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2024-543176一剤型エポキシ接着剤組成物及びその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】一剤型エポキシ接着剤組成物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20241112BHJP
   C08G 59/66 20060101ALI20241112BHJP
   C09J 181/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C09J163/00
C08G59/66
C09J181/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531572
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 IB2022061622
(87)【国際公開番号】W WO2023100119
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】202111471804.6
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】トン,リンジエ
(72)【発明者】
【氏名】サン,ジアシン
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AB01
4J036AB02
4J036AB07
4J036DC41
4J036DD02
4J036JA06
4J040EC041
4J040EJ012
4J040HC23
4J040HD03
4J040HD32
4J040JA12
4J040KA14
4J040KA20
4J040LA05
4J040LA06
4J040MA02
(57)【要約】
本発明は、一剤型エポキシ接着剤組成物及びその調製方法を提供する。一剤型エポキシ接着剤組成物は、その総重量を100重量%として、42~67重量%の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂と、32~57重量%のポリメルカプタンと、0.1~12重量%の開始剤と、を含む。本発明の技術的解決策による一剤型エポキシ接着剤組成物は、硬化後の高い光透過率、構築に利用可能な長い時間、良好な接着性、及び特に良好な耐候性(耐黄変性)を有し、電子工業用組立、特に電子ディスプレイデバイスの組立及び封止に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一剤型エポキシ接着剤組成物であって、その総重量を100重量パーセントとして、
42~67重量パーセントの、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂と、
32~57重量パーセントのポリメルカプタンと、
0.1~12重量パーセントの開始剤と、
を含む、一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項2】
前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂が、シクロヘキサン構造を有し且つベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂である、請求項1に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項3】
前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂が、シクロヘキサン構造を有し且つベンゼン環構造を有しないジグリシジルエーテルエポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項4】
前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂が、2個又は3個のエポキシ官能基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項5】
前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂が、200~500グラム/モルの範囲の数平均分子量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項6】
前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂が、200~500グラム/モルの範囲の分子量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項7】
前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂が、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、及び/又はトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルのうちの1つ以上から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項8】
前記一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量%として、45~65重量パーセントの前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項9】
前記一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量として、50~65重量パーセントの前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項10】
前記ポリメルカプタンが、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ-3-メルカプトプロピオネート、及び/又はトリ[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレートのうちの1つ以上から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項11】
前記開始剤が、潜在性アミン開始剤及び/又はイミダゾール開始剤のうちの1つ以上から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項12】
前記一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量パーセントとして、2.8重量パーセント以下の量で系安定剤を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項13】
前記系安定剤が、ジネオペンチルグリコールメタボレート及び/又は1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸のうちの1つ以上から選択される、請求項12に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項14】
前記一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量パーセントとして、0.6重量パーセント以下の量でシランカップリング剤を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の一剤型エポキシ接着剤組成物の調製方法であって、前記ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂、前記ポリメルカプタン、及び前記開始剤を均一に混合することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子工業において使用されるエポキシ接着剤の技術分野に関し、より具体的には、一剤型エポキシ接着剤組成物及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂接着剤は、良好な化学的安定性、耐食性、及び接着性を有するので、電子パッケージングの分野において広く使用されている。しかしながら、通常のエポキシ樹脂の耐老化性は不十分であり、使用プロセス、特に紫外線の処理において黄変が生じる。これは、耐老化性が要求される用途には適していない。また、市販されている一般的な耐酸化性エポキシ樹脂では、耐黄変性のためにフィラーを添加しているため、耐酸化性を有しているにも関わらず透明性が失われてしまい、耐酸化性と透明性の両方が要求される用途には対応できない。特に、LED分野、特にLEDパッケージング分野は、LED光源からの効果的なエクスポートを必要とし、これは、LEDデバイスの組み立て及び封止に使用されるエポキシ樹脂接着剤が、構築に利用可能な十分な時間及び高い接着性を提供しながら、良好な光透過率及び耐黄変性を有することを必要とする。
【発明の概要】
【0003】
したがって、硬化後の高い光透過率、構築に利用可能な十分な時間、接着性、及び耐候性を有する、当該分野における電子デバイス用エポキシ接着剤の開発が望まれている。
【0004】
上記の技術的問題から出発して、本発明は、一剤型エポキシ接着剤組成物及びその調製方法を提供することを目的とする。一剤型エポキシ接着剤組成物は、硬化後の高い光透過率、構築に利用可能な長い時間、良好な接着性、及び特に良好な耐候性(耐黄変性)を有し、電子工業用組立、特に電子ディスプレイデバイスの組立及び封止に適している。
【0005】
本発明者らは、本発明を得るために、集中的かつ詳細な研究を実施した。
【0006】
本発明の一態様によれば、一剤型エポキシ接着剤組成物であって、その総重量を100重量パーセント(重量%)として、
42~67重量%の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂と、
32~57重量%のポリメルカプタンと、
0.1~12重量%の開始剤と、を含む、一剤型エポキシ接着剤組成物が提供される。
【0007】
本発明の別の態様によれば、一剤型エポキシ接着剤組成物を調製する方法であって、上述された一剤型エポキシ接着剤組成物の各成分を均一に混合することを含む、方法が提供される。
【0008】
既存技術と比較して、本発明は以下の利点を有する:本発明の技術的解決法による一剤型エポキシ接着剤組成物は、硬化後の高い光透過率(光透過率≧95%)、構築のために利用可能な長い時間(24時間超)、良好な接着性(剪断強度≧5MPa)、及び特に良好な耐候性(エポキシ接着剤が黄変せず、波長405nmのUV LEDを照度5 W/cmで200時間照射した後に、光透過率が≧90%である)、並びに電子工業の組立に、特に電子ディスプレイデバイスの組立及び封止に適している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
様々な他の実施形態が、本開示の範囲又は趣旨から逸脱することなく、本明細書の教示に照らして当業者によって考案及び修正され得ることを理解されたい。したがって、以下の特定の実施形態は、意味を限定するものではない。
【0010】
別段の指示がない限り、特徴の寸法、量、及び物理化学的特性に関して本明細書及び特許請求の範囲で使用される全ての数字は、全ての場合において「およそ」という用語によって修飾されると解釈されたい。したがって、そうでないとの指示がない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に列挙される上記の数値パラメータは全て近似値であり、これは、本明細書に開示される教示から得ようとする所望の特性を使用して当業者によって適切に変更され得る。端点によって表される数値範囲の使用は、その範囲内の全ての数、及びその範囲内の任意の範囲を含み、例えば、1~5は、1、1.1、1.3、1.5、2、2.75、3、3.80、4及び5などを含む。
【0011】
本発明者らによる徹底的な研究を通して、予想外にも、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂、ポリメルカプタン及び開始剤を特定の含有量で組み合わせることにより、硬化後の高い光透過率、構築のために利用可能な長い時間、良好な接着性、及び特に良好な耐候性(耐黄変性)を有する、一剤型エポキシ接着剤組成物(本明細書ではエポキシ接着剤とも呼ばれる)を提供することができることが見出された。
【0012】
具体的には、本発明の一態様によれば、一剤型エポキシ接着剤組成物であって、その総重量を100重量%として、
42~67重量%の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂と、
32~57重量%のポリメルカプタンと、
0.1~12重量%の開始剤と、を含む、一剤型エポキシ接着剤組成物が提供される。
【0013】
本発明の技術的解決策によれば、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂が、一剤型エポキシ接着剤組成物のための基本材料として使用される。本明細書で使用する場合、「ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂」は、分子内に2個以上のエポキシ基を含み且つベンゼン環構造を含まない有機化合物を指し、これは、高分子量化合物であってもよい。本発明者らは、エポキシ樹脂中にベンゼン環構造が存在すると、得られるエポキシ接着剤の耐老化性、特に耐紫外線老化性が大きく低下することを見出した。好ましくは、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂は、シクロヘキサン構造を有し且つベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂である。シクロヘキサン構造とベンゼン環構造とを有していないエポキシ樹脂と比較して、エポキシ樹脂中のシクロヘキサン構造が存在すると、得られるエポキシ接着剤の接着性を大幅に改善することができる。好ましくは、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂は、シクロヘキサン構造を有し且つベンゼン環構造を有しないジグリシジルエーテルエポキシ樹脂である。好ましくは、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂は、2個又は3個のエポキシ官能基を有する。好ましくは、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂である。好ましくは、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂は、200~500グラム/モルの範囲の数平均分子量を有する。非ポリマー材料の場合、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂は、200~500グラム/モルの範囲の分子量を有することができる。好ましくは、本明細書で使用され得る、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂は、以下のような構造式を有する、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、及び/又はトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルのうちの1つ以上から選択される。
【化1】
【0014】
本明細書で使用することができる、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂の市販の例としては、Mitsubishi Chemical Corporation製のYX8000D(水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル)、Hansen Chemical Corporation製のHeloxy 107(1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル)、CVC Thermosetting Special Materials製のGE-30(トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル)が挙げられる。
【0015】
一剤型エポキシ接着剤組成物中の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂の含有量は、得られるエポキシ接着剤の性能に重大な影響を及ぼす。一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量%として、一剤型エポキシ接着剤組成物は、42~67重量%の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂を含む。ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂の含有量が42重量%未満である場合、得られるエポキシ接着剤の硬化後の接着性は不十分であり、これは電子工業の組立のためのエポキシ接着剤製品の要件を満たさない。ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂の含有量が67重量%を超える場合、得られるエポキシ接着剤の硬化後の接着性は不十分であり、これは電子工業の組立のためのエポキシ接着剤の要件を満たさない。加えて、エポキシ接着剤の耐UV性がある程度低下する。好ましくは、一剤型エポキシ接着剤組成物は、その総重量を100重量%として、45~65重量%の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂、又は50~65重量%の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂を含む。ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂の含有量を45~65重量%の範囲に制御することによって、得られるエポキシ接着剤の構築に利用可能な時間を2日以上に延ばすことができる。本明細書で使用する場合、「構築に利用可能な時間」という用語は、調製されたエポキシ接着剤が室温(23℃)に置かれ、その粘度が50%上昇するまでの時間を指す。
【0016】
本発明による一剤型エポキシ接着剤組成物は、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂と架橋するための必須成分として、ポリメルカプタンを更に含む。本明細書で使用する場合、用語「ポリメルカプタン」は、3つ以上のメルカプト基を有する有機化合物を指す。好ましくは、ポリメルカプタンは、以下の構造式を有する、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)(TMPMP)、ペンタエリスリトールテトラ-3-メルカプトプロピオネート(PETMP)、及び/又はトリ[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレート(TEMPIC)のうちの1つ以上から選択される。
【化2】
【0017】
本発明で使用することができる、ベンゼン環構造を有しないポリメルカプタンの市販の例としては、Bruno Bock Company製のTMPMP(トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート));Bruno Bock Company製造のPETMP(ペンタエリトリトールテトラ-3-メルカプトプロピオネート);及びBruno Bock Company製のTEMPIC(トリ[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレート)が挙げられる。
【0018】
一剤型エポキシ接着剤組成物中のポリメルカプタンの含有量は、得られるエポキシ接着剤の性能に重大な影響を及ぼす。一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量%として、一剤型エポキシ接着剤組成物は、32~57重量%のポリメルカプタンを含む。ポリメルカプタンの含有量が32重量%未満である場合、得られるエポキシ接着剤の硬化後の接着性は不十分であり、これは電子工業用組立のためのエポキシ接着剤製品の要件を満たさない。ポリメルカプタンの含有量が57重量%を超えると、得られるエポキシ接着剤の硬化後の接着性は不十分であり、これは電子工業の組立のためのエポキシ接着剤の要件を満たさない。加えて、エポキシ接着剤の耐UV性がある程度低下する。
【0019】
本発明による一剤型エポキシ接着剤組成物は、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂とポリメルカプタンとの間の架橋反応を開始するための、開始剤も含む。本発明で使用可能な開始剤は、具体的には、当該技術分野で通常使用される潜在性アミン開始剤及び/又はイミダゾール開始剤のうちの1つ以上から選択されてもよい。好ましくは、イミダゾール開始剤は、2-エチル-4-メチルイミダゾール及び/又は2-ヘプタデシルイミダゾールのうちの1つ以上であってもよい。一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量%として、一剤型エポキシ接着剤組成物は、0.1~12重量%の開始剤を含む。開始剤の含有量が12重量%を超えると、得られるエポキシ接着剤の硬化後の光線透過率が低下し、その耐UV性が著しく低下する。
【0020】
エポキシ接着剤の室温安定性を改善するために、本発明による一剤型エポキシ接着剤組成物は、任意選択で、系安定剤を更に含んでもよい。好ましくは、系安定剤は、ジネオペンチルグリコールメタボレート(dineopentyl glycol metaborate)及び/又は1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸のうちの1つ以上から選択される。好ましくは、一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量%として、一剤型エポキシ接着剤組成物は、2.8重量%以下の系安定剤を含む。
【0021】
加えて、エポキシ接着剤が電子部品の接合界面に適用されるときの接着強度を高めるために、本発明による一剤型エポキシ接着剤組成物は、任意選択で、シランカップリング剤を更に含む。好ましくは、一剤型エポキシ接着剤組成物の総重量を100重量%として、一剤型エポキシ接着剤組成物は、0.6重量%以下のシランカップリング剤を含む。
【0022】
加えて、当業者に知られているように、実際の用途の要件に従って、本発明の一剤型エポキシ接着剤組成物はまた、当該技術分野において周知の他の成分又は添加剤を含有してもよい。本発明の一剤型エポキシ接着剤組成物の必要な性能に影響しない限り、これらの他の成分の種類及び含有量は、特に限定されない。
【0023】
本発明による一剤型エポキシ接着剤組成物は、溶媒を含んでもよく含まなくてもよい。好ましい実施形態では、本発明の一剤型エポキシ接着剤組成物は、溶媒、特に有機溶媒を含有しない。
【0024】
本発明の別の態様によれば、一剤型エポキシ接着剤組成物を調製する方法であって、上述された一剤型エポキシ接着剤組成物の各成分を均一に混合することを含む、方法が提供される。各成分の具体的な混合方法又は混合順序に特別な制限はなく、当業者は具体的な技術的要件及びプロセス条件に従って妥当に決定することができる。
【0025】
上記方法による一剤型エポキシ接着剤組成物は、硬化後の高い光透過率(光透過率≧95%)、構築のために利用可能な長い時間(24時間超)、良好な接着性(剪断強度≧5MPa)、及び特に良好な耐候性(エポキシ接着剤が黄変せず、波長405nmのUV LEDを用いて照度5 W/cmで200時間照射した後に、光透過率が≧90%である)、並びに電子工業の組立に、特に電子ディスプレイデバイスの組立及び封止に適している。
【0026】
以下に、実施例を参照して、本発明をより詳細に記載する。これらの説明及び実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではないことを指摘しておく。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に従う。
【実施例
【0027】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明を更に詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されないことを理解されたい。
【0028】
以下の実施例及び比較例において、特に断らない限り、「部」は「重量部」を指し、「%」は重量パーセント「重量%」を指し、「g」は重量単位「グラム」を指す。本発明では、特に指示がない限り、使用される試薬は全て市販製品であり、更に精製することなく直接使用される。
【0029】
【表1】
【0030】
試験方法
以下の実施例及び比較例で調製したそれぞれの一剤型エポキシ接着剤組成物について、以下に記載する具体的な方法に従って、粘度、構築に利用可能な時間、接着性、光透過率、及び耐紫外線性を試験した。
【0031】
粘度
以下の実施例及び比較例で製造されたそれぞれの一剤型エポキシ接着剤組成物の粘度(単位:センチポイズ(cPs))は、Brookfield Company製のHBDV-II+Pro粘度計を用いて測定した。ここで、試験温度は23℃であり、4#ローターを用い、速度は100回転毎分(rpm)であった。
【0032】
調製されたエポキシ接着剤の粘度は、エポキシ接着剤製品の従来の接着剤構築の要件を満たすために10000cPs未満である必要があった。
【0033】
構築に利用可能な時間
以下の実施例及び比較例で調製されたそれぞれの一剤型エポキシ接着剤組成物をそれぞれ室温(23℃)に置き、その粘度変化を上記の粘度測定方法によって監視した。室温(23℃)で保持しエポキシ接着剤の粘度が50%上昇するまでの時間を、構築に利用可能な時間(単位:日)とした。
【0034】
調製されたエポキシ接着剤の構築に利用可能な時間は、エポキシ接着剤製品の従来の接着性に関する使用要件を満たすために、少なくとも1日(24時間)以上に達する必要がある。
【0035】
重ね剪断強度
以下の実施例及び比較例で調製したそれぞれの一剤型エポキシ接着剤組成物を、それぞれ、1.27センチメートル(cm)×2.54cmのアルミニウム合金板(Al 6063;Jiangsu Kunshan Great Wall Printing Factory)上に、コーティング厚さ100マイクロメートル(μm)でコーティングした。次いで、コーティングされたアルミニウム合金板を110℃で0.5時間(h)乾燥させて、Al 6063板上の一剤型エポキシ接着剤組成物を完全に硬化させた。次いで、動的剪断試験規格、すなわち、ASTM D 1002-72規格に従って、試料の重ね剪断強度(単位:メガパスカル(MPa))を、室温(22~24℃)で、2.54ミリメートル/分(mm/分)の引張速度で、Instron Company,US製のInstron 5969装置によって試験した。
【0036】
調製されたエポキシ接着剤の重ね剪断強度は、エポキシ接着剤製品の接着性能に関する従来の要件を満たすために、少なくとも5MPa以上に達する必要があった。
【0037】
光透過率
以下の実施例及び比較例で調製したそれぞれの一剤型エポキシ接着剤組成物を、それぞれ剥離紙上に10μmのコーティング厚さでコーティングし、110℃で0.5時間乾燥させた。完全に硬化してフィルムを形成した後、離型紙を除去し、接着フィルムを3cm×5cmの大きさに切断した。次いで、波長450~455ナノメートル(nm)の光の透過率を、日本のShimadzu製のUV-1900i紫外可視分光光度計で測定し、老化前の光透過率(%)とした。
【0038】
硬化エポキシ接着剤の老化前の光透過率は、電子ディスプレイデバイスの光透過率に関する従来の使用要件を満たすために、少なくとも95%であるべきである。
【0039】
耐老化性(耐紫外線性)
以下の実施例及び比較例で調製したそれぞれの一剤型エポキシ接着剤組成物を、それぞれ離型紙上に10μmのコーティング厚さでコーティングし、110℃で0.5時間乾燥させた。完全に硬化してフィルムを形成した後、離型紙を除去し、接着フィルムを3cm×5cmの大きさに切断した。次いで、試料に、波長405nmのUV LEDランプ(Futansi Company,Model UV SF8 IT)を用いて照度5 W/cmで200時間照射した。次いで、波長450~455nmの光の透過パーセントを、Shimadzu UV-1900i紫外可視分光光度計で測定し、老化後の光透過率(%)とした。
【0040】
上記老化処理に供された硬化エポキシ接着剤の老化後の光透過率は、電子ディスプレイデバイスの光透過率に関する従来の使用要件を満たすために、少なくとも90%である必要がある。
【0041】
実施例1(E1)
56.5gの水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルYX8000D、41.0gのトリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)TMPMP、2.0gの潜在性アミン開始剤FXR-1081、及び0.5gのジネオペンチルグリコールメタボレートL-07Nを均一に混合して、一剤型エポキシ接着剤組成物1を得た。
【0042】
一剤型エポキシ接着剤組成物1の粘度、構築に利用可能な時間、重ね剪断強度、光透過率、及び耐老化性(耐紫外線性)について、それぞれ上記に具体的に記載した試験方法に従って試験し、結果を以下の表2に示す。
【0043】
実施例2~14(E2~E14)及び比較例1~5(C1~C5)
実施例2~14(E2~E14)及び比較例1~5(C1~C5)を、各成分の具体的な種類及び含有量を以下の表2に示すように変更したのみであること以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0044】
一剤型エポキシ接着剤組成物E2~E14及び比較例一剤型エポキシ接着剤組成物C1~C5を、粘度、構築に利用可能な時間、重ね剪断強度、光透過率、及び耐老化性(耐紫外線性)について、それぞれ上記に具体的に記載した試験方法に従って試験し、結果を以下の表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
上記表2における実施例1~14(E1~E14)の結果から、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂、ポリメルカプタン及び開始剤の組み合わせを特定の含有量で使用することにより、硬化後の調製された一剤型エポキシ接着剤組成物は、硬化前の良好な光透過率(光透過率≧95%)、構築のために利用可能な長い時間(24時間超)、良好な接着性(剪断強度≧5MPa)、及び特に良好な耐候性(エポキシ接着剤が黄変せず、波長405nmのUV LEDを照度5 W/cmで200時間照射した後に、光透過率が≧90%である)を有していたこと、並びに電子工業の組立に、特に電子ディスプレイデバイスの組立及び封止に適していることが分かる。
【0047】
実施例1(E1)の結果を比較例1(C1)と比較することによって、分子中にベンゼン環構造を有しない水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルYX8000Dを、ベンゼン環構造を含むビスフェノールAジグリシジルエーテルDER331で置き換えた場合、その分子構造が非常に類似しているにもかかわらず、得られたエポキシ接着剤の耐老化性が大幅に低下し、老化試験後の硬化エポキシ接着剤の光透過率がわずか29.0%であることが分かり、これは、電子ディスプレイデバイスの組立及び封止の技術分野における透明構造用接着剤製品の性能要件を満たすには程遠い。
【0048】
実施例2(E2)の結果を比較例2(C2)と比較することによって、分子中にベンゼン環構造を有しない水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルYX8000Dを、ベンゼン環構造を含むビスフェノールAジグリシジルエーテルDER331で置き換えた場合、その分子構造が非常に類似しているにもかかわらず、得られたエポキシ接着剤の耐老化性が大幅に低下し、老化試験後の硬化エポキシ接着剤の光透過率がわずか26.0%であることが分かり、これは、電子ディスプレイデバイスの組立及び封止における透明構造用接着剤製品の性能要件を満たすには程遠い。
【0049】
比較例3(C3)の結果から、一剤型エポキシ接着剤組成物中の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂の含有量が高すぎ(例えば、68.3重量%)、ポリメルカプタンの含有量が低すぎる(例えば、31.4重量%)場合、得られるエポキシ接着剤の重ね剪断強度が低すぎる(例えば、4.2MPa)ことが分かり、これは、電子工業の組立におけるエポキシ接着剤の接着性能の基本要件を満たすことができない。
【0050】
比較例4(C4)の結果から、一剤型エポキシ接着剤組成物中の、ベンゼン環構造を有しないエポキシ樹脂の含有量が低すぎ(例えば、38.1重量%)、ポリメルカプタンの含有量が高い(例えば、61.7重量%)場合、得られるエポキシ接着剤の重ね剪断強度が低すぎる(例えば、4.3MPa)ことが分かり、これは、電子工業の組立におけるエポキシ接着剤の接着性能の基本要件を満たすことができない。
【0051】
比較例5(C5)の結果から、一剤型エポキシ接着剤組成物中の開始剤含有量が高すぎる(例えば、12.8重量%)場合、得られたエポキシ接着剤の硬化後の光透過率が低すぎ(例えば、92.0%)、老化試験後の光透過率が更に大幅に低下する(例えば、87.0%)ことが分かり、これは、電子ディスプレイデバイスの組立及び封止プロセスにおける構造用接着剤製品の光透過率要件を満たすことができない。
【0052】
本発明において具体的な実施形態が示され説明されてきたが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な代替及び/又は等価な実施形態が、示され説明された具体的な実施形態を置換するために使用され得ることを理解するであろう。本出願は、本発明において考察した具体的な実施形態のあらゆる適合例又は変形例を包含することを意図する。したがって、本発明は、特許請求の範囲及びその等価物のみに従う。
【0053】
当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を行うことができることを理解すべきである。このような変更及び変化形は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲内であることを意図するものである。
【国際調査報告】