様が示され、説明されているが、当業者には、本明細書の教示に基づいて、本明細書に記載された主題及びそのより広い態様から逸脱することなく変更及び修正を行うことができることは明らかであり、したがって、添付の請求項は、本明細書に記載された主題の真の趣旨及び範囲内にあるすべての変更及び修正をその範囲内に包含するものとする。一般に、本明細書、特に添付の請求項(例えば、添付の請求項の本文)で使用される用語は、一般に「オープン」な用語として意図されていることは、当業者には理解されるであろう(例えば、「含んでいる(including)」という用語は「含んでいるが、これらに限定されない(including but not limited to)」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は「少なくとも有する(having at least)」と解釈されるべきであり、「含む(includes)」という用語は「含むが、これらに限定されない(includes but is not limited to)」と解釈されるべきであるなど)。
【0080】
[0092]さらに、当業者であれば、導入された請求項の特定の数の記載が意図されている場合、そのような意図は請求項に明示的に記載され、そのような記載がない場合にはそのような意図は存在しないことが理解されるであろう。例えば、理解を助けるために、以下の添付の請求項には、請求項の記載を紹介するために「少なくとも1つ」及び「1つ又は複数の」という導入句が使用されている場合がある。しかしながら、そのようなフレーズの使用は、不定冠詞「a」又は「an」による請求項の記載導入が、そのような導入された請求項の記載を含む特定の請求項を、そのような記載を1つだけ含むクレームに限定することを意味すると解釈されるべきではなく、これは、同じ請求項に導入されたフレーズ「1つ又は複数の(one or more)」又は「少なくとも1つの(at least one)」と不定冠詞「a」又は「an」が含まれる場合であってもである(例えば、「a」及び/又は「an」は通常、「少なくとも1つの(at least one)」又は「1つ又は複数の(one or more)」を意味すると解釈されるべきである)。請求項の記載を導入するために使用される定冠詞の使用についても同様である。
【0081】
[0093]さらに、導入された請求項の特定の数が明示的に記載されている場合でも、当業者は、そのような記載は通常、少なくとも記載された数を意味するように解釈されるべきであることを認識するであろう(例えば、他の修飾語なしの「2つの記載」という単なる記載は、通常、少なくとも2つの記載、又は2つ以上の記載を意味する)。
【0082】
[0094]さらに、「A、B、Cなどのうち少なくとも1つ」に類似した慣例が使用される場合、一般に、そのような構成は、当業者がその慣例を理解する意味で意図されている(例えば、「A、B、Cのうち少なくとも1つを含むシステム」には、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBが一緒に、AとCが一緒に、BとCが一緒に、及び/又はA、B、Cが一緒になどを含むシステムが含まれるが、これらに限定されない)。「A、B、Cなどのうち少なくとも1つ」に類似した慣例が使用される場合、一般に、そのような構成は、当業者がその慣例を理解する意味で意図されている(例えば、「A、B、Cのうち少なくとも1つを含むシステム」には、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBが一緒に、AとCが一緒に、BとCが一緒に、及び/又はA、B、Cが一緒になどを含むシステムが含まれるが、これらに限定されない)。さらに、当業者であれば、説明、請求項、図面のいずれにおいても、2つ以上の代替用語を提示する分離語及び/又は句は、文脈上別段の定めがない限り、用語の1つ、いずれかの用語、又は両方の用語を含める可能性を考慮していると理解すべきであることを理解できるであろう。例えば、「A又はB」というフレーズは、通常、「A」又は「B」又は「AかつB」の可能性を含むと理解される。
【0083】
[0095]添付の請求項に関して、当業者であれば、そこに記載されている操作は一般に任意の順序で実行できることを理解するであろう。また、様々な操作フローが順番に示されているが、様々な操作は、示されている順序以外の順序で実行することも、同時に実行することもできることを理解されたい。このような代替順序の例には、文脈上特に断りのない限り、重複、交互、中断、並べ替え、増分、準備、補足、同時、逆、又はその他の変形順序が含まれまれる。さらに、「に応答して(responsive to)」、「に関連して(related to)」などの用語や、その他の過去形の形容詞は、文脈上特に断りがない限り、通常、そのような変形を除外することを意図したものではない。
【0084】
[0096]当業者であれば、前述の特定の例示的なプロセス及び/又はデバイス及び/又は技術が、本明細書に添付された請求項及び/又は本出願の他の箇所など、本明細書の他の箇所で教示されるより一般的なプロセス及び/又はデバイス及び/又は技術を代表するものであることを理解するであろう。
【0085】
[0097]本明細書では様々な側面及び実施形態が開示されているが、他の態様及び実施形態も当業者には明らかであろう。本明細書に開示される様々な態様及び実施形態は、例示目的であり、限定するものではなく、真の範囲及び趣旨は、以下の請求項によって示される。
【0086】
[0098]詳細な説明、図面、及び請求項に記載されている例示的な実施形態は、限定することを意図したものではない。ここで提示された主題の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他の実施形態が利用され、他の変更が行われることも可能である。
【0087】
[0099]値の範囲が提示されている場合、文脈上明らかに別段の定めがない限り、その範囲の上限と下限との間の各介在値(下限値の10分の1単位まで)と、その提示された範囲内のその他の提示値又は介在値は、開示内容に含まれるものと理解される。より小さな範囲に独立して含まれる可能性のあるこれらのより小さな範囲の上限と下限も、記載された範囲内で特に除外される制限を除き、本開示の範囲に含まれる。記載された範囲に一方又は両方の制限が含まれる場合、含まれる制限のいずれか両方を除外した範囲も開示に含まれる。
【0088】
[00100]当業者であれば、本明細書で説明する構成要素(例えば、操作)、デバイス、対象物、及びそれらに付随する説明は、概念を明確にするための例として使用されており、様々な構成の変更が考慮されていることが分かるであろう。したがって、ここで使用されている特定の例と付随する説明は、より一般的なクラスを代表することが意図される。一般に、特定の例の使用はそのクラスを代表することを目的としており、特定の構成要素(例えば、操作)、デバイス、及び対象物が含まれていないことは制限として解釈されるべきではない。
【0089】
[00101]さらに、例えば、本明細書で説明されるシステム及び方法のシーケンス及び/又はシーケンスの時間的順序は、例示的なものであり、本質的に制限的なものとして解釈されるべきではない。したがって、プロセスステップは、順序又は時間的な順序で示され、説明される場合があるが、必ずしも特定の順序又は順序で実行されることに限定されるわけではないことを理解されたい。例えば、このようなプロセス又は方法におけるステップは、一般に、本開示の範囲内で、様々な異なるシーケンス及び順序で実行され得る。
【0090】
[00102]最後に、ここで議論されている出願公開及び/又は特許は、記載されている開示の提出日より前の開示のためだけに提供されている。本書のいかなる内容も、記載された開示が、以前の開示を理由として当該公表に先行する権利を有しないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
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【国際調査報告】