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特表2024-543513腱骨界面を修復するための方法及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-21
(54)【発明の名称】腱骨界面を修復するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20241114BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241114BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20241114BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20241114BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K9/127
A61K47/42
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/36 100
A61L27/36 310
A61P19/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529165
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 US2022050125
(87)【国際公開番号】W WO2023091499
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/279,841
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100225598
【弁理士】
【氏名又は名称】桐島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】アッタ ベーファー
(72)【発明者】
【氏名】チュンフェン ディー.ジャオ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB32
4C076EE41
4C076EE43
4C081AB18
4C081BA12
4C081BB06
4C081CD111
4C081CD121
4C081CD171
4C081CD18
4C081CD23
4C081DA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087BB63
4C087CA04
4C087MA05
4C087MA67
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZB22
(57)【要約】
対象における損傷した骨腱界面を修復する方法は、通常、損傷した骨腱界面を、精製エクソソーム産物(PEP)と薬剤的に許容できる担体とを含む組成物の有効量と接触させることを含む。1又は複数の実施形態では、前記損傷した骨腱界面は腱の骨からの完全な分離を含み、前記方法は前記腱を前記骨に外科的に再接合させることをさらに含む。1又は複数の実施形態では、前記損傷した腱骨界面は腱の骨からの部分的な分離を含み、前記方法は前記PEP組成物を前記損傷した腱骨界面と接触させるのに有効な部位に前記PEP組成物を移植することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における損傷した骨腱界面を修復する方法であって、
前記損傷した骨腱界面を、
精製エクソソーム産物(PEP)、及び、
薬剤的に許容できる担体、
を含む組成物の有効量と接触させること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記PEPが300nm以下の直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PEPが56nm~151nmの直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PEPが97nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記PEPが97nm±54nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記PEPが以下
1%~20%のCD63エクソソーム、及び、
80%~99%のCD63エクソソーム、
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法:。
【請求項7】
前記PEPが少なくとも50%のCD63エクソソームを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記PEPが1×1011個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記PEPが1×1012個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が支持マトリックスをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記支持マトリックスがコラーゲン足場を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記支持マトリックスが組織シーラント又はフィブリンシーラントを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
有効量が、PEPなしで処置された骨腱界面の骨芽細胞-腱細胞界面と比較して、骨芽細胞-腱細胞界面を増加するのに有効な量である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
有効量が、PEPなしで処置された骨腱界面と比較して、腱骨界面の少なくとも1つの組織学的尺度を改善するのに有効な量である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組織学的尺度が、PEPなしで処置された骨腱界面と比較した場合の、線維連続性の増加、線維の平行配向性の増加、コラーゲン線維密度の増加、血管分布の減少、又は細胞充実性の減少を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
有効量が、損傷した腱骨界面の修復を促進する少なくとも1つの遺伝子の発現を増加するのに有効な量である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記遺伝子が、腱骨界面の組織においてI型線維性コラーゲン(Col1)、III型線維性コラーゲン(Col3)、bHLH型転写因子スクレラキシス(SCX)、テノモジュリン(TNMD)、デコリン(DCN)、又はインスリン様増殖因子I(IGF-I)をコードするものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
有効量が、PEPなしで処置された骨腱界面と比較して、腱骨界面の少なくとも1つの生体力学的尺度を増加するのに有効な量である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記生体力学的尺度が最大荷重又はスティフネスを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法であって、
前記損傷した骨腱界面が、腱の骨からの完全な分離を含み、
前記方法が、前記腱を前記骨に外科的に再接合させることをさらに含む、
方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法であって、
前記損傷した骨腱界面が、腱の骨からの部分的な分離を含み、
前記方法が、前記PEP組成物を前記損傷した腱骨界面と接触させるのに有効な部位に前記PEP組成物を移植することを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月16日に出願された米国仮特許出願第63/279,841号の利益を主張するものであり、当該米国仮特許出願はその全体が参照によって本明細書に援用される。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、1つの態様において、対象における損傷した骨腱界面を修復する方法を記載している。通常、上記方法は、損傷した骨腱界面を、精製エクソソーム産物(PEP)と薬剤的に許容できる担体とを含む組成物の有効量と接触させることを含む。
【0003】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、300nm以下の直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。
【0004】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、56nm~151nmの直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。
【0005】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、97nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記PEPは、97nm±54nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む。
【0006】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、1%~20%のCD63エクソソーム、及び80%~99%のCD63エクソソームを含む。
【0007】
1又は複数では、上記PEPは、少なくとも50%のCD63エクソソームを含む。
【0008】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、1×1011個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む。
【0009】
1又は複数の実施形態では、上記PEPは、1×1012個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む。
【0010】
1又は複数の実施形態では、上記組成物は、支持マトリックスをさらに含む。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記支持マトリックスは、コラーゲン足場を含む。この支持マトリックスは、組織シーラント又はフィブリンシーラントをさらに含み得る。
【0011】
1又は複数の実施形態では、有効量は、PEPなしで処置された骨腱界面の骨芽細胞-腱細胞界面と比較して、骨芽細胞-腱細胞界面を増加するのに有効な量である。
【0012】
1又は複数の実施形態では、有効量は、PEPなしで処置された骨腱界面と比較して、腱骨界面の少なくとも1つの組織学的尺度を改善するのに有効な量である。
【0013】
1又は複数の実施形態では、上記組織学的尺度としては、PEPなしで処置された骨腱界面と比較した場合の、線維連続性の増加、線維の平行配向性の増加、コラーゲン線維密度の増加、血管分布の減少、又は細胞充実性の減少が挙げられる。
【0014】
1又は複数の実施形態では、有効量は、損傷した腱骨界面の修復を促進する少なくとも1つの遺伝子の発現を増加するのに有効な量である。これらの実施形態のうちの1又は複数では、上記遺伝子は、腱骨界面の組織においてI型線維性コラーゲン(Col1)、III型線維性コラーゲン(Col3)、bHLH型転写因子スクレラキシス(SCX)、テノモジュリン(TNMD)、デコリン(DCN)、又はインスリン様増殖因子I(IGF-I)をコードするものである。1又は複数の実施形態では、有効量は、PEPなしで処置された骨腱界面と比較して、腱骨界面の少なくとも1つの生体力学的尺度を増加するのに有効な量である。生体力学的尺度としては、例えば、最大荷重又はスティフネスを含んでよい。
【0015】
1又は複数の実施形態では、前記損傷した骨腱界面は腱の骨からの完全な分離を含み、前記方法は前記腱を前記骨に外科的に再接合させることをさらに含む。
【0016】
1又は複数の実施形態では、前記損傷した腱骨界面は腱の骨からの部分的な分離を含み、前記方法は前記PEP組成物を前記損傷した腱骨界面と接触させるのに有効な部位に前記PEP組成物を移植することを含む。
【0017】
上記の概要は、開示された実施形態のそれぞれを説明することも、本発明のあらゆる実施を説明することも意図していない。以下の記述は説明を目的とした実施形態をより具体的に例示するものである。本願の随所で、例を挙げて手引きを行っているが、これらの例は様々な組み合わせで用いることができる。それぞれの場合で、上記の列挙は代表的な群としてのみ働き、排他的な列挙と解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1-1】図1は、共培養モデル及び細胞名。(A)骨芽細胞、腱細胞、及びPEPゲルキューブを含む、共培養モデルの模式図。(B)細胞が境界に到達したら境界を切除した。(C)共培養モデルにおける骨芽細胞領域、腱細胞領域、及び界面領域の模式図。(D)境界を除去する前の共培養モデルの写真。(E)境界を除去した後の共培養モデルの写真。
図1-2】図1は、共培養モデル及び細胞名。(F)通常の培地、PEPを含有する培地、又は骨形成誘導条件の適用後、7日目及び14日目の、アルカリホスファターゼ染色。(G)初代腱細胞(対照群として骨芽細胞)における、Col1、Col3、及びSCXの相対mRNA発現レベル。ラベル:ALP、アルカリホスファターゼ;PEP、精製エクソソーム産物;、P<.1;**、P<.01;***、P<.001。
図2-1】図2は、PEPの形態的特徴。(A)PEPは、室温保管を可能にするためにバイアル内に安定化した凍結乾燥粉末の形態で調製及び保管した。(B)PEPを含有する、又は含有しない、フィブリンシーラント(TISSEEL、バクスター・インターナショナル社、ディアフィールド、イリノイ州)の調製。1バイアルの封止されたPEP粉末を、1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と混合することで、100%(vol/vol)PEP溶液を調製した。PEP溶液(400μL)を600μLのCaCl溶液に添加し、この溶液を40%(vol/vol)濃度に調整した。その後、TISSEEL調製のための製造業者の指示書を用いて、調製を終了した。TISSEEL中のPEPの最終濃度は20%(vol/vol)であった。
図2-2】図2は、PEPの形態的特徴。(C)PEPは、完全な脂質二重層を有する球状ベシクル構造を有する。(D)PEPの平均ベシクル直径は56.4nm~151nmの範囲であり、平均直径は96.9nm±2.8nmであり、エクソソームの標準的なサイズ範囲であることを示す、粒径分布解析(ナノサイト社、ソールズベリー、英国)。100%PEP溶液は1.9×1011粒子/mLであると計算した。
図3図3は、インビボモデルにおける実験デザインを示すフローチャート。「」で印を付けられたそれぞれの評価では同じラットを用いた。ラベル:PEP、精製エクソソーム産物;H&E、ヘマトキシリン-エオシン;RC、回旋筋腱板。
図4-1】図4は、回旋筋腱板モデルにおける腱骨界面修復の外科的処置及び生体力学的試験。(A)棘上筋腱の付着部における局所的なPEP配置。(B)マッソン-アレン変法縫合。(C)インビボにおける移植前のPEPゲルキューブの肉眼観察。(D)PEPゲルキューブを配置後に縫合。(E)2本の両端針付5-0縫合糸(ETHIBOND、エチコン社、ラリタン、ニュージャージー州)を、腱に横方向に通し、腱の両端に小さなループを作った。(F)棘上筋腱を大結節上の付着部で横切開した。(G)上腕骨の近位部に横方向に開けた0.5mmの穴に縫合糸を通した。(H)慎重に縫合した後の肉眼的観察。
図4-2】図4は、回旋筋腱板モデルにおける腱骨界面修復の外科的処置及び生体力学的試験。 (I)生体力学的試験系は、ポリメチルメタクリレートの管内に埋め込まれた上腕骨を示している。棘上筋腱は最大破断荷重でクランプを通してアタッチメントに固定される。(J)外科手術後6週間の時点の最大破断荷重は、修復単独群と比較して、TISSEEL-PEP群で有意に高かった。(J)及び(K)における結果は平均値(SD)として示されている(群毎にn=8)。ラベル:PEP、精製エクソソーム産物;RC、回旋筋腱板;、P<.1;***、P<.001;****、P<.0001。(K)外科手術後6週間の時点のスティフネスは、修復単独群と比較して、TISSEEL-PEP群で有意に高かった。(J)及び(K)における結果は平均値(SD)として示されている(群毎にn=8)。ラベル:PEP、精製エクソソーム産物;RC、回旋筋腱板;、P<.1;***、P<.001;****、P<.0001。
図5図5は、PEPへの暴露後の細胞の増殖及び遊走。青色は各種時点(0日、2日、4日、6日、及び8日、n=6)の骨芽細胞の領域を示し、赤色は各種時点(0日、2日、4日、6日、及び8日、n=6)の腱細胞の領域を示す。左、PEP群。右、対照群(スケールバー、200μm)。ヒストグラムは間隙領域及び融合領域の定量結果を示している。
図6-1】図6は、インビトロ試験における定量的RT-PCR検証の結果。(A)インビトロ試験における、骨芽細胞と腱細胞とを直接接触させた3日後の、Col1のmRNA発現のリアルタイムPCRの結果。(B)インビトロ試験における、骨芽細胞と腱細胞とを直接接触させた3日後の、Col3のmRNA発現のRT-PCRの結果。(C)インビトロ試験における、骨芽細胞と腱細胞とを直接接触させた3日後の、DCNのmRNA発現のRT-PCRの結果。(D)インビトロ試験における、骨芽細胞と腱細胞とを直接接触させた3日後の、TNCのmRNA発現のRT-PCRの結果。
図6-2】図6は、インビトロ試験における定量的RT-PCR検証の結果。(E)インビトロ試験における、骨芽細胞と腱細胞とを直接接触させた3日後の、Spp1のmRNA発現のRT-PCRの結果。(F)インビトロ試験における、骨芽細胞と腱細胞とを直接接触させた3日後の、EGRのmRNA発現のRT-PCRの結果。(G)インビトロ試験における、骨芽細胞と腱細胞とを直接接触させた3日後の、PPARGのmRNA発現のRT-PCRの結果。RT-PCR、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応;、P<.1;**、P<.01;***、P<.001。
図7-1】図7は、組織解析及びインビボ試験における定量的RT-PCR検証の結果。6週間後のラットの回旋筋腱板腱と当該腱の上腕骨への付着の組織像。(A)正常対照群。(B)修復単独群。(C)TISSEEL単独群。(D)TISSEEL-PEP群。(A)~(D)のそれぞれに対する組織学的染色:(1)H&E染色(10倍の倍率)、(2)マッソン・トリクソーム染色(×10の倍率、黒縁、×20の倍率)、(3)ピクロシリウスレッド染色(×10の倍率)、及び(4)ピクロシリウスレッド染色 偏光顕微鏡下;スケール=100μM)。
図7-2】図7は、組織解析及びインビボ試験における定量的RT-PCR検証の結果。(E)組織的所見を半定量的評点システムを用いて評価した。(F)インビボ試験における6週間後のCol1、Col3、SCX、Tnmd、TNC、DCN、Spp1、及びIGF-Iの相対mRNA発現のリアルタイムPCRの結果。H&E、ヘマトキシリン-エオシン;PEP、精製エクソソーム産物;RC、回旋筋腱板;RT-PCR、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応;、P<.1;**、P<.01;***、P<.001;****、P<.0001。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、腱骨界面における損傷の治癒及び/又は修復を促進する組成物及び方法を記載している。本明細書では回旋筋腱板断裂を修復することを伴う例示的な腱骨界面モデルと関連付けて説明されているが、本明細書に記載の方法は、損傷の程度がより小さい、損傷した腱骨界面を修復及び/又は治癒するために実施されてよい。さらに、本明細書に記載の方法は、身体のいかなる部位のいかなる損傷腱骨界面を修復及び/又は治癒するためにも実施されてよい。
【0020】
本開示は、ラット回旋筋腱板断裂モデルにおける腱骨治癒を改善するためにPEPを用いる、新たな共培養モデルにおける骨芽細胞及び腱細胞に対する精製エクソソーム産物(PEP)の効果、及びPEPが腱骨治癒を誘導する分子機構を記載している。PEPは、腱細胞の増殖及び遊走を促進することで、腱骨界面治癒を上方制御する。すなわち、腱骨界面の(例えば、PEPの局所移植による)治療は、腱付着部治癒を促進する遺伝子及び/又はシグナル経路の発現を増加する。
【0021】
PEPは、従来法を用いて調製されたエクソソームとは異なる構造を有する生成物が得られる凍結乾燥(cryodesiccation)工程を用いて調製される精製エクソソーム産物である。例えば、PEPは、結晶構造ではなく、球状構造又は楕円体構造と、従来のエクソソーム調製法の際にエクソソームが破壊された後、エクソソーム脂質二重層の脂質の再凝集から生じる、インタクトな脂質二重層と、を典型的に有する。本明細書で使用される場合、「楕円体」構造は、扁平な極を持つ三次元の球のような形をとる。球状又は楕円体のエクソソーム構造は、通常、300ナノメートル(nm)以下の直径を有する。典型的には、PEP調製物は、比較的狭いサイズ分布を有する球状又は楕円体のエクソソーム構造を含有する。PEP調製物のサイズ分布の一例を図2Dに示す。ここで、平均粒径は96.9nm±52.2nmであった。調製物によっては、PEPは、110nm±90nmの平均直径を有する球状又は楕円体のエクソソーム構造を含み、そのエクソソーム構造の大部分は、110nm±50nmの平均直径を有し、例えば、110nm±30nmなどの平均直径を有する。
【0022】
未改質のPEP調製(すなわち、当該調製物中のエクソソーム集団の選別や分離によりその特性が変化を受けていないPEP調製物)は、CD63エクソソームとCD63エクソソームの混合物を天然に含む。CD63エクソソームは無制限の細胞増殖を阻害し得るため、CD63エクソソームとCD63エクソソームを天然に含む未改質PEP調製物は、傷の修復及び/又は組織の再生のための細胞増殖を刺激し、且つ、無制限の細胞増殖を制限することができる。
【0023】
さらに、CD63エクソソームを選別することにより、自然に分離されたPEP調製物からCD63エクソソームを取り出した後、望ましい量のCD63エクソソームを戻すことで、PEP産物中のCD63エクソソームに対するCD63エクソソームの比率を調節できる。1又は複数の実施形態では、PEP調製物は、CD63エクソソームのみを含むことがある。
【0024】
1又は複数の実施形態では、PEP調製物は、CD63エクソソーム及びCD63エクソソームの両方を含むことがある。CD63エクソソームに対するCD63エクソソームの比率は、少なくとも部分的には、特定の適用において望まれる細胞増殖の量によって異なり得る。例えば、CD63/CD63エクソソーム率は、CD63エクソソームが誘導する所望の細胞増殖と、細胞接触阻止を介して達成されるCD63エクソソームがもたらす細胞増殖阻害と、をもたらす比率である。非接着性細胞が存在する組織(例えば、血液由来成分)などの特定のシナリオでは、この比率は、治療されている組織にとって細胞増殖や細胞阻害のバランスが適切となるように調整される場合がある。例えば、非接着性細胞を含む組織においては、細胞間接触がきっかけとならないため、制御されない細胞増殖を回避するために、CD63エクソソーム率を下げる場合がある。逆に、自家細胞ベースの治療法又は免疫療法などで、クローン細胞集団を増殖させることが望ましいのであれば、非常に少ない供給源から大きな細胞集団を得ることができるように、CD63エクソソームの比率を上げればよい。
【0025】
よって、1又は複数の実施形態では、PEP調製物中のCD63エクソソームに対するCD63エクソソームの比率は、少なくとも1:1、少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも7:1、少なくとも8:1、少なくとも9:1、少なくとも10:1、少なくとも11:1、少なくとも12:1、少なくとも13:1、少なくとも14:1、少なくとも15:1、又は少なくとも16:1である場合がある。1又は複数の実施形態では、PEP調製物中のCD63エクソソームに対するCD63エクソソームの比率は、高々15:1、高々16:1、高々17:1、高々18:1、高々19:1、高々20:1、高々25:1、又は高々30:1である場合がある。例えば、CD63エクソソームに対するCD63エクソソームの比率は、1:1~30:1、2:1~20:1、4:1~15:1、又は8:1~10:1である場合がある。1又は複数の特定の実施形態では、PEP産物は、CD63エクソソーム:CD63エクソソームを9:1比で含有するように配合される。1又は複数の特定の実施形態では、天然PEP、例えば、CD63エクソソームに対するCD63エクソソームの比率が未変更のPEP、が使用される場合がある。
【0026】
精製エクソソーム産物(PEP)の製造は、濾過及び遠心分離により、血液から血漿を分離し、分離された血漿からエクソソーム液を単離することを含む。PEPは充分な特徴付けがなされており、PEPを調製する方法は、各々のその全体が参照によって本明細書に援用される、国際特許出願番号PCT/US2018/065627(国際公開第2019/118817号パンフレットとして公開)、米国特許公開第2021/0169812A1号、及び米国特許第10,596,123号に記載されている。
【0027】
PEPの形態的特徴
1又は複数の実施形態では、PEPエクソソームのベシクルサイズを測定することで、調製物の特徴付けを行う場合がある。ベシクルサイズは、例えば、透過型電子顕微鏡法又は走査型電子顕微鏡法などの電子顕微鏡観察によって、測定され得る。透過型電子顕微鏡法の画像は、PEPのエクソソームが、完全な脂質二重層構造を有する典型的な球状ベシクルを呈することを示している(図2C)。PEPのベシクルサイズは、56.4nm~151nmの範囲をとり、平均サイズは96.9nm±2.8nmであり、エクソソームの標準的なサイズ範囲を示した。100%のPEP溶液は1mLあたり1.9×1011個のPEP粒子を含有すると計算された(図2D)。
【0028】
インビトロ実験
本明細書に記載されているように、初代骨芽細胞及び初代腱細胞を用いて、腱骨界面修復のインビトロ細胞培養モデルが作製され得る。この培養モデルは、腱骨界面修復に対するPEP又は別の医薬組成物の効果を確認するために使用され得る。
【0029】
ラット初代骨芽細胞及びラット初代腱細胞の同定
マウス、ラット、ウマ、イヌ、ブタ、又は霊長類などの注目している任意の生物からの初代細胞が使用されてよい。新生仔ラットから単離された頭頂骨細胞が、インビトロ研究用のラット初代骨芽細胞として選ばれた。培養時間が延びるにつれ(7日目~14日目)、骨芽細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)活性は徐々に増加した。骨形成誘導培地中では、骨芽細胞はより多くの骨形成を示し、培養時間が増えるにつれてさらに増強された(図1F)。しかし、PEP群では、骨形成能の増加は示されなかった。この結果は、インビトロ共培養モデルにおける骨形成条件下で、対照と比較された場合、20%TISSEEL-PEPは、骨芽細胞活性を増強しなかったことを示唆している。
【0030】
PCRの結果は、腱関連遺伝子の相対mRNA発現が、対照(骨芽細胞)群と比較して、有意にアップレギュレートされたことを示していた。さらに、SCXは腱の発生及び分化に直接関連付けられており、初代細胞の種類の同定が、腱の起源に非常によく対応していることが示された(図1G)。
【0031】
界面領域の形態及び成長に対するPEPの効果
図1A図1Eに図示されたインビトロ培養モデルにより、PEP処理を行う場合と行わない場合の、骨芽細胞及び腱細胞の遊走及び融合の評価が可能となった。0日間、2日間、4日間、6日間、及び8日間の時点で、骨芽細胞領域、腱細胞領域、及び界面領域の組織成長パターンを、手動で疑似カラー化した(図5)。領域被覆率を手動で測定し、間隙領域及び融合領域を算出した。介入群(PEP群)の初期間隙領域は5.17±0.22mm(n=6)であり、一方、対照群(PEPなし)の初期間隙領域は3.37±0.19mm(n=6)であった。PEPへの暴露後は、全ての領域で細胞増殖が有意に増加した。細胞遊走は、対照群と比較して、PEP群の界面においてより顕著であった。PEP群では、細胞は4日目にはコンフルエントになっており、8日目の融合領域は0.47±0.14mm(n=6)であった。対照群では、しかしながら、細胞は6日目になって初めてコンフルエントになり始め、8日目の融合領域はたった0.20±0.17mm(n=6)であった(図5)。
【0032】
mRNAレベルの変化
インビトロ試験では、Col1、TNC、DCN、SCX、Spp1、及びEGRのmRNAレベルは、界面領域において、3日目のPEP群と比較して、9日目のPEP群で有意に増加していた(P<.05)。Col3、TNC、Spp1、EGR、及びPPARGのmRNAレベルは、界面領域において、3日目のPEP群と比較して、6日目のPEP群で有意に増加していた(P<.05)。また、PEP群において、直接的な細胞間接触がある共培養は、直接的な細胞間接触がない共培養と比較して、Col3、TNC、Spp1、PPARG、及びEGRの発現を増加させた(図6A図6G)。
【0033】
インビボラットモデル
損傷した腱骨界面が回旋筋腱板断裂を伴う好ましい実施形態と関連付けて説明されているが、本明細書に記載の方法は、腱骨界面が天然部位(例えば、付着部又は他の天然の腱付着部)であるか、人工の腱骨界面(例えば、外科的に構築された腱骨界面)であるかに関わらず、任意の身体部位の腱骨界面を治療及び/又は修復するために実施されてもよい。さらに、腱骨界面修復に対する本明細書に記載の組成物及び方法の効力を測定するために、任意の好適な動物モデルが用いられてよい。
【0034】
生体力学的試験
腱骨界面の修復は、最大荷重、引張荷重、及び/又はスティフネスなどであるがこれらに限定はされない、腱骨接続の1又は複数の機械的特性に対する変化によって測定される場合がある。1又は複数の実施形態では、異なる組成物を処置された動物における腱骨界面修復の進行を比較するために、例えば、PEP処置動物とPEP非処置動物を比較するために、機械特性試験が用いられる場合がある。1又は複数の実施形態では、PEPを含む、本明細書に記載の組成物及び方法は、PEPを含まない組成物及び方法と比較して、治癒中の腱骨界面の機械的特性を改善する場合がある。
【0035】
外科手術の6週間後の修復された回旋筋腱板の最大荷重においては、TISSEEL-PEP群と正常健常対照群との間に、統計的に有意な差異は示されなかった。最大引張荷重は、正常対照群では22.36N±1.51N(n=8)であり、TISSEEL-PEP群では21.83N±1.78N(n=8)であった。他の3つの群と比較した場合、修復単独群の最大荷重(16.63N±0.67N、n=8)が最小となり、TISSEEL-PEP群及び正常健常対照群のどちらと比較しても統計的に有意であった(P<.01;図4J)。TISSEEL群の荷重(18.62N±0.77N、n=8;P=.03)は、修復単独群とTISSEEL-PEP群の中間に位置し、正常健常対照群と有意な差異があった(図4J)。これら4群におけるスティフネスの評価を図4Kに示す。TISSEEL-PEP群は10.41N/mm±4.71N/mmのスティフネス値を示し、正常健常対照群(14.06N/mm±3.31N/mm;P=.11)への類似性を示した。スティフネス値は修復単独群で最も低く、TISSEEL群からは修復単独群とTISSEEL-PEP群の間のスティフネス値が得られた。
【0036】
組織解析
損傷した腱骨界面の修復は、損傷領域の組織学的分析によって測定される場合がある。測定され得る組織学的特性としては、炎症、瘢痕形成、コラーゲン線維配置、血管分布、及び石灰化が挙げられるが、これらに限定はされない。1又は複数の実施形態では、異なる組成物を処置された動物における腱骨界面修復の進行を比較するために、例えば、PEP処置動物とPEP非処置動物を比較するために、組織解析が用いられる場合がある。1又は複数の実施形態では、PEPを含む、本明細書に記載の組成物及び方法は、PEPを含まない組成物及び方法と比較して、治癒中の腱骨界面の組織学的尺度を改善する場合がある。
【0037】
正常対照群では、高度に整列したコラーゲン線維が、非石灰化線維軟骨領域を通過して、石灰化線維軟骨の中に入り込んでいた。6週間後、TISSEEL-PEP群の検体では、腱骨界面において、コラーゲン線維がより組織化され高密度であり、炎症性細胞がより少なく、血管分布が生来の界面に類似していることが示された。さらに、修復単独群及びTISSEEL群との比較で(全て、P<.05)、自然な腱付着部の出現も、TISSEEL-PEP群では認められた(図7)。
【0038】
修復単独群及びTISSEEL群には、主に多形核白血球からなる炎症性細胞の塊が存在した。加えて、より緩く、瘢痕様の、不規則な網目構造のコラーゲン線維が修復単独群に認められた。TISSEEL群は、修復単独群と比較して(P<.05)、密な炎症性細胞と、比較的組織化されたコラーゲン線維配置と、腱骨界面に新たに形成された線維血管組織を有する瘢痕組織と、を示した(図7)。
【0039】
偏光顕微鏡(polarized microscopy)下で、修復単独群及びTISSEEL群のコラーゲンネットワークは、正常対照及びTISSEEL-PEP群よりも短く薄いように見えた。正常対照群との比較で、TISSEEL-PEP処置群におけるコラーゲン線維構造は、ネイティブ対照に匹敵する、線維連続性の回復、平行配向、及び頑健性のある密度を示した。TISSEEL-PEP群における生来の構造の回復が、顕微鏡画像で認めることができる(図7)。
【0040】
これらの結果に基づくと、PEP+TISSEELは、6週間後の腱骨界面において、コラーゲン線維及び新たな軟骨様組織のリモデリングを促進する。
【0041】
mRNAレベルの変化
損傷した腱骨界面の修復は、損傷領域における遺伝子発現の変化によって測定される場合がある。遺伝子発現に対する変化は、メッセンジャーRNA(mRNA)のレベルを定量化することによって測定されてよい。複数の遺伝子の発現増加が修復の改善を示す場合がある。定量化され得る遺伝子としては、Col1、Col3、SCX、Tnmd、TNC、DCN、及びIGFが挙げられる。1又は複数の実施形態では、異なる組成物を処置された動物における腱骨界面修復の進行を比較するために、例えば、PEP処置動物とPEP非処置動物を比較するために、遺伝子発現レベルが用いられる場合がある。1又は複数の実施形態では、PEPを含む、本明細書に記載の組成物及び方法は、PEPを含まない組成物及び方法と比較して、治癒中の腱骨界面の修復に関連した遺伝子の発現を増加する場合がある。
【0042】
インビボ試験において、TISSEEL-PEP群は、全ての他の群と比較して(P<.05)、Col1、Col3、SCX、Tnmd、TNC、DCN、及びIGFの発現における有意な増加を示した(図7F)。骨形成関連遺伝子(Spp1、Runx2)及び軟骨形成遺伝子(COMP及びCol2)の発現は検出されなかった。
【0043】
本試験では腱骨界面におけるPEPに対する応答を評価した。腱骨界面における回旋筋腱板修復モデルにPEPを含ませた治療では、生体力学的特徴に有意な改善が得られた。組織観察によって、腱関連マーカー及び腱骨関連マーカーの発現増加に伴って、よく組織化されたコラーゲン線維が明らかになった。エクソソーム中の成分の多様性により、エクソソームのマルチポテンシーがもたらされ、その結果、PEPエクソソームは、複数の標的及び複数の経路に作用することで、腱骨界面修復における治癒プロセスを加速する。
【0044】
TISSEEL-PEP群の強度は、正常健常回旋筋腱板の強度に近い。これらの組織試験結果は、TISSEEL-PEP群の腱骨界面における、より組織化され、より密接なコラーゲン性組織を示している。すなわち、TISSEEL-PEP処置群は、他の処置群(修復単独及びTISSEEL単独)と比較して、強度、及び正常健常回旋筋腱板との組織学的類似性を示した。さらに、これらの遺伝子発現の結果を、生体力学試験結果及び組織学試験結果を通じて確認した。IGF発現を増強することに加えて、PEPは、腱関連遺伝子(Col1、Col3、SCX、Tnmd、及びDCN)の発現上昇を促進することで、回旋筋腱板の腱骨界面の治癒の際の、コラーゲンの再配列及び細胞外マトリックスのマトリックス成分をもたらすことが分かった。したがって、PEPは、腱骨界面構造を再形成するのに役立つ成分の放出に関与している。さらに、インビトロにおいてPEP及び直接的細胞間接触は互いに相関及び強化し合っていたが、これは、インビボにおいてなぜ回旋筋腱板の腱付着部領域がより多く回復したかの説明になり得る。
【0045】
したがって本開示は、損傷した腱骨界面の修復を改善するための組成物及び方法を記載している。通常、上記組成物は、PEPと薬剤的に許容できる担体とを含む。外科手術の場面では、PEPは、例えば、外科用接着剤、組織接着剤、及び/又は支持マトリックス(例えば、コラーゲン足場、ヒドロゲルなど)などの腱組織への塗布に適した担体と組み合わされる場合がある。
【0046】
すなわち、上記方法は、上記組成物の有効量を修復を必要としている腱組織に投与することを含む。本態様において、「有効量」は、PEPなしで処置された骨腱界面の骨芽細胞-腱細胞界面と比較して、骨芽細胞-腱細胞界面を増加する、腱骨界面の少なくとも1つの組織学的尺度を改善する、損傷した腱骨界面の修復を促進する少なくとも1つの遺伝子の発現を増加する、又は、腱骨界面の少なくとも1つの生体力学的尺度を増加するのに有効な量である。
【0047】
例示的な組織学的尺度としては、PEPなしで処置された骨腱界面と比較した場合の、線維連続性の増加、線維の平行配向性の増加、コラーゲン線維密度の増加、血管分布の減少、又は細胞充実性の減少が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0048】
1又は複数の実施形態では、腱骨修復の進行は、遺伝子発現によって測定されることがある。例えば、損傷した腱骨界面に対する修復の進行を示すために、腱関連遺伝子、骨形成関連遺伝子、及び/又は軟骨形成遺伝子の発現測定が使用されることがある。損傷した腱骨界面の修復を促進する例示的な遺伝子としては、腱骨界面の組織における、I型線維性コラーゲン(Col1)、III型線維性コラーゲン(Col3)、bHLH型転写因子スクレラキシス(SCX)、テノモジュリン(TNMD)、デコリン(DCN)、又はインスリン様増殖因子I(IGF-I)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0049】
1又は複数の実施形態では、生体力学的尺度を用いて、損傷した腱骨界面に対する修復が特徴付けられることがある。例示的な生体力学的尺度としては、最大荷重又はスティフネスが挙げられるが、これらに限定はされない。典型的には、損傷した腱骨界面が治癒するにつれて、当該界面はより強固になり、最大荷重及びスティフネスは増加する。
【0050】
1又は複数の実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、腱骨損傷の修復速度を増加させ得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「対象」とは、ヒト又は任意の非ヒト動物とすることができる。例示的な非ヒト動物対象としては、家畜動物又は伴侶動物が挙げられるが、これらに限定はされない。例示的な非ヒト動物対象としては、ヒト類動物(例えば、チンパンジー、ゴリラ、又はオランウータンが挙げられる)、ウシ類動物(例えば、ウシが挙げられる)、ヤギ類動物(例えば、ヤギが挙げられる)、ヒツジ類動物(例えば、ヒツジが挙げられる)、ブタ類動物(例えば、ブタが挙げられる)、ウマ類動物(例えば、ウマが挙げられる)、シカ科の構成種(例えば、シカ、エルク、ムース、カリブー、トナカイなどが挙げられる)、バイソン科(family Bison)の構成種(例えば、バイソンが挙げられる)、ネコ類動物(例えば、飼いネコ、トラ、ライオンなどが挙げられる)、イヌ類動物(例えば、飼いイヌ、オオカミなどが挙げられる)、トリ類(例えば、シチメンチョウ、ニワトリ、アヒル、ガチョウなどが挙げられる)、げっ歯類(例えば、マウス、ラットなどを含む)、ウサギ科の構成種(例えば、ウサギ又はノウサギが挙げられる)、イタチ科の構成種(例えば、フェレットが挙げられる)、又は翼手目の構成種(例えば、コウモリが挙げられる)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0052】
PEPは、薬剤的に許容できる担体と配合して、医薬組成物を形成させてもよい。本明細書で使用される場合、「担体」としては、任意の溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗細菌剤及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝剤、ヒドロゲル、担体溶液、担体懸濁液、担体コロイド、水などが挙げられる。薬剤的に活性な物質へのこのような媒体及び/又は薬剤の使用は当該技術分野において周知である。いかなる従来の媒体又は薬剤も、PEPとの相溶性がない場合を除き、治療用組成物中のその使用が企図される。追加の有効成分を上記組成物に組み込むこともできる。本明細書で使用される場合、「薬剤的に許容できる」とは、物質が、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではないことをいい、すなわち、この物質は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、且つ、この物質を含有する医薬組成物の他の成分のいずれとも有害に相互作用することもなく、PEPと共に、個体に投与され得る。上記で言及したように、外科手術の場面では、例示的な好適な担体としては、外科用接着剤、組織接着剤、又は支持マトリックス(例えば、コラーゲン足場)が挙げられる。本明細書で使用される場合、「コラーゲン足場」とは、ヒドロゲルなどのコラーゲンを含む、三次元ネットワークを指す。
【0053】
1又は複数の実施形態では、支持マトリックスは、少なくとも1つ(least one)の細胞外マトリックス成分を含む。好適な細胞外マトリックス成分としては、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、及びラミニンなどのタンパク質、プロテオグリカン、及びヒアルロン酸が挙げられるが、これらに限定はされない。上記組成物がコラーゲンを含む実施形態では、コラーゲンは、プロコラーゲン、I型コラーゲン、III型コラーゲンなどの線維性コラーゲン、又はこれらの組み合わせとして提供され得る。上記組成物がコラーゲンを含む実施形態では、コラーゲンは、コラーゲン足場として提供され得る。1又は複数の他の実施形態では、細胞外マトリックス成分は、精製された組換えタンパク質などの、任意の好適な形態で供給されてよい。
【0054】
PEPを含有する医薬組成物は、好ましい投与経路に適合させた様々な形態に製剤化されてよい。すなわち、医薬組成物は、公知の経路を介して投与することができ、例えば、経口経路、非経口経路(例えば、皮内経路、経皮経路、皮下経路、筋肉内経路、静脈内経路、腹腔内経路など)、又は局所経路(例えば、外科手術中に露出させた腱組織への塗布、鼻腔内経路、肺内経路、乳房内経路、腟内経路、子宮内経路、皮内経路、経皮経路、経直腸経路など)が挙げられる。医薬組成物は、粘膜表面に、例えば、鼻粘膜又は呼吸粘膜への(例えば、スプレー又はエアロゾルによる)投与などにより、投与することができる。医薬組成物は、持続放出又は遅延放出を介して投与することもできる。
【0055】
すなわち、医薬組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー、エアロゾル、又は任意の混合物形態を含むがこれらに限定はされない、任意の好適な形態で提供されてよい。医薬組成物は、任意の薬剤的に許容できる賦形剤、担体、又はビヒクルと配合して送達されてよい。例えば、製剤は、例えば、クリーム、軟膏、エアロゾル製剤、非エアロゾルスプレー、ゲル、ローションなどの、従来の外用剤形で送達されてよい。製剤がゲルである実施形態では、ゲルは任意の好適な密度を有していてよい。例えば、外科手術の場面における特定の実施形態では、医薬組成物は、当該製剤を所望の場所に維持するために充分な密度を有するゲルとして製剤化され得る。製剤は、1又は複数の添加剤をさらに含んでもよく、例えば、アジュバント、皮膚浸透促進剤、着色剤、芳香剤、香味剤、保湿剤、増粘剤などが挙げられる。
【0056】
好適な賦形剤としては、例えば、ヒト又はウシのコラーゲン、ヒアルロン酸系化合物、ヒトフィブリノーゲン、又はヒトトロンビンを挙げることができる。
【0057】
1又は複数の実施形態では、本明細書に記載の組成物は凍結乾燥されてもよい。PEPを含む凍結乾燥組成物は、追加の賦形剤と組み合わせてもよく、それをさらに凍結乾燥してもよい。凍結乾燥組成物の成分は、共パッケージ化してもよいし、あるいは、別々に提供し、使用前に混合することで、PEP添加生体適合性足場を調製してもよい。凍結乾燥した賦形剤は、例えば、凍結乾燥したヒト又はウシのコラーゲン、ヒアルロン酸系化合物、ヒトフィブリノーゲン、ヒトトロンビン、又は体液(例えば、血液又は間質液)と接触した際に生体適合性ゲルを形成する他の凍結乾燥粉末であってもよい。
【0058】
1又は複数の実施形態では、本明細書に記載の組成物は、関節鏡視下で、又は観血的手術による修復の際に、腱骨界面中/上への注入を介して投与される。本明細書に記載されているような組成物は、単独で投与されてもよいし、あるいは、縫合やステープルなどの従来の外科的修復法に追加して投与されてもよい。本明細書に記載されているような組成物は、腱損傷を修復するために用いられる腱縫合、アンカー、貼付剤、又は他のデバイスの生体適合性及び治療効果を増強することにも使用され得る。
【0059】
製剤は、好都合には、単位投与形態で提供されてもよく、また、薬学分野において周知の方法によって調製されてもよい。薬剤的に許容できる担体を含む組成物を調製する方法は、PEPと、1又は複数の副成分を構成する担体とを、互いに結び付いた状態にする工程を含む。通常、製剤は、PEPと、液体担体、微細固体担体、又はその両方とを、均一且つ/又は密接に、互いに結び付いた状態にし、その後、必要であれば、生成物を成形して所望の製剤にすることによって、調製され得る。
【0060】
PEPの投与量は、投与されるPEPの含有量及び/もしくは供給源、対象の体重、体調、及び/もしくは年齢、並びに/又は投与経路を含むがこれらに限定はされない、各種要因に応じて変わることがある。すなわち、所与の単位投与形態に含まれるPEPの絶対重量は大きく異なることがあり、対象の種、年齢、体重、及び体調、並びに/又は投与の方法などの要因に依存する。したがって、いずれの可能な適用にも有効なPEP量に当たる量を一概に記載することは実際的ではない。しかしながら、当業者であれば、そのような要因を充分に考慮して、適切な量を容易に決定することができる。
【0061】
1又は複数の実施形態では、一回量で送達されるPEPエクソソームの観点で、PEPの一回量を計ることがある。すなわち、1又は複数の実施形態では、上記方法は、例えば、1×10個のPEPエクソソーム~1×1015個のPEPエクソソームの一回量を提供するのに充分なPEPを対象に投与することを含むことがあるが、1又は複数の実施形態では、上記方法は、この範囲外の一回量のPEPを投与することで実施されてもよい。
【0062】
1又は複数の実施形態では、したがって、上記方法は、少なくとも1×10個のPEPエクソソーム、少なくとも1×10個のPEPエクソソーム、少なくとも1×10個のPEPエクソソーム、少なくとも1×10個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1010個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも2×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも3×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも4×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも5×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも6×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも7×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも8×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも9×1011個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1012個のPEPエクソソーム、2×1012個のPEPエクソソーム、少なくとも3×1012個のPEPエクソソーム、少なくとも4×1012個のPEPエクソソーム、又は少なくとも5×1012個のPEPエクソソーム、少なくとも1×1013個のPEPエクソソーム、又は少なくとも1×1014個のPEPエクソソームの最小一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0063】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、1×1015個以下のPEPエクソソーム、1×1014個以下のPEPエクソソーム、1×1013個以下のPEPエクソソーム、1×1012個以下のPEPエクソソーム、1×1011個以下のPEPエクソソーム、又は1×1010個以下のPEPエクソソームの最大一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0064】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、上記の任意の最小一回量と、この最小一回量よりも多い任意の最大一回量とによって定義される、端点を含む範囲によって特徴付けられる一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。例えば、1又は複数の実施形態では、上記方法は、1×1011~1×1013個のPEPエクソソームの一回量、例えば、1×1011~5×1012個のPEPエクソソームの一回量、1×1012~1×1013個のPEPエクソソームの一回量、又は5×1012~1×1013個のPEPエクソソームの一回量など、を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。ある実施形態では、上記方法は、上記のいずれかの最小一回量又はいずれかの最大一回量に等しい一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。すなわち、例えば、上記方法は、1×1010個のPEPエクソソーム、1×1011個のPEPエクソソーム、5×1011個のPEPエクソソーム、1×1012個のPEPエクソソーム、5×1012個のPEPエクソソーム、1×1013個のPEPエクソソーム、又は1×1014個のPEPエクソソームの一回量を投与することを伴うことがある。
【0065】
あるいは、凍結乾燥された状態から再調製する際のPEPの濃度の観点から、PEPの一回量を計ることがある。すなわち、1又は複数の実施形態では、上記方法は、PEPを対象に、例えば、当該対象に対して0.01%溶液~100%溶液の一回量で、投与することを含むことがあるが、1又は複数の実施形態では、上記方法は、この範囲外の一回量のPEPを投与することで実施されてもよい。本明細書で使用されているように、100%PEP溶液とは、1バイアルのPEP(2×1011個のエクソソーム、すなわち75mg)を、1mlの液体又はゲル担体(例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水、無血清培地、外科用接着剤、組織接着剤など)中に可溶化したものを指す。比較として、0.01%PEPの一回量は、およそ、標準的な細胞条件培地を用いたインビトロにおける細胞からのエクソソーム単離などの、エクソソームを入手する従来法を用いて調製されるエクソソームの標準的な一回量に相当する。
【0066】
1又は複数の実施形態では、したがって、上記方法は、少なくとも0.01%、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも1.0%、少なくとも2.0%、少なくとも3.0%、少なくとも4.0%、少なくとも5.0%、少なくとも6.0%、少なくとも7.0%、少なくとも8.0%、少なくとも9.0%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、又は少なくとも70%の最小一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0067】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、100%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、又は0.1%以下の最大一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。
【0068】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、上記の任意の最小一回量と、この最小一回量よりも多い任意の最大一回量とによって定義される、端点を含む範囲によって特徴付けられる一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。例えば、1又は複数の実施形態では、上記方法は、1%~50%の一回量、例えば、5%~20%の一回量など、を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。ある実施形態では、上記方法は、上記のいずれかの最小一回量又はいずれかの最大一回量に等しい一回量を提供するのに充分なPEPを投与することを含むことがある。すなわち、例えば、上記方法は、0.05%、0.25%、1.0%、2.0%、5.0%、20%、25%、50%、80%、又は100%の一回量を投与することを伴うことがある。
【0069】
1回分を、全て一度に投与してもよいし、所定の期間に亘り継続的に投与してもよいし、あるいは、複数回に分けて投与してもよい。複数回投与が用いられる場合、それぞれの投与量は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、所定の一日量を、1回分として投与してもよいし、24時間に亘り継続的に投与してもよいし、等しくても等しくなくてもよい2回の投与として投与してもよい。1回分を送達するために複数回投与が用いられる場合、投与間隔は同じであっても異なっていてもよい。1又は複数の特定の実施形態では、PEPは、例えば外科的処置中に、1回限りの投与から、投与されてよい。
【0070】
PEP組成物の複数回投与が対象に投与される1又は複数の特定の実施形態では、PEP組成物は、腱骨界面を所望の程度に治癒及び/又は修復するように必要に応じて投与されてよい。あるいは、PEP組成物は、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、又は少なくとも10回、投与されてよい。投与間隔は、少なくとも1日間を最小とすることができ、例えば、少なくとも3日間、少なくとも5日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、少なくとも14日間、又は少なくとも21日間などである。投与間隔は、6か月間以下を最大とすることができ、例えば、3か月間以下、2か月間以下、1か月間以下、21日間以下、又は14日間以下などである。
【0071】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、上記の任意の最小間隔と、この最小間隔よりも大きい任意の最大間隔とによって定義される、端点を含む範囲によって特徴付けられる、1つの間隔(2回の投与の場合)又は複数の間隔(3回以上の投与の場合)で、PEPの複数回投与を含むことがある。例えば、1又は複数の実施形態では、上記方法は、1日間~6か月間、例えば3日間~10日間など、の1又は複数の間隔で、PEPの複数回投与を含むことがある。1又は複数の特定の実施形態では、上記方法は、上記のいずれかの最小間隔又はいずれかの最大間隔に等しい間隔で、PEPの複数回投与を含むことがある。すなわち、例えば、上記方法は、3日間、5日間、7日間、10日間、14日間、21日間、1か月間、2か月間、3か月間、又は6か月間の間隔で、PEPの複数回投与を伴うことがある。
【0072】
1又は複数の実施形態では、上記方法は、腱骨界面を修復する独自のプロファイル(例えば、タンパク質組成及び/又は遺伝子発現)をそれぞれ有する、様々な種類の細胞から調製された、PEPのカクテルを投与することを含むことがある。このように、PEP組成物は、PEP組成物が単一の細胞種から調製された場合よりも広範囲の腱骨界面修復を提供することができる。
【0073】
前述の説明及び後述の特許請求の範囲において、「及び/又は」という語は、列挙された要素のうちの1つもしくは全て、又は列挙された要素のうちのいずれか2つ以上の組み合わせを意味し;「含む」、「含むこと」という語、及びこれらの変形は、オープンエンドと解釈されるべきであり、すなわち、追加の要素又は工程が任意選択であり、存在しても存在していなくてもよく;特に記載がない限り、「a」、「an」、「the」、及び「少なくとも1つ」は、同義的に使用され、1つ又は2つ以上を意味し;端点による数値範囲の記述は、当該範囲内に包含される全ての数を包含する(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを包含する)。
【0074】
前述の説明では、明確さのために、特定の実施形態を分離して記載している場合がある。本明細書中、「1つの実施形態」、「実施形態」、「ある特定の実施形態」、又は「いくつかの実施形態」などと言う場合、実施形態に関連して記載された特定の特性、構成、組成、又は特徴が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。すなわち、そのような表現が本明細書中の様々な場所に登場しているが、必ずしも、本開示の同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特性、構成、組成、又は特徴は、1又は複数の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わされてもよい。さらに、特定の特性、構成、組成、又は特徴は、1又は複数の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わされてもよい。すなわち、1つの実施形態の文脈で記載された特性は、それらの特性が必然的に相互に排他的である場合を除き、異なる実施形態の文脈で記載された特性と組み合わされてもよい。
【0075】
別々の工程を含む本明細書で開示されるいずれの方法においても、これらの方法は実行可能な任意の順番で実行されてよい。また、必要に応じて、2つ以上の工程の任意の組み合わせが、同時に実行されてよい。
【0076】
本明細書で使用される場合、「好ましい」及び「好ましくは」という語は、本発明の実施形態が、特定の状況下で特定の利点を与え得ることを言う。しかしながら、他の実施形態も、同じ状況又は他の状況下で好ましい場合がある。さらに1又は複数の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを意味するものではなく、本発明の範囲から他の実施形態を除外することを意図するものでもない。
【0077】
本発明を以下の実施例によって説明する。特定の例、材料、含量、及び手順は、本明細書に記載されているような本発明の範囲と精神に従って、広く解釈されるべきであることを理解されたい。
【0078】
好ましい実施形態
実施形態1は、対象における損傷した骨腱界面を修復する方法であって、
前記損傷した骨腱界面を、
精製エクソソーム産物(PEP)、及び、
薬剤的に許容できる担体、
を含む組成物の有効量と接触させること、
を含む、方法である。
【0079】
実施形態2は、前記PEPが300nm以下の直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態1に記載の方法である。
【0080】
実施形態3は、前記PEPが56nm~151nmの直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態1に記載の方法である。
【0081】
実施形態4は、前記PEPが97nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0082】
実施形態5は、前記PEPが97nm±54nmの平均直径を有する球状エクソソーム又は楕円体エクソソームを含む、実施形態4に記載の方法である。
【0083】
実施形態6は、前記PEPが以下
1%~20%のCD63エクソソーム、及び、
80%~99%のCD63エクソソーム、
を含む、実施形態1~5のいずれか一項に記載の方法である。
【0084】
実施形態7は、前記PEPが少なくとも50%のCD63エクソソームを含む、実施形態1~5のいずれか一項に記載の方法である。
【0085】
実施形態8は、前記PEPが1×1011個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む、実施形態1~7のいずれか一項に記載の方法である。
【0086】
実施形態9は、前記PEPが1×1012個のPEPエクソソーム~1×1013個のPEPエクソソームを含む、実施形態1~8のいずれか一項に記載の方法である。
【0087】
実施形態10は、前記組成物が支持マトリックスをさらに含む、実施形態1~9のいずれか一項に記載の方法である。
【0088】
実施形態11は、前記支持マトリックスがコラーゲン足場を含む、実施形態10に記載の方法である。
【0089】
実施形態12は、前記支持マトリックスが組織シーラント又はフィブリンシーラントを含む、実施形態10に記載の方法である。
【0090】
実施形態13は、有効量が、PEPなしで処置された骨腱界面の骨芽細胞-腱細胞界面と比較して、骨芽細胞-腱細胞界面を増加するのに有効な量である、実施形態1~12のいずれか一項に記載の方法である。
【0091】
実施形態14は、有効量が、PEPなしで処置された骨腱界面と比較して、腱骨界面の少なくとも1つの組織学的尺度を改善するのに有効な量である、実施形態1~13のいずれか一項に記載の方法である。
【0092】
実施形態15は、前記組織学的尺度が、PEPなしで処置された骨腱界面と比較した場合の、線維連続性の増加、線維の平行配向性の増加、コラーゲン線維密度の増加、血管分布の減少、又は細胞充実性の減少を含む、実施形態14に記載の方法である。
【0093】
実施形態16は、有効量が、損傷した腱骨界面の修復を促進する少なくとも1つの遺伝子の発現を増加するのに有効な量である、実施形態1~15のいずれか一項に記載の方法である。
【0094】
実施形態17は、前記遺伝子が、腱骨界面の組織においてI型線維性コラーゲン(Col1)、III型線維性コラーゲン(Col3)、bHLH型転写因子スクレラキシス(SCX)、テノモジュリン(TNMD)、デコリン(DCN)、又はインスリン様増殖因子I(IGF-I)をコードするものである、実施形態16に記載の方法である。
【0095】
実施形態18は、有効量が、PEPなしで処置された骨腱界面と比較して、腱骨界面の少なくとも1つの生体力学的尺度を増加するのに有効な量である、実施例1~17のいずれか一項に記載の方法である。
【0096】
実施形態19は、前記生体力学的尺度が最大荷重又はスティフネスを含む、実施例18に記載の方法である。
【0097】
実施形態20は、実施形態1~19のいずれか一項に記載の方法であって、
前記損傷した骨腱界面が、腱の骨からの完全な分離を含み、
前記方法が、前記腱を前記骨に外科的に再接合させることをさらに含む、
方法である。
【0098】
実施形態21は、実施形態1~20のいずれか一項に記載の方法であって、
前記損傷した骨腱界面が、腱の骨からの部分的な分離を含み、
前記方法が、前記PEP組成物を前記損傷した腱骨界面と接触させるのに有効な部位に前記PEP組成物を移植することを含む、
方法である。
【実施例1】
【0099】
実施例1
本実施例では、透過型電子顕微鏡法を用いて、PEP粒子の測定と計数を行った。
【0100】
透過型電子顕微鏡法
透過型電子顕微鏡法(TEM)による観察は、透過型電子顕微鏡(JEM-1400Plus 120kV Transmission Electron Microscope、JEOL社、東京、日本)で行った。TEM試験前に、1バイアルの封止されたPEPを、1mLのPBS(ギブコ社、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)と混合し、100%(vol/vol)PEP溶液を調製した。50μLの上記PEP溶液を微量遠心管に移し、0.1Mカコジル酸ナトリウム溶液中の2.5%グルタルアルデヒド(pH7.0)1mLを添加し、その後4℃で1時間混合した。固定した試料をカコジル酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)で3回、それぞれ10分間洗浄した。次に、試料を2%四酸化オスミウムで4℃で1時間後固定し、緩衝液で洗浄し、乾燥させ、標準プロトコルに従って2%酢酸ウラニルで染色した。PEP(50μL試料/グリッド)を80kV透過型電子顕微鏡下で調べ、電子顕微鏡像を撮影した。
【0101】
ナノ粒子追跡解析
ナノ粒子追跡特性評価システム(NS300、ナノサイト社、モールバーン、英国)を用いて、PEPのサイズ分布及び濃度を求めた。PEP溶液(100%、vol/vol)を1mLのPBS希釈液で1,000倍希釈後、サンプルチャンバにロードした。NTA3.2解析ソフトウェア(ナノサイト社、モールバーン、英国)を用いて、PEP濃度、平均値、及びモードPEPサイズを解析した。
【0102】
実施例2
本実施例では、細胞培養モデルを用いて、腱骨界面修復に対するPEPの影響を調べた。
【0103】
PEP並びにPEP含有フィブリンシーラント(TISSEEL)及びPEP非含有フィブリンシーラント(TISSEEL)の調製
PEPはメイヨークリニック再生医療センターのAPIから入手した。この製品は、処理までの室温保管を可能にするためにバイアル内に安定化した凍結乾燥粉末の形態で調製及び保管した(図2A)。
【0104】
フィブリンシーラントは、薬物送達担体として用いることができ、エクソソームの局所放出及び持続放出を達成する上で非常に有効な、生分解性パルプのような組織である。本実施例では、TISSEELキット、フィブリンシーラント製品を、PEPの添加を伴って、又は伴なわずに、使用した。TISSEELキット(バクスター・インターナショナル社、ディアフィールド、イリノイ州)の調製前に、1バイアルの封止されたPEP粉末を、1mLのPBS(ギブコ社、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)と混合し、100%(vol/vol)PEP溶液を調製した。400μLのPEP溶液を600μLのCaCl溶液(TISSEELキットの内容物の1つ)に添加し、その溶液を40%(vol/vol)の濃度に調整した。製造業者の指示書に従ってキット調製を完了させた(図2B)。TISSEEL中のPEPの最終濃度は20%(vol/vol)であった。ゲルを手動で切断し小立方体(3×3×3mm)にした。共培養モデルでは、1つの立方体を6ウェルプレートの1ウェル内の小さな穴の中に設置した。培地とPEPゲルを用いることで、生体内のPEP微小環境をシミュレートした。骨形成誘導の場合、上記のような培地とPEPは陽性対照群として用いた。インビボ試験の場合、立方体は、棘上筋腱と大結節との間の、RC修復部位に直接設置した。
【0105】
初代細胞、培養条件、及び同定
以前に記載された方法(Liu et al., 2019, Cell and Tissue Banking 20:173-182)を用いて、施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認されたガイドラインに基づいて、安楽死(骨芽細胞に影響を与えないプロセス)させた新生仔ラットの頭頂骨から、初代骨芽細胞を単離した。骨芽細胞を収集するために、頭頂骨区を0.1%(wt/vol)コラゲナーゼIと0.05%トリプシンと0.004%エチレンジアミン四酢酸の混合物中に60分間浸した。次に、細胞を3回目~5回目の浸漬物から収集し、10%ウシ胎児血清(ギブコ、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ギブコ、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を添加した、最小必須培地α(インビトロジェン、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)中、37℃、5%COで培養した。初代骨芽細胞+PEPの骨形成能を試験するため、3つの群を確立した:陰性対照群として機能する上記培地;陽性対照群として機能するPEPを添加した上記培地;及び骨形成誘導群として機能するStemPro Osteogenesis Differetiation Kit(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)。
【0106】
骨芽細胞はアルカリホスファターゼ(ALP)染色で同定した。7日間又は14日間培養した後、初代骨芽細胞を、冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで30分間固定し、脱イオン水でリンスし、製造業者の取扱説明書に従って直接光からの保護下でALP染色キット(アブカム社、ケンブリッジ:英国)で30分間染色した。次に、ニコン社製カメラ(ニコン社、港区、日本)で画像を得た。
【0107】
以前に記載された方法(Zhang et al., 2010, BMC Musculoskeletal Disorders 11:10)を用いて、IACUCによって承認されたガイドラインに基づいて、安楽死させた8週齢雌スプラーグドーリーラットから、初代腱細胞を単離した。ラット屈筋腱を回収し、穏やかな擦過によりパラテノン鞘層を分離した。腱を無菌PBSで3回洗浄し、小断片に切断し、コンフルエントに増殖するまで上記のような条件培地を用いて培養した。細胞培地は3日毎に新しいものにした。全ての試験で3~6継代の細胞を使用した。腱細胞は腱特異的遺伝子の検出により同定した:コラーゲン1型(Col1)、コラーゲン3型(Col3)、及びScleraxis(SCX)の発現。定量的逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)では、それぞれのmRNA発現の値をグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)mRNA発現で正規化し;ラット初代骨芽細胞を対照群として用いた。
【0108】
共培養モデル
以前に記載されたモデル(Bogdanowicz et al., 2014, Methods in Molecular Biology 1202:29-36)をベースにしたインビトロ共培養モデルを用いた。共培養モデルでは、6ウェルプレート及び凍結保存用チューブを用いた。骨領域、界面領域、及び腱細胞領域に加えて、この新しいモデルには、薬剤担体の入り口が追加された。細胞培養グレードのアガロース(シグマ・アルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)を6ウェルプレートに注ぎ入れ、凍結保存用チューブを用いて切断して3つの穴をつくり、幅3mmの仕切りを残した。次に、このモデルを新たな6ウェルプレートに移し、未凝固アガロースでプレートの底に固定した(図1A図1E)。ラット初代骨芽細胞は左側の若干大きめの穴播種し、腱細胞は右側の若干大きめの穴に播種した。真ん中の小さな穴には20%PEPとTISSEEL立方体を入れた(図1A)。30分間細胞接着させた後、モデルがほぼ水中に没するまで培地を添加した。共培養物を2日間インキュベートし、2つの細胞集団間の仕切りを切断し、PEPビヒクルを小穴に添加した。対照群には薬剤を添加しなかった。培地はモデルから溢れさせ、3日毎に交換した。IncuCyte HDシステム(IncuCyte ZOOM、エッセン・バイオサイエンス社、アナーバー、ミシガン州)を用いて、界面領域内への細胞遊走を1日2回記録した。Photoshop CS6(アドビ社、サンノゼ、カリフォルニア州)を用いて、細胞境界を手動追跡した。PCR試験では、2つの細胞集団が直接接触した3日後の時点で、モデルを移動させ、氷冷PBSで洗浄した。細胞を次に、各々の領域内でセルスクレーパーによりプレートから剥離し、チューブ内にTRIzol(TRI試薬、シグマ・アルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)で保存し、PCR試験用に-80℃で保存した。結果を図5に示し、より詳細には本明細書に記載する。
【0109】
実施例3
本実施例では、回旋筋腱板損傷のラットモデルを用いて、動物を縫合単独、縫合及びTISSEL、又は縫合、TISSEL、及びPEPで処置した場合の修復速度を比較した。
【0110】
動物試験設計及びラットRCTモデル
36匹のスプラーグドーリーラット(成体雌、4~5か月齢、体重258~552g)を使用した。これらを3つの群に無作為に分け、右肩を外科手術側として用いた(全ての群でn=12):修復単独群;修復+TISSEEL(バクスター・インターナショナル社、ディアフィールド、イリノイ州)(TISSEEL群);及び修復+TISSEEL+PEP(TISSEEL-PEP群)。ラットは導入チャンバーを介して、つま先のピンチ反射が消失するまで、マスクを介して送達される2L/分の100%酸素中の2%~3%イソフルランにより、麻酔した。先制鎮痛としてはメロキシカム(1mg/kg)の筋肉内注射を行った。それぞれのラットは温プレート上に置くことで、体温維持と低体温リスク低減を行った。麻酔は、ノーズコーンを介した、1Lの100%酸素中1.5%~2%イソフルランの混合物の連続フローにより維持した。
【0111】
外科手術部位を2%グルコン酸クロルヘキシジンで洗浄し、皮膚を三角筋の1cm外側で横方向に、無菌#15メスブレードを用いて切開した。前側の肩甲下筋腱及び後側の棘下筋腱から棘上筋腱を識別し分離した。次に、棘上筋腱を大結節上の付着部で横切開した。付着部を新鮮な状態にするするために、付着部の腱線維をメスで削った。次に、両端針付5-0縫合糸(ETHIBOND、エチコン社、ラリタン ニュージャージー州)の一端を、腱に横方向に通し、マッソン-アレン縫合変法を用いて腱の両側に小さな輪を作った(図4B図4E、及び図4F)。0.5mmの穴を上腕骨の近位部に前後方向に横断的に開け、縫合糸の他端をその0.5mm穴に通した(図4G)。添加されたPEPを含む又は含まない、TISSEEL(バクスター・インターナショナル社、ディアフィールド、イリノイ州 を修復部位に設置した後、大結節上の腱の付着点において腱に縫合糸を結び付けた(図4A図4C、及び図4D)。PEPを含む又は含まないTISSEELは実施例2に記載されているように調製した。分離された三角筋は4-0ポリグラクチン910縫合糸(VICRYL、エチコン社、ラリタン、ニュージャージー州)で修復し、皮膚は3-0ポリグラクチン910縫合糸(VICRYL、エチコン社、ラリタン、ニュージャージー州)で修復した(図4H)。水-イブプロフェン混合物(15mg/kg)を全ての群で、手術後に1週間毎日投与した。これらの用量は実験動物獣医師に推奨され、IACUCプロトコルで承認されたものである。
【0112】
外科手術の6週間後、ラットをCO窒息により安楽死させた。各群から8匹のラットを生体力学的試験に用い、各群から4匹のラットを組織解析及びmRNA発現のqPCR測定の両方に用いた。左肩は正常対照群として用いた(図3)。
【0113】
回旋筋腱板断裂(RCT)修復の生体力学的試験
処置後6週間の時点で、組織治癒を評価するためにラットを二酸化炭素吸入で安楽死させた。次に、外科用ルーペを用いて、棘上筋腱及び上腕骨の腱周囲組織を完全に除去した。上腕骨を特別設計された固定具内のポリメチルメタクリレートに包埋し、腱の近位端を試験用に特別製作されたスプリング入りクランプに固定した後、検体に0.2Nの前荷重をかけ、0.1mm/秒の速度で0.1mmの変位を5サイクル行って予備条件付けし、その後、0.1mm/秒の速度の単軸引張下で破断するまで試験を行った(図4I)。そして、最大破断荷重及びスティフネスを、カスタムMATLABプログラム(マスワークス社、ナティック、マサチューセッツ州)によって作成された力-変位曲線から算出した。
【0114】
組織学的解析
6週間時点の安楽死後、各群で、棘上筋腱と棘上筋腱の骨付着部における修復部位を慎重に解剖した。検体を、10%ホルムアルデヒドで一晩固定した後、14%エチレンジアミン四酢酸中に置いた。検体を30%、50%、及び70%エタノールのアルコール中にそれぞれ少なくとも30分間置いた後、コアラボラトリーに提出してパラフィン包埋を行った。全ての検体は、組織包埋用マトリックス(TISSUE-TEK、サクラ-ファインテック社、東京、日本)に包埋し、クライオスタット(ライカ・バイオシステムズ社、ヴェッツラー、ドイツ)で切断して冠状切片(10μm厚)にした。組織学的変化をヘマトキシリン-エオシン染色、マッソン・トリクソーム染色、及びピクロシリウスレッド染色で解析した。ピクロシリウスレッド染色した組織切片を偏光顕微鏡法(BH2、オリンパス社、新宿、日本)で観察した。代表的な顕微鏡画像を図7に示す。
【0115】
腱骨界面におけるコラーゲン線維の連続性、平行配向性、密度、血管分布、及び細胞充実性を評価した。組織学的所見は、半定量的評点システム(各項目0~3段階)を用いて評価した。コラーゲン線維の連続性と、互いに平行に配向されたコラーゲン線維については、評点は割合によって定義した:0=0%~25%の割合;1=25%~50%の割合;2=50%~75%の割合;及び3=75%~100%の割合。コラーゲン線維の密度については、評点は割合によって定義した:0=非常に疎、1=疎、2=密、及び3=非常に密。血管分布及び細胞充実性については、評点は割合によって定義した:0=存在しない、又は最低限にしか存在しない、1=軽度に存在する、2=中程度に存在する、3=重度又は顕著に存在する。顕微鏡(オリンパス社、新宿、日本)下で各側を調べ、ImageJソフトウェアを用いて解析した(Schneider et al., 2012, Nature Methods 9(7), 671-675)。4つの試料を、2人の独立した観察者によって群ごとに評価した。組織学的定量化を図7Eに示す。
【0116】
RNA単離及び定量PCR
インビトロ試験において、測定時点に達した後、対応する領域(骨芽細胞領域、腱細胞領域、及び界面領域)内の細胞をPBSで洗浄し、スクレーピングにより別々に剥離した。インビボ試験において、腱骨組織は解剖して液体窒素で急速冷凍した後、研磨ツールで粉砕した。均一にした後、RNA単離キット(TRIZOL Plus、インビトロジェン、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて、全RNAを抽出及び精製した。次に、全RNAを分光光度計(NANODROP1000、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて定量化し、cDNA合成キット(ISCRIPT、バイオラド・ラボラトリーズ社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いてcDNA合成(RT-PCR)を行った。キット(THERMOSCRIPT、インビトロジェン、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて、全RNA(1μg)を相補DNAに逆転写した。リアルタイムPCRはトリプリケートで行った。簡潔には、製造業者の説明書に従ってTRIzol試薬(インビトロジェン、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて、全RNAを細胞から抽出した。iScript cDNA Synthesis Kit(バイオラド・ラボラトリーズ社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を用いて、相補DNA(cDNA)を等量のRNA(1μg)から合成した。全ての反応は、C1000 Touch Thermal Cycler(バイオラド・ラボラトリーズ社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)上で、SYBR Green PCR Master Mix(クァンタバイオ社、ベバリー、マサチューセッツ州)を用いて行った。標的遺伝子から得られたデータは、GAPDHに対して正規化された後、基底コントロールを基準として2-ΔCt式を用いて算出された。遺伝子マーカー発現の検出については、腱細胞関連遺伝子マーカー(Col1、Col3、SCX、テノモジュリン(Tnmd)、EGR1(初期増殖応答タンパク質1)、デコリン(DCN))、骨芽細胞関連遺伝子マーカー(分泌リン酸化タンパク質1(Spp1)、テネイシンC(TNC)、RUNXファミリー転写因子2(Runx2)、インスリン様増殖因子I(IGF-I))、脂質代謝関連遺伝子マーカー(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPARG))、及び軟骨形成関連遺伝子マーカー(Col2、軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP))に対するプライマーを実行した。qPCR実験に使用されたプライマーは以前の報告(Shi et al., 2021, J Orthop Res. 39(8):1825-1837. doi:10.1002/jor.24859)の通りである。
【0117】
統計解析
データは平均値(SD)として表した。各試験は互いに独立して少なくとも3回行った。クラスカル・ワリスの1元配置分散分析検定とダン検定を、それぞれ2群間比較及び多群間比較の統計的有意性を判定するために使用した。2群間の統計比較は対応のないスチューデントt検定又はマン・ホイットニー検定によって解析した。全ての統計検定はGraphPad Prism 8(グラフパッド・ソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて行った。これらのデータを図7Fに示す。アステリスク付きの結果を統計的に有意と見なした(P<.05、**P<.01、***P<.001、****P<.0001)。
【0118】
本明細書で引用された全ての特許、特許出願、及び出願公開、ならびに電子的に入手可能な資料(例えばGenBank及びRefSeqにおけるヌクレオチド配列の提出物、並びに、例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBにおけるアミノ酸配列の提出物、並びにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きコード領域からの翻訳を含む)の完全な開示は、それらの全体が参照によって援用される。本出願の開示と、参照により本明細書に援用される文書の開示との間に矛盾が存在する場合には、本出願の開示が優先されるものとする。前述の詳細な説明及び実施例は、理解を明確にするためだけに与えられたものである。そこから不必要な限定が理解されるべきではない。本発明は、示され記載された正確な詳細に限定されるものではなく、というのも、当業者には明らかである変形形態は、特許請求の範囲によって定義される本発明に含まれるからである。
【0119】
特に記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲において使用される成分の量、分子量などを表す全ての数値は、全ての場合において、「およそ」又は「約」という語によって修飾されていると理解されたい。したがって、特に反対の記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲に記載される数値パラメーターは近似値であり、本発明が得ようとする所望の特性に応じて変化する場合がある。少なくとも、また、特許請求の範囲への均等論を限定しようとするものとしてではなく、各数値パラメーターは少なくとも、報告された有効数字の桁数を考慮し、通常の丸め法を適用して解釈されるべきである。
【0120】
本発明の広範な範囲を示す数値範囲及びパラメーターは近似値ではあるが、具体的な実施例で示された数値は、可能な限り正確に報告されている。しかし、全ての数値は、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる範囲を本質的に含んでいる。
【0121】
全ての見出しは読者の便宜のためのものであり、特に断りのない限り、その見出しに続く本文の意味を限定するために使用すべきではない。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
【国際調査報告】