IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ペトロリアム ナシオナル ベルハドの特許一覧

<>
  • 特表-グラフェン塗料 図1
  • 特表-グラフェン塗料 図2
  • 特表-グラフェン塗料 図3
  • 特表-グラフェン塗料 図4
  • 特表-グラフェン塗料 図5
  • 特表-グラフェン塗料 図6
  • 特表-グラフェン塗料 図7
  • 特表-グラフェン塗料 図8
  • 特表-グラフェン塗料 図9
  • 特表-グラフェン塗料 図10
  • 特表-グラフェン塗料 図11
  • 特表-グラフェン塗料 図12
  • 特表-グラフェン塗料 図13
  • 特表-グラフェン塗料 図14
  • 特表-グラフェン塗料 図15
  • 特表-グラフェン塗料 図16
  • 特表-グラフェン塗料 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】グラフェン塗料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241114BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241114BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241114BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241114BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20241114BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241114BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08L101/00
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/08
C08K3/013
C08K3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529157
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 MY2022050108
(87)【国際公開番号】W WO2023090990
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】PI2021006821
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501492605
【氏名又は名称】ペトロリアム・ナシオナル・ベルハド(ペトロナス)
【氏名又は名称原語表記】Petroliam Nasional Berhad (PETRONAS)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】サムスディン,モハド シャムスル ファリード ビン
(72)【発明者】
【氏名】アバ,ノルファラ ディアナ ビンティ
(72)【発明者】
【氏名】ザカリア,ムズダリファ ビーティ
(72)【発明者】
【氏名】モハメド,ノル,アズミ ビン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002BB021
4J002BB111
4J002BD121
4J002BG001
4J002CC031
4J002CC181
4J002CC211
4J002CD001
4J002CF001
4J002CF011
4J002CK021
4J002CL002
4J002DA017
4J002DA106
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE236
4J002DG046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002EN008
4J002EQ028
4J002ER028
4J002EU118
4J002FA016
4J002FD016
4J002FD142
4J002FD148
4J002GH01
4J038DB001
4J038DG262
4J038DH002
4J038HA026
4J038HA066
4J038HA246
4J038HA286
4J038HA456
4J038HA486
4J038HA556
4J038JA35
4J038JB04
4J038JB17
4J038JB32
4J038JC01
4J038JC37
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038KA20
4J038NA03
(57)【要約】
本明細書で開示されるのは、樹脂材料、充填材料およびグラフェンフレークを含む組成物である。また、本明細書で開示されるのは、樹脂材料、充填材料、グラフェンフレークおよび硬化剤を含む組成物である。この材料は、改善された遮水性および機械的特性および向上した耐腐食性を有する塗料コーティングの提供に有用であり得る。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料;
充填材料;および
グラフェンフレークを含む樹脂系配合物であって、
グラフェンフレークの総量が、樹脂材料および充填材料の総重量に対して0.02~2重量%である、前記樹脂系配合物。
【請求項2】
前記グラフェンフレークが、1~15nm、例えば、1.5~10nm、例えば、2~7nm、例えば、3~5nmの厚さを有する、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項3】
前記樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル-ウレタン系樹脂、エポキシ-ポリエステル樹脂、アクリル-ポリエステル系樹脂、アクリル-ウレタン系樹脂、アクリル-メラミン樹脂およびポリエステル-メラミン樹脂の1つ以上から選択され、任意選択で、前記熱硬化性樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、およびアルキド樹脂の1つ以上から選択される、請求項3に記載の樹脂系配合物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性フッ素樹脂の1つ以上から選択される請求項3に記載の樹脂系配合物。
【請求項6】
前記樹脂系配合物が硬化剤をさらに含み、任意選択で、前記硬化剤がポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジドおよびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択される、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項7】
前記樹脂材料-対-前記ガラスフレークの重量:重量比が、60:40~90:10、例えば、70:30~85:15、例えば、80:20である、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項8】
グラフェンフレークの総量が、前記樹脂材料および前記充填材料の総重量に対して0.03~1.5重量%、例えば、0.05~1重量%、例えば、0.07~0.5重量%、例えば、0.0625~0.25重量%である、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項9】
前記充填材料が、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、亜鉛およびケイ酸亜鉛より選択される群の1つ以上から選択され、任意選択で、前記充填材料がガラスフレークである、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項10】
前記樹脂系配合物が、以下のリスト:
(a)着色顔料、任意選択で、前記着色顔料が、酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、およびクレーよりなる群の1つ以上から選択される;
(b)シリコーン;
(c)レオロジー改質剤;
(d)防カビ剤および/または殺藻剤;
(e)分散剤;
(f)界面活性剤;
(g)塗料が余りにも急速に乾燥するのを防止する添加剤;
(h)防腐剤;および
(i)UV吸収剤
から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項11】
前記樹脂系配合物が溶媒をさらに含み、任意選択で、前記溶媒が、ホワイトスピリット、アセトン、テレピン油、ナフタ、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、グリコールエーテル、エチルベンゼン、キシレンn-ブチルアセテート、ブタノール、および水よりなる群の1つ以上から選択される、請求項1に記載の樹脂系配合物。
【請求項12】
樹脂材料;
充填材料;
グラフェンフレーク;および
硬化剤を含む塗料配合物であって、
グラフェンフレークの総量が、前記樹脂材料、前記硬化剤および前記充填材料の総重量に対して0.04~3重量%である、前記塗料配合物。
【請求項13】
前記グラフェンフレークが、1~15nm、例えば、1.5~10nm、例えば、2~7nm、例えば、3~5nmの厚さを有する、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項14】
前記樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項15】
前記熱硬化性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル-ウレタン樹脂、エポキシ-ポリエステル樹脂、アクリル-ポリエステル系樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-メラミン樹脂、およびポリエステル-メラミン樹脂の1つ以上から選択され、任意選択で、前記熱硬化性樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、およびアルキド樹脂の1つ以上から選択される、請求項14に記載の塗料配合物。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル、および熱可塑性フッ素樹脂の1つ以上から選択される、請求項14に記載の塗料配合物。
【請求項17】
前記塗料配合物が硬化剤をさらに含み、任意選択で、前記硬化剤が、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジドおよびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択される、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項18】
前記樹脂材料-対-前記ガラスフレークの重量:重量比が、60:40~90:10、例えば、70:30~85:15、例えば、80:20である、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項19】
グラフェンフレークの総量が、前記樹脂材料、前記硬化剤および前記充填材料の総重量に対して、0.04~2.5重量%、例えば、0.045~2重量%、例えば、0.05~1.5重量%、例えば、0.06~1重量%である、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項20】
金属基材上に塗料配合物から形成された硬化した塗料配合物が、以下:
(a)1.0×10~1.0×10オームのオーダー、例えば、1.0×10オームのオーダーの電気インピーダンス抵抗;
(b)硬化完了後、1,500~2,600psi、例えば、2,000~2,500psi、例えば、2,400psiの付着強度;
(c)3,000時間の塩水噴霧試験後の1,500~1,800psi、例えば、1,600psiの付着強度;
(d)耐摩耗試験後の10mg未満の質量損失;
(e)3,000時間の塩水噴霧試験後の1.5mm未満の腐食クリーページ;
(f)3,000時間の塩水噴霧試験後のブリスターなし;
(g)4,200時間のUV/塩水噴霧テスト後のブリスターなし
の1つ以上を提供する、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項21】
前記充填材料が、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、クレーおよび硫酸バリウムから選択される群の1つ以上から選択され、任意選択で、前記充填材料がガラスフレークである、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項22】
前記塗料配合物が、以下のリスト:
(a)着色顔料、任意選択で、前記着色顔料が、酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、およびクレーよりなる群の1つ以上から選択される;
(b)シリコーン;
(c)レオロジー改質剤;
(d)防カビ剤および/または殺藻剤;
(e)分散剤;
(f)界面活性剤;
(g)塗料が余りにも急速に乾燥するのを防止する添加剤;
(h)防腐剤;および
(i)UV吸収剤
から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項23】
前記塗料配合物が溶媒をさらに含み、任意選択で、前記溶媒がホワイトスピリット、キシレンおよび水よりなる群の1つ以上から選択される、請求項12に記載の塗料配合物。
【請求項24】
それを必要とする表面に適用される乾燥した塗料配合物であって、
前記塗料配合物が請求項12に記載の塗料配合物であり、前記乾燥した塗料配合物が50~1,000μmの乾燥膜厚を有する、前記乾燥した塗料配合物。
【請求項25】
(a)請求項1に記載の樹脂系配合物;および
(b)硬化剤、任意選択で、前記硬化剤が、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、およびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択される、パーツのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、保護塗料(または、ペイント:paint)コーティング(または、被覆、被覆膜、塗装、もしくは塗布:coating)に使用するグラフェン配合物(または、製剤もしくは配合もしくは処方:formulation)に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
本明細書における先行公開文献のリストまたは考察は、必ずしもその文献が当該技術分野の状態(または、最先端)の一部であること、または共通の一般的知識であることを認めるものと解釈されるべきではない。
【0003】
石油およびガス産業において、腐食が金属構造物の老朽化および障害の一因となる主要因である。ポリマー保護コーティングは、金属成分を腐食から保護するために使用される一般的な技術である。スプラッシュゾーン(または、飛沫帯:splash zone)のごとき非常に重要な領域に関しては、エポキシガラスフレーク塗料(GF)が、ジャケット脚(jacket leg)、ライザー(riser)、プラットフォームデッキを含む構造体を保護するために使用される典型的なグレードのコーティングである。しかしながら、海水および紫外線(UV)光のごとき過酷な環境下の一貫した長期の曝露により、コーティング(または、塗膜もしくは塗装膜:coating)が劣化し(または、分解し:degrade)、コーティングと金属基材(または、基板:substrate)との接触付着性(または、接触接着性もしくは接触密着性:contact adhesion)を失い得る。
【0004】
最近の研究は、単一原子厚シートのグラフェンのユニークな特性を強調し、この材料はポリマーの機械的、化学的、電気的、バリアの特性を改善するために広く使用されている。バリア用途(または、障害用途もしくは障壁用途:barrier application)としては、グラフェンの薄層構造からポリマーコーティング層に創生される蛇行した経路(tortuous pathway)が、ガスおよび小さな水分子さえもコーティングされた金属基材に侵入するのを制限できる(B.Tan&N.L.Thomas,J.Membr.Sci.2016,514,595-612)。それとは別に、グラフェンの緻密な格子構造は、最小原子のヘリウムを含めたいずれの物質も貫通する(または、侵入する:penetrating)のを防止する。グラフェン材料の性能は、その厚さ、アスペクト比、表面積に大きく依存することが報告されている(B.Tan&N.L.Thomas,J.Membr.Sci.2016,514,595-612;およびC.H.Changら,Carbon 2012,50,5044-5051)。しかしながら、グラフェンの研究の大部分は、完全な配合塗料(または、製剤化塗料:formulated paint)ではなく、顔料(または、色素:pigment)、充填剤(または、充填材もしくはフィラー:filler)、他の添加剤を含むニート(または、無添加、純粋の、もしくはすっきりした:neat)エポキシにのみに集中している。
【0005】
したがって、耐性(または、抵抗特性:resistance property)、機械的特性、化学的特性および電気的特性、ならびに耐久性を向上させた、新しい完全配合のグラフェン系塗料を発見する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
本発明者らは、グラフェンをベースとする添加剤によって、前記問題が解決し得ることを驚くべきことに発見した。開示されたグラフェン系(または、グラフェンベース:graphene-based)塗料は、遮水性および機械的特性が改善されただけでなく、耐腐食性(または、耐食性:corrosion resistance)も向上し、塗料劣化を最小化した。有利なことには、グラフェン系添加剤は、グラフェン系塗料コーティングの耐用年数(または、寿命期間もしくは耐用性:service life)を延長することができる。
【0007】
本発明の第1の態様において、
樹脂材料;
充填材料;および
グラフェンフレーク(graphene flake)を含む樹脂系配合物が提供される。
【0008】
本発明の第1の態様の実施形態において:
(a)樹脂材料は、熱硬化性材料(例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル-ウレタン樹脂、エポキシ-ポリエステル樹脂、アクリル-ポリエステル系樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-メラミン樹脂、およびポリエステル-メラミン樹脂から選択され、任意選択で、熱硬化性樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂の1つ以上から選択される)であり得;
(b)樹脂材料は、熱可塑性材料(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステルおよび熱可塑性フッ素樹脂の1つ以上から選択される)であり得;
(c)グラフェンフレークの総量は、樹脂材料および充填材料の総重量に対して0.02~2重量%(または、wt%:wt%)である;および
(d)充填材料は、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、亜鉛、およびケイ酸亜鉛よりなる群から選択される1つ以上から選択し得、任意選択で、充填材料はガラスフレークである。
【0009】
本発明の第2の態様において:
樹脂材料;
充填材料;
グラフェンフレーク;および
硬化剤
を含む塗料配合物が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様の実施形態において:
(a)樹脂材料は、熱硬化性材料(例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル-ウレタン樹脂、エポキシ-ポリエステル樹脂、アクリル-ポリエステル系樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-メラミン樹脂、およびポリエステル-メラミン樹脂の1つ以上から選択され、任意選択で、熱硬化性樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂およびアルキド樹脂の1つ以上から選択される)であり得る;
(b)樹脂材料は、熱可塑性材料(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル、および熱可塑性フッ素樹脂の1つ以上から選択される)であり得る;
(c)グラフェンフレークの総量は、樹脂材料、硬化剤および充填材料の総重量に対して0.04~3重量%であり得る;
(d)充填材料は、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、クレーおよび硫酸バリウムから選択される群の1つ以上から選択し得、任意選択で、充填材料はガラスフレークである;および
(e)硬化剤は、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、およびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択し得る。
【0011】
本発明の第3の態様において、本発明の第1の態様で規定される樹脂系(または、樹脂ベースの:resin-based)配合物(または、製剤、配合、もしくは処方:formulation)、および硬化剤(例えば、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、およびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択される)、ならびにその実施形態の技術的に賢明な(または、合理的な:sensible)組合せから形成されるパーツ(または、部品:parts)のキットが提供される。
【0012】
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下の項(または、節:clause)に記載される。
【0013】
1.樹脂材料;
充填材料;および
グラフェンフレーク
を含む樹脂系配合物であって、
グラフェンフレークの総量は、樹脂材料および充填材料の総重量に対して0.02~2重量%である、前記樹脂系配合物。
【0014】
2.グラフェンフレークが、1~15nm、例えば、1.5~10nm、例えば、2~7nm、例えば、3~5nmの厚さを有する、第1項に記載の樹脂系配合物。
【0015】
3.樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、第1項または第2項に記載の樹脂系配合物。
【0016】
4.熱硬化性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル-ウレタン樹脂、エポキシ-ポリエステル樹脂、アクリル-ポリエステル系樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-メラミン樹脂、およびポリエステル-メラミン樹脂の1つ以上から選択され、任意選択で、熱硬化性樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、およびアルキド樹脂の1つ以上から選択される第3項に記載の樹脂系配合物、。
【0017】
5.熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル、および熱可塑性フッ素樹脂の1つ以上から選択される、第3項に記載の樹脂系配合物。
【0018】
6.配合物が硬化剤をさらに含み、任意選択で、硬化剤が、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、およびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択される、第1項~第5項のいずれか1項に記載の樹脂系配合物。
【0019】
7.樹脂材料-対-ガラスフレークの重量:重量(または、wt:wt)比が、60:40~90:10、例えば、70:30~85:15、例えば、80:20である、第1項~第6項のいずれか1項に記載の樹脂系配合物。
【0020】
8.グラフェンフレークの総量が、樹脂材料および充填材料の総重量に対して0.03~1.5重量%、例えば、0.05~1重量%、例えば、0.07~0.5重量%、例えば、0.0625~0.25重量%である、第1項~第7項のいずれか1項に記載の樹脂系配合物。
【0021】
9.充填材料が、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、亜鉛、およびケイ酸亜鉛から選択される群の1つ以上から選択され、任意選択で、充填材料がガラスフレークである、第1項~第8項のいずれか1項に記載の樹脂系配合物。
【0022】
10.配合物が、以下のリスト:
(a)着色顔料、任意選択で、着色顔料は、酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、およびクレーよりなる群の1つ以上から選択される;
(b)シリコーン;
(c)レオロジー改質剤(または、レオロジー調整剤、もしくはレオロジー修飾剤:rheology modifier)
(d)防カビ剤(または、殺菌剤もしくは殺真菌剤:fungicide)および/または殺藻剤(algaecide);
(e)分散剤;
(f)界面活性剤;
(g)塗料が余りにも急速に乾燥するのを防止する添加剤;
(h)防腐剤(または、保存剤:preservative);および
(i)UV吸収剤
から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む、第1項~第9項のいずれか1項に記載の樹脂系配合物。
【0023】
11.配合物が溶媒をさらに含み、任意選択で、溶媒が、ホワイトスピリット(または、揮発油:white spirit)、アセトン、テレピン油(turpentine)、ナフタ(naphta)、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、グリコールエーテル、エチルベンゼン、キシレン、n-ブチルアセテート、ブタノール、および水よりなる群の1つ以上から選択される、第1項~第10項のいずれか1項に記載の樹脂系配合物。
【0024】
12.樹脂材料;
充填材料;
グラフェンフレーク;および
硬化剤
を含む、塗料配合物であって、
グラフェンフレークの総量は、樹脂材料、硬化剤および充填材料の総重量に対して0.04~3重量%である、塗料配合物。
【0025】
13.グラフェンフレークが、1~15nm、例えば、1.5~10nm、例えば、2~7nm、例えば、3~5nmの厚さを有する、第12項に記載の塗料配合物。
【0026】
14.樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、第12項または第13項に記載の塗料配合物。
【0027】
15.熱硬化性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル-ウレタン樹脂、エポキシ-ポリエステル樹脂、アクリル-ポリエステル系樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-メラミン樹脂、およびポリエステル-メラミン樹脂の1つ以上から選択され、任意選択で、熱硬化性樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂およびアルキド樹脂の1つ以上から選択される、第14項に記載の塗料配合物。
【0028】
16.熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル、および熱可塑性フッ素樹脂の1つ以上から選択される、第14項に記載の塗料配合物。
【0029】
17.配合物が硬化剤をさらに含み、任意選択で、硬化剤が、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、およびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択される、第12項~第16項のいずれか1項に記載の塗料配合物。
【0030】
18.樹脂材料-対-ガラスフレークの重量:重量比が、60:40~90:10、例えば、70:30~85:15、例えば、80:20である、第12項~第17項のいずれか1項に記載の塗料配合物。
【0031】
19.グラフェンフレークの総量が、樹脂材料、硬化剤および充填材料の総重量に対して、0.04~2.5重量%、例えば、0.045~2重量%、例えば、0.05~1.5重量%、例えば、0.06~1重量%である、第12項~第18項のいずれか1項に記載の塗料配合物。
【0032】
20.金属基材上に前記塗料配合物から形成された硬化した塗料配合物が、以下:
(a)1.0×10~1.0×10オームのオーダー、例えば、1.0×10オームのオーダーの電気インピーダンス抵抗;
(b)硬化完了後、1,500~2,600psi、例えば、2,000~2,500psi、例えば、2,400psiの付着強度(または、接着強度もしくは密着強度:adhesion strength);
(c)3,000時間の塩水噴霧試験後の1,500~1,800psi、例えば、1,600psiの付着強度;
(d)耐摩耗試験後の10mg未満の質量損失;
(e)3,000時間の塩水噴霧試験後の1.5mm未満の腐食クリーページ(または、腐食クリープ:corrosion creepage);
(f)3,000時間の塩水噴霧試験後のブリスターなし;
(g)4,200時間のUV/塩水噴霧テスト後のブリスターなし
の1つ以上を提供する、第12項~第19項のいずれか1項に記載の塗料配合物。
【0033】
21.充填材料が、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、クレーおよび硫酸バリウムから選択される群の1つ以上から選択され、任意選択で、充填材料がガラスフレークである、第12項~第19項のいずれか1項に記載の塗料配合物。
【0034】
22.塗料配合物が、以下のリスト:
(a)着色顔料、任意選択で、着色顔料は、酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、およびクレーよりなる群の1つ以上から選択される;
(b)シリコーン;
(c)レオロジー改質剤;
(d)防カビ剤および/または殺藻剤;
(e)分散剤;
(f)界面活性剤;
(g)塗料が余りにも急速に乾燥するのを防止する添加剤;
(h)防腐剤;および
(i)UV吸収剤
から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む、項12項~第19項のいずれか1項に記載の塗料配合物。
【0035】
23.塗料配合物が溶媒をさらに含み、任意選択で、溶媒がホワイトスピリット、キシレンおよび水よりなる群の1つ以上から選択される、第12項~第19項のいずれか1項に記載の塗料配合物。
【0036】
24.それを必要とする表面に適用される乾燥した塗料配合物であって、塗料配合物が第12項~第23項のいずれか1項に記載の塗料配合物であり、乾燥した塗料配合物が50~1,000μmの乾燥膜厚を有する、前記乾燥した塗料配合物。
【0037】
25.(a)第1項~第5項および第7項~第11項のいずれか1項に記載の樹脂系配合物;ならびに
(b)硬化剤、任意選択で、硬化剤が、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、およびイミダゾールから選択される群の1つ以上から選択される
を含む、パーツのキット。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、グラフェン塗料の調製段階の概要を示す。
図2図2は、(a)超音波プロセス後のグラフェン溶液/マスターバッチの外観;(b)分散均一ブレード撹拌機(dispersing homogenizing blade stirrer);および(c)エポキシGF塗料中のグラフェン混合物の外観を示す。
図3図3は、電気インピーダンス試験のセットアップを示す。(a)電気インピーダンス分光法(EIS)セルの模式図;(b)EISセルの等価回路;および(c)セットアップの写真。
図4図4は、(a)未変性エポキシGF塗料;(b)0.01重量%グラフェン変性エポキシGF塗料;(c)0.05重量%グラフェン変性エポキシGF塗料;および(d)未変性および0.05重量%グラフェン変性エポキシGF塗料のEIS結果を示す。
図5図5は、未変性および0.05重量%グラフェン変性エポキシGF塗料の168時間後のEIS結果を示す。
図6図6は、(a)研磨機の写真、(b)グラフェンの異なる負荷(または、負荷量もしくは添加量:loading)での各種塗料コーティングの摩耗性能;ならびに(c)摩耗試験後の試料の写真:(i)ニートおよび(ii)0.05%グラフェンを示す。
図7図7は、(a)塩水噴霧チャンバー内に配置された試料の写真;(b)塩水噴霧曝露3000時間後の(i)未変性エポキシGF塗料および(ii)0.05重量%変性グラフェンプロキシGFの被覆表面(または、コーティング表面:coated surface)の外観;(c)塩水噴霧曝露3000時間後の腐食クリーページサイズ;ならびに(d)塩水噴霧曝露前(i)および塩水噴霧曝露後(ii)のスクライブ試料(scribed samples)を示す。
図8図8は、(a)塗装鋼板クーポンのプルオフ付着性試験の写真;および(b)付着強度試験試料を示す。
図9図9は、(a)調査した種々の塗料コーティング、および(b)塩水噴霧曝露の前後2週間のグラフェン変性エポキシ塗料の付着強度を示す。
図10図10は、衝撃試験の実験セットアップを示す。
図11図11は、衝撃試験後の試料の写真を示す。(a)ニートエポキシ塗料、(b)0.05重量%グラフェン。
図12図12は、(a)耐候試験機、(b)UVチャンバー内に配置された試料および(c)UV試料ホルダーの写真を示す。
図13図13は、UV/塩水噴霧の繰返し試験前後のグラフェン変性エポキシ塗料表面の外観を示す。
図14図14は、バリア添加剤としてのグラフェンフレークのメカニズムを示す。
図15図15は、(a)30日間曝露後のグラフェン変性エポキシ塗料のカソード剥離;および(b)カソード剥離試験後の試料の写真を示す。
図16図16は、商業的エポキシGF塗料から調製した試料のEIS結果を示す。
図17図17は、商業的ニートエポキシガラスフレーク塗料とグラフェン塗料配合物との264時間でのEIS比較を示す
【発明を実施するための形態】
【0039】
(説明)
塗料として使用し得る樹脂系配合物へのグラフェンフレークの適用の結果、電気インピーダンス、付着強度、摩耗質量損失、耐腐食性および耐ブリスター性の1つ以上が長期間にわたって顕著に向上することが、驚くべきことに判明した。
【0040】
かくして、本発明の第1の態様において、
樹脂材料;
充填材料;および
グラフェンフレークを含む樹脂系配合物であって、
グラフェンフレークの総量は、樹脂材料および充填材料の総重量に対して0.02~2重量%である、前記樹脂系配合物が提供される。
【0041】
本明細書の実施形態において、「comprising(を含む)」なる語は、言及された特徴を必要とするが、他の特徴の存在を限定するものではないと解釈し得る。別法として、「comprising(を含む)」なる語も、列挙された構成要素/特徴のみが存在することを意図する状況に関連し得る(例えば、「comprising(を含む)」なる語は、「consists of(よりなる)」または「consists essentially of(より実質的になる)」という表現に置換し得る)。より広い解釈およびより狭い解釈の双方が、本発明のすべての態様および実施形態に適用できることが明確に考えられる。換言すれば、「comprising(を含む)」なる語およびその同義語は、「consisting of(よりなる)」なる語句もしくは「consisting essentially of(より実質的になる)」なる語句またはその同義語に置換することもでき、その逆もまた同様である。
【0042】
本明細書の実施形態において、種々の特徴を単数形または複数形で記載し得る。本明細書において、単数形への参照は複数形を含むと理解され、複数形への参照は、かかる解釈が技術的に非論理的でない限りは、単数形を含むものと理解されることが明確に考えられる。
【0043】
現在特許請求される発明において、いずれの適切な種類のグラフェンフレークも使用し得る。例えば、グラフェンフレークは1~15nm、例えば、1.5~10nm、例えば、2~7nm、例えば、3~5nmの厚さを有する。適切なグラフェンフレークは商業的に入手可能であり得、後述の実施例の項で説明のごとく、分散後に購入および使用し得る。
【0044】
前記のごとく、樹脂系配合物中のグラフェンフレークの総量は、樹脂材料および充填材料の総重量に対して0.02~2重量%であり得る。本発明のいくつかの実施形態において、樹脂系配合物中のグラフェンフレークの総量は、樹脂材料および充填材料の総重量に対して、0.03~1.5重量%、例えば、0.05~1重量%、例えば、0.07~0.5重量%、例えば、0.0625~0.25重量%であり得る。
【0045】
本明細書で開示する樹脂系配合物には、いずれの適切な充填材料も使用し得る。適切な充填材料は、限定されるものではないが、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、亜鉛、ケイ酸亜鉛、およびそれらの組合せを含む。本明細書に言及し得るある種の実施形態において、充填材料はガラスフレークであり得る。いずれの適切なガラスフレークも充填材料として使用し得る。例えば、ガラスフレークは、5~10μm±2μmの最大厚さを有してもよく、また、その平面表面のいずれか1方向において20~400μmのサイズを有し得る。
【0046】
本明細書で開示する樹脂系配合物には、いずれの適切な樹脂材料も使用し得る。例えば、樹脂は熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であり得る。
【0047】
本明細書に言及し得る熱硬化性樹脂としては、限定されるものではないが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル-ウレタン樹脂、エポキシ-ポリエステル樹脂、アクリル-ポリエステル系樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-メラミン樹脂、ポリエステル-メラミン樹脂、およびこれらの組合せが挙げられる。本明細書で言及し得るある種の実施形態において、熱硬化性材料は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、またはそれらの組合せであり得る。
【0048】
本明細書に言及し得る熱可塑性材料としては、限定されるものではないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性フッ素樹脂、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0049】
理解されるごとく、使用される1を超えるポリマー材料が存在する場合、得られるポリマーマトリックスは、選択されたポリマー材料のブレンドである。これは、特定の特性が必要な場合に使用し得る。いくつかの実施形態において、高分子材料は熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の双方を含むブレンドであり得ることが考えられる。
【0050】
熱硬化性樹脂配合物は、オイルリグ(または、オイル装置、オイル用具、もしくは石油掘削装置:oil rig)、例えば、オイルリグのスプラッシュゾーンの非常に重要な領域をコーティングするために用い得る。熱可塑性樹脂はパイプラインをコーティングするために使用し得る。本明細書で言及し得る本発明の特定の実施形態において、樹脂系配合物は熱硬化性樹脂を使用し得る。
【0051】
樹脂材料は、樹脂系配合物中にいずれの適切な量でも存在し得る。適切な量は、限定されるものではないが、樹脂材料-対-ガラスフレークの重量:重量比が60:40~90:10、例えば、70:30~85:15、例えば、80:20を含む。
【0052】
組成物のある種の実施形態において、樹脂系配合物は硬化剤を含有し得る。本明細書において用いた場合の「硬化剤」とは、樹脂材料のポリマー鎖間に架橋を形成し得る材料をいう。本明細書において、配合物に使用される樹脂材料の少なくとも1つと相溶性であれば、いずれの適切な硬化剤も使用し得る。言及し得る適切な硬化剤としては、限定されるものではないが、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、イミダゾール、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0053】
樹脂系配合物は、さらに1つ以上の添加剤を含み得る。配合物には、いずれの適切な添加剤も使用し得る。例えば、添加剤は以下のリスト:
(a)着色顔料(例えば、酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、およびクレーから選択される);
(b)シリコーン;
(c)レオロジー改質剤;
(d)防カビ剤および/または殺藻剤;
(e)分散剤;
(f)界面活性剤;
(g)塗料が余りにも急速に乾燥するのを防止する添加剤;
(h)防腐剤;および
(i)UV吸収剤
から選択される1つ以上(one of more)の添加剤であり得る。
【0054】
本明細書の前記記載の樹脂系配合物は、ある種の実施形態において溶媒を含み得る。溶媒は、配合物を表面に塗布し得る塗料にするのに適したものであり得る。適切な溶媒としては、限定されるものではないが、ホワイトスピリット、アセトン、テレピン油、ナフタ、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、グリコールエーテル、エチルベンゼン、キシレン、n-ブチルアセテート、ブタノール、水、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0055】
理解されるごとく、配合物が表面に適用され乾燥した後、溶媒が存在しなくても、または溶媒が樹脂構造内に微量で単に存在してもよい。しかしながら、樹脂系配合物を使用するために調製する場合、いずれの適切な量の溶媒も存在し得る。例えば、樹脂系配合物は、調製された配合物の総質量の5~40重量%を含み得る。
【0056】
本発明のさらなる態様において、
樹脂材料;
充填材料;
グラフェンフレーク;および
硬化剤を含む塗料配合物であって、
グラフェンフレークの総量は、樹脂材料、硬化剤および充填材料の総重量に対して0.04~3重量%である、前記塗料配合物が提供される。
【0057】
疑念の回避のために、前記の塗料配合物は、樹脂系配合物の組成に関連して本明細書に記載された特徴または特性のいずれかを有し得る。そのため、簡潔にするため、樹脂配合に関連して説明した材料は、ここでは再度説明しない。すなわち、樹脂材料、充填材料、グラフェンフレークおよび硬化剤は、本明細書の前記の通りであり、同じ特性を有する。樹脂材料-対-ガラスフレークの重量-対-重量比も、樹脂系配合物について前記の通りであり得る。
【0058】
前記のごとく、塗料配合物中のグラフェンフレークの総量は、樹脂材料、硬化剤および充填材料の総重量に対して0.04~3重量%であり得る。本発明のいくつかの実施形態において、塗料配合物中に存在し得るグラフェンフレークの総量は、樹脂材料、硬化剤および充填材料の総重量に対して、0.04~2.5重量%、例えば、0.045~2重量%、例えば、0.05~1.5重量%、例えば、0.06~1重量%であり得る。
【0059】
組成物のある種の実施形態において、塗料配合物は溶媒(または、溶剤:solvent)を含み得る。本明細書に言及し得る溶媒としては、限定されるものではないが、ホワイトスピリット、キシレン、水が挙げられる。
【0060】
樹脂系配合物は、さらに1つ以上の添加剤を含み得る。配合物には、いずれの適切な添加剤も使用し得る。例えば、添加剤は以下のリスト:
(a)着色顔料(例えば、酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、およびクレーから選択される);
(b)シリコーン;
(c)レオロジー改質剤;
(d)防カビ剤および/または殺藻剤;
(e)分散剤;
(f)界面活性剤;
(g)塗料が余りにも急速に乾燥するのを防止する添加剤;
(h)防腐剤;および
(i)UV吸収剤
から選択される1つ以上の添加剤であり得る。
【0061】
理解されるごとく、本発明はまた、それを必要とする表面に適用される乾燥した塗料配合物(または、乾燥塗料配合物:dried paint formulation)を開示し、塗料配合物は本明細書に前記した塗料配合物であり、乾燥した塗料配合物は50~1,000μmの乾燥膜厚を有する。理解されるごとく、乾燥した塗料配合物は硬化した塗料配合物であろう、樹脂は硬化剤によって架橋されて薄膜(または、膜、塗膜、皮膜もしくはフィルム:film)を形成し、薄膜内にはグラフェンフレーク、充填材料、いずれかの添加剤が分散しているであろう。加えて、乾燥した薄膜は、塗料配合物に使用された溶媒の微量を含み得るが、乾燥した塗料配合物にはかかる溶媒が存在しなくてもよい。
【0062】
本発明はまた、金属基材上に本明細書に記載の塗料配合物から形成され、以下の特性:
(a)1.0×10~1.0×10オームのオーダー、例えば、1.0×10オームの電気インピーダンス抵抗;
(b)硬化完了後、1,500~2,600psi、例えば、2,000~2,500psi、例えば、2,400psiの付着強度;
(c)3,000時間の塩水噴霧試験後の1,500~1,800psi、例えば、1,600psiの付着強度;
(d)耐摩耗試験後の10mg未満の質量損失;
(e)3,000時間の塩水噴霧試験後の1.5mm未満の腐食クリーページ;
(f)3,000時間の塩水噴霧試験後のブリスター(blistering)なし;
(g)4,200時間のUV/塩水噴霧テスト後のブリスターなし
の1つ以上を提供する硬化した塗料配合物を提供する。
【0063】
硬化(乾燥)した塗料配合物は、上記の特性のすべて、それらの1つ、またはそれらのいずれかの組合せを提供し得ることが理解される。
【0064】
理解されるごとく、完全に形成された塗料配合物は硬化剤を含むであろう。塗料として表面に塗布する直前まで、硬化剤を樹脂材料と接触させておくことは望ましくない場合がある。このケースに当てはまるかどうかは、硬化剤の性質や、樹脂材料と接触するだけで架橋が始まるのか、それともいくらかの他の活性化(例えば、ヒア(hear)、空気など)が必要なのかに依存するであろう。硬化剤を別個に保管することが望ましい場合には、以下:
(a)前記の樹脂系配合物(硬化剤を除く);および
(b)硬化剤
を含むパーツのキットも提供される。
【0065】
硬化剤は、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、トリフルオロホウ酸、酸ジヒドラジド、およびイミダゾールよりなる群の1つ以上から選択し得る。
【0066】
今や、本発明のさらなる態様および実施形態を、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【0067】
実施例
材料
このプロジェクトに使用したグラフェン材料は、公称厚み(または、呼び厚み:nominal thickness)が2~3nm未満の商業的に入手可能なG1グレードのグラフェンであり、0.3~1.7nmのフレーク厚みおよび400~550nmの横方向サイズ(lateral size)を有するグラフェンシートの1層~5層(平均3層)から形成されている。使用したエポキシGF塗料は、沖合(または、オフショア:offshore)および海洋用途で商業的に入手可能なスプラッシュゾーン保護塗料であった。ガラスフレークの濃度は約20重量%(wt%)であり、約92%の全体固形分を構成した。樹脂と硬化剤との質量比は4:1であった。使用した金属基材は、厚さ2.5mmのA36炭素鋼板であった。鋼板の表面は、現場での適用に推奨されるごときコーティングのために準備され、すなわち、サンドブラスト(sand blasting)でSA2.5の表面形状にし、次いで、アセトンで洗浄した後、バーコーター(bar coater)(400μm)を使用してクーポン(coupon)上に塗料をコーティングした。
【0068】
実施例1.グラフェン/エポキシ・コーティング(グラフェン塗料)の調製
グラフェン塗料(または、グラフェンペイント:graphene paint)の全体的な調製プロセスを図1に示す。
1.グラフェン濃度は、予備的工程として塗料+硬化剤の総計に対して0.05重量%または0.1重量%を用いて算出した。
2.グラフェンを、40:1の溶媒-対-グラフェンの比、または合計組合せの塗料+硬化剤の2重量%の溶媒の比率にて塗料用シンナー(塗料サプライヤーにより指定)中で1時間超音波処理した。超音波浴を80kHzの周波数、40℃および1時間に設定した。溶媒中のグラフェンの超音波処理は、エポキシGF塗料と混合する前に、グラフェンフレーク(または、薄片もしくは断片:flake)を剥離できるのを保証するために必要である。
3.図2aに示す超音波処理プロセスを完了後、グラフェンマスターバッチ/溶液を、塗料の総重量に応じてエポキシGF塗料に添加した。
4.グラフェン溶液/マスターバッチは、超音波処理後5日以内に塗料と混合する必要があり、それ以上経過した場合は、工程2で概説した工程を用いてグラフェン溶液/マスターバッチを再度1時間超音波処理すべきである。
5.必要な体積(または、容量:volume)が200mL未満であるならば、グラフェンはプラネタリー(または、遊星:planetary)ミキサーを介する社内混合技術を使用してエポキシ塗料と混合される。プラネタリーミキサーは1500rpm、0バール、5分間に設定される。
6.必要な体積が200mLを超えるならば、高速撹拌機を用いてグラフェンをエポキシGF塗料中に分散させる。ボルテックス混合を達成するため、高速撹拌機を1000~1500rpmおよび30分間に設定する。使用するミキサープロペラのタイプは、図2bに示すごとき「分散均一ブレード」である。
7.図2cは、エポキシGF塗料中で十分に混合されたグラフェンの外観を示す。
8.一旦ブレンドが完了すると、アミン系硬化剤を加え、さらに10分間手動で撹拌した。
9.最終的に、400μm厚のバーコーター(RK Printcoats Instruments製)を用いて、炭素鋼プレート上にグラフェン変性塗料を適用した。次いで、塗料コーティングを室温で1週間硬化させた後、試験を行った。硬化塗料コーティングの厚さは、Elcometer乾燥膜厚計で測定した。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例2.遮水性能
EISは、コーティングされた基材の腐食挙動を評価するために、電気化学的活性を研究するために広く使用されている一般的な手法である。技術的には、EIS試験は電気化学インピーダンスを測定し、これはコーティングが電流の流れに抵抗する能力に対応する。インピーダンスの増加は、コーティングのバリア性能の改善を示唆する。
【0071】
電気インピーダンス試験
塗料コーティングのバリア性能は、ISO16773に従ってEISにより評価した。電気インピーダンス試験のセットアップを図3に示す。3.5重量%NaCl水溶液中での電気化学測定には、基材を作用極、飽和カロメルを参照極、白金メッシュを対電極とする従来の3電極セルを使用した。EISセルを図3aに示す。図3aに示すごとく、対電極110、参照電極120、電解液(3%NaCl)130、およびコーティングパネル作用電極140を含むEISセル100が存在する。正弦波信号の振幅は10mV、周波数は102~105Hzであった。この試験は、3.5%NaClに7日間曝露した試料(または、検体、標本もしくは試験片:specimen)に対して実施され、結果はGamryソフトウェアと連動したボードプロットを用いて算出した。EIS結果はボードプロット図によって示される。
【0072】
結果および考察
図4a~cに示すごとく、異なる曝露時間での電気インピーダンス値(オーム)のEISボードプロット図を観察することにより、未変性および変性グラフェン塗料の遮水性能を調べた。未変性エポキシGF塗料のインピーダンス値は、曝露時間の増加につれて、特に48時間後に低下し、電解質がコーティング膜(coating film)に浸透して金属基材と相互作用することを示唆しているようである(X.Wangら,Nanomaterials 2018,8,1005)。対照的に、0.01重量%および0.05重量%のグラフェン変性塗料についてのインピーダンスは、168時間のテスト曝露(または、ライトアップ:right up)に至るまで、約log 10Ωで安定していた。実際、付着性の損失や塗装表面のブリスター(または、膨れ:blistering)は観察されなかった。この発見は、エポキシ塗料中に十分に分散したグラフェン粒子が、酸素と水が層内に拡散するためのより曲がりくねった経路を形成できたことを示しており、これによりコーティングの耐腐食性がさらに向上することができる(B.Tan&N.L.Thomas,J.Membr.Sci.2016,514,595-612)。加えて、コーティング下の最小のブリスターおよび腐食は、金属とグラフェン変性塗料コーティングとの間のより良好な付着性に起因する。図5は、168時間の曝露における、未変性(または、未改質:unmodified)エポキシGF塗料と変性エポキシGF塗料との間のインピーダンス値グラフにおける比較を示す。この図は、グラフェン変性塗料が、未変性塗料系より3桁高い遮水性(water barrier)を示すことを示す。
【0073】
実施例3.耐摩耗性
耐摩耗試験
耐摩耗性はASTM D4060に従い行った。1kgの負荷で1000サイクルをグラフェンエポキシ塗料表面に適用し、摩耗試験前後のグラフェンエポキシ塗料の重量を測定して、質量損失を算出した。塗料コーティングの耐摩耗性は、標準的な研磨機(または、摩耗試験機もしくはアブレイザー:abraser)で表面を連続的に研磨することによる重量損失に関係する。図6aは研磨機の写真を示す。
【0074】
結果および考察
サービスにおいて保護コーティングが耐久性であることを保証するためには、良好な耐摩耗性が望ましい。図6bは、ニートおよびグラフェン変性塗料コーティングの耐摩耗性をまとめたものである。0.01重量%のより低濃度のグラフェンさえも、グラフェンの組込みは塗料コーティングの質量損失を低下させることがわかる。0.05重量%のグラフェン変性塗料において、さらに良好な耐性が記録され、それにより、質量損失はニート塗料コーティングのわずか約3分の1であった。0.05重量%のグラフェン変性塗料の摩耗は10mg未満であった。この結果は、同様のグラフェンエポキシコーティングに対して、Zhangらの最近の研究(M.Avella,M.E.Ericco&E.Martuscelli,Nano Lett.2001,1,213-217;およびY.Zhangら,Coatings 2018,8,91)と十分に相関している。摩擦係数および摩耗率(wear rate)のそれらの研究は、グラフェンの負荷を増加させると、双方の特性の徐々の低下を見出した。それらは、グラフェンの可能な自己潤滑性(または、自滑:self-lubrication)効果に対する発見に寄与し、グラフェンが接触表面の間に安定したグラフェン-ポリマー膜を形成し、かくして、低下した摩擦を生じる。
【0075】
実施例4.塩水噴霧試験
塩水噴霧試験
ASTM B117およびD1654に準拠した塩水噴霧試験を用いて、塗料コーティングの耐腐食性を調べた。曝露に先立ち、0.5mmの刃の厚さのペンナイフを用いて、試料の表面上に意図的にスクライブ(X)を創生した。試料を35℃の塩水噴霧チャンバー(図7a)に入れ、NaCl水溶液(5.0重量%、pH=6.5~7.0)を連続噴霧した。すべての試料について、3つの試料を並行して実施した。試料を3000時間まで調節チャンバー(または、貯蔵チャンバー:conditioning chamber)に入れた。ASTM1654による試験期間終了にて、コーティング表面とクリーページ(または、沿面:creepage)面積の目視検査を行い、ブリスター、錆(または、サビ:rust)、付着性損失のごときいずれかの欠陥の存在を検査した。
【0076】
結果および考察
0.05重量%の変性グラフェンエポキシGF塗料のさらなる長期耐久性試験は、実施例2および3における各々、EIS試験および摩耗試験の双方で有望な結果が得たため、さらなる長期耐久性試験のために選択した。グラフェン塗装した板を3000時間のスクラブされた表面を有する塗装された金属グラフェンを曝露することにより、促進された塩水噴霧試験を介して評価した。図7bに示すごとく、変性グラフェン塗料は最も安定した遮水性能を示し、錆の残留やコーティング下の腐食も少なかった。また、未変性のエポキシ塗料とは異なり、グラフェン変性塗料はいずれのブリスターも経験しなかった。この結果は、EISで観察された所見とよく一致し、グラフェンの組込みが、塗料と金属基材との間のバリア特性と付着性を効果的に増加したことを明らかにした。
【0077】
加えて、変性グラフェン塗料について記録された腐食クリーページ面積は、未変性のものよりも2倍低いことが観察され、腐食から表面を保護するための金属基材とのコーティングの良好な付着性が示された(図7cおよび表2)。この観察は、エポキシ樹脂コーティングにおけるグラフェンフレークの組込みが、さらに水取込み量における低減に寄与するグラフェンの疎水性を示す水の接触角が増加させることを見出した先行研究(T.MonettaらJ.Corros.2017,2017,1-9)により支持できる。0.05重量%のグラフェンの評価指数(または、レイティング・ナンバー:rating number)は7(表2)であり、ASTM D1654の要件(評価指数 >4)を満たした。
【0078】
【表2】
【0079】
実施例5.プルオフ付着性(または、引剥し付着性、プルオフ接着性もしくはプルオフ密着性:pull-off adhesion)試験
プルオフ付着性試験
ASTM D4541に従ってプルオフ付着性試験を行い、塗料コーティングと下地との付着強度を評価した。ドリー(dolly)試験装置とセットアップのイメージを図8aに示す。直径20mmのアルミニウム製ドリーを塗料表面上に接着し(図8b)、室温にて24時間放置して硬化させた。プルオフ試験は、Defelsko社のPositest AT-Aを使用して、プルオフ速度1MPa/sで3連にて行った。
【0080】
結果および考察
塗料のプルオフ付着性とは、塗料層と金属基材との接合(または、結合もしくは接着:bonding)をいう。より高い塗料の付着強度は、コーティング系のバリア性に寄与するであろう。図9aは、グラフェン濃度の関数として、エポキシ塗料コーティングの付着強度を示す。0.05重量%のグラフェンの付着強度は約2400psiであった。0.05重量%のグラフェンを添加した場合、ニート塗料コーティングと比較して、付着強度は約(some)50%もかなり増加することが観察された。しかしながら、0.01重量%のグラフェン変性塗料の結果は、付着性能のいずれかの相当な(appreciable)改善を明らかにしなかった。付着強度の改善は、グラフェン組込み(または、導入:incorporation)によって塗料層の空隙率の減少により、これは塗料とコーティングされた基材との間のより良好な表面相互作用に導いたためと推測される(D.H.Abdeenら、Materials 2019,12,210)。貧弱な付着性は、コーティングと金属界面との間に攻撃的イオン(aggressive ion)が蓄積し始めるため、塗料(または、ペイント:paint)の劣化が加速されることが指摘されている(T.Monettaら,Int.J.Corros。2017,2017,1-9)。図9bに示すごとく、2週間の塩水噴霧曝露後、双方のコーティング系の付着性能も調べた。試験は、双方のコーティング系が曝露後の付着強度のいくらかの低下を示すことを明らかにした。しかしながら、変性グラフェン塗料の付着強度は、塩水噴霧曝露後さえ未変性のものよりも高いままであった。この結果は、グラフェンの組込みが、長期間の曝露についてさえコーティング特性の耐久性を改善できることを明らかにした。
【0081】
実施例6.衝撃試験
衝撃試験
衝撃試験はASTM D2794に従って実施した。図10は実験セットアップを示す。
結果および考察
表面クラックは試料中に観察されなかった(図11)。したがって、試料はピンホール検出試験に合格した。
【0082】
実施例7.UV/塩水噴霧の繰返し試験
UV/塩水噴霧の繰返し試験
太陽光および雨露下での実際の曝露条件をシミュレートするため、試験試料を塩水噴霧72時間、乾燥16時間、UV曝露80時間に交互に曝露し、4200時間のサイクルを完了させた。試験手順はASTM D5894に従って確立された。UVチャンバーは60℃、4時間に設定し、UV凝縮はUV A-340ランプ下で50℃、4時間に設定した。塩水噴霧については、試験は、1時間の霧サイクルを雰囲気温度で、1時間の乾燥を35℃で設定した。図12は実験セットアップを示す。
【0083】
結果および考察
UVと塩水噴霧の繰返し試験(cyclic UV and salt spray test)は、過酷な条件下での塗料の安定性を評価し、沖合コーティング(coating offshore)の実際の使用条件をシミュレートするために実施した。前記のごとく、グラフェン変性エポキシGF塗料と未変性塗料の塗装板を、60℃のUV下で1週間、35℃の塩水噴霧チャンバーで1週間、交互に曝露した。このサイクルは、25サイクルまたは4200時間の曝露が完了するまで続けた。UV/塩水噴霧の繰返し曝露前後のグラフェン変性エポキシGF塗料表面の外観を図13に示す。双方の系が、4200時間の曝露後にいくらかの色あせ(または、退色:fading of colour)を経験していることが明確にわかる(長方形で示す)。未変性エポキシGF塗料は0.1%錆びており、8の錆グレードを有したが、ブリスターは観察されなかった。しかしながら、グラフェン変性エポキシGF塗料について、塗料表面に錆びやブリスターが観察されなかったことから、グラフェン粒子が水分の浸入およびUV攻撃から塗料層を保護することに優れていることが示唆された。0.05重量%のグラフェンの錆グレードは10であった。グラフェンの有無の双方の系がASTM D1654の要件を満たす。しかしながら、0.05重量%のグラフェンの評価(rating)は、未変性塗料系よりも良好であった。
【0084】
従前に報告のごとく(N.Nurajeら,ISRN Polymer Sci.2013,2013,1-8;およびH.Alhumadeら,Express Polym.Lett.2016,10,1034-1046)、グラフェンは大部分の入射光を吸収でき、コーティング材料に疎水性特性を提供できる。しかしながら、未変性エポキシ塗料の場合において、塗料の劣化を示す小さな錆のドット(または、点:dot)が塗料の表面上に観察された(矢印で示す)。この試験は、コーティングへのグラフェンのごとき2次元材料の導入が、コーティングと金属基材を結合させる補強材として作用し、UV劣化および腐食のごとき外的要因に対するコーティングの抵抗性(または、耐性:resistance)を増大させることができることがさらに確認された。実際、UVと塩水噴霧の繰返し曝露下のグラフェン塗料の長期環境試験は、耐腐食性における2倍の改善を示し、「保護コーティングとライニング」(PTS 152003-2019)についてのPTS標準要件を満たした。
【0085】
長期間の塩水噴霧とUVによる加速試験に基づいて、変性グラフェン塗料系は、腐食およびブリスターが少なく、耐腐食性の向上を示した。また、グラフェンの塗料への組込み(または、配合:incorporation)は、塩水噴霧曝露の2週間前後の双方の試料について、付着強度の優れた性能も示した。この傾向は、エポキシ塗料中のグラフェンの存在が、耐腐食性を高め、透水性による塗料の劣化を最小化するのに有効であることを証明している。バリア添加剤としてのグラフェンの機能の模式図を図14に示す。
【0086】
実施例8.カソード剥離試験
カソード剥離試験
ASTM G8に従ってカソード剥離(disbondment)試験を行った。コーティングされた板状試料の中央に直径6mmの意図的な塗り残し(または、穴:holiday)を導入し、3.5重量%のNaCl水溶液に30日間曝露した。試料と参照電極との間の電位は約-1.5Vに維持した。30日間の試験期間終了時に、意図的な塗り残しから剥離したコーティングの面積を測定した。
【0087】
結果および考察
カソード剥離は、コーティングと金属基材との間のカソード剥離の耐性を評価するために使用される試験であり、<10mm剥離の要件を有する。コーティング領域のより低い剥離は、腐食攻撃を防止するコーティングの能力を示す。未変性エポキシ塗料およびグラフェン変性エポキシ塗料についての剥離半径は、それぞれ5.2mmおよび5.6mmであった。かくして、グラフェン変性エポキシ塗料は、カソード剥離試験の要件を満たした。図15aに観察されるごとく、3.5重量%NaCl中の30日間曝露後の未変性エポキシ塗料およびグラフェン変性エポキシ塗料の双方についての剥離半径は、それらの剥離面積に有意差がなく、ほぼ同様であった。かくして、今後の課題として、曝露時間をさらに60日または90日に延長し、塗料と基材との接着(bonding)を強化するグラフェンの機能を十分に理解できる。
【0088】
比較例1
グラフェン塗料配合物をパーツBとして商業的エポキシGF塗料+硬化剤から調製し、5%NaCl電解質溶液中での2週間曝露後にEISを得た以外は、実施例2のプロトコールに従ってEIS試験に供した。さらに、エポキシGF塗料のEIS性能を、曝露時間を164時間とした以外は実施例2のプロトコールに従って、グラフェン塗料配合物中のグラフェンの0.05重量%負荷と比較した。
【0089】
結果および考察
図16は、商業的エポキシGF塗料を用いたグラフェン塗料配合物のEIS結果を示す。図17はEIS性能の比較を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】