IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッポン・コルンマイヤー・カーボン・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特表2024-543210高純度炭化ケイ素粉末を製造するための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】高純度炭化ケイ素粉末を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/97 20170101AFI20241112BHJP
【FI】
C01B32/97
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532782
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(85)【翻訳文提出日】2024-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2022083109
(87)【国際公開番号】W WO2023099329
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】102021131748.7
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522242292
【氏名又は名称】ニッポン・コルンマイヤー・カーボン・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】コルンマイヤー・トルステン
(72)【発明者】
【氏名】クライン・ダーフィト
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146MA14
4G146MB02
4G146NA11
4G146NA18
4G146NB02
4G146NB07
4G146NB14
4G146NB18
4G146NB19
4G146PA06
4G146PA07
4G146PA15
4G146PA16
(57)【要約】
本発明は、高純度炭化ケイ素粉末の製造方法に関し、高純度の炭化ケイ素粉末のコスト効率の良い製造が可能である。これは、有機原料として、澱粉ベースの包装用チップまたは膨張澱粉をオープントップ容器に充填すること;原料で充填された容器をオーブンに入れ、不活性ガスを供給しつつまたは真空中で包装用チップまたは膨張澱粉を2000℃の温度まで徐々に加熱し、包装用チップまたは膨張澱粉を多孔質黒鉛片に黒鉛化すること;塩素またはフッ素などのハロゲンガスをオーブン内に供給して、1800℃を超える温度で多孔質黒鉛片を精製し、金属塩化物を形成して多孔質黒鉛片から異物を除去すること;1,200℃超の温度、30mbar以上の圧力で、アルゴンをキャリアガスとするSiO供給により、多孔質黒鉛片を粉末炭化ケイ素に変換することにより達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-有機原料として、澱粉ベースの包装用チップまたは膨張澱粉をオープントップ容器に充填すること;
-原料で充填された容器をオーブンに入れ、不活性ガスを供給しつつまたは真空中で包装用チップまたは膨張澱粉を2000℃の温度まで徐々に加熱し、包装用チップまたは膨張澱粉を多孔質黒鉛片に黒鉛化すること;
-ハロゲンガスをオーブン内に供給して、1800℃を超える温度で多孔質黒鉛片を洗浄し、金属塩化物を形成して多孔質黒鉛片から異物を除去すること; および
-1,200℃超の温度、30mbar以上の圧力で、アルゴンをキャリアガスとするSiO供給により、多孔質黒鉛片を粉末炭化ケイ素に変換することを特徴とする、
高純度炭化ケイ素粉末を製造するための方法。
【請求項2】
有機原料として、純粋なトウモロコシデンプンまたはPVA接着剤と混合したトウモロコシデンプンを使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭化ケイ素への変換が1520℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
炭化ケイ素への変換が950mbarの圧力で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
炭化ケイ素への変換が長期工程で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
黒鉛化の温度までのオーブンの加熱が段階的に行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酸素を供給して500℃超でSiC粉末を酸化し、過剰の炭素を除去することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
SiC粉末をフッ化水素酸(HF)またはフッ化アンモニウム(NH4F)で処理して過剰のケイ素を除去することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
多孔質黒鉛片の100%未満をSiC粉末に変換し、次いで、酸素供給により500℃超で残りの炭素を酸化することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素製の焼結された物品の製造のための、または、電子部品の製造に使用される高純度の炭化ケイ素粉末(SiC粉末)を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、気相から種結晶なく、昇華成長によって製造できることが知られている。この目的のために、炭化ケイ素は、炭化ケイ素の単結晶が形成されるように、炭素とケイ素が豊富な蒸気から成長される。このプロセスは約2500℃の温度で行われる。
【0003】
EP0403887A1には、結晶性SiC粉末の昇華および部分分解と、不活性ガス下、低温勾配の反応容器内での種結晶上への成長による単結晶炭化ケイ素の製造方法が記載されており、この製造方法においては、例えば元素状ケイ素を添加することにより、結晶成長のために過剰なケイ素がSiC粉末中に設定される。
【0004】
このようなプロセスの実施はかなり複雑であり、このように製造された炭化ケイ素粉末は、重金属の珪化物や炭化物のような不純物の痕跡をまだ含んでいる可能性があり、例えば電子部品に使用することができないため、可能であるとしても、出発原料や製造された炭化ケイ素粉末には、追加の化学洗浄を行わなければならない。
【0005】
次に、粉末状の炭化ケイ素は、ホットプレスによって成型体に成形されるか、または他の方法で使用されることができ、それによって、ホウ素含有添加剤を炭化ケイ素粉末に混合して、酸化または耐腐食性を強化させることができる。
【0006】
DE69019339T2には、炭化ケイ素を炭素熱還元により製造する方法が記載されている。この目的のために、二酸化ケイ素源と炭素源との分散反応性混合物を、少なくとも100℃/秒の加熱速度で加熱ゾーンによって十分に高温に加熱し、それによって、過剰の炭素を燃焼除去し、フッ化水素酸で処理して過剰の二酸化ケイ素を除去した後、所定のサイズ分布を有する少なくとも80重量%の炭化ケイ素結晶からなる生成物を形成する。
【0007】
炭素源はカーボンブラック、アセチレンブラック、炭水化物またはデンプンであり、二酸化ケイ素源は二酸化ケイ素、石英ダストまたはコロイド二酸化ケイ素である。
【0008】
DE19537430A1は、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシランポリマーおよび二酸化ケイ素と、高純度有機化合物の形態の炭素出発材料とを酸化のない環境で焼成することによって調製された炭化ケイ素を形成する工程と、次いで高温処理して炭化ケイ素粉末を得る工程とを含む、炭化ケイ素単結晶を製造するための高純度炭化ケイ素粉末の製造方法に関する。
【0009】
DE69704638T2は、炭化ケイ素から焼結体を製造する方法を記載している。この焼結体は、少なくとも1種の液体ケイ素源を含むケイ素源、少なくとも1種の液体有機化合物を含む炭素源、および重合触媒または架橋触媒の均質混合物を、高圧下、非酸化性雰囲気中で2000~2400℃に加熱して焼結することにより製造される。
【0010】
さらに、DE102008042499A1には、焼成によって炭水化物と酸化ケイ素から高純度の炭化ケイ素を製造する方法が記載されている。この目的のために、炭化ケイ素、炭素および/または酸化ケイ素を、最初の熱分解工程で400~1400℃の低温で反応させ、最高3000℃の高温で焼成させ、約800℃の温度での受動酸化による後処理によって高純度の炭化ケイ素が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP0403887A1
【特許文献2】DE69019339T2
【特許文献3】DE19537430A1
【特許文献4】DE69704638T2
【特許文献5】DE102008042499A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、高純度の炭化ケイ素粉末をコスト効率よく製造する方法を開発することを課題とする。
【0013】
本発明の根底にある問題は、以下によって解決される:
-澱粉ベースの包装用チップまたは有機原料としての膨張澱粉をオープントップ容器に充填すること、
-充填された容器をオーブンに入れ、不活性ガスの供給中または真空中で包装用チップまたは膨張澱粉を2000℃の温度まで徐々に加熱し、包装用チップまたは膨張澱粉を多孔質黒鉛片に黒鉛化すること、
-ハロゲンガスをオーブン内に供給して、1800℃を超える温度で多孔質黒鉛片を洗浄し、金属塩化物を形成して多孔質黒鉛片から異物を除去すること
-1,200℃を超える温度、30mbar以上の圧力で、アルゴンをキャリアガスとする気相中で粉末SiOを昇華させることにより、多孔質黒鉛片を粉末炭化ケイ素に変換すること。
【0014】
本発明による方法の特別な利点は、一方では、容易に入手可能な有機原料を出発原料として使用できることである。これは、トウモロコシデンプンまたはジャガイモデンプン、PVA接着剤、獣脂および水から押し出し成形により製造される薄緑色の包装用チップであり、包装材料として使用した後-さもなければ廃棄物となる-高純度の微粒炭化ケイ素粉末の製造にも使用できる。
【0015】
あるいは、純粋なトウモロコシやジャガイモのデンプン、またはPVA接着剤と混合した、膨張されたトウモロコシやジャガイモのデンプンを混合したものを有機原料として使用することもできる。
【0016】
本発明の第一の実施形態においては、炭化ケイ素への変換は1520℃の温度で行われる。
【0017】
炭化ケイ素への変換は950mbarの圧力で行うことができ、実際に使用されている圧力は主に変換の均質性と速度に影響する。
【0018】
炭化ケイ素への変換は、オーブンの大きさや変換する材料の量にもよるが、50時間~100時間を要する長時間のプロセスで行われる。
【0019】
最後に、揮発性物質のガス放出(アウトガス)を可能にするため、黒鉛化の前に、安定化温度140℃から最高450℃(250℃が好ましい)での安定化・均質化工程を入れることができる。
【0020】
予備形成の成形品の安定化と均質化は、オーブンが安定化温度まで加熱されている間に行うことができる。
【0021】
SiC粉末に過剰の炭素を含む場合、酸素を加えて500℃以上で酸化、すなわち燃焼させることができる。
【0022】
さらに、SiC粉末中の過剰なケイ素は、例えばフッ化水素酸(HF)またはフッ化アンモニウム(NH4F)で処理することによって除去することができる。
【0023】
本発明の特定の実施形態においては、多孔質黒鉛片の100%未満をSiC粉末に変換し、残留の炭素を500℃以上で酸素を添加して酸化させ、純粋なSiCを残存させる。
【0024】
以下、実施形態例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0025】
高純度炭化ケイ素粉末の製造には、市販の有機包装チップを出発材料として用いることが望ましく、これらは、デンプン、好ましくはトウモロコシデンプンまたはジャガイモデンプンをベースとし、接着剤としてPVA(ポリビニルアルコール)またはVA(ビニルアルコール)、ならびに水および獣脂が混合され、ペースト状に成形され、従来の押出機を使用した押出成形によって製造される。したがって、純粋に有機ベースでコスト効率よく製造される出発材料であり、これにより有機包装用チップは、ポリスチレンチップと区別するために、わずかに緑色、白色または黄色に着色される。
【0026】
これらの包装用チップは、有機原料として平らなオープントップ容器に充填され、次いでオーブン内に入れられ、不活性ガスを加えながら、または真空中で徐々に2000℃の温度まで加熱され、包装用チップが黒鉛化される。これにより、包装用チップから多孔質の黒鉛片が生成されると同時に、包装用チップの揮発性成分、例えば水分が抜け出る。
【0027】
その後、塩素またはフッ素を主とするハロゲンガスをオーブン内に導入し、1800℃を超える温度で多孔質黒鉛片を洗浄することにより、金属塩化物の形成を通じて多孔質黒鉛片から異物を除去する。
【0028】
この黒鉛化と洗浄のプロセスには数時間かかることがあり、オーブンは段階的に黒鉛化温度まで加熱する必要がある。
【0029】
洗浄工程が完了の後、オーブン内でSiOにアルゴンをキャリアガスとして供給し、温度1200℃以上、圧力30mbar以上で、多孔質黒鉛片は、粉末炭化ケイ素に変換される。
【0030】
このため、炭化ケイ素に変換する前に粉末状のSiOがオーブンに導入され、このSiOは1,200℃超で昇華、すなわち気体(ガス状)となり、炭素がSiCに変換すると同時にCO(一酸化炭素)が形成される。
【0031】
炭化ケイ素への変換は、数時間を要する長時間のプロセスで行われる。オーブンの大きさや変換する材料の量にもよるが、50時間~100時間を要することがある。
【0032】
有機包装チップの代わりに、PVA接着剤と混合したトウモロコシやジャガイモのデンプンなどのデンプンを有機出発材料として使用することもできることが理解される。この有機多孔質の出発材料は、上述のように炭化ケイ素にさらに加工することができる。
【0033】
炭化ケイ素への変換は、好ましくは温度1520℃、圧力950mbarで行われる。
【0034】
SiCへの変換後に遊離ケイ素または炭素が依然として存在する場合、粉末を500℃超で後処理し、遊離炭素を酸素で酸化させることができる。遊離ケイ素の割合が高すぎる場合は、フッ化水素酸またはフッ化アンモニウムによるエッチングによって後処理を行うこともできる。
【0035】
純粋なSiCを製造するもう一つの方法は、まず100%未満の多孔質黒鉛片をSiC粉末に変換し、次に酸化によって残留炭素を除去することである。
【0036】
ただし、この目的のためには、清潔で酸素に耐性のある適切なオーブンを使用する必要がある。
【0037】
本発明の特定の変形例においては、多孔質黒鉛片の100%未満をSiC粉末に変換し、次いで、残りの残留炭素を酸素添加により500℃超で酸化させ、純粋なSiCを残存させる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-有機原料として、澱粉ベースの包装用チップまたは膨張澱粉をオープントップ容器に充填すること;
-原料で充填された容器をオーブンに入れ、不活性ガスを供給しつつまたは真空中で包装用チップまたは膨張澱粉を2000℃の温度まで徐々に加熱し、原料を多孔質黒鉛片に黒鉛化すること;
-ハロゲンガスをオーブン内に供給して、1800℃を超える温度で多孔質黒鉛片を洗浄し、金属塩化物を形成して多孔質黒鉛片から異物を除去すること; および
-1,200℃超の温度、30mbar以上の圧力で、50時間~100時間、アルゴンをキャリアガスとする気相中でSiO昇華させることにより、多孔質黒鉛片を粉末炭化ケイ素に変換することを特徴とする、
高純度炭化ケイ素粉末を製造するための方法。
【請求項2】
有機原料として、純粋なトウモロコシデンプンまたはPVA接着剤と混合したトウモロコシデンプンを使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭化ケイ素への変換が1520℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
炭化ケイ素への変換が950mbarの圧力で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
黒鉛化の温度までのオーブンの加熱が段階的に行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
酸素を供給して500℃超でSiC粉末を酸化し、過剰の炭素を除去することを特徴とする、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
SiC粉末をフッ化水素酸(HF)またはフッ化アンモニウム(NH4F)で処理して過剰のケイ素を除去することを特徴とする、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
多孔質黒鉛片の100%未満をSiC粉末に変換し、次いで、酸素供給により500℃超で残りの炭素を酸化することを特徴とする、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【国際調査報告】