(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ペプチドワクチン
(51)【国際特許分類】
C07K 14/47 20060101AFI20241112BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241112BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241112BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241112BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241112BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241112BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241112BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241112BHJP
A61K 39/245 20060101ALI20241112BHJP
A61K 39/235 20060101ALI20241112BHJP
A61K 39/21 20060101ALI20241112BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20241112BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20241112BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241112BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241112BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241112BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241112BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20241112BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/113 Z
A61P37/04
A61K39/00 H
A61K39/245
A61K39/235
A61K39/21
A61K39/145
A61K39/12
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 121
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A61K31/7088
A61K39/395 T
A61K31/506
A61K31/519
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531702
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 GB2022053012
(87)【国際公開番号】W WO2023094839
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519336698
【氏名又は名称】アルゴノート・セラピューティクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ラ・サングエ,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】バルザック,ヴォイチェフ
(72)【発明者】
【氏名】カー,シモン・マーク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
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4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子から誘導される1つもしくは複数の免疫原性ペプチドまたはその誘導体;前記ペプチドのうちの1つまたは複数を含む医薬組成物、前記ペプチドのうちの1つまたは複数を含むワクチンおよび宿主へのペプチドを提示することが可能な薬剤の投与により哺乳動物対象において免疫応答を生起する方法をはじめとする、療法におけるそれらの使用を提供する。本発明はまた、宿主免疫を刺激することによるがんの治療での使用のためのPRMT5阻害剤の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子から誘導されるペプチドまたはその誘導体。
【請求項2】
E2F結合性部位を含むプロモーターによりlncRNA遺伝子配列から転写される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
免疫原性である、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
PRMT5が阻害された場合に細胞において調節される、請求項1、2または3に記載のペプチド。
【請求項5】
PRMT5が阻害された場合に細胞において上方調節される、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
免疫応答を誘導することが可能である、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチドをコードする核酸。
【請求項8】
DNA、cDNA、PNA、RNAまたはそれらの組み合わせである、請求項7に記載の核酸。
【請求項9】
請求項7または8に記載の核酸を発現することが可能な発現ベクター。
【請求項10】
請求項7もしくは8に記載の核酸または請求項9に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
細菌、真菌(酵母を含む)、および哺乳動物細胞からなる群より選択される、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載の少なくとも1種類のペプチドまたは前記ペプチドをコードする核酸を含むワクチン。
【請求項13】
少なくとも5種類のlncRNA遺伝子ペプチドまたはそれらのペプチドをコードする核酸を含む、請求項12に記載のワクチン。
【請求項14】
ペプチドワクチン、RNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンまたは樹状細胞ワクチンである、請求項12または13に記載のワクチン。
【請求項15】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス(セムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルス、またはベネズエラウマ脳炎ウイルスなど)、アレナウイルス(ラッサ熱ウイルス、マチュポウイルス、またはフニンウイルスなど)、麻疹ウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、またはインフルエンザウイルスから誘導される、請求項14に記載のワクチン。
【請求項16】
前記ベクターが、ChAdOxベクターなどのサルアデノウイルスワクチンである、請求項に記載のワクチン。
【請求項17】
前記免疫原性ペプチドが、HLA A、HLA A2またはHLA24またはHLA AlまたはHLA A3を含む群から選択される1種類を含むヒト白血球抗原(HLA)クラスI分子により提示される、請求項12~16のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項18】
キメラポリペプチド内に、PRMT5が阻害される場合にがん細胞により過剰発現される複数の、lncRNAによりコードされるペプチドを含む、請求項12~17のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項19】
前記複数の、lncRNAによりコードされるペプチドが直列に互いに連結されている、請求項18に記載のワクチン。
【請求項20】
前記複数のペプチドが単一の核酸分子によりコードされる、請求項18または19に記載のワクチン。
【請求項21】
前記ワクチンを投与された宿主において免疫反応を刺激する、請求項12~20のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項22】
前記宿主免疫反応が、体液性応答または適応性細胞媒介性免疫応答である、請求項21に記載のワクチン。
【請求項23】
対象へと投与された場合に抗がんCD-8 T細胞の生成を刺激する、請求項12~22のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項24】
腫瘍特異的ワクチンを製造するための方法であって、PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子によりコードされる、腫瘍により発現されるペプチドを特定するステップと;前記ペプチドのうちの1つもしくは複数または前記1つもしくは複数のペプチドをコードする核酸をワクチン中へと組み込むステップとを含む方法。
【請求項25】
請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチド、請求項7もしくは8に記載の核酸、または請求項12~23のいずれか1項に記載のワクチン、および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項26】
治療における使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチド、請求項7もしくは8に記載の核酸、請求項12~23のいずれか1項に記載のワクチンまたは請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
がんの治療での使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチド、請求項7もしくは8に記載の核酸、請求項12~23のいずれか1項に記載のワクチンまたは請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項28】
PRMT5阻害剤と組み合わせた、がんの治療での使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチド、請求項7もしくは8に記載の核酸、請求項12~23のいずれか1項に記載のワクチンまたは請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項29】
がんを有する、またはがんを有することが疑われる対象を治療する方法であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチド、請求項7もしくは8に記載の核酸、請求項12~23のいずれか1項に記載のワクチンまたは請求項25に記載の医薬組成物を前記対象へと投与するステップを含む方法。
【請求項30】
白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肺がん、肝臓がん、乳がん、頭頸部がん、神経芽腫、甲状腺がん、皮膚がん(黒色腫を含む)、口腔扁平上皮細胞がん、膀胱がん、ライディッヒ細胞腫瘍、胆嚢管がんまたは胆管がんなどの胆管がん、膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がんならびに卵巣がん、子宮内膜がん、卵管がん、子宮がんおよび子宮頸部上皮内がんを含む子宮頸がんを含む婦人科がんからなる群より選択され、任意選択的に、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病(急性骨髄性白血病または急性非リンパ性白血病としても公知である)、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病(慢性骨髄性白血病または慢性顆粒球性白血病としても公知である)、慢性リンパ性白血病、単芽球性白血病および有毛細胞白血病からなる群より選択される白血病であるがんの治療での使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチド、請求項7もしくは8に記載の核酸、請求項12~23のいずれか1項に記載のワクチンまたは請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項31】
腫瘍ワクチン中に包含するためのペプチドを選択するための方法であって、(i)患者由来の腫瘍細胞サンプルをPRMT5阻害剤と接触させるステップと、(ii)前記接触させた細胞における1つまたは複数の、lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの発現レベルを決定するステップと、(iii)上方調節または下方調節される1つまたは複数のペプチドを腫瘍ワクチン中に包含するために選択するステップを含む方法。
【請求項32】
腫瘍ワクチン中に包含するためにペプチドを選択するための方法であって、腫瘍タイプの細胞をPRMT5阻害剤と接触させるステップと、前記接触させた細胞による1つまたは複数の、lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの発現レベルを決定するステップおよび上方調節または下方調節される1つまたは複数のペプチドを腫瘍ワクチン中に包含するために選択するステップとを含む方法。
【請求項33】
ステップ(iii)に先立って、上方調節または下方調節されるペプチドが、MHCクラスIなどのMHCを介して細胞表面上に提示されるかまたは提示され易いか否かを決定するために評価される、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記腫瘍が、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肺がん、肝臓がん、乳がん、頭頸部がん、神経芽腫、甲状腺がん、皮膚がん(黒色腫を含む)、口腔扁平上皮細胞がん、膀胱がん、ライディッヒ細胞腫瘍、胆嚢管がんまたは胆管がんなどの胆道がん、膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がんならびに卵巣がん、子宮内膜がん、卵管がん、子宮がんおよび子宮頸部上皮内がんを含む子宮頸がんを含む婦人科がんから選択され、任意選択的に、前記がんは、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病(急性骨髄性白血病または急性非リンパ性白血病としても公知である)、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病(慢性骨髄性白血病または慢性顆粒球性白血病としても公知である)、慢性リンパ性白血病、単芽球性白血病および有毛細胞白血病からなる群より選択される白血病である、請求項31、32または33に記載の方法。
【請求項35】
体液性応答または細胞媒介性免疫応答などの宿主免疫応答を刺激することによるがんの治療での使用のためのPRMT5阻害剤。
【請求項36】
抗体、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)または小分子化合物からなる群より選択される、請求項35に記載の使用のためのPRMT5阻害剤。
【請求項37】
GSK3326595(ペムラメトスタット)、PF-6939999、JVNJ-64619178(オナメトスタット)、LLY-283およびPRT543からなる群より選択される小分子化合物である、請求項35または36に記載の使用のためのPRMT5阻害剤。
【請求項38】
対象への前記PRMT5阻害剤の投与が、前記対象がCD8
+T細胞を生成することを刺激する、請求項35~37のいずれか1項に記載の使用のためのPRMT5阻害剤。
【請求項39】
前記がんが、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肺がん、肝臓がん、乳がん、頭頸部がん、神経芽腫、甲状腺がん、皮膚がん(黒色腫を含む)、口腔扁平上皮細胞がん、膀胱がん、ライディッヒ細胞腫瘍、胆嚢管がんまたは胆管がんなどの胆道がん、膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がんならびに卵巣がん、子宮内膜がん、卵管がん、子宮がんおよび子宮頸部上皮内がんを含む子宮頸がんを含む婦人科がんからなる群より選択され、任意選択的に、前記がんは、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病(急性骨髄性白血病または急性非リンパ性白血病としても公知である)、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病(慢性骨髄性白血病または慢性顆粒球性白血病としても公知である)、慢性リンパ性白血病、単芽球性白血病および有毛細胞白血病からなる群より選択される白血病である、請求項35~38のいずれか1項に記載の使用のためのPRMT5阻害剤。
【請求項40】
前記がんが、任意によりホジキンリンパ腫;非ホジキンリンパ腫;バーキットリンパ腫;および小リンパ球性リンパ腫からなる群より選択されるリンパ腫である、請求項39に記載の使用のためのPRMT5阻害剤。
【請求項41】
前記がんが急性リンパ芽球性白血病である、請求項39に記載の使用のためのPRMT5阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つまたは複数の免疫原性ペプチド、および宿主に対してペプチドを提示することが可能な薬剤の投与による、哺乳動物対象における免疫応答を生起するための方法を提供する。特に、本発明は、がんの治療などでの治療的使用のためのワクチンに関する。本発明はまた、宿主免疫を刺激することによりがんを治療するためのPRMT5阻害剤の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)-E2F経路は、細胞周期における重要な制御ポイントである。この経路は、腫瘍細胞では多くの場合に調節解除され、この経路の調節解除は、がんの「特徴」(hallmark)と広く見なされる。古典的には、pRb腫瘍抑制因子タンパク質は、それを通してpRbが細胞周期進行に対して効果を発揮する転写ハブとして機能するE2F転写因子の、負の調節因子である。サイクリン/CDK複合体およびpRbの逐次的リン酸化の時間的な調節は、G1/S相遷移でE2Fを解放し、E2Fが細胞周期進行に必要とされる遺伝子の転写を駆動することを可能にする。古典的E2F標的遺伝子としては、十分に特性決定された細胞周期、DNA合成およびアポトーシス標的、ならびに代謝制御、分化、老化およびオートファジーに関連付けられる他のものが挙げられる(Blanchetら、2011;DenchiおよびHelin、2005;KentおよびLeone、2019;Munroら、2012;Roworthら、2015;Wuら、2001;Yaoら、2008)。
【0003】
pRb-E2F経路が、元来予想されたよりもはるかに大きな遺伝子ネットワークを調節することが明らかになってきており、このことは、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)5によるE2F1サブユニット上のアルギニンメチル化の部位で生じる、影響力のある「リーダー-ライター」イベントを反映する(Barczakら、2020;Choら、2012;Zhengら、2013)。残基特異的メチル化は、生物学的レベルで増殖および細胞生育を促進する中央部アルギニン(R)リッチクラスター内で起こる(Choら、2012;Zhengら、2013)。重要なことに、全ゲノム解析は、PRMT5-E2F1制御下にある遺伝子の大きなレパートリーを特定した(Roworthら、2019)。これは、そのチューダードメインによってmeRマークを読み取るp100/TSNを介して起こり、それにより、E2F1を転写調節因子としてのその主な役割から選択的RNAスプライシングをはじめとする遺伝子発現制御の他のレベルに対する広い影響を有するものへと切り替える(Roworthら、2019)。広範なヒト腫瘍におけるPRMT5の頻繁な過剰発現およびがん細胞周期においてE2Fが果たす重要な役割は、悪性疾患の駆動におけるPRMT5-E2F1軸の重要性を強く主張する。ヒトゲノムのうちの大部分は、異なる構造エレメントおよび調節エレメントから構成される非古典的遺伝子により占められ、例えば、マイクロRNAをコードする遺伝子および長い非コード(lnc)RNAを含む(GebertおよびMacRae、2019;Statelloら、2021)。
【0004】
lncRNA遺伝子は、哺乳動物細胞における転写の主な起源であり、典型的には200ヌクレオチド超の長さを有する転写産物をコードするが、そのうちの大多数は非翻訳RNAとして存在すると考えられる(Statelloら、2021)。
【0005】
ここで、本発明者らは、非コードがんゲノム内の、長い非コード(lnc)遺伝子の発現の制御におけるPRMT5-E2F1軸の新規かつ予期せぬ役割を記載する。RNAの非翻訳集団であると広く考えられるが、本発明者らは、一群のlncRNA転写産物が、翻訳され、かつペプチドへとさらにプロセシングされることができることを見出した。重要なことに、多くのlncRNA由来ペプチドは、腫瘍細胞の抗原状況(antigenic landscape)に寄与し、腫瘍細胞において免疫系に対してMHCクラスIタンパク質複合体により提示される。PRMT5およびE2F1の両方は、lncRNA遺伝子の発現に影響を及ぼし、それにより、MHCクラスI抗原により提示されるペプチドのレパートリーを制御する。PRMT5-E2F1軸の薬理学的制御は、lncRNA遺伝子から誘導される腫瘍関連抗原のプロファイルを変化させ、それにより、有効な適応免疫応答に影響を及ぼす。
【0006】
本明細書中に記載される通り、本発明者らは、lncRNA由来ペプチド抗原から構成される独立型治療用ワクチンを設計し、これが免疫原性であり、かつ有効な抗腫瘍免疫応答を促進することを見出した。これらの結果は、PRMT5が、E2F活性を非コードゲノムおよび腫瘍細胞の抗原状況へと結び付けることを示す。したがって、PRMT5活性を操作することは、腫瘍細胞の免疫原性を制御するための治療戦略を提示する。
【0007】
がんワクチンおよび長期的腫瘍特異的免疫は、様々な腫瘍のヒトまたは動物治療の管理、および腫瘍再発の予防に対して有用であると判明し得る。本発明は、ワクチン免疫療法のための新規ツールおよび方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】HCT116細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。WT E2F1 DMSO処理細胞に対する、示される通りに48時間にわたってT1-44を用いて処理されたWTまたはE2F1 Cr細胞株において30%レベル(q<0.05)で上方調節または下方調節されたlncRNA転写産物の交差点を実証するVenn図表。
【
図1B】HCT116細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。WT E2F1 DMSO処理細胞に対して、各細胞株および処理において統計学的に有意なレベル(q<0.05)で差次的に上方調節および下方調節されるlncRNA転写産物の総数を表すための棒グラフ。変化倍率カットオフは、データに対して適用しなかった。
【
図1C】HCT116細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。(i)WT E2F1またはE2F1 Cr細胞株を、48時間にわたって1μM T1-44を用いて処理し、その後、示されるlncRNA転写産物の発現を決定するためのRT-qPCR分析を行った(それらのENSEMBL転写産物名称によって標識される)。(ii)免疫ブロットもまた、E2F1の入力タンパク質レベルを表示するために含められ、SDMeを、T1-44活性に対するマーカーとして用いた。
【
図1D】HCT116細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。(i)WT E2F1またはE2F1 Cr細胞株を、48時間にわたって1μM T1-44を用いて処理し、その後、クロマチン抽出およびE2F1特異的抗体、またはIgG対照抗体を用いるChIP分析を行った。ENCODEからのChIP-seqデータを、各lncRNA遺伝子(矢印によりマークされる)のTSS周囲の潜在的E2F1結合性部位(比較的小さな赤色四角形によりマークされる[矢印なし])を特定するために用い、qPCRでの使用のために、プライマーをこれらの部位の周囲で設計した。CDC6およびアクチン遺伝子を、それぞれ、陽性および陰性対照として含めた。(ii)免疫ブロットもまた、E2F1の入力タンパク質レベルを表示するために含められ、SDMeを、T1-44の活性を示すために用いた。
【
図2A】インビトロおよび腫瘍としてインサイチューで生育されたCT26細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。CT26(30%変化、q<0.05)RNA-seqデータセット中でT1-44処理後に差次的に上方調節または下方調節されたlncRNA転写産物の数の棒グラフ表示。
【
図2B】インビトロおよび腫瘍としてインサイチューで生育されたCT26細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。E2F1を標的化する2種類の異なるsiRNAを、72時間にわたってCT26細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの8時間後に1μM T1-44を用いて追加的に処理し、その後、示されるlncRNA転写産物の発現を決定するためのRT-qPCR分析を行った(それらのENSEMBL転写産物名称によって標識される)。免疫ブロットもまた、E2F1の入力タンパク質レベルを表示するために含められ、SDMeを、T1-44活性に対するマーカーとして用いた。
【
図2C】インビトロおよび腫瘍としてインサイチューで生育されたCT26細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。(i)colon26腫瘍(i)でのT1-44を用いる実験の模式的表示。Balb/cマウスを、ビヒクルのみの対照と比較して、19日間にわたって100mg/kgで経口投与されるT1-44を用いて処置した;群当たりn=7;(ii)平均値(±SEM)として提示されるT1-44処置(正方形)および未処置(円形)Balb/cマウスにおける絶対腫瘍生育体積、n=7;(iii)12日目での個別のマウスの絶対腫瘍体積の散布図(t検定;
*p<0.05)、n=7;T1-44処置(右側)および未処置(左側)。(iv)平均値として提示されるT1-44処置(正方形)および未処置(三角形)Balb/cマウスの相対的体重表示、n=7;(v)処置(点線)および未処置マウス(実線-d16で終了)の生存曲線(ログランク(マンテル-コックス)検定;
*p<0.05)、n=7。
【
図2D】インビトロおよび腫瘍としてインサイチューで生育されたCT26細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。示される通りにDMSOまたはT1-44を用いて処理したcolon26腫瘍からRNAを単離し、その後、示されるlncRNA転写産物の発現を決定するためのRT-qPCR分析を行った(それらのENSEMBL転写産物名称によって標識される)。
【
図2E】インビトロおよび腫瘍としてインサイチューで生育されたCT26細胞中に存在するlncRNA転写産物の差次的発現解析を示す図である。(i)100mg/kg T1-44を用いた処置の19日間後のBalb/cマウスまたは未処置対照から14日目に回収したcolon26腫瘍中のSDMeの免疫組織化学染色の代表例(
図2Cの実験を参照されたい)。元の倍率:20倍、スケールバー、50μm;および63倍;スケールバー、16μm。n=4;(ii)上記の通りであるが、免疫組織化学染色は抗CD8を用いて行った;(iii)上記の通りであるが、免疫組織化学染色は抗CD4を用いて行った;(iv)上記の通りであるが、免疫組織化学染色は抗CD163を用いて行った;(v)結果を、ImageJ Fijiソフトウェアを用いて定量化し、標準化された光学密度を、平均±SDとして提示した。統計学的解析は、GraphPad Prism8ソフトウェアを用いる対応のない両側スチューデントt検定を用いて行った、n=4。対照を上側パネルに示し、T1-44を下側パネルに示す。
【
図3A】CT26細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。免疫ペプチドミクスプラットフォームのワークフローを示すための図表。細胞表面MHCクラスIタンパク質複合体から抽出したペプチドが、質量分析により検出され、社内lncRNAプロテオームデータベース、またはすべての審査されたマウスSwissProtエントリーからなるデータベースに対する比較により特定される。続いて、候補ペプチドは、それらの予測される免疫原性、MHC結合親和性およびRNA発現プロファイルに基づいてランク付けされ、その後、樹状細胞に基づくがんワクチンの一部分としての選択に供される。
【
図3B】CT26細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。CT26細胞を、1μM T1-44またはDMSO(対照)を用いて72時間にわたって処理し、その後、MHCクラスI対立遺伝子に対して特異的な抗体を用いる免疫沈降および質量分析のためのMHC結合型ペプチドの抽出を行った。実験は、生物学的複製(rep1、rep2)で行った。各処理および生物学的複製間での定性的免疫ペプチドミクス解析から特定されるMHC結合型lncRNA由来ペプチドの重複が、Venn図表中に示される。328種類のペプチドを、Peaksソフトウェアを用いて検出した。
【
図3C】CT26細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。(i)CT26免疫ペプチドミクス解析からの特定されたlncRNA由来ペプチドが結合した各MHC対立遺伝子に関する予測上の対立遺伝子頻度を棒グラフ上に表示し、合計のうちのパーセンテージとして表される;(ii)各MHC対立遺伝子に対する免疫ペプチドミクス解析から特定されたタンパク質コード遺伝子から誘導されるMHCクラスI結合型lncRNA由来ペプチドにおけるアミノ酸残基保存を実証する配列ロゴ。
【
図3D】CT26細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。マウスlncRNAデータベースから誘導されるとして特定された各ペプチドのペプチド長が、グラフ上に表示される。195種類のペプチドが、Progenesisソフトウェアを用いる定量的解析において検出された。
【
図3E】CT26細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。Gm37283、Gm17173、およびGm37494 lncRNA転写産物の配列の一部分が、特定されたMHCクラスI結合型ペプチド(四角形)を生じる、予測上のORF(灰色強調で示される)と共に表示される(それぞれ、配列番号177、178および179)。アミノ酸配列は、配列番号180~187に示される。
【
図3F】CT26細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。(i)各回収画分(254nmでの吸光度読み出し値により)中で検出された総RNA量を示す、1μM T1-44またはDMSOを用いて72時間にわたって処理されたCT26細胞において行われた例示的ポリソームプロファイリングアッセイ。遊離未結合RNAを表す画分(画分1~5);80Sリボソーム画分(画分6);および漸増ポリソームサイズを有するポリソーム画分(画分7~12)が示される。(ii)MHCクラスIペプチドを生じる、72時間にわたってDMSOまたは1μM T1-44を用いて処理されたCT26細胞からのGm37494 lncRNAに関するポリソームプロファイリングアッセイが表示される。データは、各画分中の総RNAのうちのパーセンテージとして表される;n=3;(iii)示されるlncRNAリボソームプロファイリングアッセイのうちのそれぞれからの重い(画分10~12)から軽い(画分6~9)ポリソーム比の算出による、ポリソームプロファイリングアッセイの定量化;(iv)免疫ブロットが、T1-44活性の尺度としてSDMeレベルを実証するために含められる。
【
図4A】HCT116細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。HCT116細胞を、1μM T1-44またはDMSO(対照)を用いて48時間処理し、その後、MHCクラスI対立遺伝子に対して特異的な抗体を用いる免疫沈降および質量分析のためのMHC結合型lncRNA由来ペプチドの抽出を行った。実験は、生物学的複製(rep1、rep2)で行った。各処理および生物学的複製間での定性的免疫ペプチドミクス解析から特定されるMHC結合型lncRNA由来ペプチドの重複が、Venn図表中に示される。55種類のペプチドを、定性的GENCODE注釈付きデータベースから特定した。
【
図4B】HCT116細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。(i)免疫ペプチドミクス解析からの特定されたlncRNA由来ペプチドが結合した各MHC対立遺伝子に関する予測上の対立遺伝子頻度を棒グラフ上に表示し、合計のうちのパーセンテージとして表される;(ii)各MHC対立遺伝子に対する免疫ペプチドミクス解析から特定されたlncRNA遺伝子から誘導されるMHCクラスI結合型ペプチドにおけるアミノ酸残基保存を実証する配列ロゴ。
【
図4C】HCT116細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。lncRNA GENCODEデータベース(PROGENESISソフトウェア解析)から誘導されるとして特定された各ペプチドのペプチド長が、グラフ上に表示される。76種類のペプチドが、定量的GENCODEデータベースから特定された。
【
図4D】HCT116細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。(i)各回収画分(254nmでの吸光度読み出し値により)中で検出された総RNA量を示す、1μM T1-44またはDMSOを用いて48時間にわたって処理されたHCT116細胞において行われた例示的ポリソームプロファイリングアッセイ。遊離未結合RNAを表す画分(画分1~5);80Sリボソーム画分(画分6);および漸増ポリソームサイズを有するポリソーム画分(画分7~12)が示される;(ii)48時間にわたってDMSOまたは1μMのT1-44を用いて処理されたHCT116細胞からのMALAT1およびAC079135.1のlncRNAに関するポリソームプロファイリングアッセイが表示される。データは、各画分中の総RNAのうちのパーセンテージとして表される;n=3;(iii)48時間にわたってDMSOまたは1μMのT1-44を用いて処理されたHCT116 WTおよびE2F1 Cr細胞からの示されるlncRNAリボソームプロファイリングアッセイのうちのそれぞれからの重い(画分10~12)から軽い(画分6~9)ポリソーム比の算出による、ポリソームプロファイリングアッセイの定量化;(iv)免疫ブロットが、T1-44活性の尺度としてSDMeレベルを実証するために含められる。
【
図4E-1】HCT116細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。(i)MHCクラスI上に提示されるペプチドをコードすることが見出されたヒトlncRNA転写産物からの予測上のORFの挿入のためのクローニングベクターとして用いたpSF-CMV-NEO-COOH-FLAGプラスミドの模式的表示。予測上のORFおよび上流配列の短いセクション(いずれかの内因性Kozak配列を含む)を、C末端3×FLAGタグとインフレームでベクターのマルチクローニング部位(MCS)へとライゲーションした。
【
図4E-2】HCT116細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。(ii)MALAT1およびAC079135.1 lncRNA転写産物の配列の一部分が、特定されたMHCクラスI結合型ペプチド(四角形)を生じる、予測上のORF(灰色強調で示される)と共に表示される(配列番号188、189)。アミノ酸配列は、配列番号189~193に示される。このORFを、C末端FLAGタグの上流でpSF-CMV-NEO-COOH-3xFLAGベクターへとクローニングした。(iii)4μgのMALAT1およびAC079135.1 ORF-Flagプラスミドを48時間にわたってHCT116細胞にトランスフェクションし、その後、抗Flag抗体を用いる免疫蛍光分析を行った。DAPIを用いて細胞核を染色した。(iv)4μgのMALAT1およびAC079135.1 ORF-FlagプラスミドをHCT116細胞にトランスフェクションし、その後、Flag抗体を用いる免疫ブロット分析を行った。
【
図4F】HCT116細胞の免疫ペプチドミクス解析を示す図である。4μgのMALAT1(MAL)またはAC079135.1(AC)ORF-Flagプラスミドおよび0.5μgのGFPプラスミドを72時間にわたってHCT116 WT E2F1およびHCT116 E2F1Cr細胞にトランスフェクションした。最後の48時間は、DMSOまたは1μMのT1-44を用いても細胞を処理し、その後、示される抗体を用いる免疫ブロット分析を行った。SDMeを、T1-44化合物の活性を実証するために含めた。
【
図5A】TCGAおよびがん細胞株データセットを用いて正常組織に対して腫瘍における発現を比較する、lncRNA転写産物をコードするペプチドのヒートマップを示す図である。青色ヒートマップ(上側)-正常組織に対応する腫瘍の解剖学的部位に応じる全サンプルの平均[log2(fpkm+0.001)]として表される発現;赤色/緑色ヒートマップ(左下)-腫瘍/正常比の表示[Log2(腫瘍/正常FPKM比)]、赤色(MALAT1において豊富)は正常でのより高い発現を表し、緑色は腫瘍組織でのより高い発現を表す;橙色ヒートマップ(中央下)-異なる結腸直腸がん細胞株での発現レベル[Log2(fpkm+0.001)];明青色(右下)-マイクロサテライト安定性患者および不安定性患者における未処理Zスコア標準化発現レベル。
【
図5B】数種類のlncRNA遺伝子の発現に関する、副腎皮質がん(i)、結腸直腸がん(ii)、および膵臓がん(iii)を有する患者の全生存期間のカプラン・マイヤー曲線を示す図である。Gepia2ツールを用いてプロットを作成した。各分析に関して、患者を2つの群に分け、一方は高発現(赤色線)であるか、または一方は低発現(青色線)であった。
【
図5C】DMSO対照に対する、T1-44を用いて処理したCT26細胞に対する免疫ペプチドミクス実験で特定されたマウスlncRNAによりコードされる20種類の選択されたペプチドの特性決定を示す図である。左から順番に、各列は、ペプチドの配列、lncRNA遺伝子名、転写産物登録ID;ペプチド長;正味MHCpanスコアおよび対立遺伝子列は結合親和性予測解析からの結果を示す;ペプチド存在量変化倍率(T1-44処理対DMSO処理)(PROGENESISソフトウェアを用いて誘導される);CT26細胞における発現レベル(本発明者らの社内RNA-seqデータベースおよび他のデータベース-GENEVESTIGATORソフトウェアに基づく)(低-log2TPM<7.5;中-log2TPM 8.5~11.5;高-log2TPM>11.5);胸腺における発現(EXPRESSION ATLAS-www.ebi.ac.uk/gxa/homeおよびGENEVESTIGATORソフトウェアに基づく)(低-log2TPM<7.5;中-log2TPM 8.5~11.5;高-log2TPM>11.5;カットオフ未満-発現なし)を特徴付け;最後の列は、免疫原性実験からの結果を表す。
【
図6A】colon26腫瘍モデルにおけるがんワクチンとしてのlncRNA由来MHCクラスIペプチドを示す図である。(i)lncRNAから誘導されるとして特定されるMHCクラスI結合型ペプチドに対する免疫応答を測定するために用いた免疫原性アッセイの模式的表示。簡潔には、各5種類のペプチドのプールを含む4群(各群中4匹のマウス)へと分けられる20種類のペプチド(各50μg)を用いて、0日目にBalb/cマウスにワクチン接種し、追加ワクチン接種を7日間後に行った。アジュバントとして、CD40抗体およびpoly:ICを用いた。陽性対照として、AH1ペプチド(SPSYVYHQF;配列番号156)ワクチン接種を用いた。追加免疫の7日間後にマウスを殺処分し、脾臓を取り出して、ELIspotアッセイのための脾細胞を単離した。(ii)それぞれ別個のマウス由来の脾細胞を、その群がそれを用いてワクチン接種された個別の個々のペプチド(15μL/mL)を用いて刺激した。各ペプチドを、示されるペプチドを用いて2回反復で試験し、インターフェロンγに基づくELIspotアッセイで活性を測定した。DMSOを陰性対照として用いた。スポットを、ELISPOTカウンタ上で定量化した。
【
図6B】colon26腫瘍モデルにおけるがんワクチンとしてのlncRNA由来MHCクラスIペプチドを示す図である。(i)colon26腫瘍負荷実験で用いた樹状細胞(DC)に基づくワクチン戦略の模式的表示。0日目での15種類のlncRNA由来ペプチドのプールおよび7日目での第2用量を用いてパルス刺激した樹状細胞(DC)を用いて、無作為化したBalb/cマウスにワクチン接種した。対照として、未パルス刺激樹状細胞を用いた;n=6。(ii)平均値(±SEM)として提示される未パルス刺激およびパルス刺激DC処理BALB/cマウスにおける絶対腫瘍生育体積、n=6。(iii)12日目での個別のマウスの絶対腫瘍体積の散布図(t検定;
*p<0.05)、n=6;(iv)平均値として提示される未パルス刺激およびパルス刺激DC処理BALB/cマウスの相対的体重表示、n=7。
【
図6C】colon26腫瘍モデルにおけるがんワクチンとしてのlncRNA由来MHCクラスIペプチドを示す図である。E2F1-PRMT5軸によるlncRNA由来抗原提示の調節を示すためのモデル図。E2F1のPRMT5標的化メチル化が、MHCクラスIタンパク質複合体に対する提示のためのペプチドエピトープを生成するようにプロセシングされることができるポリペプチドへとその後に翻訳される多数のlncRNAの発現をはじめとする、多数の遺伝子に対するその転写活性に影響を及ぼすことが提案される。化合物T1-44を用いるPRMT5活性の薬理学的操作は、免疫原性ペプチドをコードする数種類のlncRNA転写産物の変化した発現をもたらす。本発明者らは、MHCクラスI複合体によるこれらの免疫原性ペプチドの後続の提示が、観察される腫瘍微小環境(TME)の増加した免疫細胞浸潤に寄与することを提案する。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子から誘導されるペプチドまたはその誘導体が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に従うペプチドをコードする核酸配列が提供される。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様の核酸を含むベクターが提供される。好適には、ベクターは、本発明の第2の態様の核酸を発現することが可能な発現ベクターである。本発明の核酸を発現させることはまた、配列によりコードされるペプチドを生成することも含む。
【0012】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第2の態様の核酸または本発明の第3の態様のベクター(例えば、発現ベクター)を含む宿主細胞が提供される。
【0013】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第1の態様の少なくとも1種のペプチドまたは本発明の第2の態様の核酸または本発明の第3の態様のベクターを含むワクチンが提供される。
【0014】
本発明の第6の態様によれば、腫瘍特異的ワクチンを製造するための方法であって、PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子によりコードされる、腫瘍により発現されるペプチドを特定するステップ;および前記ペプチドのうちの1つもしくは複数または前記1つもしくは複数のペプチドをコードする核酸をワクチンへと組み込むステップを含む方法が提供される。任意により、前記ペプチドはまた、免疫原性であるかまたはMHCクラス1分子に結合することを確認するためにも試験される。
【0015】
本発明の第7の態様によれば、本発明の第1の態様のペプチド、本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0016】
本発明の第8の態様によれば、療法での使用のための、本発明の第7の態様の医薬組成物または本発明の第1の態様のペプチド、または本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンが提供される。好適には、療法はがんの治療である。特定の実施形態では、がんの治療は、PRMT5阻害剤と組み合わせた、本発明の第7の態様の医薬組成物または本発明の第1の態様のペプチド、または本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンの投与を含む。
【0017】
本発明の第9の態様によれば、腫瘍ワクチン中への包含のためにペプチドを選択するための方法であって、腫瘍細胞サンプルをPRMT5阻害剤と接触させるステップおよび接触させた(処理した)細胞による1つまたは複数の、lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの発現レベルを決定するステップおよび腫瘍ワクチン中への包含のために調節解除されかつ免疫原性である1つまたは複数のペプチドを選択するステップを含む方法が提供される。好適には、腫瘍細胞サンプルは、がん/腫瘍を有する患者から取得される。好適には、ペプチドは、腫瘍細胞において上方調節されるものである。
【0018】
つまり、本発明の第9の態様の変形では、腫瘍ワクチン中への包含のためにペプチドを選択するための方法であって、腫瘍タイプの細胞をPRMT5阻害剤と接触させるステップおよび接触させた細胞による1つまたは複数の、lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの発現レベルを決定するステップおよび腫瘍ワクチン中への包含のために上方調節される1つまたは複数のペプチドを選択するステップを含む方法が提供され、任意により、選択に先立って、ペプチドはまた、免疫原性であるか否かを決定または予測するためにも試験され、かつ1つまたは複数の免疫原性ペプチドが腫瘍ワクチン中への包含のために選択される。
【0019】
本発明の第10の態様によれば、ワクチンを製造するための方法であって、本発明の第9の態様に従ってワクチン中への包含のためにペプチドを選択するステップおよび前記ペプチドを提示することが可能なワクチンを生成するステップを含む方法が提供される。
【0020】
本発明の第11の態様によれば、免疫応答を刺激することによる、がんの治療における使用のためのPRMT5阻害剤が提供される。
【0021】
別途定義されない限り、本明細書中で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものに類似または均等である方法および材料を本発明の実施または試験において用いることができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が支配するであろう。加えて、材料、方法、および実施例は、単に例示的であり、限定的であることは意図されない。
【0022】
本発明の他の特徴および利点が、以下から明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0023】
開示される方法は、本開示の一部分を形成する以下の詳細な説明を参照して、より容易に理解することができる。開示される方法は、本明細書中に記載されかつ/または示される具体的な方法に限定されないこと、および本明細書中で用いられる用語は例を用いて特定の実施形態を説明する目的のみのためのものであり、かつ特許請求される方法の限定であることは意図されないことが理解されるべきである。
【0024】
本開示の方法は、別途示されない限り、当技術分野の技能の範囲内である、分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、および生化学の慣用の技術を利用するであろう。例示的な技術は、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、2nd edition(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、New York:Cold Spring Harbor Press、1989);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら編、Current Protocols of Molecular Biology、John WileyおよびSons(1987);ならびに「PCR:The Polymerase Chain Reaction」、(Mullisら編、Birhauser、Boston、1994)などの文献中に完全に説明される。
【0025】
別途示されない限り、本明細書中で用いられる各遺伝子名は、遺伝子に対して割り当てられかつ本出願の出願日時点でEntrez Gene(URL:www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez)により提供される正式な記号に対応する。
【0026】
[定義]
特定の数値に対する参照は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、少なくともその特定の値を含む。値の範囲が表現される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から、かつ/または他の特定の値までを含む。さらに、範囲中に明記される値に対する参照は、その範囲内のそれぞれおよびすべての値を含む。すべての範囲は、包含的かつ結合可能である。
【0027】
明確性のために、別個の実施形態の文脈において本明細書中に記載される開示される方法の特定の特徴はまた、単一の実施形態中で組み合わせて提供される場合もあることが理解されるべきである。逆に、簡潔性のために、単一の実施形態の文脈において記載される開示される方法の様々な特徴はまた、別個にまたはいずれかの下位組み合わせで提供される場合もある。
【0028】
冠詞「a」、「an」、および「the」は、冠詞の文法上の目的語のうちの1つまたは2以上(すなわち、少なくとも1つ)を意味するために本明細書中で用いられる。
【0029】
選択肢(例えば、「または」)の使用は、選択肢のうちの一方、両方、またはそれらの組み合わせのいずれかを意味することが理解されるべきである。
【0030】
用語「および/または」は、選択肢のうちの一方、または両方のいずれかを意味することが理解されるべきである。
【0031】
先行詞「約」を用いることにより、値が近似値として表現される場合、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されるであろう。
【0032】
本明細書中で用いられる場合かつ別途明記されない限り、用語「約」は用語「概ね」と同義的に用いられることが理解されるべきである。例示的にかつ別途明記されない限り、用語「約」の使用は、挙げられる基準値の若干外側の値、例えば、±15%、±10%、±8%、±5%または簡便には±2%を示す。したがって、そのような値は、用語「約」または「概ね」を記載する請求項の範囲により包含される。
【0033】
本明細書中で用いる場合、用語「インビトロ」とは、試験管、培養ディッシュ、または生存生物の外側の他の場所において実行されるかまたは行われることを意味する。分析が生物の外側で行われるので、この用語はまた、エクスビボも含む。
【0034】
本明細書中で用いる場合、用語「単離されている」とは、その生来の状態では通常それに伴う成分を実質的または本質的に含まない物質を意味する。「対象から単離されている」の文脈では、これは、対象から取り出されることを意味することができる。特定の実施形態では、用語「取得されている」または「誘導されている」は、「単離されている」と同義的に用いられる。
【0035】
「対象」、「個体」、または「患者」は、本明細書中で用いる場合、本発明を用いて試験することができるいずれかの動物を含む。好適な対象としては、実験動物(マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットなど)、畜産動物(ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタなど)、および家庭用動物またはペット(ネコまたはイヌなど)が挙げられる。特定の実施形態では、対象は哺乳動物である。ある種の実施形態では、対象は非ヒト霊長類であり、特定の実施形態では、対象はヒトである。
【0036】
<本発明のペプチド>
本発明は、部分的には、PRMT5の阻害に供された腫瘍細胞が、長い非コード(lnc)RNA遺伝子によりコードされることが本発明者らにより特定された、細胞表面を含む腫瘍細胞における様々なペプチドの増加した発現をもたらすという認識に基づく。そのようなペプチドは、PRMT5-E2F1軸により調節される。差次的に発現されるlncRNAのバイオインフォマティクス解析は、これらのうちの大部分が、E2F結合性部位を伴うかまたは保持したことを見出し、このことは、これらがE2F1の転写制御下にあることを暗示した。
【0037】
本発明者らは、これらのペプチドのうちの多くが、免疫原性であり、MHCクラスI分子に結合することが可能であり、かつ宿主免疫応答を生起し、これが腫瘍細胞生育の減速をもたらしたことを発見した。したがって、これらのペプチドは、ワクチン設計において利用することができる腫瘍関連抗原の新規供給源である。
【0038】
本発明の一態様はまた、腫瘍細胞に対する宿主免疫応答を刺激することによるがんの治療での使用のためのPRMT5阻害剤にも関する。腫瘍細胞を標的化するこの新規メカニズムは、PRMT5阻害の直接的ながん死滅作用に対する抵抗性を獲得したがんを治療する能力をはじめとする、新規臨床的用途を提案する。さらに、これらのペプチドに曝露された樹状細胞は、腫瘍細胞生育を減速させることが可能であり、このことは、これらのペプチドが、宿主免疫応答を刺激するための、かつしたがって、ワクチン中での使用に対して好適な薬剤として機能することができることを実証した。したがって、本発明のペプチドは、療法において、特にがんの治療において用いることができる。
【0039】
ヒトゲノムのうちの大部分は、異なる構造エレメントおよび調節エレメントから構成される非古典的遺伝子により占められ、例えば、マイクロRNAをコードする遺伝子および長い非コード(lnc)RNAを含む(GebertおよびMacRae、2019;Statelloら、2021)。lncRNA遺伝子(本明細書中でlncRNAまたはlnc遺伝子と称される)は、哺乳動物細胞における転写の主な起源であり、典型的には200ヌクレオチド超の長さを有する転写産物をコードする。しかしながら、lncRNA転写産物のうちの少数がmRNAと同じ様式でプロセシングされることが示され、稀な場合に生物学的役割を果たすことが示唆されている一方で、それらのうちの大多数は非翻訳RNAとして存在すると考えられた(Statelloら、2021)。
【0040】
本発明の第1の態様によれば、PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子から誘導されるペプチドまたはその誘導体が提供される。
【0041】
好適には、ペプチドは免疫原性である。好適には、ペプチドはMHCクラスI関連ペプチドまたはその誘導体である。好適には、ペプチドは、ヒト白血球抗原(HLA)クラスI分子により提示される。好適には、ペプチドは単離されている。
【0042】
用語「単離されている」とは、本明細書中で用いる場合、一般的に、成分が天然に存在する生物の細胞中の他の生物学的成分、すなわち、他の染色体および染色体外DNAおよびRNA、ならびにタンパク質から実質的に分離もしくは精製されており;かつ/または天然分子の比較的短い成分である、生物学的成分(核酸分子、タンパク質またはペプチドなど)を意味する。「単離されている」核酸およびタンパク質は、標準的な精製方法により精製された核酸およびタンパク質を含む。この用語はまた、宿主細胞中での組み換え発現により調製された核酸およびタンパク質ならびに化学合成された核酸、タンパク質およびペプチドも包含する。
【0043】
好適には、lncRNA転写産物は、予測上のE2F結合性部位を有する。
【0044】
好適には、ペプチドは、予測上のE2F結合性部位も有するlncRNA転写産物の一部分によりコードされるアミノ酸配列を有する。E2F結合性部位は、E2F1に結合する遺伝子のプロモーター中のDNA配列である。E2F1は転写因子であり;DNA配列に結合したら、続いて、E2F1は遺伝子の転写を駆動することができる。カノニカルなE2F1結合性部位配列はTTTSSCGCであり、ここでSはグアニンまたはシトシンである。
【0045】
好適には、ペプチドは、表1に開示されるもの、またはその中に開示されるペプチドの誘導体である。
【0046】
【0047】
ペプチドは、5アミノ酸を超えるいずれかの長さのものであり得る。典型的には、ペプチドは、6~30アミノ酸長の範囲内、例えば8~20アミノ酸長である。実施例において特定されるMHC1により提示される免疫原性ペプチドは、9アミノ酸の平均長さを有した。特定の実施形態では、免疫原性ペプチドは、8、9または10アミノ酸長である。
【0048】
第1の態様のペプチドは、本発明のペプチドまたは本発明のlncRNA遺伝子ペプチドと本明細書中で称される場合がある。
【0049】
ペプチドのうちの1つの「誘導体」とは、ペプチドの免疫原性を維持するための要件下にある、アミノ酸欠失、付加または置換を含むことができる突然変異体または変異体ペプチドを意味する。つまり、5’または3’末端からの切断の場合など、実質的にペプチドの性質を変化させることなく、保存的アミノ酸置換を行うことができる。さらに、欠失および置換を、本発明のペプチドに対して行うことができる。ペプチドの置換、欠失または挿入による変異体は、組み換え法により調製し、かつ生来型ペプチドとの交差反応性についてスクリーニングすることができる。誘導体はまた、融合タンパク質も包含し、このとき、融合タンパク質の一部分が本発明のペプチドであり、他の部分のいくつかは他のペプチド配列である。「から誘導される」は、ペプチドがlncRNAから発現されるポリペプチドの一部分である状況を含む。つまり、例示の目的で、lncRNA遺伝子が80アミノ酸長のポリペプチドをコードする場合、そこから誘導されるペプチドは、8または9アミノ酸以上であるが80アミノ酸よりも少ないペプチドなど、その比較的小さな一部分であり得る。
【0050】
したがって、PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子から誘導されるペプチドは、翻訳されたポリペプチド全体またはその一部分、すなわち、ペプチドであり得る。好適には、ペプチドは免疫原性である。好適には、ペプチドは、例えば、抗原-MHCクラス1複合体として、MHCクラス1分子上に提示されることが可能である。
【0051】
特定の実施形態では、ペプチドの誘導体は、ペプチドとの少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を含む。親lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドに関して、そのような誘導体ペプチドは、親lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの改変型変異体と称される場合がある。
【0052】
<核酸および宿主細胞>
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に従うペプチドをコードする核酸配列が提供される。
【0053】
好適には、核酸は、DNA、cDNA、PNA、RNAまたはそれらの組み合わせである。
【0054】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様の核酸を含むベクターが提供される。プラスミド、コスミド、ウイルスベクターなどのいずれかのベクターを用いることができる。ベクターは、例えば、細菌形質転換、細胞培養およびベクター精製の標準的アプローチを用いて、インサート配列の多数のコピーを増幅するために用いることができる。ベクターはまた、コードされるタンパク質の発現を促進することもできる。
【0055】
特定の実施形態では、ベクターは発現ベクターであり、かつ本発明の第2の態様の核酸を発現することが可能である。本発明の第2の態様の核酸を発現させることはまた、配列によりコードされるペプチドを生成することも含む。
【0056】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第2の態様の核酸または本発明の第3の態様のベクターを含む宿主細胞が提供される。
【0057】
いずれかの好適な宿主細胞、例えば、原核細胞または真核細胞を用いることができ、特定の実施形態では、宿主細胞は、細菌、真菌(酵母を含む)、および哺乳動物細胞からなる群より選択される。
【0058】
<ワクチン>
がんワクチンは、一般的に、タンパク質抗原/アジュバントワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターに基づくワクチン、腫瘍細胞ワクチン、および樹状細胞ワクチンの分類のうちの1つに関する。ワクチンのこれらのタイプのうちのいずれかを、本発明において利用することができる。
【0059】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第1の態様に従う少なくとも1種のペプチドまたは本発明の第2の態様の核酸または本発明の第3の態様のベクターを含むワクチンが提供される。
【0060】
ワクチン技術は十分に進歩しており、身体の免疫細胞に対して本発明のペプチドを提示することが可能ないずれかのワクチンプラットフォームを利用することができる。好適には、ワクチンは、タンパク質抗原/アジュバントワクチン、ペプチドワクチン、RNAワクチン、DNAワクチン、ベクターワクチンまたは樹状細胞ワクチンである。好適には、ベクターワクチンはウイルスベクターワクチンである。
【0061】
選択された抗原ペプチドがワクチン中に含められ、かつ免疫応答を惹起するために抗原提示細胞上に提示されるペプチドワクチンを用いることができる。ペプチドワクチンは、多くの場合、局所免疫応答をプライミングするためのアジュバントと共に同時投与される。ペプチドは、CD8+および/またはCD4+特異的T細胞を刺激する必要があり、したがって、ペプチドワクチンのうちの大部分は、その免疫原性部分を含む入れ子状のCD8+T細胞および/またはCD4+T細胞エピトープを含む、8~30アミノ酸長付近のペプチドを用いる。免疫原性部分は、MHC1が結合するペプチドであり、そのような免疫原性ペプチドは、典型的には8、9または10アミノ酸長であり、9アミノ酸長が最も普通であろう。好適には、多数の抗原が同時に標的化されてポリクローナル抗原T細胞応答を生じ、免疫応答を強化しかつ腫瘍細胞上でのいずれかの抗原欠損を軽減することができるように、多ペプチドワクチンが用いられる。
【0062】
ペプチドワクチンの利点は、化学合成することができ、大規模かつ他のがん治療と比較して低減されたコストで製造することができることである。
【0063】
がんワクチン中のペプチド抗原との遊離アジュバントの投与は、注入後にそれらの解離を生じ得る。これに対処するための1つの選択肢は、例えば、直接的コンジュゲート化により、アジュバントとペプチド抗原とを互いに連結することである。ペプチドは、抗原提示細胞へのより効率的な送達のために、脂質などの疎水性担体、脂肪酸およびTLRアゴニストに連結することができる。
【0064】
本発明の特定の実施形態では、本発明の1つまたは複数のペプチドは、アジュバントにコンジュゲート化される。
【0065】
核酸に基づくワクチンは、細胞に侵入し、抗原エピトープ(例えば、本発明のペプチド)を転写、翻訳およびプロセシングして、それらがMHCに対して提示されかつ宿主免疫応答を生起することができように設計される。
【0066】
DNAワクチンは、設計が簡単であり、生成するのが比較的安価であり、かつ合理的な安定性(2~8℃)および溶解度を有する。プラスミドDNAワクチンは、抗原およびアジュバントの両方として機能するために設計することができ、CGリッチ領域を含む非メチル化DNAはまた、アジュバントとしても機能することができる。プラスミドDNAは、抗原提示細胞へと取り込まれるように設計することができ、ここで転写、翻訳され、MHCと組み合わせて細胞表面上に提示されるエピトープ(例えば、本発明の免疫原性ペプチド)と共にプロセシングされる。
【0067】
RNAワクチンは、宿主細胞ゲノムに取り込まれず、したがって、そのようなインテグレーションに伴う安全性の懸念を回避するという利点を有する。RNAワクチンは設計が容易であり、複数エピトープをコードすることができ、一本鎖であるのでTLP7および8もまた刺激し、したがってアジュバント機能を有する。RNAワクチンはまた、転写のために核へと送達する必要があるDNAとは異なって、タンパク質への翻訳のために細胞質へと送達する必要のみを有する。しかしながら、RNAワクチンは、ヌクレアーゼ(例えば、RNアーゼ)分解に対してはるかに感受性が高く、したがって、DNAベクターよりも脆弱である。
【0068】
ウイルスベクターは、多数のウイルスから設計および作製されてきた。最も一般的に用いられるウイルスベクターは、アデノウイルス、ポックスウイルスおよびアルファウイルスに由来する。大多数は、これらの複製欠損型または弱毒化型である。ウイルスベクターの欠点は、免疫系により外来性と認識され、したがって、同じかまたは類似のベクターを用いる反復免疫化は、免疫系がこれらのベクターを中和し、したがってそれらの効果を弱めかつ効果的な反復投与を妨げることをもたらし得る。
【0069】
好適には、ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス(セムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルス、またはベネズエラウマ脳炎ウイルスなど)、アレナウイルス(ラッサ熱ウイルス、マチュポウイルス、またはフニンウイルスなど)、麻疹ウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、またはインフルエンザウイルスなどのウイルスに由来する。
【0070】
一部は二本鎖DNAウイルスであり(アデノウイルスなど);一部は一本鎖RNAウイルスであり(フラビウイルスおよびアルファウイルスなど)、これはDNAへのゲノムの逆転写およびその後にコードされるポリペプチドの後続の発現を必要とする。
【0071】
ChAdOx1ベクターは、好適なアデノウイルスベクターの例である。より最近、このベクターは、ChAdOx1 nCoV-19として公知のCOVID-19ワクチンに対するプラットフォームとして用いられた。本発明で利用することができる他の好適なアデノウイルスベクターとしては、限定するものではないが、Ad5-S-nb2およびAd26-Sが挙げられる。
【0072】
ワクチン用途をはじめとする治療的使用のためのウイルスベクターの総説に関して、Lundstrom(2020)を参照されたい。その中の表2は、2020年時点での前臨床および臨床がんワクチンのリストを提供し、利用されている特定のワクチンベクターを特定する。
【0073】
特定の実施形態では、本発明での使用のためのワクチンベクターは、ChAdOx1、Ad5-S-nb2、Ad26-S、Ad5/35、SFV(セムリキ森林ウイルス)、AAV(アデノ随伴ウイルス)、KUN、VSVΔG、HSV-1 T-VECおよびVEE(ベネズエラウマ脳炎ウイルス)からなる群より選択される。
【0074】
細胞ベースのワクチンもまた用いることができる。樹状細胞は、様々なメカニズムを介して腫瘍関連抗原(TAA)を取り込みかつ提示し、腫瘍細胞に対するエフェクター応答をプライミングするそれらの能力を考慮して、がんワクチンに対して特に好適である。直接的な抗原提示の他に、DCは、リンパ組織と非リンパ組織との間を移動し、かつ炎症およびリンパ球ホーミングを制御するためのサイトカインおよびケモカイン勾配を調節することができ、これらのすべてが、全身性かつ長期的な抗腫瘍作用にとって重要である。異なるDC集団を用いることができるが、多くの証拠が、従来の1型DC(cDC1)が腫瘍免疫において不可欠な役割を果たし、かつワクチン接種目的のための有望な代替的細胞タイプを代表することを示唆する。
【0075】
患者由来DCを、確立されたプロトコールを用いてエクスビボで本発明の抗原ペプチドに対して曝露させ、かつ患者に再移植することができる。細胞は、同種または自家であり得る。ペプチドを用いて正しくパルス刺激された細胞は、続いて、インビボでの抗原提示が可能であるはずである。
【0076】
樹状細胞ワクチンアプローチを用いる場合、樹状細胞を、複数の免疫原性ペプチドに対して曝露させることができる。したがって、ワクチンは、本発明の免疫原性ペプチドの混合物であり得る。
【0077】
ウイルスワクチンに対して特に適している1つのアプローチは、これらのペプチドを直列に含むキメラポリペプチドへと複数の免疫原性lncRNA遺伝子由来ペプチドを含め、これをワクチンの一部分として提示させることである。つまり、特定の実施形態では、ワクチンは、1種類、2種類、3種類、4種類、5種類、6種類、7種類、8種類、9種類、10種類、11種類、12種類、13種類、14種類、15種類、20種類、25種類、30種類、35種類、40種類またはそれ以上の本発明のペプチドを含む。任意により、特に複数のペプチドを含む場合、それらのペプチドは、複数のペプチドを含むキメラポリペプチド内で提供される。これらのペプチドは、直列であり得、かつ1つもしくは複数のスペーサーアミノ酸および/またはプロテアーゼ切断部位により隔てられることができる。
【0078】
好適には、ワクチンは、少なくとも5種類のペプチド、少なくとも10種類のペプチドまたは少なくとも15種類の本発明のペプチドを含む。
【0079】
本発明の第6の態様によれば、腫瘍特異的ワクチンを製造するための方法であって、PRMT5-E2F1軸により調節される長い非コードRNA遺伝子によりコードされる、腫瘍により発現される免疫原性ペプチドを特定するステップ;および前記ペプチドのうちの1つもしくは複数または前記1つもしくは複数のペプチドをコードする核酸をワクチンへと組み込むステップを含む方法が提供される。
【0080】
lncRNA発現は、腫瘍のタイプに対して特異的であり、したがって、ワクチンはペプチドがそれから誘導されたlncRNAを発現する腫瘍に対して優先的に作用するであろう。
【0081】
<ワクチンアジュバント>
適応免疫応答を強化するために、注入部位へと免疫細胞を誘引することを助け、かつ流入領域リンパ節への抗原の細胞媒介輸送および抗原提示細胞の惹起を促進することができるアジュバントと共に、ワクチンを投与することができる。
【0082】
多数のワクチンアジュバントが、長年にわたって開発および試験されてきた。Montanide ISA-51およびMontanide ISA-720などの油中水型エマルジョン;病原体関連分子パターン分子(PAMP);ポリリジンを含むポリイノシン酸-ポリシチジル酸およびカルボキシメチルセルロース(Pol-ICLC、TLR3アゴニスト)、モノホスホリル(monolphosphoryl)リピドA(MPLA)(TLR4アゴニスト)、イミキモド(TLR7アゴニスト)、レシキモド(TLR7およびTLR8アゴニスト)、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)(TLR9アゴニスト)などのToll様受容体アゴニスト;CD40アゴニスト;インターフェロン遺伝子タンパク質の刺激因子(STING)アゴニスト;IL-2、IL12、インターフェロンγ、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などのサイトカインが挙げられる(総説に関して、Pastonら、2021を参照されたい)。
【0083】
がんワクチンの大部分は、現在、アジュバントとしてTLPアゴニストを用いている。
【0084】
好適には、ペプチドワクチンは、アジュバントに直接的に融合される。ペプチドは、抗原提示細胞へのより効率的な送達のために、脂質などの疎水性担体、脂肪酸およびTLRアゴニストに連結することができる。
【0085】
特定の実施形態では、本発明のワクチンは、上記に開示されるものなどの好適なアジュバントと共に投与される。
【0086】
当業者は、選択されたワクチンとの使用のために適切なアジュバントを選択することができる。
【0087】
<ワクチン送達系>
抗原提示細胞(APC)中への核酸に基づくワクチンの送達は、エレクトロポレーションを用いて強化することができ、このとき、小さな電気パルスが細胞膜での一時的な孔の形成を誘導し、それを通して核酸がより容易に通過することができる。幾分かの局所的な組織損傷を引き起こすことに起因して、これは近傍への炎症性サイトカインを刺激し、したがって、アジュバント効果も有する。
【0088】
ポリマー性ナノ粒子、リポソーム、ミセル、カーボンナノチューブ、金ナノ粒子、メソポーラスシリカナノ粒子、およびウイルスナノ粒子などの様々なナノ粒子に基づく送達系もまた、ワクチン送達のために用いられてきた。DOTMA、DOTE、DOTAP、コレステロール、Lipolexなどのリポソームおよび脂質に基づくナノ粒子製剤が、特に一般的である。
【0089】
免疫応答を刺激するための抗原はまた、自己会合性ペプチドの一部分として送達することもでき、これらの系は、高い薬物積載性、生分解性および比較的小さなサイズをはじめとする、リポソームまたはナノ粒子を超える一定の利点を有する。グリコサミノグリカン(glycosaminoglycab)(GAG)結合性強化型形質導入(GT)送達系などの細胞膜透過ペプチド(CPP)に基づく遺伝子ベクターは、そのような1つの例である。
【0090】
<組み合わせ>
好適には、本発明のワクチンは、別の治療剤と組み合わせて投与される。がんワクチンは、強力な免疫応答を誘導する潜在能力を有するが、腫瘍細胞は、T細胞の機能およびT細胞による認識を妨げる、様々な免疫回避メカニズムを有する。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫応答を調節する細胞表面受容体である。TMEにおいては、チェックポイント受容体の発現は、T細胞活性化を抑制し、したがって、免疫応答を回避させることができる。細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4(CTLA4)およびプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)は、最も特性決定されたチェックポイント受容体である。CTLA-4またはPD-1/PD-L1経路を特異的に遮断する抗体は、腫瘍抗原の上首尾での認識および腫瘍細胞の殺傷を可能にするT細胞免疫抑制に対する潜在能力を有する。
【0091】
したがって、チェックポイント阻害剤分子は、ワクチンとの組み合わせに対して特に有用である。腫瘍微小環境(TME)は、その免疫抑制をもたらし得る。チェックポイント阻害剤の使用は、このTME駆動型免疫抑制を軽減し、ワクチン効力を最大化することができる。
【0092】
現在臨床試験中の多数のがんワクチンは、CTLA-4、PD-1またはPDL-1阻害剤などのチェックポイント阻害剤と組み合わせられる。本発明のワクチンと組み合わせた使用のための例示的チェックポイント阻害剤分子としては、イピリムマブなどのCTLA-4を遮断するもの、ペムブロリズマブまたはニボルマブなどのPD-1を遮断するもの、およびアテゾリズマブ(atezolimumab)またはデュルバルマブなどのPDL-1を遮断するものが挙げられる。
【0093】
<医薬組成物>
本発明の第7の態様によれば、本発明の第1の態様のペプチド、本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0094】
この文脈において、本発明の第1の態様のペプチド、本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンは、「薬剤」と称される場合がある。
【0095】
用語「薬学的に許容される賦形剤」とは、本明細書中で用いる場合、ヒトへの投与に対して好適である、1つまたは複数の適合性の固体もしくは液体充填剤、希釈剤またはカプセル封入性物質を意味する。用語「賦形剤」は、適用を促進するために有効成分が組み合わせられる、天然または合成の有機または無機成分を示す。好適な賦形剤のタイプは、当技術分野で周知でありかつ医薬調製物中での使用のために商業的供給源から入手可能である、塩、緩衝剤、湿潤化剤、乳化剤、保存料、適合性担体、希釈剤、担体、ビヒクル、アジュバントおよびサイトカインなどの補助的な免疫増強剤である(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy with Facts and Comparisons:Drugfacts Plus、第20版、Mack Publishing;Kibbeら、(2000)Handbook of Pharmaceutical Excipients、第3版、Pharmaceutical Press;ならびにAnselら、(2004)Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems、第7版、Lippencott WilliamsおよびWilkinsを参照されたい)。任意により、医薬組成物は、1つもしくは複数の他の治療剤または化合物を含有する。好適な薬学的に許容される賦形剤は、比較的不活性であり、かつ、例えば、安定化、投与、加工または身体への、かつ好ましくは直接的な作用部位への送達に関して最適化されている調製物への活性化合物/薬剤の送達を促進することができる。
【0096】
医薬組成物は、溶液剤、懸濁液剤、エマルジョン剤、錠剤、丸剤、ペレット剤、液体を含有するカプセル剤、散剤、持続放出製剤、坐剤、エマルジョン剤、エアロゾル剤、噴霧剤、懸濁液剤の形態、または使用に対して好適ないずれかの他の形態を採り得る。
【0097】
投与される場合、薬剤は、薬学的に許容される調製物/組成物中で投与される。
【0098】
投与は、腸内(例えば、経口)であり得、すなわち、物質は胃腸管を介して与えられるか、または非経口であり得、すなわち、物質は注入によるなど消化管とは別の経路により与えられる。大型生物学的分子または核酸分子(ある種のワクチンなど)は、典型的には、注入により非経口的に投与される。
【0099】
非経口投与(例えば、注入による)のための医薬組成物としては、有効成分/薬剤が溶解、懸濁されるか、またはそれ以外の様式で提供される(例えば、リポソームまたは他の微粒子中)水性または非水性、等張パイロジェン不含無菌液剤(例えば、溶液剤、懸濁液剤)が挙げられる。そのような液剤は、抗酸化剤、緩衝剤、安定化剤、保存料、懸濁化剤、および製剤を意図される患者の血液(または他の関連する体液)と等張にする溶質などの、1つまたは複数の薬学的に許容される担体を追加的に含有することができる。特定の実施形態では、組成物は、必要な場合および時点で容易に復元される粉末形態を提供するために、凍結乾燥されることができる。凍結乾燥粉末から復元される場合、水性液体は、投与に先立ってさらに希釈されることができる。例えば、投与のための所望の用量を達成するために、0.9%塩化ナトリウム注射液、USP、または等価物が入った輸液バッグ中へと希釈される。特定の実施形態では、そのような投与は、静脈内(IV)装置を用いる静脈内輸液を介し得る。
【0100】
好適には、薬剤は、ヒトへの静脈内投与に対して適した医薬組成物として、慣用の手順に従って製剤化される。典型的には、IV投与のための活性薬剤は、溶液中、例えば、無菌等張水性緩衝液中である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤も含むことができる。IV投与のための組成物は、任意により、注入部位での疼痛を軽減するためのリドカインなどの局所麻酔薬を含むことができる。一般的に、成分は、別個に、または例えば、アンプルなどの密閉容器中の乾燥凍結乾燥粉末もしくは水不含濃縮物として、単位剤型中に一緒に混合するかのいずれかで供給される。薬剤が輸液により投与される予定である場合、例えば、無菌医薬品グレード水または生理食塩液が入った輸液ボトルを用いて分配することができる。薬剤が注入により投与される場合、投与に先立って成分を混合することができるように、注射用無菌水または生理食塩液のアンプルを提供することができる。
【0101】
経口送達のための組成物は、例えば、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロースまたはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、バレイショデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤化剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される賦形剤を用いる慣用の手段により調製される、錠剤、ロゼンジ錠、水性または油性懸濁液剤、顆粒剤、散剤、エマルジョン剤、カプセル剤、シロップ剤、またはエリキシル剤の形態であり得る。錠剤は、当技術分野で周知の方法によりコーティングすることができる。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液剤、シロップ剤もしくは懸濁液剤の形態を採り得るか、または使用前の水または他の好適なビヒクルを用いる構成のための乾燥製品として提示することができる。そのような液体調製物は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用油脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアゴム);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコールまたは分画植物油);および保存料(例えば、メチルまたはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)などの薬学的に許容される添加剤を用いて、慣用の手段により調製することができる。調製物はまた、適切な場合、緩衝塩、香料、着色料および甘味料も含有することができる。経口組成物は、マンニトール、ラクトール、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等などの標準的なビヒクルを含むことができる。
【0102】
本発明に従う使用のための組成物は、1つまたは複数の生理学的に許容される賦形剤を用いて、慣用の様式で製剤化することができる。つまり、薬剤および任意により別の治療または予防剤ならびにそれらの生理学的に許容される塩および溶媒和物は、吸入もしくは送気(口または鼻のいずれかを介する)または経口、非経口もしくは粘膜(頬内、膣内、直腸、舌下など)投与による投与のための医薬組成物へと製剤化することができる。特定の実施形態では、局所または全身性非経口投与が用いられる。
【0103】
本発明の治療方法での使用のための医薬組成物は、有効量での投与のためのものである。「有効量」とは、単独で、またはさらなる用量と一緒に、所望の応答を生成する組成物の量である。
【0104】
好適には、薬剤は、医薬組成物が0.1~1mg、1~10mg、10~50mg、50~100mg、100~500mg、または500mg~5gの薬剤を含む医薬組成物として投与することができる。
【0105】
薬物の好適な医薬組成物の調製および対象へと投与するための投与量は、当業者の能力の範囲内である。
【0106】
<医学的使用>
本発明の第8の態様によれば、療法での使用のための、本発明の第7の態様の医薬組成物または本発明の第1の態様のペプチド、または本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンが提供される。
【0107】
本発明のこの第8の態様の変形に従えば、がんに罹患している対象においてがんを治療する方法であって、治療有効量の本発明の第7の態様の医薬組成物または本発明の第1の態様のペプチド、または本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンを対象に投与するステップを含む方法が提供される。
【0108】
本発明のこの第8の態様の変形に従えば、がんを治療するためなどの療法のための医薬の製造での使用のための、本発明の第1の態様のペプチド、または本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンが提供される。
【0109】
特定の実施形態では、療法はがんの治療である。特定の実施形態では、がんの治療は、PRMT5阻害剤と組み合わせた、本発明の第7の態様の医薬組成物または本発明の第1の態様のペプチド、または本発明の第2の態様の核酸、または本発明の第5の態様のワクチンの投与を含む。
【0110】
PRMT5を阻害することが可能ないずれかの治療剤を、本発明のこの組み合わせ態様において利用することができる。特定の実施形態では、PRMT5阻害剤は、抗体、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)または小分子化合物からなる群より選択することができる。
【0111】
本発明のこの態様での使用のためのPRMT5阻害剤は、「薬剤」に関して上記に記載される通りの医薬組成物として製剤化することができる。投与量、投与経路および実際の治療レジメンは、当業者により決定されることができる。PRNT5阻害剤は、下記でさらに説明される。
【0112】
好適には、PRMT5阻害剤は、GSK3326595(ペムラメトスタット(pemrametostat))、PF-6939999、JVNJ-64619178(オナメトスタット(onametostat))、LLY-283およびPRT543からなる群より選択される小分子化合物である。
【0113】
併用治療の成分は、組み合わせてまたは互いに併用して投与することができる。併用治療は、複合調製物、例えば、本発明の単離されたペプチドまたはワクチンおよびPRMT5阻害剤の複合調製物の形態であり得る。組み合わせは、成分の各々の別個の製剤、例えば、ワクチンおよびPRMT5阻害剤の別個の製剤を含むことができる。
【0114】
組み合わせ中の成分(例えば、別個の製剤)は、併用治療方法に関して本明細書中に記載される通り、連続的に、別個にかつ/または同時に投与することができる。つまり、例えば、本発明のワクチンは、PRMT5阻害剤と別個に、連続的にまたは同時に投与することができる。
【0115】
一実施形態では、成分は同時に(任意により、反復的に)投与される。一実施形態では、成分は、連続的に(任意により、反復的に)投与される。一実施形態では、成分は、別個に(任意により、反復的に)投与される。
【0116】
当業者は、組み合わせ中の薬剤の別個の製剤が連続的または順次的に投与される場合、これはいずれの順序での薬剤の投与でもあり得ることを理解するであろう。
【0117】
別個の製剤の投与が連続的または別個である場合、第2(または後続)の製剤の投与における遅延は、併用治療の有益な治療効果を失うものであってはならない。理想的には、2種類の薬剤は、実質的に同時に、治療される対象体内に存在するであろう。好適には、2種類(またはそれ以上)の薬剤は、同じ治療レジメン中で対象に投与されるであろう。
【0118】
<がん>
がん細胞を用いるか、またはがんの治療のための方法もしくは使用を対象とする本発明の様々な態様は、いずれのがんにも当てはまる。好適には、がんは、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肺がん、肝臓がん、乳がん、頭頸部がん、神経芽腫、甲状腺がん、皮膚がん(黒色腫を含む)、口腔扁平上皮細胞がん、膀胱がん、ライディッヒ細胞腫瘍、胆嚢管がんまたは胆管がんなどの胆道がん、脳がん、膵臓がん、結腸がん、結腸直腸がんならびに卵巣がん、子宮内膜がん、卵管がん、子宮がんおよび子宮頸部上皮内がんを含む子宮頸がんをはじめとする婦人科がんからなる群より選択される。好適な実施形態では、がんは白血病であり、かつ急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukaemia)(急性骨髄性白血病(acute myeloid leukaemia)または急性非リンパ性白血病としても公知である)、急性前骨髄球性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukaemia)(慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukaemia、chronic myelocytic leukaemia)または慢性顆粒球性白血病としても公知である)、慢性リンパ性白血病、単芽球性白血病および有毛細胞白血病からなる群より選択することができる。さらなる好ましい実施形態では、がんは急性リンパ芽球性白血病である。好適な実施形態では、がんはリンパ腫であり、ホジキンリンパ腫;非ホジキンリンパ腫;バーキットリンパ腫;および小リンパ球性リンパ腫からなる群より選択することができる。
【0119】
特定の実施形態では、本明細書中に開示される方法および使用は、腫瘍の特定のタイプ、または特定の腫瘍、もしくは腫瘍の特定のステージを有する患者のサブセット、または個々の患者でさえも標的とするものなどの正確な医学アプローチを提供する。
【0120】
好適には、そのようながんの治療は、がんの発症を予防もしくは治療することによるか、がんの進行を予防もしくは治療することによるか、がんの再発を予防もしくは治療することによるか、またはがんの伝搬(転移を含む)を予防もしくは治療することにより、がんの効果的な治療を達成することができる。
【0121】
好適には、治療は、宿主(治療が施される対象)ががん細胞に対する免疫応答を生起することを誘導し、それにより、がん細胞の生育を遅延させるかまたは死滅させる。免疫応答は、体液性または細胞媒介性であり得る。
【0122】
<ワクチン設計および合成>
・本発明の第9の態様によれば、腫瘍ワクチン中への包含のためにペプチドを選択するための方法であって、腫瘍細胞サンプルをPRMT5阻害剤と接触させるステップおよび接触させた(処理した)細胞による1つまたは複数の、lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの発現レベルを決定するステップおよび調節解除される1つまたは複数のペプチドを腫瘍ワクチン中への包含のために選択するステップを含む方法が提供される。好適には、腫瘍細胞サンプルは、がん/腫瘍を有する患者から取得されるかまたは取得されている。調節解除されるとは、PRMT5阻害剤との接触の非存在下での発現と比較して、上方調節または下方調節されることを意味する。好適には、PRMT5阻害剤との接触の非存在下での発現レベルからの少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%の逸脱が見られる。特定の実施形態では、発現レベル(例えば、転写産物レベル)は、少なくとも30%までなど、上方調節される。
【0123】
任意により、調節解除される転写産物は、免疫原性ペプチドをコードするか、例えば、コードされるペプチドが、主要組織適合性複合体(MHC)、例えば、MHCクラス1を介して細胞表面上に提示されるかまたは提示され易いかを調べるために試験される。そのような試験は、実施例に記載されるものなどの免疫ペプチドミクス解析アプローチの使用を含むことができる。あるいは、ペプチドがMHCクラス1分子(molecles)に結合するか否かの予測を行うことができる(例えば、NetMHC4.0オンラインアルゴリズムを用いるHLAクラスIペプチド予測)。
【0124】
好適には、ペプチドは、NetMHC4.0オンラインアルゴリズムまたはEpiQuest-Bなどの1つまたは複数のインシリコアルゴリズムを用いて、免疫原性であると予測することができる。
【0125】
ペプチドは、宿主動物への注入および抗体の検出をはじめとする様々な様式によるか、または免疫ペプチドミクス解析により、例えば実施例で用いられる免疫ペプチドミクス質量分析(MS)技術により、免疫原性であると決定することができる。腫瘍細胞をPRMT5阻害剤と接触させた後に誘導される免疫原性ペプチドは、MNCクラスI分子に結合するであろう。MHCクラスI対立遺伝子に対して特異的な抗体を用いる免疫沈降およびそれに続く質量分析によるMHC結合型ペプチドの決定を行うことができる。
【0126】
実施形態では、方法は、そのタイプのがんを有するいずれかの患者に対して用いることができるワクチン中への包含のために適切なペプチドを選択するように、単一の腫瘍タイプの複数起源由来の、lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの発現レベルを決定するステップを含む。
【0127】
細胞をPRMT5阻害剤と接触させた場合に差次的に発現されると特定されるペプチドは、MHC(MHCクラスIなど)を介して細胞表面上に提示されるかまたは提示され易いかを決定するために、試験することができる。推定上は提示されるとは、好適なアルゴリズム(NetMHC4.0など)を用いて提示されると予測されるものを意味する。免疫原性であると予測されるかまたは実証されるペプチドを、ワクチン中への包含のために選択することができる。
【0128】
つまり、本発明の第9の態様の変形では、腫瘍ワクチン中への包含のためにペプチドを選択するための方法であって、腫瘍タイプの細胞をPRMT5阻害剤と接触させるステップおよび接触させた細胞による1つまたは複数の、lncRNA遺伝子によりコードされるペプチドの発現レベルを決定するステップおよび調節解除、好ましくは上方調節される1つまたは複数のペプチドを腫瘍ワクチン中への包含のために選択するステップを含む方法が提供される。ペプチドは、本発明の第1の態様のもののうちのいずれかであり得る。任意により、調節解除されると決定されるペプチドは、MHCを介して細胞表面上に提示されるかまたは提示され易く、したがって免疫原性であるかを決定するために評価される。MHCクラスIなどのMHCを介して細胞表面上に提示されるかまたは提示され易いものが、腫瘍ワクチン中への包含のために選択される。
【0129】
本発明の第9の態様の別の変形では、腫瘍ワクチン中への包含のために1つまたは複数のペプチドを選択するための方法であって、
(i)腫瘍細胞サンプルをPRMT5阻害剤と接触させるステップおよびPRMT5阻害剤との接触後に差次的に上方調節および下方調節されるlncRNA転写産物を特定するステップ;
(ii)ステップ(i)で特定された差次的に調節されるlncRNA遺伝子転写産物が免疫原性ペプチドをコードするか否かを決定するステップ;
(iii)腫瘍ワクチン中への包含のためにステップ(ii)で免疫原性であると決定される1つまたは複数のペプチドを選択するステップ
を含む方法が提供される。
【0130】
本発明の第9の態様の別の変形では、腫瘍ワクチン中への包含のために1つまたは複数のペプチドを選択するための方法であって、
(i)腫瘍細胞サンプルをPRMT5阻害剤と接触させるステップ;
(ii)(i)のPRMT5接触腫瘍細胞サンプルから腫瘍細胞溶解物を調製するステップ;
(iii)腫瘍細胞溶解物をカラム上の樹脂に結合したMHCクラス1特異的抗体またはその抗体断片と接触させるステップ;および
(iv)腫瘍ワクチン中への包含のために1つまたは複数のペプチド結合型ペプチドを選択するステップ
を含む方法が提供される。
【0131】
好適には、ステップ(ii)での結合型ペプチドは、カラムから溶出(elued)され、続いて、質量分析により分析および特定される。この方法の後、選択されたペプチドを含むワクチンが生成される。
【0132】
つまり、本発明の第10の態様によれば、ワクチンを製造するための方法であって、本発明の第9の態様に従ってワクチン中への包含のためにペプチドを選択するステップおよび前記ペプチドを提示することが可能なワクチンを生成するステップを含む方法が提供される。
【0133】
当業者は、利用することができる腫瘍細胞サンプルの多数の好適な例があることを理解するであろう。好適には、そのようなサンプルは、がんまたは前がん状態からの細胞を含み得る。好適な生物学的サンプルは、生検もしくは外科的切除からのサンプルなどの組織サンプル、または血液、血漿、血清、喀痰、唾液、胸水、腹水、尿等などの腫瘍細胞を含む生物流体サンプルであり得る。サンプルは、新鮮、凍結またはパラフィン包埋であり得る。
【0134】
<PRMT5阻害剤処理>
タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)5(PRMT5)は、アルギニンのモノメチル化および対称的ジメチル化を担い、その発現レベルおよびメチル転移活性は、ヒトがんの腫瘍形成、発症および不良な臨床転帰と密接な関係を有することが実証されてきた。PRMT5は、広範囲のがんにおいて過剰発現され、重要な発がん性の役割を暗示されてきた。E2F1は、PRMT5の重要な標的であり、メチル化マークがE2F1制御下の遺伝子ネットワークを拡大する。
【0135】
本発明者らは、PRMT5の薬理学的阻害が、lncRNA遺伝子の発現および、結果として、腫瘍細胞による抗原提示を変化させたことを見出した。PRMT5阻害に際して明らかな遅延した腫瘍生育は、腫瘍微小環境中へのlncRNA由来ペプチド特異的細胞傷害性CD8 T細胞およびヘルパーCD4 Tリンパ球の流入を反映した。
【0136】
本発明の第11の態様によれば、免疫応答を刺激することによる、がんの治療における使用のためのPRMT5阻害剤が提供される。
【0137】
つまり、PRMT5阻害剤の投与は、腫瘍細胞に対する宿主免疫応答を誘導した。このことは、がんを治療するための新規な作用機序および新規な臨床的アプローチを代表する。
【0138】
免疫応答は、体液性応答および/または細胞媒介性応答、例えば、適応性細胞媒介性応答であり得る。好適には、PRMT5阻害剤が対象へと投与される場合、これはCD8+T細胞およびヘルパーCD4 Tリンパ球の生成に対して対象を刺激する。
【0139】
PRMT5を阻害することが可能ないずれかの治療剤を、本発明のこの第10の態様において利用することができる。特定の実施形態では、PRMT5阻害剤は、抗体、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)または小分子化合物からなる群より選択することができる。
【0140】
好適には、PRMT5阻害剤は、GSK3326595(ペムラメトスタット)、PF-6939999、JVNJ-64619178(オナメトスタット)、LLY-283およびPRT543からなる群より選択される小分子化合物である。
【0141】
異なる化学団(chemophore)を有するPRMT5阻害剤化合物が公知である。DeFreitasら(2019)は、PRMT5阻害剤のうちの一部を総説し、それらの構造を示し、それらの作用機序の概要を記載する。
【0142】
以下の表は、様々な製薬会社により出願された特許公報および本発明において用いることができるであろうPRMT5阻害剤を対象とする他の公報のうちの一部を列記する。
【0143】
【0144】
WO2014/100719(Epizyme)中の化合物208は、GSK3326595(ペムラメトスタット)である。
【0145】
WO2016/178870(Eli Lilly)中のExample2の化合物は、LLY-283である。
【0146】
WO2017/032840(Janssen Pharmaceuticals)中の化合物80は、JNJ-64619178である。
【0147】
De Freitasら(2019)もまた参照されたい。
【0148】
他の好適なPRMT5阻害剤としては、以下のものが挙げられる:
(1)式Iの化合物、またはその塩、溶媒和物もしくは水和物を開示する、WO2018/167269(Argonaut Therapeutics Limited)、
【化1】
(式中、
R
1、R
3、R
4、R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素およびC
1-3アルキルから選択され;
R
2は、水素およびR
14から選択され;
Xは、OまたはNR
9であり、式中、R
9は、水素またはC
1-3アルキルであり;
Y
1は、式AおよびBのうちの一方から選択される基であり:
【化2】
式中、R’”は独立して、HおよびC
1-3アルキルから選択され;
Qは、CまたはNであり;
Tは、縮合フェニル基および縮合5または6員ヘテロアリール基から選択され、このとき、各基は、ハロおよびC
1-3アルキルから選択される1つまたは複数の置換基によって任意により置換されており;かつ
R
7およびR
8は、介在性窒素原子と一緒になって、3~12員ヘテロシクロアルキル環を形成し、このとき、3~12員ヘテロシクロアルキル環は、1つもしくは複数のR
10によって任意により置換されているか;かつ/または1つもしくは複数のC
6-12アリール、C
5-12ヘテロアリール、C
3-8シクロアルキルおよび3~12員ヘテロシクロアルキル環に任意により縮合しており、このとき、それぞれの縮合したC
6-12アリール、C
5-12ヘテロアリール、C
3-8シクロアルキルおよび3~12員ヘテロシクロアルキル環は、1つもしくは複数のR
14によって任意により置換されており;
R
10は、式L
1-L
2-R
11またはL
2-L
1-R
11の基から選択され、式中、L
1は、式-[CR
12R
13]
n-のリンカーであり、このとき、nは0~3の整数であり、かつR
12およびR
13は、各場合において、それぞれ独立してHおよびC
1~C
2アルキルから選択され、
式中は、L
2は、存在しないかまたはO、S、SO、SO
2、N(R’)、C(O)、C(O)O、[O(CH
2)
r]
s、[(CH
2)
rO]
s、OC(O)、CH(OR’)、C(O)N(R’)、N(R’)C(O)、N(R’)C(O)N(R’)、SO
2N(R’)もしくはN(R’)SO
2から選択されるリンカーであり、式中、R’およびR”は、それぞれ独立して、水素およびC
1~C
2アルキルから選択され、このとき、rは1または2であり、かつsは1~4であり、
R
11は、水素、CN、NO
2、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ハロアルコキシ、C
1-6アルキル、O-C
1-6アルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-12アリール、C
5-12ヘテロアリール、3~10員ヘテロシクロアルキル、-C(=O)R
d、-C(=O)OR
d、-C(=O)NR
eR
d、-C(O)C(=O)R
d、-NR
eR
d、-NR
eC(=O)R
d、-NR
eC(=O)OR
d、-NR
eC(=O)NR
eR
d、-NR
eS(=O)
2R
d、-NR
eS(=O)
2NR
eR
d、-OR
d、-SR
d、-OC(=O)R
d、-OC(=O)NR
eR
d、-OC(=O)OR
d、-S(=O)
2R
d、-S(=O)R
d、-OS(=O)R
d、-OS(=O)
2R
d、-OS(=O)
2OR
d、-S(=O)NR
eR
d、-OS(=O)
2NR
eR
d、および-S(=O)
2NR
eR
dから独立して選択され、式中、R
11は、C
3-6シクロアルキル、C
6-12アリール、C
5-12ヘテロアリールおよび3~10員ヘテロシクロアルキルから独立して選択され、各C
3-6シクロアルキル、C
6-12アリール、C
5-12ヘテロアリールおよび3~10員ヘテロシクロアルキルは、1つまたは複数のR
14によって任意により置換されており;
各R
aおよびR
bは、水素およびC
1-6アルキルから独立して選択され;
各R
dは、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、CN、C
1-6ハロアルキル、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキル、O-C
1-6アルキルおよびC
6-11アリールから独立して選択され、このとき、前記C
1-6アルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキルおよびC
3-6シクロアルキルは、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、CN、COR
a、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つまたは複数の基によって任意により置換されており;
各R
eは、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、CN、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから独立して選択されるか;または
R
eおよびR
dは、同じ原子に連結される場合、それらが連結される原子と一緒になって、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、CN、COR
a、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つもしくは複数の置換基によって任意により置換されている3~7員ヘテロシクロアルキル環を形成し;かつ
R
14は、ハロ、CN、NO
2、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ハロアルコキシ、C
1-6アルキル、O-C
1-6アルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-12アリール、5~6員ヘテロアリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルC
6-12アリール、-C(=O)R
d、-C(=O)OR
d、-C(=O)NR
eR
d、-C(O)C(=O)R
d、-NR
eR
d、-NR
eC(=O)R
d、-NR
eC(=O)OR
d、-NR
eC(=O)NR
eR
d、-NR
eS(=O)
2R
d、-NR
eS(=O)
2NR
eR
d、-OR
d、-SR
d、-OC(=O)R
d、-OC(=O)NR
eR
d、-OC(=O)OR
d、-S(=O)
2R
d、-S(=O)R
d、-OS(=O)R
d、-OS(=O)
2R
d、-OS(=O)
2OR
d、-S(=O)NR
eR
d、-OS(=O)
2NR
eR
d、および-S(=O)
2NR
eR
dから独立して選択される)。
【0149】
(2)式Iの化合物、またはその塩、溶媒和物もしくは水和物を開示する、WO2018/167276(Argonaut Therapeutics Limited):
【化3】
(式中、
Y
1は、式AおよびBのうちの一方から選択される基であり:
【化4】
Xは、O、S、CHおよびNR
7から選択され;
X
1は、CおよびNから選択され;
Yは、縮合アリール基および縮合ヘテロアリール基から選択され、このとき、各基は、1つまたは複数のR
11によって任意により置換されており;
nは1であり、かつLは、-(CH
2)
pN(R
a)C(O)-、-(CH
2)
pC(O)N(R
a)-、-(CH
2)
pN(R
a)S(O
q)-、-(CH
2)
pS(O
q)N(R
a)-、-(CH
2)
pN(R
b)C(O)N(R
b)-、-(CH
2)
pN(R
c)C(O)O-、および-(CH
2)
pOC(O)N(R
c)-から選択されるか;または
nは0であり、かつLは、R
d(R
e)NC(O)-、-R
d(R
e)NC(O)N(R
b)-、R
d(R
e)NC(O)O-、R
d(R
e)NS(O
q)およびR
d(R
e)N-から選択され;
pは、0、1、2および3から選択される数であり;
qは、1および2から選択される数であり;
Zは、1つまたは複数のR
10によって任意により置換されているC
6-11アリール、1つまたは複数のR
10によって任意により置換されている(C
7-16)アルキルアリール、1つまたは複数のR
10によって任意により置換されているC
3-11シクロアルキル、1つまたは複数のR
10によって任意により置換されている(C
4-17)シクロアルキルアルキル、1つまたは複数のR
10によって任意により置換されている3~15員ヘテロシクロアルキル、1つまたは複数のR
10によって任意により置換されている4~21員アルキルヘテロシクロアルキル、1つまたは複数のR
10によって任意により置換されている5~15員ヘテロアリール、および1つまたは複数のR
10によって任意により置換されている6~21員アルキルヘテロアリールから選択され;
R
1は、水素、ハロゲン、-NR
eR
d、OR
f、および1つまたは複数のR
9によって任意により置換されているC
1-6アルキルから選択され;
R
2は、水素、ハロゲンおよび1つまたは複数のR
9によって任意により置換されているC
1-6アルキルから選択され;
R
3、R
4、R
5およびR
6は、水素、ハロゲンおよび1つまたは複数のR
9によって任意により置換されているC
1-6アルキルから独立して選択され;
R
7は、水素、ヒドロキシル、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、フェニルおよびC
3-6シクロアルキルから選択され、このとき、前記C
1-6アルキル、フェニルおよびC
3-6シクロアルキルは、ヒドロキシル、ハロゲン、=O、CN、COR
a、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つまたは複数の置換基によって任意により置換されており;
各R
9は、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、CN、C
1-6ハロアルキル、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキル、O-C
1-6アルキルおよびフェニルから独立して選択され、このとき、前記C
1-6アルキル、フェニル、3~7員ヘテロシクロアルキルおよびC
3-6シクロアルキルは、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、CN、NR
aR
b、COR
a、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、フェニル、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つまたは複数の基によって任意により置換されており;
各R
10は、水素、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、CN、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ハロアルコキシ、C
1-6アルキル、O-C
1-6アルキル、C
3-6シクロアルキル、フェニル、5~6員ヘテロアリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、-C(=O)R
d、-C(=O)OR
d、-C(=O)NR
eR
d、-C(O)C(=O)R
d、-NR
eR
d、-NR
eC(=O)R
d、-NR
eC(=O)OR
d、-NR
eC(=O)NR
eR
d、-NR
eS(=O)
2R
d、-NR
eS(=O)
2NR
eR
d、-OR
d、-SR
d、-OC(=O)R
d、-OC(=O)NR
eR
d、-OC(=O)OR
d、-S(=O)
2R
d、-S(=O)R
d、-OS(=O)R
d、-OS(=O)
2R
d、-OS(=O)
2OR
d、-S(=O)NR
eR
d、-OS(=O)
2NR
eR
d、および-S(=O)
2NR
eR
dから独立して選択され、このとき、前記C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキル、フェニル、5~6員ヘテロアリールおよび3~7員ヘテロシクロアルキルは、ヒドロキシル、ハロゲン、=O、CN、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ハロアルコキシ、C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つまたは複数の基によって任意により置換されており;
R
11は、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、CN、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキル、O-C
1-6アルキルおよびフェニルから選択され、このとき、前記C
1-6アルキル、フェニル、3~7員ヘテロシクロアルキルおよびC
3-6シクロアルキルは、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、CN、COR
a、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つまたは複数の基によって任意により置換されており;
各R
a、R
bおよびR
cは、水素およびC
1-6アルキルから独立して選択され;
各R
dは、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、CN、C
1-6ハロアルキル、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキル、O-C
1-6アルキルおよびC
6-11アリールから独立して選択され、このとき、前記C
1-6アルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキルおよびC
3-6シクロアルキルは、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、CN、COR
a、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つまたは複数の基によって任意により置換されており;
各R
eは、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、CN、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから独立して選択されるか;または
R
eおよびR
dは、同じ原子に連結される場合、それらが連結される原子と一緒になって、ヒドロキシル、=O、ハロゲン、CN、COR
a、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、C
6-11アリール、3~7員ヘテロシクロアルキル、C
1-6アルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つもしくは複数の置換基によって任意により置換されている3~7員ヘテロシクロアルキル環を形成し;かつ
R
fは、水素ならびにヒドロキシル、ハロゲン、CN、COR
a、NR
aR
b、C
1-6ハロアルキル、C
3-6シクロアルキル、フェニル、3~7員ヘテロシクロアルキルおよびO-C
1-6アルキルから選択される1つまたは複数の置換基によって任意により置換されているC
1-6アルキルから独立して選択される)。
【0150】
(3)式Iの化合物、またはその重水素化形態、塩、溶媒和物、もしくは水和物を開示する、GB2108383.7(Argonaut Therapeutics Limited):
【化5】
(式中、
R
1Aは、式(A1)により表され:
【化6】
Zは=Oであり;
Tは、介在性炭素および窒素原子と一緒になって(例えば、式(A1)中に示される)、単環式5~7員ヘテロシクロアルキル基、縮合二環式6~10員ヘテロシクロアルキル基および架橋二環式6~9員ヘテロシクロアルキル基から選択され、このとき、単環式5~7員ヘテロシクロアルキル基、縮合二環式6~10員ヘテロシクロアルキル基および架橋二環式6~9員ヘテロシクロアルキル基のそれぞれは、1つまたは複数のR
S1によって任意により置換されており;
R
S1は、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニル、C
1-6アルコキシ、C
3-12シクロアルキル、ヒドロキシ、ハロ、CNおよびニトロから選択され、このとき、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニルおよびC
3-12シクロアルキルは、1つまたは複数のR
S2によってそれぞれ任意により置換されており;かつ
R
S2は、ヒドロキシ、ハロ、CNおよびニトロから選択される)。
【0151】
これらのPRMT5化合物のうちのいずれかを、本発明において用いることができる。
【0152】
特定の実施形態では、本発明での使用のためのPRMT5阻害剤は、GSK3326595(ペムラメトスタット)、PF-6939999、JVNJ-64619178(オナメトスタット)、LLY-283およびPRT543からなる群より選択される小分子化合物である。
【0153】
例えば、化学療法剤または放射線療法を用いる効果的な抗がん治療は、これらの治療に対する抵抗性を発達させるがん細胞の能力により妨げられる。PRMT5阻害剤がまた、腫瘍細胞に対する宿主免疫応答も刺激することができるという知見は、そのがんがPRMT5の直接的な細胞標的化作用に対する抵抗性を発達させている患者または患者群を治療するためのPRMT5阻害剤の使用を可能にするであろう。
【0154】
以下の実施例および付随する図面は、本発明を例示するために機能する。これらの実施例および図面は、本発明の範囲を限定することはまったく意図されないが、むしろそこからの均等物が当業者により認識されるであろう例として意図される。
【0155】
文脈から明らかでない限り、上記に列記される実施形態のうちのそれぞれは、本発明の態様のうちのいずれかでの使用に適用することができる。
【実施例】
【0156】
タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)5は、広範囲のがんにおいて過剰発現しており、重要な発がん性の役割が暗示されてきた。E2F1は、PRMT5の重要な標的であり、メチル化マークがE2F1制御下の遺伝子ネットワークを拡大する。本発明者らは、ここで、PRMT5-E2F1軸が、長い非コード(lnc)遺伝子の大きな群が直接的な転写標的である非コードゲノムからの発現の制御において、追加的な予期せぬ役割を有することを示す。腫瘍細胞による抗原提示の解析は、多数のMHCクラスIタンパク質関連ペプチドが、lncRNA遺伝子中の小さなオープンリーディングフレームに由来したことを特定した。さらに、PRMT5の薬理学的阻害およびE2F1活性の操作が、lncRNA遺伝子の発現および、結果として、腫瘍細胞による抗原提示を変化させた。PRMT5阻害に際して明らかな遅延した腫瘍生育は、腫瘍微小環境中へのlncRNA由来ペプチド特異的細胞傷害性CD8 T細胞の流入を反映した。独立した治療用ワクチンとして免疫系に対して提示される場合、lncRNA由来ペプチドは、免疫原性であり、かつ重要なことに、強力な抗腫瘍免疫応答を駆動することが見出された。これらの結果は、PRMT5が、E2F経路を非コードゲノムおよび腫瘍細胞の抗原状況へと結び付けることを示す。したがって、PRMT5活性の薬理学的制御は、腫瘍細胞の免疫原性に影響を及ぼすための治療戦略を提案する。
【0157】
<材料および方法>
細胞株作製、培養、および化合物処理
ヒトp53-/-HCT116 E2F1 CRISPRおよびCAS9対照細胞が、以前に記載されている(Barczakら、2020)。マウスCT26細胞を、ATCCから取得した(CRL-2638)。細胞を、10%胎児ウシ血清(Labtech、Heathfield、UK)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、Life Technologies、Carlsbad、CA、USA)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、US)中で培養した。すべての細胞株を、使用前にマイコプラズマ夾雑に関して試験した。選択的PRMT5阻害剤(T1-44)(Argonaut Therapeutics Ltd、Oxford UKにより合成された)は、以前に記載および特性決定されており(Barczakら、2020)、別途明記されない限り、1μM最終濃度で48時間にわたって用いた。
【0158】
プラスミド/siRNAトランスフェクション
製造業者の説明書の通りに、GeneJuiceトランスフェクション試薬(Novagen)を用いて48時間、プラスミドトランスフェクションを行った。製造業者の説明書の通りに、Oligofectamineランスフェクション試薬(Invitrogen)を用いて72時間、25nM siRNAを用いてRNA干渉を行った。siRNAに関する配列は、非標的化対照、5’-AGCUGACCCUGAAGUUCUU-3’(配列番号195);E2F1(ヒト)、5’-CUCCUCGCAGAUCGUCAUCUU-3’;E2F1(マウス)(カタログ番号:EMU075181、Merck)(配列番号196)の通りである。
【0159】
免疫ブロットおよび抗体
免疫ブロットのために、細胞を、改変型RIPAバッファー(50mM tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、1%Igepal CA-630[v/v]、1mM EDTA、1mM NaF、1mM Na3VO4、1mM AEBSF、プロテアーゼ阻害剤カクテル)中に回収し、30分間氷上でインキュベートし、その後SDS-PAGEおよびニトロセルロースへのトランスファーを行った。β-アクチン(AC-74、Sigma-Aldrich)、E2F1(Cell Signalling、3742S)、対称的ジメチルアルギニン(SDMe)(Cell Signalling、13222S)、FLAG M2(Sigma、F1804)、GFP(D5.1;Cell Signalling、2956S)、GAPDH(Bethyl Laboratories)の抗体を免疫ブロットで用いた。
【0160】
RNA単離および定量的RT-PCR
製造業者の説明書に従って、TRIzol(Thermo Fisher Scientific)またはDirect-zol RNA MiniPrepキット(Zymo Research)を用いて、細胞からRNAを単離した。1マイクログラムの総RNAを、相補的DNA(cDNA)合成のために用いた。オリゴ(dT)20プライマー(Invitrogen)を用いる逆転写を、製造業者の説明書の通りにSuperScriptIII逆転写酵素(Invitrogen)を用いて行った。続いて、示されるプライマーペアおよびBrilliantIII SYBR Green qPCR Master Mix(Stratagene)をAriaMx(Agilent)qPCR機器上で用いて、3回反復で定量的PCR(qPCR)を行った。結果は、3つの生物学的反復サンプルからΔΔCt法を用いて、対照処理と比較した平均変化倍率として表した。グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プライマーセットを、内部較正因子として用いた。別途示されない限り、エラーバーはSDを表す。
【0161】
RNA配列決定
WT E2F1、E2F1 Cr HCT116、およびCT26細胞を、1μM濃度のPRMT5阻害剤(T1-44)または陰性対照としてのDMSOを用いて、48時間(HCT116)または72時間(CT26)にわたって処理した。WT E2F1、WT E2F1 T1-44、E2F1 Cr、E2F1 Cr T1-44、CT26、およびCT26 T1-44(3回反復)からの総RNAを、製造業者の説明書に従ってDirect-zol RNA MiniPrepキット(Zymo Research)を用いて単離した。あるいは、インサイチューでマウス腫瘍から単離されたRNAを、RNA-seq解析に対して用いた。RNA配列決定は、BGI Genomicsにより行われた。簡潔には、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent RNA 6000 Nano Kit)を、RNAサンプル品質管理目的のために用いた(RNA濃度、RIN値、28S/18S、および断片長分布)。mRNAを、オリゴ(dT)法を用いて、総RNAから単離した。続いて、mRNAを断片化し、ファーストストランド/セカンドストランドcDNAを合成した。cDNA断片を精製し、末端修復および単一ヌクレオチドA(アデニン)付加のためにEBバッファーを用いて分割した。その後、cDNA断片にアダプターを連結させた。好適なサイズを有するそれらのcDNA断片を、PCR増幅のために選択した。Agilent 2100 BioanalyzerおよびABI StepOnePlus Real-Time PCR Systemを、それらのライブラリーの定量化および定性化において用いた。Illumina HiSeqPlatformを用いてRNA配列決定を行い、サンプル当たり5.12Gbを生成させた。
【0162】
長い非コードRNA(lncRNA)発現データの加工
PRMT5阻害剤またはDMSO対照を用いて処理したp53-/-WT E2F1、p53-/-E2F1 Cr HCT116、およびCT26細胞に関するFASTQファイルを、3つの生物学的反復実験から作成した。TrimGalore v.0.4.3(http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/trim_galore/)を用いて、アダプターおよび低品質塩基を除去するために、これらをトリミングした。
【0163】
k-mer長31および100bootstrapサンプルを含むkallisto(v.0.44.0)を用いて、lncRNA発現解析を行った。GENCODEマウスlncRNA注釈バージョンM22およびヒトlncRNA注釈バージョン34を、kallistoインデックスを構築するための参照データセットとして用いた。lncRNAの差次的発現を、sleuthパッケージ(v0.30.0)を用いて計算した。発現のlog2(変化倍率)を、所与の条件に関するすべての複製にわたって平均した推定上のカウント値(kallistoにより提供される)から計算した。
【0164】
有意に差次的に発現された転写産物を、0.05のFDR閾値(q値)を用いて特定した。
【0165】
HCT116 p53-/-およびHCT116 p53-/-E2F1 Cr RNA-seqデータセットを、登録コードGSE142430の下にGene Expression Omnibus(GEO)に登録した。CT26およびcolon26腫瘍サンプルRNA-seqデータセットは、登録コードGSE181401の下にGEOに登録されている。
【0166】
プロテオミクス質量分析のためのデータ加工(lncRNA由来ペプチドデータベース)
本発明者らのHCT116およびCT26 RNA-seqデータセット(マウス:GENCODE注釈;ヒト:FANTOM5およびGENCODE注釈)において検出可能なレベルで発現されているすべてのlncRNAのヌクレオチド配列を、3フレーム翻訳を用いてペプチド配列へと変換した。ペプチド配列データを、対応するlncRNAの発現値に従って、非発現(TPM=0);弱発現(0.5<TPM<1.0);発現(TPM>1.0)の3群へと分割した。非発現群を、MSプロテオミクス実験のためのデコイデータベースとして用いた(下記に詳述される)。
【0167】
HLAクラスI免疫沈降
抗体を、セファロース-プロテインAビーズ(Expedeon)を用いる標準的精製手順を用いて、ハイブリドーマ上清(それぞれ、ATCC(登録商標)HB-95および-79)から取得した。0.5mL/サンプルのセファロース-プロテインAビーズ(Expedeon)を、5mg/サンプルのW632抗体(HLAクラスIに対して特異的である、HCT116に関して)、または抗体クローン34.1.2s(H-2Kd、Dd、Ldを認識する、CT26に関して)と共に、室温で30分間インキュベートした。10cv(カラム床体積)のホウ酸バッファー(50mMホウ酸塩、50mM KCl、pH8.0)を用いて樹脂を洗浄し、室温で30分間、ホウ酸バッファー(pH8.3)中に10cvの40mMピメルイミド酸ジメチルを添加することにより、抗体を架橋した。10cvの氷冷0.2M Tris、pH8.0を用いて反応を停止させ、続いて、いずれの未結合抗体も除去するために10cvの0.1Mクエン酸塩、pH3.0の洗浄ステップを行い、10cvの50mM Tris、pH8.0を用いて最後に平衡化した。
【0168】
細胞ペレットを、軽く撹拌することにより、3mLの溶解バッファー(1%IGEPAL630;100mM Tris、pH8.0;300mM NaCl;完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加、EDTA不含、Roche)中に溶解させた。サンプルを氷上で45分間インキュベートした。続いて、4℃、500gで10分間および20,000gで1時間の連続的遠心分離ステップにより、溶解物を清澄化した。ペプチド-HLAクラスI複合体を、軽い撹拌下で4℃での一晩インキュベーションにより、免疫樹脂(immunoresin)上に捕捉した。続いて、重力流により溶解物を除去し、10mL洗浄バッファー1(0.005%IGEPAL、50mM Tris pH8.0、150mM NaCl、5mM EDTA)、10mL洗浄バッファー2(50mM Tris pH8.0、150mM NaCl)、10mL洗浄バッファー3(50mM Tris pH8.0、450mM NaCl)および10mL洗浄バッファー4(50mM Tris pH8.0)を用いて、連続的にカラムを洗浄した。ペプチド-HLA複合体を、5cvの10%酢酸の添加により溶出させた。
【0169】
HLAペプチド精製戦略
サンプルをUltimate3000 HPLCシステム(ThermoFisher Scientific)上にロードし、1000μL/分の流速で2~35%バッファーB(アセトニトリル中0.1%TFA)の10分間勾配を適用することにより、モノリス型カラム(4.6×50mm ProSwift RP-1S、ThermoFisher Scientific)を用いて、比較的大きな複合体成分からペプチドを分離した。各サンプルを15画分に分画し、HLAペプチドを含有するがβ2-ミクログロブリンを含有しない交互の画分を、2つの最終画分中にプールした。サンプルを乾燥させ、20μLのローディングバッファー(0.1%TFA、1%ACN)中に再懸濁し、MS分析まで-80℃で保存した。
【0170】
LCタンデム質量分析(LC-MS/MS)
HCT116細胞サンプルに関して、HLAペプチドを、Orbitrap Fusion Lumos Tribrid質量分析計(Thermo Scientific)またはQ Exactive HF-X質量分析計(Thermo Scientific)のいずれかにより分析した。CT26細胞サンプルは、Q Exactive HF-X(Thermo Scientific)上で測定した。いずれかの質量分析計機器を、PepMap C18カラム、2μm粒径、75μm×50cm(Thermo Scientific)を追加したUltimate 3000 RSLCnano Systemと組み合わせた。250nL/分の流速および40℃で、水中5%DMSO、0.1%ギ酸中の3%~25%アセトニトリルの60分間線形勾配を用いて、ペプチドを溶出させ、2000VでのナノEASY-Sprayイオン源(Thermo Scientific)を用いて、質量分析計へと導入した。イオン移送管は、両方の機器に関して305℃に設定した。
【0171】
Orbitrap Fusion Lumosにより分析したサンプルに関して、完全MSに対する解像度は、400,000のACG標的および300~1500m/zのスキャン範囲を伴って120,000に設定した。前駆体選択および単離は、2秒間のサイクル時間および1.2amuの四重極分離幅でTopSpeedを用いて行った。MS解像度は30,000に設定し、ペプチドイオンを、300,000のAGC標的を伴って120msの最大注入時間で蓄積させた。前駆体イオンを、高エネルギー衝突解離(HCD)を用いて断片化し:衝突エネルギーは、2~4の荷電状態を有するペプチドに関して28、および一価イオンに関して32に設定した。Q Exactive HFX上で分析したサンプルに関して、完全MS(320~1600m/zスキャン範囲)解像度は120,000に設定し、300,000のAGC標的に設定した。ペプチドイオンは、1.6amu分離幅で分離した。MS2解像度は、50,000のAGC標的で60,000に設定し、衝突エネルギーは、2~4の前駆体イオンの断片化の荷電状態を有するペプチドに関して28、および1~4の荷電状態を有するものに関して25に設定した。
【0172】
HLA結合性予測
HLAクラスIペプチド予測を、NetMHC4.0オンラインアルゴリズム(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetMHC/)およびSeq2Logo2.0(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetMHC/)またはWebLogo(https://weblogo.berkeley.edu/logo.cgi)を用いて行った。
【0173】
クロマチン免疫沈降(ChIP)
E2F1 ChIPを、3μgの適切な抗体(対照ウサギIgG、抗E2F1[A300-766A、Bethyl Laboratories)および事前にブロッキングしたプロテインAビーズを用いて、以前に記載された通りに行った(Carrら、2017)。回収されたDNAを精製し、リアルタイムPCRを、遺伝子プロモーター中に提案されるE2F部位が隣接したプライマーを用いて、AriaMx QPCR機器(Agilent)上で、BrilliantIII Ultra-Fast SYBRgreen QPCRmaster mixを用いて3回反復で行った。三重生物学的反復実験からのE2F1 ChIPおよびIgG対照の両方に関する入力の富化パーセンテージを算出することにより、DNA占有率を調査した。別途明記されない限り、すべての場合で、提示される図はSDを表示する。CDC6およびアクチンプロモーターを、それぞれ、E2F1占有率に対する陽性および陰性対照として用いた。
【0174】
ヒトおよびマウスlncRNAプロモーター解析
UCSCゲノムブラウザ(https://genome.ucsc.edu;GRCh37/h19アセンブリ)中に存在するバイオインフォマティクスツールを利用し、かつ3種類の細胞株(K562、MCF7、HeLa)に関してENCODEプロジェクト(http://genome.ucsc.edu/ENCODE/)からのE2FトラックについてのChIP-seqデータを解析して、lncRNA遺伝子プロモーター特性決定を行った。「ENCODE3由来の転写因子ChIP-seqクラスター」、「factorbookモチーフを含むENCODE由来の転写因子ChIP-seqクラスター」、「ENCODE3由来の転写因子ChIP-seqピーク」、「ENCODE3解析由来の転写因子ChIP-seq均一ピーク」および「ENCODE/Stanford/Yale/USC/Harvard由来のChIP-seqによる転写因子結合性部位」トラックツールを、E2F1 ChIP-seqピークまたは適切な場合にはシグナルを表示するために用いた。ChIP-seqデータが注釈付きプロモーター(GENCODEおよびFANTOM6により注釈付けされる)周囲の1000bp幅の領域内で明らかであった場合、潜在的なE2F1標的であるとして遺伝子をスコア付けした。マウスにおけるプロモーター特性決定に関してGRCm38/mm10アセンブリを用い、マウスE2F1 ChIP-seqピークデータを、GEOにおいて登録されたデータ(GSM288349)を用いてカスタムトラックとしてロードした。ChIP-seqピーク候補は、lncRNA転写開始部位(GENCODE注釈)周囲の1000bp幅領域を横断した。
【0175】
ポリソームプロファイリング
細胞を、37℃で10分間にわたって100mg/mLシクロヘキシミドを用いて処理し、10分間にわたって1×トリプシン-EDTA溶液を用いて処理し、100mg/mLのシクロヘキシミドを含有する氷冷1×PBSを用いて2回洗浄した。20mM TrisHCl pH7.4、5mM MgCl2、100mM KCl、100μg/mLシクロヘキシミド、1%TritonX-100、1×RNアーゼ阻害剤、および1×プロテアーゼ阻害剤から構成されるポリソーム溶解バッファーを、細胞を再懸濁するために用い、続いて、氷上で30分間インキュベーション(時折転倒させる)し、4℃、12,000gで10分間遠心分離した。ポリプロピレン13.2mLチューブ(Beckman Coulter)中で、10%および50%スクロース溶液(Triton X-100を含まず、かつRNアーゼ不含条件で調製したポリソーム抽出バッファー中に希釈したスクロース)を用いて、スクロース勾配を調製した。線形にするために、勾配を4℃で一晩静置した。溶解された細胞からの透明上清を10~50%スクロース勾配上にロードし(Nanodropにより測定された等量300μgのRNA)、4℃で90分間、39,000rpm(190,000g)(SW40Tiローター、Beckman Coulter OptimaXE)で遠心分離した。手動採取により12個のスクロース勾配画分を分離し、254nmで吸光度を測定し(NanoDrop(Thermo Fisher Scientific))、ポリソームプロファイルを記録した。
【0176】
lncRNA ORFクローニング戦略
HCT116およびCT26細胞においてMHCクラスI上に積載されたペプチドを生成することが特定されたlncRNAに関して、ペプチド配列を最初に逆翻訳し、lncRNA転写産物へと戻した。続いて、lncRNA転写産物をすべての3フレームにおいて翻訳し、すべてのATGコドン(開始メチオニンをコードする)と後続のインフレームSTOPコドンとの間に含まれる全配列を強調することにより、潜在的なオープンリーディングフレーム(ORF)を特定した。特定されたMHCペプチドを含んだポリペプチドを生成するであろういずれかの潜在的ORFを、C末端FLAGタグを発現するプラスミドベクター(pSF-CMV-NEO-COOH-3xFLAG;OG629、OxGene)中へとクローニングするための配列として特定した。ORF(STOPコドンを除く)および30bp上流配列(内因性転写産物中に存在するいずれかのKozak配列を含めるため)を増幅するためにプライマーを設計し、適切な場合にNotIおよびXhoI/EcoRVに関する制限部位を含めた。Phusion High Fidelity DNA Polymerase(M0530S、New England Biolabs)および鋳型としてのHCT116またはCT26細胞由来cDNA(定量的RT-PCRに関して上記に記載される通りに生成された)を用いて、PCR反応を行った。PCR産物を、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、適切な場合にNotIおよびXhoI/EcoRV(Promega)を用いて消化した。消化した産物を、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を用いてゲル精製し、その後、T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs)を用いて、消化済みベクターへとライゲーションした。トランスフェクションにおける使用に先立って、正しいクローニングを確認するためにすべてのプラスミドを配列決定した。
【0177】
機能的ゲノム解析-TCGA
ヒトがんにおけるペプチドをコードするlncRNA転写産物の発現レベルの解析のために、Xenaブラウザ(カリフォルニア大学)を用いた(https://xena.ucsc.edu/)。TCGA(がん組織;https://www.cancer.gov/about-nci/organization/ccg/research/structural-genomics/tcga)および遺伝子型-組織発現(GTEx;健康組織;https://gtexportal.org/home/)サンプル由来の転写産物発現データを含んだTCGA TARGET GTExデータセットを選択した。マイクロサテライト不安定性およびステージ決定の後続の詳細な解析のために、TCGA由来のデータセットを用いた。また、Broad Institute Cancer Cell Line Encyclopedia(portals.broadinstitute.org>ccle)を用いて、結腸直腸がん細胞株におけるlncRNA遺伝子の発現を分析した。Heatmapperツール(http://heatmapper.ca/)を利用してヒートマップを作成した。詳細な生存期間解析に関して、GEPIA2ツールを用いた(http://gepia2.cancer-pku.cn/#index)。
【0178】
T1-44処置を用いるColon26マウス腫瘍モデル
すべての実験およびプロトコールは、Charles River Discovery Research Services Germany(ここで実験が行われた)の動物福祉組織および地域当局により承認され、かつすべての適用可能な国際的、国家的および地域的法律およびガイドラインに従って行った。6~8週齢の16匹の雌性Balb/cマウス(対照群および処置群当たり8匹のマウス)(Charles River Laboratories、Germany)に、100μL/マウスの合計注入体積中のPBS中5×105個Colon26細胞の片側性皮下注入を行った。個々の腫瘍体積が50~150mm3に達した時点で、同等の群平均/中央値腫瘍体積を目指して、腫瘍体積に基づいてマウスを処置群へと割り当てた。無作為化から24時間以内に、ビヒクルとして0.5%Tween/PBSを用いて、100mg/kg(投薬体積10mL/kg)のT1-44によって、経口投与(強制投与)によりマウスを毎日処置した。体重およびキャリパーによる腫瘍体積[mm3]測定を、週2回行った。実験の19日目または腫瘍潰瘍の場合には1000mm3超(片側)または当初体重の70%未満での体重減少で、個々のマウスの打ち切りを行った。各群から、4個の急速凍結腫瘍をRNA単離のために収集し、4個のホルマリン固定サンプルを免疫組織化学染色のために作製した。
【0179】
マウスおよびワクチン接種
8週齢Balb/cマウス(Charles River)の群に、表2に示されるペプチドミックスをi.v接種した(30μg polyICおよび25μg抗CD40 mAbを含む50μg/ペプチド(GenScript))。陽性対照として、AH1ペプチド(SPSYVYHQF;配列番号156)ワクチン接種を用いた(Huangら、1996)。ビヒクル単独マウスには、DMSO/PBS+上記の通りのアジュバントを用いてワクチン接種した。同じ製剤を用いて、7日間後にマウスにi.v.追加免疫した。追加免疫の7日間後にマウスを殺処分し、脾臓を取り出した(群当たり4匹のマウス)。すべての動物は、Biomedical Services Building(オックスフォード大学)で特定病原体不在条件において飼育した。すべての操作は、英国動物(科学的処置)法1986に従って、英国内務省認可PPL PP3430109の下に行った。すべての操作は、訓練されかつ免許を有する個人により行われた。
【0180】
【0181】
ELIspotアッセイ
殺処分前日に、4℃で、滅菌PBS(Gibco)中に希釈された一次抗体(抗マウスINFy mAbクローンAN18、Mabtech)と共に、Merkマルチスクリーン96ウェルフィルタープレート(Merck)をインキュベートした。次の日、抗体を除去し、250μL/ウェルでPBSを用いてプレートを4回洗浄し、続いて、200μL/ウェルのR10(10%熱不活性化FCS、非必須アミノ酸、L-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシン(すべてSigmaから)を添加したRPMI(Gibco)、37℃で2時間)を用いてブロッキングした。マウスを殺処分し、脾臓を取り出し、40μmセルストレイナー(Falcon)に通し、単一細胞懸濁物を遠心分離によりペレット化した。脾細胞を、3mLのACK溶解バッファー(Lonza)中に3~5分間にわたって再懸濁して赤血球を溶解させ、続いて20mLのPBSを用いて停止させ、その後、室温で5分間、1500rpmで遠心分離した。脾細胞ペレットを5mLのR10中に再懸濁し、計数し、4×105/mLに細胞濃度を調整した。ブロッキングバッファーを除去し、その群が接種された個別の個々のペプチド(15μg/mLでの50μLのペプチド)を用いて刺激した50μLの細胞で置き換えた。各ペプチドは、2回反復で試験した。陽性対照としてコンカナバリンAを用いて細胞を刺激した場合のみ、陰性対照ウェルはDMSOを含んだ。プレートを、37℃(5%CO2)インキュベーター中で一晩(15~20時間)インキュベートした。細胞およびペプチドを除去し、滅菌PBSを用いてウェルを7回洗浄した。アッセイ希釈剤(AD)(PBS中25mg/mL BSA)中に1:2000で希釈した二次抗体(ビオチンコンジュゲート化マウス抗INFy、MabTech)を添加し(50μL/ウェル)、室温で2時間インキュベートした。続いて、PBSを用いてプレートを4回洗浄し、続いて、AD中に1:750で希釈した50μLの抗ビオチン-アルカリホスファターゼ(Alkaline Phosphotase)(Mabtech)を添加し、室温で2時間インキュベートした。PBSを用いてプレートを4回洗浄し、続いて、50μL BCP/NBT基質を各ウェルに添加し、陽性対照ウェルにおいてスポットが視認できるまで、5~10分間発色させた。DI水中で3回プレートをリンスすることにより、反応を停止させた。ゴム底を除去し、DI水を用いてメンブレンを両面リンスし、続いて乾燥させた。ELISPOTカウンタ(AID、Germany)上でスポットを定量化した。
【0182】
Colon26マウス腫瘍モデルにおける樹状細胞ワクチン戦略
すべての実験およびプロトコールは、WuXi AppTec(HongKong)Limited(ここで実験が行われた)の動物福祉組織および地域当局により承認され、かつすべての適用可能な国際的、国家的および地域的法律およびガイドラインに従って行った。6~8週齢の16匹の雌性Balb/cマウス(RRID:IMSR_CRL:547)(群当たり8匹のマウス:対照(未パルス刺激樹状細胞)およびペプチドパルス刺激樹状細胞)(Vital River Laboratory Animal Technology Co.,LTD)に、100μL/マウスの合計注入体積中のPBS中3×105個Colon26細胞の片側性皮下注入を行った。個々の腫瘍体積が60~80mm3に達した時点で、同等の群平均/中央値腫瘍体積になるように、腫瘍体積に基づいてマウスを処置群へと割り当てた。無作為化から24時間以内に、1×106細胞/0.2mLの未パルス刺激またはパルス刺激樹状細胞を用いてマウスを静脈内的にワクチン接種した。ワクチンを調製するために、マウス骨髄細胞を回収した。次に、GM-CSF(250IU/mL)およびIL-4(5IU/mL)含有培地を用いて細胞を処理し、5%CO2中、37℃でインキュベートした。3日目に培地を半交換した。6日目に、樹状細胞を成熟させるためにGM-CSF、IL-4およびLPSを用いて細胞を処理した。24時間のインキュベーション後、DC細胞を回収し、表現型をFACS(CD11c、CD80、CD86)により分析した。続いて、2×105個のDC細胞/mLを、75μg/mL(15種類のペプチド、各5μg/mL)でペプチド(tab.X)を用いてパルス刺激し、5時間インキュベートした。回収および培地を用いるDC細胞の洗浄後、注入に対して準備ができた。2回目のワクチン接種を、7日目に行った。体重および腫瘍体積[mm3]を、キャリパー測定により週2回行った。実験の12日目または腫瘍潰瘍の場合には3000mm3超(片側)または当初体重の80%未満での体重減少で、個々のマウスの打ち切りを行った。各群から、ホルマリン固定サンプルを免疫組織化学染色のために作製した。
【0183】
免疫組織化学染色
FFPEスライドを、Histochoice(Sigma Aldrich)を用いて5分間洗浄し、続いて、100%エタノール中で3分間2回、70%エタノール中で3分間および水道水中で5分間洗浄した。次に、抗原復旧溶液(用いる抗体に応じてクエン酸ナトリウムバッファーまたはTris/EDTA)と共に、20分間にわたって水浴中99℃でサンプルをインキュベートした。精製水を用いた3回の洗浄後、新たに作製した6%メタノール/H202と共に15分間サンプルをインキュベートし、水道水中で洗浄した。次のステップにおいて、スライドを、1%PBST中で5分間洗浄し、ブロッキング血清溶液(Vectastatin ABC Kit)中で20分間ブロッキングし、1%PBST中で5分間再度洗浄し、一次抗体のSDMe(1:5000、Cell signaling)、CD8(1:11000、Abcam)、CD4(1:8000、Abcam)、FoxP3(1:4000、Cell signaling)、CD163(1:5000、Abcam)と共に4℃で一晩インキュベートした。次の日、スライドを、1%PBSTを用いて5分間洗浄し、続いて、室温で二次抗体(Vectastain ABC Kit)と共に30分間インキュベートした。次のステップにおいて、ABC溶液(VECTASTAIN(登録商標)ABC-HRP Kit、ペルオキシダーゼ、ウサギIgG、PK-4001)を添加して30分間おき、スライドを、1%PBST中で洗浄し、DAB溶液(Vector DAB)と共に10分間インキュベートした。続いて、スライドを、精製水中で洗浄し、ヘマトキシリン(Sigma Aldrich)中で対比染料した。Leica顕微鏡を用いて結果を分析し、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて半定量データとして提示した。
【0184】
統計解析
GraphPad Prism8ソフトウェア(GraphPad Software)による対応のない両側スチューデントt検定および一元配置分散分析検定を用いて、統計解析を行った。別途示されない限り、データはSEを表示した平均として示す。0.05未満のP値を有意と見なし、p<0.05に関して(*)、p<0.01に関して(**)、p<0.001に関して(***)、およびp≦0.0001に関して(****)の星印により標識する。
【0185】
[実施例1:ヒトlncRNA遺伝子のE2F1およびPRMT5対照発現]
本発明者らは、小分子活性部位阻害剤T1-44を用いた、HCT116結腸直腸がん(CRC)細胞におけるlncRNA遺伝子の発現に対するPRMT5活性の薬理学的阻害、およびE2F1遺伝子のCRISPRノックアウト(KO)の影響を調査した(Barczakら、2020)。RNA-seqデータセットを、lncRNA遺伝子発現における変化(30%超の変化)についてマイニングし、これにより、lncRNA転写産物が各条件間で差次的に発現されたことが明らかになった。本発明者らは、上方調節されたかまたは下方調節されたかのいずれかであったlncRNAを特定し(303種類の下方調節と比較して237種類の上方調節)、異なる条件間で明らかなlncRNA発現の幾分かの重複を伴った(
図1AおよびB)。差次的に発現されるlncRNAは、本発明者らのRNA-seqデータセット(18,377種類の総lncRNA転写産物)内で検出可能なレベルで存在する総lncRNAのうちの約3%を代表した。選択された群のlncRNA転写産物の発現をqPCRにより個別に測定した場合、LNCOC1などはT1-44処理に際して増加した一方で、CERNA1、CCNT2-AS1およびUBL7-AS1は減少した遺伝子発現パターンが明らかであった(
図1C)。同様に、lncRNA発現はE2F1活性により影響を受け;例として、LINC01128およびKCTD21-AS1転写産物はE2F1 KO細胞において比較的高レベルで発現された(
図1C)。
【0186】
本発明者らは、注釈付きE2F1 ChIP-seqデータセットを調査することにより、E2F1の直接的な標的であるか否かを評価するために、一群のlncRNA遺伝子を選択した(Dunhamら、2012)。PRMT5およびE2F1を操作した際に差次的に発現されるとスコア付けされたlncRNA転写産物のうちの多くが、転写産物開始部位(TSS)に非常に近接するかまたは転写される配列の本体内にChIP-seq読み出し値を有した遺伝子に由来した。この情報は、本発明者らが予測上のE2F結合性部位の周囲でプライマーを設計することを促し、その後、本発明者らは、E2F1との関連を確認するための遺伝子特異的ChIP実験においてこれらのプライマーを用いた。例えば、E2F1は、WT E2F1発現性HCT116細胞においてKCTD21-AS1、CERNA1、CCNT2-AS1、およびUBL7-AS1遺伝子中でクロマチン結合型であったが、E2F1 KO細胞は、予期された通りにE2F1富化を示さなかった(
図1D)。T1-44を用いる細胞の処理は、ChIP結合型E2F1に対して顕著な影響を有しなかった(
図1D)。
【0187】
本発明者らは、全ゲノムレベルで、E2F結合性部位を保有するか、または確立されたタンパク質コードE2F標的遺伝子の非常に近傍に位置する、差次的に発現されるlncRNAの割合を評価した。
【0188】
注目すべきことに、潜在的な直接的E2F1標的遺伝子としてスコア付けされる(ENCODEからのChIP-seqデータを用いた、TSSの500bp以内での読み出し値)RNA-seqデータセット中で、統計学的に有意なレベル(q<0.05)で差次的に調節されるlncRNA遺伝子のパーセンテージは39.2%であり、追加の38.9%のlncRNA遺伝子は、ゲノムレベルで既知のE2F標的遺伝子に近接するかその範囲内に位置した(同じかもしくは反対の鎖上でのE2F1標的遺伝子の遺伝子境界が重複するか、または同じかもしくは反対の鎖上でのE2F1標的遺伝子の遺伝子境界内に含まれた)が、それ自体が直接的なE2F標的であるようには見えなかった。21.9%は非E2F1標的であった。したがって、ここで特定されたlncRNA遺伝子のうちの大多数は、E2F経路との密接な関係を有する。
【0189】
[実施例2:E2F1、PRMT5およびマウスゲノム]
本発明者らは、マウスCRC CT26細胞株における全ゲノムRNAseq解析を追求した。RNAseq解析を、対照処理と比較して、化合物T1-44を用いて処理されたインビトロで生育されたCT26細胞において行った。本発明者らは、lncRNA転写産物に焦点を合わせてPRMT5の作用を評価するために、RNAseqデータセットをマイニングした。lncRNAのセットが、顕著に調節されることが見出され(30%カットオフで)、対照処理と比較してPRMT5阻害に際して109種類が上方調節され、282種類が下方調節された(
図2A)。本発明者らは、単一遺伝子レベルで解析した場合にlncRNA転写産物が調節されたことを確認し;例えば、Gm44148、Gm46565、Ptprv、Epb41l4aosおよびG630030J09Rik転写産物は、PRMT5を操作した際に差次的に発現された(
図2B)。マウスlncRNA遺伝子のうちの多くは、E2F1 ChIP-seqデータに従って、E2F1標的であると示された。注目すべきことに、差次的に発現されるlncRNAのうちの83.9%は、それらのTSSに対して非常に近接したE2F結合性部位ChIP-seqピークを含んだ遺伝子に由来するが、lncRNA遺伝子のうちの追加の8.9%は、ゲノムレベルでE2F標的遺伝子に近接するかまたはその範囲内に位置した。本発明者らは、siE2F1処理細胞における発現も評価し、これらの細胞では、発現レベルは多くの場合に下方調節され(
図2B)、このことは、PRMT5およびE2F1によるマウスlncRNA遺伝子の調節を強調した。
【0190】
本発明者らは、インビボで生育する同系colon26腫瘍におけるlncRNA遺伝子発現の解析の後に続けて、T1-44処理の影響を評価した。T1-44による腫瘍保有マウスの処理は、腫瘍生育における顕著な遅延を引き起こす:
【0191】
潜在的な直接的E2F1標的遺伝子としてスコア付けされる(GEOからのChIP-seqデータ[GSM288349]を用いて、TSSの500bp以内での読み出し値)CT26 RNA-seqデータ中で統計学的に有意なレベル(q<0.05)で差次的に調節されるlncRNA遺伝子のパーセンテージは83.9%であるか、またはそれ自体は直接的な標的ではないが、8.9%は他の潜在的なE2F1標的遺伝子と関連付けられることが見出された(同じかもしくは反対の鎖上でのE2F1標的遺伝子の遺伝子境界が重複するか、または同じかもしくは反対の鎖上でのE2F1標的遺伝子の遺伝子境界内に含まれた)。非E2F1標的は、7.2%に相当する。
【0192】
T1-44処理腫瘍と比較して生育中の腫瘍に対して行ったRNAseqは、2種類の処理条件間で差次的に(30%カットオフ)調節されるlncRNA転写産物を特定した。単一lncRNA遺伝子レベルでは、4930473A02Rik、Gm45441、Gm15156、Lncppara、Kcnmb4os1、Lncenc1およびEpb41l4aos転写産物は、化合物T1-44を用いる処理に際して上方調節された(
図2C)。さらに、CT26 RNA-seqにおいて特定されたEpb41l4aos、Gm44148およびGm46565をはじめとするlncRNAのうちの一部は、colon26腫瘍において同じ傾向に従った。したがって、本発明者らは、PRMT5-E2F1軸が、ヒトがん細胞株において見られるのと同様に、インサイチューで生育する腫瘍をはじめとするマウス腫瘍細胞においてlncRNA遺伝子発現を調節すると結論付ける。
【0193】
[実施例3:PRMT5は腫瘍微小環境(TME)において免疫応答を調節する]
有効な抗腫瘍応答の促進でのTMEの役割により、本発明者らは、PRMT5阻害に際して遅延した腫瘍生育(
図2C)が、調節解除された遺伝子発現により引き起こされるTME中での事象を反映したか否かを試験した。T1-44処理に際した腫瘍生育の阻害は、腫瘍生検内でのSDMeマークの低減されたレベルと同時に起こり(
図2E)、したがって、PRMT5の触媒的阻害を確認した。TMEのさらなる調査に際して、本発明者らは、T1-44処理が、細胞傷害性CD8の流入およびヘルパーCD4 Tリンパ球での穏当な増加により最も明らかに証明される、浸潤性リンパ球集団に対する著しい影響を有し;腫瘍関連マクロファージなどの他の関連する細胞集団に対して、T1-44処理の作用は最小限であったことを見出した(
図2E)。CD8 Tリンパ球の増加したレベルが適応免疫応答に対する影響に起因した可能性があると考えられ、CD8 Tリンパ球は主にそれらのT細胞受容体を介してMHCクラスI抗原複合体と関与するので、T1-44処理がMHCクラスIタンパク質複合体を介する抗原提示に影響したと考えるのが妥当である。
【0194】
MHCクラスI複合体のペプチド抗原内容物が化合物T1-44を用いるCT26細胞の処理に際して変化したか否かに取り組むために、本発明者らは、未処理細胞と比較して、処理細胞においてMHCクラスI複合体により提示されるペプチドのレパートリーを評価するための質量分析(MS)免疫ペプチドミクス解析を行った(
図3AおよびB)。結果は、MHCクラスI結合型ペプチドの大きな群を明らかにし、その多くが細胞のタンパク質に由来した。lncRNA遺伝子発現の調節におけるPRMT5-E2F1軸の役割を考慮して、本発明者らは、lncRNAがMHCクラスIペプチドレパートリーに寄与するか否かを調べることに着手した。本発明者らは、本発明者らのCT26 RNA-seqデータセットにおいて検出可能なレベルで発現されるlncRNA転写産物の全3フレームからの予測上の転写を含む社内プロテオームデータベースを作成した。続いて、免疫ペプチドミクス解析から検出されたペプチドを、この社内データベースまたはすべての審査されたマウスSwissProtタンパク質エントリーを含む標準的なプロテオームデータベースのいずれかに対してマッチさせた(
図3A)。特に、本発明者らは、lncRNA遺伝子に由来する382種類のペプチド(9残基の平均サイズを有する)を特定し、これは解析中で検出された総ペプチドのうちの6.5%を代表した(
図3B~D)。lncRNA由来ペプチドは、マウスMHCクラスI対立遺伝子H-2-Kd、Dd、Ld、Qa1、Qa2に対する高い親和性が予測され、効果的なMHCクラスI結合性に必要な保存された残基を示した(
図3C)。免疫ペプチドミクスにおいて特定されたペプチド配列の選択を、その後、合成ペプチド配列に対して比較することにより、質量分析を用いて確認した。最も重要なことに、データをT1-44処理細胞ペプチドと対照細胞ペプチドとの間で比較した場合、定性的および定量的差異の両方が、lncRNA由来ペプチドの集団内で明らかであった。
【0195】
本発明者らは、ペプチドをコードするlncRNAの調節におけるPRMT5およびE2F1の役割を調べ、Gm20621、1110038B12Rikおよび4933406J09Rikなどのそれらのうちの多くが、PRMT5阻害に際して、インビトロでおよび腫瘍として生育されたCT26細胞において上方調節されたことを見出した。さらに、lncRNAの発現プロファイルは、一般的に、ペプチドにおける類似の定性的変化と相関し、例えば、T1-44処理に際して、Gm37283(ペプチド配列HIFSLHHF;配列番号176)およびGm17173(ペプチド配列RLAQLQTTI;配列番号166)は上方調節され、かつ4732463B04Rik(ペプチド配列RGPLLEKLF;配列番号167)は下方調節された。本発明者らはまた、siE2F1サイレンシングを用いてこれらのlncRNAの発現に対するE2F1の影響を評価し、試験したセットのうちでは、lncRNAはE2F1依存的様式で調節されたことを見出した。実際には、MHCクラスI結合型ペプチドをコードするlncRNA遺伝子のうちの大多数は、ChIP-seqデータセットを参照してE2F標的遺伝子であることが見出され;約81%が直接的E2F1標的であり、さらなる8%は他のE2F1標的遺伝子と関連するかまたは重複した。
【0196】
MHCクラスI関連ペプチドは、通常、より大きなタンパク質から生成され、これがタンパク質分解に供され、リソソーム内小胞系へと注ぎ込まれる(Rockら、2016)。lncRNAは一般的に非コード性であると見なされるが(HartfordおよびLal、2020;Statelloら、2021)、本発明者らはlncRNA遺伝子に由来するペプチドを特定したので、本発明者らは、それらが、小さなペプチドを送達するために潜在的にプロセシングされ得るであろうタンパク質をコードすることができるか否かを試験することを希望した。ペプチドを生じたlncRNAのうちの多くに関して、本発明者らは、ペプチドがそれに由来したであろう理論上のオープンリーディングフレーム(ORF)を特定することができ(
図3E);ORFのうちの大部分は、100残基未満を有する小さなコードポリペプチドであったが、lncRNAのうちの別の群は、より大きなORFを有したことが明らかであった。さらに、lncRNA遺伝子に由来する転写産物は、例えば、Gm37494、Gm37283、およびGm17173をはじめとする、リボソームの転写性ポリソーム画分を用いて注釈付けすることができた(
図3E)。Gm37283およびGm47761などの一部の場合には、それらの注釈は、PRMT5阻害に際して強化され(
図3Fiii)、これは次に、誘導されたペプチド(それぞれ、HIFSLHHF;配列番号176およびYYIPGLKGI;配列番号194)の増大したレベルと同時に起こった。
【0197】
本発明者らは、その後、lncRNA遺伝子RNAが検出可能タンパク質へと直接的に翻訳できるか否かを試験し、本発明者らはこれを、C末端でFLAGエピトープを用いてタグ付けされた発現ベクターへと予測上のORF cDNAをクローニングすることにより行った。例として、Gm29253 lncRNAは、26kDポリペプチドをコードする理論上のORFを有した。Gm29253 ORFの異所性発現から誘導される特異的ポリペプチドは、免疫染色および免疫ブロッティングによりトランスフェクションされた細胞中で検出され、予測上のORFに関する予測された分子量を伴った。したがって、本発明者らは、MHCクラスI結合型ペプチドを生じるlncRNAが、リボソームに会合することができ、かつさらにポリペプチドへと翻訳されることができ、これがMHCクラスIタンパク質複合体へとペプチドを送達するためにその後にプロセシングされると結論付ける。
【0198】
[実施例4:ヒト腫瘍細胞におけるlncRNA由来MHCクラスI関連ペプチド]
本発明者らは、T1-44処理細胞を未処理細胞と比較する、ヒトHCT116細胞におけるMHCクラスI関連ペプチドに対する類似の免疫ペプチドミクス解析を行い、これもまたヒトlncRNA遺伝子から誘導されるペプチドの重要なセットを強調し(すべての社内データベースから特定された118種類の固有ペプチド;
図4A~C);細胞性タンパク質に由来する追加のより多くのセットもまた明らかであった。個別のlncRNAペプチド配列を、その合成ペプチド対応物に対して質量分析由来ペプチド配列を比較することにより確認した。ペプチドのサイズは、ヒトHLA MHCクラスI結合性に必要とされる予測される保存された残基を含む平均9残基であり(
図4BおよびC)、ヒトHLA-A、-B、および-C対立遺伝子MHCクラス1タンパク質に対して高親和性を有すると予測された(
図4B)。さらに、定量的分析は、ペプチドのうちの42%(GENCODE注釈を用いてlncRNAデータベースから特定される通り)が、30%以上の変化を伴ってT1-44処理に際して調節されたことを示し、10%が上方調節され、32%が下方調節され、58%が変化しなかった。
【0199】
本発明者らは、qPCRによりMHCクラスI結合型ペプチドを生じるヒトlncRNAの発現を測定し、T1-44処理に際して、多くが差次的に発現され、かつ発現変化のうちの一部がMHCクラスI関連ペプチドにおいて見られる類似の相対的変化を反映したことを見出した。例えば、HELLPAR(ペプチド配列LSLSLSLQFS;配列番号127)およびRP11-660L16.2(ペプチド配列RLATHIDGA;配列番号36)lncRNAに由来するペプチドの増大したレベルは、T1-44処理に際する増大したlncRNA発現を反映した一方で、AC079135.1(ペプチド配列AEKPPGSVA;配列番号106)、RP11-319G6.1(ペプチド配列EETYFHLF;配列番号20)およびVPS9D1-AS1(ペプチド配列RLLQETHQA;配列番号38)lncRNAをはじめとする示された低減した発現は、MHCクラスI抗原に結合したペプチドの低減したレベルと同時に起こった。lncRNAのうちの多くの発現はまた、E2F1によっても影響を受け、E2F1 KO細胞株における増加した(AC004943.2、PPM1F-AS1、AC018445.6)かまたは減少した発現(C5orf34-AS1、RP11-319G6.1、AC079135.1)のいずれかを示した。
【0200】
本発明者らは、ヒトがん細胞において、ペプチドをコードするlncRNAのうちの多くが、E2F1標的遺伝子を代表することを確認した。本発明者らは、E2F1結合性部位を特定するためにChIPseqデータを用い、これらの部位の周辺でプライマーを設計し、続いて、ChIPにより、クロマチン結合型E2F1の存在を確認した。E2F1は、ペプチドを生成したlncRNA遺伝子のうちの多くのプロモーターで富化されていることが観察され;それぞれGENCODEおよびFANTOMデータベース由来のlncRNAのうちの約39%および77%が直接的E2F1標的遺伝子であるように見えた一方で、ペプチドをコードするlncRNA遺伝子のうちのさらに26%(GENCODE)および14%(FANTOM)が、それぞれ、他のE2F1標的遺伝子と関連付けられた。E2F1動員に対するT1-44処置の影響は、軽度であるように見えた。
【0201】
本発明者らは、HCT116細胞中で発現されるヒトlncRNA内のORFに対して類似の解析を行った。MHC結合型ペプチドを生じたlncRNA ORFのうちの大部分が100残基未満であり、12kD未満のポリペプチドを生じ、すべてのORFを比較した場合、弱い翻訳開始配列が明らかであった。本発明者らは、lncRNAが、リボソームの翻訳性ポリソーム画分に会合することができるか否かを試験し、多数のlncRNA、例えば、MALAT1、AC079135.1、およびVPS9D1-AS1がそれを行うことができたことを見出し(
図4D);一部の場合、例えば、MALAT1およびVPS9D1-AS1では、PRMT5阻害およびE2F1 KO条件に際して沈降シフトが見られた(
図4D)。
【0202】
続いて、本発明者らは、ヒトlncRNA転写産物が、発現ベクター中にcDNAとして予測上のORFをクローニングすることにより、タンパク質へと直接的に翻訳されることができるか否かに取り組んだ。試験した2つの例MALAT1およびA0079135.1に関して、MHC関連ペプチドを含むORFから誘導される小さなタンパク質を、免疫染色および免疫ブロッティングにより検出することができた(
図4Eおよび
図4F)。加えて、これらのlncRNAポリペプチドの発現がPRMT5阻害剤を用いる処理後に誘導された一方で、対照プラスミドからのGFPの発現は影響されず、このことは、lncRNA由来ポリペプチドの翻訳は、PRMT5によりさらに調節されることができることを示唆した(
図4F)。
【0203】
[実施例5:ヒトがんに対する関連性]
MALAT1およびDANCRなどのMHC結合型ペプチドをコードするPRMT5-E2F1応答性lncRNAのうちの一部が、ヒトがんにおいて調節解除された発現を示すことが既に公知であることは、注目に値する(Zhaoら、2021)。したがって、本発明者らは、悪性疾患における発現パターンに関して十分に特性が決定されていないペプチドをコードするlncRNA(ここで特定される)のうちの一部を評価した。これらのエクササイズのうちの一部として、本発明者らは、ある範囲のがんおよび正常組織にわたるMALAT1およびDANCR発現を確認した(
図5A)。他のlncRNAの発現パターンは可変的であり;例えば、VPS9D1-AS1は、一部のがんでの高発現および一般的には正常組織において低発現を伴う、不均一な発現を示した。このことは、がんおよび正常組織において均一な低発現を有したCTC-459F4と対照的であった。
【0204】
CRC細胞株における発現の詳細な解析では、lncRNA発現は、ある範囲の腫瘍細胞株にわたって検出され、細胞株のパネルに対して、一部のlncRNA遺伝子は高発現を示し、他のものはより低い発現を示した(
図5A)。興味深いことに、lncRNA発現を、ヒト結腸直腸がん、胃がんおよび食道がんから調製されたRNAにおいて解析した場合、マイクロサテライト安定性(MSS)下位群およびマイクロサテライト不安定性(MSI)下位群における発現間に明らかな区別が見られ;例えば、結腸直腸がんでは、lncRNA発現のうちの大部分はMSS下位群において起こり、MSI下位群では起こらず、これは胃がんおよび食道がんでは比較的目立たなかった(
図5A)。したがって、一般的に、lncRNAの発現は疾患特異的である。
【0205】
ヒト疾患におけるlncRNAの予後的重要性を評価することにはさらに興味が持たれ、この評価で本発明者らは副腎皮質(AC)がん、CRCおよび膵臓がん(PC)に注目し、腫瘍生検の集合にわたって発現レベルを測定し、この情報を生存期間に関連付けた。PRMT5レベルは、高レベルが予後不良に相関したので、予後的重要性を有し;E2F1発現は類似の傾向に従った(
図5Bi)。一部のlncRNAは同様に挙動し、高発現が予後不良に相関した(例えば、DANCRおよびLINC00094;
図5Bi)。しかしながら、この相関は、CRCおよびPCではあまり明らかでなかった(
図5Biiおよび
図5Biii)。一般的に、lncRNA発現の予後値は、ACにおいて非常に良好であるが、CRCおよびPCでは非常に可変的であるように見える。
【0206】
[実施例6:lncRNA由来ペプチドによる免疫原性および腫瘍生育阻害]
本発明者らは、lncRNA由来MHCクラスI結合型ペプチドがマウスにおいて免疫原性であるか否かを試験した。マウスlncRNA遺伝子によりコードされ、免疫ペプチドミクス解析において特定された20種類のペプチドを、MHCクラスIに対するそれらの予測上の高親和性、正常マウス組織中でのそれらの対応物lncRNA遺伝子の低発現およびPRMT5阻害に際する差次的調節に基づく免疫学的分析のために選択した(
図5C)。5種類のペプチドのプールを、マウスを免疫化するために用い、ペプチドの関連プールを用いて各マウス由来の細胞を再刺激することによるIFNγ ELISpotのために、14日目に脾細胞を回収した。マウスを免疫化するために用いられたペプチドのうち、本発明者らは、免疫原性であった15種類のペプチドを特定し、これらは未免疫化マウスと比較してIFNγ活性化型T細胞における顕著な増加をもたらした(
図6A)。本発明者らは、陽性免疫原性対照ペプチド(AH1)およびさらに免疫原性を示すことができなかった数種類のlncRNA由来ペプチドを含めた(
図6A)。これらの結果は、lncRNA由来MHCクラスI結合型ペプチドが免疫原性であり、かつ有効なT細胞応答を刺激するという証拠を提供する。
【0207】
本発明者らは、lncRNA由来ペプチドに対するT細胞応答は、がんワクチンの文脈で送達された場合に治療上の利益へと変換されるか否か、すなわち、抗腫瘍応答を増強するか否かを試験することに興味を持った。この問題に対処するために本発明者らが採ったアプローチは、エクスビボ樹状細胞送達プラットフォームを用いることであった。骨髄樹状細胞をマウスから回収し、成熟させ、続いてプールした免疫原性ペプチドを用いてパルス刺激した。7日間後、ペプチドパルス刺激された樹状細胞および対照樹状細胞を、確立された同系colon26腫瘍を有するBalb/cマウスへと導入し、腫瘍生育に対するいずれかの作用をモニタリングした。著しいことに、ペプチドパルス刺激した樹状細胞の移入は、抗腫瘍応答を強化し、これは対照処理樹状細胞と比較してcolon26腫瘍の遅延した生育として反映された(
図6B)。樹状細胞送達の文脈では、lncRNA由来ペプチドは、colon26腫瘍(ペプチドが当初それから誘導された)の生育を妨げ、したがって治療上の利益を提供することができる。
【0208】
[考察]
G1期からS期への制御を介した細胞生育および分裂の調節因子としてのpRb-E2F経路の古典的な見方は、近年顕著に発展してきた。E2Fの作用は非定型であり、通常の転写作用ではなくむしろ選択的スプライシングに影響を及ぼす遺伝子を含む、はるかに広いレパートリーの標的遺伝子がE2F経路制御に供されることが現在明らかである(Roworthら、2019)。どの遺伝子制御メカニズムが優勢であるかを決定することにより、E2F1中の小さなRリッチ領域を標的とするPRMT5により媒介されるアルギニンメチル化は、E2F1による遺伝子発現制御に対する主要な影響である(Zhengら、2013)。がんにおけるPRMT5の頻繁な過剰発現(BedfordおよびClarke、2009;BedfordおよびRichard、2005;Janssonら、2008;YangおよびBedford、2013)を考慮して、E2F活性の調節でのその役割は、非常に重要である可能性が高い。本研究において、本発明者らは、PRMT5-E2F1軸の影響をlncRNA遺伝子の制御へと、およびさらに免疫認識での役割へと広げる、予期せぬ観察のセットを開示した。本発明者らの研究の主要な知見は、多数のlncRNA遺伝子が、直接的にE2F経路制御下で、MHCクラスIタンパク質と集合し、その後に免疫系により認識される小さなペプチドをコードすることを示す。
【0209】
ヒトゲノム解析は、約28,000種類のヒトlncRNA遺伝子(FANTOM5データベース)(Honら、2017)を暗示する他のものを伴う、17,000種類超のlncRNA遺伝子(GENCODE v38)(Statelloら、2021)が見られることを示唆してきた。lncRNAは通常、200ヌクレオチド長であり、少数が、mRNAと同様の様式でプロセシングおよびスプライシングされると記載されてきた(Statelloら、2021)。lncRNAが生物学的に重要であるか否かは、議論の対象の主題のままであり;一部は、例えば、クロマチン生物学における、細胞機能の原因とされてきた(Schlackowら、2017;Vosら、2018)。他の研究では、lncRNAは、RNA生物発生に影響を及ぼし得る(Statelloら、2021)。さらに、lncRNA発現は、がんと関連付けられてきた。例えば、MALAT1は非常に保存されたlncRNAであり、細胞および組織において多量に発現され、転写および転写後レベルの両方での遺伝子の調節において役割を果たす可能性がある(Engreitzら、2014;Yangら、2013)。MALAT1は、転移性肺がんにおいて上昇した発現を示すとして当初特定され、同じことが、異なる固形腫瘍またはリンパ性腫瘍において記載されてきた。マウス転移性がんモデルでは、MALAT1欠損は原発腫瘍の分化および転移の顕著な低減をもたらした(Arunら、2016)。
【0210】
がん細胞(ヒトおよびマウス)に対するMHCクラスIタンパク質のペプチド組成の詳細な免疫ペプチドミクス解析を通して、本発明者らは、次にPRMT5-E2F1軸により調節される遺伝子であることが示された、著しい割合のlncRNA遺伝子から誘導されるペプチドを特定した。これらのペプチドのうちの多くは、PRMT5活性の薬理学的阻害に際して調節され、加えてE2F1標的遺伝子であり、このことは、PRMT5およびE2F1が一緒に、がん細胞の免疫原性、および次に従って、腫瘍に対する免疫応答を調節することを示す。興味深いことに、MALAT1は、コード配列中のORFによりコードされるより大きなポリペプチドから誘導されるペプチドをコードすることを本発明者らが見出した1つのlncRNAであった。バイオインフォマティクスアプローチを用いて、腫瘍関連抗原はゲノムの非カノニカルな部分に由来することができるが、生物学的基礎および治療上の重要性が大多数の部分に関して未だ解明されていないことは、注目に値する(Chongら、2020;Laumontら、2018;Zhangら、2018)。本明細書中に記載される結果は、MHCクラスI抗原提示機構のペプチド組成に寄与する上でのlncRNA遺伝子の新規かつ重要な役割を堅固に確立する。
【0211】
lncRNA遺伝子は、がんにおいて異常に発現され、増加したかまたは減少した発現を示す場合がある(Huarte、2015)。本明細書中に記載される結果の文脈では、変化した発現レベルは、がん細胞により免疫系へと提示されるペプチドのスペクトルにおける定量的差異および、それにより、免疫認識に対する影響へと変換されることができるであろう。これらの観察は、翻って、PRMT5により調節されるがん関連経路を明らかにし;すなわち、lncRNA発現の制御を介した多数のヒトがんにおける広く報告されたPRMT5の増加したレベルは、免疫系に対して提示されるペプチドレパートリーを変化させることにより、腫瘍細胞の免疫原性に対して影響を及ぼす。lncRNA遺伝子から誘導されるペプチドは自己抗原であり、したがって、理論上はそのようなペプチド抗原を標的とするT細胞は、中枢および末梢寛容メカニズムにより発達中に除去されるはずであることは、特筆すべきである。しかしながら、本発明者らは、試験されたペプチドのうちの多くが活性なT細胞応答を駆動することができたことを見出し、このことは、このクラスのlncRNA由来ペプチドに対して存在するいずれかの寛容が部分的であるかまたは覆されることができることを示唆する。本発明者らが合成的lncRNA由来ペプチドに対するT細胞応答に関する証拠を獲得したという事実により、本発明者らは、これが腫瘍に対する抗がん応答へと変換されるか否かを試験した。これに関して、本発明者らは、ペプチドがそれから元来特定され、かつ重要なことにMHCクラスIタンパク質の文脈において天然に発現および提示されるcolon26モデルを用いた。本発明者らの結果は、これが実際に当てはまることを示唆した。つまり、colon26同系マウスモデルにおいて、エクスビボペプチド積載樹状細胞を介して送達されたlncRNA由来ペプチドは、有効な抗がん免疫応答を刺激することができた。
【0212】
結果は、PRMT5-E2F1軸により制御され、かつMHCクラスI関連抗原として古典的経路を介して免疫系に対して提示される、腫瘍関連抗原の予期せぬ豊富な供給源として、lncRNA遺伝子を強調する(
図6C)。それ自体が高いがん関連性を有する酵素であるPRMT5の薬理学的操作を通してそれらの発現に影響を及ぼす能力は、腫瘍細胞の免疫原性を制御し、最終的に特異的なタイプのがんに合わせることができるがんワクチンをさらに開発するための新規アプローチを可能にする。本発明者らの研究はまた、細胞周期進行の基本的な調節因子であり、多くの場合にがんにおいて調節解除されるpRb-E2F経路を、抗原提示および免疫応答と統合もし、したがって、がん細胞増殖と免疫系との間の相互作用を確立する。
【0213】
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【配列表】
【国際調査報告】