(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-20
(54)【発明の名称】優れた金属接着特性を有するTFE系フルオロポリマー
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241113BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241113BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241113BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20241113BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20241113BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
H01G11/86
H01G11/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531658
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2022083346
(87)【国際公開番号】W WO2023094622
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ミッレファンティ, ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】マラーニ, アレッシオ
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA44
5E078BB21
5E078BB23
5E078BB34
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA24
5H050GA10
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、電池用の電極のための結合剤として使用するための、優れた金属接着特性を有するVDF系フルオロポリマーに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学デバイス用の電極の作製に使用するためのバインダー組成物[バインダー(B)]であって、
-フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
-テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位と
を含むVDF系コポリマー[ポリマー(A)]を含み、
ポリマー(A)が、少なくとも2つの融点を有し、1つの融点が220℃より低く、1つの融点が250℃より高いことを特徴とするバインダー組成物[バインダー(B)]。
【請求項2】
ポリマー(A)が、180℃未満の1つの融点及び300℃より高い1つの融点を有する、請求項1に記載のバインダー(B)。
【請求項3】
ポリマー(A)が、エチレン、プロピレン、イソブチレン、フッ素化コモノマー、例えば、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フルオロジオキソール、フルオロジオキサラン、ペルフルオロアルキルエチレンモノマー(例えばペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペルフルオロヘキシルエチレン(PFHE)及びペルフルオロオクチルエチレン(PFOE))、及びペルフルオロアルキルビニルエーテルモノマー(例えば、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、及びペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE))からなる群から選択される少なくとも1つの他のモノマーを更に含有する、請求項1又は2に記載のバインダー(B)。
【請求項4】
電気化学デバイス用の電極の作製に使用するための電極形成組成物[組成物(C)]であって、
a)少なくとも1種の電極活物質(AM)と;
b)請求項1~3のいずれか一項に記載のバインダー(B)と;
c)任意選択的に、少なくとも1種の導電剤と
を含むことを特徴とする電極形成組成物[組成物(C)]。
【請求項5】
電気化学セル用の電極[電極(E)]を製造するための方法であって、
-A)請求項1~3のいずれか一項に記載のVDF系コポリマー[ポリマー(A)]を提供すること;
-B)溶媒の非存在下で、少なくとも1種の電極活物質(AM)、上で定義したような前記ポリマー(A)、及び任意選択的に、少なくとも1種の導電剤を乾式混合して、乾燥電極形成組成物[組成物(C)]を提供すること;
-C)工程B)において得られた前記組成物(C)を圧縮機に供給して、自己支持性乾燥フィルムを形成すること;及び
-D)前記乾燥フィルムを導電性基板に適用して、前記電極を形成すること
を含む方法。
【請求項6】
工程B)において、前記乾式混合が、均一な乾燥混合物が形成されるまで、例えば、ミル、ミキサー又はブレンダー中で行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程C)が、200℃以下の温度、好ましくは180℃未満の温度で行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、二次電池のための電極(E)。
【請求項9】
請求項8に記載の少なくとも1つの電極(E)を含む、二次電池又はキャパシタなどの電気化学デバイス。
【請求項10】
前記電気化学デバイスが、
-正極及び負極
を含む二次電池であり、
前記正極及び前記負極のうちの少なくとも1つが、請求項8に記載の電極(E)である、請求項9に記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
前記電気化学デバイスが、
-正極及び負極
を含む二次電池であり、
前記正極が、請求項8に記載の電極(E)である、請求項11に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月29日出願の欧州特許出願第21211097.7号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、電池用の電極のための結合剤として使用するための、優れた金属接着特性を有するVDF系フルオロポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
これまで、リチウム二次電池の電極は、電極活物質、添加剤及びバインダーが、溶媒又は水性媒体中に分散されたスラリーを調製すること、及び電極フィルムを形成するようにスラリーを処理することを含む湿式プロセスによって主に製造される。
【0004】
VDFの割合が50~80モル%であるフッ化ビニリデン(VDF)及びテトラフルオロエチレン(TFE)のコポリマーが、湿式プロセスによる二次電池用の電極の作製のためのバインダーとしての使用で知られている。欧州特許第0964464号明細書は、例えば、活物質及び有機溶媒、例えばNMPを含む電極形成スラリー組成物の調製における、少なくとも60モル%のVDFに由来する繰り返し単位を含むVDF/TFEコポリマーの使用を開示しており;前記電極形成スラリー組成物は、電極を作製するために金属箔上に被覆される。
【0005】
乾式電極プロセスは、上記の湿式プロセスによって必要とされる時間及びコストのかかる乾燥手順を減少させるために開発された。
【0006】
典型的な乾式プロセスは、特定のポリマーのフィブリル化性を用いて、埋め込まれる導電性材料のためのマトリックスを提供する。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの、フルオロポリマーのファミリーにおけるポリマーのいくつかは、高い作動温度又は貯蔵温度で有機溶媒を用いるものでさえ、二次電池において使用される一般的な電極溶媒中で特に不活性であり、安定している。
【0007】
例えば、乾式電極作製プロセスは、PTFEバインダーを、粉末形態の活電極物質と組み合わせること、及びカレンダー加工して、電極フィルムを形成することを含み得る。
【0008】
しかしながら、PTFEは、電極活物質との良好な結合を有し、活電極物質とともにPTFEバインダーの自立性フィルムを形成し得るが、集電体に対する接着性に困難がある。
【0009】
本出願人は、特定のVDF系フルオロポリマーが、PTFEに関して金属に対する改善された接着性を示すと同時に、良好な加工性を有することにより、低温での乾式プロセス又は押し出しによる電極の作製に適しており、それによって、非常に効率的なプロセスによって電極を提供することを意外にも発見した。
【発明の概要】
【0010】
ここで、電気化学デバイス用の電極の作製に使用するためのバインダー組成物[バインダー(B)]であって、
-フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
-テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位と
を含むVDF系コポリマー[ポリマー(A)]を含み、
ポリマー(A)が、少なくとも2つの融点を有し、1つの融点が220℃より低く、1つの融点が250℃より高いことを特徴とするバインダー組成物[バインダー(B)]が、本明細書で提供される。
【0011】
別の態様において、本発明は、電気化学デバイス用の電極の作製に使用するための電極形成組成物[組成物(C)]であって、
a)少なくとも1種の電極活物質(AM)と;
b)上で定義したようなバインダー(B)と;
c)任意選択的に、少なくとも1種の導電剤と
を含む電極形成組成物[組成物(C)]を提供する。
【0012】
本出願人は、バインダー(B)が、その加工性により、低温での乾式プロセス又は押し出しによる電極の作製に適しており、それによって、非常に効率的なプロセスによって電極を提供することを意外にも発見した。
【0013】
ここで、別の態様において、本発明は、電気化学セル用の電極[電極(E)]を製造するための方法であって、
-A)上で定義したようなVDF系コポリマー[ポリマー(A)]を提供すること;
-B)溶媒の非存在下で、少なくとも1種の電極活物質(AM)、上で定義したようなポリマー(A)、及び任意選択的に、少なくとも1種の導電剤を乾式混合して、乾燥電極形成組成物[組成物(C)]を提供すること;
-C)工程B)において得られた組成物(C)を圧縮機に供給して、自己支持性乾燥フィルムを形成すること;及び
-D)乾燥フィルムを導電性基板に適用して、電極を形成すること
を含む方法を提供する。
【0014】
別の態様において、本発明は、上で定義したような方法によって得ることができる、二次電池のための電極(E)を提供する。
【0015】
更なる態様において、本発明は、上で定義したような少なくとも1つの電極(E)を含む、二次電池又はキャパシタなどの電気化学デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に関連して、用語「重量パーセント」(重量%)は、特定の成分の重量と混合物の総重量との間の比として算出される、混合物中の特定の成分の含量を示す。ポリマー/コポリマー中のある種のモノマーに由来する繰り返し単位に言及する場合、重量パーセント(重量%)は、ポリマー/コポリマーの総重量に対する当該モノマーの繰り返し単位の重量の間の比を示す。液体組成物の総固形分に言及する場合、重量パーセント(重量%)は、液体中の全ての非揮発性成分の重量の間の比を示す。
【0017】
本明細書において使用される際、用語「接着する」及び「接着」は、2つの層が、それらの接触面を介して互いに永続的に結合されることを示す。
【0018】
用語「電気化学デバイス」とは、正極と、負極と、液体電解質とを含む電気化学セル/アセンブリであって、単層又は多層のセパレータが前記電極の1つの少なくとも1つの表面と接触している電気化学セル/アセンブリを意味することが本明細書で意図される。好適な電気化学デバイスの非限定的な例としては、とりわけ、二次電池、特にリチウムイオン電池などのアルカリ又はアルカリ土類二次電池、鉛酸電池並びにキャパシタ、特にリチウムイオン系キャパシタ及び電気二重層キャパシタ(スーパーキャパシタ)が挙げられる。電気化学セルの非限定的な例としては、特に、電池、好ましくは、二次電池、電気二重層キャパシタが挙げられる。
【0019】
本発明の目的のために、「二次電池」とは、充電式電池を示すことを意図する。二次電池の非限定的な例は、特に、アルカリ又はアルカリ土類二次電池を含む。
【0020】
本明細書に記載されるポリマー(A)のそれぞれは、220℃より低い、好ましくは、180℃より低い少なくとも1つの溶融温度及び250℃より高い、さらには300℃より高い1つの溶融温度を有する。
【0021】
本出願人は、ポリマー(A)の少なくとも1つの融点が220℃未満である場合、少なくとも別のより高い融点が存在する(250℃より高い、或いは300℃より高い)場合でさえ、ポリマーが、金属に対する高い接着を示し、したがって、それが、金属集電体に対する高い接着を有する電極を作製するためのバインダーとして使用するのに好適であることを意外にも発見した。
【0022】
ポリマー(A)の溶融温度は、示差走査熱量測定(本明細書では以下、DSCとも呼ばれる)によって得られたDSC曲線から決定され得る。
【0023】
ポリマー(A)は、好ましくは半結晶性フッ素樹脂である。
【0024】
用語「半結晶性」は、骨格中に少なくとも1つの結晶化可能部分及び少なくとも1つの非晶質部分を含み、少なくとも一次可逆的相転移温度、例えば融点(固液転移)を示すポリマー(A)を意味することが本明細書で意図される。
【0025】
ポリマー(A)は、好ましくは、複数の吸熱ピークを有する半結晶性フッ素樹脂であり、より低い吸熱ピークの融解熱は、少なくとも1J/gである。
【0026】
更に、ポリマー(A)は、少なくとも約5モル%のVDFモノマーを含有する。
【0027】
ポリマー(A)は、任意選択的に、少なくとも1つの他のモノマーを含有し得る。ポリマー(A)に含まれ得る好適なコモノマーとしては、限定はされないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、フッ素化コモノマー、例えば、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フルオロジオキソール、フルオロジオキサラン、ペルフルオロアルキルエチレンモノマー(例えばペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペルフルオロヘキシルエチレン(PFHE)及びペルフルオロオクチルエチレン(PFOE))、及びペルフルオロアルキルビニルエーテルモノマー(例えば、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、及びペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE))が挙げられる。任意選択的なコモノマーは、約0.001モル%~約10モル%、約0.01モル%~約7モル%、又は約0.1モル%~約5モル%の量でポリマー(A)中に存在し得る。
【0028】
他の実施形態によると、ポリマー(A)は、本質的にVDF及びTFE由来の繰り返し単位からなる。
【0029】
ポリマー(A)中のVDF及びTFEモノマー繰り返し単位の量の決定は、任意の適切な方法によって実施することができる。とりわけNMR法を挙げることができる。
【0030】
ポリマー(A)は、その物理化学的特性に影響を与えることも損なうこともない、欠陥、末端基等などの他の部分を更に含み得る。
【0031】
ポリマー(A)は、文献で知られている手順に従って、有機媒体中の懸濁液中、又は水性エマルジョン中で、VDFモノマー、TFE及び任意選択的に、上で定義したような更なるコモノマーを重合することによって得られる。
【0032】
ポリマー(A)を調製するための手順は、ラジカル開始剤であるVDF、TFE及び任意選択的に、上で定義したような更なるコモノマーの存在下、任意選択的に連鎖移動剤及び反応容器内の分散剤の存在下、水性媒体中での重合を含む。
【0033】
一般に、本発明の方法は、少なくとも40℃、好ましくは少なくとも50℃、より好ましくは少なくとも60℃の温度で実行される。
【0034】
重合が懸濁液において実施される場合、ポリマー(A)は、典型的には、粉末の形態で提供される。
【0035】
ポリマー(A)を得るための重合がエマルションにおいて実施される場合、ポリマー(A)は、典型的には、水性分散液(D)の形態で提供され、分散液(D)は、乳化重合によって直接得られたままで又は濃縮工程後に使用され得る。好ましくは、分散液(D)中のポリマー(A)の固形分は、10重量%~50重量%に含まれる範囲である。
【0036】
乳化重合によって得られたポリマー(A)は、分散液の濃縮及び/又は凝固によって水性分散液(D)から単離することができ、その後の乾燥によって粉末形態で得ることができる。
【0037】
本発明のポリマー(A)は、好ましくは、例えば、国際公開第2018/189090号パンフレットに、国際公開第2018/189091号パンフレット及び国際公開第2018/189092号パンフレットに記載される手順に従って、水性重合媒体中での乳化重合によって得られる。
【0038】
本発明の一実施形態において、ポリマー(A)は、例えば、国際公開第2019/076901号パンフレットに記載される手順に従って、任意のフッ素系界面活性剤の非存在下で行われる方法による乳化重合によって有利に得られる。
【0039】
本明細書において使用される際、用語「融点」、「溶融温度(melt temperature)」、及び「溶融温度(melting temperature)」は、示差走査熱量測定(以後、DSCとも呼ばれる)から決定される際の融解吸熱ピークを定義することを意図する。DSC曲線が、複数の融解ピーク(吸熱ピーク)を示す場合、複数の溶融温度(Tm)が決定される。
【0040】
本発明の方法の工程B)において使用され得るポリマー(A)の量は、様々な要因の影響を受ける。1つのそのような要因は、活物質の表面積及び量、並びに電極形成組成物に添加される導電性付与添加剤の表面積及び量である。これらの要因は、バインダー粒子が導電材料粒子と導電性材料粒子との間にブリッジを提供し、それらを接触させ続けるため、重要であると考えられる。
【0041】
本発明の目的のためには、用語「電極活物質」は、電気化学セルの充電段階及び放電段階中にアルカリ若しくはアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れるか又は挿入する、及びそれから実質的に放出することができる化合物を意味することを意図する。電極活物質は、好ましくは、リチウムイオンを組み入れる又は挿入する、及び放出することができる。
【0042】
電極形成組成物(C)における電極活物質の性質は、上記組成物が負極(アノード)又は正極(カソード)の製造に使用されるかどうかによって異なる。
【0043】
リチウムイオン二次電池用の正極を形成する場合、電極活物質(AM)は、式LiMQ2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びV等の遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、O又はS等のカルコゲンである)の複合金属カルコゲナイドを含むことができる。これらの中でも、式LiMO2(式中、Mは、上で定義されたものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。これらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)及びスピネル構造化LiMn2O4を挙げることができる。
【0044】
代替形態として、リチウムイオン二次電池のための正極を形成する場合には更に、電極活物質(AM)は、式M1M2(JO4)fE1-f(式中、M1は、リチウムであり、M1金属の20%未満に対応する別のアルカリ金属によって部分的に置換され得、M2は、Fe、Mn、Ni又はこれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、0を含めてM2金属の35%未満に対応する、+1~+5の酸化レベルの1つ以上の更なる金属によって部分的に置換され得、JO4は、任意のオキシアニオンであり、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組合せのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、通常、0.75~1に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活物質を含み得る。
【0045】
上で定義したようなM1M2(JO4)fE1-f電気活物質は、好ましくは、ホスファートをベースとし、秩序立った又は修飾されたカンラン石構造を有し得る。
【0046】
より好ましくは、正極を形成する場合の電極活物質(AM)は、式Li3-xM’yM’’2-y(JO4)3(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは、遷移金属であり、JO4は、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換されていてもよいPO4であり、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである)を有する。更により好ましくは、電極活物質は、式Li(FexMn1-x)PO4(式中、0≦x≦1であり、xは好ましくは1である)のホスファート系の電気活物質である(すなわち式LiFePO4のリチウム鉄ホスファートである)。
【0047】
リチウムイオン二次電池用の負極を形成する場合、電極活物質(AM)は、好ましくは、1種以上の炭素系材料及び/又は1種以上のケイ素系材料を含み得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、炭素系材料は、天然若しくは人工グラファイト等のグラファイト、グラフェン、又はカーボンブラックから選択され得る。
【0049】
これらの材料は、単独で又はその2つ以上の混合物として使用され得る。
【0050】
炭素系材料は、好ましくは、グラファイトである。
【0051】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0052】
より具体的には、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であり得る。
【0053】
電極活物質中に存在する場合、ケイ素系化合物は、電気活性化合物の総重量に対して1~60重量%、好ましくは5~30重量%の範囲の量で含まれる。
【0054】
1種以上の任意選択的な導電性付与添加剤が、本発明の組成物から作製される結果として生じる電極の導電性を改善するために添加されてもよい。電池用の導電剤は、当該技術分野において公知である。
【0055】
それらの例には、カーボンブラック、グラファイト微粉末、カーボンナノチューブ、グラフェン、若しくは繊維等の炭素系材料、又はニッケル若しくはアルミニウム等の金属の微粉末若しくは繊維が挙げられ得る。任意選択の導電剤は、好ましくは、カーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、商標、Super P(登録商標)又はKetjenblack(登録商標)で入手可能である。
【0056】
存在する場合、導電剤は、上記の炭素系材料とは異なる。
【0057】
任意選択的な導電剤の量は、電極形成組成物中の総固形分の好ましくは0~30重量%である。特に、カソード形成組成物については、任意選択的な導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~10重量%、より好ましくは0重量%~5重量%である。
【0058】
ケイ素系電気活性化合物を含まないアノード形成組成物については、任意選択的な導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~5重量%、より好ましくは0重量%~2重量%であり、一方、ケイ素系電気活性化合物を含むアノード形成組成物については、より多い量の、典型的には、組成物内の固形分の総量の0.5~30重量%の任意選択的な導電剤を導入することが有益であることが分かった。
【0059】
工程B)において、電極活物質(AM)、上で定義したようなポリマー(A)、及び任意選択的に、少なくとも1種の導電剤を混合することは、これらの成分を、粒子混合物にいずれの溶媒、液体、加工助剤なども添加せずに乾式混合することによって行われる。乾式混合は、例えば、ミル、ミキサー又はブレンダー(高強度撹拌棒が装備されたVブレンダーなど)中で、均一な乾燥混合物が形成されるまで行われ得る。得られた材料は、何度もカレンダー加工されて、所望の厚さ及び密度の導電性フィルムを生成し得る。当業者は、本明細書を一読した後、混合時間が、バッチサイズ、材料、粒径、密度、並びに他の特性に基づいて変化してもよく、依然として本発明の範囲内のままであることを認識するであろう。
【0060】
本発明の方法の工程C)において、工程B)において得られた粉末状の乾燥混合物は、機械的圧縮工程に供されて、自己支持性乾燥フィルムが得られる。
【0061】
工程B)において得られた乾燥混合物の圧縮は、例えば、ローラー圧縮機又はタブレットプレスによって、機械的圧縮として行われ得るが、それはまた、圧延、堆積(build-up)として又はこの目的に適した任意の他の技術によって行われてもよい。
【0062】
機械的圧縮工程は、熱的圧密工程に関連し得る。加圧及び熱処理の組合せは、それが単独で行われる場合より低い温度での熱的圧密を可能にする。
【0063】
一実施形態において、機械的圧縮工程は、圧縮によって、好適には、工程B)において得られた乾燥混合物を2つの金属箔間で圧縮することによって行われる。
【0064】
圧縮工程は、ポリマー(A)の最高溶融温度より低い温度で行われ得る。
【0065】
圧縮工程は、好都合には、200℃以下の温度で、好ましくは180℃未満の温度で行われる。
【0066】
工程D)において、工程C)において得られた乾燥フィルムは、導電性基板上に適用されて、電極が形成される。
【0067】
基板材料のシートは、金属箔、特にアルミニウム箔を含み得る。
【0068】
ポリマー(A)の改善された接着のため、工程C)において得られた乾燥フィルムは、いずれのプライマー又は接着剤層も必要とせずに導電性基板上に適用され得る。
【0069】
本発明の電極(E)は、電気化学デバイスでの、特に二次電池での使用に特に好適である。
【0070】
一態様において、本発明は、二次電池である電気化学デバイスを提供し、この二次電池は、
-正極及び負極
を含み、
ここで、正極及び負極のうちの少なくとも1つは、本発明による電極(E)である。
【0071】
好ましくは、電気化学デバイスは、
-正極及び負極
を含む二次電池であり、
ここで、正極は、本発明による電極(E)である。
【0072】
本発明の二次電池は、好ましくは、アルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池である。
【0073】
本発明の二次電池は、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0074】
本発明による電気化学デバイスは、当業者に公知の標準的な方法によって調製することができる。
【0075】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、ある用語を不明確にし得る程度にまで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0076】
本発明は、これから、以下の実施例に関連して記載され、その目的は、単に例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0077】
原材料
PTFE:ASTM D792に従って測定される、2160の比重を有し、ASTM D4895に従って測定される、9.50MPaのレオメトリー圧力を有するPTFEホモポリマー粉末;
Johnson Matthey製のLife Powerとして入手可能なリン酸鉄リチウム、LFP;
Imerys S.Aから入手可能なSC65として入手可能なカーボンブラック;
Solvay Materialsから入手可能なGalden HT80。
【0078】
ポリマー(A-1)
バッフル及び600rpmで作動する撹拌機を装着した2.2リットルのAISI 316鋼鉄製縦型オートクレーブに、1.25lの脱塩水を導入した。次に、温度を80℃の反応温度にし;これに到達したら、圧力を19.5バールまで上昇させるVDF、35%の濃度で脱塩水に溶解されたc-C6O4アンモニウム塩の50gの溶液を導入した。次に、モル量で20%のVDF及び80%のTFEの純ガス混合物を、20絶対バールの圧力に到達するまで圧縮機を介して添加した。次に、3重量%の濃度の過硫酸アンモニウム(APS)の脱塩水の溶液20mlを供給した。重合圧力を、上記の混合物を供給することによって一定に維持し;150gのガスが供給されたとき、反応器を室温で冷却し、次にストリッピングし、ポリマーを、ラテックス形態で排出した。
【0079】
ポリマー(A-2)
以下を除いて、実施例のポリマー(A-1)と同じ手順に従った:
-650Rpmで作動する撹拌機、
-3.5バールの圧力変化を生じるTFEの量、
-20バールの重合圧力に到達するための、純粋なVDFによる反応器の加圧、
-35%の濃度で脱塩水に溶解されたc-C6O4アンモニウム塩の20gの溶液、
-3重量%の濃度の過硫酸アンモニウム(APS)の脱塩水の30mlの溶液。
-反応を開始したら、圧力を5絶対バールまで低下させ、
-この圧力に到達したら、反応器を、モル量で80%のTFE及び20%のVDFの混合物で再度加圧し、次に、上記の混合物を、50gの量で供給した。
【0080】
ポリマー(A-3)
以下を除いて、実施例のポリマー(A-1)と同じ手順に従った:
-650rpmにおける撹拌機、
-7.8バールの圧力変化を生じるVDFの導入、
-35%の濃度で脱塩水に溶解されたc-C6O4アンモニウム塩の20gの溶液、
-3重量%の濃度の過硫酸アンモニウム(APS)の脱塩水の30mlの溶液。
次に、75%/25%のモル比でのVDF/TFEのガス状混合物を、20絶対バールの圧力に到達するまで圧縮機を介して加えた。
重合が開始したら、250gの上記の混合物、次に、ガス混合物を純粋なTFEに切り替え、250gの純粋なTFEを反応器中に供給した。
【0081】
ポリマー(A-4)
c-C6O4アンモニウム塩の溶液を反応器中に供給しなかったことを除いて、実施例のポリマー(A-3)と同じ手順に従った。
【0082】
ポリマー(C-1)-比較例
以下を除いて、実施例のポリマー(A-1)と同じ手順に従った:-1.4リットルの脱塩水の導入、
-650rpmの撹拌、
-8バールの圧力変化を生じるVDFの導入、
-35%の濃度で脱塩水に溶解されたc-C6O4アンモニウム塩の30gの溶液、
-モル量で80%のTFE及び20%のVDFのガス混合物を導入することによって、20絶対バールの作動圧力で加圧されること、
-500gの上記のガス混合物。
【0083】
ポリマー(C-2)-比較例
以下を除いて、比較例のポリマー(C-1)と同じ手順に従った:
-5リットルの反応器の使用、
-3.5リットルの脱塩水の導入、
-650rpmの撹拌、
-65℃の作動温度、
-10バールの圧力変化を生じるVDFの導入、
-35%の濃度で脱塩水に溶解されたc-C6O4アンモニウム塩の50gの溶液、
-3重量%の濃度の過硫酸アンモニウム(APS)の脱塩水の35ml溶液。
-モル量で80%のTFE及び20%のVDFのガス混合物を導入することによって、20絶対バールの作動圧力で加圧されること、
-500gの上記のガス混合物。
【0084】
ポリマー後処理
粉末形態のポリマー(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)、(C-1)及び(C-2)が、
-凝固容器中の水の量を元に計算して2g/lの濃度の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)、
-凝固容器中の水の量を元に計算して8g/lの濃度の炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、又は
-硝酸(HNO3)、凝固容器中の水の量を元に計算して65%の25mlの溶液
を用いた極低温凝固又は電解凝固によって、対応するラテックスから得られた。
【0085】
凝固が起こった後、各ポリマーを、室温で、脱塩水で洗浄した。凝固及び洗浄の後、次に、得られた粉末を、少なくとも80℃且つ120℃未満の温度で、通気式オーブン中で24時間乾燥させた。
【0086】
ASTM D3418規格に従ってDSCによって特性評価される、ポリマー(A-1)~(A-4)、(C-1)及び(C-2)の溶融温度及び融解エンタルピー(ΔH)を、表1に報告する。
【0087】
【0088】
金属基板による積層
ポリマー(A-1)~(A-4)、(C-1)及び(C-2)ポリマーのいずれかを含むフィルムが、2つのアルミニウム箔の間で粉末組成物を圧縮することによって得られた。積層プロセスを、180℃未満の温度及び160バールの圧力で行った。材料を6分間加熱装置に入れておき、次に、合計で180秒間にわたって(手動で圧力を放出することによって)6回の脱気工程を行いながら作動圧力で加圧した。次に、試料を、コールドプレスによって室温で冷却した。試料を、4~6分の間に含まれる期間にわたって第1の工程と同じ圧力で冷却プレスに入れておいた。
【0089】
接着の評価及び測定
接着の評価及び測定を、積層後に得られた3層構造(金属箔/フィルム/金属箔)において、ASTM D 1876に従って、上記のように得られたフィルムとアルミニウム箔との間で行った。接着値を表2に報告する。
【0090】
【0091】
同じ条件で使用される場合、PTFEに関して接着は観察されなかった。
【0092】
加工性
材料の加工性を、10s-1及び100s-1のせん断速度及び180℃の温度で、金型(L/D 10、直径1mm、20°の角度で動作)を用いて、Capillary Rheometer(Goettefert Rheograph 2003)を用いて検証し、ブレンドの押し出し物を得た。
【0093】
本出願人は、ポリマー(A)が、そのより高い融点をはるかに下回る温度で好適に加工され得、したがって好都合なプロセスによってバインダーの押し出し物が得られることを意外にも発見した。
【0094】
実施例1:ポリマー(A-4)による電極作製
1.8gのLFP及び0.1gのSC65の乾燥混合物を、乳棒を用いてセラミック乳鉢中で2種の粉末を2分間粉砕することによって調製した。
【0095】
1mlのGaldenを、粉末混合物に加え、複合体を、0.5分間にわたって20000rpmで、Vortexミキサー中で混合した。均一なペーストが得られた。
【0096】
0.1gのポリマー(A-4)を、均一なペーストに加え、混合物を、0.5分間にわたって16000rpmで、Vortexミキサー中で混合した。均一な複合体が得られた。
【0097】
次に、複合体を、乳棒を用いてセラミック乳鉢中で更に5分間混合して、ポリマーをフィブリル化した。
【0098】
0.6gの複合体を、5分間にわたって24トンで、平形プレスにおいて最後に加圧して、直径20mm及び厚さ0.9mmのタブレットを得た。
【0099】
この手順を繰り返して、3つのタブレットを作製した。
【0100】
タブレットを、減圧下で2時間にわたって90℃で、真空オーブン(Buchi)中で乾燥させて、電極組成物を得た。
【0101】
得られた正極は、以下の組成を有していた。90重量%のLFP、5重量%のポリマー(A-4)及び5重量%のカーボンブラック。こうして、電極EC1を得た。
【0102】
実施例2-PTFE
1.8gのLFP及び0.1gのSC65の乾燥混合物を、乳棒を用いてセラミック乳鉢中で2種の粉末を2分間粉砕することによって調製した。
【0103】
1mlのGaldenを、粉末混合物に加え、複合体を、0.5分間にわたって20000rpmで、Vortexミキサー中で混合した。均一なペーストが得られた。
【0104】
0.1gのPTFEを、均一なペーストに加え、混合物を、0.5分間にわたって16000rpmで、Vortexミキサー中で混合した。均一な複合体が得られた。
【0105】
次に、複合体を、乳棒を用いてセラミック乳鉢中で更に5分間混合して、ポリマーをフィブリル化した。
【0106】
0.6gの複合体を、5分間にわたって24トンで、平形プレスにおいて最後に加圧して、直径20mm及び厚さ0.95mmのタブレットを得た。
【0107】
この手順を繰り返して、3つのタブレットを作製した。
【0108】
タブレットを、減圧下で2時間にわたって90℃で、真空オーブン(Buchi)中で乾燥させて、電極組成物を得た。
【0109】
得られた正極は、以下の組成を有していた。90重量%のLFP、5重量%のPTFE及び5重量%のカーボンブラック。電極CE1をこのようにして得た。
【0110】
電気抵抗測定
10年につき10点を記録する1Hz~200kHzの周波数で、10mV rmsの摂動を加えることによって、EC1及びCE1の電気抵抗測定を、2つのステンレス鋼板(18mmの直径)の間でElCelにおいて行った。電気抵抗の結果を、複素インピーダンススペクトルのx軸との切片から取った。3連で繰り返される測定の平均値として計算される2つの試料の平均抵抗を、表3に報告する。値は、全ての組成物について同様である。
【0111】
【0112】
データは、本発明のバインダーが、良好な電気特性を保持すると同時に、集電体に対する改善された接着を有し、それにより、電極用のバインダーとして好適に使用され得ることを示す。
【国際調査報告】