(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ZHX2の阻害により全性身疾患の転帰を改善する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241114BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241114BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241114BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20241114BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241114BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20241114BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20241114BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241114BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20241114BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241114BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241114BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241114BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241114BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241114BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20241114BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P3/10
A61P25/00
A61P31/12
A61P31/04
A61P33/00
A61P31/10
A61P35/00
A61P37/00
A61P37/06
A61P29/00
A61K48/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K35/76
A61K31/7105
A61K31/713
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525315
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-25
(86)【国際出願番号】 US2022047263
(87)【国際公開番号】W WO2023076097
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507235354
【氏名又は名称】ラッシュ ユニヴァーシティ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュー,スマント・シン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZB371
4C084ZB372
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4C084ZC352
4C084ZC521
4C084ZC522
4C085AA14
4C085BA51
4C085BB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
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4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB26
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4C086ZB35
4C086ZB37
4C086ZC35
4C086ZC52
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB33
4C087ZB35
4C087ZB37
4C087ZC35
4C087ZC52
(57)【要約】
本発明は、サイトカイン放出の変化又はサイトカインストームを引き起こす様々な疾患状態の治療に対する新規なアプローチを提供する。これらの疾患には、ウイルス感染症、免疫疾患及び他の非免疫疾患が含まれる。詳細には、本発明は、様々な疾患状態を治療するために、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇させる方法を含む、ZHX2を標的とする方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者へのZHX2の阻害剤の投与を含む、ZHX2の阻害剤の投与を必要とする患者における疾患を治療するための方法であって、ZHX2の阻害剤の投与が患者におけるZHX2の枯渇をもたらす、方法。
【請求項2】
治療される疾患が、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、他のコロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラなどのウイルス感染症、非呼吸器ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症及び寄生虫感染などの非ウイルス感染症、免疫介在性疾患、心血管病理、糖尿病、メタボリックシンドローム、臓器移植、神経変性、がん並びに老化を含む、サイトカイン放出に影響を及ぼす炎症性疾患及び非炎症性疾患からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ZHX2の阻害剤が、ショートヘアピンRNAA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルス、ZHX2に対する抗体又は抗体断片、ZHX2を標的とするsiRNA又は他のアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びZHX2媒介受容体に結合するアンタゴニストを含む薬剤からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
shRNAがベクターに結合されているか又はベクターの一部である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ベクターが、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗体又は抗体断片が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び二価抗体からなる群から選択される1つ以上の抗体に対する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
ZHX2の阻害剤が、改変されたZHX2遺伝子をコードする1つ以上のDNA断片である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ZHX2遺伝子をコードする1つ以上のDNA断片がCRISPRによって改変されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
治療される疾患が、サイトカインの放出の増加を引き起こす疾患である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
呼吸器ウイルス感染症が、SARS-CoV-2による感染の結果である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
ZHX2阻害剤の投与が、治療される患者においてZHX2ハイポモルフ状態をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
STAT5、STAT6又はNFκBタンパク質の活性化を変化させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
薬理学的薬剤の投与を含む、薬理学的薬剤の投与を必要とする患者においてZHX2を阻害、中和又は枯渇させるための方法であって、薬理学的薬剤がZHX2遺伝子に結合又は相互作用し、薬理学的薬剤の結合がZHX2遺伝子に可逆的又は不可逆的な変化をもたらす、方法。
【請求項14】
薬理学的薬剤がZHX2遺伝子と直接的に結合又は相互作用する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
薬理学的薬剤が、ZHX2遺伝子の上流又は下流のいずれかでZHX2遺伝子と間接的に結合又は相互作用する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
薬理学的薬剤の投与を含む、薬理学的薬剤の投与を必要とする患者においてZHX2遺伝子発現を低減又はサイレンシングするための方法であって、薬理学的薬剤が、細胞の核内においてZHX2と相互作用するタンパク質を阻害又は遮断する、方法。
【請求項17】
核内においてZHX2と相互作用するタンパク質が、ZHX1、ZHX3、核因子YA、核因子YB、核因子YC、FoxC1及びエフリンB1/B2、又はZHX2と相互作用することが知られている他のタンパク質のうちの1つ以上から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞の核内においてZHX2と相互作用するタンパク質を阻害又は遮断する薬理学的薬剤が、ZHX2遺伝子発現に可逆的又は不可逆的な変化を引き起こす、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
薬理学的薬剤の投与が、治療される患者においてZHX2ハイポモルフ状態をもたらす、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
薬理学的薬剤の投与が、治療される患者においてZHX2ハイポモルフ状態をもたらす、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府助成金に関する記載
本発明は、国立衛生研究所から授与された、いくつかの助成金(1R01DK109713、1R01DK111102、1R01DK129522、1R01DK128203)に基づく政府支援を受けて行われた。政府は一定の権利を有する。
【0002】
本開示の一般的な分野は、サイトカイン放出又はサイトカインストームの変化をもたらす様々な疾患状態の治療に対する新規なアプローチである。これらの疾患には、ウイルス感染症及び非ウイルス感染症、免疫疾患及び他の非免疫疾患が含まれる。
【背景技術】
【0003】
ジンクフィンガー及びホメオボックス(ZHX)ファミリー転写因子(ZHX1、ZHX2及びZHX3)は体内の複数の臓器で発現されており、構造的及び機能的に重要な様々な遺伝子を制御している。Maceら、「The Zinc Fingers and Homeoboxes 2 protein ZHX2 and its interacting proteins regulate upstream pathways in podocyte diseases」、(2020) Kidney Int 97(4):753~764頁;Kawata Hら、「The mouse zinc -fingers and homeoboxes (ZHX) family; ZHX2 forms a heterodimer with ZHX3」、(2003) Gene. 323:133~140頁を参照されたい。肝臓において、ZHX2は、成体マウスのα-フェトプロテイン発現の主要な転写抑制因子である。BALB/cJマウスは、試験された25種の他のマウス系統とは異なり、ZHX2遺伝子の第1のイントロンにマウス内因性レトロウイルスを有しており、その結果、主に機能しない転写産物が生じ、成体BALB/cJマウスにおいてZHX2のダウンレギュレーション及び高αフェトプロテインタンパク質レベルを引き起こす。Perincheriら、「Hereditary persistence of alpha-fetoprotein and H19 expression in liver of BALB/cJ mice is due to a retrovirus insertion in the ZHX2 gene」、(2005) Proc Natl Acad Sci USA 102:396~401頁を参照されたい。腎臓ポドサイトにおいて、ZHX2はWT1の最も強力な転写抑制因子の1つであり、FSGSの発病に関与している可能性が非常に高い(Maceら 2020)。腎臓において、ポドサイト(特殊な糸球体細胞)はZHXタンパク質を主として細胞膜で発現するが、尿細管細胞においては、他の多くの臓器と同様に、ZHXタンパク質の発現は主として核で生じる(Maceら 2020)。適切な組合せとZHX2発現状態の変更の設定において、全身性サイトカイン放出は、正常な(アミノペプチダーゼA/APA、エフリンB1)又は推定上の代替細胞膜アンカーからポドサイト核へのZHXタンパク質の移動を誘導される可能性がある。ヒト及び実験的MCDとほとんどの形態のFSGSは、転写因子ZHX2のポドサイト発現低下と関連している。Maceら、「ZHX2 and its interacting proteins regulate upstream pathways in podocyte diseases」、(2020) Kidney Int.97:753~764頁を参照されたい。
【0004】
ウイルス感染は、自然免疫反応及び適応免疫反応の一環としてサイトカインの産生を引き起こす。本発明者らは以前、パンデミックの初期に記録された広範囲のサイトカインストームが臓器損傷に関与している可能性があることを疑い、サイトカイン介在性の末端臓器損傷の新規のエビデンスに基づくモデルを開発した。Huangら、「Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China」 (2020) Lancet 395(10223):497~506頁;(オンライン補足)を参照されたい。試験された3種類の臓器のうち、心臓病変に関する文献では、心臓トロポニンIレベルの上昇(急性心筋梗塞に類似)、心筋炎、心筋壊死、心膜炎、不整脈及び心不全が示されている。Topo 2020;Inciardiら、「Cardiac involvement in a patient with coronavirus disease 2019 (COVID-19)」、(2020) JAMA Cardiol. 5:819~824頁を参照されたい。肝障害のエビデンスには、アミノトランスフェラーゼレベルの上昇、肝細胞障害、炎症及び脂肪肝が含まれる。Hertaら、「COVID- 19 and the liver - Lessons learned」、(2021) Liver Int. 41 補遺1:1~8頁を参照されたい。腎臓の症状発現が入院のCOVID-19患者において非常に多く見られ、40%近くがタンパク尿を発症し、約3分の1が急性腎障害(AKI)を発症する。Chengら、「Kidney disease is associated with in-hospital death of patients with COVID- 19」、(2020年) Kidney Int. 97:829~838頁;Hirschら、「Acute kidney injury in patients hospitalized with COVID-19」、(2020) Kidney Int. 98:209~218頁を参照されたい。重度のタンパク尿及び/又は腎機能障害のあるCOVID-19患者の腎生検研究では、巣状及び分節性糸球体硬化症(FSGS)の虚脱型(collapsing variant)及び急性腎障害が最も一般的に記録されている。Kudoseら、「Kidney Biopsy Findings in Patients with COVID-19」、(2020) J Am Soc Nephrol. 31:1959~1968頁;Nasrら、「Kidney Biopsy Findings in Patients With COVID-19, Kidney Injury and Proteinuria」、(2021) Am J Kidney Dis. 77:465~468頁(2021)を参照されたい。初期の剖検研究ではウイルス粒子が疑われたが、生存患者の腎生検ではいかなるウイルス粒子も確認されなかった。Bradleyら、「Histopathology and ultrastructural findings of fatal COVID- 19 infections in Washington State: a case series」、(2020) Lancet 396:320~332頁も参照されたい。
【0005】
非呼吸器系ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症又は寄生虫感染症などの非ウイルス感染症、免疫介在性疾患、心血管病理、糖尿病、メタボリックシンドローム、神経変性及びがん、並びに老化を含む、サイトカイン放出に影響を及ぼす他の炎症性疾患及び非炎症性疾患が数多くある。
【0006】
しかし、サイトカイン放出及び様々な疾患状態の治療に対するZHX2阻害の有益な効果の可能性については、ほとんど知られていない。本発明は、これらのニーズに応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Maceら、「The Zinc Fingers and Homeoboxes 2 protein ZHX2 and its interacting proteins regulate upstream pathways in podocyte diseases」、(2020) Kidney Int 97(4):753~764頁
【非特許文献2】Kawata Hら、「The mouse zinc -fingers and homeoboxes (ZHX) family; ZHX2 forms a heterodimer with ZHX3」、(2003) Gene. 323:133~140頁
【非特許文献3】Perincheriら、「Hereditary persistence of alpha-fetoprotein and H19 expression in liver of BALB/cJ mice is due to a retrovirus insertion in the ZHX2 gene」、(2005) Proc Natl Acad Sci USA 102:396~401頁
【非特許文献4】Huangら、「Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China」 (2020) Lancet 395(10223):497~506頁;(オンライン補足)
【非特許文献5】Inciardiら、「Cardiac involvement in a patient with coronavirus disease 2019 (COVID-19)」、(2020) JAMA Cardiol. 5:819~824頁
【非特許文献6】Hertaら、「COVID- 19 and the liver - Lessons learned」、(2021) Liver Int. 41 補遺1:1~8頁
【非特許文献7】Chengら、「Kidney disease is associated with in-hospital death of patients with COVID- 19」、(2020) Kidney Int. 97:829~838頁
【非特許文献8】Hirschら、「Acute kidney injury in patients hospitalized with COVID-19」、(2020) Kidney Int. 98:209~218頁
【非特許文献9】Kudoseら、「Kidney Biopsy Findings in Patients with COVID-19」、(2020) J Am Soc Nephrol. 31:1959~1968頁
【非特許文献10】Nasrら、「Kidney Biopsy Findings in Patients With COVID-19, Kidney Injury and Proteinuria」、(2021) Am J Kidney Dis. 77:465~468頁(2021)
【非特許文献11】Bradleyら、「Histopathology and ultrastructural findings of fatal COVID- 19 infections in Washington State: a case series」、(2020) Lancet 396:320~332頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、ZHX2を標的とするメカニズムを提供する。本発明は、様々な疾患状態を治療するために、ZHX2の阻害、遮断又は枯渇の方法を記載する。
【0009】
本発明者らは、ZHX2ハイポモルフモデルにおけるZHX2の枯渇がサイトカインストームに関連する状態にどのような影響を及ぼすのかについて既に実証している。初期の試験において、本発明者らは、ZHX2flox/flox及びNPHS2プロモーター駆動型Creマウスを利用した。しかし、本発明者らはその後、ZHX2ハイポモルフ状態の確立されたモデルであるBALB/cJマウスと、BALB/cマウス(ZHX2+/+)を使用して、ZHX2発現がサイトカインストーム関連の罹患率及び死亡率にどのように影響を及ぼすのかを説明した。Maceら 2020;Perincheriら、「Hereditary persistence of alpha- fetoprotein and H19 expression in liver of BALB/cJ mice is due to a retrovirus insertion in the Zhx2 gene.」 (2005) Proc Natl Acad Sci USA 102:396~4011頁;Perincheriら、「Characterization of the ETnII-alpha endogenous retroviral element in the BALB/cJ Zhx2 (Afrl) allele」、(2008) Mamm Genome 19:26~31頁;Gargalovicら、「Quantitative trait locus mapping and identification of Zhx2 as a novel regulator of plasma lipid metabolism」、(2010) Circ Cardiovasc Genet. 3:60~67頁;Creasyら、「Zinc Fingers and Homeoboxes 2 (Zhx2) Regulates Sexually Dimorphic Cyp Gene Expression in the Adult Mouse Liver」、(2016) Gene Expr. 17:7~17頁;Jiangら、「Zhx2 (zinc fingers and homeoboxes) regulates major urinary protein gene expression in the mouse liver」、(2017) J Biol Chem 292:6765~6774頁 (2017);Erbilginら、「Transcription Factor Zhx2 Deficiency Reduces Atherosclerosis and Promotes Macrophage Apoptosis in Mice」、(2018) Arterioscler Thromb Vase Biol. 38:2016~2027頁を参照されたい。
【0010】
低用量では、COVID-19カクテルは、個々のサイトカインとは異なり、ZHX2ハイポモルフマウス及びZHX2+/+マウスにおいて糸球体損傷及びアルブミン尿を誘発し、COVID-19関連のタンパク尿を模倣した。高用量では、COVID-19カクテルは、個々のサイトカインとは異なり、ZHX2+/+マウスにおいて急性心臓損傷、心筋炎、心膜炎、肝臓損傷及び腎臓損傷、並びに高死亡率を含むSARS-CoV-2疾患の一般的な臨床症状発現を誘発したが、ZHX2ハイポモルフマウスは比較的保護された。これらの臓器におけるシグナル伝達及び転写活性化因子5(STAT5)、STAT6及びNFκB経路の活性化は、ZHX2ハイポモルフ状態において低減された及び/又は非同期であった。ゲノム配列決定及びCRISPR-Cas9を使用することにより、ZHX2の上流に挿入のあることがヒトZHX2ハイポモルフ状態の原因として特定された。
【0011】
したがって、ZHX2を含むZHXタンパク質の糸球体発現が他の臓器及び腎臓の他の部分(主として核)におけるZHXタンパク質とは異なる(ポドサイトに関連した細胞膜)ことを考慮し、本発明に記載の試験は、ZHX2ハイポモルフ状態が疾患の例において他の臓器及び身体の他の部分にどのように影響を及ぼすかを判定するために実施した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明の実施形態において、患者の様々な疾患状態を治療するために、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇させる方法が提供される。
【0013】
本発明の他の実施形態において、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇させる方法は、STAT5又はSTAT6の非同期活性化をさらに含み得る。
【0014】
一部の実施形態において、ZXH2は、患者に薬剤の患者への投与によって阻害、中和又は枯渇させることが可能であり、その薬剤は、1つのZXH2に対するショートヘアピン型RNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを含む。
【0015】
一部の実施形態において、shRNAは市販されており、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体を含む、当技術分野で公知の任意のベクターに結合されていてもよいし、又はその一部であってもよい。
【0016】
他の実施形態において、薬剤は、ZXH2に対して向けられたモノクローナル抗体を含む。さらに他の実施形態において、薬剤は、ZXH2に対して向けられたモノクローナル抗体を含む。さらに他の実施形態において、薬剤は、ZXH2を標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0017】
さらに他の実施形態において、薬剤は、ZHX2の発現を減少する薬理学的薬剤である。
【0018】
別の実施形態では、薬剤は、ZHX2遺伝子に、又はZHX2遺伝子の上流若しくは下流に直接的若しくは間接的に結合若しくは相互作用することによって、ZHX2発現を低減する薬理学的薬剤である。
【0019】
いずれかの実施形態において、本発明は、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇させることによって、様々な疾患状態を治療する方法であって、疾患状態が、SARS-Cov-1、SARS-Cov-2、他のコロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラなどのウイルス感染症、非呼吸器ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症及び寄生虫感染症などの非ウイルス感染症、免疫介在性障害、心血管病理、糖尿病、メタボリックシンドローム、臓器移植、神経変性及びがん、並びに老化を含む、サイトカイン放出に影響を及ぼす炎症性疾患及び非炎症性疾患を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1a】COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1a)ヒト疾患の状況におけるCOVID-19誘発性サイトカインストームの模式図。
【
図1b】COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1b)COVIDカクテルA~Dの用量Xの組成。
【
図1c】COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1c)BALB/cJマウスに異なる用量のカクテルDを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。1/2倍(X/2)は、BALB/cJマウスにおける閾値腎炎原性用量である。
【
図1d】COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1d)BALB/cJマウスに個々のCOVIDカクテル成分の用量Xを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。
【
図1e】COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1e)BALB/cマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=マウス6匹)。
【
図1f】COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1f)BALB/cJマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=マウス6匹)。
【
図1g】COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1g)BALB/cマウスにそのままのカクテルCの用量X/2を注射、又はポドサイトを標的とする個々の成分を欠いたカクテルCの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。すべての有意値は両側検定である。
【
図2a】ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2a)心筋トロポニンI(cTPI3)レベルによって評価された急性心筋損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。
【
図2b】ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2b)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性レベルによって評価した急性肝臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。
【
図2c】ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2c)質量分析法を使用して測定した血清クレアチニンによって評価した急性腎臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。
【
図2d】ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2d)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性心臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、線維破壊(青色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)、及び心膜炎(橙色矢印)が認められた。
【
図2e】ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2e)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性肝臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、突出したクッファー細胞(緑色矢印)、再生変化(黄色矢印)、及び中心静脈周囲損傷(青色矢印)が認められた。
【
図2f】ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2f)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのPAS染色切片(列1、2、4)及び腎臓電子顕微鏡(列3)を使用した急性腎臓損傷の組織学的評価(1群あたりn=3匹のマウス)。下の3列は近位尿細管を示し、最上列は遠位尿細管を示す。近位尿細管において、空胞化(赤色矢印)、刷子縁破壊(緑色矢印)、尿細管変性(黒色矢印)が認められた。遠位尿細管において、剥離のエビデンス(青色矢印)が存在した。泡沫細胞も認められた(白色矢印)。電子顕微鏡スケールバーBALB/c、2.66μm;BALB/cJ、2μm。
【
図2g】ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍(3X))によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2g)BALB/cマウス及びBALB/cJマウスの心臓における組織学的変化の形態計測分析及び比較を示す表。
【
図2h】(
図2h)BALB/cマウス及びBALB/cJマウスの肝臓における組織学的変化の形態計測分析及び比較を示す表。
【
図2i】(
図2i)BALB/cマウス及びBALB/cJマウスの腎臓における組織学的変化の形態計測分析及び比較を示す表。光学顕微鏡スケールバー20μm。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図3】ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおける全身性疾患に対する重度サイトカインストームの影響に対する枯渇戦略の有無によるサイトカインストーム誘発死亡率を示す。1群あたりの注射されたマウスの数を示す。代謝ケージに収容されたマウスにおけるコントロールIgG群の死亡率1/6又は16.6%は、いずれの抗体枯渇戦略も行わない群の死亡率を反映している。すべての枯渇抗体又はコントロールIgGは、モデル誘導後1時間で静脈内注射された。死亡率は、いくつかの枯渇戦略の後に低下する。
【
図4】ZHX2+/+BALB/cマウスにおける全身性疾患に対する重度サイトカインストームの影響に対する枯渇戦略の有無によるサイトカインストーム誘発死亡率を示す。1群あたりの注射されたマウスの数をパネルaに示す。代謝ケージに収容されたマウスにおけるコントロールIgG群の死亡率5/6又は83.3%は、いずれの抗体枯渇戦略も行わない群の死亡率を反映している。これは、
図3のBALB/cJマウスの死亡率と比較される数値である。この表の残りのデータは、マウスを通常のケージに収容することにより得られたものであり、死亡率は2/6又は33.3%であった。このような状況下では、アルブミン尿のための定期採尿は行われなかった。
【
図5a】ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤。非コードDNAの挿入及び欠失(InDel)は、糸球体疾患の患者におけるZHX2発現に影響を及ぼす。(
図5a)8番染色体上のZHX2及び近傍遺伝子の模式図。
【
図5b】ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤。非コードDNAの挿入及び欠失(InDel)は、糸球体疾患の患者におけるZHX2発現に影響を及ぼす。(
図5b)MCD患者(n=9名の患者)、FSGS患者(n=19名の患者)及びCOVID-19関連FSGS虚脱型(collapsing variant)(n=8名の患者)の間で共有される挿入及び欠失のマッピング。122、533、694の最も一般的な共有挿入は、ヒトにおいては機能していないげっ歯類発現遺伝子Slc22a22の理論上の開始点又はその近くにマッピングされる可能性がある。122、293、423の別の共有挿入は、Slc22a22の理論上の終点近くに位置していた。これらのInDelは、コントロールの対象(n=33)又は1000ゲノムプロジェクトでは認められなかった。Exはエクソンである。
【
図5c】ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤。非コードDNAの挿入及び欠失(InDel)は、糸球体疾患の患者におけるZHX2発現に影響を及ぼす。(
図5c)上述した共有挿入の表形式の表示。
【
図5d】ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤。非コードDNAの挿入及び欠失(InDel)は、糸球体疾患の患者におけるZHX2発現に影響を及ぼす。(
図5d)患者とコントロールの対象との間に共通する8bpの挿入(CRISPR A)、又はコントロールの対象及び1000ゲノムプロジェクトには存在しない122、533、694の10bpの共有挿入(CRISPR B)を含有する、単一細胞由来の培養ヒトポドサイト細胞株のCRISPR Cas9支援ゲノム編集クローンの模式図。
【
図5e】ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤。非コードDNAの挿入及び欠失(InDel)は、糸球体疾患の患者におけるZHX2発現に影響を及ぼす。(
図5e)上記ゲノム改変クローン(CRISPR A、3クローン、プールされたデータ;試験CRISPR B、2クローン)における相対的ZHX2 mRNA発現を、親単一細胞由来の培養ヒトポドサイト細胞株(クローンあたりn=7の鋳型)と比較した。点線は親細胞株における発現を表す。
【
図5f】ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤。非コードDNAの挿入及び欠失(InDel)は、糸球体疾患の患者におけるZHX2発現に影響を及ぼす。(
図5f)コントロールの単一細胞由来の親細胞株と122、533、694に挿入された2つの変異クローンのうちの1つにおけるZHX2発現を比較したウェスタンブロット。
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図6a】ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスとZHX2
+/+BALB/cマウスとの間のCOVIDカクテル誘発全身性障害(心臓、肝臓及び腎臓)のメカニズムの違いを示す。カクテルDによる心臓、肝臓及び腎臓におけるSTAT5及びSTAT6のシグナル伝達経路の非同期活性化が、BALB/cマウスに比べてBALB/cJで認められた。カクテルDの3倍用量を注射したマウス(1群あたりn=3匹のマウス、各マウスの臓器は個別に評価)を、注射後の15分、30分、60分に調べた。生理食塩水を注射したマウスはSTAT経路シグナル伝達を活性化しなかったのでデータは示さない。(
図6a)BALB/c(ZHX2正常発現)マウスとBALB/cJ(ZHX2低発現)マウスの心臓、肝臓及び腎臓におけるラミンB1(核抽出物)及びSTAT5(細胞質抽出物)との比率として表したpSTAT5ウェスタンブロット密度測定のグラフ比較。
【
図6b】ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスとZHX2
+/+BALB/cマウスとの間のCOVIDカクテル誘発全身性障害(心臓、肝臓及び腎臓)のメカニズムの違いを示す。カクテルDによる心臓、肝臓及び腎臓におけるSTAT5及びSTAT6のシグナル伝達経路の非同期活性化が、BALB/cマウスに比べてBALB/cJで認められた。カクテルDの3倍用量を注射したマウス(1群あたりn=3匹のマウス、各マウスの臓器は個別に評価)を、注射後の15分、30分、60分に調べた。生理食塩水を注射したマウスはSTAT経路シグナル伝達を活性化しなかったのでデータは示さない。(
図6b)BALB/cマウスとBALB/cJマウスの心臓、肝臓及び腎臓におけるラミンB1(核抽出物)及びSTAT6(細胞質抽出物)との比率として表したpSTAT6ウェスタンブロット密度測定のグラフ比較。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図7a】COVIDサイトカインストームに関連した糸球体損傷のメカニズムを示す。(
図7a)野生型及びZHX2ハイポモルフ(CRISPR B)培養ヒトポドサイトをカクテルCのヒト対応物カクテル(最終濃度x/100,000、1つの条件あたりn=3のプレート)とインキュベートした際のpSTAT6シグナル伝達の活性化を評価するためのウェスタンブロット。
【
図7b】COVIDサイトカインストームに関連した糸球体損傷のメカニズムを示す。(
図7b)パネルcの野生型及びCRISPR BポドサイトでインキュベートしたカクテルCのウェスタンブロットの密度測定。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【
図8a】マウスに注射されたCOVIDカクテルによって活性化されるインビボシグナル伝達メカニズムの例を示している。(
図8a)カクテルD3倍又はコントロールの生理食塩水を注射したマウス(1群あたりn=3匹)の全臓器タンパク質抽出物の定性ウェスタンブロットによるNFκB/p-p65(肝臓、30分)、pSTAT6(腎臓、60分)及びpSTAT5(心臓、15分)活性化の例。
【
図8b】マウスに注射されたCOVIDカクテルによって活性化されるインビボシグナル伝達メカニズムの例を示している。(
図8b)抗ラミンB1抗体を使用した、心臓、腎臓及び肝臓からの同等タンパク質負荷の核画分及び細胞質画分のウェスタンブロットによる核抽出物の純度試験の例。細胞質中のラミンB1のトレースは、核に輸送される前のタンパク質合成に関係し得る。
【
図8c】マウスに注射されたCOVIDカクテルによって活性化されるインビボシグナル伝達メカニズムの例を示している。(
図8c)複数のマウスからの同等タンパク質負荷の心臓細胞質画分及び核画分におけるGAPDHタンパク質の評価例。予想したように、GAPDHは両画分において発現しており、細胞質抽出物においてより高く発現されている。
【
図8d】マウスに注射されたCOVIDカクテルによって活性化されるインビボシグナル伝達メカニズムの例を示している。(
図8d)同じフィルムで展開された別々のブロットでpSTAT6及びラミンB1を評価した、カクテルD(C’tail D)又はコントロール生理食塩水注射試験におけるBALB/cマウス心臓核タンパク質抽出物(1レーンあたり20μgタンパク質)のブロットの定量的ウェスタンブロットの例。各レーンにマウス番号の略号を示す。
【
図8e】マウスに注射されたCOVIDカクテルによって活性化されるインビボシグナル伝達メカニズムの例を示している。(
図8e)同じフィルムで展開された別々のブロットでpSTAT5及びSTAT5を評価した、カクテルD(C’tail D)又はコントロール生理食塩水注射試験におけるBALB/cJマウス心臓細胞質タンパク質抽出物(1レーンあたり20μgタンパク質)の定量ウェスタンブロットの例。各レーンにマウス番号の略号を示す。
【
図9a】(
図9a)一般のCOVID-19患者、年齢、性別、及び人種をマッチさせた健常なコントロール、並びにタンパク尿を伴うCOVID-19患者におけるELISAにより評価された血漿IL-4Rαレベル。アッセイされた患者サンプルの数を以下に示す。
【
図9b】(
図9b)カクテルD用量X/2の注射後1日目のBALB/cJマウス糸球体の電子顕微鏡画像。局所的な足突起消失(黒色矢印)、内皮空胞化(緑色丸)及び内皮肥大(青色丸)の領域が認められた。
【
図9c】(
図9c)質量分析法により測定した血清クレアチニンは、COVIDサイトカインカクテル用量X/2モデル(BALB/cマウス及びBALB/cJマウス;1群あたりn=6匹のマウス)では増加されない。スケールバー0.5μm。
【
図10a】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10a)異なる用量のカクテルD注射後24時間のBALB/cJマウス(1群あたりn=4匹のマウス)における骨格筋損傷のマーカーである血漿クレアチンキナーゼ。
【
図10b】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10b)いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2aから得られた血清心筋トロポニンIレベルのデータ。
【
図10c】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10c)いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2bから得られた血清ALTレベルデータ。
【
図10d】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10d)
図2a~cに対応する、カクテルD3倍又は単回サイトカイン用量3倍を注射したBALB/cJマウスの18時間アルブミン尿。
【
図10e】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10e)
図2a~cに対応する、単回サイトカイン用量3倍を注射したBALB/cマウスの18時間アルブミン尿。カクテルD3倍後のそれらの死亡率が高いことを考慮すると、定時採尿のための代謝ケージ飼育は、BALB/cマウスでは実現不可能である。
【
図10f】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10f)リアルタイムPCR(1群あたりn=6の鋳型)で評価した、BALB/cマウスと比較したBALB/cJにおける心臓及び骨格筋のZHX2 mRNA発現の倍数差。肝臓における低レベルのZHX2 mRNA発現は既に発表されており、この現象の陽性コントロールとしての役目を果たす。3倍の差を有意であるとした。
【
図10g】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10g)BALB/cJマウス心臓とBALB/cマウス心臓との間でのサイトカイン受容体、Ace2、Zhx1、Zhx3、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。
【
図10h】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10h)BALB/cJマウス肝臓とBALB/cマウス肝臓の間でのサイトカイン受容体、Ace2、Zhx1、Zhx3、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。
【
図10i】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10i)BALB/cJマウス骨格筋とBALB/cマウス骨格筋との間でのサイトカイン受容体、Ace2、Zhx1、Zhx3、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。またSTAT5の発現がBALB/cマウスにおいて3.06±0.40倍高かった。
【
図10j】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10j)BALB/cJマウス糸球体とBALB/cマウス糸球体の間でのサイトカイン受容体、Ace2、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。他のIL-2R鎖はマウス糸球体においては発現しておらず、Zhx1及びZhx3は既に発表されている(Maceら 2020)。
【
図10k】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10k)カクテルD用量3倍の注射後24時間のBALB/cJマウスの腎臓糸球体の電子顕微鏡写真。多巣性足突起消失(赤色矢印)、内皮肥大(緑色矢印)及び糸球体基底膜(GBM)のリモデリング(青色矢印)が存在した。
【
図10l】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10l)カクテルD用量3倍の注射後24時間のBALB/cマウスの腎臓糸球体の電子顕微鏡写真。広範な足突起消失(赤色矢印)、内皮肥大(緑色矢印)及び糸球体基底膜(GBM)のリモデリング(青色矢印)が認められた。
【
図10m】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10m)カクテルD3倍用量の注射後24時間のBALB/cJマウスからのヘマトキシリン及びエオシン染色骨格筋。局所的炎症(黒色矢印)が一部の切片において認められた。
【
図10n】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10n)BALB/cJマウス(1群あたりn=6匹のマウス;用量1/2倍(X/2))におけるカクテルDモデルを誘導し、モデル誘導後の1時間のコントロールIgG又は抗体枯渇の組合せのアルブミン尿。
【
図10o】サイトカインストームモデルに関する追加データ及びBALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10o)BALB/cマウス(1群あたりn=6匹のマウス;用量1/2倍)におけるカクテルC誘導後、IL-4Rα、TNFR1、及びIL-10Rβに対する抗体、又はコントロールIgGを使用した受容体遮断後のアルブミン尿。スケールバー(k)0.5μm、(l)0.5μm、(m)20μm。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図11a】(
図11a)試験集団における単一挿入及び共有挿入並びに欠失(InDel)。
【
図11b】(
図11b)疾患サブカテゴリー別に拡大されたFSGS患者のInDel。
【
図11c】(
図11c)糖尿病性腎症患者(n=13名)における共有InDel。
【
図12b】(
図12b)げっ歯類におけるHas2とZHX2との間のSlc22a22遺伝子、並びに大きさと心拍数との順に並べられた、大型動物及びヒトにおけるその遺伝子の欠如。
【
図13a】(
図13a)BALB/cマウス糸球体におけるサイトカイン受容体の共焦点発現。白色矢印は、ポドサイト(P)、内皮細胞(E)、及びメサンギウム細胞(M)における受容体の発現を示す。TNFR1はポドサイトと内皮細胞とにおいて発現しているので、ポドサイトタンパク質であるネフリン(青色)との部分的な共局在のみが認められる。緑色は核染色である。
【
図13b】(
図13b)BALB/cマウスの腎尿細管におけるACE-2及びサイトカイン受容体の共焦点発現(赤色)。ほとんどの画像は近位尿細管を示すが、IL-10Rβの画像は集合管である。
【
図13c】(
図13c)サイトカインカクテルを構成する組換えタンパク質を使用した枯渇試験に使用した抗体の特性決定。スケールバー(a)20μm(b)20μm。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ZHX2を標的とするメカニズムを提供する。本発明は、様々な疾患状態を治療するために、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇の方法を記載する。本発明者らは、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇させる開示のいずれかの方法は、STAT5、STAT6又はNFκBの活性化を変化させることをさらに含み得ると考える。
【0022】
ZHX2が、患者への薬剤の投与によって阻害、中和又は枯渇され得る方法であって、薬剤が、1つのZXH2に対するショートヘアピンRNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを含む、方法が開示されている。本発明者らは、shRNAは購入することが可能であり、またプラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体を含む当技術分野において公知の任意のベクターに結合させる、又はその一部とすることができると考えている。
【0023】
ZHX2が、ZXH2に対して向けられたポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の投与によって阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0024】
ZHX2が、ZXH2を標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与によって、阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0025】
ZHX2が、ZHX2発現を減少する薬理学的薬剤の投与によって、阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0026】
ZHX2が、ZHX2遺伝子に、又はZHX2遺伝子の上流若しくは下流に直接的若しくは間接的に結合若しくは相互作用する、又はこれらの部位で可逆的又は不可逆的な変化をもたらす薬理学的薬剤によって、阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0027】
また、ZHX2が、核内においてZHX2と相互作用するタンパク質を阻害又は遮断する薬理学的薬剤によって、間接的にサイレンシング又は「オフ」にされ得ることも考えられる。このようなタンパク質の例には、ZHXタンパク質、例えば、ZHX1及びZHX3、核因子YA、核因子YB、核因子YC、FoxC1及びエフリンB1/B2、又はZHX2と相互作用することが公知である任意の他のタンパク質が含まれる。
【0028】
いずれかの実施形態において、本発明は、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇させることによって、様々な疾患状態を治療する方法であって、疾患状態が、SARS-Cov-1、SARS-Cov-2、他のコロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラなどのウイルス感染症、非呼吸器ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症及び寄生虫感染症などの非ウイルス感染症、免疫介在性障害、心血管病理、糖尿病、メタボリックシンドローム、臓器移植、神経変性及びがん、並びに老化を含む、サイトカイン放出に影響を及ぼす炎症性疾患及び非炎症性疾患を含む、方法を提供する。
【0029】
本開示を通じて、様々な数量は、例えば、量、サイズ、寸法、比率などは、範囲形式で示される。範囲形式での数量の説明は、単に便宜上のもので簡潔にするためであり、いかなる実施形態の範囲に対しても柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、ある範囲についての説明は、文脈上明白に別のことが示されていない限り、その範囲内の可能性のあるすべての部分範囲とすべての個別の数値を詳しく開示したものと考えるものとする。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの詳しく開示された部分範囲及びその範囲内の個々の値、例えば1.1、2、2.3、4.62、5、5.9などを有すると考えるものとする。これは範囲の広さに関係なく適用される。これらの介在する範囲の上限及び下限は、独立してより小さい範囲に含まれる場合があり、また記載された範囲内において任意の特に除外される限定を条件として、本開示の範囲内に包含される。記載された範囲に限界値の一方又は両方が含まれる場合、文脈上明白に別のことが指示されていない限り、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除外した範囲も本開示に含まれる。
【0030】
本明細書で使用される専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、いかなる実施形態も限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈上明白に別のことを示さない限り、複数形も含むことを意図する。本明細書で使用される場合の「含む(includes)」、「含む(comprises)」、「含む(including)」及び/又は「含む(comprising)」という用語は、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、及び/又は成分の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、及び/又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではないことはさらに理解されよう。本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語には、列挙された関連する項目の1つ以上の任意の組合せ及びすべての組合せが含まれる。さらに、「A、B及びCのうち少なくとも1つ」という形式においてリストに含まれる項目は、(A);(B);(C);(A及びB);(B及びC);(A及びC);又は(A、B及びC)を意味し得ることに留意されたい。同様に、「A、B又はCのうち少なくとも1つ」という形式においてリストされる項目は、(A);(B);(C);(A及びB);(B及びC);(A及びC);又は(A、B及びC)を意味し得る。
【0031】
特に明記されていない限り、又は文脈から明白でない限り、本明細書で使用される場合、数値又は数値範囲に関する「約」という用語は、記載された数値及びその+/-10%の数値、又は範囲として挙げられた値については、挙げられた下限値の10%を下回り、また挙げられた上限値の10%を上回ることを意味すると理解する。
【0032】
本明細書に開示されるいずれかの実施形態において、「治療する(treating)」又は「治療する(to treat)」という用語には、既存の症状又は障害の進行又は重症度を抑制すること、遅延させること、停止させること、又は逆転させることが含まれる。
【0033】
本明細書で開示されるいずれかの実施形態において、「患者」という用語はヒトを指す。
【0034】
ZHX2阻害剤
本発明は、ZHX2がいくつかの異なる非限定的な方法によって中和又は阻害され得ることを企図している。例えば、本明細書に記載のように、ZHX2は、ZHX2(sh-ZHX2)に対するショートヘアピン型RNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを含む薬剤の治療有効量の投与によって中和又は阻害され得る。一部の実施形態において、sh-ZHX2は市販されており、プラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体を含む、当技術分野で公知の任意のベクターに結合させる又はその一部とすることができる。代替的には、本明細書に記載のように、ZHX2は、ZHX2に対する抗体、二価抗体、又はモノクローナル抗体を含む薬剤の治療有効量の投与によって中和又は阻害され得る。さらに、本明細書に記載のように、ZHX2は、ZHX2を標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む薬剤の治療有効量の投与によって中和又は阻害され得る。また、本明細書で企図されているように、ZHX2は、治療有効量の薬剤の投与によって中和又は阻害することができ、薬剤は、アンタゴニスト、又はZHX2結合タンパク質又はDNA配列に結合してZHX2の結合を防止するアンタゴニストを含み得る薬理学的薬剤である。また、本明細書で企図されているように、薬理学的薬剤は、ZHX2遺伝子、又はZHX2遺伝子の上流若しくは下流に直接的又は間接的に結合又は相互作用することができる。ZHX2阻害剤又はその組成物は、1日1回、1日2回以上、又は1週間に1回投与することができる。ZHX2阻害剤又はそれを含有する組成物は、経口投与、筋肉内投与、腹腔内投与又は静脈内投与を含む任意の従来の手段により対象に投与することができる。注射する場合、1回の投与につき単一の部位に注射することも、1回の投与につき複数の部位に注射することもできる。
【0035】
ZHX2抗体及び関連の阻害剤
より詳しくは、ZHX2阻害剤は、ZHX2に対して向けられたポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である。ZHX2に対して向けられた適切な抗体の例は、本明細書に開示されており、当業者に公知である。ZHX2抗体はまた、ZHX2を阻害する抗体断片若しくは二価抗体又はその断片も含み得る。本明細書に記載のように、ZHX2阻害剤は医薬組成物の一部であってもよく、この組成物は、ZHX2に対する抗体又はその断片のいずれかを含み得る。
【0036】
本明細書に記載の抗ZHX2抗体は、市販されているものを含め、当技術分野で公知の任意の手段によって作製又は入手することができる。また、抗体はZHX2と特異的に反応することができる又は特定のZHX2ポリペプチドもまたアンタゴニストとして使用することもできると考えられる。抗ZHX2は、本明細書では、ZHX2若しくはサイトカインに結合する抗体若しくはその断片、又はZHX2及び別の適切な標的に結合する二価抗体であり得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、天然のものである又は部分的に若しくは完全に合成的に生成されたものかを問わず、免疫グロブリン(Ig)を指す。この用語はまた、抗原結合ドメインである又は抗原結合ドメインと相同である結合ドメインを有する任意のポリペプチド又はタンパク質も網羅する。この用語は、「抗原結合断片」及び以下に記載のものなど、類似の結合断片を表す他の交換可能な用語をさらに含む。
【0038】
天然抗体及び天然免疫グロブリンは、通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2本の同一の軽(L)鎖及び2本の同一の重(H)鎖から構成されている。各軽鎖は、典型的には、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結されているが、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。それぞれの重鎖及び軽鎖はまた、鎖内に規則的な間隔でジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(「VH」又は「VH」)を有し、その後にいくつかの定常ドメイン(「CH」又は「CH」)を有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(「VL」又は「VL」)を有し、その別の一端に定常ドメイン(「CL」又は「CL」)を有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の境界面を形成すると考えられる。
【0039】
本明細書に記載のZHX2は、「合成遺伝子」に由来する「合成ポリヌクレオチド」に由来する「合成ポリペプチド」であり得るが、これは、対応するポリヌクレオチド配列若しくはその一部、又はアミノ酸配列若しくはその一部が、同等の天然配列と比較して、設計された、又は新規に合成された若しくは改変された配列に由来することを意味する。合成ポリヌクレオチド(抗体又は抗原結合断片)又は合成遺伝子は、限定するものではないが、核酸配列又はアミノ酸配列の化学合成を含む、当技術分野で公知の方法によって調製することができる。合成遺伝子は、典型的には、アミノ酸レベル又はポリヌクレオチドレベル(又はその両方)で天然遺伝子とは異なっており、また典型的には、合成発現制御配列のコンテキスト内に配置されている。合成遺伝子ポリヌクレオチド配列は、天然遺伝子と比較して、必ずしも異なるアミノ酸を有するタンパク質をコードするとは限らない。例えば、これらの配列はまた、異なるコドンを組み込んでいるが同じアミノ酸をコードする合成ポリヌクレオチド配列も含み得る(すなわち、ヌクレオチドの変化はアミノ酸レベルでのサイレント突然変異を表す。)。
【0040】
抗ZHX2抗体に関して、「抗原」という用語は、ZHX2又はそのタンパク質分子のいずれかの断片を指す。
【0041】
「抗体の抗原結合部分」、「抗原結合断片」、「抗原結合ドメイン」、「抗体断片」又は「抗体の機能性断片」という用語は、本明細書では、ZHX2に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指すように交換可能に使用される。
【0042】
ZHX2抗体はまた、「ダイアボディ」が含まれることが想定され、これは2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、この断片は、同じポリペプチド鎖(VH-VL)内の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同じ鎖上の2つのドメインの間で対になるには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインは別の鎖の相補的なドメインと対になることが強いられ、2つの抗原結合部位が作製される。例えば、EP404,097;WO93/11161;及びHollingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444 6448頁(1993)を参照されたい。
【0043】
ZHX2にはまた、非ヒト(例えばマウス)抗体の「キメラ」形態も含み得ることが想定され、これには非ヒトIgに由来する最小限の配列を含むキメラ抗体が含まれる。ほとんどの場合、キメラ抗体は、マウス Fc の代わりに、通常はヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部が挿入されたマウス抗体である。例えば、Jonesら、Nature 321:522~525頁(1986);Reichmannら、Nature 332:323~329頁(1988);及びPresta、Curr. Op. Struct. Biol., 2:593~596頁(1992)を参照されたい。
【0044】
ZHX2抗体はまた、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す「モノクローナル抗体」も含み得ることが想定され、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、微量で存在し得る自然発生可能な変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して向けられている。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を含み得る従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対して向けられている。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均質な抗体の集団から得られるという抗体の特徴を示しており、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法によって作製され得る又はファージ抗体から単離され得る。
【0045】
本明細書で使用する場合、「免疫反応性」とは、ZHX2上のアミノ酸残基の配列(「結合部位」又は「エピトープ」)に特異的であるが、他のペプチド/タンパク質と交差反応性である場合でも、ヒト使用への投与用に製剤化されるレベルでは毒性がない結合剤、抗体又はその断片を指す。「結合」という用語は、例えば、生理学的条件下での共有結合、静電相互作用、疎水性相互作用、イオン性相互作用及び/又は水素結合相互作用による、2つの分子間の直接的な会合を指し、塩橋及び水橋などの相互作用並びに他の従来の結合手段が含まれる。「優先的に結合する」という用語は、結合剤が、無関係なアミノ酸配列に結合するよりも高い親和性で結合部位に結合することを意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「親和性」という用語は、2つの薬剤の可逆的な結合の平衡定数を指し、Kdとして表される。リガンドに対する結合タンパク質の親和性、例えば、エピトープに対する抗体の親和性は、例えば、約100ナノモル(nM)~約0.1nM、約100nM~約1ピコモル(pM)、又は約100nM~約1フェムトモル(fM)であり得る。本明細書で使用される場合、「結合活性(avidity)」という用語は、2つ以上の薬剤の複合体の希釈後の解離に対する抵抗性を指す。見かけの親和性は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの方法、又は当業者によく知られている任意の他の技術によって決定することができる。結合活性は、スキャッチャード分析などの方法、又は当業者によく知られている任意の他の技術によって決定することができる。
【0047】
「エピトープ」とは、抗体の可変領域結合ポケットと結合相互作用を形成することが可能な抗原又は他の巨大分子の部分を指す。
【0048】
「特異的」という用語は、抗体によって認識されるエピトープを含有する抗原以外の分子に抗体がいかなる有意な結合も示さない状況を指す。この用語はまた、例えば、抗原結合ドメインがいくつかの抗原によって担持される特定のエピトープに対して特異的である場合にも適用可能であり、その場合、抗体はエピトープを担持する様々な抗原に結合することができる。「優先的に結合する」又は「特異的に結合する」という用語は、抗体が無関係なアミノ酸配列に結合するよりも高い親和性でエピトープに結合し、そのエピトープを含有する他のポリペプチドと交差反応性がある場合でも、ヒト使用への投与用に製剤化されたレベルでは毒性がないことを意味する。
【0049】
「結合」という用語は、例えば、生理学的条件下での共有結合、静電相互作用、疎水性相互作用、イオン性相互作用及び/又は水素結合相互作用による、2つの分子間の直接的な会合を指し、塩橋及び水橋などの相互作用並びに任意の他の従来の結合手段が含まれる。
【0050】
本明細書で検討されているように、ZHX2阻害剤は、遺伝子発現技術によって生成することができる。「RNA干渉」又は「RNAi」という用語は、siRNAによる遺伝子発現のサイレンシング又は低下を指す。これは、サイレンシングされた遺伝子の配列と二重鎖領域において相同性があるsiRNAによって開始される、動物及び植物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスである。遺伝子は、生物にとって内因性であっても外因性であってもよく、染色体に組み込まれて存在する又はゲノムに組み込まれていないトランスフェクションベクターに存在していてもよい。遺伝子の発現は、完全に又は部分的に阻害される。RNAiはまた、標的RNAの機能を阻害するとも考えられ得る。標的RNAの機能は、完全又は部分的であり得る。
【0051】
「siRNA」という用語は、低分子干渉RNAを指す。一部の実施形態において、siRNAは、約18~25ヌクレオチド長の二重鎖又は二本鎖領域を含む。多くの場合、siRNAは、各鎖の3’末端に約2~4個の不対ヌクレオチドを含有する。siRNAの二重鎖又は二本鎖領域の少なくとも1つの鎖は、標的RNA分子と実質的に相同である又は実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は「アンチセンス鎖」であり、標的RNA分子に相同な鎖は「センス鎖」であり、siRNAアンチセンス鎖にも相補的である。siRNAはまた、追加の配列も含有し得る。そのような配列の非限定的な例としては、連結配列、又はループ、及びステム、並びに他の折り畳み構造が挙げられる。siRNAは、無脊椎動物及び脊椎動物におけるRNA干渉の誘発、並びに植物における転写後遺伝子サイレンシングの際の配列特異的RNA分解の誘発で重要な媒介として機能するように思われる。
【0052】
また、本明細書で実施例に開示されているように、CRISPR技術を使用することにより、ZHX2をサイレンシング又は「オフ」にすることができることも検討される。
【0053】
また、ZHX2は、ZHX2遺伝子に、又はZHX2遺伝子の上流若しくは下流に直接的若しくは間接的に結合若しくは相互作用する薬理学的薬剤によって、サイレンシング若しくは「オフ」にされる可能性があり、又はこれらの部位で可逆的又は不可逆的な変化を起こす可能性があるとも考えられる。
【0054】
また、ZHX2が、核内においてZHX2と相互作用するタンパク質を阻害又は遮断する薬理学的薬剤によって、間接的にサイレンシング又は「オフ」にされ得ることも考えられる。このようなタンパク質の例には、他のZHXタンパク質、例えば、ZHX1及びZHX3、核因子YA、核因子YB、核因子YC、FoxC1及びエフリンB1/B2、又はZHX2と相互作用することが公知である任意の他のタンパク質が含まれる。
【0055】
一般的な方法
COVIDのサイトカインカクテル及び関連の動物試験
実施されたすべての動物試験は、ラッシュ大学又はアラバマ大学バーミンガム校のIACUCによって承認された。すべての動物は、プロトコルに従って人道的扱いを受けた。Dynabeadによるマウス糸球体の分離、ふるい分けによるラット糸球体の分離、組織切片の組織保存、給餌しない代謝ケージでの18時間の採尿、アルブミン尿及びタンパク尿の評価、リアルタイムPCR、共焦点イメージング、電子顕微鏡検査及びサンプル処理、光学顕微鏡検査のための組織学検査、ウェスタンブロット法及び共免疫沈降法の方法は、既に記載されており、公知である。以下を、血清サンプルを使用する市販のキットを使用してアッセイした;マウスALT(BioVision K752-100)、マウス心臓トロポニンIタイプ3(Novus Biologicals NBP3-00456)、マウスクレアチンキナーゼ(Abeam ab155901)及びヒトIL-4Rα ELISA(Abeam ab46022)。以下の抗体をウェスタンブロット用に購入した:抗pSTAT6(Cell Signaling Technology, Inc.Danvers MA、米国;cat # 56554、1:500希釈);抗STAT6(Cell Signaling Technology, Inc. Cat # 5397、1:500希釈)。ZHX1、ZHX2、及びZHX3に対する抗体は、既に記載されている。Maceら 2020;Liuら、「ZHX proteins regulate podocyte gene expression during the development of nephrotic syndrome,」 (2006) J. Biol. Chem. 281:39681~39692頁;Clementら、「Early changes in gene expression that influence the course of primary glomerular disease,」 (2007) Kidney Int. 72:337~347頁。
【0056】
すべてのサイトカイン、可溶性受容体、抗体はげっ歯類に静脈内注射され、以下にリストアップされている:
【0057】
【0058】
枯渇試験に使用された抗体は、対応する組換えタンパク質を使用したウェスタンブロットによって特性決定された。各用量のサイトカインカクテルは、最終容量100μLの滅菌0.9%生理食塩水に溶解させた。BALB/cJ(Jackson Labs)マウス及びBALB/c(Envigo)マウスを8週齢で購入し、2週間馴化させ、ベースラインの18時間採尿及び尾部血液サンプル採取を実施した。追加のベースライン採尿をBALB/cJマウスに対して実施した。ほとんどのインビボ試験は、10週齢~15週齢の間に実施した。サイトカインカクテルの腎炎発症用量スペクトルは、BALB/cJ、BALB/c、IL4r-/-(Jackson Labs)、ZHX2flox/flox、NPHS2cre/creに対して確立された。閾値腎炎原性用量(BALB/cJ、BALB/c、I14r-/-のBALB/cJバックグラウンド、X/2;ZHX2flox/flox、NPHS2cre/cre、X/15)を使用するマウスサイトカイン試験の際、血管内水分補給を維持するために、サイトカインカクテルの静脈内投与直後に100μLの0.9%生理食塩水を腹腔内投与した。中間カクテルモデル及び高カクテルモデルにおいて、6時間及び23時間に0.9%生理食塩水100μLを2回、追加腹腔内注射した。サイトカイン枯渇試験において、マウスサイトカインカクテル投与後の1時間に、異なるマウス群に50μgのコントロールIgG又はそれぞれの抗体若しくは抗体の組合せを静脈内投与した。
【0059】
血漿クレアチニンの質量分析アッセイ
血清クレアチニンは、Agilent 1290 Infinity II LCシステムと、2x50mm、2μmのTosoh Bioscience TSK-GEL amide-80 LCカラムを組み合わせて使用し、Agilent 64953連4重極質量分析計に接続したLC/MS/MSによって測定した。オーブン温度は40℃で固定した。移動相は、LCMSグレードの水(35%)及びLCMSグレードのアセトニトリル(ACN;65%)中の10mM酢酸アンモニウムで構成した。合成クレアチニン(20μg/ml~0.16μg/ml範囲;Sigma)及び同位体標識クレアチニン(D3-クレアチニン、10μg/ml;Sigma)をそれぞれ標準及び内部標準として使用した。次いで、10ulのサンプル又は標準を5μlの内部標準及び235ulの100%ACNと合わせ、ボルテックスし、4℃で15分間、15000rpmで遠心分離を行った。LCMSグレードの水に溶解した10mM酢酸アンモニウムと65%アセトニトリル200μLとを入れた新しいチューブに上清を移し、ボルテックスし、4℃で15分間、15000rpmで遠心分離を行い、その後測定した。すべてのサンプルは2回測定した。
【0060】
ヒトゲノムDNA及びヒト腎生検の提供元
ネフローゼ症候群の患者36名、コントロールとなる対象33名、及び糖尿病性腎症の患者16名からのゲノムDNAサンプルは、以下の提供元から入手した。(a)DNA、血液、尿サンプルを収集するためのIRB承認プロトコルX080813001により取得した、アラバマ大学バーミンガム校のネフローゼ症候群患者の血漿からの不死化単球、(b)糸球体疾患患者からの保存された腎生検又は健康な生きた血縁の腎ドナーからの移植前腎生検が含まれる、メキシコシティの国立心臓研究所(Instituto Nacional De Cardiologia)でのIRB承認の研究(CONACYT 34751M、CONACYT 11-05、DPAGA-UNAM IN-201902)、(c)ペルーのリマ、アルベルト・サボガル・エッサルド国立病院(Hospital Nacional Alberto Sabogal Essalud)からのIRB免除の保存された腎生検、(d)ポドサイト発現関連遺伝子に公知の変異を持つ、デューク分子生理学研究所(Duke Molecular Physiology Institute)からの既発表43,44のFSGS患者の保存されたヒトDNA、(e)1000ゲノムプロジェクト及びHAPMAPプロジェクトからのDNAを保存する、コーリエル細胞貯蔵機関(Coriell Cell Repositories)。症例とコントロールとの間の分析比較のため、1000ゲノムプロジェクト・フェーズ3 Ensambl v84を単一の追加コントロールとして含めた。
【0061】
Agilentカスタムキャプチャー及びハイスループットIlluminaシーケンシング
第8染色体上のHAS2とZHX2との間のゲノム間隔を分離するために、カスタムキャプチャーシーケンスパネルを作製した。標的間隔は、Agilent SureSelect capture probe design and synthesis(Agilent Technologies、Santa Clara CA)のSureDesignウェブサイトにアップロードされた。ゲノムDNAライブラリーの調製及び間隔キャプチャーは、製造業者の指示書(Agilent Technologies)に従ってQXT SureSelectキットを使用して行った。得られたDNAライブラリーはQPCR(Kapa Biosystems、Wilmington MA)により定量化し、標準プロトコルに従ってIllumina HiSeq 2500又はNextSeq 500でペアエンド100bpシーケンスによりシーケンスした。約1,500万個の配列が反応ごとに得られた。FASTQファイルの生成は、Illumina(Illumina, Inc.、San Diego CA)のbcl2fastqコンバーターを使用して行った。CLC Genomicsソフトウェア(バージョン12、Qiagen、Venlo、オランダ)を使用して、ペアのIllumina配列をhg38データベース(GRCh38.pl3 Primary Assembly)と比較した。3bpサイズ以上の挿入及び欠失、並びに最低20シーケンスの読み取りを分析のために選択した。試験の対象及びコントロールの対象における挿入及び欠失のフィッシャー検定比較がExcel形式でエクスポートされ、その後、コントロールに存在するすべての挿入及び欠失がソフトウェア支援及び手動により除外された。IGVブラウザソフトウェア(Broad Institute、Boston MA)を使用して続いて確認された挿入及び欠失のみを含めた。ホモ接合性の確立には、85%超の配列にInDelの存在すること、またその後IGVにより確認することが必要であった。挿入又は欠失の部位にわずかな不一致(1~2塩基対の位置の相違)が2つのソフトウェア間で時折認められた、CRISPR Cas9試験の設計の間にサンガーシーケンスによって解決された。すべてのゲノムの番号付けは、hg38及びCLCゲノミクスソフトウェアに基づいている。
【0062】
ヒトゲノムにおけるSlc22a22の位置の仮定上の予測図
BLASTに基づくマージンは、ヒトゲノムと一致するマウス遺伝子の2つの周辺部分を使用した。BLAST及びサイズに基づく投影は、BLASTに基づくマージンをマウス遺伝子の両端のサイズまで拡張した。
【0063】
CRISPR/Cas9を使用した培養ヒトポドサイトのゲノム編集
CRISPR Cas9に関する基本的な方法論は既に発表されている。Congら、「Multiplex Genome Engineering using CRISPR/Cas Systems,」 (2013) Science 339:819~823頁を参照されたい。確立された初期継代不死化ヒトポドサイト細胞株51から単一細胞由来の細胞クローンが作製され、ゲノム編集試験に使用された。使用したオリゴヌクレオチド及びプライマーを表4に挙げている。
【0064】
【0065】
CRISPR B
sgRNAプラスミドの作製:10bpの挿入(CACACACACA)を導入するために、挿入部位の45bp下流の特定の部位(Chr8~122、533、694~122、533、695)を認識するsgRNAをBenchlingのウェブサイト(https://benchling.com)を使用して設計した。オリゴG0016及びG0017を、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB)を使用してリン酸化及びアニールし、BbsIで消化し、T7 DNAリガーゼ(New England Biolabs)を使用してpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9プラスミド(Feng Zhangからの提供、Addgeneプラスミド#42230)にライゲーションした。ライゲーション産物をPlasmidSafeエキソヌクレアーゼ(Epicentre)で処理して不必要な組換え産物を防止し、次いで、One Shot TOP10細胞(Invitrogen)に形質転換した。10個のコロニーをピックアップし、QIAprep Spin Miniprepキット(QIAgen)を使用してプラスミドを単離した。プラスミドDNAは、プライマーKI145を使用して配列決定した(表4を参照されたい。)。
【0066】
ドナープラスミドの作製:研究対象の挿入を含む患者E58-13のヒトゲノム配列は、KAPA HiFi HotStart PCR キット(Kapa Biosystems)、特定の患者ゲノムDNA、並びにプライマーKI195及びKI196を使用して増幅され、BamHIとHindIII制限部位との間のpBlueScript II KS+ベクターにクローニングされた。KI207を使用してプラスミドDNAを配列決定し、挿入の存在を確認した。Quikchange変異誘発キット(Agilent Technologies)並びにプライマーのK1215及びK1216を使用してPAM配列に単一変異を作製し、このドナー鋳型プラスミドの切断を防止し、配列決定によってその変化を確認した。次に、このプラスミドをプライマーのK1219及びK1220を使用して線状で増幅し、PCR産物をDpnIで消化し、残存する環状鋳型プラスミドを除去した。ITR配列によって挟まれた抗生物質選択カセット(ピューロマイシン耐性及び切断型チミジンキナーゼ)を、プライマーのK1217及びK1218を使用してPB-MV1 Puro-TKプラスミド(Transposagen)からPCRによって増幅し、Gibson assembly Master Mix(NEB)を使用して挿入の78bp上流のTTAA領域で線状化プラスミド(上記参照)ライゲーションした。NEB(登録商標)5-アルファコンピテントイー・コリ(E. coli)細胞を2μlのアセンブリ反応産物で形質転換した。10コロニーからプラスミドDNAを単離し、プライマーK1217を使用して配列決定し、正しいアセンブリを確認した。
sgRNA及びドナープラスミドを使用するゲノム編集:腎臓病患者において確認されたInDelをインビトロ複製するために、単一細胞由来の培養ヒトポドサイトを、特異的sgRNAを含有するCRISPR/Cas9ベクター並びに、ドナー配列及び抗生物質選択カセットを含有するドナープラスミドを用いたエレクトロポレーション(Biorad Gene Pulser Xcell(商標)エレクトロポレーションシステム、0.2cmキュベット、矩形波モード、150V、10ミリ秒パルス)によってトランスフェクトした。1μg/mlのピューロマイシン二塩酸塩(Gibco)で15日間のインキュベートにより非トランスフェクト細胞を除去した後、10μgの切除のみの(Excision-only)piggyBacトランスポザーゼ発現ベクター(Transposagene)をトランスフェクトし、抗生物質選択カセットを傷跡なく除去した。トランスフェクション後4日に、細胞を2.5μMのガンシクロビル(Sigma)とインキュベートし、残存する切断型チミジンキナーゼ活性を持つ細胞を除去した。単一細胞をピックアップし、クローンを確立し、QIAamp DNA Mini Kit(QIAgen)を使用してゲノムDNAを抽出し、Platinum HiFi DNAポリメラーゼ(Invitrogen)並びにプライマーKI189及びKI188を使用して標的領域をPCR増幅した。PCR産物を、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAgen)を使用してゲル精製し、TA Cloning(商標)キット(Invitrogen)を使用してpCR2.1ベクターにクローニングし、挿入はMl3フォワード・シーケンシング・プライマーを使用して配列決定した。配列は、天然のポドサイトゲノム配列及びドナーの鋳型配列とBLASTによりアラインメントした。
【0067】
CRISPR A
全体的な方法は、使用したプライマー及びオリゴヌクレオチド、並びに以下の部位固有の詳細を除いて、CRISPR Bの場合と同じであった。8bpの挿入物(TGGATGGA)をChr8~122、304、094~122、304、095)に導入し、挿入部位の73bp上流の特定の部位を認識するようにsgRNAを設計した。ドナープラスミドを作製する際、患者特異的ゲノムDNA(患者SF3)をpBlueScript II KS+ベクターのSpeI部位とBamHI部位との間にクローニングした。ギブソンアセンブリの際、抗生物質耐性カセットを、挿入の51bp上流のTTAA領域で線状化プラスミドとライゲートした。
【0068】
動物モデルにおけるSTAT5、STAT6及びNFκB経路の試験
BALB/cマウス及びBALB/cJマウス(1群あたりn=3匹のマウス)に通常の生理食塩水又はカクテルD用量3倍を注射し、15分、30分、60分の時点で安楽死させた。マウスは、安楽死前に左心室注射によってプロテアーゼ阻害剤(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:A32953)及びホスファターゼ阻害剤(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:A32957)が灌流された。定性試験については、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤の存在下で、肝臓、心臓及び腎臓からRIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:89900)を使用して全タンパク質を抽出し、STAT5(STAT5及びpSTAT5)、STAT6(STAT6及びpSTAT6)及びNFκB(p65及びホスホ-p65)経路の活性化を確認した。定量試験については、核抽出キット(Nous Biological、Centennial CO、USA、カタログ# NBP-2-29447)を使用して、各マウスのこれらの臓器から核画分及び細胞質画分を別々に抽出した。核内発現タンパク質ラミンB1のウェスタンブロットを両方の画分に対して実施し、核画分における優勢な発現を確認した。GAPDHのウェスタンブロットを実施し、両方の画分中に存在することを確認した。ウェスタンブロットによる相対定量については、pSTATタンパク質を核画分のラミンB1との比率として、細胞質画分では対応するSTATタンパク質との比率として表した。両比率成分は常に同じ非飽和フィルム画像からスキャンされ、Bio-rad Image Lab 6.1ソフトウェアを使用して、クローズクロップドバンドの手動検出、バックグラウンド減算、バンド識別、及び調整された総レーン体積計算により密度測定が実施された。以下のタンパク質に対する抗体を購入した:STAT5(D2O69、1:500)、p-STAT5(D47E7、1:1000)、STAT6(D3H4、1:500)、P-STAT6(D8S9Y、1:1000)、NF-κB p-65(D14E12、1:1000)、P-NF-κB P-p-65(S536、1:1000)、GAPDH 14C10、1:20,000)、すべてCell Signaling Technology, Inc製、Danvers MA、米国;ラミンB1(abl6048、1:5,000、Abeam Cambridge 英国);ロバ抗ウサギIgG HRP(1:20,000、Jackson Laboratories)。
【0069】
インビトロでのSTAT6シグナル伝達試験
野生型(CRISPR改変ポドサイトの前駆体)及びCRISPR-Bポドサイトを、熱不活化10%ウシ胎児血清、1%インスリン-トランスフェリン-セレン(ITS-G、Thermo Fisher Scientific-カタログ番号41400045)、及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Steptomycin)(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号15140122)を含有するRPMI 1640培地で33℃にて培養した。細胞を継代培養し、10cmの培養皿に50,000細胞/皿で37℃にて3日間播種した。次に、培養培地を、熱不活性化0.2%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するRPMI 1640と交換した。24時間後、細胞をカクテルC又は風邪カクテル(X/100,000)で10分間、20分間及び30分間処理した。タンパク質を、プロテアーゼ阻害剤(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:A32953)及びホスファターゼ阻害剤(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:A32957)を含有するRIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:89900)を使用して単離した(10mlのRIPA緩衝液には、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤がそれぞれ1錠ずつ含まれていた。)。タンパク質濃度は、Bradfordタンパク質アッセイを使用して評価した。
【0070】
IL-4Rαアッセイ用のCOVID-19患者及びコントロール患者からヒト血漿
ヒト血漿の100μLアリコートは、次の提供元から入手した。(a)ラッシュ(Rush)大学のCOVID-19 Registry and Biorepositoryからの匿名化されたIRB承認の入院COVID患者サンプル、(b)タンパク尿の存在に関して選択された、ラッシュ大学 COVID-19 Registry and Biorepositoryからの匿名化されたIRB承認の入院COVID患者サンプル、(c)Zenbio(Durham NC、米国)から購入した、年齢、性別、人種をa群とマッチングさせた匿名化された血漿サンプル。
【0071】
統計分析
すべてのグラフの値は、平均+標準誤差である。2つの群に関与するタンパク尿、アルブミン尿、又は遺伝子発現の差異については、Microsoft Excel 2013で独立スチューデントt検定を使用した。特に指定のない限り、すべての有意性は両側検定である。
【0072】
以下の実験の実施例をさらに参照されたい。
【実施例】
【0073】
以下の実施例は、本発明の様々な実施形態を説明する目的で提供されており、本開示をいかなる形態に置いても限定することを意図するものではない。本実施例は、本明細書に記載の方法とともに、現在のところ好ましい実施形態を代表するものであり、単なる例示として提供されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨の範囲内に包含されるそこでの変更及び他の使用は、当業者には自明である。
【0074】
[実施例1]
新規のCOVID-19サイトカインストームカクテルの開発
図1a~gは、COVID-19サイトカインストームモデルの開発及び特性決定を示す。(
図1a)ヒト疾患の状況におけるCOVID-19誘発性サイトカインストームの模式図。(
図1b)COVIDカクテルA~Dの用量Xの組成。(
図1c)BALB/cJマウスに異なる用量のカクテルDを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。X/2は、BALB/cJマウスにおける閾値腎炎原性用量である。(
図1d)BALB/cJマウスに個々のCOVIDカクテル成分の用量Xを注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=4匹のマウス)。(
図1e)BALB/cマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。(
図1f)BALB/cJマウスにCOVIDカクテルA~Dの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。(
図1g)BALB/cマウスにそのままのカクテルCの用量X/2を注射、又はポドサイトを標的とする個々の成分を欠いたカクテルCの用量X/2を注射した後のアルブミン尿(1群あたりn=6匹のマウス)。P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。すべての有意値は両側検定である。
【0075】
図9a~c:(
図9a)一般のCOVID-19患者、年齢、性別、及び人種をマッチさせた健常なコントロール、並びにタンパク尿を伴うCOVID-19患者におけるELISAにより評価された血漿IL-4Rαレベル。アッセイされた患者サンプルの数を以下に示す。(
図9b)カクテルD用量X/2の注射後1日目のBALB/cJマウス糸球体の電子顕微鏡画像。局所的な足突起消失(黒色矢印)、内皮空胞化(緑色丸)及び内皮肥大(青色丸)の領域が認められた。(
図9c)質量分析法により測定した血清クレアチニンは、COVIDサイトカインカクテル用量X/2モデル(BALB/cマウス及びBALB/cJマウス;1群あたりn=6匹のマウス)では増加されない。スケールバー0.5μm。
*P<0.05;
**P<0.001。
【0076】
COVIDカクテルA~Dは、集中治療室に入院しているCOVID-19患者をモデル化するために段階的に開発された(
図1b)。最初の5種のサイトカイン(
図1b)は、すべてのカクテルに共通である。循環IL-4Rαレベルもまた、タンパク尿を伴うCOVID患者において上昇している(
図9a)。集中治療室のCOVID-19罹患患者及び重度のCOVID-19疾患になりやすい高齢者とメタボリックシンドローム患者においては血漿sACE2レベルが有意により高いことから、COVID-19受容体であるACE2がCOVID-19カクテルに含まれていた。COVID-19罹患患者の血漿IL-13及びIL-4の高レベルは、この疾患におけるアレルギー経路の急性活性化を示唆している。カクテルAからsIL-4Rαを除去し、IL-4及びIL-13を加えることによりカクテルBが作製され、カクテルAにIL-4を加えることによりカクテルCが得られた。カクテルCにIL-13を加えることによりカクテルDが得られた。
【0077】
用量反応試験は、BALB/cJマウスにおいて、1/2倍が組織学的変化も誘発する(
図9b)、閾値腎炎原性用量であることを示した(
図1c)。個別に、組合せXと同じ用量で使用されたこれらのサイトカインはいずれもアルブミン尿を引き起こさなかった(
図1d)。BALB/cマウスに対してBALB/cJマウスでは、ベースラインのアルブミン尿がより低いことが報告されている。Maceら 2020を参照されたい。
【0078】
[実施例2]
COVID-19カクテルによって誘発される相乗的なマルチサイトカイン損傷の全身性症状発現
カクテルDの高用量(3倍)の注射によりアルブミン尿を誘発されるとともに、血清心筋トロポニンI3型(cTPI3;心筋損傷、
図2a)、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT;急性肝臓損傷、
図2b)、血清クレアチニン(急性腎臓損傷、AKI;
図2c)及び血漿クレアチンキナーゼ(CK、骨格筋損傷;
図10a)の上昇が生じた。
【0079】
図2a~hは、ZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して、ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスにおいて高用量のカクテルD(3倍)によって誘発される全身性損傷の低減を示す。用量3倍はまた、低用量又は用量3倍の個々の成分と比較して、大きな損傷を有する。(
図2a)心筋トロポニンI(cTPI3)レベルによって評価された急性心筋損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。(
図2b)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性レベルによって評価した急性肝臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。(
図2c)質量分析法を使用して測定した血清クレアチニンによって評価した急性腎臓損傷(1群あたりn=8匹のマウス)。(
図2d)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性心臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。心筋溶解(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、線維破壊(青色矢印)、好酸球増多(緑色矢印)、及び心膜炎(橙色矢印)が認められた。(
図2e)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのH&E染色切片を使用した急性肝臓損傷の組織学的特徴(1群あたりn=3匹のマウス)。肝細胞損傷(赤色矢印)、炎症(黒色矢印)、突出したクッファー細胞(緑色矢印)、再生変化(黄色矢印)、中心静脈周囲損傷(青色矢印)が認められた。(
図2f)カクテルD3倍用量を注射したマウスからのPAS染色切片(列1、2、4)及び腎臓電子顕微鏡(列3)を使用した急性腎臓損傷の組織学的評価(1群あたりn=3匹のマウス)。下の3列は近位尿細管を示し、最上列は遠位尿細管を示す。近位尿細管において、空胞化(赤色矢印)、刷子縁破壊(緑色矢印)、及び尿細管変性(黒色矢印)が認められた。遠位尿細管において、剥離のエビデンス(青色矢印)が存在した。泡沫細胞も認められた(白色矢印)。電子顕微鏡スケールバーBALB/c、2.66μm;BALB/cJ、2μm。(
図2g)BALB/cマウス及びBALB/cJマウスの心臓における組織学的変化の形態計測分析及び比較を示す表。(
図2h)BALB/cマウス及びBALB/cJマウスの肝臓における組織学的変化の形態計測分析及び比較を示す表。(
図2i)BALB/cマウス及びBALB/cJマウスの腎臓における組織学的変化の形態計測分析及び比較を示す表。光学顕微鏡スケールバー20μm。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【0080】
図10a~nは、BALB/cJマウスにおけるZHX2ハイポモルフ状態の特徴を示す。(
図10a)異なる用量のカクテルD注射後24時間のBALB/cJマウス(1群あたりn=4匹のマウス)における骨格筋損傷のマーカーである血漿クレアチンキナーゼ。(
図10b)いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2aから得られた血清心筋トロポニンIレベルのデータ。(
図10c)いくつかの単一サイトカイン注射群におけるレベルの増加がより少ないことをより高い解像度で示すために再プロットした、
図2bから得られた血清ALTレベルデータ。(
図10d)
図2a~cに対応する、カクテルD3倍又は単回サイトカイン用量3倍を注射したBALB/cJマウスの18時間アルブミン尿。(
図10e)
図2a~cに対応する、単回サイトカイン用量3倍を注射したBALB/cマウスの18時間アルブミン尿。カクテルD3倍後のそれらの死亡率が高いことを考慮すると、定時採尿のための代謝ケージ飼育は、BALB/cマウスでは実現不可能である。(
図10f)リアルタイムPCR(1群あたりn=6の鋳型)で評価した、BALB/cマウスと比較したBALB/cJにおける心臓及び骨格筋のZHX2 mRNA発現の倍数差。肝臓における低レベルのZHX2 mRNA発現は既に発表されており、この現象の陽性コントロールとしての役目を果たす。3倍の差を有意であるとした。(
図10g)BALB/cJマウス心臓とBALB/cマウス心臓の間でのサイトカイン受容体、Ace2、Zhx1、Zhx3、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。(
図10h)BALB/cJマウス肝臓とBALB/cマウス肝臓の間でのサイトカイン受容体、Ace2、Zhx1、Zhx3、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。(
図10i)BALB/cJマウス骨格筋とBALB/cマウス骨格筋との間でのサイトカイン受容体、Ace2、Zhx1、Zhx3、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。またSTAT5の発現がBALB/cマウスにおいて3.06±0.40倍高かった。(
図10j)BALB/cJマウス糸球体とBALB/cマウス糸球体との間でのサイトカイン受容体、Ace2、並びにシグナル伝達経路タンパク質STAT5、STAT6及びP-65(NFκB)の発現のリアルタイムPCR比較(1群あたりn=6の鋳型)。3倍の差を有意であるとした。他のIL-2R鎖はマウス糸球体においては発現しておらず、Zhx1及びZhx3は既に発表されている。(
図10k)カクテルD用量3倍の注射後24時間のBALB/cJマウスの腎臓糸球体の電子顕微鏡写真。多巣性足突起消失(赤色矢印)、内皮肥大(緑色矢印)及び糸球体基底膜(GBM)のリモデリング(青色矢印)が存在した。(
図10l)カクテルD用量3倍の注射後24時間のBALB/cマウスの腎臓糸球体の電子顕微鏡写真。広範囲にわたる足突起消失(赤色矢印)、内皮肥大(緑色矢印)及び糸球体基底膜(GBM)のリモデリング(青色矢印)が存在した。(
図10m)カクテルD3倍用量の注射後24時間のBALB/cJマウスからのヘマトキシリン及びエオシン染色骨格筋。局所的炎症(黒色矢印)が一部の切片において認められた。(
図10n)BALB/cJマウス(1群あたりn=6匹のマウス;用量1/2倍)におけるカクテルDモデルを誘導し、その後の、モデル誘導後の1時間のコントロールIgG又は抗体枯渇の組合せのアルブミン尿。(o)BALB/cマウス(1群あたりn=6匹のマウス;用量1/2倍)におけるカクテルC誘導後、IL-4Rα、TNFR1、IL-10Rβに対する抗体、又はコントロールIgGを使用した受容体遮断後のアルブミン尿。スケールバー(k)0.5μm、(l)0.5μm、(m)20μm。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【0081】
cTPI3、ALT及びアルブミン尿もまた、カクテルよりも有意に低いレベルではあったがいくつかの個々のサイトカインについては3倍用量で増加した(
図2a、b;
図10b~e)。アルブミン尿評価のための代謝ケージでの定時採尿は、カクテルD3倍用量を注射したBALB/cマウスにおける高死亡率を考慮して実施されなかった(下記参照)。カクテルD3倍用量は、BALB/cマウスにおいて、BALB/cJマウスと比較して有意により重度の心臓、肝臓及び急性腎臓損傷を誘発したが、このことは後者がZHX2ハイポモルフ状態によって保護されていることを示唆している。BALB/cJマウスの肝臓、腎臓及び糸球体のZHX2ハイポモルフ状態については既に記載されているが(Maceら、2020;Perincheriら、2005;Perincheriら、2008)、本発明者らは、心臓及び骨格筋においても同様の変化を見出した(
図10f)。心臓、肝臓、骨格筋及び糸球体におけるサイトカイン受容体、ACE2、他のZHXタンパク質及び選択シグナル伝達経路タンパク質のmRNA発現は、BALB/cJマウスとBALB/cマウスとの間では同様であった(
図10g、h、I、j;例外として、BALB/cJ糸球体ではAce2がより高く、BALB/c骨格筋ではSTAT5がより高い。)。心臓組織学(
図2d)では、心筋溶解、局所的な線維破壊及び好酸球増多、炎症(心筋炎)及び心膜炎が明らかになった。肝臓組織学(
図2e)では、実質的肝細胞損傷、突出したクッファー細胞、高頻度の変性変化と再生変化及び軽度の炎症が示された。腎臓の尿細管-間質区画の組織学的評価(
図2f)では、頻繁な空胞化、内腔の拡大、刷子縁破壊及び尿細管上皮細胞の剥離という形で近位尿細管損傷の証拠が明らかになった。上皮細胞の剥離、泡沫細胞及び空胞形成もまた遠位尿細管において認められた。カクテルD3倍注射後24時間のこれらの臓器の形態計測学的差異がBALB/cマウスとBALB/cJマウスとの間で認められた(
図2g、h、i)。しかし、重度又は広範な炎症のエビデンスは見られなかった。
【0082】
[実施例3]
重度のサイトカインストームモデル(カクテルD用量3倍)の誘導後の死亡率に対するZHX2発現の影響。
【0083】
図3及び
図4は、サイトカイン枯渇なし又はサイトカイン枯渇後のZHX2ハイポモルフBALB/cJマウス(
図3)及びZHX2
+/+BALB/c(
図4)の死亡率を示す。1群あたりの注射されたマウスの数は分母に示す。各図のコントロールIgG群は、いかなる治療的サイトカイン枯渇もない各系統における死亡率を表している。代謝ケージを含む同等の飼育条件下では、この群の死亡率は、BALB/cマウス(1/6マウス又は16.6%;
図3)と比較して、BALB/cマウスにおいては非常に高い(5/6マウス又は83.3%;
図4)。
図4の残りのデータは、マウスを通常のケージに収容することによって生成されたもので、死亡率は2/6又は33.3%と低くかった。すべての枯渇抗体又はコントロールIgGは、モデル誘導後1時間に静脈内注射された。
【0084】
[実施例4]
ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤及びCRISPR Cas9を使用したZHX2ハイポモルフ状態の複製
大規模な全エクソーム配列解析試験では、ZXH2に関連する疾患原因型MCD、FSGS、COVID-19関連FSGS虚脱型)は特定されなかったため、コントロールの対象についてはHAS2(直近の上流遺伝子)の開始点(
図5a)からZHX2の終点まで配列決定された。1000ゲノムデータベースが追加のコントロールとして使用された。
【0085】
図5a~f:ZHX2ハイポモルフ状態のゲノム基盤。非コードDNAの挿入及び欠失(InDel)は、糸球体疾患の患者におけるZHX2発現に影響を及ぼす。(
図5a)8番染色体上のZHX2及び近傍遺伝子の模式図。(
図5b)MCD患者(n=9名の患者)、FSGS患者(n=19名の患者)及びCOVID-19関連FSGS虚脱型(n=8名の患者)の間で共有される挿入及び欠失のマッピング。122、533、694の最も一般的な共有挿入は、ヒトにおいては機能していないげっ歯類発現遺伝子Slc22a22の理論上の開始点又はその近くにマッピングされる可能性がある。122、293、423の別の共有挿入は、Slc22a22の理論上の終点近くに位置していた。これらのInDelは、コントロールの対象(n=33)又は1000ゲノムプロジェクトでは認められなかった。Exはエクソンである。(
図5c)上述した共有挿入の表形式の表示。(
図5d)患者とコントロールの対象との間に共通する8bpの挿入(CRISPR A)、又はコントロールの対象及び1000ゲノムプロジェクトには存在しない122、533、694の10bpの共有挿入(CRISPR B)を含有する、単一細胞由来の培養ヒトポドサイト細胞株のCRISPR Cas9支援ゲノム編集クローンの模式図。(
図5e)上記ゲノム改変クローン(CRISPR A、3クローン、プールされたデータ;試験CRISPR B、2クローン)における相対的ZHX2 mRNA発現を、親単一細胞由来の培養ヒトポドサイト細胞株(クローンあたりn=7の鋳型)と比較した。点線は親細胞株における発現を表す。(
図5f)コントロールの単一細胞由来の親細胞株と122、533、694に挿入された2つの変異クローンのうちの1つにおけるZHX2発現を比較したウェスタンブロット。
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【0086】
図11a~c:(
図11a)試験集団における単一挿入及び共有挿入並びに欠失(InDel)。(
図11b)疾患サブカテゴリー別に拡大されたFSGS患者のInDel。(
図11c)糖尿病性腎症患者(n=13名)における共有InDel。
【0087】
図12a~c:(
図12a)試験集団における単一InDelのリスト。(
図12b)げっ歯類におけるHas2とZHX2との間のSlc22a22遺伝子、並びに大きさと心拍数の順に並べられた、大型動物及びヒトにおけるその遺伝子の欠如。(
図12c)
図5fに示したブロットからのポンソーレッド染色膜。
【0088】
CLC Genomicsソフトウェアを使用して患者集団においてのみ確認された3bp以上の多重挿入及び欠失(InDel)を、第2のスクリーニング方法としてのIGVを使用して確認し、両方の方法で存在するInDelのみを含めた。MCD患者9名のうちの6名、FSGS患者19名のうちの10名、及びCOVID-19 CG患者8名全員がInDelを有していた。3つの挿入及び1つの欠失が2名以上の患者で共有されていた。122、533、694での挿入は、原発性MCD、原発性FSGS又はホジキンリンパ腫FSGS先端病変を有する患者においてのみ存在した。
【0089】
ゲノムの種間分析により、マウス及びラットにおけるHASとZHX2との間に遺伝子Slc22a22が存在するが、ヒトを含む高等種においては機能しないことが示された。ヒトゲノムにおけるマウスSlc22a22(プロスタグランジントランスポーター)の残遺物の精細マッピングと分析は、122、533、694での共有挿入がこの遺伝子部位の起源に又はその近くに存在することを示した。上記のいずれの共通挿入も、欧米で慢性腎臓病に関連した最も一般的な糸球体疾患である、糖尿病性腎症患者においては認められなかった(
図11c)。
【0090】
COVID-19サイトカインストームの非糸球体症状発現に対するZHX2ハイポモルフ状態の相対的耐性、並びにヒトMCD及びFSGSにおけるポドサイトZHX2発現の低下に関する先行文献をさらに調べるため、8番染色体の122、533、694での挿入を、CRISPR-Cas9技術を使用し、単一細胞由来の培養ヒトポドサイト細胞株で複製した(CRISPR B試験、
図5d)。比較のために、患者とコントロール(コントロールCRISPR A)とにおいて認められた別の挿入も複製した。ZHX2 mRNA発現は、すべてのCRISPR A細胞株クローン(プールしたデータ)で変化せず、CRISPR Bに関して生成した両クローンにおいては有意なダウンレギュレーションが認められた(
図5e)。親細胞株と比較してCRISPR B株においてZHX2タンパク質の発現が低減していることがウェスタンブロットで確認された(
図5f、
図12c)。
【0091】
[実施例5]
ZHX2+/+マウスと比較したZHX2ハイポモルフマウスにおける細胞シグナル伝達経路の非同期活性化。
【0092】
ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスは重度サイトカインストームモデル誘導後にZHX2
+/+BALB/cマウスと比較して死亡率がはるかに低いので、TNF-αとIL-2又はIL-4又はIL-13の組合せで枯渇させると、BALB/cマウスの死亡率が解消される又は罹患率が低下し、本発明者らはそれらの受容体の下流のシグナル伝達経路を試験した。心臓、肝臓及び腎臓の全臓器タンパク質抽出物からの定性試験から、カクテルDを注射したBALB/cマウス及びBALB/cJマウスにおいて、15分、30分及び60分の時点でNFκB経路成分のp-p65(TNFα受容体の下流)、pSTAT5(IL-2受容体の下流)及びpSTAT6(IL-4とIL-13受容体複合体の下流)のリン酸化が確認されたが、生理食塩水を注射したコントロールにおいては確認されなかった(
図8aの例)。次に、各臓器から核タンパク質及び細胞質タンパク質を抽出し、核抽出物中の核タンパク質ラミンB1(
図8bの例)及び両画分中のGAPDH(
図8cの例)の主要な発現について品質試験した。IL-2受容体、IL-4受容体及びIL-13受容体はZHX2と同じ細胞において発現されるが、TNFα受容体はほとんど血管において発現されるので、BALB/cマウス及びBALB/cJマウスにおいて、核及び細胞質のpSTAT5及びpSTAT6タンパク質のウェスタンブロット及び密度測定定量を、ラミンB1、STAT5及びSTAT6と比較した(
図6a、b、ウェスタンブロットの例は
図8d及び8e)。生理食塩水群はシグナル伝達経路を活性化せず、
図6には示していない。ほとんどのシナリオにおいて細胞質画分の相対的pSTAT5発現は同等又はそれより低いにもかかわらず、BALB/cマウスと比較して、BALB/cJにおいては3つの臓器すべてで核pSTAT5の発現がより高い及び/又はより早いことが認められた(
図6a)。全体的な相対的細胞質pSTAT6生成はBALB/cJマウスにおいてはより低かったが、相対的核pSTAT6発現は、BALB/cマウスと比較して、BALB/cJにおいては同等であり、場合によっては高かった(
図6b)。これらのデータから、BALB/cマウスと比較して、ZHX2欠損BALB/cJマウスにおいては、pSTAT5及びpSTAT6がより迅速にまた早期に核内に移動し、標的遺伝子の非同期活性化をBALB/cJマウスで引き起こし、BALB/cマウスにおけるより重度の損傷及び高死亡率を防ぐことができることを示唆される。これは、BALB/cJマウスにおける細胞シグナル伝達経路の核内作用が疾患プロセスの極めて早期に起こり(非同期活性化)、そのため、これらの状態における他の疾患経路は、BALB/cマウスで適切なタイミングで活性化された場合に起こるような相乗作用にはまだ準備ができていないことを意味する。
【0093】
[実施例6]
サイトカインカクテル誘発性糸球体損傷におけるSTAT6経路及びZHX媒介メカニズム
BALB/cJマウスの肝臓及び腎臓における細胞質pSTAT6試験と同様に(
図6b)、カクテルC誘導性pSTAT6リン酸化は、野生型コントロールと比較して、CRISPR B ZHX2ハイポモルフポドサイトにおいて30分で有意に低下した(
図7a、b)。
【0094】
(
図7a)野生型及びZHX2ハイポモルフ(CRISPR B)培養ヒトポドサイトをカクテルCのヒト対応物カクテル(最終濃度1/100,000倍、1つの条件あたりn=3のプレート)とインキュベートした際のpSTAT6シグナル伝達の活性化を評価するためのウェスタンブロット。(
図7b)パネルaのカクテルCでインキュベートした野生型及びCRISPR Bポドサイトのウェスタンブロットの密度測定。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、すべての値は両側検定に基づいている。
【0095】
図8a~eは、マウスに注射されたCOVIDカクテルによって活性化されるインビボシグナル伝達メカニズムの例を示している。(
図8a)カクテルD3倍又はコントロールの生理食塩水を注射したマウス(1群あたりn=3匹)の全臓器タンパク質抽出物の定性ウェスタンブロットによるNFκB/p-p65(肝臓、30分)、pSTAT6(腎臓、60分)及びpSTAT5(心臓、15分)活性化の例。(
図8b)抗ラミンB1抗体を使用した、心臓、腎臓及び肝臓からの同等タンパク質負荷の核画分及び細胞質画分のウェスタンブロットによる核抽出物の純度試験の例。細胞質中のラミンB1のトレースは、核に輸送される前のタンパク質合成に関係し得る。(
図8c)複数のマウスからの同等タンパク質負荷の心臓細胞質画分及び核画分におけるGAPDHタンパク質の評価例。予想したように、GAPDHは両画分において発現しており、細胞質抽出物においてより高く発現されている。(
図8d)同じフィルムで展開された別々のブロットでpSTAT6及びラミンB1を評価した、カクテルD(C’tail D)又はコントロール生理食塩水注射試験におけるBALB/cマウス心臓核タンパク質抽出物(1レーンあたり20μgタンパク質)のブロットの定量的ウェスタンブロットの例。各レーンにマウス番号の略号を示す。(
図8e)同じフィルムで展開された別々のブロットでpSTAT5及びSTAT5を評価した、カクテルD(C’tail D)又はコントロール生理食塩水注射試験におけるBALB/cJマウス心臓細胞質タンパク質抽出物(1レーンあたり20μgタンパク質)の定量ウェスタンブロットの例。各レーンにマウス番号の略号を示す。
【0096】
考察
本発明者らは以下のことを発見した。
【0097】
1)ZHX2ハイポモルフBALB/cJマウスは、サイトカインカクテルに曝露された後、ZHX2+/+マウスと比較して、心臓損傷、肝臓損傷及び腎臓損傷の重症度がより低いことを示す。
【0098】
2)ヒトのハイポモルフ状態のゲノム基盤は、122、533、694でのこの欠失が、ヒトポドサイト細胞株のCRISPR Cas9誘導型改変を使用してZHX2ハイポモルフ状態を誘導することを示している。
図5を参照されたい。
【0099】
3)サイトカインストーム関連の疾患の発症には、サイトカイン間の相乗作用と異なる経路間の同期が必要である。カクテル誘導後のサイトカイン枯渇は、相乗作用を低減する。肝臓、心臓及び腎臓の細胞において、STAT5及びSTAT6経路の活性シグナル伝達成分(pSTAT5及びpSTAT6)が、ZHX2ハイポモルフ状態のサイトカインストーム中に、他の分子イベントと同期せずに早く核内に入る。
図6、
図8を参照されたい。これは、ZHX2ハイポモルフ状態においてSTAT6経路の活性化が全体的に低下しているにもかかわらず起こる。この標的遺伝子の非同期的な時期の異なった早期活性化により、ZHX2ハイポモルフ状態においては重度疾患の発生は少ない。
【0100】
4)STAT6経路の全体的な活性化の低下もまた、122、533、694欠失(CRISPR B)を複製するように変異させたヒト培養ポドサイトにおいても認められる。
図7a、bを参照されたい。
【0101】
5)ZHX2ハイポモルフは、サイトカインストームにおける死亡率を低減する。本発明者らがZHX2
+/+マウス(
図4)及びZHX2ハイポモルフマウス(
図3)において高用量サイトカインストームモデルを比較した場合、ZHX2ハイポモルフマウスは、同じ条件下の死亡率が、ZHX2
+/+マウスと比較して(5/6又は83.3%;
図4、コントロールIgG群)と比較して低い(1/6又は16.6%、
図3、コントロールIgG群)ことが認められた。
【0102】
本明細書の記載から理解されるように、多種多様な態様及び実施形態が本開示によって検討されており、その例には、限定するものではないが、以下に列挙されている態様及び実施形態が含まれる。
【0103】
ZHX2が、患者への薬剤の投与によって阻害、中和又は枯渇され得る方法であって、薬剤が、1つのZXH2に対するショートヘアピンRNA(shRNA)を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスを含む、方法が開示されている。本発明者らは、shRNAは購入することが可能であり、またプラスミド、ウイルスベクター、バクテリオファージ、コスミド及び人工染色体を含む当技術分野において公知の任意のベクターに結合させる、又はその一部とすることができると考えている。
【0104】
ZHX2が、ZXH2に対して向けられたポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の投与によって阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0105】
ZHX2が、ZXH2を標的とするsiRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与によって、阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0106】
ZHX2が、ZHX2発現を減少させる薬理学的薬剤の投与によって、阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0107】
ZHX2が、ZHX2遺伝子に、又はZHX2遺伝子の上流若しくは下流に直接的若しくは間接的に結合若しくは相互作用する、又はこれらの部位で可逆的若しくは不可逆的な変化をもたらす薬理学的薬剤によって、阻害、中和又は枯渇され得る方法が開示されている。
【0108】
また、ZHX2が、核内においてZHX2と相互作用するタンパク質を阻害又は遮断する薬理学的薬剤によって、間接的にサイレンシング又は「オフ」にされ得ることも考えられる。このようなタンパク質の例には、他のZHXタンパク質、例えば、ZHX1及びZHX3、核因子YA、核因子YB、核因子YC、FoxC1及びエフリンB1/B2、又はZHX2と相互作用することが公知である任意の他のタンパク質が含まれる。
【0109】
いずれかの実施形態において、本発明は、ZHX2を阻害、遮断又は枯渇させることによって、様々な疾患状態を治療する方法であって、疾患状態が、SARS-Cov-1、SARS-Cov-2、他のコロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、中東呼吸器症候群(MERS)及びエボラなどのウイルス感染症、非呼吸器ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症及び寄生虫感染症などの非ウイルス感染症、免疫介在性障害、心血管病理、糖尿病、メタボリックシンドローム、臓器移植、神経変性及びがん、並びに老化を含む、サイトカイン放出に影響を及ぼす炎症性疾患及び非炎症性疾患を含む、方法を提供する。
【0110】
本開示の実施形態が本明細書に記載されているが、そのような実施形態は単なる例として提供されていることを当業者には理解されたい。当業者であれば、本発明を逸脱することなく、数多くの変形、変更及び代替を思いつく。本明細書に記載の本発明の実施形態に対する様々な代替が、本発明を実施する際に用いられ得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義しており、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造とそれらの均等物がそれにより網羅されることが意図されている。
【国際調査報告】