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特表2024-543439イベントに対する被験者の反応を測定するシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】イベントに対する被験者の反応を測定するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/383 20210101AFI20241114BHJP
【FI】
A61B5/383
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527690
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-08
(86)【国際出願番号】 GB2022052836
(87)【国際公開番号】W WO2023084208
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】2116218.5
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100109139
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】スレイター,レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】バット,アオメシュ
(72)【発明者】
【氏名】ピレイ,キルビン
(72)【発明者】
【氏名】ハートリー,キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】マーチャント,サイモン
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127AA03
4C127DD00
4C127FF02
4C127GG10
4C127GG18
(57)【要約】
本発明は、方法(30)であって、EEGモニタリングシステム(12)を使用して、被験者(16)からのEEGデータを取得することであって(32)、前記データは、第1の期間にわたって記録され、前記第1の期間にはイベントが含まれることと、心拍数モニタリングシステム(14)を使用して、被験者(16)からの心拍数データを取得することであって(34)、前記心拍数データは、第2の期間にわたって記録され、前記第2の期間もまた前記イベントを含めることと、前記イベント後の指定された遅延におけるイベントEEGデータに適合するようにEEGテンプレートをスケーリング(36)してEEGスケーリング係数を導出することと、心拍数データを用いてイベントによる心拍数の変化を判定し(38)、EEGスケーリング係数と心拍数の変化を組み合わせて(40)、イベントに対する被験者の反応を示すスコアを生成することと、を備える方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
EEGモニタリング・システムを使用して、被験者からEEGデータを取得することであって、前記データは第1の期間にわたって記録され、前記第1の期間にはイベントが含まれることと、
心拍数モニタリング・システムを使用して、前記被験者から心拍数データを取得することであって、前記心拍数データは第2の期間にわたって記録され、前記第2の期間には、前記イベントも含まれる、ことと、
前記イベント後の指定された遅延でイベントEEGデータに適合するようにEEGテンプレートをスケーリングして、EEGスケーリング係数を導出することと、
前記心拍数データを用いて前記イベントによる心拍数の変化を決定することと、および、
前記EEGスケーリング係数と前記心拍数の変化を組み合わせて、前記イベントに対する前記被験者の反応を示すスコアを生成することと、
を備える方法。
【請求項2】
年齢に応じたテンプレートのセットから前記EEGテンプレートを選択して、年齢に適したEEGテンプレートを取得することであって、前記選択は、前記被験者の年齢に基づいて行われることを、
さらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択は加重確率関数を使用して行われる、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記EEGテンプレートと前記イベントEEGデータ間の適合度を導出することと、
前記適合度を使用して前記EEGスケーリング係数に重み付けし、重み付けされたEEGスケーリング係数を生成することと、
をさらに備える請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記EEGモニタリング・システムを使用して、前記被験者からベースラインEEGデータを取得することであって、前記ベースラインEEGデータは、前記イベント前の複数のベースラインEEG期間にわたって記録されることと、
前記ベースラインEEGデータを使用して前記EEGスケーリング係数を変調し、変調されたEEGスケーリング係数を取得することと、
をさらに備える請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記EEGスケーリング係数を変調することは、
前記ベースラインEEGデータに適合するように前記EEGテンプレートをスケーリングして、前記ベースラインEEG期間のそれぞれについてスケーリングされたベースラインEEGデータを生成することと、
前記スケーリングされたベースラインEEGデータを使用して前記EEGスケーリング係数を変調し、前記変調されたEEGスケーリング係数を取得することと、
を備える請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、
前記複数のベースラインEEG期間のそれぞれについて、前記EEGテンプレートと前記スケーリングされたベースラインEEGデータとの間の適合度を導出することと、
前記複数のベースラインEEG期間のそれぞれについて、前記導出された適合度を使用して前記スケーリングされたベースラインEEGデータを重み付けし、重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータを生成することと、
前記重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの平均と標準偏差を計算することと、
下記の式を使用して前記EEGスケーリング係数を標準化することであって、


ここで、εは前記イベントの前記EEGスケーリング係数、rは前記EEGテンプレートと前記イベントEEGデータ間の適合度、μは前記重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの平均、σは前記重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの前記標準偏差であることと、
をさらに備える請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記心拍数モニタリング・システムを使用して、前記被験者からベースライン心拍数データを取得することであって、前記ベースライン心拍数データは、前記イベント前の複数のベースライン心拍数期間にわたって記録されることと、
前記ベースライン心拍数データを使用して、前記イベントによる前記心拍数の変化を調整することと、
をさらに備える請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記複数のベースライン心拍数期間のそれぞれについてイベント前の心拍数の変化を決定することと、
前記イベントによる前記心拍数の変化から前記イベント前の心拍数の変化の平均を減算し、その結果を前記イベント前の心拍数の変化の標準偏差で割ることによって、前記イベントによる心拍数の変化を標準化することと、
をさらに備える請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記標準化されたEEGスケーリング係数と前記標準化された心拍数変化とを組み合わせてスコアを生成するステップは、
前記標準化された心拍数の変化に基づく第1の閾値関数と、前記標準化された心拍数の変化に基づく第2の閾値関数とを定義することと、
前記標準化されたEEGスケーリング係数が前記第1の閾値関数と前記第2の閾値関数の間にある場合は前記スコアを変更しないことと、
前記標準化されたEEGスケーリング係数が前記第1の閾値関数より大きい場合は前記スコアを減少させることと、
前記標準化されたEEGスケーリング係数が前記第2の閾値関数より小さい場合は前記スコアを増加させることと、
を備える請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記スコアを離散化すること、
をさらに含む請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記イベントは触覚刺激および/または有害刺激である、
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
イベントに反応して被験者が経験する痛みを定量化するシステムであって、前記システムは、
EEGモニタリング・システムおよび心拍数モニタリング・システムによって取得されたデータを使用して、請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の方法を実行するように動作可能なプロセッサを備える、
システム。
【請求項14】
前記被験者からEEGデータを取得できるEEGモニタリング・システムと、
前記被験者から心拍数データを取得可能な心拍数モニタリング・システムと、
をさらに備える請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載のシステムのプロセッサ上で実行されると、前記プロセッサに請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の方法を実行させるように動作可能なコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イベントに対する被験者の反応を測定するシステムおよび方法に関し、特に、触覚刺激または有害刺激などのイベントに反応して被験者が経験する痛みを定量化するシステムおよび方法に関する。本発明は、特に、新生児および乳児が有害刺激に反応して経験する痛みを定量化する方法およびシステムに関するが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
入院中の新生児は、ヒールランス、カニューレ挿入、末梢ライン挿入などの痛みを伴う処置を毎日受けるが、その痛みを測定したり、鎮痛剤が有効かどうかをテストしたりすることは困難である。新生児の痛みの評価は、主に、表情の変化や心拍数などのバイタルサインの変化など、さまざまな行動指標に依存する。これらのツールは本質的に主観的かつ/または非特定的である。
【0003】
新生児の痛みをより正確に評価するツールが必要である。新生児の痛みを評価するために40種類以上の複合疼痛スケールが開発されているが、臨床診療や臨床試験ではより優れた疼痛測定ツールが必要であることは明らかである。現在、新生児の痛みの評価に標準的に受け入れられている多次元スケールは、経験的に開発されており、客観性、特異性、妥当性といった重要な側面が欠けているため、限界がある。さらに、痛みを評価するために広く使用されている行動的および生理学的観察は、主に痛みの経験に直接関連しない運動または自律神経のプロセスに依存している。
【0004】
妊娠34~42週の新生児における急性の有害受容性処置(ヒールランス、カニューレ挿入、筋肉内注射など)に対する反応として、有害誘発性脳活動の特徴がよく表れたパターンが記録されている。しかし、有害な刺激から生じるEEG活動を識別することが可能であることが実証されているものの、患者間で比較可能な方法で、より広い年齢層で経験される痛みの強度を定量化できるシステムおよび方法はまだ開発されていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、我々は、
EEGモニタリング・システムを使用して、被験者からEEGデータを取得することであって、前記データは第1の期間にわたって記録され、前記第1の期間にはイベントが含まれることと、
心拍数モニタリング・システムを使用して、被験者から心拍数データを取得することであって、前記心拍数データは第2の期間にわたって記録され、前記第2の期間には前記イベントも含まれることと、
前記イベント後の指定された遅延でイベントEEGデータに適合するようにEEGテンプレートをスケーリングして、EEGスケーリング係数を導出することと、
前記心拍数データを用いて前記イベントによる心拍数の変化を決定することと、および、
前記EEGスケーリング係数と前記心拍数の変化を組み合わせて、前記イベントに対する前記被験者の反応を示すスコアを生成することと、
を備える方法を提供する。
【0006】
ここで使用される「イベントEEGデータ」とは、被験者から取得され、イベントに反応したものと考えられるEEGデータを意味する。EEGデータは、イベント後の指定された遅延で発生する場合、前記イベントに応答したものとみなされ、そのイベントがEEGデータとして記録される電気信号を引き起こしたと言える。以下でさらに詳しく説明するように、指定された遅延は実験データから決定できる。
【0007】
前記スコアは、イベントに対する前記被験者の身体的反応(EEGおよび心拍数)の尺度を提供する。したがって、前記スコアは、前記イベントに対する前記被験者の反応を評価する臨床医にとって有用である可能性がある。たとえば、反応が痛みの反応である場合、臨床医は前記スコアを使用して、前記被験者が前記イベントに反応して痛みを感じているかどうか、感じている場合は痛みの程度を評価できる。したがって、前記スコアは、痛みの原因となっている可能性のある病状について前記被験者を診断する際に臨床医に役立つ痛みの尺度を提供する。
【0008】
前記方法は、年齢に応じたテンプレートのセットからEEGテンプレートを選択して、年齢に適したEEGテンプレートを取得することをさらに含み、前記選択は、前記被験者の年齢に基づいて行われる。前記被験者から取得されたEEGデータは、前記被験者の年齢に応じて変化し得る。したがって、イベントEEGデータをスケーリングするために使用されるテンプレートが、評価対象者と同じまたは類似の年齢の被験者から記録されたEEGデータから取得される場合、前記スコアの精度が向上し得る。つまり、評価対象となる前記被験者の年齢は、好ましくは、ある年齢範囲内に収まり、テンプレートはその年齢範囲内の被験者から取得されたデータから導出される。
【0009】
テンプレートの選択は、加重確率関数(weighted probability function)を使用して行うことができる。テンプレート選択で加重確率関数を使用すると、評価対象の年齢が境界年齢範囲内にある場合にスコアの精度が向上する可能性がある。
【0010】
前記方法は、さらに、前記EEGテンプレートと前記イベントEEGデータとの間の適合度を導出すること、および前記適合度を使用して前記EEGスケーリング係数に重み付けして、重み付けされたEEGスケーリング係数を生成することを備え得る。適合度を使用して前記EEGスケーリング係数に重み付けすると、偽のEEG信号によって高いスコアが得られる可能性が減り、前記スコアの精度が向上する。
【0011】
前記方法はさらに、
前記EEGモニタリング・システムを使用して、前記被験者からベースラインEEGデータを取得することであって、前記ベースラインEEGデータは、前記イベント前の複数のベースラインEEG期間にわたって記録されることと、
前記ベースラインEEGデータを使用して前記EEGスケーリング係数を調整し、調整されたEEGスケーリング係数を取得することと、
を備え得る。
前記EEGスケーリング係数の調整には、
前記ベースラインEEGデータに適合するように前記EEGテンプレートをスケーリングして、前記ベースラインEEG期間のそれぞれについてスケーリングされたベースラインEEGデータを生成することと、および、
前記スケーリングされたベースラインEEGデータを使用して前記EEGスケーリング係数を変調し、変調されたEEGスケーリング係数を取得することと、
を備え得る。
ベースラインデータを使用して前記EEGスケーリング係数を調整することで、異なる個人のスコアを比較できるようになる。
【0012】
前記方法はさらに、
複数のベースラインEEG期間のそれぞれについて、前記EEGテンプレートと前記スケーリングされたベースラインEEGデータとの間の適合度を導出することと、

前記複数のベースラインEEG期間のそれぞれについて、導出された適合度を使用して前記スケーリングされたベースラインEEGデータを重み付けし、重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータを生成することと、
重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの平均と標準偏差を計算することと、および、
以下の式(1)を使用してEEGスケーリング係数を標準化することであって、


ここで、εは前記イベントの前記EEGスケーリング係数、rは前記EEGテンプレートと前記イベントEEGデータ間の適合度、μは前記重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの平均、σは前記重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの標準偏差であることと、
をさらに備え得る。
ベースラインデータを使用して前記EEGスケーリング係数を標準化すると、被験者によって変わらないスコア(EEGデータに関して)が得られ、同様のイベントに対する異なる被験者の反応を直接比較できるようになる。
【0013】
前記方法は、
前記心拍数モニタリング・システムを使用して、前記被験者からベースライン心拍数データを取得することと、前記ベースライン心拍数データは、前記イベント前の複数のベースライン心拍数期間にわたって記録されることと、
前記ベースライン心拍数データを使用して、前記イベントによる前記心拍数の変化を調整することと、
をさらに備え得る。
前記方法は、
前記複数のベースライン心拍数期間のそれぞれについてイベント前の心拍数の変化を決定することと、および、
前記イベントによる心拍数の変化から前記イベント前の心拍数の変化の平均を減算し、その結果を前記イベント前の心拍数の変化の標準偏差で割ることによって、前記イベントによる心拍数の変化を標準化することと、
をさらに備え得る。
ベースラインデータを使用して前記心拍数の変化を標準化すると、被験者によって異なるスコア(心拍数に関して)が得られ、同様のイベントに対する異なる被験者の反応を直接比較できるようになる。
【0014】
前記標準化されたEEGスケーリング係数と前記標準化された心拍数の変化を組み合わせてスコアを生成するステップは、
前記標準化された心拍数の変化に基づく第1の閾値関数と、前記標準化された心拍数の変化に基づく第2の閾値関数とを定義することと、
前記標準化されたEEGスケーリング係数が第1の閾値関数と第2の閾値関数の間にある場合は前記スコアを変更しないことと、
前記標準化されたEEGスケーリング係数が前記第1の閾値関数より大きい場合は前記スコアを減少させることと、および、
前記標準化されたEEGスケーリング係数が前記第2の閾値関数より小さい場合は前記スコアを増加させることと、
を備え得る。
【0015】
上述したタイプの閾値関数は、外れ値の結果が前記スコアに与える影響を軽減でき、たとえば、非常に高いまたは低い心拍数の変化は、そうでない場合よりも前記スコアに与える影響が少なくなる。
【0016】
前記方法は、前記スコアを離散化することをさらに備え得る。
【0017】
前記イベントは触覚刺激および/または有害刺激であり得る。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、我々は、イベントに反応して被験者が経験する痛みを定量化するシステムを提供し、このシステムは、
前記被験者からEEGデータを取得するように動作可能なEEGモニタリング・システムと、
前記被験者から心拍数データを取得可能な心拍数モニタリング・システムと、および、
以下の動作が可能なプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
前記EEGモニタリング・システムを使用して、被験者からEEGデータを取得することであって、前記データは第1の期間にわたって記録され、前記第1の期間にはイベントが含まれることと、
前記心拍数モニタリング・システムを使用して、前記被験者から心拍数データを取得することであって、前記心拍数データは第2の期間にわたって記録され、前記第2の期間には前記イベントも含まれることと、
前記イベント後の指定された遅延でイベントEEGデータに適合するようにEEGテンプレートをスケーリングし、EEGスケーリング係数を導出することと、
前記心拍数データを使用して前記イベントによる心拍数の変化を決定することと、および、
前記EEGスケーリング係数と前記心拍数の変化を組み合わせて、前記イベントに対する前記被験者の反応を示すスコアを生成することと、
をすることが可能である、
【0019】
前記プロセッサは、前記EEGモニタリング・システムおよび前記心拍数モニタリング・システムによって取得されたデータを使用して、本発明の第1の態様の方法を実行するように構成されてもよい。
【0020】
本発明の第3の態様によれば、我々は、EEGモニタリング・システムおよび心拍数モニタリング・システムと信号通信するプロセッサ上で実行されると、動作可能なコンピュータプログラム製品を提供し、
前記コンピュータプログラム製品は、前記プロセッサに、
前記EEGモニタリング・システムを使用して、被験者からEEGデータを取得することであって、前記データは第1の期間にわたって記録され、前記第1の期間にはイベントが含まれることと、
前記心拍数モニタリング・システムを使用して、前記被験者から心拍数データを取得することであって、前記心拍数データは第2の期間にわたって記録され、前記第2の期間には前記イベントも含まれることと、
前記イベント後の指定された遅延でイベントEEGデータに適合するようにEEGテンプレートをスケーリングし、EEGスケーリング係数を導出することと、
前記心拍数データを使用して前記イベントによる心拍数の変化を決定することと、および、
前記EEGスケーリング係数と前記心拍数の変化を組み合わせて、前記イベントに対する被験者の反応を示すスコアを生成することと、
を実行させる。
【0021】
前記コンピュータプログラム製品は、本発明の第2の態様のプロセッサ上で実行可能であり、および/または本発明の第1の態様の方法を実行するように動作可能である。
【0022】
本発明の第2および第3の態様の特徴は、必要に応じて、本発明の第1の態様の特徴と別々にまたは組み合わせて組み合わせ得ることが理解されるであろう。本発明のあらゆる側面の特徴は、他の特徴と組み合わせて、または単独で、以下の説明に記載された特徴と組み合わせ得る。
【0023】
以下、本発明を、添付の図面を参照して、例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、被験者のイベントに対する反応を測定するシステムの概略図を示す。
図2図2は、イベントに対する被験者の反応を測定する方法を示し、破線で示された項目はオプションである。
図2A図2Aはテンプレートの例を示す。
図2B図2Bはテンプレートの例を示す。
図3図3は、スコアを調整するための1つのアプローチを示す。
図4図4は、スコアの異なる閾値で「痛み」と「痛みなし」を区別する感度と特異度を示す。
図5図5は、テンプレート選択の1つのオプションを示す。
図6図6は、テンプレート選択の代替オプションを示す。
図7図7は、図2の方法の実装例に含まれる数学的手順の概要を示す。
図8図8は、早産テンプレートの開発とテストを示す。
図9図9は、有害刺激と非有害刺激の識別に関する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。
図10図10は、一般的な急性臨床処置と非有害性コントロールに対する平均EEGテンプレート係数(左)と中央値スコア(右)を示す。
図11図11は、麻酔なし(コントロール)および刺激前に局所麻酔薬を塗布した場合(局所麻酔薬)の新生児グループ(参加者n=10名)に実験的な有害刺激を塗布した後のスコアを示す。
図12図12は、局所麻酔薬の投与前と投与後に行われた実験的有害刺激に対する新生児の反応スコアを示す。
図13図13は、パラセタモールを投与された新生児グループでは、予防接種前にパラセタモールを投与されなかった乳児グループと比較して、予防接種後のスコアが有意に低いことを示す。
図14図14は、生後数日間に感染した新生児(感染グループ)が、健康な新生児(非感染グループ)と比較して有意に高いスコアを示していることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず図1を参照すると、システム10が示されている。このシステムには、脳波(EEG:electroencephalography)モニタリング・システム12と心拍数モニタリング・システム14が含まれている。EEGモニタリング・システム12は、被験者16、この場合は乳児からEEGデータを取得するように動作可能である。同様に、心拍数モニタリング・システム14は、被験者16から心拍数データを取得するように動作可能である。
【0026】
EEGモニタリング・システムは、被験者の脳からEEGデータ信号を取得できる任意のシステムである。通常、このようなシステムには、少なくとも1つの記録電極(基準電極と接地電極に加えて)が含まれており、これを着用者の頭皮に配置すると、既知の方法(刺激に反応して記録される電気活動は誘発電位として知られている)で着用者の脳活動による電気活動を検出できる。図1に示す例では、EEGモニタリング・システム12には少なくともCz電極18が含まれており、これは被験者の頭皮に取り付けられて示されている。
【0027】
同様に、心拍数モニタリング・システム14は、被験者から心拍数データ信号を取得できる任意のシステムであり得る。図1に示す例では、心拍数モニタリング・システム14は心電図(ECG:electrocardiography)システムである。このシステムには、被験者の皮膚上に置かれると心臓によって生成される電気信号を検出するように動作可能な少なくとも1つの記録電極20が含まれる。心拍数は、既知の方法でそのような信号から計算できる。
【0028】
システム10にはプロセッサ22も含まれている。プロセッサは、EEGモニタリング・システム12からEEGデータ信号24を受信し、心拍数モニタリング・システム14から心拍数データ信号26を受信するように動作可能である。プロセッサは、EEGモニタリング・システムおよび心拍数モニタリング・システムの近くに配置できる(たとえば、同じ部屋または建物内)。ただし、これは必須ではなく、プロセッサはEEGモニタリング・システムや心拍数モニタリング・システム(クラウドベースのサーバーなど)から離れた場所にある場合もある。受信された信号はプロセッサ12によって使用され、ここでは急性疼痛指数(API:Acute Pain Index)と呼ばれるスコアを生成する。
【0029】
APIスコアは、図1に矢印28で模式的に示されているように、被験者16のイベントに対する反応を示す。このイベントは、ヒールランスやその他の医療処置など、痛みを伴う(有害な)イベントである可能性がある。あるいは、そのイベントは触覚的なイベントである可能性があり、それは軽度の有害性または非有害性である可能性がある。どちらの場合でも、APIスコアはイベントの対象者の痛みの反応を定量化する。これにより、被験者が出来事に対して経験した痛みの尺度が示される。
【0030】
詳細は後述するが、APIスコアは以下の用途で使用するために検証される。
(i)未熟児(妊娠29~36週)、
(ii)正期産の新生児(妊娠37~42週)、および、
(iii)生後6ヶ月までの乳児。
このAPIはEEGと心拍信号を組み合わせて、触覚刺激や軽度の有害刺激、あるいは急性の痛みを伴う処置(予防接種、カニューレ挿入、ヒールランスなど)に対して、赤ちゃんが安静時に経験している痛みのレベルを推測する。
【0031】
APIは、安静時に皮膚表面に加えられた触覚刺激(非有害性または軽度有害性)に反応して誘発されるEEGおよびECG信号を分析する機械学習アプローチを用いて算出される。触覚刺激(軽度の有害刺激)が加えられると、APIは乳児の継続的な痛み感受性を推測するためにも使用できる。
【0032】
図2を参照すると、イベントに反応して被験者が経験する痛みを定量化する方法が、一般的に30で示されている。前記方法は、図1に示すタイプのシステムで実施し得る。
【0033】
項目32は、EEGモニタリング・システム12のようなEEGモニタリング・システムを使用して、被験者16からEEGデータを取得することを含む。EEGデータは第1の期間にわたって記録され、この第1の期間には、刺激(例えば、有害刺激または軽度の有害触覚刺激)のような上述したタイプのイベントが含まれる。
【0034】
同様に、項目34は、ECGシステム14などの心拍数モニタリング・システムを使用して、被験者から心拍数データを取得することを含む。心拍数データは第2の期間にわたって記録され、第2の期間にはイベントも含まれる。
【0035】
前記第1の期間と前記第2の期間は必然的に重なり(両者とも同じイベント28を含むため)、同じ期間であってもよいが、その必要はない。EEGおよび心拍数データは電気信号として取得され、有線または無線接続を介してプロセッサに送信される。
【0036】
EEGデータ取得後、項目36は、EEGスケーリング係数を導出するために、前記イベント後の指定された遅延におけるイベントEEGデータに適合するようにEEGテンプレートをスケーリングすることを含む。テンプレートは、オプション項目35で示されるように、複数の可能なテンプレートからなるセットから選択できる。
【0037】
同様に、心拍数データの取得に続いて、項目38には、心拍数データを使用して前記イベントによる心拍数の変化を決定することが含まれる。
【0038】
次に、前記EEGスケーリング係数と前記心拍数の変化が項目40で結合され、前記イベントに対する前記被験者の反応を示すスコア(またはAPI)が生成される。このような組み合わせの前に、前記EEGスケーリング係数と前記心拍数変化を正規化して、任意項目37と39で示すように、個人間で前記スコアを標準化できるようにしてもよい。得られたスコアは0~10の間でスケーリングされ、以下のカテゴリーに従って痛みを分類する痛みスコアを算出できる:痛みなし(0)、軽度の痛み(1~3)、中程度の痛み(4~8)、重度の痛み(9~10)。
【0039】
最初にEEGデータ処理法、次に心拍数データ処理法、最後にAPIスコアを生成するための処理されたEEGデータと処理された心拍数データの組み合わせについて説明する。
【0040】
乳児の入力データは、EEG記録(例えばCz電極のような単一電極から採取されたもの)と、有害刺激のような刺激印加中に作成されたECG記録の両方を含む多次元配列としてプロセッサ22で受信される。前記記録は複数のイベント、例えば同じ刺激(例えば、軽度の有害刺激などの場合)または異なる刺激(例えば、コントロール刺激の後に臨床的に必要な有害刺激を与えるなど)である刺激の複数の適用を含み得る。前記EEGとECGの両方が、刺激のすべての適用に対して複数のタイムスタンプを含み、各適用は記録イベントとして知られている。したがって、受信したデータからイベント時刻(つまり、刺激イベントが発生した時刻)を決定することが可能である。
【0041】
先行研究では、被験者のEEG記録は、通常、生後間もない乳児の場合、有害イベント発生後400msから700msの間に痛み反応として特徴づけられる波形を示すことを示した。したがって、前記EEG記録は、そのような痛み反応を含むのに十分な長さの最初の時間にわたって行われる。同様に、前記ECG記録は、イベントに対する心拍応答を含むのに十分な長さの第2の期間にわたって行われる。詳しくは後述するが、背景(つまりイベント前)のデータを記録することも有用であることがわかっている。このため、第1および第2の期間には、イベント前のデータだけでなく、イベント後のデータも含み得る。EEGとECGの場合、前記記録は、イベント前のベースライン期間とイベント後の期間(例えば、イベントの前後1分間)を含む各イベントの周辺に分割される(epoched)。
【0042】
API計算の前に、ノイズを除去するために信号を前処理できる。一例の方法では、EEGは0.5~30Hzの範囲で、ECGは12~40Hzの範囲でバンドパス・フィルタをかける。両方の信号は、主電源ノイズを除去するために50Hzと60Hzでノッチ・フィルタ処理され(それぞれ英国と米国)、API計算を標準化するために2000Hzに再サンプリングされる。さらに、EEGはイベント直前のベースラインの平均を差し引くことによってベースライン補正される。これは、臨床モニターから分析される信号を事前にフィルタリングするための標準的な方法である。
【0043】
[EEG信号処理]
1.テンプレート投影
APIを計算するこの初期段階では、刺激印加後の指定された遅延で、EEGデータにあらかじめ決められたテンプレートを当てはめたり投影したりする。「テンプレート」は、痛みの反応に特徴的なEEG信号の形をとることがある。詳細は後述するが、テンプレートは、痛みを経験していることが分かっている個人から収集したデータから導き出すことができる。テンプレートは、痛覚反応に特徴的な形状と長さの両方を持つことがある。
【0044】
図2Aは、正期産児(37-42週齢)から得られたテンプレートの例である。図2Bは、早産児(29~34週齢)から得られたテンプレートの例である。各テンプレートは、開始時刻と終了時刻で構成され、これらによって時間ウィンドウが定義される。正期産テンプレートでは、開始時刻は刺激から約400ms、終了時刻は刺激から約700msであり、長さ約300msの時間ウィンドウを定義している。早産テンプレートでは、開始時刻は刺激から約300ms、終了時刻は刺激から約650msであり、長さ約350msの時間ウィンドウを定義している。時間ウィンドウの中では、テンプレートはそれぞれ痛み反応の特徴であることが判明している形状をしている。異なる年齢の被験者には、他の形状や時間ウィンドウが適切であることが理解されよう。そのようなテンプレートは、以下に詳述するように、実験データから導き出すことができる。
【0045】
したがって、テンプレートの適合は、記録されたデータがテンプレート・データにどの程度近いかを判定するために、記録されたEEG信号にテンプレートをデジタル的に重ね合わせ、スケーリングすることからなる。記録されたデータがテンプレートに似ているほど、被験者が痛みを経験している可能性が高い。
【0046】
前記遅延は、前記被験者が前記イベントに対する反応を経験している可能性が高い期間のEEG信号に前記テンプレートが適合するように、正期産の乳児の場合は約400~700ミリ秒、早産の乳児の場合は約300~650ミリ秒であり得る。前記遅延は、乳児の年齢や使用するテンプレートによって異なる。
【0047】
記録されたEEGデータにテンプレートがどのように当てはめられるかを示す例を図8に示す。
【0048】
前処理されたEEGデータにテンプレートを適合させる前に、EEG信号のウッディ・フィルタリング(Woody Filtering)が行われ、EEGとテンプレートとの時間的整合がよりよくなる。ウッディ・フィルタリングは、最大100msのシフト(「ジッター」)までの信号間の相互相関を最大化する。
【0049】
EEGデータに適合するようにテンプレートをスケーリングするための1つのオプションとして、テンプレートの特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)を実行し、得られた分解行列を使用して、ウッディ・フィルタされたEEGに最も適合するようにテンプレートを再スケーリングできる。
【0050】
あるいは、テンプレートをスケールするためにSVDを実行する代わりに、「最小二乗法」を直接適用して、反転ベクトルxを作成することも可能である。
【0051】
一般的なテンプレートをvとすると、
であり、各ithに対応するスケーリング係数εは、反転ベクトルに対応するウッディ・フィルタされたEEGデータbを乗算することによって決定される。
このアプローチは、SVD法よりも計算効率が高い。
【0052】
2.適合度
テンプレート・スケーリング係数εは、イベントに対する被験者のEEG反応の大きさを表す。しかし、時折、偽信号がテンプレートによって誤って痛み誘発活動と判定されることがあることがわかった。したがって、テンプレートとEEGデータとの適合度を計算し、重み付けされたEEGスケーリング係数を導き出すことが有用であることがわかった。
【0053】
例えば、適合度は、テンプレートとウッディ・フィルタリングされたEEGとの間のピアソンの相関係数rを用いて決定できる。適合度の相関メトリックは、テンプレートの適合度が低い場合にAPI出力を調整するために使用できる。
【0054】
テンプレート投影段階の出力を用いて、適合度重み付けされたEEGスケーリング係数が導出される。ピアソン係数を用いた、このような重み付けされスケーリング係数の例は以下の通りである。
【0055】
3.患者内変動の補正
上述したEEGスケーリング係数は患者固有のものである。したがって、患者間で比較可能な標準化されたEEGスケーリング係数を作成することは有益である。このような標準化されたEEGスケーリング係数(APIEEGとも呼ばれる)を作成するために、背景EEG活動がテンプレートの振幅を修正するために使用され、これによりEEGスケーリング係数が標準化され、参加者間で比較できるようになり、背景EEG活動の患者内変動が補正される。
【0056】
このような補正は、まずEEGモニタリング・システムを使用して、被験者からベースラインEEGデータを取得することによって行うことができ、前記ベースラインEEGデータは、イベント前の複数のベースラインEEG期間にわたって記録される。EEGスケーリング係数は、ベースラインEEGデータを用いて変調され、変調されたEEGスケーリング係数を得ることができる。
【0057】
特に、EEGテンプレートは、ベースラインEEG時間帯の各々についてスケーリングされたベースラインEEGデータを生成するために、上述したのと同じ方法でベースラインEEGデータに適合するようにスケーリングできる。適合度もまた、ベースラインのスケーリング係数のそれぞれについて決定され、上述したように、それらのスケーリング係数を重み付けするために使用され得る。上記のテンプレート投影および適合度重み付けステップは、背景EEGの複数のウィンドウにわたって繰り返すことができる。
【0058】
これらのベースライン値の平均(μ)と標準偏差(σ)は、標準化メトリックとして計算される。
【0059】
4.標準化EEGスケーリング係数
最後に、あるイベントiに対する標準化EEGスケーリング係数APIEEG,iは、以下の式で求めることができる。
ここで、εはイベントのEEGスケーリング係数、rはEEGテンプレートとイベントEEGデータの適合度、μは重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの平均値、σは重み付けされスケーリングされたベースラインEEGデータの標準偏差である。
【0060】
この測定法は、背景EEGに対する乳児特有の違いや、テンプレート適合度の低さに対して不変である。
【0061】
[心拍信号処理]
1.心拍数の変化
EEGの計算と連動して、心拍数が導き出される。この例では、心拍数は事前にフィルタリングされたECG信号から導出される。ECG信号から心拍数を導き出すアプローチは標準的な方法で、以下のステップを踏む。
【0062】
(1)Rピーク検出アルゴリズムを用いてECGのRピーク検出を行う。この例では、(オープンソースの)Engzeeピーク検出アプローチを使用した。
(2)RR間隔信号(連続するR-Rピーク間の差)を生成する。
(3)3sウィンドウ(1sシフト)内のRR間隔信号を平均し、逆数をとることで心拍数信号を導き出す。
【0063】
心拍信号から、i番目のイベントによるHRの変化を表す指標ΔHRが、刺激前の5秒間の平均心拍数値から刺激後の10秒間の最大心拍数値を引くことによって決定される。
これは、


と表記される。ここで、イベント時刻はt=0sであると仮定する。
【0064】
2.患者内変動の補正
上述のEEGスケーリング係数と同様に、イベントによる心拍数の変化は、患者内の変動を補正するために、背景の心拍数情報で変調されることがある。
【0065】
一例では、このような補正は、最初のイベント前の背景ECGの分単位で、上記の心拍数変化判定ステップ(1)~(3)を1sシフトで繰り返すことにより達成され得る。ΔHRをこの分布に正規化することで、ΔHR測定値を標準化し、患者内のばらつきを減らす。


ここでTは最初のイベントの時間である。
【0066】
例えば、背景期間では、各背景値は背景タイムスタンプ(5秒前のタイムスタンプから10秒後のタイムスタンプ)を中心に計算され、この背景タイムスタンプtは、刺激イベント前の1分間にわたって1秒間隔でシフトされる。この例のように、計算が背景タイムスタンプの5秒前を考慮する場合、刺激前の1分間で開始できる最も早い時間はT-55秒であり、(刺激を超えることなく)到達できる最も遅い時間はt-10秒である。
【0067】
上記の式は、別の書き方もできる。



ここで、ΔHRはイベントの心拍数変化、μHRはベースライン心拍数変化データの平均値、σHRはベースライン心拍数変化データの標準偏差である。
【0068】
[APIスコアの計算]
イベントiの最終API値APIを計算するために、EEGのスケーリング係数(特に上記の例では、標準化EEGスケーリング係数APIEEG,i)と心拍数の変化(特に上記の例では、標準化心拍数変化APIHR,i)を比較し、心拍数の変化を用いてEEGスケーリング係数を調整し、極端な異常値の場合を考慮する。
【0069】
上記の変調を実現する1つの方法は、セグメント変調アプローチである。この変調を実行するために、APIEEG対APIHRのプロットを3つのセグメントに分割し、各APIEEG,i値をそれらのセグメント内の位置に基づいて変調する。
【0070】
変調はまた、APIが特定の乳児のために計算されるイベントの総数に依存する。
【0071】
完全なセグメント変調手順は、以下の式で定義される(注:以下の一般的な表記1|(f(a,b))は、演算f(a,b)がTrueの場合は1、そうでない場合は0を表す)。


ここで、
=APIHR,i(イベントiについて)
=APIEEG,i(イベントiについて)
g(x)=第1の閾値関数
h(x)=第2の閾値関数
N=幼児のイベントの総数
である。
【0072】
第1および第2の閾値関数は、テンプレート固有のものとできる。本明細書で説明する具体例では、2つのテンプレートが使用される。すなわち、正期産児(37~42週齢)から記録されたデータに由来する正期産テンプレートと、早産児(29~34週齢)から記録されたデータに由来する早産児テンプレートである。この例では、
g(x)=1.25x+1.5(正期産テンプレートの場合)または
g(x)=1.25x+5(早産テンプレートの場合)、
h(x)=0.5x-2(正期産テンプレートの場合)または
h(x)=0.5x-4(早産テンプレートの場合)
となる。他のテンプレートを使用する場合など、他の閾値関数を使用することもできる。
【0073】
閾値関数の使用による正味の効果は、yiが2つの心拍数依存関数h(x)とg(x)の間にある場合、APIi(xi,yi)スコア(すなわちイベントiのAPIスコア)はAPIEEG,iスコア(すなわちyi)と等しいと設定されることである。そうでなければ、APIi(xi,yi)=yiは、yiがg(x)より上かh(x)より下かに応じて、関数h(x)、g(x)のいずれかに依存する量だけ増減する。
【0074】
図3は、セグメントと、用語テンプレートに対する位置づけによって特定のポイントがどのように変化するかを示す図解である。
このセグメント変調では、APIEEG,iのスコアは次のようになる。
a)トップセグメントにある場合は、この乳児のAPIEEG,iの値のうちトップセグメントにある値の数の逆数に等しい割合で変調される。この場合、APIEEG,iの値のうち2つが一番上のセグメントにあるため、スコアはセグメントエッジまでの距離g(x)の0.5だけ低く修正される。
b)この乳児のAPIEEG,iの値のうち最下部にある値の割合によって、最下部にある場合は上方に変調される。この場合、4つのAPIEEG,iのうち1つのAPIEEG,iの値が一番下のセグメントにあるので、変調はセグメントエッジまでの距離h(x)の0.25となる。
c)ミドルセグメントなら変更なし。
【0075】
APIのこれらの(離散化されていない)値は、次に以下の範囲に基づいて11のビンのいずれかにデータをグループ化することにより、APIスケール(範囲0~10)に離散化される。
【0076】
【表1】
【0077】
こうしてAPIは、触覚や有害イベントなどのイベントに対する被験者の反応の強さの尺度を提供する。被験者を治療する臨床医は、被験者の反応がどの程度強いか(例えば、被験者がどの程度の痛みを経験しているか)を客観的に判断するためにAPIスコアを使用できる。例として、APIスケールを用いると、臨床医は痛みを以下のカテゴリーに大別できる。
痛みなし(0)、
軽い痛み(1~3)、
中程度の痛み(4~8)、
強い痛み(9~10)
【0078】
したがって、臨床医は、特定の被験者について決定されたAPIスコアを、その出来事に反応して被験者が感じた痛みの測定値として使用できる。これは、臨床医が被験者の痛みの原因について診断を下す際に役立つかもしれない。例えば、健常者であれば痛みを生じないと予想される純粋な触覚や軽度の有害イベントに対して、被験者が強い反応(例えば4以上)を示した場合、これは被験者の痛覚過敏性を高める基礎疾患があることを臨床医に示す可能性がある。
【0079】
疼痛と無痛の間の閾値は、有害性ヒールランスと非有害性コントロール・ヒールランスの後にAPIを比較することにより、疼痛と無痛を識別するための最適な感度と特異度を提供するAPIの値として定量化された。
【0080】
図4は、65人の正期産児におけるコントロール・ヒールランスと、ヒールランス反応とを識別する能力から計算された、APIスコアのさまざまな閾値で「痛み」と「痛みなし」を識別する感度46と特異度48を示している。
【0081】
[テンプレート選択]
脳の活動は被験者の年齢によって異なる。特に未熟児の場合は、脳の発達がまだ進行中であるため、なおさらである。痛みが誘発するEEG活動を示す単一のテンプレートを用意するよりも、複数のテンプレートを用意する方が有益であることがわかった。上述の方法で使用されるEEGテンプレートは、被験者の年齢に基づいて年齢依存テンプレートのセットから選択できる。
【0082】
この文書では、有害誘発性脳活動の2つの異なるテンプレートを適用する。1つ目は、月経後29-34週の乳児から得られたテンプレート(「早産テンプレート」)、2つ目は、月経後37-42週の乳児から得られたテンプレート(「正期産テンプレート」)であり、これによって発達に敏感な年齢調整済みAPIを作成できる。例として、早産テンプレートの導出を以下に詳述する。
【0083】
必要であれば、2つ以上のテンプレートを使用できることは理解されよう。実際、テンプレートはいくつでも使うことができ、それぞれのテンプレートは、ここで詳述したのと同じ方法論で、異なる年齢層に対応する。
【0084】
APIEEG計算に使用するテンプレートは、被験者の年齢に基づいて厳密に選択できる。すなわち、月経後月齢が29-34週の乳児は早産テンプレートを用いてAPIスコアを算出し、月経後月齢が34-42週(またはそれ以上)の乳児は34週からの乳児で有効性が確認されている正期産テンプレートを用いてAPIスコアを算出できる。
【0085】
あるいは、脳の成熟速度が異なる乳幼児を考慮できるという点で、テンプレート選択に重み付けをするアプローチがより良い結果をもたらすことがわかった。
【0086】
以下に2つの異なる重み付けテンプレート選択アプローチを説明する。1つ目は、データ主導のアプローチである。
【0087】
上述したように、乳幼児の年齢に応じて、APIの計算に使用できる2つの異なるテンプレートを導き出した。しかし、赤ちゃんの年齢推定には本質的な誤差があるため、使用するテンプレートを選択するために単一の年齢カットオフを使用することは不正確である。さらに、赤ちゃんが「成熟不全」(つまり、その年齢にしては脳の発達が遅れている)と判断された場合にも、いくつかの矛盾が生じることになる。
【0088】
その結果、最終的に使用するテンプレートを選択するために、以下の「ファジーデータ駆動型重み付け投票」アプローチを導入する。この投票方法は、同じテンプレートがすべてのイベントで選択されるように、特定の幼児のすべてのイベントを使用して実行されることに注意すべきである。
【0089】
赤ちゃんの月齢が最初の月齢範囲内(この場合は妊娠32週未満)にある場合、得られた早産テンプレートが(上記の「テンプレート投影」で説明したプロセスを用いて)取得したEEGデータに投影される。同様に、赤ちゃんの月齢が第2の月齢範囲(この場合は妊娠35週以上)に入る場合、対応する月齢のテンプレートが取得されたEEGデータに投影される。標準化されたEEGスケーリング係数APIEEG,iが前述のように計算され、APIHRで変調されて最終的なAPIスコアが生成される。
【0090】
ただし、赤ちゃんの年齢が境界年齢範囲(この場合は妊娠32~35週)にある場合は、テンプレート投影を2回、各テンプレートに1回ずつ適用し、その結果、
APIEEG,i とAPIEEG,i
という2つの値が得られる。ここで、lとhはそれぞれ低年齢(早産)テンプレートと高年齢(正期産)テンプレートを表す。
【0091】
どのテンプレート由来の指標セットを使用するかを選択するために(妊娠32~35週の赤ちゃんの場合)、データ駆動型の重み付けアプローチを適用し、APIEEG,i とAPIEEG,i に、年齢全体のデータ駆動型のスケーリング関数から決定された重み付けを乗じる(図6を参照)。この重み付けは、乳児の特定の年齢に対するそのテンプレートの適切性に関する事前の不確実性の尺度を提供する。乳児の年齢をa^(サーカムフレックスアクセント付きa)、データ駆動型スケーリング関数をそれぞれS(a)とS(a)と表すと、選択されたAPIEEG,iは次のように選択される。

ここで、


N=乳児のイベントの総数
a^(サーカムフレックスアクセント付きa)=乳児の年齢
である。
【0092】
妊娠32週と35週の投票機能と年齢境界は、13人の乳児のトレーニングセットで決定され、17人の乳児の独立したサンプルでテストされた。データ駆動型のスケーリング関数は、臨床的に必要なヒールランスに対する反応を記録した妊娠28~42週の乳児96人のデータを使用して決定された。機械学習アプローチを使用し、ガウス過程(GP)を当てはめて、年齢にわたる早産および正期産テンプレート応答の発達をモデル化した。我々は、非パラメトリックなアプローチであるGPを利用した。そのため、スケーリング関数がとるべき形式について事前に仮定する必要はなかった。
【0093】
次に、GPからの適合値は、年齢範囲全体の最大値と最小値に応じてスケーリングされ、月経後年齢に応じて各テンプレートの重み付けが特定され、2つのテンプレート間の遷移が特定された。
【0094】
選択されたAPIEEG,iは、残りのAPI計算に引き継がれる。
【0095】
上記で使用したデータ駆動型の重み付けアプローチの代替として、上記で説明したS(a)やS(a)などのデータ駆動型のスケーリング関数の代わりにシグモイド関数を使用することもできる。例示的なシグモイド重み付け関数を図5に示す。
【0096】
任意のテンプレートは特定の年齢層向けに派生される可能性があり、したがって上記の年齢範囲はテンプレートに依存することが理解されるであろう。したがって、最初の年齢範囲と2番目の年齢範囲、および境界年齢範囲は、使用されるテンプレートに応じて変更される可能性がある。さらに、2つ以上のテンプレートが使用される場合、年齢範囲が2つ以上、境界年齢範囲が1つ以上存在する可能性がある。したがって、テンプレートの選択には複数の投票関数が使用される可能性がある。
【0097】
[APIの概要]
API計算アルゴリズムの完全な概要を図7に示す。すべての数式は、必要に応じて、両方のテンプレートの使用(テンプレート選択前)を考慮して提示される。
【0098】
アルゴリズムの出力はスコアAPIであり、これはイベントに対する乳児の反応として感じる痛みの不変の尺度を提供する。このようなスコアにより、臨床医は被験者が痛みを感じているかどうか、被験者がどの程度の痛みを感じているのかを評価でき、個人間で意味のある比較を行うことができる。したがって、APIスコアは、乳児の痛みの根本的な原因を特定したい臨床医にとって有用なツールとなる。
【0099】
[月経後29~34週(PMA)の有害刺激誘発脳活動のテンプレートの導出]
研究時点でPMA29~34週の乳児において、有害刺激(臨床上必要なヒールランス)、非有害刺激(コントロール・ヒールランス)、および背景EEGに対するEEG活動を比較した。乳児は、テンプレートを作成するために使用されるデータセット(乳児13人)と検証に使用されるテストセット(乳児17人)に分割された(以下を参照)。
【0100】
1.PCAを使用した早産テンプレートの導出
Cz電極での有害刺激誘発テンプレートの特性を明らかにするために、まず50Hzのノッチ・フィルタを使用して0.5~8Hzのデータをフィルタ処理し、刺激の1秒前に2.5秒のエポックで記録を抽出し、刺激前の平均にベースライン補正した。次に、刺激/背景注釈の後の300~650ミリ秒の時間ウィンドウ(データの視覚検査から選択された時間ウィンドウ)で、最大50ミリ秒のジッターでデータをウッディ・フィルタリングし、個々のトレースとデータ平均の間の相関関係を最大限に高めた。次に、刺激/背景の注釈に続く300~650ミリ秒の時間ウィンドウにおける有害刺激、非有害刺激、および背景活動に対する応答に対して主成分分析(PCA)を実行した。最初の2つのPCはデータ内の分散の89%を占め、考慮された唯一のPCであった。PCの重みは、反復測定ANOVA(分散分析)を使用して刺激間で比較された。ペアの事後比較は、Holm法を使用して多重比較に対して修正された。有害刺激に対する反応において、非有害刺激および背景データと比較して有意に高い重みを持つ成分が、有害刺激誘発脳活動のテンプレートとして選択された。
【0101】
2.早産テンプレートの検証
新しいテンプレートを検証するために、私たちは、テンプレートによって特徴付けられる脳活動が、自立した乳児の有害刺激に特有のものであるかどうかを判断することを目的とした。臨床上必要なヒールランスとコントロール・ヒールランスを受けた妊娠29~34週の乳児17名において、刺激後300~650msの時間ウィンドウのデータにテンプレートを投影することにより、Cz電極でのテンプレート応答の大きさを計算した。データは最初に最大ジッター100ミリ秒でWoodyフィルタリングされ、個々のトレースとテンプレート間の相関が最大化された。大きさは対応のあるt検定を使用して比較された。
【0102】
12人の乳児のサブセットには、視覚刺激(光の閃光)、触覚刺激(かかとに当てる腱ハンマー)、聴覚刺激(音)も与えられた。これらの試行からのデータも同様に、最大ジッター100ミリ秒でウッディ・フィルタリングされ、Cz電極での刺激後300~650ミリ秒の時間ウィンドウのデータにテンプレートが投影された。刺激の種類を固定効果、被験者のインデックスをランダム効果として、線形混合効果モデルを使用して大きさを比較した。
【0103】
図8は、早産テンプレートの開発とテストを示している。図8Aでは、刺激後300~650ミリ秒でCz電極(灰色のボックス)で主成分分析を実行し、背景脳活動を有害刺激および非有害刺激によって引き起こされる活動と比較することでテンプレートを導出した。ウッディ・フィルタリングされたEEG50がテンプレート52(黒)に重ねて表示される。テンプレート活動の規模は、非有害刺激や背景活動と比較して、有害刺激後に有意に高かったため、有害刺激によって引き起こされたと考えられた。図8Bでは、平均EEGとウッディ・フィルタリングされたEEGが、独立したテストセットにおける背景EEGと、聴覚、視覚、触覚、非有害性コントロール、有害性(ヒールランス)刺激に対する反応として示されている。ここでも、WoodyフィルタリングされたEEG50がテンプレート52(黒)に重ねて表示されます。テンプレート活動の程度は、他の刺激と比較して、有害刺激後に有意に高かった(**p<0.01、エラーバーは平均±SEMを示す)。
【0104】
[結果:APIの有効性と潜在的な臨床応用の証拠]
(注:以下の結果では、わかりやすくするためにメソッド表記APIiを単にAPIに置き換え、イベント間の区別が暗示されるようになった)
【0105】
1.有害刺激によって引き起こされる脳活動は、妊娠29~34週の乳児で特徴付けられた。
妊娠29~34週の乳児における有害刺激と非有害刺激によって引き起こされる脳活動のパターンを13人の乳児で対比することにより、有害刺激によって引き起こされる脳活動の新しいテンプレートが特定された。最初の主成分(データ内の分散の55%を占める)の重みは、非有害刺激と比較して有害刺激に対する反応および背景脳活動において有意に高く(p<0.005、図8A)、この成分はその後の分析でこの年齢範囲の有害刺激誘発脳活動のテンプレートとして定義された。分散の34%を占める第2主成分の重みには、モダリティ間で有意差はなかった(p=0.46)。
【0106】
次に、このテンプレートの妥当性を17人の乳児の独立したサンプルでテストした。有害刺激によって引き起こされた活動にテンプレートを投影すると、非有害性コントロール・ヒールランス後に観察された反応(p=0.00015、図8B)および背景活動(p=0.0004、図8B)よりも有意に高い反応が示された。12人の乳児のサブセットには、視覚、聴覚、触覚の刺激も与えられた。これらの刺激は、テンプレートによって特徴付けられる、背景活動よりも有意に高い活動を引き起こさなかった(p> 0.05、図8B)。
【0107】
妊娠29~34週の早産児に使用するための有害刺激誘発脳活動の新しいテンプレートを検証した後、完全なAPIメソッド(テンプレートの投影、適合度によるスケーリング、背景活動による正規化、APIHRによる調整)に新しいテンプレートを含めることがこの年齢範囲で有効であることを確認した。30人の乳児の全サンプルでは、ヒールランス後のAPIの中央値は6(四分位範囲=7)であった。コントロール・ヒールランス後のAPI中央値は0(2)であり、痛みがないことを示している。
【0108】
[APIのパフォーマンス]
上述したAPIスコアは、心拍数の変化によって調整されず、背景データを使用して標準化されず、適合度を使用して重み付けされないEEGテンプレート・スケーリング係数の使用と比較して、パフォーマンスが向上している。
【0109】
API(非離散化)スコアの感度と特異度は、満期新生児のサンプルにおける有害性処置(ヒールランス)と非有害性コントロールの反応を比較することによって計算された。ロジスティック回帰法による分類を使用して受信者動作特性(ROC:Receiver operating characteristic)曲線を作成し、痛みを伴う刺激と痛みを伴わない刺激の識別性能の尺度として曲線下面積(AUC:area under the curve)を計算した。これは、有害刺激と非有害刺激の識別に関するROC曲線を示す図9に示されている。ROCは、EEGテンプレートのスケーリング係数のみ54と、離散化されていないAPI56(n=120、58人の参加者が臨床的に必要なヒールランスを受け、62人の参加者が非有害性のコントロールを受けた)に対して実行された。離散化されていないAPIの曲線下面積(AUC)は0.78で、テンプレート・スケーリング係数の場合は0.66である。AUC0.78は、EEGテンプレートアプローチのみの場合と比較して18%の増加を表す。
【0110】
[APIはさまざまな種類の臨床手順を特徴付ける]
ヒールランスと注射は、入院中に新生児が受ける最も一般的な急性の痛みを伴う処置の一つである。
【0111】
図10は、一般的な急性臨床処置と非有害性コントロール(非有害性コントロールn=62、ヒールランスn=58、予防接種n=25)に対する平均EEGテンプレート・スケーリング係数(左)と中央値APIスコア(右)を示している。APIスコアは、さまざまな手順によって引き起こされる痛みの強度を反映する。エラーバーは平均±SEM(左)と中央値±中央値の標準誤差(右)を示す。これらの手順に従って計算されたAPIスコアの中央値は、各手順の強度と一致しており(例:予防接種のAPIの中央値=3、ヒールランスのAPIの中央値=1)、テンプレートEEG係数のみと比較して、急性臨床手順間のより適切な区別が可能になることがわかる。
【0112】
[鎮痛剤投与によりAPIが減少するという証拠]
1.局所麻酔薬の塗布によりAPIが減少する
図11は、麻酔なし(コントロール)と刺激前に局所麻酔を塗布した(局所麻酔)新生児グループ(参加者n=10人)に実験的な有害刺激を塗布した後のAPIスコアを示している。APIスコアは局所麻酔グループで有意に低かった(*p=0.023、ウィルコクソン符号順位検定)。エラーバーは中央値±中央値の標準誤差を示す。したがって、図11に示されているように、局所麻酔薬の塗布(カニューレ挿入前)により、治療の有無にかかわらず、実験的な有害刺激に対するAPIが大幅に減少する(局所麻酔薬なしの場合、APIの中央値=1.5(IQR:2-1)、局所麻酔薬ありの場合、APIの中央値=0(IQR:0-0)、Wilcoxonの符号付き順位検定p=0.023)。
【0113】
2.局所麻酔薬を塗布すると、個々の乳児のAPIは減少する。
図12は、局所麻酔薬の適用前と適用後に適用された実験的有害刺激に対する個々の新生児のAPIスコアを示している(n=8名の参加者)。この図には、API≧1の安静時の新生児が含まれている。図12は、安静時のAPIが1以上(軽度、中等度、または重度の痛みを示す)であった個々の乳児において、皮膚の表面に局所麻酔薬を塗布した後、APIが減少したことを明確に示している。
【0114】
3.パラセタモールは免疫誘発性APIを低下させる。
図13は、予防接種前にパラセタモールを投与されなかった乳児のグループと比較して、パラセタモールを投与された新生児のグループでは予防接種後のAPIスコアが有意に低いことを示している。コントロールグループn=15名、介入グルーブn=14名、エラーバーは中央値±中央値の標準誤差を示す(被験者をランダム効果として設定した順序データの混合効果モデル**p = 0.004)。
【0115】
新生児ユニットでの定期予防接種の実施中に、22人の未熟児コホートが研究された。コントロールグループには、事前に鎮痛薬を投与されずに定期予防接種を受けた新生児12名が含まれる。研究中、現地のガイドラインが更新され、MenBワクチンの1時間前にパラセタモール(15 mg/kg)を投与することになった。ガイドラインの変更後に研究された10人の新生児が介入グループを構成する。EEGと心拍数を取得し、上記の方法に従ってAPIを計算した。図13に示すように、免疫の1時間前にパラセタモールを投与すると、パラセタモールを投与されなかった乳児と比較して、免疫によって引き起こされるAPIが大幅に減少する(コントロールグループの中央値API=3(IQR:5.75-1.25)、介入グループの中央値API=0(IQR:0-0)、p=0.004、被験者をランダム効果として設定した順序データの混合効果モデル)。
【0116】
[安静時の新生児のAPIは、その後の痛みを伴う出来事に対するAPI反応に関連し、治療の選択肢を左右する可能性がある]
1.安静時のAPIスコアが高いということは、臨床処置によって高いAPIが誘発されることを意味する。
APIは、臨床上必要なヒールランスの前に足に軽い実験的有害刺激を与えることにより、安静時の満期新生児15名を対象に測定された。臨床処置に対するAPIスコアは安静時のAPIスコアと有意に相関しており(p=0.018、R2=0.36、スピアマンの線形相関)、ベースラインのAPIを使用して急性の痛みを伴う処置に対する個々の新生児の反応を推測できることを示唆している。
【0117】
[APIは乳児の健康に敏感である]
1.感染データ
図14は、生後数日で感染した新生児(感染者グループ、参加者19名)は、健康な新生児(非感染グループ、参加者数28名)、(ウィルコクソン順位和検定*p=0.017)と比較して、APIスコアが有意に高いことを示している。エラーバーは中央値±中央値の標準誤差を示している。
【0118】
早期発症新生児敗血症のリスク要因と臨床徴候を示す47人の満期新生児のサンプルを対象に、感染疑いのスクリーニング検査を実施し、臨床上必要なヒールランス中に感染マーカーを評価した。図14に示すように、感染症のある新生児(C反応性タンパク質(CRP)レベルが10以上で、敗血症の疑いで抗生物質治療を受けている乳児)は、抗生物質治療が中止されたCRPレベルが10以下の新生児(APIの中央値=1、IQR:2-0)(ウィルコクソン順位和検定p=0.017)よりもAPI(中央値API=3、IQR:5.5-0.5)が高くなる。これは、感染症などの一般的な症状における痛みの感受性の尺度としてAPIを適用できることを示しており、手術後などの他の症状における痛みの評価にも使用できる。
【0119】
[複数サイトでの再現性]
この研究は、ロイヤルデボン大学ヘルスケアNHS財団トラストの他の研究グループによって再現された。
【0120】
ここでは、妊娠29週から生後6か月までの個々の新生児および乳児の痛みの強度を推測するために使用できる、脳由来の臨床新生児疼痛評価ツール(急性疼痛指数、API)について説明する。APIは、ベースラインの休息期間中に計算され、根本的な痛みの感受性を推測したり、急性の痛みを伴う処置に対する反応を推測したりできる。
【0121】
上述したアプローチは、年長の乳児、子供、成人など、他の年齢範囲の対象者にも適用できることが理解されるであろう。
【0122】
上述したAPIは、乳児が安静な状態で皮膚の表面に加えられた鋭い触覚(軽度の有害)刺激、または急性の痛みを伴う臨床上必要な処置に反応して誘発されるEEGおよびECG信号を分析する機械学習アプローチを使用して計算される。APIは、まず、複数の被験者からのデータの分析によって得られた刺激に対するEEG活動のテンプレートの形式で、刺激に対する反応として記録された有害刺激誘発EEG活動の年齢依存パターンを識別することによって計算される。次に、そのテンプレートをその個人から記録されたEEGデータに合わせてスケーリングすることにより、同様の刺激に対する個人の反応を特徴付けるために使用される。背景EEG活動を使用してこの出力を正規化することで、個人間で測定値を標準化できる。さらに、心拍数データを使用して正規化されたEEG出力を調整することで、測定の信頼性を向上させることができる。
【0123】
同じテンプレートベースのアプローチを採用して、視覚刺激や聴覚刺激など、有害刺激や触覚刺激以外のイベントに対する被験者の反応を定量化できることが理解されるであろう。
図1
図2
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】