(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-19
(54)【発明の名称】生体バリア機能障害を処置するためのSCO-スポンジン由来ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20241112BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20241112BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20241112BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241112BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241112BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241112BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241112BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20241112BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20241112BHJP
C07K 7/54 20060101ALI20241112BHJP
C07K 14/46 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P25/08
A61P7/10
A61P27/02
A61P1/00
A61P13/12
A61P29/00
A61P37/06
A61P31/00
A61P9/00
C07K2/00
C07K7/08
C07K7/54
C07K14/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532918
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2022084014
(87)【国際公開番号】W WO2023099651
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518100421
【氏名又は名称】アクソルティス・ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シグヒル・ブリュンヒルデ・アデリーン・ルマルション
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ゴドフラン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA061
4C084ZA062
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB311
4C084ZB312
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC521
4C084ZC522
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA32
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
本発明は、生体バリア機能障害を処置するためのSCO-スポンジン由来ポリペプチドに関する。より詳細には、本発明は、血管疾患、感染症、免疫系応答性亢進、炎症性疾患又は自己免疫疾患、慢性腎臓病、腸疾患、黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、てんかん、神経障害性疼痛、CNS疾患及び障害、並びに加齢を含む疾患又は状態における生体バリア機能障害を処置するための前記ポリペプチドに関する。本発明はまた、疾患又は状態が存在しないか又はまだ診断されていない状況において生体バリア機能障害を処置するための前記ポリペプチドにも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体バリア機能障害の処置に使用するための、アミノ酸配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2(配列番号1)
のペプチドであって、
式中、
- A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
- X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は存在せず、
- N末端アミノ酸がアセチル化されること、C末端アミノ酸がアミド化されること、又はN末端アミノ酸がアセチル化されてかつC末端アミノ酸がアミド化されることが可能である、
生体バリア透過性を低下させるペプチド。
【請求項2】
生体バリア機能障害が、生体バリアの内皮層若しくは上皮層を形成する隣接細胞間のタイトジャンクションの変化、経内皮及び/若しくは経上皮電気抵抗の減少、クローディン-5の発現若しくは分布の調節異常、及び/又は特定の化合物若しくは分子のトランスコンパートメント透過性の調節異常を含む、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項3】
生体バリアが、血液脳関門、血液脊髄関門、内血液網膜関門、血液脳脊髄液関門、肺内皮バリア、血管-実質又は血管-体液バリアである、請求項1又は2に記載の使用のためのペプチド。
【請求項4】
生体バリア機能障害が、血管疾患、感染症、免疫系応答性亢進、炎症性疾患又は自己免疫疾患、慢性腎臓病、腸疾患、黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、てんかん、CNS疾患及び障害、並びに加齢を含む疾患又は状態において生じるものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G(配列番号2)であり、式中、A1、A2、A3及びA4が、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項6】
- A1が、G、V、S、P及びA、好ましくはG、Sから選択され、
- A2が、G、V、S、P及びA、好ましくはG、Sから選択され、
- A3が、R、A及びV、好ましくはR、Vから選択され、並びに/又は
- A4が、S、T、P及びA、好ましくはS、Tから選択される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項7】
A1及びA2が、G及びSから独立して選択され、並びに/又はA3-A4が、R-S若しくはV-S若しくはV-T若しくはR-Tから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項8】
配列番号3~63の配列からなる群から選択される配列である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項9】
配列番号1又は2のペプチド式に現れる2つのシステインがジスルフィド架橋を形成する直鎖状ペプチド又は環状ペプチドである、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項10】
配列番号3の配列のペプチドであり、2つのシステインがジスルフィド架橋を形成する直鎖状ペプチド又は環状ペプチドであるか又は両方の混合物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項11】
配列番号3の配列のペプチドであり、2つのシステインがジスルフィド架橋を形成する環状ペプチドである、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項12】
生体バリア機能障害、変質したタイトジャンクション、クローディン-5の異常な発現レベル又は分布、生体バリアのレベルでの経内皮及び/又は経上皮電気抵抗の調節異常、特定の化合物又は分子のトランスコンパートメント透過性の調節異常を有すると決定された患者において使用するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体バリア機能障害を処置するためのSCO-スポンジン由来ポリペプチドに関する。より詳細には、本発明は、血管疾患、感染症、免疫系応答性亢進、炎症性疾患又は自己免疫疾患、慢性腎臓病、腸疾患、黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、てんかん、神経障害性疼痛、CNS疾患及び障害、並びに加齢を含む疾患又は状態における生体バリア機能障害を処置するための前記ポリペプチドに関する。本発明はまた、疾患又は状態が存在しないか又はまだ診断されていない状況において生体バリア機能障害を処置するための前記ポリペプチドにも関する。
【背景技術】
【0002】
生体バリアは、臓器及び組織を物理的、化学的及び生物学的損傷から保護して、ホメオスタシスを維持する。加えて、生体バリアは、臓器と「外部」との間の界面にも表われ、後者は粘膜バリアの場合は空気、血管及び脳バリアの場合は体液である。その主要な構成要素は、内皮細胞層又は上皮細胞層のいずれかである。これらの細胞層の機能は、隣接する細胞型、細胞外マトリックス又は物理的刺激を含むそれらの微小環境によって高度に制御される。
【0003】
生体バリアの機能は、多くの疾患で変化することが知られている。そして、バリアの機能障害は症状があるだけでなく、場合によっては疾患の進行と因果関係があることもますます明らかになってきている。生体バリア機能障害は、(1)疾患の発生と因果関係がある可能性があり、(2)更なる生理病理学的機構と並行して起こる可能性があり、(3)上流イベントの結果として発生し、それによって更なる合併症を引き起こす可能性があり、(4)症状の出現又は疾患の診断に先立って起こる可能性がある。したがって、生体バリアは興味を惹く治療標的であり、生体バリア機能障害の処置は幅広い障害に適用可能な治療戦略となりうる。
【0004】
生体バリアの主な生理学的役割は、臓器及び組織とそれらの「外部」との間の選択的透過性を維持することである。その結果、生体バリアにかかわる主な病態生理学的機構は選択的透過性の喪失であり、これは病原体、毒素、細胞、炎症メディエーター、血漿タンパク質又は薬物の組織又は臓器への望ましくない拡散を可能にする。
【0005】
したがって、生体バリア機能障害の処置は、前記バリアの選択的透過性を改善するか又は回復させることにある。これはまた、バリアの完全性を回復させること、又はバリアの漏出を防止することとしても記載することができる。
【0006】
生体バリア機能障害を処置しうると考えられる方法は、血管疾患、感染症、免疫系応答性亢進、炎症性疾患又は自己免疫疾患、慢性腎臓病、腸疾患、黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、てんかん、神経障害性疼痛、CNS疾患及び障害、加齢を含む状態を有する患者に対して非常に有益である。
【0007】
SCO-スポンジン由来ペプチドは、その神経保護及び神経再生特性について記載されている。脊髄損傷及びタウオパチーの処置のためのSCO-スポンジン由来ペプチドの使用が、動物モデルで検討されている。しかし、現在までに、生体バリア機能障害を処置するそれらの能力について役割は示唆されていない。
【0008】
クローディン-5及び/又はオクルディンは、脳(Greeneら、2019年; Hashimotoら、2021年)、血管(Komarovaら、2017年)、網膜(Arimaら、2020年; Hudsonら、2019年; van der Wijkら、2019年)及び肺(Huangら、2016年; Chenら、2013年)が起源の内皮細胞を含むバリアに豊富に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO-99/03890号
【特許文献2】米国特許第6,995,140号
【特許文献3】WO2018146283号
【特許文献4】WO2017/051135号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sweeneyら、Physiol Rev、2019年
【非特許文献2】Montagneら、Nature、2020年
【非特許文献3】Biophysical Journal、95巻、2008年11月、4879~4889頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、驚いたことに、ヒト及び非ヒト動物においてある特定の身体機能障害を処置するか又は予防するSCO-スポンジン由来ペプチドの能力を初めて同定した。第1の態様では、身体機能障害は、生体バリア機能障害(若しくは不全状態の若しくは病的な生体バリア)、若しくはバリア透過性の増大であるか、又はそれらを含む。別の態様では、身体機能障害は、生体バリアの内皮層又は上皮層を形成する隣接細胞間のタイトジャンクションの変化であるか、又はそれを含む。別の態様では、身体機能障害は、経内皮及び/又は経上皮電気抵抗の減少であるか、又はそれらを含む。別の態様では、身体機能障害は、タイトジャンクションタンパク質、特にクローディン-5の発現若しくは分布、若しくはオクルディンの発現の調節異常(deregulation)であるか、又はそれらを含む。別の態様では、身体機能障害は、トランスコンパートメント(すなわち、生体バリアによって隔てられた2つの生理学的コンパートメント)透過性の調節異常若しくは特定の化合物若しくは分子の増加であるか、又はそれらを含む。
【0012】
生体バリアの透過性には、経細胞及び傍細胞透過性が含まれる。経細胞透過性は膜受容体及び小胞によって媒介され、一方、傍細胞透過性は、バリアの内皮層又は上皮層を形成する隣接細胞間の接着機構に依存する。これらの接着機構において、タイトジャンクションは、所望の位置における傍細胞透過性を制限する重要な一因である。
【0013】
タイトジャンクションは、複数の膜貫通タンパク質からなる細胞接着であり、それらの細胞外構成要素を介して直接相互作用して、2つの隣接する細胞膜の膜を互いに連結する。いくつかのクラスのタンパク質が、傍細胞透過性の選択性を規定するクローディンファミリーのメンバーを含むタイトジャンクション複合体に関与する。
【0014】
「バリアの機能障害」は、バリアの透過性が、正常(すなわち、健康対象におけるバリア)に対して改変されることを意味し、この改変は良好な健康にとって有害でありうるが、これはこの改変が、正常又は健全なバリアに対して、透過性の変化又は増加、並びに血液コンパートメントから実質又は体液(例えば、脳脊髄液)コンパートメントへの、炎症性サイトカイン、フィブリノーゲン及びその他(例えば、有機分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、ウイルス等)の血液成分を含む化合物の交雑(crossing)をもたらしうるためである。この機能障害は、特に、バリアに関与する内皮細胞及び/又は上皮細胞間のタイトジャンクションの障害であって、透過性の変化又は増加をもたらす前記障害に起因する可能性がある。
【0015】
本発明によれば、生体バリア機能障害は、疾患若しくは状態が存在しないか、又はまだ診断されていない状況で処置されうる。ペプチド投与は、疾患若しくは障害の発生に対して、又は対象における疾患又は状態が既知であるか又は疑われる状況において、保護効果又は予防効果を有しうる。
【0016】
本発明は、正常な生理的バリアの透過性を回復させるか、又は正常な生理的バリアの透過性若しくは機能を保護する。透過性が回復するとは、対象が正常な透過性を回復した場合、又は対象が健康対象における透過性に可能な限り近い透過性を回復した場合、又は処置されている対象が処置のない場合よりもより機能的なバリアを回復した場合である。透過性が保護される(生体バリアが保護されることを意味する)とは、バリア透過性を悪化させる可能性のある疾患の前、発生時、又は進展中に、ペプチドを透過性を変化させずに保たせるか、又は可能な限り正常に近い透過性を維持させることができる場合である。一態様では、本発明で使用されるペプチドは、バリアの内皮細胞を接近させるか、バリアの上皮細胞を接近させるか、又はバリアの内皮細胞及び上皮細胞を接近させる。この態様では、タイトジャンクションが回復又は改善したと言われる。別の態様では、本発明で使用されるペプチドは、バリア内皮細胞及び/又は上皮細胞の表面でのクローディン-5及び/又はオクルディンレベルの上昇を誘導し、特にそれは、小胞内に存在するクローディン-5をバリアの内皮細胞及び/若しくは上皮細胞膜の表面に到達させるか、又は表面上に広げる(本明細書ではいわゆるクローディン-5分布)。クローディン-5及び/又はオクルディンに対する前記ペプチドの効果を、バリアモデルにおけるように、バリアの完全性及び透過性に対する前記ペプチドの正の効果のマーカーとして使用することができる。これはまた、生体バリア機能障害を処置するか、生体バリアを保護するか、又は病的な生体バリア透過性を低下させる上でのペプチドの有効性のマーカーでもある。
【0017】
したがって、第1の態様では、本発明は、生体バリア機能障害の処置に使用するため、又は生体バリアを保護するための1種又は複数のSCO-スポンジン由来ペプチドに関する。
【0018】
したがって、本発明の1つの目的は、生体バリア機能障害の処置に使用するための、配列番号1~63のうちのいずれか1つによるアミノ酸配列を有するペプチド、特にNX210又はNX218である。
【0019】
一態様では、前記ペプチドは、生体バリア機能障害の処置に使用するためのものであり、前記ペプチドは、(特に正常な)生理学的若しくは生物学的バリア透過性を回復させるか若しくは保護するためのものであり、又は前記ペプチドは、生物学的バリア透過性若しくは病的な生物学的バリア透過性を低下させるためのものである。
【0020】
一態様では、前記ペプチドは、生体バリア機能障害の処置に使用するためのものであり、前記ペプチドは、生体バリアの内皮細胞及び/又は上皮細胞のタイトジャンクションを回復させるか、保護するか又は改善するためのものである。前記効果は、生理学的バリア透過性を回復させるか又は保護することの説明となる。
【0021】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象において、生体バリア機能障害を処置するか又は生体バリアを保護するための方法であって、有効量の1種又は複数のSCO-スポンジン由来ペプチドを前記対象に投与する工程を含む方法である。一実施形態では、前記ペプチドは、生体バリア機能障害の処置に使用するための、配列番号1~63のうちのいずれか1つによるアミノ酸配列、特にNX210又はNX218のアミノ酸配列を有する。
【0022】
一態様では、本方法は前記ペプチドを投与する工程を含み、前記ペプチドは、(特に正常な)生理学的バリアの透過性を回復させるか若しくは保護し、又は生体バリアの透過性若しくは病的な生体バリアの透過性を低下させる。
【0023】
一態様では、本方法は前記ペプチドを投与する工程を含み、前記ペプチドは、生体バリアの内皮細胞及び/又は上皮細胞のタイトジャンクションを回復させるか、保護するか又は改善する。前記効果は、生理学的バリアの透過性を回復させるか又は保護することの説明となる。
【0024】
本発明の別の目的は、生体バリアを処置するか若しくは保護するため、又は生体バリアの透過性を低下させることを目的とする医薬の製造のための、本明細書に開示されるペプチドの使用である。この目的は、本明細書に定義される他の目的の他の態様又は特徴のうちのいずれか1つを含みうる。
【0025】
本発明のこれらの種々の態様の実施形態では、生体バリアは血液脳関門である。別の実施形態では、これは血液脊髄関門である。別の実施形態では、これは内血液網膜関門である。別の実施形態では、これは血液脳脊髄液関門(BCSFB)である。別の実施形態では、これは肺内皮バリアである。別の実施形態では、これは血管-実質バリアである。別の実施形態では、これは血管-体液バリアである。別の実施形態では、これらのバリアのうちの2つ又はそれ以上は、本発明による使用又は使用方法に同時に関係する。
【0026】
対象におけるBBBの障害又は機能障害(すなわち、BBBはこの処置の資格を有する)は、いくつかの方法を使用して決定することができる。これらの方法は、現在、診察室で利用可能であり、疾患と診断されていないか又は疾患の宣告を受けていない患者で使用することができる。更に、以下に説明するように、これらの方法は、生体バリアの処置又は保護に使用される場合に、ペプチドの好ましい効果を検証するために使用することもできる。
【0027】
機能障害又は障害の決定のための第1の既知の方法は、ダイナミック造影増強磁気共鳴イメージング(DCE-MRI)(Montagneら、2020年)によって同定される造影剤、好ましくは造影剤ガドリニウムについて局所BBB透過性定数K trans又はKtrans(血漿空間からバリアを介した分子の移動速度を表す)を測定することである。これにより、CNS内の特定の区域に関するK transを測定することができる。これは例えば、ADを有する個体における海馬、例えば、PDを有する個体における基底核(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年; Montagneら、Nature、2020年; Al-Bachariら、2020年)、黒質、又は後皮質で行うことができる。
【0028】
海馬におけるK trans(Montagneら、2020年):正常又は健康な対象:1.2×10-3min-1、ApoE4保有対象(特にADを有する対象):1.6×10-3min-1。レベルが1.6×10-3min-1以上の場合には、機能障害があると考えられる。
【0029】
黒質(SN)におけるK trans:健康対象=約0.3×10-3min-1、PDを有する対象=約0.5×10-3min-1。レベルが0.4×10-3min-1以上の場合には、機能障害があると考えられる。
【0030】
後部皮質(PC)におけるK trans:健康対象=約0.4×10-3min-1、PDを有する対象=約0.5×10-3min-1。レベルが0.5×10-3min-1以上の場合には、機能障害があると考えられる。
【0031】
対象における生体バリア、特にBBBとBCSFBの障害又は機能障害(すなわち、この処置の資格を有する)を、アルブミン指数(Qalb=[CSF中濃度/血清中濃度]×1000、これはCSFアルブミンのレベル又は濃度の、血清中アルブミンのレベル又は濃度に対する比である)を測定することによって決定することもできる。アルブミンを免疫比濁法によって測定することもできる。Uherら、2015年を参照のこと。Qalbの上昇は、バリア、特にBBB及びBCSFBの障害の徴候である。Uherら、2015年によれば、患者が40歳未満でQAlb>6.5である場合、及び40歳超でQAlb>8である場合には、障害又は機能障害が存在する。健康対象において、40歳未満ではQAlb<6.5であり、40歳超ではQAlb<8である。また、年齢に基づくより正確な分類を行っているCastellazziら (2020年)を考慮することもでき、これは例えば、健康対象において、年齢が15~40歳ではQAlb<6.5、41~60歳はQAlb<8.0、60歳超ではQAlb<9.0であるとしている。この分類に基づくと、患者が年齢が15~40歳ではQAlb>6.5、41~60歳ではQAlb>8.0、60歳超ではQAlb>9.0である場合に、障害又は機能障害があると考えることができる。
【0032】
他の方法は、CSF中のいくつかのマーカーレベルの測定を含む。これらのマーカーは、CSF中に存在する脳由来タンパク質、例えば、可溶性PDGFRβ(血小板由来増殖因子BB)、シクロフィリンA及びマトリックスメタロプロテイナーゼ-9である(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年; Montagneら、Nature、2020年)。BBBの機能障害は、CSF中のこれらのマーカーのうちの1種又は複数の増加と相関する。
- PGDFRβ(Montagneら、2020年):正常対象:500ng/mL、アポE4保有対象:600ng/mL。本明細書では、レベルが600ng/mL以上である場合に機能障害があると考えられる。測定は、定量的ウェスタンブロット分析を使用して、引用文献に記載されている通りに行う。
- シクロフィリンA(CypA)(Montagneら、2020年):正常対象:60ng/mL、アポE4保有対象:70ng/mL。本明細書では、レベルが70ng/mL以上である場合に機能障害があると考えられる。測定は、電気化学発光検出を備えたMeso Scale Discovery(MSD)Imagerを使用し、引用文献に記載されているCypAアッセイを使用して、引用文献に記載されている通りに行う。
- マトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)(Montagneら、2020年):正常対象:50pg/mL、アポE4保有対象:100pg/mL。本明細書では、レベルが100pg/mL以上である場合に機能障害があると考えられる。測定は、MSD社のヒトMMP-9 Ultra-sensitiveキットを使用して、引用文献に記載されている通りに行う。
【0033】
バリア、特にBBBの障害又は機能障害を特徴付けるために、他の方法、例えば、以下のものを使用することができる:
- 既に言及したように、ADを有する個体の海馬又はPDを有する個体の基底核等における、ダイナミック造影増強磁気共鳴イメージング(DCE-MRI)を使用した、局所的BBB透過性定数、造影剤ガドリニウムに対するKtransの増加(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年; Montagneら、Nature、2020年)、
- MCI、認知症を伴わない早期AD、ALS、PDを有する個体の脳における微小出血(BBB崩壊を反映する)を示す、T2*MRI又は感受性加重イメージング(SWI MRI)によって同定される低強度(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年)、
- 脳によるグルコース取り込みの臨床的代用指標としてFDG-陽電子放出断層撮影法(PET)を使用した、MCI及び早期ADを有する個体における2-デオキシグルコースの局所的脳取り込みの減少(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年)。
【0034】
一態様では、バリアの完全性若しくは回復、又は透過性の回復若しくは低下に対する有益な効果は、これらの方法のうちの1つ、又は2つ若しくはそれ以上の組合せを使用して決定することができる。
【0035】
したがって、有益な効果は、特に、Ktrans、Qalb、PGDFRβ、シクロフィリンA、及び/又はMMP-9のレベル測定、並びにペプチドが正常レベルに回復することを可能にするか、正常レベルに近づくことを可能にするか、又は透過性の低下を可能にするという観察によって主張することができる。Ktransが好ましい。
【0036】
BBB障害又は機能障害に対する本発明の処置(処置後又は処置中)の有益な効果は、これらのマーカーのうちの1つ又は複数を測定することによって決定することができる。
【0037】
一実施形態では、Ktrans法及び/又はQalbマーカーを使用して、BBB又はBCSFB等の生体バリアの障害又は機能障害に対する本発明の処置(処置後又は処置中)の有益な効果を決定する。処置前のレベルに対してマーカーレベルの減少がある場合、又はマーカーレベルが透過性の減少を反映する場合、又は処置後若しくは処置中に測定されたレベルが正常レベルに近い場合には、処置の有益な効果がある。マーカー値は、詳細な説明において与えられる。一態様では、この処置から利益を得る可能性のある患者は、処置前に決定又は選択される。患者は、記載されるような生体バリア障害又は機能障害、記載されるような変質したタイトジャンクション、記載されるような異常なクローディン-5及び/又はオクルディンレベルを有すると以前に決定されているか、又は以前に決定されたことがある。それ自体で、変質したタイトジャンクション並びに異常なクローディン-5及び/又はオクルディンレベルは、バリア機能障害の徴候でありうる、また異常なクローディン-5及び/又はオクルディンレベルは、タイトジャンクションの変質の徴候でありうる。
【0038】
第1の実施形態では、機能障害は、局所的バリア、特にDCE-MRIによって同定される造影剤、好ましくは造影剤ガドリニウムに対するBBB透過定数Ktransを測定することによって検出される。例えば、海馬におけるKtransレベルが1.6×10-3min-1に等しいか又はそれ以上である場合には、機能障害が存在する。CNS領域に依存する他の値については上記を参照のこと。
【0039】
別の実施形態では、機能障害は、血清アルブミンレベルのCSFアルブミンレベルに対する比Qalbを測定することによって検出される。機能障害に対応するレベルについては上述した。
【0040】
別の実施形態では、生体バリア、特にBBBの機能障害、したがって患者が処置に適格であるという決定は、CSF中の可溶性PDGFRβ、シクロフィリンA及び/又はマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)のレベルを測定することによって検出される。以下の場合に機能障害がある:
- PGDFRβレベルが600ng/mL以上である。
- シクロフィリンAレベルが70ng/mL以上である。
- MMP-9レベルが100pg/mL以上である。
【0041】
別の実施形態では、機能障害は、T2* MRI又はSWI MRIによって同定される低信号を測定することによって検出される。機能障害に対応するレベルについては上述した。
【0042】
別の実施形態では、機能障害は、FDG-PETを使用して2-デオキシグルコースの局所的脳取り込みを測定することによって検出される。機能障害に対応するレベルについては上述した。
【0043】
一態様では、機能障害は、これらの方法の2つ又はそれ以上を組み合わせて使用して決定される。
【0044】
一態様では、タイトジャンクションの機能障害は、これらの方法の2つ又はそれ以上を組み合わせて使用して決定される。
【0045】
一態様では、生体バリアは血液脳関門(BBB)であり、患者は、血管疾患、感染症、免疫系応答性亢進、炎症性疾患又は自己免疫疾患、慢性腎臓病、腸疾患、黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、てんかん、神経障害性疼痛、CNS疾患及び障害、並びに加齢を含む疾患又は状態において、生体バリアの機能障害に罹患している。
【0046】
一態様では、患者はまず、BBBの機能障害を有するか否か(及び本発明の処置に適格であるか)を決定するために、記載されるように検査される。機能障害は、上記の方法のうちの2つ又はそれ以上を組み合わせて使用して決定される。
【0047】
別の態様では、生体バリアの機能障害はBBBであり、患者において疾患も状態も診断されていない。
【0048】
別の態様では、本発明は、生体バリアタイトジャンクション機能障害の処置に使用するための、又は前記タイトジャンクションを保護するための1種又は複数のSCO-スポンジン由来ペプチドに関する。
【0049】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象において、生体バリアタイトジャンクション機能障害を処置するため、又は前記タイトジャンクションを保護するための方法であって、1種又は複数のSCO-スポンジン由来ペプチドの有効量を前記対象に投与する工程を含む方法に関する。
【0050】
本発明のこれらの種々の態様の実施形態では、生体バリアは血液脳関門である。別の実施形態では、これは血液脊髄関門である。別の実施形態では、これは内血液網膜関門である。別の実施形態では、これは血液脳脊髄液関門である。別の実施形態では、これは肺内皮バリアである。別の実施形態では、これは血管-実質バリアである。別の実施形態では、これは血管-体液バリアである。別の実施形態では、これらのバリアのうちの2つ又はそれ以上は、本発明による使用又は使用方法に同時に関係する。
【0051】
上述のように、BBB障害に対する処置の有益な効果は、以下のマーカーのうちのいずれか1つ、又はそれらのうちの少なくとも2つの任意の組合せを使用して、及び本明細書に開示され、引用文献に記載される公知の方法を使用して決定することができる:
- ADを有する個体の海馬又はPDを有する個体の基底核等における、ダイナミック造影増強磁気共鳴イメージング(DCE-MRI)を使用した、局所的BBB透過性定数、造影剤、例えば造影剤ガドリニウムに対するKtransの減少(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年; Montagneら、Nature、2020年)、
- 前臨床AD(臨床徴候及び症状を伴わない)、軽度認知障害(MCI)、血管危険因子を伴うか又は伴わないAD、認知症の前の早期PD、ALS、MSを有する個体等における、血清アルブミンレベルのCSFアルブミンレベルに対する比であるアルブミン指数(Qalb)(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年; Uherら、2015年)、
- 可溶性PDGFRβ(血小板由来増殖因子BB)、シクロフィリンA及びマトリックスメタロプロテイナーゼ-9等の、CSF中に存在する脳由来タンパク質のレベル(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年; Montagneら、Nature、2020年)、
- MCI、認知症を伴わない早期AD、ALS、PDを有する個体の脳における微小出血(BBB崩壊を反映する)を示す、T2*MRI又は感受性加重イメージング(SWI MRI)によって同定される低信号(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年)
- 脳によるグルコース取り込みの臨床的代用指標としてFDG-陽電子放出断層撮影(PET)を使用した、MCI及び早期ADを有する個体における2-デオキシグルコースの局所脳取り込みの減少(Sweeneyら、Physiol Rev、2019年)。
【0052】
一態様では、バリアの完全性若しくは回復、又は病理学的バリア透過性の低下に対する有益な効果は、これらの方法のうちの1つ、又は2つ若しくはそれ以上の組合せを使用して決定することができる。有益な効果は、ペプチドが、正常値に回復することを可能にするか、又は上記のような1種若しくは複数のレベルについて正常値に近づくことを可能にする場合に存在する。有益な効果は、レベルの正常値に向けての有意な進展がある場合にも得られる。生体バリア、特に生体バリア透過性の改善、すなわち、その低下を反映するマーカー値は、詳細な説明において、特にK trans及びQalbについて与えられる。
【0053】
一態様では、生体バリアは血液脳関門(BBB)であり、患者は、神経変性疾患等の中枢神経系(CNS)疾患に罹患している。
【0054】
一態様では、患者はまず、BBB機能障害を有するか否かを決定するために、記載されているように検査される。機能障害は、上記の方法のうちの2つ又はそれ以上を組み合わせて使用して決定される。
【発明を実施するための形態】
【0055】
CNSは、血液脳関門(BBB)、血液脊髄関門(BSCB)、及び血液脳脊髄液関門(BCSFB)によって保護されている。
【0056】
BBBは、(1)CNSホメオスタシスに必要とされる脳血流を調節すること、(2)血液から脳へのグルコース及び酸素並びに他の代謝産物の輸送を制御すること、並びに(3)脳血管系を介して脳からの代謝老廃物の選択的な除去を可能にすることにおいて主要な役割を果たす(Sweeneyら、2018年)。このため、BBBは神経回路の適正な機能のために重大な意味を持ち、したがって、BBBの機能不全又は破壊は、いくつかの神経学的状態の重要な構成要素として同定されている(Profaciら、2020年)。これらの機能を支持するために、内皮細胞と内皮の外壁との間のタイトジャンクションを介してBBB構造での物理的バリアが作り出され、続いて、周皮細胞及び星状細胞のエンドフィートによって囲まれる。タイトジャンクションは、溶質に対する傍細胞選択的透過性を確実にする。BBBでのタイトジャンクションタンパク質としては、オクルディン、ゾヌリン、接合部接着分子及びクローディンが挙げられ、クローディン-5は、脳血管系において最も発現されるクローディンである(Profaciら、2020年)。内皮細胞が主としてBBBの完全性及び機能を制御するが、神経血管単位の他の構成要素(例えば、周皮細胞、グリア及びニューロン)も、正常なBBB機能を維持する上で重要な役割を果たす。
【0057】
BSCB及びBBBは、無窓内皮細胞、並びに基底膜、周皮細胞及び星状細胞を含むその付属構造で構成される、同じ特殊化した系を共通に有する(Bartanuszら、2011年)。しかし、BSCBは、特異的なタイトジャンクションタンパク質及びアドヘレンスジャンクションタンパク質、グリコーゲン沈着物並びに輸送体分子のレベルの点でBBBとは異なり、BSCBはBBBよりも透過性が高い(Bartanuszら、2011年)。
【0058】
BCSFBは、(1)血液由来の病原性成分がCSF中に入るのを防ぐこと、及び(2)老廃物の排出を確実にすることにおいて主要な役割を果たす(Liddelow、2015年)。BCSFBは、脳室の脈絡叢の上皮細胞間の種々のタイプの細胞結合によって形成される(Solarら、2020年)。BCSFのタイトジャンクションタンパク質ファミリーには、BBBに存在するものと同様のオクルディン、ゾヌリン、接合部接着分子及びクローディンが含まれる(Solarら、2020年)。
【0059】
バリアの病態は、いくつかの神経変性疾患(AD、ALS、PD、HD等)(Kakaroubasら、2019年; Yamazakiら、2019年; Sweeneyら、2018年; Meisterら、2015年; Bartanuszら、2011年)、神経血管疾患(虚血性脳卒中、AD等)(Abdullahiら、2018年; Lvら、2018年)、CNS損傷(SCI、TBI等)(Cash及びTheus、2020年; van Vlietら、2020年; Evranら、2020年; Bartanuszら、2011年)、精神障害(統合失調症等)(Greeneら、2018年)、自己免疫疾患(多発性硬化症等)(Berghoffら、2017年; Bartanuszら、2011年)、眼疾患(黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫等)(Arimaら、2020年; Hudsonら、2019年; van der Wijkら、2019年)、てんかん(Profaciら、2020年)、神経障害性疼痛(Bartanuszら、2011年)、及び他の状態(SARS-Cov2感染症及び加齢等)(Pellegriniら、2020年; Buzhdyganら、2020年)の発病及び進行の主な寄与因子として認識されている。
【0060】
バリアの病態は、本明細書に列挙されるような多くの疾患又は疾病の危険因子として認識されている。「危険因子」とは、バリアの欠損又は変化又は機能障害が疾患の起点である可能性があり、この疾患の発生、維持又は進展にとって有利な状態の維持に寄与する可能性があると考えることができ、そのため、正常な又は十分に機能するバリア(完全に機能するか、又は不完全であってもバリア効果を有する程度に十分に機能する)の回復は、それ自体が治療目的となる。また、バリアの欠損又は変化又は機能障害が疾患の原因因子の1つ、又は増悪因子である可能性があり、この疾患の維持又は進展にとって有利な状態の維持に寄与する可能性があると考えることもでき、そのため、正常な又は十分に機能するバリア(完全に機能するか、又は不完全であってもバリア効果を有する程度に十分に機能する)の回復は、それ自体が治療目的となる。
【0061】
これらの治療目的は、バリアの回復又は保護を必要とする対象に本発明のペプチドを投与することによって生じるいくつか又は全ての技術的効果によって達成される。これらの技術的効果には、処置されていない対象との比較によって実現可能である。
【0062】
技術的効果は、処置のない状態を基準とした、バリア透過性、若しくは病理学的バリア透過性の低下、又は正常なバリア透過性の回復若しくは改善である。そのような効果は、実施例において、電気抵抗TEERの増加、クローディン-5発現の増加、オクルディン発現の増加、並びにデキストラン及びスクロースに対する透過性の低下によって実証される。インビボでは、技術的効果の達成は、処置した対象において、少なくとも2種のマーカー測定値、特に以下のもののうちのいずれか1つ又は任意の組合せを使用して実証することができる:
Montagneら、2020年に開示されているもの等の利用可能な方法を使用して測定されるKtrans、例えば、海馬におけるKtransが、1.6×10-3min-1未満、好ましくは1.5、1.4、1.3×10-3min-1未満、若しくは正常対象(約1.2×10-3min-1)に等しいこと、及び/又は
黒質(SN)におけるK trans:0.4若しくは0.35×10-3min-1未満、又は正常対象(約0.3×10-3min-1)に等しい、
後部皮質(PC)におけるK trans:0.5若しくは0.45×10-3min-1未満、又は正常対象(約0.4×10-3min-1)に等しい、
Uherら、2015年に開示されているもの等の利用可能な方法を使用して測定されたアルブミン指数(Qalb)が、対象の年齢が40歳未満である場合に6.5、5若しくは又は4未満、又は40歳を上回る場合に8、7若しくは6未満、
Castellazziら、2020年で言及されているように、対象の年齢が15~40歳である場合にQAlbが6.5、5又は4未満、その年齢が41歳~60歳である場合にQAlbが8、7又は6未満、その年齢が60歳を上回る場合にQAlbが9、8又は7未満。
【0063】
技術的効果は、実施例において電気抵抗TEERの増加、クローディン-5発現の増加、オクルディン発現の増加、並びにデキストラン及びスクロースに対する透過性の低下によって実証されているように、生体バリアの内皮細胞及び/又は上皮細胞のタイトジャンクションの回復又は改善である。インビボでは、対象における技術的効果の達成は、バリア透過性について記載されている通りに、少なくとも2種のマーカー測定値、特にKtrans及び/又はQalbのうちのいずれか一方又は任意の組合せを使用し、同じマーカーレベルを使用して実証することができる。
【0064】
これまで開示されていなかったこれらの技術的効果、及びマーカー変動に対するそれらの影響は、バリア機能障害の処置におけるペプチドの有効性に寄与し、且つ、生体バリア機能障害の、そのような機能障害の出現若しくは進行の、疾患の突然の出現の、疾患が慢性化することの、又は好ましくない疾患進行のリスクを低減する目的で、対象において生体バリア機能障害を治療的に処置するためにペプチドを使用するという提案に寄与する。
【0065】
本明細書に開示される使用及び方法に使用するためのSCO-スポンジン由来ペプチド:
「SCO-スポンジン」は、中枢神経系に特異的な糖タンパク質であり、原索動物からヒトまでの全ての脊椎動物に存在する。SCO-スポンジンは、第三脳室の頂部に位置する特定の器官である交連下器官によって分泌される細胞外マトリックスの分子として知られている。SCO-スポンジンは大きなサイズの分子である。SCO-スポンジンは4,500個を上回るアミノ酸からなり、特に26種のTR又はTSRパターンを含む様々な保存されたタンパク質パターンを含むマルチモジュール構造を有する。TSRパターンから開始するSCO-スポンジン由来のある特定のペプチドは、神経又は神経細胞において生物活性を有することが知られている(特にWO-99/03890号に記載されている)。
【0066】
「TSR又はTRパターン」は、およそ55~60残基のタンパク質ドメインであり、保存されたアミノ酸システイン、トリプトファン及びアルギニンのアラインメントに基づく。これらのパターンは、凝固に介在する分子であるTSP-1(トロンボスポンジン1)において最初に単離された。それらは続いて、SCO-スポンジン等の多数の他の分子において記述された。実際に、このトロンボスポンジンタイプ1ユニット(TSR)は、これまでに研究されて以前に言及されている全てのタンパク質において、約55~60個のアミノ酸(AA)を含み、そのうちの一部であるシステイン(C)、トリプトファン(W)、セリン(S)、グリシン(G)、アルギニン(R)及びプロリン(P)等は高度に保存されている。
【0067】
SCO-スポンジンペプチド又はペプチド化合物は、本発明の実施において使用される(本発明の様々な目的、すなわち、使用のためのペプチド又は組成物、使用方法、処置方法、医薬の製造のためのペプチドの使用等)。本発明によるペプチドの少なくとも1種と、薬学的に許容されるビヒクル、担体又は希釈剤とを含む医薬組成物も使用される。
【0068】
特に、本発明は、配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2(配列番号1)
のペプチドであって、
式中、
A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、2つのシステインはジスルフィド架橋を形成するか又は形成せず、
X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は存在せず、
N末端アミノ酸がアセチル化されること(例えば、H3CCOHN-を保有する)、C末端アミノ酸がアミド化されること(例えば、-CONH2を保有する)、又はN末端アミノ酸がアセチル化されてかつC末端アミノ酸がアミド化されることが可能である、
ペプチドを使用する。
【0069】
一実施形態では、配列番号1の式において、X1若しくはX2が、又はX1及びX2の両方が存在しない。一実施形態では、X1及び/又はX2が存在しない場合、N末端Wはアセチル化され、及び/又はC末端Gはアミド化される。好ましくは、X1及びX2の両方が存在せず、N末端Wはアセチル化され、C末端Gはアミド化される。
【0070】
特に、本発明は、配列
W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G(配列番号2)
のペプチドであって、
式中、
A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、2つのシステインはジスルフィド架橋を形成するか又は形成しない、
ペプチドを使用する。
【0071】
配列番号1及び2の式の一実施形態では、ペプチドは直鎖状ペプチドであるか、又は配列番号1及び2のペプチド式に現れるシステインはジスルフィド架橋を形成しない(還元型)。
【0072】
好ましい一実施形態では、配列番号1及び2のペプチド式に現れる2つのシステインは、ジスルフィド架橋を形成する(酸化型)。
【0073】
好ましくは、配列番号1及び2の式において、A1、A2、A3及び/又は、好ましくはA4は、好ましくは1又は2個のアミノ酸、より好ましくは1個のアミノ酸からなる。
【0074】
好ましくは、A1は、G、V、S、P及びA、より好ましくはG、Sから選択される。
【0075】
好ましくは、A2は、G、V、S、P及びA、より好ましくはG、Sから選択される。
【0076】
好ましくは、A3は、R、A及びV、より好ましくはR、Vから選択される。
【0077】
好ましくは、A4は、S、T、P及びA、より好ましくはS、Tから選択される。
【0078】
好ましくは、A1及びA2は、G及びSから独立に選択される。
【0079】
好ましくは、A3-A4は、R-S又はV-S又はV-T又はR-Tから選択される。
【0080】
好ましくは、X1、X2、A1、A2、A3及びA4は、システインを含まない。
【0081】
X1が1~6個のアミノ酸のアミノ酸配列である場合、アミノ酸は任意のアミノ酸であり、好ましくはV、L、A、P及びそれらの任意の組合せから選択される。
【0082】
X2が1~6個のアミノ酸のアミノ酸配列である場合、アミノ酸は任意のアミノ酸であり、好ましくはL、G、I、F、及びそれらの任意の組合せから選択される。
【0083】
一実施形態では、配列番号1又は2のペプチドは、A1及びA2がG及びSから独立に選択され、A3-A4がR-S又はV-S又はV-T又はR-Tから選択されるようなものである。
【0084】
詳細な様式では、このペプチドは、更にアセチル化及び/又はアミド化される。一実施形態では、ペプチドは直鎖状ペプチドであるか、又はシステインがジスルフィド架橋を形成しない。別の実施形態では、ペプチドはジスルフィド架橋(C末端環化)を形成する2つのシステインを有する。別の実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、酸化ペプチド及び直鎖状ペプチドの両方の形態を含む。
【0085】
本発明の目的において、「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の両方を意味し、天然から非天然へのものを含むアミノ酸の変更は、元のペプチドの機能又は効力を維持しながら、当業者によって慣行的に行われうる。「天然アミノ酸」は、天然タンパク質中に見出すことができるL型のアミノ酸、すなわち、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンを意味する。「非天然アミノ酸」は、D型である前出のアミノ酸、並びにアルギニン、リジン、フェニルアラニン及びセリン等の特定のアミノ酸のホモ型、又はロイシン若しくはバリンのnor形態を意味する。この定義には、α-アミノ酪酸、アグマチン、α-アミノイソ酪酸、サルコシン、スタチン、オルニチン、デアミノチロシン等の他のアミノ酸も含まれる。ペプチド配列を記載するために使用される命名法は、1文字コードを使用する国際命名法であり、アミノ末端が左側に示され、カルボキシ末端が右側に示される。ダッシュ「-」は、配列のアミノ酸を連結する共通のペプチド結合を表す。
【0086】
一実施形態では、本発明によるペプチド、例えば、配列番号1~63の配列のペプチドのうちのいずれか1つは、N末端アセチル化、C末端アミド化、又はN末端アセチル化及びC末端アミド化の両方を含む。
【0087】
種々の実施形態において、本発明は、以下のアミノ酸配列(Table A(表1))から本質的になるか又はそれらからなるポリペプチドの使用に関する:
【0088】
【0089】
【0090】
一実施形態では、Table A(表1)に開示される配列番号3~34の配列のペプチドは、直鎖状ペプチドであるか、又はシステインがジスルフィド架橋を形成しない(還元ペプチド)。別の実施形態では、前出のTable A(表1)に開示される配列番号3~34の配列のペプチドは、酸化されてジスルフィド架橋を形成する2つのシステインを有する(酸化ペプチド)。別の実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、同じペプチド配列の酸化ペプチド及び直鎖状ペプチドの両方の形態を含む。更に別の実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、配列番号3~34の配列から選択されるこれらの種々のペプチドのうちの少なくとも2つの混合物を含み、この混合物は、例えば同じアミノ酸配列を有する、少なくとも2種の直鎖状ペプチドの混合物又は少なくとも2種の酸化ペプチドの混合物、又は少なくとも1種の直鎖状ペプチドと少なくとも1種の酸化ペプチドとの混合物であってよい。
【0091】
好ましい一実施形態では、ペプチドは、アミノ酸配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号3)からなる。一実施形態では、ペプチドは直鎖状ペプチドであるか、又はシステインがジスルフィド架橋を形成しない(NX210と呼ばれる還元型)。別の実施形態では、ペプチドは、酸化されてジスルフィド架橋を形成する2つのシステインを有し(酸化型)、これはNX218と呼ばれる。別の実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、酸化型及び還元型の両方の型を含む。
【0092】
配列番号1のペプチドの一実施形態では、
- X1は水素原子若しくはP若しくはA-P若しくはL-A-P若しくはV-L-A-Pを表し、及び/又は
- X2は水素原子又はL若しくはL-G若しくはL-G-L若しくはL-G-L-I若しくはL-G-L-I-Fを表す。
【0093】
種々の実施形態において、本発明はしたがって、以下のアミノ酸配列(Table B(表2))からなるか又は本質的にそれらからなるポリペプチドの使用に関する:
【0094】
【0095】
一実施形態では、Table B(表2)に開示される配列番号35~63の配列のペプチド、又はTable A(表1)+Table B(表2)に開示される配列番号3~63の配列のペプチドは、直鎖状ペプチドであるか、又はシステインがジスルフィド架橋を形成しない(還元ペプチド)。別の実施形態では、ペプチドは、酸化されてジスルフィド架橋を形成する2つのシステインを有する(酸化ペプチド)。別の実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、同じペプチド配列の酸化ペプチド及び直鎖状ペプチドの両方の形態を含む。更に別の実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、配列番号35~63又は3~63の配列から選択されるこれらの種々ペプチドのうちの少なくとも2つの混合物を含み、この混合物は、例えば同じアミノ酸配列を有する、少なくとも2種の直鎖状ペプチドの混合物又は少なくとも2種の酸化ペプチドの混合物、又は少なくとも1種の直鎖状ペプチドと少なくとも1種の酸化ペプチドとの混合物であってよい。
【0096】
配列番号3~63の配列のペプチドのそれぞれは、アセチル化されること、アミド化されること、又はアセチル化及びアミド化されることが可能である。
【0097】
本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、それらのアミノ酸配列によって定義される。使用されるペプチドは、本明細書で開示される1種のペプチド、又は本明細書で開示される少なくとも2種のペプチドの混合物でありうる。混合物はまた、同じ又は異なるアミノ酸配列である直鎖状及び酸化ペプチドの混合物を範囲に含む。本発明によれば、100%純粋なペプチドを使用することができる場合、そのペプチドは、80%を上回る純度、好ましくは85%、より好ましくは90%、更により好ましくは95、96、97、98、又は99%以上の純度を有することが可能であり、本発明はそれらを範囲に含む。例えばクロマトグラフィーによる従来の精製方法を使用して、所望のペプチド化合物を精製することができる。
【0098】
一実施形態では、本発明で使用されるペプチド又は患者に投与されるペプチドは、酸化ペプチド(Op)及び直鎖状ペプチド(Lp)の両方の形態を、例えば同程度であるか又はそうでない量で含み、例えば、(数での%で)Op:10、20、25、30、40、50、60、70、80又は90%であり、100%になるための残りはLpである。組み合わされる酸化ペプチド及び直鎖状ペプチドは、同じ配列のもの又は異なる配列のものであってよい。例えば、配列番号3の配列のペプチドの酸化型及び直鎖状型は、例えば上記に開示される比率で、そのように組み合わされる(NX210及びNX218)。同じことが、配列番号4~34及び35~63の配列のペプチドのうちの任意の1つに対しても成り立つ。
【0099】
医薬組成物:
本明細書で使用される医薬組成物は、活性成分として、前述のペプチド、又はペプチドの混合物、例えば、アミノ酸組成の異なるペプチド、又は酸化型及び直鎖状型である同じアミノ酸組成のペプチドの混合物と、1つ又は複数の薬学的に許容されるビヒクル、担体又は賦形剤とを含む。
【0100】
本発明によるペプチド化合物は、生体バリア機能障害及び/又は変質したタイトジャンクション等の本明細書に開示される身体機能障害のうちのいずれか1つを予防又は処置するための、医薬組成物中に、又は医薬の製造において使用することができる。
【0101】
第1の実施形態では、機能障害は、CSF中の可溶性PDGFRβのレベルを測定することによって検出される。
【0102】
別の実施形態では、機能障害は、CSFアルブミンレベルの血清アルブミンレベルに対する比を測定することによって検出される。
【0103】
別の実施形態では、機能障害は、DCE-MRIによって同定される造影剤ガドリニウムに対する局所的BBB透過定数Ktransを測定することによって検出される。
【0104】
別の実施形態では、機能障害は、T2* MRI又はSWI MRIによって同定される低信号を測定することによって検出される。
【0105】
別の実施形態では、機能障害は、FDG-PETを使用して2-デオキシグルコースの局所的脳取り込みを測定することによって検出される。
【0106】
別の実施形態では、機能障害は、CSFアルブミンレベルの血清アルブミンレベルに対する比であるアルブミン指数(Qalb)を測定することによって検出される。
【0107】
これらの組成物又は医薬において、有効成分は、様々な形態で、すなわち、溶液、一般に水溶液の形態で、又は凍結乾燥形態で、又はエマルジョンの形態で、又は投与経路に適した任意の他の薬学的及び生理的に許容される形態で、組成物に組み込むことができる。
【0108】
投与経路は全身経路であってもよい。特に、以下の注射又は投与経路について言及することができる:静脈内、髄腔内、腹腔内、鼻腔内、皮下、筋肉内、舌下、経口、及びそれらの組合せ。
【0109】
投与は、局所的であってもよく、とりわけ脳内経路、特に脳室内投与を使用してもよい。
【0110】
本明細書に開示されるペプチドのうちの1種又は複数を含有する組成物は、無菌である。これらの組成物は、患者への、例えば血液循環中へのペプチドの送達を導く投与のために好適である。患者への送達は、十分な量のペプチドの送達であり、この十分な量は、有益な効果と相関する。「薬学的効果」は、本明細書に開示されるように、BBB、タイトジャンクション、クローディン-5発現レベル、クローディン-5分布、オクルディン発現レベル、経内皮及び/又は経上皮電気抵抗、特定の化合物又は分子のトランスコンパートメント透過性の調節異常、Qalb、Ktransのうちの1つ又は複数に対する有益な効果を含みうる。
【0111】
一部の実施形態では、医薬組成物中の有効成分は、上記に開示されるように、(1)本明細書に開示される直鎖状ペプチド、(2)本明細書に開示される酸化ペプチド、(3)NX210、(4)NX218、又は(5)同程度であるか又はそうではない量の、直鎖状ペプチド及び酸化ペプチド、特にNX210及びNX218等の混合物からなる。
【0112】
有効成分は、従来の医薬支持体、担体、賦形剤又はビヒクルとの混合物として、動物及びヒトに単位投与形態で投与することができる。好適な単位投与形態としては、錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒及び経口懸濁液又は溶液等の経口経路形態、舌下及び頬側投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮及び鼻腔内投与形態並びに直腸投与形態が挙げられる。
【0113】
好ましくは、医薬組成物は、投与すること、例えば、患者に、例えば血流中に有効成分を送達するために注射することができる液体製剤のための薬学的に許容される担体、賦形剤又はビヒクルを含有する。これらは、特に、すぐに使用しうる溶液、例えば、等張性で無菌の生理食塩水(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウム等、又はそのような塩の混合物)、又は場合に応じて、滅菌水若しくは生理食塩水の添加によって投与可能な溶液を構成することができる乾燥した、特に凍結乾燥した組成物であってもよい。
【0114】
医薬形態には、無菌の水溶液又は分散液、ゴマ油、ピーナッツ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤、及び無菌の注射用溶液又は分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる。全ての場合において、形態は無菌でなければならず、容易に注射できる程度に流動性でなければならない。これは製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に抗して保存されなければならない。
【0115】
無菌の注射用溶液は、適切な溶媒中に必要な量の活性ポリペプチドを添加し、その後に濾過滅菌することによって調製される。
【0116】
製剤化されると、溶液は、投薬製剤に適合する様式で、且つ治療的に有効な量で投与される。製剤は、上記のタイプの注射用溶液等の種々の剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセル等を使用することもできる。
【0117】
水性溶液中での好適な投与のために、例えば、溶液は必要に応じて好適に緩衝化されるべきであり、液体希釈物はまず、十分な食塩水又はグルコースで等張化される。これらの特定の水性溶液は、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、及び腹腔内投与に特に好適である。この点に関して、使用しうる無菌の水性媒体は、本開示に照らして当業者には公知であろう。静脈内注射又は筋肉内注射等の注射投与のために製剤された本発明の化合物に加えて、他の薬学的に許容される形態には、例えば、経口投与のための錠剤又は他の固体、リポソーム製剤、徐放性カプセル、並びに現在使用されている、活性成分を送達する、あらゆる他の形態が含まれる。
【0118】
患者の体重(kg)当たりのペプチドの質量で表されるペプチドの1用量は、約1μg/kg~約1g/kg、特に約10μg/kg~約100mg/kg、例えば約50μg/kg~約50mg/kgの範囲でありうる。
【0119】
投薬レジメンは、単回投与又は反復投与を含みうる。一実施形態によれば、反復投与は、処置期間にわたり、処置1日当たり1用量、例えば、毎日又は2日若しくは3日毎に1用量を投与することを含みうる。別の実施形態によれば、反復投与は、処置期間にわたり、処置1日当たり少なくとも2用量、例えば、1日当たり2用量、3用量、又はそれを上回る用量を投与することを含みうる。これらの実施形態において、処置期間は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、15日、20日、25日、30日、35日、40日、45日、又はそれを上回る日数(例えば、最長で6か月)でありうる。処置は、患者がある「期間」にわたってこの処置からの「利益」を維持するように設計される。「利益」は、上記の「薬学的効果」を含みうる、すなわち、ペプチドは、これらの疾患のうちの1つに罹患しているか又は罹患するリスクのある対象にとって有益である。したがって、ペプチドは、生体バリアに関与する上皮及び/又は内皮細胞のタイトジャンクションの、これらの細胞又はバリアのレベルでの傍細胞透過性の、クローディン-5発現レベルの、クローディン-5分布(バリア内皮細胞及び/又は上皮細胞の表面でのクローディン-5レベルの上昇、特にそれらは小胞に存在するクローディン-5をバリア内皮細胞及び/又は上皮細胞膜表面に到達させるか若しくは拡散させる)の、オクルディン発現レベルの改善(増加、再建又は保護)を可能にし、それ故にBBB等の機能的生体バリアの、及び関連する疾患の改善を可能にする。この「期間」は、投薬レジメン及び患者自身、例えば、疾患の重症度及びレジメン用量に対する患者の反応性に依存しうる。「改善」は、「部分的改善」及び「完全な改善」を含む。対象において、生体バリアの完全性又はタイトジャンクションの完全性、及びそれらの生理的機能の部分的な回復が観察される場合に「部分的」と言われ、処置前の対象の初期状態に関しては、これらの有意な改善が認められるが健常対象に比して有意に低いままである。「完全な回復」は、対象が生体バリアの完全性若しくはタイトジャンクションの完全性、及びそれらの生理的機能を回復したこと、又はそれらが健常対象と有意には異ならないことを意味する。説明したように、バリアの完全性又はその回復は、本明細書に開示される方法を使用して評価することができる。
【0120】
投与レジメンは、バリア機能障害の重症度に適合していてもよい。軽度の重症度の場合、レジメンは、3日毎の投与を含みうる。中等度の重症度の場合、レジメンは、2日毎の投与を含みうる。重度の重症度の場合、レジメンは、毎日の投与を含みうる。
【0121】
生体バリア機能障害に関連することが公知である疾患又は状態がない場合、レジメンは、3日毎又は2日毎とすることができる。
【0122】
本発明の更なる定義、特徴及び態様:
「ペプチド」又は「複数のペプチド」又は「ペプチド(複数可)」の投与又は使用は、包括的な言い回しであり、本発明は、1種の個別のペプチド又は複数の個別のペプチドの投与又は使用、すなわち、本開示による少なくとも2種のペプチドの投与又は使用を範囲に含む。したがって、本開示において、単数形又は複数形は、そうでないことが指示されない限りは限定的ではなく、その都度、1種の個別のペプチド又は少なくとも2種のペプチドを範囲に含む。同じことが、同等の言い回しである「ペプチド化合物」についても成り立ち、これは「ペプチド」と互換的に使用することができる。
【0123】
「処置すること」、「処置される」、又は「処置する」は、本発明によるペプチド化合物のある定量を対象に送達することを意味する。本明細書で使用されるこれらの用語は、望ましくない生理的状態、障害若しくは疾患を遅らせる(軽減する)こと、又は有益な若しくは所望の臨床結果を得ることを目的とする治療薬を意味する。本発明の目的において、有益な又は所望の臨床結果としては、生体バリア機能障害又はタイトジャンクション機能障害等の身体機能障害をモジュレートすること、安定化すること、是正することが挙げられるが、これらに限定されず、これには、それに関連する1種又は複数のマーカー、例えば、クローディン-5のレベル又は分布、オクルディンレベル、Ktrans、Qalb等をモジュレートすること、安定化すること、是正すること、増加させること、減らすことが含まれうる。本発明の目的において、有益な又は所望の臨床結果には、症状、状態、障害若しくは疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、症状、状態、障害若しくは疾患の発生又は進行の遅延、症状、状態、障害若しくは疾患の状態の改善、及び正常機能の実質的な再建、又は状態、障害若しくは疾患の向上若しくは改善を伴う寛解(部分的であるか完全であるかを問わない)も含まれる。「処置すること」、「処置される」又は「処置する」という用語は、身体機能障害又は付随する可能性のある症状を予防すること、抑制すること、抑止すること、改善すること、又は完全に排除することを含みうる。疾患を予防することは、身体機能障害又はそれに付随する症状の発生の前に、本発明の組成物を対象に投与することを含みうる。これらの疾患症状を抑制することは、疾患の誘導後ではあるがその臨床的出現の前に、本発明の組成物を対象に投与することを含みうる。これらの疾患症状を抑止するか又は改善することは、これらの疾患症状の臨床的出現の後に本発明の組成物を対象に投与することを含みうる。
【0124】
「有効量」、「十分量」、及び「治療有効量」等の類似語は、別段の定義がない限り、本明細書において互換的に使用され、所望の治療結果を達成するために必要な期間にわたって有効な本発明の1種又は複数のペプチドの投与量を意味する。有効投与量は当業者によって決定可能であり、個体の疾病状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する薬物の能力等の因子に従って変化しうる。本明細書で使用されるこの用語はまた、対象において所望のインビボ効果、特に生体バリアの安定化又は回復をもたらすのに有効な量も指すことができる。治療有効量は、1回又は複数回の投与(例えば、組成物は、疾患進行の任意の段階で、症状の前又は後等に、予防的処置として又は治療的に与えられうる)、適用、又は投与量で投与可能であり、特定の製剤、組合せ、又は投与経路に限定されることを意図したものではない。ペプチドを対象の処置の過程の様々な時点で投与しうることは、本開示の範囲内である。投与時間及び使用される投与量は、処置の目標(例えば、処置であるか予防であるか)、対象の状態等のいくつかの因子に依存し、当業者によって容易に決定されうる。治療有効量はまた、治療上有益な効果が物質のいかなる毒性又は有害な効果も上回る量でもある。「予防有効量」は、所望の予防的結果を達成するために必要な投与量で及び期間にわたり有効な量を指す。典型的には、予防用量は疾患の前又は早期段階で対象に使用されるため、予防有効量は治療有効量よりも少なくてよい。「有効量」、「十分量」はまた、ペプチドの量を別々に考慮する場合、及び/又は別の有効成分との組合せを考慮する場合には、異なるペプチドの組合せも考慮に入れることができ、これを理由として、例えば、組合せ中の1種又は2種の薬物の用量を、組合せ効果又は相乗効果の結果によって減らすことができる。
【0125】
「含む(comprise(s))」、「含む(include(s))」、「有する(having)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含有する(contains(s))」という用語、及びそれらの変形は、本明細書で使用される場合、更なる作用又は生成物、例えば、ペプチド、化合物、又は薬物の可能性を排除しない、オープンエンドの移行句、用語、又は語であることが意図される。単数形「1つの(a)」、「及び(and)」、及び「その(the)」は、文脈から別段のことが明確に示されない限り、複数形の言及を含む。本開示はまた、明示的に記載されているか否かにかかわらず、本明細書に提示される実施形態又は要素「を含む」、「からなる」、及び「から本質的になる」他の実施形態も想定している。
【0126】
「患者又は対象」は、動物、特にヒトを含む哺乳動物を意味する。一実施形態では、対象はヒトである。他の実施形態では、対象は大型動物若しくは家畜、伴侶動物(例えば、ネコ、イヌ)又は競技用動物(例えば、ウマ)である。
【0127】
本発明の処置の使用又は方法の一実施形態では、以下の疾患のうちの1つ又は複数を除外しうる:パーキンソン病(PD)、多発性硬化症(MS)、ミオパチー、脊髄損傷(SCI)又は視神経損傷(ONI)等の非脳神経系損傷、タウオパチー(すなわち、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病等のタウ陽性前頭側頭型認知症、レビー小体を伴う認知症、大脳皮質基底核変性症、ニーマン・ピック病C型、ボクサー認知症を含む慢性外傷性脳症、脳炎後パーキンソニズムのうちのいずれかを含むタウ陽性神経変性疾患)。以下のものを個別に除外しうる:アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病等のタウ陽性前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症、ニーマン・ピック病C型、ボクサー認知症を含む慢性外傷性脳症、脳炎後パーキンソニズム、脳虚血、CNS神経外傷(すなわち、脊髄又は脳の損傷)病態、ウイルス性神経変性症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、ハンチントン病、プリオン病、PSP、多系統萎縮症、副腎白質ジストロフィー、ダウン症候群。
【0128】
本発明をここで、図面を参照しながら非限定的な例を使用して、更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【
図1】NX218はマウス脳内皮細胞単層の経内皮電気抵抗をインビトロで用量依存的に増加させる。Transwellインサート上で増殖させたマウス脳内皮bEnd.3細胞の経内皮電気抵抗(TEER)を、ビヒクル又は種々の用量のNX218(1、10、100μM)への24時間(A)、48時間(B)又は72時間(C)の曝露後に測定した。一元配置ANOVAに続いてDunnettの多重比較検定を行った:対照群と比較して***p<0.0001、**p<0.001、*p<0.05、n=6/群(A)及びn=9/群(B、C)。
【
図2】NX218はマウス脳内皮細胞単層の透過性をインビトロで用量依存的に低下させる。Transwellインサート上で増殖させたマウス脳内皮bEnd.3細胞のFITC-40kDaデキストランに対する透過性を、ビヒクル又は種々の用量のNX218(1、10、100μM)への24時間(A)、48時間(B)又は72時間(C)の曝露後に測定した。一元配置ANOVAに続いてDunnettの多重比較検定を行った:対照群との比較で**p<0.001、*p<0.05、n=3/群。
【
図3】NX218による24時間の処置は、マウス脳内皮細胞培養物におけるタイトジャンクションでのクローディン-5の発現を増加させる。マウス脳内皮bEnd.3細胞を、ビヒクル又は種々の用量のNX218(1、10、100μM)への24時間(A)、48時間(B)又は72時間(C)の曝露後に固定して、クローディン-5について染色した。膜局在部でのクローディン-5の免疫反応性を最終的に定量化して、タイトジャンクションでのクローディン-5タンパク質レベルを評価した。一元配置ANOVAに続いてDunnettの多重比較検定を行った:対照群との比較で***p<0.0001、*p<0.05、n=6/群(A、B)及びn=4/群(C)。クローディン-5(赤)について免疫染色した内皮細胞の代表的な顕微鏡写真(D、スケールバー:50μm)。
【
図4】NX218は初代ラット脈絡叢上皮細胞単層の透過性をインビトロで用量依存的に低下させる。Transwellインサート上で増殖させた初代ラット脈絡叢上皮細胞の[14C]-スクロースに対する透過性を、ビヒクル又は種々の用量のNX218(192、768μM)への2時間の曝露後に測定した(0~90分)(A)。一元配置ANOVAに続いてDunnettの多重比較検定を行った:対照群との比較で***p<0.0001、*p<0.05、n=4/群。
【
図5】NX218による72時間の処置は、マウス脳内皮細胞培養物におけるタイトジャンクションでのクローディン-5の発現を増加させる。マウス脳内皮bEnd.3細胞をビヒクル又は種々の用量のNX218(1、10、100μM)に72時間曝露させ、その後に固定してクローディン-5について染色した。膜局在部でのクローディン-5の免疫反応性を最終的に定量化し、タイトジャンクションでのクローディン-5タンパク質レベルを評価した。一元配置ANOVAに続いてDunnettの多重比較検定を行った:対照群との比較で*p<0.05、n=5。
【
図6】NX218による24時間の処置は、マウス脳内皮細胞培養物におけるオクルディンの発現を増加させる。マウス脳内皮bEnd.3細胞をビヒクル又は種々の用量のNX218(1、10、100μM)に24時間曝露させて、細胞層を収集してウェスタンブロットを行い、オクルディンのタンパク質レベルを定量した。一元配置ANOVAに続いてDunnettの多重比較検定を行った:対照群との比較で**p<0.01、*p<0.05、n=8(A)。オクルディンに対する対応する代表的なウェスタンブロット(B)。
【実施例】
【0130】
NXペプチドの合成
配列番号1、2の配列、又は配列3~63のうちのいずれかのペプチド、特に実施例の部分で使用されるペプチド、例えば、NX210(配列番号3)の製造プロセスは、ペプチドの構築における構成単位としてN-α-Fmoc(側鎖)保護アミノ酸を適用する固相ペプチド合成に基づく。使用したプロトコールは、MBHA樹脂上でのC末端グリシンとMPPAリンカーに結合したN-α-Fmoc保護アミノ酸とのカップリングとそれに続くFmocカップリング/脱保護のシーケンスからなる。樹脂上でのペプチドの構築の後に、樹脂からのペプチドの切断とアミノ酸側鎖の脱保護とを同時に行う工程を実施する。
【0131】
粗ペプチドを沈殿させて濾過し、乾燥させる。分取逆相クロマトグラフィーによる精製の前に、ペプチドを、アセトニトリルを含有する水性溶液に溶解させる。溶液中の精製ペプチドを濃縮し、その後にイオン交換工程を行って、ペプチドをその酢酸塩の形態で得る。
【0132】
合成の詳細について、当業者は米国特許第6,995,140号及びWO2018146283号を参照することができ、本明細書に開示されるペプチドの酸化型については、WO 2017/051135号を参照することができ、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0133】
当業者は更に、N末端及びC末端が改変又は保護されたペプチドを含む本発明の開示されるペプチドのいずれかを生産するための標準的な方法を利用することができる。N末端及びC末端のそれぞれでのペプチドのアセチル化及び/又はアミド化については、当業者は標準的な手法を参照することができ、例えば、同じく参照により本明細書に組み込まれる、Biophysical Journal、95巻、2008年11月、4879~4889頁に記載されているものを参照することができる。
【実施例】
【0134】
環状NXペプチドの合成
配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gのポリペプチドをヒト血清アルブミン(HSA)に1:1の比率で添加し、室温で空気中で撹拌しながら1~3時間インキュベートした。HPLCを使用することによって、本発明者らは、2つのシステインがジスルフィド架橋によって連結されたポリペプチド配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gに対応するピークの形成を観察した。沈殿によってアルブミンを除去した後、続いて生成物を精製し、HPLCによって分析した。アルブミンの量が少ないほど排除が容易であることを把握した上で、異なる比率のアルブミン及び配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gに対応するポリペプチドを使用することにより、環化速度及び環化の最終収率に影響を及ぼすことが可能となる。環化化合物はNX218である。
【0135】
当業者は、合成の更なる詳細についてWO 2017051135号を参照することができる。この文書は参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0136】
マウス脳内皮細胞単層の経内皮電気抵抗に対するNX218の効果
Greeneら、2019年によれば、タイトジャンクションの強化により、高い電気抵抗が生じる。本実験は、電気抵抗に対するペプチドの効果を実証することを目的とする。
【0137】
マウス脳内皮細胞の経内皮電気抵抗(TEER)に対するNX218の効果を決定するために、培養ウェルに挿入した半透過性膜上でNX218の存在下又は非存在下にて細胞を増殖させ、膜の両側に配置した電極と抵抗計とを使用してTEERを記録した。
【0138】
細胞培養:
マウス脳内皮細胞(bEnd.3、American Type Culture Collection)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)及び2mMピルビン酸ナトリウムを添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、5% CO2インキュベーター内にて37℃で培養した。
【0139】
TEER測定:
bEnd.3細胞を、直径6.5mm、孔径0.4μmのポリエステル膜HTS Transwellインサート上で増殖させた(1ウェル当たり5×104個の細胞、頂端コンパートメント及び基底コンパートメントにそれぞれ200μL及び800μLの培養培地を含有する)。播種の3日後に、細胞をビヒクル又はNX218(1、10及び100μM)により1、2又は3日間処置した。TEER値は、「チョップスティック」電極を装着したEVOM抵抗計を使用して測定した。一方の電極を頂端チャンバーに、もう一方の電極を基底外側チャンバーに配置した。測定前に、チャンバーを新鮮な培地に交換した。
【0140】
結果:
結果を、以下の
図1並びにTable 1(表3)、Table 2(表4)及びTable 3(表5)に示す。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
結論:
内皮細胞単層を10及び100μMのNX218により1、2又は3日間処置した場合に、ビヒクルで処置した内皮細胞単層と比較して、抵抗性は用量依存的な様式で有意に増加した。
【実施例】
【0145】
マウス脳内皮細胞単層の透過性に対するNX218の効果
Greeneら、2019年によれば、FITCデキストランは脳内皮細胞の透過性のモニタリングを可能にする。
【0146】
マウス脳内皮細胞の40kDa FITCデキストランに対する透過性に対するNX218の効果を決定するために、培養ウェルに挿入した半透過性膜上でNX218の存在下又は非存在下にて細胞を増殖させた。続いて、FITCデキストランを(細胞を含む)頂端チャンバー上に配置し、1時間後にそのレベルを基底外側チャンバーで測定した(蛍光に基づく)。
【0147】
細胞培養:
マウス脳内皮細胞(bEnd.3、American Type Culture Collection)を、10% FBS及び2mMピルビン酸ナトリウムを添加したDMEM中で、5% CO2インキュベーター内にて37℃で培養した。
【0148】
透過性アッセイ:
bEnd.3細胞を、1%フィブロネクチンでコーティングした孔径0.4μmのCorning HTS 24ウェルTranswellポリエステルインサート上で集密化するまで増殖させ(1ウェル当たり5×104個の細胞、頂端コンパートメント及び基底外側コンパートメントにそれぞれ200μL及び800μLの培地を含有する)、ビヒクル又はNX218(1、10及び100μM)により1、2又は3日間処置した。10% FBS及び2mMピルビン酸ナトリウムを添加したDMEM中の40kDa FITCデキストラン1mg/mLの200μLを各ウェルの頂端チャンバーに添加し、細胞を37℃でインキュベートした。サンプリング用アリコートを基底外側チャンバーから採取し、1時間にわたり15分毎に新鮮な培地と交換し、続いて96ウェルプレートに移した。FITCデキストラン蛍光は、分光蛍光計を使用して励起波長485nm及び発光波長520nmで決定した。相対蛍光単位は、FITC-デキストラン標準曲線を使用して1ミリリットル当たりのナノグラムの値に変換し、実験の過程でバックグラウンド蛍光及び連続希釈について補正した。データは、内皮透過性係数(Pe)としてcm/分単位で表される。
【0149】
結果:
結果を、
図2並びに以下のTable 4(表6)、Table 5(表7)及びTable 6(表8)に示す。
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
結論:
NX218により処置した内皮細胞単層について、用量依存的な様式でFITCデキストランに対する透過性の強い低下が観察され、最も高い用量について処置の2又は3日後に特にそうであった。
【実施例】
【0154】
マウス脳内皮細胞培養におけるタイトジャンクションでのクローディン-5の発現に対するNX218の効果
実施例3及び4におけるマウス脳内皮細胞のTEER及び透過性に対するNX218の効果を把握するために、タイトジャンクションタンパク質クローディン-5のレベルを免疫細胞化学を使用して評価した。
【0155】
細胞培養:
マウス脳内皮細胞(bEnd.3、American Type Culture Collection)を、10%胎仔FBS及び2mMピルビン酸ナトリウムを添加したDMEM中で、5% CO2インキュベーター内にて37℃で培養した。
【0156】
免疫細胞化学:
bEnd.3細胞を、培地中の1%フィブロネクチンでコーティングしたNunc Lab-Tek II Chamber Slides上に播種した(300μL中に1ウェル当たり細胞1×105個)。播種の2日後に、細胞をビヒクル又はNX218(1、10及び100μM)により1、2又は3日間処置した。続いて、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の4%パラホルムアルデヒドにより室温(RT)で10分間固定して、PBSで2回洗浄し、PBS中の5%正常ヤギ血清及び0.05% Triton X-100と共にRTで1時間インキュベートし、その後にポリクローナルウサギ抗クローディン-5(1/100、34-1600、Invitrogen社)とのインキュベーションを4℃で一晩行った。続いて、細胞をPBSで3回洗浄し、ヤギ抗ウサギCy3二次抗体(1/500、ab6939、Abcam社)と共にRTで2時間インキュベートして、Hoechst 33258で対比染色して核を可視化した。スライドをチャンバーから取り出して、Aqua Poly/Mountでマウントした後に、共焦点レーザー走査/顕微鏡によって可視化した。最後に、膜局在部でのクローディン-5の免疫反応性(強度)を定量して、クローディン-5タンパク質レベルを評価した。データは対照条件に対するパーセンテージで表される。
【0157】
結果:
結果を、
図3及び以下のTable 7(表9)、Table 8(表10)及びTable 9(表11)に示す。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
結論:
2又は3日間の処置後のレベルは対照とNX218条件の間で同程度であったが、内皮細胞単層を10及び100μMのNX218により24時間処置した場合には、クローディン-5レベルの有意な増加が観察された。したがって、NX218によって誘導されたクローディン-5レベルの上昇は、NX218の存在下でマウス内皮脳細胞で観察されたTEERの増加及び透過性の低下に寄与する可能性がある。
【実施例】
【0162】
初代ラット脈絡叢上皮細胞単層の透過性に対するNX218の効果
[14C]-スクロースに対する透過性は、BBB透過性を評価するためのモデルである(Greeneら、2019年)。
【0163】
初代ラット脈絡叢上皮細胞単層の放射性標識スクロースに対する透過性に対するNX218の効果を決定するために、培養ウェルに挿入した半透過性膜上でNX218の存在下又は非存在下にて細胞を増殖させた。続いて[14C]-スクロースを(細胞を含有する)頂端チャンバー上に配置して、それを最長2時間後まで基底外側チャンバーで定量した。
【0164】
ラットから単離した側脳室脈絡叢から脈絡叢上皮細胞(CPEC)を調製し、以前に記載されているように培養した(Strazielleら、1999年)。細胞をポリカーボネート膜(孔径0.4μm、増殖面積0.33cm2)上にプレーティングし、血液に面するその膜上でNX218(0,250、及び1000μg/mL)に曝露させて、37℃で2時間、スクロースについて標識した。アクセプターコンパートメントからアリコートを繰り返しサンプリングした(12分後、25分後、40分後、60分後、90分後及び120分後)。
【0165】
結果:
結果を、
図4、Table 10(表12)及びTable 11(表13)に示す。
【0166】
【0167】
【0168】
結論:
最も高い用量(768μM)のNX218で処置した上皮細胞単層では、処置の1時間30分後という早い段階で、[14C]-スクロースに対する透過性の強い低下が観察された。
【実施例】
【0169】
マウス脳内皮細胞培養におけるタイトジャンクションでのクローディン-5の発現に対する72時間時点でのNX218の効果
実施例5に記載したプロトコールを使用して第2の独立した実験を行った。2つの実験(最初の実験は3回ずつ、2番目の実験は2回ずつ、n=5)からのデータをプールすることにより、統計的検出力が向上し、72時間時点で観察された傾向について統計的有意性に達することができた。
【0170】
結果:
結果を、以下の
図5及びTable 12(表14)に示す。
【0171】
【0172】
結論:
内皮細胞単層を100μMのNX218で処置した場合、クローディン-5レベルの増加は少なくとも72時間維持された。
【実施例】
【0173】
マウス脳内皮細胞培養におけるオクルディンの発現に対するNX218の効果
マウス脳内皮細胞のTEER及び透過性に対するNX218の効果を把握するために、タイトジャンクションタンパク質オクルディンのレベルをウェスタンブロットを使用して評価した。
【0174】
細胞培養:
マウス脳内皮細胞(bEnd.3、American Type Culture Collection)を、10%胎仔FBS及び2mMピルビン酸ナトリウムを添加したDMEM中で、5% CO2インキュベーター内にて37℃で培養した。
【0175】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロット分析のためにbEnd.3細胞を12ウェルプレート上に播種した(1,000μL中で1ウェル当たり細胞2.5×105個)。播種の2日後に、細胞をビヒクル又はNX218(1、10及び100μM)により24時間処置した。溶解緩衝液(62.5mM Tris、2% SDS、10mMジチオトレイトール、10μLプロテアーゼ阻害剤カクテル/100mL(Sigma-Aldrich社))を使用してタンパク質を細胞層から単離し、4℃、12,000rpmで20分間遠心分離し、上清をタイトジャンクションタンパク質の分析のために使用した。タンパク質濃度はPierce BCAタンパク質アッセイ(Thermo Scientific社)により決定した。10μLのサンプル及び標準物質(作業範囲=125~2000μg/mL)を96ウェルプレートに二重にローディングし、200μLの作業用試薬(BCA試薬A及びBCA試薬Bを50対1で)を各ウェルに添加して、振盪器上で混合し、37℃で30分間インキュベートした。プレートを室温まで冷まし、吸光度を562nmで読み取った。タンパク質濃度は標準曲線から計算した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%アクリルアミド)による分離のために、1ウェル当たり10μgの総タンパク質をローディングした。セミドライトランスファーを介してゲルをメタノール活性化ポリビニリデンジフルオリド膜(Merck Millipore社)上に転写した。転写した膜をメタノールで再活性化して、3%質量/容量のMarvel社無脂肪ドライミルクを含有するtris緩衝食塩水(TBS)-Tween-20中で少しずつ撹拌しながら、室温で1時間ブロックした。ブロックした膜をTBS-Tween-20で3回洗浄し、オクルディン(Novus Biotech社、ref. NBP1-87402、65kDa、1/1000希釈)に対する一次ウサギポリクローナル抗体により4℃で一晩処置した。膜をTBS-Tween-20中で5分間ずつ3回洗浄し、TBS-Tween-20中に1/2,000希釈したワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ二次抗体(A6154、Sigma-Aldrich社)と共に室温で2時間インキュベートした。二次抗体を除去して、膜をTBS-Tween-20中で5分間ずつ4回洗浄した。ブロットは増強化学発光(ECL)によって発色させた。WesternBright ECL Luminol/エンハンサー溶液とPeroxide Chemiluminescent溶液(Advansta社)の1:1混合物を室温で2分間インキュベートした後、洗浄したブロット上に直接添加した。LiCor C-Digit Blot Scannerを使用して、12分間の曝露時間にわたって化学発光を検出した。
【0176】
結果:
結果を、以下の
図6及びTable 13(表15)に示す。
【0177】
【0178】
結論:
オクルディンタンパク質レベルの有意な上昇が、1、10及び100μMのNX218により処置した内皮細胞単層において、処置の24時間後に対照と比較して観察された(対照と比較してNX210cの1、10、100μMでそれぞれ+26.3%、+41.1%、+36.8%、p=0.0309、p=0.0053、p=0.0112)。
【実施例】
【0179】
初代ヒト臍帯静脈内皮細胞単層の経内皮電気抵抗に対するNX218の効果
初代ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の経内皮電気抵抗(TEER)に対するNX218の効果を決定するために、培養ウェルに挿入した半透過性膜上でNX218の存在下又は非存在下にて細胞を増殖させ、膜の両側に配置した電極と抵抗計とを使用してTEERを記録した。
【0180】
細胞培養:
HUVEC(PromoCell社、C-12208)を、Bullet Kit試薬(いずれもLonza社)を添加したEBM-2基礎培地中で、5% CO2インキュベーター内にて37℃で培養した。
【0181】
TEER測定:
HUVECを、直径6.5mmで孔径0.4μmのポリエステル膜HTS Transwellインサート上で増殖させた(1ウェル当たり細胞5×104個、頂端及び基底外側コンパートメントに200μL及び800μLの培地を含有する)。播種の2日後に、細胞をビヒクル又はNX218(1、10及び100μM)により1又は3日間処置した。TEER値は、「チョップスティック」電極を装着したEVOM抵抗計を使用して測定した。一方の電極を頂端チャンバーに、もう一方の電極を基底外側チャンバーに配置した。測定前に、チャンバーを新鮮な培地に交換した。
【0182】
結果:
結果を、以下のTable 14(表16)及びTable 15(表17)に示す。
【0183】
【0184】
【0185】
結論:
ヒト臍帯静脈内皮細胞単層を100μMのNX218により1又は3日間処置した場合には、ビヒクルで処置した内皮細胞単層と比較して、抵抗が用量依存的な様式で有意に増加した。
参考文献(参照により本明細書に組み込まれる):
[参考文献]
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列
X1-W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G-X2(配列番号1)
のペプチド
を含む、生体バリア機能障害を処置するための医薬組成物であって、
式中、
- A1、A2、A3及びA4は、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなり、
- X1及びX2は、1~6個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなるか、又はX1及びX2は存在せず、
- N末端アミノ酸がアセチル化されること、C末端アミノ酸がアミド化されること、又はN末端アミノ酸がアセチル化されてかつC末端アミノ酸がアミド化されることが可能であ
り、
前記ペプチドが、生体バリア透過性を低下させる
、医薬組成物。
【請求項2】
生体バリア機能障害が、生体バリアの内皮層若しくは上皮層を形成する隣接細胞間のタイトジャンクションの変化、経内皮及び/若しくは経上皮電気抵抗の減少、クローディン-5の発現若しくは分布の調節異常、及び/又は特定の化合物若しくは分子のトランスコンパートメント透過性の調節異常を含む、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
生体バリアが、血液脳関門、血液脊髄関門、内血液網膜関門、血液脳脊髄液関門、肺内皮バリア、血管-実質又は血管-体液バリアである、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
生体バリア機能障害が、血管疾患、感染症、免疫系応答性亢進、炎症性疾患又は自己免疫疾患、慢性腎臓病、腸疾患、黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、てんかん、CNS疾患及び障害、並びに加齢を含む疾患又は状態において生じるものである、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
ペプチドが、アミノ酸配列W-S-A1-W-S-A2-C-S-A3-A4-C-G(配列番号2)であり、式中、A1、A2、A3及びA4が、1~5個のアミノ酸からなるアミノ酸配列からなる、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
- A1が、G、V、S、P及び
Aから選択され、
- A2が、G、V、S、P及び
Aから選択され、
- A3が、R、A及び
Vから選択され、並びに/又は
- A4が、S、T、P及び
Aから選択される、
請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
- A1が、G、Sから選択され、
- A2が、G、Sから選択され、
- A3が、R、Vから選択され、及び/又は
- A4が、S、Tから選択される、
請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
A1及びA2が、G及びSから独立して選択され、並びに/又はA3-A4が、R-S若しくはV-S若しくはV-T若しくはR-Tから選択される、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
ペプチドが、配列番号3~63の配列からなる群から選択される配列である、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項10】
ペプチドが、配列番号1又は2のペプチド式に現れる2つのシステインがジスルフィド架橋を形成する直鎖状ペプチド又は環状ペプチドである、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項11】
ペプチドが、配列番号3の配列のペプチドであり、2つのシステインがジスルフィド架橋を形成する直鎖状ペプチド又は環状ペプチドであるか又は両方の混合物である、請求項
1に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項12】
ペプチドが、配列番号3の配列のペプチドであり、2つのシステインがジスルフィド架橋を形成する環状ペプチドである、請求項
1に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項13】
生体バリア機能障害、変質したタイトジャンクション、クローディン-5の異常な発現レベル又は分布、生体バリアのレベルでの経内皮及び/又は経上皮電気抵抗の調節異常、特定の化合物又は分子のトランスコンパートメント透過性の調節異常を有すると決定された患者において使用するための、
請求項1に記載の
医薬組成物。
【国際調査報告】