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特表2024-543443メタクロレインの直接酸化的エステル化における煩雑な二次生成物を除去する方法
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  • 特表-メタクロレインの直接酸化的エステル化における煩雑な二次生成物を除去する方法 図
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】メタクロレインの直接酸化的エステル化における煩雑な二次生成物を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/44 20060101AFI20241114BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20241114BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
C07C67/44
C07C69/54 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527709
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2022081278
(87)【国際公開番号】W WO2023083869
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】21207875.2
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD11
4H006AD16
4H006BA05
4H006BA20
4H006BA30
4H006BC16
4H006BC51
4H006BD10
4H006BD33
4H006BD34
4H006BD40
4H006BD52
4H006BD60
4H006BE30
4H006KA36
4H006KC14
4H039CA66
(57)【要約】
本発明は、メチルメタクリレートを調製するための最適化された方法であって、このMMAおよびそれから調製されるポリマーは、非常に低い黄色度によって特徴付けられる、方法に関する。この場合、MMAは、本発明によれば、メタクロレインの直接酸化的エステル化により調製される。特に本発明は、メタクロレインの酸化的エステル化の反応器搬出物の最適化されたワークアップであって、これによって、とりわけ変色する副生成物が、MMAを著しく損なわずに除去または分解される、ワークアップに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルメタクリレートを調製するための方法であって、
a.メタクロレインを反応器Iで調製する方法工程と、
b.前記メタクロレインを、アルコール、酸素および不均一系貴金属含有触媒の存在下に、少なくとも1つの反応器IIで酸化的エステル化する方法工程と、
c.反応器IIからの反応器搬出物を蒸留塔Iで蒸留して、メタクロレインと、メタノールの一部とを分離する方法工程と、
d.任意選択的に、方法工程cからの塔底搬出物を前処理する方法工程であって、
i.酸を添加してpH値を変化させる工程と、
ii.水を添加して二相の混合物を得る工程と、
iii.iiからの前記混合物の少なくとも一部を反応処理する工程と
を含む、方法工程と、
e.蒸留塔Iからの塔底液または蒸留塔Iからの前記塔底搬出物の有機相を抽出Iで抽出する方法工程と
を有する、方法において、
前記抽出Iの有機搬出物中の前記メタクロレインの量が、前記蒸留塔Iの前記塔底搬出物中の前記メタクロレインの量よりも多いことを特徴とする、方法。
【請求項2】
抽出Iでの蒸留塔Iからの前記塔底液の抽出である方法工程e.を有する、アルキルメタクリレートを調製するための請求項1記載の方法において、
抽出Iおよび任意選択的に蒸留塔Iが耐酸性に設計されており、
有機酸および/または鉱酸が反応器IIからの反応器流と混合され、前記蒸留塔Iおよび/または前記抽出Iに案内され、
前記反応器搬出物が、30~100℃の温度で蒸留塔Iにおける1~30分の平均滞留時間を有し、
抽出Iにおいて、蒸留塔Iから移送された前記塔底液と、追加的に移送された酸との存在下で、10~100℃の温度で1~20分間、抽出中に滞留する
ことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反応器IIにおける反応が、0.1~10質量%の含水率および5~8のpH値で行われることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
反応器Iにおける方法工程aが、少なくとも1種の酸および任意選択的にアミンの存在下でのプロパナールとホルムアルデヒドとの反応であり、方法工程bにおける前記アルコールがメタノールであり、前記アルキルメタクリレートがMMAであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
方法工程cでメタクロレインジメチルアセタールが水を用いてメタクロレインとメタノールとに開裂され、これらの大部分は、前記蒸留塔Iにおいて、方法工程b.の残りの反応物と一緒に前記蒸留塔Iの塔頂部を介してまたは側流で分離され、反応器IIに返送されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
方法工程cで硫酸が前記酸として前記蒸留塔Iに案内され、任意選択的に方法工程eでさらに前記抽出に案内されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記蒸留塔Iの前記塔底液に追加の水が導入され、蒸留が50~100℃の塔底温度で行われることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記抽出Iがミキサー・セトラーであり、抽出剤として、水、水性硫酸または蒸留塔IVからの塔底液流が使用されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記酸が、前記蒸留塔Iの前記塔底液からの流出流に加えられることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
方法工程e.の後に単離および精製段が続き、これは、少なくとも1つの任意選択的な相分離器、少なくとも1つの高沸点物塔および少なくとも1つの低沸点物塔であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
方法工程e.において、前記抽出Iで、蒸留塔Iからの前記塔底搬出物が、MMAを含有する相と、使用される酸およびその塩を含有する極性相とに分離され、前記MMAを含有する相が、引き続き蒸留塔IIに案内され、前記蒸留塔IIは、好ましくは、MMA相から高沸点成分を分離するための蒸留塔であることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記蒸留塔IIが耐酸性に設計されており、前記蒸留塔IIの塔底液および/または供給部に、酸、好ましくは硫酸が導入されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記蒸留塔IIが、前記MMA相から低沸点成分を分離するための蒸留塔であり、その塔底液および/または供給部に、酸、好ましくは硫酸が導入され、前記蒸留塔IIの前記塔底液が、前記MMA相から高沸点成分を分離するための耐酸性に設計された蒸留塔IIIに案内されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項14】
添加される酸が、メタクリル酸のpKa値よりも1小さいpKa値を有することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法の方法工程a~dによって調製可能なMMAにおいて、
前記MMAが、メタクロレインジメチルアセタール(DMIB)およびイソ酪酸メチルを有し、90ppm未満のDMIB含有量および200ppm未満のイソ酪酸メチル含有量を有することを特徴とする、MMA。
【請求項16】
前記MMAが、50ppm未満のDMIB含有量および250ppm未満のイソ酪酸メチル含有量を有することを特徴とする、請求項15記載のMMA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルメタクリレートを調製するための最適化された方法であって、このMMAおよびそれから調製されるポリマーは、非常に低い黄色度によって特徴付けられる、方法に関する。この場合、MMAは、本発明によれば、メタクロレインの直接酸化的エステル化により調製される。
【0002】
特に本発明は、メタクロレインの酸化的エステル化の反応器搬出物の最適化されたワークアップであって、これによって、とりわけ変色する副生成物が、MMAを著しく損なわずに除去または分解される、ワークアップに関する。
【0003】
背景技術
メチルメタクリレートは、ポリマーおよび他の重合性化合物とのコポリマーの調製に大量に使用される。さらに、メチルメタクリレートは、適切なアルコールとのエステル交換反応によって調製され得るメタクリル酸(MAA)ベースの様々な特殊エステルの重要な合成単位である。そのため、この出発原料を調製するための、可能な限り簡便で経済的かつ環境に優しい方法に大きな関心が寄せられている。ここでとりわけ興味深いのは、重合中の黄変が少ないメチルメタクリレート(MMA)または他のアルキルメタクリレートを提供することである。
【0004】
MMAは、現在、C、CまたはC合成単位から出発する様々な方法によって調製される。とりわけ効率的といわれる1つの方法では、イソブチレンまたはtert-ブタノールを不均一系触媒上で空気中酸素により気相酸化してメタクロレインを生成し、続けてメタノールを使用してメタクロレインを酸化的エステル化反応させることによりMMAが得られる。朝日化学工業株式会社が開発したこの方法は、なかでも米国特許第5,969,178号明細書および米国特許第7,012,039号明細書の刊行物に記載されている。この方法の欠点は、特に必要エネルギー量が非常に高いことである。この方法をさらに発展させると、メタクロレインは第1の段でプロパナールおよびホルムアルデヒドから取得される。このような方法は国際公開第2014/170223号に記載されている。
【0005】
米国特許第5,969,178号明細書には、イソブテンまたはtert-ブタノールを酸化的転化してメタクロレインを得て、続けて酸化的エステル化してMMAを得るための方法が記載されている。この第2の段では、メタクロレインとメタノールとからの含水量が低下した液体混合物が分子状酸素およびパラジウム触媒と反応させられ、この触媒は、通常、パラジウム-鉛触媒として担体上に存在する。それから、最初の蒸留段で、メタクロレインとメタノールとからの混合物が、精留塔の塔頂凝縮液として酸化的エステル化の粗生成物から除去され、一方、例えばアセトンを含有する低沸点成分が蒸気として塔頂部で除去される。それから、MMAを含有し、メタクロレインに乏しい塔底液は、次に第2の蒸留段に送られ、この第2の蒸留段の塔頂還流液に、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびそれらの異性体から選択される飽和炭化水素が添加される。この飽和炭化水素は、第2の蒸留段でメタノールと共沸物(例えば、沸点が49.9℃のメタノール/n-ヘキサン共沸物)を形成し、それによって、塔底液に残るMMAを含有する相からメタノールが分離される。さらに、水も飽和炭化水素と、共沸物、例えば、沸点が61.6℃の水/n-ヘキサン共沸物を形成し、同様にMMAから分離される。蒸留塔の塔底部には、MMAに加えて、例えばメタクリル酸のような更なる高沸点生成物を含有する粗製MMAが残る。第2の蒸留段の塔頂部では、メタノールおよび水のそれぞれと飽和炭化水素との2つの共沸物が凝縮され、相分離器に送られる。必要に応じて、新鮮な飽和炭化水素を「メークアップ(Make-Ups)」の形でこの凝縮液流に添加することができる。相分離器の上相は主に飽和炭化水素を含有し、還流液として第2の蒸留段に戻される。相分離器の下相は第3の蒸留段に送られ、そこでメタノールと水とからの混合物が塔底生成物として得られる。次いで、この混合物は、メタクロレインを得るためのイソブテンまたはtert-ブタノール酸化と、実際の直接酸化的エステル化との間の脱水に供給することができ、それによって、直接酸化的エステル化における水の量を減らすことができる。
【0006】
第3の蒸留段の塔頂生成物は、メタノールおよび水のそれぞれと、使用された飽和炭化水素との2つの共沸物からなり、凝縮された形で相分離器に返送される。
【0007】
したがって、直接酸化的エステル化の反応物は直接的または間接的にリサイクルされ、最終的に粗製MMAを商業的品質まで精製することができる。
【0008】
米国特許第5,969,178号明細書には、反応物を返送するためのさらに代替的な実施形態が開示される。同明細書では、直接酸化的エステル化からの反応生成物は、第1の蒸留塔に案内され、塔へのフィード供給部は塔のほぼ中央に位置する。この蒸留塔では、塔頂凝縮液として、なかでもメタノール、メタクロレイン、MMAおよび水からの混合物が得られる。前述したように、例えばアセトンを含有する低沸点成分が蒸気として塔頂部を介して除去され得る。塔頂凝縮液は、沸点58.0℃を有するメタクロレインとメタノールとの、沸点64.5℃を有するMMAとメタノールとの2つの共沸物からの結果である。先の実施形態と同様に、この塔頂留出液は、次いで、メタクロレインを得るためのイソブテンまたはtert-ブチル酸化と、実際の直接酸化的エステル化との間の脱水に供給することができるが、この場合、ともすればメタクリル生成物の収率が低下するため、MMAは脱水の塔底生成物とは別個に回収しなければならない。
【0009】
第1の蒸留塔の塔底生成物は、MMAに加えて、さらに水と、例えばメタクリル酸のような高沸点生成物とを含有する。この塔底生成物は冷却後に相分離され、MMAを含有する有機相は、MMAの商業的品質を得るために、高沸点生成物および低沸点生成物を除去するための通常のワークアップに供される。水相は廃棄され、それによって、MMAおよびメタクリル酸のそれぞれが水に溶解した形で収率損失が生じる。
【0010】
米国特許第7,012,039号明細書には、酸化的エステル化の反応器搬出物の若干異なるワークアップが開示される。ここでは、最初の蒸留段で、メタクロレインがふるいトレイを経由して塔頂部から留去され、MMAを含有する水性混合物は塔底部から相分離器に案内される。この相分離器において、混合物は硫酸の添加によって約2のpH値に調整される。次いで、硫酸水と有機相/油相との分離は、遠心分離によって行われる。この油相は、更なる蒸留で高沸点成分と、塔頂部で抜き出されるMMAを含有する相とに分離される。その後、MMAを含有する相は、第3の蒸留で低沸成分から分離される。それに続けて、最終精製のためにさらに第4の蒸留が行われる。
【0011】
この方法で問題となるのは硫酸であり、これが大量に添加されなければならず、プラントの部品に腐食的に作用する可能性がある。したがって、これらの部品、例えば、特に遠心分離機と記載されている相分離器、あるいは、第2の蒸留塔は、それらに適した材料から作製しなければならない。さらに、米国特許第7,012,039号明細書も、同時に発生するメタクリル酸または生成物中に残存するメタノールの取り扱いについては言及していない。しかしながら、前者は蒸留段で一緒に除去され、一方で、メタノールは部分的にしか取得されず、メタクロレインと一緒に返送され、一方で、残りはおそらく第3の蒸留段で失われると推測される。この方法自体は、特に第1の方法工程としてイソブテンを酸化してメタクロレインを得ることによる、規格通りの無色MMAの調製に関して問題がある。それというのも、そこでかなりの割合のジアセチルが気相で作り出されるからである。ジアセチルは、MMAおよびそれから調製されるPMMAの黄色着色物質として知られており、その微量濃度は注意深く管理されなければならない。さらに、この先行技術には、メタクロレインのアセタール、特にメタクロレインジメチルアセタールが形成される量がどの程度のもので、これらが方法でどのように物理的または化学的に処理され除去されるかについての指摘は存在しない。この特許における硫酸の添加は、特に、都市浄水の要件を満たす廃水を得るために、難溶性の硫酸鉛の形態で鉛カチオンを除去する役割を果たすことを指摘しておく。鉛カチオンは第2の段の触媒から溶解除去され、触媒活性を維持するために、さらに酢酸鉛を第2の段に連続的に供給しなければならない。
【0012】
国際公開第2014/170223号は、米国特許第7,012,039号明細書と同様の方法を記載している。唯一の違いは、実際の反応において、メタノール性水酸化ナトリウム溶液の添加によってpH値が循環路内で調整されることである。これは、なかでも触媒を保護する役割を果たす。さらに、相分離における水相の除去は、塩分があるためより簡単になる。しかしながら、生成されるメタクリル酸はナトリウム塩の形態で存在し、後に水相とともに除去され廃棄されることにもつながる。相分離において硫酸を添加する変形例では、遊離酸は確かに回収される。しかしながら、その代わりに硫酸(水素)ナトリウムが発生し、廃棄時に別の問題を引き起こす可能性がある。
【0013】
最後に、欧州特許第3350153号明細書(国際公開第2017/046110号)は、酸化的エステル化から得られた粗製MMAの最適化されたワークアップを教示しており、この場合、粗製MMAは最初に重相から分離され、引き続き、この重相からアルコール含有軽相が留去され、これを再びリサイクルすることができる。この方法の特徴は、さらに、ここでメタクロレインがプロパナールおよびホルムアルデヒドに基づいて得られることであり、前者はC2合成単位、例えばエチレンおよび合成ガスから取得される。同特許は、メタクロレインおよびメタノールの直接酸化的エステル化からMMA含有生成物混合物をワークアップしてMMAを得ることを教示しており、その際、転化されなかった反応物であるメタクロレインおよびメタノールが第1の蒸留塔で塔頂部を介して蒸留により抜き出され、直接酸化的エステル化の反応器にリサイクルされる。塔底部で得られたMMA、水、メタノールの混合物は、さらに、遊離メタクリル酸、および対応するアルカリ金属塩、および少量のメタクロレインジメチルアセタールを含有している。この混合物は酸性化され、追加的に水が加えられる。引き続き、相分離器で相分離が行われ、それに続けて有機の上相が抽出される。この一連のワークアップ工程では、対応するアセタールも開裂されることが記載されている。しかしながら、アセタール開裂がどの程度完全に行われたかについては何も指摘されておらず、開裂生成物であるメタクロレインおよびメタノールが直接的または間接的にどのようにワークアップされるかについては未解決のままである。さらに、この教示は、最終的に純粋なMMAにどれだけのアセタールが残っているのか、そしてこのことが用途の製品品質にどのような影響を及ぼすのかについても未解決のままにしている。
【0014】
しかしながら、総じて、使用されるメタクロレインの原料ベースとは無関係に、これらの方法のすべては、特に二次製品、例えばPMMA成形材料などに黄変をもたらすMMAまたは一般的なアルキルメタクリレートをもたらす。つまり、重合前のこの黄変の原因が、対応するアルキルメタクリレート、特にMMAから可能な限り効率的に取り除かれるような改良が必要とされている。
【0015】
欧州特許出願公開第3450422号明細書では、直接酸化的エステル化によって調製されるMMAの二次製品のこの黄変に関連する物質として2つの異なる物質が同定された。これは、第一に、メタクロレインジメチルアセタール(以下、DMIBともいう)である。そのうえ、この方法で副生成物として形成されるイソ酪酸メチルも変色に関与しているようである。そこで、酸化的エステル化の反応器搬出物を、アルコール含有量を減らし、水分含有量を増やし、pH値を下げた別の反応器でさらに転化するというコンセプトが提案された。しかしながら、この方法では追加の反応装置が必要とされる。そのうえ、この反応器は、副生成物の関連した減少に十分な滞留時間を達成するために、比較的大きく設計しなければならない。同特許出願は、直接酸化的エステル化からの生成物混合物の処理を教示しており、転化されなかったメタクロレインおよびメタノールをまず蒸留により分離し、MMA、水、メタノール、遊離メタクリル酸、ならびに対応するアルカリ金属塩および少量のメタクロレインジメチルアセタールを含有する残りの塔底液画分を、追加の反応器中で追加の水および酸と接触させ、それによって、アセタールの広範な加水分解を達成する。アセタールの加水分解およびイソ酪酸メチルの加水分解は、例えば連続撹拌槽、プラグフロー反応器、相分離器、または塔底部など、様々な実施形態で記載されている。アセタールおよびイソ酪酸メチルの加水分解はまさに効率的に進行し、20ppm未満のアセタール含有量が達成されるが、同出願では、記載された条件下で、MMA、ひいてはこの方法の有価生成物の加水分解が行われることも明確に言及されていない。したがって、目的生成物の収率は低下し、メタクリル酸ならびに共役二重結合への水またはメタノールの付加生成物が追加で生成される。なかでもヒドロキシイソ酪酸の形成は、この成分が強い腐食作用を持つことから、非常に重要である。
【0016】
課題
したがって、先行技術に鑑みて、本発明の課題は、後続処理することで二次製品の黄変がとりわけ少なくなる、メタクロレインを酸化的エステル化してMMAを調製するための技術的に改良された方法を提供することである。
【0017】
特に、本発明の根底には、メタクロレインの酸化的エステル化中に形成され、特に、二次製品の黄変につながる副生成物DMIBをMMAから効率的に除去するという課題があった。
【0018】
そのうえ、最終MMA中の副生成物であるイソ酪酸メチルの含有量を可能な限り少なく保つという課題を解決することも求められる。
【0019】
さらに、特に、例えばメタクリル酸へのMMA加水分解の形で、MMAの損失を可能な限り少なくするように、黄変につながる副生成物を回避することが課題であった。
【0020】
さらに、特に、廃棄物流における有機成分および酸の発生を減らすことによって、可能な限り少ない廃棄手間で進めることができる方法を提供することであった。
【0021】
解決手段
これらの課題は、アルキルメタクリレート、特にMMAを調製するための新規の方法の開発によって解決された。この方法は、
a.メタクロレインを反応器Iで調製する方法工程と、
b.メタクロレインを、アルコール、酸素および不均一系貴金属含有触媒の存在下に、少なくとも1つの反応器IIで酸化的エステル化する方法工程と、
c.反応器IIからの反応器搬出物を蒸留塔Iで蒸留して、メタクロレインと、メタノールの一部とを分離する方法工程と、
d.任意選択的に、方法工程cからの塔底搬出物を前処理する方法工程であって、
i.酸を添加してpH値を変化させる工程と、
ii.水を添加して二相の混合物を得る工程と、
iii.iiからの混合物の少なくとも一部を反応処理する工程と
を含む、方法工程と、
e.蒸留塔Iからの塔底液または蒸留塔Iからの塔底搬出物の少なくとも1つの有機相を抽出Iで抽出する方法工程と
を有する。
【0022】
本発明は、特に、抽出Iの有機搬出物中のメタクロレインの量が、蒸留塔Iの塔底搬出物中のメタクロレインの量よりも多いことを特徴とする。本発明によれば、これは特に、メタクロレインベースのアセタールおよびヘミアセタールの加水分解転化によって達成される。これはまた、好ましくは、反応性蒸留および/または反応性抽出によって反応を実施することによって達成される。
【0023】
本発明は、さらに、抽出Iの有機搬出物中のメタクリル酸の量が、蒸留塔Iの塔底搬出物中のメタクリル酸およびその塩を基準として、蒸留塔Iの塔底搬出物中のメタクリル酸の量と10%未満、好ましくは5%未満異なることを特徴とする。これは、その目的のために設けられた反応器中でのアセタール開裂と、加水分解も行われる抽出装置との組み合わせによって達成される。
【0024】
メタクロレインの直接酸化的エステル化からMMAを得ることは、先行技術によれば、90%を超えるMMAの選択率で進行する。さらに、例えば直接酸化的エステル化における含水量などの条件に応じて、1%~5%のメタクリル酸の選択率が達成され、0.5%~3%の3-メトキシイソ酪酸メチルの選択率も見出される。本発明に係る方法は、驚くべきことに、90%よりも高いDMIBの加水分解を可能にするが、同時にMMAからメタクリル酸への望ましくない加水分解を3%未満の加水分解転化率に低減することができる。好ましくは、望ましくない加水分解は、1%未満の転化率に、極めて好ましくは0.5%未満の転化率に低減することができる。
【0025】
本発明に係る方法は、好ましくは、蒸留塔Iおよび抽出Iがそれぞれ耐酸性に設計されており、有機酸および/または鉱酸が反応器IIからの反応器流および/または蒸留塔Iの塔底液に案内されることを特徴とする。
【0026】
好ましくは、この添加される酸は、メタクリル酸のpKa値よりも1小さい、好ましくは2小さいpKa値を有する。
【0027】
本発明の第1の実施形態では、蒸留塔Iからの塔底搬出物の全体が抽出Iに、好ましくは抽出Iの塔底部に案内される。この場合、酸の添加は、アルカリ(土類)金属メタクリレートからメタクリル酸を遊離させるために、好ましくは、すでに蒸留塔I中で行われるか、または蒸留塔Iから出る塔底液流中で行われる。
【0028】
本発明の第2の代替的な実施形態では、蒸留塔Iからの塔底搬出物はまず相分離器Iに案内され、そこで、メタクロレインに富む、特にMMAから主としてなる有機相と、水に富む極性相とへの分離が行われる。相分離は、水の添加と酸の添加とによって促進され、蒸留塔の塔底搬出物はpH変化を受ける。この実施形態では、次いで、有機相は抽出Iに案内され、一方で、極性相は蒸留塔IVに移送される。この蒸留塔IVで、アルコール分、特にメタノール分を、水相から分離することができる。次いで、アルコール含有塔頂留分を直接的または間接的に反応器IIにリサイクルすることができ、一方、水性塔底留分は廃棄することができる。全体的な原料消費量を改善するために、抽出Iからの塔底画分をさらにこの蒸留塔IVに通すこともできる。
【0029】
第1の実施形態の変形例Iでは、蒸留塔Iと抽出Iとの間に反応器IIIが配置されており、この反応器IIIでは、蒸留塔Iからの塔底搬出物が、抽出Iに案内される前に、水を添加しながら熱処理される。この反応器IIIは、メタクロレイン含有アセタールおよびヘミアセタールの加水分解開裂をもたらす役割を有する。
【0030】
第2の実施形態の変形例IIでは、蒸留塔Iと相分離器Iの間にそのような反応器IIIが配置されており、この反応器IIIでは、蒸留塔Iからの塔底搬出物が、水を添加しながら熱処理される。この反応器IIIは、メタクロレイン含有アセタールおよびヘミアセタールの加水分解開裂をもたらす役割を有する。
【0031】
4つの実施形態または変形例のすべてにおいて、酸は、抽出Iに導入する前にすでに蒸留塔Iから塔底液流に供給することができる。変形例IまたはIIでは、これは、例えば反応器IIIの上流または反応器IIIで直接行われる。第2の実施形態では、酸を相分離器Iの上流に通すこと、および/または抽出Iに直接通すことが好ましい。これは、それぞれのアルカリ(土類)金属メタクリレートからのメタクリル酸の放出を効果的にもたらし、同時に対応する塩対の形成をもたらす。硫酸およびメタクリル酸ナトリウムを使用する場合、例えば硫酸(水素)ナトリウムが対応する塩対として形成される。
【0032】
上記の実施形態または変形例において、酸の添加は、とりわけ好ましくは相分離器Iの上流で行われ、任意選択的に反応器IIIの上流で行われる。これらの記載された位置での酸の添加は、反応器IIからのアルカリ(土類)金属塩が予め形成され、極性相に大部分が存在し、それによって、後続の相分離および抽出Iがより効率的に進行するという利点を有する。これらの実施形態または変形例の中で、1つよりも多い位置に酸を添加することも考えられる。
【0033】
さらに、本発明に係る方法において、蒸留塔Iの反応器搬出物は、好ましくは、30~100℃の温度で1~30分、特に1~20分の平均滞留時間を有する。そのうえ、蒸留塔Iから移送された塔底液は、同時に移送された酸とともに、10~100℃、好ましくは最大90℃、とりわけ好ましくは20~60℃の温度で1~20分間抽出Iに滞留する。
【0034】
さらに、本発明に係る方法において、反応器IIIは、好ましくは、20~100℃の温度で10秒~30分、特に1~5分の平均滞留時間を有し、反応器III中の反応混合物は、好ましくは乱流混合を受ける。
【0035】
特に、有機酸および/または鉱酸と混合される反応器IIからの反応器流の供給に関しては、複数の選択肢がある。あまり好ましくはないが、酸を蒸留塔Iに直接通すことも可能であり、この実施形態では、蒸留塔Iは、この場合、必然的に耐酸性に設計されている。代替的に、混合物は、蒸留塔Iへの供給路の上流で別の流と混合することもできる。さらに、この流は、抽出Iに送るか、または抽出Iへの供給路の上流で別の流と予め混合することもできる。酸の供給は、代替的に反応器IIIの供給部で行うこともでき、または反応器IIIに直接行うこともできる。好ましくはないが、酸および反応器搬出物を別々に蒸留塔Iまたは抽出Iに通すことも可能である。
【0036】
個々の方法工程は、連続的に、1つずつ直後の方法工程に続けて実施する必要はないことに留意すべきである。例えば中間洗浄のような更なる方法工程を、特に、記載された工程aとbとの間に実施することもできる。方法工程a~eは、任意選択的に中間工程を補って、指定された順序で互いに続けて、連続的な運転で行われる。一般に、そして好ましくは、工程b~dは、そのような中間工程なしに行われ、一方で、方法工程aからのメタクロレイン(MAL)は、方法工程bで使用される前に、まず精製され脱水される。
【0037】
好ましくは、反応器IIにおける反応は、0.1~10質量%の含水率および5~8のpH値で行われる。
【0038】
原則として、反応器Iにおける方法工程a.のメタクロレインは、C2またはC4合成単位に基づいて調製することができる。好ましくは、方法工程aは、少なくとも1種の酸および任意選択的にアミンの存在下でのプロパナールとホルムアルデヒドとの反応、つまりC2合成単位から出発する方法工程である。特に、本発明に係る方法は、メタクロレインを調製するためのこのようなC2ベースの方法と、方法工程bでアルキルメタクリレートを得るためのその後の酸化的エステル化との組み合わせに適用することができる。これは特に、例えば独国特許出願公開第3213681号明細書、米国特許第4,408,079号明細書、中国特許第103846104号明細書または欧州特許第3194355号明細書に記載されているような、方法工程aおよびbのそのような組み合わせの記載に関する。
【0039】
好ましくは、反応器Iにおける方法工程aは、少なくとも1種の酸および任意選択的にアミンの存在下でのプロパナールとホルムアルデヒドとの反応である。とりわけ好ましくは、プロパナールは、さらにC2方法から取得される。本発明によれば、C2方法とは、アルキルメタクリレートの合成においてC2合成単位から出発する方法を言い表している。とりわけ好ましくは、本発明の文脈において、方法工程a)のためのプロパナールは、エチレンおよび合成ガスに基づいて取得される。
【0040】
さらに好ましくは、方法工程bにおけるアルコールはメタノールであり、アルキルメタクリレートはMMAである。
【0041】
酸の添加によって、メタクロレインジメチルアセタール(ジメトキシイソブテン、DMIB)は、方法工程dおよびeで、または反応器IIIの変法IもしくはIIならびに方法工程dおよびeで、水とともにメタクロレインとメタノールとに開裂される。これらの開裂生成物は、方法工程bで使用された反応物に相当し、これらの残りの反応物と一緒に大部分が蒸留塔Iおよび/または抽出Iおよび/または任意選択的に蒸留塔IVの塔頂部を介してまたは側流で分離され、任意選択的に直接的または間接的に反応器IIに返送される。ここでの「大部分」という表現は、一般に、MALおよびメタノールの少なくとも70%を包含する。リサイクル率が反応器IIの搬出物から差し引かれる場合、これは好ましくはMALおよびメタノールについて98%をさらに上回る。
【0042】
代替的に、抽出Iの塔頂生成物を蒸留によりMMAを含有する相と低沸点相とに分離することもでき、方法工程bからの反応物は低沸点相にある。この低沸点相はまた、有機相と水相とに分かれる。水相分および/または有機相分は、例えばイソ酪酸メチルまたはプロピオン酸メチルのような、MMAから分離することが困難な成分を含有し、したがって、任意選択的に、プロセスに完全にリサイクルする代わりに方法から排出することができる。
【0043】
酸の添加は、方法工程dにおいて、蒸留塔Iの塔底液に直接案内されるように行うことができる。代替的に、またはあまり好ましくはないが、酸はさらに、例えば反応器IIからの供給物にも供給することができる。さらに、反応器IIからの粗生成物に、まず混合チャンバー内で酸を供給し、その後にこの混合物を蒸留塔Iに供給することも可能である。
【0044】
塔底液に酸を添加する場合、塔の設計と酸の選択とからの組み合わせを考慮する必要がある。特に、塔が蒸留充填物で適切な程度まで充填されている場合、ナトリウムイオンのような潜在的に存在するイオンと難溶性の塩を形成するような酸を選択すべきではない。それに付随した塔の経時的な閉塞または目詰まりを防止するため、塔底液に酸を添加する場合、例えば、硫酸の代わりにメタンスルホン酸を使用することができる。
【0045】
特に好ましくは、使用される酸は硫酸である。ここでの硫酸は濃硫酸を含むが、硫酸の水溶液も含む。好ましいのは、硫酸割合が少なくとも10質量%の水性硫酸を使用することである。さらに好ましくは、蒸留塔Iでの蒸留は、50~100℃の塔底温度で行われる。液相で測定されるこの内部温度は、特に内圧と、使用される蒸留塔の正確な構成とに依存する。中間トレイ、充填材料または比較的大きな内部容積を有する塔は、一般に、それぞれの構成を有しない塔とは異なる温度で運転することができる。
【0046】
任意選択的に、結果を改善するために、蒸留塔Iの塔底液に追加の水を導入することができる。
【0047】
とりわけ好ましくは、酸は、蒸留塔Iの塔底液からの流出流に加えられる。
【0048】
本発明の任意選択的な実施形態では、酸、好ましくは硫酸を、方法工程eで抽出に追加的に通すことができ、硫酸は濃縮されていてもよいが、硫酸の水溶液を使用することもでき、好ましいのは、少なくとも10質量%の硫酸割合を有する硫酸水溶液を使用することである。プロセス全体の構成に応じて、抽出におけるこの追加的な酸によって、副生成物含有量、特にDMIBの含有量をさらに低減することができる。当業者であれば、選択された実施形態において、抽出Iへの酸の追加的な添加がプラスの効果を有するか、または方法工程dから移動した酸が抽出Iにおいて十分であるかどうかを、わずかな修正で容易に確認することができる。酸性媒体中の水によるメタクロレイン含有アセタールの開裂は、本発明に係る方法によって、単離後に90ppm未満のDMIB含有量を有する商業的品質のMMAが達成されるように実施される。
【0049】
好ましくは、方法工程dの抽出Iは、ミキサー・セトラーである。しかしながら、代替的に、例えば遠心抽出または撹拌セル抽出のような他の装置を使用することもできる。反応器IIIとしてのプラグフロー反応器と、抽出Iの上流の相分離器Iとしてのセトラーとからの組み合わせも非常に有利であることが証明されている。任意選択的に、これらの変法の1つにおいて、追加の水を供給することもできる。
【0050】
抽出剤として使用される媒体は、好ましくは水、水性硫酸または蒸留塔IVからの塔底液流の少なくとも一部分である。
【0051】
一般に、方法工程eの後に単離および精製段が続く。この精製段は、相分離器、高/低沸点物塔のような蒸留塔または晶析室であってもよい。好ましくは、それらは任意選択的に少なくとも1つの相分離器、少なくとも1つの高沸点物塔および少なくとも1つの低沸点物塔である。
【0052】
方法工程eにおいて、抽出Iで、蒸留塔Iからの塔底搬出物は、アルキルメタクリレートを含有する相、特にMMAを含有する相と、使用される酸およびその塩を含有する極性相とに分離される。形成されたメタクリル酸または他の軽質有機酸は、対照的に、MMAを含有する相にあくまで主として残る可能性がある。好ましくは、MMAを含有する相は、引き続き蒸留塔IIに案内される。好ましくは、この蒸留塔IIは、MMA相から高沸点成分を分離するための蒸留塔である。
【0053】
とりわけ好ましくは、この蒸留塔IIは、耐酸性に設計されている。
【0054】
代替的な実施形態において、蒸留塔IIは、MMA相から低沸点成分を分離するための蒸留塔である。この場合、酸、好ましくは硫酸、特に水性硫酸を、塔の塔底液および/または供給部に導入することができる。この実施形態では、それからこの蒸留塔IIの塔底液は、MMA相から高沸点成分を分離するための耐酸性に設計された蒸留塔IIIに案内され、その結果、この特別な実施形態では、MMAを含有する流は、計4つの異なるプロセス工程で比較的高温で酸と接触させられ、副生成物の割合はその都度さらに低減されることになる。
【0055】
しかしながら、極めて好ましいのは、先行する実施形態と比較して逆の構想を有し、蒸留塔IIが高沸点物塔であり、蒸留塔IIIが低沸点物塔である、別の実施形態である。この実施形態では、一般に蒸留塔IIIへの酸添加は行われない。
【0056】
本発明によれば、本発明は特に、蒸留塔Iの塔底液における方法工程cで、含水率が反応器IIよりも絶対量で少なくとも2質量%、好ましくは少なくとも3質量%、特に好ましくは少なくとも4質量%高いということによって特徴付けられる。本発明の幾つかの実施形態において、特に、酸が抽出Iの塔底部に直接送られる場合、含水率の差はまた、あくまで反応器IIよりも絶対量で20質量%、それどころか30質量%以上高くなる可能性がある。
【0057】
さらに、蒸留塔Iの塔底液における方法工程cのアルコール濃度は、方法工程bが実施される反応器IIよりも低い。これはすでに蒸留だけの結果である。しかしながら、DMIBの分解に関しても決定的な役割を果たしているようである。
【0058】
最後に、この新規の方法は、酸の添加後の蒸留塔Iからの塔底排出物中のpH値が、一般に0.5~7、好ましくは0.5~4、特に0.5~3であり、反応器IIで確立されるよりも少なくとも0.5低いことを特徴とする。
【0059】
抽出IのpH値は、酸の添加後、一般に0.5~7である。ここでの酸の添加は、実施形態1および2ならびにその変形例IおよびIIに従って行うことができる。好ましくは、pH値は0.5~4、特に0.5~3であり、好ましくは反応器IIよりも少なくとも0.5低い。
【0060】
驚くべきことに、本発明により調製されるアルキルメタクリレート、特に本発明により調製されるMMAは、とりわけ無色の最終生成物をもたらすことが見出された。このことは、例えば、しばしば生成物を脱ガスに供し、この脱ガスによって取得されたリサイクル液を更なる重合工程で使用するために重合に返送する重合プロセスにおけるケースである。この場合、副生成物、特に比較的蒸気圧の低い副生成物が、プロセス中に蓄積される可能性がある。この副生成物、特にジメトキシイソブテン(DMIB)およびイソ酪酸メチルの蓄積は、後続のバッチでポリマーの黄変をさらに増加させる。したがって、何回かリサイクルした後、これらの副生成物に関してリサイクル液の循環を減少させるために、リサイクル液の一部を廃棄しなければならない。このことはまた、ポリマー全体の収率の低下につながる。本発明に係る方法により、驚くべきことに、リサイクル液の返送および再利用を伴うバッチを著しく多く実施することが可能になり、ひいてはポリマー全体の収率をかなり向上させることができる。
【0061】
そのうえ驚くべきことに、本発明に係る方法では、DMIB含有量が低減されるだけでなく、最終生成物中の望ましくないイソ酪酸メチルの割合も低減されることが判明した。
【0062】
アルキルメタクリレート樹脂およびそれから調製される二次製品においてDMIBがもたらす驚くべき同定されたマイナスの影響は、黄変に加えて、アルキルメタクリレートから調製されるポリマーの熱安定性の低下である。これは、熱処理中により深刻なポリマー鎖の分解に起因し、特に成形品を得るための処理中およびポリマーシロップのワークアップ中に影響を及ぼす。したがって、本発明の更なる利点は、本発明により調製されるアルキルメタクリレートが、それから調製されるポリマーに関してこれらの欠点を有しないことである。
【0063】
記載された方法に加えて、例えば、本発明に係る方法工程a~eから生成物として取得され得る新規のアルキルメタクリレートは、本発明の主題の一部を成す。したがって、これらの新規のアルキルメタクリレートは、アルキルメタクリレートが構成成分として必ずDMIBを有することによって特徴付けられる。そのうえ、アルキルメタクリレートは、一般にイソ酪酸メチルも有する。
【0064】
特に、これらのアルキルメタクリレートは、メタクリレート合成の基本合成単位としてC3またはC4ベースの代わりにC2ベースから出発する非常に有利な方法によって調製され得るものである。このアルキルメタクリレートについて特に新しい点は、先行技術に記載されている材料と比較して、これは確かにDMIBを有するが、DMIBは90ppm未満、好ましくは50ppm未満、極めて好ましくは20ppm未満という従来知られていない含有量で存在することである。特に、90ppm未満の含有量は、目に見える黄変を伴わないメタクリレート樹脂の調製にとりわけ適している。
【0065】
さらに好ましくは、本発明によるアルキルメタクリレートは、250ppm未満、とりわけ好ましくは200ppm未満、特に好ましくは170ppm未満のイソ酪酸メチル含有量を追加的に含む。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】アルキルメタクリレートを調製するための方法を示す。
【0067】
符号の説明
1-MALおよびメタノールを直接酸化的エステル化してMMAを得るための反応器II
2-新鮮なMALの任意選択的な供給;MALは任意選択的に1に直接供給することもできる
3-硫酸の可能な供給
4-蒸留塔Iへの供給流
5-MALおよびメタノールを返送するための蒸留塔I
6-MALおよびメタノールを有する5から1へのリサイクル液流/留出液流(反応器II)
7-硫酸および水の可能な供給
8-5から出る塔底液流
9-アセタールを開裂するための任意選択的な反応器III
10-硫酸および水の可能な供給
11-反応器IIIから相分離器Iへの流
12-任意選択的な相分離器I
13-相分離器Iからの流出流-水相(塩に富む)
14-蒸留塔IVの塔底液流
15-なかでも更なるメタノール回収のための蒸留塔IV
16-蒸留塔IVの留出液流-任意選択的に、反応器IIまたは5もしくは6に返送してもよい
17-蒸留塔IVに送り込むための抽出塔Iから出る水性塔底液流
18-相分離器Iからの流出流-有機相(MMAに富む)
19-なかでもDMIB(メタクロレインジメチルアセタール)を開裂するための抽出塔I
20-抽出塔Iの塔頂部への抽出水の添加
21-抽出塔Iを出る粗製MMAである塔頂流を、蒸留塔IIに送る
【0068】
実施例
実施例1-アセタールの開裂
メタクロレインおよびメタノールからMMAを得る直接酸化的エステル化を、撹拌槽内で、金-酸化コバルト@SiO2-Al2O3-MgO触媒(国際公開第2017084969号を参照されたい)を用いて、80℃、5bar(絶対圧)、pH=7および反応器入口でメタノール対メタクロレインのモル比4対1で行った。
【0069】
得られた反応混合物は、新鮮なメタクロレインと一緒に蒸留塔(蒸留塔I)に送った;塔の圧力は1000mbar(絶対圧)であり、還流比は1.00であり、塔底温度は平均して73℃であった。塔への供給量は平均してほぼ2800g/hであり、塔底搬出量は約1180g/hであった。
【0070】
反応生成物(RKP)および蒸留塔Iの塔底液の関連成分濃度は以下のとおりであった:
【表1】
数値はすべて質量%である。
【0071】
塔底搬出物に、小型の耐酸性撹拌槽内で硫酸水溶液を連続的に加え、そうすることで、pH値=2、塔底液対給水量の比を0.77(質量基準)とした。二相の混合物を40℃の撹拌槽内で平均滞留時間5分の乱流混合を行った。その後、二相の混合物を40℃で相分離し、両方の相を分析した。有機相の流速は平均して773g/hであり、水相の流速は平均して1622g/hであった。
【0072】
相の関連成分濃度は以下のとおりであった:
【表2】
数値はすべて質量%である。|n.d.=不検出。検出限界はGC-FIDで5ppm未満である。
【0073】
さらに、相分離器の有機相中のMMA含有量を分析したところ、0.4%の(絶対)減少を示したが、メタクリル酸の含有量は合計で0.3%(絶対)上昇した。「合計で」とは、相分離器の有機相中のメタクリル酸の増加と、水相中のメタクリル酸の増加も意味し、残存するメタクリル酸に基づく低い結果を除外するために、含有量はHPLCによって測定した。
【0074】
その後、有機相を抽出塔の塔底部に送り、抽出は向流モードで撹拌セル抽出として行った。抽出パラメーターは、先の反応器と同様で、40℃、pH値は2であった。有機物対抽出水の比は3.9(質量基準)であった。抽出塔の塔頂部の有機物に相当する粗製MMAの流速は平均して770g/hであった。
【0075】
抽出塔の塔頂部の有機物(粗製MMAとも呼ばれる)の関連成分濃度は以下のとおりであった:
【表3】
数値はすべて質量%である。|n.d=不検出。検出限界はGC-FIDで5ppm未満である。
【0076】
使用した抽出水は蒸留水であった。相分離器の水相と抽出の水相とは、そこに残存する有機物を蒸留により除去するために、任意選択的に第2の蒸留塔に一緒に送ることができることに留意されたい。この蒸留塔で得られた硫酸含有塔底生成物は、少なくとも一部分を撹拌槽内での酸性化および抽出水として使用することができ、それによって、方法における新鮮な水および新鮮な硫酸の必要量を減らすことができる。
【0077】
分析結果および流量に基づいて、以下の換算値を算出することができる:
撹拌槽内でのアセタール開裂の転化率=96.5%
抽出塔内でのアセタール開裂の転化率=3.5%
アセタール開裂の総転化率=>99.99%。
【0078】
分析結果および流量に基づいて、メタクロレインの放出量もさらに測定することができる:
【表4】
【0079】
したがって、メタクロレインの割合および量はアセタール開裂に基づき増加し、少なくとも一部分を直接酸化的エステル化にリサイクルできることがわかる。
【0080】
得られた粗製MMAは、高沸点物蒸留塔および低沸点物蒸留塔によって精製され、最終精製蒸留塔で商業的品質まで安定化された。得られたMMAの品質を第1表に示す。
【0081】
実施例2-アセタール開裂のためのpH値の変化
実施例2a-pH=3
実験は実施例1と同様に実施したが、アセタール開裂のためのpH値は3であった。以下の転化率が達成された:
撹拌槽内でのアセタール開裂の転化率=73.2%
抽出塔内でのアセタール開裂の転化率=24.7%
アセタール開裂の総転化率=97.9%。
【0082】
実施例2b-pH=4
実験は実施例1と同様に実施したが、アセタール開裂のためのpH値は4であった。以下の転化率が達成された:
撹拌槽内でのアセタール開裂の転化率=31.0%
抽出塔内でのアセタール開裂の転化率=59.4%
アセタール開裂の総転化率=90.4%。
【0083】
実施例2c-pH=5
実験は実施例1と同様に実施したが、アセタール開裂のためのpH値は5であった:以下の転化率が達成された:
撹拌槽内でのアセタール開裂の転化率=9.7%
抽出塔内でのアセタール開裂の転化率=32.5%
アセタール開裂の総転化率=42.2%。
【0084】
実施例1および2により、低いpH値ではアセタール開裂の大部分が撹拌槽内で起こり、したがってアセタール含有量が20ppm未満になることが示された。pH値が高くなるにつれて、転化の割合は抽出の方にシフトし、総じて、アセタール含有量が20ppm未満の純粋なMMAに必要とされる97%超の転化率を達成することはもはや不可能である。
【0085】
更なるMMAワークアップは実施例1と同様に行い、結果を第1表にまとめた:
第1表-純粋なMMA品質の概要
【表5】
【0086】
pH値が上昇し、それによりアセタール開裂における転化率が低下すると、純粋なMMA中にアセタールおよびイソ酪酸メチルが蓄積し、それによって、後の処理でポリマーの黄色度が上昇し、ひいては光学的品質が低下することがわかる。
【0087】
実施例3-蒸留塔Iの塔底液への酸の添加
水性硫酸を実施例1と同じ質量流量で蒸留塔Iの塔底液に送り込み、それによってpH値を2とした。塔底液の熱誘起による循環によって混合が生じた。塔底液中での滞留時間は約10分であった。撹拌槽は省き、塔底液を直接相分離に送った。塔底液中で達成されたアセタール開裂の転化率は99%超であった。しかしながら、滞留時間が長く、比較的高温であったため、二次反応/重合形成が起こり、それによって、相分離において有機相と水相との間に褐色のラグ相(Mulm-Phase)が形成され、それによって、相分離の充填レベル制御が乱され、抽出への質量流量が変動した。この結果、抽出の粗製MMAおよび水性生成物中のMMA含有量が変動し、それによって、一般的なプラントの運転がより敏感になり、最終的な純粋なMMA品質が変動した。
【0088】
したがって、塔底液中で硫酸を用いてアセタール開裂を実施することは原理的には可能であるが、これは、長期運転のためには、以下の相分離/抽出に、安定した運転を可能にするためのラグ相除去の技術的手段を備えなければならないことを意味し、その結果さらに追加のコストが発生する。
【0089】
実施例4-アセタール開裂のための撹拌槽の代わりの管状反応器
長さ60mおよび内径4mmの管状反応器であって、反応器上に均等に配置された3つのスタティックミキサーを備える管状反応器に、反応器中の滞留時間が83秒となるように、第1の蒸留塔(組成については実施例1を参照されたい)の塔底搬出物と、硫酸水溶液とを流した。有機物対硫酸水溶液の比は0.71(質量基準)であり、pH値は3であった。管状反応器は、供給流の予熱とジャケット加熱とによって80℃で運転した。
【0090】
管状反応器の下流で、反応混合物を40℃まで冷却し、実施例1と同様に相分離した。アセタール開裂の転化率をGC分析で測定したところ、96.1%であり、それゆえ撹拌槽の場合よりも高かった。この実施例は、混合の改善と、より高い反応温度とによって、アセタール開裂の空時収率が増加し、同時に硫酸の消費量が低下することを示している(管状反応器=1.37mol DMIB/kg HSO×hr(時)対撹拌タンク=1.2mol DMIB/kg HSO×hr(時))。
【0091】
実施例5-高温での撹拌槽内でのアセタール開裂
実験は実施例1と同様に実施したが、温度を40℃から80℃に上げた。以下の転化が達成された:
撹拌槽内でのアセタール開裂の転化率=98.9%
抽出塔内でのアセタール開裂の転化率=1.0%
アセタール開裂の総転化率=>99.99%。
【0092】
しかしながら、相分離器の有機相中のMMA含有量は2.8%低下した。同時に、相分離器の水相および有機相中のメタクリル酸の含有量は合計で2.3%上昇した。「合計で」とは、相分離器の有機相中のメタクリル酸の増加と、水相中のメタクリル酸の増加も意味し、残存するメタクリル酸に基づく低い結果を除外するために、含有量はHPLCによって測定した。
【0093】
このことは、温度上昇によってMMAがメタクリル酸に加水分解されることを示唆している。
【0094】
実施例6-高温および滞留時間延長での撹拌槽内でのアセタール開裂
実験は実施例1と同様に実施したが、温度を40℃から80℃に上げ、滞留時間をほぼ5分からほぼ10分に倍増した。以下の転化が達成された:
撹拌槽内でのアセタール開裂の転化率=99.8%
抽出塔内でのアセタール開裂の転化率=0.1%
アセタール開裂の総転化率=>99.99%。
【0095】
しかしながら、相分離器の有機相中のMMA含有量は5.4%低下した。同時に、相分離器の水相および有機相中のメタクリル酸含有量は合計で4.5%増加した。「合計で」とは、相分離器の有機相中のメタクリル酸の増加と、水相中のメタクリル酸の増加も意味し、残存するメタクリル酸に基づく低い結果を除外するために、含有量はHPLCによって測定した。このことは、温度上昇によってMMAがメタクリル酸に加水分解されることを示唆している。
【0096】
実施例5および6は、高温および/または滞留時間延長において、アセタール開裂の転化率が増加するだけでなく、MMAの顕著な加水分解が生じ、それによって、有価物質が失われることを示している。
【0097】
実施例7-pH値を変化させた撹拌槽内でのアセタール開裂
実験は実施例1と同様に実施したが、アセタール開裂のpH値は1であった。以下の転化が達成された:
撹拌槽内でのアセタール開裂の転化率=99.8%
抽出塔内でのアセタール開裂の転化率=0.1%
アセタール開裂の総転化率=>99.99%。
【0098】
しかしながら、相分離器の有機相中のMMA含有量は2.5%低下した。同時に、相分離器の水相および有機相中のメタクリル酸含有量は合計で2.1%増加した。「合計で」とは、有機相中のメタクリル酸の増加と、相分離器の水相中のメタクリル酸の増加も意味し、残存するメタクリル酸による低い結果を除外するために、含有量はHPLCによって測定した。このことは、温度上昇によってMMAがメタクリル酸に加水分解されることを示唆している。
【0099】
実施例7は、アセタール開裂における十分に高い転化率を抽出なしで達成することもできるが、その代償としてMMAが失われ、ひいては有価物質または方法の製品が失われることを示している。
【0100】
とはいえ、実施例5~7は本発明による実施例であり、いずれの場合も先行技術と比較して加水分解されたMMAの割合が依然としてより低く、同時にアセタールが効率的に開裂されるからである。
【図
【国際調査報告】