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特表2024-543407機能的ニューロンの生成のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】機能的ニューロンの生成のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20241114BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241114BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20241114BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C12N5/0793 ZNA
C12N5/10
C12N5/0735
C12N5/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527574
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 US2022079651
(87)【国際公開番号】W WO2023086894
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/278,902
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524175099
【氏名又は名称】アクセント バイオサイエンシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マッコム, リヤ ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA01
(57)【要約】
GDNFレセプターRETアゴニストを含む細胞培養培地、および多能性細胞からの種々の機能的神経細胞型の生成のためのその使用が、本明細書において提供される。グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)レセプターRET(膜貫通レセプターチロシンキナーゼrearranged in transfection)アゴニストを含む分化細胞培養培地で培養することによって種々の機能的神経細胞型を生成するためのインビトロ方法が本明細書において提供され、好ましくは、その分化細胞培養培地はタンパク質を本質的に含まない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的神経細胞を含む細胞集団を生成するための方法であって、
1種または複数種のグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)レセプター膜貫通レセプターチロシンキナーゼrearranged during transfection(RET)アゴニストを含む分化細胞培養培地で誘導神経前駆細胞を培養する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記GDNFレセプターRETアゴニストがDNSP-11、BT-18、BT-44、XIB4035、BT-13およびQ525から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記GDNFレセプターRETアゴニストがBT-13および/またはQ525であり、BT-13が約2μM~約20μM、好ましくは約5μMの濃度で前記細胞培養培地に存在し、かつ/またはQ525が約1nM~約100nMの濃度で前記培養培地に存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分化細胞培養培地が、GDNF、脳由来神経栄養因子(BDNF)およびTGFβのうちの1つまたは複数を含まず、好ましくはGDNF、BDNFおよびTGFβを含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分化細胞培養培地がタンパク質を本質的に含まない、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分化細胞培養培地が、N-2サプリメントおよび/またはB-27サプリメントを補充されたneurobasal培地を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記分化細胞培養培地が、neurobasal培地およびインスリンレセプターアクチベーターを含み、N-2サプリメントおよび/またはB-27サプリメントを含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記インスリンレセプターアクチベーターがデメチルアステリキノンB1(DMAQ-B1)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記分化細胞培養培地がノッチ経路インヒビターを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ノッチ経路インヒビターがDAPT(N-[2S-(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル-1,1-ジメチルエチルエステル-グリシン)またはジブチリルcAMP(db-cAMP)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記誘導神経前駆細胞が、約4日~約110日、約4日~約60日、約5日~約40日、または約16日~約32日の期間、分化培地で培養される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記機能的神経細胞がドーパミン前駆細胞、ドーパミン神経芽細胞、線条体ニューロン、神経上皮幹細胞、GABA作動性介在ニューロン、皮質介在ニューロン、コリン作動性ニューロン、セロトニン介在ニューロン、小脳ニューロン、感覚ニューロン、および運動ニューロンから選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記機能的神経細胞がドーパミン作動性ニューロンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞集団中の細胞のうちの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%以上がチロシンヒドロキシラーゼ(TH)を発現する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有効量の骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路のインヒビターを含み、必要に応じて有効量のTGFβシグナル伝達経路のインヒビターを含む誘導培地で、哺乳動物多能性細胞を培養することによって前記誘導神経前駆細胞が生成される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路のインヒビターがLDN193189であり、かつ/または前記TGFβシグナル伝達経路のインヒビターがSB-431542である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記誘導培地がWNTシグナル伝達経路のアクチベーターおよび/またはソニックヘッジホッグ(SHH)のアクチベーターをさらに含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記WNTシグナル伝達経路のアクチベーターがGSK3インヒビター、好ましくはCHIR99021であり、かつ/または前記SHHのアクチベーターがスムーズンドアゴニスト(SAG)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記誘導培地が、FGFレセプター(FGFR)アゴニストを含まず、かつ/またはTGFβシグナル伝達のインヒビターを含む、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記誘導培地が、FGFレセプター(FGFR)アゴニストを含まず、TGFβシグナル伝達のインヒビターを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
機能的神経細胞を含む集団を生成するための方法であって、
(i)誘導神経前駆細胞を生成するのに十分な条件下にて誘導培地で哺乳動物多能性細胞を培養する工程;および
(ii)有効量のGDNFレセプターRETアゴニストを含む分化培地で該誘導神経前駆細胞を培養する工程
を含む、方法。
【請求項22】
前記哺乳動物多能性細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト人工多能性幹細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
神経前駆細胞から機能的ニューロンを生成するために有用な細胞培養培地であって、
該細胞培養培地は、GDNFレセプターRETアゴニスト、好ましくはBT-13と、ノッチ経路インヒビター、好ましくは、DAPTおよび/またはdb-cAMPとを含む、無タンパク質neurobasal培地であり、
該培養培地はGDNF、BDNFおよびTGFβを含まない、
細胞培養培地。
【請求項24】
前記neurobasal培地がN2サプリメントおよび/またはB27サプリメントを補充されている、請求項23に記載の細胞培養培地。
【請求項25】
前記neurobasal培地が、インスリンレセプターアクチベーター、好ましくはDAQ-B1を含み、N2サプリメントおよび/またはB27サプリメントを含まない、請求項23に記載の細胞培養培地。
【請求項26】
前記GDNFレセプターRETアゴニストが、GFRα1とは無関係にRETを選択的に活性化する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
機能的神経細胞を含む細胞集団を生成するための方法であって。
神経前駆細胞集団を生成するのに適切な条件下にてneurobasal細胞培養培地でヒト多能性幹細胞をインキュベートする工程であって、好ましくは、該neurobasal細胞培養培地は、LDN193189、CHIR99021およびスムーズンドアゴニストを含み、FGF8を含まない、工程、ならびに
1種または複数種のGNDFレセプターRETアゴニストとノッチ経路インヒビター、好ましくは、DAPTおよび/またはdb-cAMPとを含む、neurobasal細胞培養培地で、機能的ニューロンの集団を生成するのに十分な時間、該生成された神経前駆細胞集団をインキュベートする工程であって、該neurobasal細胞培養はGDNF、BDNFおよびTGF-βを含まない、工程
を含む、方法。
【請求項28】
前記neurobasal細胞培養培地がN-2およびB-27を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記neurobasal細胞培養培地が、インスリンレセプターアクチベーター分子、好ましくはDMAQ-B1を含み、N-2およびB-27を含まない、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2021年11月12日出願された米国仮特許出願第63/278,902号に基づく利益を主張し、この米国仮特許出願の全開示が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ヒト多能性幹細胞(hPSC)(胚性サブタイプおよび誘導(induced)サブタイプを含む)は、種々の適用(ヒトの発生または疾患のモデリング、薬物スクリーニング、および細胞ベースの治療剤が挙げられる)のために機能的最終細胞型(例えば、成熟ニューロン)を誘導するための供給源細胞として広範に使用されている。インビトロでのhPSCからの機能的細胞型の誘導は、細胞の運命を漸進的に指定するために正確な量、時期、および順序で多くの生化学的シグナル(例えば、増殖因子モルフォゲンおよび低分子)がその細胞に提示される、胚盤胞環境からの前駆細胞の天然の発生プロセスを模倣することを含む。
【0003】
hPSCから機能的ニューロンサブタイプをインビトロで誘導するための現行の方法は、内在的シグナル伝達プロセスを再現するために細胞培養培地に補充される組換えタンパク質の使用に大きく依存する。例えば、グリア細胞由来神経栄養因子(glial derived neurotrophic factor)(GDNF)が、ニューロン維持において重要な役割を果たすGDNF媒介性RETシグナル伝達を活性化するために、hPSCからのニューロン分化のための多くのプロトコルで普及している。パーキンソン病の動物モデルにおいて有効性を示した、hPSCからドーパミン作動性ニューロン前駆体(precursor)または神経芽細胞を誘導するためのプロトコルは、その分化プロトコルの期間のうちの75%もの頻度でGDNFの添加を必要とする。ハンチントン病の動物モデルにおいて有効性を示したhPSC由来線条体ニューロンの生成もまた、その分化プロセスの成熟段階の間に相当な量のGDNFを必要とする。さらに、GDNFの使用は、種々の神経障害(脳卒中、神経障害性疼痛、統合失調症、自閉症、癲癇、および学習障害/記憶障害が挙げられる)のための細胞治療候補であるいくつかのさらなるhPSC由来のニューロンサブタイプ(例えば、神経上皮幹細胞、介在ニューロン、コリン作動性ニューロン、およびセロトニンニューロン)の生成においても、普及している。
【0004】
大脳を越えて延びているので、小脳変性症をモデル化するためにhPSCから誘導されており、小脳変性症治療の可能性を有する小脳ニューロンは、成熟状態に達するために相当な量のGDNF-一部の場合では100日を超える曝露-を必要とする。hPSCから誘導された末梢感覚ニューロン(侵害受容器、機械受容器、および自己受容器を含む)もまた、個別化した神経障害処置モデル化のために機能的ニューロンを生成するためのGDNFの使用に大きく依存する。変性状態(SMAおよびALSが挙げられる)のモデル化または治療のためのhPSCからの運動ニューロンの分化および成熟は、その分化時間のほぼ50%の間、GDNFを必要とする。
【0005】
これらの神経細胞型の大多数が、神経組織の再生を含む一定範囲の神経学的適応症のための細胞補充療法の候補であるが、ヒトにおける移植のための臨床グレードの細胞を作製することが、これらの候補療法を診療所へ移す際の重大なボトルネックとして現れている。その適応症に依存して、数百万個の細胞が患者への単回投与のために必要とされ、これは、単一の同種製品のために1年当たり1014個の細胞までの推定製造負荷の量である。これらの細胞治療候補の臨床開発および商業化のために必要な現行適正製造プロセス(current Good Manufacturing Process)(cGMP)グレードの細胞のために、組換えタンパク質が、最も高価な原材料の一つである。例えば、hPSCからのドーパミン作動性ニューロンの生成のための40日プロトコルにおいて、GDNF、BDNF、およびTGF-βが細胞培養培地に30日間補充され、これは、試薬の総費用のうちの50%を占める。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)レセプターRET(膜貫通レセプターチロシンキナーゼrearranged in transfection)アゴニストを含む分化細胞培養培地で培養することによって種々の機能的神経細胞型を生成するためのインビトロ方法が本明細書において提供され、好ましくは、その分化細胞培養培地はタンパク質を本質的に含まない。一部の態様において、機能的神経細胞が、本明細書において記載されている方法にしたがって誘導(induced)(幹細胞由来)神経前駆細胞から生成される。他の態様において、機能的神経細胞が、本明細書において記載されている方法にしたがって哺乳動物多能性細胞から生成される。
【0007】
種々の機能的神経細胞型を生成するために有用な細胞培養培地もまた本明細書において提供され、その細胞培養培地は1種または複数種のGDNFレセプターRETアゴニストを含む。好ましい態様において、その細胞培養培地は、GNDF、BDNF(脳由来神経栄養因子)およびTGFβを含まず、好ましくは、タンパク質を本質的に含まない。
(図面の説明)
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、hPSCからドーパミン作動性ニューロンへの分化のための標準的プロトコル(i)と、本明細書において記載されているプロセス(ii)との間の比較を示す。この標準的プロトコルとは対照的に、ドーパミン作動性ニューロンは、本方法にしたがって、FGF8を含まない誘導培地(0日目~10日目の間)、およびGDNFも、BDNFもTGFβ3も含まない分化培地(11日目~20日目以降)で、生成される。
【0009】
図2図2は、BT-13およびDAPTを含みGDNF、BDNFおよびTGFβ3を含まない分化培地における、増殖および分化する神経凝集物の定期的画像化を示す。
【0010】
図3図3は、BT-13およびDAPTを含みGDNF、BDNFおよびTGFβ3を含まない分化培地を使用して分化した代表的凝集物の20日でのDAPI(青色)およびチロシンヒドロキシラーゼ(TH)についての免疫細胞化学染色を示す。
【0011】
図4図4は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)からドーパミン作動性ニューロンへの分化のための標準的プロトコルを本方法と比較する、費用分析の結果を示す。
【0012】
図5図5は、FGF8を含まない誘導培地(0日目~10日目の間)および10nM Q525を含む分化培地(これはGDNF、BDNFおよびTGFβ3を含まない)(11日目~20日目以降)でhPSCを培養することによって生成された、18日目のチロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
(定義)
【0014】
本明細書において使用される「アクチベーター」とは、分子または経路のシグナル伝達機能(例えば、Wntシグナル伝達、SHHシグナル伝達など)の活性化を増加、誘導、刺激、活性化、促進、または増強する、化合物を指す。
【0015】
本明細書において使用される場合、用語「細胞の集団」または「細胞集団」とは、少なくとも細胞2個の群を指す。非限定的な例において、細胞集団は、少なくとも約10個、少なくとも約100個、少なくとも約200個、少なくとも約300個、少なくとも約400個、少なくとも約500個、少なくとも約600個、少なくとも約700個、少なくとも約800個、少なくとも約900個、少なくとも約1000個の細胞を含み得る。その集団は、1種の細胞型を含む純粋な集団(例えば、ドーパミン作動性ニューロンの集団、または未分化幹細胞の集団)であり得る。あるいは、その集団は、1種よりも多い細胞型を含み得る(例えば、混合細胞集団)。
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」とは、培養中に無限の期間分裂して、特殊化した細胞を生じる能力を有する、細胞を指す。
【0017】
本明細書において使用される場合、用語「胚性幹細胞」および「ESC」とは、着床前期胚から誘導され、培養中に分化せずに長期間分裂可能であり、3つの一次胚葉の細胞および組織へと成長することが公知である、原始(未分化)細胞を指す。ヒト胚性幹細胞とは、ヒト胚に由来する胚性幹細胞を指す。本明細書において使用される場合、用語「ヒト胚性幹細胞」または「hESC」とは、培養中に分化せずに長期間分裂可能であり、3つの一次胚葉の細胞および組織へと成長することが公知である、初期ヒト胚(胚盤胞期までを含む)に由来する種類の多能性幹細胞を指す。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「胚性幹細胞株」とは、分化せずに何日間、何か月から何年間までも増殖を可能にするインビトロ条件下にて培養されてきた、胚性幹細胞の集団を指す。
【0019】
本明細書において使用される場合、用語「GDNFレセプターRETアゴニスト」は、膜貫通レセプターチロシンキナーゼRETを間接的または直接的に活性化する分子を含む。GDNFレセプターRETアゴニストは、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、アルテミン(artemin)(ARTN)、ニュールツリン(NRTN)およびペルセフィン(persephin)(PSPN)(これらすべては、膜貫通レセプターチロシンキナーゼRETを通じてシグナル伝達する)から選択される、GDNFファミリーリガンド(GFL)の活性を増加させることによって、RETを間接的に活性化し得る。GDNFレセプターRETアゴニストによるRETの直接的活性化は、GFLタンパク質とは無関係に生じる。例として、BT-13およびBT-18はRETを直接的に活性化するが、XIB4035は、GDNFまたはARTNの活性化を増加させることによってRETを間接的に活性化する。
【0020】
用語「ドーパミン作動性ニューロン」は、チロシンヒドロキシラーゼを発現する神経細胞を包含することが意図され、詳細にはこの用語はチロシンヒドロキシラーゼを発現する神経細胞を含むことが意図され、ドーパミン前駆細胞(dopamine precursor)およびドーパミン神経芽細胞を含む。
【0021】
本明細書において使用される場合、用語「多能性」とは、生物の3つの発生胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉を含む)へと成長する能力を指す。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「人工多能性幹細胞」または「iPSC」とは、体細胞中への特定の胚遺伝子(例えば、OCT4導入遺伝子、SOX2導入遺伝子、およびKLF4導入遺伝子であるが、これらに限定はされない)の導入によって形成される種類の多能性幹細胞を指す(例えば、TakahashiおよびYamanaka、Cell、126、663~676(2006)(参照により本明細書に援用される)を参照のこと)。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「ニューロン」とは、神経系の主要な機能的単位である、神経細胞を指す。ニューロンは、細胞体ならびにその突起(軸索および1つまたは複数の樹状突起)からなる。ニューロンは、シナプスで神経伝達物質を放出することによって他のニューロンまたは細胞に情報を伝達する。
【0024】
本明細書において使用される場合、用語「未分化」とは、特殊化した細胞型へと未だに成長していない細胞を指す。
【0025】
本明細書において使用される場合、用語「分化」とは、特殊化していない胚細胞が特殊化した細胞(例えば、神経細胞、心臓細胞、肝細胞、または筋細胞)の特徴を獲得するプロセスを指す。分化は、細胞表面に埋まっているタンパク質が関与するシグナル伝達経路を通常は介して、その細胞の遺伝子と、その細胞の外側の物理的条件および化学的条件との相互作用によって制御される。
【0026】
本明細書において使用される場合、細胞に関連する用語「分化を誘導すること」とは、その初期状態(default)の細胞型(遺伝子型および/または表現型)から非初期状態(non-default)の細胞型(遺伝子型および/または表現型)へ変化させることを指す。したがって、「幹細胞において分化を誘導すること」とは、その幹細胞(例えば、ヒト幹細胞)がその幹細胞とは異なる特徴(例えば、遺伝子型(例えば、遺伝子解析(例えば、マイクロアレイ)によって決定される遺伝子発現の変化)および/または表現型(例えば、中脳ドーパミン(DA)細胞もしくはその前駆体(precursor)のタンパク質マーカー(例えば、EN-1、OTX2、TH、NURR1、FOXA2、およびLLMX1A)の発現の変化)を有する子孫細胞へと分裂するのを誘導することを指す。
【0027】
本明細書において使用される場合、用語「マーカー」または「細胞マーカー」または「バイオマーカー」とは、特定の細胞もしくは細胞型を識別する、遺伝子またはタンパク質を指す。細胞についてのマーカーは1つのマーカーに限定されない可能性があり、マーカーとは、指定のマーカー群が、ある細胞または細胞型を別の細胞または細胞型から識別し得るような、マーカーの「パターン」を指し得る。
【0028】
誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)または哺乳動物多能性細胞からの機能的ニューロンの生成におけるGDNF、BDNFおよびTGFβの必要性を除去する細胞培養培地添加物としてのGDNFレセプターRETアゴニストの使用が、本明細書において提供される。
【0029】
一部の態様において、誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)(iNPC)からニューロンを生成するためのインビトロ方法が提供され、その方法は、GDNFレセプターRETアゴニストを含む分化細胞培養培地でそのiNPCを培養する工程を含む。一部の態様において、本方法にしたがう使用のためのiNPCは、マーカーであるPax6、Nestin、およびCD133を発現する。
【0030】
好ましい実施形態において、そのGDNFレセプターRETアゴニストは、構造:
【化1】
を有するBT-13(N,N-ジエチル-3-[4-[4-フルオロ-2-(トリフルオロメチル)-ベンゾイル]ピペラジン-1-イル]-4-メトキシベンゼンスルホンアミド)および/または構造:
【化2】
を有するBT-18([4-[5-[(6,7-ジメトキシ-3,4-ジヒドロ-1H-イソキノリン-2-イル)スルホニル]-2-メトキシフェニル]ピペラジン-1-イル]-[4-フルオロ-2-(トリフルオロメチル)-フェニル]メタノン)および/または BT-44である。一部の好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は、BT-13、BT-18および/またはBT-44を約2μM~約20μMの濃度で含む。他の実施形態において、その分化細胞培養培地は、約2μM~約10μMもしくは約5μMのBT-13、BT-18および/またはBT-44を含む。
【0031】
関連する実施形態において、そのGDNFレセプターRETアゴニストはXIB4035(アミノキノール;
【化3】
)であり、好ましくは、その分化細胞培養培地は約10nM~約1000nMのXIB4035を含む。
【0032】
他の実施形態において、そのGDNFレセプターRETアゴニストはQ525
【化4】
であり、好ましくは、その分化細胞培養培地は約1nM~約100nMのQ525を含む。
【0033】
他の実施形態において、そのGDNFレセプターRETアゴニストは、Jmaeffら、JBC、295(19):6532~6542(2020)の表3に列挙されたもの(その各々の構造はその参考文献(その内容全体が参照により本明細書に援用される)の表1で特定されている)から選択される。一部の好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は約1nM~約100nMのQ525またはQ508を含む。
【0034】
他の実施形態において、そのGDNFレセプターRETアゴニストは、ドーパミンニューロン刺激ペプチド-11(DNSP-11;PPEAPAEDRSL(配列番号1))である。
【0035】
他の実施形態において、そのGDNFレセプターRETアゴニストは、Runeberg-Roosら、Neurobiol.Dis.、96:335~345(2016);Jmaeffら、Mol.Pharmacol.、98:1~12(2020);Mahatoら、Mov.Disord.、35:245~255(2020);Sidorovaら、Front.Pharmacology、8:365(2017);およびSidorovaら、Int.J.Mol.Sci.、21(18)6575(2020)(それらの各々の内容全体が参照により本明細書に援用される)において記載されているものから選択される。本方法にしたがって有用な他のGDNFレセプターRETアゴニストとしては、米国特許第8,901,129号(その内容全体が参照により本明細書に援用される)に記載されているもの(例えば、BT10、BT16、BT17またはBT292651)が挙げられる。
【0036】
一部の好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は、GDNFレセプターRETアゴニスト(例えば、BT-13またはQ525)を含み、ノッチ(notch)経路インヒビター(例えば、DAPT(N-[2S-(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル-1,1-ジメチルエチルエステル-グリシン)および/またはジブチリルcAMP(db-cAMP)、RO4929097、BMS-906024、YO-01027、LY-411575、もしくはタンゲレチン)をさらに含む。一部の好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は、DAPTを(例えば、5μM~20μM、好ましくは約10μMの濃度で)含む。
【0037】
一部の実施形態において、その分化細胞培養培地は、血清を含まず、(i)neurobasal培地(例えば、Thermo Fisher Scientific、11320033)(必要に応じて、グルタミン(例えば、glutamax)および/またはN2サプリメント(例えば、Thermo Fisher Scientific、17502048)および/またはB27サプリメント(例えば、Thermo Fisher Scientific、17504044)および/またはアスコルビン酸を補充している)と、(ii)GDNFレセプターRETアゴニスト(例えば、BT13またはQ525)と、(iii)ノッチ(notch)経路インヒビター(好ましくは、DAPTおよび/またはdb-cAMP)とを含む。アスコルビン酸の存在は、本方法にしたがって機能的ニューロンを生成するために必要ではないが、細胞の健康および維持に寄与し得る。
【0038】
一部の態様において、その分化細胞培養培地中のB-27サプリメントおよびN-2サプリメントは、1種または複数種のインスリンレセプターアクチベーター分子、好ましくは、選択的インスリンレセプターアクチベーター(例えば、デメチルアステリキノンB1(DMAQ-B1、別名DAQB1)(好ましくは、10μM~100μMの間の濃度)、または5,8-ジアセチルオキシ-2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン(DDN))で置換される。したがって、一部の好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は、無血清であり、(i)neurobasal培地(例えば、Thermo Fisher Scientific, 11320033)と、(ii)インスリンレセプターアクチベーター(好ましくは、DAQB1)と、(iii)GDNFレセプターRETアゴニスト(例えば、BT13またはQ525)と、(iv)ノッチ(notch)経路インヒビター(好ましくは、DAPTおよび/またはdb-cAMP)とを含み、その培地は、B-27サプリメントおよびN-2サプリメントを含まない。必要に応じて、その分化細胞培養培地は、鉄輸送分子 例えば、ヒノキチオール(5μM~50μM)および/またはBSAの代替物(例えば、組換えヒト血清アルブミン(HSA))(10μg/mL~100μg/mL)を含む。一部の態様において、その分化細胞培養培地は、完全に化学的に定義された無血清・ゼノフリー培地(例えば、CTS KnockOut SR XenoFreeサプリメント(12618012))である。ゼノフリーによって、その培養培地はウシまたは他の非ヒトの動物由来成分を含まないことが、意図される。
【0039】
特に好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は、GDNF、BDNFおよびTGFβのうちの1つまたは複数を含まない。特に好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は、GDNF、BDNFおよびTGFβを実質的に含まない。他の好ましい実施形態において、その分化細胞培養培地は、タンパク質を本質的に含まない.
【0040】
一部の態様において、本明細書において記載されている方法にしたがう使用のための誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)は、哺乳動物多能性細胞を神経誘導培地中でその誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)を誘導するのに適切な時間培養することによって、得られる。典型的には、多能性細胞は、以下のマーカーを発現する:Oct4、SOX2、Nanog、SSEA3、SSEA4、TRA 1/81。
【0041】
一部の実施形態において、その多能性細胞はヒト多能性細胞である。別の実施形態において、その多能性細胞は非ヒト哺乳動物多能性細胞である。好ましい実施形態において、その多能性細胞は幹細胞である。一部の態様において、その幹細胞は、胚性幹細胞、好ましくは、ヒト胚性幹細胞(例えば、ヒト胚性幹細胞株SA01、VUB01、HUES 24、H1、H9、WT3、HUES1)である。他の態様において、その幹細胞は非ヒト(例えば、マウス、齧歯類または霊長類)胚性幹細胞である。他の態様において、その幹細胞は成体ヒト幹細胞である。他の好ましい実施形態において、その幹細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。人工多能性幹細胞は、特定の遺伝子の強制発現を誘導することによって、非多能性の代表的には成体体細胞から人工的に誘導された種類の多能性幹細胞である。例えば、ヒト皮膚線維芽細胞が、4種の山中因子(Oct3/4、Sox2、Klf4およびcMyc)を使用して、多能性幹細胞へと初期化され得る。例えば、Takahashi K、Yamanaka S.、Cell、2006;126(4):663~676(この内容全体は参照により本明細書に援用される)を参照のこと。
【0042】
一部の態様において、誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)を哺乳動物多能性幹細胞から生成するために、その多能性幹細胞のニューロン誘導が、(一般的には、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路およびTGFβシグナル伝達経路を阻害することによって)その幹細胞をSMAD経路の二重インヒビターの存在下でフィーダー細胞を必要とせずに培養することによって、開始される。
【0043】
幹細胞をBMPインヒビターの存在下で培養することは、BMPおよびそのレセプターに対して直接作用することによろうと、またはそれらの発現を阻害することによろうと、BMPシグナル伝達経路を阻害可能なあらゆる培養条件を含む。BMPシグナル伝達経路の適切なインヒビターとしては、LDN193189、DMH1、Noggin、Chordin、Follistatin、Dorsomorphin(6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)フェニル]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン)、K02288、LDN212854、およびML347、LDN214117が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましい実施形態において、そのBMPインヒビターはLDN193189である。その培養物中のBMPインヒビターの濃度は、BMPシグナル伝達経路を阻害するのに有効な濃度である。
【0044】
幹細胞をTGFβインヒビターの存在下で培養することは、TGFβに対して直接作用してその機能を阻害することによろうと、またはTGFβ自体の生成を阻害することによろうと、TGFβを阻害可能なあらゆる培養条件を含む。TGFβシグナル伝達経路の適切なインヒビターとしては、A83-01、SB-431542、LY364947、SB-525334、SD208、LY2157299、LY2109761、SB-505124、GW788388およびEW-7197が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましい実施形態において、そのTGFβインヒビターはSB-431542である。その培養物中のTGFβインヒビターの濃度は、TGFβを阻害するのに有効な濃度である。
【0045】
好ましい実施形態において、その誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)は、底板ベースの前駆細胞(例えば、中脳底板細胞)である。一部の実施形態において、中脳運命へのパターン形成のために、幹細胞は、SMAD経路のインヒビターと、(i)ソニックヘッジホッグ(SHH)のアクチベーター、(ii)WNTシグナル伝達経路のアクチベーター、および任意選択の(iii)FGFレセプター(FGFR)アゴニストとを含む、誘導培地中で、培養される。中脳前駆体(precursor)を生成するための代表的な方法としては、米国特許第10,858,625号(その内容全体が参照により本明細書に援用される)において記載されている方法が挙げられる。
【0046】
本明細書において使用される用語「ソニックヘッジホッグアゴニスト」または「SHHアゴニスト」は、組換えソニックヘッジホッグ、プルモルファミン(purmorphamine)およびSAG(これはスムーズンドアゴニストを表し、クロロベンゾチオフェン含有化合物である)をを含む。Shhはまた、組換え哺乳動物デザートヘッジホッグ(Dhh)または組換え哺乳動物インディアンヘッジホッグ(Ihh)で置換され得る。活性化されたスムーズンド(SMO)もまた、使用され得る。好ましい実施形態において、そのSHHアクチベーターはSAGである。
【0047】
WNTシグナル伝達経路の適切なアクチベーターとしては、GSK-3βインヒビター、例えば、CHIR99021、LiCl、BIO((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、Kenpaullone、A1070722、SB216763、CHIR98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、Bikinin、IM-12、1-Azakenpaullone、LY2090314、AZD1080、AZD2858、AR-A014418、TDZD-8、およびIndirubinが挙げられる。好ましい実施形態において、そのWNTアクチベーターはCHIR99021である。
【0048】
本明細書において使用される「FGFレセプター(FGFR)アゴニスト」とは、FGFRを活性化し得る分子(例えば、FGFRに結合し、そのレセプターの二量体化を誘導し、シグナル伝達P13K経路およびRas/ERK経路を活性化する、分子)を意味する。FGFRアゴニストの非限定的な例としては、FGF2、FGF8およびSUN11602が挙げられる。好ましい実施形態において、そのFGFRアゴニストはFGF8(例えば、組換え生成されたFGF8)である。
【0049】
一部の好ましい態様において、その神経誘導培地は、(i)BMPシグナル伝達を阻害するためのLDN193189(LDN)と、(ii)TGFβシグナル伝達を阻害するためのSB-431542(SB)(例えば、10mM)と、(iii)組換えFGF8と、(iv)ソニックヘッジホッグシグナル伝達を活性化するためのスムーズンドアゴニスト(SAG;3-クロロ-N-[トランス-4-(メチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[3-(ピリジン-4-イル)ベンジル]-1-ベンゾチオフェン-2-カルボキサミド)と、(iv)WNTシグナル伝達を活性化するためのCHIR99021(CHIR、例えば、10mM)とを含む。あるいは、CT99021(GSK3インヒビター)が、WNTシグナル伝達を活性化するために使用され得る。
【0050】
他の態様において、その神経誘導培地は、(i)BMPシグナル伝達を阻害するためのLDN193189(LDN)と、(ii)ソニックヘッジホッグシグナル伝達を活性化するためのスムーズンドアゴニスト(SAG;3-クロロ-N-[トランス-4-(メチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[3-(ピリジン-4-イル)ベンジル]-1-ベンゾチオフェン-2-カルボキサミド)と、(iii)WNTシグナル伝達を活性化するためのCHIR99021(CHIR、例えば、10mM)とを含み、その神経誘導培地はTGFβシグナル伝達のインヒビター(例えば、SB-431542(SB))を含まず、かつ/またはその神経誘導培地はFGF8を含まない。一部の態様において、iPSCまたはESCが、Oct4/POU5F1、NanogおよびSox2の発現によって同定される。
【0051】
一部の態様において、神経前駆細胞が、Pax6、NestinおよびCD133の発現によって同定される。
【0052】
一部の態様において、中脳前駆細胞が、以下のマーカーのうちの1つまたは複数(例えば、すべて)の発現によって同定される:FOXA2、LMX1A、OXT2、EN1/2、GBX2、Wnt1、CNPY1、SPRY1、およびPax8。
【0053】
一部の態様において、成熟ドーパミン作動性ニューロンが、以下のマーカーのうちの1つまたは複数(例えば、すべて)の発現によって同定される:チロシンヒドロキシラーゼ、CORIN、Nurr1、GRK2、Pitx3、DAT、LRTM1、ALCAM、DRD2、DBH、CHRNB3。
【0054】
一部の態様において、哺乳動物幹細胞から分化した神経細胞を生成するための方法が提供され、その方法は、(i)神経誘導培地でその幹細胞を培養する工程であって、その培養する工程は誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)の生成をもたらす、工程;および(ii)GDNFレセプターRETアゴニスト(好ましくは、BT13)を含む分化培地でその誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)を培養する工程であって、その培養する工程は分化した神経細胞の集団の生成をもたらす、工程を含む。一部の実施形態において、その幹細胞は、工程(i)にしたがって神経誘導培地で約10日間~約12日、9日間~11日間または約10日培養される。
【0055】
有利なことに、本方法にしたがう哺乳動物幹細胞からの機能的ニューロンの生成は、工程(i)の神経誘導培地においてFGFRアゴニスト(例えば、FGF8)の存在を必要としない。したがって、一部の好ましい実施形態において、哺乳動物幹細胞から神経細胞を生成するための方法が提供され、その方法は、(i)(a)BMPシグナル伝達のインヒビターと(b)TGFβシグナル伝達のインヒビターと(c)ソニックヘッジホッグ(SHH)のアクチベーターと(d)WNTのアクチベーターとを含む神経誘導培地でその幹細胞を培養する工程であって、その神経誘導培地はFGFRアゴニストを含まない、工程;および(ii)GDNFレセプターRETアゴニスト(好ましくは、BT13)を含む分化培地でその神経前駆細胞を培養する工程であって、それにより神経細胞が生成される、工程を含む。
【0056】
他の好ましい実施形態において、本方法にしたがう哺乳動物幹細胞からの機能的ニューロンの生成は、工程(i)の神経誘導培地にTGFβシグナル伝達のインヒビターを含むことなく実施される。したがって、哺乳動物幹細胞から神経細胞を生成するための方法が提供され、その方法は、(i)(a)BMPシグナル伝達のインヒビターと(b)ソニックヘッジホッグ(SHH)のアクチベーターと(c)WNTのアクチベーターとを含む神経誘導培地でその幹細胞を培養する工程であって、その神経誘導培地はTGFβシグナル伝達のインヒビターを含まない、工程;および(ii)GDNFレセプターRETアゴニスト(例えば、BT13またはQ525)を含む分化培地でその神経前駆細胞を培養する工程であって、それにより神経細胞が生成される、工程を含む。関連する実施形態において、工程(i)の神経誘導培地は、TGFβシグナル伝達のインヒビターを含み、FGFRアゴニストを含まない。
【0057】
種々の分化した神経細胞が、例えば、工程(ii)にしたがってGDNFレセプターRETアゴニスト(例えば、BT13またはQ525)を含む分化培地で神経前駆細胞が培養される日数を変化させることによって、本方法にしたがって生成され得る。一部の態様において、本明細書において記載されている方法にしたがって生成される分化した神経細胞は、ドーパミン前駆細胞(dopamine precursor)、ドーパミン神経芽細胞、線条体ニューロン、神経上皮幹細胞、GABA作動性介在ニューロン、皮質介在ニューロン、コリン作動性ニューロン、セロトニン介在ニューロン、小脳ニューロン、感覚ニューロン、および運動ニューロンから選択される。
【0058】
下記の表1は、本方法にしたがって哺乳動物多能性細胞から生成され得る種々の神経細胞型を、可能性のあるそれらの医学的用途、先行技術の方法にしたがって各細胞型を生成するのに必要なGDNFの日数、その神経細胞型を同定するためのマーカー、およびその先行技術の方法を記載している参考文献(それらの各々の内容は参照により本明細書に援用される)とともに、示す。下記のプロトコルの各々について、GDNFレセプターRETアゴニスト(例えば、BT13またはQ525)が、本方法にしたがってGDNFの代わりに(プロトコルによってはBDNF、TGFβおよび他のタンパク質の代わりに)使用される。
【0059】
【表1-1】
【表1-2】
【0060】
本方法にしたがって生成されるニューロンの型は、1種または複数種の表面マーカーの発現によって同定され得る。一部の態様において、ドーパミン作動性ニューロンが生成される。ドーパミン作動性ニューロンは、チロシンヒドロキシラーゼの発現、ならびに必要に応じてDAT、CORIN、GIRK2、PITX3およびNURR1のうちの1つまたは複数の発現によって、同定され得る。他の態様において、線条体ニューロンが生成される。線条体ニューロンは、DARPP32、CITP2、CALBINDIN、およびGABAのうちの1つまたは複数の発現によって同定され得る。
【0061】
活動電位を発生する能力はニューロンの成熟および機能の特徴であり、種々のニューロン表現型が別個の特定の発火パターンを示す。したがって、本方法にしたがって生成されるニューロンの機能性は、1種または複数種の表面マーカーの発現のほかに、例えば、パッチクランプ法の電気生理学を使用して、またはAdil,M.ら、Sci.Rep.、7、40573(2017)(その内容全体が参照により本明細書に援用される)において記載されている膜電位イメージング法を使用して、ニューロンが活動電位を発生する能力を評価することによって、確認され得る。機能的中脳ドーパミン作動性ニューロンは、例えば、2Hz~5Hzで周期的スパイクの発火パターンを示す。本方法にしたがって生成されるニューロンはまた、動物モデル(例えば、Fisher 344ラット)中に(例えば、線条体に)移植され得、その移植されたニューロンの生存が、後の時点で(例えば、移植の6週間後に)評価され得る。
【0062】
一部の実施形態(例えば、胚様体由来のニューロスフェアベースの誘導を利用する)において、工程(i)の後で、工程(ii)にしたがって分化培地で培養するために、細胞クラスターが単一細胞へと(例えば、11日目に)分離される。他の実施形態において、2次元単層ベースの方法(例えば、Matrigelでコーティングした2次元表面)が使用される。他の実施形態において、3次元細胞培養ベースの方法が使用され、例えば、その方法では、細胞が生体材料(例えば、アルギン酸塩、コラーゲン、ヒアルロン酸またはAdil,M.ら、Sci.Rep.、7、40573(2017)(その内容全体が参照により本明細書に援用される)に記載されている材料)に包埋される。
【0063】
一部の態様において、本明細書において記載されているとおり分化培地で培養する工程は、望ましいニューロン(例えば、表1を参照のこと)を生成するのに十分な時間、行われる。一般に、本明細書において記載されているとおり分化培地で培養する工程は、約4日間~約110日間の期間、行われる。一部の態様において、本明細書において記載されているとおり分化培地で培養する工程は、約4日間~約60日間、または約5日間~約40日間または約16日間~約32日間の期間、行われる。
【0064】
関連する態様において、本方法にしたがって生成される細胞集団が提供される。本方法にしたがって生成される細胞集団は、典型的には、分化した神経細胞に加えて、他の細胞型を含み得る。一実施形態において、本発明の集団は、その集団が、分化したニューロンに特徴的な少なくとも1種のバイオマーカー(例えば、TH遺伝子産物)の高発現を示す細胞を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、好ましくは少なくとも90%または少なくとも95%含むという点で、特徴付けられる。
【0065】
分化した神経細胞に特徴的な他のバイオマーカーは、生成されるニューロンの型に依存するが、そのバイオマーカーとしては、表1に列挙されているマーカーのうちの1つまたは複数が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0066】
遺伝子発現を測定するために当該分野で公知の任意の方法、詳細には、定量的方法(例えば、リアルタイム定量PCRもしくはマイクロアレイ、または遺伝子レポーター発現を使用する方法)、あるいは定性的方法(例えば、特定のバイオマーカー(細胞表面マーカーが挙げられる)を示す細胞を識別する、免疫染色法またはセルソーティング法)が、使用され得る。
【0067】
一部の態様において、哺乳動物多能性幹細胞から、または誘導神経前駆細胞(induced neuronal precuorsor cell)から、機能的ニューロンを生成するために有用な細胞培養分化培地が提供され、その分化培地は、GDNFレセプターRETアゴニスト(例えば、BT-13またはQ525)を含む。一部の実施形態において、その分化培地は、チロシンヒドロキシラーゼ陽性ドーパミン作動性ニューロンを生成するために有用である。一部の実施形態において、その培養培地は、ノッチ(notch)経路インヒビター(例えば、DAPTおよび/またはdb-cAMP)をさらに含む。好ましい実施形態において、その培養培地はGDNF、BDNFおよびTGF-βを含まない。他の好ましい実施形態において、その培養培地はタンパク質を本質的に含まない。一部の態様において、その細胞培養培地は、N2サプリメントおよびB17サプリメントを補充された、neurobasal培地を含む。他の態様において、その細胞培養培地は、neurobasal培地とインスリンレセプターアクチベーター(好ましくは、DMAQ-B1)とを含み、N2サプリメントを含まず、B17サプリメントを含まない。
【実施例
【0068】
以下の実施例は本発明の好ましい実施形態を例示し、以下の実施例は本発明の範囲を限定することは決して意図されない。本発明がその好ましい実施形態に関連して記載されてきたが、本出願を読んだ当業者にはその種々の改変形が明らかである。
【0069】
(実施例1)
(方法)
【0070】
(ヒト多能性幹細胞培養物) ヒト人工多能性幹細胞(hPSC)(ThermoFisher A18945)を、1% Matrigelの層上に単層形態で継代培養し、増殖中はEssential 8培地で維持した。80%コンフルエンシーで、Versene溶液を使用してH9を継代し、1:8分割で再播種した。
【0071】
(3次元hPSC培養物の播種) Accutase溶液を使用してhPSCを単一細胞へと分離し、10μM Y-27632(Rockインヒビター、RI)を含むEssential 8(E8)培地に再懸濁した。hPSCを計数し、規定した密度で氷上の11% AXgelに再懸濁した。AXgelに懸濁した細胞をマルチウェル組織培養プレートに分配し、37℃になるまで15分間加熱し、その後、10μM RIを含む事前に加温したE8培地を各ウェルに添加した。3次元細胞懸濁物を、RIを含むE8に2日間(-2日目~0日目)維持した。
【0072】
(3次元ドーパミン作動性ニューロンの分化) 0日目から開始して、AXgel中のhPSCを分化培地に移して、神経系列決定およびその後の中脳ドーパミン作動性ニューロンへの特殊化を誘導した。11日目から開始して、タンパク質GDNF、BDNF、およびTGF-βの代わりにGDNFアゴニストBT-13(5μM)またはQ525(5nM)を含む成熟培地に、神経前駆体(precursor)を移した。培地処方物は表2にしたがった:
【0073】
【表2】
さらなる試薬を表3に列挙する:
【0074】
【表3】
【0075】
(免疫細胞化学) この実験の終点で、冷却した培地で温かい培地を置換することによって細胞凝集物をAXgelから収集し、10μg/mLラミニンでコーティングした8チャンバ培養スライドにプレートし、インキュベーターで一晩培養して、凝集物をその表面に接着させた。その後、その培養スライドに接着した凝集物を、4%パラホルムアルデヒド(PFA)を使用して15分間固定した。凝集物をPBS中で各5分間ずつ2回洗浄し、PBS中の0.25% Triton(登録商標)-X+5%ロバ血清において10分間インキュベートして細胞を透過処理した。透過処理後、凝集物を5%ロバ血清中で各5分間ずつ5回洗浄し、PBS+ロバ血清中に希釈した目的の一次抗体(希釈の詳細は表3中)とともにインキュベートし、4℃で一晩保管した。一次染色後、凝集物をPBS中で各5分間ずつ2回洗浄し、対応する二次抗体を含む溶液(希釈の詳細は表3中)中でインキュベートし、37℃で2時間インキュベートした。二次染色後、凝集物をPBS中で各5分間ずつ2回洗浄し、培養スライドを、画像化するためのカバーガラスに取り付けた。
【0076】
(顕微鏡法) AXgel中に懸濁した生きた細胞凝集物を、QB3-Berkeleyを通じてCell and Tissue Analysis Facilityで利用可能な透過光顕微鏡法用のEVOS XL Core Imaging Systemを使用して、この実験の間、定期的に画像化した。QB3-Berkeleyを通じてHigh-Throughput Screening Facilityで利用可能なPerkin Elmer Opera Phenix自動共焦点蛍光顕微鏡を使用して、固定し染色し取り付けた細胞凝集物を20倍対物レンズまたは40倍対物レンズで画像化した。レーザーの曝露時間および出力を、画像化セット内の蛍光チャネルについて一定に維持した。
【0077】
(結果および考察)
【0078】
GDNF、BDNF、およびTGF-βをBT-13またはQ525で置換することが、機能的バイオマーカーであるチロシンヒドロキシラーゼを発現するhPSC由来ニューロンを生成するのには十分である。
【0079】
hPSC由来ドーパミン作動性ニューロンは、多くの齧歯類動物研究および非ヒト霊長類動物研究においてパーキンソン病のための細胞治療剤として安全性および有効性を実証しており、ヒトでの治験が開始されている。それらの顕著な進歩および臨床への橋渡しの見込みを理由として、Adilら、Sci Rep、7:40573(2017)において記載されている3次元分化システムにおいて組換えタンパク質FGF8、TGF-β、BDNF、およびGDNFを除去し、10日目から開始してBT-13またはQ525で置換した(図1(BT-13)および図5(Q525))、最小タンパク質培地処方物についての重要なユースケースとして、hPSC由来ドーパミン作動性ニューロンの生成を選択した。分化の最初の6日の間FGF8を除去することは、その3次元凝集物の増殖にもパターン形成にも影響を与えなかった(図2)。20日目までに、チロシンヒドロキシラーゼ(ドーパミン生成における律速酵素およびドーパミン作動性ニューロンの機能的バイオマーカー)の発現を、分化中の凝集物すべての内部の神経細胞体で検出した(図3および図5)。GDNF、BDNF、およびTGF-βをBT-13またはQ525によって置換することは、分化のためにGDNFを必要とするすべてのニューロンサブタイプ(表1を参照のこと)に適用可能である。本明細書において提示した結果は、構造的に関連がない2種のRETアゴニストが各々、多能性細胞からの機能的ドーパミン作動性ニューロンの生成においてGDNF、BDNFおよびTGF-βの代わりになり得、したがって、本明細書において記載されている方法における任意のGDNFレセプターRETアゴニストの使用を支持することを、示す。
【0080】
その後、臨床開発および商業化のためにhPSC由来ドーパミン作動性ニューロンを製造するために1リットルバイオリアクターまでスケールアップしcGMPを採用する費用をモデル化し、最小タンパク質BT-13置換培地処方物と比較したオリジナルの培地処方物を使用する費用を、比較した(図4)。最適な移植および有効性のための分化の段階は、活発な調査の領域のままである。より短い分化時間は、移植後にオフターゲット分化または望ましくない細胞過剰増殖をもたらし得る、拘束されていない増殖性前駆体(precursor)を含む純化されていない細胞集団のリスクを冒し、一方、より長い分化時間は、移植のストレスおよび移植中の細胞死の増加のストレスに対して強靭性がより低い、より成熟した拘束された細胞のリスクを冒す。したがって、本発明者らは、この費用分析に以下の2つのシナリオを含めた:ドーパミン前駆細胞(dopamine precursor)の移植のための25日の分化、およびドーパミン神経芽細胞の移植のための40日の分化(図4)。BT-13を含む最小タンパク質処方物は、より長い分化プロトコルにおいて、材料の費用を50%よりも多く減少可能である。GDNFに代えて低分子で置換することの使用は、hPSC由来ニューロンを生成するための培地の費用を50%よりも多く減少する。
【0081】
本発明の物質および方法が好ましい実施形態に関して記載されてきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書において記載されている方法に対して変化形が適用され得ることが、当業者には明らかである。当業者にとって明らかであるすべての同様なそのような置換形および改変形は、本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内にあると見なされる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】