IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-543130成形性に優れた超高強度熱延鋼板及びその製造方法
<>
  • 特表-成形性に優れた超高強度熱延鋼板及びその製造方法 図1
  • 特表-成形性に優れた超高強度熱延鋼板及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】成形性に優れた超高強度熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241112BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241112BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/38
C21D9/46 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531042
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 KR2022018467
(87)【国際公開番号】W WO2023096299
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0164203
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 テ-ジン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、 ジュ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェ-ウン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB08
4K037FC04
4K037FD02
4K037FD03
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE06
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、自動車のシャーシ構造部材等に好適に適用可能な熱延鋼板に関し、より詳しくは、成形性に優れ、鋼板内の材質が均一な超高強度熱延鋼板及びその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):0.01~1.8%、マンガン(Mn):1.6~3.5%、アルミニウム(Al):0.001~0.1%、クロム(Cr):2.5%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):2.0%以下(0%を含む)、チタン(Ti):0.01~0.15%、ボロン(B):0.0005~0.003%、リン(P):0.0001~0.05%、硫黄(S):0.0001~0.05%、窒素(N):0.0001~0.02%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として、面積分率で、低温ベイナイト及びマルテンサイトの中から選択された1種以上:75~90%、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上:10~25%、及びその他の相:5%以下(0%を含む)を含む、超高強度熱延鋼板。
【請求項2】
前記熱延鋼板は、ニオブ(Nb):0.01~0.2%をさらに含む、請求項1に記載の超高強度熱延鋼板。
【請求項3】
前記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均サイズは2.0μm以上である、請求項1に記載の超高強度熱延鋼板。
【請求項4】
前記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均間隔は3μm以上である、請求項1に記載の超高強度熱延鋼板。
【請求項5】
前記熱延鋼板は、900MPa以上の降伏強度、1180MPa以上の引張強度、7%以上の伸び率、及び2%以下の伸び率の標準偏差を有する、請求項1に記載の超高強度熱延鋼板。
【請求項6】
25%以上の穴拡げ率を有する、請求項1に記載の超高強度熱延鋼板。
【請求項7】
重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):0.01~1.8%、マンガン(Mn):1.6~3.5%、アルミニウム(Al):0.001~0.1%、クロム(Cr):2.5%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):2.0%以下(0%を含む)、チタン(Ti):0.01~0.15%、ボロン(B):0.0005~0.003%、リン(P):0.0001~0.05%、硫黄(S):0.0001~0.05%、窒素(N):0.0001~0.02%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1100~1350℃の温度範囲で再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板をBs以下の温度まで50℃/s以上の平均冷却速度で1次冷却する段階と、
前記1次冷却後(Bs+Ms)/2以上の温度まで25℃/s以下の平均冷却速度でts時間(秒)の間2次冷却する段階と、
前記2次冷却後、Ms℃~500℃の温度範囲まで30℃/s以上の平均冷却速度で3次冷却する段階と、
前記3次冷却された温度範囲で巻き取る段階と、を含み、
前記熱間圧延時、750~1150℃の温度範囲内で下記関係式1で定義されるDuの値が2~10の範囲を満たすように仕上げ熱間圧延を行う、超高強度熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
Du={FDT+(7.4×[C])-(24.7×[Si])-(4.7×[Mn])-(3.9×[Cr])-(5.2×[Mo])-(560×[Ti])-(1110×[Nb])}×0.049-34.2
(前記関係式1において、FDTは圧延終了温度(℃)を意味し、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[Ti]及び[Nb]はそれぞれ括弧内の元素に対する重量%含量を示す。)
【請求項8】
前記熱間圧延時、下記関係式2をさらに満たす、請求項7に記載の超高強度熱延鋼板の製造方法。
[関係式2]
5.0×10≦Du×Bat×2.968×1010≦2.0×10
(前記関係式2において、Duは関係式1における定義と同じであり、前記Batは55.845×[B]/(1080.6+45.04×[B])を示し、[B]はボロン(B)の重量%含量を示す。)
【請求項9】
前記熱間圧延時、最終2パス(pass)の総圧下量が10~40%である、請求項7に記載の超高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項10】
下記関係式3を満たす、請求項8に記載の超高強度熱延鋼板の製造方法。
[関係式3]
0.75≦exp(-k(T)×(ts))≦0.9
(前記k(T)は、下記関係式4で定義される値を示す。)
[関係式4]
【数1】

(前記関係式4において、Duは関係式1における定義と同じであり、Batは関係式2における定義と同じである。また、T1は1次冷却終了温度[℃]を示し、T2は2次冷却終了温度[℃]を示す。また、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]及び[Mo]は、それぞれ括弧内の元素に対する重量%含量を示す。)
【請求項11】
前記巻取り後、常温まで最終冷却する段階をさらに含む、請求項7に記載の超高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記最終冷却後に酸洗及び塗油する段階をさらに含む、請求項11に記載の超高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記酸洗及び塗油後に溶融亜鉛めっきする段階をさらに含む、請求項12に記載の超高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシャーシ構造部材等に好適に適用可能な熱延鋼板に関し、より詳しくは、成形性に優れ、鋼板内の材質分布が均一な超高強度熱延鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を低減するために自動車市場の主流である内燃機関自動車から電気自動車などの環境にやさしい車両への転換が急速に行われている。
【0003】
内燃機関自動車から電気自動車などに転換されるにつれて、自動車を構成する部品の種類も変化し、自動車の重量にも変化が生じている。例えば、同じモデルで発売された内燃機関自動車と電気自動車の重量を比較すると、電気自動車の重量が内燃機関自動車に対してほぼバッテリ重量分だけ増加することが知られている。
【0004】
一方、自動車のシャーシ部品は車体を支持する役割を果たし、走行中に路面の振動及び衝撃を吸収して乗り心地と走行安定性を確保する上で重要な部品である。自動車の重量が増加すると、上記シャーシ部品に印加される疲労荷重が高くなるため、電気自動車などのシャーシ部品に適用される鋼材は疲労強度に優れることが要求される。
【0005】
鋼材の疲労強度は引張強度及び降伏強度に比例するため、電気自動車などのシャーシ部品の用途に適用される鋼材は、引張強度と降伏強度を向上させる必要がある。
【0006】
また、シャーシ部品はプレス成形により製造されるため、疲労強度を向上させるための引張強度及び降伏強度の向上と共に、プレス成形に適した伸び率及び穴拡げ性などの成形性の確保が求められる。一方、鋼板内に微細組織が不均一で局部的に成形性に劣る領域が存在する場合、プレス成形時に加工クラックが発生して生産性を低下させる原因となり得る。したがって、伸び率及び穴拡げ性等の成形性が鋼板内に均一に分布するように製造することが重要である。シャーシ部材として使用される熱延鋼板の場合、熱間圧延後の冷却水によって鋼板の温度が制御されるという特徴があるため、局部的な温度偏差が冷却中に形状不良を誘発し、形状不良が再び温度偏差を誘発して結果的に材質ばらつきが増加し得る可能性が高くなるため、鋼板の製造時に鋼板内の温度偏差が発生しないようにすることが重要である。特に、微細組織として、低温ベイナイトとマルテンサイトを多量に使用する超高強度鋼板の場合、急冷と急激な相変態速度により形状不良が発生する可能性が増加するため、特別な注意が必要であると言える。
【0007】
これまで熱延鋼板の強度と成形性を向上させるための様々な技術が提案されてきた。
【0008】
一例として、特許文献1では、熱間圧延後、Ms温度以下、200℃以上の温度まで冷却した後に巻き取り、鋼の微細組織を合計面積率で90%以上の下部ベイナイト相及び/又は焼戻しマルテンサイトを形成する方法を開示している。このような、特許文献1によれば、熱延鋼板の引張強度は1180MPa以上、優れた伸びフランジ成形性及び曲げ性を確保できる一方、Ms以下の温度まで水冷により冷却されるため、急激なマルテンサイトの相変態挙動に起因する形状不良及びそれに伴う鋼板内の材質ばらつきが懸念される。
【0009】
したがって、電気自動車のような環境にやさしい車両などのシャーシ部品の走行安定性を確保するためには、引張強度と降伏強度が高く疲労寿命に優れるだけでなく、プレス成形が容易になるように伸び率及び穴拡げ性等の成形性に優れると同時に、鋼板内の材質が均一な鋼材の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特許出願番号2019-553584号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一側面によれば、強度が高く疲労性能に優れるだけでなく、成形性に優れてプレス成形に適しており、鋼板内の材質分布が均一な熱延鋼板及びその製造方法を提供しようとする。
【0012】
本発明の課題は、上述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、
重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):0.01~1.8%、マンガン(Mn):1.6~3.5%、アルミニウム(Al):0.001~0.1%、クロム(Cr):2.5%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):2.0%以下(0%を含む)、チタン(Ti):0.01~0.15%、ボロン(B):0.0005~0.003%、リン(P):0.0001~0.05%、硫黄(S):0.0001~0.05%、窒素(N):0.0001~0.02%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として、面積分率で、低温ベイナイト及びマルテンサイトの中から選択された1種以上:75~90%、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上:10~25%、及びその他の相:5%以下(0%を含む)を含む、超高強度熱延鋼板を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の一側面は、
重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):0.01~1.8%、マンガン(Mn):1.6~3.5%、アルミニウム(Al):0.001~0.1%、クロム(Cr):2.5%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):2.0%以下(0%を含む)、チタン(Ti):0.01~0.15%、ボロン(B):0.0005~0.003%、リン(P):0.0001~0.05%、硫黄(S):0.0001~0.05%、窒素(N):0.0001~0.02%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1100~1350℃の温度範囲で再加熱する段階と、
上記再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
上記熱延鋼板をBs以下の温度まで50℃/s以上の平均冷却速度で1次冷却する段階と、
上記1次冷却後(Bs+Ms)/2以上の温度まで25℃/s以下の平均冷却速度でts時間(秒)の間2次冷却する段階と、
上記2次冷却後、Ms℃~500℃の温度範囲まで30℃/s以上の平均冷却速度で3次冷却する段階と、
上記3次冷却された温度範囲で巻き取る段階と、を含み、
上記熱間圧延時、750~1150℃の温度範囲内で下記関係式1で定義されるDuの値が2~10の範囲を満たすように仕上げ熱間圧延を行う、超高強度熱延鋼板の製造方法を提供する。
【0015】
[関係式1]
Du={FDT+(7.4×[C])-(24.7×[Si])-(4.7×[Mn])-(3.9×[Cr])-(5.2×[Mo])-(560×[Ti])-(1110×[Nb])}×0.049-34.2
(上記関係式1において、FDTは圧延終了温度(℃)を意味し、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[Ti]及び[Nb]はそれぞれ括弧内の元素に対する重量%含量を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、引張強度1180MPa以上の超高強度を有しながらも、成形性に優れ、鋼板内の材質が均一な熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。これにより、自動車のシャーシ構造部材等に好適に適用することができる。
【0017】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】関係式1及び関係式2を同時に満たすボロンの含量及びDuの関係を示すグラフであって、A-B-C-D-E-Fを連結する実線内で本発明で意図する微細組織を確保することができる。
図2】発明例1(a)と比較例5(b)の微細組織を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0020】
一方、本明細書で使用される用語は特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。例えば、本明細書で使用される単数形は、関連する定義がそれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。さらに、明細書で使用される「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在又は付加を除外するものではない。
【0021】
引張強度1180MPa以上の超高強度を得るための従来の熱延鋼板の製造方法は、熱間圧延後、多量の冷却水を噴射して鋼板をMs温度以下に冷却してマルテンサイトを主相とする方法が広く適用されてきた。しかし、マルテンサイトを主相とする場合、伸び率と曲げ性及び穴拡げ性が悪化するという問題がある。さらに、冷却中の急激な格子膨張に起因する形状不良と鋼板内の温度不均一により板内に相変態の残留応力が集中する部位が生成され、部品加工のための成形時に成形クラックが発生するという問題がある。
【0022】
そこで、本発明者らは、ベイナイトとマルテンサイトを活用して超高強度を確保するとともに、アシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトを組織内に均一に分散し、変形時に特定の位置で応力が過度に集中することを防止して成形性を確保できることを見出した。また、Ms温度以上で巻き取って急激なマルテンサイトの生成を回避することにより、鋼板内の材質が均一な超高強度熱延鋼板を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。以下では、本発明についてより詳細に説明する。
【0023】
本発明の一側面に係る、成形性に優れ、鋼板内の材質が均一な超高強度熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):0.01~1.8%、マンガン(Mn):1.6~3.5%、アルミニウム(Al):0.001~0.1%、クロム(Cr):2.5%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):2.0%以下(0%を含む)、チタン(Ti):0.01~0.15%、ボロン(B):0.0005~0.003%、リン(P):0.0001~0.05%、硫黄(S):0.0001~0.05%、窒素(N):0.0001~0.02%を含むことができる。
【0024】
以下では、本発明における熱延鋼板の成分の添加理由及び含量の限定理由について具体的に説明する。一方、本発明で特に断らない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0025】
炭素(C):0.06~0.18%
炭素(C)は鋼を強化させるのに最も経済的でありながらも効果的な元素であって、このようなCの含量が増加するほど鋼板の強度は増加する。本発明において、上記Cは下部ベイナイトとマルテンサイト内に微細炭化物あるいは固溶状態で存在し、鋼の降伏強度及び引張強度を向上させる役割を果たす。
【0026】
上記Cの含量が0.06%未満であると、引張強度1180MPa以上の強度の確保が困難となり、一方、Cの含量が0.18%を超えると、溶接性が悪化するという問題がある。したがって、本発明において、上記Cは0.06~0.18%で含むことができ、より有利には、上記C含量の下限は0.07%であってもよく、より好ましくは0.09%であってもよい。また、上記C含量の上限は0.15%であってもよい。
【0027】
シリコン(Si):0.01~1.8%
シリコン(Si)は鋼の硬化能を向上させる元素であって、固溶強化効果により強度を向上させる役割を果たす。また、冷却中にフェライトの生成を防止して下部ベイナイト及び/又はマルテンサイト相を形成させることによって強度を向上させる。
【0028】
上記Siの含量が0.01%未満であると、固溶強化効果とフェライト変態遅延効果が低くなり、引張強度の確保が難しくなる。一方、Siの含量が1.8%を超えると、スラブ再加熱時にスラブの表面にFe-Si複合酸化物を形成して鋼板の表面品質が悪化するだけでなく、溶接性も低下するという問題がある。
【0029】
したがって、本発明において、上記Siは0.01~1.8%で含むことができ、より有利には0.1%以上、さらに有利には、Si含量の下限は0.2%であってもよい。また、上記Si含量の上限は1.5%であってもよく、より好ましくは1.3%であってもよい。
【0030】
マンガン(Mn):1.6~3.5%
マンガン(Mn)は鋼の硬化能を向上させる元素であって、仕上げ圧延後の冷却中にフェライトの形成を防止し、低温変態組織の形成を容易にする。このようなMnの含量が1.6%未満であると、硬化能が不足してフェライトの分率が過度に増加するという問題がある。一方、Mnの含量が3.5%を超えると、硬化能が大きく増加して本発明で得ようとするアシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトを十分に形成させるための保持時間が過度に増加し、伸び率が低下する。したがって、本発明において、上記Mnは1.6~3.5%で含むことができ、より有利には、Mn含量の下限は1.8%であってもよく、あるいはMn含量の上限は2.5%であってもよい。
【0031】
アルミニウム(Al):0.001~0.1%
アルミニウム(Al)は溶鋼の脱酸のために添加する元素であって、脱酸後には鋼中に一部が存在する。このようなAlは、その含量が0.1%を超えると、鋼中に酸化物及び窒化物系介在物の増加を招き、鋼板の成形性を劣化させる。一方、上記Alの含量が0.001%未満であると、Alの過度な低減による不要な精錬費用の増加を招き、経済的に不利である。したがって、本発明において、上記Alは0.001~0.1%で含むことができ、より有利には、上記Al含量の下限は0.005%であってもよく、あるいは0.02%であってもよい。あるいは、より有利には、上記Al含量の上限は0.05%であってもよく、あるいは0.025%であってもよい。
【0032】
クロム(Cr):2.5%以下(0%を含む)
クロム(Cr)は鋼の硬化能を向上させる元素であって、仕上げ圧延後の冷却中にフェライトの形成を抑制する。このようなCrの含量が2.5%を超えると、硬化能が大きく増加し、冷却帯でベイナイト変態が円滑に起こらず、アシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの分率を確保するための保持時間が過度に増加して伸び率を劣化させる。したがって、本発明において、上記Crは2.5%以下で含むことができ、より有利には1.5%以下で含むことができる。一方、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記Cr含量の上限は0.9%であってもよい。
【0033】
一方、本発明は、上記Crを含有しなくても意図する物性の確保には大きな無理がないため、Cr含量が0%である場合を含む。但し、上記Crを意図的に添加する場合には、最小0.01%を添加することが有効であることを明らかにする。
【0034】
モリブデン(Mo):2.0%以下(0%を含む)
モリブデン(Mo)は鋼の硬化能を向上させる元素であって、固溶強化効果により強度を向上させる役割を果たし、仕上げ圧延後の冷却中にフェライトの形成を抑制する。上記Moの含量が2.0%を超えると、硬化能が大きく増加し、冷却帯でベイナイト変態が円滑に起こらなくなる。これにより、アシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの分率を確保するための保持時間が過度に増加して伸び率が低下する。
【0035】
したがって、本発明において、上記Moは2.0%以下で含むことができ、より有利には1.0%以下、さらに有利には0.5%以下で含むことができる。
【0036】
一方、本発明は、上記Moを含有しなくても意図する物性の確保には大きな無理がないため、Mo含量が0%である場合を含む。但し、上記Moを添加する場合には、最小0.01%を添加することが有効であることを明らかにする。
【0037】
チタン(Ti):0.01~0.15%
チタン(Ti)は鋼中に炭窒化物を形成する元素であって、このように析出物の形成を誘導して鋼の強度を確保する用途に広く使用されているが、本発明では、鋼中の窒素(N)を除去してBNの生成を抑制することにより、ボロン(B)がオーステナイト粒界に濃化するようにする役割とともに、圧延前にオーステナイトの粒度を制御する用途として使用する。
【0038】
本発明において目的とする効果を十分に得るためには、上記Tiを0.01%以上含有することが好ましく、鋼中の窒素(N)を除去するために窒素(N)含量の2.9倍以上を含むことが好ましい。但し、その含量が0.15%を超えると、連続鋳造時に酸化物を形成して鋳造ノズル詰まり等の問題が発生する可能性がある。
【0039】
したがって、本発明において、上記Tiは0.01~0.15%で含むことができ、より有利には、上記Ti含量の下限は0.02%であってもよく、あるいはTi含量の上限は0.12%であってもよい。
【0040】
ボロン(B):0.0005~0.003%
ボロンはオーステナイト粒界に濃化して粒界エネルギーを低減することで鋼の硬化能を向上させる元素である。本発明では、オーステナイト粒界で拡散変態により相変態の核生成が起こるフェライト及び上部ベイナイトの相変態を抑制し、主相として下部ベイナイト及びマルテンサイトが確保できるようにする役割を果たす。
【0041】
本発明において目的とする効果を十分に得るためには、Bの濃度は0.0005%以上含有することが好ましい。但し、その含量が0.003%を超える場合、硬化能が大きく増加し、本発明で得ようとするアシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトを十分に形成させるための保持時間が過度に増加し、伸び率が低下する。
【0042】
したがって、本発明において、上記Bは0.0005~0.003%で含まれることができ、より有利には、B含量の下限は0.001%であってもよく、あるいはB含量の上限は0.0025%であってもよい。
【0043】
リン(P):0.0001~0.05%
リン(P)は鋼中に不可避に含有される不純物であって、偏析により鋼の加工性を阻害する主な原因となる元素である。したがって、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。
【0044】
理論上、上記Pはその含量を0%に制限することが有利であるが、上記Pの含量を0.0001%未満に制御するためには、過度な製造コストを必要とするため、その下限を0.0001%に設定することができる。但し、その含量が0.05%を超えると、加工性が低下するおそれがあるため、上記Pの上限は0.05%に制限することができる。但し、より有利には、上記P含量の下限は0.0005%であってもよく、あるいはP含量の上限は0.013%であってもよい。
【0045】
硫黄(S):0.0001~0.05%
硫黄(S)は鋼中に不可避に含有される不純物であって、Mn等と結合して非金属介在物を形成し、それにより鋼の加工性が低下するという問題がある。したがって、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。
【0046】
理論上、上記Sはその含量を0%に制限することが有利であるが、上記Sの含量を0.0001%未満に制御するためには、過度な製造コストを必要とするため、その下限を0.0001%に設定することができる。但し、その含量が0.05%を超えると、加工性が低下するおそれがあるため、上記Sの上限は0.05%に制限することができる。但し、より有利には、上記S含量の下限は0.0003%であってもよく、あるいはS含量の上限は0.0012%であってもよい。
【0047】
窒素(N):0.0001~0.02%
窒素(N)は鋼中に不可避に含有される不純物であって、Al等と結合して窒化物を形成して鋼の加工性を阻害するという問題がある。したがって、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。
【0048】
理論上、上記Nはその含量を0%に制限することが有利であるが、上記Nの含量を0.0001%未満に制御するためには、過度な製造コストを必要とするため、その下限を0.0001%に設定することができる。但し、その含量が0.02%を超えると、加工性が低下するおそれがあるため、上記Nの上限は0.02%に制限することができる。但し、より有利には、上記N含量の下限は0.001%であってもよく、あるいはN含量の上限は0.006%であってもよい。
【0049】
本発明の熱延鋼板は、上述した合金組成以外に、選択的にニオブ(Nb)をさらに含むことができる。
【0050】
ニオブ(Nb):0.01~0.2%
ニオブ(Nb)は鋼中に炭窒化物を形成する元素であって、このように析出物の形成を誘導して鋼の強度を確保する用途に広く使用されているが、本発明では、熱間圧延時に再結晶を遅らせてオーステナイトの粒度を制御する役割を果たす。Nbの含量が0.01%未満では、粒度を制御する効果が低く、Nbの含量が0.2%を超える場合には、オーステナイトの結晶粒度が過度に微細になり、成形性が悪化するおそれがある。したがって、本発明では、Nbの含量は0.01~0.2%を含むことができる。
【0051】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容について特に言及していない。
【0052】
上述した合金組成を満たす本発明の熱延鋼板は、900MPa以上の降伏強度と、1180MPa以上の引張強度を確保するために、基地組織として低温変態組織である低温ベイナイト及びマルテンサイトの中から選択された1以上を基地組織として含む。したがって、本発明の一実施形態によれば、上記低温ベイナイト及びマルテンサイトの中から選択された1種以上は、面積分率で、75~90%含むことができる。
【0053】
本発明において、熱間圧延後に行われる3次冷却後、オーステナイトは低温ベイナイト又はマルテンサイトに変態する。低温ベイナイトとマルテンサイトは剪断変態(Displacive Phase Transformation)で生成されるため、変態中に生成される剪断変形を低減するために組織内に生成される螺旋転位と、相変態による体積膨張を収容するために生成される刃状転位により組織内に高いレベルの転位密度が存在する。したがって、組織内に固溶している炭素及び微細な炭化物により鋼の降伏強度と引張強度を向上させるのに好適である。一方、高いレベルの転位密度と固溶炭素及び微炭化物は組織内における転位の移動を妨げるため、伸び率が低下する特徴がある。
【0054】
したがって、本発明は、降伏強度及び引張強度を確保する観点から、上記低温変態組織である低温ベイナイト(LB)及びマルテンサイト(M)の中から選択された1種以上を、面積%で、75%以上含むことが好ましく、伸び率を同時に確保するために90%以下に制限することが好ましい。一方、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記低温ベイナイト及びマルテンサイトの中から選択された1種以上の分率の下限は76.9%であってもよく、あるいは上記低温ベイナイト及びマルテンサイトの中から選択された1種以上の分率の上限は86.6%であってもよい。
【0055】
本発明において、上記低温ベイナイトとマルテンサイトは共通してラス(lath)構造内の粒界及び粒内に鉄炭化物を含んでいるため、合計分率で管理しなければならない。したがって、本発明では、低温ベイナイト及びマルテンサイトの中から選択された1種以上の分率を管理する。
【0056】
一方、本発明に係る熱延鋼板は、アシキュラーフェライト(AC)及びベイニティックフェライト(BF)の中から選択された1以上を面積分率で10~25%含むことが好ましい。
【0057】
本発明の鋼は、熱間圧延後、1次冷却時にフェライト相変態を回避してBs(ベイナイト変態開始温度)以下の温度に冷却された後、後続する2次冷却中に徐冷することによりベイナイト変態が進行する。このときのベイナイト変態は高温ベイナイト変態域で発生する。したがって、ベイニティックフェライトの生成と炭素の未変態オーステナイトへの拡散現象が起こり、ベイニティックフェライトの内部には炭化物が生成されないという特徴がある。一方、剪断変態により生成されたベイニティックフェライトの内部には多量の転位が存在するが、上記2次冷却と後続の巻取り後の回復現象により転位密度が適正レベルに減少するため、鋼板の伸び率が向上する効果がある。
【0058】
上記Bs温度以下で生成されたベイニティックフェライトは、極低炭素鋼において過冷却時に生成されるアシキュラーフェライトと、その形状及び性質が類似しているため、本発明では、上記ベイニティックフェライトとアシキュラーフェライトの合計分率で管理することを明らかにする。したがって、本発明では、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1以上の分率を管理する。
【0059】
上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上が10%未満であると、伸び率の確保が困難になるという問題がある。一方、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上が25%を超えると、強度を向上させる役割を果たす低温変態組織の確保が難しくなるという問題がある。一方、本発明の一実施形態によれば、上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の分率の下限は12.4%であってもよく、あるいは上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の分率の上限は21.0%であってもよい。
【0060】
このとき、本発明の一実施形態によれば、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均サイズは2.0μm以上であってもよい。
【0061】
一方、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均サイズの下限は3.9μmであってもよく、あるいは上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均サイズの上限は6.2μmであってもよい。
【0062】
さらに、本発明の一実施形態によれば、上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均間隔は3μm以上であってもよい。本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均間隔の下限は6.2μmであってもよく、あるいは上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均間隔の上限は13.2μmであってもよい。
【0063】
このとき、上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均サイズは円相当直径を意味し、上記アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均間隔は、それぞれの微細組織について最隣接する5つの組織間距離の平均を意味する。
【0064】
3次冷却後に生成される低温ベイナイトとマルテンサイトは、オーステナイトの内部で核生成が容易な地点で相変態が先に開始する。以後、相変態が持続的に起こることによって、最後に相変態する地点は、局部的に内部の転位密度が過度に高くなり、成形工程で応力が容易に集中することで、組織内に微細なサイズの亀裂が生成され、穴拡げ性が悪化するという問題がある。一方、基地組織である低温変態組織内に軟質のアシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトが適正なサイズで均一に分布していると、成形中に変形を均一に収容することで、応力の局部集中を防止して穴拡げ性が向上する効果がある。
【0065】
したがって、軟質組織であるアシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均サイズが2.0μm未満の場合、変形受容の効果が低く、穴拡げ性の向上が期待できない。また、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均間隔が3.0μm未満の場合、軟質鋼の分率が過度に増加するため、降伏強度と引張強度が低下する可能性がある。軟質組織の平均サイズの上限と平均間隔の上限については別に規制していないが、軟質組織の全分率が10~25%の範囲を満たす条件では、上記軟質組織の平均サイズは、好ましくは20μm以下であることが好ましく、上記軟質組織の平均間隔は20μm以下であることが好ましい。
【0066】
本発明の熱延鋼板は、上述した組織以外に、その他の相として、フェライト、炭化物及び残留オーステナイト等を含むことができるが、これらは面積分率5%以下に制御されることが好ましい。ここで、上述したフェライトは粒状フェライトを意味する。
【0067】
特に、熱間圧延後、冷却中に生成されるフェライトは、通常、拡散変態により生成されるため強度が低いという特徴がある。このようなフェライトを5%以下(0%を含む)に制御することにより、フェライト生成後に残留オーステナイトがベイナイトとマルテンサイトに変態するときに生成される格子変形を収容するために、以前に形成されたフェライトが剪断変形を受けることになる。したがって、フェライト内部の転位密度が高いレベルに保持され、フェライト等のその他の相を5%以下で含んでいても、鋼の強度が大きく低下しないことを確認した。しかし、フェライトの分率が5%を超えると、鋼の強度が低下するため好ましくない。
【0068】
一方、本製品の製造工程で炭化物が生成されることができる。本発明は、第2相として低温変態組織を活用して強度の向上を図るため、炭化物の生成は第2相分率の低下を引き起こす可能性がある。すなわち、炭化物の過度な生成は、本発明において目標とする強化効果を阻害する。但し、相中にTiとNbが存在する場合、合金炭窒化物が形成でき、この場合、結晶粒微細化による更なる強化効果が期待できるが、粗大な炭化物は鋼の靭性を阻害するため、本発明の熱延鋼板内に存在する炭化物は5%未満であることが好ましい。
【0069】
また、本発明の一実施形態によれば、上記熱延鋼板は、微細組織として、上述したその他の相として残留オーステナイトのみを含むことができる。したがって、上記熱延鋼板は、微細組織として、面積%で残留オーステナイトを5%以下(0%を含む)含むことができる。本発明の2次冷却中、ベイニティックフェライトの生成時に、成長するベイニティックフェライトに孤立した島状のオーステナイトは、炭素濃化によって後続の冷却過程でベイナイトとマルテンサイト変態が起こらず、常温まで残留することができる。残留オーステナイトの分率が低い場合、物性に及ぼす影響が僅かであり得るが、その分率が5%を超える場合、穴拡げ性が劣化し、水素遅延破壊が生じるおそれがある。したがって、本発明における残留オーステナイトの分率は5%以下が好ましく、より好ましくは3%以下に管理することができる。一方、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記残留オーステナイトの分率の下限は0.9%であってもよく、あるいは上記残留オーステナイトの分率の上限は2.1%であってもよい。
【0070】
上述した合金組成と微細組織を有する本発明の熱延鋼板は、降伏強度(YS)900MPa以上(あるいは、948~1064MPa)、引張強度(TS)1180MPa以上(あるいは、1204~1343MPa)と高強度でありながら、伸び率(El)(すなわち、El平均)が7%以上(あるいは、8.4~12.6%)であり、伸び率の標準偏差が2%以下(0.3~1.1%)であり、穴拡げ率(HER)が25%以上(あるいは、27~36%)と成形性に優れるだけでなく、鋼板内の材質分布が均一であるという特徴がある。
【0071】
次に、以下では、本発明のさらに他の一側面である、成形性に優れ、鋼板内の材質が均一な超高強度鋼板の製造方法について詳細に説明する。但し、本発明の超高強度鋼板が必ずしも以下の製造方法により製造されるべきことを意味するものではない。
【0072】
本発明に係る熱延鋼板は、本発明で提案する合金組成を満たす鋼スラブを[再加熱-熱間圧延-冷却-巻取り]の一連の工程を行うことにより製造することができる。以下では、上記各工程の条件について詳細に説明する。
【0073】
[鋼スラブ再加熱]
本発明では、圧延工程を行う前に鋼スラブを再加熱して均質化処理する工程を経ることが好ましく、このとき1100~1350℃の温度範囲で行うことができる。
【0074】
上記鋼スラブの再加熱時の温度が1100℃未満であると、合金元素の均質化が不十分になるという問題があり、一方、その温度が1350℃を超えると、スラブの表面に酸化物が過度に形成され、鋼板の表面品質が低下するおそれがある。
【0075】
[熱間圧延]
上記再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができ、このとき、上記熱間圧延は750~1150℃の温度範囲で行い、最終2パス(pass)の総圧下量を10~40%に制御することが好ましい。
【0076】
上記熱間圧延時に1150℃を超える温度で開始すると、圧延後に鋼板の表面に酸化物が過度に形成され、酸洗工程を行っても効果的に制御されず、表面品質が低下する。一方、750℃より低い温度で熱間圧延が行われると、圧延負荷が過度に増加して作業性が低下し、圧延中にフェライトが生成されて異方性が劣化するという問題がある。
【0077】
通常、熱間圧延時に多段圧延で行う理由は圧延負荷を低減し、厚さを精密に制御するためである。このような多段圧延で熱間圧延を行う際に、最終2パス(後段2パス)の圧下率の総和(あるいは、総圧下率)が40%を超えると、最終2パスの圧延負荷が過度になり作業性が低下するという問題がある。一方、最終2パスの圧下率の総和が10%未満であると、鋼板の温度が急激に低下して形状不良を誘発するという問題がある。一方、本発明の一実施形態によれば、上記熱間圧延時に、最終2パス(pass)の総圧下率の下限は、より好ましくは25%であってもよく、あるいは上記熱間圧延時に、最終2パス(pass)の総圧下率の上限は、より好ましくは38%であってもよい。
【0078】
一方、熱間圧延後のオーステナイトの結晶粒度は合金成分、圧延終了温度及び圧下量の影響を受け、これは後続する冷却工程におけるフェライトとベイナイトの生成挙動及び最終微細組織に影響を及ぼす。また、本発明における主要な構成相であるアシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの分率及びサイズは、熱間圧延後のオーステナイト結晶粒によって大きな影響を受ける。
【0079】
等軸フェライトとパーライトは、相変態中の元素の拡散によって結晶粒が成長するため、相変態後の組織のサイズは相変態温度と保持時間の影響を受ける。一方、ベイナイトのような剪断変態によって生成されたアシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトは、オーステナイト結晶粒内でのみ成長が起こり、そのサイズが変態前のオーステナイトのサイズより大きくなることはできない。したがって、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトのサイズを制御するためには、熱間圧延後にオーステナイトの結晶粒度を制御することが有利である。
【0080】
したがって、本発明は、熱間圧延後、オーステナイトの有効結晶粒度を圧延終了温度(FDT)と特定の合金組成との関係として導出し、具体的には、下記関係式1で定義する。すなわち、熱間圧延時、750~1150℃の温度範囲内で下記関係式1で定義されるDuの値が2~10の範囲を満たすように仕上げ熱間圧延を行う。
【0081】
[関係式1]
Du=FDT+(7.4×[C])-(24.7×[Si])-(4.7×[Mn])-(3.9×[Cr])-(5.2×[Mo])-(560×[Ti])-(1110×[Nb])}×0.049-34.2
(上記関係式1において、FDTは圧延終了温度(℃)を意味し、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[Ti]及び[Nb]はそれぞれ括弧内の元素に対する重量%含量を示す。)
【0082】
上記Duは、熱間圧延後、1次冷却直前のオーステナイトの有効結晶粒度を示す指標であり、上記関係式1で定義されるDuの値が2以上であると、アシキュラーフェライト及び(又は)ベイニティックフェライトの平均粒径が2.0μm以上となり、穴拡げ率を25%以上に確保することができる。一方、上記関係式1で定義されるDuの値が10を超えると、変態前のオーステナイトの結晶粒度が過度に粗大となり衝撃性が低下し、ボロン元素の粒界濃度が増加して2次冷却中に相変態を遅延させるため、伸び率が低下するという問題がある。一方、本発明の一実施形態によれば、上記関係式1で定義されるDuの値の下限は、より好ましくは4.4であってもよく、あるいは上記関係式1で定義されるDuの値の上限は、より好ましくは7.8であってもよい。
【0083】
一方、本発明の一実施形態によれば、ボロンはオーステナイトの粒界に偏析してオーステナイト粒界を安定化させることにより、フェライトと上部ベイナイトの核生成を遅らせて相変態速度を低下させる役割を果たす。本発明で意図するアシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの面積分率と平均間隔を確保するためには、オーステナイトの粒界に偏析しているボロンの濃度を制御することが重要である。オーステナイト粒界に偏析したボロンの濃度は、鋳造時の微小偏析とオーステナイトの粒度の影響により粒界ごとに異なる数値を示す。このうち、ボロン元素の濃度が低いオーステナイト粒界において、選択的に2次冷却段階でアシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの核生成が発生する。一般に、オーステナイト粒度が小さい場合、各粒界に偏析したボロンの濃度は低く核生成が円滑であり、粒度が大きい場合には、粒界に偏析したボロンの濃度が高いため、核生成が遅延することを予想することができる。したがって、粒界に存在するボロンの濃度及び2次冷却時の相変態挙動は、関係式2のように鋼中に添加されたボロンの含量及びオーステナイトの粒度の影響を受ける。
【0084】
関係式2は、冷却直前のオーステナイトの粒界に分布するボロン(B)の濃度を示す指標であり、下記関係式2によるDu×Bat×2.968×1010の値(すなわち、Va[=Du×Bat×2.968×1010]の値)が5.0×10未満の場合、アシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの分率が過剰であり、降伏強度と引張強度を確保することができない。一方、下記関係式2によるDu×Bat×2.968×1010の値が2.0×10を超える場合、アシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの分率を確保するための2次冷却時間が過度に長くなり、伸び率が低下するという問題がある。一方、本発明の一実施形態によれば、上記Vaの値の下限は、より好ましくは8.60×10であってもよく、あるいは上記Vaの値の上限は、より好ましくは1.89×10であってもよい。
【0085】
[関係式2]
5.0×10≦Du×Bat×2.968×1010≦2.0×10
(上記関係式2において、Duは関係式1における定義と同じであり、上記Batは55.845×[B]/(1080.6+45.04×[B])を示し、[B]はボロン(B)の重量%含量を示す。)
【0086】
図1は、上述した関係式1及び関係式2を同時に満たすボロンの含量及びDuの関係を示すグラフであって、A-B-C-D-E-Fを連結する実線内で本発明で意図する微細組織を確保することができる。
【0087】
[冷却及び巻取り]
上記により製造された熱延鋼板を冷却し、このとき冷却される温度に応じて段階的に行うことが好ましい。
【0088】
具体的に、上記熱延鋼板をBs以下の温度まで50℃/s以上の冷却速度で1次冷却した後、(Bs+Ms)/2以上の温度まで25℃/s以下の冷却速度で関係式3で定義されたts時間(秒)の間2次冷却した後、Ms℃~500℃の温度範囲まで30℃/s以上の冷却速度で3次冷却を行うことが好ましい。
【0089】
上記により製造された熱延鋼板をベイナイトが生成され始める温度(Bs)以下に急速に冷却してフェライト(粒状フェライト)の生成を抑制する。次いで、ベイナイト開始温度(Bs)とマルテンサイト開始温度(Ms)の中間温度、又はそれ以上の温度までts時間(秒)の間徐々に冷却させることにより、面積分率で10~25%のアシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトを確保することができる。一方、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記1次冷却の冷却終了温度(T1)の下限は500℃であってもよく、あるいは上記1次冷却の冷却終了温度(T1)の上限は540℃であってもよい。
【0090】
上記熱間圧延を完了した後、Bs以下の温度で1次冷却を行う際、冷却速度が50℃/s未満であると、冷却中にフェライト相が過度に形成されるという問題がある。このとき、1次冷却速度の上限は特に限定しないが、鋼板が過度に冷却される場合、板形状が歪むおそれがあるため、200℃/s以下に制限することができる。一方、本発明の一実施形態によれば、上記1次冷却時の冷却速度の下限は、より好ましくは70℃/sであってもよく、あるいは上記1次冷却時の冷却速度の上限は、より好ましくは100℃/sであってもよい。
【0091】
上記1次冷却時の冷却終了温度の下限については特に限定しないが、過度に低くなる場合、後続の2次冷却時の冷却時間が不十分になるおそれがあるため、Bs-100℃に制限できることを明らかにする。
【0092】
上記1次冷却により熱延鋼板の温度がBs以下になると、強冷を終了し、25℃/s以下の冷却速度で(Bs+Ms)/2以上の温度で2次冷却を行うことができる。
【0093】
上記1次冷却された熱延鋼板は、1次冷却された温度から2次冷却の目標温度まで冷却する間にベイニティックフェライトの成長が起こるが、特に本発明で目標とする分率を得るために、下記関係式3を満たす時間(ts、秒(sec))の間、上記2次冷却を保持することが好ましい。
【0094】
関係式3において、k(T)はベイニティックフェライトの成長速度を示す指標であり、鋼の合金成分だけでなく相変態温度と熱間圧延後の粒度サイズに影響を受ける。これによる、関係式3の値、すなわち、k(T)と保持時間との関係(exp(-k(T)×(ts)))が0.75未満であると、アシキュラーフェライト又はベイニティックフェライトの分率が過度になり、伸び率には優れるものの、目標レベルの強度は確保できなくなる。一方、その値が0.9を超えると、伸び率が劣化するという問題がある。
【0095】
[関係式3]
0.75≦exp(-k(T)×(ts))≦0.9
(上記k(T)は、下記関係式4で定義される値を示す。)
【0096】
[関係式4]
【数1】

(上記関係式4において、Duは関係式1における定義と同じであり、Batは関係式2における定義と同じである。また、T1は1次冷却終了温度[℃]を示し、T2は2次冷却終了温度[℃]を示す。また、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]及び[Mo]は、それぞれ括弧内の元素に対する重量%含量を示す。)
【0097】
上述の条件に従って2次冷却を行う間、ベイナイト相変態に起因する変態発熱により鋼板の温度が上昇することがある。このとき、過度な発熱により転位密度が過度に減少する可能性があるため、変態発熱による鋼板の温度上昇を最小化するために、2次冷却時の冷却速度を25℃/s以下に制御することができる。上記冷却速度が25℃/sを超えると、板形状が歪むおそれがある。本発明において、上記2次冷却は空冷(air cooling)の工程も含むことを明らかにする。一方、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記2次冷却時に冷却速度の下限は5.0℃/sであってもよく、あるいは上記2次冷却時の冷却速度の上限は20.0℃/sであってもよい。
【0098】
あるいは、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記関係式3によるexp(-k(T)×(ts))の値の下限は0.79であってもよく、あるいは上記関係式3によるexp(-k(T)×(ts))の値の上限は0.88であってもよい。
【0099】
あるいは、本発明の一実施形態によれば、上記2次冷却の冷却終了温度(T2)は、上記1次冷却の冷却終了温度より低くてもよい。あるいは、好ましくは、上記2次冷却の冷却終了温度(T2)は、上記1次冷却の冷却終了温度(T1)より20℃以上低い温度であってもよい。より好ましくは、上記2次冷却の冷却終了温度(T2)は、上記1次冷却の冷却終了温度(T1)より20℃低い温度であってもよい。
【0100】
あるいは、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記2次冷却の冷却終了温度(T2)の下限は480℃であってもよく、あるいは、上記2次冷却の冷却終了温度(T2)の上限は520℃であってもよい。
【0101】
あるいは、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記2次冷却の冷却時間の下限は1.0秒であってもよく、あるいは、上記2次冷却の冷却時間の上限は4.0秒であってもよい。
【0102】
上記により2次冷却が完了した熱延鋼板をMs~500℃の温度範囲まで30℃/s以上の冷却速度で3次冷却した後、その温度で巻き取ることが好ましい。上記3次冷却する間に低温ベイナイトの変態が進行し、未変態オーステナイトの一部は巻取り後にもマルテンサイトに変態することができる。
【0103】
したがって、上記3次冷却時の冷却速度を30℃/s以上に設定することにより、冷却中における更なる高温ベイナイトの生成を避けることができる。一方、冷却速度が速すぎると、多量の冷却水によって板形状が歪むことになり、形状不良は再び温度偏差を誘発して板内の材質ばらつきが増加する。したがって、本発明において、急激な相変態が伴う3次冷却段階における冷却速度は、100℃/s以下で行うことが好ましい。一方、本発明の一実施形態によれば、上記3次冷却時の冷却速度の下限は、より好ましくは35℃/sであってもよく、あるいは上記3次冷却時の冷却速度の上限は、より好ましくは80℃/sであってもよい。
【0104】
一方、上記冷却時の終了温度、すなわち、巻取温度が500℃を超えると、低温ベイナイト及びマルテンサイト内部の転位密度が過度に低下し、炭化物が粗大になるため、降伏強度と引張強度が低下するおそれがある。一方、巻取温度がMs以下の場合、巻取り直前にマルテンサイト変態が進行して形状不良と温度偏差が発生し、鋼板内の材質ばらつきが増加する。
【0105】
本発明において、Bs及びMsは下記の式により導出することができ、各元素は重量含量を意味する。
【0106】
Bs(℃)=830-320×[C]-90×[Mn]-35×[Si]-70×[Cr]-120×[Mo]
Ms(℃)=550-330×[C]-41×[Mn]-20×[Si]-20×[Cr]-10×[Mo]+30×[Al]
【0107】
一方、本発明の一実施形態によれば、より好ましくは、上記3次冷却の冷却終了温度の下限は400℃であってもよく、あるいは上記3次冷却の冷却終了温度の上限は430℃であってもよい。
【0108】
[最終冷却]
上記により冷却及び巻取工程を完了した後、最終冷却して目標とする熱延鋼板を得ることができる。このとき、常温まで空冷を行うことで最終冷却を完了することができる。
【0109】
一方、上述したように最終冷却を完了して得られた本発明の熱延鋼板をさらに酸洗及び塗油することができる。
【0110】
また、上記酸洗及び塗油された熱延鋼板を420~740℃の温度範囲に加熱して溶融亜鉛めっき工程を行うことができる。
【0111】
上記溶融亜鉛めっき工程は亜鉛系めっき浴を用いることができ、上記亜鉛系めっき浴内の合金組成については特に限定しない。
【実施例
【0112】
以下、実施例を通じて本発明についてより具体的に説明する。但し、下記の実施例は例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0113】
(実施例)
下記表1の合金組成を有する鋼スラブを準備し、このとき、それぞれの鋼スラブの残留成分はFe及び不可避不純物である。
【0114】
準備されたそれぞれの鋼スラブを1200℃で再加熱した後、下記表2に示す条件で熱間圧延、冷却、巻取り、及び最終冷却(空冷)工程を経て厚さ2.5mmの熱延鋼板を製造した。上記熱間圧延時に最終2パスの総圧下率は25%で同様に適用し、1次冷却時の冷却速度は一律に70℃/sを適用し、3次冷却時の冷却速度は一律に35℃/sで適用した。
【0115】
それぞれの熱延鋼板について機械的特性を測定し、微細組織を観察し、その結果を下記表3及び4に示した。
【0116】
機械的特性のうち、降伏強度、引張強度及び伸び率は、JIS-5号規格試験片を圧延方向に垂直な方向に5箇所で採取した後、万能引張試験機を用いて常温で測定した。このとき、降伏強度、引張強度及び伸び率はそれぞれ0.2%オフセットの降伏強度、最大引張強度、破壊伸び率で表し、伸び率は5箇所で測定した標準偏差を共に示した。
【0117】
そして、穴拡げ性は、引張試験時と同じ試験片についてISO TS16630標準方法に基づいて測定した。
【0118】
また、各熱延鋼板の微細組織は、上記引張試験時と同じ試験片をナイタール(Nital)エッチング法でエッチングした後、走査型電子顕微鏡とイメージ分析器を用いて10,000倍率で観察し、各相(phase)の分率を計算した。アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均サイズは、円相当直径を示し、アシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトの中から選択された1種以上の平均間隔は、それぞれの微細組織に対して最も隣接した5つの組織間距離の平均を表記した。
【0119】
このとき、微細組織は上記試験片の断面、すなわち、圧延方向に垂直な断面について観察した。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】

FDT*:仕上げ圧延温度[℃]
Du*={FDT+(7.4×[C])-(24.7×[Si])-(4.7×[Mn])-(3.9×[Cr])-(5.2×[Mo])-(560×[Ti)])-(1110×[Nb])}×0.049-34.2
Va*=Du×Bat×2.968×1010
【0122】
【表3】

AC:アシキュラーフェライト
BF:ベイニティックフェライト
LB:低温ベイナイト
M:マルテンサイト
【0123】
【表4】

YS:降伏強度
TS:引張強度
El:伸び率
HER:穴拡げ率
【0124】
上記表1~3に示すように、本発明で提案する合金組成及び製造条件を全て満たす発明例1~12は、本発明で提案する微細組織を満たすように構成されることで、目標とする強度と成形性を確保することができた。
【0125】
一方、ボロンが添加されず、本発明で提案する合金成分系を満たさなかった比較例1は、2次冷却中にアシキュラーフェライト及びベイニティックフェライトが過度に生成され、目標強度の確保が不可能となり、このような低い強度により相対的に伸び率が高い傾向を示した。
【0126】
一方、比較例2~8は、合金組成は本発明を満たすものの、製造条件が本発明から外れた場合である。
【0127】
このうち、比較例2及び3は、粒界に存在するボロン濃度が適切でなく、関係式2から外れた場合である。比較例2は、粒界に存在するボロン濃度が過剰であり、2次相である軟質組織の分率が不足し、伸び率を確保することができなかった。一方、比較例3は粒界に存在するボロン濃度が不足して2次相である軟質組織の分率が過剰であり、これにより、降伏強度と引張強度を確保することができなかった。
【0128】
比較例4は、関係式1から定義されるDuの値が2~10の範囲を満たしていない場合であって、2次相である軟質組織のサイズを2μm以上に確保することができなかった。これにより、変形時の応力集中を効果的に分散できず、その結果、穴拡げ性が低下した。
【0129】
比較例5は、2次冷却時間が不足して関係式3を満たすことができず、その結果、2次相である軟質組織の分率が不足して伸び率が低下した。
【0130】
比較例6は、熱間圧延後のオーステナイト結晶粒度が過度に粗大となり、関係式1で定義されるDuの値が2~10の範囲を満たさなかった。したがって、2次相である軟質組織が均一に分布できず、平均間隔が3μm未満であり、局部的に2次相が密集し、変形時の応力集中を効果的に分散できなかったため、穴拡げ性が低下した。
【0131】
比較例7は、Mn含量が不十分であるだけでなく、3次冷却終了温度が低すぎて3次冷却中にマルテンサイトが生成され、板内の温度偏差が過剰であり、伸び率の標準偏差が2%以上と鋼板内の材質ばらつきが不良であった。
【0132】
図1は、関係式1と関係式2を同時に満たすボロンの含量及びDuの関係を示すグラフである。A-B-C-D-E-Fを連結する実線内で本発明で意図する微細組織を確保することができる。
【0133】
図2は、発明例1と比較例5の微細組織を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を示す。図2(a)に示すように、発明例1は、微細組織として、本発明で実現しようとする基地組織と2次相が適切に形成された。一方、図2(b)に示すように、比較例5は、2次相である軟質組織が十分に生成されていないことが確認できる。
図1
図2
【国際調査報告】