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特表2024-543100改善された特性を有する押出用A6xxx合金及び押出製品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】改善された特性を有する押出用A6xxx合金及び押出製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20241112BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20241112BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20241112BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/05
C22C21/02
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 630A
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529751
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2022082973
(87)【国際公開番号】W WO2023094446
(87)【国際公開日】2023-06-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591237869
【氏名又は名称】ノルスク・ヒドロ・アーエスアー
【氏名又は名称原語表記】NORSK HYDRO ASA
【住所又は居所原語表記】0240 OSLO,NORWAY
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】トゥナル・ウルフ・ホーコン
(72)【発明者】
【氏名】ライソ・オドヴィン
(72)【発明者】
【氏名】モーセル、エヴァ・アン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイカンプ、ヘレン
(72)【発明者】
【氏名】ロイセット、ヨースタイン
(72)【発明者】
【氏名】インドリヤティ、マルタ
(57)【要約】
本発明は、重量%で、Mg:0.45~1.2、Si:0.40~1.0、Ti:0.05~0.20、V:0.05~0.15、Cu:0.30未満、Mn:0.30未満、Cr:0.15未満、Zr:0.15未満、Fe:0.50未満、Zn:0.50未満を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、Sieff/Mg比は1.0未満である、Al-Mg-Siアルミニウム合金であって、改善された延性及び押しつぶし特性を有し、良好なエネルギー吸収性、耐食性及び温度安定性を有するAl-Mg-Siアルミニウム合金に関し、特に車両の衝突時に露出する部分の構造部品に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.20
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、Sieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金。
【請求項2】
Tiの含有量が0.07~0.12重量%である、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項3】
Vの含有量が0.07~0.12重量%である、請求項1又は2に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項4】
Ti+Vの含有量が0.14~0.24重量%又は0.15~0.20重量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の6xxx合金。
【請求項5】
Sieff/Mg比が0.50~0.96である、請求項1~4のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項6】
Sieff/Mg比が0.60~0.85又は0.65~0.75である、請求項5に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項7】
Sieff/Mg比が0.80~0.96である、請求項5に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項8】
Siの含有量が0.45~0.65重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.75重量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項9】
Siの含有量が0.45~0.55重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.65重量%である、請求項8に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項10】
Mnの含有量が0.10~0.20重量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金
【請求項11】
Cuの含有量が0.20未満又は0.08~0.15重量%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項12】
Crの含有量が0.08重量%未満又は0.05重量%未満である、請求項1~11のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の合金から押出製品を製造する方法であって、以下:
a.重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.15
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、かつSieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金からビレットを鋳造する工程と、
b.鋳造ビレットを480℃~600℃の温度で1時間~24時間均質化する工程と、
c.均質化されたビレットを冷却する工程と、
d.前記ビレットを押出成形して押出製品を形成する工程と、
e.80℃/秒未満の冷却速度を用いて、押出製品を室温まで冷却する工程と、
f.任意選択的に、プロファイルを延伸する工程と、
g.押出製品を時効する工程と
を含む、押出製品を製造する方法。
【請求項14】
工程fにおける延伸が1.5~4%である、請求項13に記載の押出製品の製造方法。
【請求項15】
工程fにおける延伸が1.5~3%である、請求項14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項16】
工程eの冷却速度が40℃/秒未満又は20℃/秒未満である、請求項13~15のいずれか一項に記載の押出製品の製造方法。
【請求項17】
工程eの冷却速度が5℃/秒超又は7℃/秒超である、請求項13~16のいずれか一項に記載の押出製品の製造方法。
【請求項18】
Ti+Vの含有量が0.14~0.24又は0.15~0.20である、請求項13~17のいずれか一項に記載の押出製品の製造方法。
【請求項19】
Sieff/Mg比が0.50~0.96である、請求項13~18のいずれか一項に記載の押出製品の製造方法。
【請求項20】
Sieff/Mg比が0.60~0.85、又は0.65~0.75、又は0.80~0.96である、請求項19に記載の押出製品の製造方法。
【請求項21】
Siの含有量が0.45~0.65重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.75重量%である、請求項13~20のいずれか一項に記載の押出製品の製造方法。
【請求項22】
Siの含有量が0.45~0.55重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.65重量%である、請求項21に記載の押出製品の製造方法。
【請求項23】
Cuの含有量が0.20未満又は0.08~0.15重量%である、請求項13~22のいずれか一項に記載の押出製品の製造方法。
【請求項24】
Crの含有量が0.08重量%未満又は0.05重量%未満である、請求項13~23のいずれか一項に記載の押出製品の製造方法。
【請求項25】
請求項13~24のいずれか一項に従って製造された押出製品であって、重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.15
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
からなり、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、Sieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金を含み、
最終製品の材料は再結晶粒組織を有する、押出製品。
【請求項26】
押出製品が、車両の衝突時に露出する部分の構造部品である、請求項25に記載の押出製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた延性及び押しつぶし特性を有し、良好なエネルギー吸収性及び温度安定性を有するAl-Mg-Siアルミニウム合金及びその押出製品に関し、特に、車両の衝突時に露出する部分の構造部品に有用である。本発明に係る押出品は、高い耐食性も有する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2007/094686号には、合金の延性を改善するために0~0.4重量のTiを添加したAl-Mg-Si合金が開示されている。Mg及びSiの範囲は広く、Si/Mg比の好ましい範囲は1.4である。この特許出願は、最良の温度安定性が高いSi/Mg比で見出されることも教示している。
【0003】
欧州特許第0936278号では、Al-Mg-Si合金に0.05~0.20重量%のVの添加と、0.15~0.4重量%のMnの添加を併用することで、延性が改善されると主張している。この特許出願によれば、好ましいMn/Fe比は0.45~1.0であり、より好ましくは0.67~1.0である。欧州特許第0936278号におけるTiの役割は、鋳造又は溶接中の結晶粒微細化剤として明確に述べられている。Tiの好ましい範囲は0.1重量%以下である。
【0004】
従来技術において、プロファイルは押出後に水焼入れされる。しかしながら、水焼入れは、押出成形された部分の形状の歪みをもたらす可能性があり、歪みのリスクは、プロファイルの複雑さが増すにつれて増大する。
【発明の概要】
【0005】
Al-Mg-Si(6xxx)合金の押出プロファイルは、自動車の衝突にさらされる部分の構造部品として使用されている。このような部品は、衝突時に大きなエネルギーを吸収することが要求され、そのためには破断せずに変形しなければならない。押出プロファイルが必要な特性を有することを管理する手段の1つは、押しつぶしによって試験することである。この試験では、予め定義された長さの1つ以上のチャンバーを有する薄壁押出中空プロファイルの試験片を、制御された速度で軸方向に押しつぶし、試験片の長さを典型的には元の長さの1/3に減少させる。良好な変形挙動は、試験片の壁が規則的に折り畳まれていること、試験片に亀裂がほとんど又は全くないこと、及び変形した部分の表面が滑らかであることによって特徴付けられる。貧弱な変形挙動は、試験片の壁の限定的な折り畳まれ、試験片の広範な亀裂又は破壊、及び変形した部分の表面が粗く不均一であることによって特徴付けられる。
【0006】
押しつぶし試験の代替法として、曲げの外側で最初の亀裂が発生する前に、プロファイル内の壁の1つがどの程度曲げられるかを試験する方法がある。
【0007】
衝突に曝された部分の構造部品の中には、高温に曝されることもある。このような曝露は、合金の機械的特性に影響を及ぼす可能性がある。このような用途では、熱曝露の影響を受けにくい合金を選択することが重要である。「熱安定性」という用語は、高温に曝された後に機械的特性を保持する合金の能力を意味する。本発明は、腐食特性及び押しつぶし特性を維持しながら、押出後により低い冷却速度を用いて製造することができる高温安定性を有する合金を提供する。
【0008】
本発明は、独立請求項1、13及び25、並びに従属請求項2~12、14~24及び26に定義される特徴によって特徴付けられる。
【0009】
第1の態様によれば、重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.20
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30重量%であり、かつSieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金が提供される。
【0010】
Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr)/3[重量%]である。合金中にZrが含まれる場合、Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr+Zr)/3[重量%]である。
【0011】
いくつかの実施態様において、Tiの含有量は、0.05~0.15重量%又は0.07~0.12重量%である。
【0012】
いくつかの実施態様において、Vの含有量は、0.07~0.12重量%である。
【0013】
いくつかの実施態様において、Ti+Vの含有量は、0.14~0.24重量%又は0.15~0.20重量%である。
【0014】
いくつかの実施態様において、Sieff/Mg比は、0.50~0.96である。
【0015】
いくつかの実施態様において、Sieff/Mg比は、0.60~0.85又は0.65~0.75である。
【0016】
いくつかの実施態様において、Sieff/Mg比は、0.80~0.96である。
【0017】
いくつかの実施態様において、Siの含有量は、0.45~0.65重量%であり、かつMgの含有量は、0.55~0.75重量%である。
【0018】
いくつかの実施態様において、Siの含有量は、0.45~0.55重量%であり、かつMgの含有量は、0.55~0.65重量%である。
【0019】
いくつかの実施態様において、Mnの含有量は、0.10~0.20重量%である。
【0020】
いくつかの実施態様において、Cuの含有量は、0.20未満又は0.08~0.15重量%である。
【0021】
いくつかの実施態様において、Crの含有量は、0.08重量%未満又は0.05重量%未満である。
【0022】
いくつかの実施態様において、Feの含有量は、0.35重量%未満である。
【0023】
いくつかの実施態様において、6xxxアルミニウム合金は、押出合金である。
【0024】
第2の態様によれば、第1の態様又はそのいずれかの実施態様に係る合金から押出製品を製造する方法であって、以下の工程:
a.重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.20
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、かつSieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金からビレットを鋳造する工程と、
b.鋳造ビレットを480℃~600℃の温度で1時間~24時間均質化する工程と、
c.均質化されたビレットを冷却する工程と、
d.前記均質化されたビレットを押出成形して押出製品を形成する工程と、
e.80℃/秒未満の冷却速度を用いて、押出製品を室温まで冷却する工程と、
f.任意選択的に、プロファイルを延伸する工程と、
g.押出製品を時効する工程と
を含む方法が提供される。
【0025】
Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr)/3[重量%]である。合金中にZrが含まれる場合、Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr+Zr)/3[重量%]である。
【0026】
いくつかの態様において、工程fにおける延伸は、1.5~4%又は1.5~3%である。
【0027】
いくつかの実施態様において、工程eにおける冷却速度は、40℃/秒未満又は20℃/秒未満である。
【0028】
いくつかの実施態様において、工程eにおける冷却速度は、5℃/秒を超えるか又は7℃/秒を超える。
【0029】
いくつかの実施態様において、Ti+Vの含有量は、0.14~0.24重量%又は0.15~0.20重量%である。
【0030】
いくつかの実施態様において、Sieff/Mg比は、0.50~0.96である。
【0031】
いくつかの実施態様において、Sieff/Mg比は、0.60~0.85又は0.65~0.75である。
【0032】
いくつかの実施態様において、Sieff/Mg比は、0.80~0.96である。
【0033】
第3の態様によれば、第1の態様又はそのいずれかの実施態様に係る合金を含み、かつ第2の態様又はそのいずれかの実施態様の方法により製造された押出製品であって、最終押出製品の材料は再結晶粒組織を有する、押出製品が提供される。
【0034】
いくつかの実施態様において、押出製品は、車両の衝突時に露出する部分の構造部品である。
【0035】
特に明記しない限り、本明細書中で言及されるAA6xxxシリーズ合金は、アルミニウム協会によって発行された「鍛造アルミニウム及び鍛造アルミニウム合金のための国際合金記号及び化学組成限界(International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys)」に列挙されるAlMgSi合金を指す。
【0036】
特に明記しない限り、全ての合金組成は、合金の総重量を基準にした重量%で表される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1a図1aは、T6への時効前に0.5%、2%及び4%延伸された表1の7種の合金の降伏強度値Rp0.2を示す図である。
図1b図1bは、T6への時効前に0.5%、2%及び4%延伸された表1の7種の合金の局部伸びを示す図である。
図2図2は、試料の曲げ試験がどのように行われるかを示す。
図3図3は、試料に最初の亀裂が発生したときの曲げ角度を手動で測定する方法を示す。
図4図4は、表1の合金1、3、5及び7から本開示に従って製造され、SHT後に50~60℃/秒の冷却速度で油焼入れされた押出品の曲げ角度を示す。
図5図5は、表1の合金1、3、5及び7からの開示に従って製造され、SHT後に6~7℃/秒の冷却速度で空冷された押出品の曲げ角度を示す。
図6(a)】図6(a)は、0.5%延伸された表1の合金変種1、3、5及び7について、水焼入れ(WQ)、油焼入れ(OQ)及び空冷(AC)した試料の降伏強度Rp0.2を示す。
図6(b)】図6(b)は、0.5%延伸された表1の合金変種1、3、5及び7について、水焼入れ(WQ)、油焼入れ(OQ)及び空冷(AC)した試料の局部伸び(A25mm-A)を示す。
図7(a)】図7(a)は、0.5%、2%及び4%の延伸後に試験した、表1の7つの合金の最も深い3つのIGC浸食の平均を示す。
図7(b)】図7(b)は、図7(a)に示されたIGC値について測定された典型的な部位の光学顕微鏡画像を示す。
図8図8は、表1の合金3から作製した時効硬化押出プロファイルを150℃で500時間及び1000時間熱曝露した後の降伏強さ(Rp0.2)及び極限引張強さ(Rm)を示す。
図9図9は、空気焼入れ(AQ)中の長さ10cmのプロファイルに沿った典型的な焼入れ速度を示す。
図10図10は、例5に記載された試料のT6への時効後の降伏強度(a)及び極限引張強さ(b)を示す。
図11図11は、例5の3つの合金からの押しつぶし試験片を示し、2つずつ平行して左から右(縦の列)に合金21-031、21-032及び21-033を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施例により、図面を参照しながらさらに説明する。
本開示による発明は、主要な合金元素としてMg及びSiを含有し、Ti及びVを添加したアルミニウム合金に関する。合金は、結晶粒微細化剤として通常添加されるTi量を超える量のTiを含有する。過剰のTiは、合金の延性の改善及び耐食性の改善に寄与する。アルミニウム合金は6xxxアルミニウム合金である。アルミニウム合金は、特に、6xxxアルミニウム押出合金とすることができる。
【0039】
本開示は、重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.20
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、Sieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金に関する。
【0040】
Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr)/3[重量%]である。合金中にZrが含まれる場合、Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr+Zr)/3[重量%]である。
【0041】
この合金は、さらなる強度及び温度安定性のためにCuを含有してもよい。Cuの含有量は0.30重量%未満であるべきである。いくつかの実施態様において、Cuの含有量は、0.20重量%未満とすることができる。0.08~0.15重量%のCu含有量は、いくつかの実施態様において、良好な強度及び温度安定性を示している。
【0042】
この合金は、0.50重量%までのFeを含有してもよい。鉄は、通常、酸化アルミニウム、製造工程、金属くずなどの発生源から発生する不純物元素である。Feの含有量が高すぎると、合金の腐食特性が低下する可能性がある。また、AlFeSi含有一次粒子中のSiを結合させることによって材料の強度を低下させる。しかし、最大Fe含有量を増加させるか又はFe含有量を比較的高くすると、消費者使用後のスクラップをより多く使用することができるようになり、これはアルミニウムのカーボンフットプリントを削減するために重要である。
【0043】
添加された元素の重量パーセント当たりに形成された分散質の数密度は、MnよりもCrの方が有意に高く(O. Lohne及びAL Dons: Scand. J. Metall. vol. 12(1983)pp. 34-36)、これは、特定の分散質の数密度を達成するためには、Mn添加よりも低いCr添加が必要であることを意味する。分散質は、押出工程に3つの悪影響を及ぼす。第1の悪影響は、材料の熱間変形抵抗が増加し、生産性の低下につながることである。第2の悪影響は、分散質の数密度の増加が、合金の硬化能の損失を回避するために、押出後の冷却速度に対する要求を増大させることである。その理由は、分散質が非硬化Mg-Si析出物の核形成サイトとして作用するためである。第3の悪影響は、押出プロファイルの結晶粒度に関連している。再結晶を防止するために必要とされるよりも若干少ない数の分散質では、少数の粒子のみが成長することができ、その結果、押出プロファイル中に非常に粗い結晶粒組織が生じるという状況が得られる。その後、押出プロファイルを形成すると、広範囲にわたってオレンジピーリングが生じる可能性がある。最終製品では、粗粒は押しつぶし及び曲げ挙動に悪影響を及ぼす。従って、改善された延性から利益を得るために必要な量を超えてMn及びCrを添加することを回避しようとする。Mn及びCrの最適含有量は、加工条件とプロファイル形状に強く依存する。
【0044】
本明細書に開示された方法に従って製造された最終的な押出製品は、好ましくは再結晶化され、従って再結晶粒組織を有する。押出後の再結晶を防止するのに十分な多数の分散質粒子を有する材料は、より少ない分散質粒子を有する材料と比較して、変形抵抗が高くなり、従って押出がより困難になる。さらに、分散質粒子の数が多いと、材料の焼入れ感度が高くなり、製品の強度要件を満たすために焼入れを余儀なくされることがある。このような場合、焼入れ時の押出プロファイルの歪みのために、寸法公差要件を満たすことが困難になる場合がある。
【0045】
従って、本開示による合金は、0.30重量%までのMnを含有してもよい。いくつかの実施態様において、Mnの量は、0.10~0.20重量%であってよい。Crは、0.15重量%まで添加してもよい。いくつかの実施態様において、Crの量は、0.08重量%未満又は0.05重量%未満でさえある。本開示による合金は、0.10~0.20重量%のMn及び0.15重量%までのCrを含有してもよい。2つの元素、Mn及びCrを組み合わせる場合、分散質の総数を許容可能なレベルに維持するために、各元素の量を減少させなければならない場合がある。Mn及び/又はCrが多すぎると、好ましくない機械的特性をもたらす混合結晶粒組織(再結晶及び非再結晶)が生じる可能性がある。
【0046】
Zrの添加は、6xxx合金ではあまり一般的ではないが、Mn又はCrの添加と同様に分散質粒子を形成する。Zrは、0.15重量%まで添加してもよいが、分散質の総数を許容可能なレベルに維持するためには、Mn及びCrの添加と同じ考慮が必要である。
【0047】
この合金は、より多くの消費後スクラップを溶融物に添加することを可能にするために、0.50重量%までのZnを含有してもよい。一実施態様において、この合金は、0.20重量%までのZnを含有する。一部のZnは、アルミニウム合金の押出性、機械的特性又は腐食特性に大きな影響を与えない。より高いZn濃度では、押出性及び腐食特性がわずかに低下するので、Znの上限は0.50重量%である。
【0048】
この合金は、良好な押しつぶし挙動が要求される押出製品用に開発された。この合金は、生産性と、押出プレスで押出プロファイルを急速に焼入れする必要なく高い延性を得るために最適化されている。従って、本開示による合金は、複雑なプロファイルを有する押出材に特に適している。しかし、延性又は耐食性の改善が要求される場合には、鍛造品などの他の製品にも使用することができる。
【0049】
合金の最適なSi/Mg比を見出すためには、合金の鋳造及び均質化の間に形成されるFe含有一次粒子及び他の非硬化粒子中にSiの一部が拘束されることを考慮しなければならない。このSiは、時効硬化に関して「失われた」又は効果がないと考えることができる。
Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr)/3[重量%]、Zrを含む合金の場合、Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr+Zr)/3[重量%]で定義される「有効Si含有量」Sieffという用語を導入することができる。
【0050】
本開示による合金は、0.45~0.2重量%の量のMg及び0.40~1.0重量%の量のSiを有する。本開示による合金から製造される押出製品の耐押しつぶし性を最適化するために、Sieff/Mg比は、1.0未満であるべきである。Sieff/Mg比は、0.50~0.96の範囲内に維持することが好ましい。0.60~0.85又は0.65~0.75の範囲内の最適なSieff/Mg比は、実施例によって実証されるように、有利であることが見出されている。しかしながら、いくつかの実施態様において、Sieff/Mg比は、0.80~0.96であってもよい。
【0051】
いくつかの実施態様によれば、延性及び温度安定性のためのMg及びSiの最適な組成は、0.45~0.65重量%のSi及び0.55~0.75重量%のMg、又はより狭く定義された組成では、0.45~0.55重量%のSi及び0.55~0.65重量%のMgである。
【0052】
チタン(Ti)は、通常、鋳造時に合金の結晶粒度を微細化する目的で、ホウ素(B)又は炭素(C)と共にAl合金に添加される。溶湯中の余分なTiは、TiB粒子の結晶粒微細化効果を高める。Al-Mg-Si合金の結晶粒微細化に必要なTi含有量は、典型的には0.005~0.03重量%の範囲である。本開示による合金中のTiの量は、0.05~0.20重量%の範囲内、例えば、0.05~0.15重量%又は0.07~0.12重量%の範囲内である。さらに、本開示による合金中のVの量は、0.05~0.15重量%又は0.07~0.12重量%の範囲内である。Ti及びVは共に、通常は凝固中に結晶粒の中心に向かって偏析する包晶元素である。押出中、結晶粒中のTi及びVに富む領域は、微細な帯に延伸される。理論に束縛されることを望むものではないが、これらのTi-/V-帯は、高温で粒界に向かうMg及びSiの拡散速度を低下させ、従って、曲げ角度、強度及び押しつぶし性のような材料特性を損なうことなく、押出後の冷却速度を低下させることが可能であると考えられる。Ti及びVの両方を合計で0.10重量%以上、例えば合計で0.14重量%以上添加すると、本開示によるAl-Mg-Si合金の耐押しつぶし性及び耐食性に改善効果が見られる。これは、結晶粒微細化のために典型的に使用されるものを超えるTi含有量を必要とする。従って、本開示によれば、Ti及びVの総量(Ti+V)は、0.10~0.30重量%であるべきである。いくつかの実施態様において、Ti+Vの含有量は、0.14~0.24重量%、例えば0.15~0.20重量%であってもよい。Ti+Vの総量は、望ましくない一次粒子の析出をもたらすので、あまり高くすべきではない。固溶体中のTi及びVは変形抵抗を増加させ、押出性を低下させるので、Ti及びVの総量も指示された限界内に保つべきである。Al-Mg-Si合金にTi及びVを添加することによって得られる押しつぶし性能の改善は、本発明の実施例によって実証される。
【0053】
本開示は、押出製品を製造するための方法にさらに関する。
この方法は、以下の工程を含む。
工程a.重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.20
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、かつSieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金からビレットを鋳造する。この合金は、上記の開示に従う組成、又は合金元素の別の量をさらに特定する合金の上記の開示された実施態様のいずれかを有してもよい。
Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr)/3[重量%]である。Zrを含む合金の場合、Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr+Zr)/3[重量%]である。
【0054】
工程b.鋳造ビレットを480~600℃の温度で1~24時間均質化する。均質化工程は、鋳造ビレットの微細組織を均質化する。典型的な均質化温度は、合金に含まれるMg及びSiを溶解するために、関連する合金のソルバス温度以上である。
【0055】
工程c.均質化されたビレットを均質化温度から室温に冷却する。均質化温度からの冷却速度は、1時間当たり100℃を超えてもよい。典型的には、均質化温度からの冷却速度は、1時間当たり200℃を超えるか、又は1時間当たり300℃を超えることができる。
【0056】
工程d.前記ビレットを押出成形して押出製品を形成する。押出前に、押出ビレットを適切な押出温度、典型的には450~510℃に再加熱すべきである。本開示によれば、ビレットは、所望の押出温度に冷却される前に過熱されてもよい。
【0057】
工程e.押出製品を室温まで冷却する。押出製品の冷却は、80℃/秒未満の冷却速度を使用すべきである。冷却速度は、40℃/秒未満、さらには20℃/秒未満であってもよい。しかしながら、冷却速度は、5℃/秒を超えるべきであり、いくつかの実施態様では、7℃/秒を超えるべきである。冷却速度が低すぎると、合金に含まれるMg及びSiが時効中の強化に寄与しない大きなMgSiとして析出する可能性があるため、最終製品の潜在的強度が低下する可能性がある。これにより、人工時効中に形成される強化ナノサイズ析出相の析出に利用できるMg及びSiが少なくなる。押出のために低い冷却速度を使用することにより、プロファイルに幾何学的歪みを導入することなく、所望の強度及び押しつぶし特性を有する複雑な押出鋭利物の製造が可能になる。押出製品を冷却するためにより低い冷却速度を使用することの利点は、実施例によって実証される。
【0058】
工程f.任意選択的に、プロファイルを延伸する。任意の延伸工程fは、冷却されたプロファイルを4%まで延伸することを含んでもよい。1.5~4%の間、例えば1.5~3%の延伸は、実施例によって実証されるように、材料の延性に有益であることが示されている。延伸は、典型的には、押出後の短時間、例えば、押出後10~30分以内に行われるが、示された時間は重要ではなく、延伸は後で行ってもよい。
【0059】
工程g.押出製品を時効する。時効工程gは、製品を所望の強度レベルまで人工時効することを含む。自然時効は、工業生産において実際には避けられないので、時効工程は自然時効を含むこともできることを理解すべきである。所望の押しつぶし性能を達成するために、押出製品をT6調質まで時効してもよい。工程fに従って延伸されるプロファイルは、T8調質(冷間加工後に時効)と指定することができるが、本開示では、時効されたすべてのプロファイルに対してT6指定が使用される。時効温度は、典型的には160~210℃の範囲内で1~24時間であり、典型的な時効温度は175~205℃の範囲内である。人工時効は、1段階で行ってもよいし、段階的に行ってもよい。
【0060】
上記に開示された方法に従って製造された押出製品は、以下の組成(重量%):
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.15
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、Sieff/Mg比は1.0未満である、
を有する合金を含む。
【0061】
押出製品の合金組成は、上記の開示で説明したような任意の組成を有してもよい。
【0062】
Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr)/3[重量%]である。Zrを含む合金の場合、Sieff=Si-(Fe+Mn+Cr+Zr)/3[重量%]である。
【0063】
本開示の方法によって製造された押出製品は、再結晶粒組織を有するべきである。いくつかの実施態様において、押出製品は、再結晶粒組織を有し、少なくとも240MPa(C24合金要件)の降伏強度Rp0.2を有する。さらに、本発明の方法によって製造された本開示の合金の押出製品は、優れた曲げ角度特性を示し、優れた押しつぶし性及び耐食性の組み合わせを有する。以下の実施例から明らかなように、押出製品は、良好な温度安定性も有する。
【実施例
【0064】
<例1>
表1に示す組成を有する7種の合金をDC鋳造により直径95mmのビレットに鋳造した。
【0065】
【表1】
【0066】
均質化は、575℃の温度で2時間15分間行った後、約350℃/時間の速度で冷却した。
【0067】
ビレットを約550℃に8~10分間過熱し、次いで押出直前に約490~500℃に冷却した。外寸法29×37mm、壁厚2.8mmの中空矩形プロファイルを異なる合金から押出した。プロファイルは、ダイ出口の後方約50cmの距離で、300℃/秒を超えると推定される焼入れ速度で水中で焼入れされた。押出後、プロファイルを0.5%、2%又は4%のいずれかに延伸した。押出の約24時間後に、プロファイルを、200℃/時間の速度で150℃まで加熱し、150℃で1.5時間保持し、15℃/時間の速度で195℃まで加熱し、及び0.5%延伸したプロファイルについては195℃で2時間保持し、2%延伸したプロファイルについては195℃で1時間40分保持し、4%延伸したプロファイルについては195℃で1時間20分保持して、T6まで時効した。図1(a)は、T6への時効前に0.5%、2%及び4%延伸した表1の7種の合金の降伏強度値Rp0.2を示す。異なる変種の強度レベルは非常に類似している。バナジウム及びチタンは共にT6条件での強度にほとんど影響を与えないので、これは予想通りである。T6時効前に0.5%延伸したプロファイルと比較して、2%及び4%延伸したプロファイルの強度はわずかに低下している。引張試験は、ISO 6892-1-金属材料-引張試験-第1部:室温における試験の方法に従って実施した。
【0068】
一様伸び又は全伸びは、押しつぶしによる変形を受ける材料の延性の良い尺度ではない。全伸び(A25mm)と一様伸び(A)との差は、局部伸びとして知られており、材料の延性のより良い尺度である。図1(b)は、試験した7種の合金の局部伸びを示す。水焼入れプロファイルでは、バナジウム又はチタンのいずれかを添加しても、良い影響はわずかである。T6時効前に延伸を0.5%から2%又は4%に増加させると、局部伸びに対してより良い影響があるようである。
【0069】
<例2>
曲げ試験は、規格VDA 238-100に従って実施したが、例外として、60Nではなく1%の荷重降下を停止基準として使用した。この基準に基づいて測定された曲げ角度は、典型的には、試料内で最初の亀裂が観察される角度に対応する。試験試料は、実施例1のプロファイルの最も広い側壁から採取した。試料は、幅30mm、長さ60mm、厚さ2.8mmであった。試料は、押出方向に対して90°の軸に沿って(すなわち、押出方向に対して垂直に)曲げられる(図2参照)。図3は、試料に最初の亀裂が発生したときの曲げ角度を手動で測定する方法を示す。
【0070】
押出からの冷却速度の違いが曲げ特性に及ぼす影響を調べるために、押出後に0.5%延伸した押出試料を530℃で20分間(温度が525℃に達してから測定した時間)分離溶体化処理(SHT)した後、空気、油又は水中で冷却した。
【0071】
1セットの試料(第1のセット)を、約25℃の温度を保持する水中で焼入れした。450℃と250℃との間の温度区間での冷却速度は、300℃/秒以上と推定される。焼入れ後、試料を0.5%及び2%延伸した後、例1と同じ方法でT6へと時効した。
【0072】
別のセットの試料(第2のセット)を、26~28℃の範囲の温度を保持する油中で焼入れした。450℃と250℃との間の温度区間における冷却速度は、50~60℃/秒の範囲であると測定される。焼入れ後、試料を0.5%及び2%延伸した後、例1に記載したのと同じ方法でT6へと時効した。
【0073】
第3のセットの試料を、強制空気中で冷却した。中空プロファイルの全試料で得られるよりも高い冷却速度を得るために、SHTの前に、幅30mm、長さ150mm、厚さ2.8mmの曲げ試料用のブランクを作製した。450℃と250℃との間の温度区間における冷却速度は、6~7℃/秒の範囲であると測定された。室温に冷却した後、試料を0.5%及び2%延伸した後、実施例1に記載したのと同じ方法でT6へと時効した。
【0074】
水焼入れした試料の曲げ角度はいずれも装置の限界を超えており、ここでの結果は代表的なものではない。
【0075】
図4は、合金1、3、5及び7から本発明に従って製造され、SHT後に50~60℃/秒の冷却速度で油焼入れされた押出品について、実施例2に記載のように測定された曲げ角度を示す。この場合、Ti又はVを添加することの明確な効果が見られるが、本発明によれば、Ti及びVを一緒に添加することによって最良の効果が得られる。これはまた、T6への時効前の0.5%と比較して、2%の延伸の非常に明確な効果である。
【0076】
図5は、表1の合金1、3、5及び7から本発明に従って製造され、SHT後に6~7℃/秒の冷却速度で空冷された押出品の曲げ角度を示す。空冷は全ての合金の曲げ角度を減少させるが、この場合もTi又はVを添加することの明らかな効果が見られるが、本発明によればTiとVを一緒に添加することによって最良の効果が得られる。また、T6への時効前の0.5%と比較して、2%の延伸の非常に明確な効果である。
【0077】
水焼入れ及び油で焼入れした試料の曲げ性は、空冷した試料で得られるものよりも優れているが、非常に高い速度での冷却は、供給可能なプロファイル形状及び幾何公差に制限を課すことになる。本発明による組成を使用することにより、押出後に空冷した試料を用いて、従来技術のより速く焼入れされた試料の曲げ角度に近い曲げ角度を得ることが可能である。
【0078】
図6(a)では、SHT後に異なる冷却速度で冷却した合金変種の降伏応力Rp0.2値が示されている。水冷した試料と比較して、空冷した試料ではRp0.2があまり低下せず、すべての変種が240MPaの最小Rp0.2という典型的な要件を満たしている。
【0079】
図6(b)では、全伸びA25mmと一様伸びAとの間の差(局部伸びと呼ばれる)が、図6(a)と同じ合金変種に対してプロットされている。局部伸びは、冷却速度が最も高い場合に最良である。Ti又はVの添加(変種3及び5)は、低Ti及びVの合金変種(変種1)と比較して、局部伸びを増加させる。しかしながら、局部伸びにおける最大の増加は、両方の元素が一緒に加えられた場合(変種7)に本発明に従って見出される。
【0080】
<例3>
粒界腐食(IGC)試験は、規格ISO11846方法Bに従って行った。各試料からの3つの平行試料を同じビーカーに浸漬した。7種の合金のIGC結果を図7に示す。
各試料について4つの領域を調査し、3つの最も深いIGC侵食を測定した。
【0081】
図7(a)は、0.5%、2%及び4%の延伸後に試験した7種の合金の最も深い3つのIGC侵食の平均を示す。合金は、押出後に水焼入れし、T6への時効前に延伸した。TiもVも含まない合金(合金1)が最も深い腐食侵食を受け、測定された最大平均深さは350~410μmの範囲である。
【0082】
図7(b)は、図7(a)に示された平均IGC値について測定された典型的な部位の光学顕微鏡画像を示す。
【0083】
図7(a)及び図7(b)の画像から、これらの合金中のTi及びVを増加させると、IGC深さが著しく減少することが明らかである。高いTi及びVを有する合金7は、明らかに最小のIGC侵食を示し、次いで合金6及び3であった。時効前の2%及び4%の延伸は、0.5%の延伸と比較して、最大IGC深さを減少させるようである。
【0084】
<例4>
図8は、表1の合金3から製造された時効硬化押出プロファイルの150℃で500時間及び1000時間の熱曝露後の降伏強さ(YS)及び極限引張強さ(UTS)の減少を示す。この結果は、本発明に従って選択されたMg及びSiの含有量が高い熱安定性をもたらすことを示している。熱安定性はTi及びVの含有量に依存しないと考えられるので、得られた結果は本研究のすべての合金に対して有効であるはずである。
【0085】
<例5>
Mg/Si比を変えた3種の合金を鋳造した。3種の合金の公称化学組成を表2に示す。素材は直径95mmでGC鋳造された。
【0086】
【表2】
【0087】
均質化は、575℃の温度で2時間行い、約350℃/時間の速度で室温まで冷却した。
【0088】
プロファイル壁の中心にシーム溶接を有する寸法28mm×37mm×2.8mmの1つのチャンバークラッシュボックスプロファイルを押出した。ビレットを560℃に過熱し、空気循環炉中で同温度に保持し、次いでビレットを押出前に500℃に水焼入れした。押出工具/容器を430℃に保持した。プロファイルは、ダイ出口の後方約50cmの距離で水中で焼入された。
【0089】
各冷却試験の前に、個別の溶体化熱処理(SHT)を実施した。各試料を530℃で20分間(温度が525℃に達した時点から開始)溶体化熱処理(SHT)した。次に、水焼入れ(WQ)、油焼入れ(OQ)及び空気焼入れ(AQ)の異なる焼入れ速度を適用した。以下のセクションでは、3つの異なる焼入れラインについて説明する。すべてのプロファイルは、焼入れ直後に0.5%又は2%延伸され、約24時間自然時効された後、T6へと人工時効された。T6への時効は、表3に示す温度プロファイルを使用した。
ここに示す結果は、特に明記しない限り、T6への最終AA工程後のものである。
【0090】
【表3】
【0091】
SHT後の水焼入れ
長さ35cmのプロファイル試料を、上記のようにSHTに供した。プロファイルは、約25℃に保持された水中で直ちに焼入れされた。水は撹拌しなかった。平均焼入れ速度は300℃/秒超であった。プロファイルは、焼入れ直後に延伸された後、AAからT6まで約24時間室温で自然時効(NA)された。
【0092】
SHT後の油焼入れ
長さ35cmのプロファイルを、上記のようにSHTに供した。プロファイルは、26~28℃に保持された油中で焼入れされた。油を焼入れ中撹拌した。平均焼入れ速度は約55℃/秒であった。プロファイルは、焼入れ直後に延伸された。その後、プロファイルは、AAからT6まで約24時間室温で自然時効(NA)された。
【0093】
SHT後の空冷
試料を530℃で20分間(温度が525℃に達した後の時間)SHTに供した。次に、プロファイルをファン上に1分間保持することによってプロファイルを空冷した後、水中で焼入れした。平均焼入れ速度は約7℃/秒であった。プロファイルは、焼入れ直後に延伸された後、AAからT6まで約24時間室温に保持した。AQ中に使用した実験設定及び試料の形状を、対応する温度記録と共に図9に示す。ここで、T1は図の下部の曲線であり、T2は上部の曲線である。
【0094】
プロファイルの機械的特性を試験した。引張試験では、各合金変種の最も狭いプロファイル壁から、標準的な平坦で長さ12cmの引張試験片を機械加工した。各条件で2つの平行材が試験された。引張試験は、ISO 6892-1-金属材料-引張試験-第1部:室温における試験の方法に従って実施した。
【0095】
引張試験の結果を図10a)及びb)に示す。焼入れ速度は上記のとおりである。図10a)及びb)の降伏強さ及び極限引張強さは、いずれもSieff/Mg比の増加とともにわずかに増加する。図10b)から、Rmは、すべての焼入れ速度に対して、0.5%から2%への延伸の増加とともに増加する。図10a)の降伏強さに関しては、SHT後の延伸の影響は、それほど顕著ではないようである。ただし、最も遅い焼入れ速度(AQ)では、Rp0.2が0.5%から2%への延伸で4~8MPa増加する。
【0096】
押しつぶし試験では、WQ及び0.5%延伸後の各合金の押しつぶし試験のために2つの平行材を切断した。すべてのクラッシュボックスは、元の高さの1/3に押しつぶされた。押しつぶし試験片を図11に示す。最も低いSieff/Mg比を有する21-031合金が最良の性能を示し、図11(a)を参照すると、完全な押しつぶしスコア10を得た。これは、試験片が亀裂の兆候を示さなかったことを意味する。
図11(b)を参照して、より高いSieff/Mg比を有する21-032合金も良好な性能を示したが、押しつぶし評価はわずかに低かった。最も高いSieff/Mg比を有する21-033合金は、最悪の性能を示し、少なくとも1つの深いコーナー亀裂は発生した。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図7(a)】
図7(b)】
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-11-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.20
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、Sieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金。
【請求項2】
Tiの含有量が0.07~0.12重量%である、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項3】
Vの含有量が0.07~0.12重量%である、請求項1又は2に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項4】
Ti+Vの含有量が0.14~0.24重量%又は0.15~0.20重量%である、請求項1又は2に記載の6xxx合金。
【請求項5】
Sieff/Mg比が0.50~0.96である、請求項1又は2に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項6】
Sieff/Mg比が0.60~0.85又は0.65~0.75である、請求項5に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項7】
Sieff/Mg比が0.80~0.96である、請求項5に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項8】
Siの含有量が0.45~0.65重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.75重量%である、請求項1又は2に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項9】
Siの含有量が0.45~0.55重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.65重量%である、請求項8に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項10】
Mnの含有量が0.10~0.20重量%である、請求項1又は2に記載の6xxxアルミニウム合金
【請求項11】
Cuの含有量が0.20未満又は0.08~0.15重量%である、請求項1又は2に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項12】
Crの含有量が0.08重量%未満又は0.05重量%未満である、請求項1又は2に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項13】
請求項に記載の合金から押出製品を製造する方法であって、以下:
a.重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.15
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、かつSieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金からビレットを鋳造する工程と、
b.鋳造ビレットを480℃~600℃の温度で1時間~24時間均質化する工程と、
c.均質化されたビレットを冷却する工程と、
d.前記ビレットを押出成形して押出製品を形成する工程と、
e.80℃/秒未満の冷却速度を用いて、押出製品を室温まで冷却する工程と、
f.任意選択的に、プロファイルを延伸する工程と、
g.押出製品を時効する工程と
を含む、押出製品を製造する方法。
【請求項14】
工程fにおける延伸が1.5~4%である、請求項13に記載の押出製品の製造方法。
【請求項15】
工程fにおける延伸が1.5~3%である、請求項14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項16】
工程eの冷却速度が40℃/秒未満又は20℃/秒未満である、請求項13又は14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項17】
工程eの冷却速度が5℃/秒超又は7℃/秒超である、請求項13又は14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項18】
Ti+Vの含有量が0.14~0.24又は0.15~0.20である、請求項13又は14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項19】
Sieff/Mg比が0.50~0.96である、請求項13又は14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項20】
Sieff/Mg比が0.60~0.85、又は0.65~0.75、又は0.80~0.96である、請求項19に記載の押出製品の製造方法。
【請求項21】
Siの含有量が0.45~0.65重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.75重量%である、請求項13又は14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項22】
Siの含有量が0.45~0.55重量%であり、かつMgの含有量が0.55~0.65重量%である、請求項21に記載の押出製品の製造方法。
【請求項23】
Cuの含有量が0.20未満又は0.08~0.15重量%である、請求項13又は14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項24】
Crの含有量が0.08重量%未満又は0.05重量%未満である、請求項13又は14に記載の押出製品の製造方法。
【請求項25】
請求項13に従って製造された押出製品であって、重量%で、
Mg:0.45~1.2
Si:0.40~1.0
Ti:0.05~0.15
V:0.05~0.15
Cu:0.30未満
Mn:0.30未満
Cr:0.15未満
Zr:0.15未満
Fe:0.50未満
Zn:0.50未満
からなり、残部はアルミニウム及び不可避的不純物であり、Ti+Vの含有量は0.10~0.30であり、Sieff/Mg比は1.0未満である、6xxxアルミニウム合金を含み、
最終製品の材料は再結晶粒組織を有する、押出製品。
【請求項26】
押出製品が、車両の衝突時に露出する部分の構造部品である、請求項25に記載の押出製品。
【国際調査報告】