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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】工作機械の操作方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20241114BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G05B19/4093 H
B23Q17/09 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527188
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2022080522
(87)【国際公開番号】W WO2023083660
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】102021129378.2
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506081563
【氏名又は名称】ペー ウント エル ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
【氏名又は名称原語表記】P + L GMBH & CO.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン レーデルス
【テーマコード(参考)】
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C029CC07
3C269AB05
3C269AB07
3C269BB03
3C269BB11
3C269EF02
3C269EF39
3C269EF59
3C269EF66
3C269EF71
3C269MN16
3C269MN29
(57)【要約】
本発明は、工具(2)を使用してワークブランク(7)を加工するよう構成された工作機械(1)を操作する方法に関し、ワークブランク(7)の形状データを判定する工程と、ワークブランク(7)の加工に使用する工具(2)の形状データを判定する工程と、ワークブランク(7)を加工するための工具経路を複数の経路単位に分割する工程と、経路単位ごとに工具(2)によりワークブランク(7)上の材料除去をシミュレートする工程と、経路単位ごとにワークブランク(7)と工具(2)の係合率を計算して係合パラメータを決定する工程とを備え、ワークブランク(7)に対する前記工具(2)の前進量および/または回転速度が、計算された係合パラメータに応じて調整される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具(2)を使用してワークブランク(7)を加工するよう構成された工作機械(1)を操作する方法であって、
ワークブランク(7)の形状データを判定する工程と、
前記ワークブランク(7)の加工に使用する工具(2)の形状データを判定する工程と、
前記ワークブランク(7)を加工するための工具経路を複数の経路単位に分割する工程と、
前記経路単位ごとに前記工具(2)により前記ワークブランク(7)上の材料除去をシミュレートする工程と、
前記経路単位ごとに前記ワークブランク(7)と前記工具(2)の係合率を計算して係合パラメータを決定する工程と、
を備え、
前記ワークブランク(7)に対する前記工具(2)の前進量および/または回転速度が、計算された係合パラメータに応じて調整される、方法。
【請求項2】
前記経路単位の長さは、1~5回転の回転中に所定の経路速度および所定の回転速度で前記工具(2)が移動する経路に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記係合率は、経路単位に沿った前記工具(2)と前記ワークブランク(7)の相対移動中に前記工具(2)によって前記ワークブランク(7)から除去される材料量に基づいて決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記係合率は、前記工具(2)の回転軸の方向における前記ワークブランク(7)の材料との前記工具(2)の最低接触点と最高接触点との差に相当する、前記ワークブランク(7)への前記工具(2)の侵入深さに基づいて決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記係合率は、前記工具(2)の回転中に前記工具(2)の刃先が前記ワークブランク(7)の材料と係合する角度領域を特定するラッピングに基づいて決定される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記係合率は、前記工具(2)の回転によって生じる前記工具(2)の境界ボリュームが前記ワークブランク(7)の材料と係合する表面のサイズに基づいて決定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記係合率は、前記工具(2)の回転軸に対する前記工具(2)と前記ワークブランク(7)間の経路の角度に基づいて決定される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
個々の経路単位ごとの前記係合率の係合パラメータの計算が、前記工具(2)が前記ワークブランク(7)に対して前記計算された経路単位に沿って移動される前に、時間的に最初に行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各工具(2)について、経路単位ごとの係合パラメータの一つまたは複数の特性曲線がコントローラ(10)に記憶され、それにより個々の入力パラメータについて前記前進量および/または回転速度がどのように調整されるかを指定する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
加工中に、前進シャフトまたはマンドレルシャフトの電気駆動部のモーター電流から計算された振動および/または加工力が、特にセンサーによって検出され、
検出された振動および/または計算された加工力が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を下回る場合、一定の加工品質で加工速度を上げるために前記前進量および/または回転速度を増加させ、
検出された振動および/または計算された加工力が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を下回る場合、加工速度を低下させるために前記前進量および/または回転速度を減少させる、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
加工中に、前進シャフトまたはマンドレルシャフトの電気駆動部のモーター電流から計算された振動および/または加工力が、特にセンサーによって検出され、
振動および/または加工力の検出値が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を下回る場合、経路単位に沿って加工する場合に、係合パラメータが同じ大きさで再計算されれば、将来的に一定の加工品質で加工速度を上げるために、使用する前記工具(2)の特性曲線は、前進量および/または回転速度について計算された係合パラメータの領域において上昇し、
振動および/または加工力の検出値が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を上回る場合、経路単位に沿って加工する場合に、係合パラメータが同じ大きさで再計算されれば、将来的に加工速度を減少させるために、使用する前記工具(2)の特性曲線は、前進量および/または回転速度について計算された係合パラメータの領域において低下する、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
別個の特性曲線が、前記工具(2)を使用して加工されるワークブランク(7)の材料特性ごとに定義され、その特性曲線が今後の加工のために係合パラメータに基づいて調整される、請求項9~11に記載の方法。
【請求項13】
振動および/または計算された加工力についての限界値が工具ごとに別個に定義される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記コントローラ(10)において検出された振動および/または計算された加工力が正常範囲内にある場合、特性曲線が最適化されたものとして指定される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
計算された係合パラメータと、限界値について最適化された、設定された前進量および/または回転速度の特性曲線とを用いた加工中に、前記コントローラ(10)内で検出された振動および/または計算された加工力を監視することによって摩耗監視が行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記コントローラ(10)において検出された振動および/または計算された加工力の偏差が、計算された係合パラメータと最適化された特性曲線に従って設定された前進量および/または回転速度の値での加工中に限界値から逸脱した場合、加工が中断され、任意で新しい姉妹工具に置き換えられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記コントローラ(10)において検出された振動および/または計算された加工力の偏差が所定の限界値を上回るまたは下回る場合、前記工具の磨耗が生じる、請求項9~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実行するよう構成された工作機械(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、特にフライス加工または研削加工のための工作機械を操作する方法、およびその方法を実行するよう構成された工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械やその操作方法は、従来から様々な実施形態が知られている。NC(数値制御)工作機械やCNC(コンピュータ数値制御)工作機械が知られており、ワーク上でさまざまな加工作業を実行するために、制御プログラムに基づいてコマンドを連続的に処理する。この種の加工作業は実際に実証されてはいるが、高精度の加工や非常に高い表面品質が必要とされる使用例も存在する。さらに、制御プログラムのプログラミングが好ましいものではない場合、工具や機械のマンドレルに過負荷がかかる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、シンプルな設計かつ簡易な作業性で、ワークの加工精度および/または表面品質を大幅に向上させることを可能にし、マンドレルや工具の過負荷を防ぐ工作機械の操作方法および工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法、および請求項14の特徴を有する工作機械によって達成される。従属請求項は、本発明の有利な展開に関する。
【0005】
請求項1の特徴を有する本発明の方法は、従来技術と比較して、工具を使用したワークブランクの高精度の加工および/またはより良好な表面の実現が可能であり、マンドレルおよび/または工具の過負荷が回避されるという利点を有する。この場合、ワークを連続して複数回製造する必要がある場合に、特に大きな利点が得られる。この場合、本発明の方法は、ワークブランクの形状データおよび加工に使用する工具の形状データを考慮する。この場合、本発明の方法は、ワークブランクの形状データを判定する工程と、ワークブランクの加工に使用する工具の形状データを判定する工程とを含む。ワークブランクの形状データは、加工に先立って、測定技術を用いてワークブランクの寸法を検出することによって提供されることが好ましい。あるいは、ワークブランクの形状データは、CADシステムおよび/または工作機械のコントローラのメモリから取得することもできる。この場合、測定技術によりワークブランクの寸法を検出することで、最も精密な加工が可能となる。さらに、加工に使用する工具の形状データもメモリから取得することが好ましい。あるいは、使用する工具の形状データの検出は、測定技術によって行われる。
【0006】
本発明の方法は、ワークブランクを加工するための工具経路を複数の経路単位に分割する工程をさらに含む。この場合、各経路単位のサイズは自由に選択することができる。経路単位は、工具とワークブランクが互いに相対的に移動する経路の所定の経路速度(所定の前進量)および工具の所定の回転速度で、材料除去のためにワークに対して1回または数回だけ、最大で5回回転する間に工具が移動する経路のみに対応するよう短くなるように選択されることが好ましい。
【0007】
さらに、本発明によれば、工具によるワークブランク上の材料除去は、経路単位ごとにシミュレーションされる。その後、シミュレーションに基づいて、ワークブランクと工具との間の係合率が経路単位ごとに計算され、工具とワークブランクの間の相対移動、特にワークブランクに対する工具の前進量および/または回転速度が得られた係合パラメータに応じて調整される。
【0008】
これにより、本発明の方法は、ワークブランクの加工精度および/または表面品質を大幅に改善することを可能にし、工作機械の構成要素の過負荷を回避することを可能にすることで、所定の寸法や要件にぴったり合ったワークの製造が可能となる。
【0009】
本発明の方法は、工作機械のコントローラ内で直接実行されることが特に好ましい。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、経路単位の長さは、所定の経路速度および所定の回転速度の場合に、工具が1~5回転する間に工具が移動する経路に対応する。このような比較的小さい経路単位を選択することにより、特に、事前に計算されたワークブランクと工具の間の係合率を考慮して、工具による材料除去のシミュレーションを非常に良好に行うことが可能になる。
【0011】
この係合率は、工具とワークブランクが経路単位に沿って相対移動する間に工具によってワークブランクから除去される材料量に基づいて決定することが好ましい。
【0012】
係合率は、工具のワークブランクへの侵入深さに基づいて特定することがより好ましい。侵入深さは、工具の回転軸の方向における、工具のワークブランクの材料における最低接触点と最高接触点との間の差に対応する。
【0013】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、係合率はラッピングに基づいて決定される。このラッピングは、工具の回転中に工具の刃先がワークブランクの材料と係合する角度領域を特定する。例えば、工具がワークブランクに溝を形成する、いわゆるフルカットの場合、ラッピングは最大180°である。
【0014】
係合率は、ワークブランクの材料と接触する表面のサイズに基づいて決定することがより好ましい。この場合、表面は、工具の回転によって生じる工具の境界ボリュームによって定義される。
【0015】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、係合率は、工具の回転軸に対する工具とワークブランクとの間の経路の角度に基づいて決定される。この角度が90°未満の場合、ワークブランクへの工具の埋め込み加工が行われる。この場合、工具は軸方向にワークへと埋め込まれる。角度が90°より大きい場合、ワークブランクの引き抜き処理が行われる。
【0016】
したがって、各経路単位ごとに、工作機械のコントローラによって係合率について一つまたは複数の係合パラメータを計算することができる。
【0017】
工具がワークブランクに対して計算された経路単位に沿って移動される前に、個々の経路単位ごとの係合率の係合パラメータの計算が時間的にはまず最初に行われることがより好ましい。コントローラでは、時間的に少し前に個々の経路単位ごとに係合率の係合パラメータを決定することにより、計算された経路単位に沿った加工が行われる前に、前進量および/または回転速度を調整することが可能になる。これにより、コントローラは、経路単位に沿った加工の直前でも、加工には必須の前進量および/または回転速度のパラメータを変更することができる。その結果、例えば、より大きな材料除去を伴う経路単位に沿って前進量および/または回転速度が減少するという点で、例えば、加工精度を高めることができる。特に、経路単位に沿った係合パラメータが大きすぎる場合、不正確さや粗悪な表面につながる望ましくない振動を防ぐことができる。これにより、工具の過負荷も防ぐことができる。したがって、ワークブランクの加工の場合、加工の調整を行うことができ、これを特に最適化することができる。
【0018】
例えば、一つの経路単位に沿った材料除去量が大きい場合、工作機械の工具やマンドレルへの負荷を軽減するために、工具の前進量および/または回転速度を下げることができる。
【0019】
例えば、一つの経路単位に沿った材料除去量が特に小さい場合、加工時間を短縮するために、工具の前進量および/または回転速度をより大きく選択することができる。
【0020】
係合パラメータの一つまたは複数の特性曲線が、ワークブランクの加工に使用する各工具ごとに工作機械のコントローラに記憶されていることが特に好ましい。この場合、特性曲線は、ワークに対する工具の前進量および/または回転速度が、例えば、材料量および/または侵入深さおよび/またはラッピングおよび/または係合された境界ボリュームおよび/または工具とワークブランク間の経路角度などの計算された個々の係合パラメータに対してどのように調整されるかを示す。特性曲線により、経路単位に沿った加工中に発生し、経路単位ごとに再計算される係合率に応じて前進量および/または回転速度が決定する。
【0021】
本発明による方法の場合、加工中に、少なくとも一つの電気駆動部、具体的には、少なくとも一つの前進シャフトまたはマンドレルシャフトのモータ電流から計算される振動および/または加工力を検出することがさらに好ましい。これは、特に、例えば、マンドレル上のセンサーによって行われる、または、工作機械のシャフト内の経路測定センサーによって間接的に行われる。測定された振動や計算された加工力が低い場合は、加工結果が損なわれたり、マンドレルや工具に過負荷がかかったりすることなく、前進量および/または回転速度を高めることができる。加工の場合、加工プロセス、マンドレルまたは工具の測定された振動および/または計算された加工力が大きい場合、前進量および/または回転速度を下げる必要がある。測定された振動および/または計算された加工力の値が高いまたは低い経路単位について、前進量および/または回転速度の変更が時間的な観点から不可能である場合、加工はすでに行われているため、代わりに、当該一つまたは複数の係合パラメータについて、現在使用中の工具の特性曲線をコントローラで調整することが好ましい。測定された振動および/または計算された加工力が大きい場合、計算された係合パラメータの範囲内での工具の前進量および/または回転速度の特性曲線は、計算された係合パラメータが同じ大きさである工具経路の今後の経路単位の場合、コントローラが前進量を減少させ、および/または回転速度を減少させて、変更された特性曲線に従って加工を実行するように低下する。測定された振動および/または計算された加工力が低い場合、計算された係合パラメータの領域で特性曲線がそれに応じて上昇する。そのため、自己最適化、自己学習システムが実現する。加工中に特性曲線が連続的に変化しないように、測定された振動および/または計算された加工力を高値と低値に分割することに加えて、中央領域、特に±5%の偏差を定義することも可能であり、例えば、これが適切であると考えられる。測定された振動および/または計算された加工力がこの領域に該当する場合、特性曲線は変化しない。加工中、計算された係合パラメータは、通常、特定の値範囲内で変化するため、前進量および/または回転速度の一つまたは複数の特性曲線は、この値範囲に対して自動的に最適化される。短い加工時間の後、計算されたさまざまな係合パラメータに対して、測定された振動および/または計算された加工力について適切な値のみが得られるはずである。
【0022】
加工中に、前進シャフトまたはマンドレルシャフトの電気駆動部のモータ電流から計算される振動および/または加工力が、特にセンサによって検出され、所定の限界値が満たされていなければ、経路単位に沿って加工が行われる場合に、係合パラメータが同じ大きさで再計算されると、将来的に一定の加工品質で加工速度を上げるために、使用される工具の特性曲線が前進量および/または回転速度について計算された係合パラメータの領域で上昇することがさらに好ましい。振動および/または加工力の検出値が所定の限界値を上回る場合、使用される工具の特性曲線は、経路単位に沿って加工が行われる際、係合パラメータが同じ大きさで再計算される場合、将来的に加工速度を低下させるために、前進量および/または回転速度について計算された係合パラメータの領域で低下する。
【0023】
特性曲線は材料特性に依存することがさらに好ましい。一つの工具が異なる材料に使用される、または、異なる硬度を有する一つの材料に使用される場合、それぞれの工具、材料特性ごとに、例えば、それぞれの材料またはぞれぞれの硬度ごとに別個の特性曲線が保存される。別個の特性曲線が、工具に関連してワークブランクの材料特性ごとに定義され、その特性曲線が今後の加工のために計算された係合パラメータに調整されることが好ましい。
【0024】
測定された振動および/または計算された加工力が高いか、低いか、または適切であるかを判定するための領域が、各工具に対して個別に画定されていることがさらに好ましい。もちろん、前加工用の大型工具は、最終加工用の繊細な工具と比較して、測定された振動および/または計算された加工力に関して、かなり高い負荷で使用することができる。したがって、前進量および/または回転速度を設定するための個々の工具の特性曲線に加えて、測定された振動および/または計算された加工力を高い、適切、または低いと区別するための限界値も、各工具および任意で各被加工材料について、コントローラに保存することが好都合である。
【0025】
このように加工中に最適化された特性曲線は、その後同じ工具を使用してさらなるワークの加工を行うのに利用できるように、コントローラに保存されることがさらに好ましい。
【0026】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、工具の摩耗の可能性が判定される。測定された振動および/または計算された加工力が高くも低くもなく、経路単位に沿った加工中に適切である場合は、前進量および/または回転速度の最適値で加工がすでに行われていると想定することができる。上述したように、特性曲線は、計算された係合パラメータにについてこの領域でもう変更されることはなく、その領域で最適化されるようさらに指定することができる。加工中における後の時点で、計算された係合パラメータは最適化されたものとして指定された特性曲線の領域に入るが、測定された振動および/または計算された加工力はもはや適切ではなく、例えば、高いまたは低いなどむしろ逸脱している場合、このことから加工全体が最適には進行しなくなっている、具体的には、工具が摩耗することで測定された振動および/または計算された加工力の値が悪化しているものと結論付けることができる。
【0027】
これに対して、コントローラは加工タスクに応じて異なる反応を示すことがある。好ましい実施形態によれば、工具を使用したワークの加工を中断することができ、場合によっては新しい工具または無傷の姉妹工具を使用して継続することができる。あるいは、測定された振動および/または計算された加工力がわずかに超過しただけの場合、例えば、適切な範囲の±2%であれば、磨耗していない工具を使用した加工との差が大きくなりすぎるまで、その工具の一時的に低下した第2の特性曲線を使用して加工を続けることができ、その場合にのみ加工が中断される。
【0028】
このような摩耗監視は、特に、特性曲線が事前の加工作業によってすでに適切に最適化されている場合にうまく機能する。この場合、摩耗監視により、工具の摩耗を検出するだけでなく、工具のバランスが非常に悪いため振動が大きくなり、加工結果が損なわれてしまう場合など、加工における他の異常も検出することができる。
【0029】
したがって、係合パラメータの計算と、測定された振動および/または計算された加工力の決定とを組み合わることにより、加工プロセスの監視を非常に効果的に行うことが可能になる。
【0030】
工具やマンドレルの過負荷や衝突は、時間的に先行して係合パラメータを工具経路に沿って計算することによって防止することができる。係合パラメータを計算するときに、実際には刃先が、例えば、工具シャフトに配置されていない工具の部分nを使用して材料除去を実行する必要があると判断された場合、衝突が起こり得るものと特定して、衝突が発生する前に、コントローラによって機械を停止させることができる。同様に、係合パラメータが非常に高く、工具やマンドレルには許容できないほど高いものと判断された場合、例えば、時間的に先行して係合パラメータを計算することによって工具やマンドレルの過負荷を防止することができる。また、コントローラによって、工具やマンドレルに過負荷がかかってしまう前に機械を停止することも可能である。
【0031】
逆に、特性曲線が計算された係合パラメータの範囲内ですでに最適化されているにもかかわらず、測定されたばかりの振動値が適切な値よりも大幅に低い場合には、加工エラーを検出することもできる。この場合、例えば、工具が中断されることにより係合が行われなくなることもある。
【0032】
もちろん、前進量および/または回転速度の特性曲線は、一つまたは複数の計算された係合パラメータに依存する場合があり、個々の工具ごとに異なる場合がある。
【0033】
本発明はさらに、本発明の方法を実行するよう構成された工作機械に関する。工作機械は、コントローラとメモリを備えることが好ましく、本発明の方法が実行され、係合率の係合パラメータが計算され、前進量および/または回転速度の特性曲線が計算された係合パラメータに応じて記憶され、測定された振動および/または計算された加工力に応じて変動することが好ましい。
【0034】
本発明の方法は、前進量に対する回転速度の比を一定に保つことが特に好ましい。つまり、回転速度を前進量で割った商は一定のままとなるよう前進量と回転速度は常に比例して変化する。本発明の好ましい実施形態を、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の好ましい実施形態による工作機械を操作するための本発明に係る方法の概略図である。
図2】本発明に係る方法を実行するための工作機械の概略斜視図である。
図3】経路単位について、計算された係合パラメータに応じた回転速度および/または前進量の特性曲線を示すグラフである。
図4】経路単位について、計算された係合パラメータに応じた回転速度および/または前進量の特性曲線を示すグラフである。
図5】経路単位について、計算された係合パラメータに応じた回転速度および/または前進量の特性曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図1図5を参照して、工作機械1の操作方法の流れを示す。
【0037】
図2は、本発明の方法を実行するための工作機械1の概略斜視図である。工作機械1は、固定された工具2を有し、ワークブランク7の加工を行うマンドレル3を備える。マンドレル3には、振動を検出するためにセンサー6が配置されている。工作機械1は、メモリを有するコントローラ10をさらに備える。
【0038】
この方法(図1参照)では、最初のステップS1で、ワークブランク7の形状データを判定する。このような形状データは、ワークブランク7の寸法を検出することによって事前に判定したり、構築システム(CAD)から取得したり、事前にメモリに保存しておいてそこから取得したりすることができる。
【0039】
ステップS2では、ワークブランク7の加工に使用する工具2の形状データを判定する。この形状データは、好ましくは、メモリから取得することもできるし、工具2を測定することにより判定することもできる。
【0040】
なお、ステップS1とS2は同時に実行することもできるし、ステップS2をステップS1の前に実行することもできる。
【0041】
3番目のステップS3では、ワークブランク7を加工するための工具経路を複数の小さな経路単位に分割する。この場合、経路単位は、ワークブランク7に対する工具2の所定の経路速度および工具2の所定の回転速度において、工具2が材料除去のためにワークブランク7に対して1回転または数回転だけ、最大で5回回転する間に移動する経路のみに対応するように短いことが好ましい。
【0042】
ステップS3は、ステップS1およびS2と同時に実行することもできるし、前もってコントローラに指定することもできる。
【0043】
ステップS4では、工具2によるワークブランク7上の材料除去が経路単位ごとにシミュレートされる。このようにして長さが特定された各経路単位について、コントローラは、ステップS5において、シミュレーションに基づいて、工具2とワークブランク7の相対移動により、経路単位の長さにわたって材料が除去される工具2とワークブランク7との係合率を計算する。
【0044】
次に、ステップS6において、工具2とワークブランク7との相対移動の速度、および/または工具2の回転速度が、ワークブランク7の加工のために計算された係合パラメータに応じて調整される。
【0045】
このように、本発明によれば、ワークブランク7と工具2との係合率のシミュレーション結果に基づいて、高精度な加工が可能となる。この場合、係合率は、さまざまなパラメータに基づいて決定することができる。例として、工具2によって除去される材料量、および/または、ワークブランク7への工具2の侵入深さ、および/または、回転中に工具2の刃先をワークブランク7と係合させるラッピング、および/または、工具の回転によって生じる工具2の境界ボリュームの表面のサイズ、および/または、工具2の回転軸に対する工具2とワークブランク7との間の経路の角度、および/または、ワークの材料が挙げられる。
【0046】
この場合、計算される係合率のパラメータが多いほど、より精密にワークブランク7の加工を行うことができる。
【0047】
実際に加工を行うために、コントローラが経路単位に沿って工作機械1のシャフトを移動させる前に、個々の経路単位ごとの係合率の係合パラメータの計算が時間的に最初に行われることが特に好ましい。次いで、係合パラメータの計算結果により、経路単位の加工を調整することで最適化することができる。
【0048】
図3図5は、計算された係合パラメータに応じた回転速度および/または前進量(経路速度)の特性曲線を示す。本実施形態では、経路単位で除去される計算された材料量が、計算された係合パラメータとして示される。簡略化のため、本実施形態では、単一の計算された係合パラメータとして、計算された材料量のみを使用して特性曲線を評価する。特性曲線は、実際には、計算された複数の係合パラメータから決定することが好ましい。この場合、算出された係合パラメータの重み付けを行うことも可能である。図3は、経路単位ごとに記録された、材料量Mに対する前進量Vまたは回転速度Dを示している。図示の係合パラメータの特性線K1から、材料量Mが増加するにつれて、前進量Vおよび/または回転速度Dが減少することが分かる。この場合、回転速度Dに対する前進量Vの比は一定のままであることが好ましい。最大前進量Vmaxおよび/または最大回転速度Dmaxは、材料量Mがゼロに近いときに存在する。さらに図3から分かるように、特性曲線K1に従って、経路単位当たりの材料量Mが増加するにつれて、前進量Vおよび/または回転速度Dが低下する。Mは、加工を行うための工具および/またはマンドレルの最大許容荷重に達する限界材料量を示す。特性曲線K1が材料量Mの横軸と交差するため、これより大きな材料量Mは許容されない。
【0049】
それにもかかわらず、一つの経路単位に対する材料量Mが許容限界材料量Mよりも大きいと計算された場合、工作機械での加工は、この経路単位に対しては実行されなくなる。工作機械のコントローラは、時間的に先行して行われる係合パラメータの計算において、工具および/またはマンドレルに許容できない荷重が発生することが特定される前に工具を停止する。
【0050】
図3では、特性曲線K1’が破線で示されており、この曲線では、経路単位について計算された材料量Mbは、記憶されている特性曲線K1の許容範囲内にある、すなわち、Mよりも小さい。そして、経路単位に対して、特性曲線K1’により予め定められた前進量および/または予め定められた回転速度で加工が実行される。この場合、測定された振動および/または計算された加工力は、使用する工具に対して大きすぎる、適している、または小さすぎるかどうかが評価される。図3は、測定された振動や計算された加工力が大きい場合を示している。このため、図3の破線K1’で示すMの領域では、特性曲線が数パーセント低下する。特性曲線が低下するとき、特性曲線の勾配が確実に常に負のままであるようにすることが好ましい。つまり、特性曲線K1’は、図3に示すように、材料量Mが増加するにつれて着実に低下する。
【0051】
図4は、図3とは逆の場合を示しており、経路単位について計算された材料量Mbに対して加工が実行され、測定された振動および/または計算された加工力が小さい。このため、特性曲線K2は、図4の破線K2’で示すMの領域で数パーセント上昇する。この場合も、材料量Mに対する調整された特性曲線K2’の勾配は、全体的に負である。
【0052】
さらに、図5では、測定された振動および/または計算された加工力による特性曲線K3’の変化も、経路単位ごとの最大許容限界材料量Mに影響を与える可能性があることを示している。経路単位で計算された材料量Mは、最大許容限界材料量Mに比較的近い。次に続くワークの加工は、特性曲線および/または結果として生じる回転速度に起因する前進量で実行され、測定された振動および/または計算された加工力は大きくなる。したがって、特性曲線K3はMの領域において低下する。これは、図5の破線の特性曲線K3’によって示される。この結果、特性曲線K3’は、経路単位当たりのより小さい材料量Mですでに横軸と一致しているため、新たな最大許容限界材料量MGNが生じ、これを超えることはできない。これにより、新たな最大許容限界材料量MGNは、経路単位当たりの許容材料量Mの新たな上限となる。経路単位ごとに大量の材料量が計算される加工作業は中断される。
【符号の説明】
【0053】
1 工作機械
2 工具
3 マンドレル
6 センサー
7 ワークブランク
10 コントローラ
D 回転速度
V 前進量(経路速度)
K 特性曲線
K’ 調整後の特性曲線
M 経路単位ごとの材料量
限界材料量
GN 最大許容限界材料量
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具(2)を使用してワークブランク(7)を加工するよう構成された工作機械(1)を操作する方法であって、
ワークブランク(7)の形状データを判定する工程と、
前記ワークブランク(7)の加工に使用する工具(2)の形状データを判定する工程と、
前記ワークブランク(7)を加工するための工具経路を複数の経路単位に分割する工程と、
前記経路単位ごとに前記工具(2)により前記ワークブランク(7)上の材料除去をシミュレートする工程と、
前記経路単位ごとに前記ワークブランク(7)と前記工具(2)の係合率を計算して係合パラメータを決定する工程と、
を備え、
前記ワークブランク(7)に対する前記工具(2)の前進量および/または回転速度が、計算された係合パラメータに応じて調整される、方法。
【請求項2】
前記経路単位の長さは、1~5回転の回転中に所定の経路速度および所定の回転速度で前記工具(2)が移動する経路に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記係合率は、経路単位に沿った前記工具(2)と前記ワークブランク(7)の相対移動中に前記工具(2)によって前記ワークブランク(7)から除去される材料量に基づいて決定される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記係合率は、前記工具(2)の回転軸の方向における前記ワークブランク(7)の材料との前記工具(2)の最低接触点と最高接触点との差に相当する、前記ワークブランク(7)への前記工具(2)の侵入深さに基づいて決定される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記係合率は、前記工具(2)の回転中に前記工具(2)の刃先が前記ワークブランク(7)の材料と係合する角度領域を特定するラッピングに基づいて決定される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記係合率は、前記工具(2)の回転によって生じる前記工具(2)の境界ボリュームが前記ワークブランク(7)の材料と係合する表面のサイズに基づいて決定される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記係合率は、前記工具(2)の回転軸に対する前記工具(2)と前記ワークブランク(7)間の経路の角度に基づいて決定される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
個々の経路単位ごとの前記係合率の係合パラメータの計算が、前記工具(2)が前記ワークブランク(7)に対して前記計算された経路単位に沿って移動される前に、時間的に最初に行われる、請求項に記載の方法。
【請求項9】
各工具(2)について、経路単位ごとの係合パラメータの一つまたは複数の特性曲線がコントローラ(10)に記憶され、それにより個々の入力パラメータについて前記前進量および/または回転速度がどのように調整されるかを指定する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
加工中に、前進シャフトまたはマンドレルシャフトの電気駆動部のモーター電流から計算された振動および/または加工力が、特にセンサーによって検出され、
検出された振動および/または計算された加工力が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を下回る場合、一定の加工品質で加工速度を上げるために前記前進量および/または回転速度を増加させ、
検出された振動および/または計算された加工力が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を下回る場合、加工速度を低下させるために前記前進量および/または回転速度を減少させる、
請求項に記載の方法。
【請求項11】
加工中に、前進シャフトまたはマンドレルシャフトの電気駆動部のモーター電流から計算された振動および/または加工力が、特にセンサーによって検出され、
振動および/または加工力の検出値が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を下回る場合、経路単位に沿って加工する場合に、係合パラメータが同じ大きさで再計算されれば、将来的に一定の加工品質で加工速度を上げるために、使用する前記工具(2)の特性曲線は、前進量および/または回転速度について計算された係合パラメータの領域において上昇し、
振動および/または加工力の検出値が前記コントローラ(10)で予め定められた限界値を上回る場合、経路単位に沿って加工する場合に、係合パラメータが同じ大きさで再計算されれば、将来的に加工速度を減少させるために、使用する前記工具(2)の特性曲線は、前進量および/または回転速度について計算された係合パラメータの領域において低下する、
請求項に記載の方法。
【請求項12】
別個の特性曲線が、前記工具(2)を使用して加工されるワークブランク(7)の材料特性ごとに定義され、その特性曲線が今後の加工のために係合パラメータに基づいて調整される、請求項に記載の方法。
【請求項13】
振動および/または計算された加工力についての限界値が工具ごとに別個に定義される、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記コントローラ(10)において検出された振動および/または計算された加工力が正常範囲内にある場合、特性曲線が最適化されたものとして指定される、請求項に記載の方法。
【請求項15】
計算された係合パラメータと、限界値について最適化された、設定された前進量および/または回転速度の特性曲線とを用いた加工中に、前記コントローラ(10)内で検出された振動および/または計算された加工力を監視することによって摩耗監視が行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記コントローラ(10)において検出された振動および/または計算された加工力の偏差が、計算された係合パラメータと最適化された特性曲線に従って設定された前進量および/または回転速度の値での加工中に限界値から逸脱した場合、加工が中断され、任意で新しい姉妹工具に置き換えられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記コントローラ(10)において検出された振動および/または計算された加工力の偏差が所定の限界値を上回るまたは下回る場合、前記工具の磨耗が生じる、請求項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実行するよう構成された工作機械(1)。
【国際調査報告】