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▶ イーライ リリー アンド カンパニーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】保存製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/28 20060101AFI20241114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241114BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241114BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
A61K38/28
A61P43/00 111
A61P3/10
A61K9/08
A61K47/68
A61K47/10
A61K47/08
A61K47/02 ZNA
A61K39/395 Y
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527771
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 US2022079791
(87)【国際公開番号】W WO2023086980
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/279,390
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】アレン,デイビッド ポール
(72)【発明者】
【氏名】ビールス,ジョン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】コーバリ,ビンセント ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ドノヴァン,パトリック ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】チャン,カン カンイー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ウェイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA94
4C076BB16
4C076CC21
4C076CC41
4C076DD09F
4C076DD23D
4C076DD26Z
4C076DD37R
4C076DD38D
4C076DD39R
4C076DD43Z
4C076DD67D
4C076EE23F
4C076EE59
4C076FF14
4C076FF16
4C076FF39
4C076FF61
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA41
4C084BA44
4C084DB34
4C084MA66
4C084NA03
4C084NA12
4C084ZC031
4C084ZC032
4C084ZC351
4C084ZC352
4C085AA33
4C085BB42
(57)【要約】
インスリン-Fc融合体の保存製剤を本明細書に記載する。製剤は、糖尿病の治療において週1回投与するのに十分な長期の薬物動態学的及び薬力学的プロファイルを有するインスリン-Fc融合体を含み、化学的又は物理的安定性の許容できない損失なしに保管及び使用を可能にするのに十分に安定である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性無菌薬学的組成物であって、
a)インスリン-Fc融合体と、
b)フェノールと、
c)フェノキシエタノール及びベンジルアルコールからなる群から選択される1つ以上のさらなる防腐剤と、
d)等張化剤と、
e)界面活性剤と、
f)緩衝液とを含み、
6~7.5のpHを有し、
前記フェノール及び1つ以上のさらなる防腐剤が、安定性の許容できない損失なしに少なくとも12週間の使用時有効期間を可能にする濃度で存在する、水性無菌薬学的組成物。
【請求項2】
フェノールの濃度が、1.5~4mg/mLである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フェノールの濃度が、約1.8mg/mLである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記さらなる防腐剤が、フェノキシエタノールである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
フェノキシエタノールの濃度が、4~14mg/mLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
フェノキシエタノールの濃度が、約4mg/mLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
フェノキシエタノールの濃度が、約8mg/mLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
前記さらなる防腐剤が、ベンジルアルコールである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ベンジルアルコールの濃度が、5~10mg/mLである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ベンジルアルコールの濃度が、約9mg/mLである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記インスリン-Fc融合体が、基礎インスリン-Fc(BIF)である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
BIFの濃度が、5~30mg/mLである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
BIFの濃度が、約7.15、14.3、及び28.6mg/mLからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物のpHが、6.3~6.8である、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物のpHが、約6.5である、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記等張化剤が、塩化ナトリウム、マンニトール及びグリセリンからなる群から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記等張化剤が、グリセリンである、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
グリセリンの濃度が、15~35mg/mLである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
グリセリンの濃度が、約17mg/mLである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記界面活性剤が、ポロキサマー188、ポリソルベート20及びポリソルベート80からなる群から選択される、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記界面活性剤が、ポロキサマー188である、請求項19~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
ポロキサマー188の濃度が、0.01~0.5mg/mLである、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
ポロキサマー188の濃度が、約0.4mg/mLである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記緩衝液が、リン酸塩、クエン酸塩及びTRISからなる群から選択される、請求項1~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記緩衝液が、リン酸塩である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
リン酸塩の濃度が、5~10mMである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
水性無菌薬学的組成物であって、
a)濃度5~30mg/mLのBIFと、
b)濃度1.5~4mg/mLのフェノールと、
c)濃度4~14mg/mLのベンジルアルコールと、
d)濃度15~35mg/mLのグリセリンと、
e)濃度0.01~0.5mg/mLのポロキサマー188と、
f)濃度5~10mMのリン酸塩とを含み、
6.3~6.8のpHを有する、水性無菌薬学的組成物。
【請求項28】
a)BIFの濃度が、約7.15、約14.3、及び約28.6mg/mLからなる群から選択され、
b)フェノールの濃度が、約1.8mg/mLであり、
c)ベンジルアルコールの濃度が、約9mg/mLであり;
d)グリセリンの濃度が、約17mg/mLであり;
e)ポロキサマー188の濃度が、約0.4mg/mLであり、
f)リン酸塩の濃度が、約5mM及び約10mMからなる群から選択される、組成物であって、約6.5のpHを有する、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
BIFの濃度が、約14.3mg/mLであり、リン酸塩の濃度が、約5mMである、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
BIFの濃度が、約28.6mg/mLであり、リン酸塩の濃度が、約10mMである、請求項28に記載の組成物。
【請求項31】
BIFの濃度が、約7.15mg/mLである、請求項28に記載の組成物。
【請求項32】
糖尿病を治療する方法であって、糖尿病の治療を必要とするヒトに、請求項1~31のいずれか一項に記載の薬学的組成物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項33】
請求項1~31に記載の薬学的組成物のうちのいずれか1つを含む、製品。
【請求項34】
複数回使用バイアルである、請求項33に記載の製品。
【請求項35】
複数回使用ペン型注射器である、請求項33に記載の製品。
【請求項36】
持続皮下インスリン注入療法のためのポンプデバイスである、請求項33に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン-Fc融合体の保存製剤に関する。製剤は、糖尿病の治療において週1回投与するのに十分な長期の薬物動態学的及び薬力学的プロファイルを有するインスリン-Fc融合体を含み、化学的又は物理的安定性の許容できない損失なしに保管及び使用を可能にするのに十分に安定である。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インスリン分泌、インスリン作用、又は両方の欠陥に起因する高血糖症を特徴とする慢性疾患である。1型糖尿病(T1D)は、インスリン分泌能がほとんど又は全くないことを特徴とし、T1D患者は、生存のためにインスリン療法を必要とする。2型糖尿病(T2D)は、インスリン分泌不全、インスリン抵抗性、過剰な肝臓でのグルコース生産、及び/又は上記のうちの全ての寄与に起因する血糖値の上昇を特徴とする。T2D患者の多くは、疾患が進行してインスリン療法が必要になる。
【0003】
T1D患者はインスリンをほとんど又は全く産生しないため、有効なインスリン療法は、一般に、ボーラス注射によって提供される速効型の食事時インスリン、並びに食間血糖値を制御するために1日1回又は2回投与される長時間作用型の基礎インスリンという、2種類の体外投与インスリンの使用を伴う。T2D患者の治療は典型的に、処方された減量、運動、及び糖尿病食から始まるが、これらの手段で血糖の上昇を制御できない場合は、経口薬及びインクレチンベースの療法が必要になることがある。これらの薬剤が依然として不十分である場合、インスリンによる治療が検討される。疾患がインスリン療法を必要とするところまで進行しているT2D患者は、一般に、長時間作用型の基礎インスリンの1日1回の注射を始める。
【0004】
現在入手可能な基礎インスリンには、商品名LANTUS(登録商標)で販売されているインスリングラルギン、商品名LEVEMIR(登録商標)で販売されているインスリンデテミル、並びに商品名TRESIBA(登録商標)で販売されているインスリンデグルデクが含まれる。これらのインスリンはそれぞれ、1日1回投与が指示され、単一の容器又はデバイスからの複数回投与を可能にするのに十分な抗菌効果を有する保存製剤で利用可能である。
【0005】
既存のインスリン療法の毎日の注射を伴う治療レジメンは、複雑かつ投与に痛みを伴い得、低血糖及び体重増加などの望ましくない副作用をもたらし得る。より長い作用持続時間を有し、したがって、現在利用可能なインスリン製品よりも少ない回数、例えば週1回程度の低頻度の注射しか必要としないインスリン製品を開発するための研究が行われている。
【0006】
そのようなインスリン製品の1つのカテゴリーは、本明細書ではインスリン-Fc融合体と呼ばれる、抗体のFc領域に結合したインスリン受容体を活性化する部分を含む。そのような製品の例は、上記の1日1回の基礎インスリンを含むインスリン製品で一般的に使用されるフェノール系防腐剤m-クレゾールを含有する製剤を含む化合物及びその製剤を記載した米国特許第9,855,318号に記載されている。
【0007】
しかしながら、米国特許第9,855,318号に記載されている、及び/又は現在入手可能なインスリン製品の濃度の防腐剤を含むインスリン-Fc融合体の製剤は、許容できない安定性の不利益をもたらし得ることが見出されている。したがって、十分な抗菌効果を提供するが、許容できない安定性の不利益をもたらさない防腐剤を含む新しい製剤が必要とされている。
【0008】
本発明は、これらの必要性を満たすことを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
したがって、一態様では、本発明は、水性無菌薬学的組成物であって
a)インスリン-Fc融合体と、
b)フェノールと、
c)フェノキシエタノール及びベンジルアルコールからなる群から選択される1つ以上のさらなる防腐剤と、
d)等張化剤と、
e)界面活性剤と、
f)緩衝液とを含み、
6~7.5のpHを有し、
フェノール及び1つ以上のさらなる防腐剤が、安定性の許容できない損失なしに少なくとも12週間の使用時有効期間を可能にする濃度で存在する、水性無菌薬学的組成物を提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、水性無菌薬学的組成物であって、
a)濃度5~30mg/mLの基礎BIFと、
b)濃度1.5~4mg/mLのフェノールと、
c)濃度4~14mg/mLのベンジルアルコールと、
d)濃度15~35mg/mLのグリセリンと、
e)濃度0.01~0.5mg/mLのポロキサマー188と、
f)濃度5~10mMのリン酸塩とを含み、
6~7.5のpHを有する、組成物を提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、血糖コントロールを改善する方法であって、血糖コントロールの改善を必要とするヒトに、本発明の水性無菌薬学的組成物の有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0012】
加えて、本発明は、療法に使用するための本発明の水性無菌薬学的組成物を提供する。より詳細には、本発明は、血糖コントロールの改善に使用するための薬学的組成物を提供する。本発明はまた、血糖コントロールを改善するための医薬品の製造における薬学的組成物の使用を提供する。
【0013】
加えて、本発明は、本発明の水性無菌薬学的組成物を含む製品を提供する。より詳細には、ある特定の態様では、製品は、複数回使用バイアル、カートリッジ、再使用可能なペン型注射器、使い捨てペン型デバイス、持続皮下インスリン注入療法のためのポンプデバイス、又は持続皮下インスリン注入療法のためのポンプデバイスにおいて使用するための容器施栓系である。
【0014】
本発明は、長期間の作用を有するインスリン-Fc融合体の保存製剤に関する。インスリン-Fc融合体は、例えば、米国特許第9,855,318号、CN103509118、WO2011/122921、US2015/0196643、WO2018/185131、WO2020/006529、WO2020/074544、WO2021126584、US20210300983、US2021/0324033、及びUS2021340212に記載されている。
【0015】
ある特定の好ましい実施形態では、インスリン-Fc融合体は、基礎インスリンFc(basal insulin Fc、BIF)又はインスリンefsitora alfa(CAS登録番号2131038-11-2)として公知の米国特許第9,855,318号に記載の化合物である。BIFは、ヒトIgG Fc領域に融合したインスリン受容体アゴニストの二量体を含み、インスリン受容体アゴニストは、第1のペプチドリンカーの使用によってインスリンA鎖類似体に融合したインスリンB鎖類似体を含み、インスリンA鎖類似体のC末端残基は、第2のペプチドリンカーのN末端残基に直接融合され、第2のペプチドリンカーのC末端残基は、ヒトIgG Fc領域のN末端残基に直接融合される。BIFの各単量体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。
FVNQHLCGSHLVEALELVCGERGFHYGGGGGGSGGGGGIVEQCCTSTCSL
DQLENYCGGGGGQGGGGQGGGGQGGGGGECPPCPAPPVAGPSVFLFPPKP
KDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFN
STFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPAPIEKTISKTKGQPREPQ
VYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPM
LDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG
(配列番号1)。各単量体は、7位と44位、19位と57位、43位と48位、114位と174位、及び220位と278位のシステイン残基間に鎖内ジスルフィド結合を含む。2つの単量体は、80位と83位のシステイン残基間のジスルフィド結合によって結合して二量体を形成する。BIFの構造、機能及び製造については、米国特許第9,855,318号により詳細に記載されている。
【0016】
本明細書で使用される場合、「BIF」という用語は、配列番号1のアミノ酸配列を有する2つの単量体で構成された任意のインスリン受容体アゴニストを指し、インスリン受容体アゴニスト製品の承認を求める当事者が、実際にそのインスリン受容体アゴニストをBIFとして同定しているか、又はいくつかの他の用語を使用しているかにかかわらず、BIFに関してEli Lilly and Companyによって規制当局に提出された全体的又は部分的なデータに依存する、当該製品の承認を求める規制提出書類の対象である任意のタンパク質を含む。
【0017】
本発明の組成物中のインスリン-Fc融合体の濃度は、広範囲のインスリン要件を有するT2DM及びT1DMを有する患者が必要とするインスリン用量の範囲の投与を可能にするのに十分でなければならない。LANTUS(インスリングラルギン)、TOUJEO(インスリングラルギン)、TRESIBA(インスリンデグルデク)及びLEVEMIR(インスリンデテミル)などの1日1回投与に適した現在入手可能な基礎インスリン製品は、100インスリン単位(IU)/mL~300IU/mLの範囲の濃度で入手可能である。本発明のある特定の実施形態では、インスリン-Fc融合体は、約100~約2000インスリン単位(IU)/mLの範囲の濃度で存在する。ある特定の実施形態では、インスリン-Fc融合体は、約250IU/mL、500IU/mL又は1000IU/mLの濃度で存在する。インスリン-Fc融合体の濃度は、体積当たりの質量として表すこともできる。例えば、インスリン-Fc融合体がBIFである特定の実施形態では、BIFの濃度は約5~30mg/mLである。ある特定の実施形態では、BIFの濃度は、7.15、14.3、及び28.6mg/mLからなる群から選択される。
【0018】
本発明の製剤は、最初に製造された時は無菌であるが、組成物が複数回使用バイアル又はカートリッジで提供される場合は、インスリン-Fc融合体及び製剤の任意の他の成分と適合性である抗菌性防腐剤が、複数回使用製品についての規制及び薬局方の抗菌性防腐剤要件を満たすのに十分な強度で添加される。これらの要件は、製品に不注意に導入され得る微生物を阻害又は死滅させる防腐剤の能力に挑戦するように設計された試験を含む。これらの試験を実施するためのガイドラインは、米国薬局方(USP)<51>「Antimicrobial Effectiveness Testing」及び欧州薬局方(Ph.Eur.又はEP)5.1.3「Efficacy of Antimicrobial Preservation」に提供されている。例えば、Meyer,B.D.ら、Antimicrobial preservative use in parenteral products:Past and present、JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 2007,96,(12),3155-3167;Moser,C.L.、Meyer,B.K.、Comparison of compendial antimicrobial effectiveness tests:A review.AAPS PHARM.SCI.TECH、2011年、12、(1)、222~226頁を参照されたい。
【0019】
上で参照した許容基準は、種々の規定された時点での微生物数のlog10減少を評価し、それらの数を最初の時点ゼロ接種レベルと比較する。例えば、USP基準は、7日後に初期細菌数から1.0log以上の減少、14日後に初期細菌数から3.0log以上の減少、及び28日後に14日後の細菌数から増加なしであることを要求する。EP B基準は、EU規制機関によって必須であると見なされ、初期細菌数と比較して、24時間後に1logの減少及び7日後に3logの減少を少なくとも必要とする。EP B基準はUSP基準よりも厳格であるので、EP B基準を満たす製剤はいずれも、USP<51>基準も満たす。EP A基準は最も厳格であり、6時間後に2logの減少及び24時間後に3logの減少を必要とする。多くの防腐剤系では、EP A基準を達成することが困難であり、EP Aを達成するために添加される防腐剤は、多くの場合、製品に有害な影響を及ぼし、及び/又は、患者にとっては毒性であるレベルであるが、より達成可能であると考えられている。
【0020】
現在皮下投与に利用可能な治療用インスリン製品は、複数回使用製品であり、したがって、USP基準及びEP B基準を含む抗菌効果についての規制要件を満たさなければならない。これらの要件を満たすために一般的に使用される防腐剤としては、以下の表1に列挙される製品におけるように、フェノール(CAS番号108-95-2、分子式C50H、分子量94.11)、及びm-クレゾール(CAS番号108-39-4、分子式C80、分子量108.14)が挙げられる。
【表1】
【0021】
しかしながら、BIFのようなインスリン-Fc融合体の製剤では、これらの濃度のm-クレゾール及びフェノールは、タンパク質の沈殿をもたらし、したがって、USP要件及びEP要件を満たすのに十分な抗菌効力を提供するために使用することができない。したがって、本発明の製剤は、異なる防腐剤:フェノキシエタノール(CAS番号122-99-6、分子式C10、分子量138.16g/mol)及び/又はベンジルアルコール(CAS番号100-51-6、分子式CO、分子量108.14g/mol)の使用に依存する。具体的には、ベンジルアルコール及び/又はフェノキシエタノールと組み合わせて特定の濃度のフェノールを使用することにより、物理的安定性の許容できない損失を引き起こすことなく、BIFの所望のpH範囲内の製剤において抗菌効果基準を満たすことができることが分かった。
【0022】
本発明の製剤中のフェノール及びベンジルアルコール及び/又はフェノキシエタノールは、製剤がUSP及びEP Bのガイドラインに記載されている非経口製品の最低無菌性要件を確実に満たすのに十分な濃度でなければならない。本明細書で使用される場合、「無菌」という用語は、これらの最低無菌性要件を満たす製剤を指す。
【0023】
しかし、これらの防腐剤の濃度は、インスリン-Fc融合体タンパク質に許容できない物理的又は化学的安定性の問題を引き起こすほど高くてはならない。本発明の組成物は、安定性の許容できない損失なしに保管及び複数週間の使用(本明細書では「使用時」有効期間と称される)を可能にするのに十分に安定である。ある特定の実施形態では、組成物は、少なくとも12週間の使用時有効期間を可能にするのに十分に安定である。ある特定の実施形態では、組成物は、30℃で2週間の冷蔵下で12週間の使用時有効期間を可能にするのに十分に安定である。ある特定の実施形態では、組成物は、25℃で8週間の使用時有効期間を可能にするのに十分に安定である。ある特定の実施形態では、組成物は、25℃で12週間の使用時有効期間を可能にするのに十分に安定である。ある特定の実施形態では、組成物は、30℃で8週間の使用時有効期間を可能にするのに十分に安定である。ある特定の実施形態では、組成物は、30℃で12週間の使用時有効期間を可能にするのに十分に安定である。
【0024】
フェノールに関して、いくつかの複数回投与非経口薬剤製品は、防腐剤として5mg/mLのフェノールを使用するが、この濃度は、BIF製剤においてタンパク質沈殿をもたらすことが見出されたので、濃度は5mg/mL未満でなければならない。本発明のある特定の実施形態におけるフェノールの濃度は、1.5~4mg/mLの範囲である。本発明のある特定の実施形態におけるフェノールの濃度は、約1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9又は4.0mg/mLである。ある特定の好ましい実施形態では、フェノールの濃度は、1.8~3.5mg/mLの範囲である。ある特定の好ましい実施形態におけるフェノールの濃度は、約1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4又は3.5mg/mLである。ある特定の好ましい実施形態では、フェノールの濃度は、約1.8、2、2.5、3又は3.5m/mLである。特に好ましい実施形態では、フェノールの濃度は約1.8mg/mLである。フェノールは、その物理的特性のために、典型的には、本明細書に記載されるものなどの水性組成物に90%水溶液の形態で添加されることに留意されたい。例えば、後述の試験の多くでは、フェノールは、90%フェノール+10%水である「液化蒸留フェノール」として添加された。これらの試験では、列挙されたフェノール濃度は、組成物に添加された90%溶液の濃度を指す。したがって、2mg/mLの90%フェノール溶液を用いて調製された組成物中の絶対フェノール含有量は、1.8mg/mLである。特に明記しない限り、例えば、90%フェノール溶液を使用するとして以下に記載する試験におけるように、本発明の組成物中に含まれるフェノールの濃度は、絶対フェノール含有量を指す。
【0025】
本発明の製剤中のフェノキシエタノール又はベンジルアルコールのいずれかの濃度は、フェノールの濃度に依存するが、製剤が所望のpHで無菌であるのに十分な濃度で存在しなければならない。例えば、pH6.5のある特定の実施形態では、9mg/mLのフェノキシエタノールは、フェノールの非存在下ではEP B基準に合格するのに十分ではないが、4mg/mLという低い濃度を1.8mg/mLという低いフェノール濃度と組み合わせて使用した場合には、EP B基準を満たすことができる。同様に、ある特定の実施形態では、9mg/mLのベンジルアルコールは、USP基準にさえ合格するのに十分ではないが、5mg/mLという低い濃度であっても、1.8mg/mLのフェノールと組み合わせて使用するとUSP基準を満たす。
【0026】
ある特定の実施形態では、フェノキシエタノールの濃度は、4mg/mL~14mg/mLの範囲である。ある特定の実施形態では、フェノキシエタノールの濃度は、約4、5、6、7、8、9.10、11、12、13又は14mg/mLである。ある特定の好ましい実施形態では、フェノキシエタノールの濃度は、約4又は約8mg/mLである。
【0027】
ある特定の実施形態では、ベンジルアルコールの濃度は、5~10mg/mLの範囲である。ある特定の実施形態では、ベンジルアルコールの濃度は、約5、6、7、8、9又は10mg/mLである。ある特定の好ましい実施形態では、ベンジルアルコールの濃度は、約9mg/mLである。
【0028】
本発明の製剤のpHは、5.5~7.5の範囲である。ある特定の実施形態では、pHは、約5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4又は7.5である。ある特定の実施形態では、pHは6~7の範囲である。ある特定の実施形態では、pHは、約6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9又は7.0である。好ましくは、本発明の製剤のpHは、少なくともインスリン-Fc融合体のPIである。BIFを含む製剤の場合、pHは好ましくは少なくとも約6.1である。BIFを含むある特定の実施形態では、pHは、6.2~7.4の範囲である。BIFを含むある特定の実施形態では、pHは、6.2~6.9の範囲である。BIFを含むある特定の実施形態では、pHは、6.3~6.8の範囲である。BIFを含む特に好ましい実施形態では、pHは約6.5である。
【0029】
所望であれば、緩衝剤が含まれてもよい。そのような緩衝剤の例は、二塩基性リン酸ナトリウムなどのリン酸塩、クエン酸塩、酢酸ナトリウム及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、又はTRISである。緩衝化合物が必要な場合、クエン酸塩緩衝液又はリン酸塩緩衝液が好ましい。ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、クエン酸塩緩衝液を5~10mMの範囲の濃度で含む。ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、リン酸塩を5~10mMの範囲の濃度で含む。ある特定の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、リン酸塩を約5、6、7、8、9又は10mMの濃度で含む。ある特定の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、リン酸塩を約5mM又は約10mMのいずれかの濃度で含む。
【0030】
体液とほぼ等張ではない溶液が、投与する際に痛みを伴う刺すような感覚を生じるため、組成物を投与する時に、注入部位の体液の張度(すなわち、浸透圧)を可能な限り厳密に一致させることが望ましい。したがって、組成物は、注入の部位で体液とほぼ等張であることが望ましい。等張化剤の非存在下での組成物の浸透圧が組織の浸透圧(血液については、約300mOsmol/kg;浸透圧に関する欧州薬局方の要件は>240mOsmol/kgである)よりも十分に低い場合、一般には等張化剤を添加して、組成物の張度を約300mOsmol/kgに上げるべきである。組成物の浸透圧は、安定化剤を含む組成物中の他の賦形剤の正体及び濃度によって決定される。したがって、等張化剤を添加しなければならないかどうかを決定するためには、組成物中の様々な賦形剤の全ての濃度を評価しなければならず、そのような評価及び決定は、標準的な技術を使用して容易に行われる。Remington:The Science and Practice of Pharmacy、David B.Troy及びPaulベリンジャー編、Lippincott Williams & Wilkins、2006年、257~259頁;Remington:Essentials of Pharmaceutics、Linda Ed Felton、Pharmaceutical Press、2013年、277~300頁を参照されたい。典型的な等張化剤には、グリセロール(グリセリン)、マンニトール及び塩化ナトリウムが含まれる。等張化剤の添加が必要な場合、グリセリンが好ましい。ある特定の実施形態では、グリセロールの濃度は、約10~約50mg/mLである。ある特定の実施形態では、グリセロールの濃度は、約15~約35mg/mLである。ある特定の実施形態では、グリセロールの濃度は、約15、17、20、21及び35mg/mLからなる群から選択される。ある特定の好ましい実施形態では、グリセリンの濃度は、約17mg/mLである。
【0031】
本発明の組成物はまた、界面活性剤などの安定化剤を含む、他の賦形剤を含んでもよい。非経口薬学的組成物に使用するために開示された界面活性剤の例には、ポリソルベート20(TWEEN(登録商標)20)及びポリソルベート80(TWEEN80)などのポリソルベート、PEG400、PEG3000、TRITON(商標)X-100などのポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(CAS番号:9002-92-0、商品名BRIJ(登録商標)で販売)などのポリエチレングリコール、MYRJ(商標)などのアルコキシル化脂肪酸、ポリプロピレングリコール、ポロキサマー188(CAS番号9003-11-6、PLURONIC(登録商標)F-68の商品名で販売)及びポロキサマー407(PLURONIC(登録商標)F127)などのブロックコポリマー、ソルビタンアルキルエステル(例えば、SPAN(登録商標))、ポリエトキシル化ヒマシ油(例えば、KOLLIPHOR(登録商標)、CREMOPHOR(登録商標))、並びにトレハロース及びトレハロースラウレートエステルなどのその誘導体が含まれる。
【0032】
ある特定の好ましい実施形態では、組成物は、ポリソルベート20、ポリソルベート80及びポロキサマー188からなる群から選択される界面活性剤を含む。ポロキサマー188が最も好ましい。ある特定の実施形態では、界面活性剤の濃度は、0.01~10mg/mL又は0.1~0.5mg/mLの範囲である。界面活性剤がポロキサマー188である好ましい実施形態では、ポロキサマー188の濃度は、約0.4mg/mLである。
【0033】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、複数回使用バイアル、カートリッジ、再使用可能なペン型注射器、使い捨てペン型デバイス、持続皮下インスリン注入療法のためのポンプデバイス、又は持続皮下インスリン注入療法のためのポンプデバイスで使用するための別の容器施栓系などの製品において提供される。ある特定の実施形態では、組成物は、特定の増分で調整され得るインスリンの可変用量を提供するために使用され得る再使用可能なペン型注射器で提供される。例えば、ある特定の実施形態では、そのようなペン型注射器は、1500単位のインスリンを含み、1回の注射で最大400単位の用量を送達するように5単位の増分で調整することができる。他の実施形態では、そのようなペン型注射器は、3000単位のインスリンを含み、1回の注射で最大800単位の用量を送達するように10単位の増分で調整することができる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、測定の性質又は精度を考慮して、示された量(amount)又は量(quantity)の許容誤差の程度を指すことを意図している。例えば、誤差の程度は、当技術分野で理解されているように、測定のために提供された有効数字の数によって示すことができ、量(amount)又は量(quantity)について報告された最も正確な有効数字の±1の変動を含むが、これに限定されない。典型的には、例示的な誤差の程度は、所与の値又は値の範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。本明細書に示される数値は、別段の記載がない限り近似値であり、「約」という用語は、明示的に記載されていない場合に推測できることを意味する。
【実施例
【0035】
防腐剤の存在下での立体配座安定性
様々なフェノール系防腐剤と共に製剤化された場合のBIFの立体配座安定性に関する試験を行った。組成を以下の表2に示す。
【表2】
【0036】
外因性蛍光測定を実施して、BIFの立体配座安定性を評価した。1-アニリノナフタレン-8-スルホネート(ANS)などの外因性蛍光色素は、水性環境では最小限に蛍光性であるが、極性有機溶媒中では高度に蛍光性になる。これらの蛍光色素は、タンパク質表面上の疎水性パッチの露出を検出し、タンパク質のフォールディングプロセス及びアンフォールディングプロセスについての情報を提供するために使用されている。例えば、Hawe,A.ら、Extrinsic fluorescent dyes as tools for protein characterization.PHARMACEUTICAL RESEARCH、2008年、25(7)、1487~1499頁を参照されたい。外因性蛍光法は、溶液中のタンパク質の表面疎水性を測定するためにBis-ANS蛍光プローブを使用するプレートベースの方法である。SpectraMax i3xマルチモードマイクロプレートリーダー(Molecular Devices、米国サンノゼ)を使用して蛍光スペクトルを測定した。試料を、黒色ポリプロピレン96ウェルcorningハーフエリアフラットプレートに配置した。5μM色素を含有する約100μLの試料組成物を各ウェルに移し、25℃で測定した。励起波長(λEx)は390nmであり、発光スペクトルを420nmから600nmまで2nm刻みで走査した。
【0037】
BIF含有組成物のピーク蛍光シグナルを以下の表3に示す。
【表3】
【0038】
表3に示すように、防腐剤の非存在下では、いくらかの蛍光が検出され、これは、その天然の折り畳まれた状態であっても、BIFの表面上に疎水性パッチがあることを示す。防腐剤が添加されると、蛍光強度が増加する。BIFの非存在下では、Bis-ANS及び防腐剤は、いかなる蛍光シグナルも生成しない。したがって、観察された強度は、BIFと防腐剤分子との間の相互作用、及び結果として生じるタンパク質の部分的なアンフォールディングに起因し、より疎水性の高いパッチの露出をもたらす。
【0039】
更に、蛍光シグナルの強度は防腐剤の疎水性と相関し、m-クレソールが最も疎水性であり、最も強いシグナルを生成し、フェノール及びベンジルアルコールがこれに続いた。3つの防腐剤の中で疎水性が最も低いベンジルアルコールは、BIF配座への摂動が最も少なかった。
【0040】
現在入手可能なインスリン製品に使用されている防腐剤の存在下での物理的安定性
28.6mg/mLのBIFと、複数回用量として販売されているインスリン製品に使用されている濃度のm-クレゾール及び/又はフェノールとを含有する製剤をpH6.5で調製した。製剤をガラスバイアルに充填し、室温で保管し、目視検査によって試験した。結果を以下の表4に示す:
【表4】
【0041】
製剤1及び2はそれぞれ、BIF原薬の沈殿をもたらし、物理的不安定性を示している。製剤3及び4は透明なままであり、BIF原薬が物理的に安定なままであることを示している。
【0042】
pHの関数としての安定性
生物物理学的開発可能性/ハイスループットプロファイリング試験を、異なる緩衝液マトリックス及びpH条件でBIFの2mg/mL製剤に対して行った。示差走査熱量測定(DSC)を使用して、溶融開始温度T(Tm,Onset)を測定した。Tm,Onsetは、折り畳まれたタンパク質がその天然の立体配座を失い始める温度でありすなわち、Tm,Onsetが高いほど、タンパク質は変性に対して感受性が低い。結果を以下の表5に示す。
【表5】
【0043】
溶液pHが5.5から7.5に増加するにつれて、緩衝液タイプ又はイオン強度にかかわらず、Tm,Onsetが相応に増加する。
【0044】
防腐剤を含む場合と含まない場合のBIFのコロイド安定性についても、BIFのpIである約6.1を下回るpH条件及び上回るpH条件で試験を行った。クエン酸塩緩衝液中で調製したBIF原薬を、1.5Nクエン酸又は1N NaOHを使用してpH滴定に使用した。
【0045】
潜在的な液相分離の前駆体と考えられる乳白について組成物を目視検査した。Raut,A.S.;Kalonia,D.S.、Pharmaceutical perspective on opalescence and liquid-liquid phase separation in protein solutions.Molecular Pharmaceutics、2016年、13(5)、1431-1444頁。組成物は、防腐剤を含む場合と含まない場合との両方で、pHが原薬のpIに近づくにつれて乳白色に見え、pIを超えるpHで透明になった。
【0046】
これらの試験は、BIFのpIよりも高いpHはBIFの立体配座安定性及びコロイド安定性に有利であることを示している。
【0047】
防腐剤濃度及び抗菌効力
試験を、フェノールを含有するか又は含有しない様々な濃度のフェノキシエタノール及びベンジルアルコールを含むBIF薬剤製品の製剤の抗菌効力を試験するように設計した。組成物を調製するために使用した材料を、以下の表7に示す。
【表6】
【0048】
BIF及びフェノールとフェノキシエタノール又はベンジルアルコールのいずれかとの混合物を含有する組成物を、以下の表8及び表9に記載するように調製した。
【表7】
【表8】
【0049】
約150mLの溶液を0.22μmのPVDFフィルタで濾過し、直ちに滅菌ガラス容器に移した。抗菌効力試験を行うまで、試料を5℃で保管した。
【0050】
AETを、一般的な潜在的微生物汚染物質を表すために、試験溶液に様々な微生物の純粋な培養物を接種することによって行った。具体的には、溶液に、USP<51>及びEP 5.1.3に列挙されている以下の微生物:Aspergillus brasiliensis胞子Candida albicans、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa及びStaphylococcus aureusを接種した。接種された溶液を、冷蔵インキュベータ内で制御された室温(20℃~25℃)で保管した。接種されたバイアル中の生存細胞濃度を、接種後初期、6時間後、24時間後、7日後、14日後、及び28日後にプレート計数によって計測した。結果をEP 5.1.3及びUSP<51>に記載の合格基準と比較し、製剤を各試験基準に合格又は不合格のいずれかとして判定した。EP「A」基準が最も厳格であり、EP「B」基準、次いでUSP基準が続くと考えられる。本試験の目的は、EP B基準及びUSP基準を満たすBIF薬剤製品の製剤を明らかにすることである。
【0051】
フェノキシエタノール含有組成物の結果を以下の表10に示す:
【表9】
【0052】
表10に示すように、フェノキシエタノールは単独で有効な防腐剤となり得る。10mg/mL以上の濃度では、EP B基準及びUSP基準が満たされる。加えて、4mg/mLのフェノキシエタノール及び2mg/mL以上の液化フェノールの組み合わせもまた、EP B基準及びUSP基準を満たすことができる。最後に、EP B基準及びUSP基準は、ある範囲のpHにわたって満たされる。
【0053】
ベンジルアルコール含有組成物の結果を以下の表11に示す。
【表10】
【0054】
表11に示すように、9mg/mLのベンジルアルコールを含有し、フェノールを含有しない溶液は、おそらくベンジルアルコールに最適と考えられるpH範囲を超えるという事実のために、EP B基準及びUSP基準を満たすことができない。Meyer,B.D.ら、Antimicrobial preservative use in parenteral products:Past and present.JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES、2007年、96、(12)、3155~3167頁を参照されたい。しかしながら、フェノールと組み合わせた場合、BIF薬剤製品のpH範囲にわたる溶液は、USP基準を満たし、ベンジルアルコール及びフェノールの試験した最も低い濃度を含有する製剤を例外として、EP B基準を満たす。加えて、驚くべきことに、9mg/mLのベンジルアルコール及び様々な濃度の液化フェノールを含有する製剤は、より厳格なEP A基準を満たす。
【0055】
防腐剤比較-化学的及び物理的安定性
試験を、フェノールとフェノキシエタノール又はベンジルアルコールのいずれかとの組み合わせを含有する2つのBIF製剤の物理的及び化学的安定性を試験するように設計した。使用した原薬及び賦形剤を以下の表12に列挙する。
【表11】
【0056】
50mg/mLのBIFと、一塩基性リン酸ナトリウム一水和物及び二塩基性リン酸ナトリウム七水和物の組み合わせを含む緩衝液とを含む溶液を調製して、5mMリン酸塩及び以下の表13に示す他の成分の緩衝液強度を得た。
【表12】
【0057】
溶液を0.22μmのPVDFフィルタで濾過し、直ちに滅菌ガラス容器に移し、次いで5mLガラスバイアルに充填した。バイアルに蓋をし、5℃、25℃、及び30℃で最長6ヶ月間保管した。試料を、様々な時点で様々な安定性を示すアッセイによる試験に供した。
【0058】
結果を以下の表14~表19に示す。
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【0059】
表14に示すように、溶液pHは、試験期間を通して一定のままであった。SEC及び肉眼で見えない粒子からの結果によって、総凝集体(表15)及びHIAC又はMFIによる粒子状物質(表16及び表17)に示すように、試料が各pHで物理的に安定であることも確認された。製剤の化学的安定性を、RP-HPLC及びAEXを用いて評価した。製剤は、総不純物(表18)及び総酸性変異体(表19)に反映されるように、同等の化学的安定性を示し、本試験では、pH6.4で最も安定であった。
【0060】
安定性
試験を、3mLカートリッジ中の複数回使用BIF薬剤製品の安定性及び機能性を評価するように設計した。全ての組成物を、5mMリン酸塩、21mg/mLグリセリン及び0.4mg/mLポロキサマーを用いて作製した。組成物の他の特徴を以下の表20に示す。
【表19】
【0061】
組成物を3mLガラスカートリッジに充填し、シリコーン処理されたクロロブチルプランジャー及びDNRを含まないディスクシールで閉じた。カートリッジを5℃、25℃、30℃又は35℃で最大6ヶ月間保管した。以下の表21に示すように、試料を試験に供した。
【表20】
【0062】
pH、保管条件又は製剤組成に関して、HIAC又はMFIデータに明らかな傾向は観察されなかった。HIACによる粒子数は全て、10μm以上の測定値及び25μm以上の測定値の仕様範囲内であった。
【0063】
SEC、RP-HPLC及びAEXの結果を以下の表22~表24に示す。
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【0064】
表22に示すように、全ての製剤は、5℃、25℃、及び30℃で良好に挙動し、対照試料と試験試料との間に顕著な差はなく、試験濃度のベンジルアルコール及びフェノールが有意なタンパク質変性を誘導しなかったことを示唆している。試料間に明確な傾向がないため、35℃で観察された凝集体の成長は主に熱ストレスによって促進されている。
【0065】
表23に示すように、5℃では、対照試料と試験試料との間に差はない。差は、25℃、30℃、及び35℃で見られる。これらの温度では、pHが上昇するにつれて総不純物の成長が促進される。
【0066】
同様に、表24に示すように、5℃では、TAVの成長は無視できる程度である。TAV成長は、高温(25℃、30℃及び35℃)で有意であり、pHの上昇と相関している。
【0067】
要約すると、試験した防腐剤は、製剤安定性に対して最小限の影響しか示さず、安定性に影響を及ぼす主な要因はpH及び温度であった。5℃では、製剤は凝集の成長及び化学分解がほとんどなく安定なままであったが、保管温度が上昇するにつれて(25℃、30℃及び35℃)、分解が相応に加速された。肉眼では見えない粒子状物質は、全ての試験群の仕様範囲内であった。全体として、この試験からの結果は、試験した製剤全体にわたってロバスト性を示している。
【0068】
pHの関数としての化学的安定性
試験を、防腐剤を含む場合及び含まない場合のBIF製剤のそのpIを超えるpH条件での化学的安定性を研究するように設計した。
【0069】
防腐剤含有組成物を以下の表25に示すように調製した。
【表25】
【0070】
防腐剤非含有組成物を以下の表26に示すように調製した。
【表26】
【0071】
全ての溶液を0.22-μmのPVDFフィルタで濾過し、直ちに滅菌ガラス容器に移した。層流フード内で、溶液をガラスバイアルに充填した。バイアルに蓋をし、5℃及び30℃で最長3ヶ月間保管した。適切な時点で試料を取り出し、試験に供した。
【0072】
化学的安定性を、陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)によって評価した。結果を以下の表27に示す。
【表27】
【表28】
【0073】
表27及び表28に示すように、5℃では、総酸性変異体(TAV)の成長はごくわずかであったが、30℃では、成長がpHに応答して起こった。これらの組成物中の防腐剤の存在は、安定性に実質的な影響を及ぼさなかった。
【0074】
貯蔵寿命及び使用時
TAVは、BIFの最も適切な化学的安定性を示すアッセイであると考えられ、したがって、表27及び表28に上述した結果を、貯蔵寿命及び使用時の推定のために使用した。以下の式を用いて、時点(t)での保管温度(T)の促進効果を因数分解して、時間スケールを単一の任意の基準温度(TRef)に崩壊させた。
【数1】
21.5kcal/molの見かけの活性化エネルギー(E)値を使用し、基準温度は5℃であった。Raut,A.S.;Kalonia,D.S.、Pharmaceutical perspective on opalescence and liquid-liquid phase separation in protein solutions.Molecular Pharmaceutics、2016年、13(5)、1431~1444頁。Eが約21.5kcal/molであるという仮定の妥当性は、時間に対する分析観察をグラフ化することによって経験的に評価されるか、又はE=21.5kcal/molで5℃にスケーリングされる。真のEが仮定された値と異なる場合、温度のうちの1つで一貫した傾向が生じ、すなわち、仮定されたEが温度の影響を適切に説明せず、真のEが現在の推定値とは異なるという証拠が生じる。現在の安定性の結果は、Eが21.5kcal/molであるという仮定が不当であることを示していない。したがって、上記の表27及び表28のデータは、冷蔵条件下での長期安定性を判定するためのツールとして役立つ。使用時条件での各製品貯蔵寿命についての5℃での相当月数を表29に示す。
【表29】
【0075】
表27及び表28のデータは、そのような実施形態における好ましい薬剤製品pHが約6.5以下であることを示している。
【0076】
臨床研究
健康な参加者における臨床研究を、防腐剤及び等張化剤を含有するマトリックスに関連する急性注入部位疼痛強度を比較するように設計した。各参加者は、期間1~5の1日目に1回の0.6mL SC注射を受けた。活性薬剤は投与しなかった。5つの溶液製剤は以下の通りであった:
【表30】
【0077】
注入部位の疼痛を評価し、100mmビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて定量化した。ここで、0は「疼痛なし」を示し、100は「想像できる最悪の疼痛」を示した。データを列挙し、処置及び時点ごとにまとめた。
【0078】
混合効果モデルを使用して、各製剤について注射後の各時間におけるVAS疼痛スコアからの持続注入部位疼痛を分析した。モデルは、注射後の測定時点によるものであり、処置(溶液製剤)、コホート内の注射順序(期間の1回目、2回目、3回目、4回目、又は5回目の注射)、コホート(注射順序群参加者を無作為化した)を固定因子として、参加者を無作為効果として含んだ。Kenward-Roger法を用いて、分母自由度を推定した。最小二乗(LS)平均についてのIII型検定を統計学的比較のために使用した。差の95%信頼区間(CI)も報告した。LS平均の差は、95%CIが0を除外した場合、統計的に有意であると見なした。
【0079】
全ての有害事象(AE)を列挙した。治療下で発現したAEをまとめた。任意の重篤な有害事象(SAE)を列挙した。
【0080】
注入部位反応(ISR)アンケートを、予め指定された時点で、自発的に報告されたISRについて収集した。ISRデータを頻度表に列挙し、処置ごとにまとめた。
【0081】
基準製剤を含む全ての溶液製剤は、ほとんどの参加者が低重症度(10mm未満)の注入部位疼痛を報告しており、忍容性が良好であった。全ての製剤について、全ての時点(注射後0~60分)にわたって、参加者の76%~100%が10mm未満のVAS疼痛スコアを報告し、平均VAS疼痛スコアは0.2~7.1mmの範囲であった。
【0082】
SC注射によって投与された、基準製剤を含む全ての溶液製剤は、参加者によって十分に忍容された。死亡又はSAEはなかった。1人の参加者は、治験責任医師が判断したところ、研究介入に関連しないAEのため中止された。AEの頻度は全体的に低かった。治験責任医師が判断したところ、治療下で発現した有害事象(TEAE)は全て軽度又は中等度の重症度であり、TEAEは試験介入に関連していなかった。基準製剤と比較して、試験製剤の注射後10~60分の所定の時点でISRを報告した参加者は少なく、自発的に報告されたISRは少なかった。軽度の疼痛は、所定の時点及び自発的に報告された事象について報告された最も一般的なISRパラメータであった。
【0083】
配列
配列番号1
【表31】
【配列表】
2024543457000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性無菌薬学的組成物であって、
a)インスリン-Fc融合体と、
b)フェノールと、
c)フェノキシエタノール及びベンジルアルコールからなる群から選択される1つ以上のさらなる防腐剤と、
d)等張化剤と、
e)界面活性剤と、
f)緩衝液とを含み、
6~7.5のpHを有し、
前記フェノール及び1つ以上のさらなる防腐剤が、安定性の許容できない損失なしに少なくとも12週間の使用時有効期間を可能にする濃度で存在する、水性無菌薬学的組成物。
【請求項2】
フェノールの濃度が、1.5~4mg/mLである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フェノールの濃度が、約1.8mg/mLである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記さらなる防腐剤が、フェノキシエタノールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
フェノキシエタノールの濃度が、4~14mg/mLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
フェノキシエタノールの濃度が、約4mg/mLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
フェノキシエタノールの濃度が、約8mg/mLである、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
前記さらなる防腐剤が、ベンジルアルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ベンジルアルコールの濃度が、5~10mg/mLである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ベンジルアルコールの濃度が、約9mg/mLである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記インスリン-Fc融合体が、基礎インスリン-Fc(BIF)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
BIFの濃度が、5~30mg/mLである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
BIFの濃度が、約7.15、14.3、及び28.6mg/mLからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物のpHが、6.3~6.8である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物のpHが、約6.5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記等張化剤が、塩化ナトリウム、マンニトール及びグリセリンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記等張化剤が、グリセリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
グリセリンの濃度が、15~35mg/mLである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
グリセリンの濃度が、約17mg/mLである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記界面活性剤が、ポロキサマー188、ポリソルベート20及びポリソルベート80からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記界面活性剤が、ポロキサマー188である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
ポロキサマー188の濃度が、0.01~0.5mg/mLである、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
ポロキサマー188の濃度が、約0.4mg/mLである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記緩衝液が、リン酸塩、クエン酸塩及びTRISからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項25】
前記緩衝液が、リン酸塩である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
リン酸塩の濃度が、5~10mMである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
水性無菌薬学的組成物であって、
a)濃度5~30mg/mLのBIFと、
b)濃度1.5~4mg/mLのフェノールと、
c)濃度4~14mg/mLのベンジルアルコールと、
d)濃度15~35mg/mLのグリセリンと、
e)濃度0.01~0.5mg/mLのポロキサマー188と、
f)濃度5~10mMのリン酸塩とを含み、
6.3~6.8のpHを有する、水性無菌薬学的組成物。
【請求項28】
a)BIFの濃度が、約7.15、約14.3、及び約28.6mg/mLからなる群から選択され、
b)フェノールの濃度が、約1.8mg/mLであり、
c)ベンジルアルコールの濃度が、約9mg/mLであり;
d)グリセリンの濃度が、約17mg/mLであり;
e)ポロキサマー188の濃度が、約0.4mg/mLであり、
f)リン酸塩の濃度が、約5mM及び約10mMからなる群から選択される、組成物であって、約6.5のpHを有する、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
BIFの濃度が、約14.3mg/mLであり、リン酸塩の濃度が、約5mMである、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
BIFの濃度が、約28.6mg/mLであり、リン酸塩の濃度が、約10mMである、請求項28に記載の組成物。
【請求項31】
BIFの濃度が、約7.15mg/mLである、請求項28に記載の組成物。
【請求項32】
糖尿病を治療するための、請求項1~31のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項33】
請求項1~31に記載の薬学的組成物のうちのいずれか1つを含む、製品。
【請求項34】
複数回使用バイアルである、請求項33に記載の製品。
【請求項35】
複数回使用ペン型注射器である、請求項33に記載の製品。
【請求項36】
持続皮下インスリン注入療法のためのポンプデバイスである、請求項33に記載の製品。
【国際調査報告】