(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】延伸率に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241112BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20241112BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20241112BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/06
C22C38/38
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531660
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 KR2022019037
(87)【国際公開番号】W WO2023096453
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0166731
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ウン-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ク、 ミン-ソ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG01
4K037FJ01
4K037FJ04
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK03
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、延伸率に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法に関し、より詳しくは、1.5GPa級の引張強度を有すると同時に、延伸率に優れて冷間スタンピングに適合に使用可能な冷延鋼板及びその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.1~1.5%、Mn:2.5~5.0%、P:0.1%以下(0%除外)、S:0.03%以下(0%除外)、Al:0.01~0.1%、N:0.01%以下(0%除外)、B:0.005%以下(0%除外)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として面積%で、残留オーステナイト:0.5~20%及びマルテンサイト:80~99.5%を含み、
下記関係式1-1を満たす、冷延鋼板。
[関係式1-1]
【数1】
(前記関係式1-1において、前記AF
Mn_sは前記マルテンサイト内のMn含量が2%超え5%未満である低Mn結晶粒の面積分率を示し、その単位は面積%である。また、前記AF
Mn_hは前記マルテンサイト内のMn含量が5%以上である高Mn結晶粒の面積分率を示し、その単位は面積%である。)
【請求項2】
下記関係式1-2を満たす、請求項1に記載の冷延鋼板。
[関係式1-2]
【数2】
(前記関係式1-2において、前記Δσ
TSは前記マルテンサイト内のMn含量が5%以上である高Mn結晶粒に対する引張強度平均値(σ
TS_Mn_h)と前記マルテンサイト内のMn含量が2%超5%未満である低Mn結晶粒に対する引張強度平均値(σ
TS_Mn_s)の差を示し、その単位はMPaである。)
【請求項3】
Cr:0.1%以下(0%含む)及びMo:0.1%以下(0%含む)の中から選択された1種以上をさらに含む、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項4】
引張強度が1500MPa以上であり、総延伸率が10%以上である、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項5】
降伏強度が1000MPa以上である、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項6】
重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.1~1.5%、Mn:2.5~5.0%、P:0.1%以下(0%除外)、S:0.03%以下(0%除外)、Al:0.01~0.1%、N:0.01%以下(0%除外)、B:0.005%以下(0%除外)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有する鋼スラブを1100~1300℃に再加熱する段階と、
再加熱されたスラブを800~1000℃で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を400~700℃で巻き取る段階と、
巻き取られた熱延鋼板を20~75%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、
前記冷延鋼板を600~700℃の範囲で加熱し、2~24時間の間維持する1次焼鈍段階と、
前記1次焼鈍後の冷延鋼板を30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する1次冷却段階と、
前記1次冷却した冷延鋼板を30℃/s以上の平均昇温速度でオーステナイト単相域以上の温度に加熱する2次焼鈍段階と、
前記2次焼鈍後の冷延鋼板を30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する2次冷却段階とを含む、冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記1次焼鈍段階は、平均昇温速度が30℃/s以上である、請求項6に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
下記関係式2を満たす、請求項6に記載の冷延鋼板の製造方法。
[関係式2]
1.0≦TH1/TH2≦1.5
(前記関係式2-1において、TH1は1次焼鈍段階における鋼板表面の最高温度を示し、TH2は2次焼鈍段階における鋼板表面の最高温度を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸率に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法に関し、より詳しくは、1.5GPa級の引張強度を有すると同時に、延伸率に優れて冷間スタンピングに適合に使用可能な冷延鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内外の自動車産業では、二酸化炭素規制が次第に増加するにつれて、燃費の向上、乗客の保護のための車体安定性及び軽量化の目的が浮上している。かかる目的を達成するために、既存の自動車部品に使用されている高強度鋼に対して1.3GPa級以上の引張強度を有する超高強度冷間スタンピング用鋼板の使用及びその開発が増加している。しかし、冷間圧延された板材は、強度が増加すると延伸率は減少するという反比例関係を有するため、成形性に劣り、一般的に冷間スタンピング用素材の適用が非常に制限的である。
【0003】
前述した問題を解決するべく、優れた強度及び延伸率を確保するために、軟らかい基地内に低温変態相を導入する複合組織鋼として、二相組織鋼(Dual Steel;DP鋼)、変態誘起塑性鋼(TransformationInduced Plasticity Steel;TRIP鋼)のような高張力鋼(Advanced High Strength Steel)が自動車車体の部材として採用されている。時代の発展と共に、燃費を向上するための軽量化において、厚さ減少に比べ強度向上を要求しつつも、それに相応する車両部材に適用するために、相対的に優れた延伸率及び成形性を有する冷延鋼板への需要が増加している。しかし、強度1GPa以上の高張力鋼の場合は、局部的な相間硬度差の発生により、延伸率及びバーリング性(hole expansion ratio、HER)が劣るという短所がある。
【0004】
かかる短所を克服するために、低温変態相であるベイナイト、特に、マルテンサイトだけで構成された超高強度鋼(Ultra-High Strength Steel;UHSS)が製造されており、これは主に曲げ性(bendability)が低くてもロールフォーミングで成形可能な部品として使用されている。
【0005】
一方、高強度鋼の部品の使用が次第に増加しているため、多様な部品の特性を満足させるためには、高延性を有する超高強度鋼及びその製造法に対する必要性が増加している。しかし、これまで1.5GPa級以上の引張強度を有しながら高延性を有するという高級の需要を満たせる水準の技術及びこれに対する製造法は開発されていない実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開公報2017-7022118号
【特許文献2】日本出願公報2016-28760号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面によると、延伸率に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法を提供しようとする。
【0008】
或いは、本発明の一側面によると、1.5GPa以上の超高強度を有しつつも、10%以上の総延伸率を有し、冷間スタンピングに適合に使用可能な冷延鋼板及びその製造方法を提供する。
【0009】
本発明の課題は、前述した内容に限定しない。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、誰もが本発明の明細書全般にわたる内容から本発明の追加的な課題を理解するのに困難がないであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、
重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.1~1.5%、Mn:2.5~5.0%、P:0.1%以下(0%除外)、S:0.03%以下(0%除外)、Al:0.01~0.1%、N:0.01%以下(0%除外)、B:0.005%以下(0%除外)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として面積%で、残留オーステナイト:0.5~20%及びマルテンサイト:80~99.5%を含み、
下記関係式1-1を満たす、冷延鋼板を提供する。
[関係式1-1]
【数1】
(上記関係式1-1において、上記AF
Mn_sは上記マルテンサイト内のMn含量が2%超え5%未満である低Mn結晶粒の面積分率を示し、その単位は面積%である。また、上記AF
Mn_hは上記マルテンサイト内のMn含量が5%以上である高Mn結晶粒の面積分率を示し、その単位は面積%である。)
【0011】
本発明のまた他の一側面は、
重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.1~1.5%、Mn:2.5~5.0%、P:0.1%以下(0%除外)、S:0.03%以下(0%除外)、Al:0.01~0.1%、N:0.01%以下(0%除外)、B:0.005%以下(0%除外)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有する鋼スラブを1100~1300℃に再加熱する段階と、
再加熱されたスラブを800~1000℃で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
上記熱延鋼板を400~700℃で巻き取る段階と、
巻き取られた熱延鋼板を20~75%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、
上記冷延鋼板を600~700℃の範囲で加熱し、2~24時間の間維持する1次焼鈍段階と、
上記1次焼鈍後の冷延鋼板を30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する1次冷却段階と、
上記1次冷却した冷延鋼板を30℃/s以上の平均昇温速度でオーステナイト単相域以上の温度に加熱する2次焼鈍段階と、
上記2次焼鈍後の冷延鋼板を30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する2次冷却段階とを含む、冷延鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によると、延伸率に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0013】
あるいは、本発明の一側面によると、1.5GPa以上の超高強度を有しつつも、10%以上の総延伸率を有し、冷間スタンピングに適合に使用可能な冷延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の一側面によると、鋼板全体のC、Mn含量を活用して均一な化学組成を有する微細組織の制御ではなく、焼鈍領域で得られるマルテンサイト主要組織と残留オーステナイトのMn含量の勾配から、主要組織は同一であるものの化学組成の不均一勾配が発生し、加工中に相対的にMn含量の低い微細組織降伏が発生し、硬質のマルテンサイト変形が進行されながら境界内に局部的な応力、変形が発生し、Mn含量の低い微細組織に延伸率が追加の強度上昇の効果をもたらして、1.5GPa級の超高強度鋼板を提供することができる。
【0015】
また、Mn分配からマルテンサイト内のC、Mnが残部オーステナイトに追加分配がなされ、既存よりさらに安定したオーステナイトを最終確保することで、焼成変形時に均一延伸区間におけるマルテンサイト変態を最小化することにより、高強度/高降伏比を有し、加工性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供することができる。
【0016】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一側面による冷延鋼板の製造工程を模式的に示した模式図である。
【
図2】表2の例8に対する2次焼鈍-2次冷却以後の最終的な微細組織を電子後方散乱回折法(EBSD)で高配率で測定した写真であり、
図2(a)は、結晶学的方位マップ(Inverse Pole Figure、IPF)を示し、
図2(b)は、発明鋼に対する相分布マップを示し、
図2(c)は、最終微細組織内の残留オーステナイトが分布した特定領域を拡大した相分布マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0019】
一方、本明細書で使用される用語は特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。例えば、本明細書で使用される単数形は、関連する定義がそれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。さらに、明細書で使用される「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在又は付加を除外するものではない。
【0020】
以下、本発明の一側面による延伸率に優れた超高強度冷延鋼板について詳しく説明する。
【0021】
本発明の一側面によると、冷延鋼板は、重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.1~1.5%、Mn:2.5~5.0%、P:0.1%以下(0%除外)、S:0.03%以下(0%除外)、Al:0.01~0.1%、N:0.01%以下(0%除外)、B:0.005%以下(0%除外)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む。
【0022】
以下では、本発明による冷延鋼板の成分添加の理由と含量限定の理由について具体的に説明する。この時、本明細書において、各元素の含量を示す時は特に言及しない限り、重量%を示す。
【0023】
炭素(C):0.15~0.3%
炭素(C)は、マルテンサイト鋼の強度及び硬化能を確保するために必須的な元素であって、1.5GPa級以上の引張強度を有するためには0.15%以上添加することが好ましい。但し、C含量が0.3%を超えると、目標に比べて強度が過度に増加し延伸率が低下するだけでなく、脆性破壊を誘発し得る潜在性が高く、点溶接性の劣位をもたらすため、その上限は0.3%以下に制御することが好ましい。一方、炭素含量が高いほどマルテンサイトの生成時に、炭化物の発生程度が増加するため、より好ましくは、C含量の上限を0.27%に制御することができる。
【0024】
珪素(Si):0.1~1.5%
珪素(Si)は、製鋼工程で脱酸剤として添加し、固溶強化元素と共に炭化物の生成を抑制する元素である。また、Si添加は、焼鈍熱処理時に組織を均一に分散させる役割を果たし、冷却時にオーステナイトの安定性を増加させて、常温における残留オーステナイトの確保を可能にする。よって、前述した効果を確保するためには、Siを0.15%以上添加することが好ましい。但し、Si含量が1.5%を超えると、熱間圧延時に鋼板表面に過度にSi系酸化物が生成されて、冷間圧延時に表面欠陥を誘発するおそれがある。それだけでなく、最終冷間圧延鋼板の比抵抗性が高くなり点溶接性が悪くなるため、Si含量を1.5%以下に制御する。一方、前述した効果を向上させるために、より好ましくは、Si含量の上限は1.25%であることができる。
【0025】
マンガン(Mn):2.5~5.0%
マンガン(Mn)は、オーステナイト安定元素であって、マルテンサイトの硬化能を確保するために添加し、冷間圧延後、焼鈍熱処理時にフェライトの生成を抑制するのに容易である。Mn含量が2.5%未満である場合は、マルテンサイト硬化能の確保は可能であるものの、冷延鋼板内のMn濃度の勾配発生が難しくなり、本発明で追求するMn濃度差による不均一微細組織の確保が難しい。また、Mn含量が5.0%を超えると、過度な強度及び製鋼及び連続鋳造段階から素地鉄内のMnバンドが厚さ方向に発生し得て、これにより耐衝突性が悪くなるため、Mn含量の上限を5.0%以下に制御することが好ましい。但し、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記Mn含量の下限を3.0%に制御することができ、上記Mn含量の上限を4.12%に制御することができる。
【0026】
リン(P):0.1%以下(0%除外)
リン(P)は、鋼中に不純物元素であって、0.1%超時にP偏析によって溶接性が悪くなるだけでなく、鋼の脆性を発生させる潜在力が高いため、P含量の上限を0.1%に制御する。一方、上記P含量の下限は、不可避に含まれる場合を勘案して0%を除くことができる(すなわち、0%超)。但し、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記P含量の下限を0.005に制御することができる。あるいは、上記P含量の上限を0.03%に制御することができ、最も好ましくは0.02%に制御することができる。
【0027】
硫黄(S):0.03%以下(0%除外)
硫黄(S)は、Pと同様に鋼中に不可避に添加される不純物元素であって、最終冷延鋼板の延性及び溶接性を阻害する特性を有する。また、上記S含量が0.03%を超えると、MnSの析出により熱延工程で生成された析出物が焼鈍熱処理時に完全に分解されず、鋼板の延性を悪化させる。それだけでなく、溶接性にも問題をもたらすおそれがあるため、上記S含量の上限を0.03%以下に制御する。一方、上記S含量の下限は、不可避に含まれる場合を勘案して0%を除くことができる(すなわち、0%超)。但し、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記S含量の下限を0.002%に制御することができ、上記S含量の上限を0.005%に制御することができる。
【0028】
アルミニウム(Al):0.01~0.1%
アルミニウム(Al)は、Siのように製鋼工程時に溶鋼内の酸素を除去するために添加され、鋼内の不純物元素を除去するのに有利な元素である。また、Siよりは相対的に弱いものの、炭化物生成の抑制に役に立てられ、オーステナイトC安定化に寄与するため、延伸率に優れた鋼板の製造が可能になる。よって、前述した効果を確保するために、Al含量を0.01%以上に制御する。但し、Alが過度に添加されると、AlNの過多析出により鋳片クラックが発生して工程製品の欠陥を誘発するおそれがあるため、上記Al含量の上限を0.1%に制限する。一方、本発明の目的とする効果を確保するために、より好ましくは、上記Al含量の下限は0.02%であることができ、上記Al含量の上限は0.06%であることができる。
【0029】
窒素(N):0.01%以下(0%除外)
窒素(N)は、鋼中の不純物元素であって、その含量が0.01%を超えると、AlN形成により連続鋳造時にクラックが発生する危険性が大きく増加するため、N含量の上限を0.01%に制限する。一方、上記N含量の下限は、不可避に含まれる場合を勘案して0%を除くことができる(すなわち、0%超)。但し、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記N含量の下限を0.007%に制御することができ、上記N含量の上限を0.03%に制御することができる。
【0030】
ホウ素(B):0.005%以下(0%除外)
ホウ素(B)は、焼鈍熱処理時にフェライト相変態の抑制に有利な元素であって、結晶粒界の強化及び固溶強化を通じてマルテンサイトの硬化能を向上させることができる。しかし、B含量が0.005%を超えると、B系析出相であるFe23(B,C)6がオーステナイト結晶粒系に形成されることで、熱間圧延状態で脆性破壊を引き起こし得るため、B含量の上限を0.005%以下に制限する。一方、上記B含量の下限は不可避に含まれる場合を勘案して0%を除くことができる(すなわち、0%超過)。但し、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記B含量の下限を0.001%に制御することができ、上記B含量の上限を0.003%に制御することができる。
【0031】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境の変数により意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造過程の技術者であれば誰もが分かることであるため、その全ての内容を特に本明細書では言及しない。
【0032】
一方、本発明の一側面によると、上記冷延鋼板は選択的にCr:0.1%以下及びMo:0.1%以下の中から選択された1種以上をさらに含むことができる。以下では、各元素の添加理由及び含量限定の理由について説明する。
【0033】
クロム(Cr):0.1%以下(0%含む)
クロム(Cr)は、Mnのようにマルテンサイトの硬化能を増加させ、フェライト変態を抑制することで、最終的に適当な強度を有するマルテンサイトを生成可能にする元素である。よって、Mn含量を一定範囲で設計する場合、Cr含量による硬化能影響が低くなるため、これを添加せずともマルテンサイト強度を確保することができ、少量のCr添加も可能である。一方、Cr含量が0.1%を超えれば、粗大なCr系炭化物形成により部品成形時に炭化物と鋼内の組織境界で局部的な変形及び応力の発生により割れが起こるおそれがあり、上記Cr含量の上限を0.1%に制御することができる。但し、上記Crを添加しない場合も含まれることができるため、上記Cr含量の下限は0%であることができる。一方、Crを添加する場合として、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記Cr含量の下限を0.005%に制御することができ、上記Cr含量の上限を0.05%に制御することができる。
【0034】
モリブデン(Mo):0.1%以下(0%含む)
モリブデン(Mo)は、Crと同一にマルテンサイト硬化能を高め、焼鈍熱処理時に冷却区間でフェライト生成の抑制に有効な元素である。しかし、上記Moを過度に添加すると、他の元素に比べて高価であるため、過度な合金投入量により合金鉄原価が上昇するという問題が生じるため、本発明では、上記Mo含量の上限を0.1%以下に制限する。但し、上記Moは高価であり、これを添加せずとも本発明の目的の達成が可能であれば本発明の範囲に含まれることができるため、上記Mo含量の下限は0%であることができ、上記Mo含量の上限は0.05%であることができる。
【0035】
本発明の一側面によると、上記冷延鋼板の微細組織は、面積分率で、残留オーステナイト:0.5~20%及びマルテンサイト:80~99.5%を含む。
【0036】
上記冷延鋼板の微細組織中に、残留オーステナイトが0.5%未満であるか、マルテンサイトが99.5%を超えると、Mn含量分配がきちんと起こらず、基地がマルテンサイトからなる冷延鋼板が製造されて延伸率が足りないという問題が生じ得る。一方、上記冷延鋼板の微細組織中に、残留オーステナイトが20%を超えるか、マルテンサイトが80%未満であると、残留オーステナイト内の炭素安定性が落ち、加工中に変形有機変態によるマルテンサイト変態で成形性が悪化するという問題が生じ得る。一方、本発明の一側面によると、前述した効果をより改善する側面で、上記残留オーステナイトの面積分率の下限は1.2%であることができ、あるいは上記残留オーステナイトの面積分率の上限は10%であることができる。一方、本発明のまた他の一側面によると、前述した効果をより改善する側面で、上記マルテンサイトの面積分率の下限は90%であることができ、あるいは上記マルテンサイトの面積分率の上限は98.5%であることができる。
【0037】
また、本発明の一側面によると、上記冷延鋼板は、下記関係式1-1を満たすことができる。
[関係式1-1]
【数2】
(上記関係式1-1において、上記AF
Mn_sは上記マルテンサイト内のMn含量が2%超え5%未満である低Mn結晶粒の面積分率を示し、その単位は面積%である。また、上記AF
Mn_hは上記マルテンサイト内のMn含量が5%以上である高Mn結晶粒の面積分率を示し、その単位は面積%である。)
【0038】
本発明によると、上記AFMn_s/AFMn_hの値が5未満であると、Mn含量の差異から発生する追加強度効果の発現が発生し難く、残留オーステナイト確保が難しく総延伸率10%以上を有する冷延鋼板の製造に限界が生じるおそれがある。一方、上記AFMn_s/AFMn_hの値が25を超えると、それに相応するC、Mn含量が高くなり、冷延鋼板内のMnバンド及び炭化物の形成により加工性が悪化するという問題が発生し得る。一方、本発明の一側面によると、前述した効果をより改善する側面で、上記AFMn_s/AFMn_hの値の下限は9であることができ、あるいは上記AFMn_s/AFMn_hの値の上限は19であることができる。
【0039】
上記AFMn_s及びAFMn_hの測定方法について特に限定はしない。但し、代表的な一例として、鋼板全体厚さtを基準として、鋼板表面から1/4t位置まで機械的研磨を実施した後、30μm×30μm面積倍率でMn含量を定量的にEPMA面分析を進行する。次いで、局部的にMn含量の高いマルテンサイト組織を有する領域と、局部的にMn含量の低いマルテンサイト組織を有する領域をそれぞれ分析することで測定可能である。
【0040】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一側面によると、上記冷延鋼板は、下記関係式1-2を満たすことができる。この時、下記関係式1-2を満たすことで、Mn含量が相対的に低い領域内の追加強度が実現されて1.5GPa級の冷延鋼板の製造が可能であるため、組織内の硬度差を低減させて既存のマルテンサイト鋼に比べて優れた延伸率の確保が可能である。一方、本発明の一側面によると、上記Δσ
TSの値の下限は829MPaであることができ、あるいは、上記Δσ
TSの値の上限は1844MPaであることができる。
[関係式1-2]
【数3】
(上記関係式1-2において、上記Δσ
TSは上記マルテンサイト内のMn含量が5%以上である高Mn結晶粒に対する引張強度平均値(σ
TS_Mn_h)と上記マルテンサイト内のMn含量が2%超5%未満である低Mn結晶粒に対する引張強度平均値(σ
TS_Mn_s)の差を示し、その単位はMPaである。)
【0041】
一方、上記σTS_Mn_hとσTS_Mn_sは、各領域に対して、下記関係式1-3で定義されるσTSに基づいて求めることができる。よって、上記σTS_Mn_hは局部的にMn含量の高いマルテンサイト組織を有する領域において、EPMA分析を通じて確保される各成分に対する含量で求めることができる。また、上記σTS_Mn_sは局部的にMn含量の低いマルテンサイト組織を有する領域において、EPMA分析を通じて確保される各成分に対する含量で求めることができる。
【0042】
[関係式1-3]
【数4】
(上記関係式1-3において、[P]、[Si]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mn]及び[Mo]は、鋼板内の括弧中の各元素に対する重量%含量を示し、[Nss]は鋼板の固溶体内の窒素に対する重量%含量を示す。)
【0043】
本発明の目的とする効果を達成するためには、焼鈍熱処理工程を制御することで、マルテンサイト内のMn濃度を分配することで、Mn濃度によって硬質/軟質の相を得て、これによる変形分配から硬質相に追加的な強化を誘導する必要がある。かかるMn濃度の勾配により、硬質のMn相内のオーステナイト安定性を確保することで、常温で残留オーステナイトを確保して優れた延伸率を有する超高強度鋼を提供することができる。
【0044】
本発明による冷延鋼板は、引張強度が1500MPa以上(あるいは、1500MPa以上1700MPa以下、または1554MPa以上1660MPa以下)であり、総延伸率が10%以上(あるいは、10%以上12%以下、または10.2%以上11.2%以下)を満たすことができ、これを満たすことで延伸率に優れた超高強度冷延鋼板として冷間スタンピングに適合に使用することができる。一方、特に限定するものではないが、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記冷延鋼板の降伏強度は940MPa以上(あるいは、940MPa以上1200MPa以下であることができ、1000MPa以上であるか、1000MPa以上1200MPa以下であることができる)であることができる。また、本発明の一側面によると、上記冷延鋼板の均一延伸率は5.0%以上であることができ、あるいは5.0%以上7.0%以下であることができる。
【0045】
以下、本発明の一側面による冷延鋼板の製造方法について詳しく説明する。但し、本発明による冷延鋼板の製造方法が必ずしも以下の製造方法によって製造されなければならないことを意味するものではない。
【0046】
スラブ再加熱段階
本発明の一側面による冷延鋼板の製造方法は、前述した組成を有する鋼スラブを1,100~1,300℃に再加熱する段階を含む。この時、上記鋼スラブの組成は、前述した冷延鋼板の組成と同一であり、上記スラブにおいて各成分の添加理由及び含量限定の理由については、前述した冷延鋼板に対する説明を同一に適用することができる。
【0047】
一方、本発明では熱間圧延を行うに先立ち、鋼スラブを再加熱して均質化処理する工程を経ることが好ましく、この時、再加熱時の温度を1,100~1,300℃で行うことが好ましい。もし、上記再加熱温度が1100℃未満であると、後続する熱間圧延時に荷重が急激に増加するという問題が起こるおそれがある。また、上記再加熱温度が1,300℃を超えると、表面スケールの量が増加して材料の損失につながるおそれがある。
【0048】
熱間圧延段階
前述した再加熱されたスラブを800~1,000℃で熱間圧延して熱延鋼板を製造することが好ましい。上記熱間圧延の温度が800℃未満であると、未再結晶フェライトの導入により、圧延荷重が増加するおそれがあるため好ましくない。一方、上記熱間圧延の温度が1,000℃を超えると、スケールによる表面欠陥と圧延ロールの摩耗度を増加させる可能性が高くなるため好ましくない。
【0049】
巻取段階
前述した熱間圧延によって製造された熱延鋼板を400~700℃で巻き取ることが好ましい。上記巻取温度が700℃を超えると、鋼板表面に過多な酸化膜が形成されて欠陥を誘発するため、これを制限するのが好ましい。一方、巻取温度が400℃未満で低いと、熱延鋼板の強度が過度に高くなり冷間圧延工程で圧延荷重が高くなるだけでなく、これを制御するために、冷間圧延工程時に制御変数が多くなるため生産性が劣るおそれがある。
【0050】
冷間圧延段階
上記熱間圧延後に巻き取られた熱延鋼板の表面に形成された酸化層を酸洗工程で除去した後、20~75%の圧下率で冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する。上記冷間圧延時に圧下率が20%未満であると、目標とする厚さの確保が難しいだけでなく、熱間圧延結晶粒の残存により焼鈍熱処理時にオーステナイトの生成及び最終の物性に影響を及ぼす。よって、冷間圧延時に圧下率は20~75%の範囲で行うことが好ましい。
【0051】
本発明は、1.5GPa級引張強度を確保しつつも、延伸率10%以上の機械的物性を有する高延伸冷延鋼板を製造するためのもので、そのためには
図1に示すように、1次焼鈍-1次冷却-2次焼鈍-2次冷却工程を含む2段焼鈍工程を実施する。以下で具体的に説明する。
【0052】
1次焼鈍段階
前述した冷間圧延から得られた冷延鋼板を600~700℃(あるいは、620~700℃)の範囲で加熱し、2~24時間の間維持する。本発明では、1次焼鈍段階における昇温時に平均昇温速度による逆変態影響を減らすために、30℃/s以上(より好ましくは30~50℃/s範囲)の昇温速度でセメンタイトが分解される二相域温度(TIA)範囲が600℃~700℃である焼鈍温度でMn分解が起こるように維持時間を2時間以上に制御する。
【0053】
特に限定するものではないが、上記1次焼鈍時の昇温速度が30℃/s未満であると、1次二相域焼鈍時にC、Mn非均質性効果が小さいという問題が生じ得る。一方、上記1次焼鈍時の昇温速度が50℃/sを超えると、1次焼鈍の目標温度の正確度が下がり、焼鈍域の温度の偏差によって最終鋼種の材質問題が生じ得る。
【0054】
前述した1次焼鈍段階における熱処理条件を満たすように制御すると同時に、後述する1次冷却段階で30℃/s以上の平均冷却速度で冷却を進行するが、かかる熱処理は二相域で生成されたフェライトとオーステナイトのMn濃度差を発生させ、冷却時にMn濃度の低いフェライトとMn含量の高いマルテンサイトを得るためである。1次焼鈍において、より好ましくMn濃度を極大化するために、最大24時間の維持時間の範囲で実施する。
【0055】
一方、特に限定するものではないが、本発明の目的とする効果をより改善するために、好ましくは、この時、上記1次焼鈍段階は、鋼板の表面温度を基準として、最高温度が600~700℃の温度範囲になるように加熱し、上記最高温度に到逹した時点から上記600~700℃の温度範囲で維持する時間が2~24時間であることができる。
【0056】
また、上記1次焼鈍時の維持時間が2時間未満であると、二相域温度区間においてC、Mn分配効果が小さく、冷却時にフェライトマルテンサイト内のC、Mn濃度が均一な問題が生じ得る。一方、上記1次焼鈍時の維持時間が24時間を超えると、結晶粒の粗大化により材質劣化が発生し得て、焼鈍時にフェライト、オーステナイト内のC、Mn濃度の不均質性が弱化するという問題が生じ得る。
【0057】
1次冷却段階
上記1次焼鈍後の冷延鋼板を30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する1次冷却を実施する。より具体的に、上記1次冷却段階は25℃以下まで30~50℃/s範囲の平均冷却速度で冷却することができる。
【0058】
上記1次冷却段階において平均冷却速度が30℃/s未満であると、1次焼鈍以後、冷却途中にC、Mnの再分配が発生して化学的な非均質性の確保に問題が生じ得る。また、上記1次冷却段階における温度範囲が25℃を超えると、1次焼鈍時に極度のMn及びC分配により各結晶粒間のマルテンサイトの生成及び終点温度が異なり、低い温度領域でも未変態オーステナイト分率によって第2相の導入問題が生じ得る。
【0059】
2次焼鈍段階
最終的にマルテンサイトが面積分率で80%以上(及び残留オーステナイト20%以下)である焼鈍冷延鋼板を確保するために、上記1次冷却した冷延鋼板を30℃/s以上(より好ましくは、30~50℃/s範囲)の平均昇温速度でオーステナイト単相域以上の温度に加熱する2次焼鈍を実施する。
【0060】
この時、上記2次焼鈍段階において、平均昇温速度を30℃/s以上に制御することは、1次焼鈍から得られたMn分配を維持するためであり、2次焼鈍段階における平均昇温速度が30℃/s未満であると、Mn再分配によりMn濃度差が均一になる問題が生じ得る。
【0061】
また、上記2次焼鈍段階において、オーステナイト単相域以上の温度とは、820℃以上(より好ましくは、850℃以上900℃以下)であることができ、上記温度範囲に制御する理由は、Mn分配されたオーステナイトから最終微細組織である80%以上のマルテンサイトを生成するためである。
【0062】
一方、本発明の目的とする効果をより改善するために、好ましくは、上記1次焼鈍段階と、2次焼鈍段階における平均昇温速度が下記関係式2を満たすように制御することができる。
[関係式2]
1.0≦TH1/TH2≦1.5
(上記関係式2-1において、TH1は1次焼鈍段階における鋼板表面の最高温度を示し、TH2は2次焼鈍段階における鋼板表面の最高温度を示す。)
【0063】
2次冷却段階
次いで、上記2次焼鈍後の冷延鋼板を30℃/s以上(より好ましくは、30~50℃/s範囲)の平均冷却速度で冷却する2次冷却を実施する。この時、上記2次冷却段階における平均冷却速度が30℃/s未満であると、冷却途中にC、Mn再分配により延伸率の確保に問題が生じ得る。
【0064】
本発明によると、1.5級強度と総延伸率10%以上の機械的物性を有する冷延鋼板を確保するためには、2段の焼鈍工程において、臨界昇温速度及び熱処理温度と、冷却工程における臨界冷却速度及び冷却温度の精密な制御が要求される。これから外れる場合は、本発明で目的とする範囲の引張強度及び延伸率の確保が難しいおそれがある。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を通じて本発明についてより具体的に説明する。但し、下記の実施例は例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0066】
(実施例)
下記の表1の組成を有する鋼をインゴットで真空溶解した後、これを1200℃の温度で1時間維持した後、900℃で仕上げ圧延し、600℃に予め加熱された炉に張り込み1時間維持した後、炉冷によって熱延巻取を模擬した。これを酸洗した後、50%圧下率で冷間圧延を進行して冷延鋼板を製造した。
【0067】
このように製造された冷延鋼板を下記の表2に記載された条件で、多様な二相域温度範囲で30℃/sの平均昇温速度で加熱した後、維持時間を異ならせて1次焼鈍を進行した。次いで、30℃/sの平均冷却速度で25℃まで1次冷却を行った後、870℃のオーステナイト単相域で30℃/sの平均昇温速度で加熱する2次焼鈍を進行し、30℃/sの平均冷却速度で2次冷却を実施して連続焼鈍熱処理を模擬した。
【0068】
かかる熱処理を行った各試片に対して、磁化測定方法(magnetic induction method、Metis)を利用して微小オーステナイトを含み試片内の残留オーステナイト分率を測定した後、その外分率をマルテンサイトで計算した。同一のマルテンサイト内のMn濃度差を分析するために、1,000倍以上でEPMA面分析を実施して下記の表2に示し、機械的性質を測定した結果を下記の表3に示した。この時、機械的物性を測定するために、JIS標準規格で圧延方向に垂直に加工して引張試験機及び伸率計を付着し、降伏強度、引張強度、及び延伸率を測定した。また、AFMn_s/AFMn_h及びΔσTSは、本明細書に記載された方法と同一に測定した。
【0069】
【0070】
【表2】
(上記表2中において、F:フェライト、M:マルテンサイト、P:パーライト、γ:残留オーステナイトを示す。)
【0071】
【0072】
本発明の合金組成及び製造条件を満たす例2、3、5、7及び8の場合、関係式1-1を満たし、これにより引張強度1500MPa以上、降伏強度1000MPa以上、総延伸率10%以上及び均一延伸率5.0%以上を満たすだけでなく、関係式1-2を満たして均一性も確保することができた。
【0073】
特に、上記例8に対する2次焼鈍-2次冷却以後の最終的な微細組織を電子後方散乱回折法(EBSD)で高配率で測定した写真を
図2に示した。
図2(a)は、結晶学的方位マップ(Inverse Pole Figure、IPF)を示し、
図2(b)は、発明鋼に対する相分布マップを示し、
図2(c)は、最終微細組織内の残留オーステナイトが分布した特定領域を拡大した相分布マップを示す。
【0074】
一方、本発明の合金組成を満たさない例9~15は、引張強度1500MPa以上、降伏強度1000MPa以上、総延伸率10%以上及び均一延伸率5.0%以上のいずれか一つ以上を満たせないことを確認した。
【0075】
また、本発明の合金組成を満たすものの、1次焼鈍温度が低過ぎて製造条件を満たせない例1の場合、フェライとに生成されたセメンタイトが完全に溶解されず、2次焼鈍後に残存する問題があり、これにより総延伸率が10%以下であった。
【0076】
また、本発明の合金組成を満たすものの、1次焼鈍温度が高過ぎて製造条件を満たせない例4及び6の場合、1次焼鈍温度が720℃とMn分配が最大に起こり得る焼鈍範囲から外れて、Mn濃度差が少なく、これにより、最終微細組織内の残留オーステナイト分率の確保が難しく、延伸率が10%に達していなかった。
【国際調査報告】