(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】脊髄損傷を治療するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20241112BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20241112BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20241112BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241112BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20241112BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61L27/36 400
A61L27/54
A61K35/30
A61P25/00
C12N5/0793
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531711
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 IL2022051272
(87)【国際公開番号】W WO2023095149
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】501177609
【氏名又は名称】ラモット・アット・テル・アビブ・ユニバーシテイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RAMOT AT TEL AVIV UNIVERSITY LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドヴィル タル
(72)【発明者】
【氏名】エドリ ルーヴェン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルトハイム リオル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C081AB18
4C081CD34
4C081DA06
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087DA31
4C087NA14
4C087ZA01
(57)【要約】
脱細胞化網から作製される複数の線維性粒子を含む組成物であって、線維性粒子が直径750ミクロン~3mmであり、線維性粒子が成熟ニューロンのネットワークを含む、組成物が開示される。その使用およびその作製方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化した網(omentum)から作製される複数の線維性粒子を含む組成物であって、前記線維性粒子が直径750ミクロン~3mmであり、前記線維性粒子が成熟ニューロンのネットワークを含む、組成物。
【請求項2】
前記線維性粒子が本質的に球状である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記成熟ニューロンが運動ニューロンを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記運動ニューロンの50%超が、フローサイトメトリーで測定したとき、ニューロン特異的クラスIII β-チューブリン(TUJ1)を発現している、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記細胞の50%超が、フローサイトメトリーで測定したとき、運動ニューロンおよび膵臓ホメオボックス1(MNX1)を発現している、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記線維性粒子の線維の平均直径が、直径50~200nmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記網がヒト網を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
対象者の慢性脊髄損傷を治療する方法であって、前記脊髄損傷の少なくとも3ヶ月後に前記対象者の損傷部位に請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を移植し、それによって前記脊髄損傷を治療することを含む、方法。
【請求項10】
前記移植が、前記脊髄損傷の少なくとも6ヵ月後に行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記移植の前に、前記対象者の前記損傷部位から瘢痕組織を除去することをさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、移植されるときに薬学的に許容される担体を含み、前記方法が、前記移植の後に、前記損傷部位から前記担体の少なくとも一部を除去することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記移植がシリンジを用いて行われる、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記シリンジの内径が1~5mmである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(i)請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物と、
(ii)対象者の脊髄に組成物を送達する装置と、
を含む、物品。
【請求項16】
前記装置がシリンジである、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記シリンジの内径が1~5mmである、請求項16に記載の物品。
【請求項18】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物を作製する方法であって、
(a)多能性幹細胞を含む脱細胞化網粒子であって、その直径が750ミクロン~3mmである粒子を作製することと、
(b)前記粒子と少なくとも1つの神経細胞分化剤とを接触させることと、
(b)前記少なくとも1つの神経細胞分化剤の存在下、前記粒子内で成熟ニューロンのニューラルネットワークの作製を促進する条件下で前記粒子を培養し、それによって請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物を作製することと、
を含む、方法。
【請求項19】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記人工多能性幹細胞が、大網間質細胞からリプログラミングされたものである、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記神経細胞分化剤が、トランスフォーミング増殖因子ベータ受容体1(ALK-5)阻害剤、形態形成タンパク質4(BMP4)阻害剤、レチノイン酸、骨由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸およびプルモルファミンからなる群から選択される、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記成熟ニューロンが運動ニューロンを含む、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記運動ニューロンの50%超が、フローサイトメトリーで測定したとき、ニューロン特異的クラスIII β-チューブリン(TUJ1)を発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞の50%超が、フローサイトメトリーで測定したとき、運動ニューロンおよび膵臓ホメオボックス1(MNX1)を発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記作製が、
(a)可溶化した脱細胞化網と前記多能性幹細胞との混合物の液滴を固体表面に分注することと、
(b)前記液滴の固化を促進する条件に前記液滴を曝すことと、
によって行われる、請求項18~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年11月29日に出願された米国出願第63/283,629号の優先権を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、そのいくつかの実施形態において、脊髄損傷、より詳細には慢性脊髄損傷を治療するための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
外傷性の脊髄損傷(SCI)は、運動制御と、患者の健康および生活の質のすべての側面とに直ちに壊滅的な影響を与える。初期外傷は、直接損傷を引き起こし、多くの場合、細胞死、血液脊髄関門の破壊、および細胞外基質(ECM)の分解につながる。これらのプロセスは、二次炎症性損傷カスケードを開始させ、進行性慢性組織損傷を引き起こし、グリア瘢痕の形成をもたらす。損傷部位を取り囲む健康な神経組織には、組織修復を促進することが可能な手がかりがあるが、瘢痕組織および損傷部位には細胞増殖を許容する微小環境がないことに加え、ECMが分泌するネトリンおよびスリットなどの軸索ガイダンス分子が存在しないため、内因性の再生能力が低く、永久的な神経機能障害が生じる。さらに、時間の経過とともに損傷部位は拡大し、自然再生または介入再生はさらに困難になる。
【0004】
損傷脊髄を再配線する(rewire)ことを目的として、研究者らは、急性期の損傷部位への様々な細胞型または生体適合材料の移植5~7を含む様々なアプローチを提案してきた。脊髄損傷の潜在的治療法として、シュワン細胞8、神経幹細胞(NSC)または神経前駆細胞(NPC)9、10および間葉系幹細胞11の移植が研究されてきた。しかしながら、このような治療法の成功を危うくする可能性のある2つの問題がある。すなわち、細胞拒絶反応を促進する可能性がある同種または異種細胞に対する宿主の免疫応答、および機能ネットワークに組織化されない解離細胞の移植である。
【0005】
拒絶反応リスクを克服するために、人工多能性幹細胞(iPSC)を使用してもよい。このアプローチでは、患者からの体細胞を多能性になるようにリプログラミングし、次いで所望の細胞系譜に分化させる。損傷脊髄の再生における最も一般的な戦略は、これらの細胞を直接適用することではなく、様々なiPSC由来の細胞株を移植することである。Luらは、SCI誘導の2週間後に、解離させたiPSC由来のNSCをフィブリン基質中に挿入した。この細胞は分化することができ、宿主のニューロンと相互作用して、損傷脊髄の白質を長い距離にわたって延びる軸索を形成した13。別の研究では、SCI後9日目に、iPSC由来のニューロスフェアが脊髄に注入された。奇形腫を形成することなく3つの神経系譜にin vivoで分化した細胞は、再ミエリン化に関与し、ロコモーションが改善した14。このような細胞源は、損傷脊髄の再生に関連する可能性はあるが、損傷部位への細胞の注入は理想的とは言えない。懸濁液中または生体適合材料ベースの担体中の解離細胞を損傷部位に注入すると、組織形成および分化のために、また脊髄の健康な部分との統合のために、細胞-細胞相互作用および細胞-基質相互作用を形成するためのエネルギーが投入される15。瘢痕組織は、組織構築をサポートする微小環境を提供しないため、大量の細胞死が起こる可能性がある。したがって、瘢痕組織の全部または一部の除去後に、予め形成された3Dニューラルネットワークを損傷部位に挿入することによって、再生に必要な時間を短縮し、治療効果を改善することが可能である。しかしながら、機能的3Dニューラルネットワークを工学的に構築する条件は、まだ完全にはわかっていない16。
【0006】
背景技術には、Edri et al., Advanced materials 31, 1803895 (2019)、Shimojo, et al. Mol Brain 8, 79 (2015)、国際公開第2014/207744号および国際公開第2017/103930号が含まれる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の態様によれば、脱細胞化した網(omentum)から作製される複数の線維性粒子を含む組成物であって、線維性粒子が直径750ミクロン~3mmであり、線維性粒子が成熟ニューロンのネットワークを含む、組成物が提供される。
【0008】
本発明の態様によれば、対象者の慢性脊髄損傷を治療する方法であって、脊髄損傷の少なくとも3ヶ月後に対象者の損傷部位に本願に記載の組成物を移植し、それによって脊髄損傷を治療することを含む、方法が提供される。
【0009】
本発明の態様によれば、
(i)本願に記載の組成物と、
(ii)対象者の脊髄に組成物を送達する装置と、
を含む、物品が提供される。
【0010】
本発明の態様によれば、本願に記載の組成物を作製する方法であって、
(a)多能性幹細胞を含む脱細胞化網粒子であって、その直径が750ミクロン~3mmである粒子を作製することと、
(b)粒子と少なくとも1つの神経細胞分化剤とを接触させることと、
(b)少なくとも1つの神経細胞分化剤の存在下、粒子内で成熟ニューロンのニューラルネットワークの作製を促進する条件下で粒子を培養し、それによって本願に記載の組成物を作製することと、
を含む、方法が提供される。
【0011】
本発明の実施形態によれば、線維性粒子は本質的に球状である。
【0012】
本発明の実施形態によれば、成熟ニューロンは運動ニューロンを含む。
【0013】
本発明の実施形態によれば、運動ニューロンの50%超は、フローサイトメトリーで測定したとき、ニューロン特異的クラスIII β-チューブリン(TUJ1)を発現している。
【0014】
本発明の実施形態によれば、細胞の50%超は、フローサイトメトリーで測定したとき、運動ニューロンおよび膵臓ホメオボックス1(MNX1:motor neuron and pancreas homeobox 1)を発現している。
【0015】
本発明の実施形態によれば、線維性粒子の線維の平均直径は、直径50~200nmである。
【0016】
本発明の実施形態によれば、網はヒト網を含む。
【0017】
本発明の実施形態によれば、組成物は薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0018】
本発明の実施形態によれば、移植は、脊髄損傷の少なくとも6ヵ月後に行われる。
【0019】
本発明の実施形態によれば、方法は、移植の前に、対象者の損傷部位から瘢痕組織を除去することをさらに含む。
【0020】
本発明の実施形態によれば、組成物は、移植されるときに薬学的に許容される担体を含み、方法は、移植の後に、損傷部位から担体の少なくとも一部を除去することをさらに含む。
【0021】
本発明の実施形態によれば、移植はシリンジを用いて行われる。
【0022】
本発明の実施形態によれば、シリンジの内径は1~5mmである。
【0023】
本発明の実施形態によれば、装置はシリンジである。
【0024】
本発明の実施形態によれば、シリンジの内径は1~5mmである。
【0025】
本発明の実施形態によれば、多能性幹細胞は人工多能性幹細胞である。
【0026】
本発明の実施形態によれば、人工多能性幹細胞は大網間質細胞からリプログラミングされたものである。
【0027】
本発明の実施形態によれば、神経細胞分化剤は、トランスフォーミング増殖因子ベータ受容体1(ALK-5:Transforming Growth Factor Beta Receptor 1)阻害剤、形態形成タンパク質4(BMP4:morphogenic protein 4) 阻害剤、レチノイン酸、骨由来神経栄養因子(BDNF:bone derived neurotrophic factor)、アスコルビン酸およびプルモルファミンからなる群から選択される。
【0028】
本発明の実施形態によれば、成熟ニューロンは運動ニューロンを含む。
【0029】
本発明の実施形態によれば、運動ニューロンの50%超は、フローサイトメトリーで測定したとき、ニューロン特異的クラスIII β-チューブリン(TUJ1)を発現している。
【0030】
本発明の実施形態によれば、細胞の50%超は、フローサイトメトリーで測定したとき、運動ニューロンおよび膵臓ホメオボックス1(MNX1)を発現している。
【0031】
本発明の実施形態によれば、作製は、
(a)可溶化した脱細胞化網と多能性幹細胞との混合物の液滴を固体表面に分注することと、
(b)液滴の固化を促進する条件に液滴を曝すことと、
によって行われる。
【0032】
別途定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および/または科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または同等の方法および材料を、本発明の実施形態の実施または試験に使用することができるが、例示的な方法および/または材料を以下に述べる。矛盾がある場合は、定義を含む特許明細書が優先する。また、材料、方法、および実施例は例示に過ぎず、必ずしも限定することを意図していない。
【0033】
本明細書では、本発明のいくつかの実施形態を、添付図面を参照して例示としてのみ説明する。ここで、図面を具体的に詳細に参照するが、示される詳細は例示であり、本発明の実施形態の例示的説明のためであることが強調される。これに関して、図面を参照した説明は、本発明の実施形態をどのように実施することが可能かを当業者に明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1のA~Bは、本発明の実施形態に従って行われた実験を示す模式図である。A.構想。患者から大網組織を取り出す。次いで、細胞とECMとを分離する。細胞はiPSCになるようにリプログラミングし、ECMを熱応答性ヒドロゲルに加工する。次いで、iPSCを網ベースヒドロゲル内に封入し、幹細胞インプラントを作製する。このインプラントを、胚性脊髄発生を模倣する30日間の分化過程にかける。得られた脊髄ニューロンインプラントは完全に自己のものであり、次に患者に戻して移植することができる。B.研究の模式図。分化させた脊髄運動ニューロンインプラントについて、初めに、in vitroで特性評価を行った。次に、これらのインプラントの治療の能力を片側切断急性および慢性SCIモデルで評価した。分子、行動および解剖学の観点から調査した。
【
図2-1】
図2のA~Lは、脊髄インプラントの作製および分析を示す写真である。A.本来の網。B.脱細胞化網。C.網ベースヒドロゲル。D.網ベースヒドロゲルのレオロジー特性。E.無細胞ヒドロゲルのSEMイメージング。スケールバー=2μm。F.ヒドロゲル内に封入されたiPSCのSEMイメージング。スケールバー=5μm。G.ヒドロゲル内で3日間培養した未分化iPSC(TRA-1-60、SSEA-4)のフローサイトメトリー分析。H.網ヒドロゲル内で3日間培養し、コラーゲン(赤)、OCT4(緑)およびKI67(青)で染色した未分化iPSCの免疫蛍光イメージング。スケールバー=50μm。I.分化させたインプラント(30日目)のSEMイメージング。スケールバー=10μm。J.分化させたインプラントの30日目の免疫蛍光検査。細胞は、運動ニューロン特異的マーカー(HB9;青)、ニューロンマーカー(TUJ1;緑)および樹状突起マーカー(MAP2;赤)を発現している。スケールバー=50μm。K.分化させたインプラントの30日目の免疫蛍光検査。細胞は、シナプス(SYP;青)、ニューロン中間径フィラメント(NFM;緑)および樹状突起(MAP2;赤)のマーカーを発現する。スケールバー=50μm。L.分化0日目、20日目および30日目に計算したRNA-seq発現Zスコアのヒートマップ。
【
図3-1】
図3のA~Jは、インプラントのECM含有量および細胞機能を示す写真およびグラフである。A.分化0日目、20日目および30日目に17個の分泌されたECMタンパク質について計算したRNA-seq発現Zスコアのヒートマップ。B.(A)における17個のECM遺伝子に関連する、分化30日目(上位500個の遺伝子)に強化されていた機能を示す棒グラフ。C~E.ECM関連タンパク質(NTN1およびSLIT1)の発現。TUJ1を用いてニューロンを同定する。スケールバー=50μm。C.分化前のiPSCインプラント。D.MATRIGEL(商標)上で30日間分化させたiPSC由来の脊髄ニューロン。E.分化30日目のiPSC由来の脊髄インプラント。F.分化0日目、15日目および30日目の無細胞ヒドロゲルおよびインプラントのレオロジー特性。G.30日目のインプラントからの神経突起伸長。MATRIGEL(商標)でコーティングした表面で72時間培養した。スケールバー=50μm。H.72時間後に3つのインプラント間で形成された神経突起分岐ネットワーク。スケールバー=250μm。I.KClによる脱分極に対するインプラントのカルシウム応答。J.グルタミン酸刺激に対するインプラントのカルシウム応答。
【
図4-1】
図4のA~Pは、急性SCIモデルを示す図である。A.研究の模式図。左後肢を麻痺させたまま、T10でマウスを片側切断した。損傷を誘導した直後に処置を行った。マウスを3ヶ月間生存させ、その間に瘢痕分析、キャットウォーク歩行分析および順行性追跡を行った。追跡の2週間後、マウスを経心的に灌流し、分析のために索を摘出した。B.行った処置:「未処置」(食塩水で処置した動物)、「細胞」(懸濁液中のSCニューロン由来のiPSCで処置した動物)、「ヒドロゲル」(無細胞網ベースヒドロゲルで処置した動物)と称する3つの対照群、および「インプラント」(SCニューロインプラント由来のiPSCで処置した動物)と称する実験群。C~G.処置の7日後の病変部位の細胞分析。C.着床7日後のインプラントの生着。着床前に、細胞をcytopainter(赤)で標識した。D.「インプラント」群におけるマイクログリア細胞(IBA1)発現の代表的な画像。E.様々な群におけるIBA1密度の定量。F.インプラント群におけるアストロサイト(GFAP)の代表的な画像。G.様々な群におけるGFAP発現の定量。H~K:処置の12週間後の病変部位の細胞分析。H.「インプラント」群における神経幹細胞(NESTIN)およびニューロン(TUJ1)の代表的な画像。I.様々な群におけるTUJ1密度の定量。J.様々な群におけるNESTIN密度の定量。K.ECM分子(NTN1およびSLIT1)の代表的な画像。L.「インプラント」群の順行性追跡のモンタージュ。黄色の矢印は、病変部位の尾側で観察された軸索を示す。M.順行性追跡によって標識された、病変からの様々な距離での軸索の定量。N~O.処置の12週間後のキャットウォーク歩行分析パラメータ。n.正常なステップシーケンスパターンの程度(規則性指数)。o.左後肢によってかけられた最大圧力(左後肢最大強度平均値)。P.処置の12週間後のマウスの体重。すべてのスケールバー=100μm。
【
図5-1】
図5のA~Mは、慢性SCIモデルを示す図である。A.研究の模式図。左後肢を麻痺させたまま、T10でマウスを片側切断した。6週間後、病変部位を再露出させ、瘢痕を切除し、腔内に処置を行った。マウスは、処置後さらに8週間生存させ、その間MRIおよび行動研究を行った。処置の8週間後、組織学的分析のために索を摘出した。B.最初のSCIの5週間後の脊髄の冠状T2W MRI(瘢痕切除の1週間前)。黄色の矢印は、脊髄の左側で行われた完全片側切断を示す。C~F.処置の4週間後の拡散テンソル画像。C.軸方向拡散テンソル画像の背景に示された拡散テンソルのグリフベースの可視化。青は吻側-尾側軸の線維を示し、赤は内側および側面の両方の左右の方向を示し、緑は前後の方向を示す。D.軸面で再構成した線維トラクトグラフィー。赤い線維は最初の片側切断の同側であり、緑の線維は対側(無傷)である。各処置の左パネルは正面図であり、右パネルは側面図である。E.健側に対して正規化した、病変を通過する線維の割合。F.分画異方性(FA)測定。G~J.処置の8週間後の病変部位におけるタンパク質発現の定量。G.GFAP発現密度。H.IBA1発現密度。I.TUJ1発現密度。J.GAP43陽性細胞数。K~M.回復期(処置後)に行われた行動研究。K.キャットウォークステップシーケンスの規則性指数。L.左後肢にかけられた最大圧力。M.グリッド歩行試験:全試行歩行のうち、損傷した足による正しい歩行。
*p<0.05は、インプラント群と未処置群でのみ検出された。
**p<0.05は、インプラントとすべての対照群との間で検出された。
【
図6】
図6のA~Bは、同じ露出条件での、本来の網(左)と脱細胞化網(右)の核染色を示す写真である。スケールバー=200μm。
【
図7】
図7は、網ベースヒドロゲルの線維径のヒストグラムである。
【
図8】
図8は、17個のECM遺伝子と、関連する強化された機能の表である。紫は、その遺伝子が、強化された機能に関連している遺伝子であることを示す。バーは、特定の機能に関連するECM遺伝子の数を示す。
【
図9】
図9は、分化の0日目、20日目、30日目における無細胞ヒドロゲルおよびインプラントの様々な周波数での複素粘度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、処置の7日後の、注入された細胞群の細胞生着を示す写真である。細胞は、移植前にcytopainter(赤)で標識した。核は青(Hoechst)で表示されている。スケールバー=100μm。
【
図11】
図11は、処置の7日後の、急性モデルにおける病変部位の免疫標識の代表的な画像である。スケールバー=100μm。上部パネルはマイクログリア細胞(IBA1)であり、中央パネルはアストロサイト(GFAP)であり、下部パネルはニューロン核(NeuNは赤で示す)およびアストロサイト(GFAPは緑で示す)である。
【
図12】
図12は、増殖性アストロサイトの数を示すグラフである。Ki67増殖性マーカーとGFAP(アストロサイト)の二重陽性染色。
【
図13】
図13は、インプラント処置12週間後の、急性期に処置した動物の病変部位における神経幹細胞(NESTIN)およびニューロン(TUJ1)の免疫染色を示す写真である。スケールバー=100μm。
【
図14】
図14は、順行性追跡の写真。TMRDによる順行性追跡のフォトモンタージュである。黄色矢印は病変部位または病変部位の尾側の軸索を示す。スケールバー=50μm。
【
図15】
図15は、瘢痕切除後および処置後1週間目の拡散テンソル画像のグリフベースの可視化である。グリフは、軸方向の拡散テンソル画像の背景に表示されている。青は吻側-尾側軸の線維を示し、赤は内側および側面の両方の左右の方向を示し、緑は前後の方向を示す。
【
図16】
図16は、瘢痕切除および処置の4週間後の線維トラクトグラフィーである。軸面で再構成した線維トラクトグラフィー。赤い線維は最初の片側切断の同側であり、緑の線維は対側(無傷)である。線維は、損傷中心部、吻側(病変より+0.6mm上)および尾側(病変より-0.6mm下)の軸方向スライスを用いて正面から示されている。
【
図17】
図17は、処置の8週間後の慢性期の細胞内容物を示す写真である。病変部位におけるアストロサイト(GFAP)、マイクログリア細胞(IBA1)、神経成長関連タンパク質(GAP43)およびニューロン(TUJ1)の免疫染色。スケールバー=100μm。
【
図18】
図18のA~Bは、慢性瘢痕の切除および処置の4週間後の行動研究の結果を示すグラフである。A.マウスの感覚運動を試験するグリッド歩行。B.損傷した足にマウスがかける圧力に相関する左後肢最大強度。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、脊髄損傷に関し、より詳細には慢性脊髄損傷を治療するための組成物に関する。
【0036】
本発明の少なくとも一つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に記載され、または実施例によって例示される詳細に必ずしも限定されないことが理解されるべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また様々な方法で実践または実施することが可能である。
【0037】
外傷性の脊髄損傷(SCI)は、運動制御と、患者の健康および生活の質のすべての側面とに直ちに壊滅的な影響を与える。初期外傷は、直接損傷を引き起こし、多くの場合、細胞死、血液脊髄関門の破壊、および細胞外基質(ECM)の分解につながる。これらのプロセスは、二次炎症性損傷カスケードを開始させ、進行性慢性組織損傷を引き起こし、グリア瘢痕の形成をもたらす。
【0038】
本発明者らは、今回、慢性期の損傷した脊髄(SC)の治療方法を見出した。SCの胚発生を再現するアプローチを用いて、iPSCの培養および増殖のための初期支持体およびインタラクティブ材料を提供するECMベースの粒子(本明細書ではミニインプラントとも呼ぶ)を製造した。In vitro培養段階を通じて、粒子の細胞とECMとは、胚における脊髄形成過程を模倣する相乗効果を示した。ECMベースの粒子は、細胞に適切な微小環境を与えることによって、3Dにおける効率的な細胞分化の開始をサポートした。細胞分化の間、細胞は、特異的な運動ニューロンECMタンパク質を分泌することによって、粒子の線維を継続的にリモデリングし、細胞-細胞相互作用および細胞-基質相互作用のための誘導性微小環境を与えた。全体的に、この動的微小環境は、異なる発生段階に対して異なる生化学的手がかりを供給し、機能的SCインプラントの構築を促進した。
【0039】
次いで、慢性期の損傷SCを治療するインプラント(すなわち複数のECMベースの粒子)の可能性について調べた。この段階では、瘢痕は完全に発達し、自発的な行動回復はプラトーに達している。瘢痕組織を切除し、瘢痕除去後に形成された切除間隙を埋めるようにインプラントを挿入した後、解剖学的構造および組織形態をMRIで評価したところ、SC内で、強い異方性と、多数の完全神経線維とが示された(
図5のB)。病変部位における細胞内容物の分析によって、炎症レベルの低下と、発生期および再生期における軸索の新芽形成に関連するマーカーの発現が増加した、より多数のニューロンとが示された(
図5のE~J)。これらの結果は、感覚運動機能解析によって判断されるように、有意により高いレベルの機能回復と解釈される(
図5のK~M)。
【0040】
したがって、本発明の第1の態様によれば、脱細胞化網から作製される複数の線維性粒子を含む組成物であって、線維性粒子が直径750ミクロン~3mmであり、線維性粒子が成熟ニューロンのネットワークを含む、組成物が提供される。
【0041】
「線維性粒子」という語句は、コラーゲンおよび/またはエラスチン線維を含む脱細胞化網の線維から作製される非液体粒子を指す。
【0042】
本明細書で説明される線維性粒子は、ニューラルネットワークの作製のための足場として機能する。
【0043】
本明細書で用いる場合、「足場」という用語は、細胞の接着および増殖に適した表面を提供する生体適合性材料を含む3次元構造を指す。足場は、さらに、機械的な安定性および支持を提供することが可能である。
【0044】
粒子に含まれる脱細胞化網の線維は、典型的には直径50~200nmであり、より典型的には直径50~150nmであり、より典型的には直径60~120nmである。
【0045】
本発明のこの態様の粒子は典型的には円形であり、より具体的には実質的に球状であり、たとえば球状、楕円形、半球形、半球状、平坦部または凹部または凸部を有する不規則な球、半楕円形、平坦部または凹部または凸部を有する不規則な楕円形である。
【0046】
粒子の平均直径は、典型的には750ミクロン~3mmであり、より典型的には1~2mmである。
【0047】
特定の実施形態によれば、粒子の平均直径は500ミクロン超である。
【0048】
本明細書で用いる場合、「粒子径」という用語は、たとえばレーザー散乱式粒子径分布測定装置によって測定される粒子径を指す。
【0049】
本明細書で用いる場合、「脱細胞化網」という語句は、脱細胞化プロセス(すなわち、組織からのすべての細胞の除去)を受けたことで細胞成分を含まない、網組織構成を支持する細胞外基質(ECM)を指す。
【0050】
脱細胞化網は細胞外基質(ECM)成分を含む。
【0051】
本明細書で用いる場合、「細胞外基質(ECM)」という語句は、組織の細胞によって生産され、周囲の細胞外間隙および/または媒体に分泌される物質であり、典型的には、組織の細胞とともに組織にその機械的および構造的特性を付与する物質の複雑なネットワークを指す。一般的に、ECMは、線維性要素(特にコラーゲン、エラスチン、および/またはレチクリン)、細胞接着性ポリペプチド(たとえば、フィブロネクチン、ラミニンおよび/または細胞接着性糖タンパク質)、ならびに空間充填分子(space-filling molecule)[通常グリコサミノグリカン(GAG)、プロテオグリカン]を含む。
【0052】
網は、ヒト、ブタ、ウシ、ヤギなどの哺乳動物種から採取してもよい。組織採取後、組織は、直ちに処理するために0.9%の食塩水に入れるか、または後の使用のために、好ましくは約-20℃~約-80℃の温度で保存することができる。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、脱細胞化は、
(a)網を低張液に曝すことと、
(b)ステップ(a)後に網を脱水することと、
(c)ステップ(b)後に、脱水した網から極性および非極性抽出剤を用いて脂肪を抽出することと、
(d)ステップ(c)後に、脱水した網を再水和することと、
(e)ステップ(d)後に、再水和した網から細胞を取り出すことと、
によって行われる。
【0054】
低張液とは、電解質の濃度が細胞内の濃度よりも低い溶液のことである。この状況では、浸透圧によって細胞壁の内部と外部とで電解質濃度が等しくなろうとするため、細胞内に水が移動する。
【0055】
好ましくは、本発明のこの態様による方法によって使用される低張緩衝液は、pH約8.0の10mMのTris溶液であり、約0.1%(w/v)のEDTA(5mMのEDTA)を含む。
【0056】
低張緩衝液は、セリンプロテアーゼ阻害剤(たとえばフェニルメタンスルホニルフルオリドまたはフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))および/またはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような陰イオン界面活性剤などの追加の薬剤を含んでもよい。
【0057】
本発明のこの態様によれば、組織は、生物学的作用、すなわち細胞の膨張および破裂をもたらす時間、低張緩衝液に曝される。
【0058】
低張ショックの後、任意で組織を凍結融解のサイクルにかけてもよい。
【0059】
凍結融解プロセスは、好ましくは、組織をたとえば-10~-80℃、典型的には-80℃で2~24時間凍結し、続いて室温以上(たとえば37℃)になるまで約2、3または4時間組織を解凍することを含む。このプロセスは、低張緩衝液の存在下で、少なくとも1回、好ましくは2回または3回行われる。
【0060】
脱水は、1つまたは複数の脱水溶媒で網を処理することを含み、網のこのような1つまたは複数の処理は、脱水溶媒および/またはこの溶媒の水溶液を用いて行う。1つまたは複数の処理は、連続した処理ごとに溶液中の水を徐々に減少させるなど、脱水溶媒対水の様々な比率を有する溶液を用いて行われる方法による連続したステップであってもよく、最終的な処理は、純粋な溶媒、すなわち水溶液ではない溶媒の使用を含んでもよい。
【0061】
脱水溶媒には、低分子量の有機溶媒を使用してもよい。一実施形態では、脱水溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノールおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるような1つまたは複数のアルコールである。
【0062】
特定の実施形態によれば、網は、70%のエタノールで1回(たとえば10~60分)、100%のエタノールで2回または3回、それぞれ10~60分すすいで脱水される。
【0063】
脱水後、脂肪は、少なくとも1つの極性溶媒と1つの非極性溶媒とを用いて網から抽出してもよく、これは1つまたは複数の抽出ステップで行ってもよい。
【0064】
非極性溶媒の例は、ヘキサン、キシレン、ベンゼン、トルエン、酢酸エチルおよびそれらの組み合わせなどの非極性有機溶媒である。抽出溶媒に有用な極性溶媒は、アセトン、ジオキサン、アセトニトリルおよびそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、抽出溶媒はアセトン、ヘキサン、キシレンおよびそれらの組み合わせから選択される。非極性溶媒は、たとえばヘキサン、キシレンおよびそれらの組み合わせを含む。
【0065】
脂肪抽出は、様々な時間、脱水した網と抽出溶媒とを接触させることによる脂肪抽出ステップで行ってもよい。
【0066】
好ましくは、組織の極性脂質は、極性抽出剤(たとえば100%のアセトン)で10分~60分洗浄することによって抽出される。これは、何回か(たとえば3回)繰り返してもよい。次に、非極性脂質は、非極性薬剤:極性薬剤の混合物(たとえば60/40(v/v)ヘキサン:アセトン溶液(3回交換)または60/40(v/v)ヘキサン:イソプロパノール溶液(3回交換))で約24時間インキュベートすることによって抽出してもよい。
【0067】
脂肪抽出後、脱脂網は任意で再水和される。脱脂網は、アルコールまたはアルコール水溶液、たとえば約60%~約70%のアルコールを含有するアルコール溶液などの再水和溶媒と脱脂網とを接触させることによって再水和してもよい。メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノールなどの低分子量アルコールおよびそれらの組み合わせを使用してもよい。
【0068】
次いで、脱脂網を脱細胞化する。脱脂網を脱細胞化するために、当業者に公知の任意の脱細胞化プロセスを適用してもよい。
【0069】
網を脱細胞化する例示的な方法は、米国特許第20150202348号明細書および国際公開第2014/037942号に記載されており、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0070】
一実施形態では、脱脂網は、核および細胞質成分の可溶化によって脱細胞化してもよい。たとえば、脱脂網は、非イオン性界面活性剤と、酸に溶解した金属塩とを含有する緩衝液などの脱細胞化緩衝液に、一定時間、典型的には少なくとも約30分浸漬させてもよい。本発明に有用な非イオン性界面活性剤は、TWEEN 80などのポリソルベート、TRITON(登録商標)X-100などのエトキシル化アルコール、HP 40およびIGEPAL CA-630などのポリエタノール、ならびにそれらの組み合わせを含む。使用してもよい金属塩は、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、酢酸マグネシウムおよびクエン酸マグネシウムならびにそれらの組み合わせを含み、これらの金属塩は、典型的にはTris-HClに溶解される。
【0071】
別の実施形態によれば、脱脂網は、組織内の細胞成分を消化しながらECM成分(たとえばコラーゲンおよびエラスチン)を残す酵素的タンパク質分解消化によって脱細胞化し、それによって本来の組織であるECMの機械的および構造的特性を示す基質を得てもよい。組織の細胞成分を消化する一方で、ECM成分を残す手段を講じる必要があることは理解されるであろう。これらの手段については、以下にさらに説明するが、たとえば、消化液内の有効成分(たとえばトリプシン)の濃度の調整およびインキュベーション時間の調整を含む。
【0072】
本発明のこの態様によるタンパク質分解消化は、様々なタンパク質分解酵素を用いて行うことができる。適切なタンパク質分解酵素の非限定的な例は、Sigma社(米国、ミズーリ州セントルイス)などの様々な供給源から入手できるトリプシンおよびパンクレアチンを含む。本発明のこの態様の好ましい一実施形態によれば、タンパク質分解消化は、トリプシンを用いて行われる。
【0073】
トリプシンによる消化は、好ましくは0.01~0.25%(w/v)のトリプシン濃度、より好ましくは、0.02~0.2%(w/v)、より好ましくは、0.05~0.1(w/v)、よりさらに好ましくは、約0.05%(w/v)のトリプシン濃度で行われる。たとえば、組織のすべての細胞成分を効率的に消化するために、0.05%(w/v)のトリプシン(Sigma社製)、0.02%(w/v)のEDTAおよび抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン、それぞれ1000単位/mlおよび0.1mg/mL)、pH=7.2]を含むトリプシン溶液を使用してもよい。
【0074】
好ましくは、消化液に浸漬させている間、組織の全細胞に消化液が完全に浸透するように、組織片をゆっくり(たとえば約150rpmで)撹拌する。
【0075】
消化液の濃度とその中でのインキュベーション時間は、利用される組織片のサイズに依存しており、当業者は、所望のサイズおよび組織の種類に応じて条件を調整することができることに留意しなければならない。
【0076】
好ましくは、組織片は少なくとも1時間消化されるが、24時間まで消化が行われてもよい。
【0077】
脱細胞化の後、網は、任意で、(たとえば極性および非極性溶媒の組み合わせを用いて)再び脱脂してもよい。
【0078】
本発明のこの態様による方法は、任意で、かつ好ましくは、組織から核酸(および残留核酸)を除去することによって核酸を含まない組織を得る、追加のステップを含む。本明細書で用いる場合、「核酸を含まない組織」という語句は、従来の方法(たとえば、分光光度法、電気泳動法)を用いて測定するとき、任意の核酸またはその断片の99%超を含まない組織を指す。このようなステップは、デオキシリボヌクレアーゼ溶液(任意でリボヌクレアーゼ溶液も)を利用する。適切なヌクレアーゼは、デオキシリボヌクレアーゼおよび/またはリボヌクレアーゼ[イスラエル国、ベイト・ハエメク、Sigma社製、Hankの平衡塩類溶液(HBSS)による20μg/ml溶液]またはその両方の組み合わせ(たとえばベンゾナーゼ)を含む。0.5M~3Mの高濃度の塩化ナトリウムなどの塩も、核酸の除去に使用することができる。
【0079】
次に、細胞成分は、典型的には組織から除去される。組織からの消化された成分の除去は、たとえば、Sigma社(米国、ミズーリ州セントルイス)またはBiolab社(イスラエル国、アタロット)、Merck社(ドイツ国)から入手することができる界面活性剤溶液(たとえば、SDS、Triton X-100、Tween-20、Tween-80などのイオン性および非イオン性界面活性剤)などの様々な洗浄液を用いて行うことができる。
【0080】
好ましくは、本発明のこの態様による方法によって用いられる界面活性剤溶液は、TRITON-X-100(Merck社から入手できる)を含む。すべての消化された細胞成分の効率的な除去のために、TRITON-X-100は、0.05~2.5%(v/v)の濃度範囲、より好ましくは、0.05~2%(v/v)、より好ましくは0.1~2%(v/v)、よりさらに好ましくは1%(v/v)の濃度で提供される。
【0081】
任意で、界面活性剤溶液は水酸化アンモニウムも含み、これはTRITON-X-100とともに、細胞核、骨格タンパク質および膜の破壊および溶解を助ける。
【0082】
好ましくは、水酸化アンモニウムは、0.05~1.5%(v/v)の濃度、より好ましくは0.05~1%(v/v)の濃度、よりさらに好ましくは0.1~1%(v/v)(たとえば0.1%)の濃度で提供される。
【0083】
界面活性剤溶液中のTRITON-X-100および水酸化アンモニウムの濃度は、処理される組織の種類およびサイズに応じて変化させてもよく、当業者は、用いる組織に応じてこのような濃度を調整することができる。
【0084】
界面活性剤溶液による組織(または組織片)のインキュベーションは、組織の種類およびサイズと、用いる界面活性剤溶液の濃度とに応じて数分から数時間、さらには数日まで持続させることができ、当業者は、そのようなインキュベーション時間を調整することができる。好ましくは、界面活性剤溶液によるインキュベーションは少なくとも1時間行われる。一実施形態によれば、泡が確認されなくなるまで、界面活性剤溶液による1~4サイクルのインキュベーションが行われる。
【0085】
上記の界面活性剤溶液は、好ましくは、基質中の界面活性剤溶液の形跡がなくなるまで、基質を水または食塩水で数回洗浄(たとえば少なくとも3回洗浄)することによって除去される。
【0086】
任意で、次いで脱細胞化ECMが滅菌される。脱細胞化ECMの滅菌は、当該技術分野で公知の方法を用いて行われてもよい。一実施形態では、脱細胞化網は、脱細胞化網を消毒するのに十分に有効な時間、たとえば少なくとも約0.5時間、典型的には約1時間~約12時間、消毒液と接触させる。脱細胞化網は、消毒液に完全に浸漬させてもよい。消毒液は、アルコールまたはアルコール水溶液を含んでもよく、また、酸も含んでもよい。消毒液は、下記のエタノール、メタノール、イソプロパノール、プロパノール、過酸化水素、過酢酸およびそれらの組み合わせの1つまたは複数を含んでもよい。一実施形態では、消毒液は、エタノール、たとえば70%のエタノール溶液を含む。任意で、脱細胞化網は、超純水で1回または複数回洗浄することができる。
【0087】
洗浄および任意の滅菌の後、脱細胞化組織はたとえば凍結乾燥によって脱水してもよい。
【0088】
組織を脱細胞化するために本発明者らが企図する他の方法は、米国特許第4,776,853号明細書、同第4,801,299号明細書および米国特許公開第20090163990号明細書に記載されている方法を含み、それぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0089】
本発明のこの態様の脱細胞化網は、典型的には、脱細胞化前の網中の細胞量と比較して、20%未満の細胞を含み、より好ましくは脱細胞化前の網中の細胞量と比較して15%未満の細胞を含み、より好ましくは脱細胞化前の網中の細胞量と比較して10%未満の細胞を含み、より好ましくは脱細胞化前の網中の細胞量と比較して5%未満の細胞を含み、より好ましくは脱細胞化前の網中の細胞量と比較して2%未満の細胞を含む。
【0090】
一実施形態では、脱細胞化網は細胞成分を含まない。
【0091】
本明細書で用いる場合、「細胞成分を含まない」という語句は、天然の(たとえば本来の)網に存在する細胞成分の90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%超(たとえば100%)を含まないことを指す。
【0092】
本明細書で用いる場合、「細胞成分」という語句は、細胞を構成する細胞膜成分または細胞内成分を指す。細胞成分の例は、細胞構造体(たとえば細胞小器官)またはそれに含まれる分子を含む。このような例は、限定されるものではないが、組織の細胞内に存在する細胞核、核酸、残留核酸(たとえば断片化した核酸配列)、細胞膜および/または残留細胞膜(たとえば断片化した膜)を含む。組織からすべての細胞成分が除去されているため、このような脱細胞化基質は、対象者に移植されたときに免疫応答を誘導し得ないことが理解されるであろう。
【0093】
本発明のこの態様の脱細胞化網は、本質的に脂質を含まない。本発明者らは、組織からの脂質の抽出の程度が、細胞接着を誘導し、細胞生存能力を維持し、組織内への細胞の適切な構築を促進する能力と相関していることを見出した。
【0094】
本明細書で用いる場合、「脂質を含まない」という語句は、天然の(たとえば本来の)網に存在する脂質の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%未満を含む組成物を指す。
【0095】
脱細胞化網から作製される粒子を生成するために、脱細胞化網は可溶化される。
【0096】
脱細胞化ECMの可溶化は、Freytes et al., Biomaterials 29 (2008) 1630-1637および米国特許出願第20120156250号明細書に記載されているように行われてもよく、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0097】
典型的には、脱細胞化網の可溶化を行うために、脱細胞化網は最初に脱水(たとえば凍結乾燥)される。
【0098】
凍結乾燥された脱細胞化網は、小片に切断される(たとえば砕かれる)か、または、粉末に粉砕され、次いで2回目のタンパク質分解消化にかけられてもよい。消化は、タンパク質分解酵素がECMを消化し、可溶化することができる条件下で行われる。したがって、一実施形態によれば、消化は、pHが約1~4になるように、酸(たとえば塩酸)の存在下で行われる。
【0099】
本発明のこの態様によるタンパク質分解消化は、様々なタンパク質分解酵素を用いて行うことができる。適切なタンパク質分解酵素の非限定的な例は、Sigma社(米国、ミズーリ州セントルイス)などの様々な供給源から入手できるトリプシン、ペプシン、コラゲナーゼおよびパンクレアチンならびにそれらの組み合わせを含む。マトリックスメタロプロテアーゼなどの基質分解酵素も企図される。
【0100】
消化液の濃度とその中でのインキュベーション時間は、処理される組織の種類および利用される組織片のサイズに依存し、当業者は、所望のサイズおよび組織の種類に応じて条件を調整することができることに留意しなければならない。
【0101】
好ましくは、組織片は少なくとも約20時間、より好ましくは少なくとも約24時間インキュベートする。好ましくは、消化液中での全インキュベーション時間が少なくとも40~48時間となるように、消化液を少なくとも1回交換する。
【0102】
脱細胞化大網ECMを可溶化した後、溶液のpHを、タンパク質分解酵素を不可逆的に不活化させるために(たとえば約pH7に)上昇させる。脱細胞化し可溶化した網は、脱細胞化ECMを溶解したまま、この段階で、20℃未満の低温、たとえば4℃で保存してもよい。
【0103】
可溶化した脱細胞化網は、約30℃超、約31℃超、約32℃超、約33℃超、約34℃超、約35℃超、約36℃超、約37℃超の温度でゲルを形成することができる。
【0104】
本発明のこの態様の粒子を作製するために、可溶化した脱細胞化網は、典型的には、ニューロンに分化してニューラルネットワークを形成することができる幹細胞と混合される。
【0105】
以下に、本発明のこの態様の粒子を作製するために用いることができる様々な幹細胞について説明する。
【0106】
幹細胞は、遺伝子改変されていても、遺伝子改変されていなくてもよい。たとえば、細胞は、外因性ポリペプチドまたはポリヌクレオチド(たとえばsiRNAなどのRNAサイレンシング剤)を発現するように遺伝子改変されていてもよい。
【0107】
本明細書で用いる場合、「幹細胞」という語句は、特定の特化した機能を有する他の細胞型(たとえば完全に分化した細胞)に分化するように誘導されるまで、培養下で長期間にわたって未分化状態を維持することができる細胞(たとえば全能性幹細胞、多能性幹細胞または多分化能性幹細胞)を指す。受精後、最初の数回以内の細胞分裂を経た胚細胞などの全能性細胞は、胚細胞および胚外細胞に分化することができ、生存可能な人間へと分化することができる唯一の細胞である。好ましくは、「多能性幹細胞」という語句は、3つの胚葉すべて、すなわち外胚葉、内胚葉および中胚葉に分化することもでき、未分化状態のままでいることもできる細胞を指す。多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)を含む。多分化能性幹細胞は、成体幹細胞および造血幹細胞を含む。
【0108】
「胚性幹細胞」という語句は、3つの胚葉すべて(すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉)の細胞に分化することもでき、未分化状態のままでいることもできる胚細胞を指す。「胚性幹細胞」という語句は、妊娠後に形成された着床前の胚組織(たとえば胚盤胞)(すなわち着床前胚盤胞)から得られた細胞と、着床後/原腸形成前の段階で胚盤胞から得られた拡張胚盤胞細胞(EBC)(国際公開第2006/040763号参照)と、妊娠中いつでも、好ましくは妊娠の10週以前に胎児の生殖組織から得られた胚性生殖(EG)細胞と、単為生殖によって誘導された非受精卵(単為発生卵)由来の細胞とを含んでもよい。
【0109】
人工多能性幹細胞(iPSC、胚様幹細胞)は、多能性(すなわち、3つの胚性生殖細胞層、すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉に分化することができること)が付与された、成人の体細胞の脱分化によって得られる細胞である。本発明のいくつかの実施形態によれば、このような細胞は、分化組織(たとえば網などの体組織)から得られ、胚性幹細胞の特徴を獲得するように細胞をリプログラミングする遺伝子操作によって脱分化される。本発明のいくつかの実施形態によれば、人工多能性幹細胞は、大網細胞においてOct-4、Sox2、Kfl4およびc-Mycの発現を誘導することによって作製される。
【0110】
「成体幹細胞」(「組織幹細胞」または体組織由来幹細胞とも呼ばれる)という語句は、[生後または出産前の動物(特にヒト)の]体組織由来の任意の幹細胞を指す。成体幹細胞は、一般的に、複数の細胞型に分化することができる多分化能性幹細胞であると考えられている。成体幹細胞は、脂肪組織、皮膚、腎臓、肝臓、前立腺、膵臓、腸、骨髄および胎盤などの成人、新生児または胎児の任意の組織から得ることができる。
【0111】
造血幹細胞は、成体組織幹細胞とも呼ばれ、任意の年齢の個体の血液または骨髄組織、または新生児の個体の臍帯血から得られる幹細胞を含む。本発明のいくつかの実施形態のこの態様によれば、好ましい幹細胞は胚性幹細胞であり、好ましくはヒトまたは霊長類(たとえばサル)由来の胚性幹細胞である。
【0112】
胎盤幹細胞および臍帯血幹細胞は、「幼若幹細胞」と呼んでもよい。
【0113】
本発明のいくつかの実施形態の胚性幹細胞は、周知の細胞培養法を用いて得ることができる。たとえば、ヒト胚性幹細胞はヒト胚盤胞から単離することができる。ヒト胚盤胞は、典型的にはヒトのin vivo着床前胚またはin vitro受精(IVF)胚から得られる。あるいは、単細胞ヒト胚を胚盤胞期まで進展させることもできる。ヒトES細胞の単離のために、胚盤胞から透明帯を除去し、穏やかなピペッティングによって、無傷のICMから栄養外胚葉細胞を溶解し除去する免疫手術によって内部細胞塊(ICM)を単離する。次いで、ICMを、増殖を可能にする適切な培地を含む組織培養フラスコにプレーティングする。9~15日後、ICM由来の増殖物を、機械的解離または酵素分解によって塊に解離させ、次いでその細胞を新鮮な組織培養培地に再プレーティングする。未分化の形態を示すコロニーをマイクロピペットで個別に選択し、機械的に塊に解離させ、再プレーティングする。得られたES細胞を、4~7日ごとにルーチン的に分離する。ヒトES細胞の調製方法のさらなる詳細については、Thomson et al.[米国特許第5,843,780号明細書、Science 282: 1145, 1998; Curr. Top. Dev. Biol. 38: 133, 1998、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 7844, 1995]、Bongso et al.[Hum Reprod 4: 706, 1989]、およびGardner et al.[Fertil. Steril. 69: 84, 1998]を参照のこと。
【0114】
本発明のいくつかの実施形態によれば、市販の幹細胞も使用することができることが理解されるであろう。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞レジストリ[http://grants.nih.gov/stem_cells/registry/current.htm]から購入することができる。市販の胚性幹細胞株の非限定的な例は、BG01、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY10、TE03、TE32、CHB-4、CHB-5、CHB-6、CHB-8、CHB-9、CHB-10、CHB-11、CHB-12、HUES1、HUES2、HUES3、HUES4、HUES5、HUES6、HUES7、HUES8、HUES9、HUES10、HUES11、HUES12、HUES13、HUES14、HUES15、HUES16、HUES17、HUES18、HUES19、HUES20、HUES21、HUES22、HUES23、HUES24、HUES25、HUES26、HUES27、HUES28、CyT49、RUES3、WA01、UCSF4、NYUES1、NYUES2、NYUES3、NYUES4、NYUES5、NYUES6、NYUES7、UCLA1、UCLA2、UCLA3、WA077(H7)、WA09(H9)、WA13(H13)、WA14(H14)、HUES62、HUES63、HUES64、CT1、CT2、CT3、CT4、MA135、Eneavour-2、WIBR1、WIBR2、WIBR3、WIBR4、WIBR5、WIBR6、HUES45、Shef3、Shef6、BJNhem19、BJNhem20、SA001、SA001である。
【0115】
さらに、ES細胞は、マウス(Mills and Bradley, 2001)、ゴールデンハムスター[Doetschman et al., 1988, Dev Biol. 127: 224-7]、ラット[Iannaccone et al., 1994, Dev Biol. 163: 288-92]、ウサギ[Giles et al. 1993, Mol Reprod Dev. 36: 130-8; Graves & Moreadith, 1993, Mol Reprod Dev. 1993, 36: 424-33]、いくつかの家畜種[Notarianni et al., 1991, J Reprod Fertil Suppl. 43: 255-60; Wheeler 1994, Reprod Fertil Dev. 6: 563-8; Mitalipova et al., 2001, Cloning. 3: 59-67]および非ヒト霊長類種(アカゲザルおよびマーモセット)[Thomson et al., 1995, Proc Natl Acad Sci USA. 92: 7844-8; Thomson et al., 1996, Biol Reprod. 55: 254-9]を含む他の種からも得ることができる。
【0116】
拡張胚盤胞細胞(EBC)は、原腸形成前の段階の、受精後少なくとも9日目の胚盤胞から得ることができる。胚盤胞を培養する前に、透明帯を消化し[たとえばTyrodeの酸性溶液(米国、ミズーリ州セントルイス、Sigma-Aldrich社製)によって]内部細胞塊を露出させる。次いで、胚盤胞を、標準的な胚性幹細胞培養法を用いて、受精後少なくとも9日目から14日以内(すなわち原腸形成事象の前)にin vitroで全胚として培養する。
【0117】
ES細胞を調製するための別の方法が、Chung et al., Cell Stem Cell, Volume 2, Issue 2, 113-117, 7 February 2008に記載されている。この方法は、in vitro受精過程で胚から単細胞を取り出すことを含む。胚はこの過程では破壊されない。
【0118】
EG細胞は、当業者に公知の実験技術を用いて、妊娠約8~11週の胎児(ヒト胎児の場合)から得られた始原生殖細胞から調製する。生殖堤を解離し、小塊に切断し、次いで機械的解離によって細胞に分離する。次いで、適切な培地を用いてEG細胞を組織培養フラスコで増殖させる。EG細胞と一致する細胞形態が観察されるまで、典型的には7~30日後または継代1~4回目まで、培地を毎日交換しながら細胞を培養する。ヒトEG細胞の調製方法のさらなる詳細については、Shamblott et al.[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 13726, 1998]および米国特許第6,090,622号明細書を参照のこと。
【0119】
単為生殖によって誘導された胚性幹細胞(たとえばヒトESC)由来の非受精卵(単為発生卵)は当該技術分野で公知である(たとえば、Zhenyu Lu et al., 2010. J. Assist Reprod. Genet. 27:285-291; "Derivation and long-term culture of human parthenogenetic embryonic stem cells using human foreskin feeders"(これは参照により完全に本明細書に援用される))。単為生殖は、精子細胞の非存在下、たとえば電気または化学刺激を用いる卵子の活性化による細胞分裂の開始を指す。活性化した卵子(単為発生卵)は、原始胚構造(胚盤胞と呼ばれる)に発達することができるが、その細胞が多能性であると称するほどには発達することができない。すなわち、生存可能なヒト胎児に必要な胚外組織(羊水など)を発達させることができない。
【0120】
特定の実施形態によれば、iPSC細胞は大網間質細胞からリプログラミングされる(すなわち脱分化される)。
【0121】
成体組織幹細胞は、Alison, M.R.[J Pathol. 2003 200(5): 547-50]、Cai, J. et al.[Blood Cells Mol Dis. 2003 31(1): 18-27]、Collins, A.T. et al.[J Cell Sci. 2001; 114(Pt 21): 3865-72]、Potten, C. S. and Morris, R. J.[Epithelial stem cells in vivo. 1988. J. Cell Sci. Suppl. 10, 45-62]、Dominici, M et al.[J. Biol. Regul. Homeost. Agents. 2001, 15: 28-37]、Caplan and Haynesworth[米国特許第5,486,359号明細書]、Jones E.A. et al.[Arthritis Rheum. 2002, 46(12): 3349-60]に開示されているような当該技術分野で公知の様々な方法を用いて単離することができる。胎性幹細胞は、Eventov-Friedman S, et al., PLoS Med. 2006, 3: e215、Eventov-Friedman S, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2005, 102: 2928-33、Dekel B, et al., 2003, Nat Med. 9: 53-60、およびDekel B, et al., 2002, J. Am. Soc. Nephrol. 13: 977-90に開示されているような当該技術分野で公知の様々な方法を用いて単離することができる。造血幹細胞は、Robert Lanze編 "Handbook of Stem Cells", Elsevier Academic Press, 2004, Chapter 54, pp 609-614, isolation and characterization of hematopoietic stem cells, by Gerald J Spangrude and William B Staytonに開示されているような当該技術分野で公知の様々な方法を用いて単離することができる。
【0122】
一般的に、成体組織幹細胞の単離は、成体組織幹細胞に含まれる各細胞型、すなわち幹細胞、一過性増殖細胞および最終分化細胞の離散的な部位(またはニッチ)に基づく[Potten, C. S. and Morris, R. J. (1988). Epithelial stem cells in vivo. J. Cell Sci. Suppl. 10, 45-62]。したがって、成体組織幹細胞、たとえば前立腺組織は、コラゲナーゼで消化し、単位重力遠心分離を繰り返して、間質細胞から前立腺の上皮構造(たとえばオルガノイド、腺房および管)を分離する。次いで、Trypsin/EDTA(英国、ペイズリー、Life Technologies社製)によるインキュベーションによって、オルガノイドを単細胞浮遊液に脱凝集し、抗ヒトCD44抗体(クローンG44-26)(英国、オックスフォード、Becton Dickinson社、Pharmingen社製)を用いる標識およびMACS(英国、サリー、Miltenyi Biotec Ltd)のヤギ抗マウスIgG(Goat anti Mouse IgG)マイクロビーズによるインキュベーションを用いて、最終分化したCD57陽性管腔分泌細胞からCD44陽性基底幹細胞を単離する。次いで、この細胞浮遊液にMACSカラムを適用し、基底細胞を溶出し、WAJC404完全培地に再懸濁する[Robinson, E.J. et al. (1998). Basal cells are progenitors of luminal cells in primary cultures of differentiating human prostatic epithelium Prostate 37, 149-160]。
【0123】
基底幹細胞は、他の基底細胞よりも迅速に基底膜タンパク質に付着することができるので[Jones, P.H. et al. (1995). Stem cell patterning and fate in human epidermis. Cell 60, 83-93; Shinohara, T., et al. (1999). β1- and α6-integrin are surface markers on mouse spermatogonial stem cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 5504-5509]、CD44陽性基底細胞を、ウシ血清アルブミン(画分V、英国、プール、Sigma-Aldrich社製)を0.3%含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(英国、ベイジングストーク、Oxoid Ltd)で予めブロックした、I型コラーゲン(52μg/ml)、IV型コラーゲン(88μg/ml)またはラミニン1(100μg/ml)(Becton Dickinson社製、Biocoat(登録商標))でコーティングした組織培養ディッシュにプレーティングする。5分後、組織培養ディッシュをPBSで洗浄し、前立腺組織基底幹細胞を含む付着細胞をトリプシン-EDTAで採取する。
【0124】
BM由来幹細胞、間葉系幹細胞
一実施形態では、本発明のいくつかの実施形態によって利用される幹細胞は、造血幹細胞、間質幹細胞または間葉系幹細胞を含むBM由来幹細胞である(Dominici, M et al., 2001. Bone marrow mesenchymal cells: biological properties and clinical applications. J. Biol. Regul. Homeost. Agents. 15: 28-37)。BM由来幹細胞は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨または他の髄腔から得てもよい。
【0125】
上記のBM由来幹細胞のうち、間葉系幹細胞は形成的多能性芽細胞(formative pluripotent blast cell)である。間葉系幹細胞は、サイトカインなどの生物活性因子からの様々な影響に応じて、1つまたは複数の間葉組織(たとえば脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性結合組織、線維性結合組織、筋芽細胞)だけでなく、胚の中胚葉に由来する組織以外の組織(たとえば神経系細胞)も生じる。このような細胞は、胚の卵黄嚢、胎盤、臍帯、胎児の皮膚、青年期の皮膚、血液および他の組織から単離することができるが、BMにおけるそれらの存在量は、他の組織におけるそれらの存在量をはるかに上回っており、したがって、現在はBMからの単離が好ましい。
【0126】
間葉系幹細胞(MSC)を単離し、精製し、増殖させる方法は当該技術分野で公知であり、たとえば、CaplanおよびHaynesworthが米国特許第5,486,359号明細書に開示した方法と、Jones E.A. et al., 2002, Isolation and characterization of bone marrow multipotential mesenchymal progenitor cells, Arthritis Rheum. 46(12): 3349-60に開示されている方法と、を含む。
【0127】
好ましくは、間葉系幹細胞の培養物は、BM吸引液(通常20ml)を等量のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(米国、ニューヨーク州グランドアイランド、GIBCO Laboratories社製)で希釈し、約10mlのFicollカラム(Ficoll-Paque)(米国、ニュージャージー州ピスカタウェイ、Pharmacia社製)に重層することによって作製される。2,500×gで30分の遠心分離後、単核細胞層を界面から除去し、HBSSに懸濁する。次いで、細胞を1,500×gで15分遠心分離し、完全培地(MEM、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含有しないα培地、GIBCO社製)、MSCの急速増殖用に選択されたロット由来の20%のウシ胎児血清(FCS)(ジョージア州ノークロス、Atlanta Biologicals社製)、100単位/mlペニシリン(GIBCO社製)、100μg/mlストレプトマイシン(GIBCO社製)、および2mMのL-グルタミン(GIBCO社製))に再懸濁する。再懸濁した細胞を、10cmの培養皿(ニューヨーク州コーニング、Corning Glass Works社製)中の培地約25mlにプレーティングし、37℃、5%加湿CO2下でインキュベートする。培養24時間後、非付着細胞を捨て、付着細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回十分に洗浄する。約14日間にわたり、培地を3日または4日ごとに新鮮な完全培地に交換する。次いで、付着細胞を、37℃で5分間、0.25%のトリプシンおよび1mMのEDTA(Trypsin/EDTA、GIBCO社製)を用いて採取し、6cmプレートに再プレーティングし、さらに14日間培養する。次いで、細胞をトリプシン処理し、たとえば血球計(ペンシルベニア州ホーシャム、Hausser Scientific社製)などの細胞計数装置を用いて計数する。遠心分離によって培養細胞を回収し、5%のDMSOおよび30%のFCSを用いて1mlあたり細胞1~2×106個の濃度に再懸濁する。各約1mlのアリコートをゆっくりと凍結し、液体窒素中で保存する。
【0128】
間葉系幹細胞画分を増殖させるために、凍結した細胞を37℃で解凍し、完全培地で希釈し、遠心分離でDMSOを除去して回収する。細胞を完全培地に再懸濁し、細胞約5,000個/cm2の濃度でプレーティングする。培養24時間後、非付着細胞を除去し、Trypsin/EDTAを用いて付着細胞を採取し、細くしたパスツールピペットを通過させて解離させ、好ましくは細胞約1.5~約3.0個/cm2の密度で再プレーティングする。これらの条件下で、MSC培養物を、約50倍の個体数倍化で増殖させ、約2000倍まで増殖させることができる[Colter DC., et al. Rapid expansion of recycling stem cells in cultures of plastic-adherent cells from human bone marrow. Proc Natl Acad Sci USA. 97: 3213-3218, 2000]。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態によって利用されるMSC培養物は、好ましくは、それらの形態学的特徴によって定義される3つの細胞群、すなわち小型無顆粒細胞(以下、RS-1と称する)、小型顆粒細胞(以下、RS-2と称する)および大型中程度顆粒細胞(以下、成熟MSCと称する)を含む。培養下でのこのような細胞の存在および濃度は、たとえば、免疫蛍光検査、in situハイブリダイゼーションおよび活性測定を用い、様々な細胞表面マーカーの有無を同定することによって測定することができる。
【0130】
本発明のいくつかの実施形態の培養条件下でMSCを培養するとき、MSCは、造血幹細胞マーカーであるCD34、CD11B、CD43およびCD45に対して陰性染色を示す。細胞のごく一部(10%未満)は、CD31および/またはCD38マーカーに対してわずかに陽性である。さらに、成熟MSCは、造血幹細胞マーカーであるCD117(c-Kit)に対してわずかに陽性であり、骨形成MSCマーカーであるStro-1[Simmons, P. J. & Torok-Storb, B. (1991). Blood 78, 5562]に対して中程度に陽性であり、胸腺細胞および末梢Tリンパ球のマーカーであるCD90(Thy-1)に対して陽性である。一方で、RS-1細胞は、CD117およびStro1マーカーに対して陰性であり、CD90マーカーに対してわずかに陽性であり、RS-2細胞は、これらすべてのマーカーに対して陰性である。
【0131】
前述のように、本発明の粒子を作製するために、可溶化した脱細胞化網を幹細胞(たとえばiPSC細胞の解離コロニー)と混合する。シリコンガラスまたはプラスチックなどの固体表面に液滴形成装置(たとえばピペット)を用いて、溶液1~10μL、たとえば2~5μLの液滴を作成してもよい。油性表面および水性表面を含む他の表面タイプも考えらえる。液滴は、脱細胞化網を液体として維持する温度で形成される。液滴が形成されると、次いで、液滴を固化して固形のゲル状粒子を形成することを確実にするために、少なくとも半時間、30℃を超える温度(たとえば37℃)に曝される。ゲル化後、次いで粒子は培地中で培養され、そこに播種された細胞は生存を続ける。
【0132】
一実施形態では、液滴(または粒子)は化学架橋剤に曝されない。
【0133】
別の実施形態では、液滴(または粒子)は追加の架橋剤に曝される。
【0134】
カルボジイミド(EDCおよびDCC)、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHSエステル)、イミドエステル、マレイミド、ハロアセチル、ピリジルジスルフィド、ヒドラジド、アルコキシアミン、アリールアジド、ジアジリン、シュタウディンガー試薬対などの例示的な化学架橋剤が企図される。
【0135】
代わりに、または追加で、架橋のために、トランスグルタミナーゼ、ソルターゼ、ラッカーゼ/ペルオキシダーゼ、リシルオキシダーゼ/アミンオキシダーゼなどの酵素を使用してもよい。他の酵素については、Heck et al., Appl Microbiol Biotechnol. 2013 Jan; 97(2): 461-475に開示されており、その内容は参照により援用される。
【0136】
本発明に使用してもよい追加の化学架橋剤は、カルボジイミド(EDCおよびDCC)、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHSエステル)、イミドエステル、マレイミド、ハロアセチル、ピリジルジスルフィド、ヒドラジド、アルコキシアミン、アリールアジド、ジアジリン、シュタウディンガー試薬を含む。
【0137】
脱細胞化網の粒子を形成する他の方法は当該技術分野で公知であり、米国特許出願第20180361023号明細書に開示されているものを含み、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0138】
細胞は、予め形成された粒子に播種されるわけではなく、脱細胞化網が液状の形態にあるとき(すなわち粒子形成前に)脱細胞化網に混合されるため、典型的には、粒子を通じて均一に分布することが理解されるであろう。
【0139】
分化段階の前に、粒子に含まれる幹細胞は、たとえば少なくとも1日、3日、7日またはそれ以上の間、粒子の容積を満たすように増殖させてもよい。粒子は、細胞の分化を防止する(すなわち細胞の多能性を維持するのに役立つ培地中で培養される)。典型的には、各粒子は、分化段階の開始時に約15,000~150,000個の幹細胞を含む。一実施形態では、分化段階は、細胞が約90%のコンフルエンスに達したときに開始される。
【0140】
一実施形態では、粒子は、粒子内への神経細胞分化剤の拡散を促進する条件下で、神経細胞分化剤を含む培地中で培養される。
【0141】
多能性幹細胞を神経細胞へと分化させる方法は当該技術分野で公知であり、Edri et al., Advanced materials 31, 1803895 (2019)、Shimojo, et al. Mol Brain 8, 79 (2015)、Yi et al., Stem Cells International, 2018, Article ID 3628578、Faravelli et al. Stem Cell Research & Therapy, 2014, 5:87、Wada et al. PLoS One, 2009, Volum 4, Issue 8, e6722、Qu et al., Nature Communications,5:3449 | DOI: 10.1038/ncomms4449、Karumayaram et al., Stem Cells. 2009 April; 27(4): 806-811. doi:10.1002/stem.31に開示されているものを含み、それぞれの内容は参照により本明細書に援用される。
【0142】
間葉系幹細胞を神経細胞系譜の細胞に分化させる方法は、たとえば国際公開第2006/134602号、国際公開第2009/144718号、国際公開第2007/066338号および国際公開第2004/046348号で提供されており、それらの教示は参照により本明細書に援用される。
【0143】
分化過程に使用することができる例示的な神経細胞分化剤は、限定されるものではないが、レチノイン酸、バルプロ酸およびそれらの誘導体(たとえばエステル、塩、レチノイド、レチナート、バルプロ酸塩など)、甲状腺ホルモンまたは甲状腺ホルモン受容体の他のアゴニスト、ノギン、BDNF、NT4/5またはNTRK2受容体の他のアゴニスト、転写因子ASCL1、OLIG1の発現を増加させる薬剤、d113アゴニスト、Notch1、2、3または4アンタゴニスト、ニカストリン、Aph1A、Aph1B、Psen1、Psen2およびPSENENの低分子阻害剤を含むガンマセクレターゼ阻害剤、デルタ様リガンド(D11)-1アンタゴニスト、デルタ様リガンド(D11)-4、jagged1アンタゴニスト、jagged2アンタゴニスト、numbアゴニストまたはnumb様アゴニストを含む。
【0144】
一実施形態によれば、培養は、粒子内でニューラルネットワークを形成する成熟ニューロン(たとえば成熟運動ニューロン)への、粒子内の細胞の分化を促進する条件下で行われる。
【0145】
ニューロンは、興奮性ニューロンであってもよく、抑制性ニューロンであってもよい。
【0146】
一実施形態では、ニューロンは運動ニューロンを含む。
【0147】
本発明のこの態様のニューロンは、成熟ニューロンを示すマーカーを発現する(たとえばMAP2などの樹状突起マーカー、シナプスマーカー(SYP)およびニューロン中間径フィラメントマーカー(NFM)を発現する。
【0148】
別の実施形態では、ニューロンは、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)、HB9(MNX1としても知られる)およびISL-1を含むがこれらに限定されない成熟運動ニューロンのマーカーを発現する。
【0149】
好ましくは、粒子中のニューラルネットワークの細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%が、免疫蛍光検査またはフローサイトメトリー分析によって測定するとき、成熟運動ニューロンのマーカーを発現する。
【0150】
たとえば、一実施形態では、粒子中の運動ニューロンの50%、60%、70%、80%、90%超が、フローサイトメトリーで測定するとき、ニューロン特異的クラスIII β-チューブリン(TUJ1)を発現する。
【0151】
別の実施形態によれば、粒子中の運動ニューロンの50%、60%、70%、80%、90%超が、フローサイトメトリーで測定するとき、運動ニューロンおよび膵臓ホメオボックス1(MNX1)を発現する。
【0152】
さらに別の実施形態では、ネットワーク内のニューロンは、in vitroでニューロンの同期発火を引き起こすことができる。
【0153】
「ニューラルネットワーク」という用語は、樹状突起を含み、その間にシナプスを有する、相互接続された一群のニューロンを指す。単一粒子内のニューラルネットワークのニューロンは、別の粒子のニューラルネットワークのニューロンと(適切な条件下で)相互作用することができる。一実施形態では、ニューラルネットワークはニューロフィラメントも含む。
【0154】
特定の粒子内のネットワークのニューロンは、適切な条件下で、別の粒子のネットワークのニューロンと接続することができる。一実施形態では、2つの粒子のニューロン間の接続は、損傷部位への移植後に行われる。別の実施形態では、2つの粒子のニューロン間の接続は、ex vivoで行うことができる(たとえば
図3のGおよびH参照)。
【0155】
一実施形態では、分化過程は、
(a)ALK5阻害剤、ALK2/ALK3阻害剤およびGSK3阻害剤の存在下でのiPSCの培養と、
(b)その後の、レチノイン酸およびヘッジホッグ経路アゴニスト(プルモルファミン)の存在下での培養と、
(c)その後の、ソニック・ヘッジホッグおよびレチノイン酸の存在下での培養と、
(d)その後の、神経栄養因子(たとえばBDNF)、アスコルビン酸、ヘッジホッグ経路アゴニスト(プルモルファミン)およびレチノイン酸の存在下での培養と、
(e)その後の、γ-セクレターゼ阻害剤(たとえばDAPT)の存在下での培養と
を含む。
【0156】
粒子は、アストロサイトなどの追加の細胞も含んでもよい。
【0157】
細胞活性を調節する治療化合物または薬剤を粒子に組み込む(たとえば付着させる、コーティングする、埋め込む、含浸させる)こともできる。Campbell et al.(米国特許出願第20030125410号明細書)(これは、参照により、本明細書に完全に記載されているかのように援用される)は、幹細胞増殖のための3D足場であって、治療化合物の予め形成された勾配を有する足場の作製方法を開示している。Campbell et al.によれば、足場材料は、「バイオインク(bio-ink)」のカテゴリーに含まれる。このような「バイオインク」は、本発明の組成物および方法において使用するのに適している。
【0158】
本発明の粒子に組み込んでもよい例示的な薬剤は、限定されるものではないが、細胞接着(たとえばフィブロネクチン、インテグリン)、細胞コロニー形成、細胞増殖、細胞分化、抗炎症、細胞血管外遊出および/または細胞遊走を促進する薬剤を含む。したがって、たとえば、薬剤は、アミノ酸、小分子化学物質、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、DNA、RNA、脂質および/またはプロテオグリカンであってもよい。
【0159】
本発明の粒子に組み込んでもよいタンパク質は、限定されるものではないが、細胞外基質タンパク質、細胞接着タンパク質、増殖因子、サイトカイン、ホルモン、プロテアーゼおよびプロテアーゼ基質を含む。したがって、例示的なタンパク質は、血管内皮由来増殖因子(VEGF)、アクチビン-A、レチノイン酸、上皮成長因子、骨形成タンパク質、TGFβ、肝細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、TGFα、IGF-IおよびII、造血成長因子、ヘパリン結合成長因子、ペプチド成長因子、エリスロポエチン、インターロイキン、腫瘍壊死因子、インターフェロン、コロニー刺激因子、塩基性および酸性線維芽細胞増殖因子、神経成長因子(NGF)または筋肉形態形成因子を含む。使用される特定の成長因子は、所望の細胞活性に適したものでなければならない。大ファミリーである成長因子の調節効果は、当業者に周知である。
【0160】
一実施形態では、神経細胞のみが粒子に含まれる。
【0161】
さらに別の実施形態では、粒子は、多能性幹細胞を本質的に含まない。
【0162】
好ましくは、多能性幹細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%は、神経細胞系譜に分化しており、より好ましくは成熟神経細胞型に分化している。
【0163】
したがって、たとえば、フローサイトメトリーまたは免疫組織化学で測定して、多能性マーカー(たとえばTRA-1-60、SSEA4、OCT4)を発現する細胞は、1%、3%、5%、10%、15%または20%以下である。
【0164】
本発明の粒子は、それ自体を脊髄損傷の治療に使用してもよいし、または、適切な担体または賦形剤と混合して医薬組成物の一部として使用してもよい。
【0165】
本明細書で用いる場合、「医薬組成物」は、本願に記載の1つまたは複数の粒子と、生理学的に適切な担体および賦形剤などの他の化学成分との製剤を指す。医薬組成物の目的は、生体への化合物の投与を容易にすることである。
【0166】
以下において、同義で使用してもよい「生理学的に許容される担体」と「薬学的に許容される担体」という語句は、生体に対して顕著な刺激を与えず、かつ投与化合物の生物活性および特性を損なわない担体または希釈剤を指す。アジュバントは、これらの語句に含まれる。
【0167】
担体の例は、限定されるものではないが、プロピレングリコール、食塩水、乳剤、緩衝液、DMEMまたはRPMIなどの培地、フリーラジカルを消去してpH緩衝化、膠質浸透圧/浸透圧維持、エネルギー基質、および低温での細胞内状態のバランスをとるイオン濃度を提供する成分を含む低温保存媒体、ならびに有機溶媒と水との混合物である。典型的には、医薬担体は、粒子数を維持し(たとえば、90%を超える減少をさせない)、組成物中の粒子内の細胞の生存能力を少なくとも24時間、少なくとも48時間、さらには少なくとも96時間維持する。
【0168】
特定の実施形態によれば、生理学的に許容される担体は食塩水である。
【0169】
本明細書で用いる場合、「賦形剤」という用語は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。限定されるものではないが、賦形剤の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類およびデンプンの種類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油ならびにポリエチレングリコールを含む。
【0170】
薬物の製剤化および投与についての技術は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences,”Mack Publishing Co., Easton, PA(最新版)に記載されており、これは参照により本明細書に援用される。
【0171】
本発明のいくつかの実施形態の文脈において使用するのに適した医薬組成物には、意図された目的を達成するのに有効な量で有効成分が含有される組成物を含む。より具体的には、治療有効量とは、疾患または損傷(たとえば脊髄損傷)の症状を予防、軽減もしくは改善するか、または治療対象者の生存を延長するのに有効な有効成分(本願に記載の粒子)の量を意味する。
【0172】
治療有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示を考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0173】
本発明の方法に使用される任意の製剤について、治療有効量または用量は、まず、in vitroアッセイおよび細胞培養アッセイから推定することができる。たとえば、所望の濃度または力価を達成するために、動物モデルで用量を処方することができる。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために用いることができる。
【0174】
本願に記載の有効成分の毒性および治療効果は、細胞培養または実験動物におけるin vitroでの標準的な薬学的方法によって測定することができる。これらのin vitroアッセイ、細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータは、ヒトに使用するための用量範囲を処方する際に使用することができる。用量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて異なってもよい。正確な製剤、投与経路および用量は、患者の状態を考慮して、個々の医師が選択することができる(たとえば、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”, Ch. 1 p.1内のFingl, et al., 1975参照)。
【0175】
投与量および投与間隔は、生物学的作用を誘導または抑制するのに十分な有効成分のレベル(最小有効濃度(MEC))を提供するために個別に調整してもよい。MECは製剤ごとに異なるが、in vitroデータから推定することができる。MECを達成するために必要な用量は、個人の特性および投与経路に依存する。血漿中濃度を測定するために、検出アッセイを用いることができる。
【0176】
治療する状態の重症度および反応性に応じて、投与は単回または複数回とすることができ、治療期間は、数日から数週間、または治癒するまで、または病状の軽減が達成されるまでとすることができる。
【0177】
投与される組成物の量は、もちろん、治療対象者、苦痛の程度、投与方法、処方医の判断などに依存する。
【0178】
本発明の粒子は、少なくともいくつかの実施形態において、使用可能な状態のシリンジに単位剤形で包装済みであってもよい。シリンジには、粒子の名称およびその供給源がラベル表示されていてもよい。ラベル表示は、粒子の機能に関連する情報も含んでいてもよい。シリンジは、粒子に関する情報もラベル表示されたパッケージに包装されていてもよい。
【0179】
本願に記載の粒子は、脊髄損傷を治療するのに有用である。
【0180】
したがって、本発明の別の態様によれば、脊髄損傷の少なくとも3ヶ月後に、対象者の損傷部位に本願に記載の組成物を移植し、それによって脊髄損傷を治療することを含む、対象者の慢性脊髄損傷を治療する方法が提供される。
【0181】
本明細書で用いる場合、「脊髄損傷」という語句は、疾患ではなく外傷によって引き起こされた脊髄への損傷を指す。症状は、脊髄および神経根が損傷を受けた部位に応じて、たとえば疼痛から麻痺、失禁まで大きく異なる可能性がある。脊髄損傷は、患者にまったく影響を与えないものから、「完全」損傷、つまり全機能喪失までの多様な可能性がある様々なレベルの「不完全」で説明される。脊髄損傷には多くの原因があるが、典型的には、自動車事故、転倒、スポーツ傷害、暴力による大外傷に関連する。「SCI」という略語は脊髄損傷を意味する。
【0182】
脊髄損傷は、グリア瘢痕化、ミエリン阻害、脱髄、細胞死、神経栄養サポートの欠如、虚血、フリーラジカル形成および興奮毒性を含むがこれに限定されない二次的組織損傷に影響を受ける可能性がある。この二次的組織損傷は、典型的には、最初の損傷から少なくとも3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月間またはそれ以降に起こる。この段階は、慢性脊髄損傷とも呼ばれる。
【0183】
特定の実施形態によれば、粒子は、瘢痕組織の除去後に損傷部位に移植される。粒子は、典型的には、粒子の投与に適した装置を用いて移植される。一実施形態では、装置はシリンジ(たとえば内径1~5mmのシリンジ)である。損傷部位への粒子の注入後、典型的には、担体はシリンジに吸い戻される。
【0184】
本明細書で用いる場合、「約」という用語は±10%を指す。
【0185】
「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」、「有している(having)」という用語およびそれらの同根語は、「含むがこれに限定されない」を意味する。
【0186】
「○○からなる」という用語は、「○○を含み、それに限定される」を意味する。
【0187】
「本質的に○○からなる」という用語は、組成物、方法または構造が追加の成分、ステップおよび/または部分を含んでもよいが、追加の成分、ステップおよび/または部分が、請求された組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変更しない場合に限ることを意味する。
【0188】
本明細書で用いる場合、単数形である「a」、「an」および「the」は、文脈により明確に否定されない限りは複数指示を含む。たとえば、「ある化合物」または「少なくとも1つの化合物」という用語は、それらの混合物を含む複数の化合物を含んでもよい。
【0189】
本願を通じて、本発明の様々な実施形態は、範囲形式で示されてもよい。範囲形式での記述は、単に便宜上、簡潔にするためのものであり、本発明の範囲を不変に限定するものとして解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の記述は、その範囲内の個々の数値だけでなく、すべての可能な部分範囲を具体的に開示したとみなされるべきである。たとえば、1~6などの範囲の記述は、その範囲内の個々の数字、たとえば、1、2、3、4、5および6だけでなく、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲も具体的に開示したとみなされるべきである。これは、範囲の幅にかかわらず適用される。
【0190】
本明細書に数値範囲が記載される場合は、常に、示された範囲内の任意の引用数字(小数または整数)を含むことを意味する。第1指示数値と第2指示数値との「範囲/間の範囲」という語句と、第1指示数値から第2指示数値「までの」「範囲/からの範囲」という語句は、本明細書では同義で用いられ、第1指示数値および第2指示数値と、それらの間のすべての小数および整数とを含むことを意味する。
【0191】
本明細書で用いる場合、「方法」という用語は、化学、薬物学、生物学、生化学および医療分野の実務者に公知の方法、手段、技術および手順であるか、または化学、薬物学、生物学、生化学および医療分野の実務者に公知の方法、手段、技術および手順から容易に開発されるものを含むがこれらに限定されない、所定の課題を達成するための方法、手段、技術および手順を指す。
【0192】
明確にするために、別々の実施形態の文脈において説明されている本発明の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせで提供されてもよいことは理解される。逆に、簡略化のために、単一の実施形態の文脈において説明されている本発明の様々な特徴も、別々に、または任意の適切なサブコンビネーションで、または本発明の任意の他の記載されている実施形態において適切に提供されてもよい。様々な実施形態の文脈において説明されている特定の特徴は、その実施形態が、それらの要素なしに実施不能な場合を除き、それらの実施形態の本質的な特徴とはみなされない。
【0193】
本明細書において詳細に説明され、以下の特許請求の範囲に記載されている本発明の様々な実施形態および態様について、以下の実施例において実験的裏付けを提供する。
【実施例】
【0194】
次に、以下の実施例を参照して、上記の説明とともに本発明のいくつかの実施形態を非限定的に説明する。
【0195】
一般的な参考文献は本文書全体で提供されている。参考文献中の手順は当該分野で周知と考えられ、読者の便宜のために提供されている。参考文献に含まれるすべての情報は、参照により本明細書に援用される。
【0196】
実施例1
材料および方法
網ヒドロゲルの形成: 網の脱細胞化(M. Shevach et al., Biomedical materials 10, 034106 (2015)): ブタの網(イスラエル国、キブツ・ラハブ)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、主要血管を除去した。次いで、試料を低張緩衝液(10mMのTris、5mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および1μMのフェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)、pH8.0)に1時間移した。次に組織を、同じ緩衝液を用いて3回凍結し解凍した。70%のエタノールおよび100%のエタノールを用いて組織をそれぞれ30分ずつ徐々に洗浄した。100%のアセトンで30分間3回洗浄し、続いて60/40(v/v)ヘキサン:アセトン溶液で24時間インキュベート(3回交換)して脂質を抽出した。脱脂した組織を100%のエタノールで30分間洗浄し、70%のエタノールで一晩、4℃でインキュベートした。次いで、組織をPBS(pH7.4)で4回洗浄し、0.25%のトリプシン-EDTA(Biological Industries社製)で一晩インキュベートした。組織をPBSで十分に洗浄し、1.5MのNaClで24時間インキュベート(3回交換)し、続いて50mMのTris(pH8.0)、1%のTriton-X100(Sigma社製)溶液で1時間洗浄した。脱細胞化組織をPBSで洗浄し、続いて蒸留水で2回洗浄し、次いで凍結(-20℃)し、凍結乾燥した。
【0197】
網ヒドロゲルの可溶化:凍結乾燥後、脱細胞化網を粉末に粉砕した(Wiley Mini-Mill)(ニュージャージー州スゥィーズボーロ、Thomas Scientific社製)。乾燥した粉砕網を、0.1M HCl中のペプシン(4000U mg-1、Sigma社製)の1mg ml-1溶液中、室温で96時間酵素消化した。次いで、DMEM/F12×10またはPBS×10(Biological Industries社製)を用いてpHを7.4に調整した。滴定溶液中の脱細胞化網の最終濃度は1.5%(w/v)であった。少なくとも10匹のブタの網を使用した。
【0198】
未分化iPSCの培養: iPSCは大網間質細胞から作製した。未分化細胞は、DMEM/F12(イスラエル国、ベイト・ハエメク、Biological Industries社製)中に250μg/mLに希釈したMATRIGEL(商標)(ニュージャージー州、BD社製)でプレコートした培養プレート上で培養するか、または網ヒドロゲル内で培養した。すべての細胞は、37℃、5% CO2で培養した。未分化iPSCは、0.1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Biological Industries社製)を含むNutriStem(登録商標)(Biological Industries社製)培地で維持した。培地は毎日交換し、細胞は、1U/mLのディスパーゼ(カナダ、バンクーバー、Stemcell Technologies社製)を用いて毎週継代した後、機械的に倍散した。iPSCをY-27632(10μM)(英国、Tocris社製)の存在下で小型コロニーに播種した。
【0199】
脊髄運動ニューロンインプラントの作製および分化: 解離したiPSCコロニーを1.5%の網ベースヒドロゲルと等量で混合した。ピペットを用いて3μLの液滴を作成した。湿ったタオル上でインプラントを37℃で30分架橋させ、その後、培地を加えた。未分化細胞は、90%のコンフルエンスに達するまで、毎日交換するNutristem中で培養した。細胞は前述のように分化させた(R. Edri et al., Advanced materials 31, 1803895 (2019))。簡潔に言えば、約90%コンフルエンスに達した後、培地を、15%のKnockout Serum、0.1%のペニシリン/ストレプトマイシン、0.5%のl-グルタミン、1%の非必須アミノ酸(Invitrogen社製)、10μMのβ-メルカプトエタノール、10mMのSB-431542(Tocris社製)、1μMのLDN-193189(Tocris社製)、および3μMのCHIR-99021を補充したKnockout/DMEMに変更し、3日ごとに、N2を添加したDMEM/F12に徐々に変更した(3日目は、Knockout/DMEDを3/4と、F12部分にのみN2を補充したDMEM/F12を1/4とであり、6日目は、それらを1/2と1/2とに変更した)。4日目および6日目に、運動ニューロン培地に1μMのレチノイン酸と1μMのプルモルファミン(Tocris社製)とを添加した。8日目に、N2、30ng/mLのソニック・ヘッジホッグ(R&D社製)および1μMのレチノイン酸を補充したDMEM F/12を細胞に添加した(最終容量の1/3、培地は交換せず)。10日目以降、N2、0.1%のP/S、5μg/mLのBDNF(R&D社製)、200μMのアスコルビン酸(Sigma社製)、1μMのプルモルファミン(Tocris社製)および1μMのレチノイン酸を補充したDMEM/F12に培地を変更した。15日目からは、5μMのDAPT(Tocris社製)も添加し、プルモルファミンの濃度を500nMに下げた。培地は30日目まで3日ごとに交換した。
【0200】
免疫染色および共焦点イメージング: 細胞インプラントを4%のホルムアルデヒドで固定し、0.05%(v/v)のTriton X-100で透過処理し、PBS、1%のウシ血清アルブミン(BSA)、10%のウシ胎児血清(FBS)でブロックし、指定した一次抗体で染色し、続いて二次抗体(抗体リスト(Supporting Information)に記載したもの)で染色した。細胞およびインプラントは、正立共焦点顕微鏡(Nikon社製、ECLIPSE NI-E)および倒立蛍光顕微鏡(Nikon社製、ECLIPSE TI-E)を用いて画像化した。画像は、NIS elementsソフトウェア(Nikon Instruments社製)を用いて処理し分析した。
【0201】
神経突起伸長アッセイ: 神経突起伸長アッセイでは、分化30日目のインプラントを、250μg/mLのMATRIGEL(商標)をコーティングしたプレートに載せた。構築物を3日間培養した後、4%のホルムアルデヒドで固定し、倒立蛍光顕微鏡(Nikon社製、ECLIPSE TI-E)を用いて画像化した。
【0202】
RNA seq解析およびバイオインフォマティクス解析: 0日目、20日目および30日目のインプラントのRNA試料を、miRNeasyキット(ドイツ国、ヒルデン、Qiagen社製)を用いて抽出し、デオキシリボヌクレアーゼ(Qiagen社製)を用いて処理した。プールされた試料を、少なくとも2つの異なる実験的反復で定量した。ライブラリーの品質管理は、FASTQC(バージョン0.11.5)を用いて行い、続いてCutadapt、バージョン1.1(M. Martin, EMBnet. journal 17, 10-12 (2011))を用いて品質およびアダプターのトリミングを行った。すべてのリード数は、TopHatアライナー(Trapnell)を用いて、最大ミスマッチパラメータを3、最小および最大イントロンサイズをそれぞれ70および500000として、ホモサピエンス参照ゲノムにアラインメントした。生の発現レベルは、HTseq-count、バージョン0.6.1(S. Anders, P. T. Pyl, W. Huber, bioinformatics 31, 166-169 (2015))を用いて計算した。次に、Ensembel遺伝子参照ファイル(バージョンGRCh38.87)のアノテーションを用いて、生の発現レベルに基づいて、100万あたりキロベースあたりのリード数(RPKM:reads per kilobase million)値を計算した。
【0203】
操作された脊髄組織におけるRPKMの倍率変化(分化30日目に未分化iPSCに対して正規化した)に基づいて、発現が最も増加した500個のタンパク質コード遺伝子についてIngenuity(登録商標) Pathway Analysis(IPA(登録商標)、カリフォルニア州レッドウッドシティ、Qiagen Bioinformatics社製、)ソフトウェアを用いて機能強化を分析した。ECM分析のために、上記の500個から17個のECM関連遺伝子を選択し、機能強化を行った。ECM分析のために選択された機能は、17個のECM遺伝子のうち少なくとも2個と関連していた。各試料のZスコアは、RPKM値により別々に計算された。完全なRNAデータは、アクセッション番号GSE97341で入手可能である。
【0204】
カルシウムイメージング: カルシウムイメージングのために、インプラントを10μMのfluo-4AM(Invitrogen社製)および0.1%のPluronic F-127(Sigma-Aldrich社製)とともに37℃で45分インキュベートした。次いで、インプラントをハンクス緩衝塩溶液(HBSS)で洗浄し、倒立蛍光顕微鏡(Nikon社製、Eclipse TI)を用いて画像化した。動画は、ORCA-Flash4.0デジタル相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラ(Hamamatsu社製)を用い、2フレーム/秒で取得した。外液にはHBSSを用いた。ベースラインを30秒間記録し、その後、KCl(50mM、最終濃度25mM)またはグルタミン酸(200μM、最終濃度100μM)溶液によって脱分極を誘導した。溶液の注入はin situで行い、細胞Ca2+応答の記録を中断なく行うことができた。データはImageJ(NIH)を用いて分析し、各データセットを初期値で割ることによって正規化した(F/F0)。
【0205】
脊髄片側切断: 片側切断は前述のように行った(Y. Goldshmit et al., J Neurosci 24, 10064-10073 (2004))。簡潔に言えば、マウス(20~30g)を、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(16mg/kg)のPBS溶液の腹腔内注入によって麻酔した。脊髄は、低胸部から高位腰部まで露出させた。堆弓切除後、T10で完全左片側切断を行い、覆っていた筋肉および皮膚を縫合した。急性期の損傷では、マウスを直ちに処置した。対照群は、10μLの食塩水で処置した未処置群、10μLの食塩水に懸濁させた解離iPSC由来脊髄ニューロン(分化30日目)で処置した細胞群、および0.75%の架橋前網ベースヒドロゲルで処置したヒドロゲル群であった。分化したiPSC由来脊髄ニューロンインプラント(分化30日目)で処置したインプラント群に、試験処置を施した。
【0206】
慢性期損傷モデルでは、急性期と同様にSCIを誘導した。最初のSCIの6週間後、動物を再麻酔し、病変部位を再切開した。瘢痕を慎重に切除し、切除された瘢痕によって形成された腔に処置を施した。マウスを無作為に4群に割り付け、損傷後1週間~3ヶ月間生存させた。
【0207】
組織調製および免疫蛍光標識。処置の1週間後、8週間後、12週間後に動物を麻酔し、20mLのPBS(pH7.4)、続いて20mLの4%のパラホルムアルデヒドで経心的に灌流した。脊髄組織を剥離し、4%のパラホルムアルデヒドで24時間、4℃で後固定し、4℃で一晩、20%v/vのショ糖を用いて脱水した。剥離した組織をOCTに包埋し、凍結ミクロトーム(Leica CM1950)(ドイツ国)を用いて60μm厚の凍結切片に縦方向に切断した。
【0208】
免疫染色のために、切片をPBS溶液中0.3%のTriton X-100で透過処理し、PBS中10%のFBSおよび1%のBSAで1時間ブロックし、次いで一次抗体(Supporting Informationの抗体リスト)を用いて4℃で一晩インキュベートした。PBSで3回すすいだ後、切片をAlexa Fluor 488/594/647標識二次抗体で1時間インキュベートした。次いで、切片をPBSで3回洗浄し、Hoechst 33528(5μg/mL)で、室温で10分間対比染色し、次いでPBSで洗浄し、そのまま乾燥させ、退色防止蛍光マウンティングメディアに入れてガラススリップで覆った。切片は、Nikon社製の共焦点顕微鏡を用いて分析するまで4℃で保存した。損傷中心部のそれぞれの積算密度をImageJで自動的に計算した。各動物について、脊髄の損傷中心部の近く(背側から腹側まで)の少なくとも3つの切片を調べた。
【0209】
順行性軸索追跡。順行性追跡を用いて軸索再生を検査した(未処置N=7、細胞N=7、ヒドロゲルN=10およびインプラントN=10)。SCIの3ヶ月後、病変の同側の頚膨大のレベルでテトラメチルローダミン・デキストラン(TMRD、「Fluoro-Ruby」、MW 10,000kD、Molecular Probes社製)を脊髄に注入した(Y. Goldshmit et al., J Neurosci 24, 10064-10073 (2004))。14日後、マウスをPBSで灌流し、続いて4%のパラホルムアルデヒド(PFA)で灌流した。脊髄を摘出し、4%の冷PFAで1時間、続いてPBS中20%のショ糖で一晩、4℃で後固定した。縦方向の(水平な)連続凍結切片を切り出し(60μm)、蛍光顕微鏡(Nikon社製、ECLIPSE NI-E)を用いてスライドを画像化した。白質内の標識軸索を、病変部位の吻側では1000μm、500μm、200μmで、病変部位の尾側では100μmで、400倍で定量した。蛍光顕微鏡を用いて、再生している軸索のフォトモンタージュを作成した。
【0210】
キャットウォーク歩行分析: Catwalk XTシステム(オランダ国、Noldus Information Technology社製)を用いて歩行測定を行った。データをコンピュータに送信し、CatWalk XT(登録商標)ソフトウェア(バージョン10.6、Noldus社製)で分析した。各マウスは、歩行路の片側に位置し、反対側までの3回の準拠ラン(compliant run)(ばらつき<60%;時間<5秒)を完了する必要があった。協調運動(規則性指数)と、損傷した肉球に圧力をかけるマウスの能力(左後肢最大強度平均値)とを試験した。パラメータはランごとに計算し、結果は各時点で動物ごとに平均した。
【0211】
グリッド歩行: 処置の1週間前と、処置1、2、4、6、8間後とで、マウスに水平グリッド(グリッド間隔1.2×1.2cm、総面積35×45cm)を歩行させる試験を行った。各マウスを3分間、グリッド上で自由に歩行させた。左後肢の肉球が足指と踵のすべてでグリッドから完全にはみ出たときに、歩行ミス(misstep)とカウントした。歩行ミス数と、左後肢で歩いた合計の歩数とをカウントした。結果は、左後肢の正しい歩数の割合で示した(Y. Goldshmit, Journal of Neurosurgery: Spine SPI 33, 692-704 (2020))。
【0212】
磁気共鳴画像法(MRI): MRIは、慢性瘢痕切除後1週目および4週目に、660mT/m勾配ユニットを装備するBiospec 7T/30 Scanner(Bruker社製)によって、86mmの透過型ボリュームコイルと10mmのループコイルとを受信機とするクロスコイル構成で行った。未処置群と細胞群はN=4であり、ヒドロゲル群とインプラント群はN=5であった。動物には、加熱パッド上で、O2中1~2%のイソフルランで麻酔をかけ、呼吸をモニターし、体温を37℃に維持した。
【0213】
MRIプロトコルには以下の方法、Rapid Acquisition with Relaxation Enhancement(RARE)シーケンスで取得したT2強調(T2w)画像と、Diffusion-Weighted Spin-Echo Echo-Planar-Imagingパルスシーケンス(DW-SE-EPI)で取得した拡散テンソル画像(DTI)とが含まれた。T2wの取得は、以下のパラメータで行われた:TR=8000ms、有効TE:30ms、RAREファクター12(反復3)。軸方向スライス32、厚さ0.45mm(ギャップなし)、面内分解能0.15mm2で大脳全体を4分間カバーした。DTIは5.5分間行い、以下のパラメータを用いた:TR/TE=2500/19.2ms、Δ/δ=10/2.5ms、EPIセグメント2、勾配方向30、b値1000s/mm2、B0画像3枚、軸方向スライス30、厚さ0.45mm(ギャップなし)、面内分解能0.30mm2。MRIプロトコル取得時間の合計は約20分であった。DTI計算と線維追跡にはExploreDTIソフトウェアを用いた。テンソルから分解された固有成分を、異方性比率マップの算出に用いた。脊髄の関心領域は、各スライスにおいて手動でセグメント化した。線維追跡は、角度<30°、FA<0.15、解像度2×2×2で路の方向に行った。
【0214】
統計分析: すべての統計分析は、GraphPad Prism 8.00(GraphPad Software, Inc.)を用いて行った。データは、平均値±SEM(平均値の標準誤差)で示されている。データは、スチューデントのt検定または一元配置分散分析(ANOVA)と、それに続くテューキーの事後検定とを用いて分析した。値は、p<0.05で有意差ありとした。
【0215】
レオロジー特性: レオロジー測定(n=3;個別試料)は、8mm径の平行平板形状を有し、試料温度を維持するためのペルチェプレートを備えたDiscovery HR-3 hybrid Rheometer(デラウェア州、TA Instruments社製)を用いて行った。試料は、温度4℃でロードし、次いで37℃まで上昇させてゲル化を誘導した。この間、試料の固定周波数1Hz、歪み1%でモニターした。ゲル化後、同じ試料を1%の歪みで周波数掃引(0.1~10Hz)を用いてモニターした。細胞構築物はレオロジーに先立って架橋し、前述のように異なる周波数で試験した。
【0216】
走査型電子顕微鏡法: 試料(細胞または無細胞)を調製するために、構築物を2.5%のグルタルアルデヒドで固定し(4℃で16~20時間)、続いて段階的な一連のエタノール-水溶液で脱水した(25~100%)。すべての試料を臨界点乾燥し、導電性塗料を塗布したアルミニウムスタブにマウントし、Polaron E 5100コーティング装置(英国、ルイス、Quorum technologies社製)で金をスパッタコーティングした。試料はJCM-6000PLUS NeoScope Benchtop(マサチューセッツ州ピーボディ、JEOL USA Inc.社製)で観察した。
【0217】
フローサイトメトリー: フローサイトメトリー分析のために、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、CaCl2・2H2O(1.8mM)、KCl(5.36mM)、MgSO4・7H2O(0.81mM)、NaCl(0.1M)、NaHCO3(0.44mM)、NaH2PO4(0.9mM))中のII型コラゲナーゼ(95U/mL;ニュージャージー州レイクウッド、Worthington社製)およびパンクレアチン(0.6mg/mL;Sigma-Aldriin社製)による、6サイクル(各30分間)までの酵素消化を用いてインプラントから細胞を単離した。各ラウンドの消化後、細胞を遠心分離(120g、5分間)し、DMEM/D12に再懸濁し、氷上で保存した。細胞をPBSで洗浄し、次いでAccutase(カナダ国、バンクーバー、Stemcell Technologies社製)で、37℃で5分間処理し、次いで、単細胞への解離を確実にするために機械的倍散を行った。
【0218】
膜タンパク質については、細胞を標識抗体またはアイソタイプ対照を用いてRTで30分間染色した。
【0219】
細胞内タンパク質については、細胞を4%のホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、0.1%のTritonで透過処理し、一次抗体とその後の二次抗体を用いて氷上でそれぞれ30分間インキュベートした。細胞を分析し、CytoFlex 4フローサイトメーター(米国、Beckman Coulter社製)を用いてデータ分析を行った。陽性集団は、非染色細胞および適切なアイソタイプ対照によるゲーティングを行った。少なくとも3つの生物学的反復を分析した。
【0220】
抗体リスト
一次抗体: OCT4(ab27985、1:100)、Ki67(ab16667、1:250)、TUJ1(ab7751/ab18207、1:500)、MAP2(ab5392、1:1000)、NFM(ab24574、1:1000)、SYP(ab32127、1:500)、Iba1(ab178846、1:400)、Nestin(ab134017;1:2000)、netrin1(ab37390;1:100)、slit1(ab115892;1:100)およびCytopainter red(ab138893)は、Abcam社製(マサチューセッツ州ケンブリッジ)から入手した。GFAP(Dako Z0334、1:1000)、NeuN(MAB377;1:200;Millipore)、Collagen I(MA1-26771、1:2000)、およびTMRD(デキストラン、テトラメチルローダミン、D1817、10000MW)はInvitrogen社から入手した。HB9(81.5C10、1:100)はDSHB社から購入した。
【0221】
二次抗体: Alexa Fluor 488(1:250;111-545-003、Jackson社製)、Alexa Fluor 555(1:500;ab150118、Abcam社製)、Alexa Fluor 647(1:500;ab150135/ab150175、Abcam社製)。核は、Hoechst 33258(5μg/mL)を用いて可視化した。
【0222】
標識抗体: TRA-1-60-PE(1:100;130-122-921、ドイツ国、Miltenyi社製)、SSEA-4(1:100;130-122-918、Miltenyi社製)。
【0223】
結果
ブタの大網組織を、ECMを保持したまま脱細胞化した(
図2のAとBおよび
図6のA~B)。網は、血管と硫酸化グリコサミノグリカンとに富む脂肪組織であり、そのECMは体内の幹細胞の貯蔵所として機能する。脱細胞化組織は、さらに熱応答性ヒドロゲルに加工した(
図2のC)。このヒドロゲルは室温で弱い機械的特性を示し、生理的条件下で物理的に架橋される(
図2のCおよびD)。
【0224】
自然の胚発生期において、ECMの線維は胚盤胞期にニッチを形成し、幹細胞の再生、分化および形態形成をサポートする。ヒドロゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像により、平均線維径91.7±33nmの線維構造が明らかとなった(
図2のEおよび
図7)。胚発生期に、多能性幹細胞は、分化の前に、閉じ込められた微小環境内で増殖する。この生理的プロセスを模倣するために、ヒトiPSCのコロニーを低濃度で網ヒドロゲル内に混合した(
図2のF)。材料および方法のセクションに記載されているように粒子を作製した。細胞は、ヒドロゲル内で高多能性マーカー(TRA-1-60、SSEA4、OCT4)および増殖マーカー(KI67)を発現(
図2のGおよびH)し、増殖し、その容積を満たすことができるようにした。次いで、神経発生の生理的プロセスを模倣するために、iPSCインプラント(すなわち粒子)をこの3D微小環境内で30日間の分化プロトコルにかけた。30日目に、細胞は粒子全体に高密度の3Dネットワークを形成し(
図2のI)、TUJ1およびMAP2などの一般的な初期および後期ニューロンマーカーだけでなく、特異的な運動ニューロンマーカーHB9を発現した(
図2のJ)。インプラント内でのシナプスおよび樹状突起の形成と、ニューロフィラメントの形成は、神経組織の成熟を示していた(
図2のK)。フローサイトメトリー分析により、細胞の85%超がニューロンマーカーTUJ1を発現し、60%超がHB9も陽性であることが示された。さらに、分化過程に沿った3つの異なる時点(0日目、20日目および30日目)でのRNA配列決定から、多能性関連遺伝子のダウンレギュレーションと、ニューロン遺伝子、特に脊髄運動ニューロン遺伝子のアップレギュレーションとが明らかになった(
図2のL)。ニューロン活動および成熟の機能に関連する複数の相乗的遺伝子が有意に濃縮されていた。
【0225】
胚発生期において、動的ECMは、組織特異的な機能を維持する上で極めて重要な役割を果たしている。脊髄の分化および成熟を通じて、細胞は、作製したヒドロゲルによって供給される初期の基質タンパク質に加えて、既存の基質と相互作用するさらなる特異的なECM成分および可溶性因子を分泌した。発生期および分化期におけるECM組成のこの再構築は、細胞遊走をサポートし、軸索成長/誘導およびシナプス形成を促進するのに不可欠な新たな微小環境を提供する。分化過程において作製されるこの新たな細胞外微小環境を調べるために、ニューロンECM関連遺伝子を研究した。最も上昇した500個の遺伝子のうち、細胞は、未分化細胞では発現されない必須のECMタンパク質の産生に関連する17個の遺伝子を発現した(
図3のA)。さらなる分析によって、ニューロン発生、軸索誘導、神経発生、神経分岐、ニューロン遊走および神経伝達を含む神経組織形成および機能に関連する強化された機能におけるそれらの遺伝子の関与が明らかとなった(
図3のBおよび
図8)。これらの機能は、胚発生期における脊髄の適切な形成に必須である
23。これらの機能の模倣に成功したことは、供給された微小環境と細胞とが互いに影響しあって、適切な3Dニューラルネットワークを形成していることを示唆している。2D表面では可溶性タンパク質の大部分は培地に分泌されるが、ヒドロゲルでは3D微小環境内に閉じ込められ、初期ECMと相互作用して、封入された細胞に影響を与えることができる。3D微小環境内でのタンパク質の分泌および蓄積を評価するために、MATRIGEL(商標)上で分化させた細胞、未分化のインプラント、および30日目のインプラントを、軸索誘導に重要な役割を果たし、脊髄の配置に極めて重要な代表的なECMタンパク質であるSLIT1およびNTN1について染色した。SLIT1タンパク質は、腹側フロアプレートに向けての運動ニューロンの遊走を防止し、それによって運動ニューロンが適切なカラムに留まることを可能にする。一方で、ネトリンは、より大きなラミニン遺伝子ファミリーの一部であり、軸索を正中線に誘導するのに重要な役割を果たしている。示されているように、タンパク質は、0日目のインプラントでも、2DのMATRIGEL(商標)表面でも検出されなかったが、ヒドロゲル内の細胞では高度に発現されていた(
図3のC~E)。ECMタンパク質の合成および提示は、発生中の組織の機能に影響を与える。しかしながら、3Dヒドロゲル内でのECMタンパク質の蓄積は、微小環境の機械的特性も変化させた。無細胞インプラントの複素粘度は経時的に変化しなかったが、ECMタンパク質の種類と量の変化により、その生化学的含有量は有意に変化し、複素粘度は増加した(
図3のFおよび
図9)。
【0226】
インプラントが周囲の環境と相互作用する能力を評価するために、単離したインプラントをMATRIGEL(商標)の薄層上に播種したところ、神経突起の伸長が実証された(
図3のG)。さらに、複数のインプラントを互いに約1mmの距離に配置すると、3日以内にそれらの間に分岐ネットワークが形成された(
図3のH)。インプラント間またはインプラントと組織の健康な部分との間のこのような相互作用は、効率的な生着のために、および、任意の神経組織における再生過程の開始のために、極めて重要である(Kawabata et al stem cell rep 2016)。3Dネットワーク、樹状突起およびシナプスの形成を確認した後、カルシウムイメージングを用いて、インプラントの神経電気活動をモニターした。KClは、ニューロンを確実に脱分極させ、カルシウムイオンを細胞内に流入させることが知られている。示されたように、KCl刺激によって蛍光の有意な増加が明らかになり、化学的誘発効果が示された(
図3のI)。さらに、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸によって、カルシウム放出の有意な増加を誘導することができた(
図3のJ)。
【0227】
胚性脊髄の発生を効率的に模倣して機能的組織インプラントを工学的に構築した後、それらの治療能力を評価した。最初に、概念実証として、マウスの急性損傷モデルを選択した。ここで、脊髄の右側は無傷のままにして、T10で完全左片側切断を行った(
図4のA)。次いで、食塩水(未処置)、食塩水中の細胞浮遊液(細胞)、細胞を含まないヒドロゲル、または完全インプラント(
図4のB)を損傷部位に直ちに挿入し、炎症とグリア瘢痕形成とを軽減するそれらの能力と、神経保護および軸索再生を促進する能力と、マウスの歩行を改善する能力とを評価した。解離細胞の生着と、完全インプラントの生着とを比較するために、まず、細胞を蛍光色素で前染色した。処置の1週間後、病変部位においてインプラント群内の細胞が明確に検出されたが、懸濁液で適用された細胞はほとんど観察されず、サポートする微小環境の重要性が強調された(
図4のCおよび
図10)。血液脊髄関門の破壊および出血の後、二次損傷が起こり、末梢からの免疫細胞、または組織内からのマイクログリアが損傷部位に向かって移動する。この炎症性環境は、さらなるニューロン死と、グリア瘢痕を形成する反応性アストロサイトの大量蓄積とをもたらす。このプロセスは、さらなる損傷の拡大を防止するが、自然再生は阻害される。損傷部位内の炎症細胞集団に対するインプラントの効果を評価するために、7日目に脊髄を摘出し、切片にし、マイクログリア(Iba1)およびアストロサイト(GFAP)マーカーを染色した。示されたように、ヒドロゲルおよびインプラントの両方が、両方の細胞型の蓄積を有意に低下させた(
図4のC~Gおよび
図11)。さらに、これらの群内で検出されたアストロサイトは、Ki67も発現しているため、反応性が低かった(
図12)。
【0228】
7日目に観察された炎症レベルの低下は、より寛容な環境につながり、その結果、インプラントで処置した動物において、有意に多い数のニューロン(TUJ1)および神経幹細胞(NESTIN)が12週目に検出された(
図4のH~Jおよび
図13)。後者は、ニューロンまたはグリア細胞に分化する能力を有する前駆細胞である。全体的に、病変部位の細胞は脊髄路方向に組織化され、損傷を乗り越えていた(
図4のH)。これは、周囲の微小環境内で観察された高レベルのガイダンス分子に起因する可能性がある(
図14)。全体的に、細胞および必須ECMタンパク質のこのような構成は、損傷脊髄全体の再配線および再生を促進する可能性がある。
【0229】
インプラントが病変部位を介して信号を転送する能力を評価するために、マウスに、順行性トレーサー分子(TMRD)を損傷の同側の頚部レベルに注射した。動物をさらに2週間飼育して、活性ニューロン軸索を通じてトレーサーを下流に移動させた。示されたように、インプラント処置マウスでは、病変部位に到達して通過し、瘢痕を通り過ぎた再成長を可能にした軸索の数が有意に多かったが、ヒドロゲル処置マウスでは、検出された軸索の数がより少なく、他の処置ではまったく観察されなかった(
図4のKとLおよび
図15)。
【0230】
脊髄路に沿った機能的軸索の存在は、適切な運動機能に必須である。そのため、本発明者らは次に、キャットウォーク歩行分析によって、処置マウスの歩行を改善するインプラントの能力の評価を試みた。示されたように、すべての動物が部分的に運動機能を回復したが、これはおそらく、中枢パターン発生器を使用する、動物の能力によるものであろう。しかしながら、回復は、インプラントを用いて処置した動物において有意に改善していた(
図4のMおよびN)。未処置群と比較して、インプラントで処置した動物のみが、より高い規則性指数によって判断されるように、有意に良好な協調運動を示した(
図4のM)。同様に、損傷した足に圧力をかけるマウスの能力を示す左後肢最大強度は、インプラントで処置した動物においてのみ有意に高かった(
図4のN)。これらの行動パラメータの改善は、炎症の減少と、再生に必須である病変部位におけるニューロンの存在との相乗効果に起因する可能性がある。この回復は、体重の有意に高い増加につながり(
図4のO)、全体的な状態改善の別の態様を示した。
【0231】
急性期の損傷脊髄を回復させるインプラントの能力が実証されたので、次に、臨床的により関連性のあるモデルで組織を再生する能力を評価した。初期外傷の直後に、出血および浮腫を含む二次的な事象のカスケードが起きる。そのため、本発明者らは、瘢痕が完全に形成され、自発的な行動回復がプラトーに達した慢性期に損傷が達した時点で、損傷脊髄を治療するインプラントの能力の評価を試みた。
【0232】
このために、急性期について述べたように、完全片側切断を行った。最初のSCIから6週間後に脊髄から瘢痕を切除し、この腔内にも同じ処置を施した(
図4のB)。次いで構造、生化学、細胞および行動パラメータを評価した(
図5のA)。
【0233】
示されたように、瘢痕切除前のT2強調MRIによって、完全片側切断が容易に検出できた(
図5のB)。脊髄路の修復過程を可視化するために、処置の1週間後および4週間後に、拡散テンソル画像(DTI)を用いるMRIを行った。脊髄の白質に関する貴重な情報を提供する拡散異方性は、軸索の構造的方向とミエリンの状態の両方によって決定される。MRI画像の各ボクセルの拡散テンソルは、そのボクセル内の線維の主方向を示す主固有ベクトルで表される。示されたように、瘢痕切除の1週間後、主拡散方向は、脊髄軸に沿って整列されておらずランダムであり(
図16)、これは重度の損傷を示している可能性がある。しかしながら、損傷のこの段階では、検出された損傷の一部は、完全にまたは部分的に可逆的であり得る瘢痕切除後の浮腫によって引き起こされた可能性がある。処置の4週間後の分析では、主拡散方向(青で示す)によって判断されるように、インプラントで処置した動物に大きな改善が見られた(
図5のC)。この改善は、インプラントの組み込みと、病変部位の上下の健康な軸索をつなぐその能力とに起因する可能性がある。次いで、ストリームライントラクトグラフィーを用いて、白質線維と、その構造的完全性と、その線維束への損傷とを可視化した。再構成されたニューロン路は、すべての動物の病変部位において、脊髄の病理学的変化を示した(
図5のD)。しかしながら、未処置動物、または懸濁液中の細胞で処置した動物のトラクトグラフィーでは、病変においてより高い変位、変形および破壊が明らかとなった。これらの動物では、損傷部位を横切って通過する組織または軸索はほんのわずかであり、瘢痕切除レベルを上回る漸進的なワーラー変性も見られた。対照的に、インプラントで処置した動物は、病変部位を通過する路の数によって判断されるように、損傷した路の保存または回復が良好であった(
図5のDおよび
図17)。損傷部位を横切る同側の神経線維の量を定量し、健側の同じレベルの線維と比較した。示されたように、インプラント処置マウスは、未処置動物および細胞処置動物と比較して、病変を通る軸索の生存性および/または再成長が有意に高かった(
図5のE)。本発明者らは、次に、軸索に沿った細胞外間隙の水拡散率に依存する異方性比率を分析した。他のすべての処置と比較して、インプラントで処置した動物は、病変部位で有意に値が高いことが明らかとなり(
図5のF)、異方性がより強いことと、完全な神経線維の数がより多いこととが示された。
【0234】
損傷部位の細胞内容物を、より長い回復期の後に分析した。瘢痕組織の除去によって生じた広範な損傷には、支持材をさらには挿入せず、未処置動物の数匹は実質的な腔を残した。これらの脊髄は、一体(one piece)で摘出し処理することができず、これらの動物の損傷部位における細胞内容物の定量と、この群の信頼性のある分析とができなかった。細胞処置とヒドロゲル処置とインプラント処置との比較によって、反応性アストロサイトの密度が低いことから明らかなように、インプラントで処置した動物では、慢性炎症が有意に減少していることが明らかとなった(
図5のGおよび
図18のA~B)。マイクログリアも、細胞のみの群と比較してヒドロゲル処置およびインプラント処置の両方で有意に減少していた(
図5のHおよび
図18のA~B)。示されたように、ヒドロゲル処置マウスとインプラント処置マウスの両方で、有意に多い数のニューロンが認められた(
図5のIおよび
図18のA~B)。しかしながら、脊髄の発生および再生における軸索の新芽形成に関連するマーカーであるGAP43のより高い発現は、インプラント処置動物においてのみ検出された(
図5のJおよび
図18のA~B)。このことは、病変の両側の健康な軸索に間隙を生じ得る、病変部位における活発な軸索新芽形成を示唆している可能性がある。
【0235】
機能回復を促進するインプラントの能力を、感覚運動機能によって検証した。実験中、マウスは、キャットウォークゲート(Catwalk gate)分析およびグリッド歩行試験を含む行動研究に供された。ステップシーケンス(step sequence)規則性指数で表されるマウスの協調運動は、時間の経過とともに改善し、処置の6週間後にその最大能力に達した(
図5のK)。さらに、インプラント処置動物において、(損傷した足にかかる)より高い圧力が移植1週間後にはすでに検出され、実験を通じて維持された(
図5のL)。最終的に、グリッド歩行分析において、損傷した足でのミス歩行(missedstep)がより少なかったことで示されるように、これらの動物で運動回復および感覚回復が認められた(
図5のM)。インプラント処置動物の感覚運動において検出された有意な回復は、損傷部位を通過する無傷の線維を明らかにしたDTIの結果と一致している(
図5のD)。
【0236】
本発明を、その特定の実施形態と併せて説明してきたが、多くの代替、修正および変更が当業者に明らかであることは明白である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神および広範な範囲に含まれるすべてのそのような多くの代替、修正および変更を包含することを意図している。
【0237】
本明細書において参照されるすべての刊行物、特許および特許出願は、参照により本明細書に援用されることが参照されるときに言及される際に、個々の刊行物、特許または特許出願が、参照により本明細書に援用されることが個別具体的に記載されているかのように、参照によりその全体が本明細書に援用されることが出願人の意図である。さらに、本願における任意の参照の引用または特定は、そのような参照が、本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈してはならない。セクションの見出しが使用されている限りにおいて、それらは必ずしも限定するものと解釈すべきではない。さらに、本願の優先権文書は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【国際調査報告】