(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】肝癌手術後、予後予測のためのバイオマーカーとしてのSORD
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/574 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527707
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 KR2022017789
(87)【国際公開番号】W WO2023085864
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0155200
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522040229
【氏名又は名称】アンスティテュ パストゥール コリア
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR KOREA
(71)【出願人】
【識別番号】515267910
【氏名又は名称】ジ アサン ファウンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】509159333
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ ウルサン ファウンデイション フォー インダストリー コーオペレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】キム カンモ
(72)【発明者】
【氏名】ソ ヘンラン
(72)【発明者】
【氏名】リ スヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジンスン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヨンファ
(72)【発明者】
【氏名】キム サンファ
(57)【要約】
本発明は、手術前、肝癌患者から得た血液試料内のSORDマーカー、あるいはAFPマーカーを共に検出して、肝癌手術前に手術後、予後を予測するための方法、組成物及びキットに関するものであって、適切な手術対象に対する意思決定を助け、生存率が低いと予想される患者の不要な手術を避けるようにするという利点を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝癌手術後、予後診断に必要な情報を提供するために、肝癌患者から得た血液試料からSORDマーカーを検出する、方法。
【請求項2】
前記情報は、肝癌手術前に提供されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液試料は、血清であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、
-肝癌患者の血清内に含まれたSORDレベルを検出する段階と、
-前記血清SORDレベルが15ng/mL以上であるか否かを判別する段階と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記血清SORDレベルが15ng/mL以上である場合、肝癌手術後、悪い予後を診断する情報を提供することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、
-肝癌患者の血清内に含まれたAFPレベルを検出する段階と、
-前記血清AFPレベルが400ng/mL以上であるか否かを判別する段階と、
をさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記血清SORDレベルが15ng/mL以上であり、そして、前記血清AFPレベルが400ng/mL以上である場合、肝癌手術後、悪い予後を予測する情報を提供することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記SORDまたはAFPレベルの検出は、免疫分析法または免疫染色法によって行われることを特徴とする、請求項4または6に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫分析法または免疫染色法は、SORDまたはAFPに特異的に結合する抗体を用いて行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
血液試料からSORDマーカーを検出するための肝癌手術予後早期診断用組成物であって、SORDタンパク質に特異的に結合する抗体を含む、組成物。
【請求項11】
前記組成物は、AFPタンパク質に特異的に結合する抗体をさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、血清タンパク質検出用組成物であることを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
血液試料からSORDマーカーを検出するための肝癌手術予後早期診断用キットであって、SORDタンパク質に特異的に結合する抗体を含むものである、キット。
【請求項14】
前記キットは、AFPタンパク質に特異的に結合する抗体をさらに含むことを特徴とする、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記血液試料は、血清であり、
前記キットは、血清SORDレベルが15ng/mL以上である場合に、または血清SORDレベルが15ng/mL以上及び血清AFPレベルが400ng/mL以上である場合に、肝癌手術後、悪い予後を予測する情報を提供することを指示する説明書を含むことを特徴とする、請求項13または14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年11月11日付の大韓民国出願第10-2021-0155200号に基づいた優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示されたあらゆる内容は、本出願に援用される。
【0002】
本発明は、肝癌手術後、予後予測のためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0003】
最近のバイオマーカー発掘過程を見れば、開発コストは増加するが、成功比率は減少する傾向を示している。これは、一定部分の基礎研究と臨床研究との間の乖離感に起因する。基礎研究者は、実験の便宜性のために細胞株を使用して実験を進めるが、細胞株で表われる現象は、個体レベルで表われる反応と相当な差異点を示している。
【0004】
このような問題点を解決するために、個体の環境と類似に細胞株を培養する3次元立体培養システムが脚光を浴びており、基礎研究と臨床研究との間の乖離感を狭める方案として台頭しつつある。
【0005】
単層培養(2D培養、培養細胞が培地上で一層に広がっているもの)とは異なって、細胞を生体と類似している3次元環境で培養することができる3次元立体培養(3D培養)は、比較的高い効率で細胞及び組織の特異的な機能を長期間保持する特徴が多数の論文で報告されており、毒性薬物に対する敏感度を2D培養と3D培養、そして、in vivo systemと比べた時、3D培養の結果は、驚くほどにin vivo systemと類似しているということが論文で報告されている。
【0006】
一方、肝癌または肝細胞癌(Hepatocellular carcinoma、HCC)は、成人癌で最も平凡な類型であって、手術で切除が不可能な場合は、1年内に死亡する場合が多く、手術的切除を行う場合にも、5年内に50%以上で再発所見を示すなど、予後が極めて悪い癌の1つとして知られている。このような臨床的現実を考慮する時、癌の予後を早期に予測することができる技術は、癌治療の最も現実的代案であり、次世代肝癌診療のガイドラインとも言える。
【0007】
現在、肝癌関連診断、予後判定、治療評価バイオマーカーとして最もよく知られたマーカーは、AFP、PIVKA(Protein Induced by Vitamin K Absence)-IIなどがあるが、特異度、敏感度で満足できない。肝細胞癌診断において、血中α胎児タンパク質(alpha-fetoprotein、AFP)の有用性はよく知られている。進行した肝細胞癌の診断だけではなく、肝硬変症患者で自然経過中、毎年3-10%で肝細胞癌が発病するために、早期発見のための定期的なAFP測定が必要である。しかし、AFPは、肝細胞癌だけではなく、アルコール性肝炎、慢性肝炎や肝硬変症のような良性疾患でも高濃度で上昇するために、擬陽性が多く、実際の陽性率が50-60%に過ぎない。PIVKA-IIは、DCP(des-r-carboxyprothrombin)、すなわち、凝固作用のない異常プロトロンビンで血清AFPとは独立して肝細胞癌の診断でそれぞれ48.2%及び95.9%の敏感度と特異度とが報告されている。このような生物学的指標は、現在、臨床的に用いられているが、あらゆる肝癌の生物学的特性を反映することができない。
【0008】
また、肝細胞癌手術前に予後を正確に予測することができるバイオマーカー検査は、いまだに開発されることができず、予後因子として意味を有するものがあるとしても、正確度が低くて、まだ選別検査として使われることができない実情である。
【0009】
本明細書の全体にわたって多数の文献が参照され、その引用が表示されている。引用された文献の開示内容は、その全体として本明細書に参考として組み込まれて、本発明が属す技術分野のレベル及び本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、肝癌予後を早期診断することができる方法、特に、肝癌患者が手術後、生存または再発する確率を手術前に診断することができる分子診断法を開発しようと努力した。その結果、本発明者らは、血液試料内のSORD(L-iditol-2 dehydrogenase)タンパク質が肝癌手術後、予後と密接な関連があり、手術前に手術後、予後の予測に用いられるということを確認することにより、本発明を完成した。
【0011】
したがって、本発明の目的は、血液試料からSORDマーカーを検出して肝癌手術予後を手術前に診断する方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、血液試料からSORDマーカーを検出する肝癌手術予後早期診断用組成物を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、血液試料からSORDマーカーを検出する肝癌予後早期診断用キットを提供することである。
【0014】
より具体的に、本発明は、次の具現例を提供する。
【0015】
具現例1.肝癌手術後、予後診断に必要な情報を提供するために、肝癌患者から得た血液試料からSORDマーカーを検出する方法。
【0016】
具現例2.具現例1において、前記情報は、肝癌手術前に提供されることを特徴とする方法。
【0017】
具現例3.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記血液試料は、血清であることを特徴とする方法。
【0018】
具現例4.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記方法は、
【0019】
-肝癌手術前に肝癌患者の血清内に含まれたSORDレベルを検出する段階;及び
【0020】
-前記血清SORDレベルが15ng/mL以上であるか否かを判別する段階;
【0021】
を含むことを特徴とする方法。
【0022】
具現例5.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記血清SORDレベルが15ng/mL以上である場合、肝癌手術後、悪い予後を診断する情報を提供することを特徴とする方法。
【0023】
具現例6.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記方法は、
【0024】
-肝癌手術前に肝癌患者の血清内に含まれたAFP(alpha-fetoprotein)レベルを検出する段階;及び
【0025】
-前記血清AFPレベルが400ng/mL以上であるか否かを判別する段階;
【0026】
をさらに含むことを特徴とする方法。
【0027】
具現例7.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記血清SORDレベルが15ng/mL以上であり、そして、前記血清AFPレベルが400ng/mL以上である場合、肝癌手術後、悪い予後を予測する情報を提供することを特徴とする方法。
【0028】
具現例8.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記SORDまたはAFPレベルの検出は、免疫分析法(immunoassay)または免疫染色法(immunostaining)によって行われることを特徴とする方法。
【0029】
具現例9.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記免疫分析法または免疫染色法は、SORDまたはAFPに特異的に結合する抗体を用いて行われることを特徴とする方法。
【0030】
具現例10.血液試料からSORDマーカーを検出するための肝癌手術予後早期診断用組成物であって、SORDタンパク質に特異的に結合する抗体を含む組成物。
【0031】
具現例11.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記組成物は、AFPタンパク質に特異的に結合する抗体をさらに含むことを特徴とする組成物。
【0032】
具現例12.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記組成物は、血清タンパク質検出用組成物であることを特徴とする組成物。
【0033】
具現例13.血液試料からSORDマーカーを検出するための肝癌手術予後早期診断用キットであって、SORDタンパク質に特異的に結合する抗体を含むものであるキット。
【0034】
具現例14.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記キットは、AFPタンパク質に特異的に結合する抗体をさらに含むことを特徴とするキット。
【0035】
具現例15.先行する具現例のうち何れか1つにおいて、前記血液試料は、血清であり、前記キットは、血清SORDレベルが15ng/mL以上である場合に、または血清SORDレベルが15ng/mL以上及び血清AFPレベルが400ng/mL以上である場合に、肝癌手術後、悪い予後を予測する情報を提供することを指示する説明書を含むことを特徴とするキット。
【0036】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の1つの観点は、肝癌手術後、予後診断に必要な情報を早期に、望ましくは、肝癌手術前に提供するために、肝癌患者から得た血液試料からSORDマーカーを検出する方法を提供することである。
【0038】
肝細胞癌腫(hepatocellular carcinoma;HCC)は、アジアで有病率と発生率とが高い最も平凡な類型の原発性肝癌である。肝切除術は、肝細胞癌腫初期または切除可能な肝細胞癌腫患者に選択される治療法であるが、結果は満足できない。高い再発率によって、これらの患者の生存率は依然として低い。肝切除術後、単一肝細胞癌腫(2cm)患者で5年再発率は、68%であり、肝細胞癌腫の再発は、患者の長期生存に悪影響を及ぼす。したがって、肝細胞癌腫に対する切除後、再発を予測することは、適切な手術候補の選択に重要である。以前の研究では、手術前、血清α胎児タンパク(alpha-fetoprotein;AFP)数値と腫瘍サイズ及び末梢血管侵犯のような腫瘍の多様な組織学的特徴が、切除術後、再発の独立した予測因子であるという点に注目した。しかし、組織学的特徴は、手術前に評価することができないために制限的である。また、AFPは、肝細胞癌腫を正確に予測する敏感度と特異度とが相対的に低く(Tateishi,R.et al.,Diagnostic accuracy of tumor markers for hepatocellular carcinoma:a systematic review,Hepatology international,2008(2):17-30)、AFPと手術結果の関連性に対しては,依然として議論中である状態である(Blank,nce of preoperative alpha-fetoprotein in hepatitis B-associated hepatocellular carcinoma:normal is not the new normal.,Ann Surg Oncol 2014(21):986-994;Shim,J.H.et al.,Is serum alpha-fetoprotein useful for predicting recurrence and mortality specific to hepatocellular carcinoma after hepatectomy? A test based on propensity scores and competing risks analysis.Ann Surg Oncol 2012(19):3687-3696)。これにより、切除手術以後、肝細胞癌腫患者の結果を予測するための新たな予後マーカーが依然として必要である。
【0039】
多様な肝疾患によって誘発される炎症、壊死、肝再生は、肝細胞癌腫の発生を促進する重要な役割を果たす。肝細胞癌腫の90%以上が肝損傷及び炎症と関連して発生して炎症関連癌の明らかな例になる。ソルビトールを果糖に転換させるポリオール経路の酵素であるソルビトール脱水素酵素(SORD)は、肝損傷を反映する。SORDは、ALT(alanine aminotransferase)と類似に肝に主に集中されている。
【0040】
本発明の目的は、肝損傷を反映する酵素であるソルビトール脱水素酵素(sorbitol dehydrogenase;SORD)数値が、無再発生存(Recurrence-free survival;RFS)期間と関連があるか否かを確認するものであった。SORDレベル≧15ng/mLがさらに短い無再発生存(RFS)と関連があるという本発明の発見は、HCCで如何なる患者が手術にさらに適するかを決定するのに助けになる。
【0041】
一具現例において、本発明の方法は、インビトロ方法である。本発明の方法は、肝癌手術前に肝癌患者の血清内に含まれたSORDレベルを検出する段階;及び前記血清SORDレベルが15ng/mL以上であるか否かを判別する段階;を含むことができ、前記血清SORDレベルが15ng/mL以上である場合、肝癌手術後、悪い予後を診断する情報を提供することができる。
【0042】
特に、望ましい具現例において、血清AFP及びSORDレベルは、RFSに対する2種の独立した予後因子として使われる。具体的に、前記方法は、肝癌手術前に肝癌患者の血清内に含まれたAFPレベルを検出する段階;及び前記血清AFPレベルが400ng/mL以上であるか否かを判別する段階;をさらに含む。
【0043】
患者を手術前、血清SORD及び/またはAFPレベルに階層化した時、血清SORDレベルが15ng/mL以上である場合、肝癌手術後、悪い予後を診断する情報を提供し、血清SORDレベルが15ng/mL以上でありながら同時に血清AFPレベルが400ng/mL以上である患者は、最も低いRFS比率として鮮明に不良な予後を示した。
【0044】
このように、手術前、血清SORDは、切除後、肝細胞癌腫に対する効果的な予後因子であり、特に、血清AFP数値のように確認時に、手術のための適切な患者選択には臨床的に役に立つと期待される。
【0045】
本発明の予後診断方法において、SORD及び/またはAFPタンパク質の発現レベルを分析することは、当業者に公知の多様な方法を通じて実施することができる。望ましくは、前記分析は、免疫分析または免疫染色プロトコルによって実施される。
【0046】
前記免疫分析または免疫染色フォーマットは、放射能免疫分析、放射能免疫沈殿、免疫沈殿、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、キャプチャーELISA、抑制または競争分析、サンドイッチ分析、流細胞分析(flow cytometry)、免疫蛍光染色及び免疫親和性精製を含むが、これらに限定されるものではない。前記免疫分析または免疫染色の方法は、Enzyme Immunoassay,E.T.Maggio,ed.,CRC Press,Boca Raton,Florida,1980;Gaastra,W.,Enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA),in Methods in Molecular Biology,Vol.1,Walker,J.M.ed.,Humana Press,NJ,1984;及びEd Harlow and David Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999などの文献に記載されており、前記文献は、本明細書に参考として組み込まれる。
【0047】
例えば、本発明の方法が放射能免疫分析方法によって実施される場合、放射能同位元素(例えば、C14、I125、P32及びS35)で標識された抗体(前記マーカーに特異的に結合する抗体)が用いられる。
【0048】
本発明の方法がELISA方式で実施される場合、本発明の特定の実施例は、(i)分析しようとする未知の試料を固体基質の表面にコーティングする段階;(ii)一次抗体としての前記マーカー特異抗体と前記試料とを反応させる段階;(iii)前記段階(ii)の結果物を酵素が結合された二次抗体と反応させる段階;及び(iv)前記酵素の活性を測定する段階;を含みうる。
【0049】
前記固体基質として適したものは、炭化水素ポリマー(例えば、ポリスチレン及びポリプロピレン)、ガラス、金属またはゲル、またはマイクロタイタープレートなどがある。
【0050】
前記二次抗体に結合された酵素は、発色反応、蛍光反応、発光反応または赤外線反応を触媒する酵素を含むが、これに限定されず、例えば、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ及びシトクロムP450を含む。前記二次抗体に結合する酵素としてアルカリホスファターゼが用いられる場合には、基質としてブロモクロロインドリルホスフェート(BCIP)、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、ナフトール-AS-B1-ホスフェート(naphthol-AS-B1-phosphate)及びECF(enhanced chemifluorescence)のような発色反応基質が用いられ、西洋ワサビペルオキシダーゼが用いられる場合には、クロロナフトール、アミノエチルカルバゾール、ジアミノベンジジン、D-ルシフェリン、ルシゲニン(ビス-N-メチルアクリジニウムニトラート)、レゾルフィンベンジルエーテル、ルミノール、癌フレックスレッド試薬(10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン)、HYR(p-phenylenediamine-HCl and pyrocatechol)、TMB(tetramethylbenzidine)、ABTS(2,2’-Azine-di[3-ethylbenzthiazoline sulfonate])、o-フェニレンジアミン(OPD)及びナフトール/ピロニン、グルコースオキシダーゼとt-NBT(nitroblue tetrazolium)及びm-PMS(phenzaine methosulfate)のような基質が用いられる。
【0051】
本発明の方法がキャプチャーELISA方式で実施される場合、本発明の特定の実施例は、(i)捕獲抗体(capturing antibody)として前記分子マーカーに対する抗体を固体基質の表面にコーティングする段階;(ii)捕獲抗体と試料とを反応させる段階;(iii)前記段階(ii)の結果物をシグナルを発生させるレーベルが結合されており、前記分子マーカーに対する検出抗体(detecting antibody)と反応させる段階;及び(iv)前記レーベルから発生するシグナルを測定する段階;を含む。
【0052】
前記検出抗体は、検出可能なシグナルを発生させるレーベルを有しているが、前記レーベルは、化学物質(例えば、ビオチン)、酵素(アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ及びシトクロムP450)、放射能物質((例えば、C14、I125、P32及びS35)、蛍光物質(例えば、フルオレセイン)、発光物質、化学発光物質(chemiluminescent)及びFRET(fluorescence resonance energy transfer)を含むが、これらに限定されるものではない。多様なレーベル及びレーベリング方法は、Ed Harlow and David Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999に記載されている。
【0053】
前記ELISA方法及びキャプチャーELISA方法で最終的な酵素の活性測定またはシグナルの測定は、当業者に公知の多様な方法によって実施される。もし、レーベルとしてビオチンが用いられた場合には、ストレプトアビジンに、ルシフェラーゼが用いられた場合には、ルシフェリンにシグナルを容易に検出することができる。
【0054】
一方、本発明の方法は、従来の流細胞分析方法(flow cytometry;Ormerod,M.G.,ed.1990,Flow Cytometry:A Practical Approach.IRL Press)、MACS(magnetic-activated cell sorting;Robert David,et al.,Stem Cells,23:477-482(2005)または免疫親和性精製方法(Ed Harlow and David Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999)によって実施される。
【0055】
前記分子マーカーに特異的に結合する抗体は、当業者に通常実施される方法、例えば、融合方法(Kohler and Milstein,European Journal of Immunology,6:511-519(1976))、組換えDNA方法(米国特許第4,816,567号)またはファージ抗体ライブラリー方法(Clackson et al,Nature,352:624-628(1991)及びMarks et al,J.Mol.Biol.,222:58,1-597(1991))によって製造可能である。抗体の製造に対する一般的な過程は、Harlow,E.and Lane,D.,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,New York,1999;Zola,H.,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,CRC Press,Inc.,Boca Raton,Florida,1984;及びColigan,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,Wiley/Greene,NY,1991に詳細に記載されており、前記文献は,本明細書に参考として組み込まれる。
【0056】
前述した免疫分析過程による最終的なシグナルの強度を分析することにより、肝癌の手術以後、予後を予測することができる。
【0057】
本発明の他の観点は、血液試料からSORDマーカーを検出するための肝癌手術予後早期診断用組成物であって、SORDタンパク質に特異的に結合する抗体を含むものである組成物を提供することである。
【0058】
望ましい具現例において、前記肝癌手術予後早期診断用組成物は、AFPタンパク質に特異的に結合する抗体をさらに含むものであり、血清タンパク質検出用組成物である。
【0059】
本発明のさらに他の観点は、血液試料からSORDマーカーを検出するための肝癌手術予後早期診断用キットであって、SORDタンパク質に特異的に結合する抗体を含むものであるキットを提供することである。
【0060】
望ましい具現例において、前記肝癌手術予後早期診断用キットは、AFPタンパク質に特異的に結合する抗体をさらに含むものである。
【0061】
前記キットは、血液試料として血清を使用する血清タンパク質検出用キットであり、血清SORDレベルが15ng/mL以上である場合に、または、望ましくは、血清SORDレベルが15ng/mL以上及び血清AFPレベルが400ng/mL以上である場合に、肝癌手術後、悪い予後を診断する情報を提供することを指示する説明書を含みうる。
【0062】
本発明の肝癌手術予後早期診断用キットが免疫分析に適用される場合、本発明のキットは選択的に、二次抗体及び標識の基質を含みうる。また、本発明のキットは、前記試薬成分を含む多数の別途パッケージングまたはコンパートメントで製作される。
【発明の効果】
【0063】
本発明は、肝癌患者から得た血液試料内のSORDマーカー、望ましくは、AFPマーカーを共に検出することによって、肝癌手術前に手術後、予後を予測する技術を提供する。したがって、本発明は、適切な手術対象に対する意思決定を助け、生存率が低いと予想される患者で不要な手術を避けるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1A】治療目的切除術後、肝細胞癌腫患者の無再発生存(RFS)に対するKaplan-Meierプロットであって、患者を手術前、血清SORDレベル(<15ng/mL及び≧15ng/mL)によって、2つのグループに階層化したものを示した図面である。
【
図1B】治療目的切除術後、肝細胞癌腫患者の無再発生存(RFS)に対するKaplan-Meierプロットであって、患者を手術前、血清SORDレベル(<5、5-10、10-15、≧15ng/mL)によって、4つのグループに階層化したものを示した図面である。
【
図2】多様な患者下位グループで手術前、血清SORDレベルによる無再発生存のフォレストプロットであって、血清SORDレベルが低い(<15ng/mL)患者と比較して上昇した血清SORDレベル(≧15ng/mL)を有した患者の危険比率を示した図面である。
【
図3】AFP及びSORDの血清レベルに階層化された無再発生存に対するKaplan-Meierプロットであって、性別及びICG-R15(indocyanine green retention rate at 15 minutes)について調整された危険比率を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲が、これらの実施例によって制限されないということは当業者にとって自明である。
【0066】
実施例
【0067】
I.材料及び方法
【0068】
1.研究設計及び母集団
【0069】
2011年1月から2012年12月までソウル峨山病院で、肝細胞癌腫で肝切除術を受け、末梢血液をソウル峨山病院バイオ資源センターに保管した150人の記録をランダムに抽出して分析に含ませた。患者は、いずれも今後の研究でこの情報を使用するための事前同意書に署名した。除外基準は、(a)肝移植を受けた患者、(b)不完全に腫瘍が切除された患者、(c)BCLC(Barcelona Clinic Liver Cancer)BまたはC期に分類された患者で構成された。このようなBCLC BまたはC患者は、後で拡張分析に含ませた。究極的に、92人の患者が1次分析に含まれ、120人の患者が拡張分析に含まれた。研究プロトコルは、事前同意書署名に基づいてソウル峨山病院機関審査委員会の承認を受けた(No.2020-1173)。この研究は、ヘルシンキ宣言によって行われた。
【0070】
2.SORD測定
【0071】
SORDは、ソウル峨山病院Bio-Resource Centerで採取した血清試料で測定した。血清サンプルは、-196°Cで新鮮冷凍状態で保管された。サンプルを解凍した後、酵素反応を始める前に24時間の十分な事前培養時間を使用した。これは、血清の代謝産物、特に、ケトンが血清のSORDと反応することができるために測定の正確度を高めた。SORDの基準血清レベルは、製造会社の指針に従いHuman Sorbitol dehydrogenase ELISAキット(MyBioSource,San Diego,CA,USA)を使用して測定された。
【0072】
3.危険要素及び結果
【0073】
Child-Pugh分類による肝機能予備評価、ALBI等級(albumin-bilirubin grade)及びICG-R15を含む臨床病理学データを収集した。肝切除術は、Couinoud分類によって4個以上の分節が切除された場合、大切除術に分類され、4個未満の分節が切除された場合、小切除術に分類された。腫瘍サイズは、手術標本で最も大きな腫瘍の直径と定義された。
【0074】
関心結果は、無再発生存期間(Recurrence-free survival;RFS)であった。RFSは、手術日と再発あるいは死亡日との間の時間間隔と定義された。血清AFP(α-fetoprotein)及びPIVKA-II(protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)を含む腫瘍標識子の測定と共にダイナミックコンピュータ断層撮影または磁気共鳴映像を行った(切除術後、1ヶ月、その後、最初の2年間は、3ヶ月間隔に、翌年には、3~6ヶ月ごとに)。あらゆる患者は、手術日から腫瘍再発または死亡日まで、または2020年12月31日まで追跡された。
【0075】
4.統計分析
【0076】
技術統計は、中央値で表示された(連続及び範疇型変数のそれぞれに対する百分率がある四分位範囲及び数字)。連続型変数は、Mann-Whitney Uテストを使用して比較された。範疇型変数は、Fisherの正確なテストまたはカイ二乗テストを適切に使用して比較された。事件発生までの時間に対する生存曲線は、Kaplan-Meier分析を使用して決定され、手術前、SORDレベルによるログ順位テストを使用して比較された。RFSに対するHR(hazard ratio)及び95% CI(confidence interval)は、Cox比例ハザードモデルを使用して計算された。Spearmanの順位相関係数は、RFSに対する手術前、SORDレベルとその他の予後因子との間に推定された。統計分析は、R統計ソフトウェアバージョン3.5.0(R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria;http://cran.r-project.org/)を使用して行った。あらゆるテストは、両側からなり、p<0.05は、統計的に有意なものと見なされた。
【0077】
II.結果
【0078】
1.患者の基本特性
【0079】
総92人の肝細胞癌腫に対する治療目的の肝切除術を受けた患者が研究に含まれた。患者らの中央年齢は、55.0歳であり、ほとんどが男性(76/92、82.6%)であり、HCCの病因は、慢性B型肝炎であり(82/92、89.1%)、Child-Pugh点数が5(80/92、87.0%)であり、小切除術を受けた(74/92、80.4%)。肝機能特性、治療方法及び臨床病理学的要因を含むその他の人口統計は、表1に示されている。患者を、手術前、血清SORDレベルによって2つのグループに分けた時、73人は、手術前、SORDが15ng/mL未満であり、19人は、手術前、SORDが15ng/mL以上であった。あらゆる基準特性は、切除類型を除き、2つのグループ間に類似した。手術前、SORDが15ng/mL以上である患者は、手術前、SORDが15ng/mL未満である患者よりも頻繁に大切除術を受けた。このような研究母集団の基本特性を下記表1に示した。
【0080】
【0081】
非正規分布に従う連続変数は、中央値(四分位範囲[IQR])で報告した。範疇型変数は、百分率(%)がある数字で報告した。
【0082】
*大切除術は、4個以上の肝分節を切除すると定義し、残りは、小切除術と見なした。
【0083】
AFP、α-胎児タンパク;ALBI等級、アルブミン-ビリルビン等級;AST、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;ALT、アラニンアミノ転移酵素;ICG-R15、15分でインドシアニングリーン保有率;INR、国際標準化比率;IU、国際単位;IQR、四分位範囲;PIVKA-II、ビタミンK欠乏または拮抗剤-IIによって誘導されたタンパク質;SORD、ソルビトール脱水素酵素;TACE、頸動脈動脈化学塞栓術。
【0084】
2.SORDレベルによる再発
【0085】
追跡観察期間、中央値57.1ヶ月間43人の患者で再発が観察された。再発した患者と再発していない患者との間に血清SORD数値中央値が、それぞれ10.0ng/mL及び7.1ng/mLと有意差があった。再発がある患者とない患者とにおいて、肝機能(Child-Pugh点数、アルブミン-ビリルビン(ALBI)等級、インドシアニングリーン(ICG)除去率)を含む他の基本特性とサイズ、顕微鏡的血管侵犯及びエドモンスン等級のような腫瘍要因には有意差がなかった。
【0086】
治療目的切除術後、肝細胞癌腫患者の無再発生存(RFS)に対するKaplan-Meierプロットを血清SORDレベルに階層化して得られた無再発生存(RFS)のKaplan-Meier推定値は、
図1に示した。
図1Aは、手術前、血清SORDレベル(<15ng/mL及び≧15ng/mL)によって2つのグループに階層化された患者を示し、
図1Bは、手術前、血清SORDレベル(<5、5-10、10-15、≧15ng/mL)によって4つのグループに階層化された患者を示す。全体としてHCCの治療目的切除後、中央値及び2年RFS比率は、それぞれ100.3ヶ月及び76.3%であった。被験者を手術前、血清SORDレベルによって2つのグループ(≧15ng/mL対<15ng/mL)に階層化した時、血清SORDレベルが低い患者の場合、83.0%(p<0.001)のRFS比率を有するものと比較して、高いレベルを有したグループは、2年RFS比率が50.1%であって、さらに悪い結果を示した(
図1A)。患者を手術前、血清SORDレベル(<5、5-10、10-15、≧15ng/mL)によって4つのグループに分類した時、RFSは、レベルが<15ng/mLである患者では類似した(
図1B)。しかし、RFSは、SORDレベルが≧15ng/mLである患者では他のグループと比較して有意に低かった。
【0087】
バルセロナ肝癌(Barcelona Liver Cancer;BCLC)B期またはC期の疾患患者が拡張分析に含まれた時、結果は、基準血清SORDレベルが≧15ng/mLである患者でさらに悪い結果を有した元分析結果と類似した。
【0088】
3.無再発生存と関連した予後因子
【0089】
単変量及び多変量Cox比例ハザード回帰分析を行って、治療目的の肝切除術後、RFSに対する予後因子を調査した(下記表2参照)。
【0090】
【0091】
* 大切除術は、4個以上の肝分節を切除すると定義された。
【0092】
AFP、α-胎児タンパク;ALBI等級、アルブミン-ビリルビン等級;CI、信頼区間;HR、危険比率;ICG-R15、15分でインドシアニングリーン保有率;PIVKA-II、ビタミンK欠乏または拮抗剤-IIによって誘導されたタンパク質;SORD、ソルビトール脱水素酵素。
【0093】
多変量回帰分析で高い血清α胎児タンパク(AFP)レベル(≧400ng/mL;危険比率(HR)、2.03、95%信頼区間(CI、1.01-4.07、p=0.047))及び高い血清SORDレベル(≧15ng/mL;HR、3.46、95% CI 1.76-6.81、p<0.001)がRFSに対する独立した予後因子と確認された(表2参照)。
【0094】
患者下位グループで手術前、血清SORDレベルによる無再発生存のフォレストプロットは、
図2に示したが、血清SORDレベルが低い(<15ng/mL)患者と比較して高い血清SORDレベル(≧15ng/mL)を有した患者のRFSに対する危険比率を意味する。下位グループ分析が行われた時、手術前、SORDレベルが高い患者は、手術前、SORDレベルが低い患者に比べてあらゆる下位グループでRFSがさらに悪いと確認された(
図2参照)。
【0095】
参考までに、RFSに対する手術前、SORDレベルの効果の大きさは、血清AFPレベルが低い患者(<400ng/mL;HR、2.22;95% CI、0.99-5.00;p=0.054)に比べて高い血清AFPレベル(≧400ng/mL;HR、8.87;95% CI、2.14-36.78;p=0.003)を有した患者でさらに高かった。これは、手術前、血清SORDレベルが血清AFPレベルが高い患者で特に結果をよく予測し、血清AFPレベルと共に再発危険が高い患者をさらに階層化することができるということを示唆する。この結果に基づいて患者を手術前、血清SORDとAFPに階層化した時、AFPとSORD数値がいずれも上昇した患者は、RFS比率が最も低く、予後が明らかに良くなかった(HR、22.08;95% CI、6.91-70.50;p<0.001))。他の2つのグループのRFS比率は、類似していると確認された(HR、1.40;95% CI、0.71-2.78;p=0.30)(
図3参照)。
【0096】
4.血清SORDと相関関係がある因子
【0097】
Spearmanの順位相関係数は、SORDレベルと相関関係がある要因を調査するために計算された。SORDレベルは、15分(ICG-R15)(r=0.27、p=0.008)及びAST(r=0.23、p=0.027)でのインドシアニングリーン保有率と量との相関関係があり、アルブミン(r=-0.26)と負の相関関係があった(r=-0.26;p=0.011)。SORDレベルとAFP(r=0.002、p=0.99)及びビタミンK欠乏または拮抗剤-II(PIVKA-II)によって誘導されたタンパク質を含む他の腫瘍標識子の間には、相関関係がなかった(r=0.08、p=0.46)。
【0098】
HCCの病理学的特性と手術前、血清SORDレベルとの相関関係を評価する時、微小血管侵犯またはEdmonson-Steiner等級の存在は、手術前、SORDレベルと関連がなかった。しかし、ALBI等級が高い被験者は、血清SORDレベルがさらに高い傾向があった。BCLC BまたはCを有した患者が拡張分析に含まれた時、ALBI等級がさらに高いか、Child-Pugh点数がさらに高い患者は、手術前、血清SORDレベルがさらに高いと確認された。これは、基準手術前、SORDレベルが肝機能を反映することができるということを示す。
【0099】
III.討論
【0100】
この研究は、肝細胞癌腫で治療目的切除術を受けた患者で手術前、血清SORDレベルと手術結果との関連性を評価した。手術前、血清SORDレベル(<15ng/mL)が低い患者の2年RFSが83.0%であることに比べて、手術前、血清SORDレベル(≧15ng/mL)が高い患者は、2年に50.1%と有意にさらに予後が良くなかった。多変量Cox回帰分析時に、高いSORDレベルは、HCCに対する完治目的切除術後、RFSと関連した統計的に有意な予後因子と確認された。参考までに、下位グループ分析で手術前、SORDレベルは、特に低い血清AFPレベル(<400ng/mL)を有した患者と比較して高い血清AFPレベル(≧400ng/mL)を有した患者で手術結果をよく予測した。患者を手術前、血清AFP及びSORDレベルに階層化した時、手術前、AFP及びSORDレベルがいずれも上昇した患者は、鮮明に不良な予後を示した。
【0101】
SORDは、身体の多様な組織に存在するが、主に肝から見つけられる酵素である。一般的に、血清SORD数値は低いが、肝損傷がある場合、ALT及びASTと共に数値が増加する。これは、上昇したSORDレベルが肝細胞損傷を示すということを示唆する。慢性肝細胞損傷及び肝細胞壊死は、筋線維芽細胞の活性化を起こして肝線維症と肝硬変症とを誘発する。肝硬変症で持続的な肝細胞損傷は、テロメアを破壊し、活性酸素種を放出し、細胞微小環境で傍分泌信号を変更することにより、発癌に寄与する。また、以前のproteomic研究では、肝細胞癌腫患者の肝組織でSORD発現が低いほど生存率が低いという事実が明らかになった(Human Protein Atlas.Availabe online:https://www.proteinatlas.org/ENSG00000140263-SORD/pathology/liver+cancer(accessed on 26 July)。
【0102】
肝でSORD活性が低いか、ない時、ソルビトールは、肝細胞に蓄積される。ソルビトールを含む糖アルコールがSORD活性の不足によって肝に蓄積されれば、肝癌発生に寄与することができる。また、SORD活性の不足が癌細胞でポリオール経路のような当該経路を活性化させれば、ソルビトールの追加蓄積に寄与し、これは、HCCの不良な分化の促進に寄与することができる。
【0103】
本発明において、高い血清AFPレベル(≧400ng/mL)及び高い血清SORDレベル(≧15ng/mL)は、多変量Cox回帰分析を基盤とするRFSに対する2種の独立した予後因子と確認されたが、本研究で手術結果を予測するためのSORDの効果の大きさは、AFPよりもさらに大きかった。興味深くも、相互作用(下位グループ)分析は、SORDとAFPとが手術結果予測に相互作用し、AFP数値が上昇した患者でSORDの予測能力が向上するということを示した。この結果は、SORDが完治目的のHCC切除術を受けた肝細胞癌腫患者でAFPの予後能力を補完できるということを示唆する。実際に、SORD及びAFP数値がいずれも上昇した患者は、6ヶ月未満のRFS中央値であって、深刻な予後を示した。
【0104】
完治目的切除術後、肝細胞癌腫の再発に対するよく知られた他の予後因子としては、微小血管侵犯と腫瘍サイズとがある。しかし、現在、研究でこのような組織学的要因は、RFSと有意な関連がなかった。これは、いずれもBCLC 0期またはA期であり、小さな腫瘍(中央値、3.0cm)がある患者の特性のためである。進行性BCLC病期と大きな腫瘍サイズを有した患者は、完治目的の切除が治療の標準ではないために、この研究に含まれなかった。以前の研究では、特に、初期段階の肝細胞癌腫患者で微小血管侵犯が長期間の手術結果に影響を及ぼさないと言及した。
【0105】
我々が分かる限り、肝細胞癌腫に対する他の予後因子と血清SORD数値との相関関係を調査した以前の研究はない。この研究でSORDレベルと腫瘍サイズ、AFP及びPIVKA-IIのような腫瘍予後因子との間には、有意な関連性がなかった。しかし、SORDレベルは、肝損傷または肝機能を反映するASTレベル、ICG-R15及びALBI等級と量との関連があった。SORDレベルは、AFP及びPIVKA-IIのような既存の他の腫瘍標識子と比較して予後を予測し、肝機能を反映するという利点がある。しかし、肝機能を評価するSORDレベルの有効性を確認するためには、追加研究が必要である。それにも拘らず、組織サンプルとは異なって、血液サンプルを得ることがさらに容易であるために、SORDは、HCC患者の臨床でさらに効率的であり、有用な予後予測因子として活用されうる。
【0106】
結論的に、手術前、血清SORDの上昇したレベル(≧15ng/mL)は、治療目的の切除術後、肝細胞癌腫患者で悪い予後と有意に関連した。しかも、手術前、血清SORD及びAFPレベルは、共に活用時に結果をさらによく予測することができ、SORD(≧ 15ng/mL)及びAFP(≧400ng/mL)レベルがいずれも上昇した患者で特に悪い予後を予測することができた。このような結果に基づいて、臨床で血清SORDを単独で、またはAFPレベルと共に使用すれば、手術的治療が適切な患者を選別するに当たって、意思決定を助け、手術後、生存率が低いと予想される患者では、不要な手術を避けることができると期待する。
【国際調査報告】