(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】RNAバイオマーカーの検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20241112BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20241112BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20241112BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALI20241112BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20241112BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6874 Z
C12Q1/6883 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531107
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2022082762
(87)【国際公開番号】W WO2023094365
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021000029558
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591279294
【氏名又は名称】イタルファルマコ ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】ITALFARMACO SOCIETA PER AZIONI
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャンルカ フォサーティ
(72)【発明者】
【氏名】キアラ リパモンティ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ステインクーラー
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、癌に罹患した患者の臨床的処置中に、化合物N-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミドなどのヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)の阻害剤の有効用量および/または生物学的活性を定義するために使用することができるmRNAバイオマーカーに基づく方法に関する。より詳細には、本発明は、化合物N-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミドなどのHDAC6阻害剤の臨床効果を評価する方法において、「遺伝子発現シグネチャー」として、ヒト単球における特定のバイオマーカーの遺伝子発現の変動の解析を指向する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 患者の生物学的サンプルにおいて、HDAC6阻害剤によって調節され、かつCD84、RANK/TNFRSF11a、CXCL3、CXCL2、STAB1、CD163、CD204/MSR1、CD206/MRC1、MMP9、NBEAL2、LTBP4、ANXA6、FATP1/SLC27a1、ADA、CD276、CD40またはIRF6遺伝子から選択される少なくとも1つのRNAバイオマーカーの発現レベルを決定する工程と
b) 前記発現レベルを基準サンプルの発現レベルと比較する工程と
を含む、HDAC6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性を評価する方法。
【請求項2】
HDAC6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性が、癌に罹患した患者の治療的処置中または治療的処置後に評価される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
c) 患者を治療的処置に対する応答性または非応答性として分類する工程
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
治療的処置に対する応答性または非応答性としての患者の分類が、少なくとも1つのRNAバイオマーカーの発現値が閾値発現値を超えるかまたはそれ未満であるかに基づく、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
in vitroまたはex vivo法であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
RNAバイオマーカーNBEAL2、LTBP4、ANXA6、FATP1/SCL27a1、CD40またはIRF6の発現レベルが、HDAC6阻害剤によってアップレギュレートされ、
RNAバイオマーカーCD84、RANK/TNFRSF11a、CXCL3、CXCL2、STAB1、CD163、CD204/MSR1、CD206/MRC1、ADA、CD276またはMMP9の発現レベルが、HDAC6阻害剤によってダウンレギュレートされる
請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
少なくともRNAバイオマーカーSTAB1、CD84、CD206/MRC1、MMP9、CD163、CD40およびIRF6の発現レベルが評価され、好ましくは、少なくともRNAバイオマーカーMMP9、CD40およびIRF6の発現レベルが評価される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
HDAC6阻害剤は、ツバシン、ツバスタチン、ネクスツラスタット、ACY-1215、ACY-738、ACY-1083、KA2507、T518、SW100またはN-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミド(ITF3756)から選択され、好ましくは、前記HDAC6阻害剤は、化合物N-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミドである、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
生物学的サンプルが組織サンプルまたは体液であり、好ましくは、前記組織サンプルが腫瘍生検または血球であり、好ましくは、前記体液が血液、血清または血漿である、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程a)における少なくとも1つのRNAバイオマーカーの発現レベルは、RNA配列決定、定量的RT-PCR、デジタルPCR、Affymetrixマイクロアレイ、カスタムマイクロアレイまたはナノストリングテクノロジーによって検出される、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記癌は、副腎皮質細胞癌、肛門癌、星状細胞腫、皮膚の基底細胞癌、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、原発不明癌、心臓腫瘍、子宮頸癌、胆管癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、眼内黒色腫、卵管癌、胆嚢癌、胃癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍、精巣癌、頭頸部癌、肝細胞癌、島細胞腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球増殖症、白血病、肺癌(非小細胞、小細胞、胸膜芽腫および気管気管支腫瘍)、黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫、NUT遺伝子変化を伴う正中線管がん、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性新生物、神経芽腫、卵巣癌、膵癌、パラガングリオーマ、副甲状腺癌、陰茎癌、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、原発性腹膜癌、前立腺癌、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、肉腫、皮膚の扁平上皮癌、胸腺腫および胸腺癌、甲状腺癌、腎盂尿管移行細胞癌、子宮癌、膣癌、血管腫瘍、外陰癌およびウィルムス腫瘍から選択され;好ましくは、前記癌は、黒色腫、腎細胞癌、非小細胞肺癌または大腸癌である、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
マルチウェルプレートと、請求項1に記載のRNAバイオマーカーの少なくとも1つの発現レベルを決定するための適切なプライマーおよび/またはプローブとを含む、HDAC6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性の評価に使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAバイオマーカーの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞の遺伝物質は、DNAおよびタンパク質からなるクロマチンと呼ばれる複雑かつ動的な構造で組織化されている。クロマチンの主なタンパク質成分はヒストンという塩基性タンパク質であり、ヒストンはDNAと相互作用してクロマチンの構造単位であるヌクレオソームを、核内に第1のレベルの染色体コンパクションを形成する。塩基性ヒストン残基とDNAの酸性リン酸主鎖との相互作用は、ヌクレオソームの凝縮、ならびに複製および転写を調節する分子複合体のアクセス性を決定する上で極めて重要である。この相互作用は、主として、メチル化、リン酸化、ユビキチン化、アセチル化など、コアヒストンのN末端配列の複数の翻訳後修飾によって影響を受ける。ヒストンN末端リジン残基の脱アセチル化は、アミン基のプロトン化を可能にし、このアミン基は正電荷を持つことにより、DNAに含まれる負電荷と相互作用する。このような相互作用は、よりコンパクトな状態のクロマチンをもたらし、遺伝子発現の抑制につながる。
【0003】
逆に、同残基のアセチル化は、イオン結合の形成を阻害し、コンパクトな形態に乏しい状態のクロマチンをもたらし、これはDNAの露出を高め、遺伝子転写を活性化する高分子複合体との相互作用を可能にする。
【0004】
このような物理化学的な結果に加え、翻訳後修飾された残基はまた、ブロモドメインまたはクロモドメインを含む「リーダー」タンパク質であって、メチル化またはアセチル化マーク(marks)を認識し、抑制または活性化されたクロマチン状態の安定化に関与するものによって特異的に認識される。
【0005】
ヒストンのアセチル化の程度は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)という2種類の酵素の活性バランスによって制御される。この微妙なバランスの変化は、がん、神経疾患、炎症、および自己免疫疾患を含む、さまざまなヒト疾患に共通して見出される細胞の恒常性の喪失をもたらしうる。
【0006】
ヒストン脱アセチル化酵素は、ヒストンのN末端リジン残基のアミン基の脱アセチル化を触媒するものとして分類されている。ヒストン尾部のリジンに関するこの酵素活性は、HAT酵素が「書き込み(writers)」と呼ばれるのとは対照的に、ヒストン脱アセチル化酵素を「消去(erasers)」に分類した。結果として、HAT酵素の基質であるN-アセチル-リジンを含む非ヒストンタンパク質基質についても活性が発揮されることから、これらの酵素の基質が多数存在することが見出されている。これらの基質には、転写調節因子、DNA修復酵素、その他の多くの核および細胞質タンパク質が含まれる。
【0007】
ヒトHDACファミリーは18の酵素からなり、Zn依存性HDACと、サーチュイン(クラスIII)としても知られているNAD依存性HDACの2つのグループに分けられる。亜鉛依存性HDACは、4つのクラス:1)主に核内に存るユビキタスなアイソザイムであるHDAC1、2、3および8を含むクラスI;2)核および細胞質の両方に存るアイソザイムであるHDAC4、5、7および9を含むクラスIIa;3)主に細胞質に存るHDAC6とHDAC10を含むクラスIIb;ならびに4)HDAC11のみを含むクラスIVに更に分類される。クラスIのHDACとは異なり、クラスIIaとある程度のクラスIIbは組織特異的な発現を有する。
【0008】
遺伝子発現を制御し、ヒストンおよび転写調節因子に作用することによって、これらの酵素が無数の細胞機能に関与していることは明らかである。加えて、多くのタンパク質基質に作用することにより、これらの酵素は、シグナル伝達および細胞骨格の再編成のような他の多くのプロセスに関与している。
【0009】
過去20年間にいくつかのHDAC阻害剤が開発され、ヒトのがん治療薬として5分子(ボリノスタット、ロミデプシン、ベリノスタット、パノビノスタット、チダミド)が承認されている。これらの分子はすべて、正常組織でも役割を果たしている複数のHDACサブタイプを阻害する。そのため、血小板減少、消化管毒性、疲労などの毒性によって治療可能性が制限されている。
【0010】
そのため、科学界の関心は、より優れた薬理学的能力を持つ分子の開発を目指し、個々のHDACアイソフォームに対する選択的阻害剤の合成および研究に集中している。
【0011】
特定のHDACアイソフォーム、特にHDAC6に対する選択的阻害剤は、増殖障害およびタンパク質の蓄積、免疫系障害、呼吸器疾患、神経疾患、神経変性疾患、例えば、脳卒中、ハンチントン病、ALS、アルツハイマー病に関連する病態の治療に特に有用である可能性がある。HDAC6は、Zn依存性ヒストン脱アセチル化酵素ファミリーのメンバーであり、異なる触媒活性およびおそらく異なる生物学的役割を有する2つの活性部位の存在などの、いくつかのユニークで際立った特徴を有する。HDAC6の基質は、α-チューブリン、Hsp90(熱ショックタンパク質90)、コルタクチン、β-カテニンを含む。
【0012】
HDAC6によるこれらのタンパク質のアセチル化状態の調節は、免疫応答(Wangら、Nat. Drug Disc. (2009), 8(12), 969-981(非特許文献1);Kalin JHら、J. Med. Chem. (2012), 55, 639-651(非特許文献2);de Zoeten EFら、Mol. Cell. Biol. (2011), 31(10), 2066-2078(非特許文献3))、細胞移動と細胞-細胞相互作用を含む微小管ダイナミクスの制御(Aldana-Masangkayら、J. Biomed. Biotechnol. (2011), ID 875824(非特許文献4))、および誤って折り畳まれた(misfolded)タンパク質の分解などのいくつかの重要なプロセスと相関している。HDAC6は、大多数の生体組織で構成的に発現しており、核内区画でも活性を発揮するにもかかわらず、細胞質基質(cytosolic)に広く局在している。HDAC6の活性は、がん、神経疾患、呼吸器疾患、自己免疫疾患などの病態で変化する(Li, T., Zhang, C., Hassan, S., Liu, X., Song, F., Chen, K., Zhang, W., and Yang, J. (2018);「癌におけるヒストン脱アセチル化酵素6(Histone deacetylase 6 in cancer.)」、Journal of Hematology & Oncology 11, 111(非特許文献5);Prior, R., Van Helleputte, L., Klingl, Y.E., and Van Den Bosch, L. (2018)、「末梢神経障害の潜在的治療標的としてのHDAC6(HDAC6 as a potential therapeutic target for peripheral nerve disorders.)」、Expert Opinion on Therapeutic Targets 22, 993-1007(非特許文献6))。
【0013】
がんに関連して、HDAC6は、免疫細胞および腫瘍細胞におけるPD-L1の発現を調節することによって抗腫瘍免疫応答を制御する、腫瘍微小環境の機能の重要な調節因子として認識されている。また、HDAC6は、特に様々なタイプの白血病(Fiskusら、Blood (2008), 112(7), 2896-2905(非特許文献7);Rodriguez-Gonzales、Blood (2008), 112(11), abstract 1923(非特許文献8))および多発性骨髄腫(Hideshimaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2005), 102(24), 8567-8572(非特許文献9))のような、特に血液学的腫瘍における腫瘍性タンパク質(oncoprotein)の発現の調節に関与する。HDAC6によるα-チューブリンのアセチル化の制御は、細胞運動性が重要な役割を果たす転移の開始に関与している可能性がある(Sakamotoら、J. Biomed. Biotechnol. (2011), 875824(非特許文献10))。
【0014】
さらに、用量制限毒性の難点を有する非選択的HDAC阻害剤で行われる前臨床観察および臨床観察とは明瞭に相違して、HDAC6阻害剤は、何れの明らかな毒性徴候も示さない。また、HDAC6ノックアウトマウスは、生存可能で、正常に発育し、病理学的変化の明らかな徴候を示さない。これは、他のHDACサブタイプの発現の消失時に観察される事象とは対照的である。
【0015】
結論として、HDAC6の選択的阻害剤は、非常に良好な忍容性を有すると同時に、かなりの治療的可能性を有することが期待される。
【0016】
国際特許出願公開第2018/189340号(WO2018/189340(特許文献1))は、抗腫瘍免疫応答の調節において顕著な活性が見出された、特に有効なHDAC6阻害剤であるN-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミドを開示している。HDAC6阻害剤の公知の優れた忍容性と一致して、この分子はラット、マウス、イヌにおいて良好な許容性(1000mg/kg)を示し、ヒトにおいても良好な許容性を示すことが示唆される。
【0017】
この仮説は、HDAC6阻害剤、リコリノスタットおよびKA2507で得られた臨床データによってさらに支持され、HDAC6阻害剤は患者において非常に良好な許容性が示された(Amengual JEら、Oncologist (2021) 3:184-e366(非特許文献11); Tsimberidou AMら、Clin Cancer Res (2021) 27:3584-3594(非特許文献12))
【0018】
しかしながら、薬剤にとって非常に望ましいことではあるが、毒性副作用がないことは、その臨床開発に課題をもたらす。
【0019】
伝統的に、腫瘍学の第I相臨床プロトコルでは、最大耐性用量に達するまで用量の段階的増加が計画される。通常、コホートはこの用量レベルで展開され、推奨される第II相用量は許容性、PKおよび有効性の初期徴候に関する情報から導き出される。何れの毒性副作用もない場合は、用量を決定するために他のパラメータを使用する必要がある。
【0020】
バイオマーカーは、生物学的有効用量を決定する上で非常に有用である。
【0021】
米国特許出願公開第2012/176076号明細書(US2012/176076(特許文献2))は、多発性骨髄腫を有する被験体におけるヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤(HDAC6)の治療効果を決定するためのキットであって、miRNA(配列番号1~23)、mRNA(配列番号24~25)および低分子非コードRNA(配列番号26~27)から選択されるHDAC6バイオマーカーRNAに特異的に結合する検出剤を含むキットを開示している。タンパク質をコードするmRNA配列は、ホモサピエンス低酸素誘導因子1サブユニットα(HIF1A)、転写バリアント2 mRNAに対応する配列番号24、およびホモサピエンスタンパク質チロシンホスファターゼ受容体U型(PTPRU)、転写バリアント2 mRNAに対応する配列番号25のみである。
【0022】
HDAC6阻害剤に関して、チューブリンアセチル化レベルの増加を読み出し値として用いることができる。たとえば、HDAC6阻害剤の所定量を投与された患者は、薬剤投与後の異なる時間点で採血を行い、ウェスタンブロット分析を用いてPBMC中のアセチルチューブリンを測定することができる。比較的に直接的ではあるが、この方法は定性的または半定量的であり、抗腫瘍活性とは直接関係のない薬動力学的マーカーを測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際特許出願公開第2018/189340号
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/176076号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Wang et al, Nat. Drug Disc. (2009), 8(12), 969-981
【非特許文献2】Kalin JH, et al., J. Med. Chem. (2012), 55, 639-651
【非特許文献3】de Zoeten EF, et al., Mol. Cell. Biol. (2011), 31(10), 2066-2078
【非特許文献4】Aldana-Masangkay et al., J. Biomed. Biotechnol. (2011), ID 875824
【非特許文献5】Li, T., Zhang, C., Hassan, S., Liu, X., Song, F., Chen, K., Zhang, W., and Yang, J. (2018). Histone deacetylase 6 in cancer. Journal of Hematology & Oncology 11, 111)
【非特許文献6】Prior, R., Van Helleputte, L., Klingl, Y.E., and Van Den Bosch, L. (2018). HDAC6 as a potential therapeutic target for peripheral nerve disorders. Expert Opinion on Therapeutic Targets 22, 993-1007
【非特許文献7】Fiskus et al., Blood (2008), 112(7), 2896-2905
【非特許文献8】Rodriguez-Gonzales、Blood (2008), 112(11), abstract 1923
【非特許文献9】Hideshima et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2005), 102(24), 8567-8572
【非特許文献10】Sakamoto et al., J. Biomed. Biotechnol. (2011), 875824
【非特許文献11】Amengual JE, et al., Oncologist (2021) 3:184-e366
【非特許文献12】Tsimberidou AMら、Clin Cancer Res (2021) 27:3584-3594
【非特許文献13】TrimGalore http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/trim_galore/
【非特許文献14】Kallisto (Bray et al, 2016)
【非特許文献15】Love et al, 2014
【非特許文献16】Analysis of Relative Gene Expression Data Using Real-Time Quantitative PCR and the 2-ΔΔCT Method. K J Livak et al, Methods 25, 402-408 (2001)
【非特許文献17】Shi et al., 2018
【非特許文献18】Liao et al., (2019) Cancer Cell 35:559-572
【非特許文献19】Nishiyama et al. (2018) International Immunopharmacology 55, 205-215
【非特許文献20】Larionova et al., 2020
【非特許文献21】http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc
【非特許文献22】Honda and Taniguchi, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、HDAC6阻害剤、特にN-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミドの薬理学的活性用量を評価するために使用できる、患者サンプルにおいて評価可能な生物学的マーカーに基づく定量的方法が必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】RNAseqによる遺伝子発現データを得るために行った実験手順のスキームを示す図である。
【
図3A】特定の処理によって選択的または共通にアップレギュレーションされる遺伝子の数を示すヴェン図である。ヴェンの図を用いてリストを比較するための対話型ツールであるヴェニー(Venny)のツール、Oliveros, J.C. (2007-2015)(https://bioinfogp.cnb.csic.es/tools/venny/index.html)で作成した。
【
図3B】特定の処理によって選択的または共通にアップレギュレーションされる遺伝子の数を示すヴェン図である。ヴェンの図を用いてリストを比較するための対話型ツールであるヴェニー(Venny)のツール、Oliveros, J.C. (2007-2015)(https://bioinfogp.cnb.csic.es/tools/venny/index.html)で作成した。
【
図4】精製されたヒト単球を指示通りに処理し、RNAseqデータからCD274/PD-L1の発現を分析したことを示す図である。
【
図5A】ITF3756処理によりヒト単球がCD84の発現をダウンレギュレートしたことを示す図である。
【
図6】ITF3756が、TNF-αと同程度のRANK/TNFRSF11aの強力なダウンレギュレーションを誘導することを示す図である。
【
図7A】ITF3756が、ヒト単球におけるCXCL2の発現を低下させたことを示す図である。
【
図7B】ITF3756が、ヒト単球におけるCXCL3の発現を低下させたことを示す図である。
【
図8】ITF3756が、単独およびTNF-αとの併用において、STAB1遺伝子の発現を強く低下させたことを示す図である。
【
図9】ITF3756が、単独およびTNF-αとの併用において、NBEAL2の発現を増加させたことを示す図である。
【
図10】ITF3756が、LTBP4の発現をアップレギュレートすることを示す図である。
【
図11】ヒト単球におけるFATP1/SLC27A1の発現に対するITF3756の効果、およびFATP1/SLC27A1の発現に対するITF3756およびTNF-αの相反する効果を示す図である。
【
図12】ITF3756単独が、IRF6発現の調節を誘導し、一方で、TNF-αまたはその併用は影響を及ぼさなかったことを示す図である。
【
図13】ITF3756が、単独で、またはTNF-αの存在下で明らかに相乗的に、ANXA6遺伝子の発現をアップレギュレートしたことを示す図である。
【
図14】ITF3756が、CD40遺伝子発現をアップレギュレートし、TNF-αとの併用時に、TNF-α単独で誘導されたCD40発現のアップレギュレーションをわずかに増加させることを示す図である。
【
図15】M2マクロファージマーカーCD163が、ITF3756単独およびTNF-αの存在下で下方調節されたことを示す図である。
【
図16】M2マクロファージマーカーCD204/MSR1が、ITF3756単独で下方調節され、TNF-αの存在下で強く下方調節されたことを示す図である。
【
図17】M2マクロファージマーカーCD206/MRC1が、ITF3756単独で、およびTNF-αの存在下で強く下方調節されたことを示す図である。
【
図18】M2マクロファージマーカーMMP9が、ITF3756によって下方調節されたことを示す図である。未処理の対照標準と比較して、細胞をTNF-αまたはITF3756およびTNF-αで処理した場合に調節は観察されなかったことを示す図である。
【
図19】M2マクロファージマーカーADAが、ITF3756によって下方調節されたことを示す図である。TNF-αおよびその組み合わせは、ADA遺伝子発現のアップレギュレーションを誘導することを示す図である。
【
図20A】1μMのITF3756で処理したPBMCにおけるSTAB1遺伝子の下方調節を示す図である。
【
図20B】1μMのITF3756で処理したPBMCにおけるIRF6遺伝子のアップレギュレーションを示す図である。
【
図21A】ITF3756がin vivoで持続的なチューブリンのアセチル化を誘導することを示す図であり、アセチルチューブリンとチューブリンのバンドを示すウェスタンブロットを示す図である。
【
図21B】ITF3756がin vivoで持続的なチューブリンのアセチル化を誘導することを示す図であり、バンド強度を定量し、総チューブリン含量に対して正規化されたチューブリンアセチル化の増加倍率を計算した図である。
【
図22A】腫瘍を有する動物がITF3756処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、ITF3756で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。ビヒクル群と比較したITF3756群(腫瘍体積の平均値±SEM)を示す図である。
【
図22B】腫瘍を有する動物がITF3756処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、ITF3756で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図22C】腫瘍を有する動物がITF3756処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、ITF3756で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図22D】腫瘍を有する動物がITF3756処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、ITF3756で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図22E】腫瘍を有する動物がITF3756処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、ITF3756で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図23A】腫瘍を有する動物が抗PD-1処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、抗PD-1で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。ビヒクル対照群およびアイソタイプ対照群と比較した抗PD-1群(腫瘍体積の平均値±SEM)を示す図である。
【
図23B】腫瘍を有する動物が抗PD-1処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、抗PD-1で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図23C】腫瘍を有する動物が抗PD-1処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、抗PD-1で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図23D】腫瘍を有する動物が抗PD-1処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、抗PD-1で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図23E】腫瘍を有する動物が抗PD-1処置に対して異なる反応をすることを示す図であり、抗PD-1で処置された動物は、3種の異なるグループにクラス分けされうる。例示の4群における試験中の単一動物の腫瘍体積の変動を示す図である。
【
図24A】レスポンダー(resonders)マウスによる、腫瘍微小環境におけるMMP9のダウンレギュレーションの相関関係を示す図である。全動物を考慮した場合、ノンレスポンダーとの比較において、MMP9発現の統計的に有意な減少を示す相関関係が存在しなかったことを示す。
【
図24B】レスポンダーマウスにより、腫瘍微小環境におけるMMP9のダウンレギュレーションの相関関係を示す図である。ノンレスポンダーとの比較において、ITF3756で処置したCT26を有するマウスがMMP9発現を統計的に有意に減少させたことを示す。
【
図24C】レスポンダーマウスによる、腫瘍微小環境におけるMMP9のダウンレギュレーションの相関関係を示す図である。抗PD-1で処置した動物を考慮した場合、ノンレスポンダーとの比較において、MMP9発現の統計的に有意な減少を示す相関関係が存在しなかったことを示す。
【
図25A】レスポンダーマウスによる、腫瘍微小環境におけるIRF6のアップレギュレーションの相関関係を示す図である。全動物を考慮した場合、ノンレスポンダーとの比較において、IRF6発現のアップレギュレーションが存在しなかったことを示す。
【
図25B】レスポンダーマウスによる、腫瘍微小環境におけるIRF6のアップレギュレーションの相関関係を示す図である。ノンレスポンダーとの比較において、ITF3756で処置したレスポンダーマウスは、IRF6発現の顕著なアップレギュレーションを示す。
【
図25C】レスポンダーマウスによる、腫瘍微小環境におけるIRF6のアップレギュレーションの相関関係を示す図である。抗PD-1で処置した動物を考慮した場合、ノンレスポンダーとの比較において、IRF6発現のアップレギュレーションを示す相関関係が存在しなかったことを示す。
【
図26A】レスポンダーマウスによる、腫瘍微小環境におけるCD40のアップレギュレーションの相関関係を示す図である。全動物を考慮した場合、ノンレスポンダーとの比較において、CD40発現のアップレギュレーションを示す相関関係が存在しなかったことを示す。
【
図26B】レスポンダーマウスによる、腫瘍微小環境におけるCD40のアップレギュレーションの相関関係を示す図である。ノンレスポンダーとの比較において、ITF3756で処置したレスポンダーマウスは、CD40発現の統計的に有意なアップレギュレーションを示す。
【
図26C】レスポンダーマウスによる、腫瘍微小環境におけるCD40のアップレギュレーションの相関関係を示す図である。抗PD-1で処置した動物を考慮した場合、ノンレスポンダーとの比較において、CD40発現のアップレギュレーションを示す相関関係が存在しなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(定義)
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記および他の科学用語は、本開示が属する技術分野の通常の知識を有する者によって一般的に理解される意味を有することが意図される。いくつかの場合、一般的に理解される意味を有する用語は、明確化および/または即時参照のために、本明細書において定義される。したがって、本明細書のそれらの定義を、当該技術分野において一般的に理解される意味を越えて実質的な相違を表すと解釈されるべきではない。
【0028】
用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含有する(containing)」は、オープンエンドの用語(「含むが、それらに限定されない」という意味)として理解されるべきであり、「本質的にからなる(essentially consist of)」、「本質的にからなる(essentially consisting of)」、「からなる(consist of)」または「からなる(consisting of)」のような用語のサポートとして考慮されるべきである。
【0029】
「本質的にからなる(essentially consist of)」、「本質的にからなる(essentially consisting of)」という用語は、本発明の新規特性に影響を及ぼす他の成分が含まれないことを意味するセミクロースエンドの用語として理解されるべきである(したがって、任意の賦形剤を含むことができる)。
【0030】
「からなる(consist of)」、「からなる(consisting of)」という用語は、クローズエンドの用語として理解される。
【0031】
本明細書において「遺伝子発現シグネチャー」という用語は、バイオマーカーとして使用されるいくつかのmRNAまたはRNA(すなわち転写産物)の組み合わせから誘導される発現パターンを指示する。
【0032】
本発明によれば、「RNAバイオマーカーの発現レベル」という用語は、特定の遺伝子(バイオマーカー)のRNAまたはmRNAの検出および/または定量を指し、たとえば、対照との比較におけるRNAまたはmRNAの過剰発現または過小発現の決定および/または定量、サンプル中のRNAまたはmRNAの存在または非存在の決定、RNAの配列の決定、RNAの任意の修飾の決定、またはRNAの任意の突然変異または変異の検出を指す。RNAレベルは、存在または不存在であること、対照より多いまたは少ないこと、あるいは1マイクロリットルあたりのRNAのコピーなどのRNAの量の数値を得ることで決定することができる。RNAの発現レベルは、絶対定量または相対定量によって定量することができる。絶対定量は、既知濃度の1種または複数種の標的核酸の含有、および既知標的核酸と未知核酸のハイブリダイゼーション強度を参照すること(たとえば、標準曲線の作成を通して)により、達成できる。あるいはまた、2種以上の遺伝子間で、または処理物/未処理物の間でハイブリダイゼーションシグナルを比較して相対的定量化を行い、ハイブリダイゼーション強度の変化を定量化することもできる。
【0033】
本明細書において、「バイオマーカー」(生物学的マーカーの略)という用語は、何らかの生物学的状態もしくは状態の生物学的指標(たとえば転写物、すなわちmRNA)および/または測定値を指す。
【0034】
本発明によれば、癌に罹患している患者は、治療剤との接触の結果、治療剤との接触がない場合の成長と比較して、腫瘍の大きさまたは癌の成長速度が阻害される場合、治療剤に対して「応答性(responsive)」である。癌の成長は種々の方法で測定することができる。たとえば、腫瘍の大きさ、又は腫瘍の種類に適した腫瘍マーカーの発現を測定することである。
【0035】
癌に罹患した患者は、治療剤との接触がない場合の成長と比較して、治療剤との接触の結果として、腫瘍の大きさまたは癌の成長速度が阻害されないか、または非常に低い程度に阻害される場合、治療剤に対して「非応答性(non-responsive)」である。前述のように、癌の成長は、たとえば、腫瘍の大きさ、またはその腫瘍の種類に適切な腫瘍マーカーの発現の測定など、様々な方法で測定することができる。
【0036】
治療薬に対して非応答性であるという特徴は、非常に変化しやすいものであり、異なる癌は、異なる条件下で、所与の治療薬に対して異なるレベルの「非応答性」を示す。さらに、非応答性の尺度は、患者のQOLおよび転移の程度など(これらに限定されるものではない)、腫瘍の成長サイズ以外の付加的な基準を用いて評価することができる。
【0037】
本発明によれば、「アップレギュレーション(up-regulation)」、「アップレギュレートされた(up-regulated)」、「過剰発現」、およびそれらの任意の変形の用語は互換的に使用され、健常人または正常人からの同様の生物学的サンプル中で典型的に検出されるバイオマーカーの値またはレベル(または値またはレベルの範囲)よりも大きい、生物学的サンプル中のバイオマーカーの値またはレベルを指す。また、この用語は、特定の疾患の異なる段階で検出することができるバイオマーカーの値またはレベル(または値またはレベルの範囲)よりも大きい、生物学的サンプル中のバイオマーカーの値またはレベルを指してもよい。
【0038】
本発明によれば、用語「ダウンレギュレーション(down-regulation)」、「ダウンレギュレートされた(down-regulated)」、「過少発現(under-expression)」、「過少発現された(under-expressed)」、およびそれらの変形は互換的に使用され、健康な個体または正常な個体からの同様の生物学的サンプル中で通常検出されるバイオマーカーの値またはレベル(または値またはレベルの範囲)よりも低い、生物学的サンプル中のバイオマーカーの値またはレベルを指す。また、この用語は、特定の疾患の異なる段階で検出されうるバイオマーカーの値またはレベル(または値またはレベルの範囲)よりも低い、生物学的サンプル中のバイオマーカーの値またはレベルを指してもよい。
【0039】
さらに、過剰発現または過小発現のいずれかであるバイオマーカーは、個体における正常なプロセスまたは疾患もしくは他の症状の非存在を示す兆候であるバイオマーカーの「正常」発現レベルまたは値と比較して、「識別的発現(differential expression)」または「識別的レベル(differential level)」もしくは「識別的値(differential value)」と称することもできる。したがって、バイオマーカーの「識別的発現」は、バイオマーカーの「正常」発現レベルからの変動と呼ぶこともできる。
【0040】
本発明によれば、HDAC6阻害剤の「生物学的活性」という用語は、本発明において記載される任意の遺伝子の発現の調節/変動を指す。
【0041】
本発明によれば、用語「有効用量(efficacious dose)」とは、患者における癌の治療に有効であると考えられるHDAC6阻害剤の投与量をいう。
【0042】
(発明の開示)
驚くべきことには、本発明者らは、本発明者らの選択的HDAC6阻害剤であるN-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミド(ITF3756とも呼称される)が、炎症促進性(pro-inflammatory)刺激により活性化された骨髄性細胞における異なる遺伝子の発現をアップレギュレートおよび/またはダウンレギュレートすることができ、未刺激ヒト単球およびTNF-α処理されたヒト単球の両方において、遺伝子発現に対してより広範な効果を有することを見出した。
【0043】
特に、TNF-αで刺激されたヒト単球はPD-L1遺伝子を強くアップレギュレートすること、ならびに、PD-L1の表面発現とこれらのアップレギュレーションがITF3756によって阻害されることを観察した。
【0044】
さらに、実験セクションで報告されたin vitroのデータは、ITF3756によるヒト単球の処理が、NBEAL2、FATP1/SCL27A1、LTBP4、CD40、ANXA6およびIRF6遺伝子の発現をアップレギュレートし、CD84、CD276、RANK/TNFRSF11a、CXCL2、CXCL3、CD163、CD204/MSR1、CD206/MRC1、ADA、MMP9およびSTAB1遺伝子の発現をダウンレギュレートすることを例証する。
【0045】
したがって、本発明者らによって得られた結果は、HDAC6阻害剤、より具体的にはITF3756分子によって直接調節することができ、このクラスの分子の臨床開発にとって最も重要な遺伝子発現シグネチャーとして使用することができる、遺伝子パネル(「遺伝子発現シグネチャー」とも呼ばれる)の同定に繋がる。
【0046】
さらに、このデータは、in vivoで得られた実験データからも確認されており、CT26を有する動物では、ITF3656処置群のレスポンダー(respnders)動物と相関するMMP9遺伝子の有意なダウンレギュレーションおよびIRF6およびCD40遺伝子のアップレギュレーションが観察され、これは、前述の遺伝子の発現レベルが、治療動物におけるHDAC6阻害剤の効果に厳密に関連していることを実証する。
【0047】
したがって、本発明の1つの実施形態は:
a) 生物学的サンプルにおいて、HDAC6阻害剤によって調節され、CD84、RANK/TNFRSF11a、CXCL3、CXCL2、STAB1、CD163、CD204/MSR1、CD206/MRC1、MMP9、NBEAL2、LTBP4、ANXA6、FATP1/SLC27a1、ADA、CD276、CD40またはIRF6遺伝子から選択される少なくとも1種のRNAバイオマーカーの発現レベルを決定する工程と;
b) 前記発現レベルを参照サンプルの発現レベルと比較する工程と
を含む、HDAC6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性を評価するための方法である。
【0048】
好ましい実施形態によれば、前記方法は、癌に罹患した患者の臨床治療中のHDAC6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性を評価する。
【0049】
さらなる好ましい実施形態において、前記方法は、癌に罹患した患者の臨床治療後に、HDAC6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性を評価する。これは、治療後の患者の状態を評価するのに有用であり得る。
【0050】
さらなる好ましい実施形態によれば、前記方法は、in vitroまたはex vivoの方法である。
【0051】
好ましくは、前記参照サンプルは、HDAC阻害剤で治療されていない健常被験体標本、HDAC阻害剤で治療されていない癌に罹患した被験体標本、またはHDAC阻害剤による治療の開始時(t=0)の被験体に由来する。
【0052】
好ましい実施形態によれば、前記HDAC阻害剤は、ツバシン、ツバスタチン、ネクスツラスタット(nexturastat)、ACY-1215、ACY-738、ACY-1083、KA2507、T518、SW100またはN-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミド(ITF3756)から選択され、好ましくは、前記HDAC阻害剤は、化合物N-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミドである。
【0053】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、c)臨床治療に対する応答性または非応答性として被験体を分類する工程をさらに含む。
【0054】
好ましくは、癌に罹患した患者は、少なくとも1つのRNAバイオマーカーの発現値が発現値の閾値以上であるか以下であるかに基づいて、臨床治療に対する応答性または非応答性として分類される。
【0055】
1つの例示的な実施形態において、発現値の閾値より大きいサンプルの発現値は、抗癌治療に応答する患者を示す。別の例示的な実施形態において、発現値の閾値未満のサンプルの発現値は、抗癌治療に対して非応答性の患者を示す。
【0056】
別の例示的な実施形態において、発現値の閾値より大きいサンプルの発現値は、抗癌治療処置に非応答性の患者を示す。別の例示的な実施形態において、発現値の閾値未満のサンプルの発現値は、抗癌治療に対して応答性である患者を示す。たとえば、MMP9のダウンレギュレーション、IRF6およびCD40のアップレギュレーションは、レスポンダー動物と相関することが、実施例において実証されている。
【0057】
さらなる例示的な実施形態において、発現値の閾値未満のサンプルの発現値は、患者がHDAC6阻害剤に非応答性である癌種を有すること、または非応答性癌種を発症する危険性があることを示す。別の例示的な実施形態において、発現値の閾値より大きいサンプルの発現値は、患者がHDAC6阻害剤に応答性である癌種を有すること、または応答性癌種を発症する危険性があることを示す。別の例示的な実施形態において、閾値スコアより大きいサンプル発現スコアは、患者が臨床的予後が良好な癌サブタイプを有することを示す。別の例示的な実施形態では、閾値スコアを下回るサンプル発現スコアは、臨床的予後不良の癌サブタイプを有する患者を示す。
【0058】
さらなる好ましい実施形態によれば、本発明の方法において、バイオマーカーNBEAL2、LTBP4、ANXA6、FATP1/SCL27a1.CD40またはIRF6の発現レベルは、HDAC6阻害剤によってアップレギュレートされ、RNAバイオマーカーCD84、RANK/TNFRSF11a、CXCL3、CXCL2、STAB1、CD163、CD204/MSR1、CD206/MRC1、ADA、CD276またはMMP9の発現レベルは、HDAC6阻害剤によってダウンレギュレートされる。
【0059】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法において、少なくともRNAバイオマーカーSTAB1、CD84、CD206/MRC1、MMP9、CD163、CD40およびIRF6の発現レベルを評価し、好ましくは、少なくともRNAバイオマーカーMMP9、CD40およびIRF6の発現レベルを評価する。
【0060】
さらに好ましい実施形態によれば、前述の癌は、副腎皮質細胞癌、肛門癌、星状細胞腫、皮膚の基底細胞癌、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、原発不明癌、心臓腫瘍、子宮頸癌、胆管癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、眼内黒色腫、卵管癌、胆嚢癌、胃癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍、精巣癌、頭頸部癌、肝細胞癌、島細胞腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球増殖症、白血病、肺癌(非小細胞、小細胞、胸膜芽腫および気管気管支腫瘍)、黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫、NUT遺伝子変化を伴う正中線管がん、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性新生物、神経芽腫、卵巣癌、膵癌、パラガングリオーマ、副甲状腺癌、陰茎癌、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、原発性腹膜癌、前立腺癌、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、肉腫、皮膚の扁平上皮癌、胸腺腫および胸腺癌、甲状腺癌、腎盂尿管移行細胞癌、子宮癌、膣癌、血管腫瘍、外陰がんおよびウィルムス腫瘍から選択される。
【0061】
好ましくは、前記癌は、黒色腫、腎細胞癌、非小細胞肺癌および結腸直腸癌から選択される。
【0062】
好ましくは、生物学的サンプルは組織サンプルまたは体液であり、好ましくは、前記組織サンプルは腫瘍生検材料または血球であり、好ましくは、前記体液は血液、血清または血漿である。
【0063】
より好ましくは、前記血液細胞は、単球または末梢血単核細胞(PBMC)である。
【0064】
本発明によれば、前記単球は、癌に罹患した患者から単離され得るか、または単球の細胞培養物がHDAC6阻害剤で処理されたin vitroプレートによって単離され得る。
【0065】
好ましい実施形態によれば、バイオマーカーはRNA転写物である。本明細書で使用される場合、「RNA転写物」は、メッセンジャーRNA(mRNA)、交互スプライシングされたmRNA、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、小核RNA(snRNA)、およびアンチセンスRNAを含む、コードRNAおよび非コードRNAの両方を指す。生物学的サンプル中のmRNAの測定は、生物学的サンプル中の対応するタンパク質および遺伝子のレベルの検出の代用として使用することができる。したがって、本明細書に記載のバイオマーカーまたはバイオマーカーパネルのいずれも、適切なRNAを検出することによって検出することもできる。
【0066】
好ましい実施形態によれば、ステップa)におけるバイオマーカーの発現レベルは、RNA配列決定、定量的RT-PCR(qRT-PCR)、デジタルPCR、Affymetrixマイクロアレイ、カスタムマイクロアレイまたはナノストリングテクノロジーによって検出される。
【0067】
バイオマーカー発現プロファイリングの方法は、定量的PCR、NGS、ノーザンブロット、サザンブロット、マイクロアレイ、SAGE、または特定のバイオマーカーのRNA、mRNA、またはタンパク質レベルを測定できる他の技術を含むが、それらに限定されない。
【0068】
出発物質の量の違い、抽出および増幅反応の効率の変化を補正するために、当業者に公知の方法を用いて、所与のサンプルの全体的な発現データを正規化することができる。
【0069】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法の工程a)は、以下のサブ工程:
(i) PBMCおよび/または単球を単離する工程;
(ii) RNAサンプルを抽出する工程;
(iii) CD84、RANK/TNFRSF11a、CXCL3、CXCL2、STAB1、CD163、CD204/MSR1、CD40、CD206/MCR1、MMP9、NBEAL2、LTBP4、ANXA6、FATP1/SLC27a1、ADA、CD276およびIRF6遺伝子から選択される少なくとも1種のRNAバイオマーカーを定量する工程;
(iv) 定量化されたRNAバイオマーカーのバイオインフォマティクス解析により、発現量の異なるバイオマーカーを評価する工程;および
(v) ポイント(iv)から得られた結果を、レスポンダーまたは非レスポンダー患者と相関させる工程
を実施する。
【0070】
本発明のさらなる実施形態は、HDAC6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性を評価するためのキットであって、マルチウェルプレートと、検出されるRNAバイオマーカーそれぞれの発現レベルを決定するための適切なプライマーおよび/またはプローブとを含むキットである。
【0071】
好ましくは、前記RNAバイオマーカーは、CD84、RANK/TNFRSF11a、CXCL3、CXCL2、STAB1、CD163、CD204/MSR1、CD40、CD206/MCR1、MMP9、NBEAL2、LTBP4、ANXA6、FATP1/SLC27a1、ADA、CD276およびIRF6遺伝子から選択される。
【0072】
さらに好ましい実施形態は、HDCA6阻害剤の有効用量および/または生物学的活性の評価に使用するためのキットであって、マルチウェルプレートと、CD84、RANK/TNFRSF11a、CXCL3、CXCL2、STAB1、CD163、CD204/MSR1、CD40、CD206/MCR1、MMP9、NBEAL2、LTBP4、ANXA6、FATP1/SLC27a1、ADA、CD276およびIRF6遺伝子から選択される少なくとも1種のRNAバイオマーカーの発現レベルを決定するための適切なプライマーおよび/またはプローブとを含むキットである。
【実施例】
【0073】
(材料と方法)
(単球精製とTNF-α活性化)
実験に使用したPBMCは、Ficoll-Hypaque勾配(Biochrom)上で分離された健常ドナーのバフィーコート(Buffy Coats)(すべてのサンプルは輸血に必要な伝染性疾患が陰性であると判断された)から得た。
【0074】
単球は、製造者の指示に従ってPan Monocytes Isolation Kit (Milteny)を用いて、100×106個のPBMCからネガティブセレクションにより精製した。Pan Monocyte Isolation Kitにより、ヒトPBMCから無傷の単球を単離し、典型的単球(CD14++CD16-)、非典型的単球(CD14+CD16++)および中間的単球(CD14++CD16+)の同時濃縮を達成する。T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、好塩基球などの非単球は、ビオチン複合体形成された抗体と抗ビオチンマイクロビーズ(MicroBeads)のカクテルを用いて間接的に磁性標識される。簡潔には、400μLの緩衝液(PBS 1X、0,5%BSA、および2mMのEDTA)、100μLのFcR遮断薬(FcR Blocking Reagent)、および100μLのビオチン抗体カクテル(Biotin-Antibody Cocktail)を、PBMC(5分間にわたる300×gの遠心によりPBSで予め洗浄した)に添加し、冷蔵庫(2℃~8℃)で5分間にわたって混合およびインキュベートする。インキュベーション後、300μLの緩衝液と200μLの抗ビオチンマイクロビーズを細胞に添加し、冷蔵庫で10分間さらに混合およびインキュベートする。インキュベーション後、細胞を引き続く磁気細胞分離で処理した。細胞懸濁液をカラム上に塗布し、富化された単球に相当する非標識細胞を含有する流分(フロースルー(flow-through))を集めた。精製された単球を、5分間300×gの遠心により緩衝液(Buffer)で洗浄し、PBS中で計数した。精製した単球(1,0×106/ml)を、12ウェルプレート中、最終容量1mlの完全培地(RPMI(Biochrom)、FCS10%、およびペニシリン/ストレプトマイシン1x(Sigma))中で、2時間、1μMのITF3756またはDMSO(0.005%)で前処理した。その後、細胞を、4時間、TNF-α(100ng/mL、Peprotech)で刺激したか、または刺激しなかった。ITF3756およびTNF-αを用いてインキュベートした後、細胞を集め、5分間、300×gの遠心によりPBSで洗浄し、-80℃で保存した。
【0075】
2分間かけてサンプルをベンチ上で解凍し、製造者の指示に従って、Trizol試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて全RNAを抽出した。簡潔には、Trizol試薬(5~10×106細胞あたり0.75mlのTrizol)をサンプルに加え、サンプルを室温(RT)で5分間インキュベートした。インキュベーション後、クロロホルム(0.75mLのTrizolあたり150μL)を加え、室温(RT)で3分間インキュベートした後、14分間にわたって12000×g、4℃においてサンプルを遠心した。遠心後、混合物は3相に分離し、RNAは水相に残る。各サンプル毎に水相を取り出して新しいチューブに入れ、イソプロパノール(0.75mLのTrizolあたり0.375mL)を各チューブに加えた。サンプルを冷蔵庫(2~8℃)で30分間インキュベートした。上清を除去し、75%エタノール(0.75mlのTrizolあたり0.75mL)を加えた。5分間にわたって、7500×g、4℃で遠心し、上清を廃棄した。5~10分間ベンチ上でRNAを風乾した。次いで、RNAサンプルを水(10~50μL)に再懸濁させた。
【0076】
NanoDrop 1000 spectrophotometer(Thermo Scientific)を用いて260nmの吸光度を測定することにより、RNA濃度を決定した。280nmの吸光度も測定することで、RNA汚染の程度を推定することも可能である。260nm/280nmの吸光度比は、タンパク質の混入の同定を可能にする。260nm/280nmの吸光度比が約2であれば、サンプルは十分に純粋であるとみなされた。
【0077】
Agilent RNA 6000 Picoキット(Agilent Technologies社製)を備えるAgilent 2100 Bioanalyzer装置(Agilent Technologies社製)を用いるキャピラリー電気泳動により、抽出されたRNAの完全性を評価した。このシステムは、濃度既知の高純度RNAラダーを基準として使用し、最大12サンプルの同時分析を可能にする。プロトコルは、全てのサンプルおよびRNAラダーを70℃で2分間変性させる工程と、蛍光インターカレーターを含む実行用ゲル(ラン・ゲル(run gel))を用いてチップを準備する工程を含む。RNA分子はインターカレーター分子と結合し、電気泳動によって分離された分子の蛍光を装置によって検出する。
【0078】
ゲルは、550μLのRNAゲルマトリックスをスピンフィルター(キットに付属)中にピペット分注して調製した。10分間1500×gで遠心した後、ろ過したゲルの65μLアリコートを調製した。RNA染料濃縮液を30分間RTで平衡化した後、ボルテックス処理およびスピンダウン処理を実施して、65μLのろ過したゲルのアリコートに1μLの染料を添加した。ゲル-色素混合物を混合し、10分間13000×gで遠心した。新しいRNAチップをチッププライミングステーションに配置し、割り当てられたウェルに9μLのゲル-色素混合物をピペット分注し、プランジャーによってチップ中に分布させた。11個のサンプルウェル全ておよびラダーウェルに、5μLのRNAマーカーを添加した。次に、ラダーウェル内のラダー1μLと11個のサンプルウェル内の各サンプル1μLをチップに添加した。1分間、2400rpmでチップをボルテックス処理し、5分以内にAgilent 2100 Bioanalyzer装置を実行した。
【0079】
ソフトウェアは、rRNA 28S/rRNA 18Sの比の関数として各サンプルに1から10までの値を割り当てるアルゴリズムに基づいて計算されるRNA品質指数(RQI)を評価することにより、各サンプルの純度の推定値を得ることを可能にする。この指数が7.5以上である場合、サンプルは高純度であるとみなされる。
【0080】
[RNAseq]
RNA配列データを作成するために行った実験手順のスキームを
図1に示す。
【0081】
(RNA抽出)
RNAサンプルの量と完全性/純度を測定するため、最初にRNA 6000 LabChip(登録商標) kit (Agilent#5067-1511)を用いるAgilent Technologies 2100 Bioanalyzerでチェックコントロールを行った。Bioanalyzerは、マイクロ流体チップ、ゲル充填チャンネルでの電圧誘起サイズ分離、小型化したスケールにおけるレーザー誘起蛍光(LIF)検出の組み合わせに基づくバイオ分析装置である。RNA Integrity Number (RIN)ソフトウェアアルゴリズムは、1から10までの番号付けシステム(1が最も劣化しており、10が最も完全である)に基づいて、全RNAの格付けを実施することができる。RINが7.5以下のサンプルはすべて廃棄され、その他のサンプルはライブラリー調製および配列決定のために処理された。
【0082】
(PolyA mRNAの選択)
TruSeq RNA Sample Preparationマニュアル(Illumina # 15015050)で示唆されているように、2ラウンドの精製(ポジティブセレクション)を用いて、ポリTオリゴ付着磁気ビーズを用いて、200ngの全RNAからmRNAを単離した。
【0083】
(ライブラリー調製およびcDNA合成)
精製したサンプルをTruSeq RNA-Seq v2 Library Preparation Kitを用いて処理した。簡潔には、Illumina専売の断片化緩衝液中、高温下で二価陽イオンを用いて化学的断片化を行った。ランダムなオリゴヌクレオチドとSuperScript II(Invitrogen# 18064-014)を用いて第1ストランドcDNAを合成した。引き続いて、DNAポリメラーゼIおよびRNアーゼHを用いて、第2ストランドを実施した。断片のサイズ選択を可能にするAgencourt AMPure XPビーズ精製(Beckman#A63882)の後、エキソヌクレアーゼ/ポリメラーゼ活性によりオーバーハングを鈍端に変換し、酵素を除去した。DNA断片の3’末端をアデニル化し、Illumina TruSeq PEアダプターでインデックス化されたオリゴヌクレオチドをライゲーションし、二重精製し、PCR反応でIllumina PCRプライマーカクテルを用いて選択的に富化した。PCRライブラリー産物をAMPure XPビーズで精製し、Agilent 2100 BioanalyzerにおいてAgilent DNA 1000アッセイ(Agilent#5067-1504)を用いて定性的チェックを行い、Qubit 2.0 Fluorometer with dsDNA Broad Range Assay kit (Thermo Fisher Scientific#Q32850)を用いて定量した。等モル濃度の各サンプルを得るためにインデックス化された個々のライブラリーをプールし、クラスター生成のために処理した。
【0084】
(配列決定)
cBotシステム(Illumina)およびTruSeq PE Cluster Generation kit v3(Illumina # PE-401-3001)を用いて、プールしたライブラリーをシングルエンドフローセルに充填した。TruSeqテクノロジーは、独自の可逆的終端部位ベースのメソッド5(2021年3月1日)を用いた超並列シーケンスに対応しており、これは成長中のDNA鎖に組み込まれた1塩基の検出を可能とする。実施の終点において、TruSeq SBS v3試薬(Illumina # FC-401-3001)を使用して、HiSeq2500装置(イルミナ(Illumina))で、約30Mの75bpシングルエンドリード(single-end reads)を作成した。最後に、Illumina Pipelineデータ解析に従って、デマルチプレックスFASTQファイルを作成した。
【0085】
(バイオインフォマティクス分析)
TrimGalore http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/trim_galore/(非特許文献13)を用いて、シングルエンドリードから、低品質末端およびアダプターをトリミングした。転写量はKallisto (Bray et al, 2016)(非特許文献14)を用いて推定し、DeSeq2 R package(Love et al, 2014(非特許文献15))およびFDR補正p値<0.05を用いて、識別的発現(DE)された遺伝子(differentially expressed genes(発現変動遺伝子))を同定した。
【0086】
(定量的リアルタイムPCR)
(材料および方法)
(試験品)
【0087】
【0088】
(試験品作業溶液)
試験品をDMSOに溶解し、必要な最終濃度まで適切な培地中へと希釈した。
【0089】
(実験デザイン)
また、本発明の実現可能性を拡大するために、17遺伝子のmRNA発現を調節するITF3756の可能性をPBMCにおいても試験した。遺伝子発現は、処理細胞およびビヒクル処理細胞における上記遺伝子の発現を比較することにより決定された。
【0090】
(試験品によるPBMCの処理)
1×106細胞/mlの密度において、PBMCをRPMI 1640培地(ダッチ改変、ThermoFisher)にPBMCを再懸濁させた。細胞を6ウェルプレート(Corning)に、3ml毎ウェルの量で平板培養した。4つの濃度(0.25、0.5、1および2μM)のITF3576で細胞を処理した。三重反復試験のために、各処理濃度を3つのウェルで反復した。ビヒクル(DMSO 0.05%)で処理した細胞も、同一密度および同一容量で平板培養した。4時間にわたって、37℃、5%のCO2において、プレートをインキュベートした。培養終了時に、全RNA抽出のために細胞を集めた。
【0091】
(RNA抽出とレトロ転写(retro-transcription))
試験化合物による処理後、PBMCを6ウェルプレートから抜き取り、15mlのチューブ(Falcon)に集めた。ウェルを1mLのPBS pH7.4(ThermoFisher)で1回洗浄し、洗浄液を集めた細胞懸濁液に加えた。細胞懸濁液を、10分間にわたって1500rpmで遠心した。上清を廃棄し、RNeasy Mini kit(Qiagen)の溶解バッファー350μLを細胞ペレットに加えた。溶解した細胞を上下に10回ピペッティングし、細胞デブリを分散させた。その後、DNアーゼ工程を含むRNeasy Mini kitのプロトコルと同様に、RNA抽出手順を実施した。
【0092】
Nano Drop 1000分光光度計を用いて、RNA濃度を決定した。RNAをヌクレアーゼ不含水(Ambion)を用い、16μLの体積中で、RNAを50ng/ulに希釈した。以下に示すように、RNAに対してSuperscript VILO IV試薬(Invitrogen)を添加した。
【0093】
【0094】
iCycler iQTM(Bio-Rad)上の96ウェルプレートにおいて、25℃で10分間、50℃で10分間、85℃で5分間の熱サイクルを用いて、逆転写反応を行った。次に、得られたcDNAの20μLをTEバッファー(Invitrogen)40μLにより、最終理論濃度13.3ng/μLに希釈した。
【0095】
(遺伝子発現の検出)
TaqMan 20x Gene Expression Assay試薬(Applied Biosystems)を遺伝子転写産物の検出に用い、これを第2表に示した。
【0096】
【0097】
CFX 96 Touch Real time PCR検出器システム(Bio-Rad)に接続したCFX C1000TM接触サーマルサイクラーを用いて、リアルタイムPCRを行った。96ウェルプレート(Hard Shell PCR plates Bio-Rad)中で、AmpliTaq Gold(登録商標) DNA Polymeraseを含有するUniversal Master Mix試薬(Applied社製)を用いて、qPCR反応を行った。40ngのテンプレートに相当する3μLのcDNAをPCR反応試薬に加え、以下に示すように総量を15μLとした:
【0098】
生データ収集のために、閾値サイクル(Ct)値を報告する自動エクセルレポートをエクスポートし、引き続いて発現調節の計算のために精緻化(elaborated)された。
【0099】
(データ取得)
処理サンプルおよび非処理サンプル中のmRNA濃度を比較して、mRNA発言調節のレベルを評価した。全てのデータを、対応するサンプルの3種のハウスキーピング遺伝子(基準遺伝子:UBC、B2M、HPRT1)の平均発現シグナルに対して正規化した。
【0100】
試験品の調節能力を決定するために、「2-ΔΔCT」法を用いた。
【0101】
各処理条件と各標的について、単一複製物として、2-ΔΔCTを計算した
-ΔΔCt=-(ΔCt,処理 - ΔCt,非処理)
ΔCt,処理=Ct 標的 処理 - Ct 基準 処理
ΔCt,非処理 = Ct 標的 非処理 - Ct 基準 非処理
Ct 標的 非処理は、3つの非処理複製物の平均とであることを意図する。
Ct 基準 処理は、3つのハウスキーピング遺伝子の単一複製物の平均値であることを意図する。
Ct 基準 非処理は、全ての非処理複製物に関する3つのハウスキーピング遺伝子のCt値の平均値であることが意図されている。
1より小さい2-ΔΔCT値(下方調節)を示す処理サンプルについては、非処理の対照2-ΔΔCT値(1に相当、調節なし)と処理サンプル2-ΔΔCT値との間の比として倍率調節値を、報告し、下方調節を略述するためにマイナス記号を加えた。
【0102】
2-ΔΔCT値が1より大きい場合は上方調節である。非処理の対照2-ΔΔCT値(1に相当、調節なし)と処理サンプル2-ΔΔCT値との比として、倍率調節値を報告した。
【0103】
(コンピュータシステム)
この研究でデータを取得し定量化するために使用されたコンピュータシステムには、以下のシステムを含む。
【0104】
【0105】
(統計分析)
全てのデータを平均値±標準偏差で与えた。全てのデータは、3重反復実験の平均値であった。グループ間(処理サンプル対非処理サンプル)の統計的評価は、両側検定のステューデントのt検定を用いて行った。
【0106】
グラフ中、閾値ラインは、ビヒクル処理対照(1)からの±0.7(0.7は、全サンプルに関するハウスキーピング遺伝子の倍率変化の標準偏差(SD)の3倍である)に相当する。
【0107】
**P値<0.05、*P値<0.1。
【0108】
(5.参考文献)
1. 「リアルタイム定量PCRと2-ΔΔCT法を用いた相対的遺伝子発現データの解析」、K J Livakら、Methods 25, 402-408 (2001)(非特許文献16)。
【0109】
(結果)
(RNAseq)
4時間の単球のインキュベート後、RNAseq解析は、ITF3756で処理されたサンプルにおいて、多数のpadj<0.05を有する識別的発現された遺伝子を同定したが、TNF-αによる処理、および、ITF3756+TNF-αの組み合わせでは、padj<0.05の調節は生じなかった。
【0110】
第3表は、指示された群における、各処理サンプルおよびビヒクル処理対照サンプル(don)における上方調節および下方調節された遺伝子の数を示す。
【0111】
【0112】
サンプル間距離分析および主成分分析(それぞれ、
図2Aおよび
図2B)は、治療法によって4つの異なる集団が同定できることを示した。このことは、異なる集団における遺伝子発現が明らかに異なること、および治療によるサンプルの集積性を示している。全体として、両分析とも異なる治療に対して均質な応答を示す。異なる反応が異なるドナーから予想されるので、これは驚くべきことである。
【0113】
次に、TNF-α、ITF3756、ITF3756+TNF-αによって選択的に上方調節または下方調節された遺伝子を同定した。
図3Aおよび
図3Bは、それぞれ、対照に対してアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子のヴェン図(Venn diagrams)である。
【0114】
この図は、ITF3756によって特異的にアップレギュレートされた遺伝子は537個あり、特異的にダウンレギュレートされた遺伝子は386個あることを示す。これらの遺伝子から、ITF3756に対する特異的なシグネチャーを同定することができたので、本発明者らはこれらの遺伝子に特に興味を持った。
【0115】
最初にPD-L1(CD274)の発現を解析し、TNF-αによる発現のアップレギュレーションおよびITF3756による発現の阻害を確認した。
図4は、TNF-α+ITF3756で処理した細胞において、ITF3756がPD-L1遺伝子発現の強力なダウンレギュレーション(59%)を誘導したことを示している。
【0116】
次に、上方調節または下方調節された遺伝子の中から、ITF3756の生物学的活性に影響を与えうる遺伝子を探索した。第4表に選択した遺伝子をまとめた。
【0117】
【0118】
図5Aに示すように、本発明者らの実験は、ITF3756がCD84の発現を強くダウンレギュレートすることを明確に示している。1μMのITF3756で処理したヒト単球はCD84の発現をダウンレギュレートし、このダウンレギュレーションはTNF-αのような炎症促進性刺激の存在下でさらに増強される。
図5Bおよび
図5Cは、それぞれCD84の概略構造およびCD84の免疫細胞発現を示す。
【0119】
RANK(TNFRSF11A)およびRANKL(TNFRSF11)はTNF受容体スーパーファミリーのメンバーである。RANKは、がん細胞、上皮細胞、腫瘍微小環境のマクロファージを含む、種々の種類の細胞で発現されうる。RANKLとの相互作用は、腫瘍細胞の増殖および細胞遊走、血管新生、マクロファージの動員(リクルートメント(recruitment))およびM2分化をもたらす。ITF3756は単球上でRANKの強力なダウンレギュレーション(
図6参照)を誘導し、M2/前腫瘍マクロファージ分化の阻害の可能性を示唆した。このことは、ITF3756の存在下でのin vitro分化におけるM1マクロファージの増加を示した本発明者らのデータと一致している。また、細胞をTNF-αおよびITF3756で処理すると、RANK/TNFRSF11aのダウンレギュレーションが単独処理に比べて増加することも観察される。
【0120】
ケモカインは化学誘引性サイトカインの一群であり、細静脈を介した血液から組織への細胞遊走、あるいはその逆において重要な役割を果たす。CXCL2およびCXCL3は、単球性MDSCの動員(リクルートメント(recruitment))および生成に関与する2つのケモカインであり、それらの阻害は、mo-MDSC生成の減少および宿主の免疫学的監視の改善が提案されている(Shiら、2018(非特許文献17))。
図7Aに示すように、ITF3756はCXCL2の発現を減少させ、TNFによるアップレギュレーションの誘導を回復させ、正常レベルの発現が確立される。
【0121】
CXCL3は、ヒト単球由来樹状細胞の分化および機能に影響を与え、それらを骨髄由来抑制細胞(MDSC)様の表現型に向かわせる、別種のケモカインである。さらに、MDSC自身もCXCR2受容体を発現しており、当該受容体は、CXCL3によって活性化され、KRAS変異結腸がんで記載されているような腫瘍微小環境への遊走を促進することができる(Liaoら、(2019) Cancer Cell 35:559-572(非特許文献18))。
図7Bに示すように、ITF3756はこのケモカインCXCL3の発現を減少させた。
【0122】
それら2種のケモカインに対する活性は、RANK発現に対する効果とともに、ITF3756が抑制性骨髄性細胞の表現型に関連する遺伝子の発現をダウンレギュレートすることを示唆している。
【0123】
STAB1はClever-1/Stabilin-1としても知られ、マクロファージおよび単球の免疫抑制的表現型から炎症促進的表現型への表現型変化に関連する、別種の重要な遺伝子である。STAB1はITF3756によって強くダウンレギュレートされ、TNF-αの存在下では相乗的に減少する(
図8)。
【0124】
ITF3756によってアップレギュレーションされる遺伝子のうち、顆粒の成長にリンクされるBEACHドメイン含有タンパク質であるNBEAL2(
図9)と、細胞外腔に貯蔵されている間、TGF-aを潜伏状態に維持することによってTGF-aの活性化を制御する形質転換成長因子β(TGFB1、TGFB2、TGFB3)の鍵となる制御因子であるLTBP4とを選択した。LTBP4遺伝子はTNF-α(
図10参照)によって2倍ダウンレギュレートされる。
【0125】
本発明者らの結果は、ITF3756がこのダウンレギュレーションに対抗することを示しているが、その効果は、さらなるアップレギュレーションのない、対照の正常レベルへの回復である。
【0126】
図11は、FATP1/SLC27A1の発現に対するITF3756の効果を示している。この遺伝子はマクロファージにおける炎症促進性応答に関与している(Nishiyamaら(2018)International Immunopharmacology 55, 205-215(非特許文献19))ので、マクロファージによって媒介される可能性のある炎症促進性抗腫瘍応答に関与する遺伝子となる。ITF3756は、TNF-αと比較してこの遺伝子に反対の効果を示し、それら2種の組み合わせで細胞を処理すると、遺伝子の基礎発現は維持される。
【0127】
骨髄性細胞における炎症促進作用の媒介に関与している可能性のある別種の遺伝子は、インターフェロン調節因子6(IRF6)である。IRF6は、高度に保存されたヘリックス-ターン-ヘリックスDNA結合ドメインと、保存性の高くないタンパク質結合ドメインを共有する9つの転写因子のファミリーに属する。大抵のIRFは、ウイルス感染後のインターフェロンの発現を制御している。他のIRFメンバーもITF3756によって調節されるが、IRF6に対して遺伝子発現のより強い変化を及ぼす。
【0128】
図12は、ITF3756のみがIRF6発現の調節を誘導し、TNF-αまたはその組み合わせは影響を及ぼさなかったことを示している。
【0129】
Annexin 6(AnxA6)は、ITF3756処理により強固なアップレギュレーションを示す別の遺伝子である。
図13に示すように、TNF-αの存在下では、アップレギュレーションはさらに強く、おそらく相乗的であろう。
【0130】
CD40はTNF受容体スーパーファミリーの一員であり、単球/マクロファージおよび樹状細胞を含む様々な細胞型に発現される。天然のリガンドであるCD40LによるCD40への結合は、T細胞を活性化と、抗腫瘍マクロファージの誘導をもたらす。抗腫瘍免疫応答を誘導するためのCD40-CD40L軸の活性化に対して、いくつかの方法がなされており、最近ではアゴニスト性抗CD40抗体の使用がある。生物学的効果および臨床反応はMTD未満で観察されている。さらに、有害事象は臨床現場で容易に管理可能であるように思われる。ITF3756によって得られるCD40遺伝子発現の誘導(
図14)は、in vitroおよびin vivoの両方でこの化合物によって観察される全般的な抗腫瘍免疫刺激に寄与している可能性を示唆する。
【0131】
第3表に示すように、多くの遺伝子がITF3756によって調節された。それらのいくつかは、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の特異的マーカーとして同定されている。本解析は単球について実施されているが、これらの遺伝子の調節は、ヒト腫瘍の細胞量の大部分(最大50%)を占める主要な自然免疫細胞であるTAMの発生に関係している可能性がある。TAMは非常に不均質であり、組織特異的な常在マクロファージ、および化学誘引物質勾配による循環からリクルートされた単球から発生する。癌のタイプ、病期、腫瘍内の不均質性は、TAM集団に強く影響する。TAMの大部分は、腫瘍微小環境によってプログラムされて原発性腫瘍の増殖および転移を支持する。それにもかかわらず、腫瘍微小環境はTAMに影響を及ぼし、腫瘍の増殖と転移を制限することができる(Larionovaら、2020(非特許文献20))。第5表に示すように、M2表現型を持つ腫瘍促進マクロファージは特異的なマーカーを発現し、それらマーカーの一部はITF3756で処理した単球において強固にダウンレギュレートされ、単球が腫瘍組織にリクルートされた際に抗腫瘍表現型の誘導に関連する可能性を支持する。
【0132】
【表7】
図8(stabilin-1)および
図15から
図19は、TNF-αおよびTNF-α+ITF3756の組み合わせによってもたらされたものを含む、第5表の遺伝子の調節を示す。
【0133】
(ITF3756はPBMCにおいてその遺伝子調節活性を発揮する)
末梢血単核球は、単球に比べて簡便かつ迅速な方法で単離することができる。そこで、定量的リアルタイムPCR法を用いて、この細胞集団に対するITF3756の遺伝子調節活性を試験した。
【0134】
その結果、このアプローチで得られた結果が単球およびRNAseqで得られた結果と一致することを示した。
図20は、STAB1(
図20A)とIRF6(
図20B)という2種の例示的遺伝子に関して得られた、ITF3756によってそれぞれダウンモジュレートおよびアップレギュレートされた結果を示す。
【0135】
(抗腫瘍応答に関連するバイオマーカーとしてのIRF6、MMP9、CD40が同定された、腫瘍微小環境における転写物のex vivo遺伝子発現)
【0136】
(材料と方法)
(動物飼育)
(環境順化)
動物を実験室の環境に慣らすため、動物を受領してから処置を開始するまでの間に14日間の最小順化期間を設けた。
【0137】
(飼育(ハウジング(Housing))
マウスを、格子状の鉄製カバーと、粉砕および滅菌した無塵敷料のおがくずを寝台架を有するマクロロン製ケージ(26.7×20.7×h14cm)内に収容した(4~5匹/ケージ)。飼料および給水:飲料水は自由摂取とした。研究機関を通して、毎日、各マウスに完全ペレットマウス食(4RF21、Mucedola)を与えた。
【0138】
(環境条件)
動物を、温度および湿度を一定に維持した明暗サイクル下で飼育した。動物飼育室のパラメータは以下のように評価した:温度22±2℃、相対湿度55±10%、約15~20の濾過空気換気/時間、12時間の概日周期の人工光(午前7時~午後7時)。
【0139】
(環境順化)
動物を実験室の環境に慣らすため、動物を受領してから処置を開始するまでに最低14日間の順化期間を設けた。
【0140】
(ITF3756(N-ヒドロキシ-4-((5-(チオフェン-2-イル)-1H-テトラゾール-1-イル)メチル)ベンズアミド)
ITF3756はイタルファルマコ(Italfarmaco)SpAのMedicinal Chemistry Dept.で合成された。粉末であるバッチ8のITF3756をDMSOに溶解し、-20℃で保存した。
【0141】
(薬理学的処理)
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
(研究設計)
成体のBALB/cマウスに1×106のCT26腫瘍細胞(リン酸緩衝生理食塩水で100μLに希釈)を皮下(s.c.)注射し、腫瘍容積が75~100mm3に達した時点で抗PD1またはITF3756で処置し、RNAseqによって腫瘍微小環境における遺伝子の調節を調べた。ITF3756はPD-1/PD-L1軸に作用するので、このアプローチは、両処置に特異的且つ共通の遺伝子を同定することを可能にする。全体的なスケジュールを表9に示す。
【0146】
【0147】
(イムノブロット分析)
マウスの脾臓を、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤(Roche、Germany)を添加したトリトン緩衝液(50mMのTris-HCl、pH7.5、250mMのNaCl、50mMのNaF、1mMのEDTA pH8、0.1%のTriton)で溶解して、全細胞抽出液を得た。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に移し、1時間、室温(RT)においてPBS-T(リン酸緩衝生理食塩水および5%脱脂乾燥乳を含有する0.1%のTween-20)でブロッキングした。2時間にわたって、室温における一次抗体とのインキュベーションを行い、続いて適切な西洋ワサビペルオキシダーゼと複合体形成した二次抗体とインキュベートした。検出にはECL Western Blot Reagent(Amerscham)を用いた。使用した抗体は、マウス抗アセチル化チューブリン(Sigma、T6793)、マウス抗チューブリン(Sigma、T6074)、ヤギ抗マウスIgG(H+L)-HRP複合体(Bio-Rad、1706516)であった。
【0148】
ImageJソフトウェアを用いてデンシトメトリー解析を行った。
【0149】
(RNAseq)
Qiagen抽出キットを用いて瞬間凍結させた腫瘍(flash frozen tumors)からRNAを抽出し、-80℃で保存した。超高スループットシーケンシングのためにDNA断片の末端から短いリード(reads)を得るペアエンドシーケンシング(paired-end sequencing)を選択した。さらなる解析の前に、配列決定データの品質チェックを行った。全てのサンプルは75ヌクレオチド長(75nt×2)の配列を含む。
【0150】
RNA-Seq解析パイプラインにはいくつかの工程を伴う:
1. リードの品質管理、
2. 低品質リードの除去、
3. リードのスプライスドアライメント(spliced alignment)、
4. トランスクリプトーム発現定量解析。
【0151】
(リードの品質管理)
品質管理は、統計および回帰グラフおよび表に基づいて生データの配列決定の品質をチェックし、問題が発生する可能性のある領域に関する情報を提供するために使用される方法である。
【0152】
この工程を実行するために、高スループットシーケンスデータ用のツールであるFastQCツール(http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc(非特許文献21)で入手可能)を使用した。FastQCツールは、生データの配列決定に関する情報を視覚化できるhtmlのレポートを返す。品質値の計算は「phredスコア(phred score)」という履歴に基づいて行われる。
【0153】
phredスコアの品質値(q)は、塩基の誤った同定の推定確率(s)を対数スケールに変換する数学的スケールを使用する:
q=-10×log10(s)。
【0154】
0.1(10%)、0.01(1%)、0.001(0.1%)に等しい塩基の誤同定の確率は、それぞれ10、20、30のphredスコア(qまたはQ)の値を与える。
【0155】
FastQCツールは、サマリー判定(Summary judgement)(合格(緑のシンボル)、警告(オレンジのシンボル)、不合格(赤のシンボル))を提供する。phredスコアはQCレポートの「Per Base Sequence Quality」モジュールに表示される。
【0156】
(低品質リードの除去)
Phred品質スコアの低いリードを除去するために、NGSQCTool kitのツールを使用した。
【0157】
(リードのアライメント)
バイオインフォマティクスツールSTAR(バージョン2.4.0d)を用いて、ペアリード(paired reads)の標準パラメータを用い、サンプルを基準ハツカネズミ(Mus Musculus)ゲノム(mm10)[4]にマッピングした。基準トラックは、Refseqから取得したアセンブリーmm10であった。以下の表は、各サンプルのマップされたリードの割合を示す。平均マッピング比率は93%を超え、リボソーム含量は全サンプルで1%未満であった。
【0158】
(トランスクリプトーム発現の定量)
Cufflinksを用いて、各配列決定されたサンプルについて発現された転写産物の定量を行った。Cufflinksで使用される測定単位はFPKM(100万のマッピングされたリード当たりの、転写産物1000塩基当たりの断片数)であり、RNAプール中の転写産物/遺伝子の相対的な存在量の尺度を意味するものである。FPKMは識別的発現に使用されることを直接的に意図したものではないが、人間が読み取れることを目的としており、数百万のリードおよび遺伝子長などの主要な技術的交絡因子を考慮している。
【0159】
(レスポンダーおよびノンレスポンダーの同定)
第20日での腫瘍容積に基づいて、レスポンダーおよびノンレスポンダーを選択した。処理開始時(第10日)の腫瘍体積は平均約75mm3であった。この腫瘍体積の値に基づいて、以下の基準に従って動物を分類した:
- 腫瘍体積が75mm3以下の動物をレスポンダー(R)とした。
- 腫瘍体積が75mm3を超える動物をノンレスポンダー(NR)とした。
【0160】
処置に無関係にRおよびNRに関連しうる遺伝子を同定するために、すべてのRおよびNR(未処理動物を含む)を考慮に入れた。
【0161】
ITF3756によって調節される特定の遺伝子を同定するために、この群および対応するビヒクル対照グループの全ての動物を、腫瘍応答との相関の可能性を同定するために考慮した。
【0162】
抗PD-1治療によって調節される特異的遺伝子を同定するために、この群およびアイソタイプ対照グループの全ての動物を、腫瘍反応との相関の可能性を同定するために考慮した。
【0163】
RNAseqデータの総カウント数を用いて、RおよびNRの間の遺伝子発現を比較した。
【0164】
統計学的有意性は、GraphPadソフトウェア(バージョン9)を用いた独立t検定により決定し、0.05以下のp値を有意とみなした。
【0165】
(結果)
(ITF3756の標的作用:チューブリンのアセチル化の増加)
ITF3756によるHDAC6の阻害を確認するため、すべての屠殺時点(1時間、4時間、18時間、24時間)で動物の脾臓を採取した。ウェスタンブロット法を用いて、チューブリンアセチル化および全チューブリンを検出した。
【0166】
腫瘍を有する動物を、最終投与後の種々の時点で屠殺した。脾臓を採取し、全脾臓細胞懸濁液を調製した。ペレット化した細胞を溶解し、電気泳動で分離した際に全タンパク質抽出物解凍物を得た。特異的抗体を用いるウェスタンブロット法の後に、チューブリンおよびアセチル-チューブリンを検出した。
【0167】
図21は、チューブリンのアセチル化が急速に起こったことを示している。最終処理後1時間の時点において、調べた動物は強い増加を示し、それは最終処理後4時間の時点まで維持された。より長い洗浄(wash-out)は、チューブリンのアセチル化を減少させるが、18時間後でも依然として高く、かつ、一貫していた。24時間の洗浄後に得られる結果は、チューブリンのアセチル化が依然として検出可能であるが、全ての動物で検出されたわけではない。なぜなら、3匹中1匹はベースレベルのアセチル-チューブリンであったためである。
【0168】
(抗PD-1処置とITF375処置)
前臨床試験および臨床試験の両方から明らかなように、抗PD-1免疫療法は特に不均質な応答を示す。この不均質性は、免疫系の刺激に対する単一被験者の応答に依存している。ITF3756の免疫依存性抗腫瘍活性と一致して、本発明者は抗PD-1で処置された動物と同様の不均質な応答を見出した。
【0169】
両方の処置において、腫瘍の縮小が異なる3つの動物群を同定することができた(
図22および
図23):
- 処置に応答しなかった動物(
図22のITF3756 1;
図23の抗PD-1 a);
- 第10日と比較して、腫瘍が強くまたは完全に縮小した動物(
図22のITF3756 2;
図23の抗PD-1 b);
- 腫瘍量(tumor mass)が安定しているか、処置開始時の腫瘍量(75mm
3)をわずかに上回っている動物(
図22のITF3756 3、
図23の抗PD-1 c)。
【0170】
相関分析では、この群のうち、腫瘍量が75mm3以下の動物のみを考慮した。
【0171】
(MMP9のダウンレギュレーション、ならびに、IRF6およびCD40のアップレギュレーションはレスポンダーに相関する)
第3表に示すように、M2表現型を持つ腫瘍促進性マクロファージは特異的なマーカーを発現し、そのいくつかはITF3756で処理した単球で強固にダウンレギュレートされている。MMP9はこれらの遺伝子の1つであり、したがってマクロファージの腫瘍促進性表現型と関連している。
【0172】
本発明者らは、CT26を有する動物の腫瘍微小環境におけるMMP9のダウンレギュレーションが、ITF3756群のレスポンダー動物と有意に関連していることを発見した(
図24)。この関連は、全ての動物を考慮した場合、あるいは抗PD-1グループと相対的対照を考慮した場合には生じなかった。
【0173】
腫瘍微小環境における炎症の活性化および制御は、抗腫瘍免疫応答の適切な刺激のために極めて重要である。本発明者らは、TMEが非炎症性かつ免疫抵抗性状態から炎症性かつ免疫寛容性状態へとリモデリングする過程に関与する2種の遺伝子を同定した。1つの遺伝子はインターフェロン調節因子6(IRF6)である。IRF6は、高度に保存されたヘリックス-ターン-ヘリックスDNA結合ドメインと、保存性の高くないタンパク質結合ドメインを共有する9つの転写因子のファミリーに属する。大抵のIRFは、ウイルス感染後のインターフェロンの発現を調節している。IRF6は頭蓋顔面発生との関連でよく知られているが、IRF1とともにMyD88シグナル伝達に関与している可能性がある(Honda and Taniguchi, 2006(非特許文献21))。
図25に示すように、ITF3756はヒト単球のIRF6の発現をアップレギュレートし、本発明者はそのアップレギュレーションがITF3756を投与したレスポンダー動物に関連することを発見した(p<0.1)。
【0174】
驚くべきことに、RNAseqデータからのIRF6に対するカウント数が最も高かった動物において、ITF3756投与後に腫瘍が完全に縮小した。
【0175】
CD40の役割は以前にも簡単に述べた。ITF3756で処理したヒト単球はCD40の遺伝子発現の増加を示し、これはT細胞の共刺激および抗腫瘍マクロファージの誘導に直接関係している。この観察と一致して、本発明者はレスポンダーマウスが有意に高いCD40の遺伝子発現を有することを見出した(
図26B)。CD40についても、全ての動物および抗PD-1抗体で治療した動物を考慮すると、レスポンダーマウスとの相関は認められなかった(
図26A、
図26C)。
【国際調査報告】