IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニュートリション・アンド・バイオサイエンシーズ・ユーエスエー・ワン,エルエルシーの特許一覧

特表2024-543120亜硝酸塩含有量が低減された微結晶セルロースを生成するプロセス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】亜硝酸塩含有量が低減された微結晶セルロースを生成するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/08 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
C08B15/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530458
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2022076374
(87)【国際公開番号】W WO2023094048
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】63/282,869
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】22150943.3
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523288569
【氏名又は名称】ニュートリション・アンド・バイオサイエンシーズ・ユーエスエー・ワン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】コーディ・ジュウ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ビー・アペル
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・ペーターマン
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA24
4C090CA04
4C090CA31
4C090CA32
(57)【要約】
亜硝酸塩含有量が低減された微結晶セルロースを生成するプロセス。このプロセスは、i)セルロース系材料を酸加水分解して粗製微結晶セルロース(MCC)を生成する工程と、ii)工程i)で得られた粗製MCCを洗浄し、少なくとも部分的に中和して、MCC湿潤ケーキを得る工程と、iii)MCC湿潤ケーキを噴霧乾燥する工程と、を含む。工程ii)又は工程iii)の後、或いは工程ii)及びiii)の両方の後、MCCは熱処理を受ける。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微結晶セルロースを熱処理に供する工程を含む、微結晶セルロースの亜硝酸塩含有量を低減するプロセス。
【請求項2】
粉末形態の微結晶セルロースは、熱処理を受ける、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
微結晶セルロースは、少なくとも35℃の温度で熱処理を受ける、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
微結晶セルロースは、少なくとも30分間熱処理を受ける、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
微結晶セルロースは、35~50℃の温度で2週間~12ヶ月の期間、熱処理を受ける、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
微結晶セルロースは、50~150℃の温度で1~300時間の期間、熱処理を受ける、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
微結晶セルロースは、150~350℃の温度で1分~1時間の期間、熱処理を受ける、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
熱処理前の前記微結晶セルロースの水分含有量は、乾燥微結晶セルロースの重量に基づいて3~30%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
i)セルロース系材料を酸加水分解して粗製微結晶セルロース(MCC)を生成する工程と、
ii)工程i)で得られた前記粗製MCCを洗浄し、少なくとも部分的に中和して、MCC湿潤ケーキを得る工程と、
iii)前記MCC湿潤ケーキを噴霧乾燥する工程と、
を含み、工程ii)又は工程iii)の後、或いは工程ii)及びiii)の両方の後、MCCは熱処理を受ける、微結晶セルロースを生成するプロセス。
【請求項10】
微結晶セルロースは、少なくとも35℃の温度で熱処理を受ける、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
微結晶セルロースは、少なくとも30分間熱処理を受ける、請求項9又は10に記載のプロセス。
【請求項12】
微結晶セルロースは、35~50℃の温度で2週間~12ヶ月の期間、熱処理を受ける、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
微結晶セルロースは、50~150℃の温度で1~300時間の期間、熱処理を受ける、請求項9~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
微結晶セルロースは、150~350℃の温度で1分~1時間の期間、熱処理を受ける、請求項9又は10に記載のプロセス。
【請求項15】
工程ii)において、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、アンモニア又は水酸化アンモニウムが、中和剤として使用される、請求項9~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、亜硝酸塩含有量が低減された微結晶セルロースを生成するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に「MCC」と呼ばれる微結晶セルロースは、最終製品の特性又は属性を向上させるために食品及び製薬業界で広く使用されている。MCCの用途には、例えば、飲料の結合剤又は安定剤として、医薬品錠剤の結合剤又は錠剤分解物質として、液体医薬製剤の懸濁剤として、工業用途における、洗剤又は漂白剤などの家庭用製品における、農業用配合物における、或いは歯磨き剤又は化粧品などのパーソナルケア製品における結合剤、錠剤分解物質又は加工助剤として、などが含まれる。
【0003】
微結晶セルロースは、典型的には、繊維状の植物材料から得られるセルロース系材料、好ましくはα含有率の高いセルロース系材料を、鉱酸、好ましくは塩酸で加水分解することにより生成される(酸加水分解)。鉱酸は、セルロース系材料の非晶質領域を優先的に攻撃し、これにより、微結晶セルロースを構成する結晶凝集体を形成する準結晶領域を露出させ、解放し、後に残す。次いで、凝集した結晶塊を反応混合物から分離し、洗浄して分解した副生成物を除去する。得られた湿潤した塊は、典型的には、40%~60%の水分を含み、当業者によって一般に「加水分解されたセルロース湿潤ケーキ(hydrolyzed cellulose wet cake)」又は「微結晶セルロース/MCC湿潤ケーキ」と呼ばれる。
【0004】
酸加水分解により微結晶セルロースを生成するプロセスは、米国特許第2,978,446号明細書、米国特許第3,023,104号明細書、及び米国特許第3,146,168号明細書に開示されている。微結晶セルロースの品質を維持しながらコストを低減する代替方法が提案されている。これらには、水蒸気爆発(steam explosion)(米国特許第5,769,934号明細書)、一段階加水分解及び漂白、高温(100~200℃)での加圧反応器における半結晶性セルロースと水の反応液の反応性放出(reactive extrusion)及び部分加水分解(米国特許第5,543,511号明細書)が含まれる。
【0005】
微結晶セルロース中の不純物が、グルコース、ホルムアルデヒド、硝酸塩及び亜硝酸塩であることはよく知られている(Ajit S. Narangらによる「Impact of Excipient Interactions of Solid Dosage Form Stability」,Pharmaceutical Research volume 29,ページ2660-2683(2012))。ニトロソアミンの形成は、酸性反応条件下で2級、3級、又は4級アミン及び亜硝酸塩の存在下で可能である。ニトロソアミンは、ヒトの発がん性物質である可能性が高いと考えられているため、食品及び医薬品用途におけるニトロソアミンの濃度を最小限に抑える必要性が非常に高くなる。MCCは食品及び医薬品用途で広く使用されているため、又、MCCに存在する亜硝酸塩の濃度を下げることが緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、オゾン処理、触媒作用、水溶液を活性炭に通すこと、水溶液をイオン交換樹脂に通すこと、微細藻類を利用すること、又は水/グリコール混合物を高圧且つ120℃超の温度にかけることなど、水溶液中の亜硝酸塩の濃度を下げるいくつかの方法が知られている。明らかに、これらの方法は、MCCが粉末の形態である場合、MCC中の亜硝酸塩の濃度を低減するのには有用ではない。従って、MCC中に存在する亜硝酸塩の濃度を低減する方法を見つけることが依然緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、微結晶セルロースを熱処理に供する工程を含む、微結晶セルロースの亜硝酸塩含有量を低減するプロセスである。
【0008】
本発明の別の態様は、i)セルロース系材料を酸加水分解して粗製微結晶セルロース(MCC)を生成する工程と、ii)工程i)で得られた粗製MCCを洗浄し、少なくとも部分的に中和して、MCC湿潤ケーキを得る工程と、iii)MCC湿潤ケーキを噴霧乾燥する工程と、を含み、工程ii)又は工程iii)の後、或いは工程ii)及びiii)の両方の後、MCCは熱処理を受ける、微結晶セルロースを生成するプロセスである。
【0009】
驚くべきことに、MCCがその粉末形態で存在する場合でさえも、MCCの簡易な熱処理により、MCC中の亜硝酸塩の濃度が著しく減少することが見出された。驚くべきことに、亜硝酸塩の低減には木炭又はグリコールなどの化学補助剤は必要ない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
いくつかの実施形態では、MCCは、MCCがその粉末形態である場合、本発明のプロセスにおいて熱処理を受ける。MCCがその粉末形態である場合、MCCは、乾燥MCCの重量に基づいて、一般に、最大30%、最大20%、最大10%、又は最大5%の水分含有量を有する。水分含有量は一般に、乾燥MCCの重量に基づいて、0%以上、典型的には1%以上、より典型的には2%以上である。本発明の最も好ましい実施形態では、水分含有量は、乾燥MCCの重量に基づいて3%以上である。或いは、MCC湿潤ケーキは、熱処理を受けることができる。MCC湿潤ケーキは、湿ったMCCの重量に基づいて、典型的には30%~90%、より典型的には40%~80%の水分を含む。驚くべきことに、熱処理前のMCCの水分含有量が、熱処理後のMCC中の亜硝酸塩の濃度に影響を及ぼすことが判明した。熱処理前のMCCの水分含有量が、乾燥MCCの重量に基づいて、3~30%、より好ましくは5~30%、最も好ましくは9~25%である場合、MCC中の亜硝酸塩は、乾燥MCCの重量に基づいて水分含有量が3%未満である場合よりも、より短い期間で、より低い濃度まで熱処理で低減されることができる。水分含有量は、典型的には、MCC中の水分含有量である。
【0011】
いくつかの実施形態では、熱処理の温度は、熱処理の期間に依存する。熱処理の期間が短いほど、一般に、適用される温度は高くなる、又、その逆も同様である。一般に、MCCは、少なくとも35℃の温度で熱処理を受ける。熱処理の最高温度は、MCCの重大な劣化を引き起こさないことを除けば、それほど重要ではない。一般に、熱処理は、400℃までの温度、典型的には350℃までの温度で行われる。いくつかの実施形態では、熱処理は、化学補助剤の非存在下で行われる。
【0012】
いくつかの実施形態では、熱処理の期間は、熱処理中の温度に依存する。一般に温度が高いほど、一般に熱処理の期間は短くなり、その逆も同様である。一般に、MCCは、少なくとも1分間、典型的には少なくとも5分間、熱処理を受ける。いくつかの実施形態では、MCCは、少なくとも30分間熱処理を受ける。
【0013】
本発明の一実施形態では、MCCは、35~50℃(又は40~45℃)の温度で、2週間~12ヶ月、1~10ヶ月、又は2~8か月の期間、熱処理を受ける。
【0014】
別の実施形態では、MCCは、50~150℃、60~120℃、又は70~100℃の温度で、1~300時間、1~200時間、又は2~100時間の期間、熱処理を受ける。
【0015】
更に別の実施形態では、MCCは、150~350℃(又は200~300℃)の温度で、1分~1時間(又は5分~30分)の期間、熱処理を受ける。
【0016】
本発明のプロセスによって低減される典型的な亜硝酸塩は、亜硝酸アンモニウム及び/又は亜硝酸ナトリウムなどのアンモニウム及び/又はアルカリ金属亜硝酸塩、好ましくは亜硝酸アンモニウムである。本発明のプロセスにより、MCCの亜硝酸塩含有量は、典型的には、熱処理前のMCC中の亜硝酸塩の重量に基づいて、熱処理によって少なくとも50%低減する。いくつかの実施形態では、MCCの亜硝酸塩含有量は、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%低減する。
【0017】
一般に、任意の供給源からの微結晶セルロース(MCC)を本発明のプロセスで使用することができる。典型的には、MCCの適切な供給源には、例えば、木材パルプ(漂白亜硫酸パルプ及び硫酸塩パルプなど)、わら、綿、亜麻、コットンリンター、麻、苧麻、トウモロコシの皮、バガス、海藻セルロース及び発酵セルロースが含まれる。他の供給源には、漂白ソフトウッドクラフトパルプ、漂白ハードウッドクラフトパルプ、漂白ユーカリクラフトパルプ、紙パルプ、フラッフパルプ、溶解パルプ、及び漂白非木材セルロースパルプが含まれる。一実施形態では、使用されるMCCは、米国食品医薬品局によって人間の摂取が承認されているものである。
【0018】
必要に応じて、低コストのパルプ、又は低コストのパルプと特殊パルプの混合物を、MCCの供給源として使用することができる。そうであれば、例えば、総MCCの約30~80%を低コストのパルプで構成することができる。いくつかの実施形態では、得られるMCC生成物のコロイド含有量は、少なくとも60%である。低コストパルプの例には、製紙用パルプ、サザン漂白ソフトウッドクラフトパルプ、ノーザン漂白ソフトウッドパルプ、漂白ユーカリクラフトパルプ、漂白亜硫酸塩パルプ、漂白ハードウッドクラフトパルプ、漂白ソーダパルプ(Bleached Soda Pulp)、及び漂白非木材パルプ(bleached non-wood pulp)などのフラッフパルプが含まれる。
【0019】
MCCを生成するプロセスは、セルロース系材料を酸加水分解に供して粗製MCCを生成する工程i)を含む。本明細書で使用される「酸加水分解」という用語は、完全な加水分解への限定を意味するものではなく、MCCを生成するための公知のプロセスで一般に適用される部分加水分解を包含する。粗製MCCは、典型的には、上記のセルロース原料を酸で部分的に加水分解(いくつかの実施形態では鉱酸で、又はいくつかの実施形態では塩酸で(酸加水分解))することによって生成される。酸加水分解により微結晶セルロースを生成するプロセスは、米国特許第2,978,446号明細書、米国特許第3,023104号明細書、及び米国特許第3,146,168号明細書に開示されている。鉱酸は、セルロース原料の非晶質領域を優先的に攻撃し、これにより、微結晶セルロースを構成する結晶凝集体を形成する準結晶領域を露出させ、解放し、後に残す。セルロース原料の部分加水分解中に、平均重合度(=D.P.)は、セルロース原料の元の繊維構造の破壊を反映する横ばいの値まで低下する。部分加水分解によって得られることができる横ばいの値は、主に上記の原料の選択に依存する。15から60の範囲の、平均的な横ばいのD.P.を有するMCCは、例えば、再生形態のセルロースから生成することができる。60~125の範囲の、平均的な横ばいのD.P.を有するMCCは、コットンリンター及び精製された木材パルプなどのアルカリ膨潤した天然形態のセルロースから得られることができる。原料として亜硫酸塩パルプでは、典型的には、200から400の範囲の平均的な横ばいのD.P.を有するMCCが生成される。平均的な横ばいの重合度(=D.P.)は、DIN 54 270、パート1及び2に従って決定される。
【0020】
MCCは、化学的又は機械的処理によって、以下で更に説明する任意の磨耗により適したものにすることができる。例えば、MCCの酸加水分解中又は酸加水分解後に、MCCを、酸性pHで、カルボキシメチルセルロース(CMC)、過酸化物、過酢酸、過硫酸塩、過ギ酸、又はオゾンで処理することができる。鉄塩などの他の添加剤を添加して、MCCの加水分解を促進することができる。加水分解の促進は、MCCを長時間調理することによって、又は調理温度、酸濃度などの反応条件を変更することによって達成することもできる。
【0021】
MCCを生成するプロセスは、工程ii)を更に含み、この場合、部分加水分解後に、凝集した結晶塊、即ち、粗製MCCを洗浄し、水性液体で少なくとも部分的に中和して、分解した副生成物を除去し、酸加水分解で使用した過剰の酸を少なくとも部分的に中和する。典型的には、洗浄工程には濾過が含まれ、その後希釈して噴霧乾燥に適したMCC湿潤ケーキを生成する。中和剤は、洗浄液に添加することができる。いくつかの実施形態では、それは、希釈に使用される液体に添加される。中和剤の例は、例えば、重炭酸アンモニウム又は炭酸アンモニウムである。いくつかの実施形態では、中和剤は、アンモニア又は水酸化アンモニウムを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、洗浄液は、水、ブライン、或いはイソプロパノール、エタノール又はメタノールの水性混合物などの水と混合した有機溶媒である。いくつかの実施形態では、洗浄液は、水又はブラインである。得られる湿潤した塊は、湿ったMCCの総重量に基づいて、典型的には30%~80%、より典型的には40%~70%の水分を含む。任意に、MCCは、ゲル化剤、増粘剤、脂肪代替品、ノンカロリーの充填剤(non-caloric filler)、懸濁剤、品質改良剤(texturizer)、又はエマルション中の安定剤としての使用など、食品、医薬品又は化粧品用途における特定の使用のために改質される。いくつかの実施形態では、MCCは、加水分解された湿潤MCCを「磨耗」と呼ばれる高剪断混合に供することによって、このような使用のために改質される。磨耗のプロセスは、典型的には、微結晶結晶子を微粒子(いくつかの実施形態では、コロイド状範囲で)に細分化する。CMCで改質されたものなどのコロイド状微結晶セルロースは、米国特許第3,539,365号明細書に記載されている。典型的には、任意に磨耗されたMCCは、その後、噴霧乾燥前に希釈される。いくつかの実施形態では、希釈剤は、水であり、いくつかの実施形態では、上記の中和剤を含む。噴霧乾燥に適した希釈したMCCは、一般に、MCCの水性スラリーの形態であり、典型的には、乾燥MCC及び水の総重量に基づいて、約10%~20%のMCCと、約80%~90%の水とを含む。湿潤MCCの総重量に基づいて、30%~80%の水分を含む湿ったMCC、並びに、乾燥MCC及び水の総重量に基づいて、約10%~20%のMCCと、約80%~90%の水とを含む希釈したMCCの両方は、本明細書で「MCC湿潤ケーキ」と呼ばれる。
【0023】
プロセスの工程iii)では、MCC湿潤ケーキが噴霧乾燥される。所望の商業グレードのMCCは、MCC製品の凝集度(粒度分布)及び水分含有量を操作するために噴霧乾燥条件を変更及び制御することによって得られる。[G.Thorens,Int.J.Pharm.(2015),490,47-54;G.Thorens,Int.J.Pharm.(2014),473,64-72)]。適切な噴霧乾燥装置及び条件が、当技術分野で知られている。
【0024】
従って、MCCを生成するプロセスは、i)セルロース系材料を酸加水分解して粗製微結晶セルロース(MCC)を生成する工程と、ii)工程i)で得られた粗製MCCを洗浄し、少なくとも部分的に中和して、MCC湿潤ケーキを得る工程と、iii)MCC湿潤ケーキを噴霧乾燥する工程と、を含む。このプロセスの工程i)~iii)の実施形態は、上記の通りである。工程ii)又は工程iii)、或いは工程ii)及びiii)の両方の後、MCCは、上記で更に説明したように熱処理を受け、MCCの亜硝酸塩含有量が低減される。
【0025】
一実施形態では、MCCは、工程ii)の後及び工程iii)の前に、上記で更に説明した熱処理を受ける。この実施形態では、MCCを生成するために使用される出発材料に潜在的に由来する亜硝酸塩の濃度、及び/又は工程i)で得られた粗製MCCの部分的又は完全な中和を伴う工程ii)に潜在的に由来する亜硝酸塩の濃度を低減することができる。
【0026】
別の実施形態では、MCCは、噴霧乾燥工程iii)の後に、上記で更に説明した熱処理を受ける。この実施形態では、MCCを生成するために使用される出発材料に潜在的に由来する亜硝酸塩の濃度を低減させることができるだけでなく、工程i)で得られた粗製MCCの部分的又は完全な中和に潜在的に由来する亜硝酸塩の濃度も低減させることができ、噴霧乾燥工程に潜在的に由来する亜硝酸塩の濃度、例えば、噴霧乾燥工程で利用される乾燥ガスに潜在的に由来する亜硝酸塩の濃度を低減させることができる。
【0027】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の実施例から明らかになるであろう。開示された実施形態は、説明を目的としたものであり、単なる例示であり、本発明を限定するものとみなされるべきではない。特に明記しない限り、全ての部、パーセント及び比は、重量による。
【実施例
【0028】
MCCの亜硝酸塩含有量の決定
亜硝酸塩の測定は、マイクロボア分析カラム及びガードカラム(Dionex IonPac AS 19、2×250mm、カタログ番号062886及びDionex IonPac AG19、2×50mm、カタログ番号062888)を備えたイオン交換クロマトグラフィーシステム(AS-APオートサンプラー、四次ポンプ、KOH溶離液発生器、アニオンサプレッサー、導電率検出器、及びChromeleon 7.2.9クロマトグラフィーデータシステムからなるDionex ICS-6000システム)にて実行された。KOH勾配は、KOH溶離液発生器によって同時に生成された:-平衡化のために1ミリモルで10分(IC方法の実行を開始する前に、ICカラムを平衡にするための10分間の平衡化前時間を意味する)、1ミリモルから20ミリモルまで0~15分、50ミリモルまで15.1分、及び28分まで50ミリモルで保持する、28~29分で50ミリモルから1ミリモル、及び実行は30分で停止する。流量は、0.5mL/分である。ADRS 2mmサプレッサーによるアニオン抑制は、開始電圧3.8Vでダイナミックモードにて適用された。カラム温度は、30℃であり、コンパートメント温度は、15℃であった。注入は、25μLの試料ループで行われた。
【0029】
亜硝酸塩分析の場合、微結晶セルロース(MCC)試料は、50mLの遠心分離管においてシェーカーにて低速の振とう速度で30分間、1gのMCCを15gの高純度水(25℃で18MΩ-cmを超える電気抵抗率、Millipore SigmaのMilli-Q IQ7003/7005/7010/7015システムなどの任意の信頼できる実験室用水精製システムで脱イオン水を濾過することによって調製)で抽出することによって調製された。次いで、チューブを10000rpmで10分間遠心分離して、MCCを沈殿させた(Sorvall Legend XT/XF Centrifugeシリーズ、カタログ75004541)。透明な抽出溶液を、0.45μmのPTFEフィルターを通して濾過し、イオン交換クロマトグラフィー(IC)による分析のためにICオートサンプラーバイアルに入れた。試料は、Inorganic Venturesから購入したIC分析標準(1000μg/g亜硝酸塩(NO2)、部品番号ICNO31-125ML及びICNO21-125ML)を使用して、0.5μg/g、0.05μg/g、及び0.005μg/gで調製された外部校正標準を使用して校正された。
【0030】
水分分析
水分分析は、Mettler-Toledo HB 43-Sハロゲン水分計を使用して実行され、水分は110℃での乾燥減量(LOD)%として計算された。
【0031】
MCCの生成プロセス
熱処理における出発材料として使用されたMCCは、アルファ含有量が90%超の市販の高純度木材パルプの酸加水分解によって生成された。酸加水分解は、塩酸水溶液を用いて実施した。得られたMCCを反応副生成物から分離し、濾過工程中に水を使用して洗浄して、平均重合度(DP)約240を有する固形分約35%~40%のMCC湿潤ケーキを生成した。MCC湿潤ケーキを固形分約20%まで水で希釈し、無水アンモニアを水とともに添加して残留した酸を中和し、最終粉末でpH5.5~7.0を得た。最後に、希釈したMCCを噴霧乾燥して粉末を生成した。
【0032】
実施例1
MCC試料は、上記のMCC生成プロセスに従って生成されたが、アンモニア中和後及び噴霧乾燥前に追加の濾過が行われた。
【0033】
10gのMCC試料を計量して、2オンス(約60ml)のHDPEボトルのそれぞれに入れた。これらの試料を、湿度が制御されていない市販のオーブンにて、それぞれ50℃、70℃、及び90℃で1時間又は2時間又は3時間加熱した。90℃で1時間加熱した後など、設計された各実験の時点で、この試験条件のみに使用した特定のボトルをオーブンから取り出し、冷却した後、上記の亜硝酸塩含有量を決定した。以下の表1の結果は、様々な時間及び様々な温度の熱処理後の亜硝酸塩含有量をppmで示している。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例2
MCC試料は、アンモニア中和後及び噴霧乾燥前に、乾燥MCCの重量に基づいて3重量%の濃度の過酸化水素を添加したことを除いて、上記のMCC生成プロセスに従って生成された。過酸化水素の添加後及び噴霧乾燥前に、追加の濾過が適用された。
【0036】
以下の表2の結果は、様々な時間及び様々な温度の熱処理後の亜硝酸塩含有量をppmで示している。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例3
MCC試料は、上記のMCC生成プロセスに従って生成された。過酸化水素の添加及び追加の濾過は適用されなかった。
【0039】
以下の表3の結果は、様々な時間及び様々な温度の熱処理後の亜硝酸塩含有量をppmで示している。
【0040】
【表3】
【0041】
実施例4
上記のMCC生成プロセスに従って生成された市販のMCC材料が評価された。
【0042】
以下の表4の結果は、様々な時間及び様々な温度の熱処理後の亜硝酸塩含有量をppmで示している。
【0043】
【表4】
【0044】
上記の表1~表4の結果は、熱処理前のMCC粉末には亜硝酸塩が微量しか存在しないにもかかわらず、簡易な熱処理によりバルクMCC粉末の亜硝酸塩含有量をほぼ完全に除去できるという驚くべき発見を示している。驚くべきことに、亜硝酸塩がMCCマトリックス中で安定化され、亜硝酸塩レベルの大幅な低下が妨げられるという見込みは満たされなかった。
【0045】
実施例5
商標AVICEL PH-102で市販されているMCC粉末を熱処理実験に使用した。AVICEL PH-102微結晶セルロースは、公称粒径100μm、水分含有量3.0~5.0%LOD(乾燥減量)、及び嵩密度0.28~0.33g/mlである。
【0046】
MCC試料5-Iは、AVICEL PH-102MCCを真空オーブンにて周囲温度で数日間かけて、完全に乾燥したMCCの重量に基づいて所望の最終LOD0.4%まで乾燥させることによって得た。
【0047】
MCC試料5-IIは、完全に乾燥したMCCの重量に基づいて、4.2%の水分含有量、即ちLOD(乾燥減量)を有するAVICEL PH-102MCCであった。
【0048】
MCC試料5-III、5-IV、及び5-Vは、室温でLodige ploughshare反応器ユニットにてAVICEL PH-102 MCCを加湿することによって得られた。所望の量の脱イオン(DI)水を、撹拌されたMCC粉末に1~2分間かけて噴霧した(噴霧角度30°の中空円錐ノズルを介して空気圧60psig)。更に1時間撹拌を続けて混合/均質化した。次いで、加湿されたMCCを反応器から取り出した。3つの異なる量の脱イオン水を加えて加湿を3回実施した。新しい水分レベルを決定するために、各加湿されたMCCのLODが測定された。MCC試料5-IIIのLODは、9.3%であり、MCC試料5-IVのLODは、12.4%であり、MCC試料5-VのLODは、24.9%であった。次いで、試料を熱処理に供した。熱処理実験は、撹拌されたLodige VT10 ploughshareブレンダーにて実行された。ジャケットシステムを、グリコール/水混合物を使用する自立型加熱装置/冷却装置システムを使用して加熱した。ジャケットシステムを99℃に設定して、内部温度を約90℃にした。MCC粉末をユニットに添加する前に、ユニットを予熱した。MCC試料5-I~5-Vのそれぞれを、予熱したLodige反応器に個別に添加し、1日目に渡って、及び2日目に2回、その温度で撹拌した。全ての試料は、反応器から取り出した直後に、LODと亜硝酸塩の含有量を測定した。亜硝酸塩含有量は、乾燥MCCの重量に基づく。結果を以下の表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
上記の表5の結果は、熱処理前のMCC粉末には亜硝酸塩が微量しか存在しないにもかかわらず、簡易な熱処理によって亜硝酸塩含有量をバルクMCC粉末においてほぼ完全に除去できるという驚くべき発見を確証している。上記の表5の結果は、亜硝酸塩含有量の減少の速度と度合いが熱処理前のMCC試料の湿度に依存するという驚くべき発見も示している。
【0052】
実施例6
商標AVICEL PH-102、AVICEL PH-112及びAVICEL SMCC90で市販されているMCC試料を、熱処理実験に使用した。AVICEL PH-102微結晶セルロースは、公称粒径100μm、水分含有量3.0%~5.0%、及び嵩密度0.28~0.33g/mlである。AVICEL PH-102は、実施例5とは異なるバッチに由来するため、開始時の亜硝酸塩含有量は、実施例5とは僅かに異なった。AVICEL PH-112微結晶セルロースは、公称粒径100μm、水分含有量1.5%以下、及び嵩密度0.28~0.34g/mlである。AVICEL SMCC90は、レーザー回折によって決定された平均粒径(d50)が90~150μm、嵩密度が0.25~0.37g/mlである。AVICEL SMCC90は、98%のMCCと2%のコロイド状二酸化ケイ素とを含む、共処理された噴霧乾燥された賦形剤である。
【0053】
10gのMCC試料を秤量し、2オンス(約60ml)のHDPEボトルのそれぞれに入れた。ボトルをオーブンに入れ、温度を40℃、湿度を75%に維持した。40℃、湿度75%での1か月の処理など、特定の実験の時点ごとに設計されたボトルをオーブンから取り出した。亜硝酸塩含有量は、上記のように分析した。以下の表6の結果は、様々な期間の熱処理後の亜硝酸塩含有量をppmで示している。
【0054】
【表7】
【0055】
上記の表6の結果は、僅か40℃での非常に穏やかな加熱でも、MCCをこの温度で長期間保持すると、亜硝酸塩含有量の大幅な低減が達成できることを示している。例えば、亜硝酸塩含有量の低減は、温度制御された保管庫でMCCを保管することによって非常に簡単に達成できる。
【0056】
実施例7
商標AVICEL PH-101で市販されているMCCを、熱処理実験に使用した。AVICEL PH-101微結晶セルロースは、公称粒径50μm、水分含有量3.0%~5.0%、及び嵩密度0.26~0.31g/mlである。熱処理のために、10gのAvicel PH101微結晶セルロースを、キャビネットオーブンにて高温で非常に短期間保管した。以下の表7の結果は、様々な期間及び様々な温度の熱処理後の亜硝酸塩含有量をppmで示している。
【0057】
【表8】
【0058】
上記の表7の結果は、高温では亜硝酸塩含有量の大幅な低減が、非常に短期間内で達成できることを示している。
【0059】
実施例8及び9
実施例8及び9の実験は、MCCの亜硝酸塩含有量が、多量でMCCの簡易な熱処理によっても低減できるかどうかを評価するために行われた。実施例8では、商標AVICEL PH-112で市販されている約50kgのMCCを含むドラムを、温度40℃の保管庫に置いた。MCCは、実施例6とは異なるバッチに由来するため、開始時の亜硝酸塩含有量は、実施例6とは僅かに異なっていた。ドラムは、撹拌することなく単に保管庫内に放置されたままであった。毎週の間隔で、ドラムからMCC試料を採取し、上記で更に説明したように硝酸塩含有量を分析した。結果を以下の表8に示す。
【0060】
【表9】
【0061】
実施例9では、商標AVICEL PH-102で市販されている約20kgのMCCを含む箱を、温度40℃の倉庫に置いた。MCCは、実施例5及び6とは異なるバッチに由来するため、開始時の亜硝酸塩含有量は、実施例5及び6とは僅かに異なっていた。箱は、振とう又は他の撹拌をすることなく、単に保管庫に置いた。毎週の間隔で、箱からMCC試料を採取し、上記で更に説明したように硝酸塩含有量を分析した。結果を以下の表9に示す。
【0062】
【表10】
【0063】
結果 表8及び表9は、MCCの亜硝酸塩含有量を、たとえ多量であっても、及びMCCが放置されているだけであっても、簡易な熱処理によって約50%又は更にはそれ以上低減させることができるという驚くべき発見を示している。
【国際調査報告】