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特表2024-543218CD47過剰発現間葉系幹細胞を含む肺疾患予防又は治療用組成物
<図1>
  • 特表-CD47過剰発現間葉系幹細胞を含む肺疾患予防又は治療用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】CD47過剰発現間葉系幹細胞を含む肺疾患予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20241112BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20241112BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20241112BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20241112BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20241112BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20241112BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20241112BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241112BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
A61K35/28 ZNA
A61P11/00
A61K48/00
A61K35/51
A61K35/50
A61K35/35
A61K35/34
A61K35/32
A61P29/00
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P11/06
A61P9/12
A61P19/04
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532901
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2022014100
(87)【国際公開番号】W WO2023101166
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0170214
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516067139
【氏名又は名称】メディポスト・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MEDIPOST CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】21, Daewangpangyo-ro 644beon-gil, Bundang-gu, Seongnam-si, Gyeonggi-do 13494, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユンソン
(72)【発明者】
【氏名】オ,ウォンイル
(72)【発明者】
【氏名】チェ,スジン
(72)【発明者】
【氏名】チン,ヘジン
(72)【発明者】
【氏名】ペ,ユンギョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ハンジュ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA42
4C084ZA59
4C084ZA96
4C084ZB11
4C084ZB21
4C084ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB33
4C087BB34
4C087BB44
4C087BB46
4C087BB47
4C087BB57
4C087BB58
4C087BB59
4C087BB63
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA42
4C087ZA59
4C087ZA96
4C087ZB11
4C087ZB21
4C087ZC02
(57)【要約】
CD47を過剰発現する間葉系幹細胞を有効成分として含有する、肺疾患の予防又は治療用組成物に関し、CD47を過剰発現する間葉系幹細胞は、自己由来でない場合でも生体内で高い生存率および肺組織への遊走能を示し、肺組織の炎症反応を減少させるとともに、線維化を抑制する効果を奏するので、肺の炎症または線維化に関連する様々な肺疾患の予防又は治療用途で広く活用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD47を発現する間葉系幹細胞を有効成分として含有する、肺疾患予防又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞は、CD47の発現を増加させるように遺伝的に操作されるものである、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医学組成物。
【請求項3】
前記遺伝的に操作された間葉系幹細胞は、CD47をコードする遺伝子が導入された組換えベクターを含むものである、請求項2に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞は、細胞集団の20%~99%がCD47を発現するものである、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞は、
i)CD90、CD105、CD73およびCD166からなる群から選択される少なくとも1つのマーカーに対して陽性であり、
ii)CD14またはHLA-DRマーカーに対して陰性である、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項6】
前記間葉幹細胞は、へその緒、臍帯血、胎盤、骨髄、脂肪組織、筋肉、羊水、羊膜及び歯髄からなる群から選ばれたいずれか一つに由来するものである、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項7】
前記間葉系幹細胞は、免疫原性の減少を示すものである、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医学組成物。
【請求項8】
前記間葉系幹細胞は、肺組織の炎症反応を減少させるものである、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項9】
前記CD47を発現する間葉系幹細胞は、M1マクロファージを減少させ、M2マクロファージを増加させるものである、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記CD47を発現する間葉系幹細胞は、α-SMA(α-smooth muscle actin)およびMMP-13(matrix metalloproteinase-13)の発現を減少させるものである、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記肺疾患は、喘息、肺炎、慢性閉塞性肺疾患、気管支炎、肺気腫、肺高血圧症または肺線維症である、請求項1に記載の肺疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項12】
CD47を発現する間葉系幹細胞を有効成分として含有する組成物を被験者に投与する段階を含む、肺疾患を治療する方法。
【請求項13】
CD47を発現する間葉系幹細胞を肺疾患の治療に用いる治療薬の製造用の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
CD47を過剰発現する間葉系幹細胞を有効成分として含有する、肺疾患の予防又は治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肺(lung)は、人体にて呼吸を担当している、なくてはならない器官であって、空気の吸気と呼気とによって酸素を得て二酸化炭素を排出する器官である。このような肺は、生命現象の維持のために機能し、肺において体液成分が盛んに上皮細胞を介して吸収または排出され、場合によっては吸入型薬物の伝達通路でもある。
【0003】
このような肺に現れる病気の中で代表的な疾患である喘息(Asthma)は、過去20年間その発病率が2倍に増加し、今日、世界人口の8~10%が罹患している疾患であり、主に気道の慢性炎症によって生じる。喘息は、非特異的刺激に対する気道過敏性(Airway HyperResponsiveness、AHR)および気道のリモデリング(Airway Remodeling)を特徴とし、後者は、線維芽細胞(Fibroblast)および筋線維芽細胞(Myofibroblasts)の細胞性変化と気道の構造的変化を引き起こす動的過程を伴う。喘息の種類には、気管支喘息及び心臓性喘息などがあるが、単に喘息は、通常、気管支喘息を意味する。喘息が繰り返されると線維化および気道のリモデリングが発生しながら、永久的な肺機能の低下をもたらすこともある。
【0004】
喘息とともに代表的な肺疾患の1つとして挙げられる慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease、COPD)は、非可逆的気道閉塞をもたらすといった点で喘息と異なる。気道および肺実質の炎症による肺の細気管支および肺実質の病理学的変化により発生する病気であって、閉塞性細気管支炎および肺気腫を特徴とする。慢性閉塞性肺疾患の種類には、慢性閉塞性気管支炎(Chronic obstructive bronchitis)、慢性細気管支炎(Chronic bronchiolitis)および肺気腫(Emphysema)があり、呼吸困難、咳、喀痰などの症状を発症し、慢性気管支炎患者のうちの大多数において現われることと知られている。
【0005】
また、肺線維症(pulmonary fibrosis)は、一種の慢性間質性肺疾患であって、リンパ球、マクロファージなどの炎症細胞の肺間質の浸潤、線維芽細胞の増殖、および線維性結合組織の肺間質の沈着によって重度の呼吸障害を引き起こす肺疾患である。肺の線維化が進行するにつれて、様々な合併症が現れるが、肺活量の減少と酸素拡散障害に起因して発生する全身性低酸素症、繊維組織の収縮に伴って肺動脈および毛細管が押されて生じる肺高血圧、肺循環障害のため、右心室に血液がたまって誘発される心不全、その他にも血栓症、肺炎などが挙げられる。また、炎症と繊維化により肺癌の発症率が増加することができる。
【0006】
このように、多様な肺疾患は、ほとんど炎症または線維化と関連しており、今までこれを同時に改善し得る肺疾患治療薬は知られていない実情である。
【0007】
そこで、本発明者らは、炎症または線維化に関連する様々な肺疾患を、副作用なしに効果的に治療するために鋭意努力した結果、CD47を過剰発現する臍帯血由来の間葉系幹細胞が抗炎症及び抗線維化効果を奏することを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、抗炎症及び抗線維化効果を奏する肺疾患予防又は治療用医学組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、CD47を発現する間葉系幹細胞を有効成分として含有する組成物を被験者に投与する段階を含む肺疾患の治療方法を提供することにある。
【0010】
本発明のまた他の目的は、CD47を発現する間葉系幹細胞を肺疾患の治療に用いる治療薬の製造用の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、一態様は、CD47を発現する間葉系幹細胞を有効成分として含有する、肺疾患の予防又は治療用医学組成物を提供する。
【0012】
用語「CD47(Cluster of Differentiation 47)」は、インテグリン関連タンパク質(integrin associated protein、IAP)とも呼ばれ、リガンドトロンボスポンジン-1(thrombospondin-1、TSP-1)およびシグナル調節タンパク質α(signal-regulatory protein alpha、SIRPα)に結合し、ヒト細胞で発現する細胞表面糖タンパク質を意味する。腫瘍組織におけるCD47の発現を抑制する場合に、CTLAおよびPD-1を標的とするT細胞媒介性適応免疫の食作用を引き起こすことによっていくつかの癌の治療効果を示すことが知られている。CD47の活性化は、P13K/Akt経路に介して向上した癌細胞の増殖と相関することが明らかになった。免疫応答に加え、CD47は、アポトーシス、増殖、接着および遊走を含む種々の細胞過程に関与する。
【0013】
用語「間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem cells、MSCs)」は、受精卵が分裂して生じた中胚葉から分化した軟骨、骨組織、脂肪組織、骨髄の間質(stroma)等に存在する幹細胞を意味し、哺乳類、例えばヒトを含む動物の間葉幹細胞を含むことができる。間葉幹細胞は、幹細胞性(stemness)と自己再生能(self-renewal)を維持し、軟骨細胞、骨芽細胞、筋細胞、脂肪細胞を含む種々の細胞に分化し得る能力を有し、骨髄(bone marrow)、脂肪組織(adipose tissue)、臍帯血(umbilical cord blood)、滑膜(synovial membrane)、骨組織(trabecular bone)、筋肉、膝蓋下脂肪体(infrapatellar fat pad)などから抽出することができる。間葉幹細胞は、Tリンパ球、Bリンパ球の活性化、増殖を阻害し、ナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK cell)の活性を抑制し、樹状細胞(dendritic cell)とマクロファージ(macrophage)の機能を調節する免疫調節能力を有しているので、同種移植(allotransplantation)と異種移植(xenotransplantation)が可能な細胞である。
【0014】
前記間葉系幹細胞は、CD47の発現を増加させるように遺伝的に操作されたものであってもよい。
【0015】
用語「遺伝子操作(genetic engineering)」または「遺伝的に操作された(genetically engineered)」は、細胞に対して少なくとも1つの遺伝的修飾(genetic modification)を導入する行為を意味することができる。
【0016】
前記発現(expression)の増加または過剰発現(overexpression)は、所与の遺伝的に操作されていない芽細胞(例えば、野生型)が有する内因性タンパク質の発現に比べて、同じタイプのタンパク質の発現の方がより高いレベルを有することを意味することができる。
【0017】
前記遺伝的に操作された間葉系幹細胞は、CD47をコードする外来遺伝子(exogenous gene)が導入された組換えベクターを含むものであってもよい。
【0018】
一実施態様において、CD47をコードする外来遺伝子が導入されたウイルスベクターを用いてCD47を過剰発現する間葉系幹細胞を製造することができる。
【0019】
前記外来遺伝子は、前記間葉系幹細胞または宿主細胞においてその親細胞に比べてCD47の活性が増加されるのに十分な量で発現されたものであってもよい。前記外来遺伝子は、発現ベクターを介して細胞内に導入されたものであってもよい。また、前記外来遺伝子は、線状ポリヌクレオチドの形態で細胞内に導入されたものであってもよい。また、前記外来遺伝子は、細胞内で発現ベクター(例えば、プラスミド)から発現されたものであってもよい。また、前記外来遺伝子は、安定した発現のために細胞内の遺伝物質(例えば、染色体)に挿入されて発現されるものであってもよい。また、前記外来遺伝子は、遺伝子に作動可能に連結された外因性プロモーターにより適宜調節されるものであってもよい。前記ポリヌクレオチドの発現量の増強は、発現制御配列の置換または変異などによる改変、ポリヌクレオチド配列自体の変異導入、開始コドンの変異、染色体への挿入、またはベクターによる導入によるコピー数の増加、又はこれらの組み合わせによるものであってもよい。
【0020】
用語「作動可能に連結される」とは、制御配列(例えば、プロモーター)と前記ポリヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味し、これにより、前記制御配列は、前記ポリヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を調節するようになる。前記制御配列は、前記ポリヌクレオチドの発現量を増加させることができる強力なプロモーターであってもよい。前記制御配列は、コリネバクテリウム属または他の微生物に由来するプロモーターであってもよい。前記プロモーターは、例えば、trcプロモーター、gapプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、araBADプロモーターまたはcj1~7プロモーターであってもよい。前記制御配列は、例えば、コリネバクテリウム属微生物において、リジン生合成経路上の主要な遺伝子のプロモーター配列を、より高いプロモーター活性を有するように改変させたものであってもよい。
【0021】
用語「ベクター」とは、適切な宿主細胞内で標的遺伝子を発現させることができるように遺伝子の制御配列と塩基配列とを含有するポリヌクレオチド産物を意味することができる。あるいは、宿主細胞内に導入させて、宿主のゲノム上の内因性(endogenous)遺伝子の制御配列を変えたり、ゲノム上の特定の部位に発現可能な標的遺伝子を挿入することができるように相同組換えが可能な塩基配列を含有するポリヌクレオチド産物を意味することができる。したがって、前記ベクターは、宿主内への導入又は染色体を挿入したか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含むことができ、選択マーカーは、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性に対する耐性、または表面タンパク質の発現などのような選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられることができる。選択剤が処理された環境下では、選択マーカーを発現する細胞のみが生存し、あるいは他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。前記ベクターは、プラスミドベクター、レンチウイルスベクター、コスミドベクターおよびバクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよ
びアデノ随伴ウイルスベクター等のウイルスベクターを含むことができる。また、前記組換えベクターとして使用することができるベクターは、当業界でしばしば用いられるプラスミド(例えば、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61、pLAFR1、pHV14、pGEXシリーズ、pETシリーズ、pUC19など)、ファージ(例えば、λgt4λB、λ-Charon、λΔz1およびM13など)またはウイルス(例えば、SV40など)を操作して作製することができる。
【0022】
前記組換えベクターは、典型的に、クローニングのためのベクターまたは発現のためのベクターとして構築され得る。前記発現用ベクターは、当技術分野において、植物、動物又は微生物において外来のタンパク質を発現するために用いられる通常のものを使用可能である。前記組換えベクターは、当業界に公知された多様な方法により構築することができる。
【0023】
前記組換えベクターは、原核細胞または真核細胞を宿主として構築することができる。例えば、使用されるベクターが発現ベクターであり、原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させることができる強力なプロモーター(例えば、pLλプロモーター、CMVプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなど)、翻訳開始のためのリボソーム結合部位及び転写/翻訳終結配列を含むのが普通である。真核細胞を宿主とする場合には、ベクターに含まれる真核細胞において機能する複製起点は、f1複製起点、SV40複製起点、pMB1複製起点、アデノ複製起点、AAV複製起点、およびBBV複製起点などを含むが、これらに限定されるものではない。また、哺乳動物細胞のゲノム由来のプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター)または哺乳類ウイルス由来のプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーターおよびHSVのtkプロモーター)が利用でき、転写終結配列として、一般にポリアデニル化配列を有する。
【0024】
前記組換え細胞は、前記組換えベクターを適切な宿主細胞に導入することにより得られたものであってもよい。前記宿主細胞は、前記組換えベクターを安定かつ連続的にクローニングまたは発現させることができる細胞であって、当業界に公知の任意の宿主細胞でも利用でき、原核細胞としては、例えば、E.coliJM109、E.coliBL21、E.coli RR1、E.coli LE392、E.coli B、E.coli X 1776、E.coli W3110、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・チューリンゲンシスのようなバチルス属菌株、そしてサルモネラ・チフィムリウム、セラチアマルセッセンスおよび様々のシュードモナス種のような腸内菌と株などが挙げられ、真核細胞に形質転換させる場合には、宿主細胞として酵母(Saccharomyce cerevisiae)、昆虫細胞、植物細胞および動物細胞、例えば、Sp2/0、CHO(Chinese hamster ovary) K1、CHO DG44、PER.C6、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、Huh7、3T3、RIN、MDCK細胞株などが用いられることができる。
【0025】
前記間葉系幹細胞は、へその緒、臍帯血、胎盤、骨髄、脂肪組織、筋肉、羊水、羊膜及び歯髄からなる群から選ばれたいずれか一つに由来するものであってもよい。
【0026】
用語「単離された細胞」、例えば、「単離された間葉系幹細胞」または「に由来する細胞」、例えば、「由来の間葉性幹細胞」などは、細胞が由来する組織、例えば、臍帯血から実質的に単離された細胞を意味する。
【0027】
前記へその緒(umbilical cord)は、哺乳動物の胎児が、胎盤内で成長
できるように母体とへそとを連結するひも状のものを意味することができ、一般的にウォートンジェリー(Wharton’s jelly)で囲まれた3本の血管、つまり、2つの臍帯動脈と1つの臍帯静脈とからなる組織を意味することができ、臍帯とも呼ばれる。
【0028】
前記臍帯血は、哺乳動物の胎盤と胎児とを連結する臍帯静脈から採取された血液を意味することができる。前記臍帯血は、出産時ドナーの臍帯静脈から容易に採取することができる。具体的に、正常経腟分娩の場合、出産後子宮内にまだ胎盤が残っている状態で外に娩出された臍帯静脈から採取することができ、帝王切開の場合は、出産後、胎盤も子宮外に娩出された状態で臍帯静脈から採取することができる。
【0029】
一実施形態において、前記間葉系幹細胞は、臍帯血由来であってもよい。
【0030】
前記間葉系幹細胞は、細胞集団の20%~99%がCD47を発現するものであってもよい。
【0031】
前記間葉系幹細胞は、細胞集団の少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は約99%、または30%~100%、30%~99%、30%~98%、30%~97%、40%~99%、50%~99%、60%~99%、70%~99%、80%~99%または90%~99%が、CD47を発現するものであってもよい。
【0032】
一実施形態では、対照群間葉系幹細胞集団の約29%がCD47を発現し、CD47をコードする外来遺伝子が導入された組換えベクターを含む間葉幹細胞集団の約96%がCD47を発現することを確認することができる。
【0033】
具体的に、前記遺伝的に操作されていない間葉系幹細胞集団の20%~85%、20%~70%、20%~60%、25%~50%がCD47を発現することができる。前記遺伝的に操作された間葉幹細胞集団の80%~100%、85%~99%、90%~99%は、CD47を発現することができる。
【0034】
前記間葉系幹細胞は、i)CD90、CD105、CD73およびCD166からなる群から選択される少なくとも1つのマーカーに対して陽性であり、ii)CD14またはHLA-DRマーカーが陰性であってもよい。
【0035】
用語「陽性または(+)」は、間葉系幹細胞特異的なマーカーに関して、そのマーカーが基準となる他の細胞と比較して、より多くの量、又はより高濃度で存在することを意味することができる。すなわち、細胞は、いずれかのマーカーが細胞の内部または表面に存在するため、そのマーカーを用いて当該細胞を少なくとも1つの他の細胞型から区別できる場合、そのマーカーに対して陽性である。また、細胞がバックグラウンド値を超える値にシグナル、例えば、細胞測定装置のシグナルを出すことができるだけの量でそのマーカーを発現していることを意味することができる。例えば、細胞をCD90特異的な抗体で検出可能に標識することができ、該抗体からのシグナルが対照群(例えば、バックグラウンド値)よりも高くて検出できる場合、その細胞は「CD90+」である。
【0036】
用語「陰性または(-)」は、特定の細胞マーカーに特異的な抗体を用いてもバックグラウンド値と比較してその標識を検出できないことを意味することができる。例えば、CD14に特異的な抗体で細胞が検出可能に標識できない場合、その細胞は「CD14-」である。
【0037】
一実施形態において、遺伝的に操作されたCD47過剰発現間葉系幹細胞集団と遺伝的に操作されていない間葉幹細胞集団とにおいて、同様に98%以上がCD90、CD105、CD73及びCD166マーカーを発現し、1%以下がCD14およびHLA-DRマーカーを発現することを確認することができる。したがって、遺伝的に操作されたCD47過剰発現間葉幹細胞も、間葉系幹細胞の特異的な特性を維持することを確認することができる。
【0038】
前記間葉系幹細胞は、CD9、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166、およびHLA-abcからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーに対して陽性であってもよい。
【0039】
前記間葉系幹細胞は、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD22、CD33、CD36、CD38、CD61、CD62E、CD133およびHLA-DRからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーに対して陰性であってもよい。
【0040】
前記間葉系幹細胞は、免疫原性の減少を示すものであってもよい。
【0041】
一実施形態では、CD47過剰発現間葉系幹細胞をPBMCまたはNK細胞と共培養した場合に、活性化されたPBMC及びNK細胞によるアポトーシス効果が減少することを確認することができる。したがって、CD47過剰発現間葉系幹細胞を投与した場合に、自己由来でなくても、活性化されたPBMCまたはNK細胞による免疫反応を回避することができるので、投与された細胞のインビボでの生存率が増加することができる。
【0042】
前記肺障害は、喘息、肺炎、慢性閉塞性肺疾患、気管支炎、肺気腫、肺高血圧症または肺線維症であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0043】
前記間葉系幹細胞は、肺組織の炎症反応を減少させることができる。
【0044】
前記間葉系幹細胞は、M1マクロファージを減少させ、M2マクロファージを増加させることができる。
【0045】
M1マクロファージは、炎症反応を誘発し、M2マクロファージは、炎症反応を減少させるとともに損傷した組織を修復する役割を果たす。
【0046】
一実施形態では、喘息のマウスモデルにCD47過剰発現間葉系幹細胞を静脈内投与した結果、CD47過剰発現間葉系幹細胞が肺組織まで移動し、肺組織の炎症反応を誘発するM1マクロファージ特異的なマーカーの発現を減少させ、損傷した組織を修復するM2マクロファージ特異的なマーカーの発現を増加させることを確認することができる。また、喘息のマウスモデルの気管支肺胞洗浄液(BALF)の炎症性サイトカインの発現および好中球細胞数を減少させることを確認することができる。
【0047】
したがって、CD47過剰発現間葉系幹細胞は、喘息を含む肺組織の炎症反応に関連する疾患を予防または治療用に用いられることができる。
【0048】
前記CD47を過剰発現する間葉系幹細胞は、α-SMA(α-smooth muscle actin)およびMMP-13(matrix metalloproteinase-13)の発現を減少させることができる。
【0049】
一実施形態では、CD47過剰発現間葉系幹細胞とヒト肺線維芽細胞(Human Pulmonary Fibroblasts、HPF)とを共培養した結果、繊維化特異的マーカーの発現が減少することを確認することができる。
【0050】
したがって、CD47過剰発現間葉系幹細胞は、線維症を含む肺組織の線維化に関連する疾患を予防または治療用に用いられることができる。
【0051】
別の態様は、CD47過剰発現間葉系幹細胞培養物を有効成分として含有する、肺疾患の予防又は治療用医学組成物を提供する。
【0052】
前記CD47過剰発現間葉系幹細胞培養物は、CD47過剰発現間葉系幹細胞を適切な培地で継代培養する過程で培養液を得た後、濾過する段階によって得られる。
【0053】
別の態様は、CD47過剰発現間葉系幹細胞またはその細胞集団を有効成分として含有する細胞治療薬または医薬組成物を提供する。
【0054】
前記細胞治療薬または医薬組成物は、肺疾患の予防又は治療用のものであってもよい。
【0055】
また別の態様は、CD47過剰発現間葉系幹細胞またはその細胞集団を薬剤の製造に用いるための用途を提供する。
【0056】
一実施形態によれば、前記用途は、CD47を発現する間葉系幹細胞を肺疾患の治療に用いるための治療薬の製造用の用途であってもよい。
【0057】
さらに別の態様は、CD47過剰発現間葉系幹細胞またはその細胞集団を治療学的に有効な量または薬理学的に有効な量で被験者に投与する段階を含む肺疾患の治療方法を提供する。
【0058】
前記細胞治療薬または医薬組成物は、治療学的に有効な量または薬理学的に有効な量で患者に投与されることができる。
【0059】
用語「治療」は、疾患、障害、もしくは病態、またはその1つ以上の症状の緩和、進行阻害または予防を意味し、またはそれらを含み、「有効成分」は、疾患、障害、もしくは病態、またはその1つ以上の症状の緩和、進行阻害または予防に有効な細胞集団または組成物を意味することができる。
【0060】
用語「投与する」、「導入する」及び「移植する」は、互換的に使用され、本発明の一実施態様による組成物を、被験者へ少なくとも部分的な局在化をもたらす方法または経路によって所望する部位に配置することを意味することができる。一実施形態による組成物の細胞または細胞成分の少なくとも一部を、生存する被験者内で所望の位置に伝達する任意の好適な経路により投与できる。被験者への投与後の細胞の生存期間は、短ければ数時間、例えば24時間~数日、若しくは、長ければ数年であってもよい。前記医学組成物は、治療学的に有効な量または薬理学的に有効な量で患者に投与されることができる。
【0061】
用語「治療学的に有効な量」または「薬理学的に有効な量」とは、肺疾患の予防又は治療するのに有効な細胞集団または組成物の量であって、医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスク比で病気を治療するに十分であり、かつ、副作用を引き起こさない程度の量を意味する。前記有効量のレベルは、患者の健康状態、病気の種類および重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与方法、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、配合または併用される薬物を含む要素及びその他の医学の分野において周知の要因によっ
て決定される。
【0062】
前記医薬組成物は、個別治療薬として投与し、又は他の治療薬と併用して投与されることができ、従来の治療薬と順次に若しくは同時に投与でき、単回または複数回投与できる。前記要素を全て考慮して、副作用がなく最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定されることができる。
【0063】
具体的には、前記医学組成物において、前記CD47過剰発現間葉系幹細胞の有効量は、患者の年齢、性別および体重に応じて異なり、一般には、体重(kg)あたり、約1×10~1×10cellsの細胞を単回あるいは繰り返して投与することができる。投与経路、疾患の重症度、性別、体重、年齢などによって増減するので、範囲はこれに限定されない。
【0064】
重複する内容は、本明細書の複雑性を考慮して省略し、本明細書において別段に定義されていない用語は、本発明の属する技術分野で一般的に用いられる意味を有する。
【発明の効果】
【0065】
一態様による、CD47を過剰発現する間葉系幹細胞は、自己由来でない場合でも生体内で高い生存率および肺組織への遊走能を示し、肺組織の炎症反応を減少させるとともに線維化を抑制する効果を奏するので、肺の炎症または線維化に関連する様々な肺疾患の予防又は治療用に広く活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1図1は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)のCD47発現率を確認した結果を示す図(図面代用写真)である。
図2図2は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)の間葉系幹細胞特異的マーカーの発現程度を比較した結果を示す図である。
図3図3は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息のマウスモデルに投与した後、肺組織での炎症の改善効果を比較した結果を示す図(図面代用写真)である。
図4図4は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息のマウスモデルに投与した後、肺組織におけるM1マクロファージ特異的マーカーであるCD11bの発現変化を、免疫細胞化学染色によって確認した結果を示す図(図面代用写真)である。
図5図5は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息のマウスモデルに投与した後、肺組織におけるM1マクロファージ特異的マーカーであるCD11bを発現する細胞の数を測定した結果を示す図である。
図6図6は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息のマウスモデルに投与した後、肺組織におけるM2マクロファージ特異的なマーカーであるCD163の発現変化を、免疫細胞化学染色によって確認した結果を示す図(図面代用写真)である。
図7図7は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息のマウスモデルに投与した後、肺組織におけるM2マクロファージ細胞特異的マーカーであるCD163を発現する細胞の個数を測定した結果を示す図である。
図8図8は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息のマウスモデルに静脈内投与した後、肺組織に移動するか否かを、免疫細胞化学染色によって確認した結果を示す図(図面代用写真)である。
図9図9は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息のマウスモデルに静脈内投与した後、肺組織に移動したCD47過剰発現間葉系幹細胞の数を測定した結果を示す図である。
図10図10は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息モデルに投与した後、気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid;BALF)における炎症性サイトカインの発現変化を確認した結果を示す図である。
図11図11は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を喘息モデルに投与した後、BALFにおける好中球細胞数の変化を確認した結果を示す図である。
図12図12は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)をそれぞれ活性化された末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell;PBMC)と共培養した後、間葉系幹細胞の生存の変化を、免疫細胞化学染色によって確認した結果を示す図(図面代用写真)である。
図13図13は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)をそれぞれPBMCと共培養した後、間葉系幹細胞の生存率を測定した結果を示す図である。
図14図14は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を、それぞれ活性化されたナチュラルキラー細胞(natural killer cell;NK cell)と共培養した後、間葉系幹細胞の生存の変化を、免疫細胞化学染色によって確認した結果を示す図(図面代用写真)である。
図15図15は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を、活性化されたNK細胞と共培養した後、間葉系幹細胞の生存率を測定した結果を示す図である。
図16図16は、一態様によるCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)および対照群間葉系幹細胞(MSC V.)を、ヒト肺線維芽細胞(Human Pulmonary Fibroblasts;HPF)と共培養した後、繊維化特異的マーカーの発現量の変化を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
<製造例1.臍帯血から間葉系幹細胞の分離>
【0069】
健康な産婦の同意を得て出産過程で供与される臍帯静脈から得られたドナー臍帯血を、フィコール・ハイパック勾配(Ficoll-Hypaque gradient)を用いて遠心分離して単核細胞を得た後、間葉系幹細胞培養培地で培養して、臍帯血由来の間葉系幹細胞を得た。
【0070】
<製造例2.CD47過剰発現間葉系幹細胞の製造>
【0071】
CD47の発現レンチウイルスを産生するために、plenti-suCMV-RSV-GFPベクターにCD47 ORF(Open reading frame)配列をEZ-Fusion HT Cloning Kit(#EZ015)(Enzynom
ics社製)を用いてクローニングした。plenti-suCMV-RSV-GFP-CD47、pMD2.GおよびpsPAX2ベクターを293T細胞にトランスフェクトして、レンチウイルスをパッケージングした。ウイルス粒子を含有する培地を回収し、間葉系幹細胞に処理して形質導入した。抗生物質であるピューロマイシン(#ant-pr-1)(InvivoGen社製)を2日間処理して形質導入幹細胞のみを選択して培養することによりCD47過剰発現間葉系幹細胞(Overexpression、O.E)を製造した。CD47発現量および機能分析のための対照群間葉系幹細胞(Vector control;V.C)は、バックボーンベクターのplenti-suCMV-RSV-GFPを用いて前記CD47過剰発現間葉系幹細胞の製造と同様にしてレンチウイルスパッケージング、形質導入、抗生物質の選択によって製造した。
【実施例
【0072】
<実施例1.CD47過剰発現間葉系幹細胞の特性分析>
【0073】
製造例2で製造したCD47過剰発現間葉系幹細胞の特性を分析するために、次のようにウエスタンブロット(Western blot)とフローサイトメトリー(Flow
cytometry)を実施した。
【0074】
ウエスタンブロット方法をより具体的に説明すると、対照群間葉系幹細胞、CD47過剰発現間葉系幹細胞のそれぞれにRIPA Lysis buffer(#78440)(Thermo Scientific社製)を処理した後、氷で30分間反応させて細胞を破砕した。該細胞溶解液を遠心分離した後、上清液のみを集めてBCAタンパク質定量キット(#23225)(Thermo Scientific社製)を用いて定量化した。タンパク質抽出物10μgを10%のSDS-PAGEを利用して分離した後、メンブレンにトランスファーした。ブロッキングバッファー(0.1%のTween 20、5%のBSA含有トリス緩衝生理食塩水)1時間の間室温(room temperature)で反応させた後1次抗体を処理して4℃で一晩反応させた。使用した1次抗体としては、CD47(#MA5-11895)(Thermo Scientific社製)、b-actin(#A5441)(Sigma社製)が挙げられる。TBSTで3回洗浄後、2次抗体を室温で1時間反応させ、洗浄後ChemiDoc MP System(Bio-rad社製)を用いてタンパク質バンドを分析した。
【0075】
細胞表面でのCD47の過剰発現の確認のために、フローサイトメトリーを実施した。より具体的に、CD47タンパク質発現のフローサイトメトリーのために室温で15分間PEマウス抗ヒトCD47(#556046)(BD Biosciences社製)で細胞を染色した。対応するPEマウスIgG1、kアイソタイプ(#555749)(BD Biosciences社製)を対照群として使用した。PBSで1回洗浄後、1%のPFAで固定し、MACSQuant機器(MACS Quantify)にてタンパク質発現量を分析し、その結果を図1に示した。
【0076】
図1に示したように、対照群間葉幹細胞集団(MSC V.C.)に比べてCD47過剰発現幹細胞集団(O.E.)でCD47タンパク質発現量が著しく増加したことを確認した。具体的には、CD47を発現する細胞数は、対照群l間葉系幹細胞では29.42%であったが、CD47過剰発現間葉系幹細胞では、96.02%に増加した。
【0077】
また、対照群間葉幹細胞集団(MSC V.C.)およびCD47過剰発現幹細胞集団(MSC O.E.)における間葉系幹細胞特異的マーカーの発現量を、前記記載の方法でフローサイトメトリーによって比較し、その結果を図2に示した。
【0078】
図2に示したように、対照群間葉幹細胞集団(MSC V.C.)およびCD47発現
幹細胞集団(MSC O.E.)で同様に間葉系幹細胞特異的マーカーであるCD90、CD105、CD73及びCD166を発現する細胞数が98%以上であり、CD14及びHLA-DRを発現する細胞数は、1%以下であることを確認した。これによって、CD47過剰発現の誘導のために間葉系幹細胞の特異的表現型が変化しないことがわかった。
【0079】
<実施例2.喘息動物モデルへのCD47過剰発現間葉系幹細胞の投与による肺組織での効果の確認(in-vivo)>
【0080】
C57BL/6J雌マウス(6週齢)をOrient Bio Inc.社から入手し、1週間馴化させた。喘息を誘導するために、マウスにOvalbumin(OVA)(Sigma-Aldrich社製)100μgとAlum(Sigma-Aldrich社製)2mgを0日目および7日目(合計2回)に腹腔投与した。その後、製造例2で製造したCD47を過剰発現する間葉系幹細胞は、20日目に腹腔投与した(5×105cells/100μL/マウス)。21~23日目に、マウスを麻酔した後、OVA(30uL/マウス)50μgを経鼻で投与した。24日目に、すべてのマウスを犠牲にし、静脈カテーテルを用いて、生理食塩水(2ml)で気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid;BALF)を得た。
【0081】
<実施例2.1.肺組織の炎症変化の確認>
【0082】
得られた肺組織切片をHematoxyling and Eosin(H&E)染色して組織分析を行い、その結果を図3に示した。
【0083】
図3に示したように、対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)投与群でも、肺組織の炎症が改善されたが、CD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)投与群において、対照群間葉系幹細胞の投与群に比べて炎症の改善の程度が著しく増加したことを確認した。
【0084】
<実施例2.2.肺組織におけるM1マクロファージ特異的なマーカーの発現変化の確認>
【0085】
肺組織切片をインテグリンαM(CD11b、Abbexa社製)で1:40の濃度で免疫細胞化学染色し、二次抗体としてCy3標識ウサギ抗マウスIgG1(Jackson ImmunoResearch Europe Ltd.社製)を付着させてCD11bの発現程度を確認した。肺組織内細胞の核は、4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)で染色し、その結果を図4および図5に示した。
【0086】
図4及び図5に示したように、喘息のマウスモデルにCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)を投与した場合、対照群間葉幹細胞(MSC V.C.)投与群に比べて、M1マクロファージ特異的マーカーであるCD11bの発現量が減少したことを確認した。
【0087】
<実施例2.3.肺組織におけるM2マクロファージ細胞特異的マーカーの発現変化の確認>
【0088】
肺組織切片をスカベンジャー受容体システインリッチ1型タンパク質M130(CD163)(Abbexa社製)で1:30の濃度で免疫細胞化学染色し、二次抗体としてAlexa488標識ウサギ抗マウスIgG1(Jackson ImmunoResearch Europe Ltd.社製)を付着させてCD163の発現程度を確認した。
肺組織内細胞の核は、DAPIで染色し、その結果を図6および図7に示した。
【0089】
図6及び図7に示したように、喘息のマウスモデルにCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)を投与した場合、対照群間葉幹細胞(MSC V.C.)投与群に比べて、M2マクロファージ特異的マーカーであるCD164の発現量が増加したことを確認した。
【0090】
<実施例2.4.静脈投与後、肺組織に移動した細胞数の確認>
【0091】
肺組織切片を抗β2ミクログロブリン抗体(β-2MG、Abcam社製)で1:300の濃度で免疫細胞化学染色し、二次抗体としてAlexa488標識ウサギ抗マウスIgG1(Jackson ImmunoResearch Europe Ltd.社製)を付着させてβ-2MGの発現程度を確認した。肺組織内細胞の核は、DAPIで染色し、その結果を図8および図9に示した。
【0092】
図8及び図9に示したように、喘息のマウスモデルにCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)を投与した場合、対照群間葉幹細胞(MSC V.C.)投与群に比べて、肺組織においてβ-2MGの発現程度が高いことを確認した。これによって、静脈投与後に肺組織に移動した間葉系幹細胞の数が、CD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)の方が高いことがわかった。
【0093】
<実施例3.喘息動物モデルへのCD47過剰発現間葉系幹細胞の投与によるBALFにおける効果の確認(in-vivo)>
【0094】
<実施例3.1.BALFにおける炎症性サイトカインの発現変化の確認>
【0095】
実施例2で得られたBALFを4℃、1000rpmで10分間遠心分離した後、分離した上清液においてmouse tumor necrosis factor-α(mTNF-α)(R&D systems社製)を酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay;ELISA)で定量し、その結果を図10に示した。
【0096】
図10に示したように、喘息のマウスモデルにCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC
O.E.)を投与した場合、対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)投与群と比較して炎症性サイトカインとしてのmTNF-αの分泌量が最も少ないことを確認した。
【0097】
<実施例3.2.BALFにおける好中球細胞数の減少効果の確認>
【0098】
実施例2で得られたBALFを遠心分離して沈降させた細胞をDiff-Quik染色し、好中球(neutrophil)細胞数を測定し、その結果を図11に示した。
【0099】
図11に示したように、喘息誘導マウスモデルで増加した好中球の数は、間葉系幹細胞投与群において減少しており、特にCD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)投与群で最も多く減少したことを確認した。
【0100】
<実施例4.CD47過剰発現間葉系幹細胞の免疫調節効果の確認(in-vitro)>
【0101】
<実施例4.1.PBMCとの共培養による免疫調節効果の確認>
【0102】
条件別の間葉系幹細胞を遺伝子組換えインターロイキン2(hIL-2)(miltenyi Biotec社製)10ng/mLとフィトヘマグルチニン-L(PHA-L)(Roche社製)5μg/mLで活性化させたヒト末梢血単核球細胞(PBMC)(AllCells社製)と共培養した。24時間後、間葉系幹細胞で発現されているGFP蛍光を蛍光顕微鏡で観察し計数して、その結果を図12および図13に示した。
【0103】
図12及び図13に示したように、CD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)の場合に、70.3%の細胞が生存し、対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)は、44.5%の細胞が生存したことを確認した。これによって、CD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)が対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)に比べて、活性化されたPBMCアポトーシスに一層強いことが分かった。
【0104】
<実施例4.2.NK細胞との共培養による免疫調節効果の確認>
【0105】
条件別の間葉系幹細胞を2週間IL-2 50 IUと5%のヒト血清(HS)(Sigma-aldrich社製)で活性化されたヒトナチュラルキラー細胞(NK cell)(Lonza社製)と共培養した。3時間後、間葉系幹細胞で発現されているGFP蛍光を蛍光顕微鏡で観察し計数して、その結果を図14および図15に示した。
【0106】
図14及び図15に示したように、CD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)の場合に、63.8%の細胞が生存し、対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)は、26.1%の細胞が生存したことを確認した。これによって、CD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)が対照群間葉系幹細胞(MSC V.C.)に比べて、活性化されたNK細胞によるアポトーシスに強いことが分かった。
【0107】
<実施例5.CD47過剰発現間葉系幹細胞の抗線維化効果の確認(in-vitro)>
【0108】
ヒト初代肺線維芽細胞(Human primary lung fibroblast;HLF)(ATCC社製)に繊維化誘導物質であるTGF-β1(R&D systems社製)5ng/mLを24時間の間処理した後、1μm孔径のtranswell(BD Falcon社製)を使用することにより、同量の間葉幹細胞と共培養した。共培養完了後、trizol(Invitrogen社製)を用いてHLFのRNAを得てamfirivert cDNA systhesis platinum master mix(GenDEPOT社製)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAから代表的な線維化のマーカーであるα平滑筋アクチン(α-SMA)およびマトリックスメタロプロテアーゼ-13(MMP-13)の発現量を確認するために、ポリメラーゼ連鎖反応(quantitative real time polymerase chain reaction;qPCR)をLightCycler 480(Roche社製)で実施し、その結果を図16に示した。PCRで用いたプライマーの配列は、下記表1に記載のとおりである。
【0109】
【表1】
【0110】
図16に示したように、対照群間葉系幹細胞(MSC O.E.)に比べて、CD47過剰発現間葉系幹細胞(MSC O.E.)と共培養したHLF条件で代表的な線維化マーカーであるα-SMAとMMP-13の発現が最も減少したことを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2024543218000001.xml
【国際調査報告】